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審判番号(事件番号) | データベース | 権利 |
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無効2007800105 | 審決 | 特許 |
無効2011800160 | 審決 | 特許 |
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審決分類 |
審判 全部無効 特120条の4、2項訂正請求(平成8年1月1日以降) G01N 審判 全部無効 2項進歩性 G01N 審判 全部無効 (特120条の4,3項)(平成8年1月1日以降) G01N 審判 全部無効 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 G01N 審判 全部無効 特36条4項詳細な説明の記載不備 G01N 審判 全部無効 1項3号刊行物記載 G01N |
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管理番号 | 1258458 |
審判番号 | 無効2010-800182 |
総通号数 | 152 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2012-08-31 |
種別 | 無効の審決 |
審判請求日 | 2010-10-07 |
確定日 | 2012-04-11 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 上記当事者間の特許第4362837号発明「病原性プリオン蛋白質の検出方法」の特許無効審判事件について,次のとおり審決する。 |
結論 | 訂正を認める。 特許第4362837号の請求項1ないし4に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は,被請求人の負担とする。 |
理由 |
第1 手続の経緯の概要 本件特許第4362837号についての出願は,平成9年7月18日に出願した特願平9-193801号の一部を平成16年8月9日に新たな出願である特願2004-231819号とし,さらにその一部を平成19年9月14日に新たな出願である特願2007-239265号としたものであって, 平成21年 8月28日 :特許権の設定登録 平成22年10月 7日 :審判請求書及び 甲第1ないし10号証,参考資料1提出 平成22年12月24日 :答弁書及び乙第1ないし3号証提出 同日 :訂正請求書提出 平成23年 2月14日 :弁駁書及び甲第11ないし20号証提出 上申書と共に平成22年(ワ)第30777 号において提出された書面の写し提出 平成23年 3月 4日 :口頭審理審理事項通知 平成23年 4月28日 :請求人口頭審理陳述要領書提出 上申書と共に平成22年(ワ)第30777 号において提出された書面の写し提出 平成23年 4月28日 :被請求人口頭審理陳述要領書及び 乙第4ないし10号証提出 平成23年 5月31日 :上申書(請求人)提出 第2 訂正の適否 1 訂正事項 平成22年12月24日付け訂正請求は,本件特許明細書を訂正請求書に添付した訂正明細書のとおりに訂正しようとするものであって,その訂正の内容は次のとおりである。 本件特許明細書の特許請求の範囲の請求項1 「【請求項1】 動物の中枢神経系組織から病原性プリオン蛋白質を酵素免疫吸着測定法により検出する方法であって, t-オクチルフェノキシポリエトキシエタノール(トリトン(商標)X-100)及びサーコシル(商標)を同時に用いて前記中枢神経系組織中の非特異的物質を可溶化することと, 前記可溶化された非特異的物質をプロテアーゼを用いて分解処理することと, 超遠心分離処理を除く遠心分離処理を行うことにより前記分解処理により得られたものから病原性プリオン蛋白質由来蛋白質を含有する濃縮物を得ることと, 前記濃縮物を酵素免疫吸着測定法により検出することと を含む病原性プリオン蛋白質の検出方法。」を 「【請求項1】 動物の中枢神経系組織から病原性プリオン蛋白質を酵素免疫吸着測定法により検出する方法であって, t-オクチルフェノキシポリエトキシエタノール(トリトン(商標)X-100)及びサーコシル(商標)を同時に用いて前記中枢神経系組織中の非特異的物質を可溶化することと, 前記可溶化された非特異的物質をプロテアーゼを用いて分解処理することと, 超遠心分離処理を除く遠心分離処理を行うことにより前記分解処理により得られたものから病原性プリオン蛋白質由来蛋白質を含有する濃縮物を得ることと, 前記濃縮物を洗浄することなく溶解液とし,再沈殿させることなく酵素免疫吸着測定法により検出することと を含む病原性プリオン蛋白質の検出方法。」 と訂正する。(下線は訂正箇所を示す。) 2 訂正の目的の適否,新規事項追加の有無,及び特許請求の範囲の実質上の拡張又は変更の存否 (1)訂正の目的 ア 訂正事項の,濃縮物を「洗浄することなく」について,本件明細書には「【0050】次に,前記第3の工程として,前記第2の工程で分解された前記均一化物から前記病原性プリオン蛋白質由来蛋白質を含有する濃縮物を得る分離工程を有しているので,上記の第1の工程及び第2の工程で十分に均一化及び分解された前記病原性プリオン蛋白質由来蛋白質を含有する物質を効率的に分離することができる。」,及び「【0055】また,前記濃縮工程中に,前記第3の工程で得られた前記病原性プリオン蛋白質由来蛋白質を含有する濃縮物を界面活性剤で洗浄する洗浄工程を更に有することが望ましい。【0056】 即ち,前記濃縮物(例えばペレット状)の付加的な洗浄工程として,界面活性剤を用いて前記濃縮物を洗浄することによって,前記濃縮物中の不所望の物質(非特異性物質)をさらに多く除去することができる。」と記載され,第3の工程である分離工程で病原性プリオン蛋白質由来蛋白質を含有する物質を分離することができるが,分離した濃縮物を洗浄する洗浄工程を有することが望ましいことが記載され,さらに,【図2】には【方法4】として,【図3】には【方法7】として,洗浄工程を有さない方法が記載されていることから,この洗浄工程は省くことができるといえ,濃縮物に対する処理について「洗浄することなく」と減縮した補正といえる。 イ 訂正事項の「溶解液」について,「溶解液」という用語は明細書で使われていないが,本件明細書の「【0060】まず,前記第4の工程として,前記病原性プリオン蛋白質由来蛋白質を含有する濃縮物を溶剤に溶解して前記濃縮物の溶解物を得る工程(溶解工程)を有しているので,次段の吸着工程で吸着面に吸着され易い病原性プリオン蛋白質由来蛋白質の濃縮物を作製することができる。【0061】ここで,前記溶剤としてグアニジンチオシアネート(GdnSCN)を使用することが望ましい。」との記載から,第4の工程(溶解工程)で,濃縮物をGdnSCN-PBS等の溶剤に溶解して得られた溶解物が「溶解液」とするのが相当といえる。 ウ 訂正事項の「溶解液とし,再沈殿させることなく」は,時系列で記載されているといえ,「溶解液とし,再沈殿させることなく酵素免疫吸着測定法により検出する」は,溶解液とした後,再沈殿させないで溶解液をそのまま酵素免疫吸着測定法に用いることを規定したといえる。 そして,一般に,酵素免疫吸着測定法は,抗原(又は抗体)を溶液としてマイクロプレート等に適用し,溶液中の抗原(又は抗体)をマイクロプレート等に吸着させて分析する方法であることは,本件出願前の技術常識であるところ,本件明細書に「【0064】次に,前記第5の工程として,前記溶解物中の前記病原性プリオン蛋白質を吸着面に結合させる工程(結合工程)を有しており,前段で溶解された溶解物中の前記病原性プリオン蛋白質由来蛋白質由来蛋白質を,例えばマイクロタイタープレート(microtiter plate)などに吸着させることができる。従って,抗原-抗体複合体の形成のための強く特異的な反応をこの方法にて検出することができる。」と記載され,第5の工程(結合工程)で,溶解物つまり溶解液中の病原性プリオン蛋白質由来蛋白質をマイクロプレートに吸着させることが記載され,さらに本件明細書段落【0122】?【0134】に記載されたELISA法において, 「【0122】4.ELISA法 図4に示すように,マイクロタイタープレートへの適切な吸着条件を調べるために,まず,脳組織及び脾臓組織抽出物を,5%SDS:ドデシル硫酸ナトリウム中で10分間加熱沸騰させ(1),これを10倍容量以上の氷冷メタノール中で沈殿させた(2)。この組織抽出物は,通常,10?40mgの原組織を含有していた。但し,前記(数値)は,図4中の(数値)と対応するものである(以下,同様)。 【0123】 次いで,遠心分離処理(3)後,得られたペレット状沈殿物を100μlの異なる濃度(1?5M)のグアニジンチオシアネート(グアニジンチオシアン酸エステル:GdnSCN),PBS(リン酸緩衝生理食塩水:最終pH≦5)中で超音波溶解させた(4)。ここまでの工程(1)?(4)は上述した第4の工程に相当するものである。 【0124】 また,図5に示すように,溶剤としてSDSを用いた場合の測定を行うために,GdnSCNの使用に変えて,ペレットを100μlの異なる濃度(0.1?4%(vol/vol))のSDS,PBS(最終pH≦5)中に溶解させた。 【0125】 次いで,それぞれの溶液を,96穴丸底マキシソープ免疫プレート(商品名:Maxisorp immuno plate:Nunc)上に分布させ,室温で一晩,振揺下で培養した(5)(なお,例えばコーニング社製ELISAプレート高結合型430452を用いてもよい)。」 と記載され,沈殿物をGdnSCN-PBSで溶解させた溶液を免疫プレート上に分布させ振揺培養したことが記載され(特に段落【0124】【0125】),再沈殿といえる工程を有していないことからも,上記解釈は支持されるといえる。 エ まとめ 上記ア?ウから,本件訂正は,訂正前は,濃縮物に対する洗浄工程を付加する場合及び付加しない場合を含んでいたところを,洗浄工程を付加しない場合に限定するものであり,さらに,訂正前の「前記濃縮物を酵素免疫吸着測定法により検出すること」を,濃縮物をそのまま酵素免疫吸着測定法に用いることは通常ないことから,「溶解液とし,再沈殿させることなく」用いることを明りょうにするものであるから,特許請求の範囲の減縮及び明りょうでない記載の釈明を目的としたものといえる。 (2)新規事項追加の有無,及び特許請求の範囲の実質上の拡張又は変更 ア 訂正後の請求項1に,5%SDSに加熱溶解し,メタノール中で沈殿させる操作が包含されるか否かについて 本件明細書段落【0122】?【0123】,【図4】の記載からみて,5%SDSに加熱溶解し,メタノール中で沈殿させる操作は,濃縮物を溶解液とするより前に行われるものである。そして,濃縮物を5%SDSに加熱溶解し,メタノール中で沈殿させる操作は,通常変性操作と考えられるところ,甲第14号証にスクレーピープリオンを1?2%SDS中で沸騰させることにより変性を起こさせることが記載されていることからみて,プリオン蛋白質においても変性操作であるといえる。そして,付随的にメタノールに可溶な不純物が除去されたとしても,この操作を濃縮物に対する「洗浄」操作であるとすることはできない。 そうすると,「前記濃縮物を洗浄することなく溶解液とし,再沈殿させることなく酵素免疫吸着測定法により検出することと」という訂正後の構成においても,濃縮物を5%SDSに加熱溶解し,メタノール中で沈殿させる操作を排除することはないといえ,訂正前後で5%SDSに加熱溶解し,メタノール中で沈殿させる操作の有無について変わることはない。 したがって,本件訂正は,新規事項を追加するものではない。 イ まとめ 上記「(1)ア」ないし「(1)ウ」,及び「(2)ア」に記載したように,本件明細書段落【0050】,【0055】?【0056】,【0060】?【0061】,【0064】,【0122】?【0134】,【図2】,【図3】及び【図4】の記載事項からみて,本件訂正は,願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内においてなされたものであり,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものでもない。 3 訂正請求に対する結論 以上のとおり,本件訂正は特許法第134条の2第1項ただし書,及び同条第5項において準用する特許法第126条第3項及び第4項の規定に適合するので,当該訂正を認める。 第3 請求人の主張の概要 請求人は,本件の請求項1ないし4に係る発明について特許を無効とする,審判費用は被請求人の負担とするとの審決を求め,審判請求書と共に甲第1号証ないし甲第10号証及び参考資料1を提出し,弁駁書と共に甲第11ないし20号証提出し,さらに口頭審理陳述要領書を提出し,本件請求項1ないし4に係る特許発明は,甲第2号証に記載された発明と同一であり,特許法第29条第1項第3号の規定により特許を受けることができないものである(無効理由1,4)。また,甲第1号証と甲第3号証に記載された発明,又は甲第2号証と甲第3号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである(無効理由2,4)。さらに,本件特許明細書は,特許法第36条第4項,第6項第1号及び第2号に規定する要件を満たしていない(無効理由3,5)。 したがって,本件特許は同法第123条第1項第2号及び第4号に該当し,無効とすべきものであると主張している。 また,弁駁書及び口頭審理陳述要領書において,訂正は新規事項を追加するものであり認められるべきでないと主張している。 請求人が提出した証拠方法は以下のとおりである。 (甲第1号証) Kai-Uwe D.Grathwohl,Motohiro Horiuchi,Naotaka Ishiguro,Morikazu Shinagawa,“Sensitive enzyme-linked immunosorbent assay for detection of PrP^(Sc) in crude tissue extracts from scrapie-affected mice”,Journal of Virolobical Methods,Vol.64,March 1997,p.205-216 (甲第2号証) Grathwohl.Kai-Uwe D.,堀内基広,石黒直隆,品川森一,”PrP^(Sc)高感度検出法の開発:ELISAの検討”,第44回日本ウイルス学会総会 1996年10月23日(水)-25日(金) 静岡市民文化会館 アブストラクト,第99頁1E11 (甲第3号証): 品川森一,“総説 動物のプリオン病”,山口獣医学雑誌,第23号,1996,p.1-16 (甲第4号証) ベックマン・コールター株式会社ウェブサイトにおける「TLA 100.3」ローターの説明,http://www.beckmancoulter.co.jp/product/product01/tla100 3.html (甲第5号証) 化学大辞典(縮刷版),1989年8月15日発行,共立出版株式会社,第944頁右欄下から8行?第945頁左欄9行,「超遠心分離」の項 (甲第6号証) 科学大辞典,昭和60年3月5日発行,丸善株式会社,第895頁右欄5?10行,「超遠心分離」の項 (甲第7号証) 最新医学大辞典 第2版,1996年3月31日発行,医歯薬出版株式会社,第1129頁左欄下から3行?中欄5行,「超遠心[分離]」の項 (甲第8号証) 遺伝子工学ワーキングブック,初版,1996年4月25日発行,羊土社,第248頁左欄,「超遠心」の項 (甲第9号証) 日経バイオ最新用語辞典,第4版,1995年6月30日発行,日経BP社,第429頁右欄[超遠心法]の項 (甲第10号証) JIS 生体工学用語(生体化学部門) JIS K3610^(-1992) (2002確認),平成6年2月20日,第2刷発行 (甲第11号証) 平成6・8・10・11年改正 工業所有権法の解説,平成17年3月1日発行,社団法人発明協会,第97-99頁 (甲第12号証) 科学大辞典,昭和60年3月5日発行,丸善株式会社,第772頁左欄,「せんじょう(洗浄)」の項 (甲第13号証) 化学大辞典 5,1989年8月15日発行,共立出版株式会社,第454頁右欄「せんじょうこうか(洗浄効果)」の項 (甲第14号証) Prusiner,et.al.,“Scrapie prions aggregate to form amyloid-like birefringent rods”,Cell,Vol.35,No.2,1983,p.349-358 (甲第15号証) Motohiro Horiuchi,Noriko Yamazaki,Tetsuya Ikeda,Naotaka Ishiguro,Morikazu Shinagawa,“A cellular from of prion protein(PrP^(c))exists in many non-neuronal tissues of sheep”,Journal of General Virology,Vol.76,1995,p.2583-2587 (甲第16号証) Richard J.Kascsak,et.al.,“Mouse Polyclonal and Monoclonal Antibody to Scrapie-Associated Fibril Proteins”,Journal of Virology,vol.61,No.12,1987 (甲第17号証) 知財高判平成20年9月17日平成19(行ヶ)第10361号審決取消事件 判決 (甲第18号証) 知財高判平成14年3月14日平成9(行ヶ)第249号審決取消事件 判決 (甲第19号証) 知財高判平成20年9月8日平成19(行ヶ)第10307号審決取消事件 判決 (甲第20号証) David C.Bolton,et.al.,“Isolation and Structural Studies of the Intact Scrapie Agent Protein”,Archives of Biochemistry and Biophysics,Vol.258,No.2,1987,p.579-590 第4 被請求人の主張の概要 被請求人は,本件審判請求は成り立たない,審判の費用は請求人の負担とするとの審決を求め,答弁書と共に乙第1ないし3号証を提出すると共に,訂正請求書を提出し,さらに,口頭審理陳述要領書と共に乙第4ないし10号証を提出し,本件訂正は認められるべきであり,請求人の主張する理由及び証拠によっては本件訂正発明を無効とすることはできないと主張している。 被請求人の提出した証拠方法は以下のとおりである。 (乙第1号証) 大木道則他編 化学辞典,第1版第2刷,1995年5月10日発行,第213頁,第858頁 (乙第2号証) 阿南功一他編,基礎 生化学実験法2 抽出・分離・精製,昭和59年3月30日第7刷発行,丸善株式会社,第158-162頁 (乙第3号証)Byron W.Caughey,et.al.,“Secondary Structure Analysis of the Scrapie-Associated Protein PrP27-30 in Water by Infrared Spectroscopy”,Biochemistry,Vol.30,No.31,1991 (乙第4号証) 特許法等改正に関する上申書,特許管理,Vol.24,No.12,1974,p.1341-1343 (乙第5号証) 小野寺節,牛海綿状脳症,スローウイルス感染とプリオン,1995年2月15日初版発行,第268-282頁 (乙第6号証) 蛋白質 核酸 酵素,1994年8月号増刊 バイオ高性能機器導入・共同利用マニュアル,共立出版株式会社,第1734-1753頁 (乙第7号証) Kaname Takahashi,Morikazu Shinagawa,et.al.,“Purification of Scrapie Agent from Infected Animal Brains and Raising of Antibodies to the Purified Fraction”,Microbiol.Immunol.,Vol.30,No.2,1986,p.123-131 (乙第8号証) Gerd Multhaup,et.al.,The protein component of scrapie-associated fibrils is a glycosylated low molecular weight protein”,The EMBO Journal,Vol.4,No.6,1985,p.1495-1501 (乙第9号証) Horst Hilmert,et.al.,“A rapid and efficient method to enrich SAF-protein from scrapie brains of hamsters”,Bioscience Reports,Vol.4,1984,p.165-170 (乙第10号証) Platanus,vol.8,総合分析実験センターニュース,2005年9月1日発行,山梨大学 総合分析実験センター,p.1-8 第5 証拠の記載事項 甲第17ないし19号証は判決であるため記載事項は省略する。 (甲第1号証の記載事項の甲第1号証-1による訳文) 甲第1号証は本件出願前の1997年5月に頒布されたものであって, 「スクレピー感染マウス由来粗組織抽出物におけるPrP^(Sc)の検出のための高感度酵素結合免疫吸着アッセイ」と題し (1a)「脳組織を8%ズィッタージェント3-12及び0.5%サーコシル中でホモジナイズした。このホモジネートを,コラーゲナーゼ及びDNアーゼIで処理し,次にプロテイナーゼK消化に供した。PrP^(Sc)を含む沈殿物を,超遠心処理によって得た。」(第205頁 Abstract欄2?4行) (1b)「2.2. 脳及び脾臓組織からのPrP^(Sc)の抽出 4つの異なる抽出方法によって試料を調整した(図1)。これらはすべて,他に最初に記載された方法である(Grathwohl et al.,1996),本研究の方法2の改変版である。4つの全ての方法は,組織試料を,まず鋏で細切れにした後,コラゲナーゼ,DNアーゼI及びプロティナーゼKで消化すること,及び試料から可溶性の非特異的物質を遠心分離によって除去する目的で,均質化を非イオン性界面活性剤の存在下で行うことにおいて共通する。具体的には,方法1,2及び3においては,均質化緩衝液に4%(wt./vol)トリトンX-100を添加し,方法4においては均質化の間のトリトンX-100の代わりに8%(wt./vol)ズィッタージェント3-12を用いた。ズィッタージェント3-12は,方法3においても,望ましくない物質の更なる除去の目的のために,40,000r.p.m.(TLA 100.3ローター及びオプティマTLX デスクトップ型超遠心機,ベックマン)での遠心分離によって得られたペレットの付加的な洗浄工程として,使用された。方法2においては,PrP^(Sc)は,6.25%(wt./vol)サーコシルを用いて,pH9.2で抽出した。このpH値は以前記載されたよりも高いpHであり,ここではPrP^(Sc)の溶解性を高めるために用いられた。サーコシルの抽出後,再びPrP^(Sc)の溶解性を低減するために,10%(vol/vol)塩酸を用いてpHを中性に戻し,その後,12%(wt./vol)塩化ナトリウムでPrP^(Sc)の塩析を行い,最終の55,000r.p.m.での遠心分離工程によって,PrP^(Sc)をより濃縮された形態で含むペレットを生じた。サーコシル抽出及び塩化ナトリウムでのPrP^(Sc)の塩析は,調製手順を簡略化するために方法1,3及び4においては試験的に省略した。」(第206頁右欄下から8行?第208頁左欄4行) (1c) 「 」第207頁Fig.1 (1d)「2.4. ELISA法 マイクロタイタープレートへの適切な吸着条件を調べるため,脳組織及び脾臓組織抽出物(5%SDS中で煮沸したもの)を,10倍容量以上の氷冷メタノール中で沈殿させた。この組織抽出物は,典型的には,10?40mgの原組織に相当した。遠心分離処理の後,ペレットを100μlの異なる濃度(1?5M)のグアニジンチオシアネート(GdnSCN)のPBS(最終pH≦5)溶液中で超音波処理によって溶解させた。もう一つの方法として,ペレットは100μlの異なる濃度(0.1?4%(vol/vol))のSDSのPBS溶液(最終pH≦5)中で溶解させた。それぞれの調製物を,96穴丸底Maxisorp immunoplate(Nunc)上に分注し,室温(r.t.)で一晩,振揺下でインキュベートした。プレートをPBSで3回洗浄した後,PBS-5%脱脂乳中で1時間,37℃でブロッキングした。その後,プレートを0.05%トゥイーン20を含有するPBS(PBST)で3回洗浄した。ウサギ抗血清B-103(ホリウチ他,1995)を,33%硫酸アンモニウムでの沈殿処理後に,PBSでもとの容量に戻し,PBST-0.5%脱脂乳で1:2000に希釈し,100μlずつウエルに分注した;プレートを室温で1時間,振揺下でインキュベートした。プレートをPBSTで3回洗浄した後,抗原抗体複合体を,次に述べるようにして,アビジン-ビオチン-複合体(ABC)法(Vectastain Elite ABC Kit,ベクターラボラトリーズ社)により可視化した:ビオチン化した抗ウサギIgGをPBST-0.5%脱脂乳で1:1500に希釈し,100μlを加えて,ウエルを室温で1時間,振揺機上でインキュベートした。PBSTで4回洗浄し,PBSで1回洗浄した後,キットの成分A及びBをそれぞれ1:200の希釈率でPBSに加え,ウエル中に分注した。インキュベーションと洗浄を,ビオチン化された抗体に関して行った。100μlの基質溶液(100μg/mlの2,2’-アジノ-ビス(3-エチル-ベンズチアゾリン-6-スルホネート;ABTS)及び0.05Mクエン酸-リン酸緩衝液中の0.04%過酸化水素,pH4.0)とともに,室温で1時間,暗中でインキュベーションを行った後,マイクロプレートリーダー(モデル2250,バイオ-ラッド ラボラトリーズ社)により波長405ナノメートルでの発色を確認した。 ABC法に基づく方法に代えて,ホースラディッシュペルオキシダーゼ複合ロバ抗ウサギIgG(アマシャム社)100μlをPBST-0.5%脱脂乳中で1:800の希釈で用いてウエルをインキュベートした。インキュベーションと洗浄は,ビオチン化された抗体についての条件にしたがって行った。カットオフ値は,非感染マウスの組織抽出物でコーティングした4?8個の陰性のコントロールのウエルの平均光学密度(OD)に標準偏差の3倍を加算した値として定義した。」(第208頁左欄8行?右欄19行) (甲第2号証の記載事項) 甲第2号証は,1996年10月23日?25日に静岡市民文化会館で開催された第44回日本ウイルス学会総会のアブストラクトであり,平成23年5月31日付けで請求人が提出した上申書に添付された,同アブストラクトの第3頁に「事前登録 ・・・9月20日(金)までにお申込下さい。10月上旬に参加章のネームカードを送付致します。」と記載されていることから,上記開催期間の前に頒布されたものであることは明らかであり,本件出願前に頒布された刊行物であって (2a)「PrP^(Sc)高感度検出法の開発:ELISA法の検討 ○Grathwohl,Kai-Uwe D.,堀内基広,石黒直隆,品川森一(帯広畜産大,獣医公衆衛生) 目的と意義:我々はこれまでにスクレイピーに感染した動物の診断法としてWestern blot(WB)法によりPrP^(Sc)の検出を行ってきた。今回,WB法より簡便かつ高感度な方法の確立を目的として,ELISA法について検討したので報告する。 材料と方法:スクレイピー感染マウスの脳または脾臓を各濃度のTritonX-100(TX),あるいはZwittergent3-12(ZW)と0.5%Sarcosyl(SK)存在下でホモゲナイズし,collagenase処理(0.5mg/100mg組織,37℃,4?12hr),およびproteinaseK(PK)処理(50μg/100mg組織,37℃,1?2hr)を行ったのち,69,000xg,20min遠心した。生じた沈殿物を5%SDSにより溶解し,10倍量のメタノールにより沈殿させた。沈殿物を各種濃度のチオシアン酸グアニジン(GdnSCN)あるいはSDSで溶解し,マイクロプレートへ吸着させた。一次抗体はB-103抗PrP合成ペプチドウサギ血清を用いた。Avidin-biotin-complex(ABC)法により抗原抗体複合物を検出した。 結果と考察:まず,試料調製に使用する界面活性剤について検討した。各種濃度のTX/0.5%SK,あるいはZW/0.5%SK存在下で処理した試料を抗原とした場合,PrP^(Sc)の検出は4?8%TX/0.5%SKの処理で最も良い結果が得られた。次にマイクロプレートへの吸着条件について検討した。メタノール沈殿により得られたPrP^(Sc)を含む画分を0?5MGdnSCN,あるいは0?4%SDSで溶解したのちプレートへ吸着させ,PrP^(Sc)検出感度を比較した結果,3?4MGdnSCNによる溶解・吸着が適していることが明らかとなった。上記条件により最適化したELISAとWB法によるPrP^(Sc)検出感度を比較したところ,感染脳を試料とした場合,ELISAはWB法よりも10倍程度感度が高く,脾臓を用いた場合でもWB法と同程度の感度を示した。また,ELISAでは,病気末期の脳と比較して約1/500しかPrP^(Sc)が含まれない試料でも陽性所見を得ることができた。以上のように,今回確立したELISAはWB法より簡便かつ高感度でPrP^(Sc)検出が可能であることから,多検体の検査が必要となる屠蓄場などでの検査法として有用と考えられる。」(1E11全文) (甲第3号証の記載事項) 甲第3号証は,本件出願前の1996年に頒布されたものであって (3a)「この蛋白は当初はスクレイピー病原体の構成蛋白として発見されたためプリオン蛋白(prion protein,PrP)と名付けられたが,正常な細胞の構成蛋白としても存在するため,病原体を構成するものをscrapie PrP(PrP^(Sc)),正常なものをcellularPrP(PrP^(c))と区別している。プリオンはPrP^(c)が構造変化してPrP^(Sc)となり,物理化学的抵抗性の高いアミロイドとして凝集したものである。」(第2頁左欄下から8?1行) (3b)「PrP^(c)とPrP^(Sc)は一次構造は同じであり,何らかの修飾など検出されていない。しかし高次構造の違いとして,前者はβシート構造が3%程度であるが,後者は40%以上と高いことが判っている。」(第6頁左欄下から10?6行) (3c)「我々の研究室で実施しているウエスタンブロットあるいはELISA用の試料調製法(Fig.8)^((32))では,界面活性剤抽出及び蛋白分解酵素処理の段階にPrP^(c)が除去される。発症した動物の脳であれば,数μg相当の組織からPrP^(Sc)が検出される。」(第8頁右欄下から1行?第9頁左欄4行) (3d)「 1.被検脳組織→細寸,秤量 ↓ 2.8%Zwittergent3-12&0.5%Sarkosyl,PBS コラゲナーゼ(0.5mg/100mg組織重量) DNase(40μg/100mg組織重量) 一様に分散するまで37℃放置 ↓ 3.ProteinaseK(50μg/100mg組織重量) 37℃,1時間 ↓ 4.15,000回転 ↓ 5.沈殿に5%SDSを加え100℃5分加熱 ↓ 6.8倍量のメタノールで沈殿 ↓ 7.SDSサンプルバッファーに溶解(ウエスタンブロット用) 3Mチオシアン酸グアニジンに溶解(ELISA用) Fig.8. ウエスタンブロット及びELISA用試料調製法。脾臓,リンパ節等は“ステップ4”の遠心を40,000回転とし,沈殿を6.25%Sarkosylに溶解,15,000回転の上清に固形NaClを10%に加え4℃で放置,55,000回転の沈殿から“ステップ5”に戻る。」(第9頁左欄Fig.8.) (甲第4号証の記載事項) 甲第4号証は,本件出願後にインターネットで利用可能となったものであって,遠心分離処理の遠心力を回転数から換算するツールが提供されている。 (甲第5号証の記載事項) 甲第5号証は,本件出願前の1989年8月15日に頒布されたものであって (5a)「ちょうえんしんぶんり 超遠心分離・・・更に遠心分離機の回転数を特に高くし毎分数万回とすると,遠心力の加速度は重力加速度の数十万倍に達し,タンパク質分子のような比較的小さいコロイド粒子も容易に沈降を起こし分離することができる。このような方法を超遠心分離という。」(第944頁右欄下から8行?第945頁左欄5行) (甲第6号証の記載事項) 甲第6号証は,本件出願前の昭和60年3月5日の頒布されたものであって (6a)「ちょうえんしんぶんり 超遠心分離・・・高速で回転する超遠心機(毎分数万回転,遠心加速度は重力加速度の数十万倍)」(第895頁右欄5?7行) (甲第7号証の記載事項) 甲第7号証は,本件出願前の1996年3月31日の頒布されたものであって (7a)「超遠心[分離]・・・極めて大きな遠心力場で高分子種を分離する方法で,超高速で回転する遠心機を用いて行われる。回転数は毎分数万回転以上で,遠心加速度は重力加速度(g)の数十万倍にも達する。」(第1129頁左欄下から3行?中欄3行 ) (甲第8号証の記載事項) 甲第8号証は,本件出願前の1996年4月25日に頒布されたものであって (8a)「超遠心・・・ローター(回転子)を65,000?100,000回転/分もの高速で回転させ,重力加速度の420,000倍にも及ぶ力をつくり出すことのできる遠心法。ローターの摩擦抵抗を減らすため,ローター室を減圧するなど設計に工夫を加え,力学的に可能な最大の遠心力の加速度(600,000×g)が得られる。」(第248頁左欄9?16行) (甲第9号証の記載事項) 甲第9号証は,本件出願前の1995年6月30日に頒布されたものであって (9a)「超遠心法・・・高い遠心力により巨大分子混合物の分離方法」(第429頁右欄13?16行) (甲第10号証の記載事項) 甲第10号証は,本件出願前の平成6年2月20日に頒布されたものであって (10a)「超遠心法 高い遠心力による巨大分子混合物の分離方法」(第33頁番号2605欄) (甲第11号証の記載事項) 本件出願後の平成17年3月1日発行のものであって,新規性喪失の例外規定の適用対象を拡大した法律改正の必要性について記載されている。 (甲第12号証の記載事項) 甲第12号証は,本件出願前の昭和60年3月5日に頒布されたものであって (12a)「せんじょう 洗浄・・・固体の表面に付着したよごれや好ましくない物質を,液体により取り除くこと。」(第772頁左欄32?33行) (甲第13号証の記載事項) 甲第13号証は,本件出願前の1989年8月15日に頒布されたものであって (13a)「せんじょうこうか 洗浄効果・・・限られた量の洗液で沈殿を洗うとき,沈殿がどれほど清浄なったかを示す尺度。」(第454頁右欄3?6行) (甲第14号証の記載事項の甲第14号証-1による訳文) 甲第14号証は,本件出願前の1995年に頒布されたものであって (14a)「精製画分を1%?2%SDSの存在下で2分間沸騰させることにより,感染性が消失し,ロッドも消えた(表2)。」(第352頁左欄1?3行) (14b)「表2 十分精製された画分における未変性及び変性プリオン,PrP,ロッド」(第355頁左欄表2のタイトル) (14c)「変性はサンプルを1%?1%SDS中で2分間沸騰させることによって起こさせた。」(第355頁左欄表2下の注) (甲第15号証の記載事項の甲第15号証-1による訳文) 甲第15号証は,本件出願前の1995年に頒布されたものであって (15a)「図1 モノクローナル抗体(MAbs)及び抗血清の反応性。ヘパリンアフィニティクロマトグラフィによって調製したPrP^(c)富化した画分(ウシ,ヒツジ及びマウス)をSDSポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE)に供し,ニトロセルロース膜に転写した。免疫染色に用いたモノクローナル抗体又は抗血清を各パネルの下に示す。」(第2584頁Fig.1) (15b)「免疫源として用いられた4つの合成ペプチドは以下のものである。:B-103,子牛PrPコドン103-121に対応する, NH_(2)QGGTHGOWNKPSKPKYTNMK-COOH」(第2583頁右欄下から11?8行、当審による訳文) (甲第16号証の記載事項の甲第16号証-1による訳文) 甲第16号証は,本件出願前の1987年に頒布されたものであって (16a)「ELISA。 ELISA用の抗原は異なる3通りの方法で調整した。上記のとおりに得た精製されたSAFを1μg/mlの濃度で未処理で使用した。抗原は,また,1%SDS中で37℃で可溶化し,リン酸緩衝生理食塩水(PBS)で1μg/mlに希釈した後で使用した(0.001%SDS)。抗原は,さらに,上記のとおりにギ酸で抽出し,PBSで1μg/mlに希釈した後に使用した。」(第3689頁左欄41?48行) (16b)「ELISAにおいて,ギ酸処理されたPrPsは,SDS処理された抗原よりも3?4倍反応性が高く,処理されていないSAFよりも10倍反応性が高かった。これらの処理は,蛋白質を抗体と反応しやすくするようであり,これはおそらく,効率的に蛋白質を巻き戻して抗原性部位を露呈させることによるものである。」(第3691頁右欄下から9?4行) (甲第20号証の記載事項の甲第20号証-1による訳文) 甲第20号証は,本件出願前の1987年に頒布されたものであって 乙第3号証で引用された文献であり (20a)「ハムスタースクレピー蛋白質(HaSp33-37)及びスクレーピー因子の精製 ・・・RNアーゼA・・・及びDNアーゼI・・・中で12?15時間,4℃でインキュベートした。・・・」(第580頁右欄下から15行?第581頁左欄17行) (20b)「図3 HaSp33-37のプロテアーゼ分解」(第583頁右欄下から14行) (乙第1号証の記載事項) 乙第1号証は,本件出願前の1995年5月10日に頒布されたものであって (1a)「超遠心・・・高速回転(毎分3万回転程度以上),つまり大きな遠心加速度の下での遠心。・・・ 超遠心機・・・毎分3万回転程度以上で回転する遠心機。・・・ 超遠心分離・・・超遠心で溶液の成分を分離すること」(第858頁左欄26?56行) (乙第2号証の記載事項) 乙第2号証は,本件出願前の昭和59年3月30日に頒布されたものであって (2a)「遠心分離法の最もっとも簡単なものは,固体試料と液体試料の分離である。この目的に使うのが低速遠心器で・・・普通は,最高20000rpmまでで」(第158頁下から12?10行 (2b)「密度勾配を利用した分離法など,高度な技術のために用いられるのが高速用遠心器であり,60000rpm(チタニウム製ローターを使う新型では80000rpmまで可能)までの回転数が得られる。」(第159頁15?17行) (乙第3号証の記載事項の翻訳) 甲第3号証は,本件出願前の1991年に頒布されたものであって (3a)「Prp-res27-30の精製・・・Prp-res27-30は,・・・全ての溶液中の硫化ベタイン3-14(Zwitergent3-14,カルビオケム)をサーコシル(Nラウロイルサルコシン)に代えて使用した点を除いては,Bolton et alの手法(1987)によって精製された。・・・プロテアーゼKを・・・加え・・・」(第7673頁39?61行) (3b)リファレンスの欄 「Bolton,D.C.,Bendheim,P.E.,Marmostein,A.D.,&Potempska,A.(1987)Arch.Biochem.Biophys.258,579-590」(第7678頁下から7?6行) (乙第4号証の記載事項) 乙第4号証は,本件出願前の1974年に頒布されたものであって 特許法等改正に関する上申書であり,同一発明に該当するケースしか保護が与えられないのでは制度が十分にいかされないので,特許法第30条第1項の改正が望ましいことが記載されている。 (乙第5号証の記載事項) 乙第5号証は,本件出願前の1995年2月15日に頒布されたものであって (5a)「2)実験室安全対策 BSE病原体の実験室や解剖室での取り扱いはスクレイピーの場合と同様に行う。以下,実験室安全対策での主な留意点を列挙する。 (1)患蓄や剖検後の動物は術後速やかに焼却する。 (2)血液,体液,骨粉,悪露などの飛散に注意する。 ・・・」(第276頁3?20行) (5b)「BSE病原体の人への伝達の可能性についての調査が必要とされている。」(第280頁下から13行) (乙第6号証の記載事項) 乙第6号証は,本件出願前の1994年8月に頒布されたものであって (6a)「超遠心機は,生化学用機器の中では事故が起こるとたいへんな破壊力を示す可能性があるので十分注意して用いなくてはならない。」(第46頁右欄15?17行) (乙第7号証の記載事項の当審による訳文) 乙第7号証は,本件出願前の1986年に頒布されたものであって (7a)「抗原の精製。 抗原の精製は,Diringerとその仲間の方法に従って,小さな改変で行われた(6,9)。実験的にスクレーピーに感染させたマウスまたは自然に感染したヒツジのプールされた脳(5g)は,10%サーコシル緩衝液(10mMNaH_(2)PO_(4)(pH7.4)中の10%サーコシル(N-ラウロイルサルコシン酸ナトリウム))45ml中で,Dounce型ホモジナイザーで均質化された。以下の工程は,特に言及しない限り,室温で行われた。n-オクタノールを数滴滴下し30分間インキュベートした後,均質化物は,30分間22,000×gで遠心分離された。上清は同じ条件で再度遠心分離された。得られた上清(S1)は,2時間215,000×gで遠心分離された。上清(S2)は除去され,ペレット(P1)は,50mlの1%サーコシル緩衝液(1%サーコシル,10mMNaH_(2)PO_(4),10%NaCl)に懸濁され,2時間215,000×gで遠心分離された。上清(S3)は除去され,ペレット(P2)は,1mlの1%サーコシル緩衝液に超音波で懸濁された。P2の懸濁液は,305,000×gで1時間遠心分離された。上清(S4)は除去された。ペレット(P3)は,25μgのプロテナーゼKを含有した1mlの1%サーコシル緩衝液に,超音波なしで懸濁され,Eppendorfプラスチック容器に移され,1時間37℃で撹拌された15分間16,000rpmで遠心分離した後,ペレットは1%サーコシル緩衝液で,遠心分離で洗浄され,1%サーコシル緩衝液(出発物質としての脳5gに対して1ml)中に懸濁され,精製画分(P4)として使用された。」(第124頁25行?第125頁2行) (7b)リファレンスの欄に,乙第9号証である, 「9)Hilmert,H.,and Diringer,H.1984,・・・Biosci.Rep.4:165-170」と記載されている。 (乙第8号証の記載事項) 乙第8号証は,本件出願前の1985年に頒布されたものであって (8a)「スキーム1.10匹のスクレーピーハムスターの脳からP_(E)(感染物質)の調製スキーム。このテキストで得られるHCOOHの最終抽出物は,感染性SAF-タンパク質を産出する。」と記載され,スキーム中で,P_(22),P_(215),P_(125S),P_(1)を得る工程では界面活性剤を用い,P_(1)に対してプロテナーゼKを用いてP_(2)を得ることが示されている。(第1495頁Scheme1.) (8a)「スクレーピー-関連線維状蛋白質(SAF-タンパク質)」(第1495頁左欄9行) (乙第9号証の記載事項) 乙第6号証は,本件出願前の1984年に頒布されたものであって 乙第7号証で引用された文献9であり (9a)「ペレットP_(215)とP_(125S)を得るために酵素は全く使用しない。」(第166頁9?10行) (9b)「ペレットは,最後に,5μgのプロテナーゼKを含有した緩衝液を用いて2時間37℃で更に撹拌される。遠心分離と上清の除去後,ペレットP(E)は,精製されたSAF-タンパク質を含有する。」(第166頁19?22行) (9c)「スクレーピー-関連線維(SAF)」(第165頁8行) (乙第10号証の記載事項) 本件出願後の2005年9月1日の頒布されたものであって (10a)「高真空を利用して稼働する装置に,超遠心機があります。超遠心機は,生体分子の分離精製の目的に用いられますが,超遠心とはどれくらいからの回転数を指すのでしょうか?だいたい30,000rpmと,本には記載されています。高速遠心機と超遠心機の違いの一つに,真空機構が備わっているか否か,があります。高速遠心では回転数が上昇すると,空気の摩擦で大きな熱と音が発生します(高速遠心機の回転数上限はおよそ20,000rpm)。一方,回転数が段違いに大きいにも関わらず,超遠心機の回転はとても静かです。これはチャンバーが真空のためです。超遠心機では,ローターと呼ばれる主にチタン製やアルミ製の金属塊が超高速度でチャンバー内を回転します。超遠心と呼ばれる回転を行うには周囲の空気が抵抗となりますので,真空状態を作る必要があります。」(第7頁左欄9?25行) 第6 当審の判断 1 無効理由3及び5(明細書の記載要件)について (1)請求項1に記載された「超遠心分離処理を除く遠心分離処理」について ア 実施可能要件 本件特許発明は,「超遠心分離処理を除く遠心分離」により「病原性プリオン蛋白質由来蛋白質を含有する濃縮物」が得られることから,この蛋白質が沈降する遠心力であれば足りる。そして,本件明細書に「超遠心分離処理を除く遠心分離処理」の具体的な回転数として,15,000rpmが記載されているから,この回転数を参考として,上記蛋白質が沈降する遠心分離処理条件を実験で調べることに通常想定される以上の過度の試行錯誤が必要とすることはできないから,当業者が実施しうる程度に本件明細書は記載されているといえ,本件明細書の発明の詳細な説明の記載は,特許法第36条第4項に規定した要件を満たしている。 イ サポート要件 「病原性プリオン蛋白質由来蛋白質を含有する濃縮物」が得られる遠心力として,具体的な回転数15,000rpmが記載されているから,この回転数を参考として,上記濃縮物が得られる遠心力を決定することに,通常想定される以上の過度の試行錯誤が必要とすることはできないから,「超遠心分離処理を除く遠心分離」を含む本件特許発明は,本件明細書に記載されたものといえ,本件特許明細書の特許請求の範囲の記載は,特許法第36条第6項第1号に規定した要件を満たしている。 ウ 明確性 甲第5?10号証,乙第1,2号証に記載されるように「超遠心分離」という技術概念は本件出願前に広く知られたものである。また,「遠心分離」という技術概念も遠心機を使って試料に対して遠心力をかけて試料を構成する成分を分離する方法として,本件出願前に広く知られていたことであり,「超遠心分離処理を除く遠心分離」は,技術概念として明確でないとすることはできないから,本件特許明細書の特許請求の範囲の記載は,特許法第36条第6項第2号に規定した要件を満たしている。 (2)請求項1に記載された「プロテアーゼを用いて分解処理すること」についてのサポート要件 本件明細書【0107】に,酵素として,ブロメリンを用いると使用すると酵素が1種類となることが記載され,【0155】?【0117】,【図3】に方法6?方法8として,ブロメリンを用いて濃縮物を得ることが記載されており,「ブロメリン」(「ブロメライン」と同義である。)はプロテアーゼの一種である。 そして,ブロメリン以外の公知のプロテアーゼについても1種類で分解処理ができるか調べることに,通常想定される以上の過度の試行錯誤が必要とすることはできないから,「プロテアーゼを用いて分解処理すること」を含む本件特許発明は,本件明細書に記載されたものといえ,本件特許明細書の特許請求の範囲の記載は,特許法第36条第6項第1号に規定した要件を満たしている。 (3)請求項2ないし4について 請求項2は,請求項1の中枢神経系組織を「脳組織」と限定するものであり,請求項3は,分解処理が「さらにコラーゲン分解酵素及びDNA分解酵素による分解処理を含む」ことを限定するものであり,請求項4は,プロテアーゼが「プロテイナーゼK」であることを限定するものであるから,上記(1)及び(2)に記載したとおり,請求項1が特許法第36条第4項,第6項第1号,及び2号規定した要件を満たしていることから,同様の理由で,いずれの規定も満たしている。 2 無効理由1,2及び4(新規性,進歩性)について (1)本件特許発明 上記「第2」の項において述べたように,本件の平成22年12月24日付け訂正請求が認められることとなるので,本件明細書の請求項1ないし4に係る発明(以下,それぞれ「本件特許発明1」ないし「本件特許発明4」という。)は,以下のとおりのものと認める。 「【請求項1】 動物の中枢神経系組織から病原性プリオン蛋白質を酵素免疫吸着測定法により検出する方法であって, t-オクチルフェノキシポリエトキシエタノール(トリトン(商標)X-100)及びサーコシル(商標)を同時に用いて前記中枢神経系組織中の非特異的物質を可溶化することと, 前記可溶化された非特異的物質をプロテアーゼを用いて分解処理することと, 超遠心分離処理を除く遠心分離処理を行うことにより前記分解処理により得られたものから病原性プリオン蛋白質由来蛋白質を含有する濃縮物を得ることと, 前記濃縮物を洗浄することなく溶解液とし,再沈殿させることなく酵素免疫吸着測定法により検出することと を含む病原性プリオン蛋白質の検出方法。 【請求項2】 前記中枢神経系組織を脳組織とする,請求項1に記載の病原性プリオン蛋白質の検出方法。 【請求項3】 前記分解処理が,さらにコラーゲン分解酵素及びDNA分解酵素による分解処理を含む,請求項1又は2に記載の病原性プリオン蛋白質の検出方法。 【請求項4】 前記プロテアーゼが,プロテイナーゼKである,請求項1から3のいずれか1項に記載の病原性プリオン蛋白質の検出方法。」 (2)甲第1号証について,特許法第30条第1項の規定の適用が認められるか否かについて ア 平成11年改正前の特許法第30条第1項の解釈 本件出願に適用される平成11年改正前の特許法第30条第1項は,特許を受ける権利を有するものが刊行物に発表して同第29条第1項第3号に該当するに至った発明は,同第29条第1項第3号に該当するに至らなかったものとみなすことが規定されているが,同第29条第2項の規定の適用については何ら規定されていない。 そして,本来先願主義である特許制度においては,刊行物等に発表する前に出願すべきであるところを,同条の新規性喪失の例外規定は,発表された発明について,全て新規性を失うとすると酷であるという趣旨から例外を設けたものであり(甲第11号証参照。),現行法に比べて厳しすぎるという心情は理解できるが,同第29条第1項第3号についてのみ例外とした平成11年改正前の規定を,同第29条第2項についてまで広げて解釈する理由はない。 したがって,この適用を受けるためには,この法律で定めた特許法第29条第1項第3号に該当する,つまり,発表した発明と特許出願をした発明は同一である場合に限られるとするのが相当である。 また,平成11年改正前特許法第30条第1項に「その者が特許出願をしたときは,その発明」とある「発明」は,出願当初の請求項に記載された発明に対して補正が行われれば,補正された請求項に記載された発明となるから,これと同一であることが求められる。 イ 本件特許発明と特許法第30条の適用を申請した刊行物である甲第1号証に記載された発明の同一性について 本件特許発明は,「超遠心分離処理を除く遠心分離処理」を行うものであるところ,特許法第30条の適用を申請した甲第1号証に記載された遠心分離処理は,40,000rpmである。そして,40,000rpmの遠心分離処理は,甲第5?8号証,乙第1,2号証に記載される,超遠心分離処理が毎分数万回転程度の回転数であるという技術常識からみて,「超遠心分離処理を除く遠心分離」に相当するとはいえないから,本件特許発明1ないし4と甲第1号証が同一であるとすることはできない。 ウ まとめ したがって,本件特許発明に,特許法第30条第1項の適用がなされるべきであるとすることはできない。 (3)甲第1号証ないし甲第3号証に記載された発明 上記「第5」に記載した甲第1ないし3号証の記載事項からみて,甲第1ないし3号証には,それぞれ以下の発明が記載されていると認められる。 (甲第1号証に記載された発明) 「脳及び脾臓組織試料を鋏で細切れにした後,均質化緩衝液に4%トリトンX-100と0.5%サーコシルを添加して均質化し,コラゲナーゼ,DNアーゼI及びプロテイナーゼKで消化し,試料から可溶性の非特異的物質を遠心分離によって除去するために40,000rpm(TLA 100.3ローター及びオプティマTLX デスクトップ型超遠心機,ベックマン)での遠心分離処理し,得られたペレットを5%SDS中で煮沸し,10倍容量以上の氷冷メタノール中で沈殿させ遠心分離処理の後,得られたペレットをグアニジンチオシアネートのPBS溶液中で超音波処理によって溶解させるか,またはSDSのPBS溶液中で溶解させ,それぞれの調製物を,96穴丸底マイクロタイタープレート上に分注し,室温で一晩振揺下でインキュベートし,プレートを3回洗浄した後,PBS-5%脱脂乳中で1時間37℃でブロッキングし,その後,プレートを0.05%トゥイーン20を含有するPBS(PBST)で3回洗浄し,ウサギ抗血清B-103をウエルに分注し,プレートを室温で1時間振揺下でインキュベートし,プレートをPBSTで3回洗浄した後,抗原抗体複合体をアビジン-ビオチン-複合体法で調べるELISA法によるPrP^(Sc)の高感度検出方法」(以下,「甲1発明」という。) (甲第2号証に記載された発明) 「スクレイピー感染マウスの脳または脾臓をTritonX-100あるいはZwittergent3-12と,0.5%Sarcosyl存在下でホモゲナイズし,collagenase処理およびプロテイナーゼK処理を行った後,69,000xgで20min遠心し,生じた沈殿物を5%SDSにより溶解し,10倍量のメタノールにより沈殿させ,沈殿物をチオシアン酸グアニジンあるいはSDSで溶解し,マイクロプレートへ吸着させ,一次抗体としてB-103抗PrP合成ペプチドウサギ血清を用い,Avidin-biotin-complex法により抗原抗体複合物を検出する,ELISA法によるPrP^(Sc)の高感度検出方法」(以下,「甲2発明」という。) (甲第3号証に記載された発明) 「脳組織を,Zwittergent3-12とサーコシル,PBS,コラゲナーゼ,DNアーゼ中で一様に分散させ,プロテイナーゼKで処理し,15,000回転で遠心分離し,沈殿に5%SDSを加え沸騰させ,メタノールで沈殿させ,チオシアン酸グアニジンに溶解し,ELISA法でPrP^(sc)を検出する方法」(以下,「甲3発明」という。) (4)本件特許発明1ないし4と,甲2発明の対比と判断 ア 本件特許発明1について 本件特許発明1と甲2発明とを比較する。 (ア)甲2発明の「スクレイピー感染マウスの脳」,「ELISA法」は,本件出願前の技術常識からみて,本件特許発明1の「動物の中枢神経系組織」,「酵素免疫吸着測定法」にそれぞれ相当する。 (イ)甲2発明の「PrP^(Sc)」は,甲第3号証の「病原体を構成するものをscrapie PrP(PrP^(Sc)),正常なものをcellularPrP(PrP^(c))」(上記(3a))との記載を参酌すると,本件特許発明1の「病原性プリオン蛋白質由来蛋白質」及び「病原性プリオン蛋白質」に相当する。 (ウ)甲2発明の「TritonX-100」および「Sarcosyl」は,それぞれ本件特許発明1の「t-オクチルフェノキシポリエトキシエタノール(トリトン(商標)X-100)」及び「サーコシル(商標)」に相当し,甲2発明は,脳を「TritonX-100」と「Sarcosyl」の「存在下でホモゲナイズ」しているから,両者を同時に用いているといえる。そして,甲2発明の「ホモゲナイズ」は均質化を意味し,一方,本件明細書段落【0040】には,界面活性剤を用いる第1の工程を「均一化工程」と記載していることから,本件特許発明1では,非特異的物質の可溶化に際して,中枢神経系組織は均質化さているといえる。 そうすると,甲2発明の「スクレイピー感染マウスの脳または脾臓をTritonX-100あるいはZwittergent3-12と,0.5%Sarcosyl存在下でホモゲナイズ」することと,本件特許発明1の「t-オクチルフェノキシポリエトキシエタノール(トリトン(商標)X-100)及びサーコシル(商標)を同時に用いて前記中枢神経系組織中の非特異的物質を可溶化すること」とは,t-オクチルフェノキシポリエトキシエタノール(トリトン(商標)X-100)及びサーコシル(商標)を同時に用いて前記中枢神経系組織を均質化する点で共通する。そして,均質化により得られたものは,均質化物といえる。 (エ)甲2発明の「プロテイナーゼK処理」は,「プロテイナーゼK」は,プロテアーゼの一種であり蛋白質を分解する酵素であるから,本件特許発明1の「プロテアーゼを用いて分解処理すること」に相当する。 (オ)甲2発明の「69,000xgで20min遠心」することと,本件特許発明1の「超遠心分離処理を除く遠心分離処理を行うこ」とは,遠心分離処理を行う点で共通する。 そして,甲2発明の遠心により「生じた沈殿物」は,沈殿の溶解液に対して「B-103抗PrP合成ペプチドウサギ血清」を用いて「PrP^(Sc)の高感度検出」ができることから,PrP^(Sc)の沈殿といえ,本件特許発明1の「病原性プリオン蛋白質由来蛋白質を含有する濃縮物」に相当する。 (カ)甲2発明の「生じた沈殿物を5%SDSにより溶解し,10倍量のメタノールにより沈殿させ」ることは,上記訂正の可否「第2 2 (2)ア」に記載したように,本件出願前の技術常識からみて,沈殿物を変性処理しそれに伴いSDSを除くためにメタノール沈殿で沈殿物とするものであり,この操作を「洗浄」ということはできないから,生じた沈殿物を洗浄することがないといえ,甲2発明の「生じた沈殿物を5%SDSにより溶解し,10倍量のメタノールにより沈殿させ,沈殿物をチオシアン酸グアニジンあるいはSDSで溶解」することは,本件特許発明1の「濃縮物を洗浄することなく溶解液」とすることに相当する。 (キ)甲2発明の,沈殿物をGdnSCNまたはSDSに溶解したものを「マイクロプレートへ吸着させ,一次抗体としてB-103抗PrP合成ペプチドウサギ血清を用い,Avidin-biotin-complex法により抗原抗体複合物を検出する」ことは,ELISA法,つまり酵素吸着免疫測定法により検出する方法を具体的に記載したものであり,沈殿物を溶解したものを再沈殿させることがなくマイクロプレートへ吸着させることは,ELISA法の技術常識からみても明らかであることから,本件特許発明1の,溶解液を「再沈殿させることなく酵素免疫吸着測定法により検出すること」に相当する。 そうすると,両者の間には,以下の一致点及び相違点がある。 (一致点) 動物の中枢神経系組織から病原性プリオン蛋白質を酵素免疫吸着測定法により検出する方法であって, t-オクチルフェノキシポリエトキシエタノール(トリトン(商標)X-100)及びサーコシル(商標)を同時に用いて前記中枢神経系組織を均質化することと, 前記均質化物をプロテアーゼを用いて分解処理することと, 遠心分離処理を行うことにより前記分解処理により得られたものから病原性プリオン蛋白質由来蛋白質を含有する濃縮物を得ることと, 前記濃縮物を洗浄することなく溶解液とし,再沈殿させることなく酵素免疫吸着測定法により検出することと を含む病原性プリオン蛋白質の検出方法である点。 (相違点1) トリトンX-100及びサーコシルによる均質化及びその後のプロテアーゼ分解処理により分解される中枢神経系組織中の物質が,本件特許発明1では,「非特異的物質」であるのに対して,甲2発明では,非特異的物質であることを規定していない点。 (相違点2) 遠心分離処理が,本件特許発明1では,「超遠心分離処理を除く遠心分離処理」であるのに対して,甲2発明では,「69,000xgで20min遠心」処理である点。 そこで,上記各相違点について検討する。 (相違点1について) 正常プリオン蛋白質及び病原性プリオン蛋白質は,アミノ酸の一次構造は同じである(上記甲第3号証の(3b))。そして,甲2発明でELISA法に用いている「B-103抗PrP合成ペプチドウサギ血清」は,甲第15号証(上記(15b))に記載されるように,プリオン蛋白質の103-121のアミノ酸の一次構造を有するものを抗原として作成された抗体であるから,正常プリオン蛋白質及び病原性プリオン蛋白質の両方に反応しうるものであり,正常プリオン蛋白質は,病原性プリオン蛋白質の検出においては非特異的物質になるといえる。そして,甲2発明の方法で,病原性プリオンの高感度検出ができることからみて,正常プリオン蛋白質は,トリトンX-100及びサーコシルにより可溶化され,プロテイナーゼKにより分解されて遠心分離により除去されていることは明らかといえる。 さらに,甲2発明で用いる界面活性剤の種類は本件特許発明1で用いるものと同じであるから,甲2発明においても正常プリオン蛋白質は可溶化されているといえ,甲2発明で用いる,プロテイナーゼKは,本件明細書で具体的に用いられているものであることから,甲2発明においても正常プリオン蛋白質は可溶化され分解されているといえる。 そうすると,相違点1は実質的な相違点ではない。 (相違点2について) 甲2発明の遠心分離条件は「69,000xg」と遠心力で示されているが,用いた遠心分離機が不明なため,これを直ちに回転数に換算することはできない。そこで,甲第2号証と同じ研究者による論文である甲第1号証で使用した遠心分離機「TLA 100.3ローター及びオプティマTLX デスクトップ型超遠心機,ベックマン」を用いたとして換算すると,甲第4号証-2,甲第4号証-3によると,回転数は,35,714?40,318rpmとなる。一方,本件特許発明1の「超遠心分離処理を除く遠心分離処理」がどの程度の回転数であるか明細書及び図面の記載(【図2】,【図3】等)を参酌すると,「第3の工程:分離工程」では,「15,000rpm」となっているから,甲2発明の遠心分離の回転数を,15,000rpm程度の「超遠心分離処理を除く遠心分離処理」とすることの容易想到性について検討する。 甲2発明は,正常プリオン蛋白質及び病原性プリオン蛋白質の両方と結合できる抗体であるB-103抗体を用い,高感度で病原性プリオン蛋白質を検出できることからみて,甲2発明の遠心分離は,界面活性剤及びプロテナーゼK処理により分解された正常プリオン蛋白質を除去するために行っているということができる。そして,通常,遠心分離の回転数等の条件として,目的とする物質の分離が達成できる範囲で,できるだけ簡便な条件を選択することは当業者が当然行うことといえる。 そして,甲第3号証には,界面活性剤がZwittergent3-12及びサーコシルであるが,ELISA法に用いる試料調製法として,脳組織については,15,000回転で遠心分離処理して沈殿を得ることが記載され,さらに,脾臓,リンパ節等では,遠心を40,000回転とすることが記載されている(上記甲第3号証の(3d))ことから,試料の種類に応じて,40,000回転,及び15,000回転という「超遠心分離処理を除く遠心分離処理」を行うことも知られていたといえる。 さらに,甲第2号証には,界面活性剤として,トリトンX-100及びサーコシルの組合せだけでなく,甲第3号証に記載されたZwittergent3-12及びサーコシルの組合せ用い,甲2発明と同様に40,000rpmで分離することが記載されている。 そうすると,甲2発明の脳組織について,トリトンX-100及びサーコシルを用いる場合の遠心処理の条件であり,かつ甲第2号証にZwittergent3-12及びサーコシルを用いる場合の回転数でもあることが記載された40,000rpmを,甲第3号証の脳組織についてのZwittergent3-12及びサーコシルを用いた場合の回転数を参考にして,より簡便な15,000rpm程度の「超遠心分離処理を除く遠心分離処理」とすることは当業者が容易になし得たものといえる。 そして,本件特許発明1の効果は,甲第2,3号証の記載事項及び技術常識から予測し得たものであり,格別顕著なものとはいえいない。 以上のとおり,本件特許発明1と甲2発明との間には,実質的な相違点2が存在するから,両者を同一とすることはできず,本件特許発明1は,甲第2号証に記載された発明であるから,特許法第29条第1項第3号の規定により特許を受けることができないとすることはできない。 また,本件特許発明1は,甲第2号証及び甲第3号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 イ 本件特許発明2について 本件特許発明2は,本件特許発明1の中枢神経組織を「脳組織」と限定するものであるが,甲2発明は,脳または脾臓を試料として用いるものであり,上記アで記載した相違点以外に新たな相違点は生じないから,上記アに記載したと同じ理由で,本件特許発明2と甲2発明との間には,実質的な相違点2が存在し,両者を同一とすることはできず,本件特許発明2は,甲第2号証に記載された発明であるから,特許法第29条第1項第3号の規定により特許を受けることができないとすることはできない。 また,本件特許発明2は,甲第2号証及び甲第3号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 ウ 本件特許発明3について 本件特許発明3は,本件特許発明1または2について,分解処理が,さらに「コラーゲン分解酵素及びDNA分解酵素による分解処理を含む」と限定を付加するものである。 上記アに記載したと同じ理由で,本件特許発明3と甲2発明との間には,実質的な相違点2が存在し,両者を同一とすることはできず,本件特許発明2は,甲第2号証に記載された発明であるから,特許法第29条第1項第3号の規定により特許を受けることができないとすることはできない。 上記付加された上記限定事項について検討すると,コラゲナーゼ及びDNA分解酵素処理を行うことについては,甲第3号証に記載されていることから,甲2発明においてコラゲナーゼ処理にDNA分解酵素処理も併用することに何ら困難性はない。そして,上記相違点2については,上記アで記載したとおりであり,本件特許発明3は,甲第2号証及び甲第3号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 エ 本件特許発明4について 本件特許発明4は,本件特許発明1ないし3のについて,プロテアーゼが「プロテイナーゼK」であることを限定をするものであるが,甲2発明は,プロテイナーゼKを用いるものであり,上記アで記載した相違点以外に新たな相違点は生じないから,上記アに記載したと同じ理由で,本件特許発明4と甲2発明との間には,実質的な相違点2が存在し,両者を同一とすることはできず,本件特許発明2は,甲第2号証に記載された発明であるから,特許法第29条第1項第3号の規定により特許を受けることができないとすることはできない。 また,本件特許発明4は,甲第2号証及び甲第3号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 オ まとめ したがって,本件特許発明1ないし4は,甲第2号証及び甲第3号証に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。 (5)本件特許発明1ないし4と,甲1発明との対比と判断 ア 本件特許発明1について 本件発明1と甲1発明とを比較する。 (ア)甲1発明の「スクレイピー感染マウスの脳」,「ELISA法」は,本件出願前の技術常識からみて,本件特許発明1の「動物の中枢神経系組織」,「酵素免疫吸着測定法」にそれぞれ相当する。 (イ)甲1発明の「PrP^(Sc)」は,甲第3号証の「病原体を構成するものをscrapie PrP(PrP^(Sc)),正常なものをcellularPrP(PrP^(c))」(上記(3a))との記載を参酌すると,本件特許発明1の「病原性プリオン蛋白質由来蛋白質」及び「病原性プリオン蛋白質」に相当する。 (ウ)甲1発明の「均質化緩衝液に4%トリトンX-100と0.5%サーコシルを添加して均質化」することと,本件特許発明1の「t-オクチルフェノキシポリエトキシエタノール(トリトン(商標)X-100)及びサーコシル(商標)を同時に用いて前記中枢神経系組織中の非特異的物質を可溶化すること」とは,本件明細書段落【0040】には,界面活性剤を用いる第1の工程を「均一化工程」と記載していることから,本件特許発明1では,非特異的物質の可溶化に際して,中枢神経系組織は均質化さているといえ,t-オクチルフェノキシポリエトキシエタノール(トリトン(商標)X-100)及びサーコシル(商標)を同時に用いて前記中枢神経系組織を均質化する点で共通する。そして,均質化により得られたものは,均質化物といえる。 (エ)甲1発明の「プロテイナーゼKで消化」することは,「プロテイナーゼK」はプロテアーゼの一種であり,「消化」は分解することであるから,本件特許発明1の「プロテアーゼを用いて分解処理すること」に相当する。 (オ)甲1発明の「試料から可溶性の非特異的物質を遠心分離によって除去するために40,000rpm(TLA 100.3ローター及びオプティマTLX デスクトップ型超遠心機,ベックマン)での遠心分離処理」することと,本件特許発明1の「超遠心分離処理を除く遠心分離処理を行うこ」とは,遠心分離処理を行う点で共通する。 そして,甲1発明の遠心分離処理して「得られたペレット」は,ペレット溶解液に対して「ウサギ抗血清B-103」を用いてELISA法により「PrP^(Sc)の高感度検出」ができることから,PrP^(Sc)のペレットといえ,本件特許発明1の「病原性プリオン蛋白質由来蛋白質を含有する濃縮物」とは,病原性プリオン蛋白質由来蛋白質を含有する濃縮物である点で共通する。 (カ)甲1発明の「得られたペレットを5%SDS中で煮沸し,10倍容量以上の氷冷メタノール中で沈殿させ遠心分離処理」することは,ペレットをSDSで変性処理しそれに伴いSDSを除くためにメタノール沈殿でペレットとするものであり,上記訂正の可否「第2 2 (2)ア」に記載したように,本件出願前の技術常識からみて,ペレットを「洗浄」しているということはできないから,甲1発明の「得られたペレットを5%SDS中で煮沸し,10倍容量以上の氷冷メタノール中で沈殿させ遠心分離処理の後,得られたペレットをグアニジンチオシアネートのPBS溶液中で超音波処理によって溶解させるか,またはSDSのPBS溶液中で溶解させ」ることは,本件特許発明1の「濃縮物を洗浄することなく溶解液」とすることに相当する。 (キ)甲1発明の,「調製物を,96穴丸底マイクロタイタープレート上に分注し,室温で一晩振揺下でインキュベートし,プレートを3回洗浄した後,PBS-5%脱脂乳中で1時間37℃でブロッキングし,その後,プレートを0.05%トゥイーン20を含有するPBS(PBST)で3回洗浄し,ウサギ抗血清B-103をウエルに分注し,プレートを室温で1時間振揺下でインキュベートし,プレートをPBSTで3回洗浄した後,抗原抗体複合体をアビジン-ビオチン-複合体法で調べるELISA法」は,ELISA法,つまり酵素吸着免疫測定法により検出する方法を具体的に記載したものであり,ペレット溶解させたものをプレートに適用する際に再沈殿させることがないことは,ELISA法技の技術常識から明らかであることから,本件特許発明1の,溶解液を「再沈殿させることなく酵素免疫吸着測定法により検出すること」に相当する。 そうすると,両者の間には,以下の一致点及び相違点がある。 (一致点) 動物の中枢神経系組織から病原性プリオン蛋白質を酵素免疫吸着測定法により検出する方法であって, t-オクチルフェノキシポリエトキシエタノール(トリトン(商標)X-100)及びサーコシル(商標)を同時に用いて前記中枢神経系組織を均質化することと, 前記均質化物をプロテアーゼを用いて分解処理することと, 遠心分離処理を行うことにより前記分解処理により得られたものから病原性プリオン蛋白質由来蛋白質を含有する濃縮物を得ることと, 前記濃縮物を洗浄することなく溶解液とし,再沈殿させることなく酵素免疫吸着測定法により検出することと を含む病原性プリオン蛋白質の検出方法である点。 (相違点1) トリトンX-100及びサーコシルによる均質化及びその後のプロテアーゼ分解処理により分解される中枢神経系組織中の物質が,本件特許発明1では,「非特異的物質」であるのに対して,甲2発明では,非特異的物質であることを規定していない点。 (相違点2) 遠心分離処理が,本件特許発明1では,「超遠心分離処理を除く遠心分離処理」であるのに対して,甲1発明では,「試料から可溶性の非特異的物質を遠心分離によって除去するために40,000rpm(TLA 100.3ローター及びオプティマTLX デスクトップ型超遠心機,ベックマン)での遠心分離処理」である点。 そこで,上記各相違点について検討する。 (相違点1について) 甲1発明は,遠心分離処理について,試料から可溶性の非特異的物質を遠心分離によって除去するとされていることから,可溶性の非特異的物質は,トリトンX-100とサーコシルを用いた均質化,及びコラゲナーゼ,DNアーゼI及びプロテイナーゼKによる消化により生じたものといえる。 そして,正常プリオン蛋白質及び病原性プリオン蛋白質は,アミノ酸の一次構造は同じであり(上記甲第3号証の(3b)),甲1発明でELISA法に用いている「B-103抗PrP合成ペプチドウサギ血清」は,甲第15号証(上記(15b))に記載されるように,プリオン蛋白質の103-121のアミノ酸の一次構造を有するものを抗原として作成された抗体であるから,正常プリオン蛋白質及び病原性プリオン蛋白質の両方に反応しうるものであり,正常プリオン蛋白質は,病原性プリオン蛋白質の検出においては非特異的物質になるといえる。そして,甲1発明の方法で,病原性プリオンの高感度検出ができることからみて,正常プリオン蛋白質は,トリトンX-100及びサーコシルにより可溶化され,プロテイナーゼKにより分解されて,遠心分離により除去されているといえる。 さらに,甲1発明で用いる界面活性剤の種類は本件特許発明1で用いるものと同じであるから,甲1発明においても正常プリオン蛋白質は可溶化されるとえ,甲1発明で用いるプロテイナーゼKは,本件明細書で具体的に用いられているものであることから,甲1発明においても正常プリオン蛋白質は可溶化され分解されているといえる。 そうすると,相違点1は実質的な相違点ではない。 (相違点2について) 本件特許発明1の「超遠心分離処理を除く遠心分離処理」がどの程度の回転数であるか明細書及び図面の記載(【図2】,【図3】等)を参酌すると,「第3の工程:分離工程」では,「15,000rpm」となっている。 一方,甲1発明は,試料から可溶性の非特異的物質を遠心分離によって除去するとされている。そして,正常プリオン蛋白質及び病原性プリオン蛋白質の両方と結合できる抗体であるB-103抗体を用い,高感度で病原性プリオン蛋白質を検出できることからみて,甲1発明の遠心分離は,界面活性剤及びプロテイナーゼK処理により分解された正常プリオン蛋白質を除去するために遠心分離を行っているといえる。そして,通常,遠心分離の回転数等の条件として,目的とする物質の分離が達成できる範囲で,できるだけ簡便な条件を選択することは当業者が当然行うことといえる。 そして,甲第3号証には,界面活性剤がZwittergent3-12及びサーコシルであるが,ELISA法に用いる試料調製法として,脳組織については,15,000回転で遠心分離処理して沈殿を得ることが記載され,さらに,脾臓,リンパ節等では,遠心を40,000回転とすることが記載されている(上記((3d))ことから,試料の種類に応じて,40,000回転,及び15,000回転という「超遠心分離処理を除く遠心分離処理」を行うことも知られていたといえる。 さらに,甲第1号証には,界面活性剤として,トリトンX-100及びサーコシルの組合せだけでなく,甲第3号証に記載されたZwittergent3-12及びサーコシルの組合せを用い,甲1発明と同様に40,000rpmで分離することが記載されている。 そうすると,甲1発明の脳組織について,トリトンX-100及びサーコシルを用いる場合の遠心処理の条件であり,かつ甲第1号証にZwittergent3-12及びサーコシルを用いる場合の回転数でもあることが記載された40,000rpmを,甲第3号証の脳組織についてのZwittergent3-12及びサーコシルを用いた場合の回転数を参考にして,より簡便な15,000rpm程度の「超遠心分離処理を除く遠心分離処理」とすることは当業者が容易になし得たものといえる。 そして,本件特許発明1の効果は,甲第1,3号証の記載事項及び技術常識から予測し得たものであり,格別顕著なものとはいえいない。 以上のとおり,本件特許発明1は,甲第1号証及び甲第3号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 イ 本件特許発明2について 本件特許発明2は,本件特許発明1の中枢神経組織を「脳組織」と限定するものであるが,甲1発明は,脳または脾臓を試料として用いるものであるり,上記アで記載した相違点以外に新たな相違点は生じないから,上記アに記載したと同じ理由で,本件特許発明2は,甲第1号証及び甲第3号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 ウ 本件特許発明3について 本件特許発明3は,本件特許発明1または2について,分解処理が,さらに「コラーゲン分解酵素及びDNA分解酵素による分解処理を含む」と限定を付加するものであるから,付加された限定事項について検討すると,甲1発明は,「コラゲナーゼ,DNアーゼI及びプロテイナーゼKで消化」するものであり,上記アで記載した相違点以外に新たな相違点は生じないから,上記アに記載したと同じ理由で,本件特許発明3は,甲第1号証及び甲第3号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 エ 本件特許発明4について 本件特許発明4は,本件特許発明1ないし3のについて,プロテアーゼが「プロテイナーゼK」であることを限定をするものであるが,甲1発明は,プロテイナーゼKを用いるものであり,上記アで記載した相違点以外に新たな相違点は生じないから,上記アに記載したと同じ理由で,本件特許発明4は,甲第1号証及び甲第3号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 オ まとめ したがって,本件特許発明1ないし4は,上記甲第1号証及び甲第3号証に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。 (7)本件特許発明1ないし4と,甲3発明との対比と判断 ア 本件特許発明1について そこで,本件特許発明1と甲3発明とを比較する。 (ア)甲3発明の「脳組織」,「ELISA法」,及び「PrP^(sc)」は,本件出願前の技術常識からみて,本件特許発明1の「動物の中枢神経系組織」,「酵素免疫吸着測定法」,及び「病原性プリオン蛋白質由来蛋白質」と「病原性プリオン蛋白質」にそれぞれ相当する。 (イ)甲3発明の「Zwittergent3-12とサーコシル」と,本件特許発明1の「t-オクチルフェノキシポリエトキシエタノール(トリトン(商標)X-100)及びサーコシル(商標)」とは,サーコシル及び他の界面活性剤である点で共通する。 (ウ)甲3発明の「一様に分散させる」ことは均質化といえ,本件明細書段落【0040】には,界面活性剤を用いる第1の工程を「均一化工程」と記載していることから,本件特許発明1では,非特異的物質の可溶化に際して,中枢神経系組織は均質化さているといえる。そうすると,甲3発明の「脳組織をZwittergent3-12とサーコシル,PBS,コラゲナーゼ,DNアーゼ中で一様に分散させ」ることと,本件特許発明1の「t-オクチルフェノキシポリエトキシエタノール(トリトン(商標)X-100)及びサーコシル(商標)を同時に用いて前記中枢神経系組織中の非特異的物質を可溶化すること」とは,サーコシル及び他の界面活性剤を同時に用いて前記中枢神経系組織を均質化する点で共通する。そして,均質化により得られたものは,均質化物といえる。 (エ)甲3発明の「プロテイナーゼK」は,蛋白質分解酵素「プロテアーゼ」の一種であり,「プロテイナーゼKで処理」することにより,一様に分散された脳組織中の蛋白質が分解されているといえる。 (オ)甲3発明の「15,000回転で遠心分離」は,本件明細書及び図面(【図2】,【図3】等)を参酌すると,「第3の工程:分離工程」では,「15,000rpm」となっていることから,本件特許発明1の「超遠心分離処理を除く遠心分離処理」に相当する。 (カ)甲3発明の15,000回転で遠心分離して得られた「沈殿」は,甲第3号証に「界面活性剤抽出及び蛋白分解酵素処理の段階にPrP^(c)が除去される。」と記載され,除去されるPrP^(c)は正常プリオン蛋白質を意味する(上記3a))ことから,病原性プリオン蛋白質「PrP^(sc)」の沈殿といえ,本件特許発明1の「病原性プリオン蛋白質由来蛋白質を含有する濃縮物」に相当する。 (キ)甲3発明の「沈殿に5%SDSを加え沸騰させ,メタノールで沈殿させ」ることは,沈殿を変性処理しそれに伴いSDSを除くためにメタノール沈殿を行っているといえ,上記訂正の可否「第2 2 (2)ア」に記載したように,技術常識からみて,沈殿を「洗浄」しているということはできないから,甲3発明の「沈殿に5%SDSを加え沸騰させ,メタノールで沈殿させ,チオシアン酸グアニジンに溶解」することは,本件特許発明1の「前記濃縮物を洗浄することなく溶解液」とすることに相当する。 そうすると,両者の間には以下の一致点及び相違点がある。 (一致点) 動物の中枢神経系組織から病原性プリオン蛋白質を酵素免疫吸着測定法により検出する方法であって, サーコシル(商標)及びその他の界面活性剤を同時に用いて前記中枢神経系組織を可均質化することと, 均質化物をプロテアーゼを用いて分解処理することと, 超遠心分離処理を除く遠心分離処理を行うことにより前記分解処理により得られたものから病原性プリオン蛋白質由来蛋白質を含有する濃縮物を得ることと, 前記濃縮物を洗浄することなく溶解液とし,再沈殿させることなく酵素免疫吸着測定法により検出することと を含む病原性プリオン蛋白質の検出方法である点。 (相違点1) サーコシルと併用するその他の界面活性剤が,本件特許発明1では「t-オクチルフェノキシポリエトキシエタノール(トリトン(商標)X-100)」であるのに対して,甲3発明では,「Zwittergent3-12」である点。 (相違点2) 界面活性剤による均質化及びその後のプロテアーゼ分解処理により分解される中枢神経系組織中の物質が,本件特許発明1では,「非特異的物質」であるのに対して,甲3発明では,非特異的物質であることを規定していない点。 そこで,上記各相違点について検討する。 (相違点1について) 甲第1号証には,プロテイナーゼKによる分解後の遠心分離の回転数は,いずれも40,000rpmであるが,脳組織を均一化するのに用いる界面活性剤の組合せとして,トリトンX-100とサーコシル,及びZwittergent3-12とサーコシルが記載されているから,甲3発明のZwittergent3-12とサーコシルの組合せに代えて,甲第1号証に,この組合せと合わせて記載されたトリトンX-100とサーコシルを適用することは当業者が容易になし得たものといえる。 そして,本件発明1の効果は,甲第3号証及び甲第1号証の記載事項から予測し得たものであり,格別顕著なものとはいえない。 (相違点2について) 甲第3号証には,「界面活性剤抽出及び蛋白分解酵素処理の段階にPrP^(c)が除去される。」(PrP^(c)は正常プリオン蛋白質を意味する。)と記載されている。そして,PrP^(c)が除去されるためには,蛋白質分解酵素で分解される必要があり,分解に先立ち界面活性剤により,PrP^(c)が可溶化されているといえる。 そして,正常プリオン蛋白質及び病原性プリオン蛋白質は,アミノ酸の一次構造は同じであり(甲第3号証),甲1発明でELISA法に用いている「B-103抗PrP合成ペプチドウサギ血清」は,甲第15号証に記載されるように,プリオン蛋白質の103-121のアミノ酸の一次構造を有するものを抗原として作成された抗体であるから,正常プリオン蛋白質及び病原性プリオン蛋白質の両方に反応しうるものであり,正常プリオン蛋白質は,病原性プリオン蛋白質の検出においては非特異的物質になるといえる。 そうすると,甲3発明の方法で,正常プリオン蛋白質は,トリトンX-100及びサーコシルにより可溶化され,プロテイナーゼKにより分解されて,遠心分離により除去されているといえる。 そうすると,相違点1は実質的な相違点ではない。 以上のとおり,本件特許発明1は,甲第3号証及び甲第1号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 イ 本件特許発明2について 本件特許発明2は,本件特許発明1の中枢神経組織を「脳組織」と限定するものであるが,甲1発明は,脳または脾臓を試料として用いるものであるから,上記アで記載した相違点以外に新たな相違点は生じないから,上記アに記載したと同じ理由で本件特許発明2は,甲第3号証及び甲第1号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 ウ 本件特許発明3について 本件特許発明3は,本件特許発明1または2について,分解処理が,さらに「コラーゲン分解酵素及びDNA分解酵素による分解処理を含む」と限定を付加するものであるから,付加された限定事項について検討すると,甲3発明は,コラゲナーゼ,DNase及びプロテイナーゼKで処理するものであり,上記アで記載した相違点以外に新たな相違点は生じないから,上記アに記載したと同じ理由で,本件特許発明3は,甲第3号証及び甲第1号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 エ 本件特許発明4について 本件特許発明4は,本件特許発明1ないし3について,プロテアーゼが「プロテイナーゼK」であることを限定をするものであるが,甲3発明は,プロテアーゼKを用いるものであり,上記アで記載した相違点以外に新たな相違点は生じないから,上記アに記載したと同じ理由で,本件特許発明4は,甲第3号証及び甲第1号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 オ まとめ したがって,本件特許発明1ないし4は,上記甲第3号証及び甲第1号証に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。 第7 むすび 以上のとおり,本件請求項1ないし4に係る発明についての特許は,特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであるから,特許法第123条第1項第2号に該当し無効とすべきものである。 また,審判に関する費用については,特許法第169条第2項で準用する民事訴訟法第61条の規定により,被請求人が負担すべきものとする。 よって,結論のとおり審決する。 |
発明の名称 |
(54)【発明の名称】 病原性プリオン蛋白質の検出方法 【発明の詳細な説明】 【技術分野】 【0001】 本発明は、動物組織由来物質から病原性プリオン蛋白質を検出する方法、さらに、この検出方法の実施に際し、検出されるべき前記病原性プリオン蛋白質由来蛋白質を濃縮する、病原性プリオン蛋白質由来蛋白質の濃縮方法、並びにその濃縮又は検出試薬キットに関するものである。 【背景技術】 【0002】 プリオン病の1つであるスクレーピーは、羊において約200年以上前から西ヨーロッパで深刻な病気として知られていた。また、近年、英国でスクレーピー感染羊を未加熱のまま牛飼料として投与し、狂牛病(牛海綿状脳症:BSE;Bovine Spongiform Encephalopathy)の大発生を起こした。 【0003】 また、狂牛病の牛クズ肉を食することと、人プリオン病の1つであるクロイツフェルト・ヤコブ病(CJD;Creutfelt Jakob Disease)の新型のものとの因果関係も指摘されている。即ち、人類にとって重要な動物性蛋白質資源である羊肉やその乳、牛肉や牛乳に関して、危機的な汚染が進行しているといっても過言ではない。 【0004】 しかしながら、プリオン病は、これまでに報告された伝染性細菌、ウイルス性疾患等とは異なり、その病原性物質が本来生体に存在する蛋白質であること、伝播機能が新しいこと、発病までに比較的長時間を有すること、病原性の失活が困難であることなどから、有効な診断方法及び予防方法の開発が遅れている。 【0005】 現在行われている最も高感度な病原性プリオン蛋白質(異常プリオン蛋白質)の検出方法として、羊のスクレーピーに関して、発病前の低濃度での病原性プリオン蛋白質を検出するウエスタンブロット法(WB法;Western Blotting)が開発されている。 【0006】 しかしこの方法は、病原物質の蓄積部位の相違や、この方法を実施するのに時間がかかることや処理頭数などの関係から、牛に関しての適用は困難である。即ち、迅速な処理は困難である。 【0007】 上述した方法以外では、病原性プリオン蛋白質に対する抗体を用いた免疫組織染色や病理所見による感染牛の検出法が広く実施されているのが現状である。 【0008】 しかしながら、これらの方法は、発病後顕著な神経症状を呈したり、死亡した家畜に関し有効なものであり、潜伏期間にある家畜の安全性、言い換えれば、屠蓄場まで、見かけ上、正常な牛についての安全性が確保できなかった。 【0009】 近年、海外から、酵素免疫吸着測定法(ELISA:enzyme-linked immnosorbent assay)や、尿や血液による診断方法の報告もあるが、その感度や特異性には疑問があった。 【0010】 即ち、目的とする病原物質に含まれる病原性プリオン蛋白質をその測定試料調製段階で濃縮し、また、ELISA法用のマイクロタイタープレートへ効率良く吸着させれば、検出感度を向上させることができるが、これまでの方法では検出感度上の限界があった。 【発明の開示】 【発明が解決しようとする課題】 【0011】 ウシ海綿状脳症(BSE:ウェールズ他、1987年)は、食事として与えられた肉や骨髄を介してスクレーピーに汚染された羊のくず肉が畜牛の飼料に含まれていたために発生し、その結果新しく感染した畜牛材が再循環した(ウイルスミス他、1993年)ことは明らかであった。 【0012】 その後英国では、ネコ科の動物と同様に数種の捕獲有蹄動物(ワイアット他、1991年)が再度、海綿状脳症を発病している。これら全てのケースにおいて、BSEは汚染された飼料を介して発生したものと考えられる 【0013】 ウイル他が行った(1996年)英国におけるクロイッフェルト-ヤコブ病(CIJ)の特殊な例に関する報告では、伝染性海綿状脳症(TSE)又はプリオン病の当グループにおける人間変異体の一つが報告されているが、それによると、BSEが人間に伝染する可能性(ウイル他、1996年)が示唆されている。このため全てのTSEについて、種を越えて発生する(ディリンガー、1995年)可能性が一般的に考えられる。 【0014】 現在の調査最優先事項は、スクレーピーやBSEに感染している動物及び材料を検知し、感染の拡大や食物連鎖システムへの侵入を防ぐ方法を開発することにある。 【0015】 残念ながら今までのところ、これらの防止方法や管理対策、又スクレーピー及びBSEの撲滅プログラムは、診断の困難さから上手く捗っているとは言えない。 【0016】 現在使用されている診断方法で最も一般的な方法は、中枢神経系の代表的な海綿変化が顕著に認められる場合に感染と診断する組織病理学的方法(フレイサー、1976年)と、プロテイナーゼK処理法に対して部分的に耐性を示すほか(ボルトン他、1982年;ディリンガー他、1983年)、中性界面活性剤により抽出できない(メイヤー他、1986年;ボルトン他、1987年)と言う特性を有するがために正常なプリオン蛋白質(PrP^(C))と区別することができるプリオン蛋白質のスクレーピー特殊イソフォーム(PrP^(SC))検出方法の二つである。 【0017】 また、最近になって、羊の生検扁桃組織を使用した免疫組織化学アッセイによる細網リンパ系臓器内のPrP^(SC)検出方法が報告された(シュルーダー他、1996年)。しかしながら、牛では、細網リンパ系臓器において異常プリオンの蓄積が顕著でないために、この方法は適さない。 【0018】 その反面、組織病理学は、潜伏期間中での中枢神経系の病理学的変化が後になって発生するため、前記PrP^(SC)検出法と比較した場合、実験用のスクレーピー及びBSEの両者(ボルトン他、1991年;ジェンドロスカ他、1991年)でその使用有効性が低減している。 【0019】 最近では、プリオン病の重大性が高まってきているため、羊や畜牛を屠殺時に選別するためのより感度の高い診断方法が求められている。 【0020】 選別方法としてはELISA法が適切な方法と言えるが、現在、この方法はTSEの基本的な研究のみで使用されているにすぎない(カスクザック他、1987年、サファー他、1990年;サーバン他、1990年)。これらの研究では、高純度PrP^(SC)のみがマイクロタイタープレートに吸着されているが、診断においては原組織抽出液の使用も必要となる。 【0021】 上述したように、プリオン病のうち、人類に対して最も大きな脅威となる疾病の1つに牛海綿状脳症(BSE)が挙げられる。 【0022】 この疾病は外来の病原性プリオン蛋白質が引き金となり、家畜体内の中枢神経等に病原性プリオン蛋白質を蓄積し、神経症状を呈して死亡に至る疾病であり、病原性物質としての病原性プリオン蛋白質の蓄積濃度と病気の進行具合とは顕著に比例する。 【0023】 そのため、罹患後、潜伏期間中には病原性物質の蓄積濃度が低いため、特異的で高感度の検出方法が必要であった。また、全世界で処理される牛の頭数を考慮すれば、測定試料の調製法(即ち、濃縮法)並びに検出法は、簡便性、正確性、迅速性、経済性等が必要であることは言うまでもない。 【0024】 他方、本疾病は、罹患した牛の中枢神経系臓器を食することによる人間への伝播性が強く示唆されている。これらの問題を解決するためには、広く検疫調査を行い、本疾病に罹った羊や牛などを見出し、食物連鎖の初期の段階での駆除が有効である。 【0025】 本発明は、上述した従来の実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、動物組織由来物質から、比較的低濃度でも迅速かつ簡便に、そして高感度で組織特異的に病原性プリオン蛋白質を検出できる病原性プリオン蛋白質の検出方法、および、その検出方法の実施に際し、検出されるべき前記病原性プリオン蛋白質由来蛋白質を濃縮する方法を提供することにある。 【課題を解決するための手段】 【0026】 本発明者は、上述した課題を解決するべく鋭意検討を重ねた結果、動物組織由来物質から病原性プリオン蛋白質を検出する方法において、検出対象となる動物組織由来物質の種類に応じて、使用する調製剤(特に界面活性剤)や調製方法、検出方法を適宜選択することによって、前記病原性プリオン蛋白質を比較的低濃度でも迅速かつ簡便に、そして高感度で検出できることを見出した。 【0027】 即ち、本発明は、動物の中枢神経系組織から病原性プリオン蛋白質を免疫測定法により検出する方法の実施に際し、検出されるべき病原性プリオン蛋白質由来蛋白質を濃縮する方法において、t-オクチルフェノキシポリエトキシエタノール(トリトン(商標)X-100)、サーコシル(商標)を用いて前記中枢神経系組織中の非特異的物質を可溶化することと、前記可溶化された非特異的物質をプロテアーゼを用いて分解処理することと、前記分解処理物から病原性プリオン蛋白質由来蛋白質を含有する濃縮物を得ることとを含む濃縮方法に係るものである。 【0028】 本発明の濃縮方法によれば、まず、病原性プリオン蛋白質由来蛋白質の濃縮工程において、中枢神経系組織に適した界面活性剤を用いてこれを均一化しているので、前記動物組織由来物質に蓄積される病原性プリオン蛋白質の蓄積濃度が比較的小さくても、病原性プリオン蛋白質由来蛋白質を十分に濃縮させることができる。 【0029】 さらに、濃縮後、免疫測定法、例えば酵素免疫吸着測定法(ELISA法;以下、同様)に基づいてこれを検出することができるので、病原性プリオン蛋白質由来蛋白質を特異的に、かつ強固に結合(固定化)させることができ、迅速かつ簡便に、そして高感度でこれを検出することができる。 【0030】 即ち、本発明の濃縮方法によれば、例えば牛や羊などをプリオン病(スクレーピーやBSE)感染初期の段階で診断、選別することが可能となり、また、これを大量かつ迅速に行うことができる。特に、羊ではリンパ節を用いた生検が可能とされているが、本発明によれば、例えば牛に関してもリンパ節を用いた生検が可能になると考えられる。 【0032】 さらに、本発明は、動物組織由来物質から病原性プリオン蛋白質を免疫測定法により検出する方法の実施に際し、検出されるべき病原性プリオン蛋白質由来蛋白質を濃縮するための試薬キットであって、(a)t-オクチルフェノキシポリエトキシエタノール(トリトン(商標)X-100)及びサーコシル(商標)を含有する、動物の中枢神経系組織中の非特異的物質可溶化試薬、(b)プロテイナーゼKの組み合わせを含んでなる、病原性プリオン蛋白質由来蛋白質の濃縮試薬キットも提供するものである。 【0033】 本発明の濃縮方法によれば、前記動物組織由来物質に蓄積される病原性プリオン蛋白質の蓄積濃度が比較的小さくても、病原性プリオン蛋白質由来蛋白質を十分に濃縮させることができる。 【0034】 ここで、前記動物組織由来物質とは、動物の中枢神経系組織、細網リンパ系組織や骨、更には、これらの組織に由来する物質(例えば、食品、移植用硬膜、医療用コラーゲン)なども含むものである(以下、同様)。また、前記病原性プリオン蛋白質とは、プリオン病の原因であると考えられている異常プリオン蛋白質を意味し、前記プリオン病としては、上述したCJDやスクレーピー、BSEなどが挙げられる。本発明の検出方法、本発明の濃縮方法は、羊のスクレーピーやBSEに限定されず、様々なプリオン病に対処することが可能である。 【発明の効果】 【0035】 本発明の濃縮方法によれば、動物の中枢神経系組織から病原性プリオン蛋白質を免疫測定法により検出する方法の実施に際し、検出されるべき病原性プリオン蛋白質由来蛋白質を濃縮する方法において、t-オクチルフェノキシポリエトキシエタノール(トリトン(商標)X-100)、サーコシル(商標)を用いて前記中枢神経系組織中の非特異的物質を可溶化することと、前記可溶化された非特異的物質をプロテアーゼを用いて分解処理することと、前記分解処理物から病原性プリオン蛋白質由来蛋白質を含有する濃縮物を得ることとを含む濃縮方法によって、前記病原性プリオン蛋白質を濃縮することを特徴としており、まず、病原性プリオン蛋白質由来蛋白質の濃縮工程において、特に、中枢神経組織に適した界面活性剤を用いて非特異的物質を可溶化し、さらに、前記可溶化された非特異的物質をプロテアーゼを用いて分解処理しているので、前記中枢神経組織に蓄積される病原性プリオン蛋白質の蓄積濃度が比較的小さくても、病原性プリオン蛋白質由来蛋白質を十分に濃縮させることができる。 【0036】 さらに、濃縮された病原性プリオン蛋白質をその後、酵素免疫吸着測定法に基づいてこれを検出することができるので、病原性プリオン蛋白質由来蛋白質を特異的に、かつ強固に結合(固定化)させることができ、迅速かつ簡便に、そして高感度でこれを検出することができる。 【0037】 即ち、本発明の検出方法によれば、例えば牛や羊などをプリオン病(スクレーピーやBSE)感染初期の段階で診断、選別することが可能となり、また、これを大量かつ迅速に行うことができる。 【0038】 また、本発明の濃縮方法によれば、動物組織由来物質から病原性プリオン蛋白質を検出する病原性プリオン蛋白質の検出方法の実施に際し、検出されるべき前記病原性プリオン蛋白質由来蛋白質を濃縮する方法において、蓄積濃度が比較的小さくてもこれを十分に濃縮できる有効な濃縮方法を提供できる。 【発明を実施するための最良の形態】 【0039】 まず、本発明の検出方法について説明する。 【0040】 本発明の検出方法における第1の工程として、前記動物組織由来物質の種類に応じた界面活性剤を用いて、この動物組織由来物質を均一化する均一化工程を有しているので、前記動物組織由来物質を十分に溶解し、また、その種類に応じた前記界面活性剤の存在下で非特異的物質を可溶化し、病原性プリオン蛋白質を含有する前記動物組織由来物質を十分に均一化することができる。 【0041】 従って、前記動物組織由来物質における病原性プリオン蛋白質の割合が比較的低濃度であっても、これを良好に均一化することができ、ひいては良好な病原性プリオン蛋白質由来蛋白質の濃縮物を得ることができる。つまり、病原性プリオン蛋白質由来蛋白質を分離、抽出するために有効な均一化物(ホモジネート)を得ることができる。 【0042】 この第1の工程において、前記動物組織由来物質が中枢神経系組織(例えば、脳組織や脊髄組織など)の場合は、前記界面活性剤をズイッタージェント(Zwittergent)3-12〔商品名:カルビオケミカル社製:n-ドデシル-N,N-ジメチル-3-アンモニオ-1-プロパンスルホネート(N-dodecyl-N,N-dimethyl-3-amino-1-propanesulfonate):分子量336.6〕又はトリトン(Triton)X-100〔商品名:シグマ社製:t-オクチルフェノキシポリエトキシエタノール(t-octylphenoxypolyethoxyethanol)〕からなる界面活性剤とすることが望ましい。なお、前記界面活性剤以外にも、例えばカルビオケミカル社製のズイッタージェント3-08、3-10、3-14、3-16やノニデットP-40(octylphenoxypolyethoxyethanol)などを使用してもよい。 【0043】 上記の各界面活性剤を使用することによって、前記脳組織における非特異的物質(正常プリオン蛋白質やその他の蛋白質:以下、同様)を十分に可溶化することができる。特に、前記中枢神経系組織として脳組織を用いることがさらに望ましい。 【0044】 界面活性剤の選択により検出感度の組織特異性が向上するメカニズムとしては、例えば脳組織では、濃度0.5%、pH7.5程度のサーコシル〔商品名:シグマ社製(分子式C_(15)H_(25)NO_(3)Na)〕でもPrP^(SC)のロスが少なく、十分非特異的に蛋白質の抽出ができ、これに対してリンパ、脾臓組織などでは、非特異的な夾雑蛋白質の除去が不十分となることがあり、改めて高濃度の前記サーコシルでPrP^(SC)を選択的に抽出することが望ましいからであると考えられる。 【0045】 また、前記動物組織由来物質が細網リンパ系組織(例えば、脾臓やリンパ節、骨髄など)の場合は、前記界面活性剤をt-オクチルフェノキシポリエトキシエタノールからなる非イオン性界面活性剤とすることが望ましい。 【0046】 上記界面活性剤を使用することによって、前記脾臓組織における非特異的物質を十分に可溶化することができる。特に、前記細網リンパ系組織として脾臓組織を用いることがさらに望ましい。 【0047】 次に、前記第2の工程として、前記第1の工程で得られた均一化物を微生物プロテアーゼを含む分解酵素を用いて分解処理する分解処理工程を有しているので、前記均一化物中の病原性プリオン蛋白質を含む物質(特に、染色体やDNAなど)を十分に分解、消化させて、目的物である病原性プリオン蛋白質を十分に取り出すことができる。 【0048】 一般に、病原性プリオン蛋白質は、染色体中の遺伝子上にのっていると考えられている。従って、特異的にこの蛋白質を取り出すためには、これを含む蛋白質を分解することが要求される。この第2工程は、非特異的物質を分解すると共に病原性プリオン蛋白質を含む蛋白質を分解する操作である。 【0049】 ここで、前記分解酵素としてコラーゲン分解酵素(コラゲナーゼ:Collagenase)及びDNA分解酵素(DNアーゼ:DNase)を用いて前記均一化物を分解し、さらに蛋白質分解酵素(プロテイナーゼ:Proteinase又はプロテアーゼ:Protease)を用いて分解することが望ましい。 【0050】 次に、前記第3の工程として、前記第2の工程で分解された前記均一化物から前記病原性プリオン蛋白質由来蛋白質を含有する濃縮物を得る分離工程を有しているので、上記の第1の工程及び第2の工程で十分に均一化及び分解された前記病原性プリオン蛋白質由来蛋白質を含有する物質を効率的に分離することができる。 【0051】 この分離工程では、例えば、遠心分離(超遠心分離)等の手段を用いて分離、濃縮することができる。 【0052】 以上が、前記病原性プリオン蛋白質由来蛋白質の濃縮工程の基本的な構成であるが、本発明の検出方法における濃縮工程では、上述した第1の工程?第3の工程に加えて、例えば、下記のような工程を付加することが望ましい。 【0053】 例えば、前記濃縮工程中に、前記第3の工程で得られた前記病原性プリオン蛋白質由来蛋白質を含有する濃縮物を微生物プロテアーゼを含む分解酵素を用いて分解し、次いで分離後に塩析処理を施す工程を更に有することが望ましい。 【0054】 即ち、前記病原性プリオン蛋白質由来蛋白質の溶解性を一層向上させるために、例えば、サーコシル(Sarkosyl、商品名:シグマ社製:C_(15)H_(25)NO_(3)Na)等を使用して溶解処理、分離処理を行い、得られた分離抽出物を例えばNaClを用いて塩析した後、分離処理を行うことによって、一層濃縮された病原性プリオン蛋白質由来蛋白質を含有する濃縮物を得ることができる。 【0055】 また、前記濃縮工程中に、前記第3の工程で得られた前記病原性プリオン蛋白質由来蛋白質を含有する濃縮物を界面活性剤で洗浄する洗浄工程を更に有することが望ましい。 【0056】 即ち、前記濃縮物(例えばペレット状)の付加的な洗浄工程として、界面活性剤を用いて前記濃縮物を洗浄することによって、前記濃縮物中の不所望の物質(非特異性物質)をさらに多く除去することができる。 【0057】 ここで、使用する界面活性剤としては、n-ドデシル-N,N-ジメチル-3-アンモニオ-1-プロパンスルホネート(例えばズイッタージェント3-12,3-08,3-10など)からなる界面活性剤が望ましい。 【0058】 次に、本発明の検出方法に基づく、測定法(第4の工程から第6の工程)について説明する。 【0059】 ここで、第4から第6工程で行われる測定法として免疫測定法、例えば酵素免疫吸着測定法(ELISA:enzyme-linked immnosorbentassay)は、酵素抗体法とも呼ばれ、特定の吸着面に抗体を配し、抗原と抗体とを結合せしめて、その複合体を形成し、これを検出する方法である。 【0060】 まず、前記第4の工程として、前記病原性プリオン蛋白質由来蛋白質を含有する濃縮物を溶剤に溶解して前記濃縮物の溶解物を得る工程(溶解工程)を有しているので、次段の吸着工程で吸着面に吸着され易い病原性プリオン蛋白質由来蛋白質の濃縮物を作製することができる。 【0061】 ここで、前記溶剤としてグアニジンチオシアネート(GdnSCN)を使用することが望ましい。 【0062】 グアニジンチオシアネートは、前記濃縮物を次段での吸着工程で吸着されやすくする作用を有すると考えられる。これは、グアニジンチオシアネートによって抗プリオン蛋白質抗体の免疫反応性が増大するような抗原性サイトが発現することによるものと考えられ、グアニジンチオシアネートでの溶解処理によって、抗原-抗体複合体の強固で特異的な反応を検出することができる。 【0063】 前記グアニジンチオシアネートは、1?5モル濃度(M)のものを使用することが望ましい。この濃度は3?4モル濃度がさらに望ましい。また、上述したグアニジンチオシアネート中への前記濃縮物の溶解は、リン酸緩衝生理食塩水(PBS;pH≦5)などをバッファとして行うことが望ましい。 【0064】 次に、前記第5の工程として、前記溶解物中の前記病原性プリオン蛋白質を吸着面に結合させる工程(結合工程)を有しており、前段で溶解された溶解物中の前記病原性プリオン蛋白質由来蛋白質由来蛋白質を、例えばマイクロタイタープレート(microtiterplate)などに吸着させることができる。従って、抗原-抗体複合体の形成のための強く特異的な反応をこの方法にて検出することができる。 【0065】 また、前記吸着面を一次抗体で形成し、この一次抗体と前記病原性プリオン蛋白質由来蛋白質との抗原-抗体複合体を前記吸着面に結合させることができる。一般に、ELISA法は、測定対象である抗原とその固定化のための抗体とにおける抗原-抗体複合体を生じせしめ、これを例えば酵素標識抗体と基質とを用いる発色法にて検出するものである。 【0066】 次に、前記第6の工程として、上記第5の工程において結合された前記病原性プリオン蛋白質由来蛋白質を酵素標識抗体と発色基質とを反応させて発色させる工程(発色工程)を有しているので、これを比色計や分光光度計などにより容易に検出できる。即ち、その発色度を検出することによって病原性プリオン蛋白質の有無、さらにはその蓄積濃度を調べることができる。 【0067】 また、発色試薬(発色基質)としては、2,2-アジゾ-ビス(3-エチル-ベンズチアゾリン-6-スルホネート)等を使用することができる。周知のように、蛍光測定は、酵素標識抗体と蛍光基質とを用いて測定を行うことができる。また、発光測定は、酵素標識抗体と発光基質とを用いて測定を行うことができる。 【0068】 この発色方法としては、前記病原性プリオン蛋白質由来蛋白質に結合するアビジン(avidin)と、前記化学発光物質に結合するビオチン(biotin)との複合体の形成に基づく発色を観察するアビジン-ビオチン複合体法(ABC法)やホースラディッシュペルオキシダーゼ複合ロバ抗兎免疫グロブリン(horseradish peroxidase-conjugateddonky anti-rabbit IgG)を使用する間接法(HRP法)などを使用できる。 【0069】 この検出方法の概要は、例えば、ウエルに結合されたPrP^(SC)がポリクローナル抗体B103と特異的に結合、その抗体をさらに特異的に認識する2次抗体(抗ウサギIgG)-ビオチン複合体で結合、そこへアジビンを結合、次にホースラディシュベルオキシターゼ(HRP)-ビオチンを結合させ、HRPの基質を反応させ発色させる方法である。 【0070】 一般に、アビジン-ビオチン複合体法により得られる結果は、間接法よりも再現性が高いが、特に、前記動物組織由来物質として脾臓組織中の病原性プリオン蛋白質を検出する場合、前記アビジン-ビオチン複合体法を用いることが望ましい。 【0071】 上述したように、本発明の酵素免疫吸着法(ELISA法)によれば、測定対象である病原性プリオン蛋白質が比較的低濃度であっても、病原性プリオン蛋白質由来蛋白質を強く、特異的に結合させることができ、迅速かつ簡便に前記病原性プリオン蛋白質を検出することができる。 【0072】 なお、ELISA法による検出は、上述したウエスタンブロッティング法(WB法)に比べて、少なくとも同等の感度を示し、さらに、その測定は実用的かつ迅速である。また、ELISA法による検出の利点は、多くのサンプルを1回で分析することができ、潜在的に感染されている動物を大量に診断、選別することができ、感染によるプリオン病(特にBSE)をコントロールするという広汎な用途に利用することが可能である。 【0073】 次に、本発明の濃縮方法を説明する。 【0074】 本発明の濃縮方法によれば、動物の中枢神経系組織から病原性プリオン蛋白質を検出する方法の実施に際し、検出されるべき病原性プリオン蛋白質由来蛋白質を濃縮する方法において、t-オクチルフェノキシポリエトキシエタノール(トリトン(商標)X-100)、サーコシル(商標)を用いて前記中枢神経系組織中の非特異的物質を可溶化し、さらに前記可溶化された非特異的物質をプロテアーゼを用いて分解処理するため、病原性プリオン蛋白質を含有する前記動物組織由来物質を十分に均一化及び分解することができる。 また、別法としては、動物組織由来物質から病原性プリオン蛋白質を検出する方法の実施に際し、検出されるべき前記病原性プリオン蛋白質由来蛋白質を濃縮する方法において、前記第1の工程として、前記動物組織由来物質の種類に応じたn-ドデシル-N,N-ジメチル-3-アンモニオ-1-プロパンスルホネート、t-オクチルフェノキシポリエトキシエタノール等の界面活性剤を用いて前記動物組織由来物質を均一化する均一化工程を有しているので、前記動物組織由来物質を十分に溶解し、また、その種類に応じた界面活性剤として、n-ドデシル-N,N-ジメチル-3-アンモニオ-1-プロパンスルホネート又はt-オクチルフェノキシポリエトキシエタノールからなる界面活性剤の存在下で非特異的物質を可溶化し、病原性プリオン蛋白質を含有する前記動物組織由来物質を十分に均一化することができる。 【0075】 従って、前記動物組織由来物質における病原性プリオン蛋白質の割合が比較的低濃度であっても、これを良好に均一化することができ、ひいては良好な病原性プリオン蛋白質由来蛋白質の濃縮物を得ることができる。つまり、病原性プリオン蛋白質由来蛋白質を分離、抽出するために有効な均一化物(ホモジネート)を得ることができる。 【0076】 ここで、前記動物組織由来物質を中枢神経系組織とすることが望ましい。また、前記中枢神経系組織を脳組織とすることがさらに望ましい。 【0077】 また、プロテアーゼを含む分解酵素を用いて分解処理するので、前記均一化物中の病原性プリオン蛋白質を含む物質(特に、染色体)を十分に分解、消化させて、目的物である病原性プリオン蛋白質由来蛋白質を十分に取り出すことができる。 【0078】 前記分解酵素として、コラーゲン分解酵素及びDNA分解酵素を用いて前記均一化物を分解し、さらに微生物プロテアーゼを含む蛋白質分解酵素を用いて分解することが望ましい。 【0079】 また、前記分解酵素として、前述した微生物プロテアーゼを用いて前記均一化物を分解することもできる。 【0080】 次に、前記均一化物から前記病原性プリオン蛋白質由来蛋白質を含有する濃縮物を得るため、十分に均一化及び分解された前記病原性プリオン蛋白質由来蛋白質を含有する物質を効率的に分離することができる。 【0081】 この分離工程では、例えば、遠心分離(超遠心分離)等の手段を用いて分離、濃縮することができる。 【0082】 以上が、本発明の濃縮方法の基本的な構成であるが、本発明の濃縮方法では、上述した本発明の検出方法と同様に、前記に加えて、例えば、下記のような工程を付加することが望ましい。 【0083】 例えば、前記濃縮工程中に、前記病原性プリオン蛋白質由来蛋白質を含有する濃縮物を微生物プロテアーゼを含む分解酵素を用いて分解し、次いで分離後に塩析処理を施す工程を更に有することが望ましい。 【0084】 即ち、前記病原性プリオン蛋白質由来蛋白質の溶解性を一層向上させるために、例えば、サーコシル等を使用して溶解処理、分離処理を行い、得られた分離抽出物を例えば、NaCl等を用いて塩析を行った後、分離処理を行うことによって、一層濃縮された前記病原性プリオン蛋白質由来蛋白質を含有する濃縮物(例えばペレット)を得ることができる。 【0085】 また、前記濃縮工程中に、前記病原性プリオン蛋白質由来蛋白質を含有する濃縮物を界面活性剤で洗浄する洗浄工程を更に有することが望ましい。 【0086】 即ち、前記濃縮物(例えばペレット状)の付加的な洗浄工程として、前記界面活性剤を用いて前記濃縮物を洗浄することによって、前記濃縮物中の不所望の物質(非特異的物質)をさらに多く除去することができる。前記界面活性剤としては、n-ドデシル-N,N-ジメチル-3-アンモニオ-1-プロパンスルホネート(例えば、前記ズイッタージェント3-12,3-08,3-10など)からなる界面活性剤を使用することが望ましい。 【0087】 次に、さらに別法による濃縮方法を説明する。 【0088】 この濃縮方法によれば、動物組織由来物質から病原性プリオン蛋白質を検出する方法の実施に際し、検出されるべき前記病原性プリオン蛋白質由来蛋白質を濃縮する方法において、第1の工程として、前記動物組織由来物質の種類に応じた界面活性剤を用いて前記動物組織由来物質を均一化する均一化工程を有しているので、前記動物組織由来物質を十分に溶解し、また、その種類に応じた前記界面活性剤の存在下で非特異的物質を可溶化し、病原性プリオン蛋白質を含有する前記動物組織由来物質を十分に均一化することができる。 【0089】 従って、前記動物組織由来物質における病原性プリオン蛋白質の割合が比較的低濃度であっても、これを良好に均一化することができ、ひいては良好な病原性プリオン蛋白質由来蛋白質の濃縮物を得ることができる。つまり、病原性プリオン蛋白質由来蛋白質を分離、抽出するために有効な均一化物を得ることができる。 【0090】 この第1の工程において、前記動物組織由来物質を細網リンパ系組織とすることが望ましい。特に、前記細網リンパ系組織が脾臓組織である場合は、上述したように、上記界面活性剤を使用することによって、前記脾臓組織における非特異的物質を十分に可溶化することができる。 【0091】 次に、第2の工程として、前記第1の工程で得られた均一化物を分解酵素を用いて分解処理する分解処理工程を有しているので、前記均一化物中の病原性プリオン蛋白質を含む物質(特に、染色体)を十分に分解、消化させて、目的物である病原性プリオン蛋白質由来蛋白質を十分に取り出すことができる。 【0092】 ここで、前記分解酵素としてコラーゲン分解酵素及びDNA分解酵素を用いて前記均一化物を分解し、さらに微生物プロテアーゼを含む蛋白質分解酵素を用いて分解することが望ましい。 【0093】 次に、第3の工程として、前記第2の工程で分解された前記均一化物から前記病原性プリオン蛋白質由来蛋白質を含有する濃縮物を得る分離工程を有しているので、上記の第1の工程及び第2の工程で十分に均一化及び分解された前記病原性プリオン蛋白質由来蛋白質を含有する物質を効率的に分離することができる。 【0094】 この分離工程では、例えば、遠心分離(超遠心分離)等の手段を用いて分離、濃縮することができる。 【0095】 次に、洗浄工程として、前記第3の工程で得られた前記病原性プリオン蛋白質由来蛋白質を含有する濃縮物をn-ドデシル-N,N-ジメチル-3-アンモニオ-1-プロパンスルホネートからなる界面活性剤で洗浄する洗浄工程を更に有しているので、前記濃縮物中の不所望の物質(非特異性物質;例えば、正常なプリオン蛋白質や他の蛋白質など)をさらに多く除去することができる。 【0096】 上述した、本発明の濃縮方法によれば、前記動物組織由来物質に蓄積される病原性プリオン蛋白質の蓄積濃度が比較的小さくても、病原性プリオン蛋白質由来蛋白質を十分に濃縮させることができる。なお、上記各濃縮方法で得られた病原性プリオン蛋白質由来蛋白質を含有する濃縮物は、後段でELISA法に用いてもよいし、また、WB法や電気泳動法などに用いてもよい。 【実施例】 【0097】 以下、本発明を具体的な実施例について説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。 【0098】 本実施例は、スクレーピー感染マウスからの粗組織抽出物のPrP^(SC)(病原性プリオン蛋白質:以下、同様)の検出、及び検出されるべきPrP^(SC)由来蛋白質の濃縮を行うものである。 【0099】 1.本実施例ではSIc/ICRマウスを用いた。このマウスは、オビヒロ種スクレーピーを脳内感染したもの(シナガワ他、1985年)であり、明らかにスクレーピーを発症したマウスから脳組織及び脾臓組織を取り出した。 【0100】 2.脳組織及び脾臓組織からのPrP^(SC)の濃縮 サンプルは図1?図3に示す8種の異なる濃縮法で調製した。すべての8つの方法は、ハサミで細かく切り刻んだ組織サンプルを、分解酵素で消化させたこと(第2の工程)、および、界面活性剤の存在下で、可溶性の非特異的物質を抽出し、遠心分離(第3の工程)する目的のために均一化を行うこと(第1の工程)において共通している。 【0101】 以下、PrP^(SC)由来蛋白質の濃縮方法に関し、方法1?方法8について図1?3を参照しながら簡単に説明する。 【0102】 方法1 まず、8%ズイッタージェント3-12(界面活性剤)と、サーコシルと、100mM塩化ナトリウム(NaCl)と、5mM塩化マグネシウム(MgCl_(2))と50mM、pH=7.5のトリス-塩酸緩衝液(Tris-HCl)とを加えて、上記脳組織を均一化し、均一化物(ホモジネート)を作製した(第1の工程)。 【0103】 次いで、この均一化物を、0.5mg/100mgコラゲナーゼ〔3,4,24,3〕(Collagenase)及び40μg/100mgのDNアーゼ〔3,1,21,1〕(DNase)を用いて、温度37℃、4?12時間で分解(消化)処理を行い、さらに、50μg/100mgのプロテイナーゼ〔3,4,21,14〕(Proteinase K)を用い、温度37℃、0.5?2時間で分解(消化)処理を行った(第2の工程)。この分解(消化)処理は、前記組織中の病原性プリオン蛋白質以外の測定夾雑物質の酵素分解のために行ったものである。 【0104】 次いで、反応を停止した後、回転数15,000rpm、室温で20分間遠心分離を行った。これを、5%SDS(ドデシル硫酸ナトリウム)で10分間加熱溶解させ(第3の工程)、PrP^(SC)由来蛋白質含有の濃縮物を得た(図1)。 【0105】 方法2 まず、方法1と同様に、上記脳組織を均一化し均一化物を作製した(第1の工程)。次いで、前記均一化物を、ブロメリン〔3,4,22,23〕(Bromelain)を用いて温度45℃、0.5?2時間で分解(消化)した(第2の工程)。 【0106】 次いで、反応を停止した後、回転数15,000rpm、室温で20分間遠心分離を行った。これを、5%SDS(ドデシル硫酸ナトリウム)で10分間加熱溶解させ(第3の工程)、PrP^(SC)由来蛋白質含有の濃縮物を得た(図1)。 【0107】 なお、ブロメリンを用いる場合、作用温度45?80℃、作用時間1?10時間程度が望ましい。ブロメリンを用いる結果、使用する酵素の種類が1種類となり、また操作が簡便(操作時間の短縮や経費圧縮)になる。なお、測定結果は、3種類の酵素(コラゲナーゼ、DNアナーゼ、プロテイナーゼ)を用いた場合と感度においても遜色のない(同程度)結果であった。 【0108】 方法3 組織重量の5?8倍容量の4%トリトンX-100(非イオン性界面活性剤)と、0.5%サーコシルと、100mM塩化ナトリウム(NaCl)と、5mM塩化マグネシウム(MgCl_(2))と、50mM、pH=7.5のトリス-塩酸緩衝液とを加えて、上記脾臓組織及び脳組織を均一化し均一化物を作製した(第1の工程)。 【0109】 次いで、方法1と同様の分解(消化)処理を行った(第2の工程)。さらに方法1と同様の分離処理を行った(第3の工程)。 【0110】 次いで、前記分離処理(第3の工程)で得られた沈殿物を6.25%サーコシル及び10mM、pH=9.2のトリス-塩酸緩衝液を用いて懸濁化、分解した(分解工程)。 【0111】 次いで、これを超音波破砕してから、回転数15,000rpmで遠心分離し、その後、遠心分離で得られた溶液の上澄みに、最終濃度12%でNaClを添加、攪拌した(塩析工程)。この後、回転数55,000rpmで超遠心分離し、5%SDSを用いて加熱溶解し、PrP^(SC)由来蛋白質含有の濃縮物を得た(図2)。 【0112】 方法4 方法3と、分離処理(第3の工程)までは同様にして、上記脾臓組織及び脳組織の分離を行ったのち、得られた沈殿物(ペレット状)を5%SDSを用いて加熱溶解し、PrP^(SC)由来蛋白質含有の濃縮物を得た(図2)。 【0113】 方法5 方法3と、分離処理(第3の工程)までは同様にして、上記脾臓組織の分離を行ったのち、得られた沈殿物(ペレット状)を8%ズイッタージェント3-12(界面活性剤)と、10mM、pH=7.5のトリス-塩酸緩衝液とを加えて均一化し、均一化物を作製した(洗浄工程)。 【0114】 次いで、回転数15,000rpmで遠心分離し、得られた沈殿物(ペレット状)を5%SDSを用いて加熱溶解し、PrP^(SC)由来蛋白質含有の濃縮物を得た(図2)。 【0115】 方法6 方法3において、その分解処理工程(第2の工程)で、コラゲナーゼ及びDNアーゼ、更には、プロテイナーゼを用いて分解(消化)処理を行う代わりに、方法2と同様のブロメリン(Bromelain)を用いて、組織中の病原性プリオン蛋白質以外の測定夾雑物質を酵素分解した以外は方法3と同様にして、PrP^(SC)由来蛋白質含有の濃縮物を得た(図3)。 【0116】 方法7 方法4において、その分解処理工程(第2の工程)で、コラゲナーゼ及びDNアーゼ、更には、プロテイナーゼを用いて分解(消化)処理を行う代わりに、方法2と同様のブロメリンを用いて、組織中の病原性プリオン蛋白質以外の測定夾雑物質を酵素分解した以外は方法4と同様にして、PrP^(SC)含有由来蛋白質の濃縮物を得た(図3)。 【0117】 方法8 方法5において、その分解処理工程(第2の工程)で、コラゲナーゼ及びDNアーゼ、更には、プロテイナーゼを用いて分解(消化)処理を行う代わりに、方法2と同様のブロメリンを用いて、組織中の病原性プリオン蛋白質以外の測定夾雑物質を酵素分解した以外は方法5と同様にして、PrP^(SC)含有由来蛋白質の濃縮物を得た(図3)。 【0118】 即ち、方法3、方法4及び方法5では、5?8倍容量の4%(wt/vol)トリトンX-100を均一化バッファに添加し、方法1では、8%(wt/vol)ズイッタージェント3-12を前記トリトンX-100の代わりに添加した。 【0119】 方法5で用いたズイッタージェント3-12は、不所望な材料(非特異的物質)を更に多く除去するために、第3の工程(回転数15,000rpm)での遠心分離(TLA 100.3回転子、オプティマTLX デスクトップ型超遠心機、ベックマン(Beckman)社製)で得られたペレットの付加的な洗浄工程として用いた。 【0120】 方法3では、PrP^(SC)由来蛋白質の溶解性を上げるため、PrP^(SC)由来蛋白質を6.25%(wt/vol)サーコシルによりpH=9.2(これは従来用いたpHよりも高い値である)で抽出した。サーコシル抽出後は、PrP^(SC)由来蛋白質の溶解性を再び下げるため、10%(vol/vol)HClでpHを中性に戻し、次いで12%(wt/vol)NaClによるPrP^(SC)由来蛋白質の塩析と、55,000rpmでの最終遠心分離処理を行い、一層濃縮されたPrP^(SC)由来蛋白質を含有するペレットを得た。このサーコシル抽出とNaClによるPrP^(SC)由来蛋白質の塩析は、方法4、方法5、方法1では省略し、サンプル調製プロセスを簡略化した。 【0121】 3.ウエスタンブロット分析 スクレーピーに感染させたマウスの脳、脾臓をサンプルとした。脳は方法1で脾臓は方法3で調製した。サンプルは23倍から211倍希釈した。WB法に先立ち、各希釈サンプルのSDS-PAGE(電気泳動)を行い、これをPVDF膜に転写した。ブロッキングには、5%のスキムミルクを用い、検出にはB103ポリクローナル抗体を使用した。ELC-Western blot detection system(Amersham社製)で検出した。 【0122】 4.ELISA法 図4に示すように、マイクロタイタープレートへの適切な吸着条件を調べるために、まず、脳組織及び脾臓組織抽出物を、5%SDS:ドデシル硫酸ナトリウム中で10分間加熱沸騰させ(1)、これを10倍容量以上の氷冷メタノール中で沈殿させた(2)。この組織抽出物は、通常、10?40mgの原組織を含有していた。但し、前記(数値)は、図4中の(数値)と対応するものである(以下、同様)。 【0123】 次いで、遠心分離処理(3)後、得られたペレット状沈殿物を100μlの異なる濃度(1?5M)のグアニジンチオシアネート(グアニジンチオシアン酸エステル:GdnSCN)、PBS(リン酸緩衝生理食塩水:最終pH≦5)中で超音波溶解させた(4)。ここまでの工程(1)?(4)は上述した第4の工程に相当するものである。 【0124】 また、図5に示すように、溶剤としてSDSを用いた場合の測定を行うために、GdnSCNの使用に変えて、ペレットを100μlの異なる濃度(0.1?4%(vol/vol))のSDS、PBS(最終pH≦5)中に溶解させた。 【0125】 次いで、それぞれの溶液を、96穴丸底マキシソープ免疫プレート(商品名:Maxisorpimmuno plate:Nunc)上に分布させ、室温で一晩、振揺下で培養した(5)(なお、例えばコーニング社製ELISAプレート高結合型430452を用いてもよい)。 【0126】 次いで、前記プレートを、PBSで3回洗浄し(6)、PBS-5%脱脂乳中で1時間、37℃でブロッキング(閉塞状態にすること)を行った(7)。 【0127】 次いで、前記プレートを、0.05%トゥイーン(Tween)20を含有するPBS(以下、PBSTと称する)で3回洗浄した(8)。 【0128】 次いで、兎の抗血清B-103(ホリウチ他、1995年)を一次抗体としてPBSの初期容量分を用い、33%硫酸アンモニウムでの沈殿処理後に、PBST-0.5%脱脂乳中で2,000倍に希釈した後、ウエル(上記穴:以下、同様)中に100μl分布させた。前記プレートは、室温で1時間、振揺下で培養し、抗原-抗体反応複合体を形成した(9)。ここで、前記工程(5)?(9)は、第5の工程に相当する。 【0129】 このプレートをPBSTで3回洗浄した後、アビジン(Avidin)-ビオチン(Biotin)複合体(ABC)法により、下記のようにして顕在化させたところ、上記抗原-抗体複合体が目視状態となった。ただし、ABC法用のキットとしてベクタステイン・エリート ABCキット、ベクターラボラトリーズ製(Vectastain Elite ABC kit,Vector Laboratories)を使用した。 【0130】 ビオチン(ビタミンH)化した抗ウサギ免疫グロブリン(anti-rabbit IgG)をPBST-0.5%脱脂乳中で1,500倍に希釈し、ウエルを室温、振揺下で1時間、100μlを培養した(10)。 【0131】 次いで、PBSTで4回洗浄し、PBSで1回洗浄した後(11)、キットの成分A(アビジン)と成分B(ビオチン)とをそれぞれ、200倍の希釈率でPBSに添加し、ウエル中に分布させた(12)。ここで、前記キットとは、上記ABC法を実施するための用具や調製剤が組になっているものである。 【0132】 次いで、培養及び洗浄を、ビオチン化された抗体(即ち、結合された抗体)に関して行った(13)。 【0133】 発色は、基質溶液〔100μl/mlの2,2’-アジゾ-ビス(3-エチル-ベンズチアゾリン-6-スルホネート):ABTS〕100μlで培養後、0.05Mクエン酸-リン酸エステルからなる緩衝液中で0.04%の過酸化水素で室温、1時間、暗中で行った(14)。 【0134】 次いで、マイクロプレートリーダー〔Model 2550,バイオ-ラッドラボラトリーズ(Bio-Rad Laboratories)〕で波長405nmの発色を確認した(15)。 【0135】 このABC法に基づく発色法に代えて、ホースラディッシュペルオキシダーゼ複合ロバ抗兎IgG(horse radish peroxidase-conjugated donky annti-rabbit IgG(アマシャム社製))100μlでPBST-0.5%脱脂乳中で800倍の希釈下でウエルを培養した(16)。この後、PBSTで4回洗浄し、PBSで1回洗浄した(17)。以下、この方法を間接法と称する。 【0136】 また、培養と洗浄とをビオチン化された抗体に対して行った。なお、カットオフラインは、平均光学濃度(OD)と非感染マウスの組織抽出物でコーティングした、4?8個の陰性のコントロール群の標準偏差との合計で決定した。 【0137】 5.測定結果 (1)適当なコーティング条件の決定 マイクロタイタープレートへの高い吸着率を実現するためには、PrP^(SC)由来蛋白質を十分に溶解させる必要がある。ここで、PrP^(SC)を溶解させるためにGdnSCNとSDSの有用性を評価した(図5)。 【0138】 図5において、マイクロタイタープレートへのPrP^(SC)由来蛋白質吸着に対するGdnSCN及びSDSの効果を見るために、スクレーピー感染マウスの脳組織(A)及び脾臓組織(B)からのサンプルを方法1及び方法5によってそれぞれ調製した。各SDS及びGdnSCNの各濃度において、脳(A)及び脾臓(B)の1mg相当量から抽出液を採取し、これをマイクロタイタープレート1枚当たり3つのウエルにコーティングした。 【0139】 非感染マウスからの各組織抽出物を調製し、3MのGdnSCN-PBSに溶解させ、陰性のコントロール群(negative controls(Ctrl.);コントロール)として用いた。ここでは、2mgの脳等価物(6ウエル分)又は2.5mgの脾臓等価物(4ウエル分)を各ウエルに対して用いた。 【0140】 また、図5に平均値及びその標準偏差(S.D.)を示した。カットオフラインは、それぞれの平均値に対し3つの標準偏差値(3S.D.:以下、同様)を加えることによって決めた。なお、間接法及びABC法を脳組織及び脾臓組織についてそれぞれ適用した。なお、前記カオトロピックイオン剤は、疎水性分子の水溶性を増加させ、疎水結合を弱め、膜蛋白質等の抽出に用いられるものであり、例えばGdnSCNが挙げられる。 【0141】 PBSへのPrP^(SC)由来蛋白質の溶解は、カオトロピックイオン(chaotropic)剤又は界面活性剤なしで行うと、マイクロタイタープレートへの吸着が脳組織のものでは幾らか生じるが、脾臓組織のものでは生じなかった(図5(A)、(B):0MのGdnSCN)。また、SDS濃度が最低濃度(0.1%)であっても、脳組織からPrP^(SC)由来蛋白質の吸着は生じていなかった(図5(A))。 【0142】 これに対して、PBS濃度を増やしながらGdnSCNをPBSに添加すると、コーティング効率が向上し、GdnSCNの濃度が4Mの側で脾臓組織のものについてのピークが生じた(図5(B))。また、3M付近のGdnSCN濃度で、脳組織のものについてはピークを示した(図5(A))。即ち、溶剤として1?5M(特に3?4M)のGdnSCNを使用したとき、強く特異的な吸着が見られた。 【0143】 PBS中でのGdnSCN濃度が高くなれば、pH値が低下(≦5)するので、0.05Mの重炭酸ナトリウムのカーボネートバッファ(pH=9.6)をPBSに対して定量的に置換することによってGdnSCNとSDS双方を希釈し、これによって最終pHを8以上に高めた。しかしながら、吸着率は低下する傾向があった(データは示さず)。 【0144】 (2)2つの異なる検出方法:間接法及びABC法の比較 間接法とABC法とを感度及び特異性について比較した。図6は、抗原-抗体複合体の検出に関するABC法と間接法との比較を示す。 【0145】 スクレーピー感染マウスの脳組織のサンプル(A)を方法1で調製し、引き続いて、3MのGdnSCN中へ順次2倍ずつ希釈した。脾臓組織(B)については、方法3を適用し、4MのGdnSCNを用いた。2つの測定方法は、2つの検出方法における平均値を求めた。陰性のコントロール群(コントロール)についても示した。標準偏差(S.D.)は小さすぎて図示していない。カットオフラインはそれぞれに対して3S.D.を加えて決めた。脾臓組織の測定におけるカットオフラインは40mgの脾臓等価物(即ち、40mgの脾臓に相当する量:以下、同様)からなる陰性のコントロール群のデータに基づいて決めた。 【0146】 この測定結果によれば、脳組織についてはABC法の方がわずかに優れている(図6(A))が、ABC法は脾臓組織について明らかに好ましいことが分かった(図6(B))。脾臓組織に関して、ABC法は、間接法に比べて少なくとも2倍の感度を示した。また、一般に、ABC法により得られる結果は、間接法よりも再現性が高いことが分かった(データは図示せず)。従って、最終的な測定(図8のELISA法とWB法との比較)では、脾臓組織及び脳組織に対し、ABC法を適用した。 【0147】 (3)適切なサンプル調製法(濃縮法)の確立 ELISA法については方法3を用いた。このサンプル調製(濃縮)法は公知のウエスタンブロット法(グレイスウォール他、1996年)用のサンプル調製法である。ここで、サーコシル抽出及びNaClによるPrP^(SC)由来蛋白質の塩析は、方法4、方法5、方法1では省略した。 【0148】 そして、抽出によるPrP^(SC)由来蛋白質の分離に代えて、8%(wt/vol)ズイッタージェント3-12を用いてサンプルからPrP^(C)(正常なプリオン蛋白質)及び他の蛋白質を十分に除去した。前記ズイッタージェント3-12は、トリトンX-100よりも有効な洗浄剤であることが分かった。それ故、前者を方法1の均一化バッファにおいてトリトンX-100に代えて用いた。 【0149】 脾臓組織については、コラゲナーゼによる消化は、4%(wt/vol)トリトンX-100と0.5%(wt/vol)サーコシルとを用いて行った(方法3、方法4及び方法5)。そして方法5においては、より非特異的な物質を除去する目的で、40,000rpmの遠心力下で得られたペレット(濃縮物)を8%(wt/vol)ズイッタージェント3-12及び0.5%(wt/vol)サーコシルで更に抽出した。 【0150】 (3-1)脳組織について 図7は、脳組織及び脾臓組織の適切なサンプル調製法を示すものである。図7(A)、(B)とも、繰り返し行った測定結果である。 【0151】 脳組織抽出物は、方法4、方法3、方法1で調製(濃縮)し、3MのGdnSCN-PBS中で2倍ずつ溶解、希釈化した。ここで、プレートを調べるのに間接法を用いた。陰性のコントロール群(コントロール)として、8個のウエルをそれぞれ、非感染マウスの20mgの脳組織等価物から方法1で得られた抽出物でコーティングした。カットオフ値は、3S.D.を加えた平均値とした。 【0152】 脾臓組織抽出物は、方法4、方法3、方法5で調製(濃縮)し、4MのGdnSCN-PBS中で4倍ずつ溶解、希釈化した。ここで、プレートを調べるのにABC法を用いた。陰性のコントロール群(コントロール)として、各方法において5個のウエルを非感染マウスの40mgの脾臓組織等価物からの抽出物でコーティングした。平均値を示したが、S.D.は小さすぎて示していない。○と□で表した曲線に対し、コントロールはゼロに近く、カットオフ値はy軸上の0.1Uであったが、これは脾臓組織で繰り返し得られた値におおよそ対応している(図6及び図8)。 【0153】 図7(A)によれば、均一化バッファ(方法1)におけるズイッタージェント-サーコシルの組み合わせによって、7.8μgの脳組織と同量においてもPrP^(SC)の検出を可能としたことが分かる。 【0154】 また、トリトン-サーコシルの組み合わせ(方法4)で得られた感度を方法1のものと比べた。方法4は方法1よりもやや感度が劣るが、十分に実用的なものである。但し、方法3では、125μg以上の脳等価物でしかPrP^(SC)が検出されなかった。このように、サーコシル及びNaClによるPrP^(SC)由来蛋白質の付加的な抽出は、ELISA法による高感度抽出には至らないことが分かる。 【0155】 方法1は、高感度に加えて、比較サンプル(図7(A))の継続して弱い非特異的反応も明らかにした。従って、方法1は、脳組織のサンプル調製には最も適した方法と考えられた。 【0156】 (3-2)脾臓組織について 方法4で得られた陰性のコントロール群のウエルは、完全に正のシグナルを示す非特異反応を呈した(図7(B))。従って、この方法は、脾臓組織の調製には不適当であることが分かった。陰性のコントロール群に基づいて方法3及び方法5における感度のあるカットオフラインを確立することは、陰性のコントロール群の非常に弱い反応のために可能ではなかった。 【0157】 従って、図6(B)及び図8(C)の結果を含め、脾臓組織について繰り返して確立した値を考慮しながら、カットオフラインをy軸の0.1Uとした。これによって、方法3と方法5について類似したPrP^(SC)の検出にとって効果的な反応が実現された(図7(B))。但し、方法5は、大量の組織等価物について方法3の感度には及ばなかったし、繰り返しの測定により、方法3の感度のほぼ2倍の感度を示した(データは示さず)が、これはサーコシル抽出及びNaClによるPrP^(SC)由来蛋白質の塩析について検討する必要がある。 【0158】 図7(B)に示したすべての方法の結果を比較すると、脾臓組織についての感度及び特異性を向上させるためには、ズイッタージェント3-12を含む洗浄剤の組み合わせで非特異的蛋白を十分に除去すること、或いは、抽出物及び塩析によってPrP^(SC)由来蛋白質を分離することが、効果的で必要な工程であることが分かる。 【0159】 (4)ウエスタンブロット法とELISA法の感度の比較 脳組織又は脾臓組織から抽出されたPrP^(SC)を検出するための診断方法として、ELISA法の有用性は、ELISA法とウエスタンブロット(WB)法の感度比較で確かめられた。 【0160】 感染病状の発現前段階での動物の診断法に類似した比較であって、PrP^(SC)のごく少量が潜伏している組織サンプルの比較を行うために、非感染マウスの組織均一化物で希釈されたスクレーピー感染マウスからの組織均一化物を処理した。 【0161】 図8は、ELISA法とウエスタンブロット法との感度比較を示している。すべての結果は各測定のデータである。脳組織についての結果は、図8(A)(ELISA法)、図8(B)(WB法)に示し、脾臓組織についての結果は、図8(C)(ELISA法)、図8(D)(WB法)に示す。 【0162】 (4-0)ELISA法及びWB法のサンプル調製: 脳組織は方法1で、脾臓組織は方法3で調製した。スクレーピー感染マウスから得られた組織均一化物を、非感染マウスの対応する組織の20mg等価物からのホモジネート中で順次2倍ずつ希釈した。23倍(即ち、2.5mg/20mgに等しい組織等価物全量に対するスクレーピー組織等価物の割合)から211倍(9.8μg/20mg)への希釈工程の結果を示す。 【0163】 ELISA法(図8(A)、図8(C));マイクロタイタープレートへの吸着に関し、各希釈工程のサンプルは20mgの組織等価物からの抽出物からなり、脳組織及び脾臓組織についてそれぞれ3M及び4MのGdnSCN-PBSに溶解した。両組織とも、マイクロタイタープレートの5個のウエルを非感染マウスからの20mg当量の抽出物でコーティングし、ELISA法の陰性のコントロール群(コントロール)とした。これらを図示したが、標準偏差(S.D.)は小さすぎて図示していない。また、カットオフラインは各平均値に3S.D.を加えた値に相当している。 【0164】 WB法(図8(B)、図8(D));各希釈工程について、組み合わせ総量が20mgの組織から採取した抽出物を使用して1レーン当たりの負荷を行った。薄膜はフィルムに15時間露出させた。 【0165】 (4-1)脳組織 ELISA法は、28倍の希釈工程の場合に明らかに積極的な反応が生じることを示し、29倍の希釈工程においてもカットオフライン以上となることが分かった。このことは、スクレーピー感染マウスからの脳組織が全ホモジネート量の1/512にすぎない場合(これは脳等価物20mgの全量中の39μgに相当する。)でも、PrP^(SC)を検出できることを意味する(図8(A))。 【0166】 一方、WB法は、薄膜を15時間露出させた後に、28倍の希釈工程(これは1/256の比率、即ち、20mgの脳組織全量中の78μgのスクレーピー脳に相当する。)で非常に弱いバンドを示すに過ぎなかった(図8(B))。 【0167】 この結果、ELISA法はWB法と少なくとも同等の感度を示していることがわかる。 【0168】 (4-2)脾臓組織 ELISA法は、26倍の希釈工程の場合に明らかに積極的な反応が生じることを示し、スクレーピー感染マウスの脾臓組織が全量の1/64にすぎない(即ち、20mgの脾臓等価物の全量中の312.5μgに相当する。)場合でも、PrP^(SC)が抽出物中に検出されたことを示す(図8(C))。 【0169】 WB法は、15時間の露出後に、25倍以下の希釈(これは、スクレーピー感染マウスの組織の1/32、即ち、20mgの脾臓組織等価物全量中の625μgに相当する。)で、24.5kDa、21kDa、17kDaのPrP^(SC)特有のバンドを示した(図8(D))。 【0170】 従って、脾臓組織についても、ELISA法の感度はWB法の感度以上に相当するものであることが分かる。 【0171】 ここで、脾臓組織に関しELISA法による積極的な結果を得るのに求められる組織等価物は、脳組織に関して求められる組織等価物より8倍多いだけであった。 【0172】 6.評価 マウスのスクレーピーは感染後1週間目にWB法で診断され(グレイスウォール他、1996年)、レイスとエルンスト(1992年)は感染後2週間目にPrP^(SC)のデノボ合成を検出した。羊のスクレーピーもWB法によって感染初期段階で診断された(イケガミ他、1991年;ムラマツ他、1993年)。 【0173】 これらの結果を組織病理学(Histopathology)(レイス他、1992年)、電子顕微鏡法(ルーベンシュタイン他、1991年)、又は免疫組織化学法(シュルーダー他、1996年)による羊の扁桃腺中のPrP^(SC)の予備臨床についての新しい報告の如き他の方法で得られた結果と比較すると、WB法はスクレーピーの初期での最も高感度な方法の1つであり、面倒なバイオアッセイ(bio assay)を省略できる。 【0174】 また、腸壁(腹膜)内面の感染後1週間目に、マウスからの脾臓中のPrP^(SC)の検出が十分な組織均一化物によって実現され、ホモジネートのコラゲナーゼ消化によって行われた(グレイスウォール他、1996年)。これによって、本発明者によるWB法の感度が他の報告(ルーベンシュタイン他、1991年;レイス及びエルンスト、1992年)で述べられているマウス脾臓からのPrP^(SC)の検出結果と少なくとも一致していることが分かった。 【0175】 本発明者は、WB法と感度が少なくとも同等であり、容易かつ短時間に検出可能なELISA法を脳組織及び脾臓組織に適用した。 【0176】 スクレーピー診断にELISA法を開発する上での大きな障害は、PrP^(SC)が容易に沈積状態に凝集することであった(メイヤー他、1986年)。スクレーピー感染組織のギ酸又はSDSでの予備処理(カスクサック他、1987年)、更に、純粋なPrP^(SC)のGdnSCNでの変性(これはマイクロタイタープレートへの吸着後に行われた;サーバン他、1990年)が報告されており、これは、抗PrP抗体の免疫反応性を増大させる。また、マイクロタイタープレートへのBSA牛胎児血清)の吸着がグアニジンの存在下で向上することが報告された(ズー他、1993年)。グアニジンはおそらく、抗原性サイトが生じることによって次々と耐プリオン蛋白質抗体の免疫反応性を増大させるPrP^(SC)の展開を促進させるものと考えられる。 【0177】 これらの観察及び考察に基づいて、本発明者は、PrP^(SC)含有物質を直接溶解させるために1M?5M(特に3M及び4M)のGdnSCNを用い、この濃度でのGdnSCNの存在下でマイクロタイタープレートへのPrP^(SC)の吸着に成功した。 【0178】 ELISA法で分析可能な組織等価量の限界、即ち、感度の向上が見込めない限界値は、40mg付近(データは図示せず)にある。 【0179】 ELISA法の利点は、多くのサンプルを1回で分析できるため、潜在的に感染された動物を大量に診断、選別することによって、感染による病気をコントロールするという広汎な用途に導けることである。 【0180】 PrP^(SC)の検出を経てTSE(伝播性海綿状脳症:Transmissible Spongiform Encephalopathies)を実際に診断する方法に対する障害は、血液又はその成分を未だ診断に使用しにくいことにある。PrP^(SC)は脳又はリンパ腺組織から抽出されるべきものであるから、サンプル調製は最も時間を要するファクタである。脳組織について適用される方法(方法1)はかなり簡単な方法であり、高感度化に導くものである。但し、方法1は、脾臓組織には十分ではない。これに関して、サーコシルによるPrP^(SC)の抽出及びこれに続くNaClによる塩析(方法3)によって、感度が向上し、非特異性シグナルが減少する。 【0181】 この方法は、時間がかかるが、ごく少量のPrP^(SC)を検査するのに有用である。一方、PrP^(SC)の抽出及び塩析を省略し、サンプル調製(濃縮)を方法5で行うと、ELISA法の感度が約2倍低下するが、なおも、WB法と同等であった(データは示さず)。このことと、方法5が方法3よりも短時間で行える事実とから、方法5は診断にとって実用可能であると考えられる。 【0182】 本実施例を行うなかで見出されたWB法における0.6mgの脾臓組織のPrP^(SC)検出限界は、公知の0.3mgの検出限界(グレイスウォール他、1996年)とほぼ同等であった。この場合、最終的な組織抽出物はSDS-PAGEサンプルバッファによって希釈しているが、通常の組織ホモジネートを希釈剤として用いて、最初の抽出工程後に順次希釈を行っているため、PrP^(SC)検出条件はあまり有利ではなかった。ELISA法について報告されている極限の検出限界はより困難な条件を考慮して見出されるべきである。 【0183】 脳組織についての結果を脾臓組織のそれと比較すると(図6、図7及び図8)、脳組織中のPrP^(SC)量は脾臓組織中のPrP^(SC)量の8?30倍であるものと考えられる。異なるマウス適用のTSEは脾臓組織に含まれるPrP^(SC)で変化することを考慮しても、ルーベンシュタイン等(1993年)によってスクレーピー感染マウスで発見された500倍よりもかなり少なく、また、感染の終わりの段階でCJD(Creutfelt Jakob disease)感染マウスにおいてサカグチ等(1993年)によって発見された50倍以上よりも少ない。ラズメザス等(1996年)のみが最近、マウスモデルに関する約30倍の差を報告した。 【0184】 本発明者は、PrP^(SC)由来蛋白質回収を高効率に行うことが改善されたサンプル調製で実現することを考慮している。そして、マウス脾臓中のPrP^(SC)量はこれまで考えられていたものより多いように思われる。 【0185】 予備臨床に関するリンパ腺組織の潜在力に着目して、ヴァン・クーレン等(1996年)は免疫組織化学法によってPrP^(SC)量を幾つかの上記組織について調べた。この研究によれば、扁桃腺、脾臓及び腸間リンパ節はこの順に、予備臨床の最も好適な組織である。本発明者は、実験的モデル(イケガミ他、1991年)及び天然の羊スクレーピー(ムラマツ他、1993年)の双方について、スクレーピーの予備臨床段階での生検表面リンパ節に含まれるPrP^(SC)を検出したことを報告した。しかし、PrP^(SC)量と各組織の得られ易さとを考えると、シュルーダー等(1996年)において提案されているように、扁桃腺の生検及び検査は、生前試験(antemortem test)としてより適していると思える。 【0186】 上述した実施例から、脳及び脾臓組織からのPrP^(SC)検出のために、ABC法と共にELISA法を使用する方法は、少なくともWB法と同等の感度が得られると結論づけられる。また、このELISA法を羊のスクレーピーや牛のBSEの診断に適用すれば、現行のWB法に比べて、より実用的な、速い診断ができると思われる。しかしながら、検査方法として適当なものにするためには、PrP^(SC)の抽出に要する手間をより簡便にする必要がある。 【0187】 原組織抽出物やGdnSCN溶解物に含まれるPrP^(SC)由来蛋白質をマイクロタイタープレートに容易に吸着できることは、より高感度にPrP^(SC)の検出を可能にする上で基本事項と考えられる。発色ELISA法はWB法に比べてわずかに高感度であるが、蛍光物質や化学発光物質のような試薬を使用することで、さらに感度を向上させることができる。 【図面の簡単な説明】 【0188】 【図1】本実施例における病原性プリオン蛋白質由来蛋白質の濃縮方法の概要を示すフロー図である。 【図2】同、他の濃縮方法の概要を示すフロー図である。 【図3】同、他の濃縮方法の概要を示すフロー図である。 【図4】同、病原性プリオン蛋白質の検出に用いる酵素免疫吸着測定法の概要を示すフロー図である。 【図5】同、酵素免疫吸着測定法における吸着の前段階で使用する溶剤の種類及び濃度による病原性プリオン蛋白質の検出能の変化を示すグラフである(脳組織(A)、脾臓組織(B))。 【図6】同、発色法による検出能を示すグラフである(脳組織(A)、脾臓組織(B))。 【図7】同、病原性プリオン蛋白質由来蛋白質の濃縮方法による検出能を示すグラフである(脳組織(A)、脾臓組織(B))。 【図8】同、酵素免疫吸着測定法における検出能を示すグラフ(脳組織(A)、脾臓組織(C))、及びWB法における検出能を示す図(脳組織(B)、脾臓組織(D))である。 (57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 動物の中枢神経系組織から病原性プリオン蛋白質を酵素免疫吸着測定法により検出する方法であって、 t-オクチルフェノキシポリエトキシエタノール(トリトン(商標)X-100)及びサーコシル(商標)を同時に用いて前記中枢神経系組織中の非特異的物質を可溶化することと、 前記可溶化された非特異的物質をプロテアーゼを用いて分解処理することと、 超遠心分離処理を除く遠心分離処理を行うことにより前記分解処理により得られたものから病原性プリオン蛋白質由来蛋白質を含有する濃縮物を得ることと、 前記濃縮物を洗浄することなく溶解液とし、再沈殿させることなく酵素免疫吸着測定法により検出することと を含む病原性プリオン蛋白質の検出方法。 【請求項2】 前記中枢神経系組織を脳組織とする、請求項1に記載の病原性プリオン蛋白質の検出方法。 【請求項3】 前記分解処理が、さらにコラーゲン分解酵素及びDNA分解酵素による分解処理を含む、請求項1又は2に記載の病原性プリオン蛋白質の検出方法。 【請求項4】 前記プロテアーゼが、プロテイナーゼKである、請求項1から3のいずれか1項に記載の病原性プリオン蛋白質の検出方法。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
審決日 | 2011-06-10 |
出願番号 | 特願2007-239265(P2007-239265) |
審決分類 |
P
1
113・
121-
ZA
(G01N)
P 1 113・ 113- ZA (G01N) P 1 113・ 536- ZA (G01N) P 1 113・ 537- ZA (G01N) P 1 113・ 841- ZA (G01N) P 1 113・ 832- ZA (G01N) |
最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 白形 由美子 |
特許庁審判長 |
秋月 美紀子 |
特許庁審判官 |
郡山 順 杉江 渉 |
登録日 | 2009-08-28 |
登録番号 | 特許第4362837号(P4362837) |
発明の名称 | 病原性プリオン蛋白質の検出方法 |
代理人 | 向原 学 |
代理人 | 菊池 毅 |
代理人 | 向原 学 |
代理人 | 高橋 直樹 |
代理人 | 田中 浩之 |
代理人 | 菊池 毅 |
代理人 | 高橋 直樹 |
代理人 | 野口 祐子 |
代理人 | 三好 豊 |
代理人 | 野口 明男 |
代理人 | 増井 和夫 |
代理人 | 増井 和夫 |
代理人 | 工藤 敦子 |
代理人 | 工藤 敦子 |
代理人 | 前 直美 |