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審決分類 |
審判 全部無効 2項進歩性 F16C |
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管理番号 | 1259972 |
審判番号 | 無効2009-800198 |
総通号数 | 153 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2012-09-28 |
種別 | 無効の審決 |
審判請求日 | 2009-09-11 |
確定日 | 2012-07-17 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 上記当事者間の特許第4305562号「転がり軸受装置」の特許無効審判事件についてされた平成22年 8月 3日付け審決に対し、東京高等裁判所において審決取消の判決(平成22年(行ケ)第10293号平成22年11月26日判決言渡)があったので、さらに審理のうえ、次のとおり審決する。 |
結論 | 訂正を認める。 特許第4305562号の請求項1ないし3に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 |
理由 |
1.手続の経緯 (1)本件特許第4305562号の請求項1ないし3に係る発明(以下、「本件特許発明1」ないし「本件特許発明3」という。)についての出願は、平成14年9月17日に出願された特願2002-270208号の一部を、平成20年7月7日に特許法第44条第1項の規定に基づいて新たな出願としたものであって、平成21年5月15日にその発明について特許権の設定登録がなされたものである。 (2)これに対して、平成21年9月11日付けで請求人篠山明男より、本件特許発明1ないし本件特許発明3の特許を無効とするとの審決を求める無効審判の請求がなされた。 (3)被請求人株式会社ジェイテクトは、平成21年12月18日付けで訂正請求書を提出して訂正を求めるとともに、同日付けで答弁書(以下、「第1回答弁書」という。)を提出した。 (4)請求人は、平成22年3月10日付けで弁駁書(以下、「第1回弁駁書」という。)を提出した。 (5)その後、当審は、平成22年5月27日に口頭審理を開廷すべく、口頭審理を実施する際の口頭審理陳述要領書の作成にあたって、当審から請求人及び被請求人に対して、平成22年4月15日付け陳述要望事項(「無効2009-800198号の口頭審理陳述要領書の作成に関するお願い」)をファクシミリにより送付した上で、上記口頭審理の期日の2週間前までに、上記陳述要望事項に沿った陳述を含む口頭審理陳述要領書の提出を求めたところ、請求人から平成22年5月13日付けで口頭審理陳述要領書の写しがファクシミリで提出され、また、被請求人から上記期日の3日前である平成22年5月24日付けで口頭審理陳述要領書の写しがファクシミリで提出された。 (6)そして、当審により平成22年5月27日の期日に口頭審理が公開で開廷され、請求人は平成21年9月11日付け審判請求書、第1回弁駁書及び平成22年5月27日付け口頭審理陳述要領書に基づいて陳述し、また、被請求人は、第1回答弁書、平成21年12月18日付け訂正請求書及び平成22年5月27日付け口頭審理陳述要領書に基づいて陳述をした。 (7)口頭審理を実施した後、請求人は平成22年6月8日付けで上申書(以下、「請求人上申書」という。)を提出し、被請求人は平成22年6月11日付けで上申書(以下、「被請求人上申書」という。)を提出した。 (8)そして、平成22年8月3日付けで請求項1ないし3に係る発明についての特許を無効とする旨の審決がなされた。 (9)これに対し、被請求人は、平成22年9月10日付けで審決の取消しを求める訴え(平成22年(行ケ)第10293号)を知的財産高等裁判所に提起し、その後90日の期間内である同年11月9日付けで特許請求の範囲の減縮及び明りょうでない記載の釈明を目的とする訂正審判(訂正2010-390108号)を請求したところ、当該裁判所は、平成22年11月26日付けで、特許法181条2項の規定を適用して審決の取消しの決定をした。 (10)その後、被請求人は同法第134条の3第2項により指定された期間内である平成22年12月17日付けで答弁書(以下、「第2回答弁書」という。)を提出するとともに、平成22年12月17日付けで訂正請求書を提出して訂正(以下、「本件訂正」という。)を求めた。なお、これにより、上記同年11月9日付けの訂正審判は、同法第134条の3第4項の規定により、取り下げられたものとみなし、平成21年12月18日にされた訂正請求は、特許法第134条の2第4項の規定により取り下げられたものとみなす。 (11)これに対し、請求人は、平成23年2月4日に弁駁書(以下、「第2回弁駁書」という。)を提出した。 2.訂正の可否に対する判断 2-1.訂正の内容 本件訂正の内容は、本件特許の願書に添付した明細書(以下、「本件特許明細書」という。)を平成22年12月17日付け訂正請求書に添付した訂正明細書のとおりに訂正しようとするものである。すなわち、明細書を次のとおり訂正することを求めるものである。 (1)訂正事項1 特許明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載された 「軸方向一方側の外周面にフランジを有し、軸方向他方側の外周面に軸方向二列の第1、第2内輪軌道面を有する内輪部材と、 内周面に前記内輪部材の二列の第1、第2内輪軌道面と径方向でそれぞれ対向する軸方向二列の第1、第2外輪軌道面を有し、前記第1外輪軌道面より軸方向他方側における外周面にフランジを有する外輪部材と、 前記外輪部材の第1、第2外輪軌道面と前記内輪部材の第1、第2内輪軌道面との間に介装される軸方向二列の第1、第2転動体群とを含み、 前記内輪部材のフランジと前記外輪部材のフランジとの間において、前記第1転動体群のピッチ円直径D_(1)と、前記第2転動体群のピッチ円直径D_(2)との関係が、D_(1)>D_(2)に設定され、 前記D_(1)と前記D_(2)との関係が、D_(1)≦1.49×D_(2)に設定されており、 前記第1転動体群の各転動体の直径が小さく設定されているとともに、前記第1転動体群の転動体数が増大されている転がり軸受装置。」とあるのを、 「軸方向一方側の外周面に車両アウタ側のフランジを有するハブ軸と、前記ハブ軸の軸方向他方側の外周面に一体回転可能に嵌合装着された内輪とからなり、前記ハブ軸の軸方向他方側の外周面および前記内輪の外周面に軸方向二列の第1、第2内輪軌道面を有する内輪部材と、 内周面に前記内輪部材の二列の第1、第2内輪軌道面と径方向でそれぞれ対向する軸方向二列の第1、第2外輪軌道面を有し、前記第1外輪軌道面より軸方向他方側における外周面に車両インナ側のフランジを有する外輪部材と、 前記外輪部材の第1、第2外輪軌道面と前記内輪部材の第1、第2内輪軌道面との間に介装される軸方向二列の第1、第2転動体群とを含み、 前記内輪部材のフランジと前記外輪部材のフランジとの間において、車両アウタ側の前記第1転動体群のピッチ円直径D_(1)と、車両インナ側の前記第2転動体群のピッチ円直径D_(2)との関係が、D_(1)>D_(2)に設定され、前記内輪部材のフランジと前記外輪部材のフランジとの間にできる自由空間を有効利用して車両アウタ側の前記第1転動体群のピッチ円直径D_(1)を大きく設定し、 前記D_(1)と前記D_(2)との関係が、D_(1)≦1.49×D_(2)に設定されており、 前記第1、第2転動体群の転動体の直径が同じ場合に比べて、さらに軸受負荷中心間距離の増大を図るように、前記第1転動体群の各転動体の直径が前記第2転動体群の転動体の直径よりも小さく設定されているとともに、 前記第1転動体群の転動体数が前記第2転動体群の転動体の数よりも増大されている転がり軸受装置。」と訂正する。 (訂正箇所は下線で示した。以下同様。) (2)訂正事項2 特許明細書の段落【0005】の 「本発明の転がり軸受装置は、軸方向一方側の外周面にフランジを有し、軸方向他方側の外周面に軸方向二列の第1、第2内輪軌道面を有する内輪部材と、内周面に前記内輪部材の二列の第1、第2内輪軌道面と径方向でそれぞれ対向する軸方向二列の第1、第2外輪軌道面を有し、前記第1外輪軌道面より軸方向他方側における外周面にフランジを有する外輪部材と、前記外輪部材の第1、第2外輪軌道面と前記内輪部材の第1、第2内輪軌道面との間に介装される軸方向二列の第1、第2転動体群とを含み、前記内輪部材のフランジと前記外輪部材のフランジとの間において、前記第1転動体群のピッチ円直径D_(1)と、前記第2転動体群のピッチ円直径D_(2)との関係が、D_(1)>D_(2)に設定され、前記D_(1)と前記D_(2)との関係が、D_(1)≦1.49×D_(2)に設定されており、前記第1転動体群の各転動体の直径が小さく設定されているとともに、前記第1転動体群の転動体数が増大されている。」とあるのを、 「本発明の転がり軸受装置は、軸方向一方側の外周面に車両アウタ側のフランジを有するハブ軸と、前記ハブ軸の軸方向他方側の外周面に一体回転可能に嵌合装着された内輪とからなり、前記ハブ軸の軸方向他方側の外周面および前記内輪の外周面に軸方向二列の第1、第2内輪軌道面を有する内輪部材と、内周面に前記内輪部材の二列の第1、第2内輪軌道面と径方向でそれぞれ対向する軸方向二列の第1、第2外輪軌道面を有し、前記第1外輪軌道面より軸方向他方側における外周面に車両インナ側のフランジを有する外輪部材と、前記外輪部材の第1、第2外輪軌道面と前記内輪部材の第1、第2内輪軌道面との間に介装される軸方向二列の第1、第2転動体群とを含み、前記内輪部材のフランジと前記外輪部材のフランジとの間において、車両アウタ側の前記第1転動体群のピッチ円直径D_(1)と、車両インナ側の前記第2転動体群のピッチ円直径D_(2)との関係が、D_(1)>D_(2)に設定され、前記内輪部材のフランジと前記外輪部材のフランジとの間にできる自由空間を有効利用して車両アウタ側の前記第1転動体群のピッチ円直径D_(1)を大きく設定し、前記D_(1)と前記D_(2)との関係が、D_(1)≦1.49×D_(2)に設定されており、前記第1、第2転動体群の転動体の直径が同じ場合に比べて、さらに軸受負荷中心間距離の増大を図るように、前記第1転動体群の各転動体の直径が前記第2転動体群の転動体の直径よりも小さく設定されているとともに、前記第1転動体群の転動体数が前記第2転動体群の転動体の数よりも増大されている。」と訂正する。 (3)訂正事項3 特許明細書の段落【0007】の 「本発明の転がり軸受装置では、内輪部材のフランジと外輪部材のフランジとの間にできる自由空間を有効利用して軸方向一方側の転動体群のピッチ円直径を、軸方向他方側に比べて大きく設定している。そのため、各列の転動体群同士の軸受負荷中心間距離を増大させることができる。その結果、装置の大型化を避けつつ、転がり軸受装置の高剛性化および長寿命化を図ることができる。」とあるのを、 「本発明の転がり軸受装置では、内輪部材のフランジと外輪部材のフランジとの間にできる自由空間を有効利用して車両アウタ側の転動体群のピッチ円直径を、車両インナ側に比べて大きく設定している。そのため、各列の転動体群同士の軸受負荷中心間距離を増大させることができる。その結果、装置の大型化を避けつつ、転がり軸受装置の高剛性化および長寿命化を図ることができる。」と訂正する。 (4)訂正事項4 特許明細書の段落【0022】の 「本参考例では、次の構成を有することを特徴とする。すなわち、上述した構成を有する転がり軸受装置100の場合、外輪1のフランジ14の車両インナ側が車両の一部であるナックル(不図示)に固定され、ハブ軸2のフランジ15の車両アウタ側に車輪(不図示)が取り付けられる。このとき、外輪1のフランジ14とハブ軸2のフランジ15との間には環状の自由空間11が存在する。本実施形態では、この環状の自由空間11に着目して、図1に示すように、車両アウタ側の玉群4のピッチ円直径D_(1)と、車両インナ側の玉群5のピッチ円直径D_(2)との関係をD_(1)>D_(2)に設定している。但し、このD_(1)>D_(2)の関係は、D_(1)を大きく設定することにより実現し、D_(2)は一定とする。これに伴い、ハブ軸2の軌道面16を内輪3の軌道面17よりも拡径し、あわせて外輪1の車両アウタ側の軌道面12を車両インナ側の軌道面13よりも拡径している。」とあるのを、 「本参考例では、次の構成を有することを特徴とする。すなわち、上述した構成を有する転がり軸受装置100の場合、外輪1のフランジ14の車両インナ側が車両の一部であるナックル(不図示)に固定され、ハブ軸2のフランジ15の車両アウタ側に車輪(不図示)が取り付けられる。このとき、外輪1のフランジ14とハブ軸2のフランジ15との間には環状の自由空間11が存在する。本発明の前提となる一実施形態では、この環状の自由空間11に着目して、図1に示すように、車両アウタ側の玉群4のピッチ円直径D_(1)と、車両インナ側の玉群5のピッチ円直径D_(2)との関係をD_(1)>D_(2)に設定している。但し、このD_(1)>D_(2)の関係は、D_(1)を大きく設定することにより実現し、D_(2)は一定とする。これに伴い、ハブ軸2の軌道面16を内輪3の軌道面17よりも拡径し、あわせて外輪1の車両アウタ側の軌道面12を車両インナ側の軌道面13よりも拡径している。」と訂正する。 (5)訂正事項5 特許明細書の段落【0037】の 「(1)図3は、本発明の他の実施形態に係る転がり軸受装置の全体構成を示す断面図、図4は、図3の転がり軸受装置の上半分断面図、図5は、車両アウタ側の玉の配列を示す説明図である。図3で軸方向左側は車両アウタ側(軸方向一方側)を、軸方向右側は車両インナー側(軸方向他方側)を示す。」とあるのを、 「(1)図3は、本発明の実施形態に係る転がり軸受装置の全体構成を示す断面図、図4は、図3の転がり軸受装置の上半分断面図、図5は、車両アウタ側の玉の配列を示す説明図である。図3で軸方向左側は車両アウタ側(軸方向一方側)を、軸方向右側は車両インナー側(軸方向他方側)を示す。」と訂正する。 (6)訂正事項6 特許明細書の段落【0051】の 「(2)図6は、本発明のさらに他の実施形態に係る転がり軸受装置の全体構成を示す断面図である。」とあるのを、 「(2)図6は、本発明のさらに他の参考例に係る転がり軸受装置の全体構成を示す断面図である。」と訂正する。 (7)訂正事項7 特許明細書の段落【0063】の 「(3)本発明は、図7で示すように、駆動輪側の転がり軸受装置300にも適用することができる。」とあるのを、 「(3)本発明の前提となる一実施形態は、図7で示すように、駆動輪側の転がり軸受装置300にも適用することができる。」と訂正する。 (8)訂正事項8 特許明細書の段落【0065】の 「(4)本発明は、図8で示すように、ハブ軸2の外周面に軸方向一対の内輪3a、3bを嵌合装着した転がり軸受装置400にも適用することができる。」とあるのを、 「(4)図8は、ハブ軸2の外周面に軸方向一対の内輪3a、3bを嵌合装着した転がり軸受装置400に適用した参考例を示している。」と訂正する。 (9)訂正事項9 特許明細書の段落【0066】の 「また、このような形式の転がり軸受装置において、図9に示すように、転動体群を円錐ころ群18、19とすることもできる。この場合、車両アウタ側の各円錐ころ18の径を小さくしてもよい。」とあるのを、 「また、このような形式の転がり軸受装置において、参考例として、図9に示すように、転動体群を円錐ころ群18、19とするものがある。この場合、車両アウタ側の各円錐ころ18の径を小さくしてもよい。」と訂正する。 (10)訂正事項10 特許明細書の【0067】の 「【図1】本発明の参考例に係る転がり軸受装置の全体構成を示す断面図 【図2】図1の転がり軸受装置の上半分断面図 【図3】本発明の他の実施形態に係る転がり軸受装置の全体構成を示す断面図 【図4】図3の転がり軸受装置の上半分断面図 【図5】車両アウタ側の玉の配列を示す説明図 【図6】本発明の他の実施形態に係る転がり軸受装置の全体構成を示す断面図 【図7】本発明の他の実施形態に係る転がり軸受装置の全体構成を示す断面図 【図8】本発明の他の実施形態に係る転がり軸受装置の上半分を示す断面図 【図9】本発明の他の実施形態に係る転がり軸受装置の上半分を示す断面図 【図10】従来の転がり軸受装置の全体構成を示す断面図」とあるのを、 「【図1】本発明の参考例に係る転がり軸受装置の全体構成を示す断面図 【図2】図1の転がり軸受装置の上半分断面図 【図3】本発明の実施形態に係る転がり軸受装置の全体構成を示す断面図 【図4】図3の転がり軸受装置の上半分断面図 【図5】車両アウタ側の玉の配列を示す説明図 【図6】本発明の他の参考例に係る転がり軸受装置の全体構成を示す断面図 【図7】本発明の前提となる実施形態に係る転がり軸受装置の全体構成を示す断面図 【図8】本発明の他の参考例に係る転がり軸受装置の上半分を示す断面図 【図9】本発明の他の参考例に係る転がり軸受装置の上半分を示す断面図 【図10】従来の転がり軸受装置の全体構成を示す断面図」と訂正する。 2-2.判断 (1)訂正事項1について 訂正事項1は、訂正前の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「軸方向一方側の外周面にフランジを有し、軸方向他方側の外周面に軸方向二列の第1、第2内輪軌道面を有する内輪部材」を、「軸方向一方側の外周面に車両アウタ側のフランジを有するハブ軸と、前記ハブ軸の軸方向他方側の外周面に一体回転可能に嵌合装着された内輪とからなり、前記ハブ軸の軸方向他方側の外周面および前記内輪の外周面に軸方向二列の第1、第2内輪軌道面を有する内輪部材」と限定し、同じく「前記第1外輪軌道面より軸方向他方側における外周面にフランジを有する外輪部材と、」を、「前記第1外輪軌道面より軸方向他方側における外周面に車両インナ側のフランジを有する外輪部材と、」と限定し、同じく「前記内輪部材のフランジと前記外輪部材のフランジとの間において、前記第1転動体群のピッチ円直径D_(1)と、前記第2転動体群のピッチ円直径D_(2)との関係が、D_(1)>D_(2)に設定され、」を、「前記内輪部材のフランジと前記外輪部材のフランジとの間において、車両アウタ側の前記第1転動体群のピッチ円直径D_(1)と、車両インナ側の前記第2転動体群のピッチ円直径D_(2)との関係が、D_(1)>D_(2)に設定され、前記内輪部材のフランジと前記外輪部材のフランジとの間にできる自由空間を有効利用して車両アウタ側の前記第1転動体群のピッチ円直径D_(1)を大きく設定し、」と限定し、同じく「前記第1転動体群の各転動体の直径が小さく設定されているとともに、前記第1転動体群の転動体数が増大されている」を、「前記第1、第2転動体群の転動体の直径が同じ場合に比べて、さらに軸受負荷中心間距離の増大を図るように、前記第1転動体群の各転動体の直径が前記第2転動体群の転動体の直径よりも小さく設定されているとともに、前記第1転動体群の転動体数が前記第2転動体群の転動体の数よりも増大されている」と限定して構成を特定するものであるから、訂正事項1に係る訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 上記訂正事項のうち、「軸方向一方側の外周面に車両アウタ側のフランジを有するハブ軸と、前記ハブ軸の軸方向他方側の外周面に一体回転可能に嵌合装着された内輪とからなり、前記ハブ軸の軸方向他方側の外周面および前記内輪の外周面に軸方向二列の第1、第2内輪軌道面を有する内輪部材」は、願書に添付した明細書の段落【0017】、【0037】、【0038】、及び図3の記載に基づくものであり、「前記第1外輪軌道面より軸方向他方側における外周面に車両インナ側のフランジを有する外輪部材と、」は、願書に添付した明細書の段落【0016】、【0037】、【0038】、及び図3の記載に基づくものであり、「前記内輪部材のフランジと前記外輪部材のフランジとの間において、車両アウタ側の前記第1転動体群のピッチ円直径D_(1)と、車両インナ側の前記第2転動体群のピッチ円直径D_(2)との関係が、D_(1)>D_(2)に設定され、前記内輪部材のフランジと前記外輪部材のフランジとの間にできる自由空間を有効利用して車両アウタ側の前記第1転動体群のピッチ円直径D_(1)を大きく設定し、」は、願書に添付した明細書の段落【0013】、【0022】、【0037】、【0038】、図1、及び図3の記載に基づくものであり、「前記第1、第2転動体群の転動体の直径が同じ場合に比べて、さらに軸受負荷中心間距離の増大を図るように、前記第1転動体群の各転動体の直径が前記第2転動体群の転動体の直径よりも小さく設定されているとともに、前記第1転動体群の転動体数が前記第2転動体群の転動体の数よりも増大されている」は、願書に添付した明細書の段落【0041】、【0042】、図3、及び図4の記載に基づくものである。 すなわち、訂正事項1に係る訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とし、本件特許明細書又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、また実質上特許請求の範囲を拡張、又は変更するものではない。 よって、訂正事項1に係る訂正は、特許法第134条の2第1項ただし書第1号に掲げる事項を目的とし、また、同条第5項において準用する同法第126条第3項及び第4項の規定に適合するものである。 (2)訂正事項2ないし10について 訂正事項2ないし9は、請求項1の訂正(訂正事項1)に伴って、請求項1の記載と本件特許明細書の記載とに齟齬が生じないように訂正したものであり、訂正事項10は、訂正事項5?9に伴って図面の簡単な説明の記載の整合を図るために訂正したものであるから、訂正事項2ないし10に係る訂正は、明りょうでない記載の釈明を目的とするものに該当する。 また、訂正事項2ないし10に係る訂正は、本件特許明細書又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。 よって、訂正事項2ないし10に係る訂正は、特許法第134条の2第1項ただし書第3号に掲げる事項を目的とし、また、同条第5項において準用する同法第126条第3項及び第4項の規定に適合するものである。 2-3.むすび 以上のとおり、本件訂正は、特許法第134条の2第1項ただし書第1号及び第3号に掲げる事項を目的とし、また、特許法第134条の2第5項において準用する同法126条第3項及び第4項の規定に適合するものであるから、本件訂正を認める。 3.請求人の主張 請求人は、「特許第4305562号の特許請求の範囲の請求項1、請求項2及び請求項3に記載された発明についての特許を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする」(請求の趣旨)との審決を求め、証拠方法として以下の甲第1?6号証及び甲第8?23号証を提出し、審判請求書、第1回弁駁書、口頭審理陳述要領書、請求人上申書、及び第2回弁駁書において、無効とすべき理由を次のように主張している。なお、甲第8?23号証は、転がり軸受の分野の周知事項を説明するために提出されたものである。 [理由] 本件特許の請求項1ないし3に係る発明は、甲第1号証に記載された発明に、甲第2号証及び甲第3号証に記載された発明並びに転がり軸受の分野の周知事項を適用して、本件特許の出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、本件特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、同法第123条第1項第2号の規定に該当し、無効とすべきものである。 [証拠方法] (審判請求書に添付したもの) ・甲第1号証:特開昭57-6125号公報 ・甲第2号証:米国特許第5226737号明細書 ・甲第3号証:転がり軸受工学編集委員会編、「転がり軸受工学」、株式会社養賢堂、昭和51年5月20日第2版発行の表紙、目次、p.81?82、及び奥付けの写し ・甲第4号証:本件特許の審査段階における拒絶理由通知書 ・甲第5号証:平成21年2月16日付意見書 (第1回弁駁書に添付したもの) ・甲第6号証:無効2009-800132号事件の審決書 ・甲第7号証:(欠番) ・甲第8号証:曽田範宗、「軸受」、株式会社岩波書店、1986年9月25日第15刷発行の表紙、目次、p.92?93、p.114?117、p.122?133、及び奥付けの写し ・甲第9号証:特公平8-3333号公報 ・甲第10号証:特開平6-320903号公報 ・甲第11号証:特開平10-181304号公報 ・甲第12号証:特開平11-118816号公報 ・甲第13号証:特開平6-307438号公報 ・甲第14号証:特開2001-88510号公報 ・甲第15号証:特開2001-180212号公報 ・甲第16号証:特開平10-185717号公報 ・甲第17号証:特開昭53-132641号公報 (口頭審理陳述要領書に添付したもの) ・甲第18号証:特開2000-186721号公報 ・甲第19号証:特開2001-304277号公報 ・甲第20号証:特開平11-321211号公報 ・甲第21号証:特開2000-130433号公報 ・甲第22号証:「Koyo ENGINEERING JOURNAL No.147」光洋精工株式会社(現在の株式会社ジェイテクト)、1995年発行の写し (請求人上申書に添付したもの) ・甲第23号証:光洋精工株式会社発行の「Koyo.ENGINEERING JOURNAL No.131」、昭和62年4月、内表紙の目次、16頁?22頁の「ホイール用軸受の変遷」および奥付けの写し 4.被請求人の主張 被請求人は、「本件審判の請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする」(答弁の趣旨)との審決を求め、本件訂正の請求をするとともに、第1回答弁書、口頭審理陳述要領書、被請求人上申書、及び第2回答弁書において、本件特許は無効とされるべきものではない旨を主張し、証拠方法として、乙第1?4号証、及び参考図1、乙参考図1?6(乙参考図4は、参考図1と同じものである。)を提出している。 被請求人の主張の概要は、以下のとおりである。 [理由] (1)本件訂正後の請求項1に係る発明は、分説して記載すると以下のとおりである。 「 A 軸方向一方側の外周面に車両アウタ側のフランジを有するハブ軸と、前記ハブ軸の軸方向他方側の外周面に一体回転可能に嵌合装着された内輪とからなり、前記ハブ軸の軸方向他方側の外周面および前記内輪の外周面に軸方向二列の第1、第2内輪軌道面を有する内輪部材と、 B 内周面に前記内輪部材の二列の第1、第2内輪軌道面と径方向でそれぞれ対向する軸方向二列の第1、第2外輪軌道面を有し、前記第1外輪軌道面より軸方向他方側における外周面に車両インナ側のフランジを有する外輪部材と、 C 前記外輪部材の第1、第2外輪軌道面と前記内輪部材の第1、第2内輪軌道面との間に介装される軸方向二列の第1、第2転動体群とを含み、 D 前記内輪部材のフランジと前記外輪部材のフランジとの間において、車両アウタ側の前記第1転動体群のピッチ円直径D_(1)と、車両インナ側の前記第2転動体群のピッチ円直径D_(2)との関係が、D_(1)>D_(2)に設定され、前記内輪部材のフランジと前記外輪部材のフランジとの間にできる自由空間を有効利用して車両アウタ側の前記第1転動体群のピッチ円直径D_(1)を大きく設定し、 E 前記D_(1)と前記D_(2)との関係が、D_(1)≦1.49×D_(2)に設定されており、 F 前記第1、第2転動体群の転動体の直径が同じ場合に比べて、さらに軸受負荷中心間距離の増大を図るように、前記第1転動体群の各転動体の直径が前記第2転動体群の転動体の直径よりも小さく設定されているとともに、 G 前記第1転動体群の転動体数が前記第2転動体群の転動体の数よりも増大されている転がり軸受装置。」(以上、第2回答弁書第2?3ページ) (2)甲第1号証について (a) 甲第1号証に記載された発明は、負荷容量ないし寿命(耐久性)を向上させる観点のみからなされた発明であり、モーメント剛性の向上に対して全く考慮されていない。 (b) 甲第1号証に記載された発明は、片側の軌道にはコンラッド形(マキシマム形より少ない個数)より約1?2個少ない個数のボールしか組み込めないものであるから、モーメント剛性をあげることができない。 (c) 甲第1号証に記載された発明は、その先行技術(甲第17号証)のような、内輪の一部を分割することによって生じた問題点を解決するためになされた発明であることから、当該発明の内輪を分割することには阻害要因がある。 (d) 甲第1号証に記載された発明の目的は、内輪の一部を分割して2体形の保持器を使用する従来技術では、部品が増加し製造工程が煩雑化し高原価となるなどの欠点があったことから、これを改良して高性能、低原価、軽量のフランジ付軸受及びその組合方法を提供することであり、そのために、外輪軌道溝(13)と、内輪軌道溝(15)をδだけ偏心させてボール(5)を装入するという組み立て方法を採用した。しかしながら、この組み立て方法では、一方の軌道(II)が、他方の軌道(I)に比べて、装入できる玉数がコンラッド形より約1?2個少ない個数になってしまうことから、軸受ユニット全体の負荷容量が小さくなってしまうことから、甲第1号証の第7図の実施例では、負荷容量をさらに大きくするため軌道(I)の直径を大きくしてボール(6)の個数をさらに多く組み込めるようにしたのである。 (e) 甲第1号証には、2列の軌道輪の一方のPCDを他方より大きくして、軸受装置全体の玉の介装数を増加させるという技術思想の開示までしかなく、内輪部材のフランジと外輪部材のフランジとの間にできる環状の自由空間を有効利用して、車両アウタ側のPCDを大きくするという技術思想まで、当業者が甲第1号証の記載から読み取ることは不可能である。 (以上、第2回答弁書第11?15ページの主張の概要) (3)甲第2号証について (f) 甲第2号証に記載された発明は、ハブと主軸との間に形成される限られたボール収容空間(FIG.1に寸法線で「S」と表示されている範囲)を最大限利用して、ボールの直径を可能な限り大きくして、ハブあるいは主軸のサイズを大きくすることなく、またハブあるいは主軸を弱体化させることなく、複列転がり軸受全体の負荷容量を増加させるという技術思想である。 (g) ボール径を「小さく」することは、ボール径を大きくして負荷容量を増大するという甲第2号証に記載された発明の技術思想に対して逆行する行為である。 (h) 甲第2号証のFIG.1に見られるように、アウトボード側のボール列(22)の直径を、負荷容量を上げるために大きくしているが、内部に点線で描かれた直径が元のままのボールの中心点の位置に比べ、実線で描かれている、直径を大きくしたボールサイズの中心点は下に下がり、軸受負荷中心間距離は、ボール径が左右同一の従来例よりも小さくなっているから、車両アウタ側の転動体群の直径を「小さく」して、軸受負荷中心間距離を大きくする技術思想は存在しない。 (以上、第2回答弁書第15?18ページの主張の概要) (4)甲第3号証について (i) 甲第3号証は、あくまでも転がり軸受単体について記載されたものであり、内部設計から剛性を上げるには、一般に、小さい転動体を多数使う方がよいことが記載されているが、剛性に良いことが逆効果になりやすいとも記載されており、甲第22号証54頁の図6にも剛性に良いことが、負荷容量には悪い場合が存在することが記載されている。 (j) 負荷容量、寿命といった耐久性についての観点のみからなされた甲第1号証に記載された発明に、負荷容量には悪い場合が存在するような甲第3号証の技術事項を適用することは容易想到とはいえない。 (以上、第2回答弁書第18ページの主張の概要) (5)容易想到性について (k) 複列の転がり軸受装置の設計に当たっては、特別な目的・理由がない限り、設計の容易さや生産コスト低減の観点から、2列の転動体群の構造は、PCD、玉径とも共通にするのが、当業者の技術常識である。 (l) 甲第2号証に記載された発明は、2列の玉径を異ならせることによりコストが増加するデメリットを踏まえた上で、それを超える軸受全体の負荷容量の増大のメリットがあることから、あえて、2列の玉径を異ならせることに踏み切ったことがわかる。 (m) 甲第1号証発明は、甲第17号証に開示された内輪の一部を分割した場合の欠点を解決するために案出されたものであって、内輪を一体的に形成して内輪部材とした点を、発明の必須の構成とするものであるから、甲第1号証発明に対して、内輪の一部を分割することは、いわば欠点の存在する先行技術である甲第17号証のものに逆行させようとするものである。 (n) 甲第1号証発明は、内輪を一体化して内輪部材としたからこそ、特有な組立方法を採用し、この組立方法のもとで、一方の軌道に装入できる玉数が少ない点を補足するために他方のピッチ円直径(PCD)を大きくし、挿入できる全体の玉の数を増加して軸受全体の負荷容量を大きくしたものである。このため、内輪を別体として形成してハブ軸に組み込むとすれば、そもそもPCDを大きくする必要もなくなってしまうのである。 (o) 本件特許明細書では、高剛性化と同時に長寿命化という副次的な課題をも解決するための手段として、「玉4の直径は、従来例に比べて転がり軸受装置100の寿命が低下しない範囲で設定する必要がある。」(【0043】)、「玉4の直径の下限値は、D_(1)=73mmとしたとき、玉5の直径の81%、すなわち約10.32mmとするのが好ましく、さらには、玉4の直径を約10.32mm、玉4の介装数を20個に設定すると、極めて剛性が高く、しかも長寿命な転がり軸受け装置100とすることができる。」(【0049】)との技術的思想を開示するが、これらは、あくまでも試験結果についての記載であり、本件訂正発明1の構成によって特定されている技術的事項ではない。 (p) 本件訂正発明1においては、「前記第1、第2転動体群の転動体の直径が同じ場合に比べて、さらに軸受負荷中心間距離の増大を図るように、前記第1転動体群の各転動体の直径が前記第2転動体群の転動体の直径よりも小さく設定されている」(構成要件F)と特定しているのみであるから、アウタ側の転動体の直径を小さくすることにより、従来例より剛性は向上しているが寿命は低下しているものも、寿命低下が許容範囲内であれば、その技術的範囲に含んでいるのである。 (q) 長寿命化という課題は、本件訂正発明1の構成によっては必ずしも解決し得ない課題であるから、本件訂正発明1の課題ではない。本件明細書の段落0044?0049、表2は、検証するための試験結果を示しているにすぎず、この試験結果の設定自体が、本件訂正発明1の実施形態そのものを示しているわけではない。 (r) 甲第1、2号証の発明には本件訂正発明1と共通の課題が存在しないことは明らかであるから、甲第1号証発明に甲第2号証の技術思想を適用することはできない。 (s) 特別な目的・理由がない限り、左右の列の玉径は同一にするという当業者の「玉径の共通化」の技術常識を考慮すれば、なおさら、2列のボール径を「共に大きくする」という発想しか当業者には生じ得ない。 (t) 甲第1号証発明に甲第2号証の技術思想を組み合わせたとしても、甲第1号証発明の軸受装置には分離可能な(別体の)軌道輪は存在しないから、当業者は、「できる限りボールの直径を大きくして負荷容量を増大する」という甲第2号証の技術思想の下、「玉径の共通化」という技術常識を考慮すればなおさら、甲第1号証発明における2列の玉径を「共に大きくする」という構成しか想到し得ない。 (u) 軸受装置の剛性を向上させるという課題として挙げる甲第10?16号証の各記載は、いずれも、PCD及び玉径が2列とも同一であり、アウタ側の玉径をインナ側より小さくすることにより、軸受負荷中心間距離を増大させてモーメント剛性を向上させることの開示・示唆はない。 (v) 甲第22号証の図6に示される上記技術的事項によれば、甲第1号証も甲第2号証も、いずれも、負荷容量を増大することを目的とする技術思想であるから、剛性は向上するが動定格荷重(動負荷容量)は低下する行為である、「『上記第1転動体群の各転動体の直径が小さく設定』するとともに、前記第1転動体群の転動体の数が増大されているようにすること」を、甲第1号証又は甲第2号証に適用することは、阻害要因がある。 (w) 甲第1号証、甲第2号証のいずれも、内輪部材のフランジと外輪部材のフランジとの間にできる環状の自由空間を有効利用して、軸方向一方側(車両アウタ側)の転動体群のピッチ円直径(PCD)を大きく設定することにより、ボール間スパン、装置全体の軸方向長さを増加させることなく、軸受負荷中心間距離の増大を図るという技術思想を開示・示唆するものは存在しない。 (以上、第2回答弁書第20?37ページの主張の概要) [証拠方法] (口頭審理陳述要領書に添付したもの) ・乙第1号証:機械工学事典 創立100周年記念 1131、1132頁、表紙、及び、奥付け(1997年8月20日、日本機械学会発行)の写し ・乙第2号証:転がり軸受工学編集委員会編、「転がり軸受工学」、株式会社養賢堂、昭和50年7月10日第1版発行の表紙、p.184?185、及び奥付けの写し (被請求人上申書に添付したもの) ・参考図1:無効2009-800132号審判事件において請求人が提出した平成21年12月3日付け口頭審理陳述要領書の第8ページ及び参考図1の引用 (第2回答弁書に添付したもの) ・乙第3号証:特開2008-80459号公報 ・乙第4号証:特開2001-241434号公報 ・乙参考図1?6:被請求人の主張を図面から補足して説明する資料 5.本件発明 上記「2.訂正の可否に対する判断」で示したとおり、本件訂正は認めらるので、本件特許の請求項1ないし3に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」ないし「本件発明3」という。)は、平成22年12月17日付け訂正請求書に添付した訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1ないし3に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。 (1)本件発明1 「【請求項1】 軸方向一方側の外周面に車両アウタ側のフランジを有するハブ軸と、前記ハブ軸の軸方向他方側の外周面に一体回転可能に嵌合装着された内輪とからなり、前記ハブ軸の軸方向他方側の外周面および前記内輪の外周面に軸方向二列の第1、第2内輪軌道面を有する内輪部材と、 内周面に前記内輪部材の二列の第1、第2内輪軌道面と径方向でそれぞれ対向する軸方向二列の第1、第2外輪軌道面を有し、前記第1外輪軌道面より軸方向他方側における外周面に車両インナ側のフランジを有する外輪部材と、 前記外輪部材の第1、第2外輪軌道面と前記内輪部材の第1、第2内輪軌道面との間に介装される軸方向二列の第1、第2転動体群とを含み、 前記内輪部材のフランジと前記外輪部材のフランジとの間において、車両アウタ側の前記第1転動体群のピッチ円直径D_(1)と、車両インナ側の前記第2転動体群のピッチ円直径D_(2)との関係が、D_(1)>D_(2)に設定され、前記内輪部材のフランジと前記外輪部材のフランジとの間にできる自由空間を有効利用して車両アウタ側の前記第1転動体群のピッチ円直径D_(1)を大きく設定し、 前記D_(1)と前記D_(2)との関係が、D_(1)≦1.49×D_(2)に設定されており、 前記第1、第2転動体群の転動体の直径が同じ場合に比べて、さらに軸受負荷中心間距離の増大を図るように、前記第1転動体群の各転動体の直径が前記第2転動体群の転動体の直径よりも小さく設定されているとともに、 前記第1転動体群の転動体数が前記第2転動体群の転動体の数よりも増大されている転がり軸受装置。」 (2)本件発明2 「【請求項2】 請求項1の転がり軸受装置において、 前記第1転動体群の各転動体の直径が、前記第2転動体群の各転動体の直径の88%よりも小さく、81%よりも大きく設定されている転がり軸受装置。」 (3)本件発明3 「【請求項3】 請求項2の転がり軸受装置において、 前記第1転動体群の転動体数が、前記第2転動体群の転動体数の182%よりも小さく設定されている転がり軸受装置。」 6.甲各号証に記載された発明 6-1.甲第1号証(特開昭57-6125号公報) 甲第1号証には、「フランジ付ユニット軸受及び組立方法」に関して、図面とともに、次の事項が記載されている(甲第1号証の摘記にあたり、促音等の表記を適宜変更した。以下、同様)。 (ア)「2.特許請求の範囲 (1)少なくとも内輪の一側に径方向外方に延びるフランジを有する一体形内輪、および内輪と同心位置に配置された外輪、内外輪間に介装された2列のボール、各ボール列にそれぞれ組込まれた保持器とからなり、内輪のフランジ寄りの列のボール数を他列のボール数より多くし、かつ外輪内径を内輪外径より僅かに大としたことを特徴とするフランジ付ユニット軸受。」(第1ページ左下欄第4?12行) (イ)「この発明は主として自動車の車軸などに用いるフランジ付ユニット軸受に関するものである。 この種の軸受は、一般に内部に複列の軌道を有し、それぞれの軌道にボールと保持器が配されており、外輪には車輪(または車両の支持部材)に固定するためのフランジを有し、内輪には車両の支持部材(または車輪)に固定するためのフランジを有する構造である。 このような軸受は例えば・・・(中略)・・・したものである。しかし、自動車の車軸などに用いられる軸受にはラジアル荷重のほかに大きなしかも突然のスラスト荷重やモーメント荷重が作用するから2列のボール列間に公転差がでることは必至であり、この場合2列のボールを一体の保持器で保持するとボールの自由な転動をさまたげることになり軸受の性能をいちじるしく低下させるばかりでなく保持器破損などの故障の原因となる。」(第1ページ右下欄第4行?第2ページ左上欄第14行) (ウ)「第1図は自動車の従動輪用の軸受ユニットであって、外輪(1)の内周には複列の軌道溝(13)、(14)が形成されていて、一側より半径方向外方に延びるフランジ(3)が形成されている。また、フランジ(3)には取付孔(11)が穿設されていて図示していないボルトをとおし車輪(または車体の取付部材)にとりつけられる。 一方、内輪(2)の外周には複列の軌道溝(15)、(16)が形成されていて一側より半径方向外方に延びるフランジ(4)が形成されており、フランジ(4)に穿設された取付孔(12)には図示していないボルトをとおし、車体の支持部材(または車輪)にとりつけられるようになっている。 外輪(1)の軌道溝(14)と内輪(2)の軌道溝(16)との間に形成されるフランジ(4)寄りの軌道(I)にボール個数ができるだけ多くなるように設計されポケットにボールをスナップ形式で圧入した保持器(8)付きボール(6)がいわゆるマキシマム形に介装されている。一方、外輪(1)の軌道溝(13)と内輪(2)の軌道溝(15)との間に形成される軌道(II)には軌道(I)より少ない個数のボール(5)が介装され、保持器(7)が装入されている。」(第2ページ左下欄第13行?右下欄第13行) (エ)「次にこの発明の別の実施例について説明する。 第5図は駆動車輪用のフランジ付一体形軸受であり外輪(1)に設けたフランジ(3)には取付孔(11)が穿設されていて、該取付穴に図示していないボルトをとおして車体の支持部材にとりつけられる。内輪(2)に設けたフランジ(4)の取付孔(12)にボルトをとおし、これによって駆動車輪にとりつけられる。・・・(中略)・・・。 第7図は従動車輪用のフランジ付一体形軸受のさらに別の実施例について示したものである。この実施例を第1図のものと比較して説明すると、第1図の軌道(I)には軌道(II)に比較して充分多くのボールが介装され、したがって軌道(I)の負荷容量は充分に大きいが、第7図の実施例ではこの負荷容量をさらに大きくするため軌道(I)の直径を大きくしてボール(6)の個数をさらに多く組み込めるようにしたものである。したがって、第7図の実施例の軸受全体の負荷容量は第1図のそれに比較してさらに大きくなっている。たゞし、第7図の実施例の軸受を使用するときは車輪からの荷重は第1図の実施例の場合よりもさらに軌道(I)の方にかたよった位置に負荷して使用するようにするが、どれだけかたよらせるかはラジアル荷重、スラスト荷重、モーメント荷重等を考慮して軌道(I)および(II)の組合せ寿命が最大になるような位置とする。第7図は駆動車輪に応用して実施してもよいことはもちろんである。 この発明によるフランジ付一体形軸受は外輪とフランジを有する内輪をそれぞれともに分割することなく一体に成形し、内輪のフランジ寄りの軌道にできるだけ多くの個数のボールをいわゆるマキシマム形に組込こむことができるから大きな負荷容量がえられる。また内輪のフランジから遠い軌道にはいわゆるコンラッド形より約1?2個少い個数のボールを組込み、それぞれのボール列にそれぞれ別個の標準的な公知の保持器したがって2体形の保持器を組み非分離形の複列アンギュラ玉軸受として構成したものであるから、いわゆるコンラッド形に組立てられた軸受に比較して全体の負荷容量が大きくしたがって組合せ寿命が大となり、スラスト荷重やモーメント荷重が負荷されて両ボール列の公転に大きな差が発生した場合に1体形の保持器を有する軸受にありがちな故障または性能の低下はまったくない。また内輪の一部を分割したものを組立てたのちに止めリングなどの他の部品を使用して一体化するいわゆる内輪分割形の軸受にくらべて軸方向にコンパクトな設計ができる。」(第4ページ左上欄第2行?右下欄第18行) (オ)第7図から、内輪(2)は、その取付孔(12)に車輪をとりつけられるようになっているから(上記記載事項(ウ))、軸方向一方側の外周面に車両アウタ側のフランジ(4)を有し、軸方向他方側の外周面に軸方向二列の軌道溝(16)(15)を有していることが看取される。 (カ)第7図から、外輪(1)は、その取付孔(11)に車体の支持部材をとりつけられるようになっているから(上記記載事項(ウ))、内周面に上記内輪(2)の二列の軌道溝(16)(15)と径方向でそれぞれ対向する軸方向二列の軌道溝(14)(13)を有し、軌道溝(14)より軸方向他方側における外周面に車両インナ側のフランジ(3)を有していることが看取される。 (キ)第7図から、外輪(1)の軌道溝(14)(13)と内輪(2)の軌道溝(16)(15)との間には複数のボール(6)(5)からなる二列のボール(6)(5)列が介装されていることが看取される。 上記記載事項及び図面の記載からみて、甲第1号証には、「フランジ付ユニット軸受」の発明に関して、次の発明が記載されているものと認められる。 「軸方向一方側の外周面に車両アウタ側のフランジ(4)を有し、軸方向他方側の外周面に軸方向二列の軌道溝(16)(15)を有する一体形内輪(2)と、 内周面に上記内輪(2)の二列の軌道溝(16)(15)と径方向でそれぞれ対向する軸方向二列の軌道溝(14)(13)を有し、軌道溝(14)より軸方向他方側における外周面に車両インナ側のフランジ(3)を有する外輪(1)と、 外輪(1)の軌道溝(14)(13)と内輪(2)の軌道溝(16)(15)との間に介装された複数のボール(6)(5)からなる二列のボール(6)(5)列とを含み、 負荷容量をさらに大きくするため外輪(1)の軌道溝(14)と内輪(2)の軌道溝(16)との間に形成されるフランジ(4)寄りの軌道(I)の直径を大きくして内輪のフランジ寄りの列のボール(6)の個数をさらに多く組み込めるようにした、フランジ付ユニット軸受。」(以下、「甲第1号証発明」という。) 6-2.甲第2号証(米国特許第5226737号明細書) 甲第2号証には、「Two row angular contact wheel bearing with improved load capacity」(高負荷容量の二列アンギュラコンタクト車輪軸受)に関して、図面とともに、次の事項が記載されている。なお、甲第2号証の翻訳文として、請求人が甲第2号証とともに提出した翻訳文を採用するが、翻訳文の技術的な解釈は別として、翻訳文そのものには当事者間の争いはない。なお、当該翻訳文は、表現を一部変更して整合させた。 (ク)「If a way could be found to enlarge the diameter of even one of the ball rows, without otherwise increasing the size of or weakening the hub or spindle, load capacity would be improved.・・・(中略)・・・Instead, the installation surface is designed to be at the inner limit of the envelope, which does maximize the space available between its pathway and the integral hub pathway that it faces, maximizing the size of the inboard ball row. However, the inboard ball row is thereby made smaller than the outboard ball row, unlike a conventional bearing.」(第1欄第66行?第2欄第25行) (ハブあるいは主軸のサイズを大きくすることなく、またハブあるいは主軸を弱体化させることなく、ボール列の1つであってもその直径を拡大できる方法が見つかれば、負荷容量を高くすることができる。・・・(中略)・・・その代わり、設置表面は、支持限界の内部境界と一致するように設計されており、それにより、軌道と対面するハブと一体に設けられた軌道との間の空間を最大にすることができ、インボード側のボール列のサイズを最大にすることができる。しかしながら、そのために従来の軸受と異なり、インボード側のボール列が、アウトボード側寄りのボール列より小さく形成される。(翻訳文第2ページ第21行?第3ページ第13行)) (ケ)「Referring to FIG. 1, a preferred embodiment of the angular contact, two row wheel bearing of the invention includes two main components, a cylindrical outer hub, indicated generally at (10), which coaxially surrounds a central spindle, indicated generally at (12). Hub (10) would be bolted to a vehicle suspension not illustrated, so the basic dimensions of its outer surface (14) are already determined, and not alterable by a designer seeking to increase capacity. Likewise, spindle (12) would be bolted to a standard driven wheel and a standard drive shaft would be inserted down its central tunnel (16), so its inner dimensions are already determined and inalterable. Another design limitation is the radial thickness of hub (10) and spindle (12), which cannot be less than a certain minimum in order to handle the radial loads expected in operation.」(第2欄第51?66行) (図1を参照すると、本発明のアンギュラ・コンタクト二列車輪軸受は、主軸を軸方向に囲む全体を(12)で示した部品と、全体を(10)で示された円筒形の外ハブの2つの主部品から成る。ハブ(10)は、車体懸架装置(図示なし)にボルト締めされるため、その外部表面(14)の基準寸法は既定であり、容量を増加させることを目的として設計変更することは不可能である。同様に、軸(12)は標準的な駆動車輪にボルト締めされ、その中央孔(16)に標準的な駆動軸が挿入される。したがって、その内寸法は既定であり、変更が不可能である。他の設計限界は、ハブ(10)及び主軸(12)の半径方向の厚みであり、運転中において予測される半径方向の負荷に対応するために、その最小値にはある程度限界がある。(翻訳文第3ページ第29行?第4ページ第11行)) (コ)「Separable race ring (28) is ground of a material similar to spindle (12), and has a certain minimum thickness T, which is necessary for the structural integrity of the part. As a consequence, the space potentially available between the inboard pathways (24) and (30) is significantly less than S, and the diameter D_(2) of the the inboard row of balls (34) that can run between them is significantly less that D_(1). However, this diminution in ball size is necessitated by the general geometry of the hub (10), spindle (12), and by the way they are assembled, described below.」(第3欄第60行?第4欄第2行) (分離可能な軌道輪(28)は、主軸(12)に同種の材料から形成され、部品の構造を一体化させるために必要な特定の最小限の厚さTを有する、その結果、インボード側の軌道(24)と(30)の間の潜在的に利用可能な空間は、Sよりかなり小さくなる、そして、軌道(24)と(30)の間を走行するインボード側のボール列(34)の直径D_(2)は、D_(1)よりかなり小さい。しかし、ボールのサイズにおけるこの縮小はハブ(10)と主軸(12)の一般的な形状寸法には不可欠であり、以下に記載するこれらの組み立てにとっても不可欠である。(翻訳文第5ページ第28行?第6ページ第6行)) (サ)「Finally, separable race ring (28) is installed by press fitting its installation surface (32) tightly over spindle (12), which brings the other inboard pathway (30) up against inboard ball row (34). Finally, race ring (28) is fixed in place by a keeper ring (36) to create and maintain the desired preload and axial end play. Because of the thickness of T of race ring (28), as noted above, the inboard balls (34) are smaller than the outboard balls (22).」(第4欄第20?28行) (最後に分離可能な軌道輪(28)は、主軸(12)上の設置表面(32)に強固に圧入されることにより設置され、それによりインボード側のボール列(34)がもう一方のインボード側の軌道(30)に接する。最後に、必要な予圧および軸方向端面のあそびを維持するために、軌道輪(28)は、止め輪(36)により適所に固定される。軌道輪(28)の厚さTのために、上記のように、インボード側のボール(34)は、アウトボード側のボール(22)より小さい。(翻訳文第6ページ第20?27行)) (シ)「Variations in the preferred embodiment could be made. For example, either the hub (10) or spindle (12) could be the rotating, wheel carrying member. For example, if the wheel were nonpowered and attached to the hub (10), then the spindle (12) would not have to receive a drive shaft through its center, and so could be solid. In the event that the outer hub carried the wheel, and not the spindle, then the race ring (28) could be on the other side, carrying a pathway for the outboard ball row, not the inboard row, and the inboard ball row would be the larger diameter row.」(第4欄第58?68行) (好適な実施形態を変更することも可能である。例えば、ハブ(10)あるいは主軸(12)のいずれかは、車輪支持部材とすることができる。例えば、もし車輪に動力を供給せずに、その車輪がハブ(10)に付けられる場合、主軸(12)はその中心に駆動軸を保持する必要がないので、中実にすることができる。軸でなく外側のハブに車輪が支持される場合、軌道輪(28)は、外側に(審決注:脱字の「に」を補った。)することができ、インボード側の列ではなく、アウトボード側のボール列の軌道を保ち、インボード側のボール列が大きな直径を有する。(翻訳文第7ページ第20?27行)) 上記記載事項(ク)?(シ)及び図面の記載からみて、甲第2号証に記載された「高負荷容量の二列アンギュラコンタクト車輪軸受」の発明は、次の技術事項(A)?(C)を含むものと認められる。 (A)主軸を軸方向に囲む全体を(12)で示した部品と、全体を(10)で示された円筒形の外ハブの2つの主部品からなり、ハブ(10)は、車体懸架装置にボルト締めされ、軸(12)は標準的な駆動車輪にボルト締めされ、インボード側のボール列(34)の直径D_(2)は、アウトボード側のボール列(22)の直径D_(1)よりかなり小さい、アンギュラ・コンタクト二列車輪軸受。 (B)ハブ(10)あるいは主軸(12)のいずれかは、車輪支持部材とすることができ、軸でなく外側のハブに車輪が支持される場合、軌道輪(28)は、外側にすることができ、インボード側の列ではなく、アウトボード側のボール列の軌道を保ち、インボード側のボール列が大きな直径を有する。 (C)分離可能な軌道輪(28)は、主軸(12)上の設置表面(32)に強固に圧入されることにより設置される。 6-3.甲第3号証(転がり軸受工学編集委員会編、「転がり軸受工学」、株式会社養賢堂、昭和51年5月20日第2版発行の表紙、目次、p.81?82、及び奥付けの写し) 甲第3号証には、「転がり軸受の剛性」に関する技術事項として、次の事項(ス)及び(セ)が記載されている(以下、句読点を適宜変更して表記した。なお、アンダーラインは当審で付与したものである。)。 (ス)「転がり軸受で支えられた軸系は外力によりたわみや振動を起こす。これには転がり軸受の剛性が軸の剛性とともに影響する。たとえば、高速回転軸の危険速度には、軸剛性のほかに軸受の半径方向剛性も影響する。工作機械主軸は加工精度の向上や振動防止のため軸受剛性を高める必要がある。自動車の差動歯車系では、たわみが大きいと歯車のかみ合いに悪影響が出るため高い軸受剛性が必要である。 ・・・軸受の剛性、すなわち、軸受荷重に対する内外輪の間の相対変位量の関係は、主として、この点接触や線接触部の変形によって与えられる・・・」(第81ページ本文第1?12行) (セ)「軸系中で使われている軸受の剛性を高めたい場合には、軸受の内部設計を変える方法、その使い方を考慮する方法がとられる。内部設計から剛性を上げるには、 (a)転がり接触部の変形を小さくする。 (b)転がり接触部の変形量が軸受の変位量に変換されるとき、後者が小さくなる形をとる。 (a)は玉径、軌道みぞ半径やころ径、ころ長さと転動体数に関係し、一般に、小さい転動体を多数使う方がよい。(b)では軸受の接触角を変え、転動体と内外輪の接点を結ぶ方向を外部荷重の方向に近づけることが行われる。使い方では、つぎを利用する。 (a)転がり接触部の剛性は荷重の増加で高まる。 (b)軸受剛性は荷重を支えている転動体数が多いほど高い。・・・ これらは剛性以外に軸受摩擦や寿命にも関係し、剛性には良いことが逆効果になりやすく、使用目的に応じた軸受の選定、使い方が必要である。」(第81ページ本文第16行?第82ページ第2行) 7.無効理由に対する当審の判断 7-1.本件発明1について (1)対比 本件発明1と甲第1号証発明とを対比すると、甲第1号証発明の「一体形内輪(2)」は、「一体形」であることについて以下の「(2)判断」で検討することとすると、その機能からみて、ひとまず本件発明1の「ハブ軸」と「内輪部材」の双方の機能を有するものに相当し、以下同様に、「外輪(1)」は「外輪部材」に相当し、「ボール(6)(5)」は「転動体」に相当し、「二列のボール(6)(5)列」は「軸方向二列の第1、第2転動体群」に相当し、「フランジ付ユニット軸受」は「転がり軸受装置」に相当する。 そうすると、甲第1号証発明の「軸方向一方側の外周面に車両アウタ側のフランジ(4)を有し、軸方向他方側の外周面に軸方向二列の軌道溝(16)(15)を有する一体形内輪(2)」は、内輪の形式が「一体形」であることについては上述のとおり扱うこととして、ひとまず本件発明1の「軸方向一方側の外周面に車両アウタ側のフランジを有するハブ軸と、前記ハブ軸の軸方向他方側に軸方向二列の第1、第2内輪軌道面を有する内輪部材」に相当する。 甲第1号証発明の「内周面に上記内輪(2)の二列の軌道溝(16)(15)と径方向でそれぞれ対向する軸方向二列の軌道溝(14)(13)を有し、軌道溝(14)より軸方向他方側における外周面に車両インナ側のフランジ(3)を有する外輪(1)」は、実質的に、本件発明1の「内周面に前記内輪部材の二列の第1、第2内輪軌道面と径方向でそれぞれ対向する軸方向二列の第1、第2外輪軌道面を有し、前記第1外輪軌道面より軸方向他方側における外周面に車両インナ側のフランジを有する外輪部材」に相当する。 甲第1号証発明の「外輪(1)の軌道溝(14)(13)と内輪(2)の軌道溝(16)(15)との間に介装された複数のボール(6)(5)からなる二列のボール(6)(5)列」は、実質的に、本件発明1の「前記外輪部材の第1、第2外輪軌道面と前記内輪部材の第1、第2内輪軌道面との間に介装される軸方向二列の第1、第2転動体群」に相当する。 さらに、甲第1号証発明の「負荷容量をさらに大きくするため外輪(1)の軌道溝(14)と内輪(2)の軌道溝(16)との間に形成されるフランジ(4)寄りの軌道(I)の直径を大きくして内輪のフランジ寄りの列のボール(6)の個数をさらに多く組み込めるようにした」構成は、「負荷容量をさらに大きくするため」である点を課題として捉えた上で転動体の直径の大小関係を相違点として別途検討することとすると、少なくとも、「前記内輪部材のフランジと前記外輪部材のフランジとの間において、車両アウタ側の前記第1転動体群のピッチ円直径D_(1)と、車両インナ側の前記第2転動体群のピッチ円直径D_(2)との関係が、D_(1)>D_(2)に設定され」、「前記第1転動体群の転動体数が前記第2転動体群の転動体の数よりも増大されている」限りにおいて本件発明1と共通するものである。 したがって、本件発明1の用語にならってまとめると、両者は、 「軸方向一方側の外周面に車両アウタ側のフランジを有するハブ軸と、前記ハブ軸の軸方向他方側に軸方向二列の第1、第2内輪軌道面を有する内輪部材と、 内周面に前記内輪部材の二列の第1、第2内輪軌道面と径方向でそれぞれ対向する軸方向二列の第1、第2外輪軌道面を有し、前記第1外輪軌道面より軸方向他方側における外周面に車両インナ側のフランジを有する外輪部材と、 前記外輪部材の第1、第2外輪軌道面と前記内輪部材の第1、第2内輪軌道面との間に介装される軸方向二列の第1、第2転動体群とを含み、 前記内輪部材のフランジと前記外輪部材のフランジとの間において、車両アウタ側の前記第1転動体群のピッチ円直径D_(1)と、車両インナ側の前記第2転動体群のピッチ円直径D_(2)との関係が、D_(1)>D_(2)に設定され、 前記第1転動体群の転動体数が前記第2転動体群の転動体の数よりも増大されている転がり軸受装置。」 である点で一致し、以下の点で相違する。 [相違点1] 本件発明1は、内輪部材が上記ハブ軸と「前記ハブ軸の軸方向他方側の外周面に一体回転可能に嵌合装着された内輪とからなり」、上記ハブ軸の軸方向他方側「の外周面および前記内輪の外周面」に軸方向二列の第1、第2内輪軌道面を有するものであるのに対し、甲第1号証発明は、内輪部材がハブ軸と内輪を一体的に形成したものであることから、「軸方向他方側の外周面に軸方向二列の軌道溝(16)(15)を有する一体形内輪(2)」である点。 [相違点2] 本件発明1は、「前記内輪部材のフランジと前記外輪部材のフランジとの間にできる自由空間を有効利用して車両アウタ側の前記第1転動体群のピッチ円直径D_(1)を大きく設定し、前記D_(1)と前記D_(2)との関係が、D_(1)≦1.49×D_(2)に設定されて」いるものであるのに対し、甲第1号証発明は、負荷容量をさらに大きくするためにD_(1)>D_(2)に設定したものであって、当該D_(2)に対してD_(1)がどの程度大きいか明らかではない点。 「相違点3] 本件発明1は、「前記第1、第2転動体群の転動体の直径が同じ場合に比べて、さらに軸受負荷中心間距離の増大を図るように、前記第1転動体群の各転動体の直径が前記第2転動体群の転動体の直径よりも小さく設定されている」のに対し、甲第1号証発明は、転動体(二列のボール(6)(5))の直径の大小関係が明らかではないものの、技術常識及び図面からは同一の大きさであるものと捉えられる点。 (2)判断 (2-1)転がり軸受装置の技術水準について 上記相違点を検討するにあたって、転がり軸受装置に関する技術水準を基本的事項として整理すると、以下のとおりである。(甲各号証の技術用語の後の[ ]内の用語は、本件訂正明細書において用いられている表現である。) (2-1-1)転がり軸受装置の形式 (i)甲第22号証には、「第2世代ハブユニットは外輪回転タイプと内輪回転タイプに大別される。外輪回転タイプは・・・。これに対し内輪回転タイプは、外輪に一体化されたフランジ部をナックル[車両インナ側]に取り付け、内輪に圧入嵌合されたハブシャフトにホイールを取り付けて使用するタイプで、駆動輪にも従動輪にも使用されている。・・・ 第3世代ハブユニットは内輪回転タイプ第2世代ハブユニットのアウタ側内輪とハブシャフトを一体化した形状で、よりユニット化が進んだ構造となっている。」(第52ページ右欄上段)と記載され、第52ページ左欄の図1「ホイール用軸受および周辺構造の変遷」及び第53ページの図4「第2世代ハブユニット」、図5「第3世代ハブユニット」には、それぞれ第2世代ハブユニット及び第3世代ハブユニットの内輪部材を含む構造が記載されている(上記ハブユニットは、本件発明1の「転がり軸受装置」に相当する。以下同じ。)。 (ii)甲第23号証の第21ページの図8「ハブユニット軸受の各世代比較」には、第1世代?第4世代の転がり軸受装置の構造図とともにその特徴が記載されている。特に、第3世代を示す構造図は、左側に「分離内輪付」、右側に「内輪一体型」が示されており、当該分離内輪付は、甲第22号証に記載された第3世代ハブユニットと同様に、内輪回転タイプ第2世代ハブユニットのアウタ側内輪とハブシャフトを一体化した形状(本件発明1の内輪部材の形式)を有しており、当該内輪一体型は、アウタ側内輪及びインナ側内輪をハブシャフトに一体化した形状(甲第1号証発明の内輪部材の形式)を有している。そして、甲第23号証の第22ページの左欄には、1990年までの10数年のハブユニットに関する採用状況が図9「ハブユニット軸受の採用状況」に示され、車種によって上記第2世代ハブユニット、上記第3世代(分離内輪付)ハブユニット、及び上記第3世代ハブユニット(図9の左欄には注釈がないが図8などから見て「内輪一体型」と解される。)が選択的に用いられていることが理解できる。 (iii)上記(i)及び(ii)から、本件発明1の出願時において、甲第1号証発明のように内輪を一体に形成した内輪一体型のハブユニットと、本件発明1のように車両インナ側の内輪を嵌合装着するとともに車両アウタ側の内輪をハブシャフトと一体化した分離内輪付のハブユニットは、車種に応じた要求仕様や企業の設計思想などに基づいて適宜選択して用いられていたものと解される。 (2-1-2)転がり軸受装置の課題 (iv)「ホイール軸受[転がり軸受装置]に要求される基本的な性能として寿命、剛性が挙げられる。」(甲第22号証の第52ページ右欄中段) (v)「軸受の内外輪または転動体のいずれかに疲れによるはく離が起こり始めるまでの総回転数を、与えられた一定荷重のもとにおける寿命とよぶ。」(甲第8号証第123ページ中段) (vi)「このように、ハブユニット軸受10では、互いに二律背反である高寿命や高剛性と、重量低減や低コストとを共に満足することができる。」(甲第11号証の段落【0029】) (vii)「軸受の転がり寿命を維持しつつ軸受の剛性アップが図れる。」(甲第13号証の段落【0017】) (viii)「予圧量が9810N(1000kgf)より大きいと、軸受剛性を高めることができるが、それだけ軸受の負荷が増大するため、軸受寿命の低下を招く。」(甲第15号証の段落【0046】) (ix)上記(iv)?(viii)から、転がり軸受装置において、寿命、負荷容量又は剛性(転がり軸受装置の剛性とは、特に注釈がない限り「モーメント剛性」を意味する。以下、同じ。)を課題として捉えることは、周知事項であり、転がり軸受装置の設計にあたって、寿命又は負荷容量に重点を置くか、剛性に重点を置くか、又は、両者の適切なバランスをとるか、ということは、車種に応じた要求仕様や企業の設計思想などに基づいて検討されていたものと解される。 (2-1-3)転がり軸受装置のモーメント剛性に影響を与える要素 (x)「耐モーメント剛性は、軸受の作用点間距離S[軸受負荷中心間距離]が長く、軸方向及び径方向の支持剛性が高いほど有利となる。」(甲第23号証第20ページ左欄下) (xi)「本発明では、 (1)同一空間内で軸受のスパン[軸受負荷中心間距離]を広く採る設計が可能となり、軸受剛性を大きく向上させることが可能となる。 (2)同一空間内で内部諸元を変更し、転動体個数を増加させて軸受剛性を向上させたり、外方部材の肉厚やフランジの肉厚を最適化して外方部材の変形を抑え、軸受剛性を向上させることが可能となる。」(甲第14号証の段落【0011】) 「同一空間内で内部諸元を変更し、転動体個数を増加させて軸受剛性を向上させたり、外方部材24の肉厚やフランジ23の肉厚を最適化して外方部材24の変形を抑え、軸受剛性を向上させることが可能となる。」(甲第14号証の段落【0024】) (xii)「ハブユニット軸受50[転がり軸受装置]の耐久性や寿命を向上させるためには、ボール54[転動体]の径の大径化、ボール54のPCD[ピッチ円直径]拡大、ボール54間のスパン[軸受負荷中心間距離]拡大、等で対応することが可能である。」(甲第11号証の段落【0006】) (xiii)甲第22号証には、「ハブユニット軸受[転がり軸受装置]の剛性に関する要因としては、下記4項目が挙げられる。」として、「(1)作用点間距離」、「(2)外輪・内軸強度」、「(3)アキシアルすきま」、「(4)ボール構成」が記載され、そのうち「(1)作用点間距離」について、以下のように記載されている。 「作用点間距離[軸受負荷中心間距離]は、軸受の内部諸元により幾何学的に求まる。作用点間距離をSとすると、 S=DM・tanα+L ここで、L:球心距離 DM:ボールのピッチ円直径 α:接触角 例えば、図3から分かるように、同じ外形寸法の場合、DAC+ハブに対し第2世代ハブユニットにすることにより、 (1)トータルでの外輪肉厚を薄くできることから、DMを大きくできる。 (2)軸シール内蔵タイプにすることで、Lを大きくすることができる。 その結果作用点間距離を大きくすることが可能、言い換えれば、剛性を大きくすることが可能となる。」(甲第22号証の第53ページ左欄中段?第54ページ左欄(審決注:丸数字の1、2をそれぞれ(1)、(2)と表記した。)) (xiv)甲第8号証の第128ページの「(i)転動体の直径,d」の項の式、及び同第129ページ「(ii)一列中の転動体数,z」の項の式から、玉軸受の負荷容量C(「動負荷容量」又は「基本負荷容量」と近似した概念と考えられる。)は、転動体の直径dの1.8乗(d≦25.4mmの場合)に比例し、転動体数zの2/3乗に比例するものであるから、転動体の直径dを大きくした場合も、転動体数zを増やした場合も、負荷容量は大きくなるものの、転動体の直径dを大きくする方が転動体数zを増やすより負荷容量を大きくする効果が大きいものと解される。 他方、甲第8号証の第117ページの(3.42)式から、玉軸受の弾性変位量(変形接近量)δは、転動体直径dの1/3乗の逆数に比例し、転動体数zの2/3乗の逆数に比例する。そして、剛性は、上記弾性変位量δの逆数に比例するから、結局、玉軸受の剛性は、転動体直径dの1/3乗に比例し、転動体数zの2/3乗に比例するから、転動体の直径dを大きくした場合も、転動体数zを増やした場合も、剛性は大きくなるものの、転動体数zを増やす方が転動体の直径dを大きくするより剛性を向上させる効果が大きいものと解される。 (xv)乙参考図4は、甲第8号証に記載された上記(xiv)の転動体の直径と転動体数の関係をモデルを用いて説明したものであり、各モデルは、いずれも100Nの荷重を負荷したときであって、「モデル1」が玉径10mmの玉4個で受けた場合、「モデル2」がモデル1に示す玉径の1/2の玉径5mmの玉4個で受けた場合、「モデル3」がモデル1に示す玉径の1/2の玉径5mmの玉8個で受けた場合、のシミュレーション結果を示している。その結果は、負荷容量と剛性の大きさをそれぞれ「大」、「中」、「小」で表すと以下のような関係になっている。 モデル1(玉径10mm、玉数 4):負荷容量「大」、剛性「中」 モデル2(玉径 5mm、玉数 4):負荷容量「小」、剛性「小」 モデル3(玉径 5mm、玉数10):負荷容量「中」、剛性「大」 すなわち、玉数を4個に固定して玉径を5mmから10mmに大きくする(モデル2→モデル1への変更)と負荷容量が大きくなる(「小」→「大」)ことは当然であるが、剛性も「小」から「中」へ大きくなっている。また、玉径を5mmに固定して玉数を4個から10個に増やす(モデル2→モデル3への変更)と剛性が大きくなる(「小」→「大」)ことは当然であるが、負荷容量も「小」→「中」へ大きくなっている。このことから、転動体の直径(玉径)を大きくした場合も、転動体数(玉数)を増やした場合も、その程度は別として、負荷容量も剛性も大きくなることが分かる。 ただし、軸受のピッチ円直径が固定されているという条件の下では、転動体は幾何学的に固定されたピッチ円の円周長(πd)に収容する必要があることから、転動体の直径を大きくすると収容できる転動体数は少なくなり、逆に転動体の直径を小さくすると収容できる転動体数は多くなることになる。そして、転動体の直径と転動体数が負荷容量と剛性に及ぼす影響は、上記(xiv)に挙げたとおりであるから、甲第22号証の図6に示すようなバランスを念頭に、必要に応じて負荷容量と剛性のいずれかに重み付けをして設計することになる。 (xvi)甲第22号証には、「一般的にボール数[転動体数]が多いほど剛性は向上するが、動定格荷重は低下する。」(第54ページ左欄中段)と記載され、第54ページの図6には、ボールのピッチ円直径58.6mm、内輪幅42mmという条件において、ボール数に対する動定格荷重と剛性の関係は、逆の相関を有しているグラフが表示されている。 すなわち、上記図6は、転動体(ボール)のピッチ円直径が58.6mmに固定されているから、本件訂正明細書の表2に記載された試験結果と同様に、転動体の直径を小さくして転動体数を増加させるか、転動体直径を大きくして転動体数を減少させるかによって、動定格荷重と剛性がボール数14の左右で逆の特性を示しているものと解される。そうでないとすると、ボール数を12個から16個に増やすほど動定格荷重が一様に低下するという結果となり、不自然なだけでなく、上記(xiv)とも矛盾するからである。 したがって、甲第22号証の上記記載は、転がり軸受装置の負荷容量を大きくすることと剛性を大きくすることが逆の方向への課題を追究することであることを示しているのではなく、設計上ピッチ円直径を変更できないなど、ピッチ円直径が固定されている条件の下では、軌道面に収容する転動体の直径と転動体数は、負荷容量と剛性に逆の相関があるから両者のバランスを考慮する必要があることを示しているものである。 (xvii)上記(x)?(xiii)及び甲第22号証の図3、甲第11号証の図1、甲第14号証の図1などから、転がり軸受装置のモーメント剛性は、軸受負荷中心間距離を大きくすることによって向上させることができ、その距離は、転動体のピッチ円直径、転動体の球心距離、転動体と軌道面の接触角(上記(xiii)の「α」)から、幾何学的・力学的に計算できるものと解される。 (xviii)上記(xiv)?(xvi)から、転がり軸受装置は、転動体の直径を大きくした場合も、転動体数を増やした場合も、程度の差はあるが負荷容量及びモーメント剛性はいずれも大きくなる。ただし、設計上ピッチ円直径を変更できないなど、ピッチ円直径が固定されている条件の下では、固定されたピッチ円の円周長に収容する転動体の直径と転動体数がトレードオフの関係にあることから、その負荷容量と剛性に逆の相関があるものと解される。 (上記(i)?(xviii)を、それぞれ「基本的事項(i)?(xviii)」又は「周知事項」という。) (2-2)本件発明1の課題と構成について 本件発明1は、「狭隘な車体に対して、装置を大型化させることなく高剛性化を図れる構造でもって、転がり軸受装置の長寿命化を図れるようにすることを解決課題とする」ものである(本件訂正明細書の段落【0004】)。この点に関連して、本件訂正明細書には、次のような記載がある。 「【0025】 これらの距離L_(1),L_(2)は、軸受負荷中心間距離を示しており、これらL_(1),L_(2)が大きいほど、転がり軸受装置100の剛性が大きくなる。したがって、D_(1)>D_(2)に設定することにより、軸受負荷中心間距離が増大し、転がり軸受装置100の剛性を向上させることができ、ひいては転がり軸受装置100の長寿命化につながる。」 「【0042】 さらに、以上のように車両アウタ側の玉4の直径を小さくすることにより、上記参考例に比べてさらに車両アウタ側の玉群4の周方向における介装数を増やすことができる。図5に示すように、玉4の直径を小さくすると、周方向に隣り合う玉4同士の配置間隔を狭めることができるので、玉4の介装数を増やすことができる。これにより、玉一個当たりの荷重を分散することができ、転がり軸受装置100の剛性がさらに向上する。 【0043】 ただし、玉4の直径を小さくするにつれ、転がり軸受装置100の剛性は向上するものの、寿命は低下する傾向にある。そのため、玉4の直径は、従来例に比べて転がり軸受装置100の寿命が低下しない範囲で適切に設定する必要がある。」 そして、本件訂正明細書の表2に記載された試験結果をみると、試料1(玉4の直径を玉5の直径の88%、玉4の介装数を18個)が従来例との比較で剛性は84%と向上し、寿命も玉4側が147%、玉5側が120%といずれも向上しており、試料2(玉4の直径を玉5の直径の81%、玉4の介装数を20個)も従来例との比較で、剛性は83%となって試料1より向上し、寿命も玉4側が115%、玉5側が117%と向上しているのに対し、試料3(玉4の直径を玉5の直径の75%、玉4の介装数を21個)では従来例との比較で、剛性は82%となって試料2よりさらに向上しているものの、寿命は従来例との比較で玉4側が78%と低下していることから(本件訂正明細書の段落【0046】?【0048】)、玉4の直径の下限値は、第1転動体群のピッチ円直径D_(1)=73mmとしたとき、玉5の直径の81%、すなわち約10.32mm(試料2のデータ)とするのが好ましく、さらには、玉4の直径を約10.32mm、玉4の介装数を20個に設定(試料2のデータ)すると、極めて剛性が高く、しかも長寿命な転がり軸受装置100とすることができる(同【0049】)ことが記載されている。すなわち、試料1、試料2及び試料3は、従来例に対して、アウタ側の玉径を、順次、11.11mm、10.32mm及び9.53mmと小さくして、アウタ側の玉の介装数を、順次、18個、20個及び21個と増加させるに従って、剛性がそれぞれ84%、83%及び82%(値が小さいほど剛性が高い(同【0029】)。)と高くなっているが、アウタ側の寿命はそれぞれ147%、115%及び78%と低下していることから、アウタ側の玉4の直径の下限値は、剛性が最も高い試料3の直径9.53mmを除外して、試料2の10.32mmが好ましいとしているのであり、このことは上記「高剛性化を図れる構造でもって、転がり軸受装置の長寿命化を図れるようにする」こととも整合するものである。 以上のことから、本件発明1は、転がり軸受装置の寿命を度外視して高剛性化を図るものではなく、本件訂正明細書に記載されたとおり、「高剛性化を図れる構造でもって、転がり軸受装置の長寿命化を図れるようにすることを解決課題」としているものと解される。 この点に関して、被請求人は、第2回答弁書において、本件特許明細書では、高剛性化と同時に長寿命化という副次的な課題をも解決する手段として剛性が高く長寿命な転がり軸受装置とすることができる技術思想を開示するが、これらはあくまで試験結果についての記載であって、本件発明1によって特定される技術事項ではないこと(上記4.(5)(o)の項を参照。)、アウタ側の転動体の直径を小さくすることにより、従来例より剛性は向上しているが寿命は低下しているものも、寿命低下が許容範囲内であれば、その技術的範囲に含んでいること(同、(p)の項を参照。)、本件明細書の段落【0044】?【0049】、表2は、検証するための試験結果を示しているにすぎず、この試験結果の設定自体が、本件訂正発明1の実施形態そのものを示しているわけではないこと(同、(q)の項を参照。)、を主張している。 しかしながら、本件訂正明細書の段落【0004】、【0025】、【0046】?【0048】の記載に照らせば、本件発明1が寿命を考慮することなくモーメント剛性を課題としたものであると捉えることには無理があり、従来例より寿命が低下しても許容範囲内であれば本件発明の技術的範囲に含んでいることを示唆する記載もなく、上記許容範囲があるとしてもどの程度の範囲をいうのかも明らかではないから、上記主張は採用できない。 次に、本件発明1の構成について検討するに、本件発明1の「前記第1、第2転動体群の転動体の直径が同じ場合に比べて、さらに軸受負荷中心間距離の増大を図るように、前記第1転動体群の各転動体の直径が前記第2転動体群の転動体の直径よりも小さく設定されている」構成は、図4及び本件訂正明細書の段落【0040】?【0042】などから理解できるが、表2の試料1?3による試験は、いずれもピッチ円直径を73mmに固定して行ったものであり、これを図4に当てはめると点線で描かれた玉4の幾何学的な中心を固定して玉径を縮小する(この場合、内輪軌道面は拡径し、外輪軌道面は縮径して玉を支持することになる。)ことを意味するから、図4に記載された車両アウタ側の外輪軌道面の内径寸法を固定して玉径を縮小することにより軸受負荷中心間距離をL_(2)からL_(3)に拡大した説明とは異なり、軸受負荷中心間距離はL_(2)のまま変化させずに試験をして検証したことになる。この点ではこの試験結果が本件発明1の実施形態そのものを示していないという被請求人の主張を首肯できるが、そうだとすると、本件発明1の上記構成は、具体的な試験の裏付けがなく、発明の課題を解決する技術思想を上記基本的事項に基づく幾何学的・力学的な観点から検討して得られた構成を特定したものというほかない。 (2-3)本件発明1と甲第1号証発明の課題について 甲第1号証発明が解決しようとする課題について検討するに、甲第1号証発明は、一義的には転がり軸受全体の負荷容量を大きくすることによって軌道(I)および(II)の組合せ寿命が最大になるようにすることを解決課題としているものであるが(上記記載事項(エ))、第7図の実施例では「負荷容量をさらに大きくするため軌道(I)の直径を大きくしてボール(6)の個数をさらに多く組み込めるようにした」(上記記載事項(エ))ことにより、甲第1号証の第1図に記載された実施例と比較してピッチ円直径が大きくなって軸受負荷中心間距離が大きくなると同時に転動体数が増加して転がり軸受の剛性が向上していることは(転動体数の増加は負荷容量も大きくするが、剛性を大きくする効果が大きい。)、上記基本的事項(xiv)?(xvi)に照らして、当業者に明らかである。さらに、「第7図の実施例の軸受全体の負荷容量は第1図のそれに比較してさらに大きくなっている。たゞし、第7図の実施例の軸受を使用するときは車輪からの荷重は第1図の実施例の場合よりもさらに軌道(I)の方にかたよった位置に負荷して使用するようにするが、どれだけかたよらせるかはラジアル荷重、スラスト荷重、モーメント荷重等を考慮して軌道(I)および(II)の組合せ寿命が最大になるような位置」(上記記載事項(エ))としていることの技術的意義は、車輪からのラジアル荷重、スラスト荷重、モーメント荷重等が軌道(I)と(II)に対して負荷される相対的な位置によって軌道(I)と(II)が分担するラジアル荷重やモーメント荷重のバランスが変わることに伴って軌道(I)と(II)の負荷のみならず剛性の変化の影響も受けた結果として軌道(I)および(II)の組合せ寿命が最大になるような位置とすることを示唆している。すなわち、甲第1号証発明は、剛性を度外視して負荷容量のみの観点から転がり軸受装置の寿命を考慮しているわけではなく、転がり軸受装置の負荷容量に着目しつつ、剛性にも配慮して転がり軸受装置を長寿命化することを課題の前提としているものと解される。このことは、負荷容量だけに着目して寿命を向上させると、上記基本的事項(xiv)?(xvi)に示したように、剛性が低下して要求仕様を満たさなくなる可能性があることからも理解できる。 そうすると、上記基本事項(xiv)?(xvi)に挙げたとおり、転がり軸受装置は、設計上ピッチ円直径を変更できないなど、ピッチ円直径が固定されている条件の下では、剛性に着目するか負荷容量に着目するかによってその特性に逆の相関があるとしても、本件発明1と甲第1号証発明は、従来の転がり軸受装置の長寿命化を図ることを前提としてその特性を向上させたものである点において共通するものである。そして、その前提において、本件発明1は、剛性という課題に着目し、甲第1号証発明は、負荷容量という課題に着目したものということができる。 ところで、転がり軸受装置には、その使用条件に応じて、ラジアル荷重、スラスト荷重、及びモーメント荷重が作用することは、甲第1号証の記載事項(イ)にも示唆されているように、技術常識である。したがって、ラジアル荷重、スラスト荷重、及びモーメント荷重が作用する転がり軸受装置において、寿命を向上させることを前提として、負荷容量に重点を置いて設計するか、剛性に重点を置いて設計するかは、当該転がり軸受装置を使用する車種の要求仕様(高速車両か低速車両か、大型車両か小型車両か)や企業の設計思想などに応じて決定できる設計事項ということができる。さらに、甲第1号証発明が負荷容量に着目した発明であることは、上記基本的事項(i)?(xviii)を考慮して別の観点から設計変更をすることを妨げることにはならないことは明らかであって、転がり軸受装置の構成を検討する上で、その寿命を前提としつつ剛性に着目することは周知事項(例えば、甲第11号証の段落【0029】、【0033】、及び甲第13号証の段落【0007】、【0017】を参照。)であることに照らせば、甲第1号証発明において、長寿命化を図ることを前提としつつ、負荷容量ではなく剛性に着目して高めるようにすることは、当業者が上記設計事項を考慮して適宜なし得たことである。 被請求人は、上記4.(5)(v)において、甲第22号証の図6に示される上記技術的事項によれば、甲第1号証も甲第2号証も、いずれも、負荷容量を増大することを目的とする技術思想であるから、剛性は向上するが負荷容量は低下することになる、転動体直径を小さくして転動体数を増加させることを、甲第1号証に適用することは阻害要因がある旨を主張している。確かに、上記基本的事項(xvi)に挙げた、設計上ピッチ円直径を変更できないなど、ピッチ円直径が固定されている条件の下であれば、軌道面に収容する転動体の直径と転動体数がトレードオフの関係にあるから負荷容量と剛性に逆の相関があるので、阻害要因があるといえる余地もあるが、転がり軸受装置は、上記基本的事項(i)?(xviii)を考慮した上で、転動体の直径と転動体数のみならず、ピッチ円直径や軸受負荷中心間距離なども含めて設計されるのであるから、甲第22号証の図6に示された技術的事項が甲第1号証発明に甲第2号証の構成を適用することを妨げる理由にはならない。 なお、負荷容量と剛性に逆の相関があるという被請求人の主張は、上述のとおり、ピッチ円直径が固定されていることを前提としたものであるが、この点に関する構成は本件発明1の請求項に特定されていないばかりか、本件発明1の実施形態を説明する図4(外輪軌道面の直径を固定し、転動体の直径が小さくなるにつれてピッチ円直径を大きくした作図。この作図の手法は、甲第2号証の図1のアウトボード側のボール(22)の大きさを変更する手法と同じである。)の構成とも矛盾するものである。ただし、被請求人が本件発明を検証したものであって本件発明の実施形態そのものを示しているわけではない(被請求人の主張の上記4.(5)(q))としている表2の試験は、ピッチ円直径を73mmに固定して行われており、試料3では剛性が大きくなっているにも拘わらず寿命は低下しており、上記基本的事項(xvi)にも整合している。 (2-4)相違点1について 上記相違点1において、本件発明1がハブ軸の軸方向他方側の外周面に一体回転可能に内輪を嵌合装着して内輪軌道面とした点について検討する。 上記基本的事項(iii)に挙げたように、本件発明1の出願時において、甲第1号証発明のように内輪を一体に形成した内輪一体型の転がり軸受装置と、本件発明1のように車両インナ側の内輪を嵌合装着するとともに車両アウタ側の内輪をハブシャフトと一体化した分離内輪付の転がり軸受装置は、いずれも車種などに応じて広く採用されていた周知のものであり、甲第23号証の図9に見られるように、車種に応じた要求仕様や企業の設計思想などに基づいて適宜選択して用いられていたものである。そして、転がり軸受装置を構成する内輪部材、外輪部材、転動体などの要素は、上記要求仕様や上記設計思想などにしたがって上記基本的事項(x)?(xviii)を適用して各要素毎に当業者が通常の創作能力を発揮して設計できるものであるから、被請求人が上記4(2)(d)で主張するように、甲第1号証発明が内輪を一体型とすることにより低原価で高性能、低原価、軽量のフランジ付軸受及びその組合方法を提供するものであるとしても、上記要求仕様や上記設計思想などによる別の観点から当業者が内輪を上記分離内輪付のような形式に変更することを妨げる事情はないから、上記相違点1に係る本件発明1の構成は、甲第1号証発明に内輪をハブシャフトに嵌合装着して一体化した上記周知の形式を適用して当業者が容易に想到し得たものである。 (2-5)相違点2について 転がり軸受装置において、上記(2-3)で述べたとおり、その発明の解決課題として剛性に着目することは当業者が必要に応じて容易になし得たことであり、剛性を向上させるためにピッチ円直径、転動体の個数と直径、軸受負荷中心間距離などの要素を幾何学的・力学的な観点から検討して設計することは周知事項であるところ(上記基本的事項(i)?(xviii))、これらの要素のうち、ピッチ円直径について、その大小関係を数値範囲で特定することに困難性があるか、さらに、前記内輪部材のフランジと前記外輪部材のフランジとの間にできる自由空間を有効利用して車両アウタ側の前記第1転動体群のピッチ円直径D_(1)を大きく設定することに困難性があるかについて、以下に検討する。 まず、上記相違点2において、本件発明1が、転動体群のピッチ円直径である上記D_(1)と上記D_(2)との関係をD_(1)≦1.49×D_(2)に設定した点について検討するに、甲第1号証には、上述のとおり、第1転動体群のピッチ円直径D_(1)と第2転動体群のピッチ円直径D_(2)との関係がD_(1)>D_(2)に設定した点が記載されているところ、本件発明1の「D_(1)≦1.49×D_(2)」は、上記D_(2)に対する上記D_(1)の上限値を特定したものと解されるが、この点について本件訂正明細書には表1とともに次のような記載がある。 「【0031】 表1において、試料1では、D_(1)をD_(2)の110%とし、玉4の介装数を玉5と同じ11個としている。この場合、転がり軸受装置100は、従来例との比較において、剛性が98%と向上しており、寿命も玉4側が108%、玉5側が107%と向上している。 【0032】 試料2では、D_(1)をD_(2)の149%とし、玉4の介装数を16個としている。この場合、転がり軸受装置100は、従来例との比較において、剛性が84%と向上しており、寿命も玉4側が257%、玉5側が121%と向上している。しかも、試料1との比較においても、剛性、寿命ともに向上している。 【0033】 ただし、D_(1)をD_(2)の149%より大きく設定すると、転がり軸受装置100の大型化、重量化の問題があるため、D_(1)はD_(2)の149%以下に設定するのが好ましい。 【0034】 以上より、1.10×D_(2)≦D_(1)≦1.49×D_(2)に設定するのが好ましく、さらには、D_(1)=1.49×D_(2)、つまりD_(1)=73mmに設定すれば、剛性、寿命ともに優れた転がり軸受装置100とすることができる。」 すなわち、表1において、試料1はD_(1)をD_(2)の110%とすることにより従来例に比較して寿命は玉4側が108%、玉5側が107%、剛性は98%(値が小さいほど剛性が高い(本件訂正明細書の段落【0029】)。以下同じ。)に向上し、試料2はD_(1)をD_(2)の149%とすることにより従来例に比較して寿命は玉4側が257%、玉5側が121%と向上し、剛性は84%に向上している。そして、試料1と試料2からみて、上記D_(1)は上記D_(2)に対してその比率を大きくするに従って寿命、剛性の双方の特性が向上しているにもかかわらず、上記1.49(149%)を上限として設定した根拠は、軸受の寿命や剛性の特性が上記1.49を境に急激に変化したり極大化するなどの臨界的な特徴を示すというものではなく、「D_(1)をD_(2)の149%より大きく設定すると、転がり軸受装置100の大型化、重量化の問題があるため、D_(1)はD_(2)の149%以下に設定するのが好ましい」(本件訂正明細書の段落【0033】)というものであり、転がり軸受装置の大型化、重量化の問題があるという観点から特定したものである。確かに、無制限に上記比率が大きくなると一般的に転がり軸受装置が大型化、重量化する問題があることは明らかであるとしても、上記2つの試料1と試料2の試験の結果から上記1.49を境にして大型化や重量化の問題が普遍的に生じるものとは認められず、かつ、上記1.49は、本件発明1が目的とする寿命や剛性を上げる観点での上限ではなく、転がり軸受装置の適用にあたっての大型化、重量化の観点から好ましい値とされているにすぎないことは上記のとおりである。 そうすると、第1転動体群のピッチ円直径D_(1)と第2転動体群のピッチ円直径D_(2)との関係がD_(1)>D_(2)に設定した点が甲第1号証に記載されている以上、その大小関係をどの程度に設定するか、すなわち、適用にあたって大型化、重量化の問題が生じないような設計上の配慮をして数値範囲を設定することは、当業者の通常の創作能力の発揮にすぎない。 次に、本件発明1が、前記内輪部材のフランジと前記外輪部材のフランジとの間にできる自由空間を有効利用して車両アウタ側の前記第1転動体群のピッチ円直径D_(1)を大きく設定した点について検討するに、車両を構成する機械部品は、デッドスペースあるいは自由空間を有効利用することは一般的に行われている設計上の技術常識であるところ、甲第1号証発明も内輪部材のフランジと外輪部材のフランジとの間にできる空間を利用して車両アウタ側の第1転動体群のピッチ円直径を大きくしているものといえるものである。また、本件発明1は、本件訂正明細書及び図面から見て、上記自由空間を有効利用するために車両の支持部材や車輪との関連構成において第1転動体群の配置やピッチ円の大きさを工夫したものと解することはできないから、甲第1号証発明に上記技術常識を適用して内輪部材のフランジと外輪部材のフランジとの間にできる自由空間を有効利用して車両アウタ側の第1転動体群のピッチ円直径D_(1)を大きく設定することは設計事項にすぎないということもできる。 以上のとおり、上記相違点2に係る本件発明1の構成は、甲第1号証発明に設計上の配慮や技術常識に基づく設計変更を加えて当業者が容易に想到し得たものである。 (2-6)相違点3について 第1転動体群の個数を第2転動体群より増大させることは甲第1号証に記載されていることから、さらに進んで、甲第1号証発明について、第1転動体群が第2転動体群の直径と異なる直径のものであって、軸受負荷中心間距離の増大を図るような大小関係をもって第1転動体群の転動体の直径を小さくすること(例えば、本件の図面の図4に記載されているように、ピッチ円直径を固定せず、かつ、接触角を一定に保ちつつ、ピッチ円直径が大きくなる方向に転動体を小さくすること)が当業者にとって格別困難なことなのかどうかについて検討する。 甲第1号証発明は負荷容量に着目して転がり軸受装置の長寿命化を図った発明だとしても、当業者が転がり軸受装置を使用する車種の要求仕様(高速車両か低速車両か、大型車両か小型車両か)や企業の設計思想などに応じて転がり軸受装置の剛性を高めるようにすることができたことは、上記「(2-3)本件発明1と甲第1号証発明の課題について」に示したとおりである。転がり軸受装置の剛性を高めるためには、上記基本的事項(xiii)に示されているように、(1)作用点間距離、(2)外輪・内軸強度、(3)アキシアルすきま及び(4)ボール構成、を検討する必要があるが、そのうち、軸受負荷中心間距離に相当する上記「(1)作用点間距離」(S)は、上記基本的事項(xiii)に記載された「S=DM・tanα+L」の式に基づいて計算される。この式によれば、ボールのピッチ円直径DMが大きいほど、tanαが大きいほど、球心距離Lが長いほど、軸受負荷中心間距離が大きくなり、剛性が高くなることが理解できる。これらの要素のうち、上記ピッチ円直径DMは、外輪軌道面の直径を大きくできないという制約された条件においては、幾何学的に、転動体の大小(例えば、甲第2号証の図1(FIG.1)の左側のピッチ円直径は実線の大きな転動体ではピッチ円直径が小さくなり、点線の小さな転動体ではピッチ円直径が大きくなっている。)に左右されるものであり、外輪軌道面に接近するように転動体の直径を小さくするとピッチ円直径も大きくなる。したがって、軸受負荷中心間距離を増大して剛性の向上を図るには、外輪軌道面に接近する方向に転動体の直径を小さくすればよいことは当業者であれば容易に理解できることである。 また、甲第2号証に記載された実施例は、一方の直径が大きく他方の直径が小さい転動体を採用して車両アウタ側又は車両インナ側の負荷容量を大きくするものであることから、甲第2号証の上記技術事項(B)は、車両アウタ側と車両インナ側の転動体の直径は要求される寿命、負荷容量、又は剛性の機能に応じて大小が異なる転動体を採用することができるという技術思想を示唆しているものと解され、剛性を高める観点から転動体の一方の直径が小さく他方の直径が大きい転動体を採用することを妨げる設計上の理由はない。 さらに、上記「(4)ボール構成」に関して、甲第3号証には、転がり軸受単体ではあるが、「内部設計から剛性を上げるには、(a)転がり接触部の変形を小さくする。・・・(a)は玉径、軌道溝半径やころ径、ころ長さと転動体数に関係し、一般に、小さい転動体を多数使う方がよい。」(上記記載事項(セ))と記載されていることや、上記基本的事項(xiv)?(xvi)から、直径の小さい転動体を多数用いることによって剛性を上げることができることは、周知事項の一つと解される。 そうすると、上記「(1)作用点間距離」と上記「(4)ボール構成」によって剛性を高めるために、甲第1号証発明の第1転動体群の各転動体の直径について、甲第2号証に記載された車両アウタ側と車両インナ側の転動体の直径の大小が異なる転動体を採用する技術思想、及び甲第3号証ないし上記基本的事項(xiv)?(xvi)に記載された小さい転動体を多数用いる周知事項に基づいて、幾何学的又は力学的な関係から上記相違点3に係る本件発明1の構成とすることは、当業者であれば容易に想到し得たことである。 上記転動体の直径について、被請求人は、ボール径を小さくすることは、ボール径を大きくして負荷容量を増大するという甲第2号証に記載された発明の技術思想に対して逆行する行為である(上記4.(3)(g))こと、甲第1号証発明に甲第2号証に記載された発明を適用しても、甲第1号証発明における2列の玉径を共に大きくするという構成しか想到し得ない(上記4.(5)(t))、などを主張している。 しかしながら、転がり軸受装置は、転動体の直径の大小のみで設計されるのではなく、車種の要求仕様(高速車両か低速車両か、大型車両か小型車両か)や企業の設計思想などに応じて、転動体の直径、個数、ピッチ円直径、軸受負荷中心間距離などの数値を組み合わせて設計されるものであるから、甲第1号証発明を構成するこれらの要素を必要に応じて、剛性に着目して設計変更することは当業者の通常の創作活動といえるものであり、そのことを阻害する事情は見あたらない。また、被請求人の「ボール径を小さくすることは、ボール径を大きくして負荷容量を増大するという甲第2号証に記載された発明の技術思想に対して逆行する行為である」という主張は、「ボール径を小さくすること」が直ちに「負荷容量」を小さくすることになることを前提としているものである。このことは、本件訂正明細書の表2や甲第22号証の図6のようにピッチ円直径を一定に固定したまま転動体の直径と個数を変更した場合には、両者がトレードオフの関係にあることから、正当としても、本件発明1は、ピッチ円直径を固定して転動体の直径を小さくするものではない。すなわち、本件発明1は、その実施形態が図4に記載されているように、外輪軌道面の直径を固定して転動体と軌道面の接触角を一定に保ちながら内輪軌道面の直径を大きくしつつ、転動体の直径を小さくすることによってピッチ円直径を車両アウタ側の外輪軌道面に接近させ、軸受負荷中心間距離を大きくするものであるから、転動体の直径を小さくしてもピッチ円直径を大きくすることによって転動体数を増加させることができ、そのため剛性だけでなく負荷容量も大きくすることができるものである。したがって、上記主張は本件発明1の構成に基づく主張ではない。 (2-7)効果について 転がり軸受装置が奏する基本的な機能ないし特性は、上記周知事項(基本的事項(i)?(xviii))に示した転がり軸受装置の形式(構造)、転動体の直径、ピッチ円直径、転動体の個数、軸負荷中心間距離等を設定した幾何学的・力学的な検討や試験などによって予測可能なものであるところ、本件発明1は甲第1?3号証に記載された発明及び上記周知事項から当業者が予測できないような効果を奏するものではない。 (3)小括 したがって、本件発明1は、甲第1?3号証に記載された発明及び上記周知事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。 7-2.本件発明2について (1)対比 本件発明2と甲第1号証発明を対比すると、上記一致点で一致し、上記相違点1ないし3に加えてさらに以下の点で相違している。 [相違点4] 本件発明2は、前記第1転動体群の各転動体の直径が、前記第2転動体群の各転動体の直径の88%よりも小さく、81%よりも大きく設定されているのに対し、甲第1号証発明は、上記第1転動体群の各転動体の直径が、前記第2転動体群の各転動体の直径に対してどの程度か明らかでなく、第7図からは両者の直径が同一に見える点。 (2)判断 上記相違点1ないし3については上記7-1.において検討したので、以下に上記相違点4について検討する。 本件発明2において、転動体の直径を上記のように数値で特定した点は、転がり軸受装置の「アウタ側」の「ピッチ円直径」を73mm、「インナ側」の「ピッチ円直径」を49mmの一定の値として試験をした本件訂正明細書の表2の試料1と試料2における第1転動体群の直径を、第2転動体群の直径(従来の大きさ)と比較した比率をそれぞれ上限と下限の数値としたにすぎないものであって、当業者が通常の創作能力を発揮して数値範囲を最適化したことにほかならず、臨界的意義がないことは明らかである。また、上記のように特定の「ピッチ円直径」のみの転がり軸受装置に対する試験結果が技術的に普遍的な意義を有するものとも認められない。 よって、上記相違点4に係る本件発明2の構成は、甲第1号証発明に甲第2号証及び甲第3号証に記載された発明並びに上記周知事項を適用して当業者が容易に想到し得たものである。 (3)小括 したがって、本件発明2は、甲第1?3号証に記載された発明及び上記周知事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。 7-3.本件発明3について (1)対比 本件発明3と甲第1号証発明を対比すると、上記一致点で一致し、上記相違点1ないし4に加えてさらに以下の点で相違している。 [相違点5] 本件発明3は、前記第1転動体群の転動体数が、前記第2転動体群の転動体数の182%よりも小さく設定されているのに対し、甲第1号証発明は、第1転動体群と第2転動体群の転動体数の比率が明らかではない点。 (2)判断 上記相違点1ないし4については上記7-1.及び上記7-2.において検討したので、以下に上記相違点5について検討する。 本件発明3において、第1転動体群の転動体数を第2転動体群の転動体数の182%よりも小さく設定した点は、転がり軸受装置の「アウタ側」の「ピッチ円直径」を73mm、「インナ側」の「ピッチ円直径」を49mmの一定の値として試験をした本件訂正明細書の表2の試料1?3のうち、試料3を除外して試料2における第1転動体群の転動体数を第2転動体群の転動体数(従来の転動体数)と比較した比率を上限の数値としたものであって、当業者が通常の創作能力を発揮して数値範囲を最適化したことにほかならず、上記特定の試料のみから得られた値に臨界的意義がないことは明らかである。また、上記のように73mmという特定の「ピッチ円直径」の転がり軸受装置の試験に基づいて得られた結果が技術的に普遍的な意義を有するものとも認められない。 よって、上記相違点5に係る本件発明3の構成は、甲第1号証発明に甲第2号証及び甲第3号証に記載された発明並びに上記周知事項を適用して当業者が容易に想到し得たものである。 (3)小括 したがって、本件発明3は、甲第1?3号証に記載された発明及び上記周知事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。 7-4.まとめ 以上のとおり、本件発明1ないし本件発明3は、いずれも甲第1?3号証に記載された発明及び上記周知事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 8.むすび 以上のとおりであるから、本件特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第123条第1項第2号に該当するから、無効とすべきものである。 審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定において準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人が負担すべきものとする。 よって、結論のとおり審決する。 |
発明の名称 |
(54)【発明の名称】 転がり軸受装置 (57)【特許請求の範囲】 【請求項1】軸方向一方側の外周面に車両アウタ側のフランジを有するハブ軸と、前記ハブ軸の軸方向他方側の外周面に一体回転可能に嵌合装着された内輪とからなり、前記ハブ軸の軸方向他方側の外周面および前記内輪の外周面に軸方向二列の第1、第2内輪軌道面を有する内輪部材と、 内周面に前記内輪部材の二列の第1、第2内輪軌道面と径方向でそれぞれ対向する軸方向二列の第1、第2外輪軌道面を有し、前記第1外輪軌道面より軸方向他方側における外周面に車両インナ側のフランジを有する外輪部材と、 前記外輪部材の第1、第2外輪軌道面と前記内輪部材の第1、第2内輪軌道面との間に介装される軸方向二列の第1、第2転動体群とを含み、 前記内輪部材のフランジと前記外輪部材のフランジとの間において、車両アウタ側の前記第1転動体群のピッチ円直径D_(1)と、車両インナ側の前記第2転動体群のピッチ円直径D_(2)との関係が、D_(1)>D_(2)に設定され、前記内輪部材のフランジと前記外輪部材のフランジとの間にできる自由空間を有効利用して車両アウタ側の前記第1転動体群のピッチ円直径D_(1)を大きく設定し、 前記D_(1)と前記D_(2)との関係が、D_(1)≦1.49×D_(2)に設定されており、 前記第1、第2転動体群の転動体の直径が同じ場合に比べて、さらに軸受負荷中心間距離の増大を図るように、前記第1転動体群の各転動体の直径が前記第2転動体群の転動体の直径よりも小さく設定されているとともに、 前記第1転動体群の転動体数が前記第2転動体群の転動体の数よりも増大されている転がり軸受装置。 【請求項2】請求項1の転がり軸受装置において、 前記第1転動体群の各転動体の直径が、前記第2転動体群の各転動体の直径の88%よりも小さく、81%よりも大きく設定されている転がり軸受装置。 【請求項3】請求項2の転がり軸受装置において、 前記第1転動体群の転動体数が、前記第2転動体群の転動体数の182%よりも小さく設定されている転がり軸受装置。 【発明の詳細な説明】 【技術分野】 【0001】 本発明は、車両用や各種産業機器等に適用する転がり軸受装置に関する。 【背景技術】 【0002】 図10を参照してこの種の転がり軸受装置を複列外向きのアンギュラ玉軸受装置に適用して説明する(例えば特許文献1参照)。この複列外向きのアンギュラ玉軸受装置500は、外輪1と、ハブ軸2と、内輪3と、玉群4、5とを有する。外輪1は、不図示の車体に固定され、内周面に軸方向二列の軌道面12,13を有するとともに、車両アウタ側の軌道面の車両インナ側における外周面に前記車体に固定するためのフランジ14を有する。ハブ軸2は、車両アウタ側の外周面に車輪を取り付けるためのフランジ15を有するとともに、軸方向中間の外周面に車両アウタ側の軌道面16を有する。内輪3は、ハブ軸2の車両インナー側の外周面に一体回転可能に嵌合装着され、外周面に車両インナー側の軌道面17を有する。玉群4,5は、外輪1とハブ軸2と内輪3それぞれの軌道面間において設けられる。 【特許文献1】特開2000-38004号公報 【発明の開示】 【発明が解決しようとする課題】 【0003】 上記転がり軸受装置500の場合、設計の容易さや生産コスト低減の観点から、両列の玉群4,5同士が互いの軸方向中間点に対して軸方向左右対称の構造に作られている。このように軸方向左右対称の構造を有する転がり軸受装置500において、その長寿命化を図る手段の一つとして各列の玉群4,5の軸方向距離やピッチ円直径を大きくすることにより各列の玉群4,5の軸受負荷中心間距離を大きくし、その高剛性化を図ることが考えられる。しかしながら、このような高剛性化構造では、転がり軸受装置全体の寸法が大型化せざるを得なくなる一方、転がり軸受装置500それ自体が狭隘な車体の一部に取り付けられる構造となっているから、装置を大型化する余地はほとんどない。そのため、従来の転がり軸受装置では、その高剛性化を図ることは困難である。 【0004】 したがって、本発明は、狭隘な車体に対して、装置を大型化させることなく高剛性化を図れる構造でもって、転がり軸受装置の長寿命化を図れるようにすることを解決課題とする。 【課題を解決するための手段】 【0005】 本発明の転がり軸受装置は、軸方向一方側の外周面に車両アウタ側のフランジを有するハブ軸と、前記ハブ軸の軸方向他方側の外周面に一体回転可能に嵌合装着された内輪とからなり、前記ハブ軸の軸方向他方側の外周面および前記内輪の外周面に軸方向二列の第1、第2内輪軌道面を有する内輪部材と、内周面に前記内輪部材の二列の第1、第2内輪軌道面と径方向でそれぞれ対向する軸方向二列の第1、第2外輪軌道面を有し、前記第1外輪軌道面より軸方向他方側における外周面に車両インナ側のフランジを有する外輪部材と、前記外輪部材の第1、第2外輪軌道面と前記内輪部材の第1、第2内輪軌道面との間に介装される軸方向二列の第1、第2転動体群とを含み、前記内輪部材のフランジと前記外輪部材のフランジとの間において、車両アウタ側の前記第1転動体群のピッチ円直径D_(1)と、車両インナ側の前記第2転動体群のピッチ円直径D_(2)との関係が、D_(1)>D_(2)に設定され、前記内輪部材のフランジと前記外輪部材のフランジとの間にできる自由空間を有効利用して車両アウタ側の前記第1転動体群のピッチ円直径D_(1)を大きく設定し、前記D_(1)と前記D_(2)との関係が、D_(1)≦1.49×D_(2)に設定されており、前記第1、第2転動体群の転動体の直径が同じ場合に比べて、さらに軸受負荷中心間距離の増大を図るように、前記第1転動体群の各転動体の直径が前記第2転動体群の転動体の直径よりも小さく設定されているとともに、前記第1転動体群の転動体数が前記第2転動体群の転動体の数よりも増大されている。 【0006】 ここで、D_(1)>D_(2)の関係は、D_(1)を大きく設定することにより実現し、D_(2)は一定とする。 【0007】 本発明の転がり軸受装置では、内輪部材のフランジと外輪部材のフランジとの間にできる自由空間を有効利用して車両アウタ側の転動体群のピッチ円直径を、車両インナ側に比べて大きく設定している。そのため、各列の転動体群同士の軸受負荷中心間距離を増大させることができる。その結果、装置の大型化を避けつつ、転がり軸受装置の高剛性化および長寿命化を図ることができる。 【0008】 このような構成とした場合、D_(1)をD_(2)よりも大きくしつつ、D_(1)をD_(2)の149%以下にとどめている。そのため、拡径スペースを超過して転がり軸受装置が大型化したり、転がり軸受装置の重量や製造コストが上昇するのを最小限度に抑えつつ、転がり軸受装置の高剛性化および長寿命化を図ることができる。なお、前記D_(1)と前記D_(2)との関係を1.10×D_(2)≦D_(1)≦1.49×D_(2)とすれば、上記作用・効果がより顕著となり好ましい。 【0012】 さらに、第1転動体群における転動体の直径が小さく設定されており、それに伴い、転動体の周方向の介装数が多く設定されている。その結果、各転動体群の1個あたりの荷重を分散することができ、転がり軸受装置の剛性をさらに向上させることができる。 また、本発明の転がり軸受装置は、前記第1転動体群の各転動体の直径が、前記第2転動体群の各転動体の直径の88%よりも小さく、81%よりも大きく設定されている。 また、本発明の転がり軸受装置は、前記第1転動体群の転動体数が、前記第2転動体群の転動体数の182%よりも小さく設定されている。 【発明の効果】 【0013】 以上説明したように、本発明の転がり軸受装置によれば、車輪が取り付けられる内輪部材のフランジと、車体に固定される外輪部材のフランジとの間にできる自由空間を有効利用して車両アウタ側の転動体のピッチ円直径を大きく設定している。これにより、装置の大型化を避けつつ各列の転動体の軸受負荷中心間距離を増大させると同時に、転動体の介装数を多くすることができる。その結果、転がり軸受装置の剛性が向上し、その長寿命化を図ることができる。 【発明を実施するための最良の形態】 【0014】 以下、本発明の参考例に係る転がり軸受装置を、図面を参照して詳細に説明する。この転がり軸受装置は、車両用車軸の軸受用に適用して説明する。この転がり軸受装置は、従動輪側を例にとっている。図1は本発明の参考例に係る転がり軸受装置の全体構成を示す断面図、図2は、図1の転がり軸受装置の上半分断面図である。図1で軸方向左側は車両アウタ側(軸方向一方側)を、軸方向右側は車両インナ側(軸方向他方側)を示す。 【0015】 図例の転がり軸受装置100は、複列外向きアンギュラ玉軸受装置として、外輪1と、ハブ軸2と、内輪3と、一対の玉群4,5と、一対の保持器6,7と、一対のシール部材8,9とを有する。 【0016】 外輪1は、外輪部材として、内周面に軸方向二列の軌道面12,13を有するとともに、車両アウタ側の軌道面12の車両インナ側における外周面に車両(不図示)に固定するためのフランジ14を有する。 【0017】 ハブ軸2は、内輪部材の一部分として、車両アウタ側の外周面に車輪(不図示)を取り付けるためのフランジ15を有するとともに、軸方向中間の外周面に外輪1の車両アウタ側の軌道面12と対向する一列の軌道面16を有する。内輪3は、内輪部材の一部分として、ハブ軸2における車両インナ側の外周面に該ハブ軸2と一体回転可能に嵌合装着され、外周面に外輪1の車両インナ側の軌道面13と対向する一列の軌道面17を有する。 【0018】 玉群4,5は、転動体として、外輪1の軌道面12,13とハブ軸2および内輪3の各軌道面16,17との間において軸方向に二列介装される。 【0019】 一対の保持器6,7それぞれは、各列の玉群4,5を保持する。 【0020】 各列のシール部材8,9は、外輪1の内周の軸方向両側において、外輪1とハブ軸2との間、外輪1と内輪3との間それぞれの環状空間を軸方向で仕切っており、当該環状空間内にグリースを密封している。 【0021】 ハブ軸2の車両インナ側端部は、内輪3の外端面に対してかしめられており、かしめ部10を形成する。このかしめによりハブ軸2と内輪3は一体回転可能になるとともに、転がり軸受装置100に対して所要の予圧が付与される。 【0022】 本参考例では、次の構成を有することを特徴とする。すなわち、上述した構成を有する転がり軸受装置100の場合、外輪1のフランジ14の車両インナ側が車両の一部であるナックル(不図示)に固定され、ハブ軸2のフランジ15の車両アウタ側に車輪(不図示)が取り付けられる。このとき、外輪1のフランジ14とハブ軸2のフランジ15との間には環状の自由空間11が存在する。本発明の前提となる一実施形態では、この環状の自由空間11に着目して、図1に示すように、車両アウタ側の玉群4のピッチ円直径D_(1)と、車両インナ側の玉群5のピッチ円直径D_(2)との関係をD_(1)>D_(2)に設定している。但し、このD_(1)>D_(2)の関係は、D_(1)を大きく設定することにより実現し、D_(2)は一定とする。これに伴い、ハブ軸2の軌道面16を内輪3の軌道面17よりも拡径し、あわせて外輪1の車両アウタ側の軌道面12を車両インナ側の軌道面13よりも拡径している。 【0023】 このように、D_(1)>D_(2)に設定することにより、転がり軸受装置100の剛性が向上する。以下、D_(1)>D_(2)に設定することと、転がり軸受装置100の剛性向上との因果関係を説明する。 【0024】 図2において、D_(1)=D_(2)としたとき(図中の点線)の各列の玉群4,5の中心からハブ軸2および内輪3の各軌道面16,17に加わる力の作用方向を示す作用線をそれぞれF_(1),F_(2)とし、これらと転がり軸受装置100の中心軸線Oとの交点をそれぞれO_(1),O_(2)とする。一方、D_(1)>D_(2)としたときの車両アウタ側の玉群4の中心からハブ軸2の軌道面16に加わる力の作用方向を示す作用線をF_(3)とし、これと転がり軸受装置100の中心軸線Oとの交点をO_(3)とする。このとき、交点O_(1),O_(2)間の距離をL_(1)とし、交点O_(1),O_(3)間の距離をL_(2)とすると、L_(2)>L_(1)の関係となる。 【0025】 これらの距離L_(1),L_(2)は、軸受負荷中心間距離を示しており、これらL_(1),L_(2)が大きいほど、転がり軸受装置100の剛性が大きくなる。したがって、D_(1)>D_(2)に設定することにより、軸受負荷中心間距離が増大し、転がり軸受装置100の剛性を向上させることができ、ひいては転がり軸受装置100の長寿命化につながる。 【0026】 ところで、D_(1)>D_(2)に設定すると、当該玉群4の周方向における介装スペースが増大する。その分、玉群4の介装数を増やすことにより、玉4の一個当たりの荷重を分散することができるので、転がり軸受装置100の剛性および寿命をさらに向上させることができる。 【0027】 以下、D_(1)および玉群4の介装数の最適な設定について試験により検証しているので、説明する。 【0028】 この試験に用いた転がり軸受装置100は、車両インナ側の玉5について、D_(2)=49mm、直径は12.7mm、介装数は11個とし、車両アウタ側の玉4については、その直径を玉5と同じ12.7mmとした。この試験では、車両アウタ側の玉4について、D_(1)および介装数をいろいろ変化させて転がり軸受装置100の剛性および寿命を確認した。従来例としては、玉4,5について、D_(1)=D_(2)=49mm、直径は共に12.7mm、介装数は共に11個に設定した。 【0029】 転がり軸受装置100の剛性は、転がり軸受装置100に径方向に一定の荷重をかけたときの転がり軸受装置100の傾きを計測して確認し、寿命は、転がり軸受装置100を回転させ寿命に至るまでの走行距離を計測して確認する。なお、転がり軸受装置100の剛性を示す傾き(単位:分)は、その値が小さいほど転がり軸受装置100の剛性が高いことを示しており、転がり軸受装置100の寿命を示す走行距離(単位:万km)は、その値が大きいほど転がり軸受装置100の寿命が長いことを示す。 【0030】 【表1】 ![]() 【0031】 表1において、試料1では、D_(1)をD_(2)の110%とし、玉4の介装数を玉5と同じ11個としている。この場合、転がり軸受装置100は、従来例との比較において、剛性が98%と向上しており、寿命も玉4側が108%、玉5側が107%と向上している。 【0032】 試料2では、D_(1)をD_(2)の149%とし、玉4の介装数を16個としている。この場合、転がり軸受装置100は、従来例との比較において、剛性が84%と向上しており、寿命も玉4側が257%、玉5側が121%と向上している。しかも、試料1との比較においても、剛性、寿命ともに向上している。 【0033】 ただし、D_(1)をD_(2)の149%より大きく設定すると、転がり軸受装置100の大型化、重量化の問題があるため、D_(1)はD_(2)の149%以下に設定するのが好ましい。 【0034】 以上より、1.10×D_(2)≦D_(1)≦1.49×D_(2)に設定するのが好ましく、さらには、D_(1)=1.49×D_(2)、つまりD_(1)=73mmに設定すれば、剛性、寿命ともに優れた転がり軸受装置100とすることができる。 【0035】 以上のように、本参考例では、車両アウタ側の玉群4のピッチ円直径を大きく設定している。そのため、外輪1のフランジ14と内輪3のフランジ15との間に生じるスペースを有効に活用して転がり軸受装置100における玉群4,5の互いの軸受負荷中心間距離を増大させることができ、転がり軸受装置100の剛性を向上させることができる。しかも、車両アウタ側の玉群4の周方向における介装スペースも増大するため、その分、玉群4の介装数を増やすことができ、転がり軸受装置100の剛性をさらに向上させることができる。 【0036】 なお、本発明は、上述の参考例に限定されるものではなく、以下に述べる実施形態にも適用可能である。 【0037】 (1)図3は、本発明の実施形態に係る転がり軸受装置の全体構成を示す断面図、図4は、図3の転がり軸受装置の上半分断面図、図5は、車両アウタ側の玉の配列を示す説明図である。図3で軸方向左側は車両アウタ側(軸方向一方側)を、軸方向右側は車両インナー側(軸方向他方側)を示す。 【0038】 図3に示す転がり軸受装置100の基本的構成は、上記参考例と同様であるが、異なる点は、車両アウタ側の玉4の直径を小さくしている点である。これに伴い、ハブ軸2の軌道面16は、上記参考例よりもさらに径方向外側に拡径する。 【0039】 このように、上記参考例に加えて、車両アウタ側の玉4の直径を小さくすることによっても、転がり軸受装置100の剛性が向上する。以下、車両アウタ側の玉4の直径の縮小と、転がり軸受装置100の剛性向上との因果関係を説明する。 【0040】 図4において、車両アウタ側の玉4の直径を小さくしないとき(図中の点線)の各列の玉群4,5の中心から内輪およびハブ軸の各軌道面16,17に加わる力の作用方向を示す作用線をそれぞれF_(1),F_(3)とし、これらと転がり軸受装置100の中心軸線Oとの交点をそれぞれO_(1),O_(3)とする。一方、車両アウタ側の玉4の直径を小さくしたときのこの車両アウタ側の玉群4の中心からハブ軸2の軌道面16に加わる力の作用方向を示す作用線をF_(4)とし、これと転がり軸受装置100の中心軸線Oとの交点をO_(4)とする。このとき、交点O_(1),O_(3)間の距離をL_(2)とし、交点O_(1),O4間の距離をL_(3)とすると、L_(3)>L_(2)の関係となる。 【0041】 既に説明したように、これらの距離L_(2),L_(3)は、軸受負荷中心間距離を示しており、これらL_(2),L_(3)が大きいほど、転がり軸受装置100の剛性が大きくなる。したがって、車両アウタ側の玉4の直径を小さくすることにより、上記実施形態に比べてさらに軸受負荷中心間距離の増大を図ることができ、転がり軸受装置100の剛性をさらに向上させることができる。 【0042】 さらに、以上のように車両アウタ側の玉4の直径を小さくすることにより、上記参考例に比べてさらに車両アウタ側の玉群4の周方向における介装数を増やすことができる。図5に示すように、玉4の直径を小さくすると、周方向に隣り合う玉4同士の配置間隔を狭めることができるので、玉4の介装数を増やすことができる。これにより、玉一個当たりの荷重を分散することができ、転がり軸受装置100の剛性がさらに向上する。 【0043】 ただし、玉4の直径を小さくするにつれ、転がり軸受装置100の剛性は向上するものの、寿命は低下する傾向にある。そのため、玉4の直径は、従来例に比べて転がり軸受装置100の寿命が低下しない範囲で適切に設定する必要がある。 【0044】 以下、玉4の直径および介装数の最適な設定について試験により検証しているので説明する。この試験に用いた転がり軸受装置100は、車両インナ側の玉5について、D_(2)=49mm、直径は12.7mm、介装数は11個とする。車両アウタ側の玉4について、D_(1)は、上記実施形態での試験の結果に基づき、転がり軸受装置100の剛性、寿命ともに最も向上するD_(1)=73mmに設定した。この試験では、車両アウタ側の玉4について、直径および介装数をいろいろ変化させて転がり軸受装置100の剛性および転がり寿命を確認した。従来例としては、玉4,5について、D_(1)=D_(2)=49mm、直径は共に12.7mm、介装数は共に11個に設定した。なお、転がり軸受装置100の剛性および寿命の測定方法は上記実施形態と同様である。 【0045】 【表2】 ![]() 【0046】 表2において、試料1では、玉4の直径を玉5の直径の88%としており、玉4の介装数を18個としている。この場合、従来例との比較で、剛性は84%と向上しており、寿命も玉4側が147%、玉5側が120%といずれも向上している。 【0047】 試料2では、玉4の直径を玉5の直径の81%としており、玉4の介装数を20個としている。この場合も、従来例との比較で、剛性は83%と向上しており、寿命も玉4側が115%、玉5側が117%といずれも向上している。ちなみにこの場合、玉4側の寿命が試料1に比べて低下している。 【0048】 試料3では、玉4の直径を玉5の直径の75%としており、玉4の介装数を21個としている。この場合、従来例との比較で、剛性は82%と向上している。しかし、寿命は、従来例との比較で、玉5側が117%と向上しているのに対して、玉4側が78%と低下している。 【0049】 以上より、玉4の直径の下限値は、D_(1)=73mmとしたとき、玉5の直径の81%、すなわち約10.32mmとするのが好ましく、さらには、玉4の直径を約10.32mm、玉4の介装数を20個に設定すると、極めて剛性が高く、しかも長寿命な転がり軸受装置100とすることができる。 【0050】 以上のように、上記参考例に加えて、車両アウタ側の玉4の直径を小さくすることによって、転がり軸受装置100における軸受負荷中心間距離をさらに増大させることができるので、転がり軸受装置100のさらなる剛性化を図ることができる。また、車両アウタ側の玉群4の周方向の介装数を多くすることができるので、転がり軸受装置100の剛性がさらに向上する。 【0051】 (2)図6は、本発明のさらに他の参考例に係る転がり軸受装置の全体構成を示す断面図である。 【0052】 図6において、図1から図2と対応する部分には同一の符号を付しており、その同一の符号に係る部分の詳しい説明は省略する。図6で軸方向左側は車両アウタ側(軸方向一方側)を、軸方向右側は車両インナ側(軸方向他方側)を示す。 【0053】 転がり軸受装置200は、内輪部材としてハブホイール43と等速ジョイント40とを有する。 【0054】 この転がり軸受装置200においても、外輪部材として外輪1、これと同心に配置された内輪部材としてハブホイール43および等速ジョイントの軸部42とを有する。 【0055】 外輪1は、内周面に軸方向二列の軌道面12,13を有するとともに、車両アウタ側の軌道面12の車両インナ側における外周面に車両(不図示)に固定するためのフランジ14を有する。 【0056】 ハブホイール43は、車両アウタ側外周面に車輪(不図示)を取り付けるためのフランジ15を有するとともに、車両インナ側の外周面に一列の軌道面16を有する。 【0057】 等速ジョイント40は、車両インナ側に椀形外輪41を、車両アウタ側に軸部42をそれぞれ有する。軸部42は、車両インナ側の外周面に一列の軌道面17を有し、車両アウタ側の外周面に対してハブホイール43が一体回転可能に嵌合装着される。なお、椀形外輪41の内部詳細は省略する。 【0058】 外輪1の二列の軌道面12,13のそれぞれと、ハブホイール43、軸部42それぞれの各軌道面16,17との間において、転動体としての玉群4,5が介装される。一対の保持器6,7それぞれは、各列の玉群4,5を保持する。 【0059】 軸部42の車両アウタ側の端部は、ハブホイール43の車両アウタ側端面にかしめられており、かしめ部10を形成する。 【0060】 このような構成の転がり軸受装置200も、外輪1のフランジ14の車両インナ側が車両の一部であるナックル(不図示)に固定され、ハブホイール43のフランジ15の車両アウタ側に車輪(不図示)が取り付けられる。このとき、外輪1のフランジ14とハブホイール43のフランジ15との間には環状の自由空間11が存在する。 【0061】 この転がり軸受装置200でも、車両アウタ側の玉群4のピッチ円直径D_(1)と、車両インナ側の玉群5のピッチ円直径D_(2)との関係をD_(1)>D_(2)に設定している。また、当該車両アウタ側の玉4の直径を小さく設定し、当該玉4の介装数を増やすこともできる。 【0062】 このように設定したときの具体的構成および作用、効果は、基本的に上述の実施形態と同様である。 【0063】 (3)本発明の前提となる一実施形態は、図7で示すように、駆動輪側の転がり軸受装置300にも適用することができる。 【0064】 図示例の転がり軸受装置300は、基本的には上記実施形態の転がり軸受装置100と同様であるが、異なる点は、ハブ軸2が中空とされている点である。このハブ軸2の中空部分に、図示しないが、アクスルシャフトが挿入され、結合される。 【0065】 (4)図8は、ハブ軸2の外周面に軸方向一対の内輪3a、3bを嵌合装着した転がり軸受装置400に適用した参考例を示している。 【0066】 また、このような形式の転がり軸受装置において、参考例として、図9に示すように、転動体群を円錐ころ群18、19とするものがある。この場合、車両アウタ側の各円錐ころ18の径を小さくしてもよい。 【図面の簡単な説明】 【0067】 【図1】本発明の参考例に係る転がり軸受装置の全体構成を示す断面図 【図2】図1の転がり軸受装置の上半分断面図 【図3】本発明の実施形態に係る転がり軸受装置の全体構成を示す断面図 【図4】図3の転がり軸受装置の上半分断面図 【図5】車両アウタ側の玉の配列を示す説明図 【図6】本発明の他の参考例に係る転がり軸受装置の全体構成を示す断面図 【図7】本発明の前提となる実施形態に係る転がり軸受装置の全体構成を示す断面図 【図8】本発明の他の参考例に係る転がり軸受装置の上半分を示す断面図 【図9】本発明の他の参考例に係る転がり軸受装置の上半分を示す断面図 【図10】従来の転がり軸受装置の全体構成を示す断面図 【符号の説明】 【0068】 1 外輪 2 ハブ軸 3 内輪 4 玉(車両アウタ側) 5 玉(車両インナ側) 11 自由空間 14 フランジ 15 フランジ 100 転がり軸受装置 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
審理終結日 | 2011-03-23 |
結審通知日 | 2011-03-25 |
審決日 | 2011-04-05 |
出願番号 | 特願2008-176692(P2008-176692) |
審決分類 |
P
1
113・
121-
ZA
(F16C)
|
最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 鳥居 稔、山崎 勝司 |
特許庁審判長 |
川上 溢喜 |
特許庁審判官 |
大山 健 川本 真裕 |
登録日 | 2009-05-15 |
登録番号 | 特許第4305562号(P4305562) |
発明の名称 | 転がり軸受装置 |
代理人 | 青木 篤 |
代理人 | 島田 哲郎 |
代理人 | 幸田 全弘 |
代理人 | 三橋 真二 |
代理人 | 青木 篤 |
代理人 | 鶴田 準一 |
代理人 | 島田 哲郎 |
代理人 | 三橋 真二 |
代理人 | 大橋 康史 |
代理人 | 鶴田 準一 |
代理人 | 大橋 康史 |