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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G05B
審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G05B
管理番号 1256864
審判番号 不服2010-1805  
総通号数 151 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-07-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-01-27 
確定日 2012-05-09 
事件の表示 特願2003-284875「プロセス制御システムおいてソフトウェアオブジェクトを承認するための統合型電子署名」拒絶査定不服審判事件〔平成16年 4月30日出願公開、特開2004-133900〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯
本件出願は、平成15年8月1日(優先権主張、平成14年8月2日アメリカ合衆国)の出願であって、平成21年8月10日に手続補正がなされたが、同年9月17日付けで拒絶をすべき旨の査定がされた。
そこで、平成22年1月27日に本件審判の請求とともに手続補正がなされ、当審において、同年9月27日付けで審尋がなされ、平成23年3月28日に回答書が提出され、同年5月9日付けで拒絶の理由が通知され、同年11月10日に手続補正とともに意見書が提出されたものである。

第2.拒絶理由
平成23年5月9日付けで通知された拒絶の理由(以下「当審拒絶理由」という。)は、以下のとおりである。

1)本件出願は、明細書及び図面の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第4項及び第6項に規定する要件を満たしていない。
2)本件出願の請求項1ないし45に係る発明は、その出願前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。


(36条)
1.各請求項(すべての請求項)の特定事項と、発明の詳細な説明、実施例、図面との対応関係が不明確である。意見書において、各特定事項の対応する段落番号、図面番号、図面符号を明らかにしていただきたい。例えば、請求項1において、「識別情報を電子的に生成する」、「各エンティティ」、「電子指示を受信する」、「第1のソフトウェアルーチン」、「第2のソフトウェアルーチン」は、どれに対応するのか。
2.本発明による技術的意義、有利な効果が不明確である。
3.(略)

(29条)
1.特開2002-116801号公報
2.特開平5-35460号公報

刊行物1には、プログラムを変更するにあたり、オペレータの承認を必要とするものが記載されている。
刊行物2(特に段落0014?0015、0035、0039)には、一群のエンティティによる承認、すべての承認後のダウンロード、状況情報の更新という点が記載されている。
両者は、プログラムの変更に関するものであり、組合せに困難性は認められない。
その他の点については、周知技術又は設計的事項にすぎない。

本発明は、明細書全体を勘案しても、既知の技術の寄せ集め、又は設計的事項にすぎないと解され、特許性の主張は困難と思われる。特許化を断念し、本通知に応答しないことを含め、十分に検討願いたい。
意見書を提出する場合は、刊行物発明との一致点、相違点を明確にしていただきたい。
補正の際は、新規事項の追加とならないよう留意願いたい。
代理人弁理士が希望するなら、積極的に面接又は口頭審理に応じる(「面接ガイドライン【審判編】、特許法第145条第2項)。
以上、特許法第159条第2項で準用する同法第50条の規定により、通知する。

第3.意見書
請求人が、平成23年11月10日に提出した意見書(以下「意見書」という。)は、以下のとおりである。
また、請求人から、面接又は口頭審理の希望はなかった。

(1)(略)
(2)(略)
(3)拒絶理由通知書においては、例えば、請求項1における「識別情報を電子的に生成する」は不明確である旨が指摘されています。この記載は、発明の詳細な説明の段落〔0033〕に対応しており、ユーザは、図1のワークステーション14に表示されているユーザインターフェイス420によりシステムを操作し、ソフトウエアオブジェクトを実行するに先だって、どの承認が必要かを特定します。追加424、修正426、削除428のインターフェイスボタンを使用して、ユーザは承認が必要なエンティティを選択します。エンティティが追加されるときにそのエンティティの識別が保存されます。ユーザインターフェイス420のテキストボックス430は、追加ボタン424を使用して追加されたエンティティの識別を表示します。このように、承認エンティティに対する識別情報は、ワークステーション14においてアプリケーションを実行することにより生成されます。
また、拒絶理由通知書においては、例えば、請求項1における「各エンティティ」は不明確である旨が指摘されています。これについては、段落〔0030〕の最終分に記載されているように、必要な承認を与える人または署名者のことです。
請求項1における「電子指示」は不明確である旨が指摘されています。これについては、段落〔0043〕に、エンティティがプロセス制御システム内のソフトウエアオブジェクトを実行するに先だって、どのように承認を電子的に指示するかについて記載されています。図12及び13を参照すれば、この技術内容が図示されています。更に、レシピ認可ルーチンは図1のワークステーション14のグラフィカルユーザインターフェイス504を表示します。エンティティは、例えば、マウスを使用してユーザインターフェイス504の承認ボタン522をクリックすることによりその承認を電子的に指示します。
「第1のソフトウェアルーチン」については、「承認ルーチン」に補正致しました。これについては、図14に関連して段落〔0045〕に説明されています。
「第2のソフトウェアルーチン」については、「ダウンロードルーチン」に補正致しました。これについては、段落〔0050〕に説明されています。
(4)(略)
(5)また、拒絶理由通知書に述べられている本発明の技術的意義、有利な効果について説明致します。一般的に、承認されていない又は認可されていないソフトウエアオブジェクトをプロセス制御デバイスにダウンロードし実行することは、プロセスプラントの機能にマイナスのダメージを与えます。しかしながら、ソフトウエアオブジェクトをダウンロードする前に、種々のエンティティの承認を手動で求めることは時間を要することであり、誤りを生じやすい。請求項1の方法は、承認するエンティティの電子的選択を可能とします。これらの承認エンティティは、例えば、プロセス制御ネットワーク10に接続された図1のターミナル32および/またはワークステーション14のうちの一つを使用してソフトウエアオブジェクトのダウンロードを電子的に承認し又は拒絶することができます。更に、ソフトウエアオブジェクトの承認された状態は、電子的に監視し検証することができます。また更に、システムが全ての承認を受領したことを検出したときに、ソフトウエアオブジェクトのダウンロードを許可します。このように、請求項1の方法は、認可されていないソフトウエアオブジェクトのダウンロード及び実行を妨げることができます。更に、このような承認プロセスを自動化することにより、プロセス制御デバイスは、手動の承認プロセスに付随する遅延を生ずることなく、ソフトウエアオブジェクトによってアップデートすることができます。
(6)拒絶理由通知書には、本願の各請求項に記載の発明は、引用文献1及び2に基づいて進歩性がないとして拒絶されています。この拒絶理由に鑑み、請求項11、20、25、28、34及び42を補正致しました。
引用文献1は、ソフトウエアオブジェクト(プログラム)についてのオペレータの承認を得る方法を開示しています。引用文献1は、プロセス制御モジュールがアクティブなプロセスを制御している間に、オペレータがプロセス制御パラメータ又は変数を変更するのを防止する技術を開示しています。プロセス制御変数はソフトウエアオブジェクトやプログラムとは異なります。引用文献1では、プロセス原料の望ましい量、セットポイント、流速、タイミングのようなパラメータのプリセット値であると説明されています(段落〔0036〕)。更に、引用文献1では、ソフトウエアオブジェクトは変数部分とアルゴリズム部分を明確に区別しています(段落〔0004〕)。引用文献1は、プロセス制御変数をプロセス制御デバイスにダウンロードすることを記載しているに過ぎません。これに対して、請求項1に記載のワークステーションオブジェクトは、プロセス制御デバイスで実行される機械命令を含んでいます。ソフトウエアオブジェクトはプロセッサで実行することができますが、パラメータや変数は実行することはできません。従いまして、ソフトウエアオブジェクトが「実行」されるとの補正を行った請求項1に記載の発明は、エンティティの承認を得ることについて開示も示唆もしない引用文献1によって、新規性又は進歩性がないとすることはできないものと思料致します。
(7)また、ソフトウエアオブジェクトは変数とは異なるため、また、引用文献1はせいぜい変数をダウンロードすることしか開示していないため、引用文献1は、請求項1に記載されている、前記プラント装置を制御するために前記ソフトウエアオブジェクトが前記プロセス制御デバイスによって実行され得るように、「前記プロセス制御システムが前記電子指示に基づいて、選択的に、前記ソフトウェアオブジェクトを前記プロセス制御デバイスにダウンロードすることを可能にするためにダウンロードルーチンを使用すること」については、開示も示唆もしていないと言えます。従いまして、引用文献1によって本願発明は、進歩性がないとして拒絶することはできないものと思料致します。
(8)引用文献2も、選択的に、前記ソフトウェアオブジェクトを前記プロセス制御デバイスにダウンロードすることを可能にするためにダウンロードルーチンを使用することについては、開示も示唆もしていないと思料致します。引用文献2は、ソフトウエアの変更を制御・管理するツールを開示しています。具体的には、引用文献2は、ソフトウエアプログラムに変更が加えられたが故に、ソフトウエア成果物におけるソフトウエアプログラムの間で生じる不整合を避けるための方法を開示しています。この目的を達成するために、引用文献2は、ソフトウエアプログラムの一つに変更が加えられる前に、そしてそのような変更が成果物に組み込まれる前に、成果物の管理部の承認を得ることを提示しています。引用文献2は、ソフトウエアプログラムの階層構造の各レベルについての承認権限に関してソフトウエア成果物におけるソフトウエアプログラムの階層構造を表示するためのグラフィカルユーザインターフェイス(表示部)を開示しています。引用文献2は、ソフトウエアプログラムの一つへの変更が成果物に組み込まれる前に、グラフィカルユーザインターフェイスを介して承認権限を得ることを開示しています。従いまして、引用文献2は、ソフトウエア成果物への変更を管理するためのシステムを単に開示しているだけであり、デバイスへのソフトウエア成果物をダウンロードする態様を制御することを予期させるものではありません。
上記及び本願明細書に記載されていますように、プロセス制御システムのデバイスに承認されていないソフトウエアオブジェクトをダウンロードすることを防止することは非常に重要です。引用文献2は、請求項1に記載されている、「選択的に、前記ソフトウェアオブジェクトを前記プロセス制御デバイスにダウンロードすることを可能にするためにダウンロードルーチンを使用すること」については、開示も示唆もしていません。引用文献2は、プラントの装置を制御するために、ソフトウエアオブジェクトがプロセス制御デバイスによって実行され得ることでさえ開示していません。このような理由から、引用文献2は、選択的に、前記ソフトウェアオブジェクトを前記プロセス制御デバイスにダウンロードすることを可能にするためにダウンロードルーチンを使用することについては、開示も示唆もしていといえます。
他の独立請求項11,20,25,28,34及び42についても、上記の反論が妥当します。
(9)(略)

第4.第36条についての当審の判断
当審拒絶理由において、第36条の1.として指摘した、各請求項(すべての請求項)の特定事項と、発明の詳細な説明、実施例、図面との対応関係が不明確であるという点について検討する。
拒絶理由において例示した請求項1の一部の特定事項については、意見書の(3)における説明とともに補正がなされたものの、請求項1における他の特定事項、他の請求項における特定事項については、補正も、意見書における釈明もない。
例えば、請求項1における「プロセス制御デバイス」とは、図1の「制御装置12」、「ワークステーション14」、「ターミナル32」のいずれに相当するのか、また、請求項9、10で特定する事項は、発明の詳細な説明、実施例のどれに対応するのか、依然として不明である。
また、請求項1の「第1のソフトウェアルーチン」、「第2のソフトウェアルーチン」が、「承認ルーチン」、「ダウンロードルーチン」と補正されたが、請求項7、8の「第2のソフトウェアルーチン」は補正されておらず、対応関係が不明確である。
よって、各請求項記載事項と、実施例との対応関係が、依然として不明確であり、本願は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。

第5.第29条についての当審の判断
1.本願発明
本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、平成23年11月10日に補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。

「プロセス制御システム内のプロセス制御デバイス内のソフトウエアオブジェクトの格納および使用において利用されるソフトウェアオブジェクト承認方法であって、前記ソフトウエアオブジェクトはプラント装置の制御を実行するためにプロセス制御デバイスによって実行され、該方法は、
前記プロセス制御システム内に前記ソフトウェアオブジェクトを実装する前に、承認を必要とする一群のエンティティを表す識別情報を電子的に生成することと、
前記識別情報内に表される各エンティティから前記ソフトウェアオブジェクトの承認に関する電子指示を受信することと、
前記識別情報内に表される各エンティティが前記ソフトウェアオブジェクトを承認するまで、前記ソフトウエアオブジェクトが前記プロセス制御システムのプロセス制御デバイス内にダウンロードされ構成されるのを防止することにより、前記プロセス制御システムが前記ソフトウェアオブジェクトを実装するのを防ぐべく承認ルーチンを使用し、前記受信された各承認を反映すべく状況情報を更新することと、
前記プラント装置を制御するために前記ソフトウエアオブジェクトが前記プロセス制御デバイスによって実行され得るように、前記プロセス制御システムが前記電子指示に基づいて、選択的に、前記ソフトウェアオブジェクトを前記プロセス制御デバイスにダウンロードすることを可能にすべくダウンロードルーチンを使用することと
を有する方法。」

2.刊行物記載の発明
(1)刊行物1
これに対し、本願優先日前に頒布された刊行物であって、当審拒絶理由に引用された特開2002-116801号公報(以下「刊行物1」という。)には、次のように記載されている。

ア.段落0001
「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、概略的にはプロセス制御ネットワークに関し、より詳細には、プロセスが実行されている間に、オペレータがバッチプロセスのようなプロセスで使用するためのモジュールオブジェクト又は装置を変更することを防止することに関連している。」

イ.段落0007?0010
「【0007】
【発明が解決しようとする課題】・・・。
【0008】従って、オペレータは、特定のモジュールオブジェクトが現在使用されていないか、又はそのモジュールオブジェクトのプログラミングの変更前に使用されるように予定されていないことを注意深く確認しなければならない。例えば、オペレータは、設定値、流速、タイミングのようなパラメータ又は特定のモジュールオブジェクトの他のパラメータを変更することを希望することができる。しかしながら、オペレータがどのように注意深くても、モジュールオブジェクトの不注意な再プログラミングが起こり得、バッチプロセス又はフェーズの実行を混乱させ、それによって、生成物(即ち、クッキー生地)のロス又は汚染を引き起こす可能性がある。
【0009】・・・。
【0010】
【課題を解決するための手段】プロセス制御システムは、ユニットモジュールオブジェクト及びモジュールオブジェクトに含まれるモジュールレベルパラメータを含んでいる。このようなパラメータは、不注意なモジュールオブジェクトの再プログラミングを避けて、モジュールオブジェクトへのアクセスを制御するために使用され得る。モジュールオブジェクトへのアクセスは、モジュール毎を基準として個々に制御され得、又はユニットモジュールオブジェクトによって所有され又はフェーズによって使用されるモジュールオブジェクトによって階層的に制御され得る。特に、モジュールオブジェクトへのアクセスは、ロックされ、ロック解除され又は制限される。モジュールオブジェクトがロックされているとき、そのモジュールオブジェクトのパラメータ又はプログラミングは変更されない(即ち、情報はそのモジュールオブジェクトに書き込まれない)。逆に、モジュールオブジェクトがロック解除されると、そのモジュールオブジェクトのパラメータ又はプログラミングは変更され得る(即ち、情報はそのモジュールオブジェクトに書き込まれ得る)。制限されたアクセスは、ロック及びロック解除の状態の両方の組合せであり、その場合には、モジュールオブジェクトは、適切なアクセスコードを有するオペレータに対してロック解除されるが、適切なアクセスコードを有していないオペレータに対してはロックされている。モジュールオブジェクトレベルパラメータは、オペレータが、バッチプロセス又はフェーズで使用され又は使用されるであろうモジュールオブジェクトを変更するのを防止し、それによって、バッチプロセス又はフェーズが不注意に混乱するのを妨げる。」

ウ.段落0020
「【0020】
【発明の実施の形態】図1を参照すれば、プロセス制御ネットワーク10は、多数のワークステーション14に例えばイーサネット(登録商標)接続15を介して接続されたプロセスコントローラ12を含んでいる。また、コントローラ12は、プロセス(概略的に参照番号16で表されている)内のデバイス又は装置と、入力/出力(I/O)デバイス(図示せず)及び通信ラインのセット若しくはバス18を介して接続されている。単なる例示のFisher-Rosemont Systems株式会社によって販売されているDeltaV(商標)コントローラであるコントローラ12は、一又はそれ以上のプロセス制御ルーチンを実行しそれによってプロセス16の所望の制御を実行するために、例えばプロセス16全体に分散しているフィールドデバイス及びフィールドデバイス内の機能ブロックのような制御エレメントと通信可能である。プロセス制御ルーチンは、連続又はバッチプロセス制御ルーチン又は手順である。ワークステーション14(これは、例えばパーソナルコンピュータであり得る)は、一又はそれ以上の技術者又はオペレータによって、コントローラ12によって実行されるべきプロセス制御ルーチンを設計するために、このようなプロセス制御ルーチンをダウンロードするためにコントローラ12と通信するために、プロセス16の操作の間にプロセス16に関する情報を受領し表示するために、そして、コントローラ12によって実行されているプロセス制御ルーチンと別の相互作用を行うために、使用され得る。ワークステーション14のそれぞれは、例えば構成設計アプリケーションのようなアプリケーションを格納し、例えばプロセス16の構成に関連する構成データのようなデータを格納するためのメモリ20を含んでいる。また、ワークステーション14のそれぞれは、ユーザがプロセス制御ルーチンを設計し、コントローラ12にこれらのプロセス制御ルーチンをダウンロードするのを可能とするアプリケーションを実行するプロセッサ21を含んでいる。・・・。」

エ.段落0035?0036
「【0035】図3を参照すれば、ユーザインターフェイス300の描写は、フェーズのステップを表す種々のボックスを含むフェーズダイヤグラム図式描写305をフローチャートの形式で含んでいる。このようなユーザインターフェイス300は、ビデオディスプレイ上に表示され得るユーザインターフェイスと同様であり得る。ステップは、フェーズダイヤグラムの種々のボックスによって色々に表現されているステップは、種々のユニットモジュールオブジェクト及び/又はモジュールオブジェクトを使用して実行され得る。
【0036】また、ユーザインターフェイス300は、ユニットモジュールオブジェクト及び/又はモジュールオブジェクトがユーザインターフェイス300上に表示されているフローダイヤグラム305によって表現されるフェーズによって使用されるときに、ユーザがユニットモジュールオブジェクト及び/又はモジュールオブジェクトのロック特性を可能又は不可能とすることを許容するパラメータを表わすオペレータロックアウトチェックボックス310を含んでいる。ここで使用されているように、「ロック」という用語は、ユニットモジュールオブジェクト又はモジュールオブジェクトに情報が書き込まれ得ないことを意味し、「ロック解除」という用語は、ユニットモジュールオブジェクト又はモジュールオブジェクトに情報が書き込まれ得ることを意味している。モジュールオブジェクトに書き込まれるべき情報は、これには限定されないが、セットポイント、流速、タイミング又は他のパラメータを含み得る。本開示の目的のために、そのフェーズがそのフェーズの実行の間その特定のユニットモジュールオブジェクト及び/又はモジュールオブジェクトを使用するときに、特定のユニットモジュールオブジェクト及び/又はモジュールオブジェクトは、特定のフェーズによって所有されるとして言及される。特に、フェーズオペレーションの混乱を避けるために、ユニットモジュールオブジェクト及び/又はそれらに関連するモジュールオブジェクトは、チェックボックス310の使用を通じて優位に制御され得る。例えば、フェーズのオペレータ設計又は改変がチェックボックス310の使用を介してロックアウト特性を可能とするとき、特定のフェーズによって所有されているユニットモジュールオブジェクト及び/又はモジュールオブジェクトは、そのフェーズがアクティブなときにロックされ得る。フェーズがアクティブと考えられる間、フェーズは種々のオペレーションのモードを有し得る。例えば、そのフェーズが実行され、保持され、停止され、中断され又は再スタートされるときには、フェーズはアクティブであると考えられる。フェーズがアイドル、完了、停止又は中断状態であるときは、そのユニットモジュールオブジェクトによって所有されているモジュールオブジェクトはロックされていない。その代わりに、フェーズが稼働していないときでさえ、ユニットモジュールオブジェクト及び/又はモジュールオブジェクトはロックされている。」

オ.段落0039
「【0039】ユニットモジュールオブジェクト320及び/又はモジュールオブジェクト335,340,345に含まれ得るOPERMODEフィールド330は、図4のロック360、ロック解除365、制限370又は自動375の値を含むプルダウンメニューを含み得る。もし、OPERMODEフィールド330がロックの値を有するなら、そのユニットモジュールオブジェクトによって所有されるユニットモジュールオブジェクト及び/又はモジュールオブジェクトへの全ての書き込みの試みは、妨げられるであろう。従って、オペレータは、ロック状態の値を特定しているOPERMODEフィールド330を有するユニットモジュールオブジェクト又はモジュールオブジェクトに変更を加えようとすると、妨げられる。逆に、もし、OPERMODEフィールド330がロック解除状態の値を有しているなら、ユニットモジュールオブジェクト又はモジュールオブジェクトへの書き込みが行われる(おそらく、標準の機密性チェック下にある)。もし、ユニットモジュールオブジェクト又はモジュールオブジェクトが制限状態の値を有するOPERMODEフィールド330を有しているなら、そのユニットモジュール又はモジュールは、もし変更を加えようとするオペレータが適切な承認コードを有しているときのみ変更され得る。例えば、オペレータは、制限されているオブジェクト又はモジュールに変更を加えようとするのを許可される前に、正しいコード、個人識別番号(PIN)又はパスワードをワークステーション14に入力する必要がある。また、ユニットモジュールオブジェクト又はモジュールオブジェクトのOPERMODEフィールド330は、自動状態の値を有し得る。ロック、ロック解除及び制限の値を有するOPERMODEフィールド330のオペレーションは、ユニットモジュールオブジェクトとモジュールオブジェクトとの間で実質的に同じ(例えば、変更は許可され、妨げられ、又は制限されたアクセスに基づく)であるが、自動状態の値を有するOPERMODEフィールド330は、OPERMODEフィールド330がユニットモジュールオブジェクト320又はモジュールオブジェクト335,340,345に位置するかどうかに依存して、僅かに異なる機能を果たし得る。」

カ.段落0044
「【0044】さて、図5に移れば、ユニットモジュールオブジェクトOPERLOCK決定機能400は、種々のブロックによって表される種々のステップ又は手順を含んでいる。図5に示されているステップ又は手順は、適当な言語で書かれたソフトウエア命令を使用して実行され得、ソフトウエア命令はコントローラ12又はワークステーション14に含まれるようなプロセッサ上で実行され得る。ユニットモジュールオブジェクトは、そのユニットモジュールオブジェクトのOPERLOCK属性が、図6及び図7に関連して記述されるであろう機密性チェックプロセスソフトウエアを含むソフトウエアの他の部分によって読み取られるように、そのOPERLOCK属性の値を周期的に決定する。」

ここで、上記エを踏まえ、図3、図4によれば、モジュールオブジェクトのパラメータ又は変数を変更する前に、承認を必要とする一群のオペレータを表す識別情報が電子的に生成されることが理解される。
上記オによれば、ワークステーション14は、各オペレータから前記モジュールオブジェクトのパラメータ又は変数の変更承認に関する電子指示を受信することが理解される。
上記カを踏まえ、図5、図6によれば、ワークステーション14は、各オペレータがモジュールオブジェクトのパラメータ又は変数の変更を承認するまで、モジュールオブジェクトのパラメータ又は変数の変更がプロセス制御システムのワークステーション14にダウンロードされ構成されるのを防止することにより、プロセス制御システムが前記モジュールオブジェクトのパラメータ又は変数の変更を防ぐべく承認ルーチンを使用し、受信された各承認を反映すべく状況情報を更新することが理解される。

上記を、図面を参照しつつ、技術常識を踏まえ、本願発明に照らして整理すると、上記刊行物1には、次の発明(以下「刊行物1発明」という。)が記載されているものと認められる。

「プロセス制御システム内のワークステーション14内のモジュールオブジェクトの格納および使用において利用されるモジュールオブジェクトのパラメータ又は変数の変更承認方法であって、前記モジュールオブジェクトはプラント装置の制御を実行するためにワークステーション14によって実行され、該方法は、
前記プロセス制御システム内に前記モジュールオブジェクトのパラメータ又は変数を変更する前に、承認を必要とする一群のオペレータを表す識別情報を電子的に生成することと、
前記識別情報内に表される各オペレータから前記モジュールオブジェクトのパラメータ又は変数の変更承認に関する電子指示を受信することと、
前記識別情報内に表される各オペレータが前記モジュールオブジェクトのパラメータ又は変数の変更を承認するまで、前記モジュールオブジェクトのパラメータ又は変数の変更が前記プロセス制御システムのワークステーション14にダウンロードされ構成されるのを防止することにより、前記プロセス制御システムが前記モジュールオブジェクトのパラメータ又は変数の変更を防ぐべく承認ルーチン(図5,図6)を使用し、前記受信された各承認を反映すべく状況情報を更新することと、
前記プラント装置を制御するために前記モジュールオブジェクトが前記プロセス制御デバイスによって使用され得るように、前記プロセス制御システムが前記電子指示に基づいて、選択的に、前記モジュールオブジェクトのパラメータ又は変数の変更を前記プロセス制御デバイスにダウンロードすることを可能にすべくダウンロードルーチンを使用することと
を有する方法。」

(2)刊行物2
同じく特開平5-35460号公報(以下「刊行物2」という。)には、次のように記載されている。

ア.段落0001
「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、例えばLANに接続されたワークステーション等の端末機を利用してソフトウェアを複数の作業担当者で開発するプロジェクトにおいて作成されたソフトウェア成果物の管理を行うソフトフェア管理装置に係わり、特に、一旦登録されたソフトウェア成果物に対して変更が行われた場合に、関連する他の成果物の作業担当者も確実にその変更の確認ができるようにしたソフトウェア管理装置に関する。」

イ.段落0014?0015
「【0014】
【作用】このように構成されたソフトウェア管理装置において、一人の作業担当者が、例えばネットワークに接続された一つのワークステーションにおいて、自己が担当するシステムやサブシステム等の構成要素に対応するプログラム等の成果物を一旦登録した後、その成果物に対する変更を行う必要が生じた場合には、該当成果物に対する変更を実施し、変更通知処理部を起動する。すると、変更された成果物に関連する他の成果物の成果物管理情報に変更確認要求情報が組込まれる。
【0015】その結果、この関連する他の成果物を担当する作業担当者が、例えばネットワークに接続された他のワークステーションにおいて、表示器にその成果物に対する構成表示画面を表示させると、変更確認要求情報が表示される。そして、この作業担当者が変更確認済み情報を入力すると、先のワークステーションにおける構成表示画面に変更確認済み情報が表示される。したがって、関連する全ての成果物における変更確認済み情報を確認すると、該当変更済み成果物が再登録される。」

上記を、図面を参照しつつ、技術常識を踏まえ、整理すると、上記刊行物2には、次の事項(以下「刊行物2事項」という。)が記載されているものと認められる。

「登録されたソフトウェア成果物に対して変更が行われた場合に、関連する他の成果物の作業担当者も確実にその変更の確認ができるようにしたソフトウェア管理装置。」

3.対比
刊行物1発明の「ワークステーション14」は本願発明の「プロセス制御デバイス」に相当し、同様に「モジュールオブジェクト」は「ソフトウエアオブジェクト」に、「オペレータ」は「エンティティ」に、相当する。
本願発明の「ソフトウェアオブジェクトの承認」、「ソフトウェアオブジェクトを実装」、「プロセス制御デバイスによって実行」と、刊行物1発明の「モジュールオブジェクトのパラメータ又は変数の変更承認」、「モジュールオブジェクトのパラメータ又は変数の変更」、「プロセス制御デバイスによって使用」とは、それぞれ「ソフトウェアオブジェクトに関する承認」、「ソフトウェアオブジェクトに関するものを実装」、「プロセス制御デバイスによって利用」である限りにおいて、一致する。
なお、本願発明との対比に際しては、意見書(上記第3.参照)の主張をも勘案した。

そうすると、本願発明と刊行物1発明とは、以下の点で一致する。

「プロセス制御システム内のプロセス制御デバイス内のソフトウエアオブジェクトの格納および使用において利用されるソフトウェアオブジェクトに関する承認方法であって、前記ソフトウエアオブジェクトはプラント装置の制御を実行するためにプロセス制御デバイスによって実行され、該方法は、
前記プロセス制御システム内に前記ソフトウェアオブジェクトに関するものを実装する前に、承認を必要とする一群のエンティティを表す識別情報を電子的に生成することと、
前記識別情報内に表される各エンティティから前記ソフトウェアオブジェクトに関するものの承認に関する電子指示を受信することと、
前記識別情報内に表される各エンティティが前記ソフトウェアオブジェクトに関するものを承認するまで、前記ソフトウエアオブジェクトに関するものが前記プロセス制御システムのプロセス制御デバイス内にダウンロードされ構成されるのを防止することにより、前記プロセス制御システムが前記ソフトウェアオブジェクトに関するものを実装するのを防ぐべく承認ルーチンを使用し、前記受信された各承認を反映すべく状況情報を更新することと、
前記プラント装置を制御するために前記ソフトウエアオブジェクトに関するものが前記プロセス制御デバイスによって利用され得るように、前記プロセス制御システムが前記電子指示に基づいて、選択的に、前記ソフトウェアオブジェクトを前記プロセス制御デバイスにダウンロードすることを可能にすべくダウンロードルーチンを使用することと
を有する方法。」

そして、以下の点で相違する。
承認、実装される対象について、本願発明は、「ソフトウェアオブジェクト」であり、「プロセス制御デバイスによって実行」されるが、刊行物1発明は、「モジュールオブジェクトのパラメータ又は変数」であり、「プロセス制御デバイスによって利用」される点。

なお、当審拒絶理由(上記第2.参照)の末尾で、「刊行物1、刊行物2との一致点、相違点を明確にしていただきたい」旨、請求人に要請したところ、意見書(上記第3.参照)において、相違点については主張がなされたので、これを勘案した。

4.判断
相違点について、検討する。
刊行物1においても、上記2.(1)イ.段落0010に「モジュールオブジェクトのパラメータ又はプログラミングは変更」とあるとおり、「プログラミング」、すなわち「ソフトウェアオブジェクト」を変更することが示唆されている。
さらにまた、刊行物2事項は、上記のとおり、「ソフトウェア」を単位としてその変更に関するものである。
種々の制御を行うにあたっては、「パラメータ又は変数」の変更のみでは十分でないことは、当然ありうるから、刊行物1発明において、多様な制御に対応するため、「ソフトウェアオブジェクト」をも変更することは、必要に応じてなしうる設計的事項にすぎない。
そして、「ソフトウェアオブジェクト」を変更する際は、新たな「ソフトウェアオブジェクト」がダウンロードされ、「プロセス制御デバイスによって実行」されることとなる。
よって、相違点に係る事項とすることに困難性は認められない。

5.まとめ
本願発明は、刊行物1発明、刊行物2事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

第6.むすび
本願は、上記第4.のとおり、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。
また、本願発明は、上記第5.のとおり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-11-29 
結審通知日 2011-12-06 
審決日 2011-12-19 
出願番号 特願2003-284875(P2003-284875)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (G05B)
P 1 8・ 536- WZ (G05B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 柿崎 拓  
特許庁審判長 千葉 成就
特許庁審判官 藤井 眞吾
菅澤 洋二
発明の名称 プロセス制御システムおいてソフトウェアオブジェクトを承認するための統合型電子署名  
代理人 特許業務法人 有古特許事務所  

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