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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性  C08L
管理番号 1258477
審判番号 無効2010-800022  
総通号数 152 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-08-31 
種別 無効の審決 
審判請求日 2010-02-04 
確定日 2011-12-19 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第4330085号発明「難燃性樹脂組成物」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 訂正を認める。 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
本件特許第4330085号に係る特許出願は、平成19年7月30日(優先権主張 平成18年8月3日 日本国)を国際出願日とするものであって、平成21年6月26日にその発明について特許権の設定登録(請求項の数10)がされた。
これに対して、平成22年2月4日付けで、請求項1ないし10に係る発明の特許について、SABICイノベーティブプラスチックスジャパン合同会社から本件無効審判請求がされ、同年5月14日付けで、被請求人旭化成ケミカルズ株式会社から答弁書及び訂正請求書が提出され、次いで、同年6月30日付けで請求人から弁駁書が提出され、同年10月18日に第1回口頭審理が行われ、口頭審理を以て、本件の審理を終結することが宣された。



第2 訂正の請求の可否に対する判断
1.訂正の請求の内容
平成22年5月14日付けの訂正請求書による訂正の請求(以下、「本件訂正請求」という。)は、本件特許明細書を訂正請求書に添付した明細書のとおりに訂正することを求めるものである。
すなわち、本件訂正請求の訂正事項は、次のとおりである。

[訂正事項1]
特許請求の範囲について、訂正前の請求項1の「20wt%以上」を「40wt%以上」と訂正する。

[訂正事項2]
特許請求の範囲について、訂正前の請求項1の「85wt%」を「70wt%」と訂正する。

[訂正事項3]
特許請求の範囲について、訂正前の請求項1の「樹脂組成物。」を「樹脂組成物であって、前記成分(B)中のビニル芳香族単量体単位が、35wt%以上であり、前記成分(B)が、ビニル芳香族単量体単位を主体とする重合体ブロック(B1)及びビニル芳香族単量体単位および共役ジエン単量体単位を主体とする水添共重合体ブロック(B2)を有し、且つ(B2)中のビニル芳香族単量体単位が、35wt%以上であることを特徴とする樹脂組成物。」と訂正する。

[訂正事項4]
訂正前の請求項3を削除する。

[訂正事項5]
訂正前の請求項4を削除する。

[訂正事項6]
訂正前の請求項5を請求項3に繰り上げる。また、訂正後の請求項3において、引用する請求項を「請求項1又は2」と訂正する。

[訂正事項7]
訂正前の請求項6を請求項4に繰り上げる。また、訂正後の請求項4において、引用する請求項を「請求項1又は2」と訂正する。

[訂正事項8]
訂正前の請求項7を請求項5に繰り上げる。また、訂正後の請求項5において、引用する請求項を「請求項1?4のいずれか」と訂正する。

[訂正事項9]
訂正前の請求項8を請求項6に繰り上げる。また、訂正後の請求項6において、引用する請求項を「請求項1?5のいずれか」と訂正する。

[訂正事項10]
訂正前の請求項9を請求項7に繰り上げる。また、訂正後の請求項7において、引用する請求項を「請求項1?6のいずれか」と訂正する。

[訂正事項11]
訂正前の請求項10を請求項8に繰り上げる。また、訂正後の請求項8において、引用する請求項を「請求項1?7のいずれか」と訂正する。

2.訂正の目的の検討
[訂正事項1?2]について
訂正事項1及び2は、訂正前の請求項1に係る発明の発明を特定するために必要な事項(以下、「発明特定事項」という。)である「成分(B)ビニル芳香族単量体単位および共役ジエン単量体単位を主体とする水添共重合体の含有量(B)」について、「20wt%以上85wt%以下」という範囲が、「40wt%以上70wt%以下」という範囲に減縮されることとなることは明らかであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものと認められる。

[訂正事項3]について
訂正事項1は、訂正前の請求項3?4を削除して、訂正前の請求項3を引用していた訂正前の請求項4を、訂正後の請求項1とするとともに、訂正前の請求項3における発明特定事項である「(B2)中のビニル芳香族単量体単位」の量範囲を、「20wt%以上」から「35wt%以上」にさらに限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものと認められる。

[訂正事項4?5]について
訂正事項4及び5は、請求項3及び4を削除するものであって、特許請求の範囲の減縮を目的とするものと認められる。

[訂正事項6?11]について
訂正事項6?11は、訂正事項3?5の訂正に伴って、特許請求の範囲の記載の整合をはかるものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とするものと認められる。

3.新規事項の追加、及び、特許請求の範囲の実質変更・拡張の有無の検討
[訂正事項1?2]について
本件訂正請求によって発明特定事項となった「40wt%以上70wt%以下」という「成分(B)ビニル芳香族単量体単位および共役ジエン単量体単位を主体とする水添共重合体の含有量(B)」の値については、本件特許明細書の発明の詳細な説明の第6頁第38?42行(段落【0031】)に記載されていたものであるから、本件訂正請求は、本件特許明細書の記載に、新たな技術的事項を導入するものには当たらない。
また、「成分(B)ビニル芳香族単量体単位および共役ジエン単量体単位を主体とする水添共重合体の含有量(B)」の値の範囲を減縮する訂正が、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことは明らかである。

[訂正事項3]について
本件訂正請求によって発明特定事項となった「35wt%以上」という「(B2)中のビニル芳香族単量体単位」の量範囲については、本件特許明細書の発明の詳細な説明の第7頁第33?36行(段落【0040】)に記載されていたものであるから、本件訂正請求は、本件特許明細書の記載に、新たな技術的事項を導入するものには当たらない。
また、「(B2)中のビニル芳香族単量体単位」の量範囲を減縮する訂正が、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことは明らかである。

[訂正事項4?5]について
訂正事項4及び5は、請求項3及び4を削除するものであるから、本件訂正請求は、本件特許明細書の記載に、新たな技術的事項を導入するものには当たらないし、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことは明らかである。

[訂正事項6?11]について
訂正事項6?11は、訂正事項3?5の訂正に伴って、特許請求の範囲の記載の整合をはかるものであるから、本件訂正請求は、本件特許明細書の記載に、新たな技術的事項を導入するものには当たらないし、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことは明らかである。

4.まとめ
したがって、本件訂正請求は、特許法第134条の2第1項ただし書第1号及び第3号に掲げる事項を目的とし、同条第5項の規定により準用する同法第126条第3項及び第4項の規定に適合するものであるから、当該訂正を認める。



第3 本件発明
上記訂正の結果、本件特許第4330085号の請求項1ないし8に係る発明(以下、それぞれ、「訂正発明1」ないし「訂正発明8」という。)は、それぞれ、訂正後の特許明細書(以下、「訂正特許明細書」という。)の特許請求の範囲の請求項1ないし8に記載された事項を発明特定事項とする、樹脂組成物(訂正発明1ないし7)及び、電線およびケーブルの被覆材料(訂正発明8)である。



第4 請求人の主張
これに対して請求人は、「特許第4330085号の請求項1?8に記載された発明についての特許を無効にする、審判費用は被請求人の負担とする」、との審決を求め、その理由として、第1回口頭審理調書に記載のとおり、以下の無効理由1ないし3を主張し、証拠方法として、以下の甲第1ないし7号証を提出している。

○無効理由1:訂正発明1ないし2及び8は、甲第1号証ないし甲第2号証及び甲第3号証ないし甲第4号証に記載された発明、または甲第5号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
○無効理由2:訂正発明3ないし5は、甲第1号証ないし甲第2号証、甲第3号証ないし甲第4号証及び甲第6号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
○無効理由3:訂正発明6ないし7は、甲第1号証ないし甲第2号証及び甲第3号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
ただし、請求人の主張する無効理由1のうち「訂正発明1ないし2及び8は、甲第5号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。」という理由については、平成22年10月4日付け口頭審理陳述要領書にて新たに追加されたものであって、第1回口頭審理調書に記載のとおり、特許法第131条の2第1項及び第2項の規定により、この無効理由の追加は許可しないとの補正諾否の決定をしている。
したがって、無効理由1のうち甲第5号証に基づく理由については本件無効審判の審理対象ではない。

証拠方法:
甲第1号証:国際公開第2006/065519号(翻訳文として特表2008-524829号公報)
甲第2号証:国際公開第2006/065540号(同特表2008-524806号公報)
甲第3号証:特開2001-72978号公報
甲第4号証:国際公開第2006/070988号(同特表2008-527070号公報)
甲第5号証:国際公開第2005/040279号(同特表2007-507586号公報)
甲第6号証:国際公開第2005/097900号(同特表2007-537304号公報)
甲第7号証:特願2006-212645号の優先権証明書の写し
なお、被請求人は、第1回口頭審理において、甲第1ないし7号証の成立を認めている。



第5 被請求人の主張
一方、被請求人は、「本件審判の請求は成り立たない。審判費用は請求人の負担とする。」との審決を求め、証拠方法として、以下の乙第1ないし3号証を提出している。

証拠方法:
乙第1号証(答弁書に添付して提出):「JISハンドブック ゴム」(日本規格協会、1997年4月20日発行)第120-127ページ
乙第2号証(答弁書に添付して提出):大八化学工業株式会社の難燃剤の製品カタログ、インターネット<URL:http://www.daihachi-chem.co.jp/product/、http://www.daihachi-chem.co.jp/product/flame_retardant.html及びhttp://www.daihachi-chem.co.jp/pdf/flame_retardant2.pdf>
乙第3号証(上申書に添付して提出):旭化成ケミカルズ株式会社 合成ゴム技術開発部 荒木祥文が作成した2010年9月21日付けの実験成績報告書
なお、請求人は、第1回口頭審理において、乙第1ないし3号証の成立を認めている。



第6 当審の判断
1.無効理由の整理
「第4 請求人の主張」で述べたとおり、本件無効審判の審理対象とする無効理由は、
「○無効理由1:訂正発明1ないし2及び8は、甲第1号証ないし甲第2号証及び甲第3号証ないし甲第4号証に記載された発明、または甲第5号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
○無効理由2:訂正発明3ないし5は、甲第1号証ないし甲第2号証、甲第3号証ないし甲第4号証及び甲第6号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
○無効理由3:訂正発明6ないし7は、甲第1号証ないし甲第2号証及び甲第3号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。」のとおりであって、これを訂正発明ごとに整理すると以下のとおりとなる。

○訂正発明1は、甲第1号証ないし甲第2号証及び甲第3号証ないし甲第4号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。(無効理由1)
○訂正発明2は、甲第1号証ないし甲第2号証及び甲第3号証ないし甲第4号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。(無効理由1)
○訂正発明3は、甲第1号証ないし甲第2号証、甲第3号証ないし甲第4号証及び甲第6号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。(無効理由2)
○訂正発明4は、甲第1号証ないし甲第2号証、甲第3号証ないし甲第4号証及び甲第6号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。(無効理由2)
○訂正発明5は、甲第1号証ないし甲第2号証、甲第3号証ないし甲第4号証及び甲第6号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。(無効理由2)
○訂正発明6は、甲第1号証ないし甲第2号証及び甲第3号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。(無効理由3)
○訂正発明7は、甲第1号証ないし甲第2号証及び甲第3号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。(無効理由3)
○訂正発明8は、甲第1号証ないし甲第2号証及び甲第3号証ないし甲第4号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。(無効理由1)

2.訂正発明1についての判断
(1)訂正発明1についての検討(甲第1号証に基づく無効理由1について)
ア 訂正発明1
「第3 本件発明」において述べたとおり、訂正発明1は、訂正特許明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項を発明特定事項とする、以下のとおりのものである。
「【請求項1】
成分(A)、(B)、(C)、(D)の合計量に対し、成分(A)ポリフェニレンエーテルの含有量(〈A〉)が10wt%以上45wt%未満、成分(B)ビニル芳香族単量体単位および共役ジエン単量体単位を主体とする水添共重合体の含有量(〈B〉)が40wt%以上70wt%以下、成分(C)スチレン樹脂および/またはオレフィン樹脂の含有量(〈C〉)が0wt%以上、成分(D)ホスフィン酸金属塩の含有量(〈D〉)が2wt%以上20wt%以下である成分(A)、(B)、(C)、(D)を含む樹脂組成物であって、前記成分(B)中のビニル芳香族単量体単位が、35wt%以上であり、
前記成分(B)が、ビニル芳香族単量体単位を主体とする重合体ブロック(B1)及びビニル芳香族単量体単位および共役ジエン単量体単位を主体とする水添共重合体ブロック(B2)を有し、且つ(B2)中のビニル芳香族単量体単位が、35wt%以上であることを特徴とする樹脂組成物。」

イ 甲各号証の記載
(ア)甲第1号証の記載
甲第1号証(国際公開第2006/065519号)には次のことが記載されている。
なお、翻訳文としては、請求人が提出している対応するファミリーの公表特許公報(以下、単に「公表公報」という。)を採用した。(甲第2、4及び6号証についても同様。)

(1a):「1.心線と、
(i)ポリ(アリーレンエーテル)、
(ii)ポリオレフィン、及び
(iii)ポリマー相溶化剤
を含む熱可塑性樹脂組成物からなる被覆とを含んでなる電線であって、
被覆が心線をおおって配設されており、
心線が0.15?1.00平方ミリメートルの横断面積を有すると共に、被覆が0.15?0.25ミリメートルの厚さを有し、
13500?15500メートルの電線について、6以下の個別長さの電線が存在し、各個別長さの電線が150メートル以上の長さを有する、電線。
・・・
16.ポリマー相溶化剤が、制御分布コポリマーであるブロックを有するブロックコポリマーからなる、先行する請求項のいずれかに記載の電線又は被覆。
17.ポリマー相溶化剤が、第一のブロックコポリマーの総重量を基準にして50重量%以上のアリールアルキレン含有量を有する第一のブロックコポリマー、及び第二のコポリマーの総重量を基準にして50重量%以下のアリールアルキレン含有量を有する第二のブロックコポリマーからなる、先行する請求項のいずれかに記載の電線又は被覆。
18.ポリマー相溶化剤がジブロックコポリマー及びトリブロックコポリマーからなる、先行する請求項のいずれかに記載の電線又は被覆。
・・・
20.熱可塑性樹脂組成物がさらに難燃剤を含む、先行する請求項のいずれかに記載の電線又は被覆。」(特許請求の範囲の請求項1、16ないし18及び20)

(1b):「本明細書中に記載される熱可塑性樹脂組成物は、ポリスチレン又はゴム改質ポリスチレン(耐衝撃性ポリスチレン又はHIPSとしても知られる)のようなアルケニル芳香族樹脂を実質的に含まない。実質的に含まないとは、ポリ(アリーレンエーテル)、ポリオレフィン及びブロックコポリマーの合計重量を基準にして10重量%(wt%)未満、さらに詳しくは7wt%未満、さらに詳しくは5wt%未満、さらに一段と詳しくは3wt%未満のアルケニル芳香族樹脂を含むことと定義される。一実施形態では、本組成物はアルケニル芳香族樹脂を完全に含まない。意外にも、アルケニル芳香族樹脂の存在はポリ(アリーレンエーテル)相とポリオレフィン相との相溶化にマイナスの影響を及ぼすことがある。」(16ページ22行ないし17ページ2行、公表公報の段落【0061】)

(1c):「熱可塑性樹脂組成物は、組成物の総重量に対して30?65重量%(wt%)の量でポリ(アリーレンエーテル)を含む。この範囲内では、ポリ(アリーレンエーテル)の量は40wt%以上、さらに詳しくは45wt%以上であり得る。やはりこの範囲内では、ポリ(アリーレンエーテル)の量は55wt%以下であり得る。」(21ページ3ないし7行、公表公報の段落【0072】)

(1d):「本組成物は、組成物の総重量に対して15?35重量%(wt%)の量でポリオレフィンを含み得る。この範囲内では、ポリオレフィンの量は17wt%以上、さらに詳しくは20wt%以上であり得る。やはりこの範囲内では、ポリオレフィンの量は33wt%以下、さらに詳しくは30wt%以下であり得る。」(23ぺージ14ないし18行、公表公報の段落【0083】)

(1e):「ポリマー相溶化剤は、ポリオレフィン相とポリ(アリーレンエーテル)相との相溶性を向上させる樹脂及び添加剤である。ポリマー相溶化剤には、ブロックコポリマー、・・・がある。
本明細書中で使用する「ブロックコポリマー」とは、ただ1種のブロックコポリマー又はブロックコポリマーの組合せをいう。ブロックコポリマーは、繰返しアリールアルキレン単位からなる1以上のブロック(A)と、繰返しアルキレン単位からなる1以上のブロック(B)とを含んでいる。ブロック(A)及び(B)の配列は、線状構造又は枝分れ鎖を有するいわゆるラジアルテレブロック構造であり得る。A-B-Aトリブロックコポリマーは、繰返しアリールアルキレン単位からなるブロックAを2つ含んでいる。アリールアルキレン単位のペンダントアリール部分は、単環式又は多環式であり得ると共に、環状部分上の任意の利用可能な位置に置換基を有し得る。好適な置換基には、炭素原子数1?4のアルキル基がある。例示的なアリールアルキレン単位は、下記の式IIに示すフェニルエチレンである。
【化2】

ブロックAはさらに、アリールアルキレン単位の量がアルキレン単位の量を超える限り、炭素原子数2?15のアルキレン単位を含み得る。
ブロックBは、エチレン、プロピレン、ブチレン又は上述のものの2以上の組合せのような炭素原子数2?15の繰返しアルキレン単位からなっている。ブロックBはさらに、アルキレン単位の量がアリールアルキレン単位の量を超える限り、アリールアルキレン単位を含み得る。
・・・
一実施形態では、Bブロックはアリールアルキレン単位と炭素原子数2?15のアルキレン単位(例えば、エチレン、プロピレン、ブチレン又は上述のものの2以上の組合せ)とのコポリマーからなる。Bブロックはさらに、若干の不飽和非芳香族炭素-炭素結合を含み得る。
・・・アリールアルキレン単位の総量は、ブロックコポリマーの総重量を基準にして15?75重量%である。Bブロック中でのアルキレン単位とアリールアルキレン単位との重量比は5:1?1:2であり得る。例示的なブロックコポリマーは、さらに米国特許出願公開第2003/181584号に開示されており、Kraton Polymers社からKRATONの商標で商業的に入手できる。例示的なグレードはA-RP6936及びA-RP6935である。
繰返しアリールアルキレン単位は、スチレンのようなアリールアルキレンモノマーの重合で得られる。繰返しアルキレン単位は、ブタジエンのようなジエンから導かれた繰返し不飽和単位の水素化で得られる。ブタジエンは1,4-ブタジエン及び/又は1,2-ブタジエンからなり得る。Bブロックはさらに、若干の不飽和非芳香族炭素-炭素結合を含み得る。
例示的なブロックコポリマーには、ポリフェニルエチレン-ポリ(エチレン/プロピレン)-ポリフェニルエチレン(時にはポリスチレン-ポリ(エチレン/プロピレン)-ポリスチレンともいう)及びポリフェニルエチレン-ポリ(エチレン/ブチレン)-ポリフェニルエチレン(時にはポリスチレン-ポリ(エチレン/ブチレン)-ポリスチレンともいう)がある。
一実施形態では、ポリマー相溶化剤は2種のブロックコポリマーからなる。第一のブロックコポリマーは、第一のブロックコポリマーの総重量を基準にして50重量%以上のアリールアルキレン含有量を有している。第二のブロックコポリマーは、第二のブロックコポリマーの総重量を基準にして50重量%以下のアリールアルキレン含有量を有している。例示的な組合せのブロックコポリマーとしては、ブロックコポリマーの総重量を基準にして15?40重量%のフェニルエチレン含有量を有する第一のポリフェニルエチレン-ポリ(エチレン/ブチレン)-ポリフェニルエチレン、及びブロックコポリマーの総重量を基準にして55?70重量%のフェニルエチレン含有量を有する第二のポリフェニルエチレン-ポリ(エチレン/ブチレン)-ポリフェニルエチレンが使用できる。50重量%を超えるアリールアルキレン含有量を有する例示的なブロックコポリマーには、Asahi社からTUFTECの商品名で商業的に入手できる、H1043のようなグレード名を有するもの、並びにKuraray社からSEPTONの商品名で入手できる若干のグレードがある。50重量%未満のアリールアルキレン含有量を有する例示的なブロックコポリマーには、Kraton Polymers社からKRATONの商標で商業的に入手できる、G-1701、G-1702、G-1730、G-1641、G-1650、G-1651、G-1652、G-1657、A-RP6936及びA-RP6935のようなグレード名のものがある。
一実施形態では、ポリマー相溶化剤はジブロックコポリマー及びトリブロックコポリマーからなる。」(23ページ24行ないし26ページ20行、公表公報の段落【0086】ないし【0096】)

(1f):「ポリマー相溶化剤は、組成物の総重量に対して2?30重量%の量で存在する。この範囲内では、ポリマー相溶化剤は組成物の総重量に対して4重量%以上、さらに詳しくは6重量%以上の量で存在し得る。やはりこの範囲内では、ポリマー相溶化剤は組成物の総重量に対して18重量%以下、さらに詳しくは16重量%以下、さらに一段と詳しくは14重量%以下の量で存在し得る。」(28ページ16ないし23行、公表公報の段落【0103】)

(1g):「例示的な難燃剤には、メラミン(CAS No.108-78-1)、メラミンシアヌレート(CAS No.37640-57-6)、メラミンホスフェート(CAS No.20208-95-1)、メラミンピロホスフェート(CAS No.15541-60-3)、メラミンポリホスフェート(CAS No.218768-84-4)、メラム、メレム、メロン、ホウ酸亜鉛(CAS No.1332-07-6)、リン酸ホウ素、赤リン(CAS No.7723-14-0)、有機リン酸エステル、リン酸一アンモニウム(CAS No.7722-76-1)、リン酸二アンモニウム(CAS No.7783-28-0)、アルキルホスホネート(CAS No.78-38-6及び78-40-0)、金属ジアルキルホスフィネート、ポリリン酸アンモニウム(CAS No.68333-79-9)、低融点ガラス、並びに上述の難燃剤の2種以上の組合せがある。
例示的な有機リン酸エステル難燃剤には、特に限定されないが、フェニル基、置換フェニル基、又はフェニル基と置換フェニル基の組合せを含むリン酸エステル、レソルシノールに基づくビス-アリールリン酸エステル(例えば、レソルシノールビス-ジフェニルホスフェート)並びにビスフェノールに基づくもの(例えば、ビスフェノールAビス-ジフェニルホスフェート)がある。一実施形態では、有機リン酸エステルは、トリス(アルキルフェニル)ホスフェート(例えば、CAS No.89492-23-9又はCAS No.78-33-1)、レソルシノールビス-ジフェニルホスフェート(例えば、CAS No.57583-54-7)、ビスフェノールAビス-ジフェニルホスフェート(例えば、CAS No.181028-79-5)、トリフェニルホスフェート(例えば、CAS No.115-86-6)、トリス(イソプロピルフェニル)ホスフェート(例えば、CAS No.68937-41-7)及び上述の有機リン酸エステルの2種以上の混合物から選択される。
一実施形態では、有機リン酸エステルは下記の式IIIを有するビス-アリールホスフェートからなる。
【化3】

式中、R、R^(5)及びR^(6)は各々独立に炭素原子数1?5のアルキル基であり、R^(1)?R^(4)は独立に炭素原子数1?10のアルキル基、アリール基、アリールアルキル基又はアルキルアリール基であり、nは1?25に等しい整数であり、s1及びs2は独立に0?2に等しい整数である。若干の実施形態では、OR^(1)、OR^(2)、OR^(3)及びOR^(4)は独立にフェノール、モノアルキルフェノール、ジアルキルフェノール又はトリアルキルフェノールから導かれる。
当業者には容易に理解される通り、ビス-アリールホスフェートはビスフェノールから導かれる。例示的なビスフェノールには、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン(いわゆるビスA)、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)プロパン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)メタン、ビス(4-ヒドロキシ-3,5-ジメチルフェニル)メタン及び1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)エタンから導かれる。一実施形態では、ビスフェノールはビスフェノールAからなる。」(28ページ24行ないし30ページ4行、公表公報の段落【0104】ないし【0108】)

(1h):「熱可塑性組成物中に存在する場合、難燃剤の量は、電線がISO6722に含まれる火炎伝搬方法に従って測定して70秒以下の消炎時間を有するのに十分なものである。
一実施形態では、難燃剤は、組成物の総重量に対して5?18重量%(wt%)の量で存在する有機リン酸エステルからなる。この範囲内では、有機リン酸エステルの量は7wt%以上、さらに詳しくは9wt%以上であり得る。やはりこの範囲内では、有機リン酸エステルの量は16wt%以下、さらに詳しくは14wt%以下であり得る。」(30ページ10ないし19行、公表公報の段落【0110】ないし【0111】)

(1i):「実施例
本組成物及び電線を以下の非限定的な実施例でさらに例証する。
以下の実施例は、表2に示す材料を用いて製造した。」(30ページ27行ないし31ページ1行、公表公報の段落【0112】ないし【0114】)

(1j):「表2

」(31ページの表2、公表公報の段落【0115】の【表2】)

(1k):「熱可塑性樹脂組成物は、二軸押出機で成分を溶融混合することで製造した。PPE及びブロックコポリマーは供給スロートで添加し、PPは押出機の第二の開口を通して下流で添加した。有機リン酸エステルは、押出機の第二半部において液体インゼクターで添加した。組成物は、フィルター(メッシュ)を用いずに製造するか、或いは表4及び5に示すように孔径の異なる1以上のフィルターを用いて溶融濾過しながら製造した。ストランドペレット化の使用により、材料を押出機の端部でペレット化した。組成物を表3に示す。」(31ページ下から13ないし6行、公表公報の段落【0115】)

(1l):「表3

」(32ページの表3、公表公報の段落【0117】の【表3】)

(イ)甲第3号証の記載
甲第3号証(特開2001-72978号公報)には次のことが記載されている。

(3a):「【請求項1】 成分Aとして、以下の式(I) で表されるホスフィン酸塩及び/または以下の式(II)で表されるジホスフィン酸塩及び/またはこれらのポリマーを含み、そして成分Bとして、メラミンの縮合生成物及び/またはメラミンとリン酸との反応生成物及び/またはメラミンの縮合生成物とリン酸との反応生成物及び/またはこれらの混合物を含む、難燃剤コンビネーション。
【化1】

[ 式中、R^(1)及びR^(2)は、同一かまたは異なり、線状もしくは分枝状のC_(1)-C_(6)-アルキル及び/またはアリールであり、R^(3)は、線状もしくは分枝状のC_(1)-C_(10)- アルキレン、C_(6)-C_(10)- アリーレン、C_(6)-C_(10)- アルキルアリーレンまたはC_(6)-C_(10)- アリールアルキレンであり、Mは、カルシウムイオン、マグネシウムイオン、アルミニウムイオン及び/または亜鉛イオンであり、mは、2または3であり、nは、1または3であり、xは、1または2である]
・・・
【請求項14】 請求項1?13のいずれか一つに記載の難燃剤コンビネーションを、熱可塑性ポリマーを難燃性にするために使用する方法。
【請求項15】 熱可塑性ポリマーが、HIPS(耐衝撃性ポリスチレン)、ポリフェニレンエーテル、ポリアミド、ポリエステルまたはポリカーボネート、あるいはABS (アクリロニトリル- ブタジエン- スチレン)またはPC/ABS(ポリカーボネート/アクリロニトリル- ブタジエン- スチレン)またはPPE/HIPS(ポリフェニレンエーテル/高衝撃性ポリスチレン)タイプのブレンドまたはポリマーブレンドである、請求項14の使用方法。
【請求項16】 熱可塑性ポリマーが、ポリアミド、ポリエステルまたはPPE/HIPSブレンドである、請求項15の使用方法。
【請求項17】 成分A及びBを、互いに独立して、プラスチック成形材料を基準としてそれぞれ1?30重量%の濃度で使用する、請求項14?16のいずれか一つの難燃剤コンビネーションの使用方法。
・・・
【請求項20】 請求項1?13のいずれか一つの難燃剤コンビネーションを含む難燃性プラスチック成形材料。
【請求項21】 プラスチックが、HIPS(耐衝撃性ポリスチレン)、ポリフェニレンエーテル、ポリアミド、ポリエステル、ポリカーボネート、あるいはABS (アクリロニトリル- ブタジエン- スチレン)またはPC/ABS(ポリカーボネート/アクリロニトリル- ブタジエン- スチレン)またはPPE/HIPS(ポリフェニレンエーテル/耐衝撃性ポリスチレン)プラスチックのタイプのブレンドまたはポリマーブレンドの種の熱可塑性ポリマーである、請求項20の難燃性プラスチック成形材料。
【請求項22】 プラスチックが、ポリアミド、ポリエステルまたはPPE/HIPSブレンドである、請求項20または21の難燃性プラスチック成形材料。」(特許請求の範囲の請求項1、14ないし17及び20ないし22)

(3b):「上記の使用方法では、上記の成分A及びBを、互いに独立して、プラスチック成形材料を基準としてそれぞれ1?30重量%の濃度で使用することが好ましい。
上記の使用方法では、上記の成分A及びBを、互いに独立して、プラスチック成形材料を基準としてそれぞれ3?20重量%の濃度で使用することが好ましい。
上記の使用方法では、上記の成分A及びBを、互いに独立して、プラスチック成形材料を基準としてそれぞれ3?15重量%の濃度で使用することが好ましい。」(段落【0026】ないし【0028】)

(3c):「【実施例】
1.使用成分
商業的に入手できるポリマー(ペレット):
ナイロン-6(ナイロン-6 GR ): ^((R)) Durethan BKV 30(Bayer AG, ドイツ)
ガラス繊維を30%の割合で含む。
ナイロン-6,6( ナイロン-6,6 GR):^((R)) Durethan AKV 30(Bayer AG, ドイツ)
ガラス繊維を30%の割合で含む。
ポリブチレンテレフタレート ^((R)) Celanex 2300 GV1/30(Ticona, ドイツ)(PBT GR) : ガラス繊維を30%の割合で含む。
PPE/HIPSブレンド: ^((R)) Noryl N110(GE Plastics, オランダ)

難燃剤成分(粉末状):
成分A:
ジエチルホスフィン酸アルミニウム: 以下DEPAL と称する。
ジエチルホスフィン酸亜鉛: 以下DEPZN と称する。

成分B:
Melapur ^((R)) MC(メラミンシアヌレート), DSM Melapur,オランダ
Melapur^( (R)) MP(メラミンホスフェート),DSM Melapur,オランダ
Melapur200(メラミンポリホスフェート),DSM Melapur,オランダ
2.難燃性プラスチック成形材料の製造、加工及び試験
上記難燃剤成分を、以下の表に示す比率で、ポリマーペレット及び使用する添加剤と混合し、そして240 ?280 ℃(ナイロン-6 GR 及びPBT/GRの場合)または260 ?300 ℃(ナイロン-6,6 GR 及びPPE/HIPSの場合)の温度で二軸スクリュー押出機(Leistritz LSM 30/34 タイプ)中で均一化する。この均一化されたポリマー押出物を引き抜き、水浴中で冷却し次いでペレット化した。
十分に乾燥した後、得られた成形材料を、260 ?280 ℃(ナイロン-6 GR 及びPBT/GRの場合)または270 ?300 ℃(ナイロン-6,6 GR 及びPPE/HIPSの場合)の溶融温度で射出成形機(model Toshiba IS 100 EN) を用いて加工して試験片を作製し、そしてUL94試験(Underwriters Laboratories) を用いてその難燃性について試験及び格付けした。
ポリエステル中での該新規コンビネーションの加工性は、それらの比粘度(SV)により評価した。十分に乾燥した後、上記プラスチック成形材料のペレットを使用してジクロロ酢酸中1.0 %濃度の溶液を調製し、そしてSVを測定した。SVの値が高ければ高いほど、難燃剤の導入中に発生するポリマーの分解の程度が低い。
表1は、ジエチルホスフィン酸アルミニウム(DEPAL) またはジエチルホスフィン酸亜鉛またはメラミンポリホスフェートを、ガラス繊維で強化したナイロン-6、ナイロン-6,6、PBT またはPPE/HIPS中で単独の難燃剤成分として試験した比較例を示す。
表2は、ガラス繊維で強化したナイロン-6、ナイロン-6,6、PBT またはPPE/HIPS中で、ジエチルホスフィン酸アルミニウムを国際特許出願公開第PCT/WO 97/01664 号に記載のように窒素含有相乗剤と組み合わせて試験した比較例を示す。
該新規難燃剤コンビネーションを使用した例の結果を表3に示す。量に関して表示した数値の全ては重量%単位であり、該難燃剤コンビネーションを含むプラスチック成形材料を基準とする値である。
この例から見いだされるように、本発明による添加剤(成分B)は、金属ホスフィン酸塩との組み合わせにおいて、適当な量で混合された場合に著しい難燃性の向上をもたらす。成分A及びBをそれぞれ単独で使用した場合及び成分Aを国際特許出願公開第PCT/WO 97/01664 号に記載のように窒素含有相乗剤と組み合わせて使用した場合と比較すると、成分AとBとのコンビネーションは、V-O 、V-1 またはV-2 への格付けを達成するのに必要とされる、プラスチック成形材料に対する難燃剤の量を著しく低減させる。
それゆえ、燃焼性の或る一定の格付けを達成するのに使用される難燃剤の量はかなり低減することができる。これは、プラスチック成形材料の機械的特性に対し有利な効果を持ち、また環境的及び経済的理由からも有利である。
更に、国際特許出願公開第PCT/WO 97/01664 号に記載の窒素含有相乗剤と成分Aとを組み合わせて使用した場合と比較して、ポリエステル中に導入する際の該新規コンビネーションの相容性もより良好である。
表1: 比較例
ホスフィン酸塩(成分A)及びメラミンポリホスフェート(成分B)を、ガラス繊維で強化したPBT 、ナイロン-6、ナイロン-6,6またはPPE/HIPS中にそれぞれ単独で使用した例」(段落【0050】ないし【0058】)

(3d):「

」(段落【0059】の【表1】)

(3e):「表2:比較例
ガラス繊維で強化したPBT 、ナイロン-6、ナイロン-6,6またはPPE/HIPS中でホスフィン酸塩(成分A)と窒素含有相乗剤とを組み合わせて使用した例」(段落【0060】)

(3f):「【表2】

」(段落【0061】の【表2】)

(3g):表3:本発明
ガラス繊維で強化したPBT 、ナイロン-6、ナイロン-6,6またはPPE/HIPS中でホスフィン酸塩(成分A)とメラミンポリホスフェート(成分B)とを組み合わせて使用した例」(段落【0062】)

(3h):【表3】

」(段落【0063】の【表3】)

(ウ)甲第4号証の記載
甲第4号証(国際公開第2006/070988号)には次のことが記載されている。
(4a):「【請求項1】
(A)スチレン系樹脂15?80重量部;
(B)ポリフェニレンエーテル樹脂15?80重量部;及び
前記基礎樹脂(A)+(B)100重量部に対して、(C)(c_(1))アルキルホスフィン酸金属塩化合物1?30重量%及び(c_(2))芳香族リン酸エステル化合物70?99重量%よりなるリン系化合物0.1?25重量部;
からなることを特徴とする、難燃性スチレン系樹脂組成物。」(特許請求の範囲の請求項1)
(4b):「一般に、ゴム変性スチレン系樹脂は、燃焼時にチャール(char)残量がほとんどないため、固体状態での難燃効果が期待しにくいという短所がある(Journal of Applied Polymer Science,1998,vol.68,p.1067)。したがって、チャール形成剤をさらに添加してチャールが円滑に生成されることができるようにしなければ望む難燃性が得られない。」(パラグラフ[5]、公表公報の段落【0004】)

(4c):「(A)スチレン系樹脂
本発明に係る樹脂組成物に用いられるスチレン系樹脂は、ゴムと芳香族モノアルケニル単量体及び/またはアルキルエステル単量体、不飽和ニトリル系単量体を混合し、熱または重合開始剤を用いて重合させて製造される。
ここで用いられる前記ゴムは、ポリブタジエン類、ポリイソプレン類、スチレン-ブタジエン共重合体類及びアルキルアクリレートゴム類などよりなる群から選択され、前記スチレン系樹脂100重量%に対して3?30重量%、好ましくは5?15重量%を用いる。
スチレン系樹脂で用いられる前記単量体は、芳香族モノアルケニル単量体及び/またはアルキルエステル単量体からなる群から選択される1種以上の単量体で70ないし97重量%、好ましくは85ないし90重量%であり、不飽和ニトリル系単量体は0ないし5重量%を付加して共重合して適用する。また、ここに加工性、耐熱性のような特性を付与するために、アクリル酸、メタクリル酸、無水マレイン酸、N-置換マレイミドなどの単量体が加えられ重合することができる。添加される量はスチレン系樹脂全体に対して0ないし40重量部を添加することができる。」(パラグラフ[21]ないし[25]、公表公報の段落【0010】ないし【0012】)

(4d):「[実施例]
実施例及び比較例において難燃性熱可塑性樹脂組成物を製造するための各成分は次のようである:
(A)スチレン系樹脂
第一毛織(株)(チェイル・インダストリーInc.)のスチレン系樹脂(商品名:HG-1760S)を用いた。用いられたブタジエンゴムの粒子大きさは1.5μmであり、ゴムの含量は6.5重量%である。
(B)ポリフェニレンエーテル樹脂(PPE)
旭化成社のポリ(2,6-ジメチル-フェニルエーテル)(登録商標):S-202を用いた。粒子の大きさは数十μmの平均粒子直径を有する粉末形態である。
(C)リン系化合物
(c_(1))アルキルホスフィン酸金属塩
(c_(11))Clariant社のジエチルホスフィン酸アルミニウム塩(登録商標):Exolit OP930を用いた。平均粒子大きさは5μmであり、リンの含量は23重量%である。
(c_(12))Clariant社のジエチルホスフィン酸アルミニウム塩(登録商標):Exolit OP1230を用いた。平均粒子大きさは20μmであり、リンの含量は23重量%である。
(c_(2))芳香族リン酸エステル化合物
日本大八化学のビス(ジメチルフェニル)ホスフェートビスフェノールA(登録商標):CR741Sを用いた。
[実施例1?3]
前記のような成分を下記表1に記載の含量によって通常の二軸押出機にて200?280℃の温度範囲で押し出してペレットを製造した。製造されたペレットは80℃で3時間乾燥後に6Oz射出成形機で成形温度180?280℃、金型温度40?80℃の条件で射出して難燃性を試験するために試片を製造した。製造された試片はUL94VB難燃規定により1/10の厚さで難燃度を測定し、アイゾッド衝撃強度は1/8厚さでASTM 256A条件で測定し、耐熱度はASTM D1525に準じて5kgf荷重で測定した。螺旋(spiral)の長さは10Oz射出機で成形温度250℃、金型温度50℃、射出速度60%の条件で射出流動性測定金型を用いて同1条件で樹脂の流れ長さを測定した。光沢は光沢測定器で測定し、測定角度は60°で測定した。
[比較例1?6]
比較例1?6は、下記表1に記載されたように、各成分の含量を調節したことの以外には実施例1?3と同一に試片を製造して物性を測定した。測定の結果は全て表1に表す。」(パラグラフ[62]ないし[89]、公表公報の段落【0031】ないし【0035】)

(4e):「表1

」(パラグラフ[91]、公表公報の段落【0036】の【表1】)

(4f):「前記表1の結果から、アルキルホスフィン酸金属塩化合物を芳香族リン酸エステル化合物と特定比率でともに難燃剤として用いる場合、芳香族リン酸エステル化合物を単独適用する時より、1/10の厚さで難燃度、耐熱度及び衝撃強度が優れることが分かり、アルキルホルフィン酸金属塩化合物を単独適用する場合に難燃及び流動性が大きく低下され、平均粒子大きさが20μm以上のものを単独に用いる場合には、衝撃強度及び光沢の低下が大きいことが分かる。」(パラグラフ[93]、公表公報の段落【0037】)

ウ 甲第1号証に記載された発明
摘示(1e)の記載からみて、甲第1号証には、「ポリマー相溶化剤」として、「繰返しアリールアルキレン単位からなる1以上のブロック(A)と、繰返しアルキレン単位からなる1以上のブロック(B)とを含んでいるブロックコポリマー」が使用できることが記載されている。
そうすると、摘示(1a)、(1c)、(1d)及び(1f)の記載を併せてみると、
甲第1号証には、
「(i)ポリ(アリーレンエーテル)30?65重量%、
(ii)ポリオレフィン15?35重量%、及び
(iii)繰返しアリールアルキレン単位からなる1以上のブロック(A)と、繰返しアルキレン単位からなる1以上のブロック(B)とを含んでいるブロックコポリマー2?30重量%
を含む熱可塑性樹脂組成物」の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されているものと認められる。

エ 訂正発明1と甲1発明との対比
訂正発明1と甲1発明とを対比すると、甲1発明における「(i)ポリ(アリーレンエーテル)」及び「(ii)ポリオレフィン」が、それぞれ、訂正発明1における「成分(A)ポリフェニレンエーテル」及び「成分(C)オレフィン樹脂」に相当することは技術的にみて明らかであって、それぞれの含有量も重複する範囲を有している。
そして、甲第1号証の摘示(1e)に「繰返しアリールアルキレン単位は、スチレンのようなアリールアルキレンモノマーの重合で得られる。繰返しアルキレン単位は、ブタジエンのようなジエンから導かれた繰返し不飽和単位の水素化で得られる」と記載されていることから、甲1発明における「(iii)繰返しアリールアルキレン単位からなる1以上のブロック(A)と、繰返しアルキレン単位からなる1以上のブロック(B)とを含んでいるブロックコポリマー」は、訂正発明1における「成分(B)ビニル芳香族単量体単位および共役ジエン単量体単位を主体とする水添共重合体」に相当する。
そうすると、両者は、「成分(A)ポリフェニレンエーテルの含有量(〈A〉)が10wt%以上45wt%未満、成分(B)ビニル芳香族単量体単位および共役ジエン単量体単位を主体とする水添共重合体、成分(C)オレフィン樹脂の含有量(〈C〉)が0wt%以上である、成分(A)、(B)、(C)を含む樹脂組成物」である点で一致し、下記の相違点1-1ないし1-3で相違している。

<相違点1-1>:「成分(B)ビニル芳香族単量体単位および共役ジエン単量体単位を主体とする水添共重合体」が、訂正発明1においては、「成分(B)中のビニル芳香族単量体単位が、35wt%以上であり、成分(B)が、ビニル芳香族単量体単位を主体とする重合体ブロック(B1)及びビニル芳香族単量体単位および共役ジエン単量体単位を主体とする水添共重合体ブロック(B2)を有し、且つ(B2)中のビニル芳香族単量体単位が、35wt%以上である」のに対して、甲1発明では、その点が特定されていない点。

<相違点1-2>:「成分(B)ビニル芳香族単量体単位および共役ジエン単量体単位を主体とする水添共重合体」の含有量が、訂正発明1においては、「40wt%以上70wt%以下」であるのに対して、甲1発明では、「2?30重量%」である点。

<相違点1-3>:訂正発明1においては、「成分(D)ホスフィン酸金属塩」を「2wt%以上20wt%以下」含有するのに対して、甲1発明では、その点が特定されていない点。

オ 相違点についての検討
(ア)相違点1-1についての検討
甲1発明における「(iii)繰返しアリールアルキレン単位からなる1以上のブロック(A)と、繰返しアルキレン単位からなる1以上のブロック(B)とを含んでいるブロックコポリマー」について、甲第1号証には、「アリールアルキレン単位の総量は、ブロックコポリマーの総重量を基準にして15?75重量%である。Bブロック中でのアルキレン単位とアリールアルキレン単位との重量比は5:1?1:2であり得る。」と記載されている(摘示(1e))ものの、当該ブロックコポリマーが、「繰返しアリールアルキレン単位からなる1以上のブロック(A)と、繰返しアルキレン単位からなる1以上のブロック(B)がアルキレン単位及びアリールアルキレン単位を主体とする水添共重合体ブロック(B)(すなわち訂正発明1における「成分(B)が、ビニル芳香族単量体単位を主体とする重合体ブロック(B1)及びビニル芳香族単量体単位および共役ジエン単量体単位を主体とする水添共重合体ブロック(B2)」に相当する。)」を有し、且つ「ブロック(B)中のアリールアルキレン単位が35重量%以上(すなわち訂正発明1における「(B2)中のビニル芳香族単量体単位が、35wt%以上」に相当する。)」であることについては、何れも明示的に記載されていない。
そして、実施例において具体的に用いられているものとして、「KG1650 ブロックコポリマーの総重量を基準にして30重量%のフェニルエチレン含有量を有し、KRATON Polymers社からG 1650のグレード名で商業的に入手できるポリフェニルエチレン-ポリ(エチレン/ブチレン)-ポリフェニルエチレンブロックコポリマー」が記載されている(摘示(1i)ないし(1l)特に(1j))ものの、このブロックコポリマーは総重量を基準にして30重量%のフェニルエチレンを含有するものであるから、「アリールアルキレン単位の総量が、ブロックコポリマーの総重量を基準にして35重量%以上」、すなわち訂正発明1における「成分(B)中のビニル芳香族単量体単位が、35wt%以上」の規定を満足するものではない。
さらに、実施例において具体的に用いられているものとして、「Tuftec H1043 ブロックコポリマーの総重量を基準にして67重量%のフェニルエチレン含有量を有し、Asahi Chemical社から商業的に入手できるポリフェニルエチレン-ポリ(エチレン/ブチレン)-ポリフェニルエチレンブロックコポリマー」とも記載されており(摘示(1i)ないし(1l)特に(1j))、このブロックコポリマーは「アリールアルキレン単位の総量が、ブロックコポリマーの総重量を基準にして35重量%以上」、すなわち訂正発明1における「成分(B)中のビニル芳香族単量体単位が、35wt%以上」の規定を満足するものの、「繰返しアリールアルキレン単位からなる1以上のブロック(A)と、繰返しアルキレン単位からなる1以上のブロック(B)がアルキレン単位及びアリールアルキレン単位を主体とする水添共重合体ブロック(B)を有する」且つ「ブロック(B)中のアリールアルキレン単位が35重量%以上」(すなわち訂正発明1における「成分(B)が、ビニル芳香族単量体単位を主体とする重合体ブロック(B1)及びビニル芳香族単量体単位および共役ジエン単量体単位を主体とする水添共重合体ブロック(B2)を有する」且つ「(B2)中のビニル芳香族単量体単位が、35wt%以上」)の規定を満たすことについて記載されていない。
そうすると、甲第1号証には、甲1発明における「(iii)繰返しアリールアルキレン単位からなる1以上のブロック(A)と、繰返しアルキレン単位からなる1以上のブロック(B)とを含んでいるブロックコポリマー」が、「アリールアルキレン単位の総量が、ブロックコポリマーの総重量を基準にして35重量%以上」、「繰返しアリールアルキレン単位からなる1以上のブロック(A)と、繰返しアルキレン単位からなる1以上のブロック(B)がアルキレン単位及びアリールアルキレン単位を主体とする水添共重合体ブロック(B)を有する」且つ「ブロック(B)中のアリールアルキレン単位が35重量%以上」(すなわち訂正発明1における「成分(B)中のビニル芳香族単量体単位が、35wt%以上」、「成分(B)が、ビニル芳香族単量体単位を主体とする重合体ブロック(B1)及びビニル芳香族単量体単位および共役ジエン単量体単位を主体とする水添共重合体ブロック(B2)を有する」且つ「(B2)中のビニル芳香族単量体単位が、35wt%以上」)との規定を全て満足するものについてまで記載されているということはできない。
そして、甲第1号証においては、「(iii)繰返しアリールアルキレン単位からなる1以上のブロック(A)と、繰返しアルキレン単位からなる1以上のブロック(B)とを含んでいるブロックコポリマー」について、ブロック(B)中のアリールアルキレン単位の量について何ら規定するものではないことから、この発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が甲第1号証の記載に接したとしても、「ブロックコポリマーの総重量を基準にしてアリールアルキレン単位の総量」と、ブロック構造として「繰返しアリールアルキレン単位からなる1以上のブロック(A)と、繰返しアルキレン単位からなる1以上のブロック(B)がアルキレン単位及びアリールアルキレン単位を主体とする水添共重合体ブロック(B)」を有すること、さらに「ブロック(B)中のアリールアルキレン単位の含有量」を関連づけることについて示唆を与えられるということはできないし、まして、それらの値を具体的に「アリールアルキレン単位の総量が、ブロックコポリマーの総重量を基準にして35重量%以上」及び「ブロック(B)中のアリールアルキレン単位が35重量%以上」とするということについてまで示唆を与えられるということはできない。
また、甲第3ないし4号証には、「第6 2.(1)イ(イ)?(ウ)」で摘示したとおり、「成分(B)ビニル芳香族単量体単位および共役ジエン単量体単位を主体とする水添共重合体であって、成分(B)中のビニル芳香族単量体単位が、35wt%以上であり、成分(B)が、ビニル芳香族単量体単位を主体とする重合体ブロック(B1)及びビニル芳香族単量体単位および共役ジエン単量体単位を主体とする水添共重合体ブロック(B2)を有し、且つ(B2)中のビニル芳香族単量体単位が、35wt%以上である」ものが記載も示唆もされていない。
そして、甲第3ないし4号証には、甲1発明において、「(iii)繰返しアリールアルキレン単位からなる1以上のブロック(A)と、繰返しアルキレン単位からなる1以上のブロック(B)とを含んでいるブロックコポリマー」として、「アリールアルキレン単位の総量が、ブロックコポリマーの総重量を基準にして35重量%以上」、「繰返しアリールアルキレン単位からなる1以上のブロック(A)と、繰返しアルキレン単位からなる1以上のブロック(B)がアルキレン単位及びアリールアルキレン単位を主体とする水添共重合体ブロック(B)を有する」且つ「ブロック(B)中のアリールアルキレン単位が35重量%以上」(すなわち訂正発明1における「成分(B)中のビニル芳香族単量体単位が、35wt%以上」、「成分(B)が、ビニル芳香族単量体単位を主体とする重合体ブロック(B1)及びビニル芳香族単量体単位および共役ジエン単量体単位を主体とする水添共重合体ブロック(B2)を有する」且つ「(B2)中のビニル芳香族単量体単位が、35wt%以上」)との規定を全て満足することを示唆するものではないし、そのことの動機付けも存在しない。

(イ)相違点1-2についての検討
甲1発明における「(iii)繰返しアリールアルキレン単位からなる1以上のブロック(A)と、繰返しアルキレン単位からなる1以上のブロック(B)とを含んでいるブロックコポリマー」は、摘示(1e)から、ポリオレフィン相とポリ(アリーレンエーテル)相との相溶性を向上させるための「ポリマー相溶化剤」として用いられると解され、その含有量についても「2?30重量%」と記載されているだけである。
そして、甲第1号証には、当該相溶化剤の配合量を30重量%よりも増加させることについての記載はない。
そうすると、当業者が甲第1号証の記載に接した場合、相溶化剤としての「(iii)繰返しアリールアルキレン単位からなる1以上のブロック(A)と、繰返しアルキレン単位からなる1以上のブロック(B)とを含んでいるブロックコポリマー」の含有量を、上限値として規定される30重量%以上に増加させることについてまで示唆を与えられるということはできない。
また、甲第3ないし4号証には、「第6 2.(1)イ(イ)?(ウ)」で摘示したとおり、「成分(B)ビニル芳香族単量体単位および共役ジエン単量体単位を主体とする水添共重合体の含有量が、40wt%以上70wt%以下である」ことが記載も示唆もされていない。
そして、甲第3ないし4号証には、甲1発明において、「(iii)繰返しアリールアルキレン単位からなる1以上のブロック(A)と、繰返しアルキレン単位からなる1以上のブロック(B)とを含んでいるブロックコポリマー」の含有量について、「40wt%以上70wt%以下」とすることを示唆するものではないし、そのことの動機付けも存在しない。

(ウ)相違点1-3についての検討
甲第1号証には、「熱可塑性樹脂組成物がさらに難燃剤を含む」こと(摘示(1a))、例示的な難燃剤として、メラミン(CAS No.108-78-1)、有機リン酸エステル等多数の難燃剤が列挙されている中に、「金属ジアルキルホスフィネート」と記載されている(摘示(1g))。そして、実施例において具体的に用いられている難燃剤は、「BPADP ビスフェノールAビス-ジフェニルホスフェート(CAS 181028-79-5)」であることが記載されている(摘示(1i)ないし(1l)特に(1j))。
そうすると、甲第1号証においては、「金属ジアルキルホスフィネート」は、難燃剤として、多数列挙されているものの1つであって、実施例において具体的に使用されている訳でもないことからみて、甲第1号証には、「甲1発明にさらに難燃剤あるいは難燃剤としてのビスフェノールAビス-ジフェニルホスフェートを含む熱可塑性樹脂組成物」が記載されているといえるとしても、「甲1発明にさらに難燃剤としての金属ジアルキルホスフィネートを含む熱可塑性樹脂組成物」が記載されているとまではいえない。
また、甲第3号証には、「成分Aとして、以下の式(I) (式省略)で表されるホスフィン酸塩を含む、難燃剤コンビネーションを含む難燃性プラスチック成形材料であって、プラスチックが、PPE/HIPS(ポリフェニレンエーテル/耐衝撃性ポリスチレン)のブレンドである、難燃性プラスチック成形材料。」が記載されており(摘示(3a)ないし(3b))、具体的に、PPE/HIPSに対してホスフィン酸金属塩を配合してなる難燃性プラスチック成形材料が記載されている(摘示(3c)ないし(3h))。
そして、甲第4号証には、「(A)スチレン系樹脂15?80重量部;(B)ポリフェニレンエーテル樹脂15?80重量部;及び前記基礎樹脂(A)+(B)100重量部に対して、(C)(c_(1))アルキルホスフィン酸金属塩化合物1?30重量%及び(c_(2))芳香族リン酸エステル化合物70?99重量%よりなるリン系化合物0.1?25重量部;からなる難燃性スチレン系樹脂組成物」が記載されている(摘示(4a))ものの、当該スチレン系樹脂とは、摘示(4b)ないし(4f)から、特に、具体的に用いられている「第一毛織(株)(チェイル・インダストリーInc.)のスチレン系樹脂(商品名:HG-1760S)。ブタジエンゴムの粒子大きさは1.5μm、ゴムの含量6.5重量%」との記載(摘示(4d))から、ゴム変性スチレン系樹脂、すなわちHIPSのことであると認められる。
ここで、甲第1号証においては、「本明細書中に記載される熱可塑性樹脂組成物は、ポリスチレン又はゴム改質ポリスチレン(耐衝撃性ポリスチレン又はHIPSとしても知られる)のようなアルケニル芳香族樹脂を実質的に含まない。・・・一実施形態では、本組成物はアルケニル芳香族樹脂を完全に含まない。意外にも、アルケニル芳香族樹脂の存在はポリ(アリーレンエーテル)相とポリオレフィン相との相溶化にマイナスの影響を及ぼすことがある。」と記載されている(摘示(1b))のであるから、たとえ、甲第3ないし4号証に、ホスフィン酸金属塩がPPE/HIPSの難燃剤として好適に使用することができることが記載されているとしても、これをHIPSを実質的に含まないとする甲1発明にさらに添加する難燃剤として採用するための動機付けが存在しない。
しかも、本件訂正明細書の比較例2で用いられている「CR-741(ビスフェノールA-ビス(ジフェニルホスフェート)、大八化学製、商品名)」が、甲第1号証において難燃剤として具体的に用いられている「ビスフェノールAビス-ジフェニルホスフェート」と同一の化合物であることは、乙第2号証からも明らかであって、この化合物を配合した組成物が、実施例における「ホスフィン酸アルミニウム」と比較して、耐ブリード性、ABSへの耐成分移行性、難燃性及び柔軟性に劣ることが記載されているのであるから、甲第1号証において、難燃剤として、具体的に用いられている「ビスフェノールAビス-ジフェニルホスフェート」に代えて、「金属ジアルキルホスフィネート」を採用することによる効果も格別予測し得ないものであるということができる。

してみると、そもそも、甲1発明において、相違点1-1ないし1-3の点について記載も示唆もされていないし、たとえ甲第3ないし4号証を参酌したとしても、相違点1-1ないし1-3の点について示唆を与えられるということはできないし、そのことの動機付けも存在しない。

したがって、訂正発明1は、甲第1号証に記載された発明及び甲第3号証ないし甲第4号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることはできない。


(2)訂正発明1についての検討(甲第2号証に基づく無効理由1について)
ア 訂正発明1
訂正発明1は、「第6 2.(1)ア 訂正発明1」に記載したとおりのものである。

イ 甲各号証の記載
(ア)甲第2号証の記載
甲第2号証(国際公開第2006/065540号)には次のことが記載されている。

(2a):「【請求項1】
並列隣接状態で配列された2以上の被覆線を含むと共に、隣接する被覆線間に1以上の実質的な界面接触領域を設けてなる多心ケーブルアセンブリであって、
被覆線の1以上が心線及び熱可塑性樹脂組成物からなる被覆を含み、
熱可塑性樹脂組成物が、
(i)ポリ(アリーレンエーテル)、
(ii)ポリオレフィン、及び
(iii)ポリマー相溶化剤
を含み、
被覆が心線をおおって配設されており、
各被覆線が隣接する被覆線に少なくとも部分的に接合されている、多心ケーブルアセンブリ。
・・・
【請求項7】
ポリマー相溶化剤が、制御分布コポリマーであるブロックを有するブロックコポリマーからなる、請求項1記載の多心ケーブルアセンブリ。
【請求項8】
ポリマー相溶化剤が、第一のブロックコポリマーの総重量を基準にして50重量%以上のアリールアルキレン含有量を有する第一のブロックコポリマー、及び第二のコポリマーの総重量を基準にして50重量%以下のアリールアルキレン含有量を有する第二のブロックコポリマーからなる、請求項1記載の多心ケーブルアセンブリ。
【請求項9】
ポリマー相溶化剤がジブロックコポリマー及びトリブロックコポリマーからなる、請求項1記載の多心ケーブルアセンブリ。
・・・
【請求項11】
熱可塑性樹脂組成物がさらに難燃剤を含む、請求項1記載の多心ケーブルアセンブリ。」(特許請求の範囲の請求項1、7ないし9及び11)

(2b):「本明細書中に記載される熱可塑性樹脂組成物は、ポリスチレン又はゴム改質ポリスチレン(耐衝撃性ポリスチレン又はHIPSとしても知られる)のようなアルケニル芳香族樹脂を実質的に含まない。実質的に含まないとは、ポリ(アリーレンエーテル)、ポリオレフィン及びブロックコポリマーの合計重量を基準にして10重量%(wt%)未満、さらに詳しくは7wt%未満、さらに詳しくは5wt%未満、さらに一段と詳しくは3wt%未満のアルケニル芳香族樹脂を含むこととして定義される。一実施形態では、本組成物はアルケニル芳香族樹脂を完全に含まない。意外にも、アルケニル芳香族樹脂の存在はポリ(アリーレンエーテル)相とポリオレフィン相との相溶化にマイナスの影響を及ぼすことがある。」(5ページ27行ないし6ページ7行、公表公報の段落【0021】)

(2c):「被覆用の絶縁組成物は、組成物の総重量に対して30?65重量%(wt%)の量でポリ(アリーレンエーテル)を含む。この範囲内では、ポリ(アリーレンエーテル)の量は40wt%以上、さらに詳しくは45wt%以上であり得る。やはりこの範囲内では、ポリ(アリーレンエーテル)の量は55wt%以下であり得る。」(10ページ16ないし21行、公表公報の段落【0031】)

(2d):「本組成物は、組成物の総重量に対して15?35重量%(wt%)の量でポリオレフィンを含み得る。この範囲内では、ポリオレフィンの量は17wt%以上、さらに詳しくは20wt%以上であり得る。やはりこの範囲内では、ポリオレフィンの量は33wt%以下、さらに詳しくは30wt%以下であり得る。」(13ぺージ8ないし12行、公表公報の段落【0043】)

(2e):「ポリマー相溶化剤は、ポリオレフィン相とポリ(アリーレンエーテル)相との相溶性を向上させる樹脂及び添加剤である。ポリマー相溶化剤には、ブロックコポリマー、・・・がある。
本明細書中で使用する「ブロックコポリマー」とは、ただ1種のブロックコポリマー又はブロックコポリマーの組合せをいう。ブロックコポリマーは、繰返しアリールアルキレン単位からなる1以上のブロック(A)と、繰返しアルキレン単位からなる1以上のブロック(B)とを含んでいる。ブロック(A)及び(B)の配列は、線状構造又は枝分れ鎖を有するいわゆるラジアルテレブロック構造であり得る。A-B-Aトリブロックコポリマーは、繰返しアリールアルキレン単位からなるブロックAを2つ含んでいる。アリールアルキレン単位のペンダントアリール部分は、単環式又は多環式であり得ると共に、環状部分上の任意の利用可能な位置に置換基を有し得る。好適な置換基には、炭素原子数1?4のアルキル基がある。例示的なアリールアルキレン単位は、下記の式IIに示すフェニルエチレンである。
【化2】

ブロックAはさらに、アリールアルキレン単位の量がアルキレン単位の量を超える限り、炭素原子数2?15のアルキレン単位を含み得る。
ブロックBは、エチレン、プロピレン、ブチレン又は上述のものの2以上の組合せのような炭素原子数2?15の繰返しアルキレン単位からなっている。ブロックBはさらに、アルキレン単位の量がアリールアルキレン単位の量を超える限り、アリールアルキレン単位を含み得る。
・・・
一実施形態では、Bブロックはアリールアルキレン単位と炭素原子数2?15のアルキレン単位(例えば、エチレン、プロピレン、ブチレン又は上述のものの2以上の組合せ)とのコポリマーである。Bブロックはさらに、若干の不飽和非芳香族炭素-炭素結合を含み得る。
・・・アリールアルキレン単位の総量は、ブロックコポリマーの総重量を基準にして15?75重量%である。Bブロック中でのアルキレン単位とアリールアルキレン単位との重量比は5:1?1:2であり得る。例示的なブロックコポリマーは、さらに米国特許出願公開第2003/181584号に開示されており、Kraton Polymers社からKRATONの商標で商業的に入手できる。例示的なグレードはA-RP6936及びA-RP6935である。
繰返しアリールアルキレン単位は、スチレンのようなアリールアルキレンモノマーの重合で得られる。繰返しアルキレン単位は、ブタジエンのようなジエンから導かれた繰返し不飽和単位の水素化で得られる。ブタジエンは1,4-ブタジエン及び/又は1,2-ブタジエンからなり得る。Bブロックはさらに、若干の不飽和非芳香族炭素-炭素結合を含み得る。
例示的なブロックコポリマーには、ポリフェニルエチレン-ポリ(エチレン/プロピレン)-ポリフェニルエチレン(時にはポリスチレン-ポリ(エチレン/プロピレン)-ポリスチレンともいう)及びポリフェニルエチレン-ポリ(エチレン/ブチレン)-ポリフェニルエチレン(時にはポリスチレン-ポリ(エチレン/ブチレン)-ポリスチレンともいう)がある。
一実施形態では、ポリマー相溶化剤は2種のブロックコポリマーからなる。第一のブロックコポリマーは、第一のブロックコポリマーの総重量を基準にして50重量%以上のアリールアルキレン含有量を有している。第二のブロックコポリマーは、第二のブロックコポリマーの総重量を基準にして50重量%以下のアリールアルキレン含有量を有している。例示的な組合せのブロックコポリマーとしては、ブロックコポリマーの総重量を基準にして15?40重量%のフェニルエチレン含有量を有する第一のポリフェニルエチレン-ポリ(エチレン/ブチレン)-ポリフェニルエチレン、及びブロックコポリマーの総重量を基準にして55?70重量%のフェニルエチレン含有量を有する第二のポリフェニルエチレン-ポリ(エチレン/ブチレン)-ポリフェニルエチレンが使用できる。50重量%を超えるアリールアルキレン含有量を有する例示的なブロックコポリマーには、Asahi社からTUFTECの商品名で商業的に入手できる、H1043のようなグレード名を有するもの、並びにKuraray社からSEPTONの商品名で入手できる若干のグレードがある。50重量%未満のアリールアルキレン含有量を有する例示的なブロックコポリマーには、Kraton Polymers社からKRATONの商標で商業的に入手できる、G-1701、G-1702、G-1730、G-1641、G-1650、G-1651、G-1652、G-1657、A-RP6936及びA-RP6935のようなグレード名のものがある。
一実施形態では、ポリマー相溶化剤はジブロックコポリマー及びトリブロックコポリマーからなる。」(13ページ18行ないし16ページ12行、公表公報の段落【0046】ないし【0056】)

(2f):「ポリマー相溶化剤は、組成物の総重量に対して2?30重量%の量で存在する。この範囲内では、ポリマー相溶化剤は組成物の総重量に対して4重量%以上、さらに詳しくは6重量%以上の量で存在し得る。やはりこの範囲内では、ポリマー相溶化剤は組成物の総重量に対して18重量%以下、さらに詳しくは16重量%以下、さらに一段と詳しくは14重量%以下の量で存在し得る。」(18ページ13ないし20行、公表公報の段落【0064】)

(2g):「上述の通り、熱可塑性樹脂組成物は任意の難燃剤又は難燃剤の組合せを含み得る。例示的な難燃剤には、メラミン(CAS No.108-78-1)、メラミンシアヌレート(CAS No.37640-57-6)、メラミンホスフェート(CAS No.20208-95-1)、メラミンピロホスフェート(CAS No.15541-60-3)、メラミンポリホスフェート(CAS No.218768-84-4)、メラム、メレム、メロン、ホウ酸亜鉛(CAS No.1332-07-6)、リン酸ホウ素、赤リン(CAS No.7723-14-0)、有機リン酸エステル、リン酸一アンモニウム(CAS No.7722-76-1)、リン酸二アンモニウム(CAS No.7783-28-0)、アルキルホスホネート(CAS No.78-38-6及び78-40-0)、金属ジアルキルホスフィネート、ポリリン酸アンモニウム(CAS No.68333-79-9)、低融点ガラス、並びに上述の難燃剤の2種以上の組合せがある。
例示的な有機リン酸エステル難燃剤には、特に限定されないが、フェニル基、置換フェニル基、又はフェニル基と置換フェニル基の組合せを含むリン酸エステル、レソルシノールに基づくビス-アリールリン酸エステル(例えば、レソルシノールビス-ジフェニルホスフェート)並びにビスフェノールに基づくもの(例えば、ビスフェノールAビス-ジフェニルホスフェート)がある。一実施形態では、有機リン酸エステルは、トリス(アルキルフェニル)ホスフェート(例えば、CAS No.89492-23-9又はCAS No.78-33-1)、レソルシノールビス-ジフェニルホスフェート(例えば、CAS No.57583-54-7)、ビスフェノールAビス-ジフェニルホスフェート(例えば、CAS No.181028-79-5)、トリフェニルホスフェート(例えば、CAS No.115-86-6)、トリス(イソプロピルフェニル)ホスフェート(例えば、CAS No.68937-41-7)及び上述の有機リン酸エステルの2種以上の混合物から選択される。
一実施形態では、有機リン酸エステルは下記の式IIIを有するビス-アリールホスフェートからなる。
【化3】

式中、R、R^(5)及びR^(6)は独立に炭素原子数1?5のアルキル基であり、R^(1)?R^(4)は独立に炭素原子数1?10のアルキル基、アリール基、アリールアルキル基又はアルキルアリール基であり、nは1?25に等しい整数であり、s1及びs2は独立に0?2に等しい整数である。若干の実施形態では、OR^(1)、OR^(2)、OR^(3)及びOR^(4)は独立にフェノール、モノアルキルフェノール、ジアルキルフェノール又はトリアルキルフェノールから導かれる。
当業者には容易に理解される通り、ビス-アリールホスフェートはビスフェノールから導かれる。例示的なビスフェノールには、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン(いわゆるビスA)、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)プロパン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)メタン、ビス(4-ヒドロキシ-3,5-ジメチルフェニル)メタン及び1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)エタンから導かれる。一実施形態では、ビスフェノールはビスフェノールAからなる。」(18ページ21行ないし20ページ4行、公表公報の段落【0065】ないし【0069】)

(2h):「絶縁組成物中に存在する場合、難燃剤の量は、被覆線が特定の被覆線に関して規定される難燃性基準を満たし又は超えるのに十分なものである。
一実施形態では、難燃剤は、組成物の総重量に対して5?20重量%(wt%)の量で存在する有機リン酸エステルからなる。この範囲内では、有機リン酸エステルの量は7重量%以上、さらに詳しくは9重量%以上であり得る。やはりこの範囲内では、有機リン酸エステルの量は16重量%以下、さらに詳しくは14重量%以下であり得る。」(20ページ10ないし18行、公表公報の段落【0071】ないし【0072】)

(2i):「多心ケーブルアセンブリを以下の非限定的な実施例でさらに例証する。
実施例
心線及び被覆からなる被覆線を押出被覆で形成した。被覆は、30?35重量%のポリ(アリーレンエーテル)、23?26重量%のポリオレフィン、14?17重量%のブロックコポリマー及び難燃剤を含む熱可塑性樹脂組成物からなっていた。重量%は組成物の総重量を基準にしている。均等な長さを有する5本又は8本の被覆線を、被覆線の直径の和に等しい幅を有する固定具内で互いに隣接した状態に配列した。次に、これらの線にはけ塗り又はフェルト塗りでキシレン、トルエン又はこれらの組合せを適用し、130?175℃の温度で1?12分間加熱することで多心アセンブリを形成した。次に、アセンブリを室温で冷却した。アセンブリは良好な接着強さを示すと共に、70サイクルの激しい屈曲(180度の角度の屈曲)を施した後にもほとんど疲労を示さなかった。」(33ページ28行ないし34ページ12行、公表公報の段落【0125】ないし【0126】)

(イ)甲第3ないし4号証の記載
甲第3ないし4号証には、「第6 2.(1)イ(イ)ないし(ウ)に記載したとおりのことが記載されている。

ウ 甲第2号証に記載された発明
摘示(2e)の記載からみて、甲第2号証には、「ポリマー相溶化剤」として、「繰返しアリールアルキレン単位からなる1以上のブロック(A)と、繰返しアルキレン単位からなる1以上のブロック(B)とを含んでいるブロックコポリマー」が使用できることが記載されている。
そうすると、摘示(2a)、(2c)、(2d)及び(2f)の記載を併せてみると、
甲第2号証には、
「(i)ポリ(アリーレンエーテル)30?65重量%、
(ii)ポリオレフィン15?35重量%、及び
(iii)繰返しアリールアルキレン単位からなる1以上のブロック(A)と、繰返しアルキレン単位からなる1以上のブロック(B)とを含んでいるブロックコポリマー2?30重量%
を含む熱可塑性樹脂組成物」の発明(以下、「甲2発明」という。)が記載されているものと認められる。

エ 訂正発明1と甲2発明との対比
訂正発明1と甲2発明とを対比すると、甲2発明における「(i)ポリ(アリーレンエーテル)」及び「(ii)ポリオレフィン」が、それぞれ、訂正発明1における「成分(A)ポリフェニレンエーテル」及び「成分(C)オレフィン樹脂」に相当することは技術的にみて明らかであって、それぞれの含有量も重複する範囲を有している。
そして、甲第2号証の摘示(2e)に「繰返しアリールアルキレン単位は、スチレンのようなアリールアルキレンモノマーの重合で得られる。繰返しアルキレン単位は、ブタジエンのようなジエンから導かれた繰返し不飽和単位の水素化で得られる」と記載されていることから、甲2発明における「(iii)繰返しアリールアルキレン単位からなる1以上のブロック(A)と、繰返しアルキレン単位からなる1以上のブロック(B)とを含んでいるブロックコポリマー」は、訂正発明1における「成分(B)ビニル芳香族単量体単位および共役ジエン単量体単位を主体とする水添共重合体」に相当する。
そうすると、両者は、「成分(A)ポリフェニレンエーテルの含有量(〈A〉)が10wt%以上45wt%未満、成分(B)ビニル芳香族単量体単位および共役ジエン単量体単位を主体とする水添共重合体、成分(C)オレフィン樹脂の含有量(〈C〉)が0wt%以上である、成分(A)、(B)、(C)を含む樹脂組成物」である点で一致し、下記の相違点2-1ないし2-3で相違している。

<相違点2-1>:「成分(B)ビニル芳香族単量体単位および共役ジエン単量体単位を主体とする水添共重合体」が、訂正発明1においては、「成分(B)中のビニル芳香族単量体単位が、35wt%以上であり、成分(B)が、ビニル芳香族単量体単位を主体とする重合体ブロック(B1)及びビニル芳香族単量体単位および共役ジエン単量体単位を主体とする水添共重合体ブロック(B2)を有し、且つ(B2)中のビニル芳香族単量体単位が、35wt%以上である」のに対して、甲2発明では、その点が特定されていない点。

<相違点2-2>:「成分(B)ビニル芳香族単量体単位および共役ジエン単量体単位を主体とする水添共重合体」の含有量が、訂正発明1においては、「40wt%以上70wt%以下」であるのに対して、甲2発明では、「2?30重量%」である点。

<相違点2-3>:訂正発明1においては、「成分(D)ホスフィン酸金属塩」を「2wt%以上20wt%以下」含有するのに対して、甲2発明では、その点が特定されていない点。

オ 相違点についての検討
(ア)相違点2-1についての検討
甲2発明における「(iii)繰返しアリールアルキレン単位からなる1以上のブロック(A)と、繰返しアルキレン単位からなる1以上のブロック(B)とを含んでいるブロックコポリマー」について、甲第2号証には、「アリールアルキレン単位の総量は、ブロックコポリマーの総重量を基準にして15?75重量%である。Bブロック中でのアルキレン単位とアリールアルキレン単位との重量比は5:1?1:2であり得る。」と記載されている(摘示(2e))ものの、当該ブロックコポリマーが、「繰返しアリールアルキレン単位からなる1以上のブロック(A)と、繰返しアルキレン単位からなる1以上のブロック(B)がアルキレン単位及びアリールアルキレン単位を主体とする水添共重合体ブロック(B)(すなわち訂正発明1における「成分(B)が、ビニル芳香族単量体単位を主体とする重合体ブロック(B1)及びビニル芳香族単量体単位および共役ジエン単量体単位を主体とする水添共重合体ブロック(B2)」に相当する。)」を有し、且つ「ブロック(B)中のアリールアルキレン単位が35重量%以上(すなわち訂正発明1における「(B2)中のビニル芳香族単量体単位が、35wt%以上」に相当する。)」であることについては、何れも明示的に記載されていない。
そして、甲第2号証の実施例(摘示(2i))においても、「アリールアルキレン単位の総量が、ブロックコポリマーの総重量を基準にして35重量%以上」、すなわち訂正発明1における「成分(B)中のビニル芳香族単量体単位が、35wt%以上」の規定を満足し、「繰返しアリールアルキレン単位からなる1以上のブロック(A)と、繰返しアルキレン単位からなる1以上のブロック(B)がアルキレン単位及びアリールアルキレン単位を主体とする水添共重合体ブロック(B)を有する」且つ「ブロック(B)中のアリールアルキレン単位が35重量%以上」(すなわち訂正発明1における「成分(B)が、ビニル芳香族単量体単位を主体とする重合体ブロック(B1)及びビニル芳香族単量体単位および共役ジエン単量体単位を主体とする水添共重合体ブロック(B2)を有する」且つ「(B2)中のビニル芳香族単量体単位が、35wt%以上」)の規定を満たすものが具体的に用いられていることについて記載されていない。
そうすると、甲第2号証には、甲2発明における「(iii)繰返しアリールアルキレン単位からなる1以上のブロック(A)と、繰返しアルキレン単位からなる1以上のブロック(B)とを含んでいるブロックコポリマー」が、「アリールアルキレン単位の総量が、ブロックコポリマーの総重量を基準にして35重量%以上」、「繰返しアリールアルキレン単位からなる1以上のブロック(A)と、繰返しアルキレン単位からなる1以上のブロック(B)がアルキレン単位及びアリールアルキレン単位を主体とする水添共重合体ブロック(B)を有する」且つ「ブロック(B)中のアリールアルキレン単位が35重量%以上」(すなわち訂正発明1における「成分(B)中のビニル芳香族単量体単位が、35wt%以上」、「成分(B)が、ビニル芳香族単量体単位を主体とする重合体ブロック(B1)及びビニル芳香族単量体単位および共役ジエン単量体単位を主体とする水添共重合体ブロック(B2)を有する」且つ「(B2)中のビニル芳香族単量体単位が、35wt%以上」)との規定を全て満足するものについてまで記載されているということはできない。
そして、甲第2号証においては、「(iii)繰返しアリールアルキレン単位からなる1以上のブロック(A)と、繰返しアルキレン単位からなる1以上のブロック(B)とを含んでいるブロックコポリマー」について、ブロック(B)中のアリールアルキレン単位の量について何ら規定するものではないことから、当業者が甲第2号証の記載に接したとしても、「ブロックコポリマーの総重量を基準にしてアリールアルキレン単位の総量」と、ブロック構造として「繰返しアリールアルキレン単位からなる1以上のブロック(A)と、繰返しアルキレン単位からなる1以上のブロック(B)がアルキレン単位及びアリールアルキレン単位を主体とする水添共重合体ブロック(B)」を有すること、さらに「ブロック(B)中のアリールアルキレン単位の含有量」を関連づけることについて示唆を与えられるということはできないし、まして、それらの値を具体的に「アリールアルキレン単位の総量が、ブロックコポリマーの総重量を基準にして35重量%以上」及び「ブロック(B)中のアリールアルキレン単位が35重量%以上」とするということについてまで示唆を与えられるということはできない。
また、甲第3ないし4号証には、「第6 2.(1)イ(イ)?(ウ)」で摘示したとおり、「成分(B)ビニル芳香族単量体単位および共役ジエン単量体単位を主体とする水添共重合体であって、成分(B)中のビニル芳香族単量体単位が、35wt%以上であり、成分(B)が、ビニル芳香族単量体単位を主体とする重合体ブロック(B1)及びビニル芳香族単量体単位および共役ジエン単量体単位を主体とする水添共重合体ブロック(B2)を有し、且つ(B2)中のビニル芳香族単量体単位が、35wt%以上である」ものが記載も示唆もされていない。
そして、甲第3ないし4号証には、甲2発明において、「(iii)繰返しアリールアルキレン単位からなる1以上のブロック(A)と、繰返しアルキレン単位からなる1以上のブロック(B)とを含んでいるブロックコポリマー」として、「アリールアルキレン単位の総量が、ブロックコポリマーの総重量を基準にして35重量%以上」、「繰返しアリールアルキレン単位からなる1以上のブロック(A)と、繰返しアルキレン単位からなる1以上のブロック(B)がアルキレン単位及びアリールアルキレン単位を主体とする水添共重合体ブロック(B)を有する」且つ「ブロック(B)中のアリールアルキレン単位が35重量%以上」(すなわち訂正発明1における「成分(B)中のビニル芳香族単量体単位が、35wt%以上」、「成分(B)が、ビニル芳香族単量体単位を主体とする重合体ブロック(B1)及びビニル芳香族単量体単位および共役ジエン単量体単位を主体とする水添共重合体ブロック(B2)を有する」且つ「(B2)中のビニル芳香族単量体単位が、35wt%以上」)との規定を全て満足することを示唆するものではないし、そのことの動機付けも存在しない。

(イ)相違点2-2についての検討
甲2発明における「(iii)繰返しアリールアルキレン単位からなる1以上のブロック(A)と、繰返しアルキレン単位からなる1以上のブロック(B)とを含んでいるブロックコポリマー」は、摘示(2e)から、ポリオレフィン相とポリ(アリーレンエーテル)相との相溶性を向上させるための「ポリマー相溶化剤」として用いられると解され、その含有量についても「2?30重量%」と記載されているだけである。
そして、甲第2号証には、当該相溶化剤の配合量を30重量%よりも増加させることについての記載はない。
そうすると、当業者が甲第2号証の記載に接した場合、相溶化剤としての「(iii)繰返しアリールアルキレン単位からなる1以上のブロック(A)と、繰返しアルキレン単位からなる1以上のブロック(B)とを含んでいるブロックコポリマー」の含有量を、上限値として規定される30重量%以上に増加させることについてまで示唆を与えられるということはできない。
また、甲第3ないし4号証には、「第6 2.(1)イ(イ)?(ウ)」で摘示したとおり、「成分(B)ビニル芳香族単量体単位および共役ジエン単量体単位を主体とする水添共重合体の含有量が、40wt%以上70wt%以下である」ことが記載も示唆もされていない。
そして、甲第3ないし4号証には、甲2発明において、「(iii)繰返しアリールアルキレン単位からなる1以上のブロック(A)と、繰返しアルキレン単位からなる1以上のブロック(B)とを含んでいるブロックコポリマー」の含有量について、「40wt%以上70wt%以下」とすることを示唆するものではないし、そのことの動機付けも存在しない。

(ウ)相違点2-3についての検討
甲第2号証には、「熱可塑性樹脂組成物がさらに難燃剤を含む」こと(摘示(2a))、例示的な難燃剤として、メラミン(CAS No.108-78-1)、有機リン酸エステル等多数の難燃剤が列挙されている中に、「金属ジアルキルホスフィネート」と記載されている(摘示(2g))。そして、難燃剤の実施形態としてビス-アリールホスフェート等の有機リン酸エステルが記載されている(摘示(2g))。
そうすると、甲第2号証においては、「金属ジアルキルホスフィネート」は、難燃剤として、多数列挙されているものの1つであって、実施例において具体的に使用されている訳でもないことからみて、甲第2号証には、「甲2発明にさらに難燃剤あるいは難燃剤としてのビスフェノールAビス-ジフェニルホスフェートを含む熱可塑性樹脂組成物」が記載されているといえるとしても、「甲2発明にさらに難燃剤としての金属ジアルキルホスフィネートを含む熱可塑性樹脂組成物」が記載されているとまではいえない。
また、甲第3号証には、「成分Aとして、以下の式(I) (式省略)で表されるホスフィン酸塩を含む、難燃剤コンビネーションを含む難燃性プラスチック成形材料であって、プラスチックが、PPE/HIPS(ポリフェニレンエーテル/耐衝撃性ポリスチレン)のブレンドである、難燃性プラスチック成形材料。」が記載されており(摘示(3a)ないし(3b))、具体的に、PPE/HIPSに対してホスフィン酸金属塩を配合してなる難燃性プラスチック成形材料が記載されている(摘示(3c)ないし(3h))。
そして、甲第4号証には、「(A)スチレン系樹脂15?80重量部;(B)ポリフェニレンエーテル樹脂15?80重量部;及び前記基礎樹脂(A)+(B)100重量部に対して、(C)(c_(1))アルキルホスフィン酸金属塩化合物1?30重量%及び(c_(2))芳香族リン酸エステル化合物70?99重量%よりなるリン系化合物0.1?25重量部;からなる難燃性スチレン系樹脂組成物」が記載されている(摘示(4a))ものの、当該スチレン系樹脂とは、摘示(4b)ないし(4f)から、特に、具体的に用いられている「第一毛織(株)(チェイル・インダストリーInc.)のスチレン系樹脂(商品名:HG-1760S)。ブタジエンゴムの粒子大きさは1.5μm、ゴムの含量6.5重量%」との記載(摘示(4d))から、ゴム変性スチレン系樹脂、すなわちHIPSのことであると認められる。
ここで、甲第2号証においては、「本明細書中に記載される熱可塑性樹脂組成物は、ポリスチレン又はゴム改質ポリスチレン(耐衝撃性ポリスチレン又はHIPSとしても知られる)のようなアルケニル芳香族樹脂を実質的に含まない。・・・一実施形態では、本組成物はアルケニル芳香族樹脂を完全に含まない。意外にも、アルケニル芳香族樹脂の存在はポリ(アリーレンエーテル)相とポリオレフィン相との相溶化にマイナスの影響を及ぼすことがある。」と記載されている(摘示(2b))のであるから、たとえ、上記のとおり、甲第3ないし4号証に、ホスフィン酸金属塩がPPE/HIPSの難燃剤として好適に使用することができることが記載されているとしても、これをHIPSを実質的に含まないとする甲2発明にさらに添加する難燃剤として採用するための動機付けが存在しない。
しかも、本件訂正明細書の比較例2で用いられている「CR-741(ビスフェノールA-ビス(ジフェニルホスフェート)、大八化学製、商品名)」が、甲第2号証において、難燃剤の実施形態として記載されているビス-アリールホスフェートに属する化合物であることは、乙第2号証からも明らかであって、この化合物を配合した組成物が、実施例における「ホスフィン酸アルミニウム」と比較して、耐ブリード性、ABSへの耐成分移行性、難燃性及び柔軟性に劣ることが記載されているのであるから、甲第2号証において、難燃剤として、実施形態として記載されているビス-アリールホスフェートに代えて、「金属ジアルキルホスフィネート」を採用することによる効果も格別予測し得ないものであるということができる。

してみると、そもそも、甲2発明において、相違点2-1ないし2-3の点について記載も示唆もされていないし、たとえ甲第3ないし4号証を参酌したとしても、相違点2-1ないし2-3の点について示唆を与えられるということはできないし、そのことの動機付けも存在しない。

したがって、訂正発明1は、甲第2号証に記載された発明及び甲第3号証ないし甲第4号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることはできない。

(3)訂正発明1についてのまとめ
以上のとおり、訂正発明1は、甲第1号証ないし甲第2号証に記載された発明及び甲第3号証ないし甲第4号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることはできないから、訂正発明1は特許法第123条第1項第2号に該当し無効にすべきものであるとする無効理由1には理由がない。


3.訂正発明2及び6ないし8についての検討
訂正発明2及び6ないし8は、訂正発明1を直接的または間接的に引用するものであって、訂正発明1にさらに発明特定事項を付加したものに相当する。
ここで、訂正発明1が、甲第1号証ないし甲第2号証に記載された発明及び甲第3号証ないし甲第4号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではないことは、「第6 2.(1)オ 相違点についての検討」及び「第6 2.(2)オ 相違点についての検討」で述べたとおりである。
そうすると、訂正発明1の発明特定事項を全て含み、さらに他の発明特定事項を付加したものに相当する訂正発明2及び6ないし8は、当然に、甲第1号証ないし甲第2号証に記載された発明及び甲第3号証ないし甲第4号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることはできないから、訂正発明2及び6ないし8は特許法第123条第1項第2号に該当し無効にすべきものであるとする無効理由1及び3には理由がない。


4.訂正発明3ないし5についての検討
甲第6号証(国際公開第2005/097900号)には次のことが記載されている。
(6a):「請求項11】
ポリ(アリーレンエーテル)、
耐衝撃性改良剤、
ポリオレフィン、
リン酸メラミン、ピロリン酸メラミン、オルトリン酸メラミン、リン酸二アンモニウム、リン酸一アンモニウム、リン酸アミド、ポリリン酸メラミン、ポリリン酸アンモニウム、ポリリン酸アミド及びこれらの2種以上の組合せからなる群から選択されるリン酸塩、
金属水酸化物、及び
有機ホスフェート
を含んでなる難燃性熱可塑性樹脂組成物。
・・・
【請求項14】
当該組成物が、ASTM D2240に準拠して測定して75?95のショアA硬度、ASTM D2240に準拠して測定して20?60のショアD硬度、及び厚さ6.4mmの試験片を用いてASTM D790に準拠して測定して1172MPa以下の曲げ弾性率を有する、請求項11記載の組成物。
【請求項15】
前記耐衝撃性改良剤がポリスチレン-ポリ(エチレン-ブチレン)-ポリスチレンブロック共重合体を含む、請求項11記載の組成物。
・・・
【請求項19】
当該組成物の全重量を基準にして、ポリ(アリーレンエーテル)が10?65重量%の量で存在し、耐衝撃性改良剤が5?50重量%の量で存在し、ポリオレフィンが5?50重量%の量で存在し、リン酸塩と金属水酸化物と有機ホスフェートの組合せが15?45重量%の量で存在する、請求項11記載の組成物。」(特許請求の範囲の請求項11、14ないし15及び19)

訂正発明3ないし5は、訂正発明1を直接的または間接的に引用するものであって、訂正発明1にさらに発明特定事項を付加したものに相当する。
ここで、訂正発明1が、甲第1号証ないし甲第2号証に記載された発明及び甲第3号証ないし甲第4号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではないことは、「第6 2.(1)オ 相違点についての検討」及び「第6 2.(2)オ 相違点についての検討」で述べたとおりである。
そうすると、たとえ、甲第6号証に、ポリ(アリーレンエーテル)よりも耐衝撃性改良剤としてのブロック共重合体を多量に用いることが記載されているとしても、訂正発明1の発明特定事項を全て含み、さらに他の発明特定事項を付加したものに相当する訂正発明3ないし5は、当然に、甲第1号証ないし甲第2号証に記載された発明及び甲第3号証ないし甲第4号証に記載された発明に加えて、甲第6号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることはできないから、訂正発明3ないし5は特許法第123条第1項第2号に該当し無効にすべきものであるとする無効理由2には理由がない。



第7 むすび
以上のとおり、請求人の主張する無効理由1ないし3は、いずれも理由がないから、請求人の主張及び証拠方法によっては、本件訂正発明1ないし8の特許を無効とすることができない。

審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。

よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
難燃性樹脂組成物
【技術分野】
【0001】
本発明は、電線やケーブルの被覆材料等に利用できる難燃性樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
電線やケーブルの被覆材料には、ハロゲンの不使用、低価格、低比重、難燃性、耐熱性、柔軟性、生産性等が求められる。非特許文献1や特許文献1には、剛直で流動性が低く、寸法安定性や難燃性が高いポリフェニレンエーテル、柔軟性が高く押出成型し易いビニル芳香族単量体単位および共役ジエン単量体単位を含む水添共重合体、およびリン系難燃剤等を含有する難燃性樹脂組成物が提案されている。
【0003】
このなかで、該被覆材料に対する柔軟性、および生産性の要求に応えるためには、組成物中のポリフェニレンエーテルの比率を下げる方法が挙げられる。しかしながら、ポリフェニレンエーテルを減量すると、難燃性が低下する。一方、難燃性を改良するために、難燃剤を増量すると、時間の経過と共に、樹脂組成物中の難燃剤がブリードアウトするという問題がある。
【0004】
また、電線やケーブルが、ABS樹脂やポリカーボネートからなる家電用のハウジングやケースと接触すると、難燃剤や可塑剤がハウジングやケースに移行する。これは外観不良の原因となる。
【0005】
このような難燃性樹脂組成物に関し、種々の難燃性樹脂組成物が提案されている。
【0006】
特許文献1には、難燃剤として、リン酸アンモニウム塩、金属水酸化物およびリン酸エステルの混合物が提案されている。しかしながら、非特許文献2に記載されているように、リン酸アンモニウム塩は、一般的に、耐熱性が低く吸湿性が高い。また、リン酸エステルは組成物表面にブリードアウトし易い。
【0007】
特許文献2には、ポリフェニレンエーテル15重量部以上?45重量部未満、スチレン重合体0?30重量部、共役ジエン単量体単位とビニル芳香族単量体単位とからなる共重合体を水添して得られる共重合体ブロックを含有する水添共重合体10?60重量部および、赤リン、リン酸エステル、ホスファゼン化合物あるいはホスホルアミド化合物のリン系難燃剤3?40重量部からなる難燃性樹脂組成物が提案されている。しかしながら、例示されている組成物は、柔軟性が低く、ブリードアウトし易く、ABS等の他の樹脂と接触時に成分が移行し易いという問題がある。
【0008】
特許文献3には、リン含有化合物、芳香族樹脂、窒素含有化合物、無機酸の金属塩、および活性水素原子に対して反応性の官能基を有する化合物あるいは撥水性化合物を含む難燃性樹脂組成物が開示されている。しかし、ビニル芳香族単量体単位および共役ジエン単量体単位を主体とする水添共重合体は開示されていない。よって生産性や柔軟性が充分ではない。
【非特許文献1】吉田隆著,「エコ材料の最先端」,電線総合技術センター,p.31(2004)
【非特許文献2】西沢仁著,「高分子の難燃化技術」,シーエムシー出版(2002)
【特許文献1】国際公開第2005/097900号
【特許文献2】特開2006-225477号公報
【特許文献3】国際公開2003/046084号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、(1)生産性が高い、(2)組成物中の難燃剤がブリードアウトし難い、(3)ABS等の他の樹脂へ成分が移行し難い、(4)難燃性が高い、および(5)柔軟性が高い、を同時に満たす難燃性樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記課題を解決するため鋭意研究を重ね、本発明をなすに至った。
【0011】
すなわち、本発明は下記の通りである。
(1)
成分(A)、(B)、(C)、(D)の合計量に対し、成分(A)ポリフェニレンエーテルの含有量(〈A〉)が10wt%以上45wt%未満、成分(B)ビニル芳香族単量体単位および共役ジエン単量体単位を主体とする水添共重合体の含有量(〈B〉)が20wt%以上85wt%以下、成分(C)スチレン樹脂および/またはオレフィン樹脂の含有量(〈C〉)が0wt%以上、成分(D)ホスフィン酸金属塩の含有量(〈D〉)が2wt%以上20wt%以下である成分(A)、(B)、(C)、(D)を含む樹脂組成物。
(2)
成分(C)がスチレン樹脂で、且つ〈C〉が3wt%以上であることを特徴とする(1)に記載の樹脂組成物。
(3)
成分(B)が、ビニル芳香族単量体単位を主体とする重合体ブロック(B1)及びビニル芳香族単量体単位および共役ジエン単量体単位を主体とする水添共重合体ブロック(B2)を有し、且つ(B2)中のビニル芳香族単量体単位が、20wt%以上であることを特徴とする(1)あるいは(2)に記載の樹脂組成物。
(4)
成分(B)中のビニル芳香族単量体単位が、35wt%以上であることを特徴とする(1)?(3)のいずれかに記載の樹脂組成物。
(5)
成分(A)、(B)の含有量が、下記式を満たすことを特徴とする(1)?(4)のいずれかに記載の樹脂組成物。
〈B〉>〈A〉・・・(式1)
(6)
成分(A)、(B)の含有量が、下記式を満たすことを特徴とする(1)?(4)のいずれかに記載の樹脂組成物。
〈B〉>1.5×〈A〉・・・(式2)
(7)
JIS K6253に準拠して測定したショアーA硬度が、95°以下の(1)?(6)のいずれかに記載の樹脂組成物。
(8)
更に成分(E)ホスフィン酸金属塩以外のリン系難燃剤として、窒素基含有化合物を含有することを特徴とする(1)?(7)のいずれかに記載の樹脂組成物。
(9)
成分(E)として、ポリリン酸メラミンを含有することを特徴とする(8)に記載の樹脂組成物。
(10)
(1)?(9)のいずれかに記載の樹脂組成物からなる電線およびケーブルの被覆材料。
【発明の効果】
【0012】
本発明の難燃性樹脂組成物によれば、生産性が高く、組成物中の難燃剤がブリードアウトし難く、ABS等の他の樹脂へ成分が移行し難く、難燃性が高く、且つ柔軟性が高いという性質を同時に満たすことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明は成分(A)、(B)、(C)、(D)を含む樹脂組成物に関する。
【0014】
本発明の成分(A)であるポリフェニレンエーテルとしては、次に示す一般式〔a〕、〔b〕を繰り返し単位とする
【化1】

単独重合体、あるいは共重合体が使用できる(式中、R_(1),R_(2),R_(3),R_(4),R_(5),R_(6)は炭素数1?4のアルキル基、アリール基、ハロゲン、水素等の一価の残基であり、R_(5),R_(6)は同時に水素ではない)。
【0015】
ポリフェニレンエーテルの単独重合体の代表例としては、ポリ(2,6-ジメチル-1,4-フェニレン)エーテル、ポリ(2-メチル-6-エチル-1,4-フェニレン)エーテル、ポリ(2,6-ジエチル-1,4-フェニレン)エーテル、ポリ(2-エチル-6-n-プロピル-1,4-フェニレン)エーテル、ポリ(2,6-ジ-n-プロピル-1,4-フェニレン)エーテル、ポリ(2-メチル-6-n-ブチル-1,4-フェニレン)エーテル、ポリ(2-エチル-6-イソプロピル-1,4-フェニレン)エーテル、ポリ(2-メチル-6-クロロエチル-1,4-フェニレン)エーテル、ポリ(2-メチル-6-ヒドロキシエチル-1,4-フェニレン)エーテル等のホモポリマーが挙げられる。
【0016】
ポリフェニレンエーテルの共重合体の例としては、2,6-ジメチルフェノールと2,3,6-トリメチルフェノール、あるいはo-クレゾールとの共重合体、あるいは2,3,6-トリメチルフェノールとo-クレゾールとの共重合体等、フェニレンエーテル構造を主体としてなるポリフェニレンエーテル共重合体を包含する。
【0017】
また、ポリフェニレンエーテル中には、本発明の主旨に反しない限り、従来ポリフェニレンエーテル中に存在させてもよいことが提案されている他の種々のフェニレンエーテル構造を部分的に含んでいても構わない。少量共存させることが提案されているものの例としては、特開昭63-301222号公報等に記載されている、2-(ジアルキルアミノメチル)-6-メチルフェニレンエーテルユニットや、2-(N-アルキル-N-フェニルアミノメチル)-6-メチルフェニレンエーテルユニット等が挙げられる。
【0018】
また、ポリフェニレンエーテルの主鎖中にジフェノキノン等が少量結合したものも含まれる。さらに、例えば特開平2-276823号公報、特開昭63-108059号公報、特開昭59-59724号公報等に記載されている、炭素-炭素二重結合を持つ化合物により変性されたポリフェニレンエーテルも含む。
【0019】
これらのポリフェニレンエーテルに、スチレン化合物がグラフトした共重合体であってもよい。たとえば、スチレン、α-メチルスチレン、ビニルトルエン、クロロスチレンなどをポリフェニレンエーテルにグラフト重合させて得られる共重合体が挙げられる。
【0020】
また、樹脂組成物の、リンを有する難燃剤に対する耐ブリード性や耐熱性を向上させるため、ポリフェニレンエーテルは、極性基を有する変性剤により変性されていてもかまわない。ここでいう変性されたポリフェニレンエーテルとは、分子構造内に少なくとも1個の炭素-炭素二重結合又は三重結合、および少なくとも1個のカルボン酸基、酸無水物基、アミノ基、水酸基あるいはグリシジル基等を有する、少なくとも1種の変性化合物で変性されたポリフェニレンエーテルを指す。
【0021】
ポリフェニレンエーテルの数平均分子量は、難燃性と耐熱性の点で、2000以上が好ましく、生産性の点で、40000以下が好ましい。10000?40000の範囲がより好ましく、20000?30000の範囲がさらに好ましい。混合物の数平均分子量が上記の範囲であれば、加工性等を改良するために、数平均分子量の異なる2種類以上を混合しても良い。
【0022】
ポリフェニレンエーテルの成分(A)、(B)、(C)、(D)の合計量に対する含有量〈A〉は、難燃性、耐熱性および耐ブリード性の点で、10wt%以上が必須である。また、生産性や柔軟性、および低比重の点で、45wt%未満が必須である。15wt%?40wt%の範囲がより好ましく、15wt%?30wt%がさらに好ましく、15wt%?25wt%の範囲が最も好ましい。低比重であると、軽量化が可能となる。その結果体積に対するコストが削減される。
【0023】
成分(B)のビニル芳香族単量体単位および共役ジエン単量体単位を主体とする水添共重合体とは、ビニル芳香族単量体単位および共役ジエン単量体単位を主体とする共重合体の水添物である。
【0024】
ここで「主体とする」とは、60wt%以上を指す。該水添共重合体(B)中のビニル芳香族単量体単位および共役ジエン単量体単位の含有量は80wt%以上が好ましく、90wt%以上がより好ましい。
【0025】
ビニル芳香族単量体の具体例は、スチレン、p-メチルスチレン、第三級ブチルスチレン、α-メチルスチレン、1,1-ジフェニルエチレンなどの単量体が挙げられ、中でもスチレンが好ましい。
【0026】
共役ジエン単量体単位の具体例は、ブタジエンやイソプレン等が挙げられ、耐ブリード性の点で、ブタジエンが好ましい。
【0027】
該水添共重合体(B)の水添率は、生産性の点で、共役ジエン中の2重結合中の50mol%以上であることが好ましい。70mol%以上がより好ましく、85mol%以上がさらに好ましく、95mol%以上が最も好ましい。
【0028】
該水添共重合体(B)の重量平均分子量は、耐熱性の点で、5×10^(4)以上が好ましく、生産性や柔軟性の点で、40×10^(4)以下が好ましい。7×10^(4)?30×10^(4)の範囲がより好ましく、12×10^(4)?25×10^(4)の範囲がさらに好ましい。
【0029】
さらに、難燃性の点で、該水添共重合体(B)中のビニル芳香族単量体単位が、35wt%以上が好ましく、高い柔軟性や生産性の点で、80wt%以下が好ましい。40wt%?70wt%の範囲がより好ましく、50wt%?65wt%の範囲がさらに好ましい。
【0030】
電線やケーブルの柔軟性の点で、該水添共重合体(B)の動的粘弾性測定において、tanδのピークが、-30℃から30℃の範囲に存在することが好ましい。-20℃から20℃の範囲に存在することがより好ましい。
【0031】
水添共重合体(B)の成分(A)、(B)、(C)、(D)の合計量に対する含有量〈B〉は、柔軟性、生産性および低い比重のため、20wt%以上が必須である。難燃性、生産性、耐ブリード性の点で、85wt%以下が好ましい。30wt%以上、80wt%以下がより好ましく、40wt%以上、70wt%以下がさらに好ましく、50wt%以上が最も好ましい。
【0032】
さらに、柔軟性や生産性あるいは低比重の点で、ポリフェニレンエーテルの含有量〈A〉と水添共重合体の含有量〈B〉の関係は、〈A〉<〈B〉を満たすのが好ましい。1.5×〈A〉<〈B〉がより好ましく、2×〈A〉<〈B〉がよりさらに好ましく、2.5×〈A〉<〈B〉が最も好ましい。
【0033】
水添共重合体(B)の製造方法の例としては、不活性炭化水素溶媒中で、有機リチウム化合物を重合開始剤としてスチレンを重合させ、次いで、スチレンとブタジエンとを共重合させる。さらに場合によりこれらの操作を繰り返す、または重合系内に適当なカップリング剤を有機リチウム化合物に対して、所定量添加する。これにより未水添の共重合体が得られる。
【0034】
該反応溶液に水、アルコール、酸などを添加して活性種を失活させる。次に共役ジエン中の不飽和二重結合を公知の方法で水素添加する。溶液を例えばスチームストリッピングなどを行って重合溶媒を分離し、乾燥することにより水添共重合体(B)を得ることができる。
【0035】
水添共重合体(B)には任意の酸化防止剤を添加してもよい。
【0036】
さらに、耐ブリード性、耐熱性および機械的強度の点で、水添共重合体(B)中に、ビニル芳香族単量体単位を主体とする重合体ブロック(B1)を1つ以上含有することが好ましい。より好ましくは、重合体ブロック(B1)を2つ以上含有することである。
【0037】
また、耐ブリード性、耐熱性および機械的強度の点で水添共重合体(B)中の重合体ブロック(B1)の含有量は、5wt%以上が好ましい。柔軟性や生産性の点で40wt%以下が好ましい。10wt%?30wt%の範囲がより好ましく、10wt%?25wt%の範囲がさらに好ましい。
【0038】
ビニル芳香族単量体単位を主体とする重合体ブロック(B1)とは、重量平均分子量が、2000以上のものを指す。(B1)の重量平均分子量は、樹脂組成物の耐ブリード性、耐熱性および機械的強度の点で、4000以上が好ましく、生産性や柔軟性の点で、70000以下が好ましい。6000?50000の範囲がより好ましく、10000?20000の範囲がさらに好ましい。
【0039】
柔軟性や難燃性の点で、該水添共重合体(B)中に、ビニル芳香族単量体単位および共役ジエン単量体単位の共重合体ブロックを水添して得られる水添共重合体ブロック(B2)を含有することが好ましい。該水添共重合体(B)中の共重合体ブロック(B2)の含有量は、20wt%以上が好ましい。40wt%以上がより好ましく、60wt%以上がさらに好ましい。
【0040】
さらに、難燃性および柔軟性の点で、該水添共重合体ブロック(B2)中のビニル芳香族単量体単位の含有量が、20wt%以上が好ましく、柔軟性の点で、95wt%以下が好ましい。35wt%以上90wt%以下がより好ましく、45wt%以上80wt%以下がさらに好ましい。
【0041】
水添共重合体ブロック(B2)部分の製造方法は特に限定されないが、例としては、アニオン重合において、ビニル芳香族単量体および共役ジエン単量体を同時に添加し共重合する方法が挙げられる。
【0042】
水添共重合体(B)の好ましい構造として、下記の一般式のものが挙げられる。
【0043】
(B1-B2)_(n、)B1-(B2-B1)_(n)、B1-(B2-B1)_(n)-B2
[(B1-B2)_(k)]_(m)-X、[(B1-B2)_(k)-B1]_(m)-X
Xは例えば四塩化ケイ素、四塩化スズ、エポキシ化大豆油、ポリハロゲン化炭化水素化合物、カルボン酸エステル化合物、ポリビニル化合物、ビスフェノール型エポキシ化合物、アルコキシシラン化合物、ハロゲン化シラン化合物、エステル系化合物等のカップリング剤の残基又は多官能有機リチウム化合物等の開始剤の残基を示す。n、k及びmは、1以上の整数、一般的には1?5である。また、上記一般式で示される構造体が任意に組み合わされてもよい。
【0044】
柔軟性等を改良するために、共役ジエン単量体単位を主体とする水添ブロックが該水添共重合体(B)中に含まれていても良い。
【0045】
前記一般式において、水添共重合体ブロック(B2)中のビニル芳香族単量体単位の分布は、特に限定されず、ランダム状で、均一でも、テーパー状あるいは階段状でもよい。また、該共重合体ブロック(B2)中には、ビニル芳香族単量体単位が均一に分布している部分及び/又はテーパー状に分布している部分がそれぞれ複数個共存していてもよい。また、該水添共重合体ブロック(B2)には、ビニル芳香族単量体単位含有量が異なるセグメントが複数個共存していてもよい。また、水素添加されなかった共役ジエン化合物に基づく二重結合の分布は、特に限定されない。
【0046】
必要に応じて、耐熱性、生産性あるいは経済性を改善するために、成分(C)として、スチレン樹脂および/またはオレフィン樹脂を添加することができる。
【0047】
スチレン樹脂とは、スチレン化合物、スチレン化合物と共重合可能な化合物をゴム質重合体存在下または非存在下に重合して得られる重合体である。
【0048】
スチレン化合物とは、下記一般式(c)
【0049】
【化2】

【0050】
(式中、Rは水素、低級アルキルまたはハロゲンを示し、Zはビニル、水素、ハロゲン及び低級アルキルよりなる群から選択され、pは0?5の整数である。)で表される化合物を意味する。
【0051】
スチレン化合物の具体例は、スチレン、α-メチルスチレン、2,4-ジメチルスチレン、モノクロロスチレン、p-メチルスチレン、p-tert-ブチルスチレン、エチルスチレン等が挙げられる。また、スチレン化合物と共重合可能な化合物としては、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート等のメタクリル酸エステル類;
アクリロニトリル、メタクリロニトリル等の不飽和ニトリル化合物類;
無水マレイン酸等の酸無水物等が挙げられる。
【0052】
また、ゴム質重合体としては共役ジエン系ゴム、共役ジエンと芳香族ビニル化合物のコポリマーまたはこれらの水添物あるいはエチレン-プロピレン共重合体系ゴム等が挙げられる。本発明のために好適なスチレン樹脂はポリスチレンおよびゴム強化ポリスチレンである。
【0053】
オレフィン樹脂とは、公知のものであり、例えばポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブチレン、ポリイソブチレン等のオレフィン系モノマーの単独重合体やエチレン-プロピレン系共重合体、エチレン-エチルアクリレート共重合体等のオレフィン系モノマーを含む共重合体等が挙げられる。
【0054】
好適なオレフィン樹脂は低結晶性ポリプロピレンおよびエチレン-プロピレン系共重合体である。
【0055】
スチレン樹脂および/またはオレフィン樹脂は、常温で液状成分でも良い。
【0056】
スチレン樹脂および/またはオレフィン樹脂(C)の成分(A)、(B)、(C)、(D)の合計量に対する含有量〈C〉は、生産性の点で、3wt%以上が好ましく、難燃性の点で、40wt%以下が好ましい。5wt%以上、30wt%以下がより好ましく、8wt%以上、20wt%以下がさらに好ましい。
【0057】
成分(D)のホスフィン酸金属塩とは、下記に示した式(I)のホスフィン酸塩および式(II)のジホスフィン酸塩を指す。
【0058】
【化3】

【0059】
[式中、R^(1)およびR^(2)は互いに同じかまたは異なり、直鎖状のまたは枝分かれしたC_(1)?C_(6)-アルキルおよび/またはアリールであり;
R^(3)は直鎖状のまたは枝分かれしたC_(1)?C_(10)-アルキレン、C_(6)?C_(10)-アリーレン、-アルキルアリーレンまたは-アリールアルキレンであり;
MはMg、Ca、Al、Sb、Sn、Ge、Ti、Fe、Zr、Ce、Bi、Sr、Mn、Li、Na、Kおよび/またはプロトン化窒素塩基であり;
mは1?4であり;
nは1?4であり;および
xは1?4である。]
このなかでも、入手が容易という点で、亜鉛塩、アルミニウム塩、チタン塩、ジルコニウム塩、鉄塩からなる群から選ばれるいずれか1種が好ましい。入手性の点でアルミニウム塩がより好ましい。
【0060】
ホスフィン酸金属塩(D)にはその凝集物および/または一次粒子に、ビニルピロリドン、酢酸ビニルまたはビニルカプロラクタムまたはそれの混合物をベースとするポリマーまたはコポリマー、および/またはエポキシド類、ウレタン、アクリレート、エステル、アミド、ステアレート、オレフィン、セルロース誘導体またはそれらの混合物をベースとするポリマーまたはコポリマーである助剤を添加されていても良い。
【0061】
ホスフィン酸金属塩(D)の平均粒子径としては、取扱い性の点で、0.2μm以上、難燃性や製品表面の平滑性の点で、50μm以下が好ましい。0.5μm以上、40μm以下がより好ましく、1μm以上、10μm以下がさらに好ましい。
【0062】
ホスフィン酸金属塩(D)の成分(A)、(B)、(C)、(D)の合計量に対する含有量〈D〉は、難燃性の点で、2wt%以上が必須である。一方、柔軟性および生産性の点で、20wt%以下が好ましい。3wt%?15wt%の範囲がより好ましく、4wt%?10wt%の範囲がさらに好ましい。
【0063】
本発明の樹脂組成物には難燃性や生産性あるいは低価格等を目的とし、ホスフィン酸金属塩以外のリン系難燃剤(E)を併用しても良い。成分(A)、(B)、(C)、(D)、(E)の合計量に対する、ホスフィン酸金属塩以外のリン系難燃剤(E)の含有量としては、2wt%以上が好ましく、耐ブリード性の点で、25wt%以下が好ましい。2wt%?10wt%の範囲がより好ましく、2wt%?5wt%の範囲がさらに好ましい。
【0064】
ホスフィン酸金属塩以外のリン系難燃剤(E)としては、赤リン、リン酸エステル、ホスファゼン化合物、窒素基含有化合物であるホスホルアミド化合物及びトリアジン環等を有する化合物等が挙げられる。
【0065】
窒素基含有化合物の中でも、難燃性の点で、トリアジン環を有するポリリン酸メラミンを併用することが最も好ましい。
【0066】
ポリリン酸メラミンは、メラミンとリン酸から形成される。例えば縮合リン酸と呼ばれる鎖状ポリリン酸、環状ポリメタリン酸とメラミンの等モル付加塩が挙げられる。これらのポリリン酸の縮合度nに特に制限はなく、通常3?50の範囲であり、5?30のものが一般的である。
【0067】
ポリリン酸メラミンの粒子径は、難燃性と分散性の点で、0.5μm以上40μm以下が好ましい。
【0068】
リン酸エステルの具体例としては、トリフェニルフォスフェート、フェニルビスドデシルホスフェート、フェニルビスネオペンチルホスフェート、フェニル-ビス(3,5,5′-トリ-メチル-ヘキシルホスフェート)、エチルジフェニルホスフェート、2-エチル-ヘキシルジ(p-トリル)ホスフェート、ビス-(2-エチルヘキシル)p-トリルホスフェート、トリトリルホスフェート、ビス-(2-エチルヘキシル)フェニルホスフェート、トリ-(ノニルフェニル)ホスフェート、ジ(ドデシル)p-トリルホスフェート、トリクレジルホスフェート、ジブチルフェニルホスフェート、2-クロロエチルジフェニルホスフェート、p-トリルビス(2,5,5′-トリメチルヘキシル)ホスフェート、2-エチルヘキシルジフェニルホスフェート、ビスフェノールA-ビス(ジフェニルホスフェート)、ジフェニル-(3-ヒドロキシフェニル)ホスフェート、ビスフェノールA-ビス(ジクレジルホスフェート)、レゾルシン・ビス(ジフェニルホスフェート)、レゾルシン-ビス(ジキシレニルホスフェート)、2-ナフチルジフェニルフォスフェート、1-ナフチルジフェニルフォスフェート、ジ(2-ナフチル)フェニルフォスフェート等が挙げられる。
【0069】
この中で、トリフェニルホスフェート、ビスフェノールA-ビス(ジフェニルホスフェート)を主成分とするリン酸エステル化合物(大八化学(株)、CR741)、レゾルシン-ビス(ジキシレニルルホスフェート)を主成分とするリン酸エステル化合物(大八化学(株)、PX200)等のレゾルシン類およびビスフェノールA類のリン酸エステル化合物は、生産性、揮発性、耐熱性において好ましい。
【0070】
本発明の樹脂組成物は生産性、柔軟性、難燃性および低比重の点で成分(A)、(B)、(C)、(D)の合計量が樹脂組成物中の65wt%以上を満たすことが好ましい。75wt%以上がより好ましく、85wt%以上が更に好ましく、90wt%以上が特に好ましい。
【0071】
その他の成分として、後述する難燃助剤やその他の添加剤を用いることができる。
【0072】
本発明の樹脂組成物は必要に応じ、難燃助剤として、樹脂組成物中に、公知のドリップ防止剤を好ましくは0.1wt%?5wt%の範囲、より好ましくは、0.3wt%?3wt%の範囲で含有する。
【0073】
ドリップ防止剤の好適な例としては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)などに代表されるポリフェニレンエーテル中でフィブリル構造を形成するものが挙げられる。
【0074】
PTFEの中でも、分散性に優れたもの、たとえば水などの溶液にPTFEを乳化分散させたもの、またアクリル酸エステル系樹脂、メタクリル酸エステル系樹脂、スチレン-アクリロニトリル共重合体樹脂等でPTFEをカプセル化処理したものは、変性ポリフェニレンエーテルからなる成形体に、よい表面外観を与えるので好ましい。水などの溶液にPTFEを乳化分散させたものの場合、特に制限はないが、PTFEが1μm以下の平均粒子径であるものが好ましく、特に0.5μm以下であることが好ましい。
【0075】
このようなPTFEとして市販されているものの具体例としては、テフロン(登録商標)30J(三井デュポンフルオロケミカル(株))、ポリフロン(登録商標)D-2C(ダイキン化学工業(株))、アフロン(登録商標)AD1(旭硝子(株))などが挙げられる。
【0076】
また、このようなポリテトラフルオロエチレンは、公知の方法によって製造することもできる(米国特許第2393967号明細書参照)。具体的には、ペルオキシ二硫酸ナトリウム、カリウムまたはアンモニウムなどの遊離基触媒を使用して、水性の溶媒中において、0.7?7MPaの圧力下で、0?200℃、好ましくは20?100℃の温度条件のもと、テトラフルオロエチレンを重合させる。これにより、ポリテトラフルオロエチレンを白色の固体として得ることができる。
【0077】
ポリテトラフルオロエチレンは、分子量が10×10^(4)以上、好ましくは20×10^(4)?300×10^(4)程度のものが望ましい。このため、ポリテトラフルオロエチレンが配合された樹脂組成物は、燃焼時のドリップが抑制される。さらに、ポリテトラフルオロエチレンとシリコーン樹脂とを併用すると、ポリテトラフルオロエチレンのみを添加したときに比べて、さらにドリップを抑制し、しかも燃焼時間を短くすることができる。
【0078】
また、必要に応じて、ポリアミド、ポリエステルおよびポリカーボネート等の熱可塑性樹脂やその他の添加剤をブレンドしてもよい。
【0079】
その他の添加剤としては、ゴム状重合体等の配合に一般的に配合されるものであれば特に限定はない。例えば「ゴム・プラスチック配合薬品」(ラバーダイジェスト社編)などに記載された添加剤も用いることができる。具体例として、
ナフテン油、パラフィン油等の炭化水素油、液状共役ジエン、液状アクリルニトリル-ブタジエン共重合体、液状スチレン-ブタジエン共重合体、液状ポリブテン、セバチン酸エステル、フタル酸エステル;
酸化鉄等の金属酸化物の顔料;
ステアリン酸、ベヘニン酸、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、エチレンビスステアロアミド等の滑剤;
離型剤;
有機ポリシロキサン;
ヒンダードフェノール系酸化防止剤、リン系熱安定剤等の酸化防止剤;
ヒンダードアミン系光安定剤;
ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、リン系以外の難燃剤、難燃助剤、帯電防止剤;
有機繊維、ガラス繊維、カーボンブラック、炭素繊維;
金属ウィスカ等の補強剤、着色剤などがある。
【0080】
生産性の点で、炭化水素油を添加することが好ましい。
【0081】
これらの添加剤は、2種以上を混合して用いてもよい。
【0082】
樹脂組成物をクロロホルムに溶解し、極性カラム(シリカゲル)で分取し、核磁気共鳴スペクトルを測定することにより、樹脂組成物中の各成分比率を求めることができる。
【0083】
本発明の樹脂組成物は、特に柔軟性の要求される用途に有用である。柔軟性の指標として、ショアーA硬度が用いられる。JIS K6253に準拠して測定した値としては、95°以下が好ましい。90°以下がより好ましく、85°以下がさらに好ましい。
【0084】
引張測定(JIS K6251、試料厚み2mm、引張速度500cm/分)における100%引張時の強度は、300kg/cm^(2)以下が好ましい。150kg/cm^(2)以下がより好ましく、90kg/cm^(2)以下がさらに好ましい。硬度は、例えば、樹脂組成物中のビニル芳香族単量体単位および共役ジエン単量体単位を主体とする水添共重合体(B)の含有量を増やしたり、該水添共重合体(B)中の共役ジエン単量体単位の含有量を増やしたり、あるいは可塑剤を添加することにより、値を下げることができる。
【0085】
本発明の樹脂組成物は、その製造方法には特に限定はなく、公知の方法が利用できる。例えば、バンバリーミキサー、単軸スクリュー押出機、2軸スクリュー押出機、コニーダ、多軸スクリュー押出機等の一般的な混和機を用いた溶融混練方法等を用いることができる。
【0086】
ポリフェニレンエーテルは流動性が低いため、樹脂組成物の製造においては、ポリフェニレンエーテル(A)と、スチレン樹脂及び/又はオレフィン樹脂(C)を、前もって混合することが好ましい。耐ブリード性の点でスチレン樹脂を混合することがより好ましい。ポリフェニレンエーテル(A)とスチレン樹脂及び/又はオレフィン樹脂(C)の混合時に、ホスフィン酸金属塩(D)やホスフィン酸金属塩以外のリン系難燃剤(E)を添加してもよい。
【0087】
ホスフィン酸金属塩(D)、ホスフィン酸金属塩以外のリン系難燃剤(E)や顔料等を前もって混練したもの、すなわちマスターバッチを用いても良い。
【0088】
本発明の樹脂組成物は,難燃性が必要とされる様々な用途に用いることができる。たとえば、家電部品,自動車部品等の電線の被覆材料,電力ケーブル、通信ケーブル、送電用ケーブルなどの被覆材料や建築材料等に好適に用いることができる。この中でも本発明の樹脂組成物は、電線やケーブルの被覆材料等の分野に好適に使用できる。
【0089】
本出願は、2006年8月3日出願の日本特許出願(特願2006-212645)に基づくものであり、その内容はここに参照として取り込まれる。
【実施例】
【0090】
以下、実施例、及び比較例により本発明について具体的に説明する。ただし本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
(1)樹脂物性の評価
(1-1)結合単位含有量
スチレン単量体単位、ブタジエンの1,4-結合単位および1,2-結合単位、エチレン単位あるいはブチレン単位量は、下記条件にて核磁気共鳴スペクトル解析(NMR)により測定した。
測定機器:JNM-LA400(JEOL製、商品名)、
溶媒:重水素化クロロホルム
サンプル濃度:50mg/ml、
観測周波数:400MHz、
化学シフト基準:TMS(テトラメチルシラン)、
パルスディレイ:2.904秒、
スキャン回数:64回、
パルス幅:45°、
測定温度:26℃
(1-2)スチレン重合体ブロック含有量
スチレン重合体ブロック含有量は、未水添の共重合体を用いて、I.M.Kolthoff,etal.,J.Polym.Sci.1,429(1946)に記載の四酸化オスミウム分解法で測定した。未水添の共重合体の分解にはオスミウム酸の0.1g/125ml第3級ブタノール溶液を用いた。
【0091】
(1-3)重量平均分子量及び分子量分布
下記条件にてポリスチレン換算分子量として重量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)および分子量分布(Mw/Mn)を算出した。
装置:LC-10(島津製作所製、商品名)、
カラム:TSKgelGMHXL(内径4.6mm×30cm)2本
オーブン温度:40℃、
溶媒:テトラヒドロフラン(1.0ml/min)
【0092】
(1-4)損失正接(tanδ)のピーク温度
下記条件にて粘弾性スペクトルを測定することにより求めた。
装置:粘弾性測定解析装置(型式DVE-V4、レオロジー社製)
ひずみ:0.1%、
周波数:1Hz
【0093】
(2)難燃性樹脂組成の調製
(2-1)ポリフェニレンエーテル(A)
ポリフェニレンエーテル:ポリ(2,6-ジメチルー1,4-フェニレン)エーテルパウダー(旭化成ケミカルズ(株)製)を用いた。
(2-2)ビニル芳香族単量体単位および共役ジエン単量体単位を主体とする水添共重合体(B)の製造
(2-2-1)水添触媒の調製
ビニル芳香族単量体単位および共役ジエン単量体単位を主体とする共重合体の水素添加反応に用いた水素添加触媒は下記の方法で調製した。
窒素置換した反応容器に乾燥、精製したシクロヘキサン1リットルを仕込み、ビスシクロペンタジエニルチタニウムジクロリド100ミリモルを添加し、十分に攪拌しながらトリメチルアルミニウム200ミリモルを含むn-ヘキサン溶液を添加して、室温にて約3日間反応させた。
【0094】
(2-2-2)水添共重合体(1)の製造
内容積が10Lの攪拌装置及びジャケット付き槽型反応器を使用してバッチ重合を行った。はじめに、シクロヘキサン6.4L、スチレン150gを加え、予めN,N,N’,N’-テトラメチルエチレンジアミン(TMEDA)を後述するn-ブチルリチウムのLiモル数の0.35倍モルになるように添加し、n-ブチルリチウムのLiのモル数が13.0ミリモルとなるように添加した。初期温度65℃で重合し、重合終了後、ブタジエン430gとスチレン420gを含有するシクロヘキサン溶液(モノマー濃度22wt%)を60分間かけて一定速度で連続的に反応器に供給した。該重合終了後、安息香酸エチルをn-ブチルリチウムのLiモル数の0.65倍モルになるように添加して共重合体を得た。
【0095】
得られた共重合体のスチレン含有量は、57wt%、共重合体中のスチレンを主体とする重合体ブロックの含有量は、15wt%、スチレンおよびブタジエンを主体とする水添共重合体ブロック中のスチレン含有率が、49wt%、ブタジエン中の1,2-結合単位は、22%であった。
【0096】
得られた共重合体に、上記水素添加触媒をポリマー100重量部当たりチタンとして100ppm添加し、水素圧0.7MPa、温度75℃で水素添加反応を行った。得られたポリマー溶液に、安定剤としてオクタデシル-3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネートを水添共重合体100質量部に対して0.3質量部添加した。
【0097】
得られた水添共重合体の重量平均分子量は、19×10^(4)で、水添共重合体中に含まれるブタジエンの二重結合中の水素添加率は、99%であった。また、粘弾性測定により得られたtanδピークが、0℃に存在した。
(2-2-3)水添共重合体(2)の製造
内容積が10Lの攪拌装置及びジャケット付き槽型反応器を使用してバッチ重合を行った。はじめに、シクロヘキサン6.4L、スチレン80gを加え、予めTMEDAを後述するn-ブチルリチウムのLiモル数の0.25倍モルになるように添加し、n-ブチルリチウムのLiのモル数として10ミリモルとなるように添加した。初期温度65℃で重合し、重合終了後、ブタジエン490gとスチレン360gを含有するシクロヘキサン溶液(モノマー濃度22wt%)を60分間かけて一定速度で連続的に反応器に供給した。該重合終了後、スチレン70gを含有するシクロヘキサン溶液(モノマー濃度22wt%)を10分間かけて添加して共重合体を得た。
【0098】
得られた共重合体のスチレン含有量は、51wt%、共重合体中のスチレンを主体とする重合体ブロックの含有量は、15wt%、スチレンおよびブタジエンを主体とする水添共重合体ブロック中のスチレン含有率が、42wt%、ブタジエン中の1,2-結合単位は、22%であった。
【0099】
得られた共重合体に、上記水素添加触媒をポリマー100重量部当たりチタンとして100ppm添加し、水素圧0.7MPa、温度75℃で水素添加反応を行った。得られたポリマー溶液に、安定剤としてオクタデシル-3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネートを水添共重合体100質量部に対して0.3質量部添加した。
【0100】
得られた水添共重合体の重量平均分子量は、16万で、水添共重合体中に含まれるブタジエンの二重結合中の水素添加率は、99%であった。また、粘弾性測定により得られたtanδピークが、-13℃に存在した。
【0101】
(2-3)成分(C)のスチレン樹脂および/又はオレフィン樹脂
スチレン樹脂:ポリスチレン(グレード名:PS1、旭化成製、商品名)
オレフィン樹脂:ポリプロピレン(グレード名:SA510、日本ポリオレフィン製、商品名)
(2-4)成分(D)のホスフィン酸金属塩
ホスフィン酸アルミニウム(グレード名:エクソリットOP930、クラリアント社製、商品名)
(2-5)成分(E)
リン酸エステル:
(E)-1:CR-733(レゾルシン-ビス(ジフェニルホスフェート)、大八化学製、商品名)
(E)-2:CR-741(ビスフェノールA-ビス(ジフェニルホスフェート)、大八化学製、商品名)
ポリリン酸メラミン:
(E)-3:MELAPUR200/70(チバ・スペシャリティ・ケミカルズ製、商品名)
(2-6)その他
可塑剤:パラフィンオイルPW90(出光化学製、商品名)
【0102】
(3)樹脂組成物および被覆電線の製造方法
表1に示す割合で各成分を仕込み、30mmφ2軸押出機を用いて混練温度260℃、回転数250rpmにて溶融混合して、ペレットとして樹脂組成物を得た。
得られたペレットを用いて、温度280℃、線速度200m/分あるいは150m/分で銅線1.2φmm、外径2φmmの被覆電線を作成した。
【0103】
(4)樹脂組成物の実用物性評価方法
(4-1)押出成型性
(3)で得られた被覆電線の表面の滑らかさを目視で評価した。
<評価基準>
◇:線速度200m/分で製造した被覆電線の表面が非常に滑らかで凹凸がないもの
○:線速度150m/分で製造した被覆電線の表面が非常に滑らかで凹凸がないもの
×:線速度150m/分で製造した被覆電線の表面が表面が粗面化し、凹凸あるもの
(4-2)耐ブリード性
サンプル(3)で得られたペレットのプレス成型体(圧力100kg/cm^(2)、厚み1mm)
該サンプルを5℃、20℃および40℃で、1週間放置後、成型体表面を観察した。
<評価基準>
○:どの温度でも難燃剤がブリードしていないもの
×:いずれかの温度でブリードしたもの
(4-3)ABS等の他の樹脂への耐成分移行性
サンプル:(4-2)で得られたペレットのプレス成型体サンプル(2.5×50×厚み2.0mm)
ABS樹脂の射出成型体上に、該サンプルを重ね、荷重1kg下、60℃48h後の接触部のABS面を目視で観察した。
<評価基準>
○:外観上、変化していないもの
×:外観上、液状成分がABS表面に付着しているもの
(4-4)難燃性
サンプル:(3)で得られた被覆電線(銅線1.2φmm、外径2φmm)UL1581に準じたVW-1燃焼性試験を行った。
<評価基準>
◇:30秒以内に火が消えたもの
○:60秒以内に火が消えたもの
×:VW-1燃焼試験で不合格なもの
(4-5)柔軟性
サンプル:(3)で得られたペレットの成形体(厚み2mm)
該サンプルの引張測定(JIS K6251、引張速度500cm/分)を行い、柔軟性の指標とした。100%引張時の強度が、350kg/cm^(2)以下が柔軟でよい。
<評価基準>
◇:100%引張時の強度が100kg/cm^(2)以下
○:100%引張時の強度が100kg/cm^(2)を超え200kg/cm^(2)以下
△:100%引張時の強度が200kg/cm^(2)を超え350kg/cm^(2)以下
×:100%引張時の強度が350kg/cm^(2)を超えたもの
【0104】
[実施例1?7、比較例1?4]
実施例1?7、比較例1?4の評価試験結果を表1に記載する。
成分(A)ポリフェニレンエーテル10wt%以上45wt%未満、成分(B)ビニル芳香族単量体単位および共役ジエン単量体単位を主体とする水添共重合体20wt%以上、成分(C)スチレン樹脂および/またはオレフィン樹脂0wt%以上、成分(D)ホスフィン酸金属塩2wt%以上を含むことで、はじめて、高い生産性、高い耐ブリード性、ABSへの高い耐成分移行性、高い難燃性および高い柔軟性を達成できることが分かる。
【0105】
このなかでも、ポリフェニレンエーテル(A)の1.5倍量より、ビニル芳香族単量体単位および共役ジエン単量体単位を主体とする水添共重合体(B)の量が多いと、柔軟性や生産性あるいは低比重に関する物性が向上することが分かる。また、ホスフィン酸金属塩(D)およびポリリン酸メラミンを併用するとさらに難燃性が向上することが分かる。
【0106】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0107】
本発明の難燃性樹脂組成物は、電線やケーブルの被覆材料等の分野で好適に利用することができる。
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
成分(A)、(B)、(C)、(D)の合計量に対し、成分(A)ポリフェニレンエーテルの含有量(〈A〉)が10wt%以上45wt%未満、成分(B)ビニル芳香族単量体単位および共役ジエン単量体単位を主体とする水添共重合体の含有量(〈B〉)が40wt%以上70wt%以下、成分(C)スチレン樹脂および/またはオレフィン樹脂の含有量(〈C〉)が0wt%以上、成分(D)ホスフィン酸金属塩の含有量(〈D〉)が2wt%以上20wt%以下である成分(A)、(B)、(C)、(D)を含む樹脂組成物であって、前記成分(B)中のビニル芳香族単量体単位が、35wt%以上であり、
前記成分(B)が、ビニル芳香族単量体単位を主体とする重合体ブロック(B1)及びビニル芳香族単量体単位および共役ジエン単量体単位を主体とする水添共重合体ブロック(B2)を有し、且つ(B2)中のビニル芳香族単量体単位が、35wt%以上であることを特徴とする樹脂組成物。
【請求項2】
成分(C)がスチレン樹脂で、且つ〈C〉が3wt%以上であることを特徴とする請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
成分(A)、(B)の含有量が、下記式を満たすことを特徴とする請求項1又は2に記載の樹脂組成物。
〈B〉>〈A〉・・・(式1)
【請求項4】
成分(A)、(B)の含有量が、下記式を満たすことを特徴とする請求項1又は2に記載の樹脂組成物。
〈B〉>1.5×〈A〉・・・(式2)
【請求項5】
JIS K6253に準拠して測定したショアーA硬度が、95°以下の請求項1?4のいずれかに記載の樹脂組成物。
【請求項6】
更に成分(E)ホスフィン酸金属塩以外のリン系難燃剤として、窒素基含有化合物を含有することを特徴とする請求項1?5のいずれかに記載の樹脂組成物。
【請求項7】
成分(E)として、ポリリン酸メラミンを含有することを特徴とする請求項6に記載の樹脂組成物。
【請求項8】
請求項1?7のいずれかに記載の樹脂組成物からなる電線およびケーブルの被覆材料。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審決日 2010-11-05 
出願番号 特願2008-527735(P2008-527735)
審決分類 P 1 113・ 121- YA (C08L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 佐々木 秀次  
特許庁審判長 小林 均
特許庁審判官 松浦 新司
小野寺 務
登録日 2009-06-26 
登録番号 特許第4330085号(P4330085)
発明の名称 難燃性樹脂組成物  
代理人 稲葉 良幸  
代理人 山田 拓  
代理人 加藤 由加里  
代理人 内藤 和彦  
代理人 内藤 和彦  
代理人 松井 光夫  
代理人 小平 哲司  
代理人 山田 拓  
代理人 村上 博司  
代理人 稲葉 良幸  

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