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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H05B
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H05B
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 H05B
管理番号 1255501
審判番号 不服2010-23888  
総通号数 150 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-06-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-10-22 
確定日 2012-04-11 
事件の表示 特願2006-193034「有機電界発光表示装置」拒絶査定不服審判事件〔平成19年 8月 9日出願公開、特開2007-200845〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2006年7月13日(パリ条約による優先権主張 2006年1月26日 大韓民国)の出願(特願2006-193034号)であって、平成21年5月12日付けで拒絶理由が通知され、同年8月19日付けで手続補正がなされ、平成22年6月17日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、同年10月22日に拒絶査定不服審判の請求がなされ、同時に手続補正がなされたものである。
その後、平成23年5月30日付けで審尋がなされ、同年9月30日付けで回答書が提出された。

第2 平成22年10月22日付けの手続補正についての補正の却下の決定について

[補正の却下の決定の結論]
平成22年10月22日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 本件補正について
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1に係る発明は、平成21年8月19日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載の、

「画素領域及び非画素領域を含む第1基板、
前記第1基板の上部に配置された第2基板、
前記第1基板と前記第2基板との間に備えられ、前記画素領域の周辺部に沿って形成された第1フリット、
前記第1基板と前記第2基板との間に備えられ、前記第1フリットの少なくとも一側に形成された第2フリットを含み、
前記第1及び第2フリットにより前記第1基板と前記第2基板とが接合される有機電界発光表示装置。」が

「画素領域及び非画素領域を含む第1基板、
前記第1基板の上部に配置された第2基板、
前記第1基板と前記第2基板との間に備えられ、前記画素領域の周辺部に沿って形成された第1フリット、
前記第1基板と前記第2基板との間に備えられ、前記第1フリットが取り囲む領域の内側及び/または外側に前記第1フリットに沿って形成された第2フリットを含み、
前記第1及び第2フリットは、前記第1基板及び前記第2基板と接着しており、
前記第1フリットと前記第2フリットとの間には空間が保持されている有機電界発光表示装置。」と補正された。

本件補正における請求項1の補正は、補正前の特許請求の範囲の請求項1に係る発明における「第1フリット」と「第2フリット」の関係の構造について「前記第1フリットと前記第2フリットとの間には空間が保持されている」ものであると限定して特定する補正事項を含む。よって、本件補正における請求項1の補正は、特許請求の範囲について、いわゆる限定的に減縮することを目的とする補正、すなわち、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法(以下「平成18年改正前特許法」という。)第17条の2第4項第2号に掲げる事項を目的とする補正を含むものである。

2 独立特許要件違反についての検討
(1)そこで、本件補正後の本願の特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものか(平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する特許法第126条第5項の規定に違反しないか)について検討する。

(2)本願補正発明
本願補正発明は、本件補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載されている事項により特定されるものである。(上記「第2 平成22年10月22日付けの手続補正についての補正の却下の決定について」の「1 本件補正について」の記載参照。)

(3)引用例
ア 原査定の拒絶の理由に引用された、本願の優先日前に頒布された刊行物である国際公開第04/95597号(以下「引用例1」という。)には、次の事項が記載されている。(日本語訳を記載する。下線は当審が付した。)

「発明の技術分野
本発明は、周囲環境に敏感な薄膜素子を保護するのに適した密封ガラスパッケージに関する。そのような素子の例としては、有機発光ダイオード(OLED)ディスプレイ、センサ、および他の光学素子が挙げられる。本発明は、例として、OLEDディスプレイを用いて実証する。」(第1ページ第2?9行)

「発明の概要
本発明は、密封OLEDディスプレイおよび密封OLEDディスプレイを製造する方法を含む。基本的に、密封OLEDディスプレイは、第1の基板および第2の基板を提供し、フリットを第2の基板上に配置することによって製造される。OLEDを第1の基板上に堆積させる。次いで、照射源(例えば、レーザ、赤外線)を用いて、フリットを加熱し、このフリットが溶融して、第1の基板を第2の基板に連結し、OLEDを保護もする密封シールを形成する。フリットは、少なくとも一種類の遷移金属と、ことによると、照射源がフリットを加熱したときに、フリットが軟化し、結合部を形成するようなCTE低下充填剤とがドープされたガラスである。これにより、OLEDへの熱的損傷を避けながら、フリットが溶融し、密封シールを形成することができる。」(第3ページ第25行?第4ページ第8行)

「図1?7を参照すると、本発明による密封OLEDディスプレイ100およびOLEDディスプレイ100を製造する方法200が開示されている。本発明の封止プロセスは密封OLEDディスプレイ100の製造に関して以下に説明されるが、同じまたは同様の封止プロセスは、二枚のガラス板を互いに封止する必要のある他の用途に使用しても差し支えないことが理解されるであろう。したがって、本発明は、限定された様式と見なすべきではない。
図1Aおよび1Bを参照すると、密封OLEDディスプレイ100の基本構成部材を示す正面図および断面側面図がある。OLEDディスプレイ100は、第1の基板102(例えば、ガラス板102)、OLED104のアレイ、ドープされたフリット106(例えば、実験1?5および表2?5を参照のこと)および第2の基板107の多層サンドイッチ構造を含む。OLEDディスプレイ100は、第1の基板102および第2の基板107(例えば、ガラス板107)の間に位置した、OLED104を保護する、フリット106から形成された密封シール108を有する。密封シール108は一般に、OLEDディスプレイ100の周囲に位置する。OLED104は、密封シール108の周囲の内部に位置している。どのように密封シール108が、密封シール108を形成するために用いられるフリット106および照射源110(例えば、レーザ110aおよび赤外線ランプ110b)などの補助構成部材から形成されるかが、図2?7を参照して以下により
詳しく説明されている。
図2を参照すると、密封OLEDディスプレイ100を製造する好ましい方法200の各工程を示す流れ図がある。工程202および204で始まり、OLEDディスプレイ100を製造できるように、第1の基板102および第2の基板107を提供する。好ましい実施の形態において、第1と第2の基板102および107は、コード1737ガラスまたはEagle 2000(商標)ガラスの商品名でコーニング社(Corning Incorporated)により製造販売されているものなどの透明ガラス板である。あるいは、第1と第2の基板102および107は、旭硝子(例えば、OA10ガラスおよびOA21ガラス)、日本電気硝子、NHテクノグラスおよびサムソン・コーニング・プレシジョン・ガラス社(Samsung Corning Precision Glass Co.)(例として)などの会社によって製造販売されているものなどの透明ガラス板であって差し支えない。
工程206で、OLED104および他の回路構成を第1の基板102上に堆積させる。典型的なOLED104は、陽極電極、1つ以上の有機層および陰極電極を含む。しかしながら、OLEDディスプレイ100には、任意の公知のOLED104または将来のOLED104を使用しても差し支えないことが、当業者には容易に認識されるであろう。再度、この工程は、OLEDディスプレイ100を製造せずに、その代わりに、本発明の封止プロセスを用いてガラスパッケージを製造する場合には、この工程を省いても差し支えない。
工程208で、第2の基板107の縁に沿ってフリット106を配置する。例えば、フリット106は、第2の基板107の自由縁から約1mm離れたところに配置して差し支えない。好ましい実施の形態において、フリット106は、鉄、銅、バナジウム、およびネオジム(例として)からなる群より選択される一種類以上の吸収イオンを含有する低温ガラスフリットである。フリット106には、二枚の基板102および107の熱膨張係数と一致するまたは実質的に一致するようにフリット106の熱膨張係数を低下させる充填剤(例えば、転移(inversion)充填剤、添加(additive)充填剤)がドープされていてもよい。いくつかの例示のフリット106の組成が、実験1?5および表2?5に与えられている。
工程210(随意的)で、フリット106を第2の基板107に予備焼結させても差し支えない。これを実施するためには、工程208で第2の基板107に配置されたフリット106を、第2の基板107に付着するまで加熱する。随意的な工程210についてのより詳しい議論が、実験3を参照して以下に与えられる。
工程212で、フリット106が、第1の基板102を第2の基板107に連結し結合する密封シール108を形成するような様式で照射源110(例えば、レーザ110a、赤外線ランプ110b)により、フリット106を加熱する(図1B参照のこと)。密封シール108は、周囲の雰囲気中にある酸素および水分がOLEDディスプレイ100中に進入するのを防ぐことによって、OLED104を保護もする。図1Aおよび1Bに示すように、密封シール108は一般に、OLEDディスプレイ100の外縁の丁度内側に位置している。フリット106は、レーザ110a(実験1?3を参照のこと)および赤外線ランプ110b(実験4を参照のこと)などの多数の照射源110の内のいずれを用いて加熱しても差し支えない。」(第6ページ第10行?第9ページ第3行)





イ 引用例1に記載された発明
上記記載(図面の記載も含む)を総合すると、引用例1には、
「OLED104および他の回路構成が堆積される第1の基板102、
第1の基板102に結合される第2の基板107、
第1の基板102および第2の基板107の間に位置した、フリット106から形成された密封シール108を有し、
密封シール108は、OLEDディスプレイ100の周囲に位置し、OLED104は、密封シール108の周囲の内部に位置し、
フリット106が、第1の基板102を第2の基板107に連結し結合する密封シール108を形成するOLEDディスプレイ100。」の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されている。

ウ 本願の優先日前に頒布された刊行物である特開2000-306664号公報(以下「引用例2」という。)には、次の事項が記載されている。

「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は有機EL素子、有機エレクトロルミネセンス素子、有機電界発光素子、有機LED素子等と称され、有機薄膜のエレクトロルミネセンス現象を利用した有機エレクトロルミネセンス素子(以下、有機EL素子という)を封止した有機エレクトロルミネセンス表示装置(有機EL表示装置)に関するものである。」

「【0028】図5および図6は、本発明による有機EL表示装置のさらに別の実施形態の構成を示している。図5に有機EL表示装置30の概略断面図を、図6にその有機EL表示装置30の概略平面図を示す。符号5にて示す有機EL素子は図1を用いて説明した第1の実施形態と同一であり、封止部が2重構造のシール層により封止、すなわち、有機EL素子5側の水分等吸着物質31aを含有した第1シール層31と、その外側に形成した第2シール層32により2重構造の封止部としている点を除いては、図1および図2に示した有機EL表示装置10と同一である。
【0029】第2シール層32としては、外部からの水分透湿性の少ないエポキシ系の接着剤を用い、第1シール層31は、先の実施形態と同一の光硬化性接着剤であるノーランドプロダクツ社製のNOA68に外径を10ミクロン程度としたBaOを10wt%混入したものを用い、第2シール層32を1mm幅、第1シール層31を2mm幅として図6に示したように第2基板6の周縁にディスペンサーにて塗布形成した。有機EL素子5を設けた1基板1と、該第2基板6とを貼り合わせた後に紫外線を照射して第2シール層32を硬化させて有機EL表示装置30を形成した。
【0030】このような構成の有機EL表示装置30によれば、内部空間9に接する第1シール層31内に残留水分量等を低減する働きのある水分等吸着物質31aが混入されており、これにより封止された内部空間内における残留水分等を低減することができる。さらに、該第1シール層31の外側に、水分透湿性の小さい第2シール層32を有するので、単層のシール層とした場合に比べて、外部雰囲気から内部空間9内にシール層をとおって透過・侵入してくる外部湿度等の影響を低減することができる。これにより、一層の有機EL素子5の劣化促進を抑止することができ、さらに寿命を長くすることができる。」

「【図5】



「【図6】



エ 本願の優先日前に頒布された刊行物である特開2002-158088号公報(以下「引用例3」という。)には、次の事項が記載されている。

「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、電極間に発光性材料を挟んだ素子(以下、発光素子という)を用いた発光装置に関する。特に、EL(Electro Luminescence)が得られる発光性材料(以下、EL材料という)を用いた発光装置に関する。」

「【0023】
【実施例】〔実施例1〕本発明を下面出射素子に適用したEL表示装置を図4に示す。基板401上に陽極402が形成される。基板401の材質としては、ガラス基板、石英基板もしくはプラスチック基板が用いられる。陽極402の材質としては、仕事関数の大きな導電膜、代表的には透明導電膜(酸化インジウムと酸化スズの化合物など)、白金、金、ニッケル、パラジウム、イリジウムもしくはコバルトを用いる。陽極は、スパッタ法、真空蒸着法などの方法で形成され、フォトリソグラフィによってパターニングが行われる。
【0024】陽極402の上に発光層403が形成される。発光層403は単層又は積層構造で用いられるが、積層構造で用いられた方が発光効率は良い。一般的には陽極402上に正孔注入層/正孔輸送層/発光層/電子輸送層の順に形成されるが、正孔輸送層/発光層/電子輸送層、または正孔注入層/正孔輸送層/発光層/電子輸送層/電子注入層のような構造でも良い。本発明では公知のいずれの構造を用いても良いし、発光層403に対して蛍光性色素をドーピングしても良い。発光層403に用いられるEL材料は高分子系有機材料、低分子系有機材料のいずれを用いても良い。
【0025】発光層403の上に陰極404が形成される。陰極404はメタルマスクを用いた真空蒸着法によって成膜される。陰極404の材質としては、仕事関数の小さな金属、代表的には周期表の1族もしくは2族に属する元素(マグネシウム,リチウム,カリウム,バリウム、カルシウム、ナトリウムもしくはベリリウム)またはそれらに近い仕事関数を持つ金属を用いる。また、陰極の材料として、アルミニウムを用い、陰極のバッファー層としてアルミニウムの下にフッ化リチウムもしくはリチウムアセチルアセトネート錯体を形成しても良い。
【0026】その後は本発明により、EL素子の封止が行われる。EL素子が存在する領域の周りに閉曲線の形に接着剤A407が形成され、更に接着剤A407の周りに閉曲線の形に接着剤B408が形成される。接着剤A407と接着剤B408の間に吸湿性物質406が散布されている。図4のEL表示装置は封止材405がシート状である。しかし、従来の技術と同じように、封止材405がEL素子の外寸よりも内寸が大きい凹部を有する形状であるEL表示装置も可能であり、その凹部に吸湿性物質を充填することは効果的である。図5にそのようなEL表示装置を示す。」

「【0032】実施例1、実施例2、実施例3及び実施例4において、溝の深さを十分大きくし、フィルム1010で蓋をすることで吸湿性物質を溝の中に充填する本発明のEL表示装置を図10に示す。吸湿性物質を真空蒸着法もしくはスパッタ法で形成する場合にはフィルムは特に必要ではない。フィルムは、水蒸気を通すが吸湿性物質は通さない物質を用いる。よって、吸湿性物質は溝の中に充填され、水蒸気は溝の中へも入っていくので、接着剤A1007と接着剤B1008の間に存在する水蒸気の量を減らすことができる。フィルムの材質は4-フッ化エチレンなどを用いる。この構成では、セルギャップの大きさは吸湿性物質の量と無関係となり、接着剤の種類あるいはフィラーの大きさ等で決まる。」

「【図10】



(4) 対比
ア ここで、本願補正発明と引用発明1を対比する。
引用発明1の「OLED104および他の回路構成が堆積される第1の基板102」は、当然に画素領域及び非画素領域を含むから、本願補正発明の「画素領域及び非画素領域を含む第1基板」に相当する。

引用発明1の「第1の基板102に結合される第2の基板107」が、本願補正発明の「前記第1基板の上部に配置された第2基板」に相当する。

引用発明1の「第1の基板102および第2の基板107の間に位置した、フリット106から形成された密封シール108」であって、「OLEDディスプレイ100の周囲に位置し、OLED104は、密封シール108の周囲の内部に位置」する「密封シール108」と、本願補正発明の「前記第1基板と前記第2基板との間に備えられ、前記画素領域の周辺部に沿って形成された第1フリット」及び「前記第1基板と前記第2基板との間に備えられ、前記第1フリットが取り囲む領域の内側及び/または外側に前記第1フリットに沿って形成された第2フリット」とは、「前記第1基板と前記第2基板との間に備えられ、前記画素領域の周辺部に沿って形成されたフリット」である点で一致する。

引用発明1の「フリット106が、第1の基板102を第2の基板107に連結し結合する密封シール108を形成する」点と、本願補正発明の「前記第1及び第2フリットは、前記第1基板及び前記第2基板と接着して」いる点とは、「前記フリットは、前記第1基板及び前記第2基板と接着して」いる点で一致する。

引用発明1の「OLEDディスプレイ100」が、本願補正発明の「有機電界発光表示装置」に相当する。

イ 一致点
よって、本願補正発明と引用発明1とは、
「画素領域及び非画素領域を含む第1基板、
前記第1基板の上部に配置された第2基板、
前記第1基板と前記第2基板との間に備えられ、前記画素領域の周辺部に沿って形成されたフリットを含み、
前記フリットは、前記第1基板及び前記第2基板と接着している有機電界発光表示装置。」
の発明である点で一致し、次の点で相違する。

ウ 相違点
本願補正発明のフリットが、「第1フリットと、前記第1フリットが取り囲む領域の内側及び/または外側に前記第1フリットに沿って形成された第2フリット」からなり、前記第1フリットと前記第2フリットとの間には空間が保持されている」のに対して、引用発明1のフリットにおいては、その点についての限定がない点。

(5)判断
有機EL表示装置の封止構造において、下部基板と上部の封止基板の間のシール部材を内外周の2重構造として両シール部材の間に空間を保持することは、引用例2、3にも記載されているように周知の技術である。そして、当該周知技術は、シール部材を内外周の2重構造とすることによって、シール構造の耐久性及び信頼性を高めるものであるといえる。
引用発明1においても、シール部材であるフリットのシール構造の耐久性及び信頼性を高めるという課題が内在しているものであるから、引用例2、3に記載された周知技術を適用して、上記相違点に係る発明特定事項を得ることは当業者が容易に想到し得たことである。
そして、本願補正発明によってもたらされる効果は、引用発明1及び周知技術から当業者が予測し得る程度のものである。
よって、本願補正発明は、引用発明1及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

3 むすび
したがって、本願補正発明は特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるということができないから、本件補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第5項で準用する同法第126条第5項の規定に違反するものであり、特許法第159条第1項で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。

第3 本願発明について
1 本願発明
本件補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、平成21年8月19日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるとおりのものである。(上記「第2 平成22年10月22日付けの手続補正についての補正の却下の決定について」の「1 本件補正について」の記載参照。)

2 引用例
(1)原査定の拒絶の理由に引用された、本願の優先日前に頒布された刊行物である特開2002-280169号公報(以下「引用例4」という。)には、次の事項が記載されている。(下線は当審が付した。)

「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、有機エレクトロルミネッセンス(以下、有機ELという)素子の発光を光源・表示等に利用する有機EL装置に関する。」

「【0006】本発明は以上説明した問題点に鑑みて成されたものであり、金属キャップを用いることなく安価で信頼性の高い封止構造が得られる有機EL装置とその製造方法を提供することを目的としている。」

「【0014】
【発明の実施の形態】図1(a)は本発明の実施の形態の一例における有機EL装置1の縦断面図、図1(b)は図1(a)の切断線における平断面図である。素子基板2はソーダライムガラス等の透光性・絶縁性基板としての板ガラスを所定の矩形状に切断したものである。素子基板2の内面側の中央には有機EL素子が形成されている。有機EL素子3は、素子基板2の内面に形成した透光性の陽極4と、その上に形成した有機層5と、その上に形成した陰極6を有する。
【0015】有機EL素子3に所定間隔をおいて対面するように、封止基板7が設けられている。封止基板7は素子基板2と略同一の外形及び材質のガラス板である。
【0016】素子基板2と封止基板7の間には、内側隔壁8及び外側隔壁9が設けられている。内側隔壁8及び外側隔壁9は低融点フリットガラス等の無機物質で構成されており、高い不透水性を有している。内部隔壁8は有機EL素子3の周囲を囲む平面視矩形の枠構造であり、外部隔壁9は所定間隔をおいて内部隔壁8を囲む平面視矩形の枠構造である。外部隔壁9の外面は、素子基板2と封止基板7の外周部の端面と略一致しており、全体として薄型パネル状の容器が構成されている。
【0017】内側隔壁8及び外側隔壁9は素子基板2と封止基板7の間隔を一定に保持するスペーサとしての役割を有する他、次のような機能を有する。即ち、内側隔壁8の内側には、有機EL素子3と対面する封止基板7の内面に矩形の領域が区画されており、この領域には捕水部10が形成されている。本例の捕水部10は捕水物質で構成された層であり、その捕水物質は従来と同一である。また、内側隔壁8と外側隔壁9の間の枠状の空間内には、シール剤としての接着剤11が充填されており、素子基板2と封止基板7を接着している。」

「【図1】



(2)引用例4に記載された発明
【図1】から、素子基板2と封止基板7が内側隔壁8及び外側隔壁9に「接合」していることは明らかである。なお、本願明細書の【0011】【0033】【0034】段落の記載等から、本件において「接合」は、「接着」(くっつくこと)とは区別して用いられ、一時的に(接着することなく)位置関係が維持されているような状態も含まれているものと認められる。よって、引用例4の上記記載(図面の記載も含む)から、引用例4には、
「素子基板2の内面側の中央には有機EL素子3が形成され、
有機EL素子3に所定間隔をおいて対面するように、封止基板7が設けられ、
素子基板2と封止基板7の間には、内側隔壁8及び外側隔壁9が設けられ、内側隔壁8及び外側隔壁9は低融点フリットガラス等の無機物質で構成されて、高い不透水性を有し、内部隔壁8は有機EL素子3の周囲を囲む平面視矩形の枠構造であり、外部隔壁9は所定間隔をおいて内部隔壁8を囲む平面視矩形の枠構造であり、
素子基板2と封止基板7は内側隔壁8及び外側隔壁9に接合している有機EL装置。」
の発明(以下「引用発明2」という。)が記載されている。

3 対比・判断
(1)対比
ここで、本願発明と引用発明2とを対比する。
引用発明2の「内面側の中央には有機EL素子3が形成され」た「素子基板2」は、当然に、画素領域及び非画素領域を含むから、本願発明の「画素領域及び非画素領域を含む第1基板」に相当する。

引用発明2の「有機EL素子3に所定間隔をおいて対面するように」設けられた「封止基板7」が、本願発明の「前記第1基板の上部に配置された第2基板」に相当する。

引用発明2の「素子基板2と封止基板7の間に」設けられた「内側隔壁8及び外側隔壁9」については、両者が「低融点フリットガラス等の無機物質で構成されて、高い不透水性を有」するものであること、及び、「内部隔壁8」は「有機EL素子3の周囲を囲む平面視矩形の枠構造」であり、「外部隔壁9」は「所定間隔をおいて内部隔壁8を囲む平面視矩形の枠構造」であることから、引用発明2の「内側隔壁8及び外側隔壁9」が、それぞれ、本願発明の「前記第1基板と前記第2基板との間に備えられ、前記画素領域の周辺部に沿って形成された第1フリット」、及び、「前記第1基板と前記第2基板との間に備えられ、前記第1フリットの少なくとも一側に形成された第2フリット」に相当する。

引用発明2の「素子基板2と封止基板7は内側隔壁8及び外側隔壁9に接合している」ことが、本願発明の「前記第1及び第2フリットにより前記第1基板と前記第2基板とが接合される」ことに相当する。

引用発明2の「有機EL装置」が、本願発明の「有機電界発光表示装置」に相当する。

(2)一致点・相違点・判断
よって、両者は、
「画素領域及び非画素領域を含む第1基板、
前記第1基板の上部に配置された第2基板、
前記第1基板と前記第2基板との間に備えられ、前記画素領域の周辺部に沿って形成された第1フリット、
前記第1基板と前記第2基板との間に備えられ、前記第1フリットの少なくとも一側に形成された第2フリットを含み、
前記第1及び第2フリットにより前記第1基板と前記第2基板とが接合される有機電界発光表示装置。」
の発明である点で一致し、両者に相違するところがない。
よって、本願発明は引用発明2であり、特許法第29条第1項3号に該当するから、特許を受けることができない。

4 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明2であるから、特許法第29条第1項第3号に規定する発明に該当し、特許を受けることができない。
したがって、その余の請求項に係る発明について論及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-11-09 
結審通知日 2011-11-15 
審決日 2011-11-28 
出願番号 特願2006-193034(P2006-193034)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (H05B)
P 1 8・ 121- Z (H05B)
P 1 8・ 113- Z (H05B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 小西 隆  
特許庁審判長 北川 清伸
特許庁審判官 吉川 陽吾
森林 克郎
発明の名称 有機電界発光表示装置  
代理人 佐伯 義文  
代理人 渡邊 隆  
代理人 村山 靖彦  

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