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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性  B26D
管理番号 1256733
審判番号 無効2011-800224  
総通号数 151 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-07-27 
種別 無効の審決 
審判請求日 2011-11-01 
確定日 2012-05-07 
事件の表示 上記当事者間の特許第4534847号発明「裁断方法および裁断装置」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 第1.手続の経緯
平成17年 4月13日 出願(特願2005-116210号)
平成22年 6月25日 設定登録(特許第4534847号)
平成23年11月 1日 無効審判請求
平成24年 1月19日 答弁書
平成24年 2月10日 通知書(審理事項通知)
平成24年 3月 5日 両者・口頭審理陳述要領書
平成24年 3月19日 請求人・口頭審理陳述要領書(2)
平成24年 3月19日 被請求人・口頭審理陳述要領書(2)
平成24年 3月19日 口頭審理

本審決において、記載箇所を行により特定する場合、行数は空行を含まない。原文の丸囲み数字は、丸1のように置き換えた。

第2.本件発明
本件特許の請求項1ないし5に係る発明は、以下のとおりである。
なお、A?Kの分説符号は、請求人が便宜的に付したものである。

「【請求項1】
A.被裁断材が載置される固定盤と、固定盤の上方に上下動可能に設けられ、下側に刃型が交換可能に取り付けられた可動盤と、可動盤を上下動させ被裁断材をカットする駆動制御装置と、固定盤上の被裁断材を移動させる送り出し機構とを備え、送り出し手段により被裁断材を固定盤上に順次送り込み、駆動制御装置により可動盤を上下動させて被裁断材をカットする裁断方法であって、
B.可動盤が上下動する行程中の速度を可変に制御し、
C.可動盤を、被裁断材の厚みに応じて刃型が裁断直前位置から裁断完了位置に達するまでの間のみ予め設定された低速度で降下させるようにするとともに、裁断時、被裁断材の材質に応じて、刃型を裁断完了位置で予め設定された時間保持し押し付けた状態のままにするよう可動盤を制御することを特徴とする裁断方法。
【請求項2】
D.可動盤の上下のストローク幅を可変にしたことを特徴とする請求項1に記載の裁断方法。
【請求項3】
A.被裁断材が載置される固定盤と、固定盤の上方に上下動可能に設けられ、下側に刃型が交換可能に取り付けられた可動盤と、可動盤を上下動させ被裁断材をカットする駆動制御装置と、固定盤上の被裁断材を移動させる送り出し機構とを備えた裁断装置であって、
B.可動盤が上下動する行程中の速度を可変に制御し、
C.可動盤を、被裁断材の厚みに応じて刃型が裁断直前位置から裁断完了位置に達するまでの間のみ予め設定された低速度で降下させるとともに、裁断時、被裁断材の材質に応じて、刃型を裁断完了位置で予め設定された時間保持し押し付けた状態のままにする駆動制御装置を備えたことを特徴とする裁断装置。
【請求項4】
E.裁断時、駆動制御装置にかかる負荷を検出して演算し、演算結果を裁断力として表示する裁断力表示機構を設けたことを特徴とする請求項3に記載の裁断装置。
【請求項5】
F.駆動制御装置は、可動盤を上下動させるクランク軸機構と、
G.このクランク軸機構のクランクシャフト一端に減速機を介して接続されたサーボモータと、
H.このサーボモータに電気的に接続されたサーボアンプと、
I.このサーボアンプと位置決めユニットおよびアナログ入力ユニットを介して電気的に接続され、予め入力された作業プログラムが収納された制御部と、
J.制御部と電気的に接続された表示装置と、クランクシャフトの他端に接続されたエンコーダと、
K.このエンコーダと電気的に接続されるとともに、アナログ入力ユニットと制御部とに電気的に接続された高速カウンタとを備えていることを特徴とする請求項3または4に記載の裁断装置。」

第3.請求人の主張
1.条文
特許法第29条第2項(第123条第1項第2号)

2.証拠
請求人が提出した証拠は、以下のとおりである。
なお、甲第9?10、16号証は、参考資料とされた(口頭審理調書「請求人 6」)。

甲第 1号証:特開2001-162590号公報
甲第 2号証:特公平3-33439号公報
甲第 3号証:特開平10-277791号公報
甲第 4号証:特開2002-103090号公報
甲第 5号証:特願2005-116210の拒絶理由通知書
甲第 6号証:特開2005-88437号公報
甲第 7号証:実願昭61-47201号(実開昭62-159298号 )のマイクロフィルム
甲第 8号証:特願2005-116210の意見書
甲第11号証:平成20年5月、日経BP社発行「日経ものづくり5月号 」
甲第12号証:株式会社旭工業所のウェブサイトの設備紹介ページ
甲第13号証:株式会社卜-コーのウェブサイトの製品紹介ページ
甲第14号証:平成16年8月9日、有限会社データ技術研究所発行「2 004年版 サーボプレス&アクチュエータの現状と将来 展望?急拡大するプレス機械の電動サーボ化-」第69、 92ページ
甲第15号証:平成15年9月頃、坂本造機株式会社発行のカタログ、第 4、9ページ

3.概要
請求人の主張の概要は、以下のとおりである。

(1)審判請求書第10ページ第4行?第19ページ第14行
「(4)本件特許を無効にすべき理由
(4-1)本件特許発明
・・・
(4-2)先行技術発明が存在する事実及び証拠の説明
・・・
(4-3)本件特許発明と先行技術発明との対比
(請求項1及び請求項3)
本件請求項1に係る発明と甲第1号証に記載された発明とを対比すると、両者は、構成Aを有する点で共通する。
本件請求項1に係る発明と甲第2号証に記載された発明とを対比すると、両者は、構成B、Cを有する点で共通する。
また、甲第3、4号証には、サーボプレス機械のスライド制御方法において、「加圧保持領域」を設けること、すなわち「刃型を裁断完了位置で予め設定された時間保持し刃型を押し付けた状態のままにする」ことが記載されている。
甲第2?4号証に記載されたものは、裁断装置としての機能を有するサーボプレス装置に関する技術であり、請求項1に係る発明及び甲第1号証に記載された発明と技術分野を同一にするものであるから、甲第2?4号証に記載された上記の点の構成を甲第1号証に記載されたものに適用することはその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に推考し得るものである。
・・・
また、被請求人は、同意見書において、引用文献1に記載された発明との対比について、「本願発明では、このような構成とすることにより、軟質であったり、伸びやすい材質の被裁断村であっても材料そのものの反発力を利用してカットすることができ、カットしやすくなるという格別の効果」を有すると述べている(甲第8号証(意見書)の第2頁第19行?21行)。一方、本件特許の明細書には、本件発明に係る裁断装置が適用される被裁断材について、「被裁断材は、樹脂フィルム、セロハン、パッキン、フェルト、スポンジ、ゴム、ウレタンフォーム、アルミホイール、銅ホイール、布、紙だけでなく、高強度不織布、高強度織布、高粘着材、高強度延材等、ロール素材、シート素材が用いられ軟質硬質を問わず裁断力の異なる種々の素材が用いられる」(段落「0022」)と記載され、これと相まって、特許請求の範囲には、適用される被裁断材の材質について何ら限定する記載がない。このことから、本件発明の適用対象が「軟質であったり、伸びやすい材質の被裁断材」に限定されないことが明らかである。
そうすると、特許請求の範囲に、「材料そのものの反発力を利用してカットするように制御する」のような限定的記載があるならば格別、そうでない本件特許において、意見書における上記効果の主張は、特許請求の範囲の記載に基づかない意味のない主張である。なお、本件特許の出願当初の明細書には、「材料そのものの反発力を利用してカットする」という技術的事項に関する記載は存在しない。
・・・
(請求項2)
請求項2に係る発明と甲第2号証に記載された発明とを対比すると、甲第2号証には、請求項2に記載の「D.可動盤の上下のストローク幅を可変にした」についても記載されていることから、請求項2に係る特許発明も、甲第1号証に記載された発明に、甲第2号証に記載された発明を適用したものに相当するが、この点がその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者にとって容易である点は、請求項1について述べたとおりである。
(請求項4)
請求項4に係る発明と甲第2号証に記載された発明とを対比すると、甲第2号証には、請求項4に記載の「E.裁断時、駆動制御装置にかかる負荷を検出して演算し、演算結果を裁断力として表示する裁断力表示機構を設けた」ことについても記載されていることから、請求項4に係る特許発明も、甲第1号証に記載された発明に、甲第2号証に記載された発明を適用したものに相当するが、この点がその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者にとって容易である点は、請求項3について述べたとおりである。なお、甲第3号証には、「?電流値に基づいて各サーボモータの実際の加圧力データを表示器33に表示するようにしている。これによって、作業者が実際の加圧力を確認できるので、加圧力設定ミスを防止できる。」(第8頁第14欄第6?9行)と、構成Eに対応する構成の記載がある。
(請求項5)
請求項5に係る発明と甲第2号証に記載された発明とを対比すると、甲第2号証には、請求項5に記載のF、G、H、I.Jの構成についても記載されていることから、請求項5に係る特許発明も、甲第1号証に記載された発明に、甲第2号証に記載された発明を適用したものに相当するが、この点がその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者にとって容易である点は、請求項3について述べたとおりである。
(5)むすび
・・・。」

(2)口頭審理陳述要領書第1ページ下から5行?第5ページ第2行
「第1 甲第1号証ないし甲第4号証による請求項1及び3に係る発明の進歩性について
(1)可動盤(刃型)を下死点(裁断完了位置)で設定された時間保持することの技術的意味について
本件発明においては、上記「裁断完了位置」を「刃型5が被裁断材を力ットし終わり刃型5が最下端位置または最下端に近いところにある位置」と定義(明細書の段落0027の末2行)したうえで、刃型を設定された時間保持することの技術的意味について、「軟質であったり伸びやすい材質の被裁断材であっても、・・・カットしやすくなる」(段落0029の3?5行)と説明されている。
これに対して、甲第2号証においては、工具を下死点位置で予め設定された時間停止させることの技術的意味について、「ラムの停止工程、すなわち休止時間を設けたので、ラム先端の工具に付着した切粉又は製品を確実に落下させることができる。また、確実に工具と切粉又は製品とが分離できるので、製品不良が少ない」(3頁6欄21?25行)とされる。そして、その加圧保持時間は、材質の異なる各種被加工材に応じて適宜設定され、その結果、単一の装置で材質の異なる多種の被加工材を精度良く、確実にかつ効率的に加工することができるものである。結局、本発明の明細書記載の限りにおいて、本発明におけると同等の作用効果を有するということができる。
甲第3号証における、下死点保持の技術的意味は、被請求人が認めるように「下限位置Lで所定時間(図示で点Dまで)位置及び加圧力を保持」し、塑性加工の精度を出す(答弁書7頁(ハ)の第2段落末2行)ようにするものである。そして、その加圧保持時間は、材質の異なる各種被加工材に応じて適宜設定され、その結果、単一の装置で材質の異なる多種の被加工材を確実にかつ効率的に加工することができるものである。
甲第4号証における、下死点保持の技術的意味は、被請求人が認めるように「加圧ラムの上型を下型に型当たりさせ加圧トルクを発生させて「上下の金型に挟まれたワークが加工され」塑性加工の精度を出す(答弁書8頁(ニ)の第2段落末3行)ようにするものであり、その加圧保持時間は、材質の異なる各種被加工材に応じて適宜設定され、その結果、単一の装置で材質の異なる多種の被加工材を確実にかつ効率的に加工することができるものである。
ところで、一般に、型抜きによるせん断(裁断)技術において、下死点保持の目的は、被加工材が弾性限度(降伏点)を超えて塑性変形(材料の流動)を起こし、ついには破断に至るまでの加圧維持である。これは、せん断(裁断)を含む塑性加工の常識であり、この加圧維持時間は材料の性質に応じて適宜設定される。そして、被請求人も認めるとおり、打ち抜き加工を含む塑性加工に供されるプレス機では、上記の工程により、塑性加工における最終製品の精度を出すことができるのである。
・・・。
(2)「裁断装置」と「プレス装置」の属する技術分野について
本件特許の特許請求の範囲の記載により特定される「裁断装置」が具体的に何を意味するかは暫く置き、合成樹脂フィルムを打ち抜き加工するのに用いられる「裁断装置」と称されるものは、実質的には、「プレス装置」と異なるところがない。プレス装置は、刃型を交換すれば裁断装置となる。
プレス装置は、「2個以上の工具を用い、それらの工具間に被加工材を置いて、工具に関係運動を行わせ、工具によって被加工材に強い力を加えることによって被加工材を成形加工する機械で、かつ、工具間に発生させる力の反力を機械自体で支えるように設計されている機械をいう。」と、定義され、労働安全基準法上の特別の安全基準が適用されるのに対し、裁断装置は、「2個以上の工具」を用いないため、プレス機械として労働安全基準法上の規制を受けない。このため、「プレス装置」といわずに、ことさら「裁断装置」ということがあるが、両者には規制対象になるか、否かの形式的な相違があるのみである。
したがって、ユーザーもメーカーも共通するところが多い。例えば、・・・。
・・・。
以上のように、「裁断装置」と「プレス装置」は、同一の技術分野に属するものであり、したがって、甲第2号証ないし甲第4号証に記載された発明を甲第1号証に記載された発明に適用することは当業者にとって容易であることが明らかである。」

(3)口頭審理陳述要領書(2)第1ページ下から3行?第5ページ下から5行
「第1 本件発明と甲3,4発明の構成、作用効果の対比
・・・。
第2 被請求人の主張に対する反論
(1)被裁断材について
被裁断材について、被請求人は、明細書中に例示されたものの一部を取り出して「薄い紙状の材料」(平成24年3月5日付け陳述要領書(以下「第1陳述要領書」という。)の(1))のみであるように主張しているが、そのように限定して解釈すべき合理的理由は存在しない。一般に「裁断装置」と称される装置による被裁断材は、板状又はシート状のものであるとしても、厚さは数十ミクロンのものから数センチのものまで多様である。広辞苑における「裁断」の意味は、一般生活においてはさみを用いて行う行為を念頭に置いたものであり、工業的意味とは異なる。
(2)「裁断」の意味について
被請求人がいう「裁断」、「カット」は、塑性加工のうちの「せん断加工」に当たるものであることは疑問の余地がない。その意味で、「裁断」は塑性加工である。
(3)本件発明の加工対象と加工方法について
被請求人は、本件発明は、「布状または紙状の薄材を裁断加工の対象としている」(第1陳述要領書の(2)(a))と主張するが、上記(1)のとおり失当である。
被請求人は、本発明の加工方法について、第1陳述要領書3頁1?4行のように具体的にいうが、特許請求の範囲の記載からそのように解することは到底できない。仮にそのような構成が発明に必須であるならば、特許請求の範囲に記載されなければならない。
(4)甲2?4発明の加工方法について
請求人(当審注:正しくは「被請求人」)は、プレス装置による「塑性変形加工時には、金型で加工物全面を加圧」する(第1陳述要領書の(2)(a)末3行)と主張するが、これは失当である。プレス装置の金型は多種多様であり、適宜使用者が選択して装着するものである。全面を加圧しない型としては、典型的には、フィルムやシート材の打ち抜きに用いられるトムソン刃があり、これをサーボプレス装置に装着して使用することは、本件特許出願前から一般的に行われていることである。
(5)被裁断材の裁断時の挙動について
被請求人が、第1陳述要領書の第4頁(i)、(ii)において主張するような被裁断材の挙動について明細書には何ら記載がなく、当業者が本件明細書に接して格別の説明なく理解できる範囲を超えている。仮にそのような挙動を起こさせることが本件発明の作用効果を生むのに必須の条件であるとすれば、そのことが特許特許請求の範囲に記載されなければならない。
なお、本発明が、「被裁断材の性質に応じた材料そのものの反発力を利用している」(第1陳述要領書の3頁末2行)とは認められないが、万一認めるとしても、それは裁断を含むプレス加工において常に考慮される事項であり、本発明に特有のことではない。
(6)甲2?4号発明の甲1号発明への適用について
被請求人は、甲1号発明に甲2?4号発明の「可動盤を下死点位置で設定された時間保持する」構成を適用するだけでは「下死点停止時間が、たまたま被裁断材の材質に合致すると、カットすることはできるものの、材質が異なる被裁断材を加工する度にカットが不十分であったり、裁断部がすでに切り離されているにもかかわらず設定時間が経過するまで可動盤を停止させていなければならない」とし、「単に「可動盤を下死点位置で設定された時間保持する」だけでは、本件発明に特有の効果を得ることができない」(第1陳述要領書の(3)第3?5段落)と主張するが、失当である。甲2?4号発明のいわゆるサーボプレスは、被裁断材の材質に応じて最適な下死点停止時間を設定できることが特徴である。したがって、サーボモータの動作をそのように設定すれば、「被裁断材の材質に応じて確実にカットすることができる」という本件発明に特有の効果を当然に得ることができるのである。
第3 甲2?4号発明を甲1号発明へ適用することの容易性について
(1)出願前周知のサーボモータ駆動のフィルム裁断装置の存在
例えば、合成樹脂フィルムやシートを型抜きするサーボモータ駆動の専用の裁断装置は、本件特許の出願前に周知である(甲15等)。この種のいわゆるフィルム裁断装置では、可動盤の移動速度、下死点位置、下死点停止時間を任意に精密に設定できるというのが、本件特許の出願時の一般的技術水準であった。
(2)汎用サーボプレスのフィルム裁断機としての利用の周知性
一方、上記のようなサーボモータ駆動のフィルム裁断機が多用される以前には、汎用のサーボプレス装置にトムソン刃を装着すると共に、それに被裁断材の送り装置を付設するなどして、サーボプレス装置をフィルム裁断機として使用することが、本件特許の出願に広く行われていた(甲12,14)。
(3)油圧式フィルム裁断機における下死点保持設定の周知性
本件特許の出願前に、油圧式フィルム裁断機が広く使用されていた(甲11)。油圧式フィルム裁断機では、下死点停止位置はストッパで設定され、可動盤の上昇タイミングは、タイマによる電磁弁の切換により設定される。そして、フィルムの裁断において、フィルムを確実に切断するために、フィルムの材質に応じて可動盤を下死点で所定時間保持するようにタイマを設定することが一般に行われていた。
(4)技術分野の同一性
いわゆるフィルム裁断機と汎用プレス装置は、いずれも同一のメカニズムを用いる装置であるし、メーカーも一部重なり(甲13?15)、またその使用現場においても共用されている(甲12)のであるから、相互間に技術の流用が当然に行われる同一の技術分野に属することは疑いない。
(5)甲2?4号発明の適用の容易性
・・・。」

(4)口頭審理調書の請求人欄
「2 裁断とは塑性変形後破断に至るもので、塑性変形に含まれるから、プレスと技術的に共通である。
3 プレスも裁断も、ワーク押さえが必要な場合、そうでない場合がある。
4 下死点での停止の技術的意義は、甲第3号証及び甲第4号証は精度向上のためであり、これは本件特許明細書段落「0020」の「確実にかつ効率的に裁断」に含まれるから、技術的意義は同一である。
5 本件特許明細書段落「0027」に「カットし終わり」とあり、被請求人の主張は根拠がない。
6 甲第9号証ないし甲第10号証及び甲第16号証は参考資料とする。
7 プレス装置は刃型を替えることで切断等種々の用途に用いられる。」

第4.被請求人の主張
これに対し、被請求人は、本件審判請求は成り立たないとの審決を求めている。
その主張の概要は、以下のとおりである。

(1)答弁書第4ページ第17行?第9ページ第3行
「(iv)本件特許の請求項1に記載の発明と先行技術発明との対比
(イ)本件特許の請求項1に記載の発明と甲第1号証に記載された発明とでは、「被裁断材が載置される固定盤」(本件特許の請求項1に記載の発明の構成要件aに相当する。)と、「固定盤の上方に上下動可能に設けられ、下側に刃型が交換可能に取り付けられた可動盤」(本件特許の請求項1に記載の発明の構成要件bに相当する。)と、「可動盤を上下動させ被裁断材をカットする駆動制御装置」(本件特許の請求項1に記載の発明の構成要件cに相当する。)とを備え、被裁断材を裁断する「裁断方法である」(本件特許の請求項1に記載の発明の構成要件iに相当する。)点で共通する。
しかしながら、・・・。
このように、甲第1号証には、本件特許の請求項1に記載の発明に特有の構成については何も示されておらず、示唆するものもない。
(ロ)本件特許の請求項1に記載の発明と甲第2号証に記載された発明とでは、本件特許の請求項1に記載の発明は、可動盤を、被裁断材の厚みに応じて刃型が裁断直前位置から裁断完了位置に達するまでの間のみ予め設定された低速度で降下させるようにしているのに対し、甲第2号証のものは、接近工程の終了後、加工工程でこの接近工程の移動速度より実質的にステップ状に変化させて減速している点で共通する。
また、本件特許の請求項1に記載の発明は、裁断時、被裁断材の材質に応じて、刃型を裁断完了位置で予め設定された時間保持し押し付けた状態のままにするよう可動盤を制御するようにしているのに対し、甲第2号証のものは、プレス機械のラムを下死点で停止させる点で共通する。
しかしながら、本件特許の請求項1に記載の発明と甲第2号証に記載された発明とでは、技術分野について、本件特許の請求項1に記載の発明は、被裁断材を所望の製品にカットする裁断方法および裁断装置であるのに対し、甲第2号証のものは、ラムの先端に設けた工具が被加工物の表面の一部あるいは全面に外力を加えて塑性変形を生じさせるプレス機械の運転方法とそのサーボ制御装置である点で相違する。すなわち、技術分野が異なる点で相違する。
つまり、本件特許の請求項1に記載の発明が、可動盤を、被裁断材の厚みに応じて刃型が裁断直前位置から裁断完了位置に達するまでの間のみ予め設定された低速度で降下させるように構成したことにより「被裁断材の材質に応じて裁断の間の刃型の速度を遅くするよう設定することができ、たとえ材質の異なる被裁断材であっても確実にカットすることができる」という作用効果を奏するのに対し、甲第2号証のものは、接近工程の移動速度より減速することにより被加工物に塑性変形を生じさせ、「プレス機械の運転中の騒音を低騒音化する」点で相違する。すなわち、技術分野の異なる裁断装置とプレス装置について加工時の減速という一部の動作は共通するものの、その目的も作用効果も異なる。
さらに、本件特許の請求項1に記載の発明は、裁断時、被裁断材の材質に応じて、刃型を裁断完了位置で予め設定された時間保持し押し付けた状態のままにするよう可動盤を制御するように構成したことにより「被裁断材の材質に応じて確実に裁断を果たすため、刃の裁断完了状態を指定した時間保持する必要がある場合」でも、「単一の装置で材質の異なる多種の被裁断材を確実にかつ効率的に裁断することができる」という格別の作用効果を奏するのに対し、甲第2号証のものは、プレス機械のラムを下死点で停止させることにより塑性加工の精度を出すようにした点で相違する。
すなわち、本件特許の請求項1に記載の発明と技術分野の異なる塑性加工に供されるプレス機では、甲第2号証だけでなく甲第3号証および甲第4号証に記載のいずれのプレス機であっても、一般的にスライドや加圧ラムの最下点で加圧保持を行わなければ、塑性加工における最終製品の精度を出すことはできない。
このように、技術分野の異なるプレス機械の動作の一部を裁断機に適用し、目的も作用効果も異なる下死点停止を以て当業者が本件特許の請求項1に記載の発明を容易に想到し得るものではない。
上述の如く、・・・。
(ハ)本件特許の請求項1に記載の発明と甲第3号証に記載された発明とでは、本件特許の請求項1に記載の発明が、被裁断材をカットする裁断方法および裁断装置であるのに対し、甲第3号証のものは、スライドの下面とボルスタの上面とにそれぞれ取り付けた上下の両金型で成形や抜き打ち加工を行う複数ポイントサーボプレスの制御装置である点で、すなわち、技術分野が異なる点で相違する。
また、本件特許の請求項1に記載の発明は、裁断時、被裁断材の材質に応じて、刃型を裁断完了位置で予め設定された時間保持し押し付けた状態のままにするよう可動盤を制御するようにし、単一の装置で材質の異なる多種の被裁断材を確実にかつ効率的に裁断することができるのに対し、甲第3号証のものは、スライドを「下限位置Lで所定時間(図示で点Dまで)位置及び加圧力を保持」し塑性加工の精度を出すようにした点で相違する。
このように、甲第3号証には、本件特許の請求項1に記載の発明に特有の構成については何も示されておらず、示唆するものもない。・・・。
(ニ)本件特許の請求項1に記載の発明と甲第4号証に記載された発明とでは、技術分野について、本件特許の請求項1に記載の発明が、被裁断材をカットする裁断方法および裁断装置であるのに対し、甲第4号証のものは、プレス装置用アクチュエータおよびその制御方法である点で相違する。
また、本件特許の請求項1に記載の発明は、刃型を裁断完了位置で予め設定された時間保持し押し付けた状態のままにするよう可動盤を制御するのに対し、甲第4号証のものは、加圧ラムの上型を下型に型当たりさせ加圧トルクを発生させて「上下の金型に挟まれたワークが加工され」塑性加工の精度を出すようにした点で相違する。
このように、甲第4号証には、本件特許の請求項1に記載の発明に特有の構成については何も示されておらず、示唆するものもない。・・・。
上述のように、甲第2号証ないし甲第4号証のものは本件特許と技術分野が異なるだけでなく、たとえ、甲第2号証ないし甲第4号証に記載の構成を本件特許の裁断方法および裁断装置に適用しても、本件特許に特有の効果を全く得ることはできない。
また、本件特許の請求項3に記載の発明については、請求項1に係る発明が裁断方法であるのに対し、実質的に同一の裁断装置である。よって、本件特許の請求項3に記載の発明についても、たとえ、甲第2号証ないし甲第4号証に記載の構成を、甲第1号証のものに適用しても、当業者が本件特許の請求項3に記載の発明に特有の構成を容易に想到し得るものではない。
このように、本件請求項1ないし5に係る特許発明は、甲第1号証ないし甲第4号証に記載された発明に基づいて、出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるとの請求人の理由1および2の主張は根拠がない。」

(2)平成24年3月5日付け口頭審理陳述要領書第2ページ第1行?第6ページ第4行
「(1)平成24年2月10日付通知書において本件特許の明細書中、段落番号0022に記載された被裁断材について説明する。
・・・。これら金属製の薄材からなる被裁断材は、一般に、シートの上面に積層され、固定盤上で上下動する可動盤の刃型により裁断される、すなわち、断ち切られることになる。
裁断装置は、全カットやハーフカット等の裁断の仕方はあるものの、あくまで刃型で材料を裁断、すなわち、カットするもので、材料に塑性変形加工を施すものではない。
(2)・・・。
本件特許の請求項1、3に記載された発明と甲第2号証?甲第4号証に記載された発明とでは、技術的に作用も効果も異なる。
(a)本件特許に記載された発明の裁断装置と甲第2号証?甲第4号証に記載された発明のプレス装置との加工対象と加工の仕方について
まず、本件特許の請求項1、3に記載された発明の裁断方法および裁断装置では、被裁断材として「樹脂フィルム、セロハン、・・・軟質硬質を問わず裁断力の異なる種々の素材が用いられる。」(本件特許の明細書、段落番号0022参照)と記載されているように、布状または紙状の薄材を裁断加工の対象としている。
裁断装置による裁断加工時には、刃型を保護するため固定盤上にベースシート(刃型保護用下敷きシート)を載置し、ベースシートの上に被裁断材を運び込み、上下動する可動盤に取り付けられた刃型により裁断を行う。裁断時、被裁断材は刃型が押し付けられ変形しても上方に逃げる空間が確保されている。
これに対して、甲第2号証?甲第4号証に記載された発明のプレス装置では、例えば、・・・。
プレス装置による塑性変形加工時には、金型で被加工物の加工部全面を加圧して加工を行う。加工精度を出すために金型を加工部に圧接させて加圧する。金型には肉が逃げる空間はない。
(b)本件特許の裁断方法および裁断装置における可動盤を下死点位置で設定された時間保持することによる作用および効果
本件特許の裁断方法および裁断装置では、可動盤を下死点位置で設定された時間保持する、すなわち、「刃型を裁断完了位置で予め設定された時間保持し押し付けた状態のままにする」ことにより、「たとえ材質の異なる被裁断材であっても確実にカットすることができる」(明細書中、段落番号0006および段落番号0013参照)という作用効果を奏する。
これは、明細書中には記載がないものの、被裁断材の材質の性質に応じた材料そのものの反発力を利用しているため、このような作用を果たすことができる。
以下、本件特許の出願の前後、分析を通じて得られた被裁断材の裁断時の挙動について詳細に説明する。
(i)裁断時、可動盤を下死点に位置させても、刃型が裁断された被裁断材を上下に完全に打ち抜ききらないで、被裁断材の裁断部の下端をかすかに残したままにすることができる。
言い換えれば、可動盤を下死点に位置させても、固定盤上に置かれ被裁断材の下側に敷かれたベースシートに刃型を当てる深さを最小限にすることができる。ベースシートが必要以上に傷つかないと、ベースシートに深い傷ができない。このため、裁断時、被裁断材がベースシートの深い傷に入り込むことがなく確実な裁断を行うことができる。
(ii)裁断部下端をかすかに残して裁断された被裁断材は、裁断時には刃型の刃側面により刃型の反対方向に押され一旦変形するが、被裁断材自身の反発力により戻ろうとする。
このとき、かすかに残った裁断部下端は、復元しようとする方向に働く力に抗しきれず、被裁断材に働く戻る力により自然に切り離されてしまう。
このように、裁断の瞬間(刃型が下死点に達した瞬間)から被裁断材の持つ復元力を利用して裁断部下端が完全に切り離されるまでの時間が、「保持し押し付けた状態のままにする」「予め設定された時間」に相当する。そして、この時間は、被裁断材の材質に応じて設定される(明細書中、段落0028、第3行ないし第5行の記載「被裁断材の材質に応じて、・・・カットしやすくなる。」参照)。
(iii)こうして、本件特許の裁断方法では、「材質の異なる多種の被裁断材であっても速度を落として確実にカットすることができる」(明細書中、段落番号0019参照)、また、本件特許の裁断装置では、「材質の異なる多種の被裁断材を確実にかつ効率的に裁断することができる」(明細書中、段落番号0020参照)という格別の効果を得ることができる。
(c)甲第2号証?甲第4号証に記載された発明のプレス装置における可動盤を下死点位置で設定された時間保持することによる作用および効果
プレス装置において可動盤を下死点位置で設定時間保持することによる作用および効果については、最終製品の精度を出すためであって、塑性変形加工における一般的な技術である。このため、下死点位置における停止時間については、これら各号証のいずれにもグラフに表されている(甲第2号証の第4図、甲第3号証の図2および甲第4号証の図3参照)。しかしながら、下死点位置における停止時間の作用効果については何ら言及がない。
(3)本件特許の請求項1、3に記載された発明の進歩性に関して、甲第2号証?甲第4号証に記載された発明を甲第1号証に記載された発明に適用できないとする根拠について説明する。
甲第2号証?甲第4号証に記載された発明はいずれもプレス装置であり、甲第1号証に記載された発明は裁断機である。
万一、甲第1号証記載の裁断機に、甲第2号証?甲第4号証に記載されたプレス装置の「可動盤を下死点位置で設定された時間保持する」構成を適用したとすると、下死点停止の停止時間が、たまたま被裁断材の材質に合致すると、カットすることはできるものの、材質が異なる被裁断材を加工する度にカットが不十分であったり、裁断部がすでに切り離されているにもかかわらず設定時間が経過するまで可動盤を停止させていなければならない。
すなわち、単に「可動盤を下死点位置で設定された時間保持する」だけでは、本件特許に特有の効果を得ることはできない。
これに対して、本件特許は、「裁断時、被裁断材の材質に応じて、刃型を裁断完了位置で予め設定された時間保持し押し付けた状態のままにするよう可動盤を制御する」ことにより被裁断材の材質に応じて確実にカットすることができる。
このように、単に塑性加工の精度を出すために設定時間加圧する構成を、多種の材質毎に材質に応じて正確にカットを行う必要がある裁断方法および裁断装置に適用しても、本件特許に特有の作用効果は奏し得られない。
・・・。」

(3)平成24年3月19日付け口頭審理陳述要領書(2)第2ページ第8行?第3ページ第9行
「(2)「本件特許の「裁断」が、塑性変形を行うものではなく、肉逃げ空間を有し、甲2?4の「打抜き」は塑性変形を行い、肉逃げ空間を有さないとする根拠(明細書、証拠)。」とのご指摘について
甲第2号証ないし甲第4号証に記載された発明であるプレス機械については、
(a)金型の形状を転写する絞り加工、曲げ加工などの塑性加工と、
(b)せん断、打ち抜き加工などの材料を切る加工と分けて考える必要があります。
絞り加工のように金型の形状を転写する加工では、下死点で一定時間停止することは、形状を安定させるための必須の工程です。
塑性変形するまで一定時間保持しなければ、スプリングバックで所望の形状を得られないからです。この場合に、被加工材に加えられる圧力の反力は機械自体で支えることになります。このような塑性加工の場合、肉逃げ空間はありません。
これが絞り加工、曲げ加工などの塑性加工を行うプレス機械の特徴です。
これに対し、本件特許の「裁断」では、「刃型を裁断完了位置で予め設定された時間保持し押し付けた状態のままにするよう可動盤を制御する」よう構成されているので、この時の材料に加えられた力の反力により切断が完了します。つまり、材料自身の反発力を利用するもので、材料を規制するものではありません。
一方、打抜きなどのせん断加工の場合、上型の刃を下型の刃の中に押し込んで材料を打ち抜くことになります。すなわち、上型の刃が下型の刃を通過することにより材料が切り離されます。このため、上型の刃を下型の刃の中に入り込む前に停止させることはありません。従って、下死点は上下の両刃が交差した後になり、この時点で切断はすでに完了しています。この時点で下死点停止を行っても、材料の切断には全く寄与することはありません。
これがせん断、打ち抜き加工などの材料を切る加工を行うプレス機械の特徴です。」

(4)口頭審理調書の被請求人欄
「2 裁断とは実質的に塑性変形を伴うことなく破断に至るものであり、プレスとは技術的に異なる。
3 裁断は反力防止の意味での押さえは必要ない。
4 裁断は刃が下死点に達していても切れていないことがある。設定時間押しつけた状態のままとすることで確実に切れる。根拠は請求項1の「材質に応じて」「押しつけた状態のまま」である。
5 プレスにおける設定時間保持の意義は、スプリングバック防止のためであって、確実な切断のためではない。
6 従属項で限定した点のみによる格別な意義はない。」

第5.当審の判断
1.本件発明
本件特許の請求項1ないし5に係る発明(以下「本件発明1ないし5」という。)は、上記第2.のとおりと認められる。

2.証拠記載事項
(1)甲第1号証
甲第1号証には、以下の記載がある。

ア.特許請求の範囲の請求項1
「被型抜材が載置される固定盤と、固定盤の上方に上下動可能に設けられ、下側に刃型が交換可能に取り付けられた可動盤と、入力された作業プログラムに基づいて可動盤を制御して一定の上下ストロークで上下動させ被型抜材をカットする制御装置とを備えた裁断機において、
上記制御装置は、可動盤を上下に変位させる昇降手段と、選択された作業プログラムに用いられる刃型の刃高データと外部から入力された固定盤に対する可動盤の高さのデータとから、可動盤を設定された刃高に合致する高さまで変位させる上下方向の変位量を演算する演算処理手段と、演算処理手段により算出された上下方向の変位量に応じて昇降手段を駆動制御し可動盤を上下方向に変位させ、可動盤を選択された作業プログラムの刃高に応じた高さに位置決めする駆動制御手段とを備えて構成される特徴とする裁断機。」

イ.段落0001?0002
「【0001】
【発明が属する技術分野】本発明は、自動制御により被型抜材を所望の製品にカットする裁断機に関するものである。
【0002】
【従来の技術】一般に、自動制御による裁断機は、図7ないし図9に示すように、上面を被型抜材2が搬送されるテーブル(固定盤)3と、テーブル3に上下動可能に設けられた可動盤(圧盤)4と、この可動盤4の下面に交換可能に取り付けられる刃型5と、図示しない送出し機構および可動盤4を入力された製品情報に応じて動作させる制御装置6とを備えて構成される。・・・。」

これらを、技術常識を踏まえ、本件発明1に照らして整理すると、甲第1号証には、以下の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。
「被裁断材が載置される固定盤と、固定盤の上方に上下動可能に設けられ、下側に刃型が交換可能に取り付けられた可動盤と、可動盤を上下動させ被裁断材をカットする駆動制御装置と、固定盤上の被裁断材を移動させる送出し機構とを備え、駆動制御装置により可動盤を上下動させて被裁断材をカットする裁断機。」

(2)甲第2号証
甲第2号証には、以下の記載がある。

ア.第1欄第2?末行
「1 ラムの先端に設けた工具が後記の1サイクルを描いて被加工物の表面の一部あるいは全面に外力を加えて塑性変形を生じさせる、電気サーボモータを有するプレス機械の運転方法であつて、
a 前記被加工物に外力を加えるためにあらかじめ設定された設定速度で移動させて前記被加工物に接近する接近工程と、
b この接近工程の終了後、あらかじめ設定された速度であつて、かつ前記工具の前記接近工程の移動速度より実質的にステツプ状に変化させて減速し前記被加工物に塑性変形を生じさせる加工工程と、
c この加工工程の終了後、あらかじめ設定された時間であつて、かつ前記被加工物から分離され前記工具に付着した前記被加工物の一部を前記工具から分離するように下死点位置で前記工具を実質的に停止するための停止工程と、
d この停止工程の終了後、あらかじめ設定された速度であつて、かつ前記工具を前記下死点位置から前記加工工程の速度より速い速度で離間する離間工程とからなるプレス機械の運転方法。」

イ.第6欄第21?25行
「ラムの停止工程、すなわち休止時間を設けたので、ラム先端の工具に付着した切粉または製品を確実に落下させることができる。また、確実に工具と切粉または製品とが分離できるので、製品不良が少ない。」

ウ.第9欄第11?34行
「サーボ・モータ20の出力軸(図示せず)には、ウオームギヤ軸22のー端がキー結合されている。ウオームギヤ21の歯は、ウオームホイール23の歯とかみ合つている。ウオームギヤ21とウオームホイール23の歯形は、規格で決められた標準の歯形である。ウオームギヤ21とウオーム23とは、減速歯車機構を形成している。ウオームホイール23の軸には、円板状のクランク軸24がキー止めされている(図示せず)。
・・・
・・・。軸35には、ラム36の一端が回転自在に設けてある。ラム36の先端には、加工のための工具(図示せず)が周知の手段で取り付けられている。」

エ.第11欄第32行?第12欄第20行
「ラム36の移動軌跡
第4図に示した線図は、ラム36の動きを示したものである。横軸が時間t、縦軸がラム36のラムストロークS示す。以下、ラム36の動きを第4図にしたがつて説明する。最初、ラム36は、第2図で示した機械的なメカニズムで決まる上死点の位置(原点0)にある。この位置は、ラム36の先端に治工具を取り付けたり、作業の準備作業をする位置である。この位置は、後述するセンサー70(第6図)で検知される。
プレス機構1が作動すると、この原点0の位置から作業の上死点である作業準備点aに移動する。この作業準備点aは、ラム36が作業している間これ以上に移動しない点、すなわちプレス作業上死点である。この作業準備点aから前記したスタートスイツチ52を押すと、ラム36はプレス作業動作を開始し、プレススタート丸1から高騒音位置丸3への動作を開始する。このプレススタート点丸1から高騒音位置丸3間への移動区間丸2は、スピードA設定スイツチ63で設定した速度で移動する。次に、高騒音位置丸3から下死点の休止位置丸5にラム36は移動する。
この間の加工作業動作丸4のスピードは、スピードB設定スイツチ65により設定され、この設定スピードBで移動する。通常、この設定スピードBは、設定スピードAより遅く設定される。ラム36が被加工物に打撃する速度は、1/3程度(可変できる。)と遅くなるので騒音が極めて小さくなる。ラム36の下死点で、休止位置丸5から休止位置丸6の間は、ラム36は停止している。この停止時間は、タイマA設定スイッチ66により設定される。次に、ラム36は、停止位置丸6から終了位置丸8まで上昇する。」

オ.第12欄第31行?第13欄第15行
「制御装置4
第5図は、第1図の制御装置4の詳細を示す機能ブロツク図である。CPU100は、サーボ制御装置4の全体を総括する16ビツトの中央処理装置である。このCPU100には、入出力装置101を介して操作・表示パネル3から前記したラム36の動きの指令を受ける。CPU100は、操作・表示パネル3からの速度と位置の指令をサーボ・パツク103に伝える。
サーボ・パツク103は、あらかじめラム36の動きのパターンを記憶させたものであり、プログラム、加エデータなどを記録する記憶装置、中央処理回路(CPU)サーボ・モータヘ電力を供給する増幅回路などからなる。サーボ・パツク103は、種々の名称で市販されているものでその構造、機能も公知のものであり、その詳細をここでは説明しない。CPU100からの指令でサーボ・パツク103は、サーボ・モータ20に出力する。サーボ・モータ20は、この出力を受け回転する。
サーボ・モータ20が回転を開始すると、サーボ・モータ20の出力軸に設けた検出器5がその回転を電気的なデジタル信号105として出力する。検出器5は、本例ではオプテイカルエンコーダである。しかし、これに限定されるものではなく、誘電式、磁気式など回転を検出するものであれば公知のいかなるものでも良い。電源ユニツト110は、サーボ・モータ20へ供給するための電力用のトランスなどからなる電源装置である。」

カ.第14欄第7?13行
「ラム加圧力・表示部7は、プレス機械1のフレームの上部などにラム36の加圧力を検出するために設けたものである。ひずみ検出部とひずみを電気信号に変換し、ひずみ量に応じた電圧を出力変換器および加圧力表示部で構成されている。この出力値を用いて、ラム36の加圧力の異常などの検出に用いる。」

キ.第16欄第10?15行
「このラム36の上昇は、サーボ・モータ20を逆転起動させて行う。
すなわち、サーボ・モータ20を逆転させることは、プレス機械1の機械上の全ストロークは使用していない。ただし、機構上の全ストロークを使用しても本発明を逸脱するものではない。」

ク.第18欄第31?36行
「産業上の利用可能性
以上のように本発明のプレス機械の運転方法と、プレス機械のサーボ制御装置とは打抜き、穴あけなどのせん断加工、曲げ加工、深絞り加工、圧縮加工などプレス機械を使用する塑性加工法に適用できる。」

ケ.第2図
ラム36を上下動させるクランク軸機構24、25のクランクシャフト一端に減速歯車機構21、23を介してサーボ・モータ20が接続されていることが看取できる。

これら(特にア、イ、エ、ク)を、技術常識を踏まえ整理すると、甲第2号証には、以下の事項(以下「甲2事項の1」という。)が記載されている。
「ラムの先端に設けた工具が後記の1サイクルを描いて被加工物の表面の一部あるいは全面に外力を加えて塑性変形を生じさせる、
打抜き、穴あけなどのせん断加工、曲げ加工、深絞り加工、圧縮加工に適用可能なプレス機械の運転方法であって、
a 前記被加工物に外力を加えるためにあらかじめ設定された設定速度で移動させて前記被加工物に接近する接近工程と、
b この接近工程の終了後、あらかじめ設定された速度であって、かつ前記工具の前記接近工程の移動速度より減速し前記被加工物に塑性変形を生じさせる加工工程と、
c この加工工程の終了後、あらかじめ設定された時間であって、かつ前記被加工物から分離され前記工具に付着した前記被加工物の一部を前記工具から分離するように下死点位置で前記工具を実質的に停止するための停止工程と、
d この停止工程の終了後、あらかじめ設定された速度であって、かつ前記工具を前記下死点位置から前記加工工程の速度より速い速度で離間する離間工程とからなるプレス機械の運転方法。」

上記キ.によれば、甲第2号証には、以下の事項(以下「甲2事項の2」という。)が記載されている。
「ラムのストロークが可変である、プレス機械。」

上記カ.によれば、甲第2号証には、以下の事項(以下「甲2事項の3」という。)が記載されている。
「ラムの加圧力をひずみ検出部で検出し、ひずみ量に応じた電圧を出力変換器を介して表示する加圧力表示部を有する、プレス機械。」

(3)甲第3号証
甲第3号証には、以下の記載がある。

ア.段落0001
「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、電動サーボモータでの駆動による直動型プレス、いわゆるサーボプレスにおいて、スライドの複数ポイントを複数のサーボモータで平衡度を維持して駆動するための複数ポイントサーボプレスの制御装置及び方法に関する。」

イ.段落0011
「【0011】請求項2に記載の発明によると、スライドの所定間隔毎の複数ポイントをそれぞれ直線駆動する複数のサーボモータを配設し、予め設定したモーションデータに基づくモーションカーブに沿ってこの各サーボモータの位置及び速度を同期制御している。このとき、上記モーションデータに基づいて、スライドが高速移動中又は打ち抜き加工中のときは簡易同期モードで、また低速加工中のときはマスタスレーブモードで前記複数のサーボモータの各位置及び速度を同期制御しているので、高速時及び低速時のスライドの安定性が良く、スライドの平衡度が精度良く維持される。したがって、スライドに複数金型を取着して順送加工することが可能となり、この結果複数ポイントサーボプレスによる高速の順送加工が精度良くできる。」

ウ.段落0025
「【0025】図2は上記モーションカーブの一例を示しており、後述するモーション設定手段31及び制御器20によってモーションカーブを規定する各データが予め設定され、記憶される。同図のモーションカーブにおいて、まず、スライド15は上限位置U(図示で点A)から加工開始位置Bまで所定の高速下降速度で下降し、次に、下限位置L(図示で点C)まで所定の低速下降速度で前記金型(上型と下型)に設置された被加工物を加圧しながら下降する。そして、下限位置Lで所定時間(図示で点Dまで)位置及び加圧力を保持した後、下限位置Lから所定の位置(図示で点E)まで所定の低速上昇速度で上昇し、さらに上限位置U(図示で点F)まで所定の高速上昇速度で上昇して停止し、所定時間(時間0も含む)だけ停止して一行程を終了する。実プレス作業時には、この行程が繰り返し行われる。」

エ.段落0041
「【0041】ところで、複数の金型の中に打ち抜き加工を行う抜き型がある場合には、振動的になることから、前述のように常時簡易同期モードによる同期制御を行う方がよい。・・・。」

オ.段落0044
「【0044】以上、説明したように、複数ポイントサーボプレスにおいて、所定のモーションカーブに沿ってスライド15が平衡度を維持しながら駆動されるように、各サーボモータが同期制御されるので、順送仕様でのプレス加工が可能となる。このとき、サーボモータにより駆動されるので、高速で、かつ、駆動騒音が小さいプレス加工ができる。よって、生産性を向上し、また作業環境を改善できる。また、スライドモーションに応じて、複数サーボモータの速度及び位置の同期制御を行い、例えば低速下降/上昇工程や絞り加工工程等ではマスタスレーブモードにより、あるいは高速下降/上昇工程や打ち抜き加工工程等では簡易同期モードにより同期制御を行っている。・・・。」

これらを、技術常識を踏まえ整理すると、甲第3号証には、以下の事項(以下「甲3事項」という。)が記載されている。
「打ち抜き加工にも適用可能なサーボプレスの制御装置及び方法であり、
スライド15は上限位置Uから加工開始位置Bまで所定の高速下降速度で下降し、次に、下限位置Lまで所定の低速下降速度で前記金型(上型と下型)に設置された被加工物を加圧しながら下降し、下限位置Lで所定時間位置及び加圧力を保持した後、下限位置Lから所定の位置まで所定の低速上昇速度で上昇し、さらに上限位置Uまで所定の高速上昇速度で上昇して停止し、所定時間(時間0も含む)だけ停止して一行程を終了することで、高速かつ精度の良い加工を可能としたもの。」

(4)甲第4号証
甲第4号証には、以下の記載がある。

ア.特許請求の範囲の請求項5
「請求項1に記載のプレス装置用アクチュエータの制御方法であって、
前記アクチュエータ本体のストロークエンドである設定下死点を、金型が型当たりする実際の下死点を越えた位置に設定し、
実際の下死点に至ってから、前記モータが前記設定下死点に応じた電流値になるまで回転しようとして発生する加圧トルクの保持時間を設定し、
さらに、実際の下死点の直前に、減速位置および加速位置を設定し、
アクチュエータ本体を、開始/終了位置である待機位置から前記減速位置まで高速で往動させた後、実際の下死点まで低速で往動させ、この下死点から、前記設定下死点までさらに往動するようにモータを駆動して一定の加圧トルクを発生させ、前記保持時間が経過したら、モータを逆回転させて前記加速位置まで低速で復動させ、この後、待機位置まで高速で復動させることを特徴とするプレス装置用アクチュエータの制御方法。」

イ.段落0007
「【0007】上記本発明のアクチュエータは、次の各構成を好ましい形態としている。まず、モータとしてサーボモータを適用する。サーボモータは、回転数や回転角度を的確に制御することができるので、アクチュエータの位置や速度を、容易かつ高精度に制御することができる。」

ウ.段落0019?0020
「【0019】次に、上記アクチュエータ10の好適な制御方法およびそれに基づく作用を説明する。この制御は、ワークを塑性加工させる場合である。サーボモータ13の回転数および回転速度を制御するサーボアンプ14に、1サイクル(下降-加圧-上昇)に要する次のパラメータを設定する。
丸1 アクチュエータ本体11のストロークエンドである下死点。この下死点を、上型5が下型6に型当たりする実際の下死点よりも僅かに下方に設定する。
丸2 アクチュエータ本体11が実際の下死点に至ってからサーボモータ13の電流値が増大して加圧トルクを与える保持時間。
丸3 アクチュエータ本体11の実際の下死点の直前位置である減速位置と加速位置。
丸4 アクチュエータ本体11の昇降速度
【0020】図3は、本制御によるアクチュエータ本体11および加圧ラム4の位置と時間との関係を示している。まず、シーケンサ15からの上位指令により開始信号がサーボアンプ14に入力されると、サーボモータ13が回転してアクチュエータ本体11が加圧ラム4を開始/終了位置である待機位置から高速で下降させる。減速位置まで下降すると低速に変速してさらに下降し、上型5が下型6に当たって加圧ラム4は停止する。サーボモータ13は、設定下死点まで加圧ラム4が下降するように回転しようとするが、型当たりして下降は不可能なので、電流値が増大して加圧トルクが発生する。これにより、上下の金型に挟まれたワークが加工される。」

これらを、技術常識を踏まえ整理すると、甲第4号証には、以下の事項(以下「甲4事項」という。)が記載されている。
「プレス装置用アクチュエータの制御方法であって、
ストロークエンドである設定下死点を、金型が型当たりする実際の下死点を越えた位置に設定し、
実際の下死点に至ってから、モータが前記設定下死点に応じた電流値になるまで回転しようとして発生する加圧トルクの保持時間を設定し、
さらに、実際の下死点の直前に、減速位置および加速位置を設定し、
アクチュエータ本体を、開始/終了位置である待機位置から前記減速位置まで高速で往動させた後、実際の下死点まで低速で往動させ、この下死点から、前記設定下死点までさらに往動するようにモータを駆動して一定の加圧トルクを発生させ、前記保持時間が経過したら、モータを逆回転させて前記加速位置まで低速で復動させ、この後、待機位置まで高速で復動させる
容易かつ高精度に制御可能な、プレス装置用アクチュエータの制御方法。」

3.本件発明1
(1)対比
甲1発明は「被裁断材を移動させる送り出し機構」を有し、「可動盤を上下動させて被裁断材をカットする裁断機」であることから、「送り出し手段により被裁断材を固定盤上に順次送り込」むものであることは、明らかである。
また、甲1発明の「裁断機」は、「裁断方法」とも、言えるものである。

本件発明1と甲1発明は、以下の点で一致する。なお、かかる一致点について、当事者間の争いはない(口頭審理調書「両当事者 1」)。
「被裁断材が載置される固定盤と、固定盤の上方に上下動可能に設けられ、下側に刃型が交換可能に取り付けられた可動盤と、可動盤を上下動させ被裁断材をカットする駆動制御装置と、固定盤上の被裁断材を移動させる送り出し機構とを備え、送り出し手段により被裁断材を固定盤上に順次送り込み、駆動制御装置により可動盤を上下動させて被裁断材をカットする裁断方法。」

そして、以下の点で相違する。
相違点1:本件発明1では、「可動盤が上下動する行程中の速度を可変に制御し、可動盤を、被裁断材の厚みに応じて刃型が裁断直前位置から裁断完了位置に達するまでの間のみ予め設定された低速度で降下させるようにするとともに、裁断時、被裁断材の材質に応じて、刃型を裁断完了位置で予め設定された時間保持し押し付けた状態のままにするよう可動盤を制御する」ものであるが、甲1発明では、明らかでない点。

(2)判断
発明とは、特許法第2条第1項に規定されるとおり「自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度なもの」である。
そこで、相違点1のうち、「裁断時、被裁断材の材質に応じて、刃型を裁断完了位置で予め設定された時間保持し押し付けた状態のままにする」ことの技術的思想、技術的意義について、検討する。
裁断等の加工処理においては、加工効率の向上は周知の課題の一つであるところ、「裁断完了位置」において、「押し付けた状態のままにする」ことで、そのための時間が必要となり、加工効率の向上に反することとなる。
よって、「押し付けた状態のままにする」ことには、何らかの技術的必要性があると解される。

本件特許明細書には、以下の記載がある。
「【0003】
しかしながら、上記従来の裁断装置では、予め決められた一定の速度で可動盤が上下動するので、被裁断材が高強度不織布、高強度織布、高粘着材、高強度延材等の異なる裁断力を要する材料の場合、それらの材質に応じて可動盤の上下動速度を変更することはできるものの、裁断時の裁断速度のみを変化させることはできないという問題があった。・・・。また、被裁断材の材質に応じて確実に裁断を果たすため、刃の裁断完了状態を指定した時間保持する必要がある場合、すなわち、刃型を被裁断材に押し付けた状態に保持する場合でも、ブレーキにより可動盤を下端(上下動ストロークの下死点)で停止させるよう構成しても、ブレーキの性能上停止位置が不安定になる虞があり、裁断位置を正確に維持することができにくいという問題がある。・・・。
【0004】
本発明は、上記課題を解決するためになされたもので、簡素な構成で可動盤の上下動の行程中の速度を可変にし、単一の装置で材質の異なる多種の被裁断材を確実にかつ効率的に裁断することができる裁断方法および裁断装置を提供することを目的とするものである。」

「【0006】
上記第1の発明に係る裁断方法では、・・・、裁断時、被裁断材の材質に応じて、刃型を裁断完了位置で予め設定された時間保持し押し付けた状態のままにするよう可動盤を制御するようにしたので、刃型が上方位置から裁断直前の位置に達するまでの間、可動盤を裁断の間の低速度よりも高速で降下させ、その後、刃型が裁断を開始して完了するまでの間、可動盤を予め設定された低速度で降下させ、その後、刃型が裁断完了位置から上方位置に達するまでの間、可動盤を再び裁断の間の低速度よりも高速で上昇させることができる。このため、被裁断材の材質に応じて裁断の間の刃型の速度を遅くするよう設定することができ、たとえ材質の異なる被裁断材であっても確実にカットすることができる。・・・。」

「【0019】
本発明の第1の発明に係る裁断方法では、・・・、可動盤が上下動する行程中の速度を可変に制御し、可動盤を、被裁断材の厚みに応じて刃型が裁断直前位置から裁断完了位置に達するまでの間のみ予め設定された低速度で降下させるようにするとともに、裁断時、被裁断材の材質に応じて、刃型を裁断完了位置で予め設定された時間保持し押し付けた状態のままにするよう可動盤を制御するようにしたことにより、材質の異なる多種の被裁断材であっても速度を落として確実にカットすることができる。・・・。
【0020】
本発明の第2の発明に係る裁断装置では、・・・、可動盤が上下動する行程中の速度を可変に制御し、可動盤を、被裁断材の厚みに応じて刃型が裁断直前位置から裁断完了位置に達するまでの間のみ予め設定された低速度で降下させるとともに、裁断時、被裁断材の材質に応じて、刃型を裁断完了位置で予め設定された時間保持し押し付けた状態のままにする駆動制御装置を備えたことにより、材質の異なる多種の被裁断材を確実にかつ効率的に裁断することができる。」

「【0022】
・・・。被裁断材は、樹脂フィルム、セロハン、パッキン、フェルト、スポンジ、ゴム、ウレタンフォーム、アルミホイール、銅ホイール、布、紙だけでなく、高強度不織布、高強度織布、高粘着材、高強度延材等、ロール素材、シート素材が用いられ軟質硬質を問わず裁断力の異なる種々の素材が用いられる。」

「【0027】
・・・。なお、本実施例でいう刃型5の裁断開始位置とは、降下している刃型5が被裁断材の上面に達する位置または被裁断材に接する位置をいい、刃型5の裁断完了位置は、刃型5が被裁断材をカットし終わり刃型5が最下端位置または最下端に近いところにある位置をいう。
【0028】
・・・。このため、より遅い速度で裁断を行うことが求められる被裁断材であっても、確実にカットすることができる。
【0029】
さらに、駆動制御装置20は、裁断時、刃型5が裁断完了位置で予め設定された時間T1保持されるよう可動盤4を制御するようになっている(図3のパターンCおよび図6の(C)参照)。このため、被裁断材の材質に応じて、例えば、軟質であったり伸びやすい材質の被裁断材であっても、刃型5を裁断完了位置で設定された時間T1の間押し付けた状態のままにしておくことで、カットしやすくなる。・・・。
【0030】
・・・。このため、被裁断材の材質に応じて、すなわち、裁断のしにくさ等に応じて、裁断時の刃型5の速度を予め遅くするよう設定することができ、たとえ材質の異なる被裁断材であっても単一の装置で確実にカットすることができる。・・・。」

すなわち、「軟質であったり伸びやすい材質の被裁断材であっても、刃型5を裁断完了位置で設定された時間T1の間押し付けた状態のままにしておくことで、カットしやすくなる」(段落0029)、「裁断時、被裁断材の材質に応じて、刃型を裁断完了位置で予め設定された時間保持し押し付けた状態のままにする駆動制御装置を備えたことにより、材質の異なる多種の被裁断材を確実にかつ効率的に裁断することができる」(段落0020)との記載があることから、「押し付けた状態のまま」にしておくことで、「軟質であったり伸びやすい材質の被裁断材であっても」、「確実に」「裁断」されるということが、特許明細書に記載されている。
逆に言うと、「軟質であったり伸びやすい材質の被裁断材」の場合、「押し付けた状態のまま」にしておかないと裁断されない、すなわち、刃型が裁断完了位置に達した瞬間には、刃型に接した被裁断材が、軟らかく変形したり伸びたりすることにより、裁断されないことがありうることになる。
このことは、一般に、「軟質であったり伸びやすい材質」のものは、変形を付与した場合、元に戻ろうとする復元力が生じるという技術常識とも整合し、刃型を押し付けた状態において、当該復元力により、変形した被裁断材が復元して裁断に至ると理解できる。

以上から、本件発明1では、「軟質であったり伸びやすい材質」のものは刃型が裁断完了位置に達した瞬間には、裁断されないことがありうるが、設定時間経過後には、「確実に」裁断されるものであり、これが「裁断時、被裁断材の材質に応じて、刃型を裁断完了位置で予め設定された時間保持し押し付けた状態のままにする」ことの技術的意義と認められる。

甲2の1、甲3、甲4事項(以下「甲2?4事項」という。)は、上記のとおりであり、いずれも「低速度で降下し、最下点で所定時間停止する駆動装置」を有することについて、当事者間に争いはない(口頭審理調書の「両当事者 1」)。
また、甲2?4事項は、いずれも「プレス装置」であり、「プレス装置」においては、甲2の1事項、甲3事項にみられるごとく、金型を交換することで、「打抜き、穴あけなどのせん断加工、曲げ加工、深絞り加工、圧縮加工」に適用可能である。
本件発明1の「裁断」は「閉空間を形成する刃、例えばトムソン刃を含む」(口頭審理調書「両当事者 2」)から、「打抜き、穴あけなどのせん断加工」に対応する。
すなわち、甲2?4事項の「低速度で降下し、最下点で所定時間停止する駆動装置」を有する「プレス装置」は、その「動作」のみに着目すれば、本件発明1の「動作」と共通する部分がある。
しかし、甲2?4事項は「被裁断材の材質に応じて」停止時間を設定するものではなく、甲第2?4号証にその旨の記載もない。
これに対し、本件発明1は、「裁断時、被裁断材の材質に応じて、刃型を裁断完了位置で予め設定された時間保持し押し付けた状態のままにする」ことにより「軟質であったり伸びやすい材質」のものであっても「確実に」裁断されるという技術的意義を有する。
したがって、甲2?4事項により、相違点1に係る事項を容易とすることはできない。

さらに、相違点1の「刃型を裁断完了位置で予め設定された時間保持し押し付けた状態のままにする」ことに対応する、甲2?4事項における「最下点で所定時間停止する」ことの技術的意義について検討する。
甲2の1事項においては、「被加工物から分離され工具に付着した前記被加工物の一部を前記工具から分離する」ために所定時間停止させるものである。
甲3事項においては、「加圧力を保持」し「高速かつ精度の良い加工を可能」とするものである。
甲4事項においては、「加圧トルクを発生させ」、「容易かつ高精度に制御可能」とするものである。
一般に、「曲げ加工、深絞り加工、圧縮加工」においては、変形したものが元の形状に戻ろうとする「スプリングバック」と呼ばれる現象が知られているから、甲3?4事項は、「スプリングバック」防止のために「最下点で所定時間停止」させるものと解される。
そして、甲第2ないし4号証には、「せん断」を行う場合の具体的動作、その技術的意義についての記載はない。

甲1発明は、「裁断」するものであるから、加工効率を考慮すれば、刃型が裁断完了位置に達し、裁断が完了した後は、すみやかに刃型を戻すことが望ましい。
したがって、甲1発明において、「最下点で所定時間停止」とするためには、加工効率を犠牲にするだけの価値のある、積極的動機が必要となる。
しかしながら、上記のとおり、甲第2ないし4号証には、「裁断」において「最下点で所定時間停止」することの技術的意義は、何ら示されていない。
確かに、「曲げ加工、深絞り加工、圧縮加工」と「打抜き、せん断、裁断」とは、金型を交換することにより同一装置で行うことができ、技術的関連性はある。
しかし、積極的動機なしに、技術的関連性のみをもって、甲1発明に、加工効率の低下を招く事項を適用することはありえない。
したがって、甲2?4事項により、相違点1に係る事項を容易とすることはできない。

なお、甲第2ないし4号証記載のものにおいて、「曲げ加工、深絞り加工、圧縮加工」用金型を「裁断」用金型に交換し、これに伴う「動作」の設定変更を失念したような場合においては、本件発明1と同様な「動作」を行うこともありうる。
しかし、その際の「動作」は、「軟質であったり伸びやすい材質」のものであっても「確実に」裁断されるという技術的意義を意図してなされるものではないから、甲1発明に適用する動機はない。

請求人は、「刃型5の裁断完了位置は、刃型5が被裁断材をカットし終わり刃型5が最下端位置または最下端に近いところにある位置をいう」(特許明細書の段落0027)のであるから、被請求人の主張は根拠がない旨、主張する(第3.3.(2)の「第1(1)」、口頭審理調書「請求人 5」)が、被裁断材の材質(段落0022)によっては、刃型が裁断完了位置に達した瞬間に、裁断が完了していることも、当然ありうるから、被請求人の主張が矛盾しているとまでは言えない。
請求人は、「反発力」を利用する点は、特許明細書に記載がないから、被請求人の主張は根拠がない旨、主張する(第3.3.(1)の「(請求項1)」)が、上記のとおり、「軟質であったり伸びやすい材質」の被裁断材をカットしやすくすることは、特許明細書に記載されているし、そのような材質において「反発力」が生じうることは、技術常識である。
請求人は、甲第2ないし4号証記載のプレスの「サーボモータの動作をそのように設定すれば」当然に同様の効果を得られる旨、主張する(第3.3.(3)の「第2(6)」)。確かに「そのように設定」すれば、同様の効果は得られるが、そもそも「裁断」において「そのように設定」する積極的動機は見いだせない。
よって、請求人の主張は根拠がない。

以上、提出された証拠により、本件発明1が容易に発明をすることができたとすることはできない。

4.本件発明2
(1)対比
本件発明2と甲1発明とを対比すると、上記3.(1)と同様の対応関係がある。
よって、本件発明2と甲1発明は、上記3.(1)と同様の一致点、相違点1を有し、さらに以下の相違点を有する。

相違点2:本件発明2では、「可動盤の上下のストローク幅を可変にした」ものであるが、甲1発明では、明らかでない点。

(2)判断
相違点2について検討する。
甲2の2事項は、「ラムのストロークを可変」とするものである。
そして、工具の上下ストロークを可変とすることは、いかなる加工においても望ましいから、甲1発明に甲2事項の「ラムのストロークを可変」とする点を適用することは必要に応じてなしうる設計的事項にすぎない。
なお、相違点2に格別な意義がないことは、被請求人も認めるとおりである(口頭審理調書「被請求人 6」)。
しかし、上記3.(2)のとおり、相違点1を容易とすることはできないから、本件発明2が容易に発明をすることができたとすることはできない。

5.本件発明3
本件発明3は、本件発明1と、実質的にカテゴリーが異なるのみである。
したがって、本件発明1と同様、本件発明3が容易に発明をすることができたとすることはできない。

6.本件発明4
(1)対比
本件発明4と甲1発明とを対比すると、上記3.(1)と同様の対応関係がある。
よって、本件発明4と甲1発明は、実質的に上記3.(1)と同様の一致点、相違点1を有し、さらに以下の相違点を有する。

相違点3:本件発明4では、「裁断時、駆動制御装置にかかる負荷を検出して演算し、演算結果を裁断力として表示する裁断力表示機構を設けた」ものであるが、甲1発明では、明らかでない点。

(2)判断
甲2の3事項は、「ラムの加圧力をひずみ検出部で検出し、ひずみ量に応じた電圧を出力変換器および加圧力表示部を有する」ものである。
そして、工具の加圧力表示は、いかなる加工においても望ましいから、甲1発明に甲2の3事項の「ラムの加圧力をひずみ検出部で検出し、ひずみ量に応じた電圧を出力変換器および加圧力表示部を有する」点を適用し、「裁断力表示機構」を設けることは必要に応じてなしうる設計的事項にすぎない。
なお、相違点3に格別な意義がないことは、被請求人も認めるとおりである(口頭審理調書「被請求人 6」)。
しかし、上記3.(2)のとおり、相違点1を容易とすることはできないから、本件発明4が容易に発明をすることができたとすることはできない。

7.本件発明5
(1)対比
本件発明5と甲1発明とを対比すると、上記3.(1)と同様の対応関係がある。
よって、本件発明5と甲1発明は、実質的に上記3.(1)と同様の一致点、相違点1を有し、さらに以下の相違点を有する。

相違点4:本件発明5では、「駆動制御装置は、可動盤を上下動させるクランク軸機構と、このクランク軸機構のクランクシャフト一端に減速機を介して接続されたサーボモータと、このサーボモータに電気的に接続されたサーボアンプと、このサーボアンプと位置決めユニットおよびアナログ入力ユニットを介して電気的に接続され、予め入力された作業プログラムが収納された制御部と、制御部と電気的に接続された表示装置と、クランクシャフトの他端に接続されたエンコーダと、このエンコーダと電気的に接続されるとともに、アナログ入力ユニットと制御部とに電気的に接続された高速カウンタとを備えている」ものであるが、甲1発明では、明らかでない点。

(2)判断
相違点4について検討する。
駆動制御機構として、サーボモータ、減速機、クランク機構を利用し、表示装置、エンコーダ、高速カウンタを設けることは、甲第2号証のウ、オ、カにみられるごとく、必要に応じてなしうる設計的事項にすぎない。
なお、相違点4に格別な意義がないことは、被請求人も認めるとおりである(口頭審理調書「被請求人 6」)。
しかし、上記3.(2)のとおり、相違点1を容易とすることはできないから、本件発明2が容易に発明をすることができたとすることはできない。

第7.むすび
以上、本件発明1ないし5に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたとは認められず、特許法第123条第1項第2号の規定に該当しないので、無効とすることはできない。
また、他に本件発明1ないし5に係る特許を無効とすべき理由を発見しない。
審判費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2012-03-27 
出願番号 特願2005-116210(P2005-116210)
審決分類 P 1 113・ 121- Y (B26D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 栗田 雅弘  
特許庁審判長 千葉 成就
特許庁審判官 刈間 宏信
長屋 陽二郎
登録日 2010-06-25 
登録番号 特許第4534847号(P4534847)
発明の名称 裁断方法および裁断装置  
代理人 相川 守  
代理人 大塚 忠  

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