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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G01N
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G01N
管理番号 1259317
審判番号 不服2010-5258  
総通号数 152 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-08-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-03-10 
確定日 2012-06-27 
事件の表示 特願2002-589035「プロテオームチップを用いるタンパク質活性の包括的分析」拒絶査定不服審判事件〔平成14年11月21日国際公開、WO02/92118、平成17年 4月28日国内公表、特表2005-512019〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,平成14年5月13日(パリ条約による優先権主張 平成13年5月11日 米国 及び 平成13年7月26日 米国 )を国際出願日とする特許出願であって,以降の経緯は,次のとおりである。
平成20年 5月12日付け 拒絶理由通知書
平成20年 8月20日 手続補正書及び意見書
平成20年11月28日付け 拒絶理由通知書(最後)
平成21年 6月 9日 意見書
平成21年11月10日付け 拒絶査定
平成22年 3月10日 拒絶査定不服審判請求書
平成22年 3月10日 手続補正書
平成22年 7月29日付け 審尋
平成23年 2月 3日 回答書

第2 平成22年3月10日付け手続補正についての補正却下の決定
[結論]
平成22年3月10日付け手続補正(以下,「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 補正後の本願発明
本件補正は,請求項1について,補正前に
「【請求項1】
基板上の異なる位置に少なくとも約100タンパク質/cm^(2)の密度でそれぞれ存在する複数の精製タンパク質を含んでなる,位置指定可能なアレイであって,該複数の精製タンパク質が単一の種において発現される少なくとも1000の分類された精製タンパク質を含み,かつ該アレイ上の各精製タンパク質は適正な合成,折りたたみおよび翻訳後修飾がされたものである,上記アレイ。」
とあったのを,
「【請求項1】
基板上の異なる位置に少なくとも約1000タンパク質/cm^(2)の密度でそれぞれ存在する複数の精製タンパク質を含んでなる,位置指定可能なアレイであって,該複数の精製タンパク質が単一の種において発現される少なくとも1000の分類された精製タンパク質を含み,かつ該アレイ上の各精製タンパク質は適正な合成,折りたたみおよび翻訳後修飾がされたものである,上記アレイ。」(下線は,補正箇所を示す。)
と補正する事項を含むものである。

2 新規事項の有無及び補正の目的について
上記補正により,補正前「少なくとも約100タンパク質/cm^(2)の密度」とあったものが,「少なくとも約1000タンパク質/cm^(2)の密度」と補正された。
かかる補正事項は,本願の願書に最初に添付された明細書の段落【0079】の記載に基づくものであり,新規事項を追加するものではなく,平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前(以下,「平成18年改正前」という。)の特許法第17条の2第2項に規定する要件を満たすものである。
また,密度の下限が「約100タンパク質/cm^(2) 」から「約1000タンパク質/cm^(2)の密度」と下限が大きくなることにより範囲が狭まり,また,その補正前の当該請求項に記載された発明とその補正後の当該請求項に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから,平成18年改正前の特許法第17条の2第4項第2号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

3 独立特許要件について
そこで,本件補正後の前記請求項1に記載された発明(以下,「補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年改正前の特許法17条の2第5項において準用する同法126条5項の規定に適合するか)について以下に検討する。

(1)引用刊行物及び引用刊行物記載の事項
原査定で引用され,本願優先権主張日前に頒布された刊行物である国際公開第99/39210号(以下,「刊行物1」という。)には,次の事項が記載されている。
なお,翻訳は,当審によるものである。そして,摘記箇所は刊行物1の記載頁と行を示したものである。
また,下線は,当審にて付記したものである。

ア 刊行物1記載の事項
(刊1-1)「【要約】
本発明は,一次タンパク質アレイ及び二次抗体アレイを含んで成る高密度アレイを提供し,ここで前記二次アレイは一次アレイにおける1又は複数のタンパク質に特異的に又は非特異的に結合するモノクローナル抗体及び/ 又は抗体変異体又は誘導体を含んで成り,そして前記二次アレイは細胞,組織,器官又は完全な生物,又はそれらからの細胞抽出物,溶解物又はタンパク質画分のタンパク質プロフィールを決定するために使用される。特に診断及び治療用途に関して,本発明の高密度タンパク質アレイを用いて,細胞,組織,器官及び完全な生物,及びそれらに由来する細胞抽出物,溶解物又はタンパク質画分のエピトーププロフィールを決定するための方法もまた提供される。本発明はさらに,一次抗原アレイに対する二次抗体アレイをスクリーンする場合に得られる認識パターンにより定義されるように,興味ある抗原をユニークに認識する1又は複数の抗体を用いることによって,細胞タンパク質の複雑な混合物からの生来のタンパク質の富化を提供する。さらに,1又は複数の抗体が,標的抗原のためのユニーク標識を生成するために使用され,そして細胞タンパク質の複雑な混合物の発現レベルを追跡するために使用され,そして分離科学に関係なく行われる。類似するアプローチが,健康及び疾病のサンプル,又は診断目的のための試験又は対照実験状況における生物学的サンプルグループの認識又は診断において有用のパターンを提供する多数の個々の抗原の認識に基づいて,生物学的サンプルのフィンガープリントを生成するために使用される。」(1頁要約の欄)

(刊1-2)「【請求項57】 細胞,組織,器官もしくは生物,又はそれらに由来する生物学的サンプルのタンパク質プロフィールの決定に使用するためのアレイであって,
(i )生物学的サンプルが由来する細胞,組織,器官,生物の抗原多様性の有意な部分をエミュレートするよう設計された多数のタンパク質要素を含んで成るタンパク質a^(1)_((Xn, Yn)), a^(2)_((Xn, Yn)), a^(3)_((Xn, Yn)), ・・・,a^(n) _((Xn, Yn))の一次アレイ(ここでa^(1), a^(2), a^(3), ・・・, a ^(n) はタンパク質であり;Xnは前記アレイの第1次元に沿ってのいずれか特定のタンパク質の座標であり;Ynは前記アレイの第2 次元に沿ってのいずれか特定のタンパク質の座標であり;そしてn はいずれか正の有限数である);及び
(ii)モノクローナル抗体及び/ 又は抗体変異体又は誘導体Ab^(1) _((Xn, Yn)), Ab^(2) _((Xn, Yn)), Ab^(3) _((Xn, Yn)), ・・・, Ab^(n) _((Xn, Yn))の二次アレイ(ここでAb^(1), Ab^(2), Ab^(3),・・・,Ab^( n) は前記一次アレイにおける1 又は複数のタンパク質に特異的に又は非特異的に結合するモノクローナル抗体及び/ 又は抗体変異体又は誘導体であり;Xnは前記アレイの第1次元に沿ってのいずれか特定のモノクローナル抗体及び/ 又は抗体変異体又は誘導体の座標であり;Ynは前記アレイの第2次元に沿ってのいずれか特定のモノクローナル抗体及び/ 又は抗体変異体又は誘導体であり;そしてnはいずれか正の有限数である)を含んで成るアレイ。」(明細書108頁18行?109頁8行)

(刊1-3)「 好ましくは,本発明の高密度アレイを用いていずれかの生物学的サンプルに関して得られるプロフィールは,一次タンパク質アレイにおける1又は複数のタンパク質とも免疫学的に交差反応する前記生物学的サンプルの合計抗原多様性を含んで成る。本発明はまた,一般的に診断及び治療用途に関して,本明細書に記載される高密度タンパク質アレイを用いて,細胞,組織,器官及び完全な生物,並びにそれに由来する細胞抽出物,溶解物又はタンパク質画分のエピトーププロフィールを決定するための方法も関する。」(明細書1頁12?20行)

(刊1-4)「一次アレイ及び二次アレイを構成するタンパク質又は抗体の正確な数は,プロテオームが関連する,細胞,組織,器官又は生物源の抗原多様性に依存するであろう。従って,現在記載されるアレイ(すなわち,一次及び二次アレイ)に関しては,nの値は,本発明のアレイが由来する種のプロテオームの複雑性に依存して変化するであろう。たとえば,細菌の場合,それらは,ヒトプロテオームに関して100,000 ?300,000 の遺伝子生成物であるのに比較して,約4,000 ?20,000の遺伝子生成物であり得る。」(明細書18頁10?22行)

(刊1-5)「好ましくは,一次アレイは,高密度タンパク質アレイであろう。本明細書において使用される場合,用語“高密度タンパク質アレイ”とは,少なくとも約10個のタンパク質/cm^(2), より好ましくは少なくとも約50個のタンパク質/cm^(2), さらにより好ましくは少なくとも約100 個のタンパク質/cm^(2), そしてさらにより好ましくは少なくとも約500 個のタンパク質/cm^(2)を含んで成るアレイを意味する。
高められた量のコードされるタンパク質又はペプチドを合成するために,IPTGにより誘発されるcDNAクローンを含む個々の細菌コロニーに由来する誘発された懸濁液の移行に適用されるような現在のロボット技法を用いれば,約30,000のタンパク質要素が,2つのグリッドロボットにより,1日当たり90の速度で達成される標準の96-ウェルマイクロタイタープレートの蓋内に配置されるか又はそれに結合される固体支持体に,約450 ミクロンのピッチで移行され得る(KB Engineering, UK;図3)。より高い密度が達成され得るが,しかし1日の生産速度は遅くなる。
従って,100 ,好ましくは1000,より好ましくは10,000,及びさらにより好ましくは100,000 のタンパク質が,一次アレイに含まれ得る。当業者は,技術的に実現可能であるとして,高い密度程,一次アレイの提供の,時間節約と費用-効果に関する利点を認識するであろう。
“抗原多様性”とは,タンパク質又はそのペプチドフラグメントもしくは領域の種々のエピトープ(すなわち,免疫原性領域)を意味する。
用語“抗原多様性の有意な部分”又は類似する用語は,そのプロテオームを表示する細胞,組織,器官又は完全な生物内に含まれるすべてのタンパク質に関連する異なった線状及びコンホメーションエピトープの有意な画分又は部分を意味するであろう。」(明細書22頁1?18行)

(刊1-6)「特徴的アミノ酸配列を含んで成るペプチドはまた,組換えペプチドとしても生成され得る。例えば,cDNA挿入体の発現に由来するような,組換えタンパク質は,天然のタンパク質のコンフォーメーショナルエピトープの全てではないが,多くのコンホメーショナルエピトープをエミュレートすることができる。
組換えペプチド,たとえば特徴的アミノ酸配列を含んで成るそれらのペプチドは,1又は複数のExpressed Sequence Tags (EST) に由来するヌクレオチド配列,増幅生成物,たとえばPCR 生成物又は等温増幅生成物,cDNA配列,単離された遺伝子のエキソン領域,又はランダムに剪断されたゲノムDNA を含んで成る単離された核酸分子から好ましくは誘導されるであろう。
組換えペプチドは,当業者に知られている標準手段により生成され得る,その唯一の必要条件は,前記ペプチドをコードする核酸分子のヌクレオチド配列が発現可能なフォーマットで表されることである。本明細書において,用語“発現可能なフォーマット”とは,細胞または無細胞系で,発現を調節することができるプロモーターまたは他の調節配列と作動可能に関連して配置された核酸分子のタンパク質コード領域を示すものとして使用されるであろう。
好ましくは,プロモーターと作用可能に連結して配置される核酸分子は,興味あるプロテオームタンパク質(すなわち,一次アレイに包含されるべきタンパク質)をコードするヌクレオチド配列,及びインテイン(intein)及び/ 又は高い免疫原性のペプチドをコードする1又は複数のヌクレオチド配列を含んで成る。
本明細書で使用される,用語「インテイン」とは,切断可能なタンパク質因子又はアフィニティーカラムから融合タンパク質の全部又は一部を回収するため,切断部位に連結された任意の数のタンパク質精製/濃縮タグを意味し,ベクタークローニング部位又は近接してコードされる。本発明の組み換えのペプチドにおけるインテインの包含物は,その上に共発現されている他の組換えアミノ酸配列から興味のある組み換えのプロテオームタンパク質又は断片それ自体の切断を容易にするものである。より好ましくは,興味ある組換えプロテオームタンパク質又はそのフラグメントをコードするヌクレオチド配列は,インテインをコードするヌクレオチド配列に隣接する。これは,興味ある組換えプロテオームタンパク質又はそのフラグメントそれ自体が,その発現及び続く精製に従って,予測できる長さのタンパク質として得ることができることを保証する。」(明細書29頁7行?30頁12行)

(刊1-7)「 一次アレイのタンパク質は好ましくは,モノクローナル抗体及び/ 又は抗体変異体又は誘導体によるスクリーニングを促進するために固体支持体又はマトリックスに結合される。前記固体支持体は典型的には,ガラス又はポリマーであり,最も通常使用されるポリマーは,セルロース,ポリアクリルアミド,ナイロン,ポリスチレン,ポリ塩化ビニル,又はポリプロピレンである。」(明細書35頁51?19行)

(刊1-8)「【請求項77】 医学的状態,慢性的病気,疾病又は免疫応答,又は前記医学的状態,慢性的病気又は疾病に関する素因についてヒト又は動物対象を診断する方法であって,
(i )請求項57?72のいずれか1項記載のアレイの一次アレイ及び/ 又は二次アレイのいずれか又は両者を,
(a )細胞,組織又は器官サンプル,体液サンプル,血液又は血清サンプル,又はいずれか1又は複数の前記サンプルの画分,誘導体又はタンパク質抽出物を含んで成る,前記対象に由来する生物学的サンプル;及び
(b )健康な個人に由来する生物学的標準により別々にスクリーンし;そして
(ii)前記生物学的サンプルについて検出されたタンパク質と,(i )での前記生物学的標準について検出されたタンパク質とを比較することを含んで成り,ここで前記生物学的サンプルと前記生物学的標準との間の差異が前記医学的状態,慢性的病気,疾病又は素因を示すことを含んで成る方法。」(112頁20行?113頁7行)

(刊1-9)「【請求項73】 医学的状態,慢性的病気,疾病もしくは免疫応答,又は前記医学的状態,慢性的病気もしくは疾病に関する素因についてヒト又は動物対象を診断する方法であって,
(i )細胞,組織又は器官サンプル,体液サンプル,血液又は血清サンプル,又はいずれか1又は複数の前記サンプルの画分,誘導体又はタンパク質抽出物を含んで成る,前記対象に由来する生物学的サンプルにより,請求項57?72のいずれか1項記載のアレイをスクリーンし;そして
(ii)健康な個人に由来する生物学的標準について検出されたタンパク質と,(i )での生物学的サンプルについて検出されたタンパク質とを比較することを含んで成り,ここで前記生物学的サンプルと前記生物学的標準との間の差異が前記医学的状態,慢性的病気,疾病又は素因を示すことを含んで成る方法。」(明細書112頁1?11行)

(刊1-10)「一般的に,一次アレイは,ゲノムによりコードされる抗原多様性の有意な部分を含む要素のスープである。それは非常に再現性が高く,そして患者の血清の大規模ウェスターンブロット,タンパク質:タンパク質相互作用の分析,さらなる研究,診断キット及び試薬の開発のための興味ある多量の組換えタンパク質の合成,及びアレイの個々の要素に関する細胞免疫応答のスクリーニングに使用され得る。一次アレイにおける要素のスープはまた,誘発された発現ライブラリーからも誘導され得,そして免疫化/ ワクチン接種のための接種物としても使用され得る。」(明細書16頁7?20行)

(刊1-11)「本明細書に記載される診断方法は,ヒト及び他の動物において疾病状態に関連する特定のタンパク質を解明し,このタンパク質はワクチン組成物を生成し,又は病状個人の変更されたタンパク質発現を補正する化合物を同定するために使用され得る。
従って,本発明のさらなる観点は,ヒト又は他の動物対象の治療又は予防処理のための組成物に拡張し,ここで前記組成物は,本発明の一次及びニ次アレイをスクリーニングすることによって同定され,好ましくは,続いて単離された,疾病発生及び/ 又は疾病感受性に関する一連のタンパク質要素及び/ 又は応答性抗体要素,及び医学的に許容できるキャリヤー又は希釈剤を含んで成る。」(明細書55頁15行?末行)

イ 刊行物1記載の発明
摘記(刊1-2)の請求項57記載された一次アレイに注目すると,該請求項57には,
「生物学的サンプルが由来する細胞,組織,器官,生物の抗原多様性の有意な部分をエミュレートするよう設計された多数のタンパク質要素を含んで成るタンパク質a^(1)_((Xn, Yn)), a^(2)_((Xn, Yn)), a^(3)_((Xn, Yn)), ・・・,a^(n) _((Xn, Yn))の一次アレイ。
(ここでa^(1), a^(2), a^(3),・・・, a ^(n) はタンパク質であり;Xnは前記アレイの第1次元に沿ってのいずれか特定のタンパク質の座標であり;Ynは前記アレイの第2 次元に沿ってのいずれか特定のタンパク質の座標であり;そしてn はいずれか正の有限数である)」
という一次アレイが記載されている。
そして,摘記(刊1-5)によると「好ましくは,一次アレイは,高密度タンパク質アレイであろう。本明細書において使用される場合,用語“高密度タンパク質アレイ”とは,・・・(略)・・・好ましくは少なくとも約500 個のタンパク質/cm^(2)を含んで成るアレイを意味する。」と記載されており,「少なくとも約500 個のタンパク質/cm^(2)」が上記一次アレイに搭載されていることは明白である。
また,摘記(刊1-5)には「高められた量のコードされるタンパク質又はペプチドを合成するために,IPTGにより誘発されるcDNAクローンを含む個々の細菌コロニーに由来する誘発された懸濁液の移行に適用されるような現在のロボット技法を用いれば,約30,000のタンパク質要素が,2つのグリッドロボットにより,1日当たり90の速度で達成される標準の96-ウェルマイクロタイタープレートの蓋内に配置されるか又はそれに結合される固体支持体に,約450 ミクロンのピッチで移行され得る」と記載されているから,一次アレイに移行されるタンパク質は,合成されたものであり,約30,000のタンパク質要素であることが理解される。

以上のことを整理すると,刊行物1には次の発明(以下,「刊行物1発明」という。)が記載されていると認められる。
「生物学的サンプルが由来する細胞,組織,器官,生物の抗原多様性の有意な部分をエミュレートするよう設計された多数のタンパク質要素を含んで成るタンパク質a^(1)_((Xn, Yn)), a^(2)_((Xn, Yn)), a^(3)_((Xn, Yn)), ・・・,a^(n) _((Xn, Yn))の一次アレイであって,
該タンパク質は,少なくとも約500タンパク質/cm^(2)の密度で,約30,000のタンパク質を該一次アレイに含み,かつ該一次アレイ上のタンパク質は合成されたものである一次アレイ。
(ここでa^(1), a^(2), a^(3),・・・, a ^(n) はタンパク質であり;Xnは前記アレイの第1次元に沿ってのいずれか特定のタンパク質の座標であり;Ynは前記アレイの第2 次元に沿ってのいずれか特定のタンパク質の座標であり;そしてn はいずれか正の有限数である)」

(2)対比
補正発明と刊行物1発明を対比する。
ア 刊行物1発明の「一次アレイ」は,摘記(刊1-7)に「 一次アレイのタンパク質は好ましくは,モノクローナル抗体及び/ 又は抗体変異体又は誘導体によるスクリーニングを促進するために固体支持体又はマトリックスに結合される。前記固体支持体は典型的には,ガラス又はポリマーであり,最も通常使用されるポリマーは,セルロース,ポリアクリルアミド,ナイロン,ポリスチレン,ポリ塩化ビニル,又はポリプロピレンである。」と記載されているようにガラスのような固体支持体,すなわち,基板に相当する材料を含むものである。よって,刊行物1発明の「一次アレイ」は,補正発明の「基板」に相当する材料を有することは明らかである。

摘記(刊1-6)には,「好ましくは,プロモーターと作用可能に連結して配置される核酸分子は,興味あるプロテオームタンパク質(すなわち,一次アレイに包含されるべきタンパク質)をコードするヌクレオチド配列,及びインテイン(intein)及び/ 又は高い免疫原性のペプチドをコードする1又は複数のヌクレオチド配列を含んで成る。
本明細書で使用される,用語「インテイン」とは,切断可能なタンパク質因子又はアフィニティーカラムから融合タンパク質の全部又は一部を回収するため,切断部位に連結された任意の数のタンパク質精製/濃縮タグを意味し,ベクタークローニング部位又は近接してコードされる。本発明の組み換えのペプチドにおけるインテインの包含物は,その上に共発現されている他の組換えアミノ酸配列から興味のある組み換えのプロテオームタンパク質又は断片それ自体の切断を容易にするものである。より好ましくは,興味ある組換えプロテオームタンパク質又はそのフラグメントをコードするヌクレオチド配列は,インテインをコードするヌクレオチド配列に隣接する。これは,興味ある組換えプロテオームタンパク質又はそのフラグメントそれ自体が,その発現及び続く精製に従って,予測できる長さのタンパク質として得ることができることを保証する。」と記載されている。
一次アレイに包含されるべきタンパク質,すなわち,「多数のタンパク質要素」は,当該タンパク質をコードするヌクレオチド配列の発現に続き精製されることが理解される。
よって,刊行物1発明の「多数のタンパク質要素」は,補正発明の「複数の精製タンパク質」に相当する。

刊行物1発明の「一次アレイ」上の「多数のタンパク質要素」は,「(a^(1), a^(2), a^(3),・・・, a ^(n) はタンパク質であり;Xnは前記アレイの第1次元に沿ってのいずれか特定のタンパク質の座標であり;Ynは前記アレイの第2 次元に沿ってのいずれか特定のタンパク質の座標であり;そしてn はいずれか正の有限数である)」という座標,すなわち,「a^(1)_((Xn, Yn)), a^(2)_((Xn, Yn)), a^(3)_((Xn, Yn)), ・・・,a^(n) _((Xn, Yn))」という座標,すなわち,位置指定されて設けられている。
よって,刊行物1発明の「多数のタンパク質要素を含んで成るタンパク質a^(1)_((Xn, Yn)), a^(2)_((Xn, Yn)), a^(3)_((Xn, Yn)), ・・・,a^(n) _((Xn, Yn))の一次アレイ」は,補正発明の「基板上の異なる位置に」「複数の精製タンパク質を含んでなる,位置指定可能なアレイ」に相当する。

刊行物1発明の「一次アレイ」におけるタンパク質の密度は,「約500 個のタンパク質/cm^(2)」である。
これに対して,補正発明のタンパク質の密度は,「少なくとも約1000タンパク質/cm^(2)」である。

以上のことを総合すると,刊行物1発明の「多数のタンパク質要素を含んで成るタンパク質a^(1)_((Xn, Yn)), a^(2)_((Xn, Yn)), a^(3)_((Xn, Yn)), ・・・,a^(n) _((Xn, Yn))の一次アレイ」であって,「該タンパク質は,少なくとも約500タンパク質/cm^(2)の密度」の一次アレイと,補正発明の「基板上の異なる位置に少なくとも約1000タンパク質/cm^(2)の密度でそれぞれ存在する複数の精製タンパク質を含んでなる,位置指定可能なアレイ」とは,「基板上の異なる位置に所定の密度でそれぞれ存在する複数の精製タンパク質を含んでなる,位置指定可能なアレイ」という点で共通する。

イ 刊行物1発明の「生物学的サンプルが由来する細胞,組織,器官,生物の抗原多様性の有意な部分をエミュレートするよう設計された多数のタンパク質要素」について,WEBSARU Dictionary URL:http://ja.websaru.info/emulate.html によれば,エミュレートとは,「と張り合う,と競う,の向こうを張る,熱心に見習う,まねる,張り合う,見習う」ことを意味し,「生物学的サンプルが由来する細胞,組織,器官,生物の抗原多様性の有意な部分をまねる,すなわち,模すよう設計された多数のタンパク質要素」と理解される。
そして,摘記(刊1-4)の「 一次アレイ及び二次アレイを構成するタンパク質又は抗体の正確な数は,プロテオームが関連する,細胞,組織,器官又は生物源の抗原多様性に依存するであろう。従って,現在記載されるアレイ(すなわち,一次及び二次アレイ)に関しては,nの値は,本発明のアレイが由来する種のプロテオームの複雑性に依存して変化するであろう。」との記載事項からみて,「細胞,組織,器官,生物の抗原多様性の有意な部分エミュレートする」のに必要なタンパク質の数nは,種のプロテオームの複雑性に依存するものであり,「種」のプロテオーム,すなわち,単一の種において発現されるタンパク質であるということができる。

また,刊行物1発明のタンパク質は,分類がなされたものとは特定されてないものの「約30,000のタンパク質を該一次アレイ」に含むものである。そうすると,刊行物1発明の「約30,000のタンパク質要素」と,補正発明の「少なくとも1000の分類された精製タンパク質」とは,「少なくとも1000の精製タンパク質」という点で共通する。

以上のことをまとめると,刊行物1発明の「約30,000のタンパク質」の一次アレイに含まれる「生物学的サンプルが由来する細胞,組織,器官,生物の抗原多様性の有意な部分をエミュレートするよう設計された多数のタンパク質要素」と,補正発明の「該複数の精製タンパク質が単一の種において発現される少なくとも1000の分類された精製タンパク質を含み,かつ該アレイ上の各精製タンパク質」とは,「該複数の精製タンパク質が単一の種において発現される少なくとも1000の精製タンパク質」という点で共通する。

ウ 刊行物1発明のタンパク質は,「合成されたもの」であるが,適正な合成,折りたたみおよび翻訳後修飾については,刊行物1に特段言及されておらず,刊行物1発明の「タンパク質」は,適正な合成,折りたたみおよび翻訳後修飾がなされているか不明である。
よって,刊行物1発明の「該一次アレイ上のタンパク質は合成されたもの」であることと,補正発明の「各精製タンパク質は適正な合成,折りたたみおよび翻訳後修飾がされたもの」であることとは,「各精製タンパク質は合成されたもの」であるという点で共通する。

エ 小括
以上のことを総合すると,両発明は,次の(一致点)並びに(相違点1)?(相違点3)を有する。

(一致点)
「基板上の異なる位置に少なくとも所定の密度でそれぞれ存在する複数の精製タンパク質を含んでなる,位置指定可能なアレイであって,該複数の精製タンパク質が単一の種において発現される少なくとも1000の精製タンパク質を含み,かつ該アレイ上の各精製タンパク質は合成されたものである,上記アレイ。」

(相違点1)
所定の密度が,補正発明では「少なくとも約1000タンパク質/cm^(2)」であるのに対して,刊行物1発明では「少なくとも約500タンパク質/cm^(2)」である点。

(相違点2)
単一の種において発現される少なくとも1000の精製タンパク質が,補正発明では「分類された」ものであるのに対して,刊行物1発明では分類されたものであるか不明な点。

(相違点3)
精製タンパク質が,補正発明では「適正な合成,折りたたみおよび翻訳後修飾がされたもの」であるのに対して,刊行物1発明では,合成されているものの,それらが適正な合成,折りたたみおよび翻訳後修飾がされたものであるか,不明である点。

(3)検討・判断
そこで,上記相違点について順に検討する。
ア 相違点1について
刊行物1の摘記(刊1-5)には,「好ましくは,一次アレイは,高密度タンパク質アレイであろう。本明細書において使用される場合,用語“高密度タンパク質アレイ”とは,少なくとも約10個のタンパク質/cm^(2), より好ましくは少なくとも約50個のタンパク質/cm^(2), さらにより好ましくは少なくとも約100 個のタンパク質/cm^(2), そしてさらにより好ましくは少なくとも約500 個のタンパク質/cm^(2)を含んで成るアレイを意味する。
・・・(略)・・・より高い密度が達成され得るが,しかし1日の生産速度は遅くなる。
従って,100 ,好ましくは1000,より好ましくは10,000,及びさらにより好ましくは100,000 のタンパク質が,一次アレイに含まれ得る。当業者は,技術的に実現可能であるとして,高い密度程,一次アレイの提供の,時間節約と費用-効果に関する利点を認識するであろう。」と記載されている。
刊行物1には,「好ましくは少なくとも約500 個のタンパク質/cm^(2)」と密度が例示されているが,「より高い密度が達成され得るが,しかし1日の生産速度は遅くなる」ものの,「一次アレイに含まれ得る。密度程,一次アレイの提供の,時間節約と費用-効果に関する利点を認識するであろう。」と,より高い密度が利点をもたらすことが示唆されている。
しかも,例えば,タンパク質アレイに関する総説である下記刊行物Aに,10,000タンパク質/cm^(2)のタンパク質アレイが記載されているように,本願優先権主張日前から1000タンパク質/cm^(2)以上のタンパク質アレイが周知にものとなっていた。
そうすると,刊行物1発明において,上記刊行物1記載の示唆に従い,より高い密度の「少なくとも約1000タンパク質/cm^(2)」とすることで,相違点1に記載の補正発明の特定事項のごとくすることは,当業者が難なくなし得たことといえる。

刊行物A:Stetten Nock, Julie Heinrchi, Lawrence K. Cohen, Peter Wagner, 翻訳:山崎大輔,実験医学(増刊) プロテオーム研究とシグナル蛋白ドメイン 次世代のシグナル伝達研究,vol.18, no. 18, 2000年11月20日, p.56-59
(刊A-1)「図4 考え得るプロテインバイトチップの例
1cm×1cmの範囲の中に,10,000の蛋白質を小さな柱の上に固定することができる。特別に設計されたディスペンサーと組合わせると,蛋白質を柱の上に平行に置くことができる。」(56頁 図4の説明文)

イ 相違点2について
(ア)理由1
補正発明の「分類」について,補正発明においては,特段「分類」の定義がなされていない。
刊行物1発明を認定した基礎となる請求項57を引用する請求項73(摘記(刊1-9))及び請求項77(摘記(刊1-8))に「(i )請求項57?72のいずれか1項記載のアレイの一次アレイ及び/ 又は二次アレイのいずれか又は両者を・・・(略)・・・医学的状態,慢性的病気,疾病もしくは免疫応答,又は前記医学的状態,慢性的病気もしくは疾病に関する素因についてヒト又は動物対象を診断する方法」が記載されている。このことから,刊行物1発明の「一次アレイ」が,請求項73又は請求項77に記載の診断方法に使用し得ることは明白である。
ここでいう,疾病毎に,一次アレイにより検出されるタンパク質は異なるから,疾病状態とは,一種の「分類」ということもできる。
そうすると,刊行物1発明の「一次アレイ」に含まれる「タンパク質要素」に,疾病状態との関連の情報を付加することで分類し,補正発明のごとく「分類された精製タンパク質」とすることは,上記刊行物1記載の事項から,当業者が至極容易になし得たことといえる。
そして,一つの疾病状態でも複数のタンパク質が関連することもあるだろうし,刊行物1発明を刊行物1記載の請求項73又は請求項77の診断方法に用いるのであれば様々な疾病に対応する必要があることは明白であるから,刊行物1発明において,様々な疾病状態に関連するタンパク質の情報を積み重ね,補正発明のごとく「少なくとも1000の分類された精製タンパク質」とすることは,当業者が適宜なし得る設計的事項といえる。

(イ)理由2
補正発明の「分類された精製タンパク質」について,本願明細書の請求項4には,次のように記載されている。
「【請求項4】前記分類が存在量,機能,酵素活性,相同性,タンパク質ファミリー,特定の代謝経路との関連性,または翻訳後修飾によるものである,請求項3に記載のアレイ。」
この記載事項からみて,補正発明の「分類」には,「存在量,機能,酵素活性,相同性,タンパク質ファミリー,特定の代謝経路との関連性,または翻訳後修飾」が少なくとも含まれると解される。
タンパク質であれば,特定の機能を有すること,また,タンパク質が酵素であれば特定の活性を有し,代謝経路と関連するものが有することは,例示するまでもなく本願優先権主張日前から周知の事項である。また,タンパク質は,特定の相同性を持ったモチーフを有する一群のファミリーを形成するものが有ることも本願優先権主張日前から周知の事項である。
そこで,検討するに,一般的に多数のものを扱うときは,分類し整理することが慣用されている。刊行物1発明は「約30,000のタンパク質」という多数のタンパク質を一次アレイに含むものであるから,刊行物1発明において,整理するため,上記タンパク質の機能,酵素活性,代謝経路との関連性,相同性,タンパク質ファミリーといった分類をして,補正発明のごとく「少なくとも1000の分類された精製タンパク質」とすることは,当業者が適宜なし得る設計的事項といえる。

(ウ)小括
上記「(ア)理由1」に記したように,補正発明の「分類」に疾病状態との関連の情報が含まれるとすると,刊行物1発明において,補正発明のごとく「少なくとも1000の分類された精製タンパク質」とすることは,当業者が適宜なし得る設計的事項といえる。
また,上記「(イ)理由2」に記したように,補正発明の「分類」には,「存在量,機能,酵素活性,相同性,タンパク質ファミリー,特定の代謝経路との関連性,または翻訳後修飾」が少なくとも含まれることから,刊行物1発明において,整理するため,上記タンパク質の機能,酵素活性,代謝経路との関連性,相同性,タンパク質ファミリーといった分類をして,補正発明のごとく「少なくとも1000の分類された精製タンパク質」とすることは,当業者が適宜なし得る設計的事項といえる。
いずれの理由にせよ,相違点2は,当業者が適宜なし得る設計的事項といえる。

ウ 相違点3について
一般的に,タンパク質は,適正な合成,折りたたみおよび翻訳後修飾がされたものでないと,活性が正常のものと異なることがあることは例示するまでもなく技術常識である。また,折りたたみが,エピトープ,すなわち,抗原決定部位における反応性に影響を与えることは,本願優先権主張日前から技術常識となっていたことであるし(必要なら,下記刊行物Bを参照されたい。),翻訳後修飾された部位がエピトープとなることがあり得ることも自明なことである。

したがって,刊行物1発明は「生物学的サンプルが由来する細胞,組織,器官,生物の抗原多様性の有意な部分をエミュレート」することを特定事項とするものであり,適正な合成,折りたたみおよび翻訳後修飾がされたタンパク質が望ましいことはいうまでもないことである。
ましてや,上記「第2 3 (2)イ(ア)理由1」に記したように,刊行物1発明は,刊行物1の請求項77(摘記(刊1-8)参照)の如く「ヒト又は動物対象を診断」に適用し得るものであり,誤診がないようにするため,なおさら適正な折りたたみや翻訳後修飾されたタンパク質が望まれているといる。

他方,下記刊行物C?Eに記載のように,適正な折りたたみ,適正な翻訳後修飾したタンパク質合成が,哺乳動物細胞を使用することで可能となることが本願優先権主張日前より周知の技術的事項となっている。また,哺乳動物細胞を使用することで,精製後のタンパク質の再折りたたみが不要となることも,例えば刊行物Fに記載のように本願優先権主張日前より周知の技術的事項となっている。

そうすると,刊行物1発明において,適正な検出や診断ができるようにすべく,精製タンパク質を適正な合成,折りたたみ及び翻訳修飾されたものとする上記周知の技術的事項を適用して,相違点3に記載の補正発明のごとく構成することは,当業者が容易になし得たことといえる。

刊行物B:特表平11-514852号公報
(刊B-1)「次いで,これらの配列を組換え法によって産生させる。組換え産生については,エピトープをコードするDNAをベクターに導入し,次いでこれを用いて所望のアミノ酸配列を発現させるように適当な宿主細胞を形質転換する。細菌,昆虫,酵母および哺乳類細胞は全て適当な宿主となるが,蛋白質の折りたたみがエピトープの反応性の重要な要因である場合には,真核細胞が好ましい宿主であると考えられる。」(31頁12?17行)

刊行物C:特表平2001-503860号公報
(刊C-1)「 哺乳動物細胞は,正しい部位での正しい折り畳みまたはグリコシル化を含むタンパク質分子に,翻訳後修飾を提供する。宿主として有用であり得る哺乳動物細胞には,NIH 3T3,VEROまたはCHOのような線維芽細胞起源の細胞(しかし,これらに限定されない),またはハイブリドーマSP2/O-Ag14またはマウスミエローマP3-X63Ag8,ハムスター細胞系(例えば,CHO-K1および始原細胞,例えば,CHO-DUXB11)およびその誘導体のような(しかし,これらに限定されない)リンパ球を起源とする細胞が含まれる。哺乳動物細胞の好ましい型の一つは,インビボで,遺伝的に欠損した細胞の機能を置換することが意図される細胞である。」(49頁1?8行)

刊行物D:国際公開第01/29204号
なお,翻訳は対応日本出願の公開公表である特表2003-512051号公報による。
(刊D-1)「【0003】
原核細胞培養系は,維持が容易で操作に要する費用が安い。しかし,原核細胞では,真核生物タンパク質の翻訳後修飾が不可能である。さらに,異常な折り畳み構造となるタンパク質が多く,それらを再度折り畳みなおす特別な手順が必要となり,産生の経費が嵩む。
【0004】
真核細胞培養系では多くの適用について記載されている。例えば,哺乳動物細胞は,翻訳後修飾が可能であり,一般に正常に折り畳まれた可溶性タンパク質を生産できる。哺乳動物細胞系の最も大きな欠点は,特化された高価な培養設備が必要であり,かつ全培養物を消失することになる感染の危険があることである。」

刊行物E:国際公開第99/16877号
なお,翻訳は対応日本出願の公開公表である特表2001-518297号公報による。
(刊E-1)「【0024】
宿主細胞は,原核生物細胞または真核生物細胞のいずれかであろう。正確な折り畳み又は適当な位置のグリコシル化を含む翻訳後修飾をタンパク質分子に提供するためには,真核生物宿主,例えば,ヒト,サル,マウスおよびチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞のような哺乳動物細胞が好ましい。また,酵母細胞は,グリコシル化を含む翻訳後ペプチド修飾を遂行することができる。酵母内で,所望のタンパク質の生成に利用することのできる,強力なプロモーター配列および高コピー数のプラスミドを利用する,数多くの組換えDNAストラテジーが存在する。酵母は,クローン化された哺乳動物遺伝子生成物上のリーダー配列を認識し,リーダー配列を持つペプチド(即ちプレペプチド)を分泌する。」(明細書4頁26行?5頁3行)

刊行物F:国際公開第00/6605号
なお,翻訳は対応日本出願の公開公表である特表2002-521053号公報による。
(刊F-1)「【0016】
本発明に従う「十分に機能性の」とは,大腸菌への封入体として発現させるタンパク質等とは対照的に,培養物上澄みに哺乳動物宿主細胞により分泌された本発明の化合物が,精製の後,タンパク質再折り畳みをまったく必要しない,すなわち,本発明の化合物のサブユニットがすべて正しくフォールディングされ,従って,哺乳動物宿主細胞で発現され,該細胞により分泌されるだけで,その特定の機能を発現することを意味する。」(明細書5頁17?22行)

エ 本願発明の効果について
本願発明の効果は,刊行物1及び上記周知の技術的事項に基づいて,当業者が予測し得るものであって,格別顕著なものとはいえない。

(4)補正却下のむすび
したがって,補正発明は,刊行物1に記載された発明及び上記周知の技術的事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
以上のとおり,本件補正は,平成18年改正前の特許法17条の2第5項で準用する同法126条5項の規定に違反するものであり,同法159条1項で準用する同法53条1項の規定により却下されるべきものである。

第3 本願発明について
本件補正は上記のとおり却下されたので,本願の請求項1に係る発明(以下,「本願発明」という。)は,平成20年8月20日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される,以下のとおりのものであると認められる。
「【請求項1】
基板上の異なる位置に少なくとも約100タンパク質/cm^(2)の密度でそれぞれ存在する複数の精製タンパク質を含んでなる,位置指定可能なアレイであって,該複数の精製タンパク質が単一の種において発現される少なくとも1000の分類された精製タンパク質を含み,かつ該アレイ上の各精製タンパク質は適正な合成,折りたたみおよび翻訳後修飾がされたものである,上記アレイ。」

1 刊行物,刊行物1記載の事項及び刊行物1記載の発明
原査定の拒絶の理由に引用され,本願優先権主張日前に頒布された刊行物,その記載事項及び刊行物1記載の発明は,前記「第2 3(1)引用刊行物及び引用刊行物記載の事項」に記載したとおりである。

2 対比・判断
本願発明は,上記「第2 3 独立特許要件について」で検討した補正発明の限定事項である「少なくとも約1000タンパク質/cm^(2)の密度」を,「少なくとも約100タンパク質/cm^(2)の密度」として,範囲を拡張したものに相当する。
そうすると,本願発明の構成要件をすべて含み,さらに他の構成要件を付加したものに相当する補正発明が,上記「第2 3(3)検討・判断」に記載したとおり,刊行物1記載の発明及び周知の技術的事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,本願発明も同様の理由により,刊行物1記載の発明及び周知の技術的事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである。

3 むすび
したがって,本願発明は,刊行物1に記載された発明及び上記周知の技術的事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものであり,本願発明,他の請求項に係る発明について検討するまでもなく拒絶すべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-01-27 
結審通知日 2012-01-31 
審決日 2012-02-13 
出願番号 特願2002-589035(P2002-589035)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G01N)
P 1 8・ 575- Z (G01N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 山村 祥子加々美 一恵  
特許庁審判長 郡山 順
特許庁審判官 秋月 美紀子
齊藤 真由美
発明の名称 プロテオームチップを用いるタンパク質活性の包括的分析  
代理人 田中 夏夫  
代理人 石井 貞次  
代理人 藤田 節  
代理人 新井 栄一  
代理人 平木 祐輔  

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