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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性  A01N
審判 全部無効 1項3号刊行物記載  A01N
管理番号 1257951
審判番号 無効2008-800291  
総通号数 151 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-07-27 
種別 無効の審決 
審判請求日 2008-12-25 
確定日 2012-06-08 
事件の表示 上記当事者間の特許第3992433号「相乗作用を有する生物致死性組成物」の特許無効審判事件についてされた平成22年3月29日付け審決に対し、知的財産高等裁判所において請求項1?7,18に係る発明に対する部分の審決取消の判決(平成22年(行ケ)第10245号、平成23年10月24日判決言渡)があったので、審決が取り消された請求項1?7,18に係る発明についてさらに審理のうえ、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判の総費用は、請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
本件特許第3992433号に係る発明についての出願(以下、[本件出願」という。)は、1998年8月20日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 1997年8月20日、ヨーロッパ特許庁(EP))を国際出願日とする出願であって、平成19年8月3日に特許権の設定登録がされたものである(請求項の数18。以下、その特許を「本件特許」という。)。
そして、平成20年12月25日に、請求人により本件特許請求の範囲の請求項1?18に係る特許を無効とすることについての審判請求がされ、それに対し、以下の手続を経て、平成22年3月29日に「特許第3992433号の請求項1?7、18に係る発明についての特許を無効とする。特許第3992433号の請求項8?17に係る発明についての審判請求は、成り立たない。」とする審決がされた。

平成20年12月25日付け 請求人:無効審判請求書・甲第1号証? 甲第7号証提出
平成21年 4月23日付け 被請求人:審判事件答弁書・乙第1号証? 乙第14号証提出
平成21年 7月 7日付け 請求人:弁駁書・甲第8号証?甲第10号 証提出
平成21年 7月31日付け 補正許否の決定
平成21年10月30日付け 請求人:口頭審理陳述要領書・甲第11号 証?甲第12号証提出
平成21年10月30日付け 被請求人:口頭審理陳述要領書・乙第15 号証?乙第18号証提出
平成21年10月30日 口頭審理(特許庁審判廷)
平成22年 3月29日 審決

そして、請求項1?7、18に係る発明に対する審決に対し、この審決の部分の取り消しを求め、知的財産高等裁判所に出訴され、平成22年(行ケ)第10245号として審理された結果、平成23年10月24日に「特許庁が無効2008-800291号事件について平成22年3月29日にした審決のうち、『特許第3992433号の請求項1?7、18に係る発明についての特許を無効とする。』との部分を取り消す。」との判決がなされたものである。
なお、請求項8?17に係る発明に対する審決は、特許法第178条第3項に定める期間に審決取消の訴えがなされなかったことにより平成22年8月6日に確定した(当該請求項8?17に対する審決は、後述の(参考)を参照のこと。)。

第2 本件発明
本件特許の請求項1?7、18に係る発明は、以下のとおりのものである(以下、これらの発明を「本件発明1」?「本件発明7」、「本件発明18」といい、まとめて「本件発明」という。)

「【請求項1】
少なくとも2つの活性な殺菌剤を含み、活性な殺菌剤のひとつが2-メチルイソチアゾリン-3-オンである、病原性微生物によって感染されるものに付与される生物致死性組成物において、より活性な殺菌剤として1,2-べンゾイソチアゾリン-3-オンを含み、5-クロロ-2-メチルイソチアゾリン-3-オンを含まないことを特徴とする生物致死性組成物。
【請求項2】
2-メチルイソチアゾリジン-3-オンと1,2-べンゾイソチアゾリン-3-オンとを、50?1:1?50の重量比で含むことを特徴とする請求項1記載の生物致死性組成物。
【請求項3】
2-メチルイソチアゾリン-3-オンと1,2-べンゾイソチアゾリン-3-オンとを、15?1:1?8の重量比で含むことを特徴とする請求項2記載の生物致死性組成物。
【請求項4】
2-メチルイソチアゾリン-3-オンと1,2-ベンゾイソチアゾリン-3-オンとを、生物致死性組成物の合計量に対して1?20重量%含むことを特徴とする請求項1、2または3記載の生物致死性組成物。
【請求項5】
極性および/または非極性の液状媒体を含むことを特徴とする請求項1、2、3または4記載の生物致死性組成物。
【請求項6】
極性の液状媒体として、水、炭素数1?4の脂肪族アルコール、グリコール、グリコールエーテル、グリコールエステル、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールおよびN,N-ジメチルホルムアミドからなる群から選ばれた1種または2種以上の混合物を含むことを特徴とする請求項5記載の生物致死性組成物。
【請求項7】
極性の液状媒体が水であり、組成物のpHが7?9であることを特徴とする請求項6記載の生物致死性組成物。

【請求項18】
病原性微生物を制御するための、請求項1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16または17記載の生物致死性組成物の用途。」

第3 請求・答弁の趣旨、当事者の主張の概要及び当事者が提出した証拠方法
1 本件審判の請求の趣旨並びに請求人が主張する無効理由の概要及び請求人が提出した証拠方法
(1)審判請求書に記載した無効理由の概要及び証拠方法
請求人は請求の趣旨の欄を「『特許第3992433号の請求項1乃至18に係る発明についての特許を無効とする。審判費用は被請求人の負担とする。』との審決を求める。」として、概略以下の無効理由a?cを主張し、証拠方法として甲第1号証?甲第7号証を提出した。

無効理由a
本件発明1?7及び18は、その出願日(優先日前)の前に頒布された刊行物(甲第1号証)に記載された発明であるか又は甲第1号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第1項第3号に該当するか特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本件特許1?7及び18は、特許法第29条に違反してされたものであるから、同法第123条第1項第2号に該当する。
無効理由b
本件発明1?18は、その出願日(優先日前)の前に頒布された刊行物(甲第2号証)に記載された発明であるか又は甲第2?6号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第1項第3号に該当するか特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本件特許1?18は、特許法第29条に違反してされたものであるから、同法第123条第1項第2号に該当する。
無効理由c
本件発明1?18は、その出願日(優先日前)の前に頒布された刊行物(甲第2?6号証)に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本件特許1?18は、特許法第29条に違反してされたものであるから、同法第123条第1項第2号に該当する。

請求人の提出した証拠方法は、以下のとおりである。
甲第1号証:特開平6-138615号公報
甲第2号証:特開平6-92806号公報
甲第3号証:MICROBICIDES FOR THE PROTECTION OF MATERIALS, A HANDBOOK, First edition, Chapman & Hall, 1993, 14、37?39、42、43、70?72、322?329頁
甲第4号証:特開平1-224306号公報
甲第5号証:特開平8-81311号公報
甲第6号証:特開昭59-142543号公報
甲第7号証:特開平7-291951号公報

(2)弁駁書において提出した証拠
請求人の提出した証拠方法は、以下のとおりである。
甲第8号証:欧州特許公開第900525号
甲第9号証:乙第12号証の抄訳
甲第10号証:特表2004-507475公報(抄)

(3)口頭審理陳述要領書で提出した証拠
請求人の提出した証拠方法は、以下のとおりである。
甲第11号証:MICROBICIDES FOR THE PROTECTION OF MATERIALS, A HANDBOOK, First edition, Chapman & Hall, 1993,266?267頁
甲第12号証:特開平6-16506号公報

(4)まとめ
以上のとおりであるから、請求人の主張する無効理由のうち、本件発明1?7及び18についての無効理由の概要は以下のとおりである。

無効理由1
本件発明1?7及び18は、その出願日(優先日前)の前に頒布された刊行物(甲第1号証)に記載された発明であるか又は甲第1号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第1項第3号に該当するか特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本件特許1?7及び18は、特許法第29条に違反してされたものであるから、同法第123条第1項第2号に該当する。
無効理由2
本件発明1?7及び18は、その出願日(優先日前)の前に頒布された刊行物(甲第2号証)に記載された発明であるか又は甲第2?6号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第1項第3号に該当するか特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本件特許1?7及び18は、特許法第29条に違反してされたものであるから、同法第123条第1項第2号に該当する。
無効理由3
本件発明1?7及び18は、その出願日(優先日前)の前に頒布された刊行物(甲第2?6号証)に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本件特許1?7及び18は、特許法第29条に違反してされたものであるから、同法第123条第1項第2号に該当する。

2 答弁の趣旨、及び被請求人の主張の概要
被請求人は、「本件無効審判の請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする、との審決を求める。」として、請求人が主張する本件発明1?7及び18についての上記無効理由は、いずれも理由がない旨の主張をしている。

そして、被請求人の提出した証拠方法は、答弁書及び口頭審理陳述要領書に添付した以下のものである。
乙第1号証:MICROBICIDES FOR THE PROTECTION OF MATERIALS: A HANDBOOK,First edition, Chapman & Hall, 1993、及びその部分和訳
乙第2号証:MICROBICIDES FOR THE PROTECTION OF MATERIALS: A HANDBOOK,First edition, Chapman & Hall, 2005、及びその部分和訳
乙第3号証:Morpeth Preservation of Surfactant Formulations(1995)、及びその部分和訳
乙第4号証:Kathon R(審決注:○中R。以下同様。)パンフレット、及びその部分和訳
乙第5号証:特開平04-305573号公報
乙第6号証:Kordek R
乙第7号証:特開平02-152909号公報
乙第8号証:仏国特許発明第1,555,416号明細書
乙第9号証:米国特許第3,523,121号明細書
乙第10号証:仏国特許発明第1,555,415号明細書
乙第11号証:米国特許第3,849,430号明細書
乙第12号証:W.D.Crow et N. J. Leonard, J. Org. Chem., 30, 2660-2665(1965)、及びその部分和訳
乙第13号証:実験成績証明書(1)
乙第14号証:実験成績証明書(2)
乙第15号証:デクラレーション(Dr. Ru(審決注:ウムラウトのu。以下同様。)diger Baum)、及び和訳
乙第16号証:デクラレーション(Dr. Marc Goldbach)、及び和訳
(乙第13号証:実験成績証明書(1)の補足)
乙第17号証:デクラレーション(Dr. Thomas Wunder)、及び和訳
(乙第13号証:実験成績証明書(2)の補足)
乙第18号証:ACTICIDE R(審決注:○中R、上付文字。以下同様。) MBS パンフレット及び和訳

第4 本件特許1?7及び18についての当審の判断
当審は、上記無効理由1?3によっては、本件特許1?7及び18について
を無効にすることはできないと判断する。
その理由は、以下のとおりである。

1 無効理由1について
(1)請求人の主張の概要
請求人は、本件発明1?7及び18は、その出願前(優先日前)に頒布された刊行物(甲第1号証)に記載された発明であるか同発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから特許法第29条第1項第3号に該当するか、又は、同条第2項の規定により特許を受けることができない、と主張する。

(2)無効理由1についての検討
ア 刊行物の記載事項
(ア)甲第1号証(特開平6-138615号公報)には、以下の記載がされている。
1a「支持体上に、少なくとも1層の予めかぶらされていない内部潜像型ハロゲン化銀粒子を含有するハロゲン化銀乳剤と色素形成カプラーを含む感光層が設けられている直接ポジカラー写真感光材料を、発色現像液で処理する方法において、該感光材料の支持体上の少なくとも一層に下記一般式(I)、(2)又は(3)で表わされる化合物の少なくとも一種を含有し、該発色現像液が下記一般式(4)、(5)又は(6)で表わされる化合物の少なくとも一種と、0.05モル/リットル以上の亜硫酸化合物を含有することを特徴とする直接ポジカラー感光材料の処理方法。
一般式(1)
【化1】

(一般式(1)中、R^(1) はアルキル基、アリール基、スルフォン酸基(その塩も含む)、カルボン酸基(その塩も含む)又はアミノ基を表わす。R^(2) 及びR^(3)はそれぞれ水素原子、ハロゲン原子、アミノ基、ニトロ基、アルコキシカルボニル基、スルフォン酸基(その塩を含む)又はカルボン酸基(その塩を含む)を表わす。Mは水素原子又はアルカリ金属を表わす。)
一般式(2)
【化2】

(一般式(2)中、R^(4 )は水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アリール基又は-CONHR^(12)(ここでR^(12)は水素原子又はアルキル基を表わす。)を表わし、R^(5) 及びR^(6) はそれぞれ水素原子、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、アルキル基、アミノ基又はニトロ基を表わす。)
一般式(3)
【化3】

(一般式(3)中、R^(7) は水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アリール基又は-CONHR^(13)(ここでR^(13)は水素原子又はアルキル基を表わす。)を表わし、R^(8) 、R^(9) 、R^(10)及びR^(11)はそれぞれ水素原子、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、アルキル基、アミノ基又はニトロ基を表わす。)
一般式(4)
【化4】

一般式(5)
【化5】

(一般式(4)、(5)中、R^(14)、R^(15)、R^(16)及びR^(17)は、各々水素原子、ヒドロキシ基、ハロゲン原子、シアノ基、カルボキシ基、アルキル基、アリール基、アミノ基、アルコキシ基、アルキルチオ基、カルバモイル基又はヘテロ環残基を表す。R^(14)とR^(15)又はR^(15)とR^(16)は互いに結合して5?6員環を形成してもよい。ただし、R^(14)とR^(16)の少なくとも1つはヒドロキシ基を表す。)

一般式(6)
【化6】

(一般式(6)中、R^(18)は、ベンゼン環上に置換可能な基を表し、R^(19)は水素原子又は窒素原子上に置換可能な基を表し、mは0?4の整数を表す。)」(【請求項1】)
1b「一方、ハロゲン化銀写真材料に用いられるこれらの親水性コロイドは、細菌、カビ、酵母などの作用を受けて腐敗または分解することも知られている。・・・写真材料に用いられる親水性コロイドの細菌、カビ、酵母などによるこのような腐敗、分解作用を防止するために、いわゆる防腐剤や防ばい剤を、写真材料の製造工程のいずれかの段階で、前述のごとき親水性コロイドを含む液に添加することが行なわれてきた。・・・一方、特開昭54-27424号、同59-142543号及び同59-228247号において本発明の防菌剤、防ばい剤をハロゲン化銀カラー写真感光材料のバインダーとして用いられる親水性コロイドに使用することが開示されている。」(段落【0005】?【0006】)
1c「本発明の目的は、直接ポジカラー感光材料のバインダーとして用いられる親水性コロイドを十分に防菌、防ばいしつつ、かつ補充量が少なかったり、閑散処理であったりする状態の時においても、最大濃度の低下及び最小濃度の上昇が少ない、安定してカラー画像を得るハロゲン化銀直接ポジカラー感光材料の処理方法を提供することにある。」(段落【0007】)
1d「上記一般式(1)で示される化合物は、一部市販されているものもあり、容易に入手することができる。上記例示化合物のうち好ましい化合物としては、(1-1)、(1-2)、(1-3)、(1-4)及び(1-5)である。前記一般式(2)及び(3)で示される化合物の具体例を以下に示すがこれらに限定されない。
(2-1)2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オン(審決注:「2-メチルイソチアゾリン-3-オン」のことである。以下同様。)
(2-2)5-クロロ-2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オン(審決注:「5-クロロ-2-メチルイソチアゾリン-3-オン」のことである。以下同様。)
・・・
(3-1)1,2-ベンズイソチアゾリン-3-オン(審決注:「1,2-ベンゾイソチアゾリン-3-オン」のことである。以下同様。)」(段落【0029】?【0031】)
1e「上記本発明に用いられる一般式(1)、(2)及び(3)の化合物は、本発明のハロゲン化銀カラー写真感光材料のバインダーとして用いられる親水性コロイド1kg当り0.05g?50g使用することが好ましく、特に好ましくは0.1g?10gである。」(段落【0032】)
1f「本発明の一般式(1)?(3)の化合物は水又は例えばアルコール類(メタノール、エタノール、イソプロパノール等)、ケトン類(アセトン等)、グリコール類(エチレングリコール、プロピレングリコール等)、エステル類(酢酸エチル等)等の有機溶媒のうち写真性能に悪影響をおよぼさない溶媒に溶解し、溶液として親水性コロイド中に添加しても良く、保護層の上に塗布しても良く、あるいは写真感光材料を本発明の化合物溶液中に浸して含有させても良い。」(段落【0033】)
1g「実施例1 ・・・なお、ゼラチンの防腐剤として、ゼラチンを水で溶解する際にフェノールを表1に示した量を添加した。この試料を試料番号101とした。」(段落【0101】?【0110】)
1h「以上のように作成した試料101のフェノールを表1のごとく本発明の化合物に変化させて添加した以外は、試料101に準じて作成した試料102?107を作成した。上記、試料101?107上に Aspergillus nigerの胞子分散液を噴霧し、温度33℃、湿度95%RHの条件下で10日間放置し、カビの成育状況を観察した。」(段落【0124】)
1i 表1に「ゼラチンへの添加量(ゼラチン1kgあたり)」として試料No.103では、化合物「2-1」を0.5g、試料No.105では、化合物「3-1」を0.5g、また、試料No.107には、化合物「2-1」及び化合物「3-1」をそれぞれ0.5gずつ添加した例が記載されている。また、表2には、前記各試料を用いてランニングを実施したデータが記載されており、試料No.103を用いたNo.3、10、17、24、試料No.105を用いたNo.5、12、19、26及び試料No.107を用いたNo.7、14、21、28についての試験結果が示されており、「カビの発生」について「無」と記載されている。((段落【0131】?【0132】)

イ 甲第1号証に記載された発明
甲第1号証には、「支持体上に、少なくとも1層の予めかぶらされていない内部潜像型ハロゲン化銀粒子を含有するハロゲン化銀乳剤と色素形成カプラーを含む感光層が設けられている直接ポジカラー写真感光材料を、発色現像液で処理する方法において、該感光材料の支持体上の少なくとも一層に下記一般式(I)、(2)又は(3)で表わされる化合物の少なくとも一種を含有・・・することを特徴とする直接ポジカラー感光材料の処理方法。
一般式(1)
【化1】

(一般式(1)中、R^(1) はアルキル基、アリール基、スルフォン酸基(その塩も含む)、カルボン酸基(その塩も含む)又はアミノ基を表わす。R^(2 )及びR^(3)はそれぞれ水素原子、ハロゲン原子、アミノ基、ニトロ基、アルコキシカルボニル基、スルフォン酸基(その塩を含む)又はカルボン酸基(その塩を含む)を表わす。Mは水素原子又はアルカリ金属を表わす。)
一般式(2)
【化2】

(一般式(2)中、R^(4 )は水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アリール基又は-CONHR^(12)(ここでR^(12)は水素原子又はアルキル基を表わす。)を表わし、R^(5) 及びR^(6) はそれぞれ水素原子、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、アルキル基、アミノ基又はニトロ基を表わす。)
一般式(3)
【化3】

(一般式(3)中、R^(7) は水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アリール基又は-CONHR^(13)(ここでR^(13)は水素原子又はアルキル基を表わす。)を表わし、R^(8) 、R^(9) 、R^(10)及びR^(11)はそれぞれ水素原子、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、アルキル基、アミノ基又はニトロ基を表わす。)・・・」(摘記(1a))が記載されている。
また同号証には、表1に試料No.107として、化合物(2-1)である2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オン及び化合物(3-1)である2-ベンゾイソチアゾリン-3-オンをゼラチン1kgあたり、それぞれ0.5gずつ添加した試料(摘記(1i))が記載されており、表2には、試料No.107を用いた、No.7、14、21、28について、「カビの発生」の欄に「無」と記載されている(摘記(1i))。
カビの発生がないということは、カビという生物が死に至ったといえるから、上記2成分を含む試料は、生物致死性組成物であるといえる。
次に同号証には、表1に試料No.103として、化合物(2-1)である2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オンをゼラチン1kgあたり0.5g添加した試料、及び、試料No.105として、化合物(3-1)である2-ベンゾイソチアゾリン-3-オンをゼラチンをゼラチン1kgあたり0.5g添加した試料(摘記(1i))が記載されており、表2には、試料No.103を用いた、No.3、10、17、24及び試料No.105を用いた、No.5、12、19、26について、「カビの発生」の欄に「無」と記載されている(摘記(1i))。
そして、同号証には、「本発明の目的は、直接ポジカラー感光材料のバインダーとして用いられる親水性コロイドを十分に防菌、防ばいしつつ、かつ補充量が少なかったり、閑散処理であったりする状態の時においても、最大濃度の低下及び最小濃度の上昇が少ない、安定してカラー画像を得るハロゲン化銀直接ポジカラー感光材料の処理方法を提供することにある。」(摘記(1c))と記載されており、防菌、防ばいとは、細菌及びカビの増殖を阻止することであって、細菌及びカビを殺すことにより、防菌、防ばいが達成されるといえるから、2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オン及び2-ベンゾイソチアゾリン-3-オンは、それぞれ殺菌・殺カビ剤であるといえる。
そうしてみると甲第1号証には、
「少なくとも2つの活性な殺菌・殺カビ剤を含み、活性な殺菌・殺カビ剤のひとつが2-メチルイソチアゾリン-3-オンである、生物致死性組成物において、1,2-べンゾイソチアゾリン-3-オンを含み、ゼラチン1kgあたり2-メチルイソチアゾリン-3-オン及び1,2-べンゾイソチアゾリン-3-オンを0.5gずつ含有することを特徴とする生物致死性組成物。」の発明(以下、「甲1発明1」という。)が記載されているといえる。
また、甲1発明1は、直接ポジカラー感光材料という用途を対象とするものであるから、同号証には、
「少なくとも2つの活性な殺菌・殺カビ剤を含み、活性な殺菌・殺カビ剤のひとつが2-メチルイソチアゾリン-3-オンである、生物致死性組成物において、1,2-べンゾイソチアゾリン-3-オンを含み、ゼラチン1kgあたり2-メチルイソチアゾリン-3-オン及び1,2-べンゾイソチアゾリン-3-オンを0.5gずつ含有することを特徴とする生物致死性組成物の用途。」の発明(以下、「甲1発明2」という。)が記載されているといえる。
さらに、同号証には、「本発明の一般式(1)?(3)の化合物は水又は例えばアルコール類(メタノール、エタノール、イソプロパノール等)、ケトン類(アセトン等)、グリコール類(エチレングリコール、プロピレングリコール等)、エステル類(酢酸エチル等)等の有機溶媒のうち写真性能に悪影響をおよぼさない溶媒に溶解し、溶液として親水性コロイド中に添加しても良く、保護層の上に塗布しても良く、あるいは写真感光材料を本発明の化合物溶液中に浸して含有させても良い。」(摘記(1f))との記載があり、表1の試料No.107についても、水又はアルコール類(メタノール、エタノール、イソプロパノール等)、ケトン類(アセトン等)、グリコール類(エチレングリコール、プロピレングリコール等)、エステル類(酢酸エチル等)等の有機溶媒のうち写真性能に悪影響をおよぼさない溶媒に溶解した溶液を使用するとしたとしても、この溶液は、生物致死性組成物であるといえるから、そうしてみると、同号証には、
「少なくとも2つの活性な活性な殺菌・殺カビ剤を含み、活性な殺菌・殺カビ剤のひとつが2-メチルイソチアゾリン-3-オンである、生物致死性組成物において、1,2-べンゾイソチアゾリン-3-オンを含み、水又は例えばアルコール類(メタノール、エタノール、イソプロパノール等)、ケトン類(アセトン等)、グリコール類(エチレングリコール、プロピレングリコール等)、エステル類(酢酸エチル等)等の有機溶媒のうち写真性能に悪影響をおよぼさない溶媒に溶解したことを特徴とする生物致死性組成物。」の発明(以下、「甲1発明3」という。)が記載されているといえる。

ウ 本件発明1について
ウ-1 本件発明1と甲1発明1との対比
本件特許明細書には、「本発明の生物致死性組成物は、非常に多くの異なる分野で使用することができる。本組成物は、たとえばバクテリア、糸状菌、…による攻撃に抗じて、…使用するのに適している。」(段落【0029】)との記載がある。
バクテリアは細菌であり、糸状菌はカビであるから、本件発明において、殺菌剤とされる2-メチルイソチアゾリン-3-オン及び1,2-べンゾイソチアゾリン-3-オンは、殺菌・殺カビ作用を有するものと認められる。
そうすると、甲1発明1ないし甲1発明3における「殺菌・殺カビ剤」は、本件発明における「殺菌剤」に相当するから、本件発明に倣って本件発明1と甲1発明1とを対比すると、両者は、
「少なくとも2つの活性な殺菌剤を含み、活性な殺菌剤のひとつが2-メチルイソチアゾリン-3-オンである、生物致死性組成物において、1,2-べンゾイソチアゾリン-3-オンを含むことを特徴とする生物致死性組成物。」で一致し、次の点で相違する。

(ア)生物致死性組成物について、前者では「病原性微生物によって感染されるものに付与される」と特定されているのに対し、後者では、そのような特定がなされていない点
(イ)前者では「より活性な殺菌剤として1,2-べンゾイソチアゾリン-3-オンを含」むと特定されているのに対し、後者ではそのような特定がなされていない点
(ウ)前者では「5-クロロ-2-メチルイソチアゾリン-3-オンを含まない」と特定されているのに対し、後者ではそのような特定がなされていない点

ウ-2 相違点についての判断
(a)相違点(ア)について
甲第1号証には、「本発明の目的は、直接ポジカラー感光材料のバインダーとして用いられる親水性コロイドを十分に防菌、防ばいしつつ、かつ補充量が少なかったり、閑散処理であったりする状態の時においても、最大濃度の低下及び最小濃度の上昇が少ない、安定してカラー画像を得るハロゲン化銀直接ポジカラー感光材料の処理方法を提供することにある。」(摘記(1c))とあって、また、実施例の表2には、2-メチルイソチアゾリン-3-オンと1,2-べンゾイソチアゾリン-3-オンとを含む試料を用いた場合にカビの発生がなかったことが記載されている(摘記(1i))。
病原性微生物も微生物に含まれるものであるから、2-メチルイソチアゾリン-3-オンと1,2-べンゾイソチアゾリン-3-オンとを含む生物致死性組成物が病原性微生物には適用することができないとするとはいえないので、甲1発明1の生物致死性組成物は、病原性微生物によって感染されるものに付与される生物致死性組成物であるといえる。
そうしてみると、相違点(ア)は実質的な相違ではない。

(b)相違点(イ)について
本件発明1における、「より活性な殺菌剤として1,2-べンゾイソチアゾリン-3-オン」とは、2-メチルイソチアゾリン-3-オンの殺菌活性と比較して1,2-べンゾイソチアゾリン-3-オンの殺菌活性がより高いと解されるが、甲1発明1では、生物致死性組成物に2-メチルイソチアゾリン-3-オンと1,2-べンゾイソチアゾリン-3-オンとの両者が含まれているのであるから、1,2-べンゾイソチアゾリン-3-オンの殺菌剤としてより活性であるとしても、両殺菌剤が含まれている点で両者が異なるものではない。
そうしてみると、相違点(イ)は実質的な相違ではない。

(c)相違点(ウ)について
本件発明1において、「5-クロロ-2-メチルイソチアゾリン-3-オンを含まない」と特定されていることの趣旨は、発明の詳細な説明の「…生物致死性剤は多くの分野で用いられており、たとえば、有害なバクテリア、真菌類、または藻類を抑制するために使用される。そのような組成物中における4-イソチアゾリン-3-オン類…の使用は、これらの物質が非常に効果的な生物致死性合物を含んでいるため、かなり以前から知られている。これらの化合物のうちの1つが5-クロロ-2-メチルイソチアゾリン-3-オンである。この化合物は確かに優れた殺菌活性を示すが、…たとえば、この化合物は、使用者にアレルギーを引き起こすことが多い。また、多くの国々では、産業排水中のAOX値に法的な規制を設けており、そこでは、活性炭素に吸着され得る有機性の塩素、臭素、およびヨウ素化合物が水中に特定濃度以上に存在していてはならない。この規制が、5-クロロ-2-メチルイソチアゾリン-3-オンの広範な使用を妨げている。さらに、この化合物は、特定の状況下…において、充分な安定性をもっていない。…本発明の目的は…少なくとも2つの活性な殺生物性物質を有し、そのうちの1つが2-メチルイソチアゾリン-3-オンである本発明の生物致死性組成物により達成される。本組成物は、より活性な殺生物性物質として1,2-ベンズイソチアゾリン-3-オンを含み、5-クロロ-2-メチル-イソチアゾリン-3-オンを含有する生物致死性組成物を除外している点に特徴を有するものである。」(段落【0002】?【0010】等参照。)との記載などよりみて、5-クロロ-2-メチルイソチアゾリン-3-オンを含有させないことによって、アレルギー反応等の人体への悪影響、産業排水中のAOX値についての法的な規制による使用の妨げ、充分でない安定性の問題の解決などを図ることにあるものと認められ、特許請求の範囲に記載された「5-クロロ-2-メチルイソチアゾリン-3-オンを含まない」との文言の意義に不明瞭な点はないと認められる。

一方、甲1発明1が記載された甲第1号証には,防菌・防黴剤の組成物として用いられる2-メチルイソチアゾリン-3-オンについて「5-クロロ-2-メチルイソチアゾリン-3-オンを含まない」ことについて言及はなく、5-クロロ-2-メチルイソチアゾリン-3-オンが含まれることによって生じる問題点に関する指摘もないから、甲第1号証において、5-クロロ-2-メチルイソチアゾリン-3-オンが含まれることによる問題点を回避するという技術思想は示されていないといえる。
さらに、甲1発明1については、5-クロロ-2-メチルイソチアゾリン-3-オンが一般式(2)で示される化合物の具体例(2-2)として記載されていること(段落【0030】)、及び、本件出願の優先日の時点において、当業者が利用可能な2-メチルイソチアゾリン-3-オンとしては5-クロロ-2-メチルイソチアゾリン-3-オンとの混合物が市販されていたことを記載した文献があり、一般にそのような認識がされていたと推認されること(例えば、甲第7号証の段落【0002】の「特に商業的に重要な3-イソチアゾロン殺生物剤は、5-クロロ-2-メチル-3-イソチアゾロン(CMI)と2-メチル-3-イソチアゾロン(MI)との混合物である。これらの化合物のいずれかを製造するためのすべての公知の方法は、前記2つの化合物の混合物を生成する。従って、実質的に他の化合物を含まないものを得るためには、混合物を分離する必要がある。本発明までは、その分離は困難でありコストもかかった。」との記載、及び、乙第7号証第2頁右上欄の「…広く使用されている広スペクトル抗微生物性物質は、活性成分…としての、5-クロロ-2-4-メチルイソチアゾリン-3-オン…と2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オン…のそれぞれ約3:1の比の混合物を…含有している。この殺生成物剤は衛生用品配合物、化粧品、および家庭用清浄用製品のために有効な防腐剤である。それはまた…重工業分野に使用されている。」との記載参照。)などを考慮すると、当業者であれば、甲1発明1において使用される2-メチルイソチアゾリン-3-オンは、5-クロロ-2-メチルイソチアゾリン-3-オンを含有するものであり、製造コストをかけて、5-クロロ-2-メチルイソチアゾリン-3-オンを除去した化合物を使用したりはしないと認識していたものと認められる。
そうすると,甲第1号証には、2-メチルイソチアゾリン-3-オン及び1,2-ベンズイソチアゾリン-3-オンからなる実施例が示されていたとしても、同実施例の記載から「5-クロロ-2-メチルイソチアゾリン-3-オンを含まない」との特定事項を充足する発明が開示されているとは認められない。

ウ-3 特許法第29条第1項第3号について
以上のとおりであるから、本件発明1は、甲第1号証に記載された発明であるとすることはできない。

ウ-4 特許法第29条第2項について
本件発明1は、甲1発明1とは、上記相違点(ウ)の点で相違する。
しかしながら、上記ウ-2(c)で相違点(ウ)について述べたように、甲第1号証には、2-メチルイソチアゾリン-3-オンに5-クロロ-2-メチルイソチアゾリン-3-オンが含まれることによって生じる問題点を回避することについて何ら記載も示唆もされておらず、5-クロロ-2-メチルイソチアゾリン-3-オンが一般式(2)で示される化合物の具体例(2-2)として記載されていること、本件出願の優先日の時点において、当業者が利用可能な2-メチルイソチアゾリン-3-オンとしては5-クロロ-2-メチルイソチアゾリン-3-オンとの混合物が市販されていたことを記載した文献があり、一般にそのような認識がされていたと推認されることを考慮すると、本出願日(優先日前)における技術常識を考慮しても、甲1発明1について「5-クロロ-2-メチルイソチアゾリン-3-オンを含まない」との特定をなすことは、甲第1号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に想到し得たこととは認められない。
そして、本件発明1の、5-クロロ-2-メチルイソチアゾリン-3-オンを含まない2-メチルイソチアゾリン-3-オンと1,2-ベンズイソチアゾリン-3-オンとを併用することによって、アレルギー反応等の人体への悪影響、産業排水中のAOX値についての法的な規制による使用の妨げ、充分でない安定性の問題の解決などを図りつつ、殺生物活性の良好な生物致死性組成物を提供できるという効果については、5-クロロ-2-メチルイソチアゾリン-3-オンを含まない2-メチルイソチアゾリン-3-オンについて記載も示唆もない以上、甲第1号証の記載事項から当業者が予測できた効果とはいえない。

ウ-5 本件発明1についてのまとめ
以上のとおり、本件発明1は、その出願日(優先日前)の前に頒布された刊行物である甲第1号証に記載された発明であるとも、甲第1号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることもできない。

エ 本件発明2?7及び18について
本件発明2?7及び18は、本件発明1を直接的又は間接的に引用した発明である。
したがって、本件発明1が、甲第1号証に記載された発明であるとも、甲第1号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともすることはできないのであるから、本件発明2?7及び18についても、甲第1号証に記載された発明であるとも、甲第1号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともすることはできない。

(3)無効理由1についてのまとめ
以上のとおりであるから、本件発明1?7及び18は、その出願日(優先日前)の前に頒布された刊行物である甲第1号証に記載された発明であるとも又は甲第1号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともすることはできないから、特許法第29条第1項第3号に該当するものでも、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものでもない。
したがって、本件特許1?7及び18は、特許法第29条に違反してされたものではなく、同法第123条第1項第2号に該当しない。
よって、無効理由1は、理由がない。

2 無効理由2について
(1)請求人の主張の概要
請求人は、本件発明1?7及び18は、その出願日(優先日前)の前に頒布された刊行物(甲第2号証)に記載された発明であるか又は甲第2?6号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第1項第3号に該当するか特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、と主張する。

甲第2号証:特開平6-92806号公報
甲第3号証:MICROBICIDES FOR THE PROTECTION OF MATERIALS,A HANDBOOK, First edition, Chapman & Hall, 1993, 14、37?39、42、43、70?72、322?329頁
甲第4号証:特開平1-224306号公報
甲第5号証:特開平8-81311号公報
甲第6号証:特開昭59-142543号公報
なお、甲第2号証?甲第6号証は、いずれも本件出願前(優先日前)に頒布されたものである。

(2)無効理由2についての検討
ア 刊行物の記載事項
(ア)甲第2号証(特開平6-92806公報)には、以下の記載がされている。
2a「化合物A
【化1】

(式中、Xは水素原子またはハロゲン原子を示し、Yは低級アルキル基を示す。)で表わされるイソチアゾロン誘導体またはその錯化合物と、化合物B【化2】

で表わされる1,2-ベンズイソチアゾリン-3-オンまたはその塩に、化合物C
【化3】

(式中、R_(1)、R_(2)、R_(3)は、同一または相異なってもよく、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、水酸基、シアノ基、チオール基、ニトロ基、カルボキシル基、アミノ基またはスルホン基を示す。)で表わされるプロパノール誘導体を共存させてなることを特徴とする、安定な液状防菌防カビ製剤。」(【請求項1】)
2b「【産業上の利用分野】本発明は、工業用防菌防カビ剤としてそれぞれ使用されているイソチアゾロン誘導体および1,2-ベンズイソチアゾリン-3-オンを同時に含む液体製剤中で、これらの防菌防カビ成分を経時的に安定化させてなる、液状の防菌防カビ製剤を提供することに関する。」(段落【0001】)
2c「【本発明が解決しようとする課題】工業用防菌防カビ剤としては、細菌、糸状菌、酵母などにより工業用原料、塗料、接着剤、糊料、顔料、皮革、製紙、油剤、木材、建築内装剤、などが長期間にわたり劣化しないことが必要とされる。そのために抗菌スペクトルが広く、より薬量が少なくて強力な防菌防カビ効果を発揮することが望まれる。そのために、これまで各種の防菌防カビ成分の2種またはそれ以上の併用が検討されてきた。
しかしながら、上記したようにイソチアゾロン誘導体および1,2-ベンズイソチアゾリン-3-オンを含む液状製剤は、安定性が必ずしも十分でなく、併用については、まだ十分な研究がなされていない。このような状況にあって、
本発明は、イソチアゾロン誘導体および1,2-ベンズイソチアゾリン-3-オンを同時に含み、その長期間安定な液状防菌防カビ製剤を提供することを目的とするものである。」(段落【0006】?【0008】)
2d「本発明で使用できる化合物Aの好ましい代表例としては、2-メチル-5-クロル-1,2-メチル-イソチアゾリン-3-オンおよび2-メチル-1,2-イソチアゾリン-3-オンまたはこれらの錯化合物、例えば、塩化亜鉛、臭化亜鉛、ヨウ化亜鉛、硫酸亜鉛、酢酸亜鉛、塩化銅、塩化ニッケル、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、塩化鉄、塩化マンガン、塩化ナトリウム、塩化バリウム、塩化アンモン、その他のアミンクロライドによる錯化合物が挙げられる。」(段落【0016】)
2e「また、化合物Cの具体例としては、例えば、n-プロパノール、イソプロパノール、2-アミノ-2-メチルプロパノール、3-アミノ-2-メチルプロパノール、2-ブロモ-3-クロルプロパノール、3-ブロモ-2-クロルプロパノール、3-ブロモ-2,2-ジメチルプロパノール、2-ブロモ-2-ニトロプロパンジオール、2-ニトロプロパノール、2,2-ジニトロプロパノール、3-メルカプト-2-メチルプロパノールなどが挙げられ、特にn-プロパノール、イソプロパノール、2-ブロモ-2-ニトロプロパンジオールが望ましい。」(段落【0018】)
2f「なお、化合物Aにおいては、Xがハロゲン原子でYが低級アルキル基を示す化合物、例えば、2-メチル-5-クロル-イソチアゾリン-3-オンは、その副生物である2-メチル-イソチアゾリン-3-オンとともに通常混合物として得られ用いられており、それぞれを単離して用いてもよいが、本発明でもこれらの混合物として用いることができる。」(段落【0019】)
2g「本発明において、化合物Aと化合物Bの混合割合は、重量割合で10:1?1:10、好ましくは5:1?1:5であり、これらの混合物を液体製剤中に0.1?20重量%、好ましくは0.1?15重量%配合すればよい。
また化合物Cの添加割合は、0.1?90重量%、好ましくは1.0?40重量%である。
【作用】本発明において、化合物Cは、水または/および有機溶媒を溶剤とする液体製剤中で2種の防菌防カビ成分である化合物A、化合物Bを経時的に分解せず安定化させる作用を有する。」(段落【0020】?【0022】)
2h「【実施例】本発明の防菌防カビ製剤は、次のような方法によって得られる。すなわち、本発明の2種の防菌防カビ成分である化合物Aおよび化合物Bに化合物Cを添加するか、もしくは化合物Cに化合物Aおよび化合物Bを加えて、次に例示するような各種溶媒を加えて溶解し、これに界面活性剤や必要によりその他の補助剤を加えて均一に混合することにより、本発明の液状製剤が得られる。
このような溶剤の種類は、化合物Aおよび化合物Bを溶解または分散しうるものであればよく、特に制限されるものではない。例えば、水、アルコール類メチルアルコール、エチルアルコール、エチレングリコール、ベンジルアルコールなど
芳香族系炭化水素類ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、クロルベンゼン、クメン、メチルナフタレンなど
ハロゲン化炭化水素類クロロホルム、四塩化炭素、ジクロロメタン、クロルエチレン、トリクロロフルオロメタン、ジクロルジフルオルメタンなど
エーテル類エチルエーテル、エチレンオキシド、ジオキサン、テトラヒドロフランなど
ケトン類アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、メチルイソブチルケトンなど
エステル類酢酸エチル、酢酸ブチル、エチレングリコールアセテート、酢酸アミルなど
ニトリル類アセトニトリル、プロピオニトリル、アクリロニトリルなど
スルホキシド類ジメチルスルホキシドなど
アルコールエーテル類エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテルなど
アミン類エチルアミン、ジメチルアミン、トリエチルアミン、イソブチルアミンなど
脂肪族または脂環族炭化水素類n-ヘキサン、シクロヘキサンなど
工業用ガソリン(石油エーテル、ソルベントナフサなど)および石油留分(パラフィン類、灯油、軽油などが挙げられる。)」(段落【0023】?【0036】)
2i「さらに本発明の防菌防カビ製剤は、上記化合物Aと化合物Bの混合物により十分な防カビ効果は発揮されるが、必要に応じて一般の防菌防カビ剤、例えば、2-(4-チアゾリル)ベンツイミダゾール、パラクロロメタキシレノール、パラクロロメタクレゾール、2,3,5,6-テトラクロル-4-(メチルスルホニル)ピリジン、N-ジクロルフルオロメチル-N’,N’-ジメチル-N-スルファミド、2,4,5,6-テトラクロロイソフタロニトリル、3-ヨード-2-プロパギルブチルカーバメート、2-ブロモ-2-ブロモメチルグルタニトリル(1,2-ジブロモ-2,4-ジシアノブタン)、ジヨードメチル-p-トリルスルホン、ドデシルグアニジンハイドロクロライドなどの1種あるいは2種以上を併用することができる。」(段落【0043】)
2j「【実施例1?4】表1および表2に記載の組成を均一に混合して、実施例1?4および比較例1?2の防菌防カビ剤を得た。
なお、表1および表2中の数字は各組成の配合割合(重量%)を示す。
【表1】

【表2】

次に、本発明の実施による効果を試験例により立証する。
試験例 製剤の安定性(沈殿物の有無)試験
上記表1および表2に示した実施例、比較例の製剤を500ml容量のガラス瓶に300mlずつ入れ、55℃の恒温室および室温に静置し、その安定性を下記の基準により判定した。その結果を表3および表4に示した。
また実施例1、2のうち化合物Cを表5に示したものに替えて、その他は実施例1、2と同様に製剤化したものについて、上記と同様に安定性を調べた。その結果を表5に示した。
判定基準
++:沈殿がガラス瓶の底に肉眼的に明らかに認められる
+ :沈殿がガラス瓶の底に肉眼的にわずかに認められる
- :沈殿が認められない
【表3】55℃における製剤の安定性

【表4】室温における製剤の安定性

」(段落【0045】?【0053】)

イ 甲第2号証に記載された発明
甲第2号証には、
「化合物A
【化1】

(式中、Xは水素原子またはハロゲン原子を示し、Yは低級アルキル基を示す。)で表わされるイソチアゾロン誘導体またはその錯化合物と、化合物B
【化2】

で表わされる1,2-ベンズイソチアゾリン-3-オンまたはその塩に、化合物C
【化3】

(式中、R_(1)、R_(2)、R_(3)は、同一または相異なってもよく、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、水酸基、シアノ基、チオール基、ニトロ基、カルボキシル基、アミノ基またはスルホン基を示す。)で表わされるプロパノール誘導体を共存させてなることを特徴とする、安定な液状防菌防カビ製剤。」(摘記(2a))と記載されており、また、「本発明において、化合物Cは、水または/および有機溶媒を溶剤とする液体製剤中で2種の防菌防カビ成分である化合物A、化合物Bを経時的に分解せず安定化させる作用を有する。」(摘記(2g))との記載があるから、化合物Aで表わされるイソチアゾロン誘導体と化合物Bで表わされる1,2-ベンゾイソチアゾリン-3-オンとは、ともに防菌防カビ成分であり、殺菌殺カビにより防菌防カビ効果を奏するものと認められるから、両者は、活性を有する殺菌剤であり、両化合物を含むといえ、液状防菌防カビ製剤は、生物致死性組成物を構成しているものといえる。
そうすると甲第2号証には、
「少なくとも2つの活性な殺菌剤を含み、活性な殺菌剤のひとつが
化合物A
【化1】

(式中、Xは水素原子またはハロゲン原子を示し、Yは低級アルキル基を示す。)で表わされるイソチアゾロン誘導体またはその錯化合物である、生物致死性組成物において、1,2-べンゾイソチアゾリン-3-オンを含み、化合物C
【化3】

(式中、R_(1)、R_(2)、R_(3)は、同一または相異なってもよく、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、水酸基、シアノ基、チオール基、ニトロ基、カルボキシル基、アミノ基またはスルホン基を示す。)で表わされるプロパノール誘導体を共存させてなることを特徴とする生物致死性組成物。」(以下、「甲2発明」という。)が記載されているものと認められる。

ウ 本件発明1について
ウ-1 本件発明1と甲2発明との対比
本件発明1と甲2発明とを対比すると、
「少なくとも2つの活性な殺菌剤を含み、活性な殺菌剤が化合物A
【化1】

(式中、Xは水素原子またはハロゲン原子を示し、Yは低級アルキル基を示す。)で表わされるイソチアゾロン誘導体である、病原性微生物によって感染されるものに付与される生物致死性組成物において、1,2-べンゾイソチアゾリン-3-オンを含んでいることを特徴とする生物致死性組成物。」で一致し、次の点で相違する。

(ア)前者では、「2-メチルイソチアゾリン-3-オン」と特定しているのに対して、後者では、「化合物A
【化1】

(式中、Xは水素原子またはハロゲン原子を示し、Yは低級アルキル基を示す。)で表わされるイソチアゾロン誘導体」である点
(イ)生物致死性組成物について、前者では「病原性微生物によって感染されるものに付与される」と特定されているのに対し、後者では、そのような特定がなされていない点
(ウ)前者では、「より活性な殺菌剤として1,2-べンゾイソチアゾリン-3-オンを含」むと特定されているのに対して、後者では、「1,2-べンゾイソチアゾリン-3-オンを含んでいる」が、イソチアゾロン誘導体より活性な殺菌剤であるか否か不明である点
(エ)前者では、「5-クロロ-2-メチルイソチアゾリン-3-オンを含まない」と特定しているのに対して、後者では、そのような特定はなされていない点

ウ-2 相違点についての判断
上記相違点(エ)について、検討する。
甲第2号証には、「本発明で使用できる化合物Aの好ましい代表例としては、2-メチル-5-クロル-1,2-メチル-イソチアゾリン-3-オンおよび2-メチル-1,2-イソチアゾリン-3-オン・・・が挙げられる。」(摘記(2d))、「化合物Aにおいては、Xがハロゲン原子でYが低級アルキル基を示す化合物、例えば、2-メチル-5-クロル-イソチアゾリン-3-オンは、その副生物である2-メチル-イソチアゾリン-3-オンとともに通常混合物として得られ用いられており、それぞれを単離して用いてもよいが、本発明でもこれらの混合物として用いることができる。
本発明において、化合物Aと化合物Bの混合割合は、重量割合で10:1?1:10、好ましくは5:1?1:5であり、これらの混合物を液体製剤中に0.1?20重量%、好ましくは0.1?15重量%配合すればよい。
また化合物Cの添加割合は、0.1?90重量%、好ましくは1.0?40重量%である。」(摘記(2f)、(2g))、及び、「【実施例1?4】表1および表2に記載の組成を均一に混合して、実施例1?4および比較例1?2の防菌防カビ剤を得た。
なお、表1および表2中の数字は各組成の配合割合(重量%)を示す。」(摘記(2j))との記載がある。
そして、実施例1?4および比較例1?2には、その組成として、5-クロロ-2-メチルイソチアゾリン-3-オンを1.0重量%と2-メチルイソチアゾリン-3-オンを0.1重量%との配合割合としたものと、その組成として、5-クロロ-2-メチルイソチアゾリン-3-オンを5.0重量%と2-メチルイソチアゾリン-3-オンを0.5重量%との配合割合とした防菌防カビ剤について(表1)、55℃における製剤の安定性についての試験結果が記載されている(表2)(摘記(2j))。
そうすると甲第2号証には、イソチアゾロン誘導体として、特許請求の範囲の請求項1に、
「【化1】

(式中、Xは水素原子またはハロゲン原子を示し、Yは低級アルキル基を示す。)で表わされるイソチアゾロン誘導体」は記載されているが、単離された5-クロロ-2-メチルイソチアゾリン-3-オン又は2-メチルイソチアゾリン-3-オンについては、「2-メチル-5-クロル-イソチアゾリン-3-オンは、その副生物である2-メチル-イソチアゾリン-3-オンとともに通常混合物として得られ用いられており、それぞれを単離して用いてもよいが」(摘記(2e))と記載されているだけであって、発明の詳細な説明には、実施例も含めて、単離された5-クロロ-2-メチルイソチアゾリン-3-オン又は2-メチルイソチアゾリン-3-オンについては具体的な記載はないのであって、逆に発明の詳細な説明には、「化合物Aにおいては、Xがハロゲン原子でYが低級アルキル基を示す化合物、例えば、2-メチル-5-クロル-イソチアゾリン-3-オンは、その副生物である2-メチル-イソチアゾリン-3-オンとともに通常混合物として得られ用いられており、」(摘記(2f))及び「本発明でもこれらの混合物として用いることができる。」(摘記(2f))と記載されており、5-クロロ-2-メチルイソチアゾリン-3-オンに2-メチルイソチアゾリン-3-オンが副生物として含まれる混合物を用いるとされていること及び実施例においても5-クロロ-2-メチルイソチアゾリン-3-オンの10分の1量の2-メチルイソチアゾリン-3-オンを含む組成物について、試験結果が記載されているだけであって、純粋な5-クロロ-2-メチルイソチアゾリン-3-オン又は2-メチルイソチアゾリン-3-オンを用いての試験は行っていないことからみて、甲第2号証には、「2-メチルイソチアゾリン-3-オンと1,2-べンゾイソチアゾリン-3-オンとを含み、5-クロロ-2-メチルイソチアゾリン-3-オンを含まない生物致死性組成物。」は、記載されていないとするのが相当である。

ウ-3 請求人の主張について
請求人は、「(b)請求項1、18に係る発明について」として、「MITとCMITとは、構造が類似しており、これらの構造の共通部分に存在する活性N-S結合が、アミノ酸、タンパク質、酵素などの求核性細胞物質と反応することにより抗菌性を奏するものであることは良く知られている(甲第3号証、14頁2?6行、325頁2?4行)。CMITは別途、Cl原子を有することから、MITよりも抗菌性は高まるが、基本骨格における抗菌性の作用機序は同じである。さらに、上記した構造、性質の類似性に加え、MITとCMITとは、混合物の状態のまま用いていることが多いという事実(このことは、甲第3号証において、MIT、CMITの具体的説明が、MITとCMITの混合物の箇所でなされていることからも理解できる:甲第3号証322?326頁参照)からすると、防菌防黴分野の当業者においては、MIT、CMIT及びこれらの混合物については、程度の差はあるものの基本的には同様の性質を有するものとして理解されているといえる。
以上のことからすると、MITとCMITの混合物とにBITを混合した実施例(上記チ)があれば、「MIT+BIT」や「CMIT+BIT」の組成物について十分具体的な裏付けがあるといえる。
さらに、甲第2号証の特許請求の範囲に記載された発明は、イソチアゾロン誘導体とBITとを併用により相乗効果が得られることを前提として、その安定性をさらに向上させることを目的として発明がなされていることからしても(上記コ、なお、イソチアゾロン誘導体とBITとを併用した場合の殺菌の相乗効果が甲第2号証の頒布以前に公知であったことは、甲第4号証(特開平1-224306号公報)の内容からも明らかである)、MITとBITとを組み合わせると、これらを単体で用いた場合に比して強力で薬量を少なくできるという程度の効果については、当業者が従来技術として認識している範疇のものであると解するのが正しい評価である。」との主張をしている。
しかしながら、甲第2号証には、5-クロロ-2-メチルイソチアゾリン-3-オンと2-メチルイソチアゾリン-3-オンとからなるイソチアゾロン誘導体と1,2-べンゾイソチアゾリン-3-オンとを組み合わせた防菌防カビ製剤についての安定性について記載されているだけであって、単独の2-メチルイソチアゾリン-3-オンと1,2-べンゾイソチアゾリン-3-オンとを組み合わせて用いた場合における防菌防カビ性については、具体的には何も記載されていないし、無効理由3で取り上げる甲第4号証には、5-クロロ-2-メチルイソチアゾリン-3-オンと2-メチルイソチアゾリン-3-オンとの3:1混合物の殺菌作用についての試験結果が記載されているに過ぎず、効力の大きい5-クロロ-2-メチルイソチアゾリン-3-オンをより多く含んだ試料での試験結果が記載されているだけで相乗効果があると認められるのは、5-クロロ-2-メチルイソチアゾリン-3-オンと2-メチルイソチアゾリン-3-オンとからなるイソチアゾロン誘導体と1,2-べンゾイソチアゾリン-3-オンとを併用した場合についてであり、2-メチルイソチアゾリン-3-オンと1,2-べンゾイソチアゾリン-3-オンとを併用した場合についてまで相乗効果があるとすることはできない。
また、2-メチルイソチアゾリン-3-オンと5-クロロ-2-メチルイソチアゾリン-3-オンとは、構造が類似しており、これらの構造の共通部分に存在する活性N-S結合が、アミノ酸、タンパク質、酵素などの求核性細胞物質と反応することにより抗菌性を奏するものであることが知られているとしても、化学分野においては、特定の複数の化合物を組み合わせて組成物とした場合に、その組成物の性質を予測することは困難であるから、殺生物活性の低い2-メチルイソチアゾリン-3-オンと1,2-べンゾイソチアゾリン-3-オンとを組み合わせた場合の効果は、予測できないものである。
そうすると、請求人の主張はいずれも是認できない。

ウ-4 本件発明1についてのまとめ
以上のとおりであるから、本件発明1は、相違点(ア)?(ウ)を検討するまでもなく、甲第2号証に記載された発明であるとすることはできない。

エ 本件発明2?7及び18について
本件発明2?7及び18は、本件発明1を直接的又は間接的に引用した発明である。
したがって、本件発明1が、甲第2号証に記載された発明であるとすることはできないのであるから、本件発明1が、甲第2号証に記載された発明であることを前提として、本件発明2?7及び18が甲第2号証に記載された発明である又は甲第2号証?甲第6号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることはできない。

(3)無効理由2についてのまとめ
以上のとおり、本件発明はその出願前(優先日前)頒布された刊行物である甲第2号証に記載された発明であるとも、又は甲第2号証?甲第6号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたということはできないから、この理由によっては、本件特許は、特許法第29条の規定に違反してされたということはできず、同法第123条第1項第2号の規定に該当するものではない。
よって、無効理由2は、理由がない。

3 無効理由3について
(1)請求人の主張の概要
請求人は、本件発明1?7及び18は、その出願日(優先日前)の前に頒布された刊行物(甲第2号証?甲第6号証)に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、と主張する。
なお、甲第7号証は、無効理由3において証拠として用いているので(審判請求書第37頁18行?第38頁3行)、検討の対象とする。

甲第2号証:特開平6-92806号公報
甲第3号証:MICROBICIDES FOR THE PROTECTION OF MATERIALS,A HANDBOOK, First edition, Chapman & Hall, 1993, 14、37?39、42、43、70?72、322?329頁
甲第4号証:特開平1-224306号公報
甲第5号証:特開平8-81311号公報
甲第6号証:特開昭59-142543号公報
甲第7号証:特開平7-291951号公報
なお、甲第2号証?甲第7号証は、いずれも本件出願前(優先日前)に頒布されたものである。

(2)無効理由3についての検討
ア 刊行物の記載事項
(ア-1)甲第2号証に記載された事項は、「2」、「(2)」、「ア」、「(ア)」に記載のとおりである。

(ア-2)甲第3号証(MICROBICIDES FOR THE PROTECTION OF MATERIALS,A HANDBOOK, First edition, Chapman & Hall, 1993, 14、37?39、42、43、70?72、322?329頁)には、以下の記載がされている。
3a「

」(第37頁末行?第38頁1行)
「ホルムアルデヒドは、モノアルデヒドの中で最も反応性が高く、それゆえ最も効果的である。」(抄訳第1頁13行?14行)
3b「

」(第42頁20行?24行)
「ホルムアルデヒドの強力な抗微生物特性は1886年に初めて見い出された(Loew)。
表9のMICをより詳しく見ると、バクテリアは、菌類や酵母類よりも、ホルムアルデヒドの抗微生物効果が作用するものであることがわかる。ホルムアルデヒドはまた、殺胞子活性及び抗ウィルス作用も有している。」(抄訳第1頁16行?20行)
3c「

」(第72頁1行?9行)
「ブロノポールの有効性を他のホルムアルデヒド放出化合物のものと比較し、かつ、ブロノポールがホルムアルデヒドの放出が遅いことを考慮すると(図22参照)、ブロノポールは特別な位置づけのものであることがわかる。 すなわち、ホルムアルデヒドの放出が遅いにもかかわらず、ブロノポールは、広いpH範囲(5-9)で他のホルムアルデヒド放出化合物よりも効果が優れており、特に緑膿菌に対して効果的であるという利点を有している。 これは、微生物細胞の求核中心(例えば、SH基含有酵素)に作用することができる、分子内における2つの毒性基(活性ハロゲン及びメチロール)の複合作用に起因するものである。」(抄訳第1頁22行?2頁2行)
3d「

」(第328頁下から7?2行目)
「OIT(審決注:「2-n-オクチルイソチアゾリン-3-オン」のことである。以下同様。)はまた藻類に対して効果的である;OITは、0.5?5.0mg a.i./リットルの濃度で藻類の成長を抑制する。
菌類に対する極めて高い毒性を奏するために、該活性成分は主として防カビ剤、例えば塗膜保護用防カビ剤などとして、ノンフィルムフォーミングデコラティヴウッドステイン、ウェットブルー保護のための皮革工業、接着剤及びシーラント、パルプ、紙、段ボールなどにおいて用いられる。」(抄訳第2頁14行?19行)

(ア-3)甲第4号証(特開平1-224306号公報)には、以下の記載がされている。
4a「1. 5-クロル-2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オン,2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オンの混合物と、1,2-ベンゾイソチアゾロン-3-オンとを有効成分として含有することを特徴とする工業用殺菌組成物。
2. 5-クロル-2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オンと2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オンとの混合割合が、10:1?1:10重量比である請求項1記載の工業用殺菌組成物。
3. 2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オン体混合物と、1,2-ベンゾイソチアゾリン-3-オンとが1:10?10:1重量割合で配合された請求項1記載の工業用殺菌組成物。」(特許請求の範囲)
4b「(ハ)発明の目的及び効果
本発明者は、これら従来より使用されてきた薬剤の問題点を解決し、有用な工業用の殺菌・静菌剤を提供すべく鋭意研究を重ねた結果、1,2-ベンゾイソチアゾロン-3-オン(以下、BITと略記する。)に、5-クロル-2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オン(以下CMTと略記する)と2-メチル-4-イソヂアゾリン-3-オン(以下MTと略記する)との混合物を配合した組成物が以下に述べるような優れた工業用の殺菌・静菌組成物としての特徴を有するという知見に基づき本発明を完成した。
本発明組成物の特徴
1.相乗的効果が発揮される。
2.各単剤使用よりも、持続的静菌効果が得られる。
3.ラテックスや塗料などの製品に適用しても凝結や着色などの悪影響を及ぼさない。
4.貯蔵安定性が優れている。
5.金属を含まず、低毒性で公害の恐れがない。
6.抗菌スペクトルが拡く耐性菌の出現がほとんどない。」(第2頁左上欄7行?右上欄8行)
4c「(ニ)実施例
以下、実施例をあげて本発明を詳述するがこれによって本発明の範囲が何ら限定されるものではない。例中の%はすべて重量百分率を示す。
配合例1
BIT10%、CMTとMTとの3:1(重量比)2%、モノエチレングリコール88%を混合溶解して製品とする。使用に際してはそのまま、あるいは溶剤で所定濃度に希釈して添加する。
配合例2
BIT6%、CMTとMTとの3:1(重量比)混合物6%、ジエチレングリコール88%を混合溶解して製品とする。使用に際してはそのまま、あるいは溶剤で所定濃度に希釈して添加する。
配合例3
BIT2%、CMTとMTとの3:1(重量比)混合物10%、プロピレングリコール88%を混合溶解して製品とする。使用に際してはそのまま、あるいは溶剤で所定濃度に希釈して添加する。
実験例1
配合例1?3により調製した本発明組成物の抗菌力を有効成分含量を同じくするそれぞれの単剤および本発明組成物の各塩類を用いた複合組成物と比較した。試験方法はpH6.5のワックスマン培地を用いた倍数希釈法で行い、30℃で24時間培養後に試験菌の生育の有無を肉眼観察し、最少発育阻止濃度(MIC,μg/ml)を求めた。希釈は水を使用した。試験結果を表1に示す。供試薬剤
1.配合例1の組成物
2.配合例2の組成物。
3.配合例3の組成物
4.BIT12%、モノエチレングリコール88%を混合溶解して製品とする。使用に際しては、配合例と同様の操作をする。
5.CMTとMTとの3:1(重量比)混合物12%、プロピレングリコール88%を混合溶解して製品とする。使用法は配合例に同じ。
6.BIT6%エチレンジアミン5%、CMTとMTとの3:1(重量比)混合物6%ジエチレングリコール83%を混合溶解して製品とする。使用法は配合例に同じ。
7.BIT2%、CMTとMTとの3:1(重量比)混合物10%、塩化マグネシウム8%、硝酸マグネシウム14%、プロピレングリコール20%、水46%を混合溶解して製品とする。使用法は配合例に同じ。

表1に示したように前記配合例1?3の本発明組成物は、各単剤および本発明組成物の塩類を用いた複合剤に比べて、各種工業製品・工業材料の腐敗・変質および紙パルプ、抄造工程や冷却水系のスライム原因菌に対して相乗的抗菌効果を示した。」(第3頁左上欄2行?第4頁左上欄6行)

(ア-4)甲第5号証(特開平8-81311号公報)には、以下の記載がされている。
5a「【請求項1】 菌およびバクテリアに対して改良された防除効果を示す相乗効果比率の2-メチル-3-イソチアゾロンおよび2-n-オクチル-3-イソチアゾロンを含む組成物であって、該組成物が5重量%未満のハロゲン化殺生物剤を含む本質的にハロゲンを含まない殺生物剤組成物。
【請求項2】 2-メチル-3-イソチアゾロンと2-n-オクチル-3-イソチアゾロンの重量比が約500:1から1:100である請求項1記載の組成物。
【請求項3】 2-メチル-3-イソチアゾロンと2-n-オクチル-3-イソチアゾロンの重量比が約1:20から20:1である請求項2記載の組成物。
【請求項4】 本質的に金属塩安定剤を含まない請求項1記載の組成物。
【請求項5】 2-メチル-3-イソチアゾロンおよび2-n-オクチル-3-イソチアゾロンが、溶剤系100重量部に対して殺生物剤が約1から50重量部の濃度で溶剤系に溶解されている、請求項1記載の殺生物剤組成物の安定な水性溶液。
【請求項6】 ハロゲン化殺生物剤を含まない請求項1記載の殺生物剤組成物。」(特許請求の範囲、請求項1?6)
5b「本発明は殺微生物剤の組み合わせに関する。数種類の3-イソチアゾロン化合物が商業化され、バクテリア、菌、および藻の防除のために広く使用されている。もっと広く使用されているものは5-クロロ-2-メチル-3-イソチアゾロン(CMI)と2-メチル-3-イソチアゾロン(MI)との75対25の混合物である。他の商業的に有効なものは2-n-オクチル-3-イソチアゾロン(OI)と4,5-ジクロロ-2-オクチル-3-イソチアゾロン(DI)である。日本特許公開平1-311006号は、3-イソチアゾロン殺生物剤のある種の組み合わせを開示し、その相乗効果をクレームしている。この公開公報によれば、第1のグループからのひとつの3-イソチアゾロンが第2のグループのひとつと組み合わされる。この公開公報の実施例によれば、第1のグループからの化合物は常に5-クロロ物である。この公開公報は、さらにCMIはMIの10倍以上の殺微生物活性を有することを開示している。最近提案された、工業的プロセスから廃棄されるハロゲン化化合物の使用を禁ずる法律のために、ハロゲン化されていない非常に効果的な殺生物剤に対する必要性が提起されていた。
本発明は、MIとOIを菌およびバクテリアに対して改良された防除効果を示す相乗効果比率で含む組成物であって、該組成物が5重量%未満のハロゲン化殺生物剤を含む、本質的にハロゲンを含まない殺生物剤組成物を提供する。本発明はさらに、この組成物の微生物を殺すのに十分な量で、対象上に、対象に、対象中に適用する、微生物の成長を抑制する方法を提供する。」(段落【0001】?【0002】)

(ア-5)甲第6号証(特開昭59-142543号公報)には、以下の記載がされている。
6a「実施例1
7gのゼラチンを含むゼラチン水溶液100mlに本発明の化合物[I-a][I-b][II-a][II-b]を表1のごとく添加し、下記表1に示す試料(No.1?7)を作成した。それぞれの試料にアシネトベクター(Acinetobacter)属、エントロバクター(Entrobacter)属及びシュードモナス(Psudomonas)属の混合菌液を接種後、37℃で8時間振とう培養し、各試料中の菌数を調べた。その結果を表1に示す。
表 - 1

表1から明らかなように、2種の化合物を併用した本発明の試料はバクテリアの増殖が著しくおさえられる。」(第10頁右下欄9行?第11頁右上5行)

(ア-6)甲第7号証(特開平7-291951号公報)には、以下の記載がされている。
7a「CMI・HClとMI・HClとの混合物を有機溶媒中のスラリーとして調製する工程;及び該CMI・HClを完全に解離させるのには十分であるが、該MI・HClを完全に解離させるのには不十分な制御された時間の間、CMI・HClとMI・HClとの該混合物を加熱する工程を含む、(a)CMI・HCl塩とMI・HCl塩との混合物から実質的に分離されたCMI及びMI、又は(b)それらのHCl塩の前記混合物に比べて大きなCMI:MI比を有するCMIとMIとの特別な混合物のいずれかを製造する方法。」(特許請求の範囲、請求項1)
7b「【従来技術の説明】3-イソチアゾロン化合物は、高度に有効な殺微生物剤であり、微生物によって生じたある種の水性産品及び非水性産品の腐敗を防止するために非常に大きな関心を生じさせている。特に商業的に重要な3-イソチアゾロン殺生物剤は、5-クロロ-2-メチル-3-イソチアゾロン(CMI)と2-メチル-3-イソチアゾロン(MI)との混合物である。これらの化合物のいずれかを製造するためのすべての公知の方法は、前記2つの化合物の混合物を生成する。従って、実質的に他の化合物を含まないものを得るためには、混合物を分離する必要がある。本発明までは、その分離は困難でありコストもかかった。」(段落【0002】)
7c「本発明の目的はCMI又はMI又はそれらの特別な混合物を実質的に純粋な形態で得るための改良方法を提供することである。上記の目的は、有機溶媒中のスラリーとしてCMI・HClとMI・HClとの混合物を調製する工程;及び該CMI・HClを完全に解離させて実質的に純粋なCMIを作るのに十分ではあるが、該MI・HClを完全に解離させるのには不十分である制御された時間の間、該出発塩混合物を加熱する工程を含む、CMI・HCl塩とMI・HCl塩との混合物から実質的に分離されたCMI又はMIを製造するか、又は出発HCl塩混合物に比べてCMI:MI比がより大きいCMIとMIとの特別な混合物を製造する方法によって達成される。」(段落【0006】)
7d「実施例5-CMI・HClとMI・HClの両方の選択的解離
オーバーヘッド攪拌機、温度計、乾燥管が取り付けられている凝縮器、及び温度調節浴を取り付けた500mlジャケット付フラスコの中に、酢酸エチル349.4g中、実施例1に従って調製されたCMI・HClとMI・HClとの73:27混合物50.6gを入れた。そのスラリー(固形分10%)を加熱して、還流し、新しい酢酸エチルを釜に補給しながら、溶媒を部分的に蒸留した(速度=20ml/分)。一定量の母液を様々な時点で取り出して、濾過し、得られた固体を酢酸エチルで洗浄し、イソチアゾロン含量について分析した。これらの簿液から得られた濾液を除去し、遊離塩基イソチアゾロンの量について分析した。7時間の還流後に、実質的にすべての固体が溶解した。その反応混合物を室温まで冷却し、次に溶媒を減圧下で除去した。表2はその結果である。
【表2】
表2-酢酸エチル中イソチアゾロン・HCl塩混合物の解離
濾液
重量%
時間(時) CMI MI CMI:MI
0** 86.9 1.2 98.6:1.4
1 90.0 2.8 97.0:3.0
2 82.0 10.8 88.4:11.6
3 77.2 14.6 83.9:16.1
4 76.5 18.2 80.5:19.5
5 72.8 20.0 78.4:21.6
6 73.6 20.8 78.0:22.0
7 69.4 25.7 73.0:27.0
固形分
重量%
時間(時) CMI・HCl MI・HCl CMI・HCl:MI・ HCl
-* 53.9 18.0 73:27
0** 37.2 32.4 53.4:46.6
1 0.31 64.7 0.5:99.5
2 0.29 65.1 0.4:99.6
3 0.42 65.2 0.6:99.4
* これらのデータは、スラリー調製時における固体からのデータである。
** 0時間サンプルは、還流開始時に採取した。
表2のデータは、最初の1時間でCMI・HCl解離が驚くべき程高度の選択性の下に進み、少量のMIのみを含む実質的に純粋なCMIが得られることを明確に示している。重要なことには、この解離工程の時間に応じて約99:1から出発時の比率である73:27までの任意の所望の割合を有する特別なCMI:MI混合物を得ることができる。」(段落【0019】?【0021】)

イ 甲第2号証に記載された発明
甲第2号証に記載された発明は、「2」、「(2)」、「イ」のとおりである。

ウ 本件発明1について
ウ-1 本件発明1と甲2発明との対比
本件発明1と甲2発明との対比は、「2」、「(2)」、「ウ」、「ウ-1」に記載されたとおりである。

ウ-2 相違点についての判断
上記相違点(エ)について、検討する。
甲第3号証には、バクテリアは、菌類や酵母類よりも、ホルムアルデヒドの抗微生物効果が作用するものであり、殺胞子活性及び抗ウィルス作用も有していること(摘記(3b))、及びホルムアルデヒドの放出が遅いにもかかわらず、ブロノポールは、広いpH範囲(5-9)で他のホルムアルデヒド放出化合物よりも効果が優れており、特に緑膿菌に対して効果的であるという利点を有していること(摘記(3c))が記載されている。
甲第4号証には、5-クロロ-2-メチルイソチアゾリン-3-オンと2-メチルイソチアゾリン-3-オンとの混合物と、1,2-べンゾイソチアゾリン-3-オンとを有効成分として含有することを特徴とする工業用殺菌組成物(摘記(4a))が記載されており、また、実施例に実験例1として、配合例1?3の組成物、すなわち、5-クロロ-2-メチルイソチアゾリン-3-オンと2-メチルイソチアゾリン-3-オンとの3:1(重量比)混合物と1,2-べンゾイソチアゾリン-3-オンとを配合した組成物についての試験結果が示されている(摘記(4b))。
甲第5号証には、菌およびバクテリアに対して改良された防除効果を示す相乗効果比率の2-メチルイソチアゾリン-3-オンおよび2-n-オクチルイソチアゾリン-3-オンを含む組成物であって、該組成物が5重量%未満のハロゲン化殺生物剤を含む本質的にハロゲンを含まない殺生物剤組成物が記載されている。
甲第6号証には、実施例1に試料No.6として1,2-べンゾイソチアゾリン-3-オンと2-n-オクチルイソチアゾリン-3-オンとを併用して殺菌試験行った例が記載されている。そして、1,2-べンゾイソチアゾリン-3-オンを単独で使用した場合(No.2)又は2-n-オクチルイソチアゾリン-3-オンを単独で使用した場合(No.4)に比べて相乗効果を有することが記載されている。
甲第7号証には、5-クロロ-2-メチルイソチアゾリン-3-オン・HCl塩と2-メチルイソチアゾリン-3-オン・HCl塩との混合物から実質的に分離された5-クロロ-2-メチルイソチアゾリン-3-オン及び2-メチルイソチアゾリン-3-オンを製造する方法(摘記(7a))が記載されており、実施例5には、5-クロロ-2-メチルイソチアゾリン-3-オン・HClと2-メチルイソチアゾリン-3-オン・HClの両方の選択的解離として、5-クロロ-2-メチルイソチアゾリン-3-オン・HClと2-メチルイソチアゾリン-3-オン・HClとの73:27混合物から5-クロロ-2-メチルイソチアゾリン-3-オン・HCl:2-メチルイソチアゾリン-3-オン・HClを0.6:99.4に選択的解離をすること(摘記7d))が記載されている。また、同号証には、3-イソチアゾロン化合物は、高度に有効な殺微生物剤であることは記載されている(摘記(7b))。
しかしながら、甲第7号証には、2-メチルイソチアゾリン-3-オンを他の殺菌剤等の殺微生物剤と併用することは記載されておらず、5-クロロ-2-メチルイソチアゾリン-3-オンを含有しない単離した2-メチルイソチアゾリン-3-オンと1,2-べンゾイソチアゾリン-3-オンとを併用することも記載されていない。

上記、甲第3号証?甲第7号証の記載からみて、本件特許出願前に高純度の2-メチルイソチアゾリン-3-オン(5-クロロ-2-メチルイソチアゾリン-3-オン・HCl:2-メチルイソチアゾリン-3-オン・HClで0.6:99.4)が得られていたこと(摘記(7d))、5-クロロ-2-メチルイソチアゾリン-3-オンと2-メチルイソチアゾリン-3-オンとの混合物(具体的には5-クロロ-2-メチルイソチアゾリン-3-オン:2-メチルイソチアゾリン-3-オンが3:1の混合物)と1,2-べンゾイソチアゾリン-3-オンとを混合した製品が相乗効果を有していること(摘記(4b)及び(4c))及び2-メチルイソチアゾリン-3-オンと2-n-オクチルイソチアゾリン-3-オンとの混合物が相乗効果を有していること(摘記(5a)及び(6a))は、公知であったものと認められる。
しかしながら、効力が2-メチルイソチアゾリン-3-オンよりも大きい5-クロロ-2-メチルイソチアゾリン-3-オンと2-メチルイソチアゾリン-3-オンとを混合物と1,2-べンゾイソチアゾリン-3-オンとを併用した場合に相乗効果が認められるのであって、効力が小さく含有量が少ない2-メチルイソチアゾリン-3-オンと1,2-べンゾイソチアゾリン-3-オンとの混合物に相乗効果があると認められる証拠は、甲第3号証?甲第7号証にはない。
そうしてみると、甲2発明は、イソチアゾロン誘導体と1,2-べンゾイソチアゾリン-3-オンとを含む安定な液状防菌防カビ製剤に関するものであるから、5-クロロ-2-メチルイソチアゾリン-3-オンを含有しない単離した2-メチルイソチアゾリン-3-オンと1,2-べンゾイソチアゾリン-3-オンとを併用することが記載も示唆されていない甲第3号証?甲第7号証に記載される殺微生物剤を適用しても本件発明1の構成にはならない。
そして、本件発明1は、単離した2-メチルイソチアゾリン-3-オンと1,2-べンゾイソチアゾリン-3-オンとを併用することにより相乗効果を奏するものであるから、相違点(ア)?(ウ)を検討するまでもなく、本件発明1が甲第2号証?甲第7号証に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものとすることはできない。

ウ-3 請求人の主張について
請求人は、口頭審理陳述要領書において、下記の主張をしている。
「甲5からすると、(CMIT+MIT)+他の殺微生物性化合物との組み合わせからなる組成物を出発点として、CMITを極力減らしたとしても(あるいは、CMIT+MITに変えてMITを用いたとしても)、MITあるいは他の殺微生物性化合物を単独で用いた場合よりは優れた殺微生物性が得られることが把握でき、また、一方で上記5-4(1)(ア)で述べたとおり、CMITとMITとには殺微生物性の作用機序は基本的に同じであり、結局のところ効果の程度に違いがあるにすぎないのですから、甲2発明2を出発点として、CMITを極力減らした場合(あるいは、CMIT+MITに変えてMITを用いた場合)に、もとの組成物よりは効果は劣るものの、MITを単独あるいはBIT単独で用いるよりは殺微生物効果が高くなるであろうという程度のことは、当業者であれば十分予測しうるものです。
以上のことからすると、MITとBITを組み合わせた場合に、MIT単独あるいはBIT単独で用いるよりも優れた効果があったとしても何ら驚くべきところはないのですから、本件明細書の実施例で示された『相乗効果』というのは、結局のところ(CMIT+MIT)+BIT組成物において得られる周知の相乗効果(甲4参照)の追認をしているのと何ら変わりありません。」(口頭審理陳述要領書29頁?30頁)

しかしながら、化学分野においては、特定の複数の化合物を組み合わせて組成物とした場合に、その組成物の性質を予測することは困難であるから、殺生物活性の低い2-メチルイソチアゾリン-3-オンと1,2-べンゾイソチアゾリン-3-オンとを組み合わせた場合の効果は、予測できないものである。
イソチアゾロン誘導体と1,2-べンゾイソチアゾリン-3-オンとの相乗効果が記載されているのは、甲第4号証の実施例に実験例1における殺生物活性の高い5-クロロ-2-メチルイソチアゾリン-3-オンと殺生物活性の低い2-メチルイソチアゾリン-3-オンとの3:1(重量比)混合物と1,2-べンゾイソチアゾリン-3-オンとを配合した製品だけであって、同号証の記載からは殺生物活性の低い2-メチルイソチアゾリン-3-オンと1,2-べンゾイソチアゾリン-3-オンとを組み合わせた場合に相乗効果を奏することまでが示唆されているとはいえないから、請求人の主張は認められない。

ウ-4 本件発明1についてのまとめ
以上のとおりであるから、本件発明1が、甲第2号証?甲第7号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたということはできない。

エ 本件発明2?7及び18について
本件発明2?7及び18は、本件発明1を直接的又は間接的に引用した発明である。
そうすると、本件発明1が、甲第2号証?甲第7号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたということはできないから、本件発明2?7及び18についても甲第2号証?甲第7号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたということはできない。

(3)無効理由3についてのまとめ
以上のとおり、本件発明はその出願前(優先日前)頒布された刊行物である甲第2号証?甲第7号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたということはできないから、この理由によっては、本件特許は、特許法第29条の規定に違反してされたということはできず、同法第123条第1項第2号の規定に該当するものではない。
よって、無効理由3は、理由がない。

第5 むすび
以上のとおり、請求人の主張する無効理由1?3はいずれも理由のないものであるから、本件発明1?7及び18に係る特許は無効とすることはできない。
また、他に本件発明1?7及び18に係る特許について無効とすべき理由を発見しない。
本件審判に関する総費用については、請求人の負担とする。
よって、結論のとおり審決する。
 
別掲

(参考)本特許無効審判事件の平成22年3月29日付け審決


 
審理終結日 2012-01-16 
結審通知日 2012-01-18 
審決日 2012-01-31 
出願番号 特願2000-509290(P2000-509290)
審決分類 P 1 113・ 121- Y (A01N)
P 1 113・ 113- Y (A01N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 穴吹 智子  
特許庁審判長 新居田 知生
特許庁審判官 小石 真弓
齋藤 恵
登録日 2007-08-03 
登録番号 特許第3992433号(P3992433)
発明の名称 相乗作用を有する生物致死性組成物  
代理人 田村 恭子  
代理人 松任谷 優子  
代理人 加藤 志麻子  
代理人 大野 聖二  
代理人 片山 英二  

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