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この審決には、下記の判例・審決が関連していると思われます。
審判番号(事件番号) データベース 権利
無効200435012 審決 特許
無効200480135 審決 特許
無効2010800062 審決 特許
無効2007800138 審決 特許
無効2010800191 審決 特許

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審決分類 審判 全部無効 特36条4項詳細な説明の記載不備  A61K
審判 全部無効 2項進歩性  A61K
審判 全部無効 1項3号刊行物記載  A61K
審判 全部無効 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A61K
審判 全部無効 特120条の4、2項訂正請求(平成8年1月1日以降)  A61K
管理番号 1256096
審判番号 無効2010-800166  
総通号数 150 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-06-29 
種別 無効の審決 
審判請求日 2010-09-21 
確定日 2011-12-19 
事件の表示 上記当事者間の特許第4518520号発明「整髪用化粧料」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は請求人の負担とする。 
理由 I.手続の経緯
(1)本件特許第4518520号の請求項1?8に係る発明についての出願は、平成22年2月4日(国内優先権主張 平成21年4月28日)に特許出願され、平成22年5月28日にその発明について特許権の設定がされた。
(2)これに対し、請求人・株式会社マンダムは、
平成22年9月21日付け審判請求書を提出し、
「特許第4518520号の特許を無効とする。審判費用は被請求人の負担とする」との審決を求め、本件特許発明は、特許法第29条の規定に違反して、また、特許法第36条の規定に違反してなされたものであり、無効とすべきである旨を主張した。
(3)被請求人・株式会社資生堂は、
平成22年12月13日付け訂正請求書と答弁書を提出し、
「本件審判の請求は、成り立たない、審判費用は、請求人の負担とする」との審決を求め、上記請求人の主張する無効理由は理由がない旨を主張した。
(4)請求人は、
平成23年2月4日付け弁駁書、
平成23年3月7日付け上申書を提出した。
(5)ところで、平成23年2月4日付け弁駁書の一部と前記平成23年3月7日付け上申書による請求の理由の補正については、
平成23年3月23日付けの補正許否の決定により許可されなかった。
(6)平成23年6月16日に行われた口頭審理に先立ち、両当事者に審理事項通知が通知され、それに応答して、
被請求人より、
平成23年5月13日付け手続補正書(訂正請求の誤記の補正)、
平成23年5月13日付け上申書(同日の手続補正の釈明)、
平成23年5月26日付け口頭審理陳述要領書、
平成23年5月26日付け上申書(弁駁書に対する反論)、
平成23年6月16日付け上申書(乙第28,29号証を用いた反論)、
平成23年6月16日付け上申書(2)(乙第30号証を用いた反論)
が提出され、
請求人より、
平成23年5月26日付け口頭審理陳述要領書、
平成23年6月16日付け上申書(被請求人の陳述要領書に対する見解)が提出された。
(7)平成23年6月16日に行われた口頭審理において、
請求人の平成23年5月26日付け口頭審理陳述要領書で訂正請求の不適法性が主張されているため、その点について答弁指令がなされた。
(8)その後、
請求人より、
平成23年7月1日付け上申書(1)(訂正が認められない場合の主張)、平成23年7月1日付け上申書(2)(甲第28号証の説明、求釈明、乙 第28?30号証についての見解)、
平成23年7月6日付け上申書(甲第38?48号証を用いた課題の周知
性、乙第26号証の絶対評価について)、
平成23年8月24日付け上申書(平成23年7月19日付け答弁書に対 する反論)、
平成23年10月3日付け上申書(官能評価についての補足意見)、
平成23年10月19日付け上申書(水性系について及び効果についての
補足意見)
が提出され、
被請求人より、
平成23年7月1日付け上申書(1)(誤記による乙第14,21号証の
差替え)、
平成23年7月19日付け答弁書(訂正が不適法であることの反論)、
平成23年7月19日付け上申書(1)(訂正が認められない場合の反論)、
平成23年7月19日付け上申書(2)(官能評価の説明,請求人の平成
23年7月1日付け上申書(2)に対する反論など)
が提出された。

当審注:上記各上申書等に続く()内の説明は、単に概要を示すものである。


II.訂正請求について
(1)訂正の内容
平成22年12月13日付けの訂正請求の内容は、本件特許の設定登録時の明細書を、訂正請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲に記載の通りに訂正しようとするものであるところ、誤記があるとして平成23年5月13日付け手続補正書で補正されているので、この補正について先ず検討する。

該補正は、訂正後の請求項2?7において、末尾の表現「・・整髪料化粧料。」とされているのは、「・・整髪用化粧料。」の誤記であるとするものである。
そして、被請求人は、『訂正請求書において訂正箇所を示す下線が付されていないこと、および訂正請求書の「訂正の原因」における説明もないことに加え、訂正前の特許明細書の特許請求の範囲の請求項2?8の記載が、正しくは「整髪用化粧料」であるにもかかわらず、「整髪料化粧料」となっていることから、「整髪料化粧料」が「整髪用化粧料」の誤記であったことは明らかである』(平成23年5月13日付け上申書参照)と説明をしている。かかる被請求人の説明は当を得たものと認められるし、訂正後の請求項2?7で直接的ないし間接的に引用される訂正後の請求項1では「整髪用化粧料」と訂正されていないことからみても、単なる誤記であったと解するのが相当であるから、該補正は認められるべきものである。

そうすると、訂正請求は、特許第4518520号の特許請求の範囲の
「 【請求項1】
(a)常温(25℃)で固体であり、エチレンオキシド(EO)、プロピレンオキシド(PO)、ブチレンオキシド(BO)の各構成単位が重合または共重合したポリアルキレングリコール重合体を0.1?20質量%と、
(b)常温(25℃)で液体の、(b-1)エチレングリコール、ジプロピレングリコール、プロピレングリコール、1,3-ブチレングリコール、グリセリン、ジグリセリンの中から選ばれる1種または2種以上の2?4価のアルコール、(b-2)1?4価のアルコールにエチレンオキシド(EO)、プロピレンオキシド(PO)、ブチレンオキシド(BO)の各構成単位が重合または共重合したアルキレンオキシド付加重合体、および(b-3)エチレンオキシド(EO)、プロピレンオキシド(PO)、ブチレンオキシド(BO)の各構成単位が重合または共重合したポリアルキレングリコール重合体の中から選ばれる1種または2種以上を0.1?30質量%と、
(c)皮膜形成性高分子と、
(d)マルチトール、ソルビトール、リビドール、マンニトール、アラビトール、ガラクチトール、キシリトール、エリトリトール、イノシトールの中から選ばれる1種または2種以上の糖アルコールと、
を含有し、(a)成分:(b)成分=1:0.2?1:10(質量比)であり、(b)成分:(c)成分=1:0.1?1:1(質量比)であり、(a)?(d)成分の合計量が10質量%以上であり、系の粘度が10,000mPa・s以下(25℃、B型粘度計)である整髪用化粧料。
【請求項2】
(a)?(d)成分がいずれも水および/またはアルコール溶媒に溶解することを特徴とする、請求項1記載の整髪用化粧料。
【請求項3】
(a)成分が質量平均分子量1,000?20,000のポリエチレングリコールである、請求項1または2記載の整髪用化粧料。
【請求項4】
(b-3)成分が質量平均分子量200?900のポリエチレングリコールである、請求項1?3のいずれか1項に記載の整髪用化粧料。
【請求項5】
粘度が100mPa・s以下(25℃、B型粘度計)であって、使用時に霧状に噴霧して用いる、請求項1?4のいずれか1項に記載の整髪用化粧料。
【請求項6】
(c)成分の配合量が0.1?15質量%である、請求項1?5のいずれか1項に記載の整髪用化粧料。
【請求項7】
(a)成分の配合量が3?8質量%である、請求項1?6のいずれか1項に記載の整髪用化粧料。
【請求項8】(b)成分の配合量が5?15質量%である、請求項1?7のいずれか1項に記載の整髪料化粧料。」
を、
「 【請求項1】
(a)常温(25℃)で固体であり、質量平均分子量1,000?20,000のポリエチレングリコール、プロピレンオキシド(PO)構成単立が重合したPO重合体、ブチレンオキシド(BO)構成単位が重合したBO重合体、エチレンオキシド(EO)構成単立とPO構成単立を含むEO・PO共重合体、またはEO構成単立とBO構成単立を含むEO・BO共重合体を0.1?20質量%と、
(b)常温(25℃)で液体の、(b-1)エチレングリコール、ジプロピレングリコール、プロピレングリコール、1,3-ブチレングリコール、グリセリン、ジグリセリンの中から選ばれる1種または2種以上の2?4価のアルコール、(b-2)1?4価のアルコールにエチレンオキシド(EO)、プロピレンオキシド(PO)、ブチレンオキシド(BO)の各構成単位が重合または共重合したアルキレンオキシド付加重合体、および(b-3)エチレンオキシド(EO)、プロピレンオキシド(PO)、ブチレンオキシド(BO)の各構成単位が重合または共重合したポリアルキレングリコール重合体の中から選ばれる1種または2種以上を0.1?30質量%と、
(c)皮膜形成性高分子と、
(d)マルチトール、ソルビトール、リビドール、マンニトール、アラビトール、ガラクチトール、キシリトール、エリトリトール、イノシトールの中から選ばれる1種または2種以上の糖アルコールと、
を含有し、(a)成分:(b)成分=1:0.2?1:10(質量比)であり、(b)成分:(c)成分=1:0.1?1:1(質量比)であり、(a)?(d)成分の合計量が10質量%以上であり、
系の粘度が10,000mPa・s以下(25℃、B型粘度計)であり、
(a)?(d)成分がいずれも水および/またはアルコール溶媒に溶解することを特徴とする、整髪用化粧料。
【請求項2】
(a)成分が質量平均分子量1,000?20,000のポリエチレングリコールである、請求項1記載の整髪用化粧料。
【請求項3】
(b)成分が(b-3)成分であって、(b-3)成分が質量平均分子量200?900のポリエチレングリコールである、請求項2に記載の整髪用化粧料。
【請求項4】
粘度が100mPa・s以下(25℃、B型粘度計)であって、使用時に霧状に噴霧して用いる、請求項1?3のいずれか1項に記載の整髪用化粧料。
【請求項5】
(a)成分が質量平均分子量1,000?20,000のポリエチレングリコールであり、
(b)成分が(b-3)成分であって、(b-3)成分が質量平均分子量200?900のポリエチレングリコールであり、
(c)成分の配合量が0.1?15質量%であり、
系の粘度が100mPa・s以下(25℃、B型粘度計)であって、使用時に霧状に噴霧して用いる、請求項1に記載の整髪用化粧料。
【請求項6】
(a)成分の配合量が3?8質量%である、請求項1?5のいずれか1項に記載の整髪用化粧料。
【請求項7】
(b)成分の配合量が5?15質量%である、請求項1?6のいずれか1項に記載の整髪用化粧料。」
と訂正するもの(なお上記中、下線は訂正個所を明示するために施されたものである。)であって、訂正事項は、次のとおりである。

「訂正事項1」
特許請求の範囲の請求項1の(a)成分の「常温(25℃)で固体であり、エチレンオキシド(EO)、プロピレンオキシド(PO)、ブチレンオキシド(BO)の各構成単位が重合または共重合したポリアルキレングリコール重合体」を、
「常温(25℃)で固体であり、質量平均分子量1,000?20,000のポリエチレングリコール、プロピレンオキシド(PO)構成単位が重合したPO重合体、ブチレンオキシド(BO)構成単位が重合したBO重合体、エチレンオキシド(EO)構成単位とPO構成単位を含むEO・PO共重合体、またはEO構成単位とBO構成単位を含むEO・BO共重合体」に限定する。

「訂正事項2」
特許請求の範囲の請求項1に、訂正前の請求項2に記載されていた「(a)?(d)成分がいずれも水および/またはアルコール溶媒に溶解することを特徴とする」との事項を加える。

「訂正事項3」
特許請求の範囲の請求項2(訂正前の請求項2)を削除する。

「訂正事項4」
特許請求の範囲の請求項2(訂正前の請求項2)の削除(訂正事項3)に伴い、請求項における従属記載を「請求項1または2」とあった記載を、「請求項1」のみに訂正するものである。

「訂正事項5」
訂正前の請求項4に、「(b)成分が(b-3)成分である」ことを加え限定する。

「訂正事項6」
特許請求の範囲の(訂正前の)請求項2の削除(訂正事項3)に伴い、請求項5(訂正前)における従属記載を「請求項1?4のいずれか1項に記載の」とあった記載を、「請求項1?3のいずれか1項に記載の」に訂正する。

「訂正事項7」
訂正前の請求項6については、先行する請求項として引用していた訂正前の請求項3、4および5に記載の事項を明記するよう訂正し、「(b)成分が(b-3)成分である」ことをさらに加える。

「訂正事項8」,「訂正事項9」
訂正事項8は、特許請求の範囲の(訂正前の)請求項2の削除(訂正事項3)に伴い、請求項7(訂正前)における従属記載を「請求項1?6のいずれか1項に記載の」とあった記載を、「請求項1?5のいずれか1項に記載の」に訂正する。
同様に訂正事項9は、特許請求の範囲の(訂正前の)請求項2の削除(訂正事項3)に伴い、請求項8(訂正前)における従属記載を「請求項1?7のいずれか1項に記載の」とあった記載を、「請求項1?6のいずれか1項に記載の」に訂正する。

(2)訂正の可否
(2-1)訂正事項1と2を伴う訂正後の請求項1について
訂正事項1それ自体は、減縮であると認められる。しかしながら、訂正後の請求項1に係る発明においては、訂正事項1で対象となる(a)成分自体の配合割合や(b)成分との配合割合にも関係するものであるから、その観点での検討も必要である。

そのような観点で、請求人から、口頭審理陳述要領書第24?27頁において次のような主張がなされている。
『訂正前の規定によれば、(a)成分であるポリエチレングリコールの質量平均分子量の限定はなく、本件明細書の段落0018に記載のように、「分子量の上限は特に限定されるものではない」のであるから(注:「概ね20,000程度以下が好ましい」との記載はあるが、あくまでも好適例のことであり、20,000程度を超えたポリエチレングリコールを排除しているわけではない)、いくらでもよかったものが、訂正により「質量平均分子量1,000?20,000」に限定されるため、次のような事態が生じる。
想定例1:
例えば、(a)成分として、
質量平均分子量25,000のポリエチレングリコール 3質量%
質量平均分子量 6,000のポリエチレングリコール 18質量%
を含有する整髪用化粧料(その他の成分は省略するが、各成分を請求項1に記載の範囲で所定量含むものとする)について考えてみる。
この整髪用化粧料の(a)成分は、合計量が21質量%となるため、請求項1に規定の「0.1?20質量%」の要件を充足せず、従って、訂正前の請求項1の範囲外となり、登録時の特許請求の範囲には含まれない整髪用化粧料である。
しかし、訂正後においては、「質量平均分子量1,000?20,000」に限定されるため、(a)成分は、質量平均分子量6,000のポリエチレングリコールのみとなり、「0.1?20質量%」の要件を充足することとなり、訂正後の請求項1の範囲内となる。
想定例2:
このような事態は、(a)成分と(b)成分の比率の要件においても想定される。例えば、(a)成分が、
質量平均分子量25,000のポリエチレングリコール 5質量%
質量平均分子量 6,000のポリエチレングリコール 5質量%
(b)成分が、
質量平均分子量 400のポリエチレングリコール 1質量%
を含有する整髪用化粧料(その他の成分は省略するが、各成分を請求項1に記載の範囲で所定量含むものとする)について考えてみる。
この場合、訂正前の(a)成分の要件は、合計で10質量%であるので、(a)成分の要件は充足することになる。しかし、(b)成分との比率でみると、訂正前は、b/a = 1/10 = 0.1であり、「(a)成分:(b)成分=1:0.2?1:10(質量比)」の要件を充足しない。即ち、訂正前の請求項1の範囲外となり、登録時の特許請求の範囲には含まれない整髪用化粧料である。
しかし、訂正後には、(a)成分は、質量平均分子量6,000のポリエチレングリコールのみとなり、b/a=1/5=0.2となり、「(a)成分:(b)成分=1:0.2?1:10(質量比)」の要件を充足することとなり、訂正後の請求項1の範囲内となる。』

請求人の上記主張には、格別不適切な点は見当たらない。ただ、前提として、訂正後の請求項1に係る発明において、(a)?(d)以外の成分が配合され得るか否かを検討する必要がある。もし、(a)?(d)以外の成分(想定例1,2における「質量平均分子量25,000のポリエチレングリコール」)が配合され得なければ、想定例1,2の判断は成立しえないことになる。
そこで、この点について検討する。
本件特許明細書段落【0018】には、EO重合体について、「分子量の上限は特に限定されるものではないが、概ね20,000程度以下が好ましい。」とされている。そして、実施例でも分子量20,000のポリエチレングリコールが配合されている。そうすると、「概ね20,000程度以下が好ましい。」とされているだけで、訂正前の請求項1において特定されている訳ではないから、例えば質量平均分子量1,000,000のポリエチレングリコールのように、極めて大きい分子量のために採用しようとは思えないものであればともかく、「質量平均分子量25,000のポリエチレングリコール」は、当業者であれば適宜採用しようとする程度の分子量といえても、格別に除外されるべき理由は見当たらない。なお、仮に、好ましいとされる「概ね20,000程度以下」の近傍といえる、例えば「質量平均分子量21,000のポリエチレングリコール」を用いたとしても、想定例1,2と同様なことが言える。
してみると、訂正後の請求項1に係る発明の(a)?(d)以外の成分として、想定例1,2における「質量平均分子量25,000のポリエチレングリコール」は、配合されておかしくないものと言える。

これに対し、被請求人は、平成23年7月19日付け答弁書において、
(i)「構成成分を好適な成分に限定する訂正は、特許請求の範囲の減縮に該当するものとして実務上一般に許容されているものであり、そのことは当該構成成分に数値限定がある場合であっても全く例外ではない」とし、その具体例として乙第41?44号証(後記「V.」,「VI.」の乙第41?44号証を参照)を提示して、本件訂正は、特許実務において認められている特許請求の範囲の減縮の要件を満たす典型的な類型であることを主張し、
(ii)特に乙第44号証に記載の「・・訂正後の請求項1?4に記載の発明には、本件発明の範囲内のものとして認識されていなかつた組成の油中水型外用剤が包含されることとなったということを前提とするものであり、そして、その前提は誤りであるから、請求人の主張は失当である。すなわち、組成物発明において、任意添加成分として、どのような化合物が、どのような配合量で添加されることが許容されるかは、明細書の記載全体から(さらには技術常識を勘案して)把握されるものであり、配合し得る化合物の種類や量についての限定が請求項にないからといって、いかなる種類の化合物をいかなる量で配合し得ることを意味するものではない。」を援用し、本件訂正に当てはめると、本件訂正明細書の段落【0011】,【0033】,【0059】,【0061】,【0067】の記載から、並びに段落【0079】、【0080】の表1,2の記載も参酌すれば、「本件訂正発明1においても、想定例1,2のように質量平均分子量25,000のポリエチレングリコールのような化合物を任意成分として明細書の趣旨に反して配合させた化粧料は、その特許請求の範囲に含まない趣旨であることが明確に読み取れる。」と主張するとともに、
(iii)訂正を認めないとした場合の弊害について縷々主張している。

しかし、次のとおり、被請求人の上記主張は採用することができない。
(i)の点について
訂正の適法性の可否の判断は、案件毎に個々に判断されるべきものであって、典型例であるかどうかは上記判断を左右しえない。

(ii)の点について
任意成分としてどのような化合物がどのような配合量で添加されるかは、明細書記載の全体から把握するものであることは、そのとおりである。しかし、被請求人が指摘する本件訂正明細書(なお、発明の詳細な説明の訂正はなされていない。)の段落【0011】には、「(a)常温(25℃)で固体であり、エチレンオキシド(EO)、プロピレンオキシド(PO)、ブチレンオキシド(BO)の各構成単位が重合または共重合したポリアルキレングリコール重合体を0.1?20質量%と・・・・」と請求項1そのものが記載されているにすぎず、段落【0033】には、「(a)成分の配合量は、本発明整髪用化粧料中、0.1?20質量%であり、好ましくは3?8質量%である。0.1質量%未満では(a)成分による十分な効果を得ることが難しく、一方、20質量%を超えて配合しても、配合量に見合った効果の増大がみられないばかりか、粘度が高くなる傾向がみられ、油性感やべたつき、仕上がりの重さ等の点で好ましくない。」,段落【0059】には、「本発明では(a)成分:(b)成分=1:0.2?1:10(質量比)であり、好ましくは1:0.3?1:3である。(a)成分が上記範囲より多すぎるとべたつきやごわつきが大きくなり、滑らかさが得られず、整髪力、再整髪力も十分でなく、一方、(a)成分が上記範囲より少な過ぎると(b)成分の配合量比が多くなり、整髪力が得られず、再整髪力、仕上がりの軽さなどの効果も不十分となる。」,段落【0061】には、「本発明整髪用化粧料は、上記(a)?(d)成分以外にも、本発明の効果を損なわない範囲においてさらに他の成分を配合し得る。このような成分として多糖類系高分子が挙げられる。」,段落【0067】には、「本発明の整髪用化粧料には、上記成分の他に、通常化粧品や医薬品等に用いられる他の成分を、本発明効果を損なわない範囲内で任意に添加することができる。このような成分として、例えば粉末成分、液体油脂、ロウ、炭化水素油、高級脂肪酸、高級アルコール、エステル油、シリコーン油、アニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、両性界面活性剤、非イオン界面活性剤、紫外線吸収剤、金属イオン封鎖剤、糖、アミノ酸、有機アミン、高分子エマルジョン、pH調整剤、皮膚栄養剤、ビタミン、酸化防止剤、酸化防止助剤、香料等が挙げられ、これら成分を必要に応じて適宜配合し、目的とする剤型に応じて常法により本発明整髪用化粧料を製造することができる。」との記載があり、段落【0079】,【0080】には、実施例が記載されている。
これらの記載からしても、むしろ、「質量平均分子量25,000のポリエチレングリコール」を配合してもおかしくなく、除外すべき格別の理由は認められないし、発明の詳細な説明の他の記載を検討しても同様である。

(iii)の点について
被請求人は、「補正をすることは、権利者において特許請求の範囲の範囲を拡張する意図が全くなくとも一切認められないに等しい結果となる。」などと主張するが、どのように訂正するかは、訂正する者が十分な配慮を持って行うべきものであって、数値限定を用いて特定している場合にはそのことを意識して訂正すれば良いのであり、そのような訂正が可能でないと解すべき理由は見出せない。そして、その他の主張を検討しても、本件訂正請求を認めないことにより弊害があると判断すべき理由を見出せない。

以上のとおりであるから、訂正事項2について言及するまでもなく、訂正事項1の訂正によって、訂正後請求項1に係る発明は、訂正前請求項1に係る発明を減縮したものということはできないし、実質的に拡張ないし変更されたものと言う外ない。

(2-2)訂正事項3による訂正前の請求項2の削除について
訂正事項3は、訂正前の請求項2を削除するものであるところ、その原因として、「請求項1に訂正前の請求項2に記載の事項を加えた訂正に伴い、請求項2はその存在意義を失うことから削除したものである。」と被請求人は説明している。
そうすると、上記(2-1)で検討したとおり訂正後の請求項1の訂正が認められないのであるから、そのような場合にまで、訂正前の請求項2の削除が請求されているものとは解することはできない。

(2-3)訂正事項4?9を伴う訂正後の請求項2?7について
訂正後の請求項2?7は、訂正請求項1を直接的に乃至は間接的に引用するものであるところ、上記(2-1)で検討したとおり、訂正後の請求項1は、実質的に減縮とは認められず、特許請求の範囲を拡張し又は変更するものと認められるから、訂正事項4?9について検討するまでもなく、同様の理由で訂正後の請求項2?7についても実質的に特許請求の範囲を拡張し又は変更するものと認められる。
なお、訂正事項4,6,8,9は、引用する請求項の項番を、訂正事項3に伴って訂正するものであるが、訂正事項3は上記(2-2)で検討したとおりであるから、そのような場合にまで、請求項の項番の訂正を請求しているものとは解することができない。
ところで、訂正後の請求項2は、上記(2-1)で問題となった「(a)成分が質量平均分子量1,000?20,000のポリエチレングリコール」との限定を訂正前から有するものであるが、訂正後の請求項1の特定を有する発明を更に限定するものであると解するのが相当と言えるから、訂正後の請求項1の特定を有する発明と同様に上記(2-1)で検討した理由で、訂正前の請求項1の特定を有する発明を減縮したものということができず、実質的に拡張ないし変更されていると解する外ない。

(2-4)まとめ
したがって、平成23年5月13日付けで補正された平成22年12月13日付けの訂正は、特許法第134条の2第1項の目的に合致しないものであり、同条第5項の規定によって準用する特許法第126条第4項の規定に適合しないから、訂正請求書に添付された訂正明細書のとおりに訂正することは認められない。


III.本件特許発明
上記「II.」のとおり、訂正請求は認められないから、本件特許発明は、上記「II.(1)」において、特許第4518520号の特許請求の範囲として摘示されたとおりのものである(再掲は省略する。)。以下、該特許請求の範囲の請求項1?8に特定された発明をそれぞれ順に「本件特許発明1」?「本件特許発明8」ということもある。


IV.請求人の主張
請求人は、次の概略で示す無効理由1?4を無効理由として主張している。
[無効理由1]
請求人は、特許第4518520号の請求項1,2,4,6?8に係る発明は、甲第2号証を参酌し、甲第1号証に開示されているから新規性がなく、特許法第29条第1項の規定により特許を受けることができないものであり、その特許は同法第123条第1項第2号の規定に該当し、無効とすべきものである旨を主張している。

[無効理由2]
請求人は、特許第4518520号の請求項1,2,4,6?8に係る発明は、甲第2?6号証の記載を適宜組み合わせることで、甲第1号証に記載の発明に基づいて、当業者が容易にし得たものであるから、そして、同請求項3に係る発明は、甲第1?7号証の記載に基づいて、同請求項5に係る発明は、甲第1?6号証の記載に基づいて当業者が容易にし得たものであるから、特許法第29条第2項の規定に該当し特許を受けることができないものであり、その特許は同法第123条第1項第2号の規定に該当し、無効とすべきものである旨を主張している。

[無効理由3]
請求人は、特許第4518520号の請求項1?8に係る発明は、(i)甲第8号証に甲第10号証を参酌することで、(ii)甲第8,9号証に甲第10号証を参酌することで、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、さらに、(iii)甲第3?7号証をさらに参酌することで、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、その特許は同法第123条第1項第2号の規定に該当し、無効とすべきものである旨を主張している。

[無効理由4]
請求人は、特許第4518520号の発明の詳細な説明の記載が、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないから、また、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号及び第2号に規定する要件を満たしていないから、特許法第123条第1項第4号の規定に該当し、無効とすべきものである旨を主張している。

そして、証拠方法として、下記甲第1号証?甲第52号証を提出している。甲第1?15号証は審判請求書に添付されたものであり、甲第16?25号証は弁駁書に添付されたものであり、甲第26?28号証は平成23年3月7日付け上申書に添付されたものであり、甲第29,30号証は平成23年5月26日付け口頭審理陳述要領書に添付されたものであり、甲第31?33号証は平成23年6月16日付け上申書に添付されたものであり、甲第34?37号証は平成23年7月1日付け上申書に添付されたものであり、甲第38?48号証は平成23年7月6日付け上申書に添付されたものであり、甲第49,50号証は平成23年10月3日付け上申書に添付されたものであり、甲第51,52号証は平成23年10月19日付け上申書に添付されたものである。なお、甲第26?28号証は、平成23年3月23日付け補正許否の決定で許可されなかったものであるところ、そのうち甲第26,28号証については、進歩性判断における作用効果の観点で再度引用されているため、採用されることが口頭審理において確認されている(口頭審理調書を参照)が、甲第27号証については採用されないため下記に記載しない。


甲第1号証:特開2002-241234号公報
甲第2号証:石井丈晴氏による実験成績証明書(1)
甲第3号証:特開2007-145877号公報
甲第4号証:特開2007-217314号公報
甲第5号証:特開2007-15954号公報
甲第6号証:特開2009-7347号公報
甲第7号証:特開2002-104941号公報
甲第8号証:特開平3-261713号公報
甲第9号証:特開2003-95895号公報
甲第10号証:特開2002-60321号公報
甲第11号証:「MABIT」の製品カタログ
甲第12号証:「化粧品原料基準 第二版 注解」、946?947、19 84年8月1日発行 株式会社薬事日報社
甲第13号証:「医薬部外品原料規格2006」、1378?1387、平 成18年6月16日発行、株式会社 薬事日報社
甲第14号証:石井丈晴氏による実験成績証明書(2)
甲第15号証:石井丈晴氏による実験成績証明書(3)
甲第16号証:特開2010-275292号公報
甲第17号証:特願2010-23824の平成22年6月8日付け提出の
意見書
甲第18号証:香川大学名誉教授・山野善正氏作成の実験報告書
甲第19号証:石井丈晴氏作成の実験成績証明書(4)
甲第20号証:株式会社 マンダムの総合カタログ「1995 autumn/winter
COSMETIC CATALOGUE」(1995年)の表紙、9頁、31頁、
36頁、裏表紙
甲第21号証:「マンダム イッツ ナチュラル 束ね髪用ウォーター」の
化粧品製造製品届書(平成7年6月15日付け)
甲第22号証:「ギャツビー スタイリンググリース」の化粧品製造製品届
書(平成6年12月6日付け)
甲第23号証:「マンダム ウォークーグロス ハードセット」の化粧品製
造製品届書(平成4年5月11日付け)
甲第24号証:「レグノ ヘアグリース」の化粧品製造製品届書(平成5年
6月28日付け)
甲第25号証:「化粧品原料基準 第二版注解 I」、937?943、
1984年8月1日発行 株式会社薬事日報社
甲第26号証:特開2010-275293
甲第28号証:石井丈晴氏による実験成績証明書(5)
甲第29号証:柴田満太 外2名共著「アルキレンオキシド重合体」、14
4-145頁、平成2年11月20日発行 海文堂出版株式会社
甲第30号証:本件訂正特許(特願2010-23607号)に関する平成
22年3月25日付け意見書
甲第31号証:石井丈晴氏による実験成績証明書(6)
甲第32号証:吉川誠次著「食品の官能検査法 光琳全書5」,昭和40年
7月20日,株式会社光琳書院発行、105?112頁
甲第33号証:石井丈晴氏による実験成績証明書(7)
甲第34号証:「JIS Z8144 官能評価分析-用語」、平成16年
3月20日、財団法人日本規格協会発行、18頁
甲第35号証:日科技連官能検査委員会編集「新版 官能検査ハンドブック
」日科技連出版社、1973年発行、第379-385頁
甲第36号証:「JIS Z9080 官能評価分析-方法」、平成16年
3月20日、財団法人日本規格協会発行、18-21頁
甲第37号証:特許性評価記録
甲第38号証:特開平11-35433号公報
甲第39号証:特開平11-116443号公報
甲第40号証:特開2001-226237号公報
甲第41号証:特開2003-26551号公報
甲第42号証:特開2004-91407号公報
甲第43号証:特開2005-255533号公報
甲第44号証:特開2004-182611号公報
甲第45号証:特開2004-182612号公報
甲第46号証:2002年秋の新製品カタログ(株式会社マンダム)
甲第47号証:2005年春の新製品カタログ(株式会社マンダム)
甲第48号証:2007年秋の新製品カタログ(株式会社マンダム)
甲第49号証:「JIS Z9080」、平成16年3月20日、財団法人
日本規格協会発行、第57頁
甲第50号証:池山豊「測定法としての官能評価」、品質、Vol.34,
No.2、51?58頁、2004年
甲第51号証:石井丈晴氏作成の実験成績証明書(8)
甲第52号証:石井丈晴氏作成の陳述書


V.被請求人の主張
被請求人は、無効理由1?4についての請求人の主張はいずれも理由がなく失当である旨を主張した。
そして、証拠方法として、乙第1?44号証を提出している。乙第1?14号証は答弁書に添付されたものであり、乙第15?27号証は平成23年5月26日付け上申書に添付されたものであり、乙第28,29号証は平成23年6月16日付け上申書に添付されたものであり、乙第30号証は平成23年6月16日付け上申書(2)に添付されたものであり、乙第31?37号証は平成23年7月19日付け上申書(1)に添付されたものであり、乙第38?40号証は平成23年7月19日付け上申書(2)に添付されたものであり、乙第41?44号証は平成23年7月19日付け答弁書に添付されたものである。ただし、乙第14号証と乙第21号証は、誤記等の理由で、平成21年7月1日付け上申書に添付の乙第14号証と乙第21号証に差し替えられた。


乙第1号証:大妻女子大学教授・小山義之氏作成の実験報告書
乙第2号証:「男性用整髪料でマンダムを迎え撃つ資生堂の『詰め替えパッ
ク作戦』」と題するエキサイトニュース記事(インターネット)
乙第3号証:「【こうして生まれた ヒット商品の舞台裏】ウーノフォグバ
ー資生堂」と題する産経ニュース記事(インターネット)
乙第4号証:「資生堂 霧状整髪剤を拡充 セットカ高め 男性囲い込み」
と題するヤフージャパンニュース記事(インターネット)
乙第5号証:「ワックス→スプレー→液状 マンダムvs資生堂、整髪剤パ
ドル新局面」と題するサンケイビズのニュース記事(インターネッ
ト)
乙第6号証:今田清久・占部正義共著「高分子化学」(第6版第2刷、株式
会社裳華房、2005年1月25日発行)36?42頁
乙第7号証:吉弘芳郎監修・藤谷正一著「図解高分子化合物の見方・考え方
」(株式会社オーム社、昭和54年7月30日、第1版第4刷発行
)109頁?111頁
乙第8号証:斎藤勝裕・渥美みはる著「わかる化学シリーズ7高分子化学」
(株式会社東京化学同人、2006年5月10日発行)18頁?
22頁
乙第9号証:特許第3197102号公報
乙第10号証:特許第3742553号公報
乙第11号証:特許第3828488号公報
乙第12号証:株式会社東ソー分析センター作成の分析・試験報告書
(三洋化成工業株式会社製PEGの質量平均分子量測定)
乙第13号証:株式会社東ソー分析センター作成の分析・試験報告書
(日油株式会社製PEGの質量平均分子量測定)
乙第14号証:藤山泰三氏作成の実験報告書(実験成績証明書(2)(甲第
14号証)の追試)
乙第15号証:株式会社東ソー分析センター作成の分析・実験報告書
乙第16号証:民事法研究会発行の「Law&Technology」50号59?67

乙第17号証:日本知的財産協会発行の「知財管理」Vol.59 No.
12 2009 1631?1642頁
乙第18号証:日本弁理士会発行の別冊Patent 2010 別冊第3号
Vol.63 34?49頁
乙第19号証:財団法人経済産業調査会発行の「知財ぷりずむ」 2010
年8月号 No.95 1?22頁
乙第20号証:特開昭60-243012号公報
乙第21号証:倉島巧氏作成の実験報告書(3)
乙第22号証:豊田智規氏作成の実験報告書(4)
乙第23号証:特開2009-137898号公報
乙第24号証:特開2004-277305号公報
乙第25号証:特開2007-176849号公報
乙第26号証:吉川誠次著「食品の官能検査法 光琳全書5」,昭和40年
7月20日,株式会社光琳書院発行、105?106頁
乙第27号証:山形大学大学院理工学研究科物質化学工学専攻落合研究室
作成のウェブページ「数平均分子量と質量平均分子量の考え方」
乙第28号証:特開2008-74712号公報
乙第29号証:特開2008-74713号公報
乙第30号証:特開2011-105675号公報
乙第31号証:愛知教育大学助教・住野豊氏作成に係る平成23年7月15
日付け実験報告書(試料調製および粘度測定結果に関して)
乙第32号証:芝浦システム株式会社作成に係る「ビスメトロン粘度計
VDA2 取扱説明書」
乙第33号証:知財高裁平成23年1月31日判決(平成22年(行ケ)1
0075号)
乙第34号証:株式会社東ソー分析センター作成に係る2010年8月2日
付け分析・試験報告書(請求人製品である「ギャツビークラッシ
ュムーブ(赤)」、「ギャツビー クールモーション(緑)」及
び「ギャツビー スウィングモーション」処方を分析したもの)
乙第35号証:株式会社東ソー分析センター作成に係る2010年11月1
8日付け分析・試験報告書(請求人製品である「ギャツビーエア
リーロツク(赤)」の処方を分析したもの)
乙第36号証:知財高裁平成23年1月31日判決(平成22年(行ケ)
10122号)
乙第37号証:知財高裁平成22年9月21日判決(平成22年(行ケ)
10045号)
乙第38号証:倉島巧氏作成の2011年7月14日付け陳述書
(官能試験方法の説明)
乙第39号証:特許第3886125号公報
乙第40号証:特開2003-267843号公報
乙第41号証:特許第3243356号に対する特許異議申立て事件(異議
2002-71624号)の異議の決定
乙第42号証:特許第2708692号に対する特許異議申立て事件(平成
10年異議第73816号)の異議の決定
乙第43号証:特許第2613135号に対する特許異議申立て事件(平成
9年異議第75487号)の異議の決定
乙第44号証:特許第3740090号に対する特許無効審判事件(無効
2008-800290号)の審決


VI.甲各号証および乙各号証の概略
[甲第1号証]
(甲1-1)「【請求項1】 0.001?5.0重量%の分子量30万?500万の高重合度ポリエチレングリコールと、水が含有されてなることを特徴とする曳糸性毛髪化粧料。
【請求項2】 0.01?10.0重量%の水溶性高分子が含有されてなることを特徴とする請求項1に記載の曳糸性毛髪化粧料。
【請求項3】 ・・・中略・・・
【請求項4】 25℃における粘度が1000cP以上であり、且つ稠度が800gf以下であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の曳糸性毛髪化粧料。」(【特許請求の範囲】参照)
(甲1-2)「【0001】【発明の属する技術分野】本発明は曳糸性毛髪化粧料、特にクリーム状、ワックス状、ジェル状の曳糸性毛髪化粧料に関する。より詳しくは、化粧料を手にとって毛髪に塗布する際に、目視で確認することができる程の曳糸性を有するために滑らかな触感が得られ、しかも、塗布時ののびがよく毛髪全体に広がり一部にまとまって付着することを防ぐことでべたつき感が抑制された曳糸性毛髪化粧料に関する。」(段落【0001】参照)
(甲1-3)「【0003】このような毛髪化粧料にはその目的を達成するために様々な成分が配合されている。例えば、毛髪に潤いを与えるためには湿潤剤や保湿剤が配合されている。また、毛髪を固定して整髪力を高めるとともに化粧料に粘度を付与するためには水溶性高分子が配合されている。水溶性高分子を配合しない場合は、ロウ類や脂肪酸などの固形の油性成分を配合して乳化することにより、整髪力を高めるとともに粘度を付与することが行われている。」(段落【0003】参照)
(甲1-4)「【0007】【発明の実施の形態】以下、本発明に係る曳糸性毛髪化粧料について説明する。本発明に係る曳糸性毛髪化粧料は分子量30万?500万、好ましくは分子量40万?400万、より好ましくは分子量60万?400万の高重合度ポリエチレングリコールの一種又は二種以上が必須成分として配合される。この理由は、分子量が30万未満の場合、目視で確認できるほどの曳糸性を示さず、滑らかな触感が得られないために好ましくないからである。また分子量が500万を超える場合は、粘度が高くなりすぎるために、のびがよくべたつき感の少ない化粧料が得られないために好ましくないからである。
【0008】分子量30万?500万の高重合度ポリエチレングリコールの配合量は特に限定されないが、化粧料全量中、0.001?5.0重量%、好ましくは0.005?4.0重量%、より好ましくは0.01?4.0重量%とされる。市販されている分子量30万?500万の高重合度ポリエチレングリコールとしては、平均分子量が約30万のPolyox WSR N-750(商品名、ユニオンカーバイド社製)、平均分子量が約400万の Polyox WSR-301(商品名、ユニオンカーバイド社製)、平均分子量400?500万のアルコックスE-240(商品名、明成化学工業社製)等を例示することができる。」(段落【0007】?【0008】参照)
(甲1-5)「【0009】本発明では、高重合度ポリエチレングリコールに加えて、水溶性高分子化合物の一種又は二種以上を適宜任意に配合することができる。水溶性高分子化合物は、天然高分子化合物、半合成高分子化合物、合成高分子化合物のいずれも好適に用いることができる。具体的には、ゼラチン、キサンタンガム、グアガム、カラギーナン、ペクチン、ローカストビーンガム等の天然高分子化合物、アルギン酸塩、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース等の半合成高分子化合物、ポリビニルピロリドン、カルボキシビニルポリマー、アクリル樹脂アルカノールアミン液、N-メタクリロイルオキシエチレンN,N-ジメチルアンモニウム-α-N-メチルカルボキシベタイン・メタクリル酸アルキルエステル共重合体、ビニルピロリドン・酢酸ビニル共重合体、ビニルピロリドン・N,N-ジメチルアミノエチルメタクリル酸共重合体等の合成高分子化合物を例示することができる。尚、本発明では、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、カルボキシビニルポリマー、N,N-ジメチルアンモニウム-α-N-メチルカルボキシベタイン・メタクリル酸アルキル共重合体を用いることが好ましく、ポリビニルピロリドン、カルボキシビニルポリマー、N,N-ジメチルアンモニウム-α-N-メチルカルボキシベタイン・メタクリル酸アルキル共重合体を用いることがより好ましい。
【0010】水溶性高分子化合物を配合する場合、その配合量は特に限定されないが、化粧料全量中、0.01?10.0重量%、好ましくは0.1?6.0重量%とされる。」(段落【0009】?【0010】参照)
(甲1-6)「【0013】さらに本発明では、以上説明した成分のほか、保湿剤、界面活性剤、育毛剤、香料、色素、防腐剤、殺菌剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、動植物抽出物、有機粉体、無機粉体、シリコーンオイル、液状油等の通常の毛髪化粧料に配合される成分を適宜任意に配合することができる。
【0014】以上詳述した各成分を水に溶解又は懸濁して、クリーム状、ワックス状、ジェル状等の任意の形態に調製することにより、本発明に係る曳糸性毛髪化粧料とされる。水の配合量は各成分の配合量に応じて適宜設定されるが、化粧料全量中、10?99重量% 、好ましくは15?90重量%、より好ましくは20?80重量%とされる。
【0015】尚、本発明に係る曳糸性毛髪化粧料は、その粘度が25℃で1000cP以上、好ましくは1500cP以上となるように調製されることが望ましい。また、その稠度は、800gf以下、好ましくは1?700gfとなるように調製されることが望ましい。この理由は、粘度が1000cP未満の場合、目視で確認できるほどの曳糸性を示さず、また水っぽく、滑らかな触感が得られないからである。また、稠度が800gfを超える場合も目視で確認できるほどの曳糸性を示さず、加えてのびが悪く、滑らかな触感が得られないからである。
【0016】以上詳述した本発明に係る曳糸性毛髪化粧料の形態は特に限定されないが、ヘアクリーム、ヘアジェル、ヘアワックス、ジェルウォーターとして用いることが好ましい。」(段落【0013】?【0016】参照)
(甲1-7)「【0017】
【実施例】以下、本発明を実施例に基づき説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。尚、配合量は重量%である。
試料の調製
表1の組成に従って実施例1乃至9の各試料を、表2の組成に従って比較例1乃至7の各試料をそれぞれ調製した。尚、高重合度ポリエチレングリコールとしては、平均分子量が約30万のPolyox WSR N-750(ユニオンカーバイド社製)と、平均分子量が約400万の Polyox WSR-301(ユニオンカーバイド社製)を使用した。
【0018】試験例1:官能評価(曳糸性)
あらかじめ石鹸で洗浄した手の甲に、上記調製した実施例1乃至9及び比較例1乃至7の各試料を1gのせた。指を試料に押し付けてから離す際の曳糸性を、以下の基準に従って目視により評価した。評価は3人の官能評価パネラーにより、繰り返し3回行った。評価基準は、曳糸性の強いものを2点、曳糸性は強くないが認められるものを1点、曳糸性がほとんど認められないものを0点とし、その合計点を算出した。合計点が13?18点を◎、9?12点を〇、4?8点を△、0?3点を×とし、結果を後記表1及び2に記載した。
【0019】試験例2:官能評価(のび)
あらかじめ石鹸で洗浄した手の甲に、上記調製した実施例1乃至9及び比較例1乃至7の各試料を1gのせた。試料を指でのばして、のびを評価した。評価は3人の官能評価パネラーにより、繰り返し3回行った。評価基準は、非常にのびのよいものを2点、のびのよいものを1点、のびの悪いものを0点とし、その合計点を算出した。合計点が13?18点を◎、9?12点を〇、4?8点を△、0?3点を×とし、結果を後記表1及び2に記載した。
【0020】試験例3:官能評価(べたつき)
あらかじめ洗浄した10cm、2gの毛束に、上記調製した実施例1乃至9及び比較例1乃至7の各試料を0.5g塗布した。塗布10分後の毛束のべたつきを10名の毛髪評価パネラーにより、1回行った。評価基準は、べたつかないものを2点、ややべたつくものを1点、べたつくものを0点とし、その合計点を算出した。合計点が16?20点を◎、11?15点を〇、6?10点を△、0?5点を×とし、結果を後記表1及び2に記載した。
【0021】試験例4:粘度測定
上記調製した実施例1乃至9及び比較例1乃至7の各試料の粘度を測定した。測定方法は、回転粘度計(TV-20型粘度計、株式会社トキメック社製)を用いて、測定温度:25℃、ローター:No.2、6rpm、1分で測定した。結果を後記表1及び2に記載した。
【0022】試験例5:稠度測定
上記調製した実施例1乃至9及び比較例1乃至7の各試料の稠度を測定した。測定方法は、レオメーター(FUDOHレオメーター、株式会社トキメック社製)を用いて、測定温度:25℃、アダプター:平型17φ、スピード:6cm/分で2cm挿入させた際の最大応力を測定した。結果を後記表1及び2に記載した。
【0023】試験例6:整髪力の評価
上記調製した実施例1乃至9及び比較例1乃至7の各試料の整髪力を評価した。評価方法は、10cm、2gの毛束に、実施例1乃至9及び比較例1乃至7の各試料を0.5g塗布し、全体になじませた後、毛束を円柱状に整えた。この毛束を23℃、60%RHの条件で1時間ぶら下げて放置して、1時間後の毛先の広がりを測定した。毛束は1サンプルにつき3本用い、広がりの平均値が0?1cmのものを◎、1?2cmのものを○、2?3cmのものを△、3cm以上のものを×とし、結果を後記表1及び2に記載した。」(段落【0017】?【0023】参照)
(甲1-8)「【0024】 【表1】

【0025】 【表2】

【0026】表1及び表2の結果の通り、本発明に係る曳糸性毛髪化粧料は、のびがよく簡単に広がるためにべたつき感が少なく、しかも目視で確認することができるほどの曳糸性を有していることが分かる。」(段落【0024】?【0026】参照)
(甲1-9)「【0027】以下、本発明に係る曳糸性毛髪化粧料の処方例を示す。尚、配合量は重量%である。
処方例1:ヘアジェル(スーパーハードタイプ)
変性アルコール 20.00
N-メタクリロイルオキシエチレンN,N-ジメチルアンモニウム-α-メチルカルボキシベタイン・メタクリル酸アクリルエステル共重合体
5.00
ポリビニルピロリドン 1.00
高重合度ポリエチレングリコール(平均分子量400万) 0.05
グリセリン 3.00
香料 0.10
ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油 0.10
カルボキシビニルポリマー 0.4
トリエタノールアミン 0.4
精製水 残 量
合計 100.00重量%
【0028】
処方例2:ヘアジェル(ウェットアンドハードタイプ)
変性アルコール 20.00
N-メタクリロイルオキシエチレンN,N-ジメチルアンモニウム-α-メチルカルボキシベタイン・メタクリル酸アクリルエステル共重合体 2.00
酢酸ビニル・ビニルピロリドン共重合体 1.00
高重合度ポリエチレングリコール(平均分子量30万) 2.00
グリセリン 10.00
マルチトール液 5.00
ポリオキシエチレングリセリン 5.00
香料 0.10
ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油 0.10
カルボキシビニルポリマー 0.5
トリエタノールアミン 0.5
精製水 残 量
合計 100.00重量%
【0029】
処方例3:ヘアワックス
流動パラフィン 15.00
ミツロウ 5.00
カルナウバロウ 5.00
オクタン酸セチル 1.00
モノステアリン酸ポリオキシエチレンソルビタン 2.00
親油型モノステアリン酸グリセリン 2.00
ステアリン酸カリウム 2.00
高重合度ポリエチレングリコール(平均分子量400?500万)0.20
パラベン 0.30
プロピレングリコール 5.00
香料 0.20
精製水 残 量
合計 100.00重量%」(段落【0027】?【0029】参照)
(甲1-10)「【0030】【発明の効果】以上詳述した如く、本発明に係る曳糸性毛髪化粧料は、目視で確認することができる曳糸性を有し滑らかな触感が得られる。しかも、塗布時ののびがよいために毛髪全体に広がり一部にまとまって付着することを防ぐことにより、べたつき感が少ないという優れた効果を奏する。 」(段落【0030】参照)

[甲第2号証]
平成22年9月10日付けの株式会社マンダム中央研究所第一開発研究所スタイリングヘアケアグループのグループリーダー石井丈晴氏による実験成績証明書(1)であり、甲第1号証の処方例2のヘアジェルの粘度を確認したもので、具体的な処方の操作フローを説明するとともに、トキメック社製のB型粘度計を用い、25℃、ローターNo.4、回転数60rpm、1分間経過後測定した結果として、7530mPa・sの粘度あったことが記載されている。試料の調製と粘度測定については次のとおりの記載がある。 なお、平成23年5月26日付け口頭審理陳述要領書第14頁((2)審理事項B2)において、変性アルコールの量が異なっているように見えるのは、各高分子の市販溶液にエタノールが含まれているためであること、その量を算出して同量であることが釈明されている。また、○付き数字は、本審決では表記できないので、「<>」で数字を囲って代替した。以下、同様である。)
「1.試料の調製
下記試作処方に従い、各原料を次頁の操作フローにより調合し、各成分の最終濃度が甲第1号証の処方例2に記載の濃度になるようにヘアジェルを調製した。
(試作処方) (重量%)
<1>エタノール^(※1) 15.3
<2>N-メタクリロイルオキシエチルN,N-ジメチルアンモニウム-α-N-メチルカルボキシベタイン・メタクリル酸アルキルエステル共重合体液^(※2) 6.7
<3>酢酸ビニル・ビニルピロリドン共重合体^(※3) 2.0
<4>高重合度ポリエチレングリコール(平均分子量30万)^(※4) 2.0
<5>グリセリン^(※5) 10.0
<6>マルチトール液^(※6) 5.0
<7>ポリオキシエチレングリセリン^(※7) 5.0
<8>香料 0.1
<9>ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油^(※8) 0.1
<10>カルボキシビニルポリマー^(※9) 0.5
<11>トリエタノールアミン^(※10) 0.5
<12>精製水
合計 100.0
※1)原料名:95°一般発酵アルコール,宝酒造社製(無水エタノール14.26%に相当)
※2)原料名:ユカフォーマー301,三菱化学社製(固形分30%,無水エタノール70%)
※3)原料名:PVA-6450.大阪有機化学工業社製(固形分50%,無水エタノール50%)
※4)原料名:POLYOX WSR N-750CG.ダウ・ケミカル社製
※5)原料名:化粧用濃グリセリン,阪本薬品工業社製
※6)原料名:LYCAS IN 75/77, ROQUETTE社製(固形分75%,水25%)
※7)原料名:コニオンRG-120,新日本理化社製(酸化エチレン12モル付加物)
※8)原料名:NIKKOL HCO-60,日光ケミカルズ社製(酸化エチレン60モル付加物)
※9)原料名:CARBOPOL 941,ノベオン社製
※10)原料名:TEA-99.ジャパンケムテック社製
(操作フロー)
A.<10>を予めディスパーミキサーで攬拌しながら精製水に徐々に投入し、1.5%カルボキシビニルポリマー水溶液とした。
B.<11>を予め精製水に希釈し、50%トリエタノールアミン水溶液とした。
C.<1>に<2>、<3>、<8>、<9>を加え、均一に溶解するまで攬拌し、アルコール相とした。
D.アルコール相に<4>を加え、パドルミキサーで攬拌しながら残りの精製水を徐々に投入し、均一化を行った。
E.さらに<5>、<6>、<7>及びBで調製した50%トリエタノールアミン水溶液を加え、均一化を行った。
F.最後に、Aで調製した1.5%カルボキシビニルポリマー水溶液を加え、十分に均一化を行い調合終了とした。
2.粘度の測定
上記試料の調製で得たヘアジェルをマヨネーズ瓶(満中量140mL)に120mL程度充填し、下記測定条件で粘度を測定した。
粘度計:TV-22型(MODEL:TVB-22L)B型粘度計、トキメック社製
測定条件:25℃、ローターNo. 4、回転数6 0 rpm、 1分間経過後測定
測定結果は、7. 530mPa・sであった。」

[甲第3号証]
(甲3-1)「【請求項1】 次の成分(A)?(E)
(A)整髪性ポリマー:0.5?10重量%
(B)水酸基を2個以上有し、分子量62以上1000以下であり、30℃で液状の溶剤:1?25重量%
(C)ソルビタンモノオレエート、・・・(略)・・・
(D)エタノール及び/又は水
を含有する原液、並びに
(E)噴射剤
を耐圧容器中に含有し、(A)/(B)の重量比が0.42?2.3であるエアゾール化粧料。
・・・
【請求項5】 原液の粘度は、1?12mPa・sの範囲内であり、・・・のエアゾール化粧料。」(【特許請求の範囲】の【請求項1】,【請求項5】参照)
(甲3-2)「【0007】 本発明のエアゾール化粧料は、噴霧された原液が、毛髪上に細かな液滴からなる粘着性被膜を形成して、毛髪同士を固着することなく点接着して、ふんわりとした軽い仕上がりと再整髪性が可能である。」(段落【0007】参照)
(甲3-3)「【0008】成分(A)の整髪性ポリマーとしては、・・・(メタクリロイルオキシエチルカルボキシベタイン/メタクリル酸アルキル)コポリマー、・・・・、(ビニルピロリドン/VA)コポリマーなどが挙げられる。」(段落【0008】参照)、
(甲3-4)「【0010】 これら整髪性ポリマーは、成分(A)として・・・その含有量は、毛髪を点接着してふんわりとした軽い仕上がりにし、これを保持する観点より、・・・原液中の0.5?10重量%とされるが、1?8重量%、特に1.5?7重量%が好ましい。」(段落【0010】参照)
(甲3-5)「【0011】 成分(B)の溶剤は、・・・プロピレングリコール・・・、1,3-ブチレングリコール・・・、グリセリン・・・、ジプロピレングリコール・・・、ポリエチレングリコール600等が挙げられる。・・・」(段落【0011】参照)
(甲3-6)「【0012】 これらの溶剤は、成分(B)として・・・その含有量は、・・・再整髪を可能とする点から、・・・原液中の1?25重量%とされるが、2?10重量%、特に4?8重量%が好ましい。」(段落【0012】参照)
(甲3-7)「【0013】成分(A)と(B)の含有重量比は、ふんわりとした軽い仕上がりと再整髪を可能とする適度な粘着性被膜を形成させる点から、重量比(A)/(B)が0.42?2.3となるように調整されるが、更には0.47?2.1、特に0.52?1.9の範囲に調整することが好ましい。」(段落【0013】参照)
(甲3-8)【表1】中の実施例1、2では、セット力と再整髪力が共に優れ、かつ、ごわつきなしで、ふんわりした仕上がりの持続性を認めた結果が記載されていて、実施例1、2は、エタノールをベースとした水系であり、かつ、それぞれ8.7mPa・s,4.1mPa・sという低粘度であることが示されている。(【0036】参照)

[甲第4号証]
(甲4-1)「【請求項1】
(a)毛髪固定用高分子化合物0.05?10%と、
(b)多価アルコール
(c)一価のアルコール20?75%
(d)噴射剤25?80%
を含有し、かつ、(b)/(a)=0.1?5の範囲にあることを特徴とする霧状毛髪化粧料。
・・・
【請求項3】
(b)多価アルコールが、1,3-ブチレングリコール、ジプロピレングリコール、及び平均分子量1000以下のポリエチレングリコールの群から選ばれる1種または2種以上である請求項1または2のいずれかに記載の霧状毛髪化粧料。」(【請求項1】,【請求項3】参照)
(甲4-2)「【0006】 すなわち本発明の目的は、整髪力に優れ、容易に櫛が通り、かつ、再整髪性に優れた霧状毛髪化粧料を提供することにある。」(段落【0006】参照)
(甲4-3)「【0010】 本発明によって、整髪力に優れ、容易に櫛が通り、かつ、再整髪性に優れた霧状毛髪化粧料を提供することができる。」(段落【0010】参照)
(甲4-4)「【0012】 本発明で用いられる(a)毛髪固定用高分子化合物は、・・・アクリル酸アルキル共重合体、・・・ポリビニルピロリドン・・・、ビニルピロリドン/酢酸ビニル共重合体・・・、・・・アクリル酸アルキル共重合体が用いられる。」(段落【0012】参照)
(甲4-5)「【0013】 上記毛髪固定用高分子化合物の配合量は霧状毛髪化粧料の総量を基準として、0.05?10質量%(以下、%と略す)であり、好ましくは0.1?7%である。すなわち、十分な整髪力を得るために、配合量0.05%以上であり、ごわつきやべたつきの無いものを得るために、10%以下の配合量である。」(段落【0013】参照)
(甲4-6)「【0015】 これらの成分(b)の本発明の霧状毛髪化粧料中への配合割合としては、(a)毛髪固定用高分子化合物に対し、(b)/(a)=0.1?5の範囲であり、好ましくは0.3?3の範囲である。(b)/(a)が0.1?5の範囲であると、整髪力に優れ、容易に櫛が通り、かつ、再整髪性に優れる効果を十分に発揮することが出来る。」(段落【0015】参照)
(甲4-7)表1には、所定の(b)/(a)を満たす実施例1?6に関し、再整髪性、べたつきのなさ、不自然な艶のなさなどにおいて優れた結果が示され(段落【0035】の表1)ていて、「【0036】表1より明らかなように、本発明の霧状毛髪化粧料は、再整髪性、べたつきのなさ、不自然な艶のなさ、溶解性の全てにおいて優れていた。」(段落【0036】参照)

[甲第5号証]
(甲5-1)「【請求項1】・・・・・(c1)数平均分子量1000?15000のポリエチレングリコールおよび(c2)グリセリンを合計で3.0?8.0重量%の量で含有してなる毛髪化粧料であって、・・・・(c1):(c2)の重量比で1:1?3の割合で含むことを特徴とする毛髪化粧料・・・・」(【請求項1】参照)
(甲5-2)「【0018】 本発明の化粧料によれば、毛髪に対して優れた塗布性能を発揮し、毛髪にしなやかなで軽い質感と潤い、指どおりのよさと毛束単位での適度なまとまり感、ツヤを容易に与えることができる上、優れた保存安定性を実現できる。」(【0018】参照)
(甲5-3)「【0039】・・・ポリエチレングリコールの数平均分子量は、化粧品原料基準(厚生省薬務局審査課監修、(株)薬事日報社発行、1982年、第2版、321?326ページ)に記載の方法で求められる。具体的には、以下の手順で求められる。
【0040】
試料(ポリエチレングリコール)約12.5gを精密に量り、約200mlの耐圧共せんびんに入れ、ピリジン約25mlを加え、加温して溶かし、放冷する。別に無水フタル酸42gをとり、新たに蒸留したピリジン300mlを正確に量って入れた1Lのしゃ光した共せんびんに加え、強く振り混ぜて溶かした後、16時間以上放置する。この液25mlを正確に量り、先の耐圧共せんびんに加え、密せんし、丈夫な布でこれを包み、あらかじめ98±2℃に加熱した水浴中に入れる。この際、びんの中の液が水浴の液の中に浸るようにする。98±2℃で30分間保った後、水浴からびんを取り出し、室温になるまで空気中で放冷する。次に0.5N水酸化ナトリウム液50mlを正確に加え、この液につき、0.5N水酸化ナトリウム液で滴定する(指示薬:フェノールフタレイン・ピリジン溶液(1→100)5滴)。ただし、滴定の終点は液が15秒間持続する淡赤色を呈するときとする。同様の方法で、空試験を行う。
【0041】
これらの結果を以下の数式に当てはめ、ポリエチレングリコールの数平均分子量を決定する。ただし、以下の数式中、aは空試験における0.5N水酸化ナトリウム液の消費量(ml)、bは試料の試験における0.5N水酸化ナトリウム液の消費量(ml)を表す。
【0042】 【数1】
数平均分子量=試料の量(g)×4000/(a-b) 」(段落【0039】?【0042】参照)
(甲5-4)「【0043】 本発明では、さらに上記の数平均分子量を有するポリエチレングリコール(c1)と、グリセリン(c2)とを組み合わせて用いる。該(c1)成分と(c2)成分とを組み合わせて使用することにより、毛髪に毛束単位での柔らかでしなやかなまとまり感を付与できる。」(段落【0043】参照)、
(甲5-5)「【0045】 このように、前記(c1)成分および(c2)成分が、合計で上記範囲内の量で含まれ、かつ、これらの成分重量比が上記範囲内であると、毛髪に毛束単位での柔らかでしなやかなまとまり感を付与するだけでなく、さらに潤いをも毛髪化粧料の塗布性能を低下させることなく付与できる。」(段落【0045】参照)
(甲5-6)「【0050】 また、本発明の毛髪化粧料の形状はとくに限定されず、乳液、クリーム、ジェル、フォーム、スプレー、ミストなどのいずれでもよいが、剤の安定性の点からは、乳化した形状が好ましい。また、毛髪化粧料である限り、その用途もとくに限定されないが、たとえば、ヘアローション、ヘアクリーム、ヘアワックス、ヘアースプレーなどの整髪料、シャンプー、リンス、コンディショニング剤などが挙げられる。」(段落【0050】参照)

[甲第6号証]
(甲6-1)「【請求項1】 (A)整髪性ポリマー及び(B)可塑剤を含有し、下記測定方法により測定される粘着力が20gf/cm^(2)以上であるエアゾール式毛髪化粧料を、髪を持ち上げ、持ち上げた髪の内側にスプレーする整髪方法。・・・」(【請求項1】参照)。
(甲6-2)「【0007】 本発明によれば、ふわっと軽いまとまりが得られ、仕上がったヘアスタイルを長時間保持すると共に、ヘアスタイルが崩れた場合にも再整髪可能で、しかもべたつきやゴワつきがない。」(段落【0007】参照)
(甲6-3)「【0008】 本発明で用いる・・エアゾール式毛髪化粧料において、成分(A)の整髪性ポリマーとしては、・・・・(メタクリロイルオキシエチルカルボキシベタイン/メタクリル酸アルキル)コポリマー、・・・・アクリル酸アルキル共重合体・・・、・・・・(ビニルピロリドン/酢酸ビニル)コポリマーなどが挙げられる。
【0009】・・・・」(段落【0008】?【0009】参照)
(甲6-4)「【0010】 これら整髪性ポリマーは、成分(A)として・・・、またその含有量は、毛髪を点接着してふわっとした軽い仕上がりにし、これを保持する観点より、エアゾール式毛髪化粧料における原液中の0.5?10質量%、特に1?8質量%、更に1.5?7質量%であるのが好ましい。」(段落段落【0010】参照)
(甲6-5)「【0011】 成分(B)の可塑剤としては、・・・。【0012】・・・具体的には、・・・プロピレングリコール、1,3-ブチレングリコール、グリセリン、・・・ポリエチレングリコール600等の多価アルコールが挙げられる。」(段落【0011】?【0012】参照)
(甲6-6)「【0016】 成分(B)可塑剤の含有量は、整髪性ポリマーの充分な可塑化と可塑化により生じる粘着力を充分に確保する点から、エアゾール式毛髪化粧料における原液中の1?25質量%、特に2?10質量%、更に4?8質量%であるのが好ましい。」(段落【0016】参照)
(甲6-7)「【0018】 また、成分(A)と(B)の含有質量比は、ふわっと軽い仕上がりと再整髪を可能とする粘着状態を形成させる点から、質量比(A)/(B)が0.42?2.3、特に0.47?2.1、更に0.52?1.9の範囲になるよう調整することが好ましい。」(段落【0018】参照)
(甲6-8)「【0021】 原液は、30℃における粘度が15mPa・s以下、特に10mPa・s以下であるのが、原液を微細な液滴として噴射するために好ましい。なお、ここでの粘度は、ブルックフィールド型粘度計(ローターBLアダプター,回転数30rpm,60秒間、30℃)により測定した値を示す。」(段落【0021】参照)。
(甲6-9)表1の実施例では、エタノールをベースとした水系であり、その効果は、例えば、実施例2では、9.6mPa・sという低粘度であるが、整髪性、再整髪性、べたつきのなさ、ごわつきのなさ、ふわっと感に優れた例が示されている。(段落【0052】参照)

[甲第7号証]
(甲7-1)「【請求項1】 ポリエチレングリコール以外の水溶性ポリマー、数平均分子量10万以下のポリエチレングリコール及び数平均分子量50万以上のポリエチレングリコールを含有する毛髪化粧料。」(【請求項1】参照)。
(甲7-2)「【0004】 【発明が解決しようとする課題】従って本発明は、水溶性ポリマーを配合した毛髪化粧料において、水溶性ポリマー由来のべたつき感を抑制するとともに、塗布時の伸びを向上させることを目的とする。
【0005】 【課題を解決するための手段】・・・本発明者らは水溶性ポリマーに数平均分子量が特定範囲にある2種類以上のポリエチレングリコールを併用することにより、上記課題を解決できることを見出した・
【0006】すなわち本発明は、ポリエチレングリコール以外の水溶性ポリマーに数平均分子量10万以下のポリエチレングリコール及び数平均分子量50万以上のポリエチレングリコールを含有する毛髪化粧料を提供するものである。」(段落【0004】?【0006】)
(甲7-3)「【0007】水溶性ポリマーとしては、・・・アクリル酸/メタクリル酸アルキル共重合体、・・・ポリビニルピロリドン、・・・・N-メタクリロイルオキシエチル-N,N-ジメチルアンモニウム-α-N-メチルカルボキシペタイン/メタクリル酸アルキルエステル共重合体・・・等が挙げられる。・・・・」(段落【0007】参照)
(甲7-4)「【0008】数平均分子量10万以下のポリエチレングリコールは、水溶性ポリマーのべたつきを抑える機能を有するものであり、数平均分子量が2万以下、特に6000以下であるものがより好ましい。数平均分子量10万以下のポリエチレングリコールは1種以上を使用でき、本発明の毛髪化粧料中の含有量は、0.1?5.0重量%、特に0.5?3.0重量%が好ましい。
【0009】 数平均分子量50万以上のポリエチレングリコールは、毛髪化粧料の伸びの良さに寄与するものであり、数平均分子量が100万以上、特に150万以上であるものがより好ましい。数平均分子量50万以上のポリエチレングリコールは1種以上を使用でき、本発明の毛髪化粧料中の含有量は、0.005?1.0重量%、特に0.01?0.5重量%が好ましい。
」(段落【0008】,【0009】参照)。
(甲7-5)「【0010】なお、本発明の毛髪化粧料には、・・・例えば溶剤(プロピレングリコール、1,3-ブチレングリコール、グリセリン等)、・・・保温剤・・・を適宜配合することができる。本発明の毛髪化粧料は、前記の2種のポリエチレングリコールを配合したことにより、従来品と異なり、油剤や界面活性剤を配合した場合にも、油性感やべたつきの原因とはならない」」(段落【0010】参照)
(甲7-6)「【0013】 【表1】

*1:数平均分子量1900?2100
*2:数平均分子量18000?25000
*3:数平均分子量250万?300万
*4:数平均分子量360万?400万
*5:数平均分子量30万
【0015】実施例1?4の毛髪化粧料は、塗布時の伸びに優れ毛髪上に均一に塗布できるため自然な毛髪セットができ、かつ仕上がり時におけるポリマー由来のべたつき感が抑えられ感触にも優れていた。
【0016】これに対し、比較例1及び2の毛髪化粧料は、仕上がり時のべたつき感は抑えられているものの、塗布時の伸びが良くなく毛髪に均一に伸びにくいため実施例に比べ毛髪セット性に劣るものであった。比較例3及び4の毛髪化粧料は、塗布時の伸びが良く毛髪セット性は良好であったものの、ポリマー由来のべたつき感が強く感触に劣るものであった。比較例5の毛髪化粧料は、塗布時の伸びが良くないため毛髪セット性も劣り、比較例6の毛髪化粧料は、伸び、セット性、感触の全てにおいて劣っていた。」(段落【0013】?【0016】参照)
(甲7-7)「【0022】本発明の毛髪化粧料は、塗有時の伸びが良好で毛髪セット性に優れるとともに、かつ仕上がり時における水溶性ポリマー由来のべたつき感が抑えられ感触にも優れるものである。」(段落【0022】参照)

[甲第8号証]
(甲8-1)「(A)一価若しくは多価アルコールにアルキレンオキシドを付加重合して得られるポリオキシアルキレン系化合物又は(及び)下記一般式(I)で表されるポリオキシアルキレンアルキルグリコシド
R_(1)-O-(G)-CH_(2)O(C_(m)H_(2m)O)_(n)-H (I)
(式中、Gは炭素数5?6の還元糖残基を示し、R_(1)は炭素数1?18のアルキル基を示し、mは1?3、nは1?500をそれぞれ示す。)
(B)毛髪固定用高分子化合物及び
(C)ポリエチレングリコールを含有することを特徴とする毛髪化粧料。」(請求項1)
(甲8-2)「〔従来の技術〕
従来より、ヘアスタイルを作り易くしたり、ヘアスタイルを長持ちさせる目的で、セットローション、ヘアスプレー へアミスト及びヘアフオーム等の種々の毛髪化粧料が使用されており、これらの毛髪化粧料は、毛髪固定用高分子化合物(以下、主に「高分子化合物」という)を水、低級アルコール又は水・低級アルコールの混合溶媒等の適当な溶剤に溶解させることにより、製造されていた。そして、得られた溶液をそのままの形態で使用されるものがヘアミストであり、また該溶液に適当な液化ガスを噴射剤として混合し、エアゾールとして使用されるものがヘアスプレーであり、泡状として噴射される形態にされたものがヘアフオームである。
また、近年、ヘアスタイルの多様化、個性化に伴い、毛髪化粧料も、高分子化合物を多量に含有させ、より強固に毛髪をセットさせるハードタイプのものが求められている。」(第1頁右下欄4行?第2頁左上欄2行参照)
(甲8-3)「そこで、従来、上記のような欠点を解消することを目的として、前述の毛髪化粧料に、化粧品用油脂類、シリコーンオイル及び界面活性剤等を添加、配合することが行われてきたが、このようにして得られる毛髪化粧料は、油性感が強くなり、べたついたり、整髪力が悪くなったりする等の欠点を有するものであった。
また、しなやかでべたつき感がなく且つ充分な整髪力を有する整髪料として、ポリオキシアルキレン系化合物を含有する整髪料も開発されている(特開昭60-243012号公報)が、毛髪の平滑性が更に改良された整髪料が望まれている。
従って、本発明の目的は、従来の毛髪化粧料の整髪性を損なうことなく、適用後の髪に平滑性(滑らかさ)及び良好な感触を付与し得る毛髪化粧料を提供することにある。
〔課題を解決するための手段〕
本発明者らは、鋭意研究を行った結果、従来の毛髪化粧料に用いられていたポリオキシアルキレン系化合物を用いると共に、これに毛髪固定用高分子化合物及びポリエチレングリコールを併用することにより、上記目的を達成し得る毛髪化粧料が得られることを知見した。」(第2頁左上欄14行?同頁右上欄16行参照)
(甲8-4)「(A)成分の前者の化合物であるポリオキシアルキレン系化合物について説明すると、該化合物を構成する一価アルコールとしては、例えば、メタノール、エタノール、ブタノール、オクタノール及びラウリルアルコール等の脂肪族一価のアルコールが挙げられ、また多価アルコールとしては、例えばプロピレングリコール、グリセリン、2-エチル-2-ヒドロキシメチル-1,3-プロパンジオール、マンニトール及びソルビトール等が挙げられ、アルキレンオキシドとしては、例えばプロピレンオキシド又はエチレンオキシドとプロピレンオキシドとの混合物が挙げられるが、就中プロピレンオキシドが特に好ましい。また、アルキレンオキシドの総付加モル数は2?100モル、好ましくは6?100モル、特に好ましくは8?50モルである。尚、エチレンオキシドとプロピレンオキシドを混合して用いる場合には、エチレンオキシドの付加モル数を総付加モル数の1/3以下とし、ブロック状に付加重合させたものが好ましい。」(第2頁右下欄4行?第3頁左上欄3行参照)。
(甲8-5)「斯る(A)成分であるポリオキシアルキレン系化合物のうち、好ましいものとしては、次の一般式(II)?(V)で表される化合物が挙げられる。
・・・中略・・・

〔式中、プロピレンオキシド平均付加モル数(b+c)は2?100である〕
・・・中略・・・」
(第3頁左上欄4行?同頁右上欄末行参照)
(甲8-6)「(A)成分は、毛髪化粧料中に0.01?50%程度配合することが好ましく、特にヘアリキッドの如き剤型の場合には15?30%、ヘアミストやヘアスプレーの如き剤型で用いる場合には0.01?10%程度、ヘアブローの如き剤型で用いる場合には、0.1?2%程度とすることが好ましい。」(第3頁右下欄2?7行参照)
(甲8-7)「本発明の(B)成分としては、従来の毛髪化粧料に用いられる高分子化合物が使用され、例えば次のものを挙げることができる。
(1)ポリビニルピロリドン系高分子化合物
・・・中略・・・
(2)酸性ビニルエーテル系高分子化合物。
・・・中略・・・
(3)酸性ポリ酢酸ビニル系高分子化合物。
・・・中略・・・
(4)酸性アクリル系高分子化合物。
・・・中略・・・
(5)両性アクリル系高分子化合物。
・・・中略・・・
・・・、例えばユカフォーマーAM75、・・・等が挙げられ、・・・中略・・・」(3頁右下欄8?第4頁右下欄4行参照)
(甲8-8)「(B)成分は、1種又は2種以上組み合わせて用いてもよく、配合量は0.01?20%程度であり、ヘアリキッドの如き剤型の場合には、0.01?0.5%、ヘアミスト、ヘアムース、ヘアスプレー等の如き剤型の場合には、1?10%、ヘアブローの如き剤型の場合には、0.01?5%程度が好ましい。」(第4頁右下欄8?14行参照)
(甲8-9)「本発明の(C)成分であるポリエチレングリコールは、分子量6,000?30,000のものが好ましく、また、毛髪化粧料0.01?50%配合するのが好ましく、特に0.1?20%程度が好ましい。本発明の毛髪化粧料は、上記(A)、(B)及び(C)成分を、水、低級アルコール又は水-低級アルコールの混合溶媒等の溶剤に、常法に従って、それぞれ好ましくは上記の割合となるように溶解させ、更に必要に応じて噴射剤と混合し耐圧容器に充填することにより製造される。
溶剤は、炭素数1?4の低級アルコールが用いられ、本発明の毛髪化粧料の形態に応じて選定するのが好ましく、セットローションとする場合には、水若しくは炭素数2?3の1価アルコール-水の混合溶媒を使用することが好ましく、ポンプスプレー式のへアミストとする場合には、溶剤として炭素数2?3の1価アルコール-水の混合溶媒を使用することが好ましく、ヘアブローとする場合には、炭素数2?3の1価アルコール-ポリオール-水の混合溶媒を用いることが好ましく、ヘアスプレーとする場合には、炭素数2?3の1価アルコール、特にエタノールを使用することが好ましい。」(第4頁右下欄15行?5頁左上欄18行参照)
(甲8-10)「実施例1
下記組成の毛髪化粧料(ヘアブロー)(本発明品1及び2、比較品1?3)を調整し、それらの整髪力及び平滑性をそれぞれ下記試験方法(1)及び(2)により評価した。その結果を第1表に示す。
成 分 重量%
・高分子化合物(ユカフォーマー AM-75) (第1表)
・ポリエチレングリコール(分子量20,000) (第1表)
・ポリオキシプロピレンルグリコールエーテル
〔前記式(III)においてb+c=16のもの〕 (第1表)
・ポリオキシプロピレンメチルグルコシド
〔前記一般式(I)においてGがグルコース由来の糖残基であり、
m=3、n=20のもの] (第1表)
・香 料 0.1%
・95v/v%エタノール 25.0%
・水 バランス
100.0%
試験方法:
(1)整髪力
長さ18cm、重さ1.5gの毛束を水でぬらし、ロッドに巻いて自然乾燥させた後カールのついた毛束からロッドをはずし、カールのついた毛髪に、各ヘアブローをそれぞれ4方向から各1回づつ噴射し、自然乾燥させた。然る後、乾燥したカールのついた毛髪を恒温恒温箱(20℃、98%R・H)に1時間つるし、カールののびを観察し、セット保持力を判定した。判定は、カールした毛髪の長さを測定し、ヘアブローを噴射したときの毛髪の長さを整髪力100%、カールのない元の毛髪の長さ(18cm)を整髪力0%として行った。
(2)平滑性
上記(1)と同し方法でカールさせた毛束を毛髪化粧料で処理し、自然乾燥させた後、専門女性パネル10名により下記の基準に基づいて官能評価を行った。
◎:非常に滑らか
O:滑らか
Δ:どちらともいえない
×:すベリが悪い

実施例2
下記組成の毛髪化粧料(泡状整髪剤)(本発明品3及び4、比較品4?6)を調整し、それぞれを0.5g毛束に塗布・乾燥し、その整髪力及び平滑性をそれぞれ前記試験方法(1)及び(2)に準じて評価した。その結果を第2表に示す。
成 分 重量%
・高分子化合物(プラスサイズ) (第2表〉
・ポリエチレングリコール(分子量6000) (第2表)
・ポリオキシプロピレンソルビトールエーテル (第2表)
〔前記式(V)においてg+h+i+j+k+l=10のもの〕
・ポリオキシプロピレンエチルグルコシド (第2表)
〔前記一般式(I)においてGがグルコース由来の糖残基であり、
m=3、n=20のもの〕
・ポリオキシエチレン-sec-テトラデシルエーテル(ポリオキシエチレ ンの付加モル数9)(ソフタノール90、日本触媒) 0.5%
・95v/vエタノール 10.0%
・香 料 0.5%
・水 バランス
100.0%

」(第5頁左下欄末行?第6頁右下欄下から7行参照)
(甲8-11)「(発明の効果)
本発明の毛髪化粧料は、従来の毛髪化粧料の整髪性を損なうことなく、適用後の髪に平滑性及び良好な感触を付与し得る。」(第7頁右下欄15?18行参照)。

[甲第9号証]
(甲9-1)「【請求項1】ポリアルキレングリコールと油成分と界面活性剤とを含有することを特徴とする泡状整髪剤組成物。
【請求項2】 前記ポリアルキレングリコールが平均分子量300?4000であるポリエチレングリコールで、原液又は組成物全量に対して0.05?30質量%配合したことを特徴とする請求項1記載の泡状整髪剤組成物。」(【請求項1】,【請求項2】参照)
(甲9-2)「【0006】【発明が解決しようとする課題】本発明は、・・・なめらかな仕上がり性を有し、油成分や界面活性剤のもつ好ましくない油性感やべたつきを低減し、ごわつきやぬるつきを生じることなく、しかも泡沫の良好な噴射性を有する泡状整髪剤組成物を提供することを目的とする。」(段落【0006】参照)
(甲9-3)「【0009】・・・。本発明に使用されるポリアルキレングリコールとしては、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコールが挙げられ、特にポリエチレングリコール、更に好ましくは平均分子量が300?4000のポリエチレングリコールであることが本発明の目的を達成する点から好ましい。平均分子量が300未満では油性感やべたつきを低減する効果が得られない。また平均分子量が4000を超えるとべたつきが増大したり、ぬるつき、ごわつきを感じるようになり、しかも泡沫噴口部付近で固結しやすくなり、泡沫の噴射性も悪化する。」(段落【0009】参照)
(甲9-4)「【0010】上記ポリアルキレングリコールの本発明泡状整髪剤組成物への配合量は0.05?30質量%(以下単に%という)が好ましく、0.5?10%が更に好ましい。0.05%未満ではべたつきの改善効果が得られず、目的の効果が得られない。また30%を超えると使用時、乾燥時にべたつき、重さ等を感じるようになる場合がある。」(段落【0010】参照)
(甲9-5)「【0015】以上に述べた泡状整髪剤組成物中には任意成分として本発明の目的が損なわれない範囲で、所望に応じ従来毛髪外用化粧料に慣用されている各種添加成分、例えば水、低級アルコール等の溶剤、・・・等のカチオン性高分子化合物、ポリビニルピロリドン(「PVPK-30、PVPK-90、」GAF社製、商品名)等のノニオン性高分子化合物、メタクリル酸エステル共重合体(「ユカフォーマーAM-75」三菱化学(株)社製、商品名)等の両性高分子化合物、アクリル樹脂アルカノールアミン(「プラスサイズL-7400、プラスサイズL-7480」互応化学(株)社製、商品名)やメチルビニルエーテル/無水マレイン酸共重合体(「ガントレッツES-425、ガントレッツES-225」GAF社製、商品名)等のアニオン性高分子化合物、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブチルエーテル等のポリアルキレングリコールエーテル誘導体、グリセリン、プロピレングリコール等の多価アルコール、トリメチルグリシン、ヒアルロン酸等の保湿剤、・・等が挙げられる。」(段落【0015】参照)
(甲9-6)「【0044】
【実施例】以下に実施例、比較例をあげて本発明を更に詳細に説明するが、本発明は下記実施例に限定されるものではない。なお、各成分の量は質量%である。また、各例において、配合成分の合計は100質量%である。」(段落【0044】参照)
(甲9-7)実施例では、ポリエチレングリコール1000、ポリエチレングリコール1500、ポリエチレングリコール1540、ポリエチレングリコール4000などが使用されている(実施例2?8、10?13)。(段落【0047】?【0056】参照)
(甲9-8)「【0053】
<実施例10> ヘアスタイリングフォーム
メチルポリシロキサン(30mm^(2)/s) 7.0%
高重合メチルポリシロキサン(10万mm^(2)/s) 3.0%
ポリエチレングリコール1500 3.0%
塩化ステアリルトリメチルアンモニウム 0.3%
3-メチル1、3-ブタンジオール 10.0%
メタクリル酸エステル共重合体の両性化合物 注7 2.0%
ポリオキシエチレン(150)ポリオキシプロピレングリコール(35)
1.5%
ポリオキシエチレン(20)ステアリルエーテル 1.0%
カチオン化セルロース 注8 0.5%
オキシベンゾン 0.1%
メチルパラベン 0.3%
プロピルパラベン 0.1%
トリエタノールアミン 0.1%
香料A 0.1%
エタノール 20.0%
液化石油ガス 10.0%
精製水 残 部
計 100.0%
注8:レオガード GPS(ライオン製)」(段落【0053】参照)
(甲9-9)「【0058】上記実施例8?14における油性感のなさ、べたつきのなさ、しっとり感、なめらかさ、ごわつきのなさ、泡沫の噴射性はいずれも良好であった。・・・(後略)。」(段落【0058】参照)

[甲第10号証]
(甲10-1)「【請求項1】皮膜形成樹脂および糖アルコールを含有する原液と噴射剤からなることを特徴とする泡沫状頭髪化粧料。
【請求項2】皮膜形成樹脂が、ビニルピロリドン・N,N-ジメチルアミノエチルメタクリル酸共重合体ジエチル硫酸塩、N-メタクリロイルエチルN,N-ジメチルアンモニウム・α-N-メチルカルボキシベタイン・メタクリル酸アルキル共重合体、アクリル酸オクチルアミド・アクリル酸ヒドロキシプロピル・メタクリル酸ブチルアミノエチル共重合体、アクリル樹脂アルカノールアミン液、ポリビニルピロリドンからなる群より選ばれる1種または2種以上であることを特徴とする請求項1記載の泡沫状頭髪化粧料。
【請求項3】糖アルコールが、ソルビトール及びマルチトールからなる群より選ばれる1種または2種であることを特徴とする請求項2記載の泡沫状頭髪化粧料。」(【請求項1】?【請求項3】参照)。
(甲10-2)「【0003】【発明が解決しようとする課題】しかしながら、このような整髪料は、毛髪のセット効果を高めるために皮膜形成樹脂を多量に配合すると、整髪の際の指通りを悪化させたり、乾いた後に髪のごわつきや皮膜形成樹脂の剥離(フレーキング)を生じることがあった。
また、泡沫状頭髪化粧料においては皮膜形成樹脂を高配合することにより気泡性(泡のふくらみ)が低下することがあった。このような問題を解決するために、・・・」(段落【0003】参照)。
(甲10-3)「【0011】また、本発明において、皮膜形成樹脂は1種または2種以上を組み合わせて用いることができ、その配合量は樹脂分として原液組成中好ましくは0.1?10質量%(以下、特に記載のない場合、質量%を%と略す)、より好ましくは0.3?9%、更に好ましくは0.5?8%である。0.1%未満では皮膜形成樹脂の十分な効果が得られない場合があり、10%を超えると頭髪化粧料としての品質を損なう場合がある。」(段落【0011】参照)
(甲10-4)「【0013】本発明で用いられる糖アルコールは、高い保湿性により毛髪にしなやかさを付与すると考えられる。また、糖アルコールは併用する皮膜形成樹脂に対して可塑剤や改質剤等として働き、毛髪上により柔軟でなめらかな樹脂皮膜を形成し、指通りを向上させるとともに乾燥後のフレーキングを防止する働きを有するものと考えられる。」(段落【0013】参照)
(甲10-5)「【0015】本発明において、糖アルコールは1種または2種以上を組み合わせて用いることができ、その配合量は、固形分として原液組成中好ましくは0.01?20%、より好ましくは0.05?15%、更に好ましくは0.1?10%である。0.01%未満では糖アルコールの十分な効果が得られない場合があり、20%を超えると頭髪化粧料としての品質を損なう場合があり、特に使用中や使用後にべたつきやごわつきを生じる場合がある。」(段落【0015】参照)
(甲10-6)「【0022】実施例1?14および比較例1?2(ヘアスタイリングフォーム)
表1に示す配合組成のへアスタイリングフォームを常法にて調製し、セット保持力、毛髪の束なり感、指通り、フレーキング(皮膜形成樹脂の剥離)、使用後の毛髪の感触(しなやかさ、ごわつきのなさ)および泡のふくらみ(使用性)について評価した。表1に結果を併せて示す。
【0023】【表1】

」(段落【0022】?【0023】)
(甲10-7)「【0030】実施例15(ウェーブ用フォーム)
下記に示す配合組成のウェーブ用フォームを常法にて調製した。
(組成) (成 分)
(%)
(1)N-メタクリロイルエチルN,N-ジメチル
アンモニウム・α-N-メチルカルボキシベタイン
・メタクリル酸アルキル共重合体 *2 1.0
(2)マルビトール 2.0
(3)イソステアリルアルコール 5.0
(4)メチルフェニルポリシロキサン 3.0
(5)ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油 1.2
(6)グリセリン 5.0
(7)エタノール 10.0
(8)香料 適 量
(9)精製水 〔(1)?(9)の原液組成で100%とした〕残 量
原液 92.0
噴射剤(LPG) 6.0
噴射剤(DME) 2.0
*2:ユカフォーマーRFN(三菱化学社製)(純樹脂分としての%で記載)
【0031】得られた実施例15のウェーブ用フォームは、気泡性が良好で使用感も良く、ウェーブのある毛髪に適度な束なり感を持たせ、また優れたセット力を有するものであり、しかも毛髪のしなやかさ、指通りの良さにおいても優れた効果を示すものであった。」(段落【0030】参照)
(甲10-8)「【0034】
【発明の効果】以上詳述した如く、本発明の泡沫状頭髪化粧料は、気泡性(泡のふくらみ)が良好であるために使用性(使いやすさ)が良く、優れた毛髪セット効果を有しながらもべたつきやフレーキング(皮膜形成樹脂の剥離)を生じることなく、毛髪を適度に束ね、しかも指通りが良く、かつ、皮膜形成樹脂の膜の適度な保湿性により、毛髪にごわつきのない、しなやかな感触を与える性質を有し、泡沫状頭髪化粧料として優れた品質を有する。」(段落【0034】参照)

[甲第11号証]
(株)林原製の「MABIT」の製品カタログであり、マルチトールを含有する製品である。
液状タイプでの水分は、「26.0%以下」との規格が示されている。(2枚目の規格の項目を参照)

[甲第12号証]
ポリエチレングリコール1500について、「基原 ポリエチレングリコール300とポリエチレングリコール1540(平均分子量1300?1500)との等量混合物で、平均分子量は500?600である。本品のみ名称の数値と平均分子量が一致しないことに注意する必要がある.」(第947頁15?17行参照)

[甲第13号証]
(甲13-1)ポリエチレングリコール300について、「性状 本品は、無色の液で、・・」(第1379頁4行目)と記載されていて、
(甲13-2)ポリエチレングリコール1540について、「性状 本品は、ワセリンよう物質?固体で、・・」(第1382頁下から4行目)と記載されている。
(甲13-3)ポリエチレングリコールの平均分子量を求める際の「平均分子量試験」について、ポリエチレングリコール200について、
「平均分子量試験 本品約0.8gを精密に量り,約200mLの耐圧共栓瓶に入れ,ピリジン約25mLを加え,加温して溶かし放冷する.別に無水フタル酸42gをとり,新たに蒸留したピリジン300mLを正確に量って入れた1Lの遮光した共栓瓶に加え,強く振り混ぜて溶かした後,16時間以上放置する.この液25mLを正確に量り,先の耐圧共栓瓶に加え密栓し,丈夫な布でこれを包み,あらかじめ98±2℃に加熱した水浴中に入れる.この際,瓶の中の液が水浴の液の中に浸るようにする,98±2℃で30分間加熱した後,室温になるまで放冷する.次に0.5mol/L水酸化ナトリウム液50mLを正確に加え,この液につき,0.5mol/L水酸化ナトリウム液で滴定する.(指示薬:フェノールフタレインのピリジン溶液(1→100)5滴)ただし,滴定の終点は,液が15秒間持続する淡赤色を呈するときとする.同様の方法で空試験を行う.
平均分子量=S×4000/(a-b)
S:試料の量(g)
a:空試験における0.5mol/L水酸化ナトリウム液の消費量(mL)
b:試料の試験における0.5mol/L水酸化ナトリウム液の消費量(mL)」(第1378頁参照)と記載され、同様に、ポリエチレングリコールの平均分子量を求める際の「平均分子量試験」について、ポリエチレングリコール300,400,600,1000,1540,2000,4000,6000,11000,20000の各項目においても、「・・本品約oog・・」のg数が異なっている点を除き同様な記載がある。(第1379?1387頁の全ての頁参照)

[甲第14号証]
平成22年9月10日付けの石井丈晴氏による実験成績証明書(2)であり、本件発明の要件を充足する(a)成分=0.1質量%、(b)成分=1質量%、(c)成分=1質量%、(d)成分=10質量%の化粧料について、実験を行ったところ、「べたつき感のなさ」に関し、「×」評価であり、少なくとも、この点において、本件発明の所定の効果を奏さないことを報告している。具体的な実験は、次のとおり。
「1.前提条件
本件特許の(a)成分が0.1質量%の場合、(b)成分の上限値は1質量%となり、このときの(c)成分の上限値は1質量%となる。(d)成分の配合量を10質量%として、本件特許の効果を確認した。
2.試料の調製 以下の実験例処方に従い、各成分をエタノールおよびイオン交換水に溶解し、評価用の試料を調製した。
尚、ソルビトールは、商品名「ソルビット L-70」(三菱商事フードテック社製)を用いた。メタクリロイルオキシエチルカルボキシベタイン・メタクリル酸アルキル共重合体は、商品名「ユカフォーマー301」(三菱化学社製)を純分換算して用いた。また、エタノールの配合量は、商品名「ユカフォーマー301」中のエタノール量との合計量を表す。
また、質量平均分子量400のポリエチレングリコールおよび質量平均分子量1540のポリエチレングリコールは、市販品として販売されていないことから、医薬部外品原料規格に規定されるポリエチレングリコール400およびポリエチレングリコール1540を用いた。
(実験例処方)
イオン交換水 残余
エタノール 40
ポリエチレングリコール1540 0.1
ソルビトール 10
ポリエチレングリコール400 1
メタクリロイルオキシエチルカルボキシ
ベタイン・メタクリル酸アルキル共重合体 1
香料 0.2
合 計 100.0(質量%)
3.試料の評価
上記で調製した試料を、本件特許の実施例に記載の方法により評価した。すなわち、1束の黒色バージンヘア(長さ20cm、質量4g)に試料を0.5gずつ塗布し、[整髪力]、[再整髪力]、[べたつき感のなさ]、[仕上がりの軽さ]について、専門パネラー(10名)により評価を行った。
尚、本件特許の記載からは、各効果の比較基準が不明であることから、評価項目[べたつき感のなさ]については、本件特許の比較例1の処方により調製した試料を比較基準(基準ポイント:4ポイント)とし、評価項目[整髪力]、[再整髪力]、[仕上がりの軽さ]については、本件特許の比較例4の処方により調製した試料を比較基準(基準ポイント:4ポイント)とした。
評価は、比較基準(基準ポイント4点)と比較し、下記の1?7段階
7ポイント:非常に良い
6ポイント:良い
5ポイント:やや良い
4ポイント:同程度
3ポイント:やや良くない
2ポイント:良くない
1ポイント:非常に良くない
で評価した。
各効果の評価結果は、上記の1及び2ポイントを1点、3ポイントを2点、4ポイントを3点、5ポイントを4点、6及び7ポイントを5点とし、その合計点により、下記評価基準により評価した。
(評価基準)
◎:合計点が40点以上
○:合計点が30点以上40点未満
△:合計点が20点以上30点未満
×:合計点が20点未満、とした。
4.評価結果
上記の評価結果を以下に示す。
[整髪力] :○
[再整髪力] :○
[べたつき感のなさ]:×
[仕上がりの軽さ] :△
5.考察
評価の結果、[べたつき感のなさ]の評価は、「×」となった。これは、(d)成分(ソルビトール)を高配合量とし、かつ(c)成分の皮膜形成性高分子(メタクリロイルオキシエチルカルボキシベタイン・メタクリル酸アルキル共重合体)と混和することにより高粘着力が発現するためである。」

[甲第15号証]
平成22年9月10日付けの石井丈晴氏による実験成績証明書(3)であり、本件明細書に記載の実施例4について実験を行ったところ、「べたつき感のなさ」と「仕上がり感の軽さ」の評価が、いずれも「×」であり、本件発明の所望の効果を奏さないものであることを報告している。実験の内容は次のとおり。
「1.試料の調製
本件特許の実施例4、比較例1および比較例4の処方に従い、各成分をエタノールおよびイオン交換水に溶解し、評価用の試料を調製した。
尚、ソルビトールは、商品名「ソルビット L-70」(三菱商事フードテック社製)を用いた。メタクリロイルオキシエチルカルボキシベタイン・メタクリル酸アルキル共重合体は、商品名「ユカフォーマー301」(三菱化学社製)を純分換算して用いた。また、エタノールの配合量は、商品名「ユカフォーマー301」中のエタノール量との合計量を表す。
また、質量平均分子量400のポリエチレングリコール、質量平均分子量1540のポリエチレングリコールおよび質量平均分子量6000のポリエチレングリコールは、市販品として販売されていないことから、医薬部外品原料規格に規定されるポリエチレングリコール400、ポリエチレングリコール15 4 0およびポリエチレングリコール6000を用いた。
実施例4 比較例1 比較例4
イオン交換水 残余 残余 残余
エタノール 40 60 40
ポリエチレングリコール1540 - - 5
ポリエチレングリコール6000 5 - -
ソルビトール 5 5 5
ポリエチレングリコール400 5 5 5
メタクリロイルオキシエチルカルボキシ
ベタイン・メタクリル酸アルキル共重合体 2.1 2.1 -
香料 0.2 0.2 0.2
合計 100.0 100.0 100.0
2.試料の評価
上記で調製した試料を、本件特許の実施例に記載の方法により評価した。すなわち、1束の黒色バージンヘア(長さ20cm、質量4g)に試料を0.5gずつ塗布し、[整髪力]、[再整髪力]、[べたつき感のなさ]、[仕上がりの軽さ]について、専門パネラー(10名)により評価を行った。
尚、本件特許の記載からは、各効果の比較基準が不明であることから、評価項目[べたつき感のなさ]については、本件特許の比較例1の処方により調製した試料を比較基準(基準ポイント:4ポイント)とし、評価項目[整髪力]、[再整髪力]、[仕上がりの軽さ]については、本件特許の比較例4の処方により調製した試料を比較基準(基準ポイント:4ポイント)とした。
評価は、比較基準(基準ポイント4点)と比較し、下記の1?7段階
7ポイント:非常に良い
6ポイント:良い
5ポイント:やや良い
4ポイント:同程度
3ポイント:やや良くない
2ポイント:良くない
1ポイント:非常に良くない
で評価した。
各効果の評価結果は、上記の1及び2ポイントを1点、3ポイントを2点、4ポイントを3点、5ポイントを4点、6及び7ポイントを5点とし、その合計点により、下記評価基準により評価した。
(評価基準)
◎:合計点が40点以上
○:合計点が30点以上40点未満
△:合計点が20点以上30点未満
×:合計点が20点未満、とした。
3.評価結果
上記の評価結果と、本件特許に記載の評価結果を以下に示す。

尚、比較基準を基準ポイント(4ポイント(3点))としたことから、比較基準を上記評価基準に照らすと、合計点は30点となり、評価「○」に相等することとなる。
4.考察
本件特許の追試実験の結果、本件特許の実施例4に記載の効果性「べたつき感のなさ」、「仕上がり感の軽さ」について、大きな相違が認められた。この相違について、以下に考察する。
評価項目「べたつき感のなさ」について、本件特許では比較例1が「△」、実施例4が「○」と評価されている。これに対して、追試実験の結果、比較例1は「比較基準」としたので「○」に相当する。にもかかわらず、実施例4の評価は「×」となり、本件特許の評価「○」と全く異なる評価結果が得られた。
実施例4と比較例1との配合成分の相違は、ポリエチレングリコール6000の有無とエタノールの配合量のみである。そうすると、エタノールの配合量が多く、ポリエチレングリコール6000を含まない比較例1の方が、べたつかない(「べたつき感のなさ」に優れる)と一般に予想され、追試実験の結果はその一般論からしても妥当な結果である。
また、評価項目「仕上がりの軽さ」について、本件特許では比較例4が「△」、実施例4が「○」と評価されている。これに対して、追試実験の結果、比較例4は「比較基準」としたので「○」に相当する。にもかかわらず、実施例4の評価は「×」となり、本件特許の評価「○」と全く異なる評価結果が得られた。
実施例4と比較例4との配合成分の相違は、固体のポリエチレングリコールの平均分子量の相違と、皮膜形成性高分子の有無のみである。そうすると、固体のポリエチレングリコールがより低分子量であり、皮膜形成性高分子を含まない比較例4の方が、軽い仕上がりになると一般に予想され、追試実験の結果はその一般論からしても妥当な結果である。」

[甲第16号証]
(甲16-1)「【請求項1】
(a)常温(25℃)で固体の、(a_(1))ポリアルキレングリコール重合体、または(a_(2))糖アルコールと、
(b)常温(25℃)で液体のポリアルキレングリコール重合体と、
(c)皮膜形成性高分子と、
を含有し、(a)成分:(b)成分=1:0.2?1:10(質量比)であり、(b)成分:(c)成分=1:0.1?1:1(質量比)であり、(a)?(c)成分の合計量が8質量%以上であり、系の粘度が10,000mPa・s以下(25℃、B型粘度計)である整髪用化粧料。
【請求項2】
(a_(1))成分が質量平均分子量1,000?20,000のポリエチレングリコールである、請求項1記載の整髪用化粧料。
【請求項3】
(b)成分が質量平均分子量200?900のポリエチレングリコールである、請求項1または2記載の整髪用化粧料。
【請求項4】
粘度が100mPa・s以下(25℃、B型粘度計)であって、使用時に霧状に噴霧して用いる、請求項1?3のいずれか1項に記載の整髪用化粧料。」(第1頁の【請求項1】?【請求項4】参照)
(甲16-2)「【0015】
本発明により、低粘度でありながら整髪力および再整髪力に優れ、しかも、べたつきがなく、滑らかで、仕上がりの軽さに優れる水性系の整髪用化粧料が提供される。」(第3頁の段落【0015】)
(甲16-3)「【0017】
[(a)成分]
(a)成分は、常温(25℃)で固体の、(a_(1))ポリアルキレングリコール重合体、または(a_(2))糖アルコールである。本発明では(a)成分として、(a_(1))成分あるいは(a_(2))成分のいずれか一方のみを配合する。(a_(1))成分と(a_(2))成分の両者をともに配合する態様は含まない。
【0018】
<(a_(1))成分>
常温(25℃)で固体のポリアルキレングリコール重合体としては、エチレンオキシド(EO)構成単位が重合したEO重合体、プロピレンオキシド(PO)構成単位が重合したPO重合体、ブチレンオキシド(BO)構成単位が重合したBO重合体、あるいは上記の構成単位が共重合した各共重合体等が好適例として挙げられる。特にはEO重合体、EO構成単位とPO構成単位を含むEO・PO共重合体、EO構成単位とBO構成単位を含むEO・BO共重合体等が好ましい。共重合の形式は特に限定されるものでなく、ブロック共重合、グラフト共重合、ランダム共重合等、任意である。
【0019】
EO重合体としては、質量平均分子量(Mw。以下、単に「分子量」とも記す)が1,000以上のポリエチレングリコール(PEG)が好ましい。分子量の上限は特に限定されるものでないが、概ね20,000程度以下が好ましい。具体的には分子量1,000のPEG(以下、「PEG1,000」というように記す)、PEG1,540、PEG2,000、PEG4,000、PEG6,000、PEG8,000、PEG10,000、PEG11,000、PEG20,000等が例示される。中でもPEG1,000?10,000がより好ましく、さらに好ましくはPEG1,000?8,000、特にはPEG1,000?6,000が、整髪力、再整髪力等の点から好ましい。
・・・中略・・・
【0033】
<(a_(2))成分>
常温(25℃)で固体状の糖アルコールは、糖類のカルボニル基を還元して得られる多価アルコールである。具体的には、マルチトール(「マルビット」;物産フードサイエンス(株)製)、ソルビトール(「ソルビトールC」;物産フードサイエンス(株)製)、リビトール、マンニトール、アラビトール、ガラクチトール、キシリトール、エリトリトール、イノシトール等を例示することができる。中でもべたつき、ごわつきのなさ等の点からソルビトール、マルチトールが好ましい。
【0034】・・・中略・・・
【0035】
(a)成分の配合量は、本発明整髪用化粧料中、0.1?20質量%が好ましく、より好ましくは3?8質量%である。0.1質量%未満では(a)成分による十分な効果を得ることが難しく、一方、20質量%を超えて配合しても、配合量に見合った効果の増大がみられないばかりか、粘度が高くなる傾向がみられ、油性感やべたつき、仕上がりの重さ等の点で好ましくない。・・・(後略)。」(第4?6頁の段落【0017】?【0035】)
(甲16-4)「【0036】
[(b)成分]
常温(25℃)で液体のポリアルキレングリコール重合体としては、EO構成単位が重合したEO重合体、PO構成単位が重合したPO重合体、BO構成単位が重合したBO重合体、あるいは上記の構成単位が共重合した各共重合体等が好適例として挙げられる。特にはEO重合体、EO構成単位とPO構成単位を含むEO・PO共重合体、EO構成単位とBO構成単位を含むEO・BO共重合体等が好ましい。共重合の形式は特に限定されるものでなく、ブロック共重合、グラフト共重合、ランダム共重合等、任意である。
【0037】
EO重合体としては、仕上がりの軽さ、滑らかさ、べたつき感のなさ等の点から、分子量が900以下のポリエチレングリコール(PEG)が好ましく、特には分子量600以下のポリエチレングリコールが好ましい。分子量の下限は特に限定されるものでないが、概ね200程度以上が好ましく、特には300程度以上が好ましい。具体的にはPEG200、PEG300、PEGH400、PEG600等が例示される。
・・・中略・・・
【0043】
(b)成分の配合量は、本発明整髪用化粧料中、0.1?30質量%が好ましく、より好ましくは5?15質量%である。0.1質量%未満では(b)成分による十分な効果を得ることが難しく、一方、30質量%を超えて配合しても、配合量に見合った効果の増大がみられないばかりか、粘度が高くなる傾向がみられ、べたつき、仕上がりの重さ等の点で好ましくない。」(第6頁の段落【0036】?【0043】)
(甲16-5)「【0044】
[(c)成分]
皮膜形成性高分子としては、特に限定されるものでなく、従来よりヘアスタイリング剤等の整髪用化粧料に用いられている皮膜形成性高分子を任意に用いることができる。本発明では再整髪性等の点から、アクリル系、ビニル系、ウレタン系の皮膜形成性高分子が好ましく用いられる。」(第6?7頁の段落【0044】)
(甲16-6)「【0067】
[整髪力]
1束の黒色バージンヘア(長さ20cm、質量4g)に試料を0.5g塗布し、指でなじませた後のヘアスタイルの作りやすさについて、女性専門パネラー(10名)による官能試験にて評価した。
【0068】
[再整髪力]
1束の黒色バージンヘア(長さ20cm、質量4g)に試料を0.5g塗布し、常温にて1時間乾燥させた後の毛束について、つまんでねじって動かしたときのアレンジのしやすさについて、女性専門パネラー(10名)による官能試験にて評価した。
【0069】
[べたつき感のなさ]
1束の黒色バージンヘア(長さ20cm、質量4g)に試料を0.5g塗布し、指でなじませた後の毛髪のべたつきのなさについて、女性専門パネラー(10名)による官能試験にて評価した。
【0070】
[滑らかさ]
1束の黒色バージンヘア(長さ20cm、質量4g)に試料を0.5g塗布し、指でなじませ仕上げた後の毛髪表面の滑らかさについて、女性専門パネラー(10名)による官能試験にて評価した。
【0071】
[仕上がりの軽さ]
1束の黒色バージンヘア(長さ20cm、質量4g)に試料を0.5g塗布し、指でなじませ仕上げた後の仕上がりの軽さについて、女性専門パネラー(10名)による官能試験にて評価した。
<評価点>
5点:非常良い
4点:良い
3点:普通(どちらともいえない)
2点:やや良くない
1点:良くない
<評価基準>
◎:評価点合計が40点以上
○:評価点合計が30点以上40点未満
△:評価点合計が20点以上30点未満
×:評価点合計が20点未満。」(第9?10頁の段落【0067】?【0071】)
(甲16-7)以下の表2(第12頁の段落【0074】)


[甲第17号証]
「本発明は、整髪用化粧料において皮膜形成性樹脂として汎用されている基剤である(c)成分を含む系に、常温で固体の(a)成分と、常温で液体の(b)成分とを、(b)/(a)=0.2?10、(c)/(b)=0.1?1という極めて限定された配合比率で水性溶媒中に溶解させて配合するとともに、(a)?(c)成分の合計配合量を8質量%以上とし、粘度10,000mPa・s以下の水系整髪料とした点に特徴があり、このような構成を採ることによって初めて、水系低粘度でありながら、整髪力と再整髪力の両立を、使用感(べたつかない、軽い仕上がり、滑らかさ)効果も伴ってバランスよく達成することができたという、これまでになかった新しいタイプの水系低粘度の整髪用化粧料を完成することができたというものである(本願明細書【0015】、【0060】、【0075】等)。・・・中略・・・本発明のように、髪型を固めるのではなく、指や手櫛などで使用者が自在に軽い仕上がりのヘアスタイルを作り、時間経過後に、指でつまんでねじってヘアスタイルのアレンジを自在に行うことができ、しかもこれら整髪力、再整髪力と、使用感(べたつかない、軽い使用感、滑らか感)効果をバランスよく達成することができたという整髪料は、これまで実現していなかった。」(第3頁32行?第4頁3行参照)

[甲第18号証]
平成23年1月27日付けの香川大学名誉教授・山野善正氏作成の実験報告書であり、「甲第2号証の追試の結果、甲第1号証の処方例2に記載野ヘアジェルの粘度は、2種類の粘度計で測定した結果、甲第2号証の結果と略同じ粘度が確認された。」ことを報告している。その実験の内容については、次のとおり、なお、ヘアジェル処方は、甲第2号証のものと同じなので、摘示は省略する。
「(操作フロー)
A.ディスパーミキサーで攬拌しながら32.8重量%の精製氷に<10>を徐々に投入し、予め1.5%カルボキシビニルポリマー水溶液を調製した。
B.0.5重量%の精製水に<11>を希釈し、予め50%トリエタノールアミン水溶液を調製した。
C.<1>に<8>及び<9>を加えて攪拌溶解し、その後<2>及び<3>を更に加えて均一に溶解するまで攬拌し、アルコール相とした。
D.Cで得たアルコール相に<4>を加え、パドルミキサーで攬拌しながら残りの精製水(19.5重量%)を徐々に投入し、均一化を行った。
E.Dの均一化溶液に更に<5>、<6>、<7>、及びBで得た50%トリエタノールアミン水溶液を加え、均一化を行った。
F.最後に、Aで得た1.5%カルボキシビニルポリマー水溶液を加え、十分に均一化を行い調合終了とした。
(2)粘度の測定
上記試料の調製で得たヘアジェルを、満中量140mLマヨネーズ瓶に120mL程度充填し、2種類のB型粘度計を用い、下記測定条件で粘度を測定した。測定は、それぞれ3回行い、その平均値を採用した。結果を下表に示す。
粘度計:TV-22型(MODEL:TVB-22L)(トキメック社製)
測定条件:ローターNo.4、回転数60rpm、25.1℃、1分間経過後測定での測定値は、7,070mPa・sであり、
粘度計:VS-A1型(芝浦システム社製)
測定条件:ローターNo.4、回転数60rpm、25.1℃、1分間経過後測定での測定値は、6,950mPa・s」

[甲第19号証]
平成23年1月20日付けの石井丈晴氏作成の実験成績証明書(4)であり、甲第2号証の再現性を確認すること、及び乙第1号証の工程<2>に準じて調製したヘアジェルの粘度を確認することを目的とし、実験の内容は次のとおりである。
「1.試料の調製
下記試作処方に従い、各原料を次頁の操作フローI(甲第2号証の再現性)及び操作フローII(乙第1号証の工程<2>の追試)により調合し、各成分の最終濃度が甲第1号証の処方例2に記載の濃度になるようにヘアジェルを調製した。
尚、試作処方中の精製水は、フロー中の各操作ごとに必要な精製水の量に分けて記載した。
(試作処方) (重量%)
<1>エタノール^(※1) 15.3
<2>N-メタクリロイルオキシエチルN,N-ジメチルアンモニウム-α-N-メチルカルボキシベタイン・メタクリル酸アルキルエステル共重合体液^(※2) 6.7
<3>酢酸ビニル・ビニルピロリドン共重合体^(※3) 2.0
<4>高重合度ポリエチレングリコール(平均分子量30万)^(※4) 2.0
<5>グリセリン^(※5) 10.0
<6>マルチトール液^(※6) 5.0
<7>ポリオキシエチレングリセリン^(※7) 5.0
<8>香料 0.1
<9>ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油^(※8) 0.1
<10>カルボキシビニルポリマー^(※9) 0.5
<11>トリエタノールアミン^(※10) 0.5
<12>精製水 19.5
<13>精製水 0.5
<14>精製水 32.8
合計 100.0
※1)?※10)・・・中略・・・(甲第2号証と同じ)
(操作フローI)
A.<10>を予めディスパーミキサーで攬拌しながら精製水<14>に徐々に投入し、1.5%カルボキシビニルポリマー水溶液とした。
B.<11>を予め精製水<13>に希釈し、50%トリエタノールアミン水溶液とした。
C.<1>に<8>、<9>を加え、攬拌溶解後さらに<2>、<3>を加えて均一化を行い、アルコール相とした。
D.Cのアルコール相に<4>を加え、パドルミキサーで攬拌しながら精製水<12>を徐々に投入し、均一化を行った。
E.さらに<5>、<6>、<7>及びBで調製した50%トリエタノールアミン水溶液を加え、均一化を行った。
F.最後に、Aで調製した1.5%カルボキシビニルポリマー水溶液を加え、十分に均一化を行い調合終了とした。
(操作フローII)・・・「乙第1号証記載の工程<2>に準拠」
A.<10>を予めディスパーミキサーで攬拌しながら精製水<14>に徐々に投入し、1.5%カルボキシビニルポリマー水溶液とした。
B.<11>を予め精製水<13>に希釈し、50%トリエタノールアミン水溶液とした。
C.<1>に<8>、<9>を加え、均一に溶解するまで攬押し、アルコール相とした。
D.アルコール相に<4>を加え、アンカーミキサーで攬拌しながら精製水<12>を徐々に投入し、均一化を行った。
E.Aで調製した1.5%カルボキシビニルポリマー水溶液とDの調製液を混ぜ、均一化を行った。
F.さらに、<5>、<6>、<7>を加え、均一化を行った。
G.さらに、Bで調製した50%トリエタノールアミン水溶液を加え、均一化を行った。
H.最後に、<2>、<3>を加え、十分に均一化を行い調合終了とした。
2.粘度の測定
上記試料の調製で得た各々のヘアジェルをマヨネーズ瓶(満中量140mL)に120inL程度充填し、2種類のB型粘度計を用い下記測定条件で粘度を測定した。測定はそれぞれ3回ずつ行い、平均値を記載した。なお、操作フローIについては2ロット(Lot.A及びLot.B)を調合し、操作フローIIについては1ロット(Lot.C)を調合し、測定した。
結果を表1?2に併記する。
測定条件:ローターNo. 4、回転数6 0 rpm、1分間経過後測定

III.結論
以上から、操作フローIにより調合された甲第1号証の処方例2記載のヘアジェルの粘度は、凡そ7,800?8,000mPa・sであり、甲第2号証の粘度(7,530mPa・s)結果の再現性が確認された。
また、操作フローIIにより調合された甲第1号証の処方例2記載のヘアジェルの粘度は、凡そ8,OOOmPa・sであり、操作フローIにより調合されたヘアジェルの粘度と同等であった。」

[甲第20号証]?[甲第24号証]
甲第20号証は、株式会社 マンダムの総合カタログ「1995 autumn/winter COSMETIC CATALOGUE」(1995年)であって、「マンダム イッツ ナチュラル 束ね髪用ウォーター」、「ギャツビー スタイリンググリース」、「マンダム ウォークーグロス ハードセット」、「レグノ ヘアグリース」などが製品として記載されていて、それらの化粧品製造製品届書が甲第21号証?甲第24号証として提出されている。
例えば、甲第21号証の「マンダム イッツ ナチュラル 束ね髪用ウォーター」の化粧品製造製品届書(平成7年6月15日付け)には、兵庫県保健環境部薬務課の「-7.6.15」の受付印が押印されていて、その2枚目には、次の成分データが記載されている。甲第22?24号証も同様な成分データが記載されている。


[甲第25号証]
ポリエチレングリコール200について、次の記載がある。
「(4)工業法:・・・中略・・・
Perryらは以上の反応を次のように階段的重合と説明している.

性状 ポリエチレングリコールは,上記一般式でnは3?200まで変化し,分子量600前後のものまでは無色,澄明,粘稠の液体であるが,更に高度の重合大は固形となる(図1).

各種ポリエチレングリコールを一括して共通の性状の大要を次に示す.
溶解度:水、96%エタノール・・には極めて溶けやすいが,・・・にはほとんど溶けない.ただし分子量6000以上の場合,水に溶かすには加温する(図2).・・・」(第938頁参照)

[甲第26号証]
(甲26-1)「【請求項1】
(a)常温(25℃)で固体のポリアルキレングリコール重合体と、
(b)常温(25℃)で液体の、(b-1)2?4価のアルコール、(b-2)1?4価のアルコールまたは1?3価のカルボン酸のアルキレンオキシド付加重合体、(b-3)ポリアルキレングリコール重合体、および(b-4)糖アルコール誘導体の中から選ばれる1種または2種以上と、
(c)皮膜形成性高分子と、
(d)糖アルコールと、
(e)毛髪補修成分
を含有し、(a)成分:(b)成分=1:0.2?1:10(質量比)であり、(b)成分:(c)成分=1:0.1?1:1(質量比)であり、(a)?(d)成分の合計量が10質量%以上であり、系の粘度が10,000mPa・s以下(25℃、B型粘度計)である整髪用化粧料。
【請求項2】
(a)成分が質量平均分子量1,000?20,000のポリエチレングリコールである、請求項1記載の整髪用化粧料。
【請求項3】
(b-3)成分が質量平均分子量200?900のポリエチレングリコールである、請求項1または2記載の整髪用化粧料。
【請求項4】
粘度が100mPa・s以下(25℃、B型粘度計)であって、使用時に霧状に噴霧して用いる、請求項1?3のいずれか1項に記載の整髪用化粧料。」(【請求項1】?【請求項4】参照)
(甲26-2)「【0015】
本発明により、低粘度でありながら整髪力および再整髪力に優れ、しかも、べたつきがなく、滑らかで、仕上がり感が軽く、かつ毛髪補修効果に優れる水性系の整髪用化粧料が提供される。」(段落【0015】参照)
(甲26-3)「【0079】
[整髪力]
1束の黒色バージンヘア(長さ20cm、質量4g)に試料を0.5g塗布し、指でなじませた後のヘアスタイルの作りやすさについて、女性専門パネラー(10名)による官能試験にて評価した。
【0080】
[1時間後の再整髪力]
1束の黒色バージンヘア(長さ20cm、質量4g)に試料を0.5g塗布し、常温にて1時間乾燥させた後の毛束について、つまんでねじって動かしたときのアレンジのしやすさについて、女性専門パネラー(10名)による官能試験にて評価した。
【0081】
[べたつき感のなさ]
1束の黒色バージンヘア(長さ20cm、質量4g)に試料を0.5g塗布し、指でなじませた後の毛髪のべたつきのなさについて、女性専門パネラー(10名)による官能試験にて評価した。
【0082】
[滑らかさ]
1束の黒色バージンヘア(長さ20cm、質量4g)に試料を0.5g塗布し、指でなじませ仕上げた後の毛髪表面の滑らかさについて、女性専門パネラー(10名)による官能試験にて評価した。
【0083】
[仕上がりの軽さ]
1束の黒色バージンヘア(長さ20cm、質量4g)に試料を0.5g塗布し、指でなじませ仕上げた後の仕上がりの軽さについて、女性専門パネラー(10名)による官能試験にて評価した。
<評価点>
5点:非常良い
4点:良い
3点:普通(どちらともいえない)
2点:やや良くない
1点:良くない
<評価基準>
◎:評価点合計が40点以上
○:評価点合計が30点以上40点未満
△:評価点合計が20点以上30点未満
×:評価点合計が20点未満。」(段落【0079】?【0083】参照)
(甲26-4)

」(段落【0088】参照)

[甲第28号証]
平成23年3月4日付けの石井丈晴氏による実験成績証明書(5)であり、本件特許(特許第4518520号)に記載の実施例2、実施例4及び比較例9を追試し、「整髪力」及び「1時間後の再整髪力」について、その効果性の比較を行ったものであり、実験の内容は次のように記載されている。
「1.試料の調製
本件特許の実施例2、実施例4及び比較例9の処方に従い、各成分をエタノール及びイオン交換水に溶解し、評価用の試料を調製した。
尚、ソルビトールは、商品名「ソルビット L-70」(三菱商事フードテック社製)。を用いた。メタクリロイルオキシエチルカルボキシベタイン・メタクリル酸アルキル共重合体は、商品名「ユカフォーマー301」(三菱化学社製)を純分換算して用いた。また、エタノールの配合量は、商品名「ユカフォーマー301」中のエタノール量との合計量を表す。
また、質量平均分子量400のポリエチレングリコール、質量平均分子量1540のポリエチレングリコール及び質量平均分子量6000のポリエチレングリコールは、市販品として販売されていないことから、医薬部外品原料規格に規定されるポリエチレングリコール400、ポリエチレングリコール1540及びポリエチレングリコール6000を用いた。
実施例2 実施例4 比較例9
イオン交換水 残余 残余 残余
エタノール 40 40 40
ポリエチレングリコール1540 5 - 5
ポリエチレングリコール6000 - 5 -
ソルビトール 5 5 5
ポリエチレングリコール400 - 5 3.7
1,3-ブチレングリコール 5 - -
メタクリロイルオキシエチルカルボキシ
ベタイン・メタクリル酸アルキル共重合体 2.1 2.1 4.2
香料 0.2 0.2 0.2
合計(質量%) 100.0 100.0 100.0
2.試料の評価
上記で調製した試料を、本件特許の実施例に記載の方法に準じて評価した。すなわち、1束の黒色バージンヘア(長さ20cm、質量4g)に試料を0.5gずつ塗布し、「整髪力」及び「1時間後の再整髪力」について、専門パネラー(10名)により評価を行った。
尚、評価は3試料のうち2つずつを選び、各パネラーが全ての試料対の組合せ条件(実施例2と実施例4、実施例2と比較例9、並びに実施例4と比較例9の計3条件)について、一方を基準として下記の如く評点する一対比較法(中屋の変法 5段階)を用いた。各試料間の有意差検定は、最小有意差の値をもって検定を行い、有意差なしの場合に「-」、有意水準α=0.05(5%)で有意差がある場合に「*」で表記した。
+2:高い
+1:やや高い
0:差異なし
-1:やや低い
-2:低い
3.評価結果
上記評価の結果を表1?2に示す。

表1の結果から、「整髪力」の効果は、比較例9が最も高く、実施例2、実施例4の順で整髪力が低下することが分かる。また、比較例9と実施例4の効果性には、統計学上有意な差が認められた。
表2の結果から、「1時間後の再整髪力」の効果は、比較例9が最も高く、実施例4、実施例2の順で再整髪力が低下することが分かる。また、比較例9と実施例2の効果性、並びに比較例9と実施例4の効果性には、統計学上有意な差が認められた。
III.結論
本件特許の実施例及び比較例を、一対比較法によりその効果性の比較を行った結果、比較例9の「整髪力」及び「1時間後の再整髪力」の効果は、実施例2及び実施例4のそれら効果と同等若しくはそれ以上であることが判明した。
従って、本件特許の明細書では、実施例4の「整髪力」は◎であり、実施例2、4の「1時間後の再整髪力」は◎であるので、仮にこの評価が正しいとすれば、比較例9の「整髪力」と「1時間後の再整髪力」は、共に少なくともに◎であることが示唆された。」

[甲第29号証]
「(1)PPGおよびPOPGの一般規格と分析例
PPGおよびPOPGは表3.2-1に示すような構造を持ち,常温で液状のものである。

」(第144?145頁参照)

[甲第30号証]
本件訂正特許(特願2010-23607号)に関する平成22年3月25日付け意見書であり、第6頁に実施例17?23の追加のデータが記載されている。

[甲第31号証]
平成23年6月14日付けの石井丈晴氏による実験成績証明書(6)であつて、本件特許(特許第4518520号)に記載の実施例1?9を調製し、各成分の水-エタノール溶媒に対する溶解性を確認したものでる。

[甲第32号証]
株式会社光琳書院発行の「食品の官能検査法」105?112頁であり、乙第32号証の後ろの頁も含めたものである。
(甲32-1)「 第8章 採点法または評点法
評点法はあらかじめ設定された採点基準にしたがって試料を評価する方法で,最も一般的な評価方法である。
評価の方法としては,対照となる試料を与えて,試料(未知試料)の品質を対照試料と比較して評価する方法と,対照試料を呈示既知試料としないで、パネルは個々の経験によって品質の評価を行なう方法がある。
前者は相対的判断を求めるもので,2点試験,多重比較試験などに応用される。多重比較試験は,2点試験を並列したものと考えてよい。試料の呈示は次の順序で行なう。
・・・中略・・・
この二つの方法は対照試料が1点であるかないかの差であるが,考え方には差がある。(I_(1))(I_(2))……は同一の試料から抽出された標本であり絶対的に品質が同一とはいえない。したがって2点試験法は同一の試料でも均一性を欠くと考えられる場合には必要な実験法であり,試料が均一であると考えられる希薄な溶液などについての試験では,これを簡易化して,多重比較試験の形にして実験しても同じ結果を得るであろう。
ただし,心理的には必ずしも同一とはいえない。
絶対的評価と相対的評価の差について
基準をパネルメンバーの個々の判断にまかせる場合には,絶対的評価を求めることになる。この二つはそれぞれ長所と短所があるので,実験の目的によって使い分ける。両者の特徴を列記すると次のようになる。
絶対的評価
1. 評価水準は個人によって差があり,一般にバラツキが大きい。
2. 試料の点数は少なくなるが,同時に呈示される他の試料の品質によ
って評価が影響されやすい。
3. パネルの当該食品についての一般的な評価水準についても知ること
ができる。したがって,異なった実験を比較することもできる。
相対的評価
1. 評価水準は一定である。
2. 試料の点数は大きくなるが,同時に呈示される他の試料の品質によ
る影響は小さい。
3. 対照試料との差については知ることができるがこの値は対照品との
相対的な比較値であり,対照品の性質によって変る。
相対的評価法は精度は向上するが,あくまで相対的な評価であり、このままでは一般的な評価として通用できない点に問題がある。基礎的な実験で対照試料が再現しやすい場合,工場で行なう品質管理などで見本に比較して評点を求める場合には最も適している。
上記の3の欠点を補うために,効照試料を未知試料として,別に絶対的な評価を求めることもできるが,パネルの判断が混同しないように注意する必要がある。」(第105?106頁参照)
(甲32-2)「8・1 評点法によるデータの解析法
評点法による採点結果は,表8・1に示すような尺度値を用いて分散分析を行なう。
表8・1 評点法の尺度
絶対評価の尺度 相対評価の尺度
5 最も良い 5 基準より最も良い
4 なかなか良い 4 基準よりたいそう良い
3 かなり良い 3 基準よりかなり良い
2 すこし良い 2 基準よりすこし良い
1 わずかに良い 1 基準よりわずかに良い
0 普通 0 基準(対照試料)と同じ
-1 わずかに不良 -1 基準よりわずかに不良
-2 すこし不良 -2 基準よりすこし不良
-3 かなり不良 -3 基準よりかなり不良
-4 たいそう不良 -4 基準よりたいそう不良
-5 最も不良 -5 基準より最も不良
8・2 解析法の考え方
試料が果実,野菜,肉などの個体の場合.また菓子や料理した食品などでは,同じ原料であっても実際にパネルが試食する試料には,個体差があると考えなければならない。またパネルの評点には尺度に対する解釈と,パネル員の生理的な知覚能力(perception)に差がある。また絶対的評価を求める際には標準品がないために,普通と考える品質そのものに食い違いがある。このようなバラツキを考慮して,試料間の差を考えるのが分散分析,要因分析の考え方である。
試料の性質によってどれを要因として考えるかは.数学約にはデータの構造(モデル)のたて方によって異なるが,実験のやり方によっては解析の方法も変る。どのモデルを選ぶべきかは,実験に関係する技術的な知識と経験によって決まる。
・・・(後略)。」(第107?112頁参照)

[甲第33号証]
平成23年6月7日付けの石井丈晴氏による実験成績証明書(7)であって、甲第1号証(特開2002-241234)の処方例2を迫試して訓製したヘアジェルが、甲第1号証の効果である曳糸性を有するかを確認したものであり、実験の内容は次のとおりである。
「1.供試試料
甲第19号証(実験成績証明書(4))にて調製したヘアジェルのうち、同号証報告のLot.Aの試料を用いた。
2.曳糸性の評価
上記試料を、甲第1号証の実施例(段落〔0018〕)に記載の方法により評価した。すなわち、あらかじめ石鹸で洗浄した手の甲に、試料を1gのせた。指を試料に押し付けてから離す際の曳糸性を、以下の基準に従って目視により評価した。評価は3人の官能評価パネラーにより、繰り返し3回行った。評価基準は、曳糸性の強いものを2点、曳糸性は強くないが認められるものを1点、曳糸性がほとんど認められないものを0点とし、その合計点を算出した。尚、評価基準は、合計点が13?18点を◎、9?12点を○、4?8点を△、0?3点を×とした。
3.評価結果
上記の評価の結果、甲第19号証に報告のヘアジェル(Lot.A)の曳糸性は、甲第1号証の評価基準「◎」の評価であった。
また、甲第19号証に報告のヘアジェル(Lot.A)の曳糸性の程度の写真を、下記図1に示した。図1は、攪拌棒の先を試料の上層部に浸け、ゆっくりと上方に引き上げた際に撮影したものである。
〔図1〕・・・図略・・・
III.結論
甲第1号証(特開2002-241234号)の処方例2を追試して調製したヘアジェルは、甲第1号証の効果である曳糸性を十分に有していることが確認された。」

[甲第34号証]
平成16年3月20日発行の財団法人日本規格協会による「JIS Z8144 官能評価分析-用語」であり、第18頁の2043の項に,「一対比較法 複数(n)を比較する際に,2種類の試料対についてのすべての組合せ[n(n-1)]を作り,それぞれの組合せでどちらが強いか好ましいかなどを比較する方法である。さらに,その強さや好ましさの程度を,記述的尺度によって評価させる場合がある。 なお,食品などの場合のように,2種類の試料を同時に比較できない場合には,順序効果を考えなければならない。同時比較が可能な場合には,組合せの数は[n(n-1)/2]となる。また,ブラッドレーやシェッフェとその変法など,目的に応じた試験方法があり,測定から統計的解析法までを含めた一連の手法が開発されている。」と説明されている。

[甲第35号証]
日科技連官能検査委員会 編集「新版 官能検査ハンドブック」(1973年発行)に「10.3.3 変形3-比較順序は考えず,かつ一人の検査員が全部の組合せを1回ずつ比較する場合:中屋の変法」のタイトルでシェッフェ法の変形が説明されている(379-385頁)。

[甲第36号証]
平成16年3月20日発行の財団法人日本規格協会による「JIS Z9080 官能評価分析-方法」であり、その18-21頁に、「7.5 間隔尺度又は比率尺度を用いる試験法」の「7.5.2.2 尺度の確立」において、「間隔尺度はその特徴である段階数によって非常に種類が多い。理想的な尺度はないため,特定の尺度を構成したり用いるたびに,それぞれ段階がその等間隔性の条件を満たす感覚強度の水準に対応するように注意深く設定する必要がある。実際には,これらの水準は,見本(例えば,濃度の異なる物質)又は文字表現によって定義する。・・・」と説明されている。

[甲第37号証]
「特許性評価記録」として提出されたものであるが、担当者名と記録日の記載があり、発明の構成として「陰イオン性皮膜形成ポリマー、マルチトールを含有するミスト」との記載があって、見解等が記載されている。

[甲第38号証]?[甲第45号証]
[甲第38号証]の段落【0003】に、「本発明の目的は、頭髪を固めずに自然な状態でまとまりを付与し、かつ仕上がった髪がさらっとなめらかな感触となる毛髪化粧料を提供することにある。」、
[甲第39号証]の段落【0003】に、「本発明の目的は、頭髪を固めずにヘアスタイルにまとまりを付与し、かつ仕上がったヘアスタイルの保持性にも優れる毛髪化粧料を提供することにある。」、
[甲第40号証]の段落【0005】には、「・・・頭髪を固定することなく高い整髪効果が得られ、しかも、頭髪に対して油っぽい不自然な光沢やごわつき、べたつき感を与えることなく、従来の整髪剤にはない風合いに優れた頭髪とすることができることを見出し本発明の完成に至った。」、
[甲第41号証]の段落【0003】に、「本発明の目的は、毛髪に対して自在なヘアアレンジを可能にし、そのアレンジが長時間持続する優れたセット力を有し、・・・」、
[甲第42号証]の段落【0004】には、「本発明は、・・・・、整髪力及びアレンジ性を向上させるとともに、毛髪にべたつき感が付与されるのを抑制することができる・・・」、
[甲第43号証]の段落【0007】には、「本発明の目的とするところは、・・・毛髪に対して高いセット力によりヘアアレンジを可能とし、そのアレンジした髪型がまとまり良く、特にヘアスタイルの持続性に優れた毛髪化粧料を提供することにある。」、
[甲第44号証]の段落【0005】には、「本発明は、・・・塗布時にべたつきがなく髪を思いのままに整髪ができ、・・・」、
[甲第45号証]の段落【0006】には、「本発明は、・・・髪を思いのままに整髪できるヘアスタイル形成性に優れるとともに、・・・」ことが記載されている。

[甲第46号証]?[甲第48号証] ・・・略・・・

[甲第49号証]
「JIS Z9080」のJIS原案作成委員会構成表が記載され、委員として、「池山豊 株式会社コ-セー」の氏名・所属が記載されている。

[甲第50号証]
池山豊著の「測定方法としての官能評価」のタイトル論文であり、次のような記載がある。
(甲50-1)「2.測定器と見立てたときの人の長所・短所
・・・・・,官能評価データの特徴をひと言で述べるならば「何を測っているのか? 測るためのモノサシはどこにどのようなカタチで存在しているのか?」ということになろう.・・・・・その機器を使用して測定する限りは,モノサシは明確にただ一つ存在しているわけである.それに対し官能評価ではヒトを測定機器としてヒトに問いかけるわけであり、測定に使用されるモノサシは評価者の知識や経験によって形成されているため,評価者ごとにまちまちであることになる.」(第52頁右欄10?30行参照)
(甲50-2)「4.1 モノサシの校正
・・・・人による感性評価においても独立評価[independent assessment](絶対評価)として正しい測定を行うためにはこれらキャリブレーションが重要であることはいうまでもない.すなわち
・モノサシの中心(ゼロ)は合っているか?
・モノサシの間隔は合っているか?(刺激に対する比例関係)
・モノサシの向きはあっているか?(反応の方向)」
の確認が前提となる.
一方、比較評価[comparative assessment](相対評価)においては,目的とする評価対象以外に対象が少なくとも1つ以上あり,つごう2つ以上の対象によって「モノサシの向き」が決定づけられ,またいずれかの対象をゼロとおくことで「モノサシの中心(ゼロ)」についても決定されることから,独立評価の場合よりゆるやかな制約条件の下で評価可能となる.すなわち
・モノサシの間隔が合っているか?(刺激に対する比例関係)
の確認を行えばよい.
いずれの場合においても機器測定と異なり,評価者各自が持つ基準が重要となることに変わりなく,品質の表現手段としての「ことば」について,モノサシとして以下のような検証が必要となってくる.
・意味が理解されているか(・・・)
・同一の意味で使われているか(・・・)
・その意味に準じた尺度が備わっているか(軸に目盛りがついているか)
・その尺度は共通の目盛りとして成り立っているか(・・・)
パネル教育といったかたちでこれらの内容を繰り返し検討することにより,企業内評価パネルといった専門家集団を養成することが可能となる.」(第54頁左欄2行?末行参照)

[甲第51号証]
平成23年9月26日付けの石井丈晴氏による実験成績証明書(8)であり、本件特許(特許第4518520号)に記載の実施例11、実施例15及び比較例5を追試し、その効果性の比較を行ったものであり、実験の内容は次の様に記載されている。
「1.試料の調製
本件特許の実施例11及び実施例15を評価用試料として、各実施例に記載の製法に従い調製した。また、比較例5は、その処方に従い、各成分をエタノール及びイオン交換水に溶解し、比較用試料とした。
なお、実施例11及び実施例15の調製において、ソルビトールは、商品名「ソルビット L-70」(固形分70%、水30%、三菱商事フードテック社製)を、マルチトールは、商品名「LYCASIN 75/77」(固形分75%、水25%、ROQUETTE社製)を固形分換算して用いた。その他は、本件特許の実施例11、実施例15に記載通りの原料を用い、エタノールの配合量は一部の原料に含まれるエタノール量との合計量とした。
比較例5の調製において、メタクリロイルオキシエチルカルボキシベタイン・メタクリル酸アルキル共重合体は、商品名「ユカフォーマー301」(三菱化学社製)を純分換算して用いた。また、エタノールの配合量は、商品名「ユカフォーマー301」中のエタノール量との合計量とした。尚、ソルビトールは、商品名「ソルビット L-70」(固形分70%、水30%、三菱商事フードテック社製)を用いたが、ここでは本件特許【0078】の記載に倣い、固形分換算しなかった。
また、質量平均分子量300、400、1540、20000のポリエチレングリコールは、市販品として販売されていないことから、医薬部外品原料規格に規定されるポリエチレングリコール300、400、1540、20000を用いた。
<実施例11> ・・・表略・・・
<実施例15> ・・・表略・・・
<比較例5> ・・・表略・・・
2.試料の評価
上記で調製した実施例11、実施例15及び比較例5を、本件特許の実施例に記載の方法に準じて評価した。すなわち、1束の黒色バージンヘア(長さ20cm、質量4g)に試料を0.5gずつ塗布し、「べたつき感のなさ」、「仕上がりの軽さ」について、専門パネラーにより評価を行った。
尚、評価は、実施例11、実施例15のそれぞれを比較例5と比較し、各パネラーがどちらか好ましいかを必ず選ぶ2点嗜好法により行い、各評価結果について有意差検定を行った。
3.評価結果
実施例11と比較例5の評価結果を表1に、実施例15と比較例5の評価結果を表2示す。

表1?2の結果から、実施例11及び実施例15は、比較例5と比較し「べたつき感のなさ」、「仕上がりの軽さ」の点で劣っていることが判明した。なお、10名全員が比較例5の方が優れていると回答しており、サンプル間に明確な差異があることが分かった(有意水準1%)。これは、本件の平成22年3月25日付け意見書(甲第30号証)中の「実験成績書」に記載されている実施例11及び実施例15の評価結果(下記表3参照)と、優劣の点で大きく相違する結果である。

III.結論
本件特許の実施例11及び実施例15について、比較例5との2点嗜好法によりその効果性を確認したところ、「べたつき感のなさ」及び「仕上がりの軽さ」の効果が比較例5と比較して、劣っていることが判明した。」

[甲第52号証]
平成23年10月4日付けの石井丈晴氏による陳述書であり、実験成績証明書(8)(甲第51号証)の結果等について意見を述べたものであり、その内容は次のとおりである。
「1.私は、大阪大学大学院理学研究科修士課程修了後、1999年4月に株式会社マンダムに入社して以来、同社中央研究所にて、ヘアスタイリング剤の研究開発に従事してきました。現在は、第一開発研究室スタイリングヘアケアグループのグループリーダーとして、当社の整髪料の開発の責任者の立場にあります。
整髪料の開発においては、整髪料に使われる各成分の物性を十分に認識し、それを調合して整髪料とした場合、どのような特性、機能を有する整髪料になるかを予想しながら様々な調合を試行し、有用な新たな製品を開発することが重要です。私は、入社以来、100品目を越える当社の製品の開発に関与した経験があります。
2.今般当社で行いました本件特許明細書記載の比較例5と実施例11および実施例15の効果の比較試験(実験成績証明書(8))についても実験の責任者として関与しました。この比較試験の結果、「べたつき感のなさ」及び「仕上がりの軽さ」について、10名のパネラー全員が実施例の試料ではなく、比較例の試料の方が好ましいという選択をしました。
私の経験と知識に照らせば、この結果は当然というべきものでもありますので、以下この点について私の見解を述べます。
3.まず、甲第30号証の実施例11及び実施例15、並びに本件明細書の比較例5の(a)成分?(d)成分の配合量(以下、質量%を表す)と評価結果とを整理すると、下記表1のとおりです。

4.ここで、べたつき感は、主として粘着成分が起因しますが、本件の場合、本件の(a)成分?(d)成分のいずれもが粘着成分と成り得ます。特に、(c)成分の皮膜形成性高分子と(d)成分の糖アルコールとを混合することにより、被膜形成性高分子が可塑化され整髪性のある粘着成分となることは広く知られています。この整髪力を伴った粘着性を発揮させるには、(c)成分を十分に可塑化する必要があり、一般に(c)成分と同量若しくはそれ以上の(d)成分を用いると効果的です。なお、高い整髪性を得るためには一定量以上の皮膜形成性高分子を用いる必要があり、これに応じた量の(d)成分を加える必要がありますが、この場合、(c)成分と(d)成分の合計量が多くなるほど、粘着性が高くなる傾向となります。
そこで、本件の実施例11、実施例15及び比較例5の(c)成分と(d)成分の合計量を比較すると、それぞれ10.1%、12%、5.6%となり、比較例5の両成分の合計の配合量は、実施例11や実施例15の半分程度です(表1参照)。
したがって、比較例5の「べたつき感のなさ」の評価が、実施例11や実施例15に比べて、べたつき感が小さく、優れているとの実験成績証明書(8)の結果は、上記一般論からして極めて当然の結果です。
5.次に、一般に、「仕上がりの軽さ」とは、毛髪に何も塗布されていない状態が、最も軽い仕上がりの状態と言え、毛髪にべたつきや油性感を与える成分などは、重い仕上がりの状態を作るものと言えます。本件の場合、本件の(a)成分?(d)成分は、いずれも毛髪に塗布すると、重い仕上がり感を与える成分です。そうすると、(a)成分?(d)成分の合計量が多くなると、一般に仕上がりが重くなると言えます。
そこで、本件の実施例11、実施例15及び比較例5の(a)成分?(d)成分の合計量を比較すると、それぞれ22.1%、22%、12.6%となり、比較例5の合計配合量は、実施例11や実施例15の半分程度です(表1参照)。
したがって、比較例5の「仕上がりの軽さ」の評価が、実施例11や実施例15に比べて、仕上がりが軽く、優れているとの実験成績証明書(8)の結果は、上記一般論からしても当然の結果といえます。
6.甲第15号証および甲第28号証の追試で明らかにしたように本件特許明細書記載の官能評価結果の信用性には問題がありますが、本件特許明細書に記載の比較例群の結果は以下のようになっています。
(c)成分と(d)成分の合計量が最も多い比較例9(7.7%)は、「べたつき感のなさ」の評価が「×」となっています。その一方で、(c)成分と(d)成分の合計量の少ない比較例2(2.1%)、比較例7(1.95%)、比較例8(4.1%)では、「べたつき感のなさ」の評価が「○」となっています。
また、(a)成分?(d)成分の合計量が他と比べて格段に少ない比較例7(4.95%)の「仕上がりの軽さ」の評価は「◎」となっており、(a)成分?(d)成分の合計量の多い比較例6(18.6%)では「仕上がりの軽さ」の評価は「△」となっています。
勿論、「べたつき感のなさ」や「仕上がりの軽さ」は、上述の考え方のみで結論付けられるわけではなく、その他の要件の影響も受けますが、本件特許明細書に記載の比較例群の結果に何らかの信用性があるとした場合、上述と同様の傾向が窺えると言うことが出来ます。」

[乙第1号証]
大妻女子大学教授・小山義之氏作成の実験報告書であって、甲第1号証の処方例2の追試が記載されていて、実験の内容として次のような記載がある。
「下記試作処方を用いて、各成分の最終濃度が特開2002-241234の処方例2に記載の濃度となるように、ヘアジェルを作成した。
(試作処方) (重量%)
<1>エタノール ※1 14.31
<2>N-メタクリロイルオキシエチルN,N-ジメチルアンモニウム-α-N-メチルカルボキシベタイン・メタクリル酸アルキルエステル共重合体 ※2 6.7
<3>酢酸ビニル・ビニルピロリドン共重合体 ※3 2.0
<4>高重合度ポリエチレングリコール(平均分子量30万)※4 2.0
<5>グリセリン ※5 10.0
<6>マルチトール液 ※6 5.0
<7>ポリオキシエチレングリセリン ※7 5.0
<8>香料 0.1
<9>ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油 ※8 0.1
<10>カルボキシビニルポリマー ※9 0.5
<11>トリエタノールアミン ※10 0.5
<12>イオン交換水 残量
合計 100.0
※1)原料名:一般アルコール トレーサブル95 Q i b i X (日本アルコール産業社製)
※2)ユカフオーマー301 (三菱化学社製)
※3) PVA-6450 (大阪有機化学工業社製)
※4)ポリオックスWSR N-750 (ダウ・ケミカル社製)
※5)化粧品用濃グリセリン(阪本薬品工業社製)
※6)マビット(三菱商事フードテック社製)
※7)コニオンRG-120 (新日本理化社製)
※8)エマレックスHC-60(日本エマルジョン社製)
※9)カーボポール941 (ルーブリゾール社製)
※10)トリエタノールアミン99(ダウ・ケミカル社製)
製造工程については、下記の2工程で実施した。
1.工程<1>(株式会社マンダム中央研究所作成の「実験成績証明書(1)」に記載されているものと同等の工程)
・・・図略・・・
A.イオン交換水にディスパーミキサーで撹梓しながら<10>を徐々に投入した後静置し、1.5%カルボキシピニルポリマー水溶液とした。
B.<11>をあらかじめイオン交換水で希釈し、50%トリエタノールアミン水溶液とした。
C.<1>に<2>、<3>、<8>、<9>を加え、均一に溶解するまで撹拌し、アルコール相とした。
D.アルコール相に<4>を加え、スリーワンモーターで撹拌しながら所定量のイオン交換水<12>を徐々に投入し、均一化を行った。
E.さらに、<5>、<6>、<7>およびBで調整した50%トリエタノールアミン水溶液を加え、均一化を行った。
F.最後にAで調製した1.5%カルボキシビニルポリマー水溶液を加え、十分に均?化を行った。
2.工程<2>(一般的なジェル調製の工程)
・・・図略・・・
A.イオン交換水に<10>をスリーワンモーターで撹拌しながら徐々に投入した後静置し、1.5%カルボキシビニルポリマー水溶液とした。
B.<11>をあらかじめイオン交換水で希釈し、50%トリエタノールアミン水溶液とした。
G.<1>に<8>、<9>を加え、均一に溶解するまで撹拌し、アルコール相とした。
D.アルコール相に<4>を加え、スリーワンモーターで撹拌しながら所定量のイオン交換水を徐々に投入し、均?化を行った。
E.Aで調製したカルボキシビニルポリマー水溶液に、Dで調製したアルコール相を投入し、スリーワンモーターで均?化を行った。
F.さらに、<5>、<6>、<7>を加え、均一化を行った。
G.さらに、50%トリエタノールアミン水溶液を加え、均一化を行った。
H.最後に<2>、<3>を加え、十分に均一化させヘアジェルを得た。
3.粘度の測定
上記試料の調製で得たヘアジェル(工程<1>、工程<2>)それぞれを、満中量約150mLのガラス瓶に充填し、下記測定条件で粘度を測定した。測定はそれぞれ三回ずつ行い、平均値を求めた。

III.結論
以上の結果より、特開2002-241234の処方例2の粘度は、工程<1>(株式会社マンダム中央研究所作成の「実験成績証明書(1)」に記載されているものと同等の工程)で調製したヘアジェルでは25,600mPa・s、工程<2>(一般的なジェル調製の工程)で調製したヘアジェルでは34,300mPa・sであった。」

[乙第2号証]?[乙第5号証] ・・・略・・・

[乙第6号証]
「分子量と分子量の分布」について記載があり、「3・2平均分子量」の「(2)平均分子量の定義」の項に、数平均分子量、重量平均分子量、粘度平均分子量とのその定義が説明され、「3.3分子量の測定」の項に分子量の測定手法が記載されている(第36?42頁参照)。

[乙第7号証]
「4・2 高分子の分子量」の項に、数平均分子量と量平均分子量の説明がされている。(第109?111頁参照)

[乙第8号証]
分子量と分子量分布について、数平均分子量と重量平均分子量についての説明がされている。(第22頁参照)

[乙第9号証]
「【請求項1】重量平均分子量400?6000のポリエチレングリコール、ワセリン・・・・経皮吸収製剤。」(【請求項1】参照)

[乙第10号証]
「【請求項1】以下の成分・・・・
(e)重量平均分子量が200?25000のポリエチレングリコール・・・」(【請求項1】参照)

[乙第11号証]
「【請求項3】(a)成分が重量平均分子量3000?20000のポリエチレングリコールである・・・」(【請求項3】参照)

[乙第12号証]
2010年12月7日発行の株式会社東ソー分析センター作成の分析・試験報告書であり、三洋化成工業株式会社製のPEG300,400,1500,1540についての質量平均分子量測定データが示されている。

[乙第13号証]
2010年12月7日発行の株式会社東ソー分析センター作成の分析・試験報告書であり、日油株式会社製PEG300,400,1500,1540についての質量平均分子量測定データが示されている。

[乙第14号証]
平成22年12月6日付けの株式会社資生堂ヘア製品開発グループ・藤山泰三氏作成の実験報告書であり、株式会社マンダム中央研究所作成の平成22年9月10日付け「実験成績証明書(2)」(当審注:甲第14号証)の追試を行ったものであり、次のような実験の内容が記載されている。
「2.実験の内容
前掲実験成績証明書(2)の記載の方法に準じ、下記の実験例処方で試験を行った。各成分をエタノールおよびイオン交換水に溶解し、評価用の試料を作成した。
尚、ソルビトールは、商品名「ソルビトール液70(S)」(日研化成株式会社製)を用いたが、前掲実験成績証明書(2)記載の「ソルビット L-70」(三菱商事フードテック社製)と固形分配合量は同じく70%である。メタクリロイルオキシエチルカルボキシベタイン・メタクリル酸アルキル共重合体は、商品名「ユカフォーマー301」(三菱化学社製)を純分換算して用いた。
(実験例処方)
イオン交換水 残余
エタノール 40
ポリエチレングリコール1540 0.1
ソルビトール 10
ポリエチレングリコール400 1
メタクリロイルオキシエチルカルボキシ
ベタイン・メタクリル酸アルキル共重合体 1
香料 0.2
合 計 100
本実験で用いた評価方法については、特許第4518520号に記載に基づき、下記のように行った。
[整髪力] ・・・中略・・・
[再整髪力] ・・・中略・・・
[べたつき感のなさ] ・・・中略・・・
[仕上がりの軽さ] ・・・中略・・・
[評価点] ・・・中略・・・
[評価基準] ・・・中略・・・
3.結果
上記評価結果と前掲実験成績証明書(2)に記載の評価結果を以下に示す。
追加実験結果 前掲実験成績証明書(2)の記載
整髪力 ○ ○
再整髪力 ○ ○
べたつき感のなさ △ ×
仕上がりの軽さ ○ △ (当審注)
(当審注:平成23年7月1日付け上申書により、
差替えられ誤記の訂正がされている。)
4.結論
前掲実験成績証明書(2)に記載の(a)成分が下限値の0.1質量%をとる場合であっても、特許第4518520号記載の「整髪力および再整髪力に優れ、べたつきがなく、仕上がりの軽さに優れる」効果があった。」

[乙第15号証]
2011年4月27日付けの株式会社東ソー分析センター作成の分析・実験報告書であり、No.1「ギャツビー クイックムービングミスト クラッシュムーブ(赤)」、No.2「ギャツビー クイックムービングミスト クールモーション(緑)」、No.3「ギャツビー クイックムービングミスト スウィングマスター(白)」、No.4「ギャツビー クイックムービングローション エアリーロツク(赤)」、No.5「試薬ポリエチレングリコール300」、No.6「試薬ポリエチレングリコール1540」、No.7「原料ポリエチレングリコール400」、No.8「試薬マルチトール」、No.9「試薬ソルビトール」、No.10「混合ミスト用」、No.11「混合品メーション用」のサンプルについて、Mn数平均分子量、Mw重量平均分子量、Mw/Mn、およびNo.1?4についての推定化合物のデータが記載されている。

[乙第16号証]?[乙第19号証] ・・・略・・・

[乙第20号証]
「1.(A)一価又は多価アルコールにアルキレンオキシドを付加重合して得られるポリオキシアルキレン系化合物、および(B)一般式(1)、
R-OCH_(2)CH(OH)CH_(2)OH (1)
(式中、Rは炭素数12?24のメチル分岐飽和炭化水素基を示す)
で表されるα-モノ(メチル分岐アルキル)グリセリルエーテルを(A)成分の0.01?1.0重量倍含有することを特徴とする整髪料。
」(第1頁左下欄の特許請求の範囲1.参照)

[乙第21号証]
平成23年5月13日付けの株式会社資生堂ヘア製品開発グループ・倉島巧氏作成の実験報告書(3)であり、本件特許侵害訴訟で提出されたものであるため乙8(乙第8号証)とされていたのを甲8(甲第8号証)と訂正したものを平成23年7月1日付け上申書により差し替えている。内容は次のとおり。
「I、目的
特開平3-261713号公報(以下、「甲第8号証」という。)で記載されている処方例に糖アルコールを配合した際の効果を確認すること、および特許第4518520号(以下、「本件特許」という。)と甲第8号証との違いを確認すること。
II、実験の内容
1、試料の調整
以下の処方に従い、各成分をエタノールおよびイオン交換水に溶解し、評価用の試料を調整した。
甲第8号証の処方例として、本発明品1および本発明品5を採用した。さらに本発明品1,5にそれぞれ糖アルコールを実分5%配合した処方を作成して評価を行った。
なお、本発明品1に記載されているポリオキシプロピレングリコールエーテル(甲第8号証における一般式Iでb+c=16のもの)は化粧品原料として使用されていない原料のため、類似の原料としてポリオキシプロピレングリセリルエーテル(甲第8号証における一般式IVでb+c=16のもの)を用いた。
また、本発明品5に記載されているポリオキシプロピレングリセリルエーテル(甲第8号証における一般式IVでb+c=15のもの)およびPEG30000についても化粧品原料として使用されていないため、類似の原料としてポリオキシプロピレングリセリルエーテル(甲第8号証における一般式IVでb+c=16のもの)およびPEG20000を用いた。
作成した試料を用いて、水分保持試験およびカールの保持力試験(甲第8号証における整髪力試験)を行った。

*1)原料名:「ユカフォーマー301」、三菱化学株式会社製(固形分30%,エタノール70%)
*2)原料名:「ユカフォーマーAM75 R205S」、三菱化学株式会社製(固形分30%,エタノール70%)
*3)原料名:「ガントレッツES-225」、ISPジャパン株式会社製(固形分50%,エタノール50%)
*4)原料名:「ユニオールTG1000」日油株式会社製
*5)原料名:「ソルビトール液70(S)」、日研化成株式会社製(固形分70%、水30%)
*6)原料名:「KF353A」信越化学工業社製
2、評価方法
<1>、水分保持試験
(1)長さ18cm、重さ1.5gの毛束の重量を測定後、作成した試料を1g塗布
(2)室温条件下で2時間乾燥させた後の毛束の重量を測定する。
(3)以下の式により水分残存量を測定し、水分保持力として評価した。
水分保持量(g)=(2時間後毛髪重量)-(初期毛髪重量)-(各試料1g中の溶媒以外の重量)
<2>、カールの保持力試験
評価方法は甲第8号証の整髪力評価方法に従い、以下のように行った。
(1)長さ18cm、重さ1.5gの毛束を水で濡らし、ロッドに巻いて室温条件下で3時間自然乾燥した。
(2)カールがついた毛束からロッドを外した。
(3)ミスト状ディスペンサーを用いて試料を4方向から1回ずつ塗布して室温条件下で3時間自然乾燥した。
(4)温度20度、湿度98%条件下で1時間吊るしてカールののびを観測した。
(5)カールした毛髪の長さを測定し、ヘアブロー噴射時の長さを整髪力100%、カールのない元の毛髪の長さ(18cm)を整髪力0%として1時間後のカールの保持力を評価した。
3、評価結果
<1>、水分保持試験

<2>、カールの保持力試験

4、考察
水分保持試験の評価の結果、甲第8号証本発明品1および5は本件特許実施例1と比較して水分保持力が小さいことがわかった。本件特許の整髪用化粧料は水分の保持を意図的に図っている点で本件特許の整髪用化粧料と甲第8号証との基本的な製品意義の相違があるといえる。
またカールの保持力試験の結果、甲第8号証本発明品1および5に糖アルコールを配合した処方はカール保持力、つまり甲第8号証でいう整髪力が下がる傾向にあった。水分保持試験の結果から、糖アルコールを配合すると水分保持力が大きくなることがわかるが、水分が保持されているために皮膜が可塑化されてカール保持力が劣る結果になったものと考えられる。
III、結論
本件特許の整髪用化粧料と甲第8号証の毛髪用化粧料には水分保持力に差異があること、甲第8号証の毛髪用化粧料に糖アルコールを配合すると甲第8号証でいう整髪力が劣ることがわかった。」

[乙第22号証]
平成23年5月13日付けの株式会社資生堂ヘア製品開発グループ・豊田智規氏作成の実験報告書(4)であり、次のような記載がある。
「1.目的
特開2002-60321号公報記載の比較例1及び比較例2の頭髪化粧料、特開2003-95895号公報記載の実施例10の整髪剤組成物、特許第4518520号公報記載の実施例1の毛髪用化粧料、同実施例1からソルビトールを除いた毛髪用化粧料のそれぞれについて、フレーキングの発生という問題を生じるか否かを確認すること。
2.実験の内容
(1)評価用の試料作成
特開2002-60321号公報記載の比較例1及び比較例2の頭髪化粧料、特開2003-95895号公報記載の実施例10の整髪剤組成物、特許第4518520号公報記載の実施例1の毛髪用化粧料及び同実施例1からソルビトールを除いた毛髪用化粧料を、それぞれの公報に記載されている処方を参照して作成した。
(特開2002-60321号公報記載の比較例1及び比較例2)
比較例1 比較例2
ビニルピロジドン・N,N-ジメチルアミノエチル
メタクリル酸共重合体ジエチル硫酸塩(*1) 5
ソルビトール(*2) 5
エタノール 20 20
ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油
(E.O.60)(*3) 0.5 0.5
ポリオキシエチレンセチルエーテル
(E.O.20)(*4) 0.5 0.5
精製水 残部 残部
LPG 8 8
DME 、 2 2
合計 100 100
*1:PDMポリマー(大阪有機化学社製)(純樹脂分の%で記載)
*2:ソルビトール液70(S)(日研化成社製)(純分の%で記載)
*3:エマレックスHC-60(日本エマルジョン社製)
*4:エマレックス120(日本エマルジョン社製)
特開2002-60321号公報記載の比較例1・2のポリオキシエ チレンセチルエーテル(E.O.15)の類似原料として使用。
(特開2003-95895号公報記載の実施例10)
メチルポリシロキサン(20mm^(2)/s)(*1) 7.0
高重合メチルポリシロキサン(10万mm^(2)/s)(*2) 3.0
ポリエチレングリコール1500(*3) 3.0
塩化ステアリルトリメチルアンモニウム(*4) 0.3
3-メチル1、3-ブタンジオール(*5) 10.0
メタクリル酸エステル共重合体の両性化合物(*6) 2.0
ポリオキシエチレン(150)ポリオキシ
プロピレングリコール(35)(*7) 1.5
ポリオキシエチレン(20)ステアリルエーテル(*8) 1.0
カチオン化セルロース(*9) 0.5
オキシベンゾン(*10) 0.1
メチルパラベン(*11) 0.3
プロピルパラベン(*12) 0.1
トリエタノールアミン(*13) 0.1
香料 0.1
エタノール 20.0
液化石油ガス 10.0
精製水 残部
合計 100
*1:KF-96A-20CS(20mm^(2)/sメチルポリシロキサン 信越化学社製)特開2003-95895号公報記載の実施例10の30mm^(2)/sメチルポリシロキサンの類似原料として使用。
*2:FZ-4188(10万mm^(2)/sメチルポリシロキサン35%
東レ・ダウコーニング社製)(純分の%で記載)
*3:ポリエチレングリコール1500(東邦化学社製)
*4:カチナール STC-25W(東邦化学社製)(純分の%で記載)
*5:イソプレングリコール-S(クラレ社製)
*6:ユカフォーマ-AM75 R205S(30%溶液 三菱化学社製
)(純樹脂分の%で記載)
*7:プロノン#208(日油社製)
*8:ノニオンS-220(日油社製)
*9:ポリマーJR(ユニオンカーバイト社製)b
*10:ユビナール M-40(BASF社製)
*11:メッキンスM(上野製薬社製)
*12:メッキンスP(上野製薬社製)
*13:トリエタノールアミン99(ダウケミカル社製)
(特許第4518520号公報記載の実施例1及び同実施例1からソルビトールを除いたもの)
実施例1 実施例1から ソルビトール を除いたもの
イオン交換水 残余 残余
エタノール 40 40
ポリエチレングリコール(分子量1540) 5 5
ソルビトール(*1) 5
ポリエチレングリコール(分子量400) 5 5
メタクリロイルオキシエチルカルボキシベタイン・
メタクリル酸アルキル共重合体(*2) 2.1 2.1
香料 0.2 0.2
合計 100 100
*1:ソルビトール液70(S)(日研化成社製)
*2:ユカフォーマー301(30%溶液三菱化学社製)(純樹脂分の%で記載)
(2)フレーキング発生の有無の評価方法
各評価用試料について、次の方法で、フレーキングの発生の有無を確認した。(特開2002-60321号公報記載の比較例1及び比較例2の頭髪化粧料、特開2003-95895号公報記載の実施例10の整髪剤組成物については液化石油ガス(LPG)、ジメチルエーテル(DME)を含まない原液を用いて評価を行った。)
<1>評価用試料(原液)を毛束(19cm、7.8g)に1.5g塗布してなじませる。
<2>50℃の恒温槽にて2時間乾燥させる。
<3>乾燥後の毛束に10回櫛通し(コーミング)を行う。
<4>毛髪、または櫛に付着した粉状物質(フレーキング)の発生を確認する。
写真・・・中略・・・
(コーミング後に櫛にフレーキングが付着するかを観察)
<5>上記<1>?<4>の手順にて、1試料あたりN=3で検討する。
3.結果
(1)特開2002-60321号公報記載の比較例1及び比較例2
・・・中略・・・
4、考察
評価の結果、特開2002-60321号公報記載の比較例1及び比較例2ではフレーキングの発生が認められたが、特開2003-95895号公報記載の実施例10、並びに、特許第4518520号公報記載の実施例1及び同実施例1からソルビトールを除いたものでは、フレーキングの発生は認められなかった。
この結果から、特開2002-60321号公報記載の比較例1及び比較例2においてはフレーキングの問題が生じるが、特開2003-95895号公報記載の実施例10及び特許第4518520号公報記載の実施例1からソルビトールを除いたものではフレーキングの問題は生じないことが分かった。また、特許第4518520号公報記載の発明において、ソルビトールの有無は、フレーキングの問題とは関係ないことが理解される。」

[乙第23号証]
「【請求項1】(A)・・・、(B)重量平均分子量200?600のポリエチレングリコール50?98質量%、及び(C)・・・・を含有する毛髪化粧料。」(【請求項1】参照)

[乙第24号証]
「【請求項1】パラオキシ・・・・と、重量平均分子量1000以上、1000000未満のポリエチレングリコールと、・・・である水性化粧料。」(【請求項1】参照)

[乙第25号証]
「【0023】<(B)多価アルコール>
・・・・、ポリエチレングリコール(重量平均分子量200?2,000、・・・)」(【0023】参照)

[乙第26号証]
甲第32号証と同じ刊行物(図書)であり、その105?106頁の摘示(甲32-1)を参照。

[乙第27号証]
山形大学大学院理工学研究科物質化学工学専攻・落合研究室作成のウェブページ中の「数平均分子量と質量平均分子量の考え方」の項目において、数平均分子量と質量平均分子量の考え方が4頁にわたって説明されている。

[乙第28号証]?[乙第30号証]
株式会社マンダムの出願にかかる公開公報である。

[乙第31号証]
愛知教育大学助教・住野豊氏作成に係る平成23年7月15日付け実験報告書(試料調製および粘度測定結果に関して)であり、次の実験が記載されている。
「1.処方
下記試作処方を用いて、各成分の最終濃度が特開2002-241234の処方例2に記載の濃度となるように、試料(ヘアジェル)を作成した。
(試作処方) (重量%)
<1>エタノール ※1 14.31
<2>N-メタクリロイルオキシエチルN,N-ジメチルアンモニウム-α-N-メチルカルボキシベタイン・メタクリル酸アルキルエステル共重合体※2 6.7
<3>酢酸ビニル・ビニルピロリドン共重合体 ※3 2
<4>高重合度ポリエチレングリコール(平均分子量30万)※4 2
<5>グリセリン ※5 10
<6>マルチトール液 ※6 5
<7>ポリオキシエチレングリセリン ※7 5
<8>香料 0.1
<9>ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油 ※8 0.1
<10>カルボキシビニルポリマー ※9 0.5
<11>トリエタノールアミン ※10 0.5
<12>イオン交換水 残量
合計 100.0
※1)原料名:一般アルコール トレーサブル95 Q i b i X (日本アルコール産業社製)
※2)ユカフォーマー301(三菱化学社製)(固形分30%、無水エタノール7 0 %)
※3) PVA-6450 (大阪有機化学工業社製)(固形分50%、無水エタノール50%)
※4)ポリオックスWSR N-750 (ダウ・ケミカル社製)
※5)化粧品用濃グリセリン(阪本薬品工業社製)
※6)マビット(三菱商事フードテック社製)
※7)コニオンRG-120 (新日本理化社製)
※8)エマレックスHC-60(日本エマルジョン社製)
※9)カーボポール941 (ルーブリゾール社製)
※10)トリエタノールアミン99(ダウ・ケミカル社製)
2.調製方法
上記の原料を総量1Kgになるよう混合した。
手順としては以下のような3種の相A・B・Cを準備した後、それぞれ混合し最終的な試料とした。
A.
1)イオン交換水(<12>)300gをスリーワンモーターを用いて300rpmで撹拌しつつ、カルボキシビニルポリマー(<10>)5gを20分間かけて添加した。
2)その後、300 rpmで均一になるまで50分間撹拌した。
3)300 rpmで撹拌しつつ、グリセリン(<5>) 100g、マルチトール液(<6>)50g、ポリオキシエチレングリセリン(<7>)50gを5分間かけて添加した。
B.
1)エタノール(<1>)143.1 gをディスパーミキサーを用いて1000rpmで撹拌しつつ、香料(<8>)lg、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油(<9>)1g、高重合度ポリエチレングリコール(<4>)20 gを添加した後、イオン交換水(<12>)217.9gを添加した。
2)その後、1000rpmで均一になるまで30分間撹拌した。
3)1000rpmで撹拌しつつ、N-メタクリロイルオキシエチルN,N-ジメチルアンモニウム-α-N-メチルカルボキシベタイン・メタクリル酸アルキルエステル共重合体(<2>)67g、酢酸ビニル・ビニルピロリドン共重合体(<3>)20gを添加した。
4)その後、1000rpmで均一になるまで30分間撹拌した。
C.
イオン交換水(<10>)20gとトリエタノールアミン(<9>)5gを混合した。
以上のA・B・Cを以下の手順で混合した。
1)ディスパーミキサーを用いて600 rpm でAを撹拌しつつ、Bを添加した。
2)7分間600rpmで撹拌した。
3)Cを添加した後、300 rpm で8分間撹拌した。
以上の工程により、試料を調製した。
3.粘度の測定
上記2で調製された試料をデジタルビスメトロン粘度計VDA2(低粘度測定用、芝浦システム株式会社製)(以下、「VDA2」という)およびデジタルビスメトロン粘度計VDH2(高粘度測定用、芝浦システム株式会社製)(以下、「VDH2」という)を用いて試料の粘度を測定した。測定は以下の測定条件について、一定のロータ一の回転速度の下、1分間ずりを与え続けたのちの定常値を測定した。VDA2を用いた時の試料の温度は26℃程度、VDH2を用いた時の試料の温度は27℃であった。ローターの種類と回転速度、および測定された粘度を以下に示す。なお、これらの測定は、ビスメトロン粘度計取扱説明書により上記2の試料の粘度を測定するに適した条件により行われており、回転速度60.0rpmの条件ではいずれもスケールオーバー(10,000mPa・s以上)のため測定不能であった。それぞれの測定は同一の条件に対して3度繰り返しを行つた。
VDA2による測定
ローターR4 回転速度12.0rpm
24400.00mPa・s
24400.00mPa・s
24450.00mPa・s
平均24,417mPa・s
VDH2による測定
ローターR6 回転速度10.0rpm
25600.00mPa・s
24700.00mPa・s
25500.00mPa・s
平均25,267mPa・s
ローターR5 回転速度10.0 rpm
23320.00mPa・s
23320.00mPa・s
23320.00mPa・s
平均23,320mPa・s
III.結論
以上の通り,特開2002-241234の処方例2の処方に従って試料を調製して粘度を測定した結果、24,417mPa・s(VDA2,ローターR4,12.0rpm),25,267mPa・s(VDH2,ローターR6,10.0rpm),23,320mPa・s (VDH2,ローターR5,10.0rpm)という値になった。このことから,処方例2に開示されたヘアジェルの粘度は20,000mPa・sを上回る値となることが分かった。」

[乙第32号証]
芝浦システム(株)作成に係る「ビスメトロン粘度計 VDA2 取扱説明書」である。なお、発行日は不明である。

[乙第33号証]・・・中略・・・

[乙第34号証]
2010年8月2日付けの(株)東ソー分析センター作成に係る分析・試験報告書であり、試料として(請求人製品である)「ギャツビークラッシュムーブ(赤)」、「ギャツビー クールモーション(緑)」及び「ギャツビー スウィングマスター(白)」の処方を分析したものであり、各々について、PEG300,1540,マルチトール,ポリマーK,エタノール,水の量を測定したデータが示されている。

[乙第35号証]
2010年11月18日付けの(株)東ソー分析センター作成に係る分析・試験報告書であり、試料として(請求人製品である)「ギャツビーエアリーロツク(赤)」の処方を分析したものであり、PEG300,400,1540,マルチトール,ソルビトール,ポリマーK,PVP/VA,エタノール,水の量を測定したデータが示されている。

[乙第36号証],[乙第37号証] ・・・中略・・・

[乙第38号証]
2011年7月14日付けの株式会社資生堂ヘア製品開発グループ・倉島巧氏作成の陳述書(官能試験方法の説明)であり、次の様に記載されている。
「I、目的
本陳述書では、特願2010-23607の明細書、同出願に係る平成22年3月25日付け意見書(甲第30号証)、乙第14号証の実験報告書、特願2010-23824の明細書(甲第16号証)、同出願に係る平成22年6月8日付け意見書(甲第17号証)、並びに、特願2010-35165の明細書(甲第26号証)の表1及び表2における官能試験の方法を説明することを目的とする。
II、官能試験方法の説明
1、官能試験の手順
上記官能試験において、各パネラーは、ランダムに並べられたサンプルを、評価項目ごとに順番に評価する。
官能試験の手順は以下のとおりである。
<1>試験担当者が毛束に一定量の試験液をなじませた後、つるす。
<2>各パネラーが毛束を触って評価し、その結果を評価用紙に記入する。
(i)の項目の評価を全てのサンプルについて終えたら、次に(ii)の項目
の評価を全てのサンプルについて行い、これを(iv)の項目まで繰り返
す。
(i) べたつき感のなさ
(ii) 整髪力
(iii) 滑らかさ
(iv) 仕上がりの軽さ
<3> 各パネラーが1時間後の再整髪力の評価を行う。
(v) 1時間後の再整髪力
<4> 試験担当者が各パネラーの評価用紙に記載された評価点を合計し、 評価を決定する。
2、官能試験の手順の詳細
(1)一度にパネラー2?3人ずつ評価する。
(2)1つの評価群(例えば、1つの特許の実施例・比較例)をまとめて評価する。
(3)1つずつサンプルを渡すのではなく、実施例・比較例等の別なく、ランダムにサンプルを並べて評価してもらう。
(4)パネラーが違うサンプルを触った後に、それ以前のサンプルの評価を書き直すことも認める。
(5)評価の基準となる基準品(基準試料)は設けておらず、そのパネラーなりの評価をしてもらう。
3、評価用紙
各パネラーに渡す評価用紙は、サンプルNo.及び評価項目で区分けされた表を記載したものである。具体的には、以下のようなものである。

4、官能試験の様子を撮影した写真
別の研究において同様の官能試験を実施したときの写真を撮影したので、参考のために次頁以下に示す。
写真1?5 ・・・後略・・・」

[乙第39号証]
第6頁表中の実施例2として、「皮膜感 ○」,「べたつき感 △」,「風合い △」の評価データが示されている。

[乙第40号証]
「【0023】(試験例1;起泡力の評価)起泡性の評価は、実施例1の試料を基準として、ハーフヘッド法により、以下のとおり実施した。・・・・」(段落【0023】)

[乙第41号証]
(乙41-1)「 (1)訂正の内容
訂正事項a
請求項1の「(a)油相15?40重量%、(b)一般式(1)
・・・式・・略・・・
(式中、Rは炭素数1?18のアルキル基を示し、Aはエチレン基又はプロピレン基を示し、Xは水素原子又は炭素数1?4のアルキル基を示し、m、n及びzはそれぞれ2?25の数を示し、lは1?10の数を示す)
で表わされるシリコーンコポリオールの少なくとも1種からなる乳化剤0.05?5重量%、及び(c)残部の水相からなる、使用前には異なる二層に分離し、振とうすることにより混合されて短時間に均一なエマルションを形成し、その後二層に分離する毛髪化粧料。」を「(a)炭素数12?30の直鎖の炭化水素からなる油相15?40重量%、(b)一般式(1)(審決注:この化学構造式及びその説明に変更はないので、記載を省略する。)で表わされるシリコーンコポリオールの少なくとも1種からなる乳化剤0.05?5重量%、及び(c)残部の水相からなる、使用前には異なる二層に分離し、振とうすることにより混合されて短時間に均一なエマルションを形成し、その後二層に分離するヘアコンディショニング剤。」と訂正する。」(「2.訂正請求について」の(1)を参照)
(乙41-2)「(2)訂正の適否
訂正事項aは、組成物を構成する成分(a)「油相」を「炭素数12?30の直鎖の炭化水素からなる油相」に限定し、また、組成物の用途を「毛髪化粧料」から「ヘアコンディショニング剤」に限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。そして、訂正後の油相成分に関しては、願書に添付した明細書(以下、「特許明細書」という。)の段落[0016]における好ましいものの記述、及び[0030]の実施例におけるヘアコンディショニング剤を構成する具体的な成分の記述から、特許明細書に記載された事項の範囲内のものであり、また、訂正後の用途に関しては、特許明細書の段落[0020]、[0022]及び[0029]の記述から特許明細書に記載された事項の範囲内のものである。
訂正事項b?dは、・・・中略・・・
訂正事項fは、訂正事項aにおける油相の限定に伴って、実施例を参考例とし、また、実施例の番号を変更して、明細書の記載を整合させたものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とするものであって、特許明細書に記載された事項の範囲内のものである。
そして、上記訂正事項a?fのいずれの訂正も、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
・・・・」(「2.訂正請求について」の(2)を参照)

[乙第42号証]
(乙42-1)「(1)特許請求の範囲の請求項1の「グリチルリチン酸誘導体およびその塩もしくはグリチルリチン酸誘導体およびその塩の群から選ばれる少なくとも一つ0.005?2.0重量%と、水溶性紫外線吸収剤0.001?20重量%とを配合することを特徴とする美白化粧料。」を「グリチルリチン酸誘導体およびその塩もしくはグリチルリチン酸誘導体およびその塩の群から選ばれる少なくとも一つ0.005?2.0重量%と、2-フェニルベンズイミダゾール-5-スルホン酸のアルカリ金属、アンモニア又は有機アミンの各塩の1種又は2種以上0.001?20重量%とを配合することを特徴とする美白化粧料。」(第1?2頁の「II.1.訂正の内容」の(1)参照)
(乙42-2)「1 訂正事項(1)は、請求項1の「水溶性紫外線吸収剤」を明細書[0012]にもともと記載されていた「2-フェニルベンズイミダゾール-5-スルホン酸のアルカリ金属、アンモニア又は有機アミンの各塩の1種又は2種以上」と訂正するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、特許請求の範囲を何等拡張・変更するものではない。」(第2頁の「II.2.訂正の目的の適否、新規事項の有無および拡張・変更の存否」の1参照)

[乙第43号証]
(乙43-1)「ウ.訂正の目的の適否、新規事項の有無および拡張・変更の存否
上記訂正は、特許請求の範囲の範囲の減縮を目的とし、明りょうでない記載の釈明を目的とし、また、新規事項の追加に該当しないし、実質的に特許請求の範囲の範囲を拡張又は変更するものではない。」(第2?3頁の「(2)訂正の適否について」の「ウ.」参照)
(乙43-2)「【訂正の要旨】 ・・・・
1,「(a)陰イオン界面活性剤」を、特許請求の範囲の減縮を目的に「(a)アルキル硫酸エステル塩、ポリオキシエチレンアルキル硫酸エステル塩及びスルホコハク酸エステル塩から選ばれる陰イオン界面活性剤」と訂正し、
2,「(b)アルキルサッカライド系界面活性剤 0.2?5重量部」を、特許請求の範囲の減縮を目的に「(b)一般式
R_(1)-O-(R_(2)O)t-(G)p (1)
[式中、・・・・]で表されるアルキルサッカライド系界面活性剤 0.2?5重量%」と訂正し、
・・・(後略)。」(第11?12頁参照)

[乙第44号証]
(乙44-1)「ア 訂正事項1
特許明細書の請求項1の成分(A)に「酸化亜鉛」とあるのを「酸化亜鉛(但し、疎水化処理されたもの及びアルミナで表面コーティング処理され且つ鉄ドープされたものを除く)」とする訂正。
イ 訂正事項2
特許明細書の請求項1の成分Aから「ラウリン酸亜鉛、ステアリン酸亜鉛」を削除する訂正。
ウ 訂正事項3
特許明細書の請求項1の成分(A)について「0.01?5質量%」とあるのを「0.05?1質量%」とする訂正。」(「2.訂正請求について」の「(1)訂正の内容」)
(乙44-2)「(2)訂正の可否
ア 訂正事項1?3について
訂正事項1及び2は、請求項1の成分(A)として選択される化合物の範囲を減縮するものであり、訂正事項3は、成分(A)の含有量の範囲を減縮するものであって、いずれも、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。また、訂正事項1及び2による化合物の範囲の減縮により、訂正の前後において新たな技術的事項が追加されたとは認められず、また、訂正事項3の訂正後の数値の根拠は、特許明細書の段落【0011】に存在するから、いずれの訂正事項も特許明細書に記載した事項の範囲内のものである。
請求人は、訂正事項2に対して、この訂正は、当初明細書に記載されていなかった事項を記載するものであるから、当初明細書に記載された事項の範囲内の訂正ではなく、さらに、特許請求の範囲を実質的に変更するものであるから、訂正は認められないと主張する。
しかし、請求人の主張は、訂正によって、成分(A)から「ラウリン酸亜鉛、ステアリン酸亜鉛」が削除されたことをもって、訂正後の請求項1?4に係る油中水型外用剤には、「ラウリン酸亜鉛、ステアリン酸亜鉛」を任意添加成分として、含有量の制限なく配合し得るから、訂正後の請求項1?4に記載の発明には、当初明細書には本件発明の範囲内のものとして認識されていなかった組成の油中水型外用剤が包含されることとなったということを前提とするものであり、そして、その前提は誤りであるから、請求人の主張は失当である。
すなわち、組成物発明において、任意添加成分として、どのような化合物が、どのような配合量で添加されることが許容されるかは、明細書の記載全体から(さらには、技術常識等を勘案して)把握されるものであり、配合し得る化合物の種類や量についての限定が請求項にないからといって、いかなる種類の化合物をいかなる量で配合し得ることを意味するものではない。」


VII.無効理由4について
先ず、記載不備があるとする無効理由4について検討する。
請求人は、無効理由4について、概略、次の(1)?(3)の点を挙げて、発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないから、また、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号及び第2号に規定する要件を満たしていないから、特許法第123条第1項第4号の規定に該当し、無効とすべきものである旨を主張しているので、以下順に検討する。
(1)ポリエチレングリコールの平均分子量について、質量平均分子量による規定では理解できないし、如何に調製すればよいのか説明がない。
(2)本件特許発明に作用効果が達成できない化粧料が含まれている。
(3)本件特許発明1の(b)成分について、(b-1)?(b-3)全てが必須であるにもかかわらず、その実施例がない。

(VII-1)(1)の点について
(a)請求人は、ポリエチレングリコールの平均分子量について、質量平均分子量による規定では理解できないし、如何に調製すればよいのか説明がない旨を主張する。
しかし、「質量平均分子量」は、ポリマー(重合体)の平均分子量を特定する手段として周知のものであり、その定義も測定手段も知られている(例えば、乙第6?8,27号証参照)し、目的とする質量平均分子量のものを製造することに格別の困難性があるとも認められない。

(b)請求人は、ポリエチレングリコール300,ポリエチレングリコール400,ポリエチレングリコール1500,ポリエチレングリコール1540(請求人は、PEG300,PEG400,PEG1500,PEG1540と略記している)は、化粧品の分野ではその数値は数平均分子量を意味する旨も主張している。
そこで、前記ポリエチレングリコール300等の表記がされている甲第13,25号証を検討すると、その平均分子量試験(摘示(甲13-3)参照)(平均分子量を求める方法)は、甲第5号証の摘示(甲5-3)の数平均分子量の決定方法と一致していることからみて、数平均分子量を求めていると認められ、それらポリエチレングリコールに続く数値は、一般的には数平均分子量を意味する可能性もあり得るといえる。ただし、甲第12号証に記載されているように、「ポリエチレングリコール1500」の平均分子量は500?600であるので、該表記が数平均分子量を意味しない場合も知られているから、化粧品分野では必ず数平均分子量を意味するということはできない。そして、本件特許明細書の段落【0018】や【0040】ではPEG1,000、PEG1,540、PEG2,000などの表記が示されているから、この表記だけをみれば、本件特許発明の質量平均分子量は数平均分子量の誤りではないかとの疑義が生じてもおかしくはない。
しかし、
(i)本件特許明細書の段落【0018】において、「質量平均分子量(Mw。以下、単に「分子量」とも記す)が1,000以上のポリエチレングリコール(PEG)が好ましい。・・・。具体的には分子量1,000のPEG(以下、「PEG1,000」というように記す)」と明確に定義されているのであり、
(ii)本件特許明細書中の実施例では、「ポリエチレングリコール(分子量400)」のように数値が「分子量」を表すことを明示して記載され、「ポリエチレングリコール400」のような表記をしていないため、数平均分子量との解釈は成り立たないものといえ、そして、
(iii)被請求人は、錯誤により質量平均分子量と記載したものではなく本願明細書に記載のとおり「質量平均分子量」で正しい旨を表明しているから、
本件特許発明並びに明細書における質量平均分子量が数平均分子量の誤りであるということはできない。
更に、被請求人は、PEG300,PEG400,PEG1500,PEG1540については質量平均分子量を測定できることを釈明している(乙第12,13,15号証参照)し、乙第9?11,23?25号証を提示し、幾つもの出願において、質量平均分子量(重量平均分子量)で規定したポリエチレングリコールを用いて特定した発明が記載されているように、質量平均分子量で規定したポリエチレングリコールが適宜使用されている旨を釈明している。

(c)ところで、請求人は、具体的に以下(1-i),(1-ii)(<1>,<2>)の点も特に主張しているが、これらの点にいては、以下のとおり、到底採用できるものではない。
(1-i)請求人は、化粧料の分野において使用するポリエチレングリコールは、通常、数平均分子量で規定されるため、質量平均分子量で規定されるポリエチレングリコールというものが毛髪化粧料との関係で不明確であること、乙9?11は、医薬製剤や洗浄剤についての文献であり、化粧料の分野の当業者にとって関係がないこと、毛髪化粧料の分野において使用されるPEGは、通常、数平均分子量で規定されているため、当業者にとって質量平均分子量で規定した意義が不明となり、数平均分子量の間違いではないかとの強い疑念を持たせるのであること、特に、本件訂正明細書の【0018】、【0040】に記載のPEG200、PEG300、PEG400、PEG600、PEG1000、PEG1540、PEG2000といった具合の表記は、化粧料の分野においては数平均分子量で規定されたポリエチレングリコールの略称として慣用的に使用されていること、を主張する。
しかし、上記(a),(b)で検討のとおりであって、また、数平均分子量が化粧料の分野で常用されているか否かにかかわらず、どのような平均分子量で規定するかは、発明者の自由であり、本件の場合に質量平均分子量で特定することに格別の支障を生じるとも認められない。なお、被請求人からは、乙第23?25号証には、化粧料の技術分野の特許公開公報において、ポリエチレングリコールを重量平均分子量(即ち、質量平均分子量)で規定した例も提示され、釈明されている。
よって、上記の請求人の主張は失当であり、採用できない。

(1-ii)請求人は、「仮に、質量平均分子量で正しいということであれば、次のような2つの問題が浮上する。」とし、次の<1>,<2>の点を主張している。
<1>請求人は、「質量平均分子量でのPEG1000、PEG1540、PEG2000のようなものをどのようにして調製するのかという問題である。これが数平均分子量であれば、規格品が流通しているので、当業者は容易に使用できるが、質量平均分子量であれば容易には入手することはできない。 質量平均分子量と数平均分子量との問には、機械的な対応関係は存在せず、通常、質量平均分子量と数平均分子量は相違する(乙第6号証?乙第8号証)。数平均分子量で規定されたPEG1540の質量平均分子量は、乙第12号証では1400であり、乙第13号証では1600であり、相当程度の違いがあり、質量平均分子量が1540のものを調製しようとする場合、どうするのかという問題が生じる。 この点に関し、被請求人は質量平均分子量の調整も容易に行うことが可能であると主張するが、多くのポリエチレングリコールを合成し、逐一、質量平均分子量を測定するしか方策はないと思われるが、これによっても、質量平均分子量がちょうど1540のポリエチレングリコールを得るのは容易なこととはいえず、これでは当業者に極めて過度の負担を強いるものである。当業者が本件訂正明細書の実施例を追試しようとした場合、質量平均分子量が1540のPEGを調製するには当業者に期待し得る程度を超える試行錯誤を要することになるから、容易には実施例の追試はできないことになる。」と、主張する。
しかし、流通している規格品を入手しなければならない必然性はみあたらない。また、被請求人の答弁から明らかなように、質量平均分子量は測定できるし、PEG1000、PEG1540、PEG2000に近い質量平均分子量のものを製造するのに格別の困難性があるとは認められない。そもそも、質量平均分子量1000,1540,2000のぴったりのものを製造しなければならない理由はない。追試に際し、1540近傍の質量平均分子量のものを製造または入手できれば足りる場合も多いのであり、それで追試は可能であり、過度の負担を強いるものではない。
よって、前記<1>の請求人の主張は失当である。

<2>請求人は、「本件発明3の(b-3)成分は、「常温(25℃)で液体であって、かつ質量平均分子量200?900のポリエチレングリコール」という意味となるが、常温(25℃)で液体の質量平均分子量900のPEGを如何に調製するかは不明である。 数平均分子量で規定されたPEG1000は、凝固点が35?40℃(甲第13号証参照)(甲第25号証の940頁の表1では30?40℃)であり、常温(25℃)では固体であり、数平均分子量で規定されたPEG600は、凝固点が18?23℃(甲第13号証参照)(甲第25号証の940頁の表1では15?25℃)であり、常温(25℃)では液体である。そして、化粧料の分野において使用されるPEGは、「PEG1000」の次は、「PEG600」であり、PEG900という規格品はない。 このような中で、本件発明3の規定は、どのようなものであるのか、そもそもそのようなPEGが存在するのか否かが不明である。甲第25号証の940頁の図3、表1にPEGの凝固点範囲が記載されているが、分子量600を越すと凝固点は25℃より高くなり、分子量900付近の凝固点は30℃を遥かに越しているから、常温(25℃)では固体である蓋然性が極めて高いというべきである。そうすると、常温(25℃)で液体であって、かつ質量平均分子量が900というポリエチレングリコールが、そもそも存在するのか否かが不明である。」と、主張する。
しかし、質量平均分子量200?900のものの中で液体のものを製造できれば足りるものであり、規格品が存在しなければならない理由は何もない。また、質量平均分子量900のものが固体であれば、本件特許発明の対象外になるにすぎず、「常温(25℃)で液体であって、かつ質量平均分子量200?900のポリエチレングリコール」は存在し得るのであって、そのことは、前記のとおり数平均分子量で規定されたPEG600が液体であることを請求人は既に自から認めているのであり、質量平均分子量は数平均分子量より大きいことを勘案すると、少なくとも質量平均分子量が600程度より小さければ液体と解されることは明らかであって、なんら差し障りはないのである。
よって、前記<2>の請求人の主張も失当である。

以上のとおりであるから、(1)の点にかかる前記請求人の主張は、失当であり、採用できない。

(VII-2)(2)の点について
請求人は、発明の作用効果が達成できない化粧料が含まれているとの理由の具体的例として、甲第14号証と甲第15号証を用いて主張しているのでその点について検討する。

(2-i)甲第14号証を提示しての主張について
請求人の甲第14号証を提示しての主張は、次のとおりである。
請求人は、作用効果を考えて(b)成分、(c)成分が、仮にそれぞれ最大値をとると仮定した場合、(a)成分=0.1質量%、(b)成分=1質量%、(c)成分=1質量%となる。このような例において、本件発明の効果を奏するか否かを確認する目的で実験を行ったところ、甲第14号証には、(a)成分0.1%,(b)成分1%,(c)成分1%,(d)成分10%の追試を行い評価し、「整髪力○、再整髪力○、べたつき感のなさ×、仕上がりの軽さ△」との結果が示されていて、本件発明の効果を奏さないことが判明したこと、すなわち、その結果は、「べたつき感のなさ」に関し、「×」評価であり、少なくとも、この点において、本件発明の所定の効果を奏さないことが明らかであるところ、本件発明1において、(a)成分は「0.1?20質量%」と規定されているが、少なくとも、(a)成分が0.1質量%の場合、所望の効果を奏しえないものであるから、あるいは、仮に所望の効果を奏する組み合わせがあったとしても、そのようなものを調製しようとすると当業者に過度の試行錯誤を強いることになるので、発明の詳細な説明の記載は、当業者が実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるとはいえない。また、特許請求の範囲に記載の発明は、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものではないので、特許を受けようとする発明は、発明の詳細な説明に記載したものではない旨を主張する。
更に、請求人は、被請求人の提出による乙第14号証により、甲第14号証の追試実験結果では、「整髪力○、再整髪力○、べたつき感のなさ△、仕上がりの軽さ○」が示されているものの、請求人の主張は誤りであり(答弁書62頁最下行-63頁4行)、本件発明の効果は所定の作用効果を奏するとの被請求人の主張に対し、被請求人は乙第14号証の結果に基づいて主張しているに過ぎず、甲第14号証の結果が誤りであるとの証拠を提示するものではないから、パネラーが異なれば、作用効果を奏するとはいえないというレベルのものに過ぎないということである旨を主張する。

上記請求人の主張について検討する。
先ず、甲第14号証の追試の条件を検討すると、「質量平均分子量400のポリエチレングリコールおよび質量平均分子量1540のポリエチレングリコールは、市販品として販売されていないことから、医薬部外品原料規格に規定されるポリエチレングリコール400およびポリエチレングリコール1540を用いた。」とされているのであって、実験に用いられたポリエチレングリコールの分子量は、質量平均分子量ではなく数平均分子量であると認められる点で、追試実験として適切なものではないから、甲第14号証は検討を要しないものといえる。
ただ、本件特許発明1で規定する(a)成分と(b)成分の特定する条件(常温(25℃)で液体か固体かの点;なお、分子量の規定はない)を満たす蓋然性も高いと考えられるので、以下、その蓋然性を明らかにすることなく仮に甲第14号証が適切な追試であるとして、検討を進める。なお、後記の甲第15号証についても同様である。
そこで、本件特許明細書を検討すると、先ず「水性系で低粘度でありながら整髪力および再整髪力に優れ」とされ、「しかも、べたつきがなく、滑らかで、仕上がりの軽さに優れる」とされている(段落【0010】)。そして、実施例1?9をみるに、整髪力が○または◎(二重丸)で、1時間後の再整髪力が◎(二重丸)であるのに対し、べたつき感のなさや仕上がりの軽さについては△である実施例(実施例2,3,5,6,8)が幾つも示されていることに鑑みると、整髪力と1時間後の再整髪力を主たる作用として希求し、他の作用については従たるものとされていると解される。
してみると、甲第14号証は、少なくとも整髪力と1時間後の再整髪力に関し、いずれも○の評価であり、その点において所期の作用効果が奏されていることを否定するものではない。そして、少なくとも主たる作用効果である整髪力と1時間後の再整髪力に関し作用効果が奏されるのであれば、従たる作用効果にたとえ劣るものがあったとしても、発明の詳細な説明の記載は、当業者が実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものでないと言うことができないし、特許を受けようとする発明は、発明の詳細な説明に記載したものではないとも言えない。
なお、それ故、整髪力と1時間後の再整髪力の評価の点では乙第14号証と甲第14号証に差異がないので、両号証において、べたつき感のなさや仕上がりの軽さの評価の差異が生じたのは、何れが誤っているのか(正しいのか)を断定するまでもないことである。
したがって、請求人の上記甲第14号証を用いての主張は失当であり、採用できない。

(2-ii)甲第15号証を提示しての主張について
請求人の甲第15号証を提示しての主張は、次のとおりである。
請求人は、本件明細書に記載の実施例4について実験を行ったところ、甲第15号証には、「整髪力○、再整髪力○、べたつき感のなさ×、仕上がりの軽さ×」との結果が示されていて、本件発明の所望の効果を奏さないものであることが判明したと主張し、その結果は、「べたつき感のなさ」と「仕上がり感の軽さ」の評価がいずれも「×」であり、実施例4は、本件発明の構成要件を全て充足するものであるにもかかわらず、効果を奏さないものであり、特に、実施例4の各成分の量は、(a)成分:5質量%(構成要件A: 0.1?20質量%),(b)成分:5質量%(構成要件B:0.1?30質量%),(c)成分:2.1質量%(構成要件N:0.1?15質量%),(d)成分:5質量%(段落0057:0.1?20質量%)であり、比較的所定の要件の中でも、下限値や上限値の周辺ではなくほぼ中間領域の数値であるにもかかわらず、発明の作用効果が達成できない、という事実に鑑みれば、本件発明に規定の要件を充足する整髪用化粧料に関し、所望の効果を奏するものも存在するかもしれないが、同時に効果を奏し得ないものが相当程度に存在する蓋然性が高いことが理解できるから、所望の効果を奏するものを調製しようとすると、逐一、効果を確認することが必要とされ、当業者に期待し得る程度を超える過度の試行錯誤を強いることになるので、発明の詳細な説明の記載は、当業者が実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるとはいえないし、また、特許請求の範囲に記載の発明は、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものではないので、特許を受けようとする発明は、発明の詳細な説明に記載したものではないと主張する。
更に、請求人は、被請求人の反論について、特段の証拠を提出することなく、実施例4は本件訂正明細書に記載されているとおり、本件発明の所定の効果を奏するものである旨を単に主張しているに過ぎない(答弁書63頁9-10行)と主張するとともに、また、本件発明の所望の効果を奏さないとの請求人の主張が誤りであるとの被請求人の指摘に対し、甲第15号証の結果が誤りであるとの証拠を提示するものではない旨を主張する。そして、請求人は、本件特許発明に関し、官能試験においてはパネラーが別であれば、多少の違いは生じ得ると思われるものの、評価結果が大幅に相違すると、効果に疑念が生じるのは当然のことであるし、官能評価であり、パネラーも異なるので、いずれが正しいかの判断はできないが、要するに、その程度の効果に過ぎないということであって、換言すれば、誰が評価しても同様の評価となるほどのものではないから、被請求人の主張には根拠がない旨を主張する。

そこで、上記請求人の主張について検討する。
本件特許明細書の記載全体からみて、上記(2-i)で検討したように、本件特許発明は、整髪力と1時間後の再整髪力を主たる作用として希求し、他の作用については従たるものとされていると解される。
してみると、甲第15号証は、少なくとも整髪力と1時間後の再整髪力に関し、いずれも○の評価であり、その点において所期の作用効果が奏されていることを否定するものではない。そして、少なくとも主たる作用効果である整髪力と1時間後の再整髪力に関し作用効果が奏されるのであれば、従たる作用効果にたとえ劣るものがあったとしても、発明の詳細な説明の記載は、当業者が実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものでないと言うことができないし、特許を受けようとする発明は、発明の詳細な説明に記載したものではないとも言えない。
なお、それ故、本件特許明細書に記載された実施例4と甲第15号証における整髪力及び1時間後の再整髪力作用効果の評価に◎と○の差異があるとしても、上記のとおり甲第15号証でも作用効果を奏していると認められることから実質的な差異とはいえないし、べたつき感のなさや仕上がりの軽さの評価に差異について何れが正しいのか断定するまでもないことである。
したがって、請求人の上記甲第15号証を用いての主張は失当であり、採用できない。

(2-iii)まとめ
したがって、請求人が主張する理由によっては、発明の詳細な説明の記載は、当業者が実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるとはいえないとすることはできないし、また、特許請求の範囲に記載の発明は、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものではないので、特許を受けようとする発明は、発明の詳細な説明に記載したものではないとすることはできない。

(VII-3)(3)の点について
請求人は、(b)成分について、(b-1)?(b-3)全てが必須であるにもかかわらず、その実施例がないから、特許を受けようとする発明は、発明の詳細な説明に記載したものではないし、また、発明が明確でない旨を主張している。
しかし、(b)成分は、(b-1)?(b-3)のうちいずれか1種以上を含んでいれば良いものと解するのが相当であり、全てが必須であると解すべき理由は見いだせないから、請求人の主張はその前提を誤っている。
よって、請求人の(3)についての主張は採用できない。

(VII-4)無効理由4のまとめ
以上のとおりであるから、本件特許明細書に請求人が主張する記載不備はなく、請求人が主張する無効理由4については、採用することができない。


VIII.無効理由1について
請求人は、特許第4518520号の請求項1,2,4,6?8に係る発明は、甲第2号証を参酌し、甲第1号証に開示されているから新規性がなく、特許法第29条第1項の規定により特許を受けることができないものであり、その特許は同法第123条第1項第2号の規定に該当し、無効とすべきものである旨を主張しているので、以下検討する。
なお、請求人は、甲第1号証の処方例2が主引例である旨を主張している(例えば、弁駁書第37頁22?24行、同書第44頁5行目、平成23年5月26日付け口頭審理陳述要領書第32頁など参照)。
ところで、本件特許発明1,2,4,6?8は、上記「III.」で説明したとおり、上記「II.(1)」において、特許第4518520号の特許請求の範囲の請求項1,2,4,6?8として摘示されたとおりである(再掲は省略する。)。

(VIII-1)本件特許発明1について
(1)甲1発明
甲第1号証には、上記「VI.」の[甲第1号証]に摘示した事項からみて、特に処方例2の組成からみて、次の発明(以下、「甲1発明」ともいう。)が記載されているものと認められる。なお、「N-メタクリロイルオキシエチレンN,N-ジメチルアンモニウム-α-メチルカルボキシベタイン・メタクリル酸アクリルエステル共重合体」は、技術常識並びに「N-メタクリロイルオキシエチレンN,N-ジメチルアンモニウム-α-N-メチルカルボキシベタイン・メタクリル酸アルキルエステル共重合体」(段落【0009】、摘示(甲1-5)参照)の例示があることを勘案すると、下線部は、「・・メタクリル酸アルキルエステル」の誤記と認められるので、以下、そのように訂正して記載する。
「変性アルコール 20.00重量%、N-メタクリロイルオキシエチレンN,N-ジメチルアンモニウム-α-メチルカルボキシベタイン・メタクリル酸アルキルエステル共重合体 2.00重量%、酢酸ビニル・ビニルピロリドン共重合体 1.00重量%、高重合度ポリエチレングリコール(平均分子量30万) 2.00重量%、グリセリン 10.00重量%、マルチトール液 5.00重量%、ポリオキシエチレングリセリン 5.00重量%、香料 0.10重量%、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油 0.10重量%、カルボキシビニルポリマー 0.5重量%、トリエタノールアミン 0.5重量%、精製水 残量(合計100.00重量%)であるヘアジェル。」(甲1発明)

(2)対比、判断
本件特許発明1と甲1発明とを対比する。
なお、以下、(a)成分?(d)成分というのは、順に、本件特許発明1における(a)成分?(d)成分を指すものとする。

(イ)(a)成分とその配合割合について
甲1発明の「高重合度ポリエチレングリコール(平均分子量30万)」は、エチレンオキシド(EO)の重合体であり、その分子量からみて、常温(25℃)で固体であるものと認められることから、本件特許発明1の「(a)常温(25℃)で固体であり、エチレンオキシド(EO)・・・の構成単位が重合・・したポリアルキレングリコール重合体」に一致する。
ちなみに、本件特許明細書には、EO重合体について、「分子量の上限は特に限定されるものではない」と説明されているから、平均分子量30万のものを採用することを阻害するものではない。この点、被請求人も、(a)成分が含有されていることについて争わないとしている(平成23年7月19日付け上申書(1)第2頁12?14行参照)。
そして、甲1発明の「高重合度ポリエチレングリコール(平均分子量30万)」の配合割合「2.00重量%」は、本件特許発明1で特定する(a)成分の割合「0.1?20質量%」に一致している。なお、「重量%」と[質量%]は、厳密には定義が異なるが、地球上において重量%と質量%は同等なものとして扱われ、両者に実質的な相違はない(以下、同様である。)。

(ロ)(b)成分とその配合割合について
甲1発明の「グリセリン」は、本件特許発明1の「(b)常温(25℃)で液体」の(b-1)成分として特定されている「グリセリン」そのものである。
ところで、甲1発明の「ポリオキシエチレングリセリン」は、本件特許発明1の「(b-2)1?4価のアルコールに」エチレンオキシド(EO)・・の構成単位が重合・・したアルキレンオキシド付加重合体」に該当するが、重合の程度が不明であるため、常温(25℃)で液体であるか否か特定できない。そして、1つのグリセリン単位を含む点で(a)成分のポリアルキレン重合体には該当しないし、(c)成分、(d)成分にも該当しないものと解するのが相当と認められることから、常温(25℃)で液体でなければ、任意成分と解するのが相当である。
そして、甲1発明の「グリセリン」の配合割合「10.00重量%」は、本件特許発明1の「(b)常温(25℃)で液体」配合割合「0.1?30質量%」と一致している。仮に「ポリオキシエチレングリセリン」が常温(25℃)で液体であり(b-2)成分に相当する(その蓋然性が高いと思われるが、その事を明らかにする資料を請求人は提示していない。)としても、「グリセリン」と「ポリオキシエチレングリセリン」の合計量は、15.00重量%であるから、本件特許発明1の「(b)常温(25℃)で液体」の配合割合「0.1?30質量%」と一致している。結局のところ、「ポリオキシエチレングリセリン」が常温(25℃)で液体であるか否か確定しなくても、以下の判断に齟齬が生じるわけではない。

(ハ)(c)成分について
甲1発明の「N-メタクリロイルオキシエチレンN,N-ジメチルアンモニウム-α-メチルカルボキシベタイン・メタクリル酸アルキルエステル共重合体」と「酢酸ビニル・ビニルピロリドン共重合体」は、請求項2で「水溶性高分子」が含有されることが特定され((甲1-1)参照)、段落【0003】の従来技術の説明において「毛髪を固定して整髪力を高めるとともに化粧料に粘度を付与するためには水溶性高分子が配合されている」((甲1-3)参照)と説明され、段落【0009】における水溶性高分子化合物の例示されている(摘示(甲1-5)参照)ものであることを勘案し、また、本件特許明細書において、「被膜形成高分子」としてアクリル系およびビニル系の高分子が具体例として挙げられ、両性高分子の例として「メタクリロイルオキシエチルカルボキシベタイン・メタクリル酸アルキル共重合体」(段落【0049】参照)や「ビニルピロリドン・酢酸ビニル共重合体」(段落【0051】)が挙げられていることを勘案すると、いずれも本件特許発明1の「(c)被膜形成高分子」に一致することは明らかである。
ところで、甲1発明の「カルボキシビニルポリマー」は、前記した段落【0009】に水溶性高分子として例示されているものであり(摘示(甲1-5)参照)、「被膜形成高分子」とも考えられるが、定かではない。請求人は、該「カルボキシビニルポリマー」について何も言及しておらず、不適切といえる。
なお、後記(ト)と(チ)において必要となる(c)成分の配合割合について言及すると、甲1発明の「N-メタクリロイルオキシエチレンN,N-ジメチルアンモニウム-α-メチルカルボキシベタイン・メタクリル酸アルキルエステル共重合体」と「酢酸ビニル・ビニルピロリドン共重合体」の合計配合割合は、3.00重量%であり、もし、「カルボキシビニルポリマー」も該当するとするならば、3.50重量%となる。

(ニ)(d)成分について
甲1発明の「マルチトール液」は、本件特許発明1の「(d)マルチトール」の糖アルコールに一致する。
なお、甲1発明の「マルチトール液」の配合割合は、5.00重量%であるところ、請求人は、マルチトールの濃度が説明されていないが、マルチトール液の濃度として甲第11号証に記載の市販のマルチトール液「マビット」(株式会社林原製)では水分が26.0%以下と記載されていることに鑑み、マルチトールとしては、3.70%(=5.00×0.74)であると主張している(当審注:%は、重量%と解される)。この濃度の点について検討するまでもないことは、後記(チ)の検討で明らかである。

(ホ)他の任意成分について
甲1発明の「変性アルコール」、「香料」、「ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油」、「トリエタノールアミン」は、本件特許発明1の(a)?(d)の何れの成分にも該当しないものであり、溶媒またはいわゆる任意成分と認められる。本件特許発明1が、溶媒や任意成分を配合しても良いことは特許明細書の記載からみて明らかであるから、それらの成分の配合は相違点とはなり得ない。

(へ)「(a)成分:(b)成分」の比について
本件特許発明1で特定する「(a)成分:(b)成分」の比について検討すると、甲1発明で相当する(a)成分と(b)成分は、上記(イ),(ロ)で検討したとおりであるから、その比は、「ポリオキシエチレングリセリン」が(b)成分といえる場合には、2.00重量%:15.00重量%であって、1:7.5となり、「ポリオキシエチレングリセリン」が(b)成分といえない場合には、2.00重量%:10.00重量%であって、1:5となるから、いずれの場合でも本件特許発明1で特定する「(a)成分:(b)成分=1:0.2?1:10」との特定を満たし、一致している。

(ト)「(b)成分:(c)成分」の比について
本件特許発明1で特定する「(b)成分:(c)成分」の比について検討すると、甲1発明で相当する(a)成分と(c)成分は、上記(ロ),(ハ)で検討したとおりであるから、その比は、「ポリオキシエチレングリセリン」が(b)成分といえる場合には、15.00重量%:3.00重量%(「カルボキシビニルポリマー」も含めると3.5重量%)であって、1:0.2(0.23)となり、「ポリオキシエチレングリセリン」が(b)成分といえない場合には、10.00重量%:3.00重量%(「カルボキシビニルポリマー」も含めると3.5重量%)であって、1:0.3(0.35)となるから、いずれであっても本件特許発明1で特定する「(b)成分:(c)成分=1:0.1?1:1」との特定を満たし、一致している。

ところで、被請求人は、「甲第1号証の処方例2は、特定の処方を開示するもので、(a)成分:(b)成分、(b)成分:(c)成分の範囲を開示、示唆していないし、(a)成分の配合量の範囲、(b)成分の配合量の範囲、(a)?(d)成分の合計量の範囲も開示、示唆していない」との相違点がある旨を主張する(平成23年7月19日付け上申書(1)の第2頁,第3頁4?6行;平成22年12月13日付け答弁書第24頁参照)が、前記(ヘ),(ト)で検討したように、甲第1号証の処方例2の(a)成分:(b)成分、(b)成分:(c)成分の比は、本件特許発明1で特定される比に一致していることは明らかである。

(チ)(a)?(d)成分の合計量について
本件特許発明1で特定する「(a)?(d)成分の合計量」について検討すると、先ず、甲1発明で相当する(a)?(c)成分は、上記(イ)?(ハ)で検討したとおりであるから、「ポリオキシエチレングリセリン」が(b)成分といえる場合には、20.00重量%であり、「ポリオキシエチレングリセリン」が(b)成分といえない場合には、15.00重量%であるから、(d)成分の割合が上記(ニ)のように確定できなくとも、少なくとも0を超え5.00重量%までの範囲内のものであるから、いずれにしても、本件特許発明1で特定する「(a)?(d)成分の合計量10質量%以上」との特定を満たし、一致していることが明らかといえる。

(リ)整髪用化粧料について
甲1発明の「ヘアジェル」は、本件特許発明1の「整髪用化粧料」の具体的説明として、「ヘアスタイリングジェル」等が挙げられる(段落【0068】参照)とされているのであるから、本件特許発明1の「整髪用化粧料」に相当することは明らかである。

(ヌ)粘度について
本件特許発明1が「系の粘度が10,000mPa・s以下(25℃、B型粘度計)である」と特定しているのに対し、甲1発明ではそのように特定していない点で相違する(以下、「相違点」ともいう。)ので、以下検討を進める。
甲1発明を認定するに採用した処方例2には、粘度について言及がされていないので、甲第1号証の他の記載を検討すると、「25℃における粘度が1000cP以上であり」(請求項4,摘示(甲1-1)参照)との下限の示唆があり、「粘度が1000cP未満の場合、目視で確認できるほどの曳糸性を示さず、また水っぽく、滑らかな感触が得られないからである。」(段落【0014】,摘示(甲1-6)参照)と説明されている。そして、「分子量が500万を超える場合は、粘度が高くなりすぎるために、のびがよくべたつき感の少ない化粧料が得られないために好ましくない」(段落【0007】,摘示(甲1-4)参照)と説明がされている。また、粘度の「測定方法は、回転粘度計(TV-20型粘度計、株式会社トキメック社製)を用いて、測定温度:25℃、ローター:No.2、6rpm、1分で測定した。」(段落【0021】,摘示(甲1-7)参照)とされ、実施例1?9には、1980cP(実施例1),5000cP以上(実施例2?8),2100cP(実施例9)の例が示されている(【表1】,摘示(甲1-8)参照)。
これらの記載からすると、甲第1号証には、1000cP以上で、例えば2000cP程度や5000cP以上の粘度が想定され、上限については粘度は高すぎても良くないことが示されていることになる。そうすると、1cPはほぼ1mPa・sに相当することを勘案し、甲第1号証の処方例2と本件特許発明1は1000?10000mPa・sで重複している可能性があるものの、10000mPa・sを超える可能性も否定できない。
してみると、甲第1号証の処方例2の粘度について記載がなければ、10000mPa・s以下なのか、超えるのかは、甲第1号証の記載からは明らかではないという他ない。

次に、追試のデータについて検討すると、甲第1号証の処方例2については、請求人から甲第2号証、甲第18号証、甲第19号証、甲第33号証の追試データが提出され、他方、被請求人から乙第1号証及び乙第31号証の追試のデータが提出されているところ、これらの概略を示すと次のとおりである。
甲第2号証は、石井丈晴氏(マンダム)による実験成績証明書(1)であり、甲第1号証の処方例2の粘度は7530mPa・sであることが示されていて、甲第18号証は、山野善正氏(香川大学名誉教授)作成の実験報告書であり、甲第1号証の処方例2の粘度は7070mPa・sまたは6950mPa・sであることが示され、甲第19号証は、石井丈晴氏作成の実験成績証明書(4)であり、甲第1号証の処方例2の再度の粘度測定で7800?8000mPa・sであること、及び、乙第1号証の追試をして約8000mPa・sであることが示されていて、甲第33号証は、石井丈晴氏による実験成績証明書(7)であり、甲第19号証のものでは曳糸性があることが示されている。
一方、乙第1号証は、大妻女子大学教授小山義之氏作成の実験報告書であり、甲第1号証の処方例2の粘度測定では25600,34300mPa・sであることが示されていて、乙第31号証は、愛知教育大学助教・佐野豊氏作成の実験報告書であり、甲第1号証の処方例2の粘度測定では平均24417mPa・s,25267mPa・s,23320mPa・sであることが示されている。
これらの甲号証と乙号証は、(α)いずれも実質的に同一と解される組成についてその粘度を測定したものと認められ(なお、両当事者からは、相手方の実験に用いた組成自体についての疑義は示されていない。)、(β)両者からそれぞれ複数のデータが提示され、それぞれの再現性は認められるし、(γ)第三者によるデータも双方が提出しているし、(δ)乙第1号証では被請求人が一般的なジェル調製の工程と主張する工程<2>によるものと甲第2号証に記載された工程<1>によるものでの測定が行われていて、甲第19号証では乙第1号証で一般的な工程と主張される工程<2>と甲第2号証に記載された工程<1>によるものでの測定が行われている、このように(α)?(δ)の如く同じ条件と認められるにもかかわらず、その結果は、各甲号証ではいずれも10000mPa・s以下との条件を満たすことを示し、各乙号証ではいずれも10000mPa・sを超えるものとなっており、矛盾する状況となっている。この矛盾する原因は明らかではない。なお、甲第1号証には、組成の調製操作についての具体的言及がないため、その点からの判断は困難であるが、前記(δ)に摘示するように、二つの異なる調製操作について、両当事者は共に、いずれの調製操作でも行っていて、異なる結果を示している。

ところで、被請求人は、平成23年7月19日付け上申書(1)(第4?6頁参照)において、
(i)回転速度60rpmの条件で測定した場合はスケールオーバーで測定が不能であるから、甲号証の追試は適切な測定条件で測定したものではない旨や、
(ii)「もし仮に請求人側においてこのような粘度が得られるとするならば、ただ粘度を下げるだけの目的で長時間に渡り過度の攪拌を加え強引に粘度を下げたと考える他ない。しかしながら、カルボキシビニルポリマーにより一定の粘度を維持しておきながら、攪拌により粘度を下げるなどという無意味なことを甲第1号証の処方例2に接した当業者が行なうはずもない」旨、「甲第1号証の段落0015にも記載があるが、曳糸性を保つ上で系全体の粘度が大きく寄与することは技術常識であるためめ、曳糸性を主な解決課題とする発明に係る処方例2において粘度を下げることは明らかに解決課題と逆行するものと言わざるを得ず、この点は明確な阻害要因というほかない。」旨、
(iii)「10,000mPa・s以下という数値限定は本件発明の技術的課題に対する解決手段としての技術的意議を有することはあきらかである。」旨を主張し、
また、平成22年12月13日付け答弁書第33頁において、
(iv)「甲第1号証の記載に基づいて処方例2を調製するとしても、高重合度ポリエチレングリコールの平均分子量30万を超えるようにするか、カルボキシビニルポリマーにつき高粘度タイプを使用することとなり、いずれも粘度を高くすることとなるので、これらを構成成分としている以上、これ以上粘度を下げることは非常に困難であると思われる。また、甲第1号証においては、一定以上の粘度を有することが好ましいとされており(段落【0015】)、甲第1号証の処方例2の毛髪化粧料につき無理に粘度を下げようとするのは甲第1号証の目的である「曳糸性」と「べたつき感の抑制」の両立という観点から好ましくないと考えることは、当業者であれば至極当然のことである。」旨を主張する。
しかし、該(i)?(iv)の被請求人の主張については、次のとおり、勘案できるものではない。
(i)について
そもそも甲号証では測定できる条件で測定されているのであるから、被請求人の主張は乙第1号証と乙第31号証の測定結果の高粘度であるとの前提での主張であり、7000mPa・s程度の粘度である場合に回転数60rpmが不適切であるとの主張ではなく、甲号証の粘度測定が誤っているとの主張の根拠となり得ないから、失当であり、採用できない。
なお、本件特許発明1では、粘度を測定する際の回転数について何等特定されていないが、本件特許明細書には、実施例において回転数60rpmで測定されている(段落【0072】参照)。
(ii)について
被請求人は、攪拌により意図的に粘度を下げたことを明らかにするデータを示す訳でもなく、また、攪拌で粘度を下げた場合に曳糸性を失うなどのデータを示す訳でもないから、被請求人の(ii)の主張は、単に根拠無く推測しているにすぎないものという他ない。
これに対し、請求人からは、甲第33号証により、甲第19号証での甲第1号証の処方例2を追試して調製したヘアジェルが甲第1号証の効果である曳糸性を有することが示されていて、甲第1号証の他の記載と矛盾しないことが釈明されている。
そして、甲第1号証には、前記指摘した甲第1号証の粘度に関連する記載からみて、2000cP程度で曳糸性は確保されていることが示されている(実施例1,9)し、実施例2?8については5000cP以上とされているが10000cP(即ち10000mPa・s)以上とされているわけではないことも勘案すると、甲第1号証の処方例2の粘度として10000mPa・s以下のデータが示されても矛盾しないものといえるし、逆に上限が規定されていないことから10000mPa・sを超えるデータが示されても矛盾しないものといえる。
(iii)について
本件特許明細書(発明の詳細な説明)を検討しても、「低粘度でありながら」(段落【0001】,【0100】,【0056】など参照)との記載や、「本発明の整髪用化粧料は系の粘度が10,000mPa・s(25℃、B型粘度計)以下であり、好ましくは1,000mPa・s以下である。特に本発明整髪用化粧料をミスト等の形態で使用時噴霧して用いるような場合は、粘度を100mPa・s以下とするのが好ましい。粘度の下限値は特に限定されるものでないが、使用性等の点から8mPa・s程度以上とするのが好ましい。」(段落【0064】)との記載などがあるだけで、実施例にしても、表2中に13?22mPa・s(実施例1?9)の粘度が示されているものの、実施例10?16では粘度すら明らかにされていない。
結局のところ、ミストの場合(低粘度が要請されることは明らか)はともかくそれ以外の場合に粘度の上限を10,000mPa・s以下としたことによる技術的意義は不明であるといわざるを得ない。例えば、5,000mPa・sの場合と15,000mPa・sの場合に本質的な差異が有るか否かすら不明であるから、被請求人の(iii)における主張は根拠がなく、失当である。
(iv)について
甲第1号証では、粘度が1000cP未満の場合に曳糸性を示さないため、1000cP(/25℃)以上となるように調製する(段落【0015】,摘示(甲1-6)参照)とされているのであるから、被請求人の(iv)の主張は、1000cP程度以上と示された目安に反する解釈であって、そもそも無理に下げなくとも、1000cP程度以上で甲第1号証の目的である「曳糸性」と「べたつき感の抑制」の両立という観点から支障が無いのであるから、被請求人の(iv)の主張は、失当であり、到底採用できるものではない。

他方、請求人は、(i)「双方のデータが異なるため、仮に相違点であるか否かが真偽不明であるとしても、そもそも化粧料の粘度は当業者が製品特長を考慮して所望の程度に適宜調整するものであり、典型的な設計事項である。従って、仮に甲第1号証の処方例2に従って調製したものの粘度が、たまたま10,000mPa・sを超えることがあったとしても、当業者が10,000mPa・s以下に調整することは極めて容易であり」(弁駁書第48頁11?18行参照)、
(ii)データの違いの解釈について、「弁駁書第32頁第6行?14行で述べたように、当該分野の専門家による粘度測定において、測定手法や測定機器に不備があるとは思われない。従って、測定結果の違いは、試料の調製、即ち、ヘアジェル調製における調製者による手法や多少の調製条件の違いが、調製された試料の粘度に影響を与えたものと考えるのが合理的な解釈である。 即ち、甲第2、18、19号証と、乙第1号証とにおいて測定した試料は同一の試料ではない。同様の工程を経たものであっても、細部にわたって完全に同一とはいえない。してみると、甲第1号証の処方例2のヘアジェルの粘度は、7,530mPa・s(甲第2号証)であり得るとともに、調製者によっては、乙第1号証に示されるような高めの粘度でもあり得るというのが、妥当な解釈となる。甲第1号証の処方例2には、ヘアジェルの調製手順や条件に関する具体的な記載はないので、調製者や調製条件の違いにより粘度に違いが生じたとしても、矛盾があるとはいえない。」(口頭審理陳述要領書第19頁)
(iii)「系の粘度をどの程度にするかは、目的とする毛髪化粧料の用途、性質、特徴などを考慮して当業者が適宜設定するものであり、「10,000mPa・s以下」の規定に臨界的意義や新規な技術的意義があるわけではないので、典型的な設計事項である。そうすると、甲第1号証の処方例2において、「10,000mPa・s以下」に調整することは、普通に選択される程度のものである。従って、構成に容易想到性があり、進歩性を欠く。」(平成23年7月1日付け上申書(1)第5頁1?6行参照)
などと主張している。
しかし、(i)と(iii)の主張については、甲第1号証の特許請求の範囲に特定された発明であれば、少なくとも1,000?10,000mPa・sの範囲も採り得るものと認められるけれども、上限の規定はなく、10,000mPa・sを超える場合もあり得るものであるから、粘度の記載のない処方例2の組成の粘度が10,000mPa・s以下であるかどうかは不明であるという他ない。
そして、後記「(IX-1)」における容易性の判断のためにも言及しておくと、処方例2の組成を変動させるべき格別の事情は見いだせないし、処方例2について、上記検討した一致点であると認定したことを損なうことなく、粘度のみを適宜調整することが可能であるとは直ちには解し得ず、適宜調整可能であると認めることはできない。
また、(ii)の主張については、「ヘアジェル調製における調製者による手法や多少の調製条件の違いが、調製された試料の粘度に影響を与えたものと考える」、「測定した試料は同一の試料ではない。同様の工程を経たものであっても、細部にわたって完全に同一とはいえない。」とし、「甲第1号証の処方例2には、ヘアジェルの調製手順や条件に関する具体的な記載はないので、調製者や調製条件の違いにより粘度に違いが生じたとしても矛盾があるとは言えない。」との主張であるから、畢竟、甲第1号証の処方例2の粘度については、正確に再現できないことになると解されることになる。

以上の状況から判断するに、甲第1号証の処方例2の粘度については、請求人の提出する甲第2,18,19,33号証の粘度のデータも、被請求人が提出する乙第1,31号証の粘度のデータも、いずれが正しいものか、その真偽が不明であると言う他ない。

ところで、新規性進歩性(特許法第29条)の理由があると主張する場合の立証責任は主張する側にあるし、特許法第123条は、「特許が次のいずれかに該当するときは、その特記を無効とすることについて特許無効審判を請求することができる。・・・」旨を規定し、同規定に照らすと、請求人において無効理由の存在を主張・立証する責任を負うというべきであるから、これを本件について当てはめると、甲第1号証の処方例2の粘度が10,000mPa・s以下(25℃,B型粘度計)」であることの立証責任は特許無効審判の請求人が負うことになる。

よって、甲第1号証の処方例2の粘度については、10,000mPa・s以下であると断定することはできず、甲1発明では「系の粘度が10,000mPa・s以下(25℃、B型粘度計)である」と言えない点で、本件特許発明1は甲1発明と相違すると言う他ない。

(ル)まとめ
以上(イ)?(ヌ)で検討したとおりであり、(イ)?(リ)の点で両発明に相違はないものの、(ヌ)の粘度の点で両発明の間に差異がないとは言えないから、本件特許発明1は、実質的に甲第1号証に記載された発明とはいえず、特許法第29条第1項第3号の規定に違反して特許されたものということができない。
なお、請求人は、官能評価についても縷々言及しているが、同一性の判断においては、考慮すべき対象ではない。

(VIII-2)本件特許発明2,4,6?8について
本件特許発明2,4,6?8は、本件特許発明1を直接的に乃至は間接的に引用し、追加的に発明特定事項の限定を付したものであるが、それら追加的に限定した発明特定事項によって上記判断が左右されるものではないから、上記「(VIII-1)」で検討したのと同じ理由で、実質的に甲第1号証に記載された発明とはいえず、特許法第29条第1項第3号の規定に違反して特許されたものということができない。

(VIII-3)まとめ
上記のとおりであるから、本件特許発明1,2,4,6?8は、甲第1号証に開示された発明とはいえず、新規性があり、特許法第29条第1項第3号の規定に該当しない。
よって、請求人の主張する無効理由1は、理由がない。


IX.無効理由2について
請求人は、特許第4518520号の請求項1,2,4,6?8に係る発明は、甲第2?6号証の記載を適宜組み合わせることで、甲第1号証に記載の発明に基づいて、当業者が容易にし得たものであるから、そして、同請求項3に係る発明は、甲第1?7号証の記載に基づいて、同請求項5に係る発明は、甲第1?6号証の記載に基づいて当業者が容易にし得たものであり、その特許は同法第123条第1項第2号の規定に該当し、無効とすべきものである旨を主張しているので、以下その順に検討する。
なお、請求人は、甲第1号証の処方例2が主引例である旨を主張している(例えば、平成23年5月26日付け口頭審理陳述要領書第32頁など参照)。
ところで、本件特許発明1?8は、上記「III.」で説明したとおり、上記「II.(1)」において、特許第4518520号の特許請求の範囲の請求項1?8として摘示されたとおりである(再掲は省略する。)。

(IX-1)本件特許発明1について
上記「(VIII-1)」で検討したように、本件特許発明1と甲1発明は、(イ)?(リ)の点では一致しているから、唯一の相違点と言える(ヌ)の粘度の点について検討する。 なお、上記「(VIII-1)」での検討と同様に、以下、(a)成分?(d)成分というのは、順に、本件特許発明1における(a)成分?(d)成分を指すものとする。

甲1発明は、甲第1号証の処方例2から認定したものであるところ、甲第1号証では粘度について1,000cP以上とされている(摘示(甲1-1)参照)ことを考慮すると、10,000cP以下とし得る可能性がある(上記「(VIII-1)(2)(ヌ)」を参照)。
しかし、甲第1号証の処方例2の粘度を10,000cP以下(即ち、10,000mPa・s以下)としなければならない理由は見当たらない。
例えば、仮に10,000cPを超えていた場合に、単に精製水の残量を増加させる(水で薄める)ことも含めて、甲第1号証の処方例2の粘度を低下させる動機付けは見当たらないし、しかも、処方例2にはマルチトール液が配合されているが、その箇所以外にマルチトール液の説明はなく(どのような理由で配合されているのかの説明もない)、また、(a):(b)の割合、(b):(c)の割合、(a)?(d)の合計についても、処方例2では本件特許発明と一致してはいるものの、それ以外の場合にそれらの割合や合計についてどのようにすべきかの説明がされているわけではないことを勘案すると、粘度を10,000cP(即ち10,000mPa・s)以下とするために、甲1発明、即ち処方例2から、どのような成分をどのような割合で変化させれば良いのか不明であるので、少なくとも前記「(VIII-1)(2)」の(ニ),(へ)?(チ)で検討して一致するとした発明特定事項を維持しつつ粘度を調製することは格別の創意工夫乃至は過度の試行錯誤が必要となるものという外ないから、甲1発明において、粘度を10,000cP以下(即ち、10,000mPa・s以下)とすることは、当業者が容易に想到し得ないものというべきである。

ところで、請求人は、上記「(VIII-1)」「(ヌ)」において摘示した請求人の主張(i)?(iii)の主張をしているが、その点については当該箇所で既に判断を示したとおりであり、更に、臨界的意義や新規な技術的意義があるか否かは、その構成要件が採用可能である場合に検討すべきことであるものの、前記検討のとおり処方例2の粘度をどのように調整することができるのか不明であるのだから、臨界的意義や新規な技術的意義があるか否かを問うまでもなく、処方例2の粘度のみを調整可能であると解することはできない。
請求人は、本件特許発明の課題は周知であり、その課題を念頭において、解決を試みようとすることは、ごく自然なことである旨も主張しているが、どのような解決手段があり、その手段を採用するのがどのように容易であるかの理由を請求人が示す必要があるが、単に粘度の調整が適宜であるとの主張では勘案のしようもなく、処方例2の粘度を10,000mPa・s以下とすべき具体的な理由は示されていない。
なお、本件特許発明1の作用効果について、幾つかの疑義が提示されているところ、前記のとおりその検討を要しないものと解されるが、後記「X.無効理由3 (X-1)(2)」の「(vi)作用効果について」を参照できる。

また、請求人は、甲第2?6号証の記載を適宜組み合わせることや周知例としての甲第9号証(実施例10)の勘案も主張しているところ、甲第2号証は既に検討済みであり、甲第3?6,9号証は甲1発明の粘度を10,000mPa・s以下とすることの容易性の判断に供されたものではないから、上記判断を左右できるものではない。
ところで、請求人は、本件特許発明5に対し、その「粘度100mPa・s以下」,「使用時に霧状に噴霧して用いる」点は、甲第5号証を参酌しスプレー、ミストで用いることは動機付けられ、甲第3号証、甲第6号証の記載から、その際の粘度は1?12mPa・sあるいは15mPa・s以下程度とするのは容易である旨を主張している。しかし、そもそも甲1発明を含む甲第1号証では、霧状に用いることの記載はないばかりか、曳糸性の確保のために粘度が1000cP(即ち1,000mPa・s)以上にすることが記載されている(摘示(甲1-6)段落【0015】参照)のであるから、前記請求人の主張は、明らかに甲第1号証の明示的記載に反するものであって、論外という他ない。

よって、甲第2?6,9号証を勘案したとしても、甲1発明の粘度を10,000mPa・s以下とすることは、当業者が容易に想到し得ないものと認められるから、本件特許発明1は、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものということができない。

(IX-2)本件特許発明2?8について
本件特許発明2?8は、本件特許発明1を直接的に乃至は間接的に引用し、追加的に発明特定事項の限定を付したものであるが、それら追加的に限定した発明特定事項によって上記「(IX-1)」での判断が左右されるものではないから、そして、甲第3?7,9号証は、甲1発明の粘度を10,000mPa・s以下とすることの容易性を否定できるものではなく、上記判断を左右できるものではないから、上記「(IX-1)」で検討したのと同じ理由で、甲第2?7,9号証を勘案したとしても、甲1発明に基づいて当業者が容易に想到し得たものとは言えず、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものということができない。

(IX-3)まとめ
以上のとおりであるから、本件特許発明1?8は、甲第2?7,9号証の記載を勘案しても、甲1発明から容易に想到し得たものとはいえず、特許法第29条第2項の規定に基づいて当業者が容易に想到し得たものとはいえない。
よって、請求人の主張する無効理由1は、理由がない。


X.無効理由3について
請求人は、特許第4518520号の請求項1?8に係る発明は、甲第8号証(又は更に甲第9号証)と甲第10号証に基づいて、要すればさらに甲第3?7号証を参酌し、当業者が容易に想到し得る発明であり、その特許は同法第123条第1項第2号の規定に該当し、無効とすべきものである旨を主張しているので、以下検討する。
なお、甲第9号証については、甲第9号証と甲第10号証に基づく容易性ではなく、「甲第8号証及び甲第9号証に甲第10号証を参酌して」の容易性で用いられていることは、例えば、弁駁書第92頁5?8行や平成23年5月26日付け口頭審理陳述要領書第32頁12?14行、平成23年7月1日付け上申書第19頁6?12行などにおける請求人の主張からも明らかである。
ところで、本件特許発明1?8は、上記「III.」で説明したとおり、上記「II.(1)」において、特許第4518520号の特許請求の範囲の請求項1?8として摘示されたとおりである(再掲は省略する。)。

(X-1)本件特許発明1について
(1)甲第8号証発明
甲第8号証には、上記「VI」の[甲第8号証]に摘示した事項、特に請求項1の記載(摘示(甲8-1)参照)からみて、そして、ポリエチレングリコールとして分子量6,000?30,000のものが好ましいとされていること(摘示(甲8-9)参照)、整髪性を損なうことなく、適用後の髪に平滑性及び良好な感触を付与し得ること(摘示(甲8-11)参照)、実施例1の本発明品1として、毛髪固定用高分子化合物であるユカフォーマーAM-75、PEG20,000、ポリオキシプロピレングリコールエーテル(式(III)においてb+c=16のもの)を配合した例が示されていること(摘示(甲8-10)参照)を勘案し、整髪性を損なうことなく、適用後の髪に平滑性及び良好な感触を付与し得る次の毛髪化粧料の発明(以下、「甲8発明」ともいう。)が記載されているものと認められる。
「(C)分子量6,000?30,000のポリエチレングリコール(例えば、分子量20,000)、
(A)一価若しくは多価アルコールにアルキレンオキシドを付加重合して得られるポリオキシアルキレン系化合物(例えば、ポリオキシプロピレングリコールエーテル(式(III)においてb+c=16のもの))、
(B)毛髪固定用高分子化合物(例えば、ユカフォーマーAM-75)
を含有する毛髪化粧料。」

(2)対比、判断
そこで、本件特許発明1と甲8発明を対比する。
ところで、対比に当たり、請求人は、甲第8号証の実施例1の本発明品1を特に引用しているので、また、その方が一致点も多いと認められるので、適宜その実施例1の本発明品1を勘案しながら判断を進める。
なお、本項「(X-1)本件特許発明1について」においては、特に断らない限り、成分(a)?(d),(b-2)の表記は、本件特許発明1における成分(a)?(d),(b-2)を意味し、成分(A)?(C)の表記は、甲第8号証における成分(A)?(C)を意味するものとする。ここで、後記から明らかなように、甲第8号証における成分(C),(A),(B)は、順に本件特許発明1の成分(a),(b-2),(c)に対応することを付言しておく。
(i)甲8発明の「(C)分子量6,000?30,000のポリエチレングリコール(例えば、分子量20,000)」は、その実施例1の本発明品1で20,000の分子量のものが用いられていること(摘示(甲8-10)参照)、及び、その程度の分子量であれば常温で固体であると認められること(例えば、(甲13-2)の摘示や甲第25号証の摘示など参照;なお、本件特許明細書の実施例からみてもそのように扱われている。)から、本件特許発明1の(a)成分として「(a)常温(25℃)で固体であり」、「エチレンオキシド(EO)の各構成単位が重合したポリアルキレングリコール重合体」を選択した場合、すなわち「ポリエチレングリコール」に対応し、両者は、「(a)常温(25℃)で固体であるポリエチレングリコール」で一致する。
(ii)甲8発明の「(A)一価若しくは多価アルコールにアルキレンオキシドを付加重合して得られるポリオキシアルキレン系化合物(例えば、ポリオキシプロピレングリコールエーテル(式(III)においてb+c=16のもの))」は、その具体的実施例として「ポリオキシ(16P.0.)プロピレングリコールエーテル」が用いられていること、多価アルコールとして少なくとも3価のものが示されていることに鑑み、本件特許発明1の(b)成分として、「(b-2)1?4価のアルコールに・・・プロピレンオキシド(PO)、・・・の各構成単位が重合または共重合したアルキレンオキシド付加重合体」を選択した場合に対応し、両者は、「(b-2)3価のアルコールにプロピレンオキシド(PO)構成単位が重合したアルキレンオキシド付加重合体」で一致する。
(iii)甲8発明の「(B)毛髪固定用高分子化合物(例えば、ユカフォーマーAM-75)」は、毛髪化粧料の技術常識からみて、また、ユカフォーマーAM-75が、メタクリル酸エステル共重合体の両性高分子である(摘示(甲8-8)参照)ところ、本件特許明細書で皮膜形成性高分子として例示されている両性高分子の「メタクリロイルオキシエチルカルボキシベタイン・メタクリル酸アルキル共重合体」(段落【0049】参照)に類するものと認められることからみても、本件特許発明1の「(c)皮膜形成性高分子」に相当する。
(iv)甲8発明の「毛髪化粧料」は、整髪力を評価している(摘示(甲8-10)の評価を参照)ことから、整髪用であると認められ、本件特許発明1の「整髪用化粧料」に相当する。

してみると、両発明は、本件特許発明1の表現を借りて表すと、
「(a)常温(25℃)で固体であるポリエチレングリコール、
(b-2)3価のアルコールにプロピレンオキシド(PO)構成単位が重合したアルキレンオキシド付加重合体、
(c)皮膜形成性高分子
を含有する整髪用化粧料。」
で一致し、次の相違点1?6で相違する。
<相違点>
1.(a)成分に関し、本件特許発明1では、その配合量が「0.1?20質量%」と特定されているのに対し、甲8発明では、そのように特定されていない点
2.(b-2)成分に関し、本件特許発明1では、「常温(25℃)で液体」であること、及び「0.1?30質量%」の配合量であることが特定されているのに対し、甲8発明では、そのように特定されていない点
3.本件特許発明1では、「(d)マルチトール、ソルビトール、リビトール、マンニトール、アラビトール、ガラクチトール、キシリトール、エリトリトール、イノシトールの中から選ばれる1種または2種以上の糖アルコール」を更に含有することが特定されているのに対し、甲8発明ではそのように特定されていない点
4.本件特許発明1では、「(a)成分:(b)成分=1:0.2?1:10(質量比)であり、(b)成分:(c)成分=1:0.1?1:1(質量比)であり」と特定されているのに対し、甲8発明ではそのように特定されていない点
5.本件特許発明1では、「(a)?(d)成分の合計量が10質量%以上であり」と特定されているのに対し、甲8発明ではそのように特定されていない点
6.本件特許発明1では、「系の粘度が10,000mPa・s以下(25℃、B型粘度計)であり」と特定されているのに対し、甲8発明ではそのように特定されていない点

そこで、これらの相違点について、相違点1,2,4,6,3,5の順に検討する。
(i)相違点1について
甲8発明における、本件特許発明1の(a)成分に相当する(C)成分の配合量は、特に0.1?20%程度が好ましい(摘示(甲8-9)参照)とされていて、実施例1の本発明品1では1.8%配合されている(摘示(甲8-10)参照)から、本件特許発明1と本質的な差異はない。
よって、相違点1は、実質的な相違ではない。

(ii)相違点2について
甲8発明において、本件特許発明1の(b-2)成分に対応する(A)成分が液体であるか否かは言及されていない。
しかし、実施例1の本発明品1で用いられたポリオキシプロビレンルグリコールエーテルは、式IIIにおいてb+c=16のものである(摘示(甲8-10)参照)ところ、式IIIは第3頁左上欄の構造式であり(摘示(甲8-5)参照)、b+c=16であれば、分子量1004のポリプロピレングリコールと言うこともでき、更に甲第29号証の145頁表3.2-1に示されるPPGの構造式に相当することが明らかであり、同号証第144頁下から2行?末行に「PPGおよよびPOPGは表3.2-1に示すような構造を持ち、常温で液状のものである。」と記載されているから、少なくともPPG2000程度のものまでは液状であると解することができるので、本発明品1で用いられているポリオキシプロピレンルグリコールエーテルは液状であるといえる。
そして、甲8発明において、本件特許発明1の(b)成分に相当する(A)成分の配合量は、「ヘアミストやヘアスプレーの如き剤型で用いる場合には0.01?10%程度、ヘアブローの如き剤型で用いる場合には、0.1?2%程度とすることが好ましい」(摘示(甲8-6)参照)とされているし、実施例の本発明品1では1.0%配合されている(摘示(甲8-10)の表1参照)から、本件特許発明1の「0.1?30質量%」と本質的な差異はない。
よって、相違点2は、実質的な相違ではない。

(iii)相違点4について
上記(i),(ii)でも、甲第8号証の実施例1の本発明品1を引用して、相違点1,2の配合割合が合致すると判断し、相違点2の(b-2)成分が液体であることを判断したところであるが、相違点4についての請求人の主張は、甲第8号証の実施例1の本発明品1の配合割合を用いて一致すると主張している(請求書第51頁末行?52頁15行参照)。
そこで、検討するに、本件特許発明1の(a),(b-2),(c)がそれぞれ順に甲8発明の(C),(A),(B)成分に対応することを勘案し、甲第8号証の実施例1の本発明品1では、重量%で(a)1.0,(b)1.8,(c)1.0であるから、(a):(b)=1:1.8,(b):(c)=1:0.56であるといえるので、本件特許発明1で特定される(a):(b)=1:0.2?1:10,(b):(c)=1:0.1?1:1(質量比)(なお、質量比と重量比は実質同じことである)と一致している。
よって、相違点4は、実質的な相違ではない。
なお、甲第8号証における(C),(A),(B)(本件特許発明1の(a),(b-2),(c)に対応する)の一般的な好ましいとされている数値、「0.1?20%」,「0.01?50%」,「0.01?20%」(摘示(甲8-9),(甲8-6),(甲8-8)参照)を用いたのでは、相違点4は実質的な相違ではないということができないし、(a):(b)及び(b):(c)の数値限定が容易に採用し得るということはできない。請求人もそのような主張をしていない。

(iv)相違点6について
甲8発明では、ヘアスプレーやヘアミスト、ヘアブロー(ヘアブローとは実施例1の整髪力の試験で「ヘアブローを噴射したときの」との説明があるように、噴射タイプのことと解される)で用い得ること、実施例1の本発明品1においても噴射して使用している(摘示(甲8-10)の(1)整髪力の試験方法を参照)ところ、スプレータイプの系の粘度としては、例えば甲第3?5号証で10mPa・s前後のものが用いられていることに鑑みると、少なくとも、10,000mPa・sを超えるとは考え難いことから、実施例1の本発明品1の粘度は、10,000mPa・s以下(25℃,B型粘度計)であると言って過言ではなく、少なくとも当業者であれば甲8発明の粘度として10,000mPa・s以下(25℃,B型粘度計)容易に採用し得る程度のものである。
よって、相違点6の粘度は、実質的な相違点ではなく、少なくとも当業者が容易に想到し得たものである。

(v)相違点3,5について
甲8発明では、糖アルコールを配合することは記載されていないし、そのため、(a)?(d)の合計の数値も記載されていないことが明らかである。
この点に関し、請求人は、甲第10号証には、本件特許発明1の(c)成分に相当する皮膜形成樹脂と、本件特許発明1の(d)成分に相当する糖アルコールを含有する原液と、噴射剤からなる泡沫状頭髪化粧料が開示されているところ、皮膜形成樹脂の使用により、乾いた後に髪のごわつきや皮膜形成樹脂の剥離(フレーキング)が生じる問題に対して、糖アルコールを併用することで、皮膜形成樹脂に対して可塑剤や改質剤等として働き、毛髪上により柔軟でなめらかな樹脂皮膜を形成し、指通りを向上させるとともに乾燥後のフレーキングを防止する働きを有するものであることが開示されている旨を指摘し、このような甲第10号証の記載を参酌し、甲8発明において、「被膜形成樹脂を配合することにより生じるごわつきやフレーキングを解消する目的で糖アルコールをさらに配合してみようとすることは、強く動機付けられるものであり、あるいは当業者にとつて自然の選択であり、設計事項であるというべきである。」(審判請求書第54頁5?8行参照)と主張している。更に、「本件発明の(d)成分に相当するソルビトールやマルチトールなどの糖アルコールを本件発明の(c)成分に相当する皮膜形成樹脂と共に使用して、所望の特性を有する毛髪化粧料を調製することは、周知技術である(要すれば、例えば、特開2002-167317号公報、特開2005-206483号公報、特開2005-255533号公報を参照)」(審判請求書第54頁12?17行参照)とも主張している。
なるほど、毛髪化粧料の技術分野で、被膜形成樹脂を配合することにより生じるごわつきやフレーキングを解消する目的で糖アルコールをさらに配合することがある程度知られていたとしても、甲8発明は、「毛髪固定用高分子化合物(以下、主に「高分子化合物」という)を水、低級アルコール又は水・低級アルコールの混合溶媒等の適当な溶剤に溶解させることにより、製造されていた。・・・・・・ヘアスタイルの多様化、個性化に伴い、毛髪化粧料も、高分子化合物を多量に含有させ、より強固に毛髪をセットさせるハードタイプのものが求められている。」(摘示(甲8-2)参照)ことや、「しなやかでべたつき感がなく且つ充分な整髪力を有する整髪料として、ポリオキシアルキレン系化合物を含有する整髪料も開発されている(・・・)が、毛髪の平滑性が更に改良された整髪料が望まれている。」などの従来技術に対し、「従来の毛髪化粧料の整髪性を損なうことなく、適用後の髪に平滑性(滑らかさ)及び良好な感触を付与し得る毛髪化粧料を提供する」ために、「ポリオキシアルキレン系化合物を用いると共に、これに毛髪固定用高分子化合物及びポリエチレングリコールを併用することにより、上記目的を達成し得る毛髪化粧料が得られることを知見した。」(摘示(甲8-3)参照)ことによりなされたものであるところ、その実施例1であるように、整髪力と平滑性は優れたものとの結果が既に得られており、平滑性、即ちごわつきのなさは非常に滑らか(◎)との評価(摘示(甲8-10)参照)で、既に達成されているのであり、また、フレーキングを防止する必要性があることも記載されていないのであって、それらを課題として更に改善しようとする動機付けはないというべきであるから、甲第10号証の記載に従い、単に被膜形成樹脂が配合されているというだけで、甲8発明において糖アルコールを配合することは、当業者が容易に思い至るものと言えない。
なお、甲第8号証では、(A)成分の「一価若しくは多価アルコールにアルキレンオキシドを付加重合して得られるポリオキシアルキレン系化合物」と同列の選択肢として、「ポリオキシアルキレングリコシド」すなわち、糖アルコールのアルキレンオキシド付加物が提示されている(摘示(甲8-1),(甲8-4)参照)のであるから、糖アルコールそのものを検討する機会もあったにもかかわらず、採用されていないことも上記判断に際し考慮できる。

更に、本件特許明細書に記載された比較例2のソルビトール即ち(d)成分の糖アルコールが配合されていない例を検討すると、整髪力並びに1時間後の再整髪力において△と、ソルビトール即ち(d)成分の糖アルコールを配合した実施例に比べ劣っていることが示されているから、この観点からも、本件特許発明1において、糖アルコールを採用することにより、甲8発明や第10号証に示唆されていない予想外の作用効果を奏していると解されるのであり、効果の観点からも、甲8発明において糖アルコールをさらに配合することの容易想到性があるということができない。

ところで、請求人は、引用例としての提示ではなく単に商品設計の実情として提示された甲第20?24号証(請求人による1995年の総合カタログと化粧品製造製品届出書)により、(a)?(d)成分を配合していることを示し[ポリエチレングリコール1500を配合していることは、ポリエチレングリコール1540とポリエチレングリコール300の等量混合物で、(a)成分と(b)成分の等量との指摘あり。甲第12号証も参照]、(a)?(d)成分は適宜選択して配合されている旨を主張している(弁駁書第78頁14行?第81頁14行参照)。しかし、甲第21?24号証が公知刊行物であるか否を問うまでもなく、甲第21?24号証では一部の成分のみのが明らかにされ、明らかにされた成分の役割も説明されておらず、それら成分の配合量についても黒塗りとして提示されたもの(当然に配合割合も不明)であるから、それら成分の配合が適宜であり、その成分割合も適宜であるとすることは直ちにはできないし、また、(a)?(d)を含有する化粧料が周知であるとまでは言えない。

よって、相違点5について検討するまでもなく、相違点3に係る本件特許発明1の発明特定事項は、当業者が容易に想到し得たものということができない。

(vi)作用効果について
以上のとおり、相違点3における発明特定事項は容易に想到し得ないものであるから、作用効果を検討する必要性は小さいものであるが、請求人は、作用効果について縷々疑義を提示していること、及び、所期の作用効果を奏さなければ発明特定事項の技術的意義に疑義が生じる可能性もあるので、以下(α)?(ζ)として検討する。

(α)請求人は、(イ)甲第8号証では、「本発明の毛髪化粧料は、従来の毛髪化粧料の整髪性を損なうことなく、適用後の髪に平滑性及び良好な感触を付与し得る。」と記載されている(摘示(甲8-11))ことを指摘し、本件発明でいえば、使用感(べたつかない、軽い使用感、滑らか感)に関係するものと思料され、整髪力、再整髪力についての記載はないとするものの、効果はその組成に応じて奏されるものであるところ、毛髪固定用高分子化合物と液状成分とが適度に配合されていることからみて、また、「従来の毛髪化粧料の整髪性を損なうことなく」という記載からも、整髪力、再整髪力は共に所望の効果を奏するものであろうことが予測される旨を主張し(審判請求書第56頁1?9行参照)、そして、(ロ)「本件発明の効果は、本件出願前より知られている程度のものであり、予測し得るものであって、格別顕著なものとはいえない旨」の主張(審判請求書第56頁10?12行参照)とともに、「整髪力」や「再整髪力」は、周知の評価項目であり、ルーチンワークとして当然に行なう結果の確認に過ぎないと縷々主張し(審判請求書第41頁13行?44頁8行参照)、その後、(ハ)甲第38?48号証を提示して、固めずにヘアスタイルにまとまりを与えることや自在なヘアアレンジ性などは周知の課題であると主張する(平成23年7月6日付け上申書参照)。

しかし、(イ)の点については、甲第8号証に、整髪力と再整髪力について記載はないことは請求人も認めるところである。単に「従来の毛髪化粧料の整髪性を損なうことなく」との記載によって、あらゆる整髪性を想定することはできるものではないところ、甲第8号証の従来技術の項(摘示(甲8-2)参照)には、毛髪セット性としての整髪力について言及されているだけで、本件特許発明1でいうところの「(一時間後の)再整髪力」についてまで言及されていないのであるから、「再整髪力」は予測することはできないというべきである。少なくとも、請求人は、甲第8号証の発明自体に、再整髪力が優れていることが内包されていることを示す具体的証拠を何等提示していない。
また、(ロ)の点については、前記で検討したように、甲第8号証にいう「従来の毛髪化粧料の整髪性」が、「(一時間後の)再整髪力」を課題としていると解すべき理由は見いだせない。
そもそも、本件特許発明1の「整髪力」,「(一時間後の)再整髪力」は、本件特許明細書段落【0073】,【0074】に説明されているように「・・・指でなじませた後のヘアスタイルの作りやすさ・・・」,「・・・常温にて1時間乾燥させた後の毛束について、つまんでねじって動かしたときのアレンジのしやすさについて・・・」により評価されたものであり、仮に整髪力,再整髪力の同じ表現の記載があるからといって、必ずしも同じ評価であるとは限らない。ところで、請求人は、甲第3,4号証に再整髪力の効果が記載されていると主張するが、請求人は、単に表現が同じであるというだけで、その具体的評価が方法が違っても実質的に同じであることを釈明していないことからも、また、甲第6号証に再整髪力ついての記載があるとの請求人の主張は、後記「(ε)<2>」で検討するとおり、整髪方法によるものであることからも、甲第3,4,6号証を根拠とする再整髪力についての請求人の(ロ)における主張は、その根拠を誤っているため採用できないものである。
この点につき、請求人は、甲8発明に、時間を経た後に毛髪をつまんでねじって動かしてヘアスタイルのアレンジ(再整髪)を容易に行える点の示唆がない点は、単に評価方法の記載がないだけで、甲第16,17号証の記載に鑑みるとそのような作用効果を有する蓋然性が高い(弁駁書第27?28頁)とも主張するが、そのようなことは何も立証されているわけではないから、採用することができない。
更に、(ハ)の点については、そのような課題が周知であったとしても、どのような手段によってそのような課題を解決するのかが明らかにされていなければ、容易想到性の判断に影響を与えるものではないので、本件特許発明1の作用効果とされている「整髪力」,「(一時間後の)再整髪力」が仮に知られていた課題であったとしても、請求人の前記主張は、発明の構成(発明特定事項)との関係で論じていないのであるから、勘案することができない。

(β)甲第14,15号証を提示し、本件特許発明に作用効果が達成できない化粧料が含まれているとの請求人の主張は、上記「VII.(VII-2)」で検討したとおりであって、少なくとも、本件特許発明1について、「整髪力」と「再整髪力」の点では、評価できるものであるため、上記容易性の判断に影響を与え左右し得るものではない。

(γ)甲第16号証を用いての請求人主張について検討する。
請求人は、作用効果に関し、被請求人が他の出願(甲第16号証,意見書の甲第17号証)で行っている主張と相反する主張を行っていると主張している。甲第16,17号証は、本件特許の出願日及び優先権主張日より前に頒布されておらず、公知刊行物ではないから、発明の容易性の判断の根拠とし得ないものであるが、本願特許明細書に記載されている作用効果のデータが虚偽であれば、記載された効果は勘案すべき理由がなくなるので、一応検討する。
請求人からは、具体的には、本件発明と同じ発明者が、同じ時期に、同じ評価基準に従い、整髪用化粧料を評価しており、本件特許発明においては、答弁書において、(a)ないし(d)成分のすべてを含有することが必要であり、1つでも欠けると所望の効果は奏さないと主張しつつ、一方、特開2010-275292号公報(甲第16号証)では、本件発明の(a)成分を欠いても、あるいは(d)成分を欠いても本件発明と同じ効果が奏されると主張しているのである。これらは互いに全く矛盾し、あるいは一貫性のない主張であることは明白であり、仮に特開2010-275292号公報(甲第16号証)での主張、記載が正しいのであれば、答弁書における主張は虚偽の疑いがあるというべきである旨の主張がなされている(弁駁書第12?17頁参照)。

なるほど、甲第16号証の記載を検討すると、本件比較例1,2は、甲第16号証に記載の発明の要件を充足するものといえる。
そこで検討するに、本件特許の出願と同時期(優先日同一、出願日1日違い)に出願された甲第16号証に記載された発明の実施例1,3(摘示(甲16-7)参照)が本件特許明細書に記載された比較例1,2の成分と同一であるにもかかわらず(但しエタノールの量や成分配合量が若干異なる)、甲第16号証の実施例1,3では、本件特許明細書の実施例が受けたと同程度の優れた評価を受けながら、本件特許明細書においては比較例1,2として劣った評価が記載されていることは、専門パネラーによる絶対評価であれば、その絶対基準が変わるわけではないから、その作用効果の評価の点で疑義を生じざるをえないものである。
しかしながら、被請求人は絶対評価であるため、他の出願との関係で対比できない旨を主張していたが、平成23年7月19日付け上申書(2)において、官能性試験の手順の詳細について、
「(2)1つの評価群(例えば、1つの特許の実施例・比較例)をまとめて評価する。
(3)1つずつサンプルを渡すのではなく、実施例・比較例等の別なく、ランダムにサンプルを並べて評価してもらう。
(4)パネラーが違うサンプルを触った後に、それ以前のサンプルの評価を書き直すことも認める。
(5)評価の基準となる基準品(基準試料)は設けておらず、そのパネラーなりの評価をしてもらう。」
と説明していることから見て、比較サンプルなどとの対比で評価が書き換わることも想定できるものであるから、その評価は、絶対評価ではなくむしろ相対評価であると言えるものと認められる。
そうすると、同時期に出願された本件特許発明と被請求人にかかる他の出願との関係において、本件特許明細書に記載された比較例が、他の出願において、本件特許明細書に記載された実施例の評価と同じであるために、一見すると矛盾すると認められる場合があったとしても、相対的な評価がなされたものであり、相対的な優劣において両出願に矛盾がなければ(例えば、ある評価観点について、『本件特許発明1>本件比較例=甲第16号証実施例>甲第16号証比較例』の評価ができるような場合)、矛盾するとまでは断言することができないところ、本件について言えばそのような場合に該当すると一応認められる。
よって、かかる請求人の主張によって、本件特許発明1の作用効果を評価できない(即ち、勘案すべきではない)とすることは、直ちにはできない。

なお、
(イ)甲第16号証の出願の審査手続の経緯の中で提出された意見書(甲第17号証)に記載された実施例のデータや、本件特許の審査段階で提出された意見書(甲第30号証)に記載された実施例のデータは、比較例と同時に評価されていないのであるからデータの信頼性を欠く、旨の請求人の主張(平成23年6月16日付け上申書第3頁16行?第6頁末行参照)については、意見書のデータは単なる参考にすぎないものであるといえるので、そのことをもって、本件特許発明1の作用効果に虚偽があるとは直ちには言えない。
(ロ)被請求人は、請求人の出願にかかる同時期の出願である乙第28,29号証を提示して、請求人自らも、乙第28号証と乙第29号証の出願において、相反する作用効果の主張を行っている旨を主張し、また、本件特許発明と同様な発明について出願している旨を主張しているが、いずれも本件特許の出願とは関係のない出願であって、その真偽が、本件特許発明1の有効性の判断に影響を与えるものではないから、勘案すべき理由はない。乙第30号証についても同様であり、勘案すべき理由はない。

(δ)甲第28号証を提示し、比較例9は、実施例2,4より優れている旨の請求人の主張について検討する。
甲第28号証は、本件特許発明1が分子量として質量平均分子量で規定しているのに対し、数平均分子量で規定した成分を用いている点で、本件特許明細書に記載された比較例9、実施例2,4とは異なるものという他なく、追試のデータとして勘案できるものではない。
例え勘案し、比較例9が、実施例2,4よりも、整髪性や1時間後の再整髪性に優れたものであるとしても、比較例9は、(b):(c)の成分比が1:1.14と本件特許発明1で特定する(b):(c)の成分比が1:0.1?1:1(質量比)との数値限定をわずかに外れているものにすぎない例であることに鑑みると、そのことによって、(b):(c)の成分比の特定に問題がある可能性はあるが、単に近傍の作用効果を奏する範囲を除外しているに過ぎないとも解することができるし、そもそも、上記「(iii)相違点4について」で検討したように、(b):(c)の割合については甲8発明との間に実質的な相違がないのであるから、上記容易想到性がないとの判断に影響を与えるものではない。

ところで、請求人は、平成23年7月1日付け上申書(2)において、間隔尺度の場合に、等間隔性の条件を満たすことが必要であるところ、本件特許明細書に記載の評価尺度は、等間隔ではないので、官能評価の尺度として適切なものではない旨を主張し、平成23年10月3日付け上申書において、絶対評価であっても評価者のパネラーの尺度を合わせる必要があるが、本件特許明細書に記載の官能評価の方法には、そのような手順を踏まず、各パネラーが感じるままにまかせて評価させているので、甲第49号証と甲第50号証を提出し、このような方法での絶対評価では、信頼性のある結果は得られない旨を主張している。
なるほど、絶対評価はそうあるべきかも知れない。しかし、特許性の進歩性判断に際しては、引用例との関係で、まず、発明の構成、即ち発明特定事項の容易性が検討されるべきものであり、かならずしも比較例との対比が必要なものではない(例えば、従来に無い全く新しい発明特定事項からなる発明であれば、実施可能であることを示せば足り場合が多く、所期の目的が達成できることが理解できる場合が多い。)。そして、発明の発明特定事項に容易性の疑義が生じれば、次いで、引用例との間で直接に効果の比較をできれば良いが、できない場合も多いことから、明細書に記載された比較例(引用例相当の対照例)と発明の実施例との間に、進歩性を評価できる程度の差異が認められれば足りることも多く、所期の目的が達成できることが理解できる場合が多いのであって、多くの場合に請求人が主張する程の厳密なものである必要性はないのである。例えば、前記等間隔でなくても、作用効果の差異は認識できるものである。かように、請求人の主張は、評価は厳密なものでなければならないとの前提において既に誤っているので、採用できない。
ちなみに、請求人は、甲第28号証によって本件特許明細書に記載の比較例9の方が実施例2、4よりも優れている旨を平成23年10月3日付け上申書で再度主張するが、上記言及したとおりであって、仮にその程度の逆転があると解されたとしても、本件特許発明1が所期の作用効果を奏していないとまでは言うことはできない。

(ε)請求人は、新しいタイプの化粧料であるとの被請求人の主張は、<1>固めるのではないとの記載は明細書にない、また、<2>甲6の実施例2で整髪力と再整髪力が両立している、<3>べたつき、滑らかさ、仕上がりの軽さの点で△評価があり、普通より悪い、<4>配合比や比率が重複しているにもかかわらず、○、△になるのか不明であるから、クレームの全範囲にわたり効果を推認できない(弁駁書第6?頁10参照)旨を主張している。
しかし、これらの主張は上記で検討した内容と重複する部分もあるがそれを厭わず再度検討すると、次に示すように請求人の前記<1>?<4>の主張は採用できず、本件のクレームの全範囲にわたり効果を推認できないとは直ちに言うことができないものである。
<1>の点については、「固めるのではない」との趣旨は、本件特許明細書の段落【0074】に1時間後の「再整髪力」として規定される「つまんでねじって動かしたときのアレンジのしやすさ」を意味するものと解されることから、請求人の主張は、本件特許明細書の説明を無視したもので、失当であり、
<2>の点については、甲6は整髪方法の発明であり、それに用いる整髪組成も本件特許発明1の整髪用化粧料と異なるものであるから、整髪力と再整髪力が両立しているか否かにかかわらず、本件特許発明1の整髪用化粧料の組成を当業者が容易に想到し得るものとする根拠とは直ちにはなり得ないし、
<3>の点については、べたつき、滑らかさ、仕上がりの軽さの点の一部に悪い場合があったとしても、「整髪力」と「再整髪力」の点で予想できない作用効果を奏していると解される(「VII.無効理由4について」の「(VII-2)(2)」も参照)ことから、請求人の主張は失当であり、
<4>の点については、前記<3>の点と同様であり、また、仮に甲第28号証で提示された、比較例9が「整髪力」と「再整髪力」の点で実施例2,4より優れているとされる場合があるとしても、前記(δ)で検討したとおりである。

(ζ)甲第51,52号証を提示し、実施例の効果は、信頼性がなく、進歩性を認めるに値するものではない旨の請求人の主張について検討する。
請求人は、平成23年10月19日付け上申書において、甲第51号証に示されるとおり、実施例11,15,比較例5に基づき整髪用化粧料を調製し、官能評価の追加実験として、「べたつき感のなさ」と「仕上がりの軽さ」について、実施例11,15と比較例5とを二点嗜好法により官能評価したところ、比較例5の方が実施例11,15に比べて優れているとの結果が得られているから、そして、甲第52号証の石井丈晴の陳述にあるとおり、整髪用化粧料の開発に長くかかわってきている技術者の目からみても、甲第51号証の実験成績証明書(8)の結果は当業者からみても何ら驚くべき結果ではないから、本件特許発明の進歩性のよりどころとする実施例の効果は、信頼性を欠くものであり、進歩性に値するような格別なものとはいえない旨を主張している。
しかし、甲第14,15号証,甲第28号証について言及した(前記(VII-2),(X-1)(2)(vi)(δ)参照)のと同様に、甲第51号証の追試の条件をみると、「質量平均分子量300、400、1540、20000のポリエチレングリコールは、市販品として販売されていないことから、医薬部外品原料規格に規定されるポリエチレングリコール300、400、1540、20000を用いた。」とされているのであって、実験に用いられたポリエチレングリコールの分子量は、質量平均分子量ではなく数平均分子量であると認められる点で追試実験として適切なものではないから、甲第51号証の結果については検討を要しないものといえる。
仮に検討したとしても、前記(VII-2)で検討したように、本件特許明細書の記載全体からみて、本件特許発明1は、整髪力と1時間後の再整髪力を主たる作用として希求し、他の作用(例えば、「べたつき感のなさ」と「仕上がりの軽さ」)については従たるものとされていると解されるにもかかわらず、第51号証では、単に「べたつき感のなさ」と「仕上がりの軽さ」について言及しているに過ぎないものであり、整髪力と1時間後の再整髪力について何ら言及するものではないし、本件特許明細書では、比較例5における整髪力と1時間後の再整髪力はいずれも△であり、本件特許発明1と比べ劣っていることが明らかにされている。
そして、本件特許発明1は、少なくとも整髪力と1時間後の再整髪力について技術的意義があるものと解されることを併せ勘案すると、甲第51号証の結果及び甲第52号証の見解は、その真偽について検討するまでもなく、上記容易想到性がないとの判断に影響を与えるものではない。

以上(α)?(ζ)に検討したとおりであり、また、その他縷々主張されている請求人の主張に本件特許発明1の作用効果を否定できる主張を見い出せないので、本件特許発明1の作用効果として、実施例・比較例で一応の根拠が示されている、少なくとも、「整髪力」や「1時間後の再整髪力」(本件特許明細書の段落【0074】に規定された再整髪力)に優れる点で、所期の作用効果を奏しているものと解するのが相当と言える。

(vii)甲第9号証,甲第3?7号証について
請求人は、甲第9号証の記載も勘案すべきである旨を主張しているが、質量平均分子量が20000程度以下のポリエチレングリコールを使用することが周知であることの例として、また、その実施例10において、ポリエチレングリコール300と1540の等量混合物であるポリエチレングリコール1500(甲第12号証の摘示を参照)が用いられていること(即ち、(a)成分と(b)成分が等量含まれていること)、また、(a):(b),(b):(c)の成分比が本件特許発明1の要件をほぼ満たすとことを甲第9号証を提示して説明しているにすぎない(審判請求書第56頁下から2行?59頁15行参照)。
よって、このような観点で甲第9号証の記載を勘案しても、本件特許発明1についてはそもそも質量平均分子量の規定はなされていないこと、及び、他の系の一部の成分比をそのまま、組成成分が異なる系に適用することは妥当であるとは言えないことに鑑みるまでもなく、(d)成分についての容易性の根拠とするものではないことから、上記相違点3の判断を左右しえないことが明らかであり、上記容易想到性の判断に影響を及ぼすものではない。

また、請求人は、甲第3?7号証の記載も勘案すべきである旨を主張しているが、該主張は、記載甲8発明において(d)成分を配合すべき点について主張されたものではないし、甲第3?7号証の記載を検討しても上記相違点3の判断を左右しえる記載を見出すことができないことから、上記容易想到性の判断に影響を及ぼすものではない。

(viii)小括
以上のとおりであるから、本件特許発明1は、甲第10号証の記載を勘案し、また更に甲第9号証や甲第3?7号証の記載を勘案しても、甲8発明に基づいて当業者が容易に想到し得たものとは言えず、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものということができない。


(X-2)本件特許発明2?8について
本件特許発明2?8は、本件特許発明1を直接的に乃至は間接的に引用し、追加的に発明特定事項の限定を付したものであるが、それら追加的に限定した発明特定事項について検討するまでもなく、上記「(X-1)」で検討したのと同じ理由で、甲第10号証の記載を勘案し、また更に甲第9号証や甲第3?7号証の記載を勘案しても、甲8発明に基づいて当業者が容易に想到し得たものとは言えず、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものということができない。

ところで、本件特許発明2の「(a)?(d)成分がいずれも水および/またはアルコール溶媒に溶解することを特徴とする」との規定について、被請求人が、水性系を意図した規定であり、「・・いずれも水および/またはアルコール溶媒に溶解してなる事を特徴とする」旨を主張したのに対し、請求人が、甲第31号証の実験成績証明書(6)を提示して、本件特許明細書の実施例1?9のうち「実施例3?7の試料では、調製直後は白濁し、一晩静置すると相分離し、所定の成分が水-エタノール溶媒に溶解していないことが観察される旨を主張(平成23年6月16日付け上申書第3頁1?15行参照)し、平成23年10月19日付け上申書において補足する見解を縷々主張しているところであるが、該規定は、単に(a)?(d)成分がいずれも水および/またはアルコール溶媒に溶解するとの物性を規定したものと文言どおりに解するのが相当と言え、被請求人の主張する前記化粧品の状態で溶解している水性系を意味するものと限定して解することは適切ではない。それゆえ、請求人の前記主張は検討を要しないものである。

(X-3)まとめ
以上のとおりであるから、本件特許発明1?8は、甲第10号証の記載を勘案し、また更に甲第9号証や甲第3?7号証の記載を勘案しても、甲8発明から容易に想到し得たものとはいえず、特許法第29条第2項の規定に基づいて当業者が容易に想到し得たものとは言えない。
よって、請求人の主張する無効理由3は、理由がない。


XI.むすび
以上のとおりであるから、請求人の主張する理由及び証拠方法によっては本件特許の請求項1?8に係る発明についての特許を無効とすることができない。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-10-14 
結審通知日 2011-10-19 
審決日 2011-11-07 
出願番号 特願2010-23607(P2010-23607)
審決分類 P 1 113・ 113- YB (A61K)
P 1 113・ 121- YB (A61K)
P 1 113・ 537- YB (A61K)
P 1 113・ 832- YB (A61K)
P 1 113・ 536- YB (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 馳平 裕美  
特許庁審判長 川上 美秀
特許庁審判官 穴吹 智子
内田 淳子
登録日 2010-05-28 
登録番号 特許第4518520号(P4518520)
発明の名称 整髪用化粧料  
代理人 横田 修孝  
代理人 宮嶋 学  
代理人 勝沼 宏仁  
代理人 細田 芳徳  
代理人 高田 泰彦  
代理人 黒瀬 雅志  
代理人 伊藤 武泰  
代理人 長谷川 洋子  
代理人 中村 行孝  
代理人 柏 延之  

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