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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C08F
審判 査定不服 特17 条の2 、4 項補正目的 特許、登録しない。 C08F
管理番号 1258579
審判番号 不服2009-9994  
総通号数 152 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-08-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2009-05-18 
確定日 2012-06-11 
事件の表示 特願2002-587479「マレエート化ポリプロピレンおよびその調製方法」拒絶査定不服審判事件〔平成14年11月14日国際公開、WO2002/90403、平成17年4月14日国内公表、特表2005-509688〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯
本願は、平成14年5月6日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2001年5月6日(US)アメリカ合衆国)を国際出願日とする出願であって、平成20年2月13日付けで拒絶理由が通知され、同年8月15日に意見書及び手続補正書が提出されたが、平成21年2月13日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、同年5月18日に拒絶査定不服審判が請求され、同年6月17日に手続補正書が提出され、さらに、同年7月24日に審判請求書の手続補正書(方式)が提出され、同年9月16日付けで前置報告がなされ、それに基いて当審において平成23年8月9日付けで審尋がなされ、これに対して同年11月10日に回答書が提出されたものである。

第2.補正の却下の決定

[補正の却下の決定の結論]
平成21年6月17日提出の手続補正書による補正を却下する。

[理由]
1.補正の内容
平成21年6月17日提出の手続補正書による補正(以下、「本件補正」という。)は、平成20年法律第16号改正附則第2条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第1項第4号に掲げる場合の補正であって、明細書の特許請求の範囲の請求項10について、本件補正前の

「【請求項10】
(i)高分子量ポリプロピレンを含む主鎖又は高分子量ポリプロピレンから誘導される主鎖、(ii)結合した無水マレイン酸部分、および(iii)結合していない無水マレイン酸部分を含んでなるグラフトコポリマー生成物を含んでなる組成物であって、前記グラフトコポリマー生成物は80以下のSAP及び190℃で200?2000cpsの粘度を有し、前記結合していない無水マレイン酸部分は、結合した無水マレイン酸部分および結合していない無水マレイン酸部分の合計の50重量%未満の濃度で存在する、組成物。」

を、

「【請求項10】
(i)高分子量ポリプロピレンからなる主鎖、(ii)結合した無水マレイン酸部分、および(iii)結合していない無水マレイン酸部分を含んでなるグラフトコポリマー生成物を含んでなる組成物であって、前記グラフトコポリマー生成物は80以下のケン化価を有し、前記結合していない無水マレイン酸部分は、結合した無水マレイン酸部分および結合していない無水マレイン酸部分の合計の50重量%未満の濃度で存在する、組成物。」

とする補正を含むものであり、より具体的には、補正前の「高分子量ポリプロピレンを含む主鎖又は高分子量ポリプロピレンから誘導される主鎖」を「高分子量ポリプロピレンからなる主鎖」に補正し(以下、「補正事項1」という。)、補正前の「前記グラフトコポリマー生成物は80以下のSAP及び190℃で200?2000cpsの粘度を有し、」を「前記グラフトコポリマー生成物は80以下のケン化価を有し、」とする補正(以下、「補正事項2」という。)を含むものである。

2.補正の適否について
(1)新規事項の追加の有無について
上記補正事項1及び2は、特許法第184条の6第2項の規定により、同法第17条の2第3項における願書に最初に添付された明細書及び図面とみなす国際出願日における国際特許出願の明細書の翻訳文及び国際出願日における国際特許出願の請求の範囲の翻訳文及び図面(以下、「当初明細書等」という。)の発明の詳細な説明の記載からみて、当初明細書等の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入したものではないことから、補正事項1及び2は、当初明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものと認められる。

(2)補正の目的について
補正事項1は、補正前の択一形式の記載からその一方を削除したものであって、限定的減縮を目的とする補正と認められる。
一方、補正事項2は、グラフトコポリマー組成物の有する性質として規定されていた補正前の「190℃で200?2000cpsの粘度を有」する点を削除する補正であって、直列的に記載された発明特定事項の一部を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮に該当しない。

そして、上記発明特定事項の記載自体としては、明りょうな記載であり、また原審における拒絶理由に係る事項でもないので、上記発明特定事項の削除は、特許法第17条の2第4項第4号に規定される明りょうでない記載の釈明(拒絶理由通知に係る拒絶の理由に示す事項についてするものに限る。)に該当しない。

また、補正事項2は、誤記の訂正を目的とするものでもない。

したがって、上記補正事項2を含む本件補正は、平成14年法律第24号改正附則第2条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法(以下、単に「特許法」という。)第17条の2第4項の規定に違反する補正である。

(3)審判請求人の主張の検討
審判請求人は、審判請求書において、上記補正事項2の補正の目的に関して、
「拒絶理由に示す事項に関して明瞭でない記載の釈明を目的として、請求項1及び10の「及び190℃で200?2000cpsの粘度」を削除する補正を行いました。上記理由3に関して、本願明細書の実施例1には試験されたポリプロピレンの製品名(Hiwax NP055)が記載されていますが、粘度のデータが記載されておりません。よって、理由3を解消するために、即ち、特許請求の範囲に記載された発明が明細書によって支持されていることを明確にするために実施例1によって直接的に裏付けられていない粘度に関する構成要件を削除する補正を行いました。また原審査官殿は使用するポリプロピレンの粘度の値に関して本願発明と引用文献1?4との発明の構成を具体的な粘度の値で対比しておりません。粘度に関する構成要件を削除しても新たな先行技術調査が必要にならないので、この補正は特許法第17条の2第4項の規定の趣旨に合致する補正であると思量します。なお、上記製品名(Hiwax NP055)で特定されるポリプロピレンは190℃で約350cpsであることがわかっています。」と主張している。

しかしながら、補正事項2に係る「及び190℃で200?2000cpsの粘度」との記載自体は、明りょうな記載であって、審査段階において、この部分に関わる特許請求の範囲の不備についての通知はなされていない。一方、審判請求人が主張する拒絶理由の理由3は、以下のとおり、発明の詳細な説明についての記載不備の通知であって、グラフトコポリマー生成物の粘度は記載不備の対象としていないことから、補正事項2に関わる不備について示す拒絶理由とは認められない。

「3.この出願は、発明の詳細な説明の記載が下記の点で、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない。
・・・
[理由3について]
本願の発明の詳細な説明には、グラフトコポリマー生成物を製造するための条件(例えば、原料の割合、反応温度、開始剤の種類・添加量等)について、一般的な記載があるものの、具体的に如何なる条件を採用すれば本願発明に係る特定のグラフトコポリマーを得られるのか、ただ1つの実施例が記載されるのみであり、如何なる条件をどのように変更すれば、他の「グラフトコポリマー生成物」が得られるのか、本願明細書の記載及び技術常識から当業者に明らかであるとは認められない。また、【0010】には、「反応混合物中の無水マレイン酸の濃度を、反応条件におけるポリプロピレン中の無水マレイン酸の溶解限度の約120%以下に維持する速度で導入する」旨、【0017】には、「反応混合物中の未反応無水マレイン酸濃度を約2.5%未満に維持するのに有効な条件」とする旨、記載されるが、該「速度」又は該「条件」が具体的に如何なるものを意味するのか不明確であるし、実施例にも、該「反応混合物中の未反応無水マレイン酸濃度」が如何なる範囲であるのか記載されていない。
してみると、本願の発明の詳細な説明は、請求項1-4に係る発明を当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されているとは認められない。」

そうであってみれば、補正事項2についての補正は、上記拒絶理由3に関しての明りょうでない記載の釈明を目的とするとの審判請求人の主張は失当であり、採用できない。

4.補正の却下の決定のむすび
以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第4項の規定に違反するものであるから、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3.本願発明
平成21年6月17日提出の手続補正書による補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1?28に係る発明は、平成20年8月15日提出の手続補正書により補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1?28に記載されたとおりのものであり、その請求項1及び請求項10に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」、「本願発明10」という。)は次のとおりである。

<本願発明1>
「(i)低分子量ポリプロピレンを含む主鎖又は低分子量ポリプロピレンから誘導される主鎖、(ii)結合した無水マレイン酸部分、および(iii)結合していない無水マレイン酸部分を含んでなるグラフトコポリマー生成物を含んでなる組成物であって、前記グラフトコポリマー生成物は150以下のSAP及び190℃で200?2000cpsの粘度を有し、前記結合していない無水マレイン酸部分は、結合した無水マレイン酸部分および結合していない無水マレイン酸部分の合計の50重量%未満の濃度で存在する、組成物。」

<本願発明10>
「(i)高分子量ポリプロピレンを含む主鎖又は高分子量ポリプロピレンから誘導される主鎖、(ii)結合した無水マレイン酸部分、および(iii)結合していない無水マレイン酸部分を含んでなるグラフトコポリマー生成物を含んでなる組成物であって、前記グラフトコポリマー生成物は80以下のSAP及び190℃で200?2000cpsの粘度を有し、前記結合していない無水マレイン酸部分は、結合した無水マレイン酸部分および結合していない無水マレイン酸部分の合計の50重量%未満の濃度で存在する、組成物。」

第4.原査定の理由の概要
原査定の理由とされた、平成20年2月13日付け拒絶理由通知書に記載した理由2の概略は、以下のとおりである。

「2.この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

[理由1,2について]
・請求項 1-4
・引用文献 1-3
・備考:
引用文献1の特許請求の範囲1、第14頁第6行-第18頁第15行の例3-6,19,22を特に参照。
引用文献2の請求項1,3,4、【0032】-【0033】、【表1】の実施例1,2を特に参照。
引用文献3の請求項1、【0022】を特に参照。
引用文献1-3には、溶融反応において無水マレイン酸をポリプロピレンにグラフトさせることによって、0?40%の結合していない無水マレイン酸を含み、少なくとも60%の結合した無水マレイン酸を有するグラフトコポリマー生成物が得られることが記載されている。

・請求項 1,2
・引用文献 4
・備考:
引用文献4の請求項1,2、【表4】を特に参照。
引用文献4には、0?40%の結合していない無水マレイン酸を含み、少なくとも60%の結合した無水マレイン酸を有するグラフトコポリマー生成物が記載されている。
・・・
引 用 文 献 等 一 覧
1.特表平10-505371号公報
2.略
3.略
4.特開平07-316239号公報」

また、原査定の理由2に関する備考には以下の記載がなされている。

「備考
[理由2について]
・・・・
引用文献1-4には、グラフトコポリマーについて、(1)SAPが明記されておらず、(2)粘度が記載されていない。
しかしながら、(1)本願明細書の記載から、「結合した無水マレイン酸部分」の「結合した無水マレイン酸部分および結合していない無水マレイン酸部分の合計」に対する濃度が本願発明に係る範囲であれば、本願発明に係るSAPの値を有するものと認められるので、引用文献1-4に記載されるグラフトポリマーのSAPも本願請求項1又は10に係る範囲であるものと認められる。
また、(2)ポリマーの粘度は、当業者が適宜調節し得るものであるから、引用文献1-4に記載された発明において、粘度を本願請求項1,10に係る範囲に調節することに格別の困難性はない。そして、それによる効果が顕著であるとは認められない。
したがって、本願請求項1,2,6-9に係る発明は、引用文献2-4それぞれに記載された発明に基いて、本願請求項3-5に係る発明は、引用文献3,4それぞれに記載された発明に基いて、本願請求項10,11,15-18に係る発明は、引用文献1-4それぞれに記載された発明に基いて、本願請求項12-14に係る発明は、引用文献1,3,4それぞれに記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。」

第5.当審の判断
1.刊行物の記載事項
本願の出願前に頒布された刊行物であることが明らかな特表平10-505371号公報(以下、「引用文献1」という。)には、以下の事項が記載されている。

1a.「4.5より大きい酸価、76以下の黄色度カラー指数及び少なくとも20,000の数平均分子量を有するマレイン化ポリプロピレンを含んでなる組成物。」(特許請求の範囲の請求項1)

1b.「発明の分野
本発明は、より高い酸価及びより高い分子量を有する新規な低着色マレイン化ポリプロピレンに関する。本発明はまた、特定比率のポリプロピレン、無水マレイン酸及び遊離基開始剤を含有する低フローレートポリプロピレンを使用する新規なポリプロピレンのマレイン化方法に関する。」(4頁3行?7行)

1c.「実施例
・・・
表1に「使用した無水マレイン酸(MA)%」として記載した効率は、生成物中に含有された供給MAのパーセント基準で計算した。(効率又は「使用したMA%」は、ポリマー中にグラフト化したMAのポンド数を、押出機中に送液したMAのポンド数で割り、100を掛けたものとして定義する)。
試料中に残留する未反応無水マレイン酸の量は、抽出及び加水分解をベースとする方法を使用することによって無視できるものであることがわかった。試料1グラムを、塩化メチレン10ml及び水10mlと共に125℃で圧力容器内で1時間加熱し、室温に冷却した。次いで、透明な上の水層1mlを水で10mlにまで希釈し、208nmでのU.V.吸収について分析した。既知の試料からの吸光度対MAパーセントの較正グラフにより、重量%として表示される「遊離MA%」又は未反応MAの量の決定が容易になった。値は0.1?0.4重量%の範囲
であった。」(13頁3行?25行)

1d.「例 1
1.2のメルトフローレートを有する、TENITE P4-026としてイーストマン・ケミカル社から入手したポリプロピレンのペレットを、全て200℃、150rpmの13個の逐次等価バレルを有する90mm二軸スクリュー押出機の入口ホッパー内に、272kg/時の速度で供給した。90℃の溶融無水マレイン酸を、入口ホッパーに隣接するバレル1のポート1の中に、10.9kg/時の速度で送液した。Elf AtochemからのLUPERSOL 101[2,5-ジメチル-2,5-ビス-(t-ブチルペルオキシ)ヘキサン]を、1.1kg/時でバレル2のポート2の中に送液した。水銀30インチ(760mm)の真空を、バレル8及び10に配置されたポート8及び10で引いた。薄黄色生成物をバレル13から溶融ストランドとして押し出し、水をかけて固化させ、次いでペレットに切断した。生成物を分析すると下記の結果であった。酸価=8.7 ;数平均分子量(Mn)=48,000;重量平均分子量(Mw)=119,000 ;黄色度カラー指数=51;使用された無水マレイン酸%=37%(37%効率)。
例 2
本例は、RPMを292に変更した以外は、本質的に例1に於けるようにして行った。製造されたマレイン化ポリプロピレンを分析すると下記の結果であった。酸価=10.1;Mn=43,000;Mw=105,000 ;黄色度カラー指数=49;使用された無水マレイン酸=43%(43%効率)。
例 3
本例は、LUPERSOL 101の量を2.4kg/時に変更した以外は、本質的に例2に於けるようにして行った。製造されたマレイン化ポリプロピレンを分析すると下記の結果であった。酸価=16.4;Mn=30,000;Mw=72,000;黄色度カラー指数=48;使用された無水マレイン酸=70%(70%効率)。
例 4
本例は、RPMを150に変更した以外は、本質的に例3に於けるようにして行った。製造されたマレイン化ポリプロピレンを分析すると下記の結果であった。酸価=14.6;Mn=31,000;Mw=87,000;黄色度カラー指数=56;使用された無水マレイン酸=62%(62%効率)。
例 5
本例は、LUPERSOL 101を0.5kg/時に変更し、無水マレイン酸を4.5kg/時に変更した以外は、本質的に例4に於けるようにして行った。製造されたマレイン化ポリプロピレンを分析すると下記の結果であった。酸価=5.9 ;Mn=47,000;Mw=118,000 ;黄色度カラー指数=25;使用された無水マレイン酸=60%(60%効率)。」(14頁6行?15頁11行)

1e.「

」(19頁の表1)

本願の出願前に頒布された刊行物であることが明らかな特開平7-316239号公報(以下、「引用文献4」という。)には、以下の事項が記載されている。

4a.「【請求項1】ラジカル重合性モノマーおよびラジカル重合開始剤のいずれかの一方を含む溶融したポリオレフィンに、上記両者の他方を供給してグラフト反応を行うことを特徴とする変性ポリオレフィンの製造方法。
【請求項2】ラジカル重合性モノマーが無水マレイン酸である請求項1に記載の変性ポリオレフィンの製造方法。
【請求項3】グラフト反応生成物を減圧処理する請求項1または2に記載の変性ポリオレフィンの製造方法。」(特許請求の範囲の請求項1?3)

4b.「【実施例】以下、実施例により本発明を具体的に説明する。なお、以下の例において無水マレイン酸のグラフト量の測定は以下の方法に従った。また、色相は目視によった。
(1)無水マレイン酸グラフト量
グラフト反応生成物中に残留している未反応の酸類や副生成物を除去するために該生成物を熱キシレンに溶解し、引き続きアセトン中で沈澱し、濾過後、乾燥した。この乾燥品を熱プレスにより厚さ約0.1mmのフィルムに成型後、赤外吸収スペクトルを測定し、1785cm^(-1)の酸無水物基に起因する吸収と1710cm^(-1)のカルボキシル基に起因する吸収から無水マレイン酸のグラフト量を定量した。グラフト量はポリプロピレンに対する重量%である。
(2)未グラフトの酸成分量
グラフト反応生成物から、上記(1)で記載した精製過程を省略し、直接熱プレスにより厚さ約0.1mmのフィルムに成型後、上記(1)と同様にして無水マレイン酸としての量を定量し、その値から(1)で定量した無水マレイン酸グラフト量を差し引いた値を未グラフトの酸成分量とした。
・・・
実施例4
二軸押出機1を180℃に設定し、MI3.5のポリプロピレンを1時間当り100重量部ホッパー8から供給して溶融混練し、供給口4から開始剤パークミルDのヘキサン溶液(15?20重量%/濃度)をパークミルDが1時間当り1重量部供給されるように供給し、供給口5から100℃に加熱された溶融無水マレイン酸を1時間当り2.7重量部供給してグラフト反応を行った。ベント口6および7を10mmHgの減圧状態として未反応モノマーおよび揮発分を除去した。得られた無水マレイン酸グラフトPPの性状を表4に示した。次にMI45のポリプロピレン40重量%、上記で製造した無水マレイン酸グラフトPP10重量%およびガラス繊維50重量%を溶融混練して一度ペレットにした後、射出成形して引張試験片を得、これについてASTM D638に従って引張強度を測定した。色相は目視で観察した。結果を表4に示した。」(段落 【0040】?【0050】)

4c.「

」(段落 【0054】?【0055】)

2.引用文献に記載された発明の認定
引用文献1の上記摘示事項1d及び1eの記載からみて、引用文献1の例5として、
「1.2のメルトフローレートを有する、TENITE P4-026としてイーストマン・ケミカル社から入手したポリプロピレンのペレットを二軸スクリュー押出機に272kg/時の速度でホッパー内に供給し、90℃の溶融無水マレイン酸をホッパーに隣接するポートの中に4.5kg/時で送液し、真空で引き、溶融ストランドとして押し出された、使用された無水マレイン酸%が60%である生成物」に係る発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。

引用文献4の上記摘示事項4b及び4cの記載からみて、引用文献4の実施例4として
「二軸押出機に、MI3.5のポリプロピレンを1時間当り100重量部ホッパーから供給して溶融混練し、供給口から溶融無水マレイン酸を1時間当り2.7重量部供給してグラフト反応を行い、ベント口を10mmHgの減圧状態として未反応モノマーおよび揮発分を除去して得た無水マレイン酸グラフトPP」に係る発明(以下、「引用発明4」という。)が記載されていると認められる。

3.対比・判断
3-1.本願発明10と引用発明1との対比
本願発明10と引用発明1とを対比する。
引用発明1における「1.2のメルトフローレートを有する、TENITE P4-026としてイーストマン・ケミカル社から入手したポリプロピレンのペレット」は、本願発明10のグラフト前の「ポリプロピレン」に相当し、引用発明1の「二軸スクリュー押出機に供給し、90℃の溶融無水マレイン酸をホッパーに隣接するポートの中に送液し、真空で引き、溶融ストランドとして押し出」す工程で、ポリプロピレンを含む主鎖に無水マレイン酸部分をグラフトさせたグラフトコポリマーが生成されていることは明らかである。
そして、摘示事項1cの「使用したMA%」の定義からみて、引用発明1の「使用された無水マレイン酸が60%である生成物」は、無水マレイン酸が100重量部供給されたとすれば、生成時にその内の60重量部がグラフト化されたことを意味するものと認められ、言い換えれば、100重量部供給された内40重量部の無水マレイン酸は反応しないことを意味しており、本願発明10における「結合していない無水マレイン酸部分」に相当することになるのは明らかである。したがって、本願発明1の「結合していない無水マレイン酸部分」の「結合した無水マレイン酸部分および結合していない無水マレイン酸部分の合計」に対する「濃度」は、「40/100=0.40」すなわち、40重量%であって、本願発明1の「結合していない無水マレイン酸部分は、結合した無水マレイン酸部分および結合していない無水マレイン酸部分の合計の50重量%未満の濃度」を満足している。
さらに、摘示事項1cの後段の記載からみて、前記工程において「真空で引」かれたとしても、押し出された生成物中に当該未反応無水マレイン酸が微少量存在していることも明らかである。
なお、本願発明10の「グラフトコポリマー生成物」は、本願明細書等の「本明細書で用いる“グラフト反応生成物”という用語は、グラフト反応が実質的に完了したとみなされる後であるが、それに続くあらゆる精製工程の前の、マレエート化ポリプロピレンならびにあらゆる未反応成分、副生成物および不純物をさす。」(本願明細書の【0009】)との記載によれば、あらゆる精製工程前のグラフトコポリマー生成物と定義されているが、本願発明10が「グラフトコポリマー生成物を含んでなる組成物」(下線は、審決において付与した)と規定されており、精製工程により未反応の無水マレイン酸が除去されて「結合していない無水マレイン酸部分は、結合した無水マレイン酸部分および結合していない無水マレイン酸部分の合計の50重量%未満の濃度で存在する」ものとなった組成物と、組成物としては区別できないものである。
そうすると、両者は、

「(i)ポリプロピレンを含む主鎖又はポリプロピレンから誘導される主鎖、(ii)結合した無水マレイン酸部分、および(iii)結合していない無水マレイン酸部分を含んでなるグラフトコポリマー生成物を含んでなる組成物であって、前記結合していない無水マレイン酸部分は、結合した無水マレイン酸部分および結合していない無水マレイン酸部分の合計の50重量%未満の濃度で存在する、組成物。」

で一致し、以下の点で相違している。

<相違点1>
本願発明10においては、ポリプロピレンが「低分子量」と特定されているのに対して、引用発明1においては、この点について規定がない点。

<相違点2>
本願発明10においては、「グラフトコポリマー生成物は80以下のSAP」を有すると特定されているのに対して、引用発明1においては、このような規定がない点。

<相違点3>
本願発明10においては、「グラフトコポリマー生成物は190℃で200?2000cpsの粘度を有し」と特定されているのに対して、引用発明1においては、このような規定がない点。

以下、相違点について検討する。
相違点1について
本願明細書等において、「低分子量」がどの程度の分子量を意味するかの定義はなされておらず、実施例と称して記載されている実施例1にも分子量は明記されていない。また、本願明細書等の図1に記載の「低MwPP」及び「高MwPP」が具体的にどの程度の分子量であるか不明であって、当該図面には「分子量が増大すると、結合したMAHの%は低下する」との記載はあるが、分子量の違いにより、いかなる効果を奏することになるかは明らかにされていない。そうであってみれば、引用発明1のポリプロピレンとして、低分子量のポリプロピレンを利用するようにすることは、本願出願時のその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が適宜おこない得たことであり、そのことによる格別の効果も認められない。

相違点2について
本願明細書等の「反応がバッチ反応である特定の態様の場合、無水マレイン酸を、1時間につきポリプロピレン(“PP”)1ポンドあたり約0.045ポンド未満の無水マレイン酸またはその前駆体(“MA”)の速度というグラフト反応条件(MA/PP/hr)、さらにより好ましくは約0.040MA/PP/hr未満で、反応混合物に加えることが好ましい。これに加えて、出願人らは、マレイン化プロセスに用いるポリプロピレンの分子量、ならびに、典型的には最終製品のケン化価により特徴づけられるマレエート化ポリプロピレンの無水マレイン酸含量が、最終製品に見いだされる結合した無水マレイン酸のパーセントに影響を及ぼすことを発見した。本明細書中で用いるケン化価(“SAP”)という用語は、マレエート化ポリプロピレン中に存在するケン化性物質、例えば結合した単一単位の無水マレイン酸、結合したオリゴマー性無水マレイン酸、未反応無水マレイン酸、結合していないオリゴマー性無水マレイン酸、および他の加水分解しうる部分の量の尺度をさす。SAPは一般に、1グラムの試料を加水分解するのに必要とされる水酸化カリウムのミリグラム数(mg KOH/g)として算出される。図1は、低分子量ポリプロピレンと高分子量ポリプロピレンのSAPに対しプロットした結合した無水マレイン酸のパーセントを表すグラフである。図1に例示するように、一般に、結合した無水マレイン酸のパーセントはSAPが増大すると低下する。これに加えて、ポリプロピレンの分子量が増大すると、結合したもののパーセントは低下する。そのような変数を本発明に従って制御すると、高いパーセントの結合した無水マレイン酸を有する有用なマレエート化ポリプロピレンが生成すると考えられる。」(段落【0020】?【0021】)との記載からみて、引用発明1の製造過程も上記条件を満足するポリプロピレンと無水マレイン酸の混合条件であり、押し出された組成物としては、「結合した単一単位の無水マレイン酸、結合したオリゴマー性無水マレイン酸、未反応無水マレイン酸、結合していないオリゴマー性無水マレイン酸、および他の加水分解しうる部分の量の尺度」が本願発明10で規定する範囲であることから、本願発明10と同じSAPである蓋然性が高く、相違点2は実質的な相違点ではない。

相違点3について
本願明細書等においては、粘度を本願発明10で特定する範囲とすることにより特別な効果が奏される旨の記載はなく、実施例と称される記載においても粘度は測定されていない。そして、求める高分子の性質に応じて粘度を適宜調整することは、当業者の技術常識であるから、相違点3は当業者が適宜調整し得たことと認められる。そして、そのことによる格別の効果も認められない。

よって、本願発明10は、引用文献1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。

3-2.本願発明1と引用発明4との対比
本願発明1と引用発明4とを対比する。
引用発明4における二軸押出機に供給される「MI3.5のポリプロピレン」は、本願発明1のグラフト前の「ポリプロピレン」に相当し、引用発明4bの「1時間当り100重量部ホッパーから供給して溶融混練し、供給口から溶融無水マレイン酸を1時間当り2.7重量部供給してグラフト反応を行い、ベント口を10mmHgの減圧状態として未反応モノマーおよび揮発分を除去して得た無水マレイン酸グラフトPP」が、ポリプロピレンからなる主鎖に無水マレイン酸部分をグラフトさせたグラフトコポリマーであることは明らかである。
そして、摘示事項4cの表4には、実施例4として、残留酸量が0.03(重量%)であり、グラフト量が0.54(wt%)であることが示されていて、上記摘示事項4bの「無水マレイン酸のグラフト量」及び「未グラフトの酸成分量」の定量方法の記載からみて、引用発明4bの無水マレイン酸グラフトPPにおいて、本願発明1の「結合していない無水マレイン酸部分」が0.03(重量%)であり、本願発明1の「結合している無水マレイン酸部分」が0.54(重量%)であることに相当するから、本願発明1の「結合していない無水マレイン酸部分」の「結合した無水マレイン酸部分および結合していない無水マレイン酸部分の合計」に対する「濃度」は、「0.03/(0.54+0.03)=0.053」すなわち5.3重量%であって、本願発明1の「結合していない無水マレイン酸部分は、結合した無水マレイン酸部分および結合していない無水マレイン酸部分の合計の50重量%未満の濃度」を満足している。
そうすると、引用発明4の「二軸押出機に、MI3.5のポリプロピレンを1時間当り100重量部ホッパーから供給して溶融混練し、供給口から溶融無水マレイン酸を1時間当り2.7重量部供給してグラフト反応を行い、ベント口を10mmHgの減圧状態として未反応モノマーおよび揮発分を除去して得た無水マレイン酸グラフトPP」は、本願発明1の「(i)ポリプロピレンを含む主鎖、(ii)結合した無水マレイン酸部分、および(iii)結合していない無水マレイン酸部分を含んでなるグラフトコポリマー生成物を含んでなる組成物であって、前記結合していない無水マレイン酸部分は、結合した無水マレイン酸部分および結合していない無水マレイン酸部分の合計の50重量%未満の濃度で存在する、組成物。」となることは明らかである。

そうすると、両者は、
「(i)ポリプロピレンを含む主鎖又はポリプロピレンから誘導される主鎖、(ii)結合した無水マレイン酸部分、および(iii)結合していない無水マレイン酸部分を含んでなるグラフトコポリマー生成物を含んでなる組成物であって、前記結合していない無水マレイン酸部分は、結合した無水マレイン酸部分および結合していない無水マレイン酸部分の合計の50重量%未満の濃度で存在する、組成物。」

で一致し、以下の点で相違している。

<相違点4>
本願発明1においては、ポリプロピレンが「低分子量」と特定されているのに対して、引用発明4においては、この点について規定がない点。

<相違点5>
本願発明1においては、「グラフトコポリマー生成物は150以下のSAP」を有すると特定されているのに対して、引用発明4においては、このような規定がない点。

<相違点6>
本願発明1においては、「グラフトコポリマー生成物は190℃で200?2000cpsの粘度を有し」と特定されているのに対して、引用発明4においては、このような規定がない点。

以下、相違点について検討する。
相違点4について
上記相違点1と同様の理由で、相違点4は当業者が適宜調整し得たことと認められる。そして、そのことによる格別の効果も認められない。

相違点5について
上記相違点2と同様の理由で、引用発明4の製造過程も本願発明1の条件を満足するポリプロピレンと無水マレイン酸の混合条件であり、押し出された組成物としては、「結合した単一単位の無水マレイン酸、結合したオリゴマー性無水マレイン酸、未反応無水マレイン酸、結合していないオリゴマー性無水マレイン酸、および他の加水分解しうる部分の量の尺度」が本願発明1で規定する範囲であることから、本願発明1と同じSAPである蓋然性が高く、相違点5は実質的な相違点ではない。

相違点6について
上記相違点3と同様の理由で、相違点6は当業者が適宜調整し得たことと認められる。そして、そのことによる格別の効果も認められない。

よって、本願発明1は、引用文献4に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。

3-3.本願発明10と引用発明4との対比
本願発明10と引用発明4とを対比する。
上記3-2の対比において記載したとおり、両者は、
「(i)ポリプロピレンを含む主鎖又はポリプロピレンから誘導される主鎖、(ii)結合した無水マレイン酸部分、および(iii)結合していない無水マレイン酸部分を含んでなるグラフトコポリマー生成物を含んでなる組成物であって、前記結合していない無水マレイン酸部分は、結合した無水マレイン酸部分および結合していない無水マレイン酸部分の合計の50重量%未満の濃度で存在する、組成物。」

で一致し、以下の点で相違している。

<相違点7>
本願発明10においては、ポリプロピレンが「高分子量」と特定されているのに対して、引用発明4においては、この点について規定がない点。

<相違点8>
本願発明10においては、「グラフトコポリマー生成物は80以下のSAP」を有すると特定されているのに対して、引用発明4においては、このような規定がない点。

<相違点9>
本願発明10においては、「グラフトコポリマー生成物は190℃で200?2000cpsの粘度を有し」と特定されているのに対して、引用発明4においては、このような規定がない点。

以下、相違点について検討する。
相違点7について
上記相違点1と同様の理由で、相違点7は当業者が適宜調整し得たことと認められる。そして、そのことによる格別の効果も認められない。

相違点8について
上記相違点5と同様の理由で、引用発明4のSAPは、本願発明10と同じSAPである蓋然性が高く、相違点8は実質的な相違点ではない。

相違点9について
上記相違点3と同様の理由で、相違点9は当業者が適宜調整し得たことと認められる。そして、そのことによる格別の効果も認められない。

よって、本願発明10は、引用文献4に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。

第6.審判請求人の主張の検討
審判請求人は、審判請求書において、
「本願請求項1の発明は、結合した無水マレイン酸部分の結合していない無水マレイン酸部分に対する比率が高いマレエート化ポリプロピレンに関します。より詳細には、請求項1の組成物は、低分子量ポリプロピレンからなる主鎖を含み、さらに結合した無水マレイン酸部分および結合していない無水マレイン酸部分を含み、生成物中の結合した無水マレイン酸部分および結合していない無水マレイン酸部分の合計量に対する結合していない無水マレイン酸部分が50重量%であることを特徴とします。出願人は、総マレイン酸に対する結合していない無水マレイン酸部分の割合を低くすることが、改善された性能、特に、適合剤としての性能を有するマレエート化ポリプロピレンをもたらすことを見出しています。結合した無水マレイン酸部分の結合していない無水マレイン酸部分に対する比は請求項1の発明の特徴部分であり、この比はグラフト化プロセスにおけるグラフト効率とは関係がありません。
ポリプロピレン上に無水マレイン酸をグラフト化するプロセスは、一般に、グラフト反応生成物と、未反応の無水マレイン酸(これ自体でグラフト反応生成物の一部にはなりません。)との両方を生成します。この未反応の無水マレイン酸は、一般に、グラフト反応生成物と分離されます。例えば、本願実施例1ではグラフト反応生成物から未反応の無水マレイン酸を分離するために減圧を用いていますので、ご参照下さい。
プロセスのグラフト効率は、グラフト反応生成物中に含まれる無水マレイン酸(MAH)の総量で示されます。より詳細には、その系に加えられる無水マレイン酸の総量、上記分離の際に回収される未反応の無水マレイン酸のより少ない量、を加えられた無水マレイン酸の総量で除したものがそのプロセスのグラフト効率となります。即ち、下記式:
[(MAHの総量-未反応のMAH)/MAHの総量]×100%=グラフト効率
となります。
上記式における未反応のMAHは、そのプロセスに存在するMAHであり、グラフト反応生成物の一部ではありません。これとは対照的に、グラフト反応生成物中の結合した無水マレイン酸成分の結合していない無水マレイン酸成分に対する比は、ポリプロピレン主鎖に共有結合した無水マレイン酸成分と結合していない無水マレイン酸成分との比であり、グラフト反応生成物中に混入している他の形態の無水マレイン酸(例えば、未反応のMAH及びオリゴマー化MAHなど)の量と対比されます。本願明細書の段落0009の「商業的適用でのそのようなグラフト反応生成物は一般に、マレエート化ポリプロピレンのみならず、結合していない無水マレイン酸およびオリゴマー性無水マレイン酸のようなものを含んでなる。」の記載をご参照下さい。出願人は、比較的低いレベルに未反応の無水マレイン酸の量を維持しながら反応混合物中のポリプロピレンに対して無水マレイン酸をグラフト化することが、有利に、オリゴマー化無水マレイン酸の低いレベルを有するマレエート化コポリマーを生成することを予想外に且つ直感的ではなく見出したのであります。
引用文献1?4のいずれにも、本願請求項1の発明の上記特徴は記載も示唆もされていません。例えば、引用文献1はグラフト効率を明記しています。引用文献1の第13頁第14?17行の「表1に「使用した無水マレイン酸(MA)%」として記載した効率は、生成物中に含有された供給MAのパーセント基準で計算した。(効率又は「使用したMA%」は、ポリマー中にグラフト化したMAのポンド数を、押出機中に送液したMAのポンド数で割り、100を掛けたものとして定義する)。」をご参照下さい。引用文献1は、反応生成物中の無水マレイン酸の形態に関してなんら情報を開示していません。よって、引用文献1からは、結合した無水マレイン酸部分の結合していない無水マレイン酸部分に対する比を読み取ることができないと思量します。
引用文献2もグラフト効率を記載しています。引用文献2は、反応生成物における結合した無水マレイン酸部分の結合していない無水マレイン酸部分に対する比を開示していません。例えば、引用文献2の表1は「グラフトした無水マレイン酸(%)」が、押出機に導入された無水マレイン酸の量と、減圧下溶融生成物から脱気されるグラフト後に残留している未反応の無水マレイン酸の量との関数として誘導されることを示しています(引用文献2の段落0032?0033をご参照下さい。)。
引用文献1及び2と同様に引用文献3もプロセスのグラフト効率を参照しています。さらに引用文献3のプロセスは、チタンまたはバナジウムの最小量を含むポリオレフィンのマレエート化に関します。対照的に、請求項1の発明のポリオレフィン主鎖はポリプロピレンのみからなります(ここで、「ポリプロピレン」は、本願明細書段落0009に記載されているように、ポリプロピレンのホモポリマーと、モルパーセント基準でポリマーの少なくともほぼ大部分がポリプロピレン部分で形成されている場合のポリプロピレンコポリマーのすべての形、とりわけポリプロピレン-ポリエチレンコポリマーとをさし、それらを含みます。)。
引用文献4もグラフト効率を参照しています。例えば、引用文献4の第8欄第7?13行には
「(2)未グラフトの酸成分量
グラフト反応生成物から、上記(1)で記載した精製過程を省略し、直接熱プレスにより厚さ約0.1mmのフィルムに成型後、上記(1)と同様にして無水マレイン酸としての量を定量し、その値から(1)で定量した無水マレイン酸グラフト量を差し引いた値を未グラフトの酸成分量とした。」
と記載されており、プロセス中に存在する無水マレイン酸の量が測定されています。プロピレン生成物(即ち、精製された製品)中の結合していないMAHの量は測定されていません。よって、引用文献4に記載されている割合は、そのプロセスのグラフト効率を指し、反応生成物中の結合した無水マレイン酸部分の結合していない無水マレイン酸部分に対する比を示しておりません。
以上説明したように、引用文献1?4には本願請求項1に記載された発明の構成要件が記載も示唆もされていないから、請求項1の発明はこれら引用文献に記載されていないし、これら引用文献に記載された発明から当業者が容易に発明できたものでもありません。」と主張している。

しかしながら、引用文献1及び4には「結合した無水マレイン酸の結合していない無水マレイン酸に対する比率に関する構成要件」について、文言としての記載はないが、上記第5.において検討したとおり、実質的に記載されていると認められることから、上記主張は採用できない。

第7.むすび
以上のとおりであるから、本願の請求項1及び10に係る発明についての原査定の拒絶の理由2は妥当なものであり、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願はこの理由により拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。

 
審理終結日 2012-01-19 
結審通知日 2012-01-20 
審決日 2012-01-31 
出願番号 特願2002-587479(P2002-587479)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C08F)
P 1 8・ 57- Z (C08F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 武貞 亜弓村上 騎見高  
特許庁審判長 松浦 新司
特許庁審判官 ▲吉▼澤 英一
大島 祥吾
発明の名称 マレエート化ポリプロピレンおよびその調製方法  
代理人 小野 新次郎  
代理人 千葉 昭男  
代理人 富田 博行  
代理人 松田 豊治  
代理人 小林 泰  
代理人 社本 一夫  

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