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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61K
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 A61K
審判 査定不服 特17 条の2 、4 項補正目的 特許、登録しない。 A61K
管理番号 1263765
審判番号 不服2009-23180  
総通号数 155 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-11-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2009-11-26 
確定日 2012-09-27 
事件の表示 特願2006-536987「損傷の少ない、安全なパーマネントウェーブ剤第1剤」拒絶査定不服審判事件〔平成18年10月 5日国際公開、WO2006/103860〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成18年2月28日(優先権主張 平成17年3月28日)を国際出願日とする出願であって、拒絶理由通知に応答し平成21年7月24日付けで手続補正がなされたが、平成21年8月14日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成21年11月26日に拒絶査定不服審判が請求され、その審判の請求と同時に手続補正がなされた(以下、当該手続補正を「平成21年11月26日付けの手続補正」ともいう。)ものであり、その後、前置報告書を用いた審尋に応答し平成23年11月8日受付けの回答書が提出されたものである。

2.平成21年11月26日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成21年11月26日付けの手続補正(以下、「本件補正」ともいう。)を却下する。

[理由]
(1)補正の概略
本件補正は、特許請求の範囲について、
補正前(平成21年7月24日付け手続補正書参照)の
「【請求項1】
N-グアニルシステインを有効成分としてなること、を特徴とする損傷の少ない、安全なパーマネント剤第1剤。
【請求項2】
N-グアニルシステインがD体、L体、DL体の少なくともひとつであること、を特徴とする請求項1に記載のパーマネント剤第1剤。
【請求項3】
有効成分として更にチオグリコール酸塩を併用してなること、を特徴とする請求項1又は2に記載のパーマネント剤第1剤。
【請求項4】
チオグリコール酸塩がチオグリコール酸のアンモニウム塩又はモノエタノールアミン塩であること、を特徴とする請求項3に記載のパーマネント剤第1剤。
【請求項5】
有効成分として更にシステイン類を併用してなること、を特徴とする請求項1又は2に記載のパーマネント剤第1剤。
【請求項6】
システイン類がシステイン、システイン塩酸塩、N-アセチル-システインから選ばれる少なくともひとつであり、且つ、システインはD体、L体、DL体から選ばれる少なくともひとつであること、を特徴とする請求項5に記載のパーマネント剤第1剤。
【請求項7】
請求項1に記載の化合物を添加使用することにより、チオグリコール酸及び/又はシステイン類の欠点を改良して、ウェーブ効果の強い、しかも毛髪の損傷度の低い、安全性の高いパーマネント剤第1剤を製造する方法。
【請求項8】
請求項1に記載の化合物を添加使用することにより、システアミン及び/又はシステアミン塩酸塩の欠点を改良して、ウェーブ効果の強い、しかも毛髪の損傷度の低い、安全性の高いパーマネント第1剤を製造する方法。」から、
補正後の
「【請求項1】
N-グアニルシステインを有効成分とし、その有効性が、同等条件(使用量、pH、接触時間)でパーマネント剤第1剤として使用するチオグリコール酸塩系第1剤とほぼ同等のウェーブ効果で示され、かつ、同等条件で第1剤として使用するシステイン系第1剤と同等の引っ張り強度で示されると共に、システイン系第1剤とほぼ同等の低い毒性を示すことを特徴とするパーマネント剤第1剤。
【請求項2】
パーマネント剤第1剤に用いるシステインをN-アミジノ化してN-グアニルシステインとし、前記システインの特徴である毛髪に対する損傷の少なさを示す引張り強度と安全性を示す低毒性を保持したまま、前記システインよりもウェーブ効果を増強した請求項1に記載のパーマネント剤第1剤。」
とする補正を含むものである。

(2)補正の目的の適否
ここで、本件補正は、特許法第121条第1項の審判[拒絶査定不服審判]を請求する場合において、その審判の請求と同時にされたものであって、同法第17条の2第1項第4号の補正に該当する。そして、そのような補正において特許請求の範囲についてする補正は、平成18年法律第55号による改正前の特許法(以下、単に「改正前の特許法」ともいう。)第17条の2第4項各号(1号?4号)に掲げる事項を目的にするものに限られているので、以下、その目的の適否について検討する。

この補正前後の発明特定事項を対比すると、補正前の請求項7,8は方法の発明であるのに対し、補正後の請求項1,2はパーマネント剤第1剤の物の発明であるので、両者の発明のカテゴリーが異なること、及び、補正前の請求項3?6は更にチオグリコール酸塩またはシステインを併用するものであるのに対し、補正後の請求項1,2はそのような併用を発明特定事項としていないことから、補正後の請求項1,2は、補正前の請求項3?8を適法に(拡張乃至実質的な変更を伴うことなく)補正したものとすることはできない。また、補正前後の請求項2はいずれも請求項1を引用している。
そうすると、この補正によって、補正後の請求項1,2は、順に補正前の請求項1,2を補正したものであり、補正前の請求項3?8は削除されたものと解すべきである(なお、審判請求人も、審判請求理由において同旨主張をしている。)。

そして、補正前の請求項3?8を削除することは、改正前の特許法第17条の2第2項第1号の請求項の削除に該当し、適法といえる。

次に、補正前後の請求項1を対比すると、補正前の請求項1の「損傷の少ない、安全な」との発明特定事項が、補正後の請求項1の「その有効性が、同等条件(使用量、pH、接触時間)でパーマネント剤第1剤として使用するチオグリコール酸塩系第1剤とほぼ同等のウェーブ効果で示され、かつ、同等条件で第1剤として使用するシステイン系第1剤と同等の引っ張り強度で示されると共に、システイン系第1剤とほぼ同等の低い毒性を示すこと」との発明特定事項に補正されたものと理解できる。
この補正について、請求人は、審判請求理由において、新規事項を加えるものではないと主張するだけで、改正前の特許法第17条の2第4項各号に掲げる何れの事項を目的とするのかについて何等説明していないが、補正後の請求項1のこの補正は、明瞭でない記載の釈明(4号)を目的とするものでも、誤記の訂正(3号)や請求項の削除(1号)を目的とするものでもないことは明らかである。
そして、改正前の特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮(いわゆる、限定的減縮)は、『特許請求の範囲の減縮(第三十6条第5項の規定により請求項に記載した発明を特定するために必要な事項を限定するものであつて、その補正前の当該請求項に記載された発明とその補正後の当該請求項に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるものに限る。)』とされている。
そこで、本件補正によって、発明の産業上の利用分野が同一であることは明らかであるので、請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項を限定するものであるか、及び解決しようとする課題が同一であるかについて検討する。
本件補正によって追加された「その有効性が、同等条件(使用量、pH、接触時間)でパーマネント剤第1剤として使用するチオグリコール酸塩系第1剤とほぼ同等のウェーブ効果で示され、かつ、同等条件で第1剤として使用するシステイン系第1剤と同等の引っ張り強度で示されると共に、システイン系第1剤とほぼ同等の低い毒性を示すこと」との事項は、「N-グアニルシステインを有効成分とする、パーマネント剤第1剤」の有効性(即ち、作用効果)を単に明らかにしたものにすぎず、発明を特定するために必要な事項を限定したものではない。
仮に必要な事項を限定したものであるとすると、補正前の「損傷の少ない、安全な」との事項を削除して差し替えたものと言う他なく、そうであれば、減縮したものということはできないし、それらの事項は課題とも言えることから、解決しようとする課題が同一であるとは言えなくなる。
そうすると、補正後の請求項1のこの補正は、いわゆる限定的減縮(2号)であるとは言えない。

よって、本件補正は、改正前の特許法第17条の2第4項各号に掲げる何れの事項を目的とするものでないため、同法第17条の2第4項の規定に違反する。

(3)独立特許要件について
ところで、仮に本件補正が限定的減縮であると解したところで、本件補正後の前記請求項1に係る発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであることが必要である。
そこで、本件補正後の前記請求項1に係る発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。

(3-1)引用例
原査定の拒絶理由に引用された本願優先権主張日前に頒布された刊行物である英国特許第1385092号明細書(以下、「引用例」ともいう。)には、次のような技術事項が記載されている。なお、英文であるため翻訳文で示す。

(1-i)「この発明のグアニジノメルカプトカルボン酸類、特に2-グアニジノ-3-メルカプトカルボン酸は、対応するアミノメルカプトカルボン酸類よりもより高い還元能を持っていて、より容易に、ジスルフィド類を対応するチオール類へ還元する。それゆえ、ヘアーウェイビングや粘液溶解試薬(鼻炎などの充血緩和剤)として使用され得る有力な角膜溶解や粘膜溶解性の活性物質として有用である(They may,therefore,be useful as potent keratolytically or mucolytically active subustances to be employed as hair-waving or mucus-dissolving(decongestant) agents)、というのも、そのような活性物質は、ジスルフィド結合を還元するための試薬の能力に依存するからである。そのチオール基の反応性を増加させることは、グアニジノ酸類を、システイン類やそのようなジスルフィド結合を還元するのにしばしば使用される類似の化合物類より優れたものとする。しかしながら、この発明のグアニジノメルカプトカルボン酸類のいずれもは、そのような化粧料のプロセスに使用されるが、その前に、それらは、好ましくは、適切な媒体と連携して組成物に形成されるべきである。」(第2頁右欄83行?第3頁左欄4行参照)
(1-ii)「実施例1
2-グアニジノ-3-メルカプトプロピオン酸の合成
175.5g(1モル)のシステイン塩酸塩1水和物と84g(1モル)の50%シアナミド溶液を100mlの水と150gの氷に混合した。・・・中略・・・121gの2-グアニジノ-3-メルカプトプロピオン酸を得た(理論収率の74%)。」(第3頁左欄40?59行参照)
(1-iii)「14.2-グアニジノ-3-メルカプトプロピオン酸、及びその誘導体、3,3'-ジチオ-ビス-(2-グアニジノ-プロピオン酸)」(第5頁右欄の請求項14参照)

(3-2)対比、判断
引用例には、上記(3-1)の摘示の技術事項によると、(イ)2-グアニジノ-3-メルカプトカルボン酸は、対応するアミノメルカプトカルボン酸よりも高い還元能を有し、ジスルフィド類を対応するチオール類へ還元すること、及びヘアーウェイビングの化粧料に用いることができる旨記載されていること(摘示(1-i)参照)、そして、該「対応するアミノメルカプトカルボン酸」はシステイン類であることは明らかであり、システイン類はヘアーウェイビング(即ち、パーマネント・ウェーブ)の剤として知られていることに鑑みると、ヘアーウェイビングの化粧料に用いるジスルフィド類を対応するチオール類へ還元するのに有効な成分として2-グアニジノ-3-メルカプトカルボン酸を用いると言えること、更に、(ロ)2-グアニジノ-3-メルカプトカルボン酸の具体例として2-グアニジノ-3-メルカプトプロピオン酸が合成され(摘示(1-ii)参照)、請求項14においても特定されている(摘示(1-iii)参照)ことから、次の発明(以下、「引用発明」ともいう。)が開示されているものと認められる。
(引用発明)
「ヘアーウェイビングの化粧料において、2-グアニジノ-3-メルカプトカルボン酸(特に2-グアニジノ-3-メルカプトプロピオン酸)を、ジスルフィド類を対応するチオール類へ還元するための有効成分とする剤。」

なお、請求人は、平成21年7月24日付け意見書や平成21年11月26日付け審判請求書の請求理由において、引用例における指摘箇所(摘示(1-i)参照)について、「They may,therefore,be useful as potent keratolytically or mucolytically active subustances to be employed as hair-waving or mucus-dissolving(decongestant) agents)」とされているだけで、「即ちヘアーウェーブとして用いて有用かもしれない( may be useful)と記載されています」と主張しているが、ジスルフィド類を対応するチオール類への還元能に優れることを指摘しつつ記載されていることやパーネント・ウェーブの技術常識(例えば、後記の周知図書を参照)を勘案すると、上記のとおり引用発明を理解できるものというべきである。また、請求人は、平成23年11月8日受付けの回答書において、参考資料1として「Arzneimittel-Forschung/Drug Research36(1),Nr.6,918-923,1986」を引用し、「そこには、気管支疾患に由来する去痰作用がN-グアニルシステインがシステイン等よりも効果があるとの記載があり」、その「N-グアニルシステインのS-S結合の切断作用からして、毛髪ケラチンのS-S結合切断にも利用できる(may be used)と推測したのではないかと考えざるを得ません。」と主張するが、該参考資料1は、1986年のものであり、それよりはるか以前の1972年に出願された引用例の発明において勘案できないものであるから、当該請求人の主張は、その前提において誤っており採用できるものではない。

そこで、本願補正発明と引用発明を対比する。
引用例1発明の「2-グアニジノ-3-メルカプトカルボン酸(特に2-グアニジノ-3-メルカプトプロピオン酸)」は、前述のとおり、実施例1や請求項14において、2-グアニジノ-3-メルカプトプロピオン酸が具体的に示されていることから、2-グアニジノ-3-メルカプトプロピオン酸を包含し、意図しているものと認められること、及び2-グアニジノ-3-メルカプトプロピオン酸はその化学構造からみて、本願補正発明の「N-グアニルシステイン」に他ならない(単に、表記が違っているに過ぎない)ことを勘案すると、両発明は、
「N-グアニルシステインを有効成分としてなる、剤。」
の点で一致し、次の相違点A,Bで一応相違する。
<相違点>
A.剤について、本願補正発明では、「パーマネント剤第1剤」と特定されているのに対し、引用発明では、そのような表現では特定されていない点
B.有効性について、本願補正発明では、「その有効性が、同等条件(使用量、pH、接触時間)でパーマネント剤第1剤として使用するチオグリコール酸塩系第1剤とほぼ同等のウェーブ効果で示され、かつ、同等条件で第1剤として使用するシステイン系第1剤と同等の引っ張り強度で示されると共に、システイン系第1剤とほぼ同等の低い毒性を示すこと」と特定されているのに対し、引用発明では、そのような表現では特定されていない点

そこで、これらの一応の相違点について検討する。
(i)相違点Aについて
引用発明の「ヘアーウェイビングの化粧料」は、ジスルフィド類を対応するチオール類へ還元することを伴う化粧料であり、毛髪を波打たせるためのものであることに鑑みると、パーマネント・ウェーブ用剤であることが自ずと明らかと言え、ジスルフィド類をチオール類へ還元する活性物質を用いることから第1剤であることも必然であり明らかと言える(例えば、Fragrance Journal編集部編、「香粧品製造学 技術と実際」、フレグランスジャーナル社、平成13年8月25日、第1版第1刷発行、第326?337頁参照; 以下、当該図書を「周知図書」ともいう。)。
また、引用例に記載された「対応するアミノメルカプトカルボン酸よりも高い還元能を有し」とは、(2-グアニジノ-3-メルカプトカルボン酸、具体的には2-グアニジノ-3-メルカプトプロピオン酸、即ちN-グアニルシステイン)の「対応するアミノメルカプトカルボン酸」が「システイン類」(具体的にはシステイン)に他ならず、システインはパーマネント剤の第1剤(還元剤)であることが知られている(例えば、前記周知図書の第332頁参照)ことからみても、「2-グアニジノ-3-メルカプトカルボン酸(特に2-グアニジノ-3-メルカプトプロピオン酸)」を「パーマネント剤の第1剤」とすることは、自ずと明らかであり、少なくとも示唆されていたというべきである。

よって、「ジスルフィド類を対応するチオール類へ還元する」ために、「2-グアニジノ-3-メルカプトカルボン酸(特に2-グアニジノ-3-メルカプトプロピオン酸)」を有効成分とする「ヘアーウェイビングの化粧料」を、「N-グアニルシステインを有効成分とする」「パーマネント剤第1剤」と言い換えることは、当業者であれば容易になし得たことと言うべきである。
なお、引用例には、ヘアーウェイビングと並んで粘液溶解試薬などの他の用途も開示されているが、そのことによって上記判断が左右される理由はない。

(ii)相違点Bについて
本願補正発明で特定する「その有効性が、同等条件(使用量、pH、接触時間)でパーマネント剤第1剤として使用するチオグリコール酸塩系第1剤とほぼ同等のウェーブ効果で示され、かつ、同等条件で第1剤として使用するシステイン系第1剤と同等の引っ張り強度で示されると共に、システイン系第1剤とほぼ同等の低い毒性を示すこと」は、「N-グアニルシステインを有効成分とする、パーマネント剤第1剤」であれば一般に採用される条件以外の他の格別の条件を特定することなく得られる有効性を、単に記載しているにすぎず、当然に得られる有効性であると言う他なく、実質的な相違点とは言えない。

しかも、以下(イ),(ロ)で検討するように、本願補正発明で特定する前記の有効性は、引用発明においても当然に期待される有効性(作用効果)ともいえ、本願補正発明が格別予想外の作用効果を奏しているとも認められない。
(イ)ウェーブ効果について
パーマネント剤第1剤の役割は、毛髪のケラチンにおいてそのマトリックス中のシスチン結合を還元し、即ち、「-S-S-」結合を「-SH HS-」結合(Sはイオウ原子,Hは水素原子)に還元・軟化させるものであり、次いで物理的変形を加え(一般にはロッドに巻き付ける)、その状態を保持しつつ第2剤(酸化剤)を作用させて、「-S-S-」結合を再形成させ、シスチン結合に戻させて固化し、毛髪の状態を保持することが、パーマ剤の効果発揮の理論として知られている(例えば、上記周知図書第326?327頁参照;なお、当該箇所に記載された古典的効果でもマトリックス効果でも、前記理屈は同じである。)。
「2-グアニジノ-3-メルカプトカルボン酸(特に2-グアニジノ-3-メルカプトプロピオン酸)」(即ち、「N-グアニルシステイン」)が、「対応するアミノメルカプトカルボン酸類よりもより高い還元能を持ってい」て「より容易に、ジスルフィド類を対応するチオール類へ還元する」こと(摘示(1-i)参照)は、「N-グアニルシステイン」が、「対応するアミノメルカプトカルボン酸」(特に2-アミノ-3-メルカプトカルボン酸、即ち、システイン)よりも、ジスルフィド類を対応するチオール類へ還元する能力が高いことを意味すると認められるところ、上記のような技術常識(効果発揮の理論)に当てはめてみれば、しかも、後記(ロ)で摘示するように、システインによるウェーブ効果が低いことも知られていたことも勘案すると、当業者であれば、「N-グアニルシステイン」がシステインよりも優れた「ウェーブ効果」を奏すると、当然に予想するものと認められる。
なるほど、チオグリコール酸塩系第1剤と対比しほぼ同程度かどうかまでは示唆されていないけれども、ウェーブ効果は当業者が当然に確認すべき有効性にすぎず、当業者であれば、容易にその優れた程度を確認し得たものと認められる。
(ロ)引っ張り強度と安全性について
本願明細書段落【0027】において、「毛髪の損傷の度合いは、引っ張り強度を測定すればよい。」と説明されているように、毛髪の損傷の度合いと引っ張り強度は実質同じ技術的意味で用いられていることを念頭において、以下の検討を行う。
パーマ剤第1剤(還元剤)としては、チオグリコール酸塩類とシステイン類が知られているところ、チオグルコール酸塩類は、強い効果を発揮するが毛髪に対する負担が大きいのに対し、システイン類は、還元力が弱いが損傷毛用として知られている。[例えば、上記周知図書第332?335頁や、特開平6-56637号公報段落【0006】?【0007】(チオグリコール酸が不快臭を有する・・・・一方システイン系の第1剤はチオグリコール酸系のものに比べて不快臭や毛髪の損傷が少ないものの、ウェーブ効果が低いという問題があった。)、特開2004-269371号公報段落【0005】(システイン塩類を有効成分とするパーマネントウェーブ用剤は、安全性の面で有意な点が多いが、総じて効力の強い薬剤を調製することが困難であるため、おのずと損傷毛が中心的対象の薬剤となる。)、特開2002-363041号公報段落【0003】(一般的に、第1剤組成物の還元剤としてチオグリコール酸やその塩を主剤とすると、毛髪のウェーブ形成力が高いと言うメリットがある反面、毛髪のダメージが大きく、毛髪の感触も悪くなると言う問題がある。第1剤組成物の還元剤としてシステイン等を主剤とすると、逆に、毛髪のダメージが小さいと言うメリットがある反面、ウェーブ形成力が低いという問題がある。)参照]
即ち、システイン類の方が、チオグリコール酸に比べてウェーブ効果が弱いが、毛髪の損傷が小さく、チオグリコール酸に比べて安全性が高いことが知られていたのであるから、システイン類である「N-グアニルシステイン」が、チオグリコール酸類に比べて毛髪の損傷が小さく(即ち、引っ張り強度の低下が少ない)、安全性が高いことは、予想されることにすぎない。
なるほど、システイン系第1剤と同等との記載はないが、「N-グアニルシステイン」はシステイン系と言えるから、システイン系第1剤と同等であることは明らかである。
仮に、システイン系ではなくシステインそのものの第1剤と同等との意味であるとしても、次の通りである。
すなわち、引っ張り強度比を本願明細書段落【0044】の表4で検討すると、システインに比べて「N-グアニルシステイン」の方がそれなりに劣っていると認められるので、同等とは言い難いし、また、その程度の差異があっても同等であるとの主張であると解しても、その程度の差異は単なる許容される程度の差という他ないから、格別予想外のものとは認められない。
そして、毒性を本願明細書の段落【0035】の表2で検討すると、システインは本来蛋白質を構成し得る成分であってもともと毒性が小さいと推定されるものであるのに、システインのLD_(50)のデータは示されていないから、「N-グアニルシステイン」がシステインと同等であるか対比できず不明であるし、システイン系のN-アセチルシステインと比べても、投与方法によって毒性が小さい場合はあるし大きい場合もあるので、優劣を判断できないものであり、格別予想外のものとは言えないし、そもそも段落【0035】の表に示されたデータは、新たに測定されたものではなく、本願優先権主張日前の文献により既に公知とされていたデータにすぎず、格別に予想外であると解すべき理由もない。

以上のとおりであるから、本願補正発明は、引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

なお、請求人は、平成23年11月8日受付けの回答書において、「補正却下の認定を是正するために本願発明の発明特定事項を減縮する補正の機会、並びに、新引例に対する本願発明の補正による対応の機会を与えていただきたく」と希望している。しかし、特許法では審判請求に際して補正できる期間を定めているところ、その期間内に既に手続補正書を提出しているのであるから、それ以上の補正の機会を与えることは、法律の想定するところではないし、また、具体的な補正の内容を提示しているわけでもなく、また、請求人のいう新引例は周知例にすぎないものであることから、補正の機会を与えることはできない。

(4)むすび
したがって、本件補正は、改正前の特許法第17条の2第4項各号の規定を満たしていないため同条第4項の規定に違反し、乃至は、同法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するものであるから、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。

3.本願発明について
平成21年11月26日付けの手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1?8にかかる発明は、平成21年7月24日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1?8に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、そのうち請求項1に係る発明(以下、同項記載の発明を「本願発明」という。)は次のとおりである。
「【請求項1】
N-グアニルシステインを有効成分としてなること、を特徴とする損傷の少ない、安全なパーマネント剤第1剤。」

(1)引用例
原査定の理由に引用される引用例、およびその記載事項は、前記「2.(3)(3-1)」に記載したとおりである。

(2)対比、判断
本願発明は、前記「2.」で検討した本願補正発明の「その有効性が、同等条件(使用量、pH、接触時間)でパーマネント剤第1剤として使用するチオグリコール酸塩系第1剤とほぼ同等のウェーブ効果で示され、かつ、同等条件で第1剤として使用するシステイン系第1剤と同等の引っ張り強度で示されると共に、システイン系第1剤とほぼ同等の低い毒性を示すこと」の限定事項を、「損傷の少ない、安全な」との限定事項にしたものである。

そうすると、本願発明は、上記「2.(3)」においてした、一致点と相違点Aは同じであり、相違点Bに代わる次の相違点Cを有するものといえる。
相違点C.有効性について、本願発明では、「損傷の少ない、安全な」と特定されているのに対し、引用発明では、そのような表現では特定されていない点

そこで、これらの相違点について検討するに、相違点Aについては、上記「2.(3)(3-2)」の「(i)相違点Aについて」において検討したとおりである。

次に、相違点Cについて検討するに、「損傷の少ない、安全な」とは、何に対しどの程度の損傷の少なさと安全性を意味するのか何等特定されていないことから、実質的な差異があるとは認められないし、上記「2.(3)(3-2)」の「(ii)相違点Bについて」において検討したと同等の判断ができる。

したがって、本願発明も、上記「2.(3)」での理由と同様の理由により、引用発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

(3)むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
それ故、他の請求項について論及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-07-25 
結審通知日 2012-07-31 
審決日 2012-08-16 
出願番号 特願2006-536987(P2006-536987)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A61K)
P 1 8・ 57- Z (A61K)
P 1 8・ 575- Z (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 川合 理恵  
特許庁審判長 川上 美秀
特許庁審判官 ▲高▼岡 裕美
関 美祝
発明の名称 損傷の少ない、安全なパーマネントウェーブ剤第1剤  
代理人 原 慎一郎  
代理人 樋口 盛之助  
代理人 樋口 盛之助  
代理人 原 慎一郎  
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