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審決分類 審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G03B
管理番号 1254136
審判番号 不服2009-25387  
総通号数 149 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-05-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2009-12-22 
確定日 2012-03-19 
事件の表示 特願2002-321417「イメージスキャナの光学レンズ装置」拒絶査定不服審判事件〔平成15年11月 6日出願公開、特開2003-315932〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続きの経緯
本願は、平成14年11月5日(パリ条約による優先権主張2002年4月12日、台湾)の出願であって、平成21年8月19日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年12月22日に審判請求及び手続補正がなされたものである。
その後、平成23年6月7日付けで当審による拒絶理由の通知がなされ、これに対して同年10月5日付けで意見書が提出された。

第2 当審による拒絶理由通知
当審による拒絶理由は以下のとおりである。

本願は、以下の理由により、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。

(1)特許請求の範囲の請求項1?3に記載の「EFLと像高との比が0.9より小さく」及び「BFLとTTとの比が0.05より小さい」という事項に関して、本願の発明の詳細な説明の記載には、当該事項を実現するための具体的な(レンズ面の曲率半径、レンズ厚、空気間隔、レンズの屈折率等の)レンズデータが開示されていない。
そして、これらの事項が、本願出願時点で自明な事項又は当業者の技術常識であったと認めることはできない。
したがって、本願明細書の発明の詳細な説明の記載は、当業者が本願各発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものではない。

(2)本願明細書の段落【0010】の「本発明の第1の目的は、一種のイメージスキャナの光学レンズ装置を提供することにあり、それは比較的短い総光行程長(TT)を具え、光学シャシ及びイメージスキャナの体積を更に縮小できる構造を有するものとする。」の記載、及び【0011】の「本発明の第2の目的は、一種のイメージスキャナの光学レンズ装置を提供することにあり、それは、そのレンズセットの最末端の一片のレンズとCCDの間の距離(BFL値)が短く、光学シャシの体積を更に縮小できる構造を有するものとする。」の記載に基づけば、本願各発明は、総光行程長(TT)を短くするとともに、レンズセットの最末端の一片のレンズとCCDの間の距離(BFL値)を短くすることが、その解決すべき課題であることがわかる。
これに対して、特許請求の範囲の請求項1?3に記載の「BFLとTTとの比が0.05より小さい」という事項は、両者の比(相対的な大きさ)を特定しているに過ぎず、本願明細書及び図面の記載を参酌しても、該特定事項の有する技術上の意義、特に「総光行程長(TT)を短くするとともに、レンズセットの最末端の一片のレンズとCCDの間の距離(BFL値)を短くすること」との関係において、どのような技術的意義を有するのかが不明である。
したがって、本願の発明の詳細な説明の記載は、特許法施行規則第24条の2の規定を満たしていないから、経済産業省令で定めるところにより記載されたものではない。

第3 本願明細書等の記載
本願の明細書及び図面(以下「本願明細書等」という。)の記載は、平成21年12月22日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の記載を含め、願書に添付された本願明細書等に記載されているとおりであるが、特に、以下のとおり記載されている。
(a)特許請求の範囲
「【請求項1】
イメージスキャナの光学レンズ装置において、該光学レンズ装置は原稿に反射された光画像を受け取り並びに該光画像を集束して画像検出素子上に結像し、該光学レンズ装置は

絞りと、
複数のレンズとされ、該複数のレンズは絞り及び画像検出素子と線形配列を呈して光経路を原稿と画像検出素子の間に画定し、該レンズと絞りの間の位置の違いにより、複数のレンズが二つのグループ、即ち、絞りと原稿の間の前グループレンズと、絞りと画像検出素子の間の後ろグループレンズとに区分される、上記複数のレンズと
を具え、該複数のレンズ中、最も原稿に接近するものが第1レンズと称され、最も画像検出素子に接近するのは最末端レンズと称され、且つ最末端レンズと画像検出素子の間の距離はBFLと称され、画像検出素子の画像検出に供される長さは像高と称され、原稿と画像検出素子の間の距離はTTと称され、光学レンズ装置の有効焦点距離はEFLと称され、
該光学レンズ装置の最末端レンズ直径と第1レンズ直径の比の値が1より大きく、EFLと像高との比が0.9より小さく、BFLとTTとの比が0.05より小さいことを特徴とする、イメージスキャナの光学レンズ装置。
【請求項2】
イメージスキャナの光学レンズ装置において、該光学レンズ装置は原稿に反射された光画像を受け取り並びに該光画像を集束して画像検出素子上に結像し、該光学レンズ装置は

絞りと、
複数のレンズとされ、該複数のレンズは絞り及び画像検出素子と線形配列を呈して光経路を原稿と画像検出素子の間に画定し、該レンズと絞りの間の位置の違いにより、複数のレンズが二つのグループ、即ち、絞りと原稿の間の前グループレンズと、絞りと画像検出素子の間の後ろグループレンズとに区分される、上記複数のレンズと
を具え、該複数のレンズ中、最も原稿に接近するものが第1レンズと称され、最も画像検出素子に接近するのは最末端レンズと称され、且つ最末端レンズと画像検出素子の間の距離はBFLと称され、画像検出素子の画像検出に供される長さは像高と称され、原稿と画像検出素子の間の距離はTTと称され、光学レンズ装置の有効焦点距離はEFLと称され、
該光学レンズ装置の最末端レンズ直径と第1レンズ直径の比の値が1より大きく、EFLと像高との比が0.9より小さく、BFLとTTとの比が0.05より小さく、TT値が200mmより小さいことを特徴とする、イメージスキャナの光学レンズ装置。
【請求項3】
光学レンズ装置を具えたイメージスキャナにおいて、
走査する原稿を載置するのに供される走査領域と、
少なくとも一つの反射鏡を具えて、光画像を少なくとも一回反射した後に光画像を所定の方向に案内する導光装置と、
該導光装置から送られた光画像を受け取り並びに集束結像する光学レンズ装置と、
該光画像の集束結像する位置に位置し、結像した光画像信号をコンピュータの判読できる電気信号に変換する画像検出素子と、
を具え、そのうち、該光学レンズ装置が、絞りと複数のレンズを少なくとも具え、該複数のレンズが、絞り及び画像検出素子と線形配列を呈して光経路を原稿と画像検出素子の間に画定し、該複数のレンズ中、最も原稿に接近するものが第1レンズと称され、最も画像検出素子に接近するのは最末端レンズと称され、且つ最末端レンズと画像検出素子の間の距離はBFLと称され、画像検出素子の画像検出に供される長さは像高と称され、原稿と画像検出素子の間の距離はTTと称され、光学レンズ装置の有効焦点距離はEFLと称され、
該光学レンズ装置の最末端レンズ直径と第1レンズ直径の比の値が1より大きく、EFLと像高との比が0.9より小さく、BFLとTTとの比が0.05より小さいことを特徴とする、光学レンズ装置を具えたイメージスキャナ。」
(b)「【0010】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の第1の目的は、一種のイメージスキャナの光学レンズ装置を提供することにあり、それは比較的短い総光行程長(TT)を具え、光学シャシ及びイメージスキャナの体積を更に縮小できる構造を有するものとする。
【0011】
本発明の第2の目的は、一種のイメージスキャナの光学レンズ装置を提供することにあり、それは、そのレンズセットの最末端の一片のレンズとCCDの間の距離(BFL値)が短く、光学シャシの体積を更に縮小できる構造を有するものとする。」
(c)「【0018】
【実施例】
本発明のイメージスキャナの光学レンズ装置は、イメージスキャナの光学シャシ中の光学レンズ装置の設計を改良し、光学レンズ装置中の複数のレンズと絞りを適当に設計し、組み合わせた後、以下の光学特性を得られるようにしたものであり、即ち、最末端レンズの直径/第1レンズ直径>1,有効焦点距離(EFL)/像高<0.9である。このような設計により、本発明のイメージスキャナの光学レンズ装置は、比較的短い総光行程長(TT)、比較的短い最末端レンズとCCD間の距離(BFL)を獲得し、これにより光学シャシ及びイメージスキャナの体積を更に一歩縮小することができる。」
(d)「【0019】
図4は本発明のイメージスキャナの光学レンズ装置30の第1実施例表示図である。該イメージスキャナの光学レンズ装置30以外の部品は基本的に周知の技術と類似し、同様に、走査領域21、光源22、導光装置23、及び画像検出素子25を具えている。
・・・
【0023】
第1実施例中、該光学レンズ装置30のレンズの数量は四個とされ、それぞれ第1レンズ31、第2レンズ32、第3レンズ33、及び最末端レンズ34とされる。第2、第3レンズ32、33の間に絞り38が設けられ、複数のレンズが前グループレンズ(第1、第2レンズ31、32)と後ろグループレンズ(第3、第4レンズ33、34)に分けられ、且つ第1レンズ31の前(即ち比較的原稿24に接近する側)の適当な位置に、光の曲率が零の平面鏡39が設けられている。各レンズはその曲率により、第1レンズ31より、凸凹(第1レンズ31)、凹凹(第2レンズ32)、凸凸(第3レンズ33)、凹凸(最末端レンズ34)とされる。
・・・
【0025】
前述の設計条件下で、我々は図4に示される本発明の第1実施例のTT値を200mmより小さい、183.77mmという比較的短い距離とすることができる。像高をTT値で割った値(像高/TT)は0.1111で、EFLを像高で割った値(EFL/像高)は0.676である。即ち、TT値は200mmより小さく、BFL<10mmで、EFL/像高<0.9で、BFL/TT<0.05である。」
(e)「【0028】
図5は、本発明のイメージスキャナの光学レンズ装置40の第2実施例である。該イメージスキャナは、光学レンズ装置40のほかのその他の部品が基本的に前述の実施例に類似し、同様に、走査領域21、光源22、導光装置23、及び画像検出素子25を具えている。
【0029】
この第2実施例中、該光学レンズ装置40は少なくとも、一つの絞り48と複数のレンズ41、42、43、44、45を具え、該複数のレンズの数量は5個とされ、それぞれ、第1レンズ41、第2レンズ42、第3レンズ43、第4レンズ44及び最末端レンズ45とされる。第2レンズ42と第3レンズ43の間に絞り48が設けられ、この複数のレンズ41、42、43、44、45が二つのグループ、即ち、前グループレンズ(第1、第2レンズ41、42)と、後ろグループレンズ(第3、第4及び最末端レンズ43、44、45)に分けられ、且つ第1レンズ41の前(比較的原稿24に接近する側)の適当な位置に、光曲率が零の平面鏡49が設けられている。各レンズ41、42、43、44、45はその曲率により、順に、凸凹(第1レンズ41)、凹凹(第2レンズ42)、凸凸(第3レンズ43)、凹凸(第4レンズ44)、凹凸(最末端レンズ45)とされる。
・・・
【0031】
前述の設計条件下で、図5に示される本発明の第2実施例は、そのTT値が250mm、像高/TT値は0.1632で、EFL/像高値は0.789、BFL/TT値は0.093とされる。すなわち、そのTT値は280mmより小さく、且つBFL<25mmで、且つBFL/TT<0.1、EFL/像高<0.9である。」
(f)「【0033】
図6は本発明のイメージスキャナの光学レンズ装置50の第3実施例である。該イメージスキャナは、光学レンズ装置50のほかのその他の部品が基本的に前述の実施例に類似し、同様に、走査領域21、光源22、導光装置23、及び画像検出素子25を具えている。
【0034】
この第3実施例中、該光学レンズ装置50は少なくとも、一つの絞り58と複数のレンズ51、52、53を具え、該複数のレンズの数量は3個とされ、それぞれ、第1レンズ51、第2レンズ52、及び最末端レンズ53とされる。第1レンズ51と第2レンズ52の間に絞り58が設けられ、この複数のレンズ51、52、53が二つのグループ、即ち、前グループレンズ(第1レンズ51)と、後ろグループレンズ(第2レンズ及び最末端レンズ52、53)に分けられ、且つ第1レンズ51の前(比較的原稿24に接近する側)の適当な位置に、光曲率が零の平面鏡59が設けられている。各レンズ51、52、53はその曲率により、順に、凸凹(第1レンズ51)、凸凸(第2レンズ52)、凹凸(最末端レンズ53)とされる。
・・・
【0036】
前述の設計条件下で、図6に示される本発明の第3実施例は、そのTT値が183.8mm、像高/TT値は0.0728で、EFL/像高値は0.731、BFL/TT値は0.027とされる。すなわち、そのTT値は200mmより小さい。」
(g)「【0038】
図7は本発明のイメージスキャナの光学レンズ装置60の第4実施例である。該イメージスキャナは、同様に、走査領域21、光源22、導光装置23、及び画像検出素子25を具えている。
【0039】
この第4実施例中、該光学レンズ装置60は少なくとも、一つの絞り68と複数のレンズ61、62、63、64を具え、該複数のレンズの数量は4個とされ、それぞれ、第1レンズ61、第2レンズ62、第3レンズ63及び最末端レンズ64とされる。第1レンズ61の前(原稿24に比較的接近した側)に絞り68が設けられ、このため僅かに後ろグループレンズ(第1レンズから最末端レンズ61、62、63、64)のみ有し、且つ絞り68の前に光曲率が零の平面鏡69が設けられている。各レンズ61、62、63、64はその曲率により、順に、凸凸(第1レンズ61)、凹凹(第2レンズ62)、凸凸(第3レンズ63)、凹凸(最末端レンズ53)とされる。」
(h)「【0042】
図8は本発明のイメージスキャナの光学レンズ装置70の第5実施例である。該イメージスキャナは、同様に、走査領域21、光源22、導光装置23、及び画像検出素子25を具えている。
【0043】
この第5実施例中、該光学レンズ装置70は少なくとも、一つの絞り78と複数のレンズ71、72、73、74、75を具え、該複数のレンズの数量は5個とされ、それぞれ、第1レンズ71、第2レンズ72、第3レンズ73、第4レンズ74及び最末端レンズ75とされる。第2、第3レンズ72、73の間に該絞り78が設けられ、複数のレンズ71、72、73、74、75が、前グループレンズ(第1、2レンズ71、72)と後ろグループレンズ(第3、4及び最末端レンズ73、74、75)に分けられ、且つ第1レンズ71の前(即ち原稿24に接近する側)の適当な位置に光曲率が零の平面鏡79が設けられている。各レンズ71、72、73、74、75はその光曲率により、順に、凸凹(第1レンズ71)、凹凹(第2レンズ72)、凸凸(第3レンズ73)、凹凸(第4レンズ74)、凹凸(最末端レンズ75)とされる。
・・・
【0045】
前述の設計条件下で、図8に示される本発明の第5実施例は、そのTT値が250mm、像高/TT値は0.1123で、EFL/像高値は0.687、BFL/TT値は0.028とされる。すなわち、そのTT値は280mmより小さい。」
(i)「【0046】
図9は本発明の光学レンズ装置の設計条件と達成機能の、周知の技術との差異を明確にするため、前述の各実施例のパラメータを周知の技術の実施例のパラメータと比較整理して表としたものである。図9には前述の本発明の5個の実施例と4個の周知の技術(即ち周知1から周知4)の実施例の光学レンズ装置の設計パラメータが列記されている。そのうち、先に説明しておかねばならないことは、図9に示される表中、「レンズ名称」の欄の各値の意義は以下のとおりである。即ち、a4は走査可能な最大原稿サイズがA4規格であることを代表し、4uはCCD画素ピッチが4μmであることを代表し、600dpiはCCDの解析度を代表し、4Gはレンズ数量が4個であることを代表し、以下は類推されるとおりである。並びに「レンズ配列」の欄のsは絞りがどの二つのレンズの間に位置するかを代表する。この値のほかの各長度(或いは距離)欄の単位はmmである。
【0047】
図9の表に列記されたデータから分かるように、もし相似の設計条件、例えば同じ原稿規格と同じ解析度のCCDをとって比較すると、本発明の実施例は周知の技術に較べてTTが大幅に下げられる効果を有している。本発明は導光装置の反射鏡数量を減少でき或いは導光装置の体積寸法を縮小でき、且つこれにより光学イメージスキャナの全体体積を縮小することができる。」
(j)「【0048】
図10及び図11は、本発明者が本発明の図5に示される光学レンズ装置40の第2実施例に対して縦向像差(Longitudinal Aberration)及び変形曲率(Field Curvature/Distortion)特性曲線図である。これらの特性曲線から、本発明の光学レンズ装置40が良好な光学特性を表現し、且つイメージスキャナの必要とする解析度と画像品質の要求に符合することが分かる。」
(k)「


(l)「


(m)「


(n)「


(o)「


(p)「



第4 検討・判断
1.「第2」の「(1)」の拒絶理由について
(1)検討
請求人は、上記意見書において「本願においては、特に、図9、図10A、および図10Bにおいて、レンズ配列、レンズグループの焦点距離、有効焦点距離、レンズの直径比、瞳孔半径(pupil radius)、収差(aberration)、像面湾曲(field curvature)、および波長を含む、光学レンズデータの詳細を記述しており、加えて、図9に記載される様々な実施例に関連付けられたレンズ構成は、図4乃至図8において図示されている。図4乃至図8に図示された各光学レンズは、各図に関して本願明細書中でさらに記載されているように、対応する湾曲(たとえば、凸面-凹面、凸面-凸面、凹面-凸面等)で示されている。」から「当業者は、過度の実験をすることなく、そのような付加的な特徴を本願明細書中で提供されるデータの数学的解析から決定することができる。」また「光学レンズの特徴は、図面それ自体から直接確認することができる。図4乃至図8に示された図は、光学レンズの湾曲を示すのみならず、各レンズ間の相対的距離、および同様に、直径および厚さに対応する光学レンズの比例的特徴も示している。さらに、光学レンズの屈折率は、各レンズにおいて、図4乃至図8に示される図示された光波の屈折角を測定することによって決定することができる。」から「特許請求の範囲の請求項によって記載された特徴は、当業者が本発明を実施することができるように、本願明細書中に明確且つ十分に記載されている。」と主張している。
これらの主張について検討する。
(イ)図9、図10A、および図10Bにおいて、光学レンズデータの詳細を記述しているという主張について
請求人の主張する図9、図10A(図10の誤記と認められる。)、および図10B(図11の誤記と認められる。)に記載されているデータはあくまでレンズグループ(すなわち複数のレンズが協働した結果としての1つのレンズ系)に関するものであって、当該グループを構成する個々のレンズに関するものではない。
そして、複数のレンズから構成されるレンズ系の技術においては、設計の自由度の大きさが天文学的数値であること、レンズ系の仕様に応じた具体的解を逆算的に求めることが極めて困難であること、求まった解が最良の解なのかの判断が困難であること等によりその設計には非常に困難性があることは、当業者の技術常識である。
してみると、図9、図10A(同上)、および図10B(同上)にレンズグループに関するデータが記載されており、図4乃至図8に図示された各光学レンズは、各図に関して本願明細書中でさらに記載されているように、対応する湾曲で示されているとしても、当業者が複数のレンズに関して、具体的な(レンズ面の曲率半径、レンズ厚、空気間隔、レンズの屈折率等の)レンズデータを決定し、本願の請求項1乃至3に記載の発明を実施できるとはいえない。したがって、本願明細書の発明の詳細な説明の記載が、当業者が本願各発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものとすることはできない。
(ロ)図4乃至図8に示された図から、光学レンズの湾曲、各レンズ間の相対的距離、直径、厚さ光学レンズの屈折率を決定することができるという主張について
請求人は、上記意見書において、図4乃至図8の各図面を直接測定することにより、上記各値を決定することができると主張する。
しかしながら、特許出願の願書に添付される図面は、発明の技術内容を説明する便宜のために描かれるものであるから、設計図面に要求されるような正確性を持って描かれているとは限らない(東京高裁が平成9年9月18日に判決した平成8年(行ヶ)42号の判決参照)ことは周知の事実であり、しかも、レンズ系の技術分野では、各パラメータがわずかに変化しただけでも、それらの相乗効果により系の光学特性が大きく変化することは技術常識であるから、願書に添付された図面を測定することにより、各パラメータの値を十分な精度で見いだすことが、当業者にとって容易であるとは、到底いえない。これらの事項を考慮すれば、図4乃至図8が各レンズの形状、大きさ及び配置を定量的にではなく、定性的に示すものであることは明らかである。
してみると、請求人の上記主張は妥当ではない。
(ハ)上記各摘記事項を含む、本願明細書等の記載を総合的に参酌しても、本願の特許請求の範囲の請求項1に記載の「EFLと像高との比が0.9より小さく」及び「BFLとTTとの比が0.05より小さい」という事項を実現するために必要不可欠である、複数のレンズそれぞれの具体的な(レンズ面の曲率半径、レンズ厚、空気間隔、レンズの屈折率等の)レンズデータが開示されているとはいえない。

(2)小括
したがって、本願明細書の発明の詳細な説明の記載は、当業者が本願各発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものではない。
すなわち、本願は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。

2.「第2」の「(2)」の拒絶理由について
(1)検討
請求人は、上記意見書において「本明細書の段落0018において、最末端レンズの直径/第1レンズの直径>1およびEFL/像高<0.9の場合、光学装置は、比較的短いTTおよび比較的短いBFLを有することが記載されており、最末端レンズの直径/第1レンズの直径>1である限り、およびEFL/像高<0.9である限り、より短いTTおよびより短いBFLを達成することができ、」「「光学レンズ装置の最末端レンズ直径と第1レンズ直径の比の値が1より大きく」、かつ、「EFLと像高との比が0.9より小さい」ことが、ともに本願特許請求の範囲中に記載されているので、TTおよびBFLの長さを本願特許請求の範囲中に含めることは、必要ではない。」と主張する。
しかしながら、本願明細書等には、なぜ「最末端レンズの直径/第1レンズの直径>1である限り、およびEFL/像高<0.9である限り、より短いTTおよびより短いBFLを達成することができ」るのかについては記載も示唆もされておらず、そのような事項が本願の出願時点で当業者にとって自明の事項であったとする事実もない。
これらのことを考慮すれば、「より短いTTおよびより短いBFLを達成することができたイメージスキャナの光学レンズ装置」は「最末端レンズの直径/第1レンズの直径>1、およびEFL/像高<0.9である」かも知れないが、より短いTTおよびより短いBFLを達成することができたイメージスキャナの光学レンズ装置が必ず最末端レンズの直径/第1レンズの直径>1、およびEFL/像高<0.9であると認めることはできない。
すなわち、本願の請求項1乃至3に記載の発明において「光学レンズ装置の最末端レンズ直径と第1レンズ直径の比の値が1より大きく」、かつ、「EFLと像高との比が0.9より小さい」ことは、より短いTTおよびより短いBFLを達成することができるための必要条件であるが、十分条件ではない。そして、本願の請求項1には、各値の比が規定されているにすぎないことから、本願の請求項1乃至3に記載の発明は、長いTTおよび長いBFLを有するイメージスキャナの光学レンズ装置が含まれることを排除しない。

(2)小括
したがって、本願の請求項1乃至3に記載の発明の「BFLとTTとの比が0.05より小さい」という事項の有する技術上の意義、不明である。
すなわち、本願の発明の詳細な説明の記載は、特許法施行規則第24条の2の規定を満たしていないから、経済産業省令で定めるところにより記載されたものではない。

第5 むすび
以上のとおりであるから、本願は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。したがって、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-10-25 
結審通知日 2011-10-28 
審決日 2011-11-08 
出願番号 特願2002-321417(P2002-321417)
審決分類 P 1 8・ 536- WZ (G03B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 佐藤 海  
特許庁審判長 神 悦彦
特許庁審判官 北川 清伸
吉川 陽吾
発明の名称 イメージスキャナの光学レンズ装置  
代理人 奥山 尚一  
代理人 有原 幸一  
代理人 松島 鉄男  

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