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審決分類 |
審判 一部無効 2項進歩性 D03D |
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管理番号 | 1255458 |
審判番号 | 無効2011-800166 |
総通号数 | 150 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2012-06-29 |
種別 | 無効の審決 |
審判請求日 | 2011-09-09 |
確定日 | 2012-04-09 |
事件の表示 | 上記当事者間の特許第4598885号発明「フリル付き織布」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本件審判の請求に係る特許第4598885号(以下、「本件特許」という。)の手続の経緯は,以下のとおりである。 平成22年 5月14日 出願(国際出願) 同年10月 1日 設定登録 平成23年 9月 9日 本件無効審判請求 同年12月 2日 答弁書 平成24年 2月 6日 口頭審理陳述要領書(請求人) 同年 2月10日 口頭審理陳述要領書(被請求人) 同年 2月24日 口頭審理 第2 特許請求の範囲 本件特許における特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおりである(以下、請求項1記載の発明を、「本件特許発明」という。)。 「【請求項1】 ベース布部と、このベース布部と二重の関係になるように必要な段数だけ前記ベース布部の表側に設けられるフリル布部と、前記ベース布部と前記フリル布部の一端を重ね織りにより結合した接結部と、経糸のみで作られ前記フリル布部の前記接結部と反対側の先端から前記ベース布部を貫通して前記接結部の一端とを連結するように設けられた連結部とを有することを特徴とするフリル付き織布。」 第3 請求人の主張 請求人は「特許第4598885号の特許請求の範囲の請求項1に記載された発明についての特許を無効とする。審判費用は被請求人の負担とする。」との審決を求め、証拠方法として甲第1号証、甲第3号証、甲第4号証、甲第11号証を提出し、次の無効理由を主張する。 <無効理由> 本件特許発明は、甲第1号証に記載された発明及び甲第4号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許発明についての特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。 <証拠方法> 甲第1号証:吉川富三、「化繊糸布の基礎知識」、1955年3月19日、 84頁?89頁、316頁?317頁 甲第3号証:本件国際出願に係る国際調査機関の見解書の写し 甲第4号証:「服飾辞典」、文化出版局、昭和55年3月1日、725頁、 774頁 甲第11号証:特許第4598885号公報(本件特許公報) なお、請求人が提出した、甲第2号証、甲第5号証?甲第10号証、甲第12号証は、参考資料とし、それぞれ、「参考資料甲2」、「参考資料甲5」?「参考資料甲10」、「参考資料甲12」とした。そして、参考資料甲2は、平成24年2月6日付け口頭審理陳述要領書にて撤回された。 第4 被請求人の主張 被請求人は、「本件無効審判の請求は成り立たない。審判費用は請求人の負担とする。」との審決を求め、無効理由が成り立たないと主張する。 なお、被請求人が提出した、乙第1号証?乙第6号証は、参考資料とし、それぞれ、「参考資料乙1」?「参考資料乙6」とした。 第5 当審の判断 参考資料甲2の撤回及び口頭審理での請求人の陳述内容からみて、請求人は、主として、甲第1号証に記載されたブロッシェーに基く容易想到性を主張していると認められるから、以下、この点も考慮して判断する。 1.甲第1号証の記載 甲第1号証には、以下の記載がある。 (1)「E.二重織〔経緯二重織〕Double Weave これは、2枚の織物を、同じ織機で、同時に織り、しかも、この2枚の織 物を、ぴつたりと貼り合わせて、1枚の織物のようにしたものである。貼り合わせるといつても、バックラム Buckram のように、2枚の織物を、膠糊で貼り合わせたものではなく、織り糸で接ぎ合わせた〔接結した〕ものである。この接結法に4種類ある。 第1は・・・(中略)・・・ 第3の方法は、表の経緯と裏の経緯とを、所々で表裏反対に用いるものである。つまり、ある部分では、裏経と裏緯とが表面に現われてきて組織し、その丁度裏に当るところで、表経と表緯とが裏の布を組織している、といつたものである。通常、風通組織、風通織又は単に風通と言われているものである。この組織では、表裏の経緯が全部接結糸の役目をすることになる。 今、紫に染めた表経と表緯と、黄色に染めた裏経と裏緯とを用いて、風通組織に織り、模様の部分で、裏経と裏緯を表の方へ出し、表経と表緯とを裏の方で組織させると、表の布では、紫の地に黄色の紋が現われる。裏返すと、地が黄色になつており、紋のところは紫になつている。即ち、地及び紋の形と大きさとは、表と裏とで同じであるが、色合は反対になつている。」 (84頁16行?86頁2行) (2)第100図の記載は次のとおり。(85頁) (3)「ブロッシェー Broche ・・・中略・・・ 平織の地合に、地糸とは別な模様糸を用い、通常、比較的小さな飛模様を織り現わした紋織物一般を指す。 これに、ブロツシエー織によるものと、スワイベル織〔縫取織〕によるものとがある。 ブロツシエー織には、経ブロツシエーと緯ブロツシエー及び経緯ブロツシエーとの3種がある。夫々、地経と地緯の外に、模様糸を経、緯又は経緯の双方に用いる。即ち、1種の裏付織又は二重織と言える。しかし、模様糸を布面全部に亘り、組織させるのでなく、飛模様のところだけに用いる点に特徴がある。織物の表面で模様を織り現わしている部分以外の所では、模様糸は裏面で長く浮いている。これを裏吹きという。裏吹きした模様糸は、地組織が薄地の場合には、織上後、必ず手工的に鋏できりとる。これを裏切りという。」(316頁下から16行?317頁4行、審決注:原文中「Broche」のeは上に´が付いている。) これらの記載によれば、甲第1号証には、次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。 「模様糸を経に用いたブロツシエー織であって、布面の飛模様のところだけに模様糸を用い、織物の表面で模様を織り現わしている部分以外の所では、模様糸が裏面で長く浮いている、ブロツシエー織。」 2.甲第4号証の記載 甲第4号証には、以下の記載がある。 (1)「ふうつう(おり)【風通(織り)】織物の表裏がそれぞれ別に1色ずつの織物組織をつくり、表裏二重組織となり、模様が構成されている組織。二重織りともいう。和服地に風通縮緬(ちりめん)、風通御召(おめし)などがあり、広幅のものでは、絹のほか最近は羊毛、化合繊のものがあり、高級婦人服などに使われる。」(725頁右欄11行?17行) (2)「ブロッシェ〔broche 仏〕平織りの地に、別経(べつだて)の絵経(えだて)か別緯(べつよこ)の絵緯を織り込み、飛び模様をあらわした紋織物。絵経か絵緯は、模様以外のところでは、裏で浮かせて織るが、織り上げ後、切り捨てる。すなわち、裏切りする。」(774頁左欄11行?16行、審決注:原文中「Broche」のeは上に´が付いている。) 3.本件特許発明と甲1発明との対比 甲1発明の「布面」は、本件特許発明の「ベース布部」に相当する。 甲1発明の「飛模様」は、布面と二重の関係になるように布面の表側に設けられる布部であるということができ、その限度で、本件特許発明の「フリル布部」と一致する。 甲1発明の模様糸が裏面で長く浮いている部分は、経糸のみで作られている部分といえるから、その限度で、本件特許発明の「連結部」と一致する。 甲1発明の「ブロツシエー織」と、本件特許発明の「フリル付き織布」は、「織布」である点で一致する。 よって、本件特許発明と甲1発明との一致点、相違点は以下のとおりである。 [一致点] 「ベース布部と、このベース布部と二重の関係になるように前記ベース布部の表側に設けられる布部と、経糸のみで作られた部分とを有する織布。」 [相違点1] 本件特許発明が「ベース布部と二重の関係になるように必要な段数だけ前記ベース布部の表側に設けられるフリル布部」を備えた「フリル付き織布」であるのに対し、甲1発明は、そのような「フリル布部」を備えず、「フリル付き織布」でもない点。 [相違点2] 本件特許発明が「前記ベース布部と前記フリル布部の一端を重ね織りにより結合した接結部」を備えるのに対し、甲1発明は、そのような「接結部」を備えない点。 [相違点3] 本件特許発明が「経糸のみで作られ前記フリル布部の前記接結部と反対側の先端から前記ベース布部を貫通して前記接結部の一端とを連結するように設けられた連結部」を備えるのに対し、甲1発明は、そのような「連結部」を備えない点。 4.判断 (1)相違点1について 本件特許発明の「フリル布部」は、文言上、及び、本件特許明細書(甲第11号証【0014】参照。)の記載に照らし、フリルとなる布部であることが明らかである。これに対し、甲1発明の「飛模様」は、布面と二重の関係になるように布面の表側に設けられる布部であるとはいえるものの、甲第1号証には、上記飛模様をフリルとする旨の記載は無く、他にフリル布部を示唆するような記載も無い。 また、甲第4号証にも、フリル布部についての記載や示唆は見当たらない。 請求人は、甲第1号証の第100図に示される表の経緯で組織された布が、本件特許発明のフリル布部に相当する旨主張する(請求書2頁下から4行?3行)が、上記布をフリルとすることは甲第1号証に記載されていないし、技術常識からみてフリルと解することもできないから、上記請求人の主張は採用できない。 よって、相違点1に係る本件特許発明の構成は、甲第1号証に記載された発明及び甲第4号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に想到し得たものではない。 (2)相違点2について 甲1発明の「飛模様」が、本件特許発明の「フリル布部」に相当するものであるとしても、その一端を重ね織りによりベース布部と結合することは、甲第1号証に記載されておらず、示唆もされていない。さらに、飛模様は、その周囲全体がベース布部に対して結合していなければ、模様の一部がはがれて不完全な状態になると考えられるから、飛模様の「一端」をベース布部と結合することは通常採用される構成とはいえない。 また、甲第4号証にも、相違点2に係る本件特許発明の構成を示唆する記載は見当たらない。 請求人は、甲第1号証の第100図に示される表緯、表経と裏緯、裏経の移行する部分が、本件特許発明の接結部に相当する旨主張する(請求書3頁1行?2行)が、同図に示される組織は、甲第1号証に「この組織では、表裏の経緯が全部接結糸の役目をすることになる。」(85頁下から3行)と記載されているように、表裏の経緯が全体で結合したものであるから、上記移行する部分が「前記ベース布部と前記フリル布部の一端を重ね織りにより結合した接結部」に相当するということはできず、上記請求人の主張は採用できない。 よって、相違点2に係る本件特許発明の構成は、甲第1号証に記載された発明及び甲第4号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に想到し得たものではない。 (3)相違点3について 甲1発明の模様糸が裏面で長く浮いている部分は、経糸のみで作られているものの、本件特許発明の「連結部」のように、「前記フリル布部の前記接結部と反対側の先端から前記ベース布部を貫通して前記接結部の一端とを連結するように設けられた」構成を備えているとはいえず、また、該構成とすることは、甲第1号証に記載も示唆も無い。そして、甲1発明は、上記のとおり、本件特許発明の「フリル布部」や「接結部」を備えないものであるが、仮に、甲1発明の「飛模様」が本件特許発明の「フリル布部」に相当し、甲1発明の飛模様がベース布部に結合される部分が「接結部」に相当するとしても、飛模様の一端をベース布部に結合し、反対側をベース布部に結合せずに貫通させることは通常採用される構成ではないから、「前記フリル布部の前記接結部と反対側の先端から前記ベース布部を貫通し」との構成は、当業者が容易に想到しえないものである。 また、甲第4号証にも、相違点3に係る本件特許発明の構成を示唆する記載は見当たらない。 請求人は、甲第1号証に記載された「経ブロッシェー」が、本件特許発明の連結部に相当する旨主張する(請求書2頁下から2行?1行)が、上記のとおり、ブロツシエー織の模様糸が裏面で長く浮いている部分は、「前記フリル布部の前記接結部と反対側の先端から前記ベース布部を貫通して前記接結部の一端とを連結するように設けられた」構成を備えているとはいえず、本件特許発明の「連結部」とは構成が相違するから、上記請求人の主張は採用できない。 さらに、請求人は、甲第1号証の第100図に示される「連結部」に相当する部分の緯のみを省略すれば容易に本件特許発明の「経糸のみで作られる」連結部を作ることができるとも主張する(請求書3頁下から4行?1行)が、上記緯のみを省略したとしても、「前記フリル布部の前記接結部と反対側の先端から前記ベース布部を貫通して前記接結部の一端とを連結するように設けられた」構成とはならないし、上記第100図に示される「風通組織」において、緯のみを省略することを容易に想到し得るとする理由も無いから、上記請求人の主張は採用できない。 また、請求人は、甲第4号証の「ブロッシェ」の説明における「裏で浮かせて織る」が、本件特許発明の連結部に相当する旨主張し(請求書4頁7行?15行)、甲第4号証の「風通織り」の説明図における裏緯の太線の無い状態が、本件特許発明の連結部に相当する旨主張する(請求書4頁16行?21行)が、上記甲第1号証の「経ブロッシェー」に基づく主張及び甲第1号証の第100図に基づく主張に対して示したのと同様の理由により、いずれも採用できない。 よって、相違点3に係る本件特許発明の構成は、甲第1号証に記載された発明及び甲第4号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に想到し得たものではない。 (4)効果について 本件特許明細書(甲第11号証【0010】参照。)の記載によれば、本件特許発明は、連結部を切断してフリル布部の先端をベース布部から離すことにより、簡単にフリルを作ることができるという効果を奏するものと認められる。これに対し、甲第1号証及び甲第4号証には、上記効果について記載も示唆もされていないから、本件特許発明は、甲第1号証に記載された発明及び甲第4号証に記載された発明からは予測できない格別の効果を奏するものである。 (5)請求人の主張について 請求人は、参考資料甲5?参考資料甲10を提出して、本件特許発明は経ブロッシェーあるいは風通の一手法であるにすぎないと主張する(請求書4頁下から8行?6頁5行)。しかし、参考資料甲5?参考資料甲10は、いずれも本件特許出願前に公知の資料ではないから、上記請求人の主張は採用できない。 また、請求人は、参考資料甲12を提出し、甲第1号証に記載されている発明の構成を「線」画で示すと、上記資料のように、第一接結部、飛模様、第二接結部、貫通(移行)、裏吹き、第一接結部、と並ぶものであると主張し、本件特許発明は、上記甲第1号証に記載された発明の「第二接結部」を設けないことにより、当業者が容易に発明をすることができた旨主張する(口頭審理陳述要領書)。しかし、第一接結部、飛模様、第二接結部、貫通(移行)、裏吹き、第一接結部、と並ぶ構成は、甲第1号証に記載されていないから、そもそも、参考資料甲12が甲第1号証に記載された発明を図示したものであるとは認められない。仮に、参考資料甲12に図示された構成を前提としても、第二接結部を省く理由は無く、むしろ、第二接結部を省くと飛模様が形成されなくなるから、第二接結部を設けないことは、当業者が容易に想到し得ることではない。よって、上記請求人の主張は採用できない。 (6)小括 以上のとおり、相違点1ないし相違点3に係る本件特許発明の構成を、当業者が容易に想到し得たということはできないから、本件特許発明は、甲第1号証に記載された発明及び甲第4号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではなく、本件特許発明についての特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものとはいえない。 第6 結び 以上のとおりであるから、請求人の主張する理由及び提出した証拠方法によっては本件特許発明についての特許を無効にすることはできない。 審判に関する費用については、特許法第169条第2項において準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。 よって、結論のとおり審決する。 |
審決日 | 2012-02-29 |
出願番号 | 特願2010-527281(P2010-527281) |
審決分類 |
P
1
123・
121-
Y
(D03D)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 斎藤 克也 |
特許庁審判長 |
鳥居 稔 |
特許庁審判官 |
亀田 貴志 紀本 孝 |
登録日 | 2010-10-01 |
登録番号 | 特許第4598885号(P4598885) |
発明の名称 | フリル付き織布 |
代理人 | 金倉 喬二 |
代理人 | 小野寺 悌二 |