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審決分類 審判 判定 同一 属さない(申立て不成立) E04B
管理番号 1258127
判定請求番号 判定2012-600005  
総通号数 151 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許判定公報 
発行日 2012-07-27 
種別 判定 
判定請求日 2012-02-28 
確定日 2012-06-14 
事件の表示 上記当事者間の特許第2618292号の判定請求事件について、次のとおり判定する。 
結論 (イ)号図面(甲第2?4号証)及びその説明書に示す「バルコニー」は、特許第2618292号発明の技術的範囲に属しない。 
理由 第1 判定請求人の請求の趣旨及び被請求人の答弁の趣旨
判定請求人は,請求の趣旨として,判定請求書に添付したイ号物件説明書に示すバルコニー「グランドシェピア」(商品名)(以下,「イ号物件」という。)は,特許第2618292号(以下,「本件特許」という。)の請求項1に係る発明(以下,「本件特許発明」という。)の技術的範囲に属するとの判定を求め,他方,被請求人は,答弁の趣旨として,イ号物件は,本件特許発明の技術的範囲に属さないとの判定を求めている。


第2 本件特許発明
本件特許発明は,特許明細書及び図面の記載からみて,その特許請求の範囲の請求項1に記載された以下のとおりのものである。

「【請求項1】根太掛けと左右の妻ばりとけたによって長方形に枠組みされた床部を構成する柱無しタイプのバルコニーにおいて,胴差しの左右の妻ばりの間に位置する箇所に複数のブラケットを固定し,該各ブラケットにそれぞれ梁を固定し,梁の先端をけたに固定して,上記のブラケットのみによってバルコニーを支持し,該複数の梁の上方に,左右の妻ばり間で連続したデッキ材を配置した構造を有することを特徴とするバルコニー。」

そして,本件特許発明を構成要件に分説すると次のとおりである。
「構成要件A1 根太掛けと左右の妻ばりとけたによって長方形に枠組みされた床部を構成する
構成要件A2 柱無しタイプのバルコニーにおいて,
構成要件B 胴差しの左右の妻ばりの間に位置する箇所に複数のブラケットを固定し,
構成要件C 該各ブラケットにそれぞれ梁を固定し,
構成要件D 梁の先端をけたに固定して,
構成要件E 上記のブラケットのみによってバルコニーを支持し,
構成要件F 該複数の梁の上方に,左右の妻ばり間で連続したデッキ材を配置した構造を有することを特徴とする
バルコニー。」


第3 イ号物件
判定請求書に添付して提出されたイ号物件の説明書には,本件特許発明の各構成要件に対応して以下のように記載されている。なお,本件特許発明の記載とイ号物件の記載が混用されているので,イ号物件の記載に整理する。
「要素A:根太掛け(A5)と左右の妻ばり(A6a,A6b)とけた(A7)によって長方形に枠組みされた床部(A1a)を構成する柱無しタイプのバルコニー
要素B:胴差し(A3)の左右の妻ばり(A6a,A6b)の間に位置する箇所に複数の先付け金具(A9)を固定
要素C:各先付け金具(A9)にそれぞれ先付け金具カバー(A8)を固定
要素D:先付け金具カバー(A8)の先端をけた(A7)に固定
要素E:先付け金具(A9)によってバルコニーを支持
要素F:複数の先付け金具カバー(A8)の上方に,左右の妻ばり(A6a,A6b)間で連続したデッキ材(A41)を配置」

上記イ号物件の説明書,及び甲第2?4号証の図面及び記載に基づき,請求人が請求書に記載したもの及び被請求人の主張並びに乙号証を参酌して,イ号物件の構成を特定する。なお,符号は請求人が付したものを用いる。

1 要素Aを構成要件A1と構成要件A2に対応する部分に分けることとする。
そうすると構成要件A1に対応するイ号物件の構成は,請求人によれば「根太掛け(A5)と左右の妻ばり(A6a,A6b)とけた(A7)によって長方形に枠組みされた床部(A1a)を構成する」であるが,甲第4号証を参酌すると以下のとおりである。
すなわち,甲第4号証180ページからみて,左右の妻ばり(A6a,A6b)と桁(A7)は固定されており,コの字型部材を形成している。また,同号証178,179ページからみて,根太掛け(A5)は妻ばり(A6a,A6b)と先付け金具(A9)との間にある複数の間隔に分割されて配置され,ねじにより胴差し(A3)へ直接固定されており,妻ばり(A6a,A6b)や桁(A7),先付け金具(A9)とは構造的に分離されていると認められる。
請求人は請求書5ページにおいて,甲第4号証の184ページでは,根太掛け(A5)と左右の妻ばり(A6a,A6b)と桁(A7)によって長方形に枠組みされた床部(A1a)を構成することが特定されるとしているが,枠組みされた床部のように見えるのは甲第4号証182ページの「根太掛けカバー」を取り付けているからであって,根太掛け(A5)は胴差し(A3)へ直接固定されており,妻ばり(A6a,A6b)とは構造的に固定されていない。甲第4号証の179ページ右下部「納まり図(1:5)」などでは,妻ばり補助と根太掛け,先付け金属カバー補助の間を帯状のものでつないでいるようにみえるが,枠組みされた床部を形成するような構造的なものであるとは認められない。
そうすると,構成要件A1に対応するイ号物件の構成は次のとおりである。
「左右の妻ばり(A6a,A6b)と桁(A7)によって形成されるコの字型部材と,複数に分割され,かつ,妻ばり(A6a,A6b)と床部を構成するまでには構造的に連結されていない,ねじにより胴差し(A3)へ直接固定される根太掛け(A5)とを有する」(以下,「構成a1」という。)

2 構成要件A2に対応するイ号物件の構成については,甲第2号証下部の「グランドシェピア」と記載された写真,「・・・柱なしバルコニーです。」との記載,及び甲第4号証に柱が記載されていないことからみて,イ号物件の説明書に記載されたとおりの,以下の構成であると認める。
「柱無しタイプのバルコニー」(以下,「構成a2」という。)

3 甲第3号証44,45,48,50,54ページ,甲第4号証179,184ページからみて,構成要件Bに対応するイ号物件の構成は,イ号物件の説明書における要素Bのとおりの,次の構成であると認める。
「胴差し(A3)の左右の妻ばり(A6a,A6b)の間に位置する箇所に複数の先付け金具(A9)を固定」(以下,「構成b」)という。)

4 請求人によれば構成要件Cに対応するイ号物件の構成は,要素Cの「各先付け金具(A9)にそれぞれ先付け金具カバー(A8)を固定」であるが,甲第4号証及び乙号証,イ号物件の説明書の<補足>を参酌すると,以下のとおりである。
すなわち,甲第4号証178ページからみて,先付け金具は先付け金具カバーで覆われている。そして,乙第3号証の1,乙第3号証の5に示されているように,先付け金具と先付け金具カバーはほぼ同じ長さであり,乙第10号証の1に示されているように,先付け金具と先付け金具カバーの先端は桁接続金具を介して桁に固定されている。また,請求人は「イ号物件の説明書」の下部に補足として「補足1:ブラケット(A9)(先付け金具)は鋼鉄製ブラケットであった。」と記載している。以上を総合すると,構成要件Cに対応するイ号物件の構成は次のとおりである。
「各先付け金具(A9)は鋼鉄製であって,その略全長に亘ってそれぞれ先付け金具カバー(A8)を固定」(以下,「構成c」という。)

5 請求人によれば構成要件Dに対応するイ号物件の構成は,要素Dの「先付け金具カバー(A8)の先端をけた(A7)に固定」であるが,甲第4号証及び乙号証を参酌すると,以下のとおりである。
すなわち,上記したように先付け金具と先付け金具カバーの先端は桁接続金具を介して桁に固定されている。そうすると,甲第4号証180ページからみて,構成要件Dに対応するイ号物件の構成は以下のとおりである。
「先付け金具カバー(A8)と先付け金具(A9)の先端を桁(A7)に固定」(以下,「構成d」という。)

6 請求人によれば構成要件Eに対応するイ号物件の構成は,要素Eの「先付け金具(A9)によってバルコニーを支持」であるが,甲第3,4号証を参酌すると,以下のとおりである。
すなわち,上記「1」で示したように,根太掛け(A5)は,ねじにより胴差し(A3)へ直接固定されており,根太を載せてバルコニーを支えている。また,根太掛け(A5)は先付け金具(A9)に載置されていない。そして,甲第3号証44,45,48,50ページで先付け金具(A9)が胴差し(A3)に強固に取付けられていること,甲第4号証179,180ページで桁(A7)等のバルコニーの構成が直接的あるいは間接的に先付け金具(A9)に接続され,184ページでバルコニーの構成である根太を桁(A7)と根太掛け(A5)に載置して,185ページでその上にバルコニーの構成であるデッキ材(A41)が載置されていることからみて,構成要件Eに対応するイ号物件の構成は次のとおりである。
「先付け金具(A9)と,ねじにより胴差し(A3)へ直接固定されて,先付け金具(A9)には載置されていない根太掛け(A5)とによってバルコニーを支持」(以下,「構成e」という。)

7 甲第4号証185ページからみて,構成要件Fに対応するイ号物件の構成は,イ号物件の説明書における要素Fのとおりの次の構成であると認める。
「複数の先付け金具カバー(A8)の上方に,左右の妻ばり(A6a,A6b)間で連続したデッキ材(A41)を配置」(以下,「構成f」という。)

8 以上のことからみて,イ号物件は以下のとおりのものと認められる。
【イ号物件】
「構成a1 左右の妻ばり(A6a,A6b)と桁(A7)によって形成されるコの字型部材と,複数に分割され,かつ,妻ばり(A6a,A6b)と床部を構成するまでには構造的に連結されていない,ねじにより胴差し(A3)へ直接固定される根太掛け(A5)とを有する,
構成a2 柱のないバルコニーであって,
構成b 胴差し(A3)の左右の妻ばり(A6a,A6b)の間に位置する箇所に複数の先付け金具(A9)を固定し,
構成c 各先付け金具(A9)は鋼鉄製であって,その略全長に亘ってそれぞれ先付け金具カバー(A8)を固定し,
構成d 先付け金具カバー(A8)と先付け金具(A9)の先端を桁(A7)に固定し,
構成e 先付け金具(A9)と,ねじにより胴差し(A3)へ直接固定されて,先付け金具(A9)には載置されていない根太掛け(A5)とによってバルコニーを支持し,
構成f 複数の先付け金具カバー(A8)の上方に,左右の妻ばり(A6a,A6b)間で連続したデッキ材(A41)を配置した
バルコニー。」


第4 当事者の主張
1 請求人の主張
請求人は,判定請求書及び平成24年5月29日受付の上申書において,概略次の理由によりイ号物件は,本件特許発明の技術的範囲に属する旨主張している。

(1)請求人が認定した要素Aは,本件特許発明の構成要件A1,A2を充足する。
(2)請求人が認定した要素B?D,Fは,それぞれ本件特許発明の構成要件B?D,Fを充足する。
(3)本件特許発明の構成要件Eについては,請求人が認定した要素Eが構成要件Eの「ブラケット”のみ”」といえるか否かが問題となるが,要素Eは「ブラケット”のみ”」と解釈することができ,要素Eは構成要件Eを充足する。
(4)均等侵害にて検討した場合であっても,イ号物件は本件特許発明と均等であるから,イ号物件は本件特許発明の技術的範囲に属する。

2.被請求人の主張
被請求人は,概略次のように主張している。
(1)イ号物件の特定
「グランドシェピア」には〔標準タイプ〕,〔片袖壁タイプ〕,〔両袖壁タイプ〕の3種があり,それぞれ構成が異なっている。しかし,何れのものも特許第2618292号の技術範囲に属さない。
(2)本件特許発明の「根太掛けと左右の妻ばりとけたによって長方形に枠組みされた床部」に対応する構成について
「グランドシェピア」〔標準タイプ〕根太掛けは複数に分割され,かつ左右の妻ばりとは結合されていない。したがって,「グランドシェピア」〔標準タイプ〕は「根太掛けと左右の妻ばりと桁によって長方形に枠組みされた床部」を有していない。
(3)本件特許発明の「ブラケットに梁を固定する」に対応する構成について
乙第3号証の1,乙第3号証の5が示すように,先付け金具と先付け金具カバーはほぼ同じ長さであり,乙第4号証の1等に見るように先付け金具と先付け金具カバーとは胴差しから桁まで連続して延び,先付け金具の先端は桁接続金具を介して桁に固定されている。乙4号証の3で先付け金具カバーと先付け金具がともに断面として見えていることからも,先付け金具が桁の位置まで延びていることは明らかである。したがって,「グランドシェピア」〔標準タイプ〕は「ブラケットに梁を固定する」という構成ではない。
(4)本件特許発明の「ブラケットのみによってバルコニーを支持」に対応する構成について
左右の妻ばり(A6a,A6b)は妻ばり補助,妻ばり・連結根太取付金具を介して胴差しへ固定され,根太掛け(A5)は甲第4号証178,179ページに示されているように十字穴付コーチねじにより胴差し(A3)に固定され,根太の基端が根太掛け(A5)上に載置されて固定されているから,先付け金具と左右の妻ばり及び根太掛け並びに根太によってバルコニーの荷重を分散支持している。すなわち,先付け金具が負担する荷重は66.8%であって,先付け金具のみでバルコニーの荷重を支持していない。
「のみ」との用語は広辞苑によれば「そのこと一つに限り,他を全く無視する。」,「だけ。ばかり。」という意味である。また,審査・審判の経緯からみて,出願人の意思により「複数の梁によりバルコニーを支持」を「ブラケットのみによってバルコニーを支持」へ,すなわち,ブラケットのみでバルコニー全体の荷重を支持し,左右の妻ばりなどには荷重を負担させない構造へと本件特許発明を明確にしていったことが分かる。
したがって,「ブラケットのみによってバルコニーを支持」が他の部材によってもバルコニーが支持されることを除外するものではない,との主張は許されない。
(5)〔片袖壁タイプ〕,〔両袖壁タイプ〕について
「グランドシェピア」〔片袖壁タイプ〕,〔両袖壁タイプ〕は〔標準タイプ〕よりさらに構成要件を充足しないものであり,本件特許発明の技術範囲に属さない。


第5 本件特許発明について
1 対比・判断
本件特許発明と当審で認定したイ号物件とを対比する。
(1)争いのない点
イ号物件の構成a2,bは,本件特許発明の構成要件A2,Bを充足しており,この点について当事者間に争いはないものと認められる。

(2)イ号物件の構成a1と本件特許発明の構成要件A1
構成要件A1に対応するイ号物件の構成は,「第3 1」で示したように構成a1であって,請求人が主張する要素Aの前半部分ではない。そして,構成a1は根太掛け(A5)が複数に分割され,しかも妻ばりと床部を構成するまでには構造的に連結されていないから,「根太掛けと左右の妻ばりとけたによって長方形に枠組みされ」たものではない。
したがって,構成a1は構成要件A1を充足しない。

(3)イ号物件の構成cと本件特許発明の構成要件C
構成要件Cに対応するイ号物件の構成は,「第3 4」で示したように構成cであって,請求人が主張する要素Cではない。
ここで,「梁」とは荷重を支える構造部材である。そして,桁まで達して固定される先付け金具(A9)は鋼鉄製であって丈夫な構造であり,梁としての役割を果たしていると認められる。一方で,先付け金具カバー(A8)は,先付け金具(A9)のカバーであって,ブラケットに固定されて床を支える構造材として機能しているとは認められない。この点,本願特許明細書及び図面では図1においてブラケット9はけた7まで達しておらず,そのことにより梁8なしで構造的にけた7やデッキ材41を支えられないと認められる本件特許発明と,イ号物件の先付け金具カバー(A8)とは明らかに異なっている。以上のことから,イ号物件の「先付け金具カバー(A8)」は,本件特許発明の「梁」ではない。
したがって,構成cは構成要件Cを充足しない。

(4)イ号物件の構成dと本件特許発明の構成要件D
構成要件Dに対応するイ号物件の構成は,「第3 5」で示したように構成dであって,請求人が主張する要素Dではない。そして,先付け金具カバー(A8)の先端は,先付け金具(A9)と一緒に桁(A7)に固定されていると認められるが,上記(3)で示したように,イ号物件の「先付け金具カバー(A8)」は本件特許発明の「梁」ではない。
したがって,構成dは構成要件Dを充足しない。

(5)イ号物件の構成eと本件特許発明の構成要件E
構成要件Eに対応するイ号物件の構成は,「第3 6」で示したように構成eであって,請求人が主張する要素Eではない。そして構成eでは,「先付け金具(A9)と,ねじにより胴差し(A3)へ直接固定されて,先付け金具(A9)には載置されていない根太掛け(A5)とによってバルコニーを支持し」ているから,「ブラケットのみによってバルコニーを支持」しているとはいえない。この点,本件特許明細書及び図面では,【0009】に「前記根太掛け5は,図4(B)に示すように,その下面に梁8の幅に相当する切欠き15を有し,該切欠き15を梁8の基部に嵌合して梁8に支持させ,木ねじ16により該根太掛け5を胴差し3に固定する。」とあり,図4(B)で根太掛け5が梁8に載置されている。根太掛け5は木ねじ16により胴差しに固定されているが,図1で木ねじ16が2本しかないことからみて,単に係止のためのねじであり,本件特許明細書及び図面では,根太掛け5からの荷重は実質的にブラケット9で受けていると認められ,「ブラケットのみによってバルコニーを支持」している。
請求人は平成24年5月29日受付の上申書の4.において,被請求人が答弁書で示した荷重の負担割合の数値は,被請求人の独自手法による計算によるものであり,信憑性に乏しい旨の主張をしているが,イ号物件では荷重の計算をするまでもなく,実質的にみて根太掛けによってもバルコニーを支持しているものと認められる。
なお,請求人は,請求書9ページ2行?5行において,「妻ばりが,躯体側に留め付けられているとすれば,バルコニーに作用する荷重は,ブラケットに対して作用するのみならず,当該ブラケットに連結される妻ばりに対しても作用することになることから,妻ばりによっても当然にバルコニーに作用する荷重が支持される」と主張し,上記上申書の4.においても,本件特許明細書における実施例の躯体側に留め付けられている構成からみて,本件特許発明は妻ばりにも荷重が作用するものであるとの同様の趣旨の主張をしてしている。しかしながら,甲第7号証の審判請求理由補充書の3ページ10行?12行に「ブラケットのみによりバルコニーを支持して妻ばりのある箇所のブラケットによってはバルコニーを建物には支持しない構造とした」との記載や,本件特許明細書の「妻ばり又は妻ばりの位置のブラケットによって,バルコニーを支持する構造とはしない。」【0013】との記載からみて,本件特許発明では妻ばりで受ける荷重があったとしても軽微であって,実質的にブラケットのみによってバルコニーを支持しているものと認められる。
したがって,構成eは構成要件Eを充足しない。

(6)イ号物件の構成fと本件特許発明の構成要件F
構成要件Fに対応するイ号物件の構成は,「第3 7」で示したように構成fであって,請求人が主張する要素Fではない。そして,(3)で示したように,先付け金具カバー(A8)は本件特許発明の「梁」ではない。
したがって,構成fは構成要件Fを充足しない。

2 均等について
請求人は請求書の12ページ?14ページで,構成要件Eの「のみ」との構成に関して均等侵害を主張しているので,以下に検討する。
最高裁平成6年(オ)第1083号判決(平成10年2月24日判決言渡,民集52巻1号113頁)は,特許発明の特許請求の範囲に記載された構成中に,相手方が製造等をする製品又は用いる方法(以下「対象製品等」という)と異なる部分が存在する場合であっても,以下の要件の全てを満たす対象製品等は,特許請求の範囲に記載された製品等と均等なものとして,特許発明の技術的範囲に属するものと解するのが相当であるとしている。
積極的要件
(1)相違部分が,特許発明の本質的な部分でない。
(2)相違部分を対象製品等の対応部分と置き換えても,特許発明の目的を達することでき,同一の作用効果を奏する。
(3)対象製品等の製造時に,異なる部分を置換することを,当業者が容易に想到できる。
消極的要件
(4)対象製品等が,出願時における公知技術と同一又は当業者が容易に推考することができたものではない。
(5)対象製品等が特許発明の出願手続において,特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たる等の特段の事情がない。

まず(1)の要件について検討する。
本件特許発明は,ブラケットについては以下のように特定したものである。
構成要件B 胴差しの左右の妻ばりの間に位置する箇所に複数のブラケットを固定し,
構成要件E 上記のブラケットのみによってバルコニーを支持し,
以上の構成要件から,本件特許発明には,「左右の妻ばりの間に位置する箇所に固定した複数のブラケットのみによってバルコニーを支持」するという構成要件があると認められる。
そして,本件特許明細書の【0003】【発明が解決しようとする課題】には,以下の記載がある。
「床部両端でバルコニーを支持する構造では,特に木造住宅に施工する場合には,ブラケットを柱に固定する必要があるため,建物の入隅部にブラケットを取付けることが不可能であり,片入隅部あるいは両入隅部にバルコニーを取付けることができないという問題点があった。また,出隅部にブラケットを取付ける場合,柱に対してその両側の胴差しが直角をなして結合されているため,ブラケットを固定するためのボルトを柱に貫通して取付けることができず,胴差しの端部に貫通しなければならないため,ブラケットの構造が複雑化し,かつサイディングの取付けが困難になるという問題点があった。」
さらに,【0015】【発明の効果】には,以下の記載がある。
「本発明によれば,妻ばりの内側の複数本の梁を,胴差しに固定した複数本のブラケットにそれぞれ固定し,該ブラケットのみによりバルコニーを支持して妻ばりのある箇所のブラケットによってはバルコニーを建物には支持しない構造としたので,片入隅部,両入隅部のいずれかにもバルコニーを取付けることが可能となる。また,胴差しに取付けるブラケットの構造は,柱に取付けるものに比較して,貫通ボルトによる簡単な取付け構造ですむため,サイディングの取付けが容易となる。」
以上の記載からみて,本件特許発明における構成要件である「左右の妻ばりの間に位置する箇所に固定した複数のブラケットのみによってバルコニーを支持」することは,本件特許発明の「片入隅部あるいは両入隅部にバルコニーを取付けることができないという問題点があった。」,「ブラケットの構造が複雑化し,かつサイディングの取付けが困難になるという問題点があった。」との課題を解決し,「片入隅部,両入隅部のいずれかにもバルコニーを取付けることが可能となる。」,「サイディングの取付けが容易となる。」との効果を奏するために不可欠の構成であり,「のみ」との部分を含めて本件特許発明の本質的な部分であると認められる。
請求人は請求書の12ページにおいて,「のみ」の用語はブラケットによって支持される度合いを表現するための修飾的な表現に過ぎず,本質的部分ではないと主張しているが,「のみ」は実質的にブラケットのみで支持されていることを意味するものと認められ,本件特許発明の本質的な構成でないということはできない。
したがって,要件(1)を満たさない。

次に(2)の要件について検討する。
本件特許明細書の【0004】には「現場の建物の構造に応じて容易に取付け可能で,施工性が良く,さらに,外観並びに安全性の向上が達成できるバルコニーを提供することを目的とする。」と記載されており,「ブラケットのみによってバルコニーを支持」する構成は,「施工性が良く」との作用効果を奏している。そして,イ号物件のように根太掛けを胴差しに直接固定するものと置き換えると,複数の根太掛けを多数のねじ等により胴差しに荷重に耐えられるよう固定することが必要であり,「ブラケットのみによってバルコニーを支持」することによるのと同等の「施工性が良く」との作用効果を奏することはできない。
したがって,要件(2)を満たさない。

(5)の要件について検討する。
「のみ」は平成7年6月27日付け手続補正書(甲第6号証)により請求項に記載されたものであって,同日に提出された審判請求理由補充書(甲第7号証)の5ページには「しかしながら,1セットのバルコニーにおいて,床部両端の妻ばり間の中間の複数箇所のみでバルコニーを支持するものはなく,そして,バルコニーを支持するブラケットに固定された梁の上方にデッキ材があるものなどはない。」と記載していることからみて,「ブラケットのみによってバルコニーを支持し」ないものは,特許請求の範囲から意識的に除外されたものである。
したがって,要件(5)を満たさない。

以上のとおりであって,イ号物件は,要件(1),(2),(5)を満たしていないことから,他の要件を検討するまでもなく,イ号物件は本件特許発明と均等であるとすることはできない。

3 イ号物件に対応する「グランドシェピア」のタイプについて
被請求人は答弁書3ページ28行?32行において,「グランドシェピア」には〔標準タイプ〕,〔片袖壁タイプ〕,〔両袖壁タイプ〕の3種があり,それぞれ構成が異なっており,どのタイプのものを指して主張しているのか不明であると記載している。しかしながら,甲第2?4号証に記載されたものは袖壁に接していないことからみて,イ号物件は〔標準タイプ〕であると認められる。


第6 むすび
以上のとおり,イ号物件は,本件特許発明の構成要件A1,C?Fを充足しないから,本件特許発明の技術的範囲に属しない。
よって,結論のとおり判定する。
 
別掲
 
判定日 2012-06-05 
出願番号 特願平3-56179
審決分類 P 1 2・ 1- ZB (E04B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 中田 誠  
特許庁審判長 鈴野 幹夫
特許庁審判官 中川 真一
横井 巨人
登録日 1997-03-11 
登録番号 特許第2618292号(P2618292)
発明の名称 バルコニー  
代理人 あいわ特許業務法人  
代理人 大上 寛  

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