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審決分類 |
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B60L 審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B60L 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B60L 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B60L 審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B60L |
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管理番号 | 1260875 |
審判番号 | 不服2010-22362 |
総通号数 | 153 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2012-09-28 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2010-10-05 |
確定日 | 2012-08-02 |
事件の表示 | 特願2000-204704「メインバッテリを電源とした電気自動車のバッテリ冷却装置」拒絶査定不服審判事件〔平成14年 1月25日出願公開、特開2002- 27612〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1.手続の経緯 本願は、平成12年7月6日の出願であって、平成22年7月1日付で拒絶査定がなされ(発送日:平成22年7月6日)、これに対し、平成22年10月5日に拒絶査定不服審判の請求がなされ、平成23年9月9日付で拒絶の理由が通知され(発送日:平成23年9月13日)、これに対し、平成23年11月14日付で意見書及び手続補正書が提出され、平成23年12月19日付で最後の拒絶理由が通知され(発送日:平成23年12月20日)、これに対し、平成24年2月20日付で意見書及び手続補正書が提出されたものである。 2.平成24年2月20日付の手続補正についての補正の却下の決定 [補正の却下の決定の結論] 平成24年2月20日付の手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。 [理由I] (1)補正の内容 本件補正前の特許請求の範囲は、以下のとおりである。 「【請求項1】 メインバッテリと制御回路との間に、上記メインバッテリの充放電時に上記制御回路から出力されるリレー投入信号によってオンとなるリレースイッチと、 上記メインバッテリの温度を検出するバッテリ温度検出手段と、 サブバッテリを電源として上記メインバッテリを収容するバッテリ室内を冷却する冷却手段と、 上記リレー投入信号及び上記バッテリ温度検出手段の出力に基づいて上記冷却手段の駆動を制御する冷却制御手段と、を有し、 上記冷却制御手段により、少なくとも上記リレースイッチがオンで、かつ上記メインバッテリの温度が所定値よりも高いときに、上記冷却手段を駆動するよう構成したことを特徴とするハイブリッド車を除く電気自動車のバッテリ冷却装置。 【請求項2】 上記冷却制御手段は、上記リレースイッチのオフによって起動するタイマ回路を有し、上記リレースイッチがオフした後も上記タイマ回路で設定された時間内は上記メインバッテリの温度が所定値よりも高いとき上記冷却手段を駆動するように構成されていることを特徴とする請求項1に記載のハイブリッド車を除く電気自動車のバッテリ冷却装置。 【請求項3】 上記冷却制御手段は、上記冷却手段を断続的に駆動するように構成されていることを特徴とする請求項1または2に記載のハイブリッド車を除く電気自動車のバッテリ冷却装置。」 これに対し、本件補正により、特許請求の範囲は、以下のように補正された。 「【請求項1】 メインバッテリと制御回路との間に、上記メインバッテリの充放電時に上記制御回路から出力されるリレー投入信号によってオンとなるリレースイッチと、 上記メインバッテリの温度を検出するバッテリ温度検出手段と、 サブバッテリを電源として上記メインバッテリを収容するバッテリ室内を冷却する冷却手段と、 上記リレー投入信号及び上記バッテリ温度検出手段の出力に基づいて上記冷却手段の駆動を制御する冷却制御手段と、を有し、 上記冷却制御手段により、少なくとも上記リレースイッチがオンで、かつ上記メインバッテリの温度が所定値よりも高いときに、上記冷却手段を駆動するよう構成したことを特徴とするメインバッテリを電源とした電気自動車のバッテリ冷却装置。 【請求項2】 上記冷却制御手段は、上記リレースイッチのオフによって起動するタイマ回路を有し、上記リレースイッチがオフした後も上記タイマ回路で設定された時間内は上記メインバッテリの温度が所定値よりも高いとき上記冷却手段を駆動するように構成されていることを特徴とする請求項1に記載のメインバッテリを電源とした電気自動車のバッテリ冷却装置。 【請求項3】 上記冷却制御手段は、 上記冷却手段を断続的に駆動するように構成されていることを特徴とする請求項1または2に記載のメインバッテリを電源とした電気自動車のバッテリ冷却装置。」 (2)目的要件について 本件補正が、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項の各号に掲げる事項を目的とするものに該当するかについて検討する。 平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項2号の「特許請求の範囲の減縮」は、第36条第5項の規定により請求項に記載した発明を特定するために必要な事項を限定するものであって、その補正前の当該請求項に記載された発明とその補正後の当該請求項に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるものに限られ、補正前の請求項と補正後の請求項との対応関係が明白であって、かつ、補正後の請求項が補正前の請求項を限定した関係になっていることが明確であることが要請され、補正前の請求項と補正後の請求項とは、一対一又はこれに準ずるような対応関係に立つものでなければならない。 本件補正前も本件補正後も請求項数は3であり、本件補正前も本件補正後も請求項2、3の他の請求項に対する引用関係は同じであるから、本件補正前の請求項1は本件補正後の請求項1に一応対応する。 本件補正前の請求項1には「ハイブリッド車を除く電気自動車のバッテリ冷却装置」とあったものが、本件補正後の請求項1には「メインバッテリを電源とした電気自動車のバッテリ冷却装置」とある。 本件補正前の請求項1の電気自動車はハイブリッド車を含まなかったものが、本件補正後の請求項1の電気自動車はメインバッテリを電源としているからハイブリッド車を含んでおり、補正後の請求項が補正前の請求項を限定した関係になっておらず、「特許請求の範囲の減縮」に該当しない。 なお、平成23年12月19日付で以下の最後の拒絶理由が通知されている。 『この出願は、特許請求の範囲及び発明の詳細な説明の記載が下記の点で、特許法第36条第4項及び第6項に規定する要件を満たしていない。 記 (1)補正後の請求項1-3には、「ハイブリッド車を除く電気自動車」とあり、この記載に基づけば、電気自動車であってハイブリッド車以外であれば良いこととなる。 しかし、電気自動車とは、電気を原動力として走行する自動車の総称であり、a外部から何らかの形で電力の供給を受けて走行するもの(代表例はトロリーバス)、b車上で何らかの形で電力をつくって走行するもの(例えば燃料電池や太陽電池を用いるもの)、c蓄電池に予め蓄えた電力で走行するものの、3種があり、この様な電気自動車からハイブリッド車を除いた場合、どの様な電気自動車が含まれるのか、構成を特定できず不明である。』 上記最後の拒絶理由は、電気自動車からハイブリッド車を除いた後の電気自動車について不明である点を通知するものであるが、当該指摘とは無関係に、「ハイブリッド車を除く」との限定を省いたものであり、しかもハイブリッド車に適用できるという本件補正前の請求項1に記載の無かった新たな技術的事項を加えるものであるから、「拒絶の理由に示す事項についてする」「明りょうでない記載の釈明」に該当しない。 また、本件補正が、請求項の削除及び誤記の訂正を目的としたものでないことも明らかである。 (3)むすび したがって、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項の規定に違反するものであるから、特許法第159条第1項の規定において読み替えて準用する特許法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 [理由II] 上記のとおり、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項の各号に掲げるいずれの事項を目的とするものにも該当しないが、仮に本件補正が、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当するとして、本件補正後の前記請求項1に係る発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する特許法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。 (1)引用例 当審の拒絶の理由に引用された特開平11-252808号公報(以下、「引用例1」という。)には、図面と共に以下の事項が記載されている。 1-a「また、電気自動車には、バッテリ冷却装置が設けられている。バッテリは充放電に伴って発熱する。この発熱による温度上昇を抑え、適切な温度でバッテリを使用することにより、バッテリの性能を維持し、寿命を確保できる。この温度調整のために、バッテリ冷却装置が設けられている。冷却装置としては、冷却ファンが周知である。冷却ファンは、例えば、バッテリを収納するバッテリケースに備え付けられる。バッテリ温度に応じて冷却ファンがオンオフされる。バッテリ温度が高くなると、冷却ファンが作動し、冷却風がバッテリに吹き付けられ、また、ケース内から高温の空気が排出される。バッテリ温度が下がれば、冷却ファンが停止する。これによりバッテリ温度が調整される。」(【0005】) 1-b「図2には、本発明の二次電池装置が搭載されたハイブリッド自動車のパワープラントの概略図が示されている。」(【0019】) 1-c「また、第1および第2モータジェネレータ26,28は、制御装置48により制御が行われる。制御装置48は、二つのモータジェネレータ26,28に電力を供給し、またこれらからの電力を受け入れるバッテリ(二次電池)50を含んでいる。バッテリ50と第1および第2モータジェネレータ26,28との電力のやりとりは、それぞれ第1および第2インバータ52,54を介して行われる。」(【0020】) 1-d「図3において、負荷70は、ハイブリッドシステムの第1モータジェネレータ26、第2モータジェネレータ28および第1インバータ52、第2インバータ54を含んでいる。バッテリ50は電力を放電して負荷70に供給し、また、負荷70から供給された電力によって充電される。温度センサ72、電圧センサ74および電流センサ76は、それぞれ、バッテリ50の温度、端子間電圧および充放電電流値を検出しており、検出信号は電池ECU68に入力されている。冷却ファン装置78は、バッテリ50に冷却風を送ることによって、バッテリ50の温度を調整する。冷却ファン装置78は、補機バッテリ80から供給される電力により作動する。」(【0023】) 1-e「また、冷却ファン制御部88は、温度センサ72の検出信号をもとに、冷却ファン装置78を制御する。」(【0024】) 1-f「図4は、図3のバッテリ装置に設けられている冷却ファンシステムの構成を示している。図4において、ファン94にはファンモータ96が連結されている。ファンモータ96は、ファンリレースイッチ98を介して補機バッテリ80に接続されている。また、ファンモータ96はファントランジスタ100を介してアースに接続されている。ファンリレースイッチ98がONにされ、ファントランジスタ100が動作すると、ファンモータ96が回転し、ファン94が冷却風を発生する。 電池ECU68には、車両のイグニッションスイッチ102が接続されており、これにより電池ECU68は、イグニッションスイッチ102の電圧VIGを知ることができる。イグニッションスイッチ102は補機バッテリ80に接続されており、したがって、IGスイッチ電圧VIGは、補機バッテリ80の端子間電圧にほぼ等しい。 電池ECU68において、温度判定部104は、バッテリ50の温度を監視している。バッテリ温度が所定のファン作動温度以上になると、温度判定部104がトランジスタ106に信号を送り、これによりリレー信号SrがONになり、ファンリレースイッチ98のコイルに電流が流れ、スイッチが閉じる。そして、補機バッテリ80の電力がファンモータ96に供給され、ファンモータ96が回転する。」(【0029】-【0031】) 1-g「図6は、車両へのバッテリ50の搭載状態を示している。車室とトランクの間には、密閉タイプのバッテリケース116が設置されている。このバッテリケース116の中にバッテリ50が収納されている。バッテリ50は、多数のバッテリセル118で構成されている。バッテリケース116の前面にはファン94が取り付けられている。また、バッテリケース116の背面には排気チューブ120が取り付けられており、排気通路は車外および車内へ続いている。排気チューブ120には、排気通路の行き先を切り替える切替弁122が設けられている。バッテリ温度が上昇したときには、ファン94が作動して冷却風が発生する。そして、冷却風がバッテリに当たるとともに、ケース内のバッテリ周囲の高温の空気が換気される。バッテリ温度が下がると、ファン94が停止する。このようなファン94のON/OFF制御により、バッテリ温度が調整される。」(【0035】) 1-h「なお、本実施形態では、本発明がハイブリッド自動車の駆動システムに適用された。これに対し、本発明は、ハイブリッド自動車ではない一般的な電気自動車にも同様に適用可能である。」(【0067】) 上記記載及び図面に基づけば、制御装置からバッテリを除いた部分が実際に制御を行っているから、制御装置からバッテリを除いた部分は制御部分といえる。 上記記載及び図面に基づけば、電池ECUはイグニッションスイッチのオンによりオンされるものである。 上記記載事項からみて、引用例1には、 「バッテリと第1および第2インバータと制御部分と、 上記バッテリの温度を検出する温度センサと、 補機バッテリから電力を供給され上記バッテリが収納されるバッテリケース内のバッテリ周囲の高温の空気を換気する冷却ファン装置と、 イグニッションスイッチのオン信号及び上記温度センサの出力に基づいて上記冷却ファン装置を制御する電池ECUと、を有し、 上記電池ECUにより、少なくともイグニッションスイッチがオンで、かつ上記バッテリの温度が所定のファン作動温度以上のときに、上記冷却ファン装置を作動させるバッテリを電源とした電気自動車のバッテリ冷却装置。」 との発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。 同じく、当審の拒絶の理由に引用された特開平10-224901号公報(以下、「引用例2」という。)には、図面と共に以下の事項が記載されている。 2-a「一般に、電気自動車においては、動力用の高電圧バッテリとモータ制御器との間やモータ制御器と走行用モータとの間の電気的な接続に電磁開閉器であるコンタクタを使用し、車両停止時にはコンタクタの接点を開として車両停止時の安全を確保するとともに無駄な電力の浪費を防止するようにしている。」(【0002】) 2-b「図1において、符号1は、電気自動車の走行用モータであり、高圧バッテリであるメインバッテリ5を電源としてモータ制御器3によって駆動され、その回転が図示しない駆動系に伝達される。本形態においては、上記走行用モータ1は3相交流誘導電動機であり、モータ用電磁開閉器であるモータコンタクタ2の接点2a,2b,2cを介してインバータからなる上記モータ制御器3に接続され、このモータ制御器3が主電磁開閉器であるメインコンタクタ4の接点4a,4bを介して上記メインバッテリ5に接続されている。 上記メインバッテリ4は、例えば、公称12Vの鉛バッテリからなる単位電池を28個直列に接続し、公称336Vの組電池として形成されるものであり、車両の走行中、上記走行用モータ1からの回生電力によって充電され、バッテリ容量が規定値より低下した場合、図示しない充電器を介して充電される。」(【0021】-【0022】) 2-c「ここで、上記走行制御コントローラ8による上記モータコンタクタ2及びメインコンタクタ4の開閉制御は、図示しないイグニッションスイッチからの信号によってイグニッションスイッチがONされたことが検出されたとき、メインコンタクタ4の励磁コイル4cが通電されて接点4a,4bが閉じ、上記メインバッテリ5と上記モータ制御器3とが電気的に接続される。」(【0025】) 2-d「この場合、上記モータコンタクタ2の励磁コイル2d、上記メインコンタクタ4の励磁コイル4cには、それぞれ、サーミスタ等からなる温度センサ9,10がそれぞれ取り付けられており、上記走行制御コントローラ8では、これらの温度センサ9,10からの信号に基づいて上記モータコンタクタ2及び上記メインコンタクタ4の励磁コイル温度を監視する。」(【0028】) 2-e「すなわち、図9に示すように、モータコンタクタ2、メインコンタクタ4に、それぞれ冷却ファン16,17を配設し、これらの冷却ファン16,17にサブバッテリ7から電源を供給し、切り換えスイッチ20を介して走行制御コントローラ8に接続する。上記冷却ファン16,17は、例えば、コンタクタのケースに通気孔を設けてコンタクタの励磁コイルに直接送風可能なよう配置しても良く、あるいは、コンタクタのケースを熱伝導性の良い部材で構成し、ケース全体に風を当てて冷却するよう配置しても良い。 上記切り換えスイッチ20は、上記冷却ファン16,17に対応する2回路の手動スイッチで、3段階に切り換え可能であり、接点18a,19aが閉のポジションに切り換えられたとき、サブバッテリ7から冷却ファン16,17に電源が供給されて常時ONとなり、接点18b,19bが閉のポジションに切り換えられたとき、冷却ファン16,17が常時OFFとなる。また、接点18c,19cが閉のポジションに切り換えられると、走行制御コントローラ8によって冷却ファン16,17を自動的にON,OFFするモードとなる。 上記切り換えスイッチ20が自動モードのポジションに切り換えられているときには、基本的に、図10のコンタクタ異常(注:「以上」は誤記)監視ルーチンによって冷却ファン16,17の作動が制御される。 このルーチンでは、ステップS401で温度センサ9,10の信号に基づいてモータコンタクタ2の励磁コイル温度及びメインコンタクタ4の励磁コイル温度を読み込み、次いで、ステップS402で、各励磁コイル温度が規定温度を超えていないかを調べる。 そして、モータコンタクタ2の励磁コイル温度及びメインコンタクタ4の励磁コイル温度が共に規定温度を超えていないときには、そのままルーチンを抜け、モータコンタクタ2及びメインコンタクタ4の少なくとも一方の励磁コイル温度が規定温度を超えているとき、上記ステップS402からステップS403へ進んで規定温度を超えたコンタクタの冷却ファンを作動させて送風し、ステップS404で警告灯11を点灯してルーチンを抜ける。」(【0061】-【0065】) (2)対比 そこで、本願補正発明と引用発明とを対比すると、引用発明の「バッテリ」、「温度センサ」、「補機バッテリ」、「バッテリケース内」、「冷却ファン装置」、「電池ECU」、「作動させる」は、それぞれ本願補正発明の「メインバッテリ」、「バッテリ温度検出手段」、「サブバッテリ」、「バッテリ室内」、「冷却手段」、「冷却制御手段」、「駆動する」に相当する。 その機能をも考慮すると、引用発明の「第1および第2インバータと制御部分」は、本願補正発明の「制御回路」に相当し、引用発明の「補機バッテリから電力を供給され上記バッテリが収納されるバッテリケース内のバッテリ周囲の高温の空気を換気する冷却ファン装置」は、本願補正発明の「サブバッテリを電源として上記メインバッテリを収容するバッテリ室内を冷却する冷却手段」に相当する。 引用発明の「イグニッションスイッチのオン信号及び上記温度センサの出力に基づいて上記冷却ファン装置を制御する電池ECU」と、本願補正発明の「リレー投入信号及び上記バッテリ温度検出手段の出力に基づいて上記冷却手段の駆動を制御する冷却制御手段」は、「ある信号及び上記バッテリ温度検出手段の出力に基づいて上記冷却手段の駆動を制御する冷却制御手段」との概念で共通し、引用発明の「少なくともイグニッションスイッチがオンで、かつ上記バッテリの温度が所定のファン作動温度以上のとき」と、本願補正発明の「少なくとも上記リレースイッチがオンで、かつ上記メインバッテリの温度が所定値よりも高いとき」は、「少なくともあるスイッチがオンで、かつ上記メインバッテリの温度が所定の値を示すとき」との概念で共通する。 したがって、両者は、 「メインバッテリと制御回路と、 上記メインバッテリの温度を検出するバッテリ温度検出手段と、 サブバッテリを電源として上記メインバッテリを収容するバッテリ室内を冷却する冷却手段と、 ある信号及び上記バッテリ温度検出手段の出力に基づいて上記冷却手段の駆動を制御する冷却制御手段と、を有し、 上記冷却制御手段により、少なくともあるスイッチがオンで、かつ上記メインバッテリの温度が所定の値を示すときに、上記冷却手段を駆動するメインバッテリを電源とした電気自動車のバッテリ冷却装置。」 の点で一致し、以下の点で相違している。 〔相違点1〕 メインバッテリと制御回路に関し、本願補正発明は、メインバッテリと制御回路との間に、上記メインバッテリの充放電時に上記制御回路から出力されるリレー投入信号によってオンとなるリレースイッチを有するのに対し、引用発明は、メインバッテリと制御回路との間に、上記メインバッテリの充放電時に上記制御回路から出力されるリレー投入信号によってオンとなるリレースイッチを有してはいない点。 〔相違点2〕 本願補正発明は、ある信号がリレー投入信号で、あるスイッチがリレースイッチであるのに対し、引用発明は、ある信号がイグニッションスイッチのオン信号で、あるスイッチがイグニッションスイッチである点。 〔相違点3〕 メインバッテリの温度が所定の値を示すときに関し、本願補正発明は、メインバッテリの温度が所定値よりも高いときであるのに対し、引用発明は、バッテリの温度が所定のファン作動温度以上である点。 (3)判断 相違点1について 引用例2にもみられるように、メインバッテリと制御回路(「モータ制御器」及び「走行制御コントローラ」が相当)との間に、上記メインバッテリの充放電時(「動力用の高電圧バッテリとモータ制御器との間やモータ制御器と走行用モータとの間の電気的な接続」及び「走行用モータ1からの回生電力によって充電」が相当)に上記制御回路から出力されるリレー投入信号(「イグニッションスイッチがON」が相当)によってオンとなるリレースイッチ(「メインコンタクタ」が相当)は、出願人が本願明細書【0009】に記載したように電気自動車の分野において周知の事項であるから、引用発明においても、メインバッテリと制御回路との間に、上記メインバッテリの充放電時に上記制御回路から出力されるリレー投入信号によってオンとなるリレースイッチを設けることは当業者が容易に考えられることと認められる。 相違点2について 引用例2において、「イグニッションスイッチがON」はリレー投入信号に相当し、「メインコンタクタ」はリレースイッチに相当する。 引用発明は、冷却手段の駆動は、イグニッションスイッチのオン信号とバッテリ温度検出手段の出力に基づいているから、引用発明に、上記周知の事項である、メインバッテリと制御回路との間に、上記メインバッテリの充放電時に上記制御回路から出力されるリレー投入信号によってオンとなるリレースイッチを設ければ、冷却手段の駆動は、イグニッションスイッチのオン即ちリレー投入信号及びバッテリ温度検出手段の出力に基づいて行われ、少なくともメインコンタクタ即ちリレースイッチがオンで、かつメインバッテリの温度が所定の値のときに、冷却手段を駆動することとなるから、引用発明において、ある信号をリレー投入信号とし、あるスイッチをリレースイッチとすることは当業者であれば適宜選択し得ることと認められる。 相違点3について 引用発明は、バッテリの温度が所定のファン作動温度と同じとき、過熱状態とは判断しているが、本願補正発明は、メインバッテリの温度が所定値と同じとき、過熱状態と判断しない。 しかし、算出値・検出値等と基準値を比較する場合、算出値・検出値等と基準値が同じとき、その状態を異常状態とするか否かは当業者であれば適宜選択し得ることと認められるから、引用発明においても、バッテリの温度が所定値よりも高いときに過熱状態とすることは当業者であれば適宜なし得ることと認められる。 そして、本願補正発明の作用効果も、引用発明及び上記周知の事項から当業者が予測できる範囲のものである。 したがって、本願補正発明は、引用発明及び上記周知の事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。 (4)むすび 以上のとおり、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するものであり、特許法第159条第1項で準用する特許法第53条の規定により却下されるべきものである。 3.本願発明について 本件補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1-3に係る発明は、上記した平成23年11月14日付手続補正書の特許請求の範囲の請求項1-3に記載された事項により特定されるとおりのものである(請求項1に係る発明を以下「本願発明」という。)。 (1)当審の拒絶の理由 当審で平成23年12月19日付で通知した拒絶の理由は上記「2.[理由I](2)」に記載したとおりである。 (2)当審の判断 平成23年11月14日付手続補正書の特許請求の範囲の請求項1-3には、「ハイブリッド車を除く電気自動車」とあり、この記載に基づけば、電気自動車であってハイブリッド車以外であれば良いこととなる。 しかし、電気自動車とは、電気を原動力として走行する自動車の総称であり、a外部から何らかの形で電力の供給を受けて走行するもの(代表例はトロリーバス)、b車上で何らかの形で電力をつくって走行するもの(例えば燃料電池や太陽電池を用いるもの)、c蓄電池に予め蓄えた電力で走行するものの、3種があり、この様な電気自動車からハイブリッド車を除いた場合、どの様な電気自動車が含まれるのか、発明の詳細な説明を参照しても構成を特定できず不明である。 したがって、発明の詳細な説明の記載は、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に、記載したものであるとはいえず、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない。 同様に、電気自動車からハイブリッド車を除いた場合、どの様な電気自動車が含まれるのか明細書及び図面に何ら開示が無く、当業者が、出願時の技術常識を考慮しても、具体的にどの様な電気自動車が含まれるのか不明であり、請求項1-3に係る発明は明確ではなく、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。 よって、結論のとおり審決する。 (3)進歩性に関する当審の判断 上記のとおり、本願は、特許法第36条第4項及び第6項に規定する要件を満たしていないが、更に、本願発明の進歩性について検討する。 (3-1)引用例 当審の拒絶の理由に引用された引用例1、引用例2及び、その記載事項は、上記「2.[理由II](1)」に記載したとおりである。 (3-2)対比・判断 本願発明は、電気自動車に関し、本願補正発明から「メインバッテリを電源とした」との限定を省き、「ハイブリッド車を除く」との限定を加えたものである。 本願補正発明も、引用発明も、発明の保護の対象となる電気自動車がメインバッテリを電源とした電気自動車であり、当該電気自動車には、蓄電池を電源としモータジェネレータをインバータで駆動するハイブリッド車ではない電気自動車が含まれるから、本願補正発明及び引用発明の電気自動車にはハイブリッド車を除く電気自動車の少なくとも一部が含まれることとなる。 そうすると、ハイブリッド車を除く電気自動車の少なくとも一部を含んだメインバッテリを電源とした電気自動車を構成要件とする本願補正発明が、上記「2.[理由II](2)及び(3)」に記載したとおり、引用発明及び上記周知の事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、「メインバッテリを電源とした」との限定を省いた本願発明も、同様の理由により、引用発明及び上記周知の事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。 (4)むすび 以上のとおり、本願発明は、引用発明及び上記周知の事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2012-05-29 |
結審通知日 | 2012-06-05 |
審決日 | 2012-06-21 |
出願番号 | 特願2000-204704(P2000-204704) |
審決分類 |
P
1
8・
572-
WZ
(B60L)
P 1 8・ 536- WZ (B60L) P 1 8・ 537- WZ (B60L) P 1 8・ 575- WZ (B60L) P 1 8・ 121- WZ (B60L) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 相羽 昌孝 |
特許庁審判長 |
堀川 一郎 |
特許庁審判官 |
槙原 進 川口 真一 |
発明の名称 | メインバッテリを電源とした電気自動車のバッテリ冷却装置 |
代理人 | 江藤 聡明 |