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審決分類 |
審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない。 A61K |
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管理番号 | 1255674 |
審判番号 | 不服2006-27319 |
総通号数 | 150 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2012-06-29 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2006-12-04 |
確定日 | 2012-04-17 |
事件の表示 | 2003年特許願第537639号「性的障害の治療におけるフリバンセリンの使用」拒絶査定に対する審判事件〔平成15年 5月 1日国際公開、WO03/35072、平成17年 3月 3日国内公表、特表2005-506370〕についてした平成20年9月29日付けの審決に対し、知的財産高等裁判所において審決取消しの判決(平成21(行ケ)第10033号、平成22年1月28日判決言渡)があったので、更に審理の結果、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1.手続の経緯 本願は、2002年10月4日(パリ条約による優先権主張 2001年10月20日、欧州特許庁)を国際出願日とする出願であって、平成17年12月26日に手続補正がなされ、その後拒絶理由通知に応答して、平成18年8月7日に意見書が提出されたが、同年8月25日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年12月4日に拒絶査定不服審判が請求されたものである。 2.本願発明 本願の請求項1に係る発明は、平成17年12月26日付の手続補正書により補正された特許請求の範囲の記載からみて、請求項1に記載された事項によって特定される、以下のとおりのものである。(以下、「本願発明」という。) 「場合により薬理学的に許容可能な酸付加塩形態にあってもよいフリバンセリンの、性欲障害治療用薬剤を製造するための使用。」 3.原査定の拒絶の理由 原査定の拒絶の理由の概要は、「この出願は、発明の詳細な説明の記載が、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。」 という理由を含み、以下の点を指摘している。 本願明細書には、本願化合物の用途及び投与量は記載されているが、本願化合物の薬理データや、本願化合物の薬効を確認する試験法については何ら記載されておらず、本願発明のような医薬についての用途発明においては、一般に、当業者が実施をすることができる程度に記載されているというためには、明細書において、有効成分として記載されている物質が当該医薬用途に利用できることを薬理データ又はそれと同視すべき記載により裏付ける必要がある。 4.当審の判断 (4-1) 本願発明は、「性欲障害治療用薬剤を製造するため」に、「場合により薬理学的に許容可能な酸付加塩形態にあってもよいフリバンセリン」(以下、単に「フリバンセリン」ということがある。)を使用する方法の発明であるということができる。また、「方法」の発明における「発明の実施」とは「その方法を使用する行為」(特許法第2条第3項第2号)であるから、本願発明において、「その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度の明確かつ十分に記載したものであること」(いわゆる実施可能要件)とは、発明の詳細な説明が、“「フリバンセリン」を「性欲障害治療用」という用途の薬剤を製造するために使用できることを、当業者が理解できるように記載されていること”であると認められる。そして、発明の詳細な説明が、“「フリバンセリン」を「性欲障害治療用」という用途の薬剤を製造するために使用できることを、当業者が理解できるように記載されている”ためには、“フリバンセリンが性欲障害治療用という医薬用途において有効なものであることを、当業者が理解できるように記載されている” 必要がある。 (4-2) ところで、本願出願時、フリバンセリンについては、中枢神経系(シナプス前抑制、行動的影響)や肺血管収縮に関係すると考えられている5-HT_(1A)及び中枢神経系(神経興奮、行動的影響)等に関係すると考えられている5-HT_(2)といったセロトニン作動性レセプターに対する拮抗作用が知られており、この作用に基づいて、フリバンセリンは抗うつ剤として使用されていた。しかし、これら受容体に対する拮抗作用については、中枢神経系に対する様々な作用に関与することは推測されるとしても、その作用が性欲障害の治療に有効なものであるとの技術常識はなかったものと認められる。また、フリバンセリンに類似した化合物において性欲強化特性が広く知られている等の、フリバンセリンの構造と性欲強化特性との関連性を示す技術常識も存在しない。 そして、このことは、審査段階における請求人の主張とも整合する。すなわち、請求人は、本願発明が新規性又は進歩性を否定するとして特表平6-509575号公報(意見書においては、「引例1」「引用文献1」と記載されている。)を引用して通知された拒絶理由に対して、意見書において、『(2)請求項1?6に係る発明は引用文献1に記載された発明と同一であるとのご指摘に対し、以下のように反論致します。 引例1にはフリバンセリン等の化合物が「性的障害」の治療に有益であり得ることが記載されております。これは、セロトニン作動性レセプター拮抗作用を有する新規化合物(フリバンセリンを含む)の用途として記載された中枢神経系障害の治療に関し、該障害に一般に含まれ得る広範な疾患の一例として「性的障害」が挙げられたものであります。 ここで、本件明細書に記載される「性欲障害」は上記「性的障害」に含まれる下位概念であることは出願人も認めるものの、「性的障害」は、性欲障害(即ち性的欲求低下障害および性嫌悪障害など)、性的興奮障害、オルガズム障害、性交疼痛障害、一般身体疾患による性機能障害、物質誘導性性機能障害、特定不能の性機能障害など、互いに明確な診断基準によって区別し得る数多くの異なる障害を包含する包括的な概念であり、引例1では本発明のようにフリバンセリンを「性欲障害」の治療のために使用することについては一切言及されておりません。 同時に、後述するように、本発明では、「性欲障害」の治療に対する「フリバンセリン」の有利な効果が新たに見出されております。 以上より、引例1は、請求項1?6に記載の本発明の新規性を否定するものではないと確信致します。 (3)次に、請求項1?6に係る発明は引用文献1の記載に基づいて容易に発明できた程度のものであるというご指摘に対して、以下のように反論致します。 本発明は、フリバンセリンを性欲障害の治療用の薬剤を製造するために使用することを特徴とするものであります。これに対し、引例1には少なくとも34種類の異なる化合物(または8種類の特に好ましい化合物)およびそれを適用し得る広範な疾患が記載されているものの、それらの記載の中から「フリバンセリン」と(引例中に具体的に記載されていない)「性欲障害」を組み合わせることについて何ら示唆はされておりません。従って、いかに当業者といえども本発明に容易に想到し得るものではありません。』と述べ、フリバンセリンの既知の性質である「セロトニン作動性レセプター拮抗作用」から「性欲障害」の治療に対する有利な効果を有することが導き出せないことを主張している。 したがって、本願出願時の技術常識からは、フリバンセリンが性欲障害の治療用という医薬用途に有効であると理解することができないものであり、そうである以上、フリバンセリンが性欲障害治療用という医薬用途において有効なものであることが、明細書の発明の詳細な説明の記載から理解できなければ、当業者は“フリバンセリンが性欲障害の治療用という医薬用途に有効である”と理解することができない、ということになる。 以下、本願明細書の発明の詳細な説明の記載から、フリバンセリンが性欲障害治療用という医薬用途において有効なものであることが理解できるかという点について検討する。 (4-3) 本願明細書の発明の詳細な説明には、フリバンセリンの医薬としての用途に関して以下の記載がある。 (a)「フリバンセリンは、5-HT_(1A)及び5-HT_(2)-レセプターに対する結合性を示す。従って、それは、種々の疾患、例えば、うつ病、精神分裂症及び不安などの治療に対して、将来有望な治療剤である。 性的不全に悩む男性及び女性の患者の研究において、場合により薬理学的に許容可能な酸付加塩の形態にあってもよいフリバンセリンが、性欲強化特性を示すことが分かった。従って、本発明は、場合により薬理学的に酸付加塩の形態にあってもよいフリバンセリンの、性欲障害治療用薬剤を製造するための使用に関する。 好ましい実施態様においては、本発明は、・・・フリバンセリンの、機能低下性性欲障害(Hypoactive Sexual Desire Disorder)、性欲の喪失(loss)、性欲の不足(lack)、性欲の低下(decrease)、性欲の抑制(inhibit)、リビドーの喪失、リビドーの混乱(disturbance)及び不感症(frigidity)からなる群より選ばれる疾患治療用薬剤を製造するための使用に関する。・・・特に好ましくは・・・機能低下性性欲障害及び性欲の喪失からなる群より選ばれる疾患治療用薬剤を製造するための使用に関する。」(段落【0003】) (b)「フリバンセリンの観察される効果は、男性及び女性において達成され得る。・・・女性の性的不全治療用薬剤を製造するための使用が好ましい。 フリバンセリンの有益な効果は、混乱(disturbance)が一生存続するか又は獲得されたか否かにかかわらず、また、病因(・・・)から独立して観察され得る。 フリバンセリンは、場合によりその薬理学的に許容可能な酸付加塩の形態で使用することができる。適切な酸付加塩としては、例えば、・・・塩酸塩及び臭化水素酸塩、特に塩酸塩が好ましい。」(段落【0004】) (c)「場合により薬理学的に許容可能な酸付加塩の形態で使用することができるフリバンセリンは、固体、液体又はスプレー形態の従来の医薬製品に導入することができる。・・・。 活性成分は、医薬組成物中に従来から使用されている賦形剤又はキャリヤー、例えば、タルク、・・・ポリソルベート80中に導入することができる。組成物は、有利には、投与単位中に配合され、各投与単位は、活性成分の単回投与量を供給するように適合化される。1日あたりに適切な投与量範囲は、好ましくは、1.0?300mgであり、より好ましくは2?200mgである。各投与単位は、便宜的に、0.01?100mg、好ましくは、0.1?50mgを含んでいてもよい。」(段落【0005】) (d)「適切なタブレットは、・・・同様に、タブレットのコーティングは、おそらくは、タブレットについて上述した賦形剤を用いて、遅延放出を達成するために多くの層又は複数の層からなっていてもよい。」(段落【0006】) (e)「本発明によれば、活性物質を含むシロップ又はエリキシル又はそれらの組み合せが、更に、甘味料、・・・又は防腐剤、例えば、p-ヒドロキシベンゾエートを含んでいてもよい。 注入溶液は、通常の方法で、例えば、防腐剤、・・・の添加により製造することができ、また、注入バイアル又はアンプル中に移送することができる。 1又はそれより多くの活性物質又は活性物質の組み合せを含むカプセルは、例えば、・・・それらをゼラチンカプセルにパックすることにより製造することができる。 適切な坐薬は、例えば、・・・それらの誘導体との混合により製造することができる。 以下の実施例により、本発明を説明するが、これらは本発明を制限するものではない。」(段落【0007】) (f)医薬配合物の実施例として、 A)タブレット、B)タブレット、C)被覆タブレット、D)カプセル、E)アンプル溶液、F)座薬 の6つの製剤について、各製剤の構成成分及びタブレットあたりの各成分量、各製剤の製造方法が記載されている。(段落【0008】?【0013】参照) (4-4) 上記(a)には、「場合により薬理学的に許容可能な酸付加塩の形態にあってもよいフリバンセリンが、性欲強化特性を示すことが分かった。」と記載されているが、試験方法や試験データ等の具体的な説明は何も記載されていない。また、フリバンセリンが性欲強化特性を示すことを裏付けるに足る理論的な説明も記載されていない。 そして、「場合により薬理学的に酸付加塩の形態にあってもよいフリバンセリンの、性欲障害治療用薬剤を製造するための使用に関する。」と記載されているが、フリバンセリンが機能低下性性欲障害等の性欲障害治療用薬剤として使用されるといった一般的な説明が記載されているに過ぎず、また、フリバンセリンが性欲障害治療用薬剤として有用であることを裏付けるに足る理論的な説明も記載されていない。 また、上記(b)の記載は、性欲障害治療に関する記載ではなく、その上位概念である性的不全治療に関するものであり、その記載は、フリバンセリンが男性及び女性の性的不全治療薬剤に使用され得るが、特に女性用が好ましいこと、種々の原因による性的不全の治療に効果があるという一般的な説明、及び、酸付加塩の好ましい例の列挙である。 また、上記(c)?(f)は、製剤や投与量に関する説明と製剤例であり、薬理効果に関する記載は何もない。 してみると、本願明細書の発明の詳細な説明の(a)?(f)の記載は、フリバンセリンの性欲障害治療用薬剤としての有用性について一般的な記載及び製剤及び投与量、製剤例に関する記載であり、フリバンセリンが性欲強化特性を有すること、ひいては、フリバンセリンが性欲障害治療用という医薬用途に有効であることを裏付ける記載は全くない。 特に、薬理試験系が不明であるということは、そもそも請求人がいかなる作用を確認した結果、フリバンセリンが、性欲強化活性を有すると結論づけたのか自体が不明であるということであり、また、性欲強化活性の内容が分からなければ、性欲障害の治療に利用できるかどうかも分からないのであるから、フリバンセリンが性欲障害の治療に有効であると理解できるように、発明の詳細な説明が記載されているとは到底いえない。 さらに、薬理試験結果についても何ら具体的に開示されておらず、本願発明の詳細な説明の記載から、フリバンセリンが、性欲障害治療用という医薬用途に有効であることは確認できない。 したがって、本願明細書の発明の詳細な説明における、上記摘記事項(a)?(f)の記載は、フリバンセリンが性欲障害治療用という医薬用途に有効であることの裏付けとなるものと認めることはできないものである。 以上、本願明細書の発明の詳細な説明は、フリバンセリンが性欲障害治療用という医薬用途に有効であることが、当業者が理解できるように記載されているとは認められないから、本願明細書の発明の詳細な説明の記載は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たさない。 (4-5) なお、請求人は、原審の平成18年8月7日付けの意見書及び平成19年2月21日付けの審判請求書に対する手続補正書(方式)において、(1)性的不全に悩む男性及び女性の患者の研究において本発明の化合物のフリバンセリンが性欲強化特性を示すことが出願当初の本件明細書第1頁第17?18行に具体的に記載されていること、(2)その有効な投与量が出願当初の明細書第2頁第18?20行に記載されていること、(3)これらの記載の根拠となった薬理データとして、当業者に知られる評価法であるASEX指標(Arizona Sexual Experience Scale)に基づく実際の臨床研究の結果を示したことから、有効成分としてのフリバンセリンが性欲障害の治療に使用し得ることは裏付けられており、本願の明細書の記載に不備はない旨主張する。 しかし、(1)において指摘されている本願明細書の該当箇所は、上記(4-3)の項における摘記(a)の「性的不全に悩む男性及び女性の患者の研究において、場合により薬理学的に許容可能な酸付加塩の形態にあってもよいフリバンセリンが、性欲強化特性を示すことが分かった。」であると認められるが、この記載は、「フリバンセリンが性欲強化特性を示した」という結論部分を除くと、「性的不全に悩む男性及び女性の患者の研究において」という漠然とした記載があるのみであり、どのような試験を行い、どのようなデータに基づいて上記の結論を導いたのかを示す具体的な記載があるとはいえないものであることは上述のとおりである。また、(2)についても、製剤及び投与量、製剤例に関する一般的記載の一部であり、フリバンセリンの性欲強化特性を裏付けるものではない。 そして、(3)については、明細書の記載外の事項であり、その内容を補足することによって、特許法第36条第4項第1号に規定する要件に適合させることは、発明の公開を前提に特許を付与するという特許制度の趣旨に反し許されないというべきであるから、上記薬理試験の結果は参酌することができないものである。そして、もし仮に、明細書に単に、ある医薬用途において有効であったと記載されていさえすれば、後から提出された薬理実験データ等を参酌でき、医薬用途の有効性が補完できるとするならば、医薬用途の有効性が不明確な段階で出願を行い、後から実験により有効性を確認することも可能になるため、いわば、完成されていない医薬用途発明の出願を助長する結果となりかねず、また、実験により有効性を確認してから(したがって、そのために出願時期が遅れることになる)出願を行った者との公平性の観点からみても、後から提出された薬理試験結果を参酌することは妥当ではない。 5.むすび 以上のとおり、本願は、第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないから、拒絶をすべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2008-09-02 |
結審通知日 | 2008-09-08 |
審決日 | 2011-12-05 |
出願番号 | 特願2003-537639(P2003-537639) |
審決分類 |
P
1
8・
536-
Z
(A61K)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 松浦 安紀子 |
特許庁審判長 |
内田 淳子 |
特許庁審判官 |
星野 紹英 上條 のぶよ |
発明の名称 | 性的障害の治療におけるフリバンセリンの使用 |
代理人 | 箱田 篤 |
代理人 | 小川 信夫 |
代理人 | 浅井 賢治 |
代理人 | 平山 孝二 |
代理人 | 熊倉 禎男 |