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審決分類 審判 査定不服 特174条1項 特許、登録しない。 G06Q
審判 査定不服 特17条の2、3項新規事項追加の補正 特許、登録しない。 G06Q
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 G06Q
管理番号 1263981
審判番号 不服2010-28958  
総通号数 155 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-11-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-12-22 
確定日 2012-10-02 
事件の表示 特願2006-502044「預金口座を閉鎖するか又は閉鎖を解除する方法」拒絶査定不服審判事件〔平成16年 9月 2日国際公開、WO2004/075131、平成18年 8月10日国内公表、特表2006-518503〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯
本願は,2004年2月20日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2003年2月21日,欧州特許庁)を国際出願日とする出願であって,平成21年6月3日付けで拒絶理由通知がなされ,同年9月17日付けで手続補正がなされ,平成21年10月9日付けで最後の拒絶理由通知がなされ,平成22年3月9日付けで手続補正がなされたが,同年3月26日付けで前記平成22年3月9日付けの手続補正が却下されるとともに,拒絶査定がなされ,これに対し,平成22年12月22日に審判請求がなされるとともに,同日付けで手続補正がなされ,平成23年9月28日付けで当審より審尋がなされ,平成24年1月6日付けで回答書が提出されたものである。

第2.補正却下の決定

[補正却下の決定の結論]

平成22年12月22日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1.補正の内容
平成22年12月22日付けの手続補正(以下,「本件補正」という。)は,平成21年9月17日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1を,

「 【請求項1】
移動無線通信網内で或るモバイルユーザの移動式装置(1)を身元確認するためのIDモジュール(10)にリンクされているプロバイダー(2,4,5)の少なくとも1つのサーバに対する上記モバイルユーザの少なくとも1つの預金口座を閉鎖するか又は閉鎖を解除する方法において,
現在地測定モジュール(300)が,当該移動式装置(1)の位置を測定するステップと,
支払プラットフォーム(31)の閉鎖モジュールが,測定されたその位置に応じて前記預金口座を閉鎖するか又は閉鎖を解除するステップと,
前記移動式装置(1)の閉鎖モジュールが,前記支払プラットフォーム(31)の閉鎖モジュールから当該閉鎖又は閉鎖の解除のメッセージを受信するか,又は前記移動式装置(1)が,当該メッセージに対応する前記位置を前記モバイルユーザに視覚的に表示するステップと,
その預金口座が前記位置に応じて閉鎖されている場合は,前記モバイルユーザが,その預金口座を使用するために前記移動式装置(1)によってその預金口座の閉鎖を解除できるように,前記支払プラットフォーム(31)の閉鎖モジュールが,パスワードの入力の要求を前記移動式装置(1)に送信し,その預金口座が前記位置に応じて閉鎖されていない場合は,前記支払プラットフォーム(31)の閉鎖モジュールが,当該パスワードの入力を要求しないステップとから成ることを特徴とする方法。」

と補正することを含むものである。

2.補正の適否(特許法第17条の2第3項に規定する要件についての検討)

本件補正後の請求項1(以下,「補正後の請求項1」という。)を便宜的に以下のように分節して検討する。

「(a)移動無線通信網内で或るモバイルユーザの移動式装置(1)を身元確認するためのIDモジュール(10)にリンクされているプロバイダー(2,4,5)の少なくとも1つのサーバに対する上記モバイルユーザの少なくとも1つの預金口座を閉鎖するか又は閉鎖を解除する方法において,
(b)現在地測定モジュール(300)が,当該移動式装置(1)の位置を測定するステップと,
(c)支払プラットフォーム(31)の閉鎖モジュールが,測定されたその位置に応じて前記預金口座を閉鎖するか又は閉鎖を解除するステップと,
(d)前記移動式装置(1)の閉鎖モジュールが,前記支払プラットフォーム(31)の閉鎖モジュールから当該閉鎖又は閉鎖の解除のメッセージを受信するか,又は前記移動式装置(1)が,当該メッセージに対応する前記位置を前記モバイルユーザに視覚的に表示するステップと,
(e)その預金口座が前記位置に応じて閉鎖されている場合は,前記モバイルユーザが,その預金口座を使用するために前記移動式装置(1)によってその預金口座の閉鎖を解除できるように,前記支払プラットフォーム(31)の閉鎖モジュールが,パスワードの入力の要求を前記移動式装置(1)に送信し,その預金口座が前記位置に応じて閉鎖されていない場合は,前記支払プラットフォーム(31)の閉鎖モジュールが,当該パスワードの入力を要求しないステップ
(f)とから成ることを特徴とする方法。」

補正後の請求項1は,次のステップ(d)を含むものである。

「(d)前記移動式装置(1)の閉鎖モジュールが,前記支払プラットフォーム(31)の閉鎖モジュールから当該閉鎖又は閉鎖の解除のメッセージを受信するか,又は前記移動式装置(1)が,当該メッセージに対応する前記位置を前記モバイルユーザに視覚的に表示するステップ」

上記ステップ(d)について検討する。

ステップ(d)は,(d-1)「前記移動式装置(1)の閉鎖モジュールが,前記支払プラットフォーム(31)の閉鎖モジュールから当該閉鎖又は閉鎖の解除のメッセージを受信する」動作と,(d-2)「前記移動式装置(1)が,当該メッセージに対応する前記位置を前記モバイルユーザに視覚的に表示する」動作が,「か,又は」との語で接続されるステップであるが,動作(d-2)における「当該メッセージ」は,動作(d-1)における,前記移動式装置(1)の閉鎖モジュールが,前記支払プラットフォーム(31)の閉鎖モジュールから受信する「閉鎖又は閉鎖の解除のメッセージ」のことであるから,動作(d-1)と動作(d-2)は,「か,又は」との語で接続され,一見すると択一的な記載ではあるものの,動作(d-2)は,動作(d-1)が実行されることを前提とした動作である。
また,ステップ(d)の「前記位置」は,ステップ(c)の「測定されたその位置」であり,当該「その位置」は,ステップ(b)において,現在地測定モジュール(300)が測定する「移動式装置(1)の位置」である。
してみれば,ステップ(d)の動作(d-2)において,移動式装置(1)が,前記モバイルユーザに視覚的に表示する「当該メッセージに対応する前記位置」は,ステップ(b)において,現在地測定モジュール(300)が測定した「当該移動式装置(1)の位置」のことである。

以上によれば,補正後の請求項1では,「現在地測定モジュール(300)が,移動式装置(1)の位置を測定し,支払プラットフォーム(31)の閉鎖モジュールが,測定されたその位置に応じて前記預金口座を閉鎖するか又は閉鎖を解除し,前記移動式装置(1)の閉鎖モジュールが,支払プラットフォーム(31)の閉鎖モジュールから当該閉鎖又は閉鎖の解除のメッセージを受信し,前記移動式装置(1)が,当該メッセージに対応する前記位置,すなわち現在地測定モジュール(300)が測定した当該移動式装置(1)の位置を前記モバイルユーザに視覚的に表示する」との一連の動作が特定されているものと解される。

ところで,本願は特許法第184条の3第1項の規定により特許出願とみなされた国際出願(外国語特許出願)に係るものであるから,同法第17条の2第3項の規定は同法第184条の12第2項の規定により読み替えて適用される。
そうすると,本願において,特許法第17条の2第3項の規定により補正ができる範囲は,国際出願日における国際特許出願の明細書若しくは図面(図面の中の説明に限る。)の翻訳文,国際出願日における国際特許出願の請求の範囲の翻訳文又は国際出願日における国際特許出願の図面(図面の中の説明を除く。)(以下,「出願当初翻訳文等」という。)に記載した事項の範囲内ということになる。

そこで,「現在地測定モジュール(300)が,移動式装置(1)の位置を測定し,支払プラットフォーム(31)の閉鎖モジュールが,測定されたその位置に応じて前記預金口座を閉鎖するか又は閉鎖を解除し,前記移動式装置(1)の閉鎖モジュールが,支払プラットフォーム(31)の閉鎖モジュールから当該閉鎖又は閉鎖の解除のメッセージを受信し,前記移動式装置(1)が,当該メッセージに対応する前記位置,すなわち現在地測定モジュール(300)が測定した当該移動式装置(1)の位置を前記モバイルユーザに視覚的に表示する」との事項(以下,「事項A」という。)が,出願当初翻訳文等に記載されているといえるかについて検討する。

国際出願日における国際特許出願の明細書の翻訳文(以下,「当初明細書翻訳文」という。)には,上記事項Aに関連して以下のとおり記載されている。

「【0060】
動的に測定されたユーザの位置応じて預金口座を閉鎖するか又は閉鎖を解く本発明の方法を詳しく説明する。本発明によれば,取引き相手のうちの1つの取引き相手(例えば,支払モバイル預金口座の所有者2)の位置が,各支払取引きの前に又は中に測定されて閉鎖されたか又は閉鎖を解かれた地理領域のプリセットされたリストと比較される。預金口座の所有者の位置が,好ましくは移動無線通信網3の基幹施設内の位置測定モジュール300によって測定される,しかし衛星位置測定モジュール(例えば,GPS受信器)に基づく預金口座の所有者の移動式装置によって測定してもよい。しかしながら移動無線通信網を通じた位置測定には,マネーカードがGPS受信器を装備しない従来の移動式装置によっても使用され得,位置情報が偽造され得ないという利点がある。
【0061】
閉鎖されたか又は閉鎖を解かれた地理領域のリストは,好ましくは支払フラットフォーム31内の(示さなかった)記憶領域内に記憶される;しかしながらこのリストは,支払サービスプロバイダー4及び/又はIDモジュール10内にあってもよい。1つの特定の預金口座を1つの特定の領域内で使用してもよいかどうかを規定するため,幾つかの領域リストを所定の規則にしたがって結合される異なる記憶領域内で規定してもよい。
【0062】
閉鎖されたか又は閉鎖を解かれた領域は,好ましくは預金口座の所有者1によってセットされ得る。別の(追加の)実施の形態では,これらの領域は,支払サービスプロバイダー4及び/又は支払プラットフォーム31のオペレータ及び/又はプロバイダー2によって規定され得る。加入しているモバイルユーザ-例えば預金口座の所有者の親-が,預金口座に対する特定の地理領域を閉鎖できる。好適な実施の形態では,リストが,例えばウェブサイト,WAPページを通じてSMS,USSD,eメールによって及び/又はIVR(interactive voice response)システムを通じて又はコールセンターを通じて離れている端末装置から編集される。
【0063】
閉鎖すべきか又は閉鎖を解くべき領域は,好ましくはグラフィカルインターフェース上
で再生されるカードを通じて入力される。この例では,このカードは,マトリックスを有する。ユーザは,このマトリックス内で閉鎖すべきか又は閉鎖を解くべきセルを選択できる。これらのセルは,長方形でもよいし又は好ましくは地理領域例えば自治体,国又は国境に一致してもよい。閉鎖されたか又は閉鎖を解かれた領域は,好ましくは例えば示された地図上に色付きで又は供給された部分及び供給されなかった部分が表示されるテーブルとして視覚的に再生される。
【0064】
別の実施の形態では,ユーザが,名前,例えば地名,アドレス,郵便番号,国名,移動無線通信網のID,移動無線セルのIDの英数字のリストを入力する。希望の領域が,このリストによって規定されている。
【0065】
上述したように,1つのIDモジュールが,異なる預金口座にリンクされている。この場合,異なる地理的な閉鎖又は閉鎖の解除が,異なる預金口座にリンクされ得る。このことは,例えば異なる通貨で取引きされている幾つかのバリュー口座を1つのIDモジュール10にリンクさせること,及び各バリュー口座を対応する通貨が扱われる領域外で閉鎖することを可能にする。このことは,1つのIDモジュールを一部で使用可能な幾つかの預金口座にリンクさせることも可能にする。
【0066】
反対に,1つの預金口座を例えば家族や会社内の幾つかのIDモジュールにリンクしてもよい。この場合,共通の閉鎖又はIDモジュールに依存しない閉鎖がセットされ得る。
【0067】
好適な実施の形態では,異なる支払限度が,異なる地理領域内でセットされ得る。このことは,口座の所有者に1つの領域内の1つの特定の預金口座を制限すること又はこの預金口座を完全に閉鎖することを可能にする。
【0068】
閉鎖された領域内で1つの特定の預金口座を使用したい口座の所有者は,それにもかかわらずその預金口座を使用することを許可されるために好ましくは支払プラットフォーム31によってパスワード又は別の安全な秘密を入力することを要求される。この要求は,例えばSMS又はUSSDを通じて送信される。このことは,ユーザに安心を放棄することによって1つの預金口座の閉鎖を解除することを可能にする。その他の安全手段が,口座の所有者1によって又は異なる地理領域の支払サービスプロバイダー4によってセットされ得る。
【0069】
1つの預金口座を閉鎖すべきかどうかを決定するため,口座の所有者の位置に関する情報が,その他の情報に結合され得る。好適な実施の形態では,したがって時間が,追加の閉鎖基準として使用され得る。このことは,例えば1つの特定の預金口座が会社内だけで又は会社の近くでユーザの勤務時間の間に使用してよい一方で,同じ口座が家の近くだけで週末に閉鎖されていることをユーザに決定させることを可能にする。ビジネスカード及び会社カードが,ビジネス及び会社外で及び営業時間外に閉鎖され得る。特定のプロバイダーとの支払取引きに対してだけ特定の領域内で預金口座を閉鎖するか又は閉鎖を解くことも可能である。
【0070】
本発明の方法は,課される位置に依存しない支払取引料金も可能にする。したがって支払サービスプロバイダーは,動的に測定されたユーザの位置にリンクされている危険を考慮して料金を課してもよい。例えば,より高い料金を国外の取引き又は疑わしいと思われるビジネスに対して要求してもよい。
【0071】
口座の所有者が,閉鎖された領域に入る場合,その所有者の閉鎖された預金口座が,追加の安全手段としてより安全な預金口座のことを考えて事前予防型転送モジュール311によって自動的に借方記入され得る。
【0072】
特定の預金口座を閉鎖するために使用される方法は,預金口座の種類に依存する。上述したように,預金口座を閉鎖するか又は閉鎖を解く決定は,好ましくは支払プラットフォーム31内のソフトウェアモジュールによって実行されるものの,IDモジュール10又は支払サービスプロバイダー4によって実行してもよい。次いでこの決定は,各取引き前に支払サービスプロバイダー3及び/又は預金口座の所有者1の示さなかった閉鎖モジュールにメッセージで送信される。閉鎖モジュールは,このメッセージを受信し,取引きが,その内容に応じて容認される。希望の取引きが閉鎖に起因して閉鎖された場合,モバイルユーザは,好ましくはSMS,USSD又はeメールを通じて通知される。
【0073】
本発明の方法は,預金口座を例えば遊園地,展示場,コンサートホール,レストランのチェーン店,運動施設,会社内,興味のある旅行地内だけで使用され得るように開設することを可能にする。したがって全ての利害関係者に対する安全性が著しく向上する。しかしながら,閉鎖されたか又は閉鎖を解かれた領域のこのような細かい決定は,移動無線加入者の動的な測定を必要とする,すなわち登録された移動無線通信網だけに基づかない現在地の確認を必要とする。」

上記記載について,以下に検討する。

段落【0060】には,「動的に測定されたユーザの位置応じて預金口座を閉鎖するか又は閉鎖を解く本発明の方法を詳しく説明する。」と記載され,また,「預金口座の所有者の位置が,移動無線通信網3の基幹施設内の位置測定モジュール300によって測定される」ことが記載されている。
段落【0061】には,閉鎖されたか又は閉鎖を解かれた地理領域のリストが記憶される記憶領域について記載されている。
段落【0062】には,閉鎖されたか又は閉鎖を解かれた領域が,誰によって,どのようにセットされ得るかについて記載されている。
段落【0063】には,閉鎖すべきか又は閉鎖を解くべき領域が,グラフィカルインターフェース上で再生されるカードを通じて入力されること,また,閉鎖されたか又は閉鎖を解かれた領域は,例えば示された地図上に色付きで又はテーブルとして視覚的に再生されることが記載されている。
段落【0064】には,ユーザが,名前,例えば地名,アドレス,郵便番号,国名,移動無線通信網のID,移動無線セルのIDの英数字のリストを入力することにより,希望の領域が規定されることが記載されている。
段落【0065】には,1つのIDモジュールが,異なる預金口座にリンクされていることによる可能なバリエーションについて記載されている。
段落【0066】には,1つの預金口座を例えば家族や会社内の幾つかのIDモジュールにリンクすることについて記載されている。
段落【0067】には,異なる支払限度が,異なる地理領域内でセットされ得ることについて記載されている。
段落【0068】には,閉鎖された領域内で1つの特定の預金口座を使用したい口座の所有者は,その預金口座を使用することを許可されるために支払プラットフォーム31によってパスワードを入力することを要求され,ユーザに1つの預金口座の閉鎖を解除することを可能にすることについて記載されている。
段落【0069】には,1つの預金口座を閉鎖すべきかどうかを決定するため,口座の所有者の位置に関する情報が,その他の情報,例えば時間の情報に結合され得ること,したがって時間が,追加の閉鎖基準として使用され得ることについて記載されている。
段落【0070】には,課される位置に依存しない支払取引料金も可能にすること,したがって支払サービスプロバイダーは,動的に測定されたユーザの位置にリンクされている危険を考慮して料金を課してもよいことが記載されている。
段落【0071】には,口座の所有者が,閉鎖された領域に入る場合,その所有者の閉鎖された預金口座が,追加の安全手段としてより安全な預金口座のことを考えて事前予防型転送モジュール311によって自動的に借方記入され得ることが記載されている。
段落【0072】には,特定の預金口座を閉鎖するために使用される方法は,預金口座の種類に依存すること,預金口座を閉鎖するか又は閉鎖を解く決定は,好ましくは支払プラットフォーム31内のソフトウェアモジュールによって実行されるものの,IDモジュール10又は支払サービスプロバイダー4によって実行してもよいこと,次いでこの決定は,各取引き前に支払サービスプロバイダー3及び/又は預金口座の所有者1の示さなかった閉鎖モジュールにメッセージで送信されること,閉鎖モジュールは,このメッセージを受信し,取引きが,その内容に応じて容認されること,希望の取引きが閉鎖に起因して閉鎖された場合,モバイルユーザは,好ましくはSMS,USSD又はeメールを通じて通知されること,が記載されている。
段落【0073】には,本発明の方法が,預金口座を例えば遊園地,展示場,コンサートホール,レストランのチェーン店,運動施設,会社内,興味のある旅行地内だけで使用され得るように開設することを可能にすること,したがって全ての利害関係者に対する安全性が著しく向上することが記載されている。

以上の検討によれば,当初明細書翻訳文には,上記事項Aのうち,「現在地測定モジュール(300)が,移動式装置(1)の位置を測定し,支払プラットフォーム(31)のソフトウエアモジュール(閉鎖モジュール)が,測定されたその位置に応じて前記預金口座を閉鎖するか又は閉鎖を解除し,前記移動式装置(1)の閉鎖モジュールが,支払プラットフォーム(31)の閉鎖モジュールから当該閉鎖又は閉鎖の解除のメッセージを受信」するとの事項は記載されていると認められるものの,「前記移動式装置(1)が,当該メッセージに対応する前記位置,すなわち現在地測定モジュール(300)が測定した当該移動式装置(1)の位置を前記モバイルユーザに視覚的に表示する」との事項(以下,「事項B」という。)については,記載されておらず,また,それを示唆する記載もない。
また,当初明細書翻訳文のその他の記載及び国際出願日における国際特許出願の図面(図面の中の説明に限る。)の翻訳文,国際出願日における国際特許出願の請求の範囲の翻訳文又は国際出願日における国際特許出願の図面(図面の中の説明を除く。)の記載をみても,上記事項Bについての記載はなく,また,それを示唆する記載もない。

以上のことから,上記事項Bについては,出願当初翻訳文等に記載されておらず,また,それを示唆する記載もないことから,上記事項Bを含む本件補正は,出願当初翻訳文等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において,新たな技術的事項を導入するものであり,出願当初翻訳文等に記載された事項の範囲内においてしたものではない。
したがって,本件補正は,特許法第184条の12第2項により読み替える同法第17条の2第3項の規定に違反するので,同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3.本願発明について

1.本願特許請求の範囲

平成22年12月22日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので,本願の特許請求の範囲は,平成21年9月17日付け手続補正書の特許請求の範囲(以下,「本願特許請求の範囲」という。)に記載された,以下のとおりのものである。

「 【請求項1】
移動無線通信網内でモバイルユーザの移動式装置(1)を身元確認するためのIDモジュール(10)にリンクされているプロバイダー(2,4,5)の少なくとも1つのサーバに対する少なくとも1つの預金口座を閉鎖するか又は閉鎖を解除する方法において,
現在地測定モジュール(300)が,当該移動式装置(1)の位置を測定するステップ,
支払プラットフォーム(31)の閉鎖モジュールが,測定されたその位置に応じて前記預金口座を閉鎖するか又は閉鎖を解除するステップ,
前記移動式装置(1)の閉鎖モジュールが,前記支払プラットフォーム(31)の閉鎖モジュールから当該閉鎖又は閉鎖の解除のメッセージを受信するステップ,
前記移動式装置(1)が,当該メッセージに対応する前記位置を前記モバイルユーザに視覚的に表示するステップ,
その預金口座が前記位置に応じて閉鎖されている場合は,前記支払プラットフォーム(31)の閉鎖モジュールが,当該預金口座の使用を許可するためのパスワードの入力の要求を前記移動式装置(1)に送信し,その預金口座の閉鎖が前記位置に応じて解除されている場合は,前記支払プラットフォーム(31)の閉鎖モジュールが,当該パスワードの入力を要求しないステップとから成ることを特徴とする方法。
【請求項2】
前記位置は,前記支払いプラットフォーム(31)の現在地測定モジュール(300)によって測定されることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記位置は,前記移動式装置(1)の現在地測定モジュールによって測定されることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項4】
複数の預金口座が,前記IDモジュール(10)にリンクされていて,この場合,これらの預金口座は,異なる地理に応じて閉鎖されるか又は閉鎖を解除されることを特徴とする請求項1?3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
預金口座が前記位置に応じて閉鎖されている地理領域が,前記支払プラットフォーム(31),前記プロバイダー(3,4,5)のサーバ及び前記IDモジュールのうちの少なくとも1つの記憶領域内に記憶されていることを特徴とする請求項1?4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
預金口座の閉鎖が前記位置に応じて解除されている地理領域が,前記支払プラットフォーム(31),前記プロバイダー(3,4,5)のサーバ及び前記IDモジュールのうちの少なくとも1つの記憶領域内に記憶されていることを特徴とする請求項1?5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
異なる支払限度額が,前記支払プラットフォーム(31)又は前記移動式装置(1)の閉鎖モジュールによって前記異なる地理領域に対応する預金口座にセットされていることを特徴とする請求項5又は6に記載の方法。
【請求項8】
前記預金口座は,前記支払プラットフォーム(31)又は前記移動式装置(1)の閉鎖モジュールによって前記位置及び時間に応じて閉鎖されるか又は閉鎖を解除されることを特徴とする請求項1?7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記預金口座が閉鎖されているか又は閉鎖を解除されている地理領域は,前記移動式装置(1)の閉鎖モジュールによってセットされることを特徴とする請求項1?8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記預金口座が閉鎖されているか又は閉鎖を解除されている地理領域は,前記支払プラットフォーム(31)の閉鎖モジュールによってセットされることを特徴とする請求項1?8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記預金口座が閉鎖されているか又は閉鎖を解除されている地理領域は,支払サービスプロバイダー(4)のサーバによってセットされることを特徴とする請求項1?8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
前記預金口座が閉鎖されているか又は閉鎖を解除されている地理領域は,前記プロバイダー(2,4)のサーバによってセットされることを特徴とする請求項1?8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
前記預金口座が閉鎖されているか又は閉鎖を解除されている地理領域は,ウェブサイトを通じて編集されることを特徴とする請求項1?12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
前記位置に依存する支払取引き料金が,前記支払サービスプロバイダー(4)のサーバによって課されることを特徴とする請求項1?13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
前記預金口座は,前記IDモジュール(10)と共に使用される前記移動式装置(1)の閉鎖モジュールに応じて閉鎖されるか又は閉鎖を解除されることを特徴とする請求項1?14のいずれか1項に記載の方法。」

2.原査定の拒絶理由

平成21年10月9日付けで通知された原査定の拒絶理由は,次のとおりである。

『 理 由

1.平成21年9月17日付けでした手続補正は,下記の点で国際出願日における国際特許出願の明細書若しくは図面(図面の中の説明に限る。)の翻訳文,国際出願日における国際特許出願の請求の範囲の翻訳文(特許協力条約第19条(1)の規定に基づく補正後の請求の範囲の翻訳文が提出された場合にあっては,当該翻訳文)又は国際出願日における国際特許出願の図面(図面の中の説明を除く。)(以下,翻訳文等という。)(誤訳訂正書を提出して明細書,特許請求の範囲又は図面について補正をした場合にあっては,翻訳文等又は当該補正後の明細書,特許請求の範囲若しくは図面)に記載した事項の範囲内においてしたものでないから,特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない(同法第184条の12第2項参照)。


請求項1の「前記移動式装置(1)の閉鎖モジュールが,前記支払プラットフォーム(31)の閉鎖モジュールから当該閉鎖又は閉鎖の解除のメッセージを受信するステップ」および「前記移動式装置(1)が,当該メッセージに対応する前記位置を前記モバイルユーザに視覚的に表示するステップ」なる記載は新規事項の追加に該当する。
発明の詳細な説明の段落【0063】には,「閉鎖すべきか又は閉鎖を解除すべき領域は,好ましくはグラフィカルインターフェース上で再生されるカードを通じて入力される。この例では,このカードは,マトリックスを有する。ユーザは,このマトリックス内で閉鎖すべきか又は閉鎖を解除すべきセルを選択できる。これらのセルは,長方形でもよいし又は好ましくは地理領域例えば自治体,国又は国境に一致してもよい。閉鎖されたか又は閉鎖を解除された領域は,好ましくは例えば示された地図上に色付きで又は供給された部分及び供給されなかった部分が表示されるテーブルとして視覚的に再生される」ことが記載されているものの,当該記載は,閉鎖すべきか又は閉鎖を解除すべき領域を入力することに関して記載されているに過ぎず,「前記移動式装置(1)の閉鎖モジュールが,前記支払プラットフォーム(31)の閉鎖モジュールから当該閉鎖又は閉鎖の解除のメッセージを受信する」こと,および,受信したメッセージに対応する位置を表示することについては記載されておらず,かつ,自明に導ける事項とは認められない。

2.この出願は,特許請求の範囲の記載が下記の点で,特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。


請求項1の「前記移動式装置(1)の閉鎖モジュールが,前記支払プラットフォーム(31)の閉鎖モジュールから当該閉鎖又は閉鎖の解除のメッセージを受信するステップ」および「前記移動式装置(1)が,当該メッセージに対応する前記位置を前記モバイルユーザに視覚的に表示するステップ」なる記載は,発明の詳細な説明に記載したものでない。

(以下省略) 』

3.当審の判断
上記拒絶理由について検討する。
3-1.「理由1」について

本願特許請求の範囲の請求項1(以下,「本願請求項1」という。)を便宜的に以下のように分節して検討する。

「(g)移動無線通信網内でモバイルユーザの移動式装置(1)を身元確認するためのIDモジュール(10)にリンクされているプロバイダー(2,4,5)の少なくとも1つのサーバに対する少なくとも1つの預金口座を閉鎖するか又は閉鎖を解除する方法において,
(h)現在地測定モジュール(300)が,当該移動式装置(1)の位置を測定するステップ,
(i)支払プラットフォーム(31)の閉鎖モジュールが,測定されたその位置に応じて前記預金口座を閉鎖するか又は閉鎖を解除するステップ,
(j)前記移動式装置(1)の閉鎖モジュールが,前記支払プラットフォーム(31)の閉鎖モジュールから当該閉鎖又は閉鎖の解除のメッセージを受信するステップ,
(k)前記移動式装置(1)が,当該メッセージに対応する前記位置を前記モバイルユーザに視覚的に表示するステップ,
(l)その預金口座が前記位置に応じて閉鎖されている場合は,前記支払プラットフォーム(31)の閉鎖モジュールが,当該預金口座の使用を許可するためのパスワードの入力の要求を前記移動式装置(1)に送信し,その預金口座の閉鎖が前記位置に応じて解除されている場合は,前記支払プラットフォーム(31)の閉鎖モジュールが,当該パスワードの入力を要求しないステップ
(m)とから成ることを特徴とする方法。」

本願請求項1は,次のステップ(k)を含むものである。

「(k)前記移動式装置(1)が,当該メッセージに対応する前記位置を前記モバイルユーザに視覚的に表示するステップ」

上記ステップ(k)について検討する。

ステップ(k)における「当該メッセージ」は,ステップ(j)における,前記移動式装置(1)の閉鎖モジュールが,前記支払プラットフォーム(31)の閉鎖モジュールから受信する「当該閉鎖又は閉鎖の解除のメッセージ」のことであるから,ステップ(k)は,ステップ(j)が実行されることを前提とした動作である。
また,ステップ(k)の「前記位置」は,ステップ(i)の「測定されたその位置」であり,当該「その位置」は,ステップ(h)において,現在地測定モジュール(300)が測定する「当該移動式装置(1)の位置」である。
してみれば,ステップ(k)において,前記移動式装置(1)が,前記モバイルユーザに視覚的に表示する「当該メッセージに対応する前記位置」は,ステップ(h)において,現在地測定モジュール(300)が測定した「当該移動式装置(1)の位置」のことである。

以上によれば,本願請求項1では,「現在地測定モジュール(300)が,移動式装置(1)の位置を測定し,支払プラットフォーム(31)の閉鎖モジュールが,測定されたその位置に応じて前記預金口座を閉鎖するか又は閉鎖を解除し,前記移動式装置(1)の閉鎖モジュールが,支払プラットフォーム(31)の閉鎖モジュールから当該閉鎖又は閉鎖の解除のメッセージを受信し,前記移動式装置(1)が,当該メッセージに対応する前記位置,すなわち現在地測定モジュール(300)が測定した当該移動式装置(1)の位置を前記モバイルユーザに視覚的に表示する」との一連の動作が特定されているものと解される。

そこで,「現在地測定モジュール(300)が,移動式装置(1)の位置を測定し,支払プラットフォーム(31)の閉鎖モジュールが,測定されたその位置に応じて前記預金口座を閉鎖するか又は閉鎖を解除し,前記移動式装置(1)の閉鎖モジュールが,支払プラットフォーム(31)の閉鎖モジュールから当該閉鎖又は閉鎖の解除のメッセージを受信し,前記移動式装置(1)が,当該メッセージに対応する前記位置,すなわち現在地測定モジュール(300)が測定した当該移動式装置(1)の位置を前記モバイルユーザに視覚的に表示する」との事項(以下,「事項C」という。)が,出願当初翻訳文等に記載されているといえるかについて検討する。

上記事項Cは,上記「第2[理由]2.」で検討した事項Aと同一の事項であるから,上記「第2[理由]2.」で既に検討したとおりであり,当初明細書翻訳文には,上記事項Cのうち,「現在地測定モジュール(300)が,移動式装置(1)の位置を測定し,支払プラットフォーム(31)のソフトウエアモジュール(閉鎖モジュール)が,測定されたその位置に応じて前記預金口座を閉鎖するか又は閉鎖を解除し,前記移動式装置(1)の閉鎖モジュールが,支払プラットフォーム(31)の閉鎖モジュールから当該閉鎖又は閉鎖の解除のメッセージを受信」するとの事項は記載されていると認められるものの,「前記移動式装置(1)が,当該メッセージに対応する前記位置,すなわち現在地測定モジュール(300)が測定した当該移動式装置(1)の位置を前記モバイルユーザに視覚的に表示する」との事項(以下,「事項D」という。)については,記載されておらず,また,それを示唆する記載もない。
また,当初明細書翻訳文のその他の記載及び国際出願日における国際特許出願の図面(図面の中の説明に限る。)の翻訳文,国際出願日における国際特許出願の請求の範囲の翻訳文又は国際出願日における国際特許出願の図面(図面の中の説明を除く。)の記載をみても,上記事項Dについての記載はなく,また,それを示唆する記載もない。

してみれば,上記事項Dについては,出願当初翻訳文等に記載されておらず,また,それを示唆する記載もないことから,原査定の拒絶理由の「理由1」において,『請求項1の「前記移動式装置(1)が,当該メッセージに対応する前記位置を前記モバイルユーザに視覚的に表示するステップ」なる記載は新規事項の追加に該当する。』と指摘したとおりであり,平成21年9月17日付けでした手続補正は,出願当初翻訳文等に記載した事項の範囲内においてしたものでなく,特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない。

3-2.「理由2」について

平成21年9月17日付けの手続補正書により補正された明細書の発明の詳細な説明には,「前記移動式装置(1)が,当該メッセージに対応する前記位置を前記モバイルユーザに視覚的に表示するステップ」に関連して以下の記載がある。(下線は,補正箇所を示すために出願人が付したものである。)

「 【0060】
動的に測定されたユーザの位置に応じて預金口座を閉鎖するか又は閉鎖を解除する本発明の方法を詳しく説明する。本発明によれば,取引き相手のうちの1つの取引き相手(例えば,支払モバイル預金口座の所有者2)の位置が,各支払取引きの前に又は中に測定されて閉鎖されたか又は閉鎖を解除された地理領域のプリセットされたリストと比較される。預金口座の所有者の位置が,好ましくは移動無線通信網の基幹施設3内の位置測定モジュール300によって測定される,しかし衛星位置測定モジュール(例えば,GPS受信器)に基づく預金口座の所有者の移動式装置によって測定してもよい。しかしながら移動無線通信網を通じた位置測定には,マネーカードがGPS受信器を装備しない従来の移動式装置によっても使用され得,位置情報が偽造され得ないという利点がある。
【0061】
閉鎖されたか又は閉鎖を解除された地理領域のリストは,好ましくは支払フラットフォーム31内の(示さなかった)記憶領域内に記憶される;しかしながらこのリストは,支払サービスプロバイダー4のサーバ及び/又はIDモジュール10内にあってもよい。1つの特定の預金口座を1つの特定の領域内で使用してもよいかどうかを規定するため,幾つかの領域リストを所定の規則にしたがって結合される異なる記憶領域内で規定してもよい。
【0062】
閉鎖されたか又は閉鎖を解除された領域は,好ましくは預金口座の所有者1によってセットされ得る。別の(追加の)実施の形態では,これらの領域は,支払サービスプロバイダー4のサーバ及び/又は支払プラットフォーム31のオペレータ及び/又はプロバイダー2のサーバによって規定され得る。加入しているモバイルユーザ-例えば預金口座の所有者の親-が,預金口座に対する特定の地理領域を閉鎖できる。好適な実施の形態では,リストが,例えばウェブサイト,WAPページを通じてSMS,USSD,eメールによって及び/又はIVR(interactive voice response)システムを通じて又はコールセンターを通じて離れている端末装置から編集される。
【0063】
閉鎖すべきか又は閉鎖を解除すべき領域は,好ましくはグラフィカルインターフェース上で再生されるカードを通じて入力される。この例では,このカードは,マトリックスを有する。ユーザは,このマトリックス内で閉鎖すべきか又は閉鎖を解除すべきセルを選択できる。これらのセルは,長方形でもよいし又は好ましくは地理領域例えば自治体,国又は国境に一致してもよい。閉鎖されたか又は閉鎖を解除された領域は,好ましくは例えば示された地図上に色付きで又は供給された部分及び供給されなかった部分が表示されるテーブルとして視覚的に再生される。
【0064】
別の実施の形態では,ユーザが,名前,例えば地名,アドレス,郵便番号,国名,移動無線通信網のID,移動無線セルのIDの英数字のリストを入力する。希望の領域が,このリストによって規定されている。
【0065】
上述したように,1つのIDモジュールが,異なる預金口座にリンクされている。この場合,異なる地理的な閉鎖又は閉鎖の解除が,異なる預金口座にリンクされ得る。このことは,例えば異なる通貨で取引きされている幾つかのバリュー口座を1つのIDモジュール10にリンクさせること,及び各バリュー口座を対応する通貨が扱われる領域外で閉鎖することを可能にする。このことは,1つのIDモジュールを一部で使用可能な幾つかの預金口座にリンクさせることも可能にする。
【0066】
反対に,1つの預金口座を,例えば家族や会社内の幾つかのIDモジュールにリンクしてもよい。この場合,共通の閉鎖又はIDモジュールに依存しない閉鎖がセットされ得る。
【0067】
好適な実施の形態では,異なる支払限度が,異なる地理領域内でセットされ得る。このことは,預金口座の所有者に1つの領域内の1つの特定の預金口座を制限すること又はこの預金口座を完全に閉鎖することを可能にする。
【0068】
閉鎖された領域内で1つの特定の預金口座を使用したい預金口座の所有者は,それにもかかわらずその預金口座を使用することを許可されるために好ましくは支払プラットフォーム31によってパスワード又は別の安全な秘密を入力することを要求される。この要求は,例えばSMS又はUSSDを通じて送信される。このことは,ユーザに安心を放棄することによって1つの預金口座の閉鎖を解除することを可能にする。その他の安全手段が,預金口座の所有者1によって又は異なる地理領域の支払サービスプロバイダー4のサーバによってセットされ得る。
【0069】
1つの預金口座を閉鎖すべきかどうかを決定するため,預金口座の所有者の位置に関する情報が,その他の情報に結合され得る。好適な実施の形態では,したがって時間が,追加の閉鎖基準として使用され得る。このことは,例えば1つの特定の預金口座が会社内だけで又は会社の近くでユーザの勤務時間の間に使用してよい一方で,同じ預金口座が家の近くだけで週末に閉鎖されていることをユーザに決定させることを可能にする。ビジネスカード及び会社カードが,ビジネス及び会社外で及び営業時間外に閉鎖され得る。特定のプロバイダーとの支払取引きに対してだけ特定の領域内で預金口座を閉鎖するか又は閉鎖解除することも可能である。
【0070】
本発明の方法は,課される位置に依存しない支払取引料金も可能にする。したがって支払サービスプロバイダーのサーバは,動的に測定されたユーザの位置にリンクされている危険を考慮して料金を課してもよい。例えば,より高い料金を国外の取引き又は疑わしいと思われるビジネスに対して要求してもよい。
【0071】
預金口座の所有者が,その預金口座が閉鎖された領域に入る場合,その所有者の閉鎖された預金口座が,追加の安全手段としてより安全な預金口座のことを考えて事前予防型転送モジュール311によって自動的に借方記入され得る。
【0072】
特定の預金口座を閉鎖するために使用される方法は,預金口座の種類に依存する。上述したように,預金口座を閉鎖するか又は閉鎖を解除する決定は,好ましくは支払プラットフォーム31内のソフトウェアモジュールによって実行されるものの,IDモジュール10又は支払サービスプロバイダー4のサーバによって実行してもよい。次いでこの決定は,各取引き前に支払サービスプロバイダー3のサーバ及び/又は預金口座の所有者1の図示しなかった閉鎖モジュールにメッセージで送信される。閉鎖モジュールは,このメッセージを受信し,取引きが,その内容に応じて容認される。希望の取引きが閉鎖に起因して閉鎖された場合,モバイルユーザは,好ましくはSMS,USSD又はeメールを通じて通知される。
【0073】
本発明の方法は,預金口座を例えば遊園地,展示場,コンサートホール,レストランのチェーン店,運動施設,会社内,興味のある旅行地内だけで使用され得るように開設することを可能にする。したがって全ての利害関係者に対する安全性が著しく向上する。しかしながら,閉鎖されたか又は閉鎖を解除された領域のこのような細かい決定は,移動無線加入者の動的な測定を必要とする,すなわち登録された移動無線通信網だけに基づかない現在地の確認を必要とする。」

上記平成21年9月17日付けの手続補正書による明細書の補正内容は,語句の表現を明確にする程度の補正であって,実質的な内容の補正はなされていない。
してみれば,上記『3-1.「理由1」について』で検討したとおり,発明の詳細な説明には,「前記移動式装置(1)が,当該メッセージに対応する前記位置,すなわち現在地測定モジュール(300)が測定した当該移動式装置(1)の位置を前記モバイルユーザに視覚的に表示する」との事項(「事項D」)については,記載されていないから,「前記移動式装置(1)が,当該メッセージに対応する前記位置を前記モバイルユーザに視覚的に表示するステップ」の記載もない。

したがって,原査定の拒絶理由の「理由2」において,『請求項1の(途中省略)「前記移動式装置(1)が,当該メッセージに対応する前記位置を前記モバイルユーザに視覚的に表示するステップ」なる記載は,発明の詳細な説明に記載したものでない。』と指摘したとおりであり,この出願は,特許請求の範囲の記載が,特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。

4.請求人の主張の検討
審判請求人は,平成22年3月9日付けの意見書において,以下のとおり主張している。
『5.拒絶理由に対する釈明
(1)理由1について
請求項1に記載の「前記移動式装置1の閉鎖モジュールが,前記支払プラットフォーム31の閉鎖モジュールから当該閉鎖又は閉鎖の解除のメッセージを受信するステップ」なる点は,本願明細書の[0072]中に記載されています。
また,同請求項に記載の「前記移動式装置1が,当該メッセージに対応する前記位置を前記モバイルユーザに視覚的に表示するステップ,」なる点は,本願明細書の[0063]中に記載されています。
(2)理由2について
上記理由1についての請求項1の記載に合わせるため,[0063]及び[0072]を当初明細書の記載の範囲内で以下のように補正しました:
[0063]
閉鎖すべきか又は閉鎖を解除すべき領域は,好ましくはグラフィカルインターフェース上で再生されるカードを通じて入力される。この例では,このカードは,マトリックスを有する。ユーザは,移動式装置1を用いてこのマトリックス内で閉鎖すべきか又は閉鎖を解除すべきセルを選択できる。これらのセルは,長方形でもよいし又は好ましくは地理領域例えば自治体,国又は国境に一致してもよい。閉鎖されたか又は閉鎖を解除された領域は,好ましくは例えば示された地図上に色付きで又は供給された部分及び供給されなかった部分が表示されるテーブルとして当該移動式装置1に視覚的に再生される。
[0072]
特定の預金口座を閉鎖するために使用される方法は,預金口座の種類に依存する。上述したように,預金口座を閉鎖するか又は閉鎖を解除する決定は,好ましくは支払プラットフォーム31内のソフトウェアモジュールによって実行されるものの,IDモジュール10又は支払サービスプロバイダー4のサーバによって実行してもよい。次いでこの決定は,各取引き前に支払サービスプロバイダー3のサーバの図示しなかった閉鎖モジュール及び/又は預金口座の所有者の移動式電話1の図示しなかった閉鎖モジュールにメッセージで送信される。当該閉鎖モジュールは,このメッセージを受信し,取引きが,その内容に応じて容認される。希望の取引きが閉鎖に起因して閉鎖された場合,モバイルユーザは,好ましくはSMS,USSD又はeメールを通じて通知される。
また,[0063]中の「移動式装置1」に関しては,例えば本願明細書の[0028]中にユーザが所有している点が明記されています。
また,[0072]では,記載内容がより明瞭となるように表現を改善しました。』

また,審判請求人は,平成22年12月22日付けの審判請求書において,以下のとおり主張している。
『5.平成21年10月9日付け拒絶理由通知書の拒絶理由に対する釈明
(1)理由1及び2
拒絶理由を解消するため,「前記移動式装置(1)の閉鎖モジュールが,前記支払プラットフォーム(31)の閉鎖モジュールから当該閉鎖又は閉鎖の解除のメッセージを受信するステップ」と「前記移動式装置(1)が,当該メッセージに対応する前記位置を前記モバイルユーザに視覚的に表示するステップ」とを「又は」で結合する補正を行いました。
「補正の却下の決定」の<<第17条の2第3項>>でご指摘されているように,各ステップはそれぞれ,明細書[0063]及び[0072]に別々に記載されています。』

しかしながら,明細書の【0063】及び【0072】段落の内容は,上記「第2[理由]2.」において検討したとおりのものであって,「前記移動式装置(1)が,当該メッセージに対応する前記位置を前記モバイルユーザに視覚的に表示するステップ」に関する内容が記載されているとは認められないから,審判請求人の意見書及び審判請求書における上記主張は採用することができない。

5.回答書の補正案について
平成24年1月6日付けの回答書に記載された補正案について検討する。
補正案の請求項1は以下のとおりのものである。
「 [請求項1]
移動無線通信網内で或るモバイルユーザの移動式装置(1)を身元確認するためのIDモジュール(10)にリンクされているプロバイダー(2,4,5)の少なくとも1つのサーバに対する上記モバイルユーザの少なくとも1つの預金口座を閉鎖するか又は閉鎖を解除する方法において,
現在地測定モジュール(300)が,当該移動式装置(1)の位置を動的に測定するステップと,
支払プラットフォーム(31)の閉鎖モジュール,前記移動式装置(1)の閉鎖モジュール又は支払サービスプロバイダ(4)のサーバが,測定されたその位置に応じて前記預金口座を閉鎖するか又は閉鎖を解除するステップと,
前記移動式装置(1)の閉鎖モジュールが,前記閉鎖モジュール又は前記サーバから当該閉鎖又は当該閉鎖の解除の決定をメッセージで受信するステップと,
前記移動式装置(1)が,当該メッセージに対応する領域を視覚的に再生するステップと,
その預金口座が前記位置に応じて閉鎖されている場合は,前記モバイルユーザが,その預金口座を使用するために前記移動式装置(1)によってその預金口座の閉鎖を解除できるように,前記支払プラットフォーム(31)の閉鎖モジュールが,パスワードの入力の要求を前記移動式装置(1)に送信し,その預金口座が前記位置に応じて閉鎖されていない場合は,前記支払プラットフォーム(31)の閉鎖モジュールが,当該パスワードの入力を要求しないステップとから成ることを特徴とする方法。」

上記補正案の請求項1における「前記移動式装置(1)が,当該メッセージに対応する領域を視覚的に再生するステップ」における「当該メッセージ」は,「前記移動式装置(1)の閉鎖モジュールが,前記閉鎖モジュール又は前記サーバから当該閉鎖又は当該閉鎖の解除の決定をメッセージで受信するステップ」における,当該閉鎖又は当該閉鎖の解除の決定を受信するための「メッセージ」であるところ,出願当初翻訳文等には,当該閉鎖又は当該閉鎖の解除の決定を受信するための「メッセージ」を受信したときに,当該「メッセージ」に対応する領域を視覚的に再生することは記載されていないし,また,示唆もない。
したがって,上記補正案のように補正しても,出願当初翻訳文等に記載した事項の範囲内においてしたものとはならないから,特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たすものとはならない。

6.むすび
以上のとおり,本願は,平成21年9月17日付けでした手続補正が,特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていないから,特許を受けることができない。
また,本願は,特許請求の範囲の記載が,特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないから,特許を受けることができない。
したがって,本願は,原査定の理由により拒絶すべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-03-16 
結審通知日 2012-04-10 
審決日 2012-04-23 
出願番号 特願2006-502044(P2006-502044)
審決分類 P 1 8・ 55- Z (G06Q)
P 1 8・ 537- Z (G06Q)
P 1 8・ 561- Z (G06Q)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 宮下 浩次  
特許庁審判長 金子 幸一
特許庁審判官 木方 庸輔
須田 勝巳
発明の名称 預金口座を閉鎖するか又は閉鎖を解除する方法  
代理人 江崎 光史  
代理人 鍛冶澤 實  

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