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審決分類 審判 査定不服 特17 条の2 、4 項補正目的 特許、登録しない。 G01B
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G01B
管理番号 1261882
審判番号 不服2011-1079  
総通号数 154 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-10-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-01-17 
確定日 2012-08-16 
事件の表示 特願2001- 64431「自由曲面形状測定方法」拒絶査定不服審判事件〔平成14年 9月18日出願公開、特開2002-267438〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成13年3月8日の出願であって、明細書の特許請求の範囲及び発明の詳細な説明について、平成22年6月25日付けで補正がなされ(以下、「補正1」という。)、同年9月21日付けで補正がなされ(以下、「補正2」という。)、同年10月12日付けで補正2に対して補正却下がなされると共に、同日付けで拒絶査定がなされ(送達:同年同月19日)、これに対し、平成23年1月17日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に明細書の特許請求の範囲及び発明の詳細な説明についての手続補正がなされた(以下、「本件補正」という。)ものである。
その後、平成23年10月19日付けで当審より審尋したところ、請求人より、同年12月20日付け回答書の提出があった。

そして、原査定の拒絶の理由は、本願の特許請求の範囲に記載の各発明は、本願出願前に国内又は外国において頒布された刊行物である特開平11-123635号公報(発明の名称:ワークの形状寸法測定方法及び装置、出願人:株式会社牧野フライス製作所、公開日:平成11年5月11日。以下、「引用刊行物1」という。)及び特開平3-21813号公報(発明の名称:形状計測結果の表示方法、出願人:日産自動車株式会社、公開日:平成3年1月30日。以下、「引用刊行物2」という。)に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができた、というものである。


2.本件補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
本件補正を却下する。

[理由]
(1)本件補正の内容
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1は、次のとおり補正された。

(本件補正前)
「被測定物が数値制御式の3軸加工機によって自由曲面形状を加工された加工物であり、前記3軸加工機の主軸に球状あるいは半球状の測定子を有するタッチプローブを取り付けて前記3軸加工機の機上で前記加工物の自由曲面形状を測定する自由曲面形状測定方法において、
前記加工物の自由曲面の任意の座標位置を測定点とし、その座標位置における法線ベクトルを示す情報を前記自由曲面の曲面データより取得し、前記タッチプローブを使用し、取得した前記法線ベクトルを示す情報より前記測定点において前記法線ベクトルの方向に所定量オフセットしたオフセット位置を設定し、そのオフセット位置に前記測定子の中心が位置するように前記タッチプローブを軸移動させ、前記測定子を前記オフセット位置より前記測定点の前記法線ベクトルの方向に移動させて前記測定子を前記加工物の表面に接近接触させ、前記オフセット位置より前記加工物の表面との接触位置までの移動量あるいはそれと等価の数量値を求め、この移動量あるいはそれと等価の数量値と、前記オフセット位置と前記測定点との間の距離との差値を求め、この差値と予め設定されている誤差許容値との比較演算を行い、前記差値を段階的に分けた誤差レベルとして数値制御装置に出力することを測定点毎に行う、
ことを特徴とする自由曲面形状測定方法。」

(本件補正後)
「被測定物が数値制御式の3軸加工機によって自由曲面形状を加工された加工物であり、前記3軸加工機の主軸に球状あるいは半球状の測定子を有するタッチプローブを取り付けて前記3軸加工機の機上で前記加工物の自由曲面形状を測定する自由曲面形状測定方法において、
前記3軸加工機のワークテーブルに形状寸法が既知の基準球を固定し、前記基準球の球面の任意の1点の座標位置を測定点とし、その座標位置における法線ベクトルを示す情報を前記基準球の球面データより取得し、前記タッチプローブを使用し、取得した前記法線ベクトルを示す情報より前記測定点において前記法線ベクトルの方向に所定量オフセットしたオフセット位置を設定し、そのオフセット位置に前記測定子の中心が位置するように前記タッチプローブを軸移動させ、前記測定子を前記オフセット位置より前記測定点の前記法線ベクトルの方向に移動させて前記測定子を前記基準球の表面に接近接触させ、前記オフセット位置より前記基準球の表面との接触位置までの移動量あるいはそれと等価の数量値を求め、この移動量あるいはそれと等価の数量値と、前記オフセット位置と前記測定点との間の距離との差を補正値として測定値を補正し、この校正値が許容値内にまでキャリブレーションを繰り返した後、
前記加工物の自由曲面の任意の座標位置を測定点とし、その座標位置における法線ベクトルを示す情報を前記自由曲面の曲面データより取得し、前記タッチプローブを使用し、取得した前記自由曲面の法線ベクトルを示す情報より前記自由曲面の測定点において前記自由曲面の法線ベクトルの方向に所定量オフセットしたオフセット位置を設定し、そのオフセット位置に前記測定子の中心が位置するように前記タッチプローブを軸移動させ、前記測定子を前記自由曲面の測定点に対するオフセット位置より前記自由曲面の測定点の前記法線ベクトルの方向に移動させて前記測定子を前記加工物の表面に接近接触させ、前記自由曲面の測定点に対するオフセット位置より前記加工物の表面との接触位置までの移動量あるいはそれと等価の数量値を求め、この移動量あるいはそれと等価の数量値と、前記自由曲面の測定点に対するオフセット位置と前記自由曲面の測定点との間の距離との差値を求め、この差値と予め設定されている誤差許容値との比較演算を行い、前記差値を段階的に分けた誤差レベルとして数値制御装置に出力することを測定点毎に行う、
ことを特徴とする自由曲面形状測定方法。」(下線は、補正箇所。)

(2)本件補正の目的について
本件補正が、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前(以下、単に、「改正前」という。)の特許法第17条の2第4項の各号に掲げる事項を目的とするものに該当するかについて検討する。
改正前の特許法第17条の2第4項2号の「特許請求の範囲の減縮」は、第36条第5項の規定により請求項に記載した発明を特定するために必要な事項を限定するものであって、その補正前の当該請求項に記載された発明とその補正後の当該請求項に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるものに限るとされるところ、本件補正は、補正前の請求項1に係る発明の「自由曲面形状計測方法」について、「前記3軸加工機のワークテーブルに形状寸法が既知の基準球を固定し」、「前記基準球の球面の任意の1点の座標位置を測定点とし、その座標位置における法線ベクトルを示す情報を前記基準球の球面データより取得し、前記タッチプローブを使用し、取得した前記法線ベクトルを示す情報より前記測定点において前記法線ベクトルの方向に所定量オフセットしたオフセット位置を設定し、そのオフセット位置に前記測定子の中心が位置するように前記タッチプローブを軸移動させ、前記測定子を前記オフセット位置より前記測定点の前記法線ベクトルの方向に移動させて前記測定子を前記基準球の表面に接近接触させ、前記オフセット位置より前記基準球の表面との接触位置までの移動量あるいはそれと等価の数量値を求め、この移動量あるいはそれと等価の数量値と、前記オフセット位置と前記測定点との間の距離との差を補正値として測定値を補正し」、及び「この校正値が許容値内にまでキャリブレーションを繰り返し」という、新たなステップ(工程)を導入する補正事項を含む補正であって、該補正事項は補正前の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項を限定するものであるとはいえない。
したがって、本件補正は、「第36条第5項の規定により請求項に記載した発明を特定するために必要な事項を限定するものであって、その補正前の当該請求項に記載された発明とその補正後の当該請求項に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるものに限る」とされる特許請求の範囲の減縮には当たらない。
また、前記補正事項は、請求項の削除、誤記の訂正及び明りょうでない記載の釈明のいずれにも該当しないことも明らかである。
よって、本件補正は、改正前の特許法第17条の2第4項第1号ないし第4号に掲げる事項のいずれを目的とするものでもない。

(3)補正却下の決定についてのむすび
以上のとおり、本件補正は、改正前の特許法第17条の2第4項の規定に違反するものであるから、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

(4)予備的検討
上記のとおり、本件補正は、改正前の特許法第17条の2第4項第1号ないし第4号に掲げる事項のいずれを目的とするものでもないが、仮に本件補正が特許請求の範囲の減縮を目的としたものであるとしたとして、その場合は、補正後の請求項1に係る発明は特許出願の際独立して特許を受けることができるものでなければならない。
そこで、本件補正後の請求項1に係る発明が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか、すなわち、改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか、について、以下に検討する。

(4-1)本願補正発明について
本件補正後の請求項1の記載は以下のとおりのものである。
「被測定物が数値制御式の3軸加工機によって自由曲面形状を加工された加工物であり、前記3軸加工機の主軸に球状あるいは半球状の測定子を有するタッチプローブを取り付けて前記3軸加工機の機上で前記加工物の自由曲面形状を測定する自由曲面形状測定方法において、
前記3軸加工機のワークテーブルに形状寸法が既知の基準球を固定し、前記基準球の球面の任意の1点の座標位置を測定点とし、その座標位置における法線ベクトルを示す情報を前記基準球の球面データより取得し、前記タッチプローブを使用し、取得した前記法線ベクトルを示す情報より前記測定点において前記法線ベクトルの方向に所定量オフセットしたオフセット位置を設定し、そのオフセット位置に前記測定子の中心が位置するように前記タッチプローブを軸移動させ、前記測定子を前記オフセット位置より前記測定点の前記法線ベクトルの方向に移動させて前記測定子を前記基準球の表面に接近接触させ、前記オフセット位置より前記基準球の表面との接触位置までの移動量あるいはそれと等価の数量値を求め、この移動量あるいはそれと等価の数量値と、前記オフセット位置と前記測定点との間の距離との差を補正値として測定値を補正し、この校正値が許容値内にまでキャリブレーションを繰り返した後、
前記加工物の自由曲面の任意の座標位置を測定点とし、その座標位置における法線ベクトルを示す情報を前記自由曲面の曲面データより取得し、前記タッチプローブを使用し、取得した前記自由曲面の法線ベクトルを示す情報より前記自由曲面の測定点において前記自由曲面の法線ベクトルの方向に所定量オフセットしたオフセット位置を設定し、そのオフセット位置に前記測定子の中心が位置するように前記タッチプローブを軸移動させ、前記測定子を前記自由曲面の測定点に対するオフセット位置より前記自由曲面の測定点の前記法線ベクトルの方向に移動させて前記測定子を前記加工物の表面に接近接触させ、前記自由曲面の測定点に対するオフセット位置より前記加工物の表面との接触位置までの移動量あるいはそれと等価の数量値を求め、この移動量あるいはそれと等価の数量値と、前記自由曲面の測定点に対するオフセット位置と前記自由曲面の測定点との間の距離との差値を求め、この差値と予め設定されている誤差許容値との比較演算を行い、前記差値を段階的に分けた誤差レベルとして数値制御装置に出力することを測定点毎に行う、
ことを特徴とする自由曲面形状測定方法。」

ところで、この本件補正後の請求項1において、「この移動量あるいはそれと等価の数量値と、前記オフセット位置と前記測定点との間の距離との差を補正値として測定値を補正し、この校正値が許容値内にまでキャリブレーションを繰り返した後、」と記載されているが、「キャリブレーションを繰り返し」とは、具体的にどのような動作を繰り返すことであるのかが不明確であり、また、「...の差を補正値として測定値を補正し」との記載は、実際の測定値を補正することを意図している記載であると認められるから、この記載がキャリブレーションの工程に含まれている点でも、本件補正後の請求項1の記載は明確性を欠いている。
そこで、平成23年10月19日付けで当審がした審尋に対する請求人の回答書を参照すると、前記審尋においてした「請求項1の記載が不明確である」との指摘に対して、補正案を提示している。
この補正案の請求項1に係る発明は、本件補正後の請求項1と実質的に同一の発明であって、前記不明確な点が明確にされたものであると認められるので、これを参酌して、この補正案の請求項1に係る以下の発明を、改めて「本願補正発明」とする。

「被測定物が数値制御式の3軸加工機によって自由曲面形状を加工された加工物であり、前記3軸加工機の主軸に球状あるいは半球状の測定子を有するタッチプローブを取り付けて前記3軸加工機の機上で前記加工物の自由曲面形状を測定する自由曲面形状測定方法において、
前記3軸加工機のワークテーブルに形状寸法が既知の基準球を固定し、前記基準球の球面の任意の1点の座標位置を測定点とし、その座標位置における法線ベクトルを示す情報を前記基準球の球面データより取得し、前記タッチプローブを使用し、取得した前記法線ベクトルを示す情報より前記測定点において前記法線ベクトルの方向に所定量オフセットしたオフセット位置を設定し、そのオフセット位置に前記測定子の中心が位置するように前記タッチプローブを軸移動させ、前記測定子を前記オフセット位置より前記測定点の前記法線ベクトルの方向に移動させて前記測定子を前記基準球の表面に接近接触させ、前記オフセット位置より前記基準球の表面との接触位置までの移動量あるいはそれと等価の数量値を求め、この移動量あるいはそれと等価の数量値と、前記オフセット位置と前記測定点との間の距離との差を補正値とするのを複数の任意の点に対して繰り返した後、
前記加工物の自由曲面の任意の座標位置を測定点とし、その座標位置における法線ベクトルを示す情報を前記自由曲面の曲面データより取得し、前記タッチプローブを使用し、取得した前記自由曲面の法線ベクトルを示す情報より前記自由曲面の測定点において前記自由曲面の法線ベクトルの方向に所定量オフセットしたオフセット位置を設定し、そのオフセット位置に前記測定子の中心が位置するように前記タッチプローブを軸移動させ、前記測定子を前記自由曲面の測定点に対するオフセット位置より前記自由曲面の測定点の前記法線ベクトルの方向に移動させて前記測定子を前記加工物の表面に接近接触させ、前記自由曲面の測定点に対するオフセット位置より前記加工物の表面との接触位置までの移動量あるいはそれと等価の数量値を求め、この移動量あるいはそれと等価の数量値を前記補正値で補正したものと、前記自由曲面の測定点に対するオフセット位置と前記自由曲面の測定点との間の距離との差値を求め、この差値と予め設定されている誤差許容値との比較演算を行い、前記差値を段階的に分けた誤差レベルとして数値制御装置に出力することを測定点毎に行う、
ことを特徴とする自由曲面形状測定方法。」(下線は、本件補正によって補正された請求項1からの変更点を明示するため、当審で付した。)

(4-2)引用刊行物に記載された事項及び引用発明
(4-2-1)引用刊行物1に記載された事項及び引用発明
原査定の拒絶の理由に主たる引用例として引用され、本願出願前に頒布された刊行物である特開平11-123635号公報(引用刊行物1)には、「ワークの形状寸法測定方法及び装置」(発明の名称)に関して、以下の事項が図面とともに記載されている。

ア.「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、工作機械により加工されたワークの形状寸法測定方法及び装置に関し、特に測定子を有した測定ヘッドを主軸に装着してワークの表面の座標値を直接的に三次元で測定し、そのとき、主軸軸心に対する測定子中心の位置ずれ、つまり偏心と、主軸の軸心方向において所定の基準位置に対する測定子中心の位置ずれ、つまり偏差と、更には測定ヘッドの測定子がワーク等の被測定物に接触してから測定信号を発するまでの所定の接近方向、つまり法線方向に沿う押し込み量に相当する押代とが不可避的に包含されていても高精度にワークの形状寸法を測定することが可能なワークの形状寸法測定方法と装置とに関するものである。殊に、本発明は、ワーク等の被測定物に対する接近方向、つまり法線方向が三次元空間内で異なる毎に測定子の押代が異なるような測定ヘッドを用いた場合にも高精度なワークの形状寸法測定を可能にするワークの形状寸法測定方法と装置とに関する。
【0002】
【従来の技術】工作機械によるワークの加工、例えば、三次元形状を有した金型曲面等の加工においては、ワーク加工工程の間にワークの三次元の形状寸法を測定してワークの加工状態を検出することにより、所望の形状寸法に至る加工の進捗度合いや加工精度を把握することは、加工現場において一般的に実行されている。この場合におけるワークの三次元形状寸法の測定においては、都度、工作機械外の三次元測定機へワークを搬入して測定を行っており、これでは測定機へのワークの設定が煩瑣になり、また測定後に再びワークの加工を行う場合には、工作機械上へのワークの再設定にも手間取る等の不利がある。従って、工作機械のテーブルに取着されたままのワークに対して、工作機械の主軸に工具と交換に測定子を有した測定ヘッドを工具交換装置等で装着し、この測定ヘッドを用いて上記テーブル上に取着されたままのワークの形状寸法を直接、測定することも効率的な方法として通常、実行されている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】然るに、工作機械のみならず、工作機械外の三次元測定機等の主軸に測定ヘッドを装着してワークの形状寸法の測定を行うときには、機械要素間の機械的な係合に伴う不可避的要因として測定ヘッドの測定子中心と主軸軸心との間には偏心、偏差等が発生する。ところが、主軸の軸心に対して測定ヘッドの測定子の中心を三次元方向(X,Y,Z軸方向)に正しく位置決めし、測定子中心が主軸軸心に対して偏心、偏差のない状態を実現させてから測定を実行しないと、測定子の中心がワーク表面における測定目標位置からずれた位置の測定をすることになり、工作機械や測定機が有するスケールや送り機構が有するエンコーダ等の高精度の位置決め機能等を駆使しても、結局、高精度の形状寸法の測定を行うことは不可能となる。このために、従来は、例えば工作機械の主軸に測定ヘッドを装着してワークの形状寸法の測定を行う場合には、測定ヘッドの装着時に、工作機械上のベッド等に取着したインジケータ等で測定ヘッドが有する測定子の中心を主軸軸心に位置合わせする所謂、心出し作業を行ってから、ワークの形状寸法の測定を実行する方法が採られていた。
【0004】しかしながら、インジケータ等の既存の測定器を用いる心合わせでは、測定ヘッド内部の遊びや測定ヘッドの触圧に起因して高精度の心合わせを実現することは困難であり、主軸軸心と測定子の中心との間には不可避的にずれがあり、ワークの曲面測定時には、結局、測定子は、ワーク曲面上の目標とする測定点からずれた位置を測定することとなり、ワークの測定精度を低下させる結果となっていた。
【0005】その上、複雑な形状をした金型曲面等のワークの場合には、加工工程の間に一度ならず、このようなワーク形状寸法の測定が遂行されるために、形状寸法の測定を実行することが極めて煩瑣になり、故に加工能率の低下も来す結果となっていた。他方、例えば工作機械の主軸に測定ヘッドを装着してワークの形状寸法の測定を実行するにあたり、測定ヘッドの測定子がワークの目標測定位置に機械的に接触して測定を遂行する接触式の測定ヘッドや、測定子先端がワークの測定位置に接近したときの例えば、電気容量変化やうず電流変化等の電気量の変化から測定値を得る非接触式の測定ヘッドが用いられるが、接触式測定子の場合には、測定位置に実際に接触した時点から定方向に一定の押し込み量を経たとき、接触を示す電気信号等の測定信号を発する構成を具備し、また、非接触式測定子においても上述した電気量変化が一定レベル、つまり一定の閾値に達するまでの接近動作量を経過した時点で測定信号を発する構成を有する。このような押し込み量や接近動作量を総括的に以下、押代と定義すると、測定ヘッドの測定子は、個々に特有の押代を有することから、ワークの形状寸法の測定にあたっては、個々の測定ヘッドの押代を求め、求めた押代をワークの形状寸法測定値に補正処理を行って実際の形状寸法を求める必要がある。
【0006】殊に、三次元測定機として実現されている周知の高精度測定機の測定ヘッドの場合はともかく、一般的に使用される比較的安価で低精度の測定ヘッドにおいては、例えば、球形をしたその測定子がワーク等の被測定物の表面の座標値を測定すべく、該表面に対して法線方向に接近動作する際に、該表面における測定位置の相違に応じて法線方向が異なる毎に異なった押代を持つ不均一性を有し、複雑な曲線表面を有したワーク等の被測定物に対しては、この押代の不均一性に起因した測定誤差を混入し、測定結果に悪影響を及ぼすことが認識されている。
【0007】そこで、三次元測定装置において測定プローブのワークとの接触方向の違いに応じて測定力が異り、方向性を有する点をロービング特性として捉え、これを改善する三次元測定方法が特公平6-63760号に開示されている。この改善された三次元測定方法は、基準球の表面を複数領域に分割し、各分割域に法線方向から測定プローブを接触させて測定信号を検出することにより測定値を求め、該測定値から形成される仮想球と実際の基準球とから各分割面に対応した補正値を求めて記憶しておき、次にワークを測定プローブによって測定する際には、ワークに対する接触点における位置座標及び移動方向を検出し、この移動方向と対応した上記基準球測定時の移動方向(法線方向)に対応する補正値を読み出し、この補正値によりワークを接触、測定した場合の測定値を補正するようにした一手法を開示している。しかしながら、この手法では、複雑な曲面形状を有したワークの場合に、基準球の分割域を限りなく細分化させて緻密な補正データを保持しなければ、実際にワークを測定するときに、その測定方向に対応したロービング補正値、つまり押代補正値を得ることが困難であり、記憶容量の膨大化を招くという難点を有している。」

イ.「【0014】
【作用】工作機械や測定機における主軸に装着された測定ヘッドの測定子がワークの形状寸法を実際に測定する場合の押代PL(PL_(X) , PL_(Y) , PL_(Z) )を演算法により得るための複数の押代データを既知半径を有した校正球等の校正手段を用いて求め、測定時の接近方向(法線方向)と対応させて記憶手段内に格納する。
【0015】上記の押代データは、例えば既知の半径寸法(R)を有し、寸法校正や位置校正に用いられる周知の校正球をテーブル上に設置し、この校正球の球面上における複数の点に対して、測定子を該複数の点の各点に対する測定開始点に位置決めし、その測定開始点から法線方向に沿って接近動作させて校正球半径を実測し、測定ヘッドの測定子の既知半径(r)と、校正球の実測半径(Rs)と、既知半径(R)から、(R+r)-(Rs)=押代PLnを求め、このような押代PLnを求める工程を校正球面上の複数の点で繰り返すことにより、測定子の接近方向(法線方向)と1対1に対応した例えばテーブル形式で押代データを求め、該押代データテーブルを適宜の押代記憶手段に記憶する。なお、この校正球等の校正手段を用いて押代データを求める工程を予め一定の校正手順としてプログラム化し、該校正プログラムに従って実行しても良い。
【0016】上述のようにして主軸に装着された測定ヘッドの測定子の押代データを求めた後に、該主軸に装着された測定ヘッドを用いてワークの形状寸法の測定工程を遂行する。このワークの形状寸法の測定工程は、ワークの測定表面上に予め測定プログラム等によって指定された複数の測定点(所要に応じて1つの測定点のみとしても本発明の測定方法の原理は不変である。)に対して遂行され、上述のように主軸の移動によって測定ヘッドの測定子中心を測定点に対する法線上に定めた測定開始点へ位置決めする。このとき、法線はワークの加工のために設計された形状に対して選定した測定点に関し予め演算により求めた法線でも良く、ワークの各測定点の近傍における数点の座標値を実際にその測定ヘッドの測定子で測定して求め、求めた数点の座標値から定まる測定点を含む平面に立てられる法線を求め、このようにして求めた法線を各測定点の実測における法線とするようにしても良い。」

ウ.「【0019】
【発明の実施の形態】以下、本発明を添付図面に示す実施形態に基づいて詳細に説明する。図1は、本発明に係るワークの形状寸法の測定方法を実施するために用いられる測定装置の全体的構成を示すブロック図、図2は、主軸に装着された測定ヘッドの測定子が主軸軸心に対して偏心、偏差し、かつ測定子が接近方向に異なる押代を有した状態で、ワークの測定目標点を本発明による測定方法によって測定を実施する場合の測定過程を説明するための略示説明図、図3及び図4は、本発明によるワークの形状寸法測定を実施する場合のフローチャート、図5は、既知の半径寸法を有した基準校正球を校正手段に用いて、例えば、工作機械のテーブル上に設置し、主軸に装着した測定ヘッドの測定子が有する押代を検出する工程を説明するための略示説明図、図6は、基準校正球の表面における複数の押代測定点に対して、該押代測定点のそれぞれに一義的に決まる法線方向から測定ヘッドの測定子を接近させることにより、押代測定点の位置、従って法線方向と対応して該測定子の押代を求め、押代データテーブルを得る過程を説明する説明図、図7及び図8は、ワークの目標測定点P_(1 )における押代を基準校正球を用いて得た押代データテーブルの複数点Q_(1 )、Q_(2 )、Q_(3 )、Q_(4 )から得た複数の押代に基づいて演算する過程を説明する略示説明図、図9は、上記の点P_(1 )、Q_(1 )、Q_(2 )、Q_(3 )、Q_(4 )を基準校正球の表面にプロットした様子を示す平面図、図10は、一般的に工作機械の主軸に装着された測定ヘッドが有する測定子(接触式の球状測定フィーラの例を示す)によってワーク等の被測定対象物の測定目標点を測定する際において、主軸軸心と測定子の中心とが正しく一致した状態で測定開始点から測定目標点へ同点に立てた法線方向にアプローチ(接近動作)させた場合の状況を模式的に説明するための略示説明図、図11は、主軸の軸心に対する測定ヘッドの測定子中心の偏心量と偏差量とを模式的に示すための略示説明図、図12は、工作機械の主軸に装着された測定ヘッドが有する測定子(接触式の球状測定フィーラの例を示す)によってワーク等の被測定対象物の測定目標点を測定する際において、主軸軸心と測定子の中心とが不一致のままで測定開始点から測定目標点へ同点に立てた法線方向にアプローチ(接近動作)させた場合の状況を模式的に説明するための略示説明図である。
【0020】さて、一般的に、工作機械、特に、所定のNCプログラムに従って工具交換を遂行しながら加工を実行するNC工作機械によってテーブル上に設置したワークの機械加工を実行する工程の間に、工作機械の主軸に工具に代えて測定子を有した測定ヘッドを装着することにより、テーブル上に設置された状態のままのワークの形状寸法を測定することは、加工現場において通常、実行されている。このようなワークの形状寸法の測定において、工作機械の主軸と、ワークを搭載したテーブルとの間で送り機構による相対送り動作を行わせて主軸に装着した測定ヘッドの測定子をワークの各目標点へ接近させるようにする。このため、工作機械の主軸に装着した測定ヘッドにより、ワークの形状寸法を測定する場合には、主軸軸心を基準にして測定プログラムが作成される。これに対して、工作機械外の三次元測定機における主軸に測定ヘッドを装着し、同測定ヘッドの測定子によってワークの目標とする測定点を測定する場合には、測定ヘッドの測定子の中心を基準にして測定ヘッドによる測定を実行するのが一般的である。」

エ.「【0024】また、図10、図12に示す測定子11とワークWとの接触点の検出過程では、一般的に測定子11はワークWに接触した時点で直ちに検出信号を発するのではなく、法線方向Vに沿ってワークWの内部に向けて一定量の押し込みが成された後に検出信号が発せられるもので、この量が押代であり、個々の測定子11間の押代にも一般的には大小バラツキを有しているのみならず、単一個の測定子11において、その測定子11を測定目標点Pに対して法線方向Vに沿って接近動作させるとき、その法線方向の違いに応じて種々異なる押代を呈することが多く、特に、安価な反面、低精度に製造された測定ヘッドの測定子11では、この傾向が顕著である。従って、このような測定子の持つ押代の特性をも考慮しなければ、高精度にワークWの形状寸法を測定することは不可能となるのである。」

オ.「【0025】本発明は、加工されたワークWの形状寸法を、例えば、該加工を行った工作機械の主軸9に工具と交換に装着した測定ヘッドによって測定する場合等に、たとえ主軸9の軸心に対して測定ヘッドが有する測定子11の中心が上述した偏心、偏差量を包含して装着され、測定ヘッドの押代が測定方向の違いに応じて種々異なる場合でも高精度にワークWの形状寸法の測定を実施し得る方法及び装置を提供せんとするものである。
【0026】ここで、図1を参照して、本発明の一実施形態として工作機械Mの主軸9に装着した測定ヘッド10によりワークWの形状寸法を測定する場合を考察する。工作機械Mは、テーブル12上でワークWの機械加工を例えば、図示されていないNC加工プログラムに従って遂行している。故に、工作機械Mは、主軸9をZ軸方向に送り動作させる送りモータを含んだZ軸方向の送り機構Fzと、テーブル12をX軸方向及びY軸方向に送り動作させる夫々の送りモータを含んだX軸方向、Y軸方向の送り機構Fx、Fyとを備えている。そして、これらの3軸方向の送り機構Fx、Fy、Fzは、それぞれ主軸9のZ軸方向の位置、テーブル12のX軸方向、Y軸方向における位置を示す位置信号を送出するスケール装置やエンコーダ装置等を備えていることは言うまでもない。」

カ.「【0030】上記補正量演算部30は、上述の動作指令部15からの動作指令に応じて測定子11の偏心・偏差量等の補正量及び押代を演算するために設けられ、偏心・偏差量演算部31では上述した位置検出部19、測定信号検出部21と接続され、後述する非接触式の工具先端位置測定装置等を用いて測定子11の中心座標のデータを当該位置検出部19から入力されると、それに基づいて主軸9の軸心に対する測定子11の偏心量、偏差量を演算によって求め、校正用押代演算部33では、また別に後述する基準校正球やマスターワーク等の校正手段を用いて測定子11で該校正手段の所定寸法を複数の法線方向から接近動作させて測定するとき、上記位置検出部19、測定信号検出部21からの検出データに基づいて測定子11の種々の法線方向と対応した押代PLnを演算によって求め得るように構成されている。」

キ.「【0031】そして、補正量演算部30により演算された測定ヘッド10の測定子11の偏心及び偏差量は、データ記憶部40の偏心・偏差量記憶部41により記憶され、また後述の押代データテーブルが押代データ記憶部43に記憶される。また、上述した偏心及び偏差量と押代データテーブルが求められてから、いよいよワークWの形状寸法の測定工程が実行される過程では、測定値演算部50の測定座標値検出部51が既述の測定信号検出部21および位置検出部19から出力される測定目標点Pの三次元座標値のデータを受信し、この受信した各測定目標点Pの三次元座標値に対して偏心・偏差量補正部53が、上記の偏心・偏差量記憶部41から読み出した偏心量、偏差量によって補正を行う。更に、押代補正部55が既述の押代データ記憶部43から読み出した押代データテーブルに基づいて測定用押代演算部54が測定目標点Pに対する測定ヘッド10の測定子11が持つ押代PLを演算により求めて上記押代補正部55へ送出することによって押代補正を行い、以て測定目標点Pの正しい三次元座標値を求めて、ワーク形状寸法演算部57へ測定点毎に送出する。すると、同ワーク形状寸法演算部57は、複数の各測定目標点Pの正しい三次元座標値からワークWの形状寸法を演算によって求め、測定を完了し、演算したワークWの形状寸法データを測定結果出力・表示部60を介して装置外部へ出力するようになっている。」

ク.「【0032】図2は、本発明によるワークWの形状寸法測定方法を工作機械において実施する際に主軸9の軸心に対して測定子11の中心が偏心、偏差のずれを有し、かつ測定子11が測定点への接近方向に異なる押代を有した状態で、ワークWの測定目標点Pの三次元座標値を同測定子11が検出するまでの測定過程を説明している。
【0033】図2において、測定ヘッド10が装着された主軸9が任意の位置(a)からワークWの測定目標点Pの測定を開始するときには、まず、上記の任意位置(a)から測定開始点(b)へ移動、位置決めされる。この測定開始点(b)への位置決めは測定プログラムMRPにより指定される測定開始点Pに対して測定子11の偏心、偏差を考慮して、当該測定子11の中心位置が測定目標点Pに対する適正な測定開始点に位置するように補正動作を加えた位置決めが行われる。
【0034】次いで、測定開始点(b)から当該測定目標点Pに関する法線方向(三次元座標系における法線ベクトルを(l,m,n)とする)に沿って通過点(c)を経由して接近動作を行う。この接近動作は勿論、工作機械Mの各送り軸方向における送り機構Fx、Fy、Fzを含めた3軸送り機構の軸移動により主軸9とワークWとの間の相対移動によって遂行されることは言うまでもない。
【0035】やがて、測定子11がワークWにおける測定目標点Pを接触式に又は非接触式に検出する位置、つまり接触式では幾何学的に測定目標点Pに接触する位置であり、非接触式では、理論的にうず電流または静電容量等の変化が開始する位置に相当する検出位置(d)に達する。この検出位置(d)から測定子11は更にその押代相当分だけ押し込まれた位置(e)に達すると、測定信号、所謂、スキップ信号が測定ヘッド10から発せられる。このような測定信号は図1に示す測定信号検出部21で検出され、この測定信号に応じて、位置検出部19は各送り機構Fx、Fy、Fzに関連したスケールやエンコーダ等の位置検出装置から測定目標点Pの座標値(x,y,z)を検出するものである。
【0036】上述した測定目標点Pの三次元座標値(x,y,z)の検出過程では、工作機械Mの主軸9は、測定プログラムMRPにより指定される測定開始点(b)からずれた位置からワークWに対して相対移動を行い、測定子11の中心が測定目標点Pにその法線方向から接近するように動作していることから、上述により検出された点Pの座標値には測定子11の偏心、偏差量に相当するずれ量が混入されている。また、押代も混入している。依って、本発明はこれらの偏心、偏差量および押代の補正を行って、主軸9の軸心を基準とした正しい測定目標点Pの三次元座標値(Hx,Hy,Hz)を求めるのである。」

ケ.「【0039】なお、図4に示した測定工程S7からS10の工程は、ワークWの被測定面上における複数の測定目標点P1?Pnの各測定点P1・・・Pnに就いて各個別に三次元座標値の検出と補正とを行い、これを複数回、繰り返すように測定過程が実行されるように記載してあるが、勿論、複数の測定目標点P1・・・Pnに関する三次元座標値を先ず、検出し、その後に測定子11の偏心量及び偏差量をデータ記憶部40から取り込み、また押代をデータ記憶部40から取り込んで測定用押代演算部54において各測定目標点P1・・・Pnの押代を求め、求めた押代によって個々の座標値に順次に補正を施すようにしても良いことは言うまでもない。
【0040】なお、図4に示す工程S8において、各測定目標点P1?Pnの接近動作を遂行する場合の法線方向は予め測定プログラムMRPの作成段階で、ワークWの設計加工される形状データから法線方向を決定し、そのベクトル(l,m,n)をプログラム内に入力しておくようにしても良く、また、図7に示すように、ワークWの測定目標点P1?Pnの測定を遂行する過程で、予め例えば測定目標点P1に極めて近い近傍位置に選定した3点の座標値を測定子11を用いて直接、測定し、これらの3点の座標値で形成される各測定目標点を含んだ狭小平面Mに対して立てた法線VLを測定目標点P1の接近動作における法線方向として求めるようにしても良い。この場合には、図示されていないが、図1の補正量演算部30に法線方向のベクトルを演算する演算部を適宜に設け、また、データ記憶部40に演算した法線方向のベクトルを記憶する法線ベクトル記憶部を設けるようにすれば良い。」

コ.「【0042】次に、図3の測定工程S5、S6に示す測定ヘッド10の測定子11の法線方向毎に異なる押代PLを校正手段を用いて求め、押代データテーブルを作成する方法の一実施形態を説明する。まず、図5に示す既知半径Rを有した校正球72を校正手段として用いることにより、測定ヘッド10の測定子11の押代PLnを求める原理を説明する。
【0043】すなわち、例えば工作機械Mのテーブル12上に校正球72を設置し、この校正球72の球半径を測定ヘッド10の測定子11によって実測することにより、測定子11の押代PLnを求めるものである。この場合には、先ず、予め周知のインジケータ装置を工作機械Mの主軸9に装着して校正球72の表面にインジケータ装置を当接させて同一振れ目盛りを示す少なくとも4点位置の三次元座標値を読み取ることにより、校正球72の中心位置を求める。
【0044】次いで、工作機械Mの主軸9に測定ヘッド10を装着し、その測定子11によって校正球72の求めた中心位置と球面上の任意の4測定点とを結ぶ直線、つまり各測定点に立てた法線方向を求める。その後、測定子11を、3軸方向への送りり手段、例えば、工作機械MのX,Y,Z方向の送り機構Fx、Fy、Fzの送り駆動によって校正球72の表面の目標とする測定点に関する測定開始点へ、図2に示したワークWの測定工程の場合と同様にして位置決めする。すなわち、この測定開始点への位置決めには、既に求めた測定子11の偏心量(ΔX,ΔY)、偏差量(ΔZ)を勘案して測定子11の中心位置が接近動作のための法線上に来るように位置決めする。次に、校正球72の4つの測定点の位置へそれぞれの法線方向から接近動作させて測定子11による接触に応じて測定信号が測定ヘッド10から発せられる都度、測定信号検出部21(図1参照)で検出し、そのとき、位置検出部19において校正球72上の4測定点の三次元座標値を検出する。これらの4つの測定点の座標値から定義される球面の半径Rsを演算する。そしてこの演算結果から得られた実測値としての校正球72の半径Rsと、測定子11の半径rと既知の半径値Rとの間には押代PLnが介在するので、
PLn=(R+r)-(Rs) ・・・・(7)
の式(7)から測定子11の法線方向に対応した押代PLnを求めることができるのである。
【0045】さて、上述した測定ヘッド10の測定子11の押代PLnは、既述のように、その測定時における接近動作方向、つまり、種々の測定点に対する法線方向が異なる毎に、一般的には異なった押代を呈する。このため、本発明は、予め測定子11の押代が法線方向により異なることを考慮して、図6に略示するように、校正球72の球面の複数の選定した校正点にそれぞれの法線方向から接近動作させることにより、上記式(7)により演算される押代PLnを複数個求め、しかもこれらの複数個の押代PL1,PL2,・・・PLn・・PL1m,PL2m・・・PL4m・・・と、校正球面における各点の位置を一義的に定める緯度φ、経度θと対応させて押代データテーブルを作成する。図6には、この押代データテーブルも図示されている。ここで、校正球面における各点の位置に対応して1つの法線方向が定まるので、押代データテーブルの緯度φ、経度θで示す位置は、1つの法線方向に対応していることは言うまでもない。故に、図6に図示の押代データテーブルは、測定子11の種々の法線方向に対応した押代を示すものと理解することができる点に注目を要する。」

サ.「【0049】図8を参照すると、4点Q1,Q2,Q3,Q4 における夫々の法線方向に対応した測定子11の押代が押代ベクトルPL1m, PL2m, PL3m, PL4mであったとするなら、まず、点Q1,Q4 の間および点Q2,Q3 の間を結ぶ円弧状線と、点P1を通る円弧状線との交点として求まる点Q5,Q6 を求め、Q2,Q5 とQ5,Q3 との円弧状線の長さ比率から点Q5 における押代ベクトルを点Q2,Q3 における押代ベクトルの比率配分で演算して求め、同様に、点Q6 についても同じような演算手法によって同点Q6 の押代ベクトルを求める。次いで、点Q5,P1 間及び点P1,Q6 間の円弧状線の長さ比率に基づいて点Q5,Q6,の押代ベクトルを比率配分で演算して究極的に点P1 における押代PL(PL_(X), PL_(Y), PL_(Z)) を求めるものである。このような演算は、図1に示す測定用押代演算部54において遂行する。かくして求めた測定目標点P1 の押代PL(PL_(X), PL_(Y), PL_(Z)) を用いて押代補正部55において、ワークWの測定目標点P1 における実測した座標値(x,y,z)に対して補正を行うようにすれば良いのである。
【0050】以上に記載したように、測定工程S2?S7を経て測定ヘッド10の測定子11が有する偏心量(ΔX,ΔY)及び偏差量(ΔZ)と測定時の接近動作方向、つまり法線方向に対応した押代PL(PLx,PLy,PLz)を求め、測定工程S8?S10を遂行すれば測定目標点P1 の補正された座標値(H_(X), H_(Y), H_(Z)) を求めることができるのである。従って、更に図4のフローチャートにおける測定工程S11に示すように、各測定目標点P2 ?Pnに就いても同様の測定工程を測定ヘッド10の測定子11によって繰り返し遂行すれば、全ての測定点P1 ?Pnに就いて補正された座標値(H_(X), H_(Y), H_(Z)) を求めることができる。故に、これらの補正された全座標値(H_(X), H_(Y), H_(Z)) を用いてワーク形状寸法演算部57(図1参照)によって三次元空間における座標値を連接して形状寸法を求める演算を実行すれば、図4の測定工程S12で示すように、ワークWの形状寸法の測定を高精度の実行することができるのである。」

以下、引用刊行物1の、特に、発明の実施の形態に記載された発明に関して、上記記載事項を検討する。

(a)まず、「【0001】【発明の属する技術分野】本発明は、工作機械により加工されたワークの形状寸法測定方法及び装置に関し、特に測定子を有した測定ヘッドを主軸に装着してワークの表面の座標値を直接的に三次元で測定し、...高精度にワークの形状寸法を測定することが可能なワークの形状寸法測定方法と装置とに関するものである。...」及び「【0002】【従来の技術】工作機械によるワークの加工、例えば、三次元形状を有した金型曲面等の加工においては、ワーク加工工程の間にワークの三次元の形状寸法を測定してワークの加工状態を検出することにより、所望の形状寸法に至る加工の進捗度合いや加工精度を把握することは、加工現場において一般的に実行されている。...」との記載より、引用刊行物1に記載された発明は、工作機械により加工されたワークの形状寸法測定方法であって、特に、測定子を有した測定ヘッドを主軸に装着してワークの表面の座標値を直接的に三次元で測定する方法である。
そして、そのワークとしては、三次元形状を有した金型であってよく、その曲面を加工されるものが採用され得ることがわかる。

また、「【0019】【発明の実施の形態】...図12は、工作機械の主軸に装着された測定ヘッドが有する測定子(接触式の球状測定フィーラの例を示す)によってワーク等の被測定対象物の測定目標点を測定する際において、主軸軸心と測定子の中心とが不一致のままで測定開始点から測定目標点へ同点に立てた法線方向にアプローチ(接近動作)させた場合の状況を模式的に説明するための略示説明図である。」及び「【0020】さて、一般的に、工作機械、特に、所定のNCプログラムに従って工具交換を遂行しながら加工を実行するNC工作機械によってテーブル上に設置したワークの機械加工を実行する工程の間に、工作機械の主軸に工具に代えて測定子を有した測定ヘッドを装着することにより、テーブル上に設置された状態のままのワークの形状寸法を測定することは、加工現場において通常、実行されている。...」との記載より、前記測定子は球状であり、被測定対象物はNC工作機械によって加工されたワークであって、前記NC工作機械の主軸に前記測定ヘッドを装着することにより、前記NC工作機械のテーブル上に設置された状態のままのワークの形状寸法を測定することがわかる。

そして、「【0026】ここで、図1を参照して、本発明の一実施形態として工作機械Mの主軸9に装着した測定ヘッド10によりワークWの形状寸法を測定する場合を考察する。工作機械Mは、テーブル12上でワークWの機械加工を例えば、図示されていないNC加工プログラムに従って遂行している。故に、工作機械Mは、主軸9をZ軸方向に送り動作させる送りモータを含んだZ軸方向の送り機構Fzと、テーブル12をX軸方向及びY軸方向に送り動作させる夫々の送りモータを含んだX軸方向、Y軸方向の送り機構Fx、Fyとを備えている。...」との記載より、前記NC工作機械は3軸の工作機械であるといえる。

したがって、引用刊行物1には、「被測定対象物が3軸のNC工作機械Mによって三次元形状の曲面の加工をされたワークWであり、前記3軸のNC工作機械Mの主軸に球状の測定子を有する測定ヘッドを装着して、前記3軸のNC工作機械Mのテーブル上に設置された状態のままの前記ワークWの形状寸法を測定する形状寸法測定方法」が記載されている。


(b)「【0019】【発明の実施の形態】以下、本発明を添付図面に示す実施形態に基づいて詳細に説明する。...図5は、既知の半径寸法を有した基準校正球を校正手段に用いて、例えば、工作機械のテーブル上に設置し、主軸に装着した測定ヘッドの測定子が有する押代を検出する工程を説明するための略示説明図、...」及び「【0042】次に、図3の測定工程S5、S6に示す測定ヘッド10の測定子11の法線方向毎に異なる押代PLを校正手段を用いて求め、押代データテーブルを作成する方法の一実施形態を説明する。まず、図5に示す既知半径Rを有した校正球72を校正手段として用いることにより、測定ヘッド10の測定子11の押代PLnを求める原理を説明する。【0043】すなわち、例えば工作機械Mのテーブル12上に校正球72を設置し、この校正球72の球半径を測定ヘッド10の測定子11によって実測することにより、測定子11の押代PLnを求めるものである。この場合には、先ず、予め周知のインジケータ装置を工作機械Mの主軸9に装着して校正球72の表面にインジケータ装置を当接させて同一振れ目盛りを示す少なくとも4点位置の三次元座標値を読み取ることにより、校正球72の中心位置を求める。」との記載より、前記3軸のNC工作機械Mのテーブル12上に既知の半径寸法を有する校正球72を設置することが読み取れる。

また、「【0044】次いで、工作機械Mの主軸9に測定ヘッド10を装着し、その測定子11によって校正球72の求めた中心位置と球面上の任意の4測定点とを結ぶ直線、つまり各測定点に立てた法線方向を求める。その後、測定子11を、3軸方向への送りり手段、例えば、工作機械MのX,Y,Z方向の送り機構Fx、Fy、Fzの送り駆動によって校正球72の表面の目標とする測定点に関する測定開始点へ、図2に示したワークWの測定工程の場合と同様にして位置決めする。すなわち、この測定開始点への位置決めには、既に求めた測定子11の偏心量(ΔX,ΔY)、偏差量(ΔZ)を勘案して測定子11の中心位置が接近動作のための法線上に来るように位置決めする。次に、校正球72の4つの測定点の位置へそれぞれの法線方向から接近動作させて測定子11による接触に応じて測定信号が測定ヘッド10から発せられる都度、測定信号検出部21(図1参照)で検出し、そのとき、位置検出部19において校正球72上の4測定点の三次元座標値を検出する。これらの4つの測定点の座標値から定義される球面の半径Rsを演算する。そしてこの演算結果から得られた実測値としての校正球72の半径Rsと、測定子11の半径rと既知の半径値Rとの間には押代PLnが介在するので、
PLn=(R+r)-(Rs) ・・・・(7)
の式(7)から測定子11の法線方向に対応した押代PLnを求めることができるのである。」及び「【0045】さて、上述した測定ヘッド10の測定子11の押代PLnは、既述のように、その測定時における接近動作方向、つまり、種々の測定点に対する法線方向が異なる毎に、一般的には異なった押代を呈する。このため、本発明は、予め測定子11の押代が法線方向により異なることを考慮して、図6に略示するように、校正球72の球面の複数の選定した校正点にそれぞれの法線方向から接近動作させることにより、上記式(7)により演算される押代PLnを複数個求め、しかもこれらの複数個の押代PL1,PL2,・・・PLn・・PL1m,PL2m・・・PL4m・・・と、校正球面における各点の位置を一義的に定める緯度φ、経度θと対応させて押代データテーブルを作成する。図6には、この押代データテーブルも図示されている。ここで、校正球面における各点の位置に対応して1つの法線方向が定まるので、押代データテーブルの緯度φ、経度θで示す位置は、1つの法線方向に対応していることは言うまでもない。故に、図6に図示の押代データテーブルは、測定子11の種々の法線方向に対応した押代を示すものと理解することができる点に注目を要する。」との記載より、校正球72の中心位置と球面上の4つの点に基づいて、それぞれ点からの法線方向を求めること、工作機械MのX,Y,Z方向の送り駆動によって、前記測定ヘッド10の前記測定子11の中心位置が接近動作のための法線上に来るように位置決めをすること、法線方向から接近動作させて測定子11による接触に応じて測定信号が測定ヘッド10から発せられて校正球72上の各測定点の三次元座標値を検出すること、実測値としての各測定点の三次元座標から演算された校正球72の半径Rs及び測定子11の半径rと、校正球72の既知の半径値Rとの差(PLn=(R+r)-(Rs))を求めることによって各法線方向に対応した押代PLnとすること、及びこの押代PLnを複数個求めることが、それぞれ読み取れる。

したがって、引用刊行物1には、「前記3軸のNC工作機械Mのテーブル12上に既知の半径寸法を有する校正球72を設置し、校正球72の中心位置と球面上の4つの点に基づいて、それぞれ点からの法線方向を求め、前記3軸のNC工作機械MのX,Y,Z方向の送り駆動によって、前記測定ヘッド10の前記測定子11の中心位置が接近動作のための法線上に来るように位置決めをし、法線方向から接近動作させて測定子11による接触に応じて測定信号が測定ヘッド10から発せられて校正球72上の各測定点の三次元座標値を検出し、実測値としての各測定点の三次元座標から演算された校正球72の半径Rs及び測定子11の半径rと、校正球72の既知の半径値Rとの差(PLn=(R+r)-(Rs))を求めることによって各法線方向に対応した押代PLnとし、この押代PLnを複数個求め」ることが記載されている。


(c)「【0039】...ワークWの被測定面上における複数の測定目標点P1?Pnの各測定点P1・・・Pnに就いて各個別に三次元座標値の検出と補正とを行い、これを複数回、繰り返すように測定過程が実行される...【0040】...各測定目標点P1?Pnの接近動作を遂行する場合の法線方向は予め測定プログラムMRPの作成段階で、ワークWの設計加工される形状データから法線方向を決定し、そのベクトル(l,m,n)をプログラム内に入力しておくようにしても良く、...」との記載より、前記ワークWの被測定面上の座標位置を測定目標点として、その測定目標点における法線方向を前記ワークWの形状データより決定していることが読み取れる。

また、「【0033】図2において、測定ヘッド10が装着された主軸9が任意の位置(a)からワークWの測定目標点Pの測定を開始するときには、まず、上記の任意位置(a)から測定開始点(b)へ移動、位置決めされる。この測定開始点(b)への位置決めは測定プログラムMRPにより指定される測定開始点Pに対して測定子11の偏心、偏差を考慮して、当該測定子11の中心位置が測定目標点Pに対する適正な測定開始点に位置するように補正動作を加えた位置決めが行われる。【0034】次いで、測定開始点(b)から当該測定目標点Pに関する法線方向(三次元座標系における法線ベクトルを(l,m,n)とする)に沿って通過点(c)を経由して接近動作を行う。この接近動作は勿論、工作機械Mの各送り軸方向における送り機構Fx、Fy、Fzを含めた3軸送り機構の軸移動により主軸9とワークWとの間の相対移動によって遂行されることは言うまでもない。【0035】やがて、測定子11がワークWにおける測定目標点Pを接触式に又は非接触式に検出する位置、つまり接触式では幾何学的に測定目標点Pに接触する位置であり、非接触式では、理論的にうず電流または静電容量等の変化が開始する位置に相当する検出位置(d)に達する。この検出位置(d)から測定子11は更にその押代相当分だけ押し込まれた位置(e)に達すると、測定信号、所謂、スキップ信号が測定ヘッド10から発せられる。このような測定信号は図1に示す測定信号検出部21で検出され、この測定信号に応じて、位置検出部19は各送り機構Fx、Fy、Fzに関連したスケールやエンコーダ等の位置検出装置から測定目標点Pの座標値(x,y,z)を検出するものである。【0036】...上述により検出された点Pの座標値には...押代も混入している。依って、本発明はこれらの偏心、偏差量および押代の補正を行って、主軸9の軸心を基準とした正しい測定目標点Pの三次元座標値(Hx,Hy,Hz)を求めるのである。」(当審注:段落【0033】において、「測定開始点P」は「測定開始点(b)」の誤記であると認められるので、以下、この誤記を修正して記載する。)との記載より、測定子11の中心位置が測定目標点Pに対する適正な測定開始点(b)に位置するように位置決めすること、測定開始点(b)から当該測定目標点Pに関する法線方向に沿って接近動作を行うこと、測定ヘッド10から測定信号が発せられて、測定目標点Pの座標値を検出すること、及びこの座標値に対して押代の補正を行うことが、それぞれ読み取れる。

ここで、「測定開始点(b)から当該測定目標点Pに関する法線方向に沿って接近動作を行う」ことから、前記「測定目標点Pに対する適正な測定開始点(b)」とは、当該測定目標点Pに関する法線方向の点であることは明らかである。
また、測定子11の中心位置の位置決めに際して、上記(b)での検討と同様に、前記3軸のNC工作機械MのX,Y,Z方向の送り駆動によって位置決めされることも明らかである。

したがって、引用刊行物1には、「前記ワークWの被測定面上の座標位置を測定目標点として、その測定目標点における法線方向を前記ワークWの形状データより決定し、前記3軸のNC工作機械MのX,Y,Z方向の送り駆動によって、測定子11の中心位置が測定目標点Pに関する法線方向の適正な測定開始点(b)に位置するように位置決めをし、測定開始点(b)から当該測定目標点Pに関する法線方向に沿って接近動作を行い、測定ヘッド10から測定信号が発せられて、測定目標点Pの座標値を検出し、この座標値に対して押代の補正を行」うことが記載されている。


(d)さらに、「【0031】...更に、押代補正部55が既述の押代データ記憶部43から読み出した押代データテーブルに基づいて測定用押代演算部54が測定目標点Pに対する測定ヘッド10の測定子11が持つ押代PLを演算により求めて上記押代補正部55へ送出することによって押代補正を行い、以て測定目標点Pの正しい三次元座標値を求めて、ワーク形状寸法演算部57へ測定点毎に送出する。すると、同ワーク形状寸法演算部57は、複数の各測定目標点Pの正しい三次元座標値からワークWの形状寸法を演算によって求め、測定を完了し、演算したワークWの形状寸法データを測定結果出力・表示部60を介して装置外部へ出力するようになっている。」との記載より、「測定目標点Pの補正された三次元座標値を測定点毎に送出して、演算したワークWの形状寸法データを測定結果出力・表示部60を介して装置外部へ出力する」ことが読み取れる。


以上のとおりであるから、引用刊行物1には、次の発明が記載されているものと認める。
「被測定対象物が3軸のNC工作機械Mによって三次元形状の曲面の加工をされたワークWであり、前記3軸のNC工作機械Mの主軸に球状の測定子11を有する測定ヘッド10を装着して、前記3軸のNC工作機械Mのテーブル上に設置された状態のままの前記ワークWの形状寸法を測定する形状寸法測定方法において、
前記3軸のNC工作機械Mのテーブル12上に既知の半径寸法を有する校正球72を設置し、校正球72の中心位置と球面上の4つの点に基づいて、それぞれ点からの法線方向を求め、前記3軸のNC工作機械MのX,Y,Z方向の送り駆動によって、前記測定ヘッド10の前記測定子11の中心位置が接近動作のための法線上に来るように位置決めをし、法線方向から接近動作させて測定子11による接触に応じて測定信号が測定ヘッド10から発せられて校正球72上の各測定点の三次元座標値を検出し、実測値としての各測定点の三次元座標から演算された校正球72の半径Rs及び測定子11の半径rと、校正球72の既知の半径値Rとの差(PLn=(R+r)-(Rs))を求めることによって各法線方向に対応した押代PLnとし、この押代PLnを複数個求め
前記ワークWの被測定面上の座標位置を測定目標点として、その測定目標点における法線方向を前記ワークWの形状データより決定し、前記3軸のNC工作機械MのX,Y,Z方向の送り駆動によって、測定子11の中心位置が測定目標点Pに関する法線方向の適正な測定開始点(b)に位置するように位置決めをし、測定開始点(b)から当該測定目標点Pに関する法線方向に沿って接近動作を行い、測定ヘッド10から測定信号が発せられて、測定目標点Pの座標値を検出し、この座標値に対して押代の補正を行い測定目標点Pの補正された三次元座標値を測定点毎に送出して、演算したワークWの形状寸法データを測定結果出力・表示部60を介して装置外部へ出力する
形状寸法測定方法。」(以下、「引用発明」という。)


(4-2-2)引用刊行物2に記載された事項
同じく原査定の拒絶の理由に引用され、本願出願前に頒布された刊行物である特開平3-21813号公報(引用刊行物2)には、「形状計測結果の表示方法」(発明の名称)に関して、以下の事項が図面とともに記載されている。

ア.「すなわちここでは、金型とセンサとの干渉が生じない任意の高さに設定した水平面であるクリアプレーンP上で、センサ32ひいてはそのプローブをそのクリアプレーンPから向かう最初の計測点A_(1)からその法線ベクトル方向へ基本アプローチ量A_(P0)と追加アプローチ量A_(P1)とを加えた距離だけ離れたアプローチ点B_(1)の上方の位置へ図中破線で示すように早送り速度で移動させ、次いで、そのクリアプレーンP上からセンサ32のプローブを図中実線で示すように高速切削送り速度で上記アプローチ点B_(1)へ降下させ、次いでセンサ32のプローブを、計測点A_(1)を通るよう、その法線に沿って通常切削速度(低速)で成形面へ接近させ、その移動の途中で、プローブが成形面50に接触したことを示す信号をセンサ32が出力したら、その接触時のプローブの中心位置をセンサの位置および向きから求めるとともに接触方向をセンサの出力信号から求め、これらからその計測点A_(1)に対応する実際の成形面50の位置を求める。
そして、プローブの接触後は上記成形面50の位置を求める演算と並行して、センサ32を高速切削送り速度で上記と逆方向へ移動させ、プローブが計測点A_(1)から基本アプローチ量A_(P0)の距離まで戻ったら、次にプローブを、次の計測点A_(2)からその法線ベクトル方向へ基本アプローチ量A_(P0)の距離だけ離れたアプローチ点B_(1)へ移動させ、その後計測点A_(2),A_(3),A_(4)に対応する成形面50の位置を計測点A_(1)におけると同様にして計測する。」(第5ページ右下欄第11行?第6ページ左上欄第19行)

イ.「これによって得た各点の計測データを逐次、計測データファイル22に記憶させるとともに、その計測データに対応する計測点の基準データと一緒に誤差量算出部17に入力して、そこで基準データ上の計測点に対する計測データの、その基準データの法線方向での位置誤差量(偏差)を演算させ、その位置誤差量を色相差に変換させた後、第11図に示すように上記入出力端末装置23の画像表示器の、その計測点に対応する位置に、その位置誤差量に応じた色相の点として逐次表示させ、あわせてその画像表示器に、誤差量を示す数値をも表示させる。」(第6ページ右下欄第15行?第7ページ左上欄第6行)

以上の記載事項から、次のような技術事項が読み取れる。
(技術事項1)
「計測点A_(1),A_(2),A_(3),…から、基本アプローチ量A_(P0)又は基本アプローチ量A_(P0)と追加アプローチ量A_(P1)とを加えた距離だけ離れた位置より、該計測点A_(1),A_(2),A_(3),…を通るように、その法線に沿ってプローブを接近させて接触位置を求め、該接触位置(計測データ)の基準データに対する該法線方向の誤差量を演算する」こと。

(技術事項2)
「その位置誤差量を色相差に変換させ、その位置誤差量に応じた色相の点として画像表示器に逐次表示させる」こと。


(4-3)対比
本願補正発明と引用発明とを対比する。
(a)引用発明における、「3軸のNC工作機械M」、「三次元形状の曲面の加工をされたワークW」、「球状の測定子11」及び「測定ヘッド10」は、本願補正発明における、「数値制御式の3軸加工機」、「自由曲面形状を加工された加工物」、「球状あるいは半球状の測定子」及び「タッチプローブ」に、それぞれ相当する。
また、引用発明の「形状寸法測定方法」は、本願補正発明の「自由曲面形状測定方法」に相当する。
してみると、引用発明における「被測定対象物が3軸のNC工作機械Mによって三次元形状の曲面の加工をされたワークWであり、前記3軸のNC工作機械Mの主軸に球状の測定子11を有する測定ヘッド10を装着して、前記3軸のNC工作機械Mのテーブル上に設置された状態のままの前記ワークWの形状寸法を測定する形状寸法測定方法」は、本願補正発明における「被測定物が数値制御式の3軸加工機によって自由曲面形状を加工された加工物であり、前記3軸加工機の主軸に球状あるいは半球状の測定子を有するタッチプローブを取り付けて前記3軸加工機の機上で前記加工物の自由曲面形状を測定する自由曲面形状測定方法」に相当するといえる。

(b)また、引用発明において「前記3軸のNC工作機械Mのテーブル12上に既知の半径寸法を有する校正球72を設置」することは、本願補正発明において「前記3軸加工機のワークテーブルに形状寸法が既知の基準球を固定」することに相当する。

(c)引用発明における「校正球72の中心位置と球面上の4つの点に基づいて、それぞれ点からの法線方向を求め」ることと、本願補正発明における「前記基準球の球面の任意の1点の座標位置を測定点とし、その座標位置における法線ベクトルを示す情報を前記基準球の球面データより取得」することとを対比すると、両者は、「前記基準球の球面の任意の点の座標位置を測定点とし、その座標位置における法線ベクトルを示す情報を前記基準球の球面データより取得」する点で共通する。

(d)引用発明において「前記3軸のNC工作機械MのX,Y,Z方向の送り駆動によって、前記測定ヘッド10の前記測定子11の中心位置が接近動作のための法線上に来るように位置決めを」することと、本願補正発明において「前記タッチプローブを使用し、取得した前記法線ベクトルを示す情報より前記測定点において前記法線ベクトルの方向に所定量オフセットしたオフセット位置を設定し、そのオフセット位置に前記測定子の中心が位置するように前記タッチプローブを軸移動させ」ることとを対比する。
引用発明において、「前記3軸のNC工作機械MのX,Y,Z方向の送り駆動によって、」前記測定ヘッド10の前記測定子11の中心位置の「位置決め」をすることは、本願補正発明において、所定の位置に前記測定子の中心が位置するように前記タッチプローブを「軸移動」させることに相当する。
また、引用発明において「測定ヘッド10」を使用していることは明らかである。
してみると両者は、「前記タッチプローブを使用し、取得した前記法線ベクトルを示す情報より前記測定点において前記法線ベクトルの方向に所定の位置を設定し、その位置に前記測定子の中心が位置するように前記タッチプローブを軸移動させ」る点で共通する。

(e)引用発明において「法線方向から接近動作させて測定子11による接触に応じて測定信号が測定ヘッド10から発せられて校正球72上の各測定点の三次元座標値を検出」することと、本願補正発明において「前記測定子を前記オフセット位置より前記測定点の前記法線ベクトルの方向に移動させて前記測定子を前記基準球の表面に接近接触させ、前記オフセット位置より前記基準球の表面との接触位置までの移動量あるいはそれと等価の数量値を求め」ることとを対比する。
引用発明において「校正球72上の各測定点の三次元座標値を検出」することと、本願補正発明において「前記オフセット位置より前記基準球の表面との接触位置までの移動量あるいはそれと等価の数量値を求め」ることとは、「測定点に対する実測値を求め」る点で共通する。
してみると、両者は、「前記測定子を前記所定の位置より前記測定点の前記法線ベクトルの方向に移動させて前記測定子を前記基準球の表面に接近接触させ、測定点に対する実測値を求め」る点で共通する。

(f)引用発明における「実測値としての各測定点の三次元座標から演算された校正球72の半径Rs及び測定子11の半径rと、校正球72の既知の半径値Rとの差(PLn=(R+r)-(Rs))を求めることによって各法線方向に対応した押代PLnと」することと、本願補正発明における「この移動量あるいはそれと等価の数量値と、前記オフセット位置と前記測定点との間の距離との差を補正値と」することとを対比する。
引用発明における「実測値としての各測定点の三次元座標から演算された校正球72の半径Rs」と、本願補正発明における「この移動量あるいはそれと等価の数量値」とは、「測定点に対する実測値」である点で共通し、引用発明における「測定子11の半径rと、校正球72の既知の半径値R」と、本願補正発明における「前記オフセット位置と前記測定点との間の距離」とは、「基準球に関する既知の値」である点で共通する。
そして、引用発明における「押代PLn」と本願補正発明における「補正値」とは、測定点に対する実測値と基準球に関する既知の値との差を各法線方向毎に求めた値であるから、両者は同一の補正値であって、引用発明における「押代PLn」は、本願補正発明における「補正値」に相当するといえる。
してみると、両者は、「測定点に対する実測値と、前記基準球に関する既知の値との差を補正値と」する点で共通する。

(g)そして、引用発明において「この押代PLnを複数個求め」ることが、本願補正発明において、前記差を補正値とすることを「複数の任意の点に対して繰り返」すことに相当する。

(h)引用発明において「前記ワークWの被測定面上の座標位置を測定目標点として、その測定目標点における法線方向を前記ワークWの形状データより決定」することと、本願補正発明において「前記加工物の自由曲面の任意の座標位置を測定点とし、その座標位置における法線ベクトルを示す情報を前記自由曲面の曲面データより取得」することとを対比する。
引用発明における「測定目標点」及び「ワークWの形状データ」が、本願発明における「測定点」及び「自由曲面の曲面データ」に相当し、また、引用発明における「測定目標点における法線方向」は、本願補正発明における「その座標位置における法線ベクトルを示す情報」に相当することも明らかである。
してみると、引用発明において「前記ワークWの被測定面上の座標位置を測定目標点として、その測定目標点における法線方向を前記ワークの形状データより決定」することは、本願補正発明において「前記加工物の自由曲面の任意の座標位置を測定点とし、その座標位置における法線ベクトルを示す情報を前記自由曲面の曲面データより取得」することに相当する。

(i)引用発明において「前記3軸のNC工作機械MのX,Y,Z方向の送り駆動によって、測定子11の中心位置が測定目標点Pに関する法線方向の適正な測定開始点(b)に位置するように位置決めを」することと、本願補正発明において「前記タッチプローブを使用し、取得した前記自由曲面の法線ベクトルを示す情報より前記自由曲面の測定点において前記自由曲面の法線ベクトルの方向に所定量オフセットしたオフセット位置を設定し、そのオフセット位置に前記測定子の中心が位置するように前記タッチプローブを軸移動させ」ることとを対比する。
上記(d)における検討と同様であって、両者は、「前記タッチプローブを使用し、取得した前記自由曲面の法線ベクトルを示す情報より前記自由曲面の測定点において前記自由曲面の法線ベクトルの方向に所定の位置を設定し、その位置に前記測定子の中心が位置するように前記タッチプローブを軸移動させ」る点で共通する。

(j)引用発明において「測定開始点(b)から当該測定目標点Pに関する法線方向に沿って接近動作を行い、測定ヘッド10から測定信号が発せられて、測定目標点Pの座標値を検出」することと、本願補正発明において「前記測定子を前記自由曲面の測定点に対するオフセット位置より前記自由曲面の測定点の前記法線ベクトルの方向に移動させて前記測定子を前記加工物の表面に接近接触させ、前記自由曲面の測定点に対するオフセット位置より前記加工物の表面との接触位置までの移動量あるいはそれと等価の数量値を求め」ることとを対比する。
上記(e)における検討と同様に、引用発明において「測定目標点Pの座標値を検出」することと、本願補正発明において「前記自由曲面の測定点に対するオフセット位置より前記加工物の表面との接触位置までの移動量あるいはそれと等価の数量値を求め」ることとは、「前記自由曲面の測定点に対する実測値を求め」る点で共通する。
してみると、両者は、「前記測定子を前記所定の位置より前記自由曲面の測定点の前記法線ベクトルの方向に移動させて前記測定子を前記加工物の表面に接近接触させ、前記自由曲面の測定点に対する実測値を求め」る点で共通するといえる。

(k)引用発明において「この座標値に対して押代の補正」を行うことと、本願補正発明において「この移動量あるいはそれと等価の数量値を前記補正値で補正したものと、前記自由曲面の測定点に対するオフセット位置と前記自由曲面の測定点との間の距離との差値を求め」ることとを対比する。
上記(j)の検討事項を参照するに、引用発明における「この座標値」は、前記「測定目標点Pの座標値」であり、本願補正発明における「この移動量あるいはそれと等価の数量値」は、前記「前記自由曲面の測定点に対するオフセット位置より前記加工物の表面との接触位置までの移動量あるいはそれと等価の数量値」であって、これらは「前記自由曲面の測定点に対する実測値」である点で共通するものである。
また、本願補正発明において「この移動量あるいはそれと等価の数量値」と、「前記自由曲面の測定点に対するオフセット位置と前記自由曲面の測定点との間の距離との差値」は、すなわち、「この移動量あるいはそれと等価の数量値」とオフセットの距離である「所定量」(一定値)との差値であるから、この差値も「前記自由曲面の測定点に対する実測値」であるといえる。
してみると、引用発明において「この座標値に対して押代の補正」を行うことと、本願補正発明において「この移動量あるいはそれと等価の数量値を前記補正値で補正したものと、前記自由曲面の測定点に対するオフセット位置と前記自由曲面の測定点との間の距離との差値を求め」ることとは、「前記自由曲面の測定点に対する実測値を前記補正値で補正」するという点で共通する。

(l)引用発明において「測定目標点Pの補正された三次元座標値を測定点毎に送出して、演算したワークWの形状寸法データを測定結果出力・表示部60を介して装置外部へ出力する」ことと、本願補正発明において「この差値と予め設定されている誤差許容値との比較演算を行い、前記差値を段階的に分けた誤差レベルとして数値制御装置に出力することを測定点毎に行う」こととを対比すると、両者は、「前記補正値で補正した測定結果を測定点毎に出力する」点で共通する。

以上のとおりであるから、引用発明と本願補正発明とは、以下の「一致点」で一致するとともに、上記対比の(c)ないし(f)及び(i)ないし(k)に対応する「相違点1」と、上記対比の(l)に対応する「相違点2」とでそれぞれ相違する。

(一致点)
「被測定物が数値制御式の3軸加工機によって自由曲面形状を加工された加工物であり、前記3軸加工機の主軸に球状あるいは半球状の測定子を有するタッチプローブを取り付けて前記3軸加工機の機上で前記加工物の自由曲面形状を測定する自由曲面形状測定方法において、
前記3軸加工機のワークテーブルに形状寸法が既知の基準球を固定し、前記基準球の球面の任意の点の座標位置を測定点とし、その座標位置における法線ベクトルを示す情報を前記基準球の球面データより取得し、前記タッチプローブを使用し、取得した前記法線ベクトルを示す情報より前記測定点において前記法線ベクトルの方向に所定の位置を設定し、その位置に前記測定子の中心が位置するように前記タッチプローブを軸移動させ、前記測定子を前記所定の位置より前記測定点の前記法線ベクトルの方向に移動させて前記測定子を前記基準球の表面に接近接触させ、測定点に対する実測値を求め、この測定点に対する実測値と、前記基準球に関する既知の値との差を補正値とするのを複数の任意の点に対して繰り返した後、
前記加工物の自由曲面の任意の座標位置を測定点とし、その座標位置における法線ベクトルを示す情報を前記自由曲面の曲面データより取得し、前記タッチプローブを使用し、取得した前記自由曲面の法線ベクトルを示す情報より前記自由曲面の測定点において前記自由曲面の法線ベクトルの方向に所定の位置を設定し、その位置に前記測定子の中心が位置するように前記タッチプローブを軸移動させ、前記測定子を前記所定の位置より前記自由曲面の測定点の前記法線ベクトルの方向に移動させて前記測定子を前記加工物の表面に接近接触させ、前記自由曲面の測定点に対する実測値を求め、前記自由曲面の測定点に対する実測値を前記補正値で補正した測定結果を測定点毎に出力する
自由曲面形状測定方法。」

(相違点1)
「タッチプローブを使用」した、加工物の測定及び基準球の測定(キャリブレーション)に関して、本願補正発明と引用発明とでは、その具体的な測定の方法が相違する。
すなわち、加工物の測定に関して、本願補正発明においては、「測定点の位置より法線ベクトルの方向に所定量オフセットした位置から測定を開始し、接触位置までの移動量あるいはそれと等価の数値量を測定し、前記所定量と前記移動量あるいはそれと等価の数値量との差値を求めることによって、各点における法線方向(肉厚方向)の加工誤差を求める」ようにしたものであるのに対して、引用発明においては、「測定点に対する法線上のいずれかの位置から測定点に接近し、接触位置の位置座標を測定して、各測定点の三次元座標値を求める」ようにしたものである点(上記対比の(i)ないし(k)に対応。以下、「相違点1a」という。)で相違するとともに、前記加工物の測定のためのキャリブレーションである基準球を用いた測定に関して、本願補正発明においては、加工物の測定と同様に、「基準球の球面の測定点の位置から法線ベクトルの方向に所定量オフセットした位置から測定を開始し、基準球との接触位置までの移動量あるいはそれと等価の数値量を測定し、前記所定量と前記移動量あるいはそれと等価の数値量との差を補正値とする」ものであるのに対して、引用発明においては、このような補正値の求め方をしていない点(上記対比の(c)ないし(f)に対応。以下、「相違点1b」という。)で相違する。

(相違点2)
前記測定結果を出力する態様として、本願補正発明においては「この差値と予め設定されている誤差許容値との比較演算を行い、前記差値を段階的に分けた誤差レベルとして数値制御装置に出力することを測定点毎に行う」であるのに対して、引用発明においては「測定目標点Pの補正された三次元座標値を測定点毎に送出して、演算したワークWの形状寸法データを測定結果出力・表示部60を介して装置外部へ出力する」点で相違している。
すなわち、本願補正発明においては、「この差値と予め設定されている誤差許容値との比較演算を行い、前記差値を段階的に分けた誤差レベルとして」出力するのに対して、引用発明においては、そのような特定がなされていない点で相違する。
また、その出力先として、本願補正発明においては「数値制御装置に出力する」のに対して、引用発明においては単に「装置外部に出力する」としている点でも相違している。


(4-4)判断
上記相違点について判断する。
(4-4-1)相違点1について
まず、相違点1aについて判断する。
引用刊行物2の技術事項1における「基本アプローチ量A_(P0)」又は「基本アプローチ量A_(P0)と追加アプローチ量A_(P1)とを加えた距離」が、本願補正発明における「所定量」に相当するから、引用刊行物2の技術事項1は、相違点1aにおける、本願補正発明の構成要件である「測定点の位置より法線ベクトルの方向に所定量オフセットした位置から測定を開始し、」「各点における法線方向(肉厚方向)の加工誤差を求める」点に相当する。
そして、引用発明における加工物の測定の方法として、引用刊行物2の技術事項1を採用することは、当業者であれば容易に想到し得ることである。
また、前記誤差を求めるための演算として、既知の位置(測定点の位置座標)と実際の接触位置との差を演算するか、既知の量(所定量のオフセット)と接触位置までの実際の移動量との差を演算するかは、当業者が適宜選択し得る事項である。
特に、引用刊行物2には、所定量オフセットした位置から測定を開始することが記載されているのであるから、この所定量のオフセットと接触位置までの移動量との差を演算するようにすることは、当業者であれば容易に想起し得るものと認められる。
さらに、相違点1bについて判断するに、前記加工物の測定のためのキャリブレーションにおける基準球の測定の方法として、前記加工物の測定と同様の測定の方法を採用することは、当業者であれば容易に想到し得たことである。

(4-4-2)相違点2について
引用刊行物2の技術事項2における、「位置誤差量に応じた色相」は、本願補正発明における「誤差レベル」に対応するものと認められる。
ところで、引用刊行物2においては、該位置誤差量に応じた色相が「段階的に分けた」ものであるとは特定されておらず、また、「誤差許容値との比較演算」も行われていない。
しかしながら、誤差量を表す前記「色相」を、誤差がないことを表す色(例えば、青)から許容範囲内であることを表す色(例えば、黄色)を経て許容範囲外を表す色(例えば、赤)まで、というように段階的に分けることは慣用的な技術であるし、そのような色相を表す場合には、許容範囲内であるか否かの判断をするのであるから、必然的に「誤差許容値」との比較を行うことになるのは自明な事項である。
してみると、引用刊行物2の技術事項2に基づいて、「位置誤差量と誤差許容値との比較演算を行って、該位置誤差量に応じた段階的な色相として出力する」という技術事項を導き出すことは、当業者が適宜なし得る事項であり、また、その出力先として、本願補正発明のように「数値制御装置に出力する」ことも、当業者が適宜なし得る設計的な事項である。
そして、引用発明において、引用刊行物2の技術事項2に基づいて導き出される前記技術事項を採用して本願補正発明における相違点2に係る構成とすることは、当業者であれば容易に想到し得ることである。

また、本願補正発明の作用効果も、引用発明及び引用刊行物2に記載された事項から当業者が予測可能なものである。


(4-5)予備的検討のまとめ
したがって、本願補正発明は、引用発明及び引用刊行物2に記載された技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

よって、本件補正は、仮にその目的が特許請求の範囲の減縮であるとしたとしても、改正前の特許法第17条の2第5項で準用する同法第126条第5項の規定に違反するものであるから、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により、やはり却下すべきものであるといわざるを得ない。


3.本願発明について
本件補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1及び2に係る発明は、補正1によって補正された明細書及び図面の記載からみて、補正1によって補正された特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、その請求項1に係る発明は次のとおりである。

「被測定物が数値制御式の3軸加工機によって自由曲面形状を加工された加工物であり、前記3軸加工機の主軸に球状あるいは半球状の測定子を有するタッチプローブを取り付けて前記3軸加工機の機上で前記加工物の自由曲面形状を測定する自由曲面形状測定方法において、
前記加工物の自由曲面の任意の座標位置を測定点とし、その座標位置における法線ベクトルを示す情報を前記自由曲面の曲面データより取得し、前記タッチプローブを使用し、取得した前記法線ベクトルを示す情報より前記測定点において前記法線ベクトルの方向に所定量オフセットしたオフセット位置を設定し、そのオフセット位置に前記測定子の中心が位置するように前記タッチプローブを軸移動させ、前記測定子を前記オフセット位置より前記測定点の前記法線ベクトルの方向に移動させて前記測定子を前記加工物の表面に接近接触させ、前記オフセット位置より前記加工物の表面との接触位置までの移動量あるいはそれと等価の数量値を求め、この移動量あるいはそれと等価の数量値と、前記オフセット位置と前記測定点との間の距離との差値を求め、この差値と予め設定されている誤差許容値との比較演算を行い、前記差値を段階的に分けた誤差レベルとして数値制御装置に出力することを測定点毎に行う、
ことを特徴とする自由曲面形状測定方法。」(以下、「本願発明」という。)


4.引用刊行物・引用発明
原査定の拒絶の理由に引用された引用刊行物1の記載事項及び引用発明並びに引用刊行物2の記載事項は、前記「2.(4)」の「(4-2)引用刊行物に記載された事項及び引用発明」に記載したとおりである。


5.対比・判断
本願発明は、本願補正発明における「前記3軸加工機のワークテーブルに形状寸法が既知の基準球を固定し、前記基準球の球面の任意の1点の座標位置を測定点とし、その座標位置における法線ベクトルを示す情報を前記基準球の球面データより取得し、前記タッチプローブを使用し、取得した前記法線ベクトルを示す情報より前記測定点において前記法線ベクトルの方向に所定量オフセットしたオフセット位置を設定し、そのオフセット位置に前記測定子の中心が位置するように前記タッチプローブを軸移動させ、前記測定子を前記オフセット位置より前記測定点の前記法線ベクトルの方向に移動させて前記測定子を前記基準球の表面に接近接触させ、前記オフセット位置より前記基準球の表面との接触位置までの移動量あるいはそれと等価の数量値を求め、この移動量あるいはそれと等価の数量値と、前記オフセット位置と前記測定点との間の距離との差を補正値とするのを複数の任意の点に対して繰り返した後、」という発明特定事項を削除するとともに、本願補正発明における「この移動量あるいはそれと等価の数量値を前記補正値で補正したものと」との記載を「この移動量あるいはそれと等価の数量値と」として「補正値で補正」するという限定を削除し、また、本願補正発明における「前記自由曲面の法線ベクトル」、「前記自由曲面の測定点」及び「前記自由曲面の測定点に対するオフセット位置」を、それぞれ「前記法線ベクトル」、「前記測定点」及び「前記オフセット位置」に変更したものである。そして、これら変更は、表現が変わったにすぎず、意味的技術内容は同じである。
そうすると、本願発明の発明特定事項をすべて含んで、その発明特定事項を限定し、さらに他の発明特定事項を追加したものに相当する本願補正発明が、前記「2.(4)予備的検討」の「(4-3)対比」及び「(4-4)判断」に記載したとおり、引用発明及び引用刊行物2に記載された技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も同様の理由により、引用発明及び引用刊行物2に記載された技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。


6.審判請求人の主張についての検討
(1)審判請求書における主張について
審判請求人は、審判請求書において、「(4-2)本願発明と引用文献との相違点」として、引用刊行物1及び引用刊行物2には、本願補正発明のように、「全ての自由曲面の測定値を、基準球の任意の1点を測定した補正値で補正する」ことを開示または示唆する記載がない旨主張している。
ここで、本願補正発明は「全ての自由曲面の測定値を、基準球の任意の1点を測定した補正値で補正する」ものであるとの主張を、この文言どおりに解釈すると、「全ての(様々な法線方向を持つ)自由曲面の(測定点における)測定値を、基準球の任意の1点について(1つの法線方向から)測定した補正値で補正する」こととなり、技術的意義が不明な主張となっている。
一方、当該主張を、審判請求書の「(2-1)特許請求の範囲の補正について」における「請求項1は、出願当初明細書の段落〔0013〕における『自由曲面形状の各測定点について法線ベクトル方向からの移動量を得る』こと、段落〔0017〕および段落〔0018〕における『その移動量を補正するために基準球の球面における任意の1点に対して法線ベクトル方向からタッチプローブを移動させる』ことにより、『基準球を利用しての補正値は、被測定物の測定点を測定するのと同じ法線ベクトル方向から測定することにより得る』ことは明白である」との記載に基づいて解釈すると、本願補正発明は、「全ての(様々な法線方向を持つ)自由曲面の(測定点における)測定値を、(該測定点における法線方向を持つ)基準球の任意の1点を測定した補正値で補正する」もの、すなわち、自由曲面の全ての測定点の法線方向に対応して、各法線方向と同じ法線方向から基準球を測定した補正値で補正可能とするものであるとの主張であると解釈できる。
しかしながら、この主張のような、自由曲面の全ての測定点の法線方向に対応した補正値を基準球の測定によって取得しておく発明は、本件補正後の請求項1にも、本願の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面にも記載されていないから、当該主張は採用できない。

(2)回答書における主張について
審判請求人は、回答書においても、審判請求書の前記主張と同様の主張を行っているが、前記と同様の理由によって、回答書における主張も採用できない。


7.むすび
以上のとおり、本願発明は、引用刊行物1に記載された発明及び引用刊行物2に記載された技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について審理するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-06-14 
結審通知日 2012-06-19 
審決日 2012-07-03 
出願番号 特願2001-64431(P2001-64431)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G01B)
P 1 8・ 57- Z (G01B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 ▲うし▼田 真悟  
特許庁審判長 飯野 茂
特許庁審判官 ▲高▼木 真顕
小林 紀史
発明の名称 自由曲面形状測定方法  
代理人 三好 秀和  

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