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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B01J |
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管理番号 | 1262579 |
審判番号 | 不服2010-3801 |
総通号数 | 154 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2012-10-26 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2010-02-22 |
確定日 | 2012-09-03 |
事件の表示 | 特願2003-190969「排気ガス中の微粒子状物質を処理するための排気ガス触媒」拒絶査定不服審判事件〔平成17年 1月27日出願公開、特開2005- 21818〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、平成15年7月3日の出願であって、平成20年9月9日付けの拒絶理由通知に対して、平成21年1月13日付けで手続補正がされるとともに意見書が提出され、同年10月16日付けの拒絶査定に対して、平成22年2月22日に拒絶査定不服審判の請求がされるとともに同日付けで手続補正がされ、同年6月25日付けで特許法第163条第2項で準用する同法第50条で規定する拒絶理由の通知(以下、「前置審査における拒絶理由通知」という。)がなされ、これに対して平成23年1月4日付けで意見書が提出され、当審において、同年12月28日付けで同法第164条第3項で規定する報告書を引用した審尋を行ったところ、平成24年4月6日付けで回答書が提出されたものである。 第2 本願発明 本願の発明は、平成22年2月22日付け手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?7に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は次のとおりのものである。 「 【請求項1】 担体と、該担体上に形成された触媒層とを少なくとも備えてなる排気ガス処理触媒であって、 前記触媒層が該層中に空隙を有するものであり、 前記触媒層および/または前記担体が、排気ガス中の微粒子状物質を捕足可能とされてなるものである、 前記触媒層における空隙を構成する空孔の平均孔径が、0.2μm以上30μm以下である、排気ガス処理触媒。」 (審決注 上記「補足」は「捕捉」の誤記と認められるので、以下において該当する「補足」との記載は、「捕捉」に改める。) 第3 前置審査における拒絶理由通知の概要 平成22年6月25日付けの前置審査における拒絶理由通知の1つは、本願発明は、その出願前に日本国内又は外国において頒布された以下の刊行物に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないというものである。 <引用刊行物> 刊行物 特開平9-158710号公報 第4 刊行物の記載事項 上記刊行物には、以下の記載がある。 (a) 「【0001】 【発明の属する技術分野】本発明は、ディーゼルエンジン等の内燃機関から排出されるガスに含まれている物質のうち少なくともパティキュレートを除去し、排気ガスを浄化するために用いられるパティキューレート捕集用のフィルタに関する。」 (b) 「【0007】 【課題を解決するための手段】本発明の第1の態様は・・・多孔質セラミックハニカム構造体の・・・セル壁中の細孔を通過してガスが流通するようになっているハニカム型フィルタであって、セル側壁の表面及びセル側壁の細孔内部に高比表面積材料粒子(以下単に「高比表面積材料」という)を含むコーティング材料が付着している構造体、を有する・・・ディーゼル排ガス浄化フィルタである。」 (c) 「【0010】前記高比表面積材料を前記多孔質セラミックハニカム構造体のセル側壁の表面及びセル側壁の細孔内部に高比表面積材料を含むコーティング材料を付着させるには、前記多孔質セラミックハニカム構造体を高比表面積材料を含むコーティング材料及び好ましくは可燃性焼失物質を含むコーティングスラリーでコーティングし、その後好ましくは余分なスラリーを除去し、そして焼成すればよい。 ・・・ 【0014】前記可燃性焼失物質としてはカーボン・・・等がある。・・・この可燃性焼失物質の平均粒径は3μm以上とすることが好ましい。・・・ 【0015】可燃性焼失物質を使用する目的は、セル側壁表面のコーティング層を多孔質化させること・・・である。」 (d) 「【0018】・・・本発明のフィルタは、少なくとも一種類の白金族元素からなる金属触媒を担持してあるフィルタである。 ・・・ 【0020】・・・パティキュレートはセル壁表面および内部の細孔で捕集される。白金族触媒金属は・・・活性アルミナやカーボンと共に混合した溶液でコーティングすることも可能である。 【0021】以上のような材料を用いてコーティングしたフィルタは、低圧損のディーゼルパティキュレートフィルタとして好適に用いることができる。」 (e) 「【0022】 【実施例】 ・・・ 【0023】・・・活性アルミナスラリーを作製し、これに中心粒径5μmのカーボン・・・を活性アルミナの重量を基準に添加割合を変化させたサンプル・・・を6種類作製した。 【0024】前記の多孔質コーディエライトハニカムフィルタを前記カーボン入り活性アルミナスラリーに完全に浸す(ウォッシュコート)。・・・さらにその後、120℃で2時間乾燥し、800℃で焼成し、カーボンを完全に焼失させた。・・・ 【0025】・・・このようにして、触媒担体付きフィルタを作製した ・・・ 【0032】・・・カーボンをフィルタの細孔内部に侵入させると、細孔内部が活性アルミナで埋まることがなく、圧損が低くなる。」 第5 当審の判断 1 刊行物に記載された発明 上記刊行物の(b)には、セル側壁の表面にコーティング材料が付着している構造体を有するディーゼル排ガス浄化フィルタが記載され、(c)には、上記コーティング材料を付着させてなるコーティング層が多孔質であって、当該コーティング層を多孔質化させるために可燃性焼失物質を使用すること、当該可燃性焼失物質の平均粒径が3μm以上であることが記載され、(d)には、上記ディーゼル排ガス浄化フィルタが白金族の金属触媒を担持したものであって、白金族触媒金属はコーティングする溶液に混合され得ることが記載され、また同(d)には、パティキュレートがセル壁表面および内部の細孔で捕集されることが記載されている。 ここで、白金族触媒金属がコーティングする溶液に混合される場合には、当該溶液をコーティングすることによって形成されるコーティング層が白金族触媒金属を含んだものとなるから、以上の記載及び認定を本願発明の記載ぶりに沿って整理すると、上記刊行物には以下の発明が記載されているといえる。 「構造体と、該構造体のセル側壁の表面に付着した白金族触媒金属を含んだコーティング層を有するディーゼル排ガス浄化フィルタであって、 前記白金族触媒金属を含んだコーティング層が多孔質であり、 前記セル壁表面が、パティキュレートを捕集するものである、 前記白金族触媒金属を含んだコーティング層を多孔質化させる可燃性焼失物質の平均粒径が、3μm以上である、ディーゼル排ガス浄化フィルタ。」(以下、「引用発明」という。) 2 本願発明と引用発明との対比 引用発明の「構造体」、「構造体のセル側壁の表面」、「付着」、「白金族触媒金属を含んだコーティング層」、「多孔質」、「パティキュレート」、及び「捕集」は、それらの機能も考慮すれば、それぞれ本願発明の「担体」、「担体上」、「形成」、「触媒層」、「空隙を有する」、「排気ガス中の微粒子状物質」、及び「捕捉」に相当する。 また、引用発明の「ディーゼル排ガス浄化フィルタ」は、白金族触媒金属を含んだコーティング層を有するのであるから、触媒機能を有するものであり、本願発明の「排気ガス処理触媒」に相当する。 また、引用発明の「セル壁表面が、パティキュレートを捕集する」との記載に関して、セル壁表面には白金族触媒金属を含んだコーティング層が付着しているのであるから、かかる記載は、上記の相当関係も考慮すれば、セル壁表面の白金族触媒金属を含んだコーティング層、すなわち触媒層が、パティキュレートを捕集することを意味していることは明らかである。 さらに、引用発明の「白金族触媒金属を含んだコーティング層を多孔質化させる可燃性焼失物質の平均粒径が、3μm以上である」との記載に関して、可燃性焼失物質の平均粒径が、3μm以上であれば、当該可燃性焼失物質が焼失することにより生じる空孔の平均孔径は3μm以上となることが明らかであるから、かかる記載は上記の相当関係も考慮すれば、白金族触媒金属を含んだコーティング層、すなわち触媒層における空隙を構成する空孔の平均孔径が、3μm以上であることを意味するものといえる。 そうすると、両者は、 「担体と、該担体上に形成された触媒層とを少なくとも備えてなる排気ガス処理触媒であって、 前記触媒層が該層中に空隙を有するものであり、 前記触媒層が、排気ガス中の微粒子状物質を捕捉可能とされてなるものである、排気ガス処理触媒。」である点で一致し、次の点で相違する。 相違点 本願発明は、触媒層における空隙を構成する空孔の平均孔径が、0.2μm以上30μm以下であるのに対して、引用発明は、当該空孔の平均孔径が、3μm以上であるものの、その上限について具体的な数値の特定がない点。 3 相違点についての判断 上記刊行物の(e)には、触媒担体付きフィルタを作製した実施例に関して、中心粒径、すなわち平均粒径が5μmのカーボンを可燃性焼失物質として使用した実施例が記載されている。そうであれば引用発明において、平均粒径が3μm以上である可燃性焼失物質として、平均粒径が5μmのそれを採用し、触媒層における空隙を構成する空孔の平均孔径を5μmとすることにより、本願発明で特定される空孔の平均孔径範囲とすることは、当業者が容易になし得るものである。 なお、上記(e)に示された実施例においては、白金族触媒金属をスラリーに添加していないが、当該実施例は、可燃性焼失物質であるカーボンの粒径を変えて、カーボンの粒径変化がもたらす圧力損失への影響を考察したものであり、【0032】に記載されるように、カーボンの粒径がフィルタの細孔内部に侵入できるほどに小さいものであれば、圧力損失が小さくなることを検証したものである。したがって、かかる検証結果は、スラリー中への白金族触媒添加の有無によって左右されるものでないことが容易に推認できるものであるから、白金族触媒が添加されている引用発明においても、可燃性焼失物質の粒径として、白金族触媒が添加されていない上記実施例で例示された5μmという値を採用することに特段の阻害要因を認めることができない。 また、微粒子を取り扱う技術分野においては、上記実施例に記載された中心粒径を平均粒径として扱う考え方がある一方で、両者は別の概念とする考え方もあるが、上記刊行物の(c)には好ましい可燃性焼失物質の粒径が平均粒径として記載されているのであるから、実施例に記載された中心粒径は、上記(c)に記載された好ましい平均粒径を満足することを裏付けるものとして記載されたものと考えるのが自然であって、上記刊行物においては、中心粒径と平均粒径は同義として扱っていると解するのが相当である。また仮にそうでないとしても、上記(c)の記載や実施例の記載、並びに技術常識を踏まえて考えると、上記実施例において中心粒径と平均粒径が極端に乖離する可燃性焼失物質は使用していないと考えるのが妥当であるから、上記相違点に係る想到困難性を是認することはできない。 4 審判請求人の主張について 審判請求人は平成24年4月6日付け回答書の「3.」において、上記刊行物には触媒の形成方法及び形成手段、並びに、触媒層の存在及びその構成、形状等について開示も示唆もされておらず、白金族触媒金属を担体に担持してなる触媒化DPFは開示されていない旨主張している。 しかしながら、当該刊行物の記載内容を摘示した上記(a)、(d)にはディーゼルエンジンから排出されるパティキューレート捕集用のフィルタ、すなわちDPFが、白金族元素からなる金属触媒を担持することが記載され、当該金属触媒の担持方法に関して、上記(d)には活性アルミナやカーボンと共に混合した溶液でコーティングすることが記載されている。また、かかるコーティングにより得られるコーティング層の構成、形状について見ても、上記(c)にはコーティング層が多孔質であることや、多孔質化させるための可燃性焼失物質の粒径が記載されている。 そうすると、上記刊行物には白金族触媒金属を担持した触媒化DPFが開示されているし、その形成方法や形状、構成が記載されているといえるから、上記刊行物の記載内容に関する審判請求人の主張は採用できない。 また、審判請求人は同回答書の「3.」において、本願発明について、基材の上に(図示せず)、担体(好ましくは、空隙を有する)が担持され、その担体に、空隙を有する触媒層が支持されてなるものであって、ウオールフロー基材における排気ガス触媒におけるガス拡散性及び炭素質物質の捕集効率の向上を解決すべき課題としている点で刊行物とは異なる旨主張している。 しかしながら、本願発明には基材に関する特定がないから、本願発明が審判請求人の主張する構造を有していないことは明らかであるし、本願の明細書、及び図面の全ての記載を参酌しても、【0042】に基材の上に触媒層が支持された排ガス触媒が記載されていることが認められるものの、基材の上に担体が担持され、その担体に触媒層が支持された排ガス触媒が記載されているとは認められない。また、本願発明には担体の材質や構造に関して何らの特定もないものであるから、本願発明に係る触媒をウオールフロー型の触媒に限定して解することができないし、本願の明細書、及び図面の全ての記載を参酌しても、本願発明に係る排ガス触媒をウオールフロー型に限定して解釈すべき記載を見いだすこともできない。 したがって、上記本願発明に係る審判請求人の主張も、当を得たものとはいえない。 5 小括 以上のとおりであるから、本願発明は、引用発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。 第6 むすび したがって、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 したがって、請求項2?7に係る発明について検討するまでもなく本願は拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2012-07-10 |
結審通知日 | 2012-07-13 |
審決日 | 2012-07-24 |
出願番号 | 特願2003-190969(P2003-190969) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WZ
(B01J)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 牟田 博一 |
特許庁審判長 |
木村 孔一 |
特許庁審判官 |
斉藤 信人 田中 則充 |
発明の名称 | 排気ガス中の微粒子状物質を処理するための排気ガス触媒 |
代理人 | 勝沼 宏仁 |
代理人 | 伊藤 武泰 |
代理人 | 中村 行孝 |
代理人 | 横田 修孝 |
代理人 | 堅田 健史 |