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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H03H
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H03H
管理番号 1253817
審判番号 不服2009-6555  
総通号数 149 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-05-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2009-03-26 
確定日 2012-03-15 
事件の表示 特願2002- 24238「アナログ形移相器」拒絶査定不服審判事件〔平成15年 8月15日出願公開、特開2003-229738〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成14年1月31日の出願であって、平成20年6月2日付けの拒絶理由通知に対して、同年7月1日付けで意見書及び手続補正書が提出されたが、平成21年2月18日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年3月26日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに、同年4月24日付けで手続補正がなされたものである。


第2 平成21年4月24日付けの手続補正についての補正却下の決定

[補正却下の決定の結論]
平成21年4月24日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1.本件補正の補正内容
平成21年4月24日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)は、以下のとおり、特許請求の範囲の請求項1を、平成20年7月1日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1を引用する場合の請求項10(以下、「補正前の請求項10」という。)から補正後の請求項1に変更する補正事項を含むものである。

<補正前の請求項1及び請求項10>
「【請求項1】 高周波差動入力信号を位相差0°,90°,180°,-90°で、かつ、等振幅の4つの高周波信号に分配するポリフェーズフィルタ手段と、
上記4つの高周波信号をそれぞれ独立に振幅設定して同相合成する出力手段とを有するアナログ形移相器において、
上記ポリフェーズフィルタ手段が、
抵抗およびコンデンサが交互に配置されて環状に接続されたポリフェーズフィルタからなることを特徴とするアナログ形移相器。」
「【請求項10】 単相の高周波信号から高周波差動入力信号を生成してポリフェーズフィルタ手段に供給する入力手段をさらに有することを特徴とする請求項1から請求項9のうちのいずれか1項記載のアナログ形移相器。」

両者より、上記請求項1を引用する場合の請求項10を、以下に<補正前の請求項10>として以下に記す。
「高周波差動入力信号を位相差0°,90°,180°,-90°で、かつ、等振幅の4つの高周波信号に分配するポリフェーズフィルタ手段と、
上記4つの高周波信号をそれぞれ独立に振幅設定して同相合成する出力手段とを有するアナログ形移相器において、
上記ポリフェーズフィルタ手段が、
抵抗およびコンデンサが交互に配置されて環状に接続されたポリフェーズフィルタからなることを特徴とし、
単相の高周波信号から高周波差動入力信号を生成してポリフェーズフィルタ手段に供給する入力手段をさらに有することを特徴とするアナログ形移相器。」

<補正後の請求項1>
「【請求項1】 抵抗およびコンデンサが交互に配置されて環状に接続されたポリフェーズフィルタから構成されており、入力端子から高周波差動信号を入力し、上記高周波差動信号を位相差0°,90°,180°,-90°で、かつ、等振幅の4つの高周波信号に分配するポリフェーズフィルタ手段と、
上記4つの高周波信号をそれぞれ独立に振幅設定して同相合成する出力手段とを有するアナログ形移相器において、
単相の高周波信号を入力して、上記高周波信号から高周波差動信号を生成し、上記高周波差動信号を上記ポリフェーズフィルタ手段の入力端子に供給する入力手段を設けたことを特徴とするアナログ形移相器。」

2.本件補正内容についての判断
本件補正は、補正前の請求項1を引用する補正前の請求項10に記載された発明特定事項の一つである、「ポリフェーズフィルタ手段」について、それを特定する、「高周波差動入力信号を位相差0°,90°,180°,-90°で、かつ、等振幅の4つの高周波信号に分配するポリフェーズフィルタ手段」及び「上記ポリフェーズフィルタ手段が、抵抗およびコンデンサが交互に配置されて環状に接続されたポリフェーズフィルタからなること」の記載から、補正後の請求項1に記載された、「抵抗およびコンデンサが交互に配置されて環状に接続されたポリフェーズフィルタから構成されており、入力端子から高周波差動信号を入力し、上記高周波差動信号を位相差0°,90°,180°,-90°で、かつ、等振幅の4つの高周波信号に分配するポリフェーズフィルタ手段」に補正し、また、同じく発明特定事項の一つである「入力手段」について、それを特定する「単相の高周波信号から高周波差動入力信号を生成してポリフェーズフィルタ手段に供給する入力手段」の記載から、補正後の請求項1に記載された、「単相の高周波信号を入力して、上記高周波信号から高周波差動信号を生成し、上記高周波差動信号を上記ポリフェーズフィルタ手段の入力端子に供給する入力手段を設けた」に補正したこと、を含むものである。
上記補正は,請求人が、審判請求書の請求の理由において、「補正後の請求項1に係る発明は、補正前の請求項1に係る発明と、補正前の請求項10に係る発明とを組み合わせたものに相当します。」(平成21年4月24日付け手続補正書(方式)の「3.」「(2)」)と主張するとおりであり、その上で、「高周波差動信号」を「ポリフェーズフィルタ手段」の「入力端子から」「入力」する限定を追加すると共に、「入力手段」が該「高周波差動信号」をこの「入力端子」(「ポリフェーズフィルタ手段の入力端子」)「に供給する」限定を追加したものであるから、特許法17条の2第4項2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで,本件補正後の前記請求項1に記載された発明(以下,「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか、すなわち、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するかについて、以下に検討する。

2-1.引用例
(1)原査定の拒絶の理由に引用された特開2001-168668号公報(以下、「引用例」という。)には、以下の事項が記載されている。
ア 「【要約】
【課題】高周波信号の位相を変化させる2π移相器において、2π移相器の使用する分配器や可変減衰器、加算器などの構成要素を減らすことによって、損失を少なくし、小型化が可能でより安価な移相器および、移相器を用いた通信装置を提供する。
【解決手段】位相を変化させようとする信号を、π分配器で2つの経路に分配し、更にそれぞれをπ/2分配器により分配する。そして2つのπ/2分配器の出力である4つの経路に接続する可変減衰器の出力を、可変減衰器の減衰量を変えることで、0?2π radの任意の移相量が調節可能とする。」
イ 「【0011】
【課題を解決するための手段】上記の目標を達成するために、本発明の移相器はπ rad移相するπ分配器を有し、逆相の信号をそれぞれπ/2移相器に入力させることで、出力信号が0 rad?2π radのすべての位相角に対応するようにした移相器を実現したものである。
【0012】
【発明の実施の形態】本発明の一実施例を図1のよって説明する。図1は本発明の移相器の構成を示すブロック図である。これまで説明した構成要素と同一の機能の構成要素には同一の番号を付した。その他、2はπ分配器、3と4はπ/2分配器、5?8は可変減衰器(ATT)、9?12は制御電圧入力端子、13?15は加算器である。入力端子1は、π分配器2によって2分配され0 radの信号P4とπ radの信号P5とに分配される。信号P4はπ/2分配器3に与えられ、信号P5はπ/2分配器4に与えられる。π/2分配器3の同相出力(I0)は可変減衰器5を、直交出力(Q0)は可変減衰器6を介して加算器13に与えらる。また、π/2分配器4の同相出力(Iπ)は可変減衰器7を、直交出力(Qπ)は可変減衰器8を介して加算器14に与えらる。制御電圧入力端子9?12は、可変減衰器5?8とそれぞれ接続され、加算器13と14は加算器15を介して出力端子16に接続される。
【0013】図1において、入力端子1から入力された信号はπ分配器2により、図2に示すように、同相信号P4(0 rad)と逆相信号P5(π rad)とに分けられる。分配された同相信号P4と逆相信号P5は、π/2分配器3とπ/2分配器4にそれぞれ入力される。π/2分配器3から加算器13までの動作、及び、π/2分配器4から加算器14までの動作は前述の従来例で説明したので、ここでの説明を省略する。ただし、π/2分配器4に入力される信号は、入力端子1から入力される信号に対して逆相であるので、π/2分配器4により分配される信号は、入力端子1の入力信号の位相を基準とすると、位相角がそれぞれπ radまたは3π/2 radの信号となる。従って、制御電圧入力端子9から入力する制御電圧V1と制御電圧入力端子10から入力する制御電圧V2とにより、加算器13の出力信号P6では、0 rad?π/2 radの任意の位相角を設定することができる。また、制御電圧入力端子11から入力する制御電圧V3と制御電圧入力端子12から入力する制御電圧V3とにより、加算器14の出力信号P7では、π rad?3π/2 radの任意の位相角を設定することができる。加算器13及び14でそれぞれ出力された信号P6とP7は、加算器15に与えられ、加算器15はそれら入力信号を加算した出力信号P8を出力する。加算器15の出力信号P8は図3のようになり、2つのベクトルP6とP7の合成ベクトルP8となる。従って、加算器15の出力は、0 rad?2π radの範囲で位相角を設定することができ、出力端子16では、移相量をすべての領域で対応させることが可能となる。」

上記ア及びイで摘示した記載事項及びそこで示される図面の記載を勘案すると、引用例には、以下の発明(以下、「引用例記載発明」という。)が記載されている。
「同相信号P4(0 rad)と逆相信号P5(π rad)に分配された入力信号を該同相信号P4の同相出力(I0)及び直交出力(Q0)、該逆相信号P5の同相出力(Iπ)及び直交出力(Qπ)に分配された信号を出力する分配器と、
上記4つの出力信号をそれぞれ独立に可変減衰器により減衰して次いで加算器により加算する手段とを有する移相器において、
高周波信号を入力して、上記高周波信号から同相信号P4(0 rad)と逆相信号P5(π rad)に分配された信号を生成し、上記分配された信号を上記分配器の入力として供給するπ分配器を設けた移相器。」

(2)原査定の備考欄において周知文献として引用された特開平11-298293号公報(以下、「引用周知例」という。)には、以下の事項が記載されている。
ア 「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、例えばデジタル通信回路などに適用可能な、位相シフト回路に関するものである。」
イ 「【0005】図1は、従来から知られている位相シフト回路の一例を示す。本図において、2は二つの入力信号V_(IN)^(+) およびV_(IN)^(-) を入力する差動増幅器、4は二つの出力信号V_(P)^(+)およびV_(P)^(-)を入力して四つの位相成分信号(0°,180°,90°,270°)を出力する位相シフタ、6はバッファ用差動増幅器である。
【0006】図2は、図1に示した位相シフタ4の一例を示す。本図では、四つの位相成分信号として、抵抗および容量の各端子から得られるI_(0)^(+),I_(0)^(-),Q_(0)^(+),Q_(0)^(-)を用いている。」
ウ 「【0012】
【課題を解決するための手段】上記の目的を達成するために、本発明に係る位相シフト回路は、入力用差動増幅手段と、該入力用差動増幅手段の後段に接続した位相シフト手段と、該位相シフト手段の後段に接続した出力用差動増幅手段とを備えた位相シフト回路において、前記位相シフト手段として、複数の抵抗素子および複数の静電容量素子からなる複数のRC回路網を縦続接続したことを特徴とするものである。
【0013】ここで、前記RC回路網としてポリフェーズシフタを用いることが可能である。」
エ 「【0015】
【発明の実施の形態】実施の形態1
図3は、複数の位相シフタ40-1?40-Nを縦続接続した場合の実施の形態を示す。
【0016】図4は、位相シフタとして用いるのに好適な、半導体チップ上に形成された抵抗および容量で構成したポリフェーズシフタを示す回路図である。
【0017】なお、以下の説明において、位相シフタとは受動素子のみからなる位相シフタを構成するブロック(RCネットワーク)を意味し、位相シフタ部とは複数の位相シフタを接続したブロックを意味する。また、位相シフト回路とは、位相シフタ部および差動増幅器等を含めた全ての回路を意味する。
【0018】この実施の形態1では、プロセスがばらつくことに起因する位相シフト量のばらつきを低減するために、図4に示したポリフェーズシフタを使用する。この回路は、従来から知られている位相シフタ(図2参照)に比べて、より広帯域にわたってゲインと位相シフト量がフラットである。
【0019】しかし、図4に示したポリフェーズシフタの特性が良好であるとはいえ、例えば位相シフタが900MHz帯と1800MHz帯の2つの異なる帯域を扱う必要がある場合には、単一のポリフェーズシフタを使用したとしても900MHz?1800MHzにわたって位相シフタとしての特性を保つことは不可能である。
【0020】そこで、このような広帯域用途の位相シフタが必要な場合には、例えば二つの位相シフタを縦続接続して、一方のカットオフ周波数を900MHz、もう一方のカットオフ周波数を1800MHzに設定することにより、二つの異なる帯域で良好な特性を保つことができる。かかる縦続接続の構成をとる場合、二つの位相シフタをポリフェーズシフタで構成してもよいし、一方の位相シフタとして図2に示した位相シフタを用いることも可能である。」
オ 「【0029】実施例1
図7?図12は、900MHzから1.8GHzにわたって良好な位相シフト特性を示す回路例である。
【0030】入力信号は、まず差動対Q1,Q2からなる差動増幅器に入る(図10参照)差動増幅器Q1,Q2の出力outp,outnはまず1.8GHz帯の位相シフタに入り(図7参照)、その出力がさらに900MHz帯の位相シフタに入り(図8参照)、その出力をQ3?Q6のエミッタフォロアで受けてQ7?Q14からなる出力用バファアンプで増幅した信号が、位相シフト回路出力となる。」

2-2.対比
本願補正発明と引用例記載発明を対比すると、以下の対応関係を導き出すことができる。
ア 本願補正発明の「高周波差動信号」は、本願明細書の発明の詳細な説明によれば、高周波差動入力信号として「Vin,/Vin」として表され、この「Vin,/Vin」については、「図1において,1a,1bは高周波信号Vin,/Vin(ここで、「/X」は信号Xの反転信号を表す。すなわち、/Vinは信号Vinの反転信号(180°位相が異なる信号)を表す。以下、本明細書中で記号「/」を同様の意味を表現するものとして用いる。)の差動入力端子である。」(【0030】【発明の実施の形態】)と記載されており、互いに180°位相が異なる入力信号であることから、引用例記載発明の「同相信号P4(0 rad)と逆相信号P5(π rad)に分配された入力信号」は、当該「Vin,/Vin」と同等の信号といえるのものである。
すなわち、引用例記載発明の「同相信号P4(0 rad)と逆相信号P5(π rad)に分配された入力信号」は、本願補正発明の「高周波差動信号」に相当する。
イ 引用例記載発明の「同相信号P4(0 rad)と逆相信号P5(π rad)に分配された入力信号を該同相信号P4の同相出力(I0)及び直交出力(Q0)、該逆相信号P5の同相出力(Iπ)及び直交出力(Qπ)に分配された信号を出力する分配器」について、まず、該入力信号は上記「ア」のとおり、本願補正発明の「高周波差動信号」に相当し、該入力信号の内、「同相信号P4」に対しては、その「同相出力(I0)」及びその「直交出力(Q0)」を出力し、「同相信号P4」と180°位相差のある「逆相信号P5」に対しては、その「同相出力(Iπ)」及びその「直交出力(Qπ)」を出力するものである。ここで、該「同相信号P4」を基準としてこれら出力信号の位相差を表すと、その「同相出力(I0)」は0°となり、その「直交出力(Q0)」は90°となり、また、「逆相信号P5」に対する「同相出力(Iπ)」は180°となり、その「直交出力(Qπ)」は270°すなわち-90°となる。また、これら各出力信号は、移相分配されるのみでその振幅を変化させるものではないから、等振幅であることは明らかである。
すなわち、引用例記載発明の「同相信号P4(0 rad)と逆相信号P5(π rad)に分配された入力信号を該同相信号P4の同相出力(I0)及び直交出力(Q0)、該逆相信号P5の同相出力(Iπ)及び直交出力(Qπ)に分配された信号を出力する分配器」は、本願補正発明の「入力端子から高周波差動信号を入力し、上記高周波差動信号を位相差0°,90°,180°,-90°で、かつ、等振幅の4つの高周波信号に分配するポリフェーズフィルタ手段」に相当する。
ウ 引用例記載発明の「4つの出力信号をそれぞれ独立に可変減衰器により減衰して次いで加算器により加算する手段」において、「可変減衰器」は、高周波信号である4つの出力信号をそれぞれ独立に振幅設定するものであり、「加算器」は、該減衰したすなわち振幅設定した信号を同相合成するものである。
すなわち、引用例記載発明の「4つの出力信号をそれぞれ独立に可変減衰器により減衰して次いで加算器により加算する手段」は、本願補正発明の「4つの高周波信号をそれぞれ独立に振幅設定して同相合成する出力手段」に相当する。
エ 引用例記載発明の「π分配器」は、入力された「高周波信号」を同相信号と逆相信号に分配生成して、換言すれば高周波差動信号を生成して、次段の「分配器」の入力とするものであるから、次段の「分配器」からみれば「入力手段」といえるものであり、また、該入力された「高周波信号」が単相の信号であることは明らかである。
すなわち、引用例記載発明の「高周波信号を入力して、上記高周波信号から同相信号P4(0 rad)と逆相信号P5(π rad)に分配された信号を生成し、上記分配された信号を上記分配器の入力として供給するπ分配器」は、本願補正発明の「単相の高周波信号を入力して、上記高周波信号から高周波差動信号を生成し、上記高周波差動信号を上記ポリフェーズフィルタ手段の入力端子に供給する入力手段」に相当する。
オ 引用例記載発明の「移相器」は、明らかにアナログ信号についての移相器であるから、本願補正発明の「アナログ形移相器」に相当する。

以上のア?オの対応関係から、本願補正発明と引用例記載発明との一致点、及び、相違点を整理すると、以下のようになる。
(一致点)
入力端子から高周波差動信号を入力し、上記高周波差動信号を位相差0°,90°,180°,-90°で、かつ、等振幅の4つの高周波信号に分配するポリフェーズフィルタ手段と、
上記4つの高周波信号をそれぞれ独立に振幅設定して同相合成する出力手段とを有するアナログ形移相器において、
単相の高周波信号を入力して、上記高周波信号から高周波差動信号を生成し、上記高周波差動信号を上記ポリフェーズフィルタ手段の入力端子に供給する入力手段を設けたことを特徴とするアナログ形移相器。

(相違点)
ポリフェーズフィルタ手段が、本願補正発明は、抵抗およびコンデンサが交互に配置されて環状に接続されたポリフェーズフィルタから構成されているのに対し、引用例記載発明は、分配器で構成されている点。

2-3.当審の判断
(1)上記「2-2.」で抽出した「(相違点)」について、以下に検討する。
原審の拒絶査定において指摘し、請求人も審判請求書の請求の理由(平成21年4月24日付け手続補正書(方式))の「5.対比判断」において自認しているように、複数の移相された信号を出力するための手段として、抵抗およびコンデンサが交互に配置されて環状に接続されたポリフェーズフィルタからなるものは周知である。そして、本願補正発明のポリフェーズフィルタは、複数の信号の位相をシフト(すなわち、移相)して分配する機能を奏するポリフェーズフィルタ手段を構成するものであるから、引用例記載発明において、同じ機能を奏する引用例記載発明の分配器に代えて当該周知のポリフェーズフィルタを適用して相違点に係る本願補正発明の構成とすることは、当業者が容易に想到し得ることである。
さらに、本願補正発明のポリフェーズフィルタに関して、本願明細書の発明の詳細な説明及び図面に記載された実施例に即して検討を加えると、ポリフェーズフィルタの実施例としては、【0031】?【0033】、及び、対応する図2に示されるように、入出力構成は2入力4出力であるところ、例えば、上記周知の例として拒絶査定において掲げた引用文献の内、上記2-1.の(2)で示した引用周知例には、該(2)の「エ」で摘記のとおり、その図3において、入出力構成が2入力4出力で抵抗およびコンデンサが交互に配置されて環状に接続されたポリフェーズシフタを構成要素とする位相シフト手段が示されている。また、その【0031】?【0033】、及び、対応する図2に示されるポリフェーズフィルタ2の回路構成そのものに限定したとしても、その回路構成は、上記2-1.の(2)で摘記した「イ」及びその図1に示されるところの、従来から知られている位相シフト回路の一例と等価(同等)である。一見すれば、構成素子の接続関係が同じようには見えないが、個々の構成素子の接続態様を順に追えば等価(同等)の回路であることが分かる。してみると、たとえ本願補正発明のポリフェーズフィルタを本願図面の図2に示される回路構成に特定したとしても、その回路構成も上記のとおり、周知の技術といえるものである。
なお、請求人は、審判請求書の請求の理由の同じ「5.対比判断」において、「しかし、これらの公報や、引用文献1?3には、「単相の高周波信号を入力して、その高周波信号から高周波差動信号を生成し、その高周波差動信号をポリフェーズフィルタ手段の入力端子に供給する入力手段」に相当する技術が開示されていません。」と主張するが、上記2-2.の「エ」で説示のとおり、引用例記載発明の「π分配器」が当該入力手段に相当するものであるから、この請求人の主張を採用することはできない。
また、請求人は、審判請求書の請求の理由の同じ「5.対比判断」、及び、審尋に対する回答書の「3.」や「5.」において、「ポリフェーズフィルタ手段の入力端子から高周波差動信号を直接入力することができる一方、入力手段から単相の高周波信号を入力することもでき、差動信号と単相信号の双方を取り扱うことができます」旨の主張をしている。しかしながら、本願補正発明を特定する補正後の請求項1は、「ポリフェーズフィルタ手段の入力端子から高周波差動信号を直接入力すること」が特定された記載内容とはいえず、ポリフェーズフィルタ手段の入力端子から入力される高周波差動信号は、単相の高周波信号を入力とする入力手段が生成する高周波差動信号に特定されるものであるから、当該請求人の主張は、特許請求の範囲請求項1の記載に基づくものとはいえず、これまた採用することはできない。

(2) 本願補正発明の効果について
本願補正発明の構成によってもたらされる効果は、引用例の記載事項及び引用周知例に記載された周知の技術から当業者ならば容易に予測することができる程度のものであって、格別のものとはいえない。

(3)まとめ
以上のとおりであるから、本願補正発明は、引用例記載発明及び引用周知例に記載された周知の技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

3.むすび
以上のとおり、本件補正は、上記改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するものであるから、特許法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。


第3 本願発明について

1.本願発明
本件補正が上記のとおり却下されたので、本願の請求項1を引用する請求項10に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成20年7月1日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項10に記載されたとおりのものであり、それは、上記「第2」の「1.」において、<補正前の請求項10>として記したとおりのものである。

2.引用例
原査定の拒絶の理由に引用された引用例及び引用周知例のそれぞれの記載事項は、上記「第2」の「2.」の「2-1.」に摘示記載したとおりである。

3.対比・判断
本願発明は、上記「第2」で検討した本願補正発明から、同じく「第2」の「2.」で示した補正事項により限定する事項を省いたものである。
そうすると、本願発明の構成要件をすべて含み、さらに上記補正事項による限定を施したものに相当する本願補正発明が、上記「第2」の「2-2.」及び「2-3.」により判断したとおり、引用例記載発明及び引用周知例に記載された周知の技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、上記本願発明は、同様に、引用例記載発明及び引用周知例に記載された周知の技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

4.むすび
以上のとおり、本願発明は、引用例記載発明及び引用周知例に記載された周知の技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願は、他の請求項について検討するまでもなく、拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-01-11 
結審通知日 2012-01-17 
審決日 2012-02-01 
出願番号 特願2002-24238(P2002-24238)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (H03H)
P 1 8・ 121- Z (H03H)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 野元 久道  
特許庁審判長 岩崎 伸二
特許庁審判官 久保 正典
長島 孝志
発明の名称 アナログ形移相器  
代理人 田澤 英昭  
代理人 濱田 初音  

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