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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 F15B
審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 特許、登録しない。 F15B
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F15B
管理番号 1262439
審判番号 不服2011-6557  
総通号数 154 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-10-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-03-28 
確定日 2012-08-30 
事件の表示 特願2006-539491「動力システム及び動力システムを使用する作業機械」拒絶査定不服審判事件〔平成17年 6月 9日国際公開、WO2005/052385、平成19年 6月21日国内公表、特表2007-516393〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、2004年10月4日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2003年11月14日、米国)を国際出願日とする出願であって、平成22年3月4日付で拒絶の理由が通知され(発送日:平成22年3月9日)、これに対し、平成22年7月6日付で意見書及び手続補正書が提出されたが、平成22年11月18日付で拒絶査定がなされ(発送日:平成22年11月26日)、これに対し、平成23年3月28日に拒絶査定不服審判の請求がなされると共に手続補正書が提出されたものである。


2.平成23年3月28日付の手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成23年3月28日付の手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。

[理由I]
(1)補正の内容
本件補正前の特許請求の範囲は、以下のとおりである。
「【請求項1】
油圧ポンプ(22)に動力を供給するよう動作可能な電気モータ(21)と、
油圧ポンプ(22)に流体接続されており、かつ移動可能なプランジャ(19)を介して互いに分離された第1の流体の容積(23)及び第2の流体の容積(24)を規定する、少なくとも1つの油圧シリンダ(15)と、
油圧シリンダ(15)によって規定された少なくとも第1の流体の容積(23)にスロットルバルブを介さずに流体接続されており、かつ発電機(37)に動力を供給するよう動作可能な、可変容量形油圧モータ(35)と、
発電機(37)を電気モータ(21)に動作可能に連結する動力貯蔵システム(38)と
を有する動力システム(14)。」

これに対し、本件補正により、特許請求の範囲は、以下のように補正された。
「【請求項1】
油圧ポンプ(22)に動力を供給するよう動作可能な電気モータ(21)と、
油圧ポンプ(22)に第1ライン(47a、25)および第2ライン(47b、25)によって流体接続されており、かつ移動可能なプランジャ(19)を介して互いに分離された第1の流体の容積(23)及び第2の流体の容積(24)を規定する、少なくとも1つの油圧シリンダ(15)と、
油圧シリンダ(15)によって規定された少なくとも第1の流体の容積(23)にスロットルバルブを含まない、前記第1ラインの一部および該第1ラインからの分岐ラインによって流体接続されており、かつ発電機(37)に動力を供給するよう動作可能な、可変容量形油圧モータ(35)と、
発電機(37)を電気モータ(21)に動作可能に連結する動力貯蔵システム(38)と
を有し、
前記第1ラインは、第1のバルブ(28)を含み、前記第2ラインは第2のバルブ(29)を含む分岐ラインであって液体タンク(34)に至る分岐ライン(46)を有し、前記第1のバルブ(28)の開閉を制御して前記第1の流体の容積(注:「第1の容積」は誤記と認める。)(23)から前記第2の流体の容積(注:「第2の容積」は誤記と認める。)(24)へ流れる流体の量を制御し、前記第2のバルブ(29)の開閉を制御して前記第1の流体の容積(注:「第1の容積」は誤記と認める。)(23)から前記液体タンク(34)へ流れる流体の量を制御する動力システム(14)。」


(2)目的要件について
本件補正が、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項の各号に掲げる事項を目的とするものに該当するかについて検討する。
平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項2号の「特許請求の範囲の減縮」は、第36条第5項の規定により請求項に記載した発明を特定するために必要な事項を限定するものであって、その補正前の当該請求項に記載された発明とその補正後の当該請求項に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるものに限られ、補正前の請求項と補正後の請求項との対応関係が明白であって、かつ、補正後の請求項が補正前の請求項を限定した関係になっていることが明確であることが要請され、補正前の請求項と補正後の請求項とは、一対一又はこれに準ずるような対応関係に立つものでなければならない。
本件補正後の請求項1は、本件補正前の請求項1に対応するものであり、本件補正前の請求項1に係る動力システムは、明示はなくとも、油圧ポンプが第1の流体の容積及び第2の流体の容積を規定する油圧シリンダに流体を供給するのであるから、第1ラインおよび第2ラインを有していたものと認められる。
しかし、本件補正後の請求項1に記載される動力システムは、「第2ラインは第2のバルブ(29)を含む分岐ラインであって液体タンク(34)に至る分岐ライン(46)を有し」ており、「第2のバルブ(29)の開閉を制御して第1の流体の容積(23)から液体タンク(34)へ流れる流体の量を制御」しているのに対し、本件補正前の請求項1に記載される動力システムは、この様な構成を有していない。
これは、本件補正前の請求項1に記載される動力システムは、余りにも多くの流体がバルブ28を横切って第2の流体の容積24へ供給されようとしても第2の流体の容積24の加圧を回避し得なかったものが、本件補正後の請求項1に記載される動力システムは、余りにも多くの流体がバルブ28を横切って第2の流体の容積24へ供給されようとしても第2のバルブ29の開閉を制御して第2の流体の容積24の加圧を回避し得るという新たな課題が解決しているから、その補正前の当該請求項に記載された発明とその補正後の当該請求項に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一である「特許請求の範囲の減縮」に該当しない。
また、本件補正が、請求項の削除、誤記の訂正及び明りょうでない記載の釈明を目的としたものでないことも明らかである。


(3)むすび
したがって、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項の規定に違反するものであるから、特許法第159条第1項の規定において読み替えて準用する特許法第53条第1項の規定により却下すべきものである。


[理由II]
上記のとおり、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項の各号に掲げるいずれの事項を目的とするものにも該当しないが、仮に本件補正が、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当するとして、本件補正後の前記請求項1に係る発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する特許法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。

(1)引用例
原査定の拒絶の理由に引用された特開2002-195218号公報(以下、「引用例1」という。)には、図面と共に以下の事項が記載されている。

1-a「液圧ポンプからの加圧液体を液圧シリンダに導入して該液圧シリンダを伸縮させることにより作業を行う建設機械において、前記液圧シリンダに導入された加圧液体のエネルギを再生するためのエネルギ再生装置であって、
動力源として、液圧ポンプを駆動するための電動機と、該電動機に電力を供給する燃料電池とを設け、
前記液圧シリンダの収縮動作時に該液圧シリンダから排出される液体の回路内に、該排出液体のエネルギにより電力を生成する再生電力発生手段を配置し、
前記再生電力発生手段により生成した電力により電気分解槽内の水を電気分解して、水素と酸素とを発生させ、発生した水素と酸素を前記燃料電池に使用することを特徴とする建設機械におけるエネルギー再生装置。」(【請求項1】)

1-b「請求項1に記載した建設機械におけるエネルギ再生装置であって、
前記再生電力発生手段は、前記排出液体の流れにより回転駆動されるタービンと、該タービンにより駆動される発電機とから構成されることを特徴とする建設機械におけるエネルギ再生装置。」(【請求項2】)

1-c「請求項1又は2に記載した建設機械におけるエネルギ再生装置であって、
水素吸蔵合金を含む水素蓄積装置が設けられ、電気分解により発生した水素を一旦、前記水素蓄積装置内の水素吸蔵合金に吸収させて蓄積することを特徴とする建設機械におけるエネルギ再生装置。」(【請求項3】)

1-d「図3により、そのような従来のエネルギ再生装置について説明する。該エネルギ再生装置1は、片ロッド型の油圧シリンダ2に油を圧送する油圧ポンプ3と、該油圧ポンプ3の駆動源であるディーゼルエンジン4とを備えている。前記油圧シリンダ2は、内部をロッド室5とヘッド室6とに分割するピストン7と、該ピストン7の片面に同心に固着された丸棒状のロッド8とを備え、操作レバー(図示せず)を操作することにより、重量負荷Wに抗する方向に伸長する状態、重量負荷の作用方向に収縮する状態、及び中立(停止)状態に制御されるようになっている。前記油圧シリンダ2と前記油圧ポンプ3の間には、油圧制御回路9が設けられており、該油圧制御回路9は、前記油圧ポンプ3の吐出側に接続された吐出管10と、該吐出管10の下流側に接続された流量制御弁回路11と、該流量制御弁回路11と前記ロッド室5、ヘッド室6とをそれぞれ接続するロッド室接続管12、ヘッド室接続管13を備えている。」(【0003】)

1-e「前記流量制御弁回路11は第1配管18、第2配管19、第3配管20、第4配管21により菱形環状に形成されている。前記第1配管18と前記第2配管19の接続部22には前記吐出管10、前記第1配管18と前記第3配管20の接続部23には前記ロッド室接続管12、前記第2配管19と前記第4配管21の接続部24には前記ヘッド室接続管13がそれぞれ接続され、前記第3配管20と前記第4配管21の接続部25には排出管26が接続され、該排出管26の末端部は前記油タンク14に接続されている。そして、前記第1配管18、前記第2配管19にはそれぞれ第1メータインバルブ27、第2メータインバルブ28が設けられ、前記第3配管20、前記第4配管21にはそれぞれ第1メータアウトバルブ29、第2メータアウトバルブ30が設けられている。」(【0005】)

1-f「また、前記油圧シリンダ2が収縮状態となるように前記操作レバーを操作すると、前記第1メータインバルブ27、第2メータインバルブ28、第2メータアウトバルブ30が開放されるが、前記第1メータアウトバルブ29は閉止状態を保つ。これに伴い、前記重量負荷Wの作用により高圧状態となった前記ヘッド室6内の油は、前記ヘッド室接続管13を流通した後、前記第2配管19と前記第4配管21との接続部24において、前記第2配管19側と前記第4配管21側の2方向に分流する。そして、前記第2配管19側に流入した油は、前記第1配管18と前記第2配管19との接続部22において、前記油圧ポンプ3より圧送された油と合流し、エネルギの再生が行われた後、前記第1配管18、ロッド室接続管12を通って前記ロッド室5に流入する。一方、前記第4配管21側に流入した油は、前記第2メータアウトバルブ30により所定流量に制御された後、前記排出管26を通って前記油タンク14に戻される。この結果、前記ピストン7は、重量負荷Wの作用方向、すなわち、収縮方向に摺動する。」(【0007】)

1-g「さらに、前記油圧シリンダ2が停止状態となるように前記操作レバーを操作すると、前記第1メータインバルブ27、第2メータインバルブ28、第1メータアウトバルブ29、第2メータアウトバルブ30がそれぞれ閉鎖された状態で」(【0008】)

1-h「以下、図面を参照しつつ本発明の実施の形態を説明する。なお、図3に示した従来技術の構成と同等のものについては、図面上、同符号を付し、それらに関する詳細な説明は省略する。
図1は本発明の実施の形態に係るエネルギ再生装置41を示しており、該エネルギ再生装置41は、油圧ポンプ3と、該油圧ポンプ3の駆動源である電動機42と、該電動機42に給電する燃料電池装置43とを備えている。そして、該燃料電池装置43は、水を電気分解する電気分解槽44と、該電気分解槽44で発生した水素を吸収する水素吸蔵合金を含む水素蓄積装置45と、燃料電池46とから概略構成されている。
前記電気分解槽44には、前記燃料電池46で発生した水を前記電気分解槽44へ戻すための排水戻し管47が接続されると共に、前記電気分解槽44に給電するための再生電力発生装置48が接続されている。該再生電力発生装置48は、第4配管21の第2メータアウトバルブ30の下流側に設けられたタービン49と、該タービン49により駆動される発電機50と、該発電機50と前記電気分解槽44とを接続する電路51とから成っている。」(【0016】-【0018】)

1-i「なお、上記実施の形態においては、タービン49を使用しているが、油圧ギアモータ等の容積型モータを使用してもよい。」(【0026】)

上記記載及び図面を参照すると、移動可能なロッドを介して互いに分離されたロッド室及びヘッド室を規定する、少なくとも1つの油圧シリンダが示されている。

上記記載事項からみて、引用例1には、
「油圧ポンプの駆動源である電動機と、
油圧ポンプにヘッド室接続管・第2配管・吐出管およびロッド室接続管・第1配管・吐出管によって接続されており、かつ移動可能なロッドを介して互いに分離されたヘッド室及びロッド室を規定する、少なくとも1つの油圧シリンダと、
油圧シリンダによって規定された少なくともヘッド室に第2メータアウトバルブを含んで、ヘッド室接続管および第4配管によって接続されており、かつ発電機を駆動する、容積型モータと、
発電機を電気分解槽と接続し、該電気分解槽で発生した水素を吸収する水素蓄積装置と、該水素が供給される燃料電池と、電動機に給電する燃料電池からなる燃料電池装置と
を有し、
前記ヘッド室接続管・第2配管・吐出管は、第2メータインバルブを含み、前記ロッド室接続管・第1配管・吐出管は第1メータアウトバルブを含む第3配管・排出管であって油タンクに至る第3配管・排出管を有し、第2メータインバルブを開放または閉鎖して前記ヘッド室から前記ロッド室へ流入する油の流量を制御するエネルギー再生装置。」
との発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。

同じく、原査定の拒絶の理由に引用された特開2003-252588号公報(以下、「引用例2」という。)には、図面と共に、以下の事項が記載されている。

2-a「図6は従来のバッテリーフォークリフトにおける昇降システムの構成図である。同図に示すように、従来のフォークリフトの昇降システムでは、ジョイスティックコントローラ3、システムコントローラ4、荷役モータコントローラ5、バッテリー6、荷役モータ7、油圧ポンプ8、油圧シリンダ10を備え、また、パイロット用リリーフ弁9-1,抵抗弁9-2,リリーフ弁9-3,リフトロックバルブ9-4及び方向制御や流量制御を行う電磁式切換弁9-5などからなるリフトセクションバルブ9なども備えている。」(【0003】)

2-b「上記のように従来のフォークリフト等の荷役機では、電磁式切換弁9-5などの可変絞りにより圧油の流量や圧力を制御することによって荷物の昇降速度を制御しているため、必然的に圧力損失や熱の発生によるエネルギーロスが生じている。なお、このエネルギーロスを軽減するために絞りでの圧力損失を必要最小限に抑える設計が行われてはいるが、それでも上昇時の充分な省エネは達成されておらず、また、降下時にエネルギーをバッテリーに回生するまでには至っていない。」(【0007】)

2-c「図1に示すように、本実施の形態に係るバッテリーフォークリフトの昇降システムでは、昇降の設定操作と昇降速度の設定操作とを行う操作手段としてのジョイスティックコントローラ21、制御手段としてのシステムコントローラ22及び荷役モータコントローラ23、バッテリー24、電動モータ又は発電機として動作する荷役モータ発電機25、油圧ポンプ又は油圧モータとして動作する可変容量式(可変吐出量式)の油圧ポンプモータ27、フォーク28に載置した荷物36を昇降する油圧シリンダ29を備えている。」(【0012】)

2-d「つまり、可変容量式の油圧ポンプモータを用いることで従来の流量制御弁を削除することができるため、この流量制御弁における圧力損失や発熱などが無くなるため、上昇時には省エネとなる。」(【0046】)


(2)対比
そこで、本願補正発明と引用発明とを対比すると、引用発明の「電動機」、「ヘッド室接続管・第2配管・吐出管」、「ロッド室接続管・第1配管・吐出管」、「接続」、「ロッド」、「ヘッド室」、「ロッド室」、「第2メータアウトバルブ」、「ヘッド室接続管および第4配管」、「燃料電池装置」、「第2メータインバルブ」、「第1メータアウトバルブ」、「第3配管・排出管」、「油タンク」、「開放または閉鎖」、「流入する油の流量」、「エネルギー再生装置」は、それぞれ本願補正発明の「電気モータ」、「第1ライン」、「第2ライン」、「流体接続」、「プランジャ」、「第1の流体の容積」、「第2の流体の容積」、「スロットルバルブ」、「第1ラインの一部および該第1ラインからの分岐ライン」、「動力貯蔵システム」、「第1のバルブ」、「第2のバルブ」、「分岐ライン」、「液体タンク」、「開閉を制御」、「流れる流体の量」、「動力システム」に相当する。

その機能をも考慮すると、引用発明の「油圧ポンプの駆動源である電動機」は、本願補正発明の「油圧ポンプに動力を供給するよう動作可能な電気モータ」に相当する。引用発明の燃料電池装置は、発電機で発電した電力を電気分解槽で利用して水素を発生させ、該水素を水素蓄積装置に吸収させ、該水素を燃料電池で利用しているから、発電機と電動機は動作可能に連結しており、したがって、引用発明の「発電機を電気分解槽と接続し、該電気分解槽で発生した水素を吸収する水素蓄積装置と、該水素が供給される燃料電池と、電動機に給電する燃料電池からなる燃料電池装置」は、本願補正発明の「発電機を電気モータに動作可能に連結する動力貯蔵システム」に相当する。

引用発明の「油圧シリンダによって規定された少なくともヘッド室に第2メータアウトバルブを含んでヘッド室接続管および第4配管によって接続されており、かつ発電機を駆動する、容積型モータ」と、本願補正発明の「油圧シリンダによって規定された少なくとも第1の流体の容積にスロットルバルブを含まない、第1ラインの一部および該第1ラインからの分岐ラインによって流体接続されており、かつ発電機に動力を供給するよう動作可能な、可変容量形油圧モータ」は、「油圧シリンダによって規定された少なくとも第1の流体の容積に第1ラインの一部および該第1ラインからの分岐ラインによって流体接続されており、かつ発電機に動力を供給するよう動作可能な、油圧モータ」との概念で共通する。

したがって、両者は、
「油圧ポンプに動力を供給するよう動作可能な電気モータと、
油圧ポンプに第1ラインおよび第2ラインによって流体接続されており、かつ移動可能なプランジャを介して互いに分離された第1の流体の容積及び第2の流体の容積を規定する、少なくとも1つの油圧シリンダと、
油圧シリンダによって規定された少なくとも第1の流体の容積に前記第1ラインの一部および該第1ラインからの分岐ラインによって流体接続されており、かつ発電機に動力を供給するよう動作可能な、油圧モータと、
発電機を電気モータに動作可能に連結する動力貯蔵システムと
を有し、
前記第1ラインは、第1のバルブを含み、前記第2ラインは第2のバルブを含む分岐ラインであって液体タンクに至る分岐ラインを有し、前記第1のバルブの開閉を制御して前記第1の流体の容積から前記第2の流体の容積へ流れる流体の量を制御する動力システム。」
の点で一致し、以下の点で相違している。

〔相違点1〕
油圧モータに関し、本願補正発明は、「第1の流体の容積にスロットルバルブを含まない、第1ラインの一部および該第1ラインからの分岐ラインによって流体接続され」る「可変容量型油圧モータ」であるのに対し、引用発明は、「第1の流体の容積にスロットルバルブを含んで、第1ラインの一部および該第1ラインからの分岐ラインによって流体接続され」る単なる「油圧モータ」である点。
〔相違点2〕
本願補正発明は、第2のバルブの開閉を制御して第1の流体の容積から液体タンクへ流れる流体の量を制御しているのに対し、引用発明は、この様な制御を行っていない点。


(3)判断
相違点1について
上記2-a、2-bにあるように、ラインの流量を制御するために、スロットルバルブ(「電磁式切換弁9-5」が相当)と油圧モータ(「油圧ポンプ8」が相当)を接続すると、スロットルバルブなどの可変絞りにより圧油の流量や圧力を制御することによって荷物の昇降速度を制御しているため、必然的に圧力損失や熱の発生によるエネルギーロスが生じていることは周知の事項である(必要が有れば、特開昭49-56348号公報、第1頁右下欄5-12行参照。)。
また、上記2-c、2-dにあるように、スロットルバルブと油圧モータに代えて可変容量形油圧モータを用いて効率を上げることも周知の事項であり(必要が有れば、特開昭49-56348号公報、第1頁右下欄17行-第2頁左上欄7行参照。)、効率向上は明示が無くとも、装置であれば当然に求められる課題である。
そうであれば、上記周知の課題の下、引用発明においても、スロットルバルブと油圧モータに代えて可変容量形油圧モータを用いて効率向上を図ろうとすることは当業者であれば容易に考えられることと認められる。

相違点2について
引用発明も本願補正発明同様、第2ラインは第2のバルブを含む分岐ラインであって液体タンクに至る分岐ラインを有しており、バルブである以上、当該バルブは開閉制御されるものである。また、バルブをどのタイミングで開閉するかは当業者が適宜選択し得ることと認められ、タンクに接続される流路に設けられたバルブを流路内の圧力が高くなった際開放して、流体をタンクに解放することは流体回路において常套手段であるから、引用発明において、第2のバルブの開閉を制御して第1の流体の容積から液体タンクへ流れる流体の量を制御することは当業者であれば適宜なし得ることと認められる。

そして、本願補正発明の作用効果も、引用発明及び上記周知の事項、常套手段から当業者が予測できる範囲のものである。
したがって、本願補正発明は、引用発明及び上記周知の事項、常套手段に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。


(4)むすび
以上のとおり、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するものであり、特許法第159条第1項で準用する特許法第53条の規定により却下されるべきものである。


3.本願発明について
本件補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下、同項記載の発明を「本願発明」という。)は、上記した平成22年7月6日付手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるとおりのものである。


(1)引用例
原査定の拒絶の理由に引用された引用例1、2及び、その記載事項は、上記「2.[理由II](1)」に記載したとおりである。


(2)対比・判断
本願発明は、実質的に本願補正発明から、流路に関し「第1ラインは、第1のバルブを含み、第2ラインは第2のバルブを含む分岐ラインであって液体タンクに至る分岐ラインを有し、前記第1のバルブの開閉を制御して前記第1の流体の容積から前記第2の流体の容積へ流れる流体の量を制御し、前記第2のバルブの開閉を制御して前記第1の流体の容積から前記液体タンクへ流れる流体の量を制御する」との限定を省いたものである。

そうすると、本願発明の構成要件を全て含み、さらに他の構成要件を付加したものに相当する本願補正発明が、上記「2.[理由II](2)及び(3)」に記載したとおり、引用発明及び上記周知の事項、常套手段に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、引用発明及び上記周知の事項、常套手段に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。


(3)むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明及び上記周知の事項、常套手段に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-03-29 
結審通知日 2012-04-03 
審決日 2012-04-18 
出願番号 特願2006-539491(P2006-539491)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (F15B)
P 1 8・ 572- Z (F15B)
P 1 8・ 121- Z (F15B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 熊谷 健治  
特許庁審判長 堀川 一郎
特許庁審判官 神山 茂樹
槙原 進
発明の名称 動力システム及び動力システムを使用する作業機械  
代理人 特許業務法人 谷・阿部特許事務所  
代理人 特許業務法人 谷・阿部特許事務所  
復代理人 伊藤 勝久  
復代理人 伊藤 勝久  

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