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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性  F21S
管理番号 1260509
審判番号 無効2010-800221  
総通号数 153 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-09-28 
種別 無効の審決 
審判請求日 2010-12-06 
確定日 2012-07-25 
事件の表示 上記当事者間の特許第4528911号発明「光源装置およびこの光源装置を用いた照明装置」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
本件特許第4528911号は、平成21年7月31日(優先権主張 平成20年10月7日)の出願であって、平成22年6月18日にその発明についての特許権の設定登録がされたものである。

以後の本件に係る手続の概要は以下のとおりである。

平成22年12月 6日 本件無効審判請求
平成23年 2月21日 答弁書提出(被請求人)
平成23年 5月31日 口頭審理陳述要領書提出(被請求人)
平成23年 6月 2日 口頭審理陳述要領書提出(請求人)
平成23年 6月15日 口頭審理、口頭による審理終結通知

第2 当事者の主張
1.請求人の主張
請求人は、審判請求書において、「特許第4528911号の特許を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする」旨の審決を求め、証拠方法として、甲第1号証?甲第43号証(一部枝番を含む)を審判請求書とともに、甲第44号証?甲第54号証(一部枝番を含む)を口頭審理陳述要領書とともに、それぞれ提出し、その理由として、本件特許は、本件特許出願の優先日前に日本国内において公然知られた発明に基づいて、その発明の属する技術の分野において通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、その特許は、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものであると主張している。
その具体的な理由は、平成23年6月2日付けの口頭審理陳述要領書も併せると、概略次のとおりである。

(1)請求項1?7に記載された発明は、「SE型用特殊リフレクターフラッター」が本件特許の優先日前に公知となっており、「SE型用特殊リフレクターフラッター」と同じ構造の反射板を用いた光源装置であるから、当業者が容易に想到出来たものである。

(2)請求項8?10に記載された発明は、光透過率が点光源に近い側が低く点光源から離れるにしたがって高く設定されている透過拡散シートを貼着した合成樹脂板を両側表示板に使用した「S型電気掲示器」及び「SE型用特殊リフレクターフラッター」から、当業者が容易に想到出来たものである。

(3)被請求人の開発したLEDフラットパネル製品についての被請求人と請求人とによる共同開発事業の是非を検討するに際して、秘密保持契約を平成19年12月13日に締結した。

(4)平成20年9月には「SE型用特殊リフレクターフラッター」と称した量産タイプの反射板を用いた光源装置を開発し、完成した。この開発にも、請求人は、被請求人に対して開発費用を支払い、両者で何回も打ち合わせ、製品改良を行っている。

(5)請求人は、「SE型用特殊リフレクターフラッター」と称する、光源装置に用いる反射板の製造を被請求人に依頼した。被請求人は、平成20年9月19日付けの「SE型用特殊リフレクターフラッター」製品320台に関する見積書を発行し、これを受けた請求人は、同年9月30日付けで発注書を被請求に送り、これらの製品320台を同日受領した。この「SE型用特殊リフレクターフラッター」を用いて、請求人は、電気掲示器である「エコ薄型掲示器(SE型)」を製造し、東日本旅客鉄道株式会社に4台販売し、平成20年12月8日以降に取り付け作業を行った。

(6)被請求人と請求人との間で販売された、光源装置の反射板である「SE型用特殊リフレクターフラッター」に関しては、構造についての秘密保持の契約はなく、被請求人は請求人に対して、「SE型用特殊リフレクターフラッター」を平成20年9月30日には公然と販売している。また、「SE型用特殊リフレクターフラッター」は、その完成前から、被請求人と請求人との間で何回もの協議を重ね、請求人の製造する電気掲示器に適した構成となるように両者で共同で開発したもので、請求人会社はその構造を熟知した上で被請求人に製造を注文したものである。それ故、請求人会社では、その購入時点で、前記協議に参加した社員を含め不特定多数の社員等が「SE型用特殊リフレクターフラッター」を目にしている。これらの社員等には「SE型用特殊リフレクターフラッター」に関する守秘義務は課されていない。したがって、「SE型用特殊リフレクターフラッター」は、本件特許の優先日である平成20年10月7日前に公然と知られた状態となっていた。

(7)請求人は、幅の薄い箱型本体の内部の上方に蛍光灯を配置し、本体の下方に光を照射する直下型方式で、箱型の両側面又は一側面に文字等を表示した表示板を設け、これらの表示板の表示面を蛍光灯で照射し、文字等の表示を鮮明にする、「直下型の電気掲示器」を平成15年から製造、販売しており、「直下型の電気掲示器」は、本件特許の優先日である平成20年10月7日前に公知となっている。また、透過拡散シートは「S型電気掲示器」に組み込まれて平成17年から販売されており、「透過拡散シート」を使用した「S型電気掲示器」は販売時点で公知となっている。

(8)請求人は、「秘密保持契約書」の対象とする製品を、その契約締結の際被請求人が請求人に提示した「LEDフラットパネル製品」に限定して契約したものであり、「SE型用特殊リフレクターフラッター」は前記「LEDフラットパネル製品」に含まれるものではない。

(9)「SE型用特殊リフレクターフラッター」は、平成20年9月30日には既に研究開発の段階は終了している。したがって、被請求人は請求人に対し平成20年9月30日に「SE型用特殊リフレクターフラッター」を試作品ではなく、量産品として、かつ、通常の商取引として320個も販売している。そして、「秘密保持契約」の第1条の目的である「甲と乙とによる共同開発事業(以下「本件事業」という。)の是非を検討する目的において、自己が保持する情報を相手方(以下「被開示者」という。)に対して開示又は提供し、被開示者はこれを秘密情報として開示又は提供を受ける。」点から、上記事実を鑑みると、開発が終了し、製品化されたものにまでは前記「秘密保持契約」の秘密保持義務は及ばない、また、製品の購入者である請求人に秘密保持の義務はない。したがって、「SE型用特殊リフレクターフラッター」は請求人が購入した時点で、公知となったものである。

<証拠方法>
甲第1号証の1:本件特許公報
甲第1号証の2:本件特許の特許原簿
甲第2号証:「SE型用特殊リフレクターフラッター」及び「エコ薄型掲示器(SE型)」の形状構成を示す図面(平成22年10月1日作成)
甲第3号証の1:「S型電気掲示器」の仕様書
甲第3号証の2:「S型電気掲示器」及び「表示板及び透過拡散シート」の概略構成図面(平成22年10月1日作成)
甲第4号証の1:請求人会社の履歴事項全部証明書
甲第4号証の2:請求人会社のホームページからの会社概要
甲第5号証:秘密保持契約書(平成19年12月13日締結)
甲第6号証:ライセンス基本契約書(平成20年6月12日締結)
甲第7号証:東日本旅客鉄道株式会社宛て「新・S型掲示器の試作モデルの検証結果について・ご報告」(平成20年5月26日付け)
甲第8号証:「SE型 製品仕様書 品名:エコ薄型掲示器(白色LED内照型)」(平成21年9月25日作成(平成20年10月20日初版))
甲第9号証:「フラッタ技術応用製品の商品化推進・検討会」打ち合わせ議事録(平成20年9月19日)
甲第10号証の1:被請求人の御見積書(平成20年9月19日付け)
甲第10号証の2:発注書、現品票、受領書及び納品書兼請求書(2008年9月30日付け)
甲第10号証の3:被請求人の仮納品書(平成20年9月30日付け)
甲第10号証の4:株式会社三菱東京UFJ銀行の「お振込受付明細表」
甲第10号証の5:被請求人の「納品書兼請求書」
甲第11号証の1:請求人の電気掲示器の「納品・発送(製造本部控)」(件名:舞浜駅エコ薄型掲示器新設 2008年12月8日付け)
甲第11号証の2:請求人の電気掲示器の「納品・発送(製造本部控)」(件名:成田空港駅エコ薄型掲示器新設 2008年12月11日付け)
甲第11号証の3:JR舞浜駅構内の工事「スケジュール表(電気)」
甲第11号証の4:JR成田空港駅構内の工事「スケジュール表(電気)」
甲第11号証の5:JR舞浜駅長宛て請求人の「構内立入届」
甲第11号証の6:JR成田空港駅区所長宛て請求人の「構内立入届」
甲第11号証の7:請求人の「工程表」(東日本旅客鉄道株式会社千葉電力技術センター宛て)
甲第11号証の8:請求人の工事「完了届」(東日本旅客鉄道株式会社千葉電力技術センター所長宛て)
甲第11号証の9:請求人の作成した「工事写真帳」
甲第12号証:請求人の「証明願」(東日本旅客鉄道株式会社 千葉電力技術センター所長)
甲第13号証の1?5:電気掲示器の「見積照会票兼見積書」
甲第14号証の1?10:電気掲示器の「指示事項書」
甲第15号証の1?10:電気掲示器の「注文書」
甲第16号証の1?10:電気掲示器の「注文請書」
甲第17号証の1?10:電気掲示器の「納品書(控)」
甲第18号証:「現場内容説明会記録」(平成20年12月12日付け)
甲第19号証:「保安確認書」(平成20年12月24日付け)
甲第20号証:「監督員通知書」(平成20年12月24日付け)
甲第21号証の1:「保安打合せ票(電気)」(1月12日分)
甲第21号証の2:「保安打合せ票(電気)」(1月16日?18日分)
甲第21号証の3:「保安打合せ票(電気)」(2月17日分)
甲第21号証の4:「保安打合せ票(電気)」(2月19日?20日分)
甲第21号証の5:「保安打合せ票(電気)」(3月3日分)
甲第22号証の1:「保安関係要員及び設備実績表(平成20年12月)」
甲第22号証の2:「保安関係要員及び設備実績表(平成21年1月)」
甲第22号証の3:「保安関係要員及び設備実績表(平成21年2月)」
甲第22号証の4:「保安関係要員及び設備実績表(平成21年3月)」
甲第23号証:「支給材料受領書」(平成21年1月21日付け)
甲第24号証:「工事写真帳」
甲第25号証:「しゅん功数量内訳書」
甲第26号証:「工事完了報告書(請負者)」(平成21年3月2日付け)
甲第27号証:請求人の「証明願」(日本電設工業株式会社 鉄道統括本部 電力支社長)
甲第28号証:月刊誌「産業と電気」(2003年3月5日発行)
甲第29号証の1:透過拡散シート(パスタフィルム)の購入履歴表(平成22年8月30日付け)
甲第29号証の2:パスタフィルムの納品書(平成17年8月17日付け)
甲第29号証の3:第一化成工業の請求書
甲第30号証:「出荷・納入証明書」(第一化成工業株式会社 専務取締役・営業本部長)
甲第31号証の1:「近畿日本鉄道:名古屋駅運賃表示看板灯改良工事(乗車券自動販売機上)施工報告書」
甲第31号証の2:「電気掲示器灯具」図面
甲第31号証の3:「ポール式掲示器」図面
甲第31号証の4:福島駅「ポール式掲示器」レイアウト図面
甲第31号証の5:交通新聞(平成16年1月18日付け)
甲第32号証:「工事等請負見積書」(平成20年2月28日付け)
甲第33号証:「工事注文書」(力技工19第2110号)(平成20年2月28日付け)
甲第34号証:「工事着手前打ち合わせ議事録」(力技工19第2110号)(平成20年2月29日付け)
甲第35号証の1?4:「作業スケジュール票(電気)」(力技工19第2110号)
甲第36号証:「工事完了報告書(請負者)」(力技工19第2110号)(平成20年3月28日付け)
甲第37号証:「しゅん功検査結果通知書」(力技工19第2110号)(平成20年3月31日付け)
甲第38号証:「請求書」(力技工19第2110号)
甲第39号証:「工事写真帳」(力技工19第2110号)
甲第40号証の1:「製作指示書」(2008年2月22日発行)
甲第40号証の2:「御見積書」(平成20年3月5日付け)
甲第40号証の3:「売上伝票」(平成20年3月18日付け)
甲第40号証の4:「納品・発送(営業担当者控)」(平成20年3月18日付け)
甲第40号証の5:「請求書」(2008年3月18日付け)
甲第41号証:請求人の「証明願」(日本電設工業株式会社 鉄道統括本部 千葉支社長)
甲第42号証:請求人の「証明願」(東日本旅客鉄道株式会社 千葉電力技術センター所長)
甲第43号証:書籍「鉄道電気技術者のための電力概論/負荷設備〔2〕(照明・電気掲示器)」(平成20年3月19日初版発行)
甲第44号証:請求人が被請求から平成20年9月30日に購入したものと同形同大の「SE型用特殊リフレクターフラッター」の写真及び図面(平成22年6月8日作成)
甲第45号証:陳述書
甲第46号証:平成19年12月当時の被請求人の製品パンフレット
甲第47号証:平成19年12月当時の被請求人の会社ホームページコピー
甲第48号証:被請求人との打ち合わせ議事録(平成19年12月19日付け)
甲第49号証の1?3:平成19年12月「秘密保持契約」締結前に呈示された被請求人の製品「ユニブライト」の実機の写真
甲第50号証の1:平成20年3月28日に提示された被請求人の「面照明装置」に関する出願ファイルの表紙
甲第50号証の2:平成20年3月28日に提示された被請求人の「面照明装置」に関する「特許意匠リスト」
甲第51号証の1:被請求人から平成21年3月27日付けで送付された宅急便の伝票
甲第51号証の2:被請求人から平成21年3月27日付けで送付された「フラッターデータ及びCD-ROM」のコピー
甲第52号証:被請求人から平成21年5月13日付けで送付された「フラッターデータ及びCD-ROM」のコピー
甲第53号証:オプトデザイン「SE型用特殊リフレクターフラッター」購入記録一覧表
甲第54号証の1:舞浜駅エコ薄型掲示器の「製作指示書」
甲第54号証の2:成田空港駅エコ薄型掲示器の「製作指示書」
甲第54号証の3:目白ほか1駅電力設備修繕「製作指示書」

2.被請求人の主張
被請求人は、答弁書において、「本件審判の請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする」旨の審決を求め、証拠方法として、乙第1号証?乙第5号証を答弁書とともに提出し、その理由として、本件特許は、本件特許にかかる出願の優先日前に公然知られた発明ないし公然実施された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできないと主張している。
その具体的な理由は、平成23年5月31日付けの口頭審理陳述要領書も併せると、概略次のとおりである。

(1)請求人は、甲第6号証の「ライセンス基本契約書」とは独立して、甲第5号証の「秘密保持契約書」に基づいて、被請求人が請求人に開示した技術内容に対して守秘義務を負っているだけでなく、第三者に対しても被請求人が請求人に開示した技術内容に対して守秘義務を課する義務を有している。「秘密保持契約書」の有効期間は平成19年12月13日から5年間であり、しかも、「本契約終了後といえども、開示者から本契約終了時までに開示または提供を受けた秘密情報について、別途甲乙合意に至るときまで、第5条乃至第10条第14条および本条の規定はその効力を有する。」と規定されているように、たとえ上記秘密保持契約が破棄されたとしても別途請求人と被請求人との間で合意に至るときまで、請求人は守秘義務を負っていることは明白である。しかも、本件特許にかかる出願の優先日前に上記秘密保持契約が破棄された証拠はない。

(2)被請求人は、従来、LEDの点光源を掲示面(パネル)全体に均一(フラット)に行き渡るように拡散する光拡散技術を有しており、かかる技術を応用した光拡散部品を「LEDフラットパネル製品」として開発してきている。請求人は、従来、蛍光管を用いた「S型」と呼ばれる電気掲示器の開発技術を有しており、S型掲示器の光源部分をLEDに代えることを検討し、請求人の掲示器に適用するために、被請求人の前記光拡散技術を応用した光拡散部品について秘密保持契約締結の上、開発を依頼している。すなわち、「LEDフラットパネル製品」とは、かかる光拡散技術を応用した「光拡散部品」全般を指しており、当該部品の形状の相違により対象外となったりするものではない。

(3)従来の「フラッターユニット」を光拡散部品として用いた新・S型掲示器の試作モデルでは光の均一化(フラット化)が不十分であったため、さらに当該光拡散部品の改良を進め、被請求人はリフレクタ(反射)方式という新しい光拡散技術を用いた光拡散部品を開発した。この光拡散部品が、従来の「フラッターユニット」ないし「フラッター」とはまったく異なる「SE型用リフレクター」ないし「SE型用特殊リフレクターフラッター」であり、同製品が組み込まれた掲示器はSE型掲示器(エコ薄型掲示器)と称されることになったものである。この「SE型用リフレクター」ないし「SE型用特殊リフレクターフラッター」は、従来の「フラッターユニット」ないし「フラッター」とは方式の異なる、リフレクタ(反射)方式の光拡散部品「照明器具用反射板」であり、この「照明器具用反射板」にLED光源を組み込んだ光源装置及びこの光源装置を用いた照明装置が本件無効審判の対象である特許第4528911号に該当するものである。

(4)秘密保持義務の対象である「LEDフラットパネル製品」は、「点発光のLED光源から均一な面発光を実現する光拡散部品」を使用した光源装置及びこの光源装置を用いた照明装置を含んでおり、被請求人が開発した「SE型用リフレクター(請求人が「SE型用特殊リフレクターフラッター」と称しているもの)」を用いた光源装置及びこの光源装置を用いた照明装置が含まれることは明らかである。

(5)秘密保持契約書には、「LEDフラットパネル製品」と記載されていてもその具体的な構成は明示されていないとしても、社会通念上又は商習慣上、請求人と被請求人との間に「秘密保持契約書」が取り交わされている以上、被請求人が請求人に販売した「SE型用特殊リフレクターフラッター」についても、被請求人側の特段の明示的な指示や要求がなくとも、秘密扱いとすることが暗黙のうちに求められ、かつ、期待されているものであることは、判決によっても認められている。

(6)したがって、本件特許にかかる出願の優先日前に、被請求人が販売した「SE型用特殊リフレクターフラッター」を請求人が購入し、さらに請求人が前記「SE型用特殊リフレクターフラッター」を用いた光源装置及び「電気掲示器」を作製して第三者に販売したとしても、被請求人及び前記第三者は共に発明者のために秘密を保つべき関係にある者に該当するから、そのことによって「SE型用特殊リフレクターフラッター」が特許法第29条第1項第1号における「公然知られた発明」及び同第2号における「公然実施をされた発明」に該当するものになったわけではない。

(7)甲第2号証、甲第11号証?甲第27号証によっては、「エコ薄型掲示器(SE型)」が本件特許にかかる出願の優先日前に公知ないし公然実施をされたことが証明されているとは認められない。

(8)甲第3号証の1及び2、甲第28号証?甲第43号証によっては、「S型電気掲示器」及びこれに使用された「透過拡散シート(パスタフィルム)」が本件特許にかかる出願の優先日前に公知ないし公然実施をされたことが証明されているとは認められない。

<証拠方法>
乙第1号証:「『フラッター・ユニット』を使った、新型掲示器の製品化・開発 <(株)オプトデザインと(株)新陽社との「秘密保持契約」に基づく技術を使った、掲示器の製品化・開発」>」と題する書面(平成20年1月17日付け)
乙第2号証:特許第4280283号公報
乙第3号証:「エイテックス株式会社」のホームページのプリントアウト
乙第4号証:2008年10月21日に請求人から被請求人宛に送信された電子メールの写し
乙第5号証:東京高裁平成12年12月25日判決(平成11年(行ケ)第368号)

第3 本件特許に係る発明
本件特許第4528911号の各請求項に係る発明は、その特許請求の範囲の請求項1ないし請求項10に記載された事項によって特定される以下のとおりのものである。(以下、請求項1ないし請求項10に係る発明を「本件特許発明1」ないし「本件特許発明10」という。)

「【請求項1】
指向性の強い点光源と、
前記点光源が設けられる底部および前記底部の対向する両辺部から外方向へ所定長さ延設されて端部が開放された対向する一対の側方反射部を有し、内部に前記底部および一対の側方反射部で囲まれた所定大きさの内部空間が設けられて、内壁面が反射面で形成された反射フードと、
前記点光源からの照射光を所定の方向へ偏向させる一対の第1、第2の光偏向反射板と、を備え、
前記第1、第2の光偏向反射板は、所定の長さおよび幅長を有し表裏面が高反射率の板状面で形成されたものからなり、
前記反射フードは、前記底部に前記点光源が少なくとも一個設けられて、
前記第1、第2の光偏向反射板は、前記反射フードの反射面との間に所定の隙間をあけ、且つ前記点光源の指向角零度を通る光軸を間に挟んで互いに所定の隙間をあけ、すなわち前記点光源に近接した方がその隙間が大きく、離れた方の隙間が小さくなるようにして、前記光軸に対してそれぞれ所定の傾斜角度αをなして配設されていることを特徴とする光源装置。
【請求項2】
前記反射フードは、前記底部および一対の側方反射部が長手方向に所定長さ延設されて、前記延設された底部の長手方向に所定の間隔をあけて前記点光源が複数個配設されて、前記内部空間は、前記複数個の点光源の間が仕切り反射板で仕切られて、前記仕切り反射板で前記第1、第2の光偏向反射板が支持されていることを特徴とする請求項1に記載の光源装置。
【請求項3】
前記第1、第2の光偏向反射板は、前記点光源から最も離れた各端辺部が前記反射フードの隙間間に位置し、又は前記隙間から外方へ突出していることを特徴とする請求項1に記載の光源装置。
【請求項4】
前記傾斜角度αは、6度から30度の範囲にあることを特徴とする請求項1に記載の光源装置。
【請求項5】
前記反射フードは、高い光反射率に加えて乱反射する反射材、前記第1、第2の光偏向反射板および前記仕切り反射板は、高い光反射率で光吸収率および光透過率が低く且つ乱反射する反射材でそれぞれ形成されていることを特徴とする請求項1に記載の光源装置。
【請求項6】
前記反射フード、前記第1、第2の光偏向反射板および前記仕切り反射板は、超微細発泡光反射部材で形成されていることを特徴とする請求項5に記載の光源装置。
【請求項7】
前記点光源は、1個の発光素子又は複数個の発光素子を集合した発光ダイオード又はレーザーダイオードであることを特徴とする請求項1に記載の光源装置。
【請求項8】
所定の幅長および長さを有する矩形状の2枚の第1、第2の光拡散部材が所定の隙間をあけて対向して配設され、前記第1、第2の光拡散部材の少なくとも一端辺の隙間に、請求項1?7のいずれか1つに記載の光源装置が配設されていることを特徴とする照明装置。
【請求項9】
前記第1、第2の光拡散部材は、それらの光反射率が前記点光源に近い側が高く且つ前記点光源から離れるにしたがって低減し、一方、光透過率が前記点光源に近い側が低く前記点光源から離れるにしたがって高く設定されているものであることを特徴とする請求項8に記載の照明装置。
【請求項10】
前記第1、第2の光拡散部材は、いずれか一方の光拡散部材が反射板であることを特徴とする請求項8に記載の照明装置。」

第4 進歩性(特許法第29条第2項)
請求人は、「請求項1に記載された発明は、『SE型用特殊リフレクターフラッター』が本件特許の優先日前に公知となっており、『SE型用特殊リフレクターフラッター』と同じ構造の反射板を用いた光源装置であるから、当業者が容易に想到出来たものである」旨を主張しているから、「SE型用特殊リフレクターフラッター」について検討する。

1.「SE型用特殊リフレクターフラッター」の構成について
(1)甲第45号証
請求人が甲第45号証として提出した陳述書には、「SE型用特殊リフレクターフラッター」に関して、次の事項が記載されている。
(1-a)「イ)LED等の点光源が設けられる底部11及び底部11の対向する両辺部から外方向へ所定長さ延設されて端部が開放された、対向する一対の側方反射板、すなわち、外側リフレクター12を有し、内部に前記底部11及び一対の外側リフレクター12で囲まれた所定の大きさの内部空間13が設けられて、内壁面が反射面で形成された反射フード14であって、当該反射フード14の前記底部11及び一対の外側リフレクター12が長手方向に所定長さ延設されている。」
(1-b)「ロ)前記点光源からの照射光を所定の方向へ偏向させる一対の第1、第2の光偏向反射板から成る内側リフレクター15を備えている。」
(1-c)「ハ)前記内側リフレクター15は、所定の長さ及び幅長を有し、表裏面が高反射率の板状面で形成されたものである。」
(1-d)「ニ)前記反射フード14は、前記底部11に前記点光源を設ける穴16が複数個間隔をあけて設けられている。」
(1-e)「ホ)前記一対の内側リフレクター15は、前記反射フード14の反射面である外側リフレクター12との間に所定の隙間17をあけ、且つ前記穴16に点光源を設けた場合に、当該点光源の指向角零度を通る光軸Lを間に挟んで互いに所定の間隔をあけ、前記点光源に近接した方がその隙間が大きく、離れた方の隙間が小さくなるようにして、前記光軸Lに対してそれぞれ所定の傾斜角αをなして配置されている。」

図面と共に、以上のことを総合すると、甲第45号証には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているといえる。
「LED等の点光源が設けられる底部11および底部11の対向する両辺部から外方向へ所定長さ延設されて端部が開放された対向する一対の外側リフレクター12を有し、内部に前記底部11および一対の外側リフレクター12で囲まれた所定の大きさの内部空間13が設けられて、内壁面が反射面で形成された反射フード14と、
前記点光源からの照射光を所定の方向へ偏向させる一対の内側リフレクター15と、を備え、
前記内側リフレクター15は、所定の長さ及び幅長を有し、表裏面が高反射率の板状面で形成されたものからなり、
前記反射フード14は、前記底部11に前記点光源を設ける穴16が複数個間隔をあけて設けられて、
前記内側リフレクター15は、前記反射フード14の反射面との間に所定の隙間17をあけ、且つ前記穴16に点光源を設けた場合に、当該点光源の指向角零度を通る光軸Lを間に挟んで互いに所定の間隔をあけ、前記点光源に近接した方がその隙間が大きく、離れた方の隙間が小さくなるようにして、前記光軸Lに対してそれぞれ所定の傾斜角αをなして配設されているSE型用特殊リフレクターフラッター。」

(2)本件特許発明1と引用発明の対比
本件特許発明1と引用発明を対比すると、引用発明でいう「LED等の点光源」は、本件特許発明1でいう「点光源」に相当し、以下同様に、「底部11」は「底部」に、「外側リフレクター12」は「側方反射部」に、「内部空間13」は「内部空間」に、「反射フード14」は「反射フード」に、「内側リフレクター15」は「第1、第2の光偏向反射板」に、「所定の隙間17」は「所定の隙間」に、「光軸L」は「光軸」に、それぞれ相当する。
また、引用発明の「SE型用特殊リフレクターフラッター」は、「穴16」に点光源を設けることにより光源装置として完成するものであるから、引用発明の「SE型用特殊リフレクターフラッター」と本件特許発明1の「光源装置」から点光源を取り除いた部分とは、「反射部材」という概念で共通する。
したがって、本件特許発明1と引用発明は、本件特許発明1の表記にしたがえば、
「点光源が設けられる底部および前記底部の対向する両辺部から外方向へ所定長さ延設されて端部が開放された対向する一対の側方反射部を有し、内部に前記底部および一対の側方反射部で囲まれた所定大きさの内部空間が設けられて、内壁面が反射面で形成された反射フードと、
前記点光源からの照射光を所定の方向へ偏向させる一対の第1、第2の光偏向反射板と、を備え、
前記第1、第2の光偏向反射板は、所定の長さおよび幅長を有し表裏面が高反射率の板状面で形成されたものからなり、
前記第1、第2の光偏向反射板は、前記反射フードの反射面との間に所定の隙間をあけ、且つ前記点光源の指向角零度を通る光軸を間に挟んで互いに所定の隙間をあけ、すなわち前記点光源に近接した方がその隙間が大きく、離れた方の隙間が小さくなるようにして、前記光軸に対してそれぞれ所定の傾斜角度αをなして配設されていることを特徴とする反射部材。」である点で一致し、次の点で相違する。
[相違点1]
本件特許発明1は、反射部材における「底部」に指向性の強い点光源が少なくとも一個設けられた「光源装置」であるのに対して、引用発明は、点光源を設けるための穴16が設けられている反射部材としての「SE型用特殊リフレクターフラッター」であり、点光源は備えていない点。

なお、甲第45号証の陳述書に記載された内容について被請求人は口頭審理において認めており、また、答弁書において「SE型用特殊リフレクターフラッターは、リフレクタ(反射)方式の光拡散部品「照明器具用反射板」であり、この「照明器具用反射板」にLED光源を組み込んだ光源装置及びこの光源装置を用いた照明装置が本件無効審判の対象である特許第4528911号に該当するものである」旨の主張(上記被請求人の主張(3)、答弁書第25頁第14?20行)をしていることから、平成20年9月30日に被請求人から請求人に販売され引き渡された「SE型用特殊リフレクターフラッター」は、実際に上記引用発明の構成を有していたものと認められる。

相違点1について検討すると、引用発明には、点光源を設けるための穴16が設けられているのであるから、この穴16にLED等の指向性の強い点光源を設けて相違点1にかかる本件特許発明1の構成とすることは、引用発明が公知となった日以降であれば、当業者が容易になし得たことである。

2.「SE型用特殊リフレクターフラッター」の公知性について
(1)平成20年9月30日における「SE型用特殊リフレクターフラッター」の販売について
甲第10号証の1?5によれば、「SE型用特殊リフレクターフラッター」が平成20年9月30日に、被請求人から請求人に販売されたこと(以下「販売事実」という。)が明らかである。そして、この販売事実については被請求人も争っていない。
しかし、請求人と被請求人は「LEDフラットパネル製品」に関して秘密保持契約を締結しており、「SE型用特殊リフレクターフラッター」についても、秘密を保つべき関係にあったものと認められる。仮に、「SE型用特殊リフレクターフラッター」がこの秘密保持契約でいう「LEDフラットパネル製品」に該当しなかったとしても、「SE型用特殊リフレクターフラッター」は、被請求人と請求人との間で何回もの協議を重ね、請求人の製造する電気掲示器に適した構成となるように両者で共同で開発したもので、請求人会社はその構造を熟知した上で被請求人に製造を注文したものであることから(上記請求人の主張(6))、両当事者は「SE型用特殊リフレクターフラッター」の開発において密接な関係にあったことは明らかであり、社会通念上又は商習慣上、秘密を保つべき関係にあったものというべきである。
そして、請求人がこのような秘密を保つべき関係にある請求人の依頼を受けて製造・販売したという特定の取引関係にあって、不特定の者を対象とした販売でもないから、平成20年9月30日の販売事実によって「SE型用特殊リフレクターフラッター」が公知になったということはできない。

(2)その他の証拠について
上記販売事実の他に、「SE型用特殊リフレクターフラッター」の構成が立証できる証拠であって、かつ本件特許の優先日である平成20年10月7日前のものは、見当たらない。したがって、引用発明が本件特許の優先日前に公然知られた発明であるということはできない。

3.小括
引用発明は、本件特許の優先日前に公然知られた発明といえないから、本件特許発明1は、引用発明に基づいて出願前に当業者が容易に発明できたものであるとはいえない。
本件特許発明2ないし本件特許発明10は、本件特許発明1の下位概念にあたるものであるから、同様の理由により、引用発明に基づいて出願前に当業者が容易に発明発明できたものであるとはいえない。

第5 むすび
以上のとおりであるから、本件特許発明1ないし本件特許発明10は、公然知られた発明に基づいて当業者が容易に発明できたものであるとはいえない。また、他に、本件特許が特許法第29条第2項の規定に違反してなされたとする理由も見あたらない。したがって、本件特許を無効とすることはできない。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定において準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2011-07-15 
出願番号 特願2009-179005(P2009-179005)
審決分類 P 1 113・ 121- Y (F21S)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 西山 惠里加  
特許庁審判長 川向 和実
特許庁審判官 小関 峰夫
田口 傑
登録日 2010-06-18 
登録番号 特許第4528911号(P4528911)
発明の名称 光源装置およびこの光源装置を用いた照明装置  
代理人 特許業務法人ウィンテック  
代理人 藤沢 昭太郎  
代理人 藤沢 則昭  

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