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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01L
審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 特許、登録しない。 H01L
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H01L
管理番号 1264585
審判番号 不服2011-22318  
総通号数 156 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-12-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-10-14 
確定日 2012-10-11 
事件の表示 特願2006- 45955「光電変換素子、固体撮像素子」拒絶査定不服審判事件〔平成19年 9月 6日出願公開、特開2007-227574〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由
第1 手続の経緯

本願は、平成18年2月22日に特許出願したものであって、平成19年2月6日及び平成23年6月22日に手続補正がなされ、同年7月21日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年10月14日付けで拒絶査定不服審判請求がなされるとともに、これと同時に手続補正がなされたものである。

第2 平成23年10月14日付けの手続補正についての補正却下の決定

[補正却下の決定の結論]
平成23年10月14日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1 補正の内容
平成23年10月14日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)は、補正前の請求項6(引用形式)を以下のように補正して新たな補正後の請求項1(独立形式)とすることを含むものである。
「光電変換素子をアレイ状に多数配置した固体撮像素子であって、
前記光電変換素子は、第一電極と、前記第一電極に対向する第二電極と、前記第一電極と前記第二電極との間に形成された光電変換層と、前記第一電極又は前記第二電極と前記光電変換層との間に設けられ、前記光電変換層の表面の凹凸を緩和する平滑層とを含む光電変換部を有し、
前記光電変換素子は、少なくとも1つの前記光電変換部が上方に積層された半導体基板と、前記半導体基板内に形成され、前記光電変換部の前記光電変換層で発生した電荷を蓄積するための電荷蓄積部と、前記光電変換部の前記第一電極又は前記第二電極と、前記電荷蓄積部とを電気的に接続する接続部とを有し、
前記多数の光電変換素子の各々の前記電荷蓄積部で蓄積された前記電荷に応じた信号を読み出す信号読み出し部を備え、
前記平滑層は、トリフェニルアミン構造を有する有機の正孔輸送性材料からなる透明な層であり、かつ、その表面の平均面粗さRaが1nm以下であり、かつ、その厚みが100?200nmであり、
前記光電変換層が多結晶の有機材料からなり、
前記有機材料がキナクリドン骨格の材料を含み、
前記第二電極が光入射側の電極であり、
前記平滑層が、前記第二電極と前記光電変換層との間に設けられ、
前記第一電極を電子取り出し用の電極とし、前記第二電極を正孔取り出し用の電極とした固体撮像素子。」

2 補正の目的
本件補正は、補正前(平成23年6月22日になされた手続補正後のもの)の請求項6において、平滑層の厚みを「10?300nm」から「100?200nm」に限定し、
「正孔輸送性材料からな」り、「前記正孔輸送性材料がトリフェニルアミン構造を有する材料」であって「有機のアモルファス材料からなる」平滑層を、「トリフェニルアミン構造を有する有機の正孔輸送性材料からなる」平滑層に補正するものであるが、補正前に「アモルファス材料」であったものを、「アモルファス材料」との限定を削除する補正であり、「アモルファス材料」以外の材料に拡張する補正であるから、本件補正は、本件補正前の前記記載について、特許請求の範囲の減縮を目的として行ったものとはいえないから、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものには該当しない。
また、本件補正の目的は、同法第17条の2第4項第1号、第3号、第4号の、請求項の削除、誤記の訂正、明りようでない記載の釈明、のいずれにも該当しない。
したがって、本件補正は、平成18年法律第55条改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

3 本件補正後における特許要件について
なお、以下のとおり、本件補正後の請求項1に係る発明(以下「本願補正発明」という。)は、特許を受けることができないものであるから、本件補正を受け入れる余地はない。
(1)本願補正発明の認定
本願補正発明は、上記1において、補正後のものとして記載したとおりのものと認める。

(2)刊行物の記載及び引用発明
ア 原査定の拒絶の理由に引用された、本願出願前に頒布された特開2004-134933号公報(以下「引用文献1」という。)には、以下の記載がある(下線は、審決で付した。)。
(ア)「【0001】【発明の属する技術分野】
本発明は、撮像部分に有機イメージセンサを有するデジタルスチルカメラとその作製方法に関する。・・・
【0003】上記ハロゲン化銀感光材料システムの欠点を解消するシステムの一つとして、近年、デジタルスチルカメラを用いた撮影システムが急速に発展してきている。このデジタルスチルカメラは、通常、無機系材料(例えば、シリコン系)から成るフォトダイオードを光電変換部にCCDイメージセンサーまたはCMOSイメージセンサーといわれる固体撮像素子を搭載している。しかしながら、ハロゲン化銀感光材料システムを用いたレンズ付きフィルム等に比較すると、低価格帯のデジタルスチルカメラでさえ、桁違いに高価である。また、該固体撮像素子の進歩から、デジタルスチルカメラの画質レベルは目覚ましい進歩が見られるが、撮影可能な光量のダイナミックレンジが狭く、かつ暗部のつぶれや明部の白飛びが生じやすい等の欠点も有している。この要因は、固体撮像素子の熱ノイズ、光電変換部の電荷の飽和の為であり、固体撮像素子が製造コストの観点から、いわゆる半導体プロセスルールに従って小型化に向かう限り、その解消は難しい状況である。・・・
【0009】【発明が解決しようとする課題】
そこで、本発明の目的は、撮像素子として有機イメージセンサを用いて、ハロゲン化銀写真感光材料を用いた撮影システム、無機系材料の固体撮像素子を用いたデジタルスチルカメラシステムの各欠点を解消した、高感度、高ダイナミックレンジで低コストな新たなデジタルスチルカメラ及びその作製方法を提供することである。」

(イ)「【0080】請求項13に係る発明のデジタルスチルカメラにおいては、有機イメージセンサの光電変換部が、粒径0.1nm以上1000nm以下の有機顔料を含むことを特徴とする。
【0081】本発明で用いることのできる有機顔料としては、例えば、・・・キナクリドン系、・・・等の縮合多環顔料、・・・等を挙げることができる。有機顔料の粒径は、電子または正孔伝達の効率を高める観点から、1nm以上、1000nm以下が必要であり、更には1nm以上、800nm以下が好ましい。本発明で規定する粒径を有する有機顔料を得る方法として、液相法、気相法、粉砕法等の方法を用いることができる。」

(ウ)「【0109】請求項17に係る発明のデジタルスチルカメラにおいては、有機イメージセンサの光電変換部が、正孔輸送材料を含むことを特徴とする。
【0110】正孔輸送材料として好ましく用いられる化合物としては、例えば、トリフェニルアミン系化合物、フルオニルジフェニルアミン誘導体、ポリシラン系化合物、ビスエナミン系誘導体、イミノスチルベン系化合物等を挙げることができる。・・・
【0116】以上の電子輸送材料または正孔輸送材料は、・・・各化合物と同じ層で用いてもよいし、また別層で用いてもよい。・・・
【0118】以上の正孔輸送層、発光層、電子輸送層に用いられる材料は、単独で各層を形成することができるが・・・」

(エ)「【0124】図7は、有機半導体を有する有機イメージセンサの一例を示す断面図である。図7に示す有機イメージセンサには、入射する電磁波(光)を電気エネルギーに変換する第1層(光電変換部)701が設けられている。この第1層701は、電磁波入射側から、隔膜702、透明電極膜703、正孔伝導層704、電荷発生層705、電子伝導層706、導電層707が設けられている。ここで、電荷発生層705は、光電変換可能な電磁波(光)によって、電子や正孔を発生し得る化合物を含有するものであり、光電変換を円滑に行うために、いくつかの機能分離された層を有することができる。」

(オ)「【0130】図7の第2層708には、第1層701で得られた電気エネルギーの蓄積及び蓄積された電気エネルギーに基づく信号の出力を行う(発生電荷処理部)層が形成されている。第2層708は、第1層701で生成された電気エネルギーを画素毎に蓄えるコンデンサ709と、蓄えられた電気エネルギーを信号として出力するためのスイッチング素子であるトランジスタ710を用いて構成されている。第2層708は、スイッチング素子を用いるものに限られるものではなく、例えば、蓄えられた電気エネルギーのエネルギーレベルに応じた信号を生成して出力する構成とすることもできる。
【0131】トランジスタ710は、例えば、TFT(薄膜トランジスタ)を用いるものとする。このTFTは、液晶ディスプレイ等に用いられている無機半導体系のものでもよく、有機半導体を用いてもよく、また、プラスチックフィルム上に形成されたTFTであることも好ましい構成である。プラスチックフィルム上に形成されたTFTとしては、アモルファスシリコン系のものが知られているが、その他、米国Alien Technology社で開発しているFSA(Fluidic Self Assembly)技術、即ち、単結晶シリコンで作製した微小CMOS(Nanoblocks)をエンボス加工したプラスチックフィルム上に配列させることで、フレキシブルなプラスチックフィルム上にTFTを形成するものとしても良い。さらに、Science283,822(1999)やAppl.Phys.Lett.,771488(1998)、Nature,403,521(2000)等の文献に記載されているような有機半導体を用いたTFTであってもよい。このように、本発明に用いられるスイッチング素子としては、上記FSA技術で作製したTFT及び有機半導体を用いたTFTが好ましく、特に好ましいのは、発生電荷処理部に有機半導体で構成されたTFTを用いることである。この有機半導体を用いてTFTを構成すれば、シリコン等の無機半導体を用いてTFTを構成する場合のように真空蒸着装置等の設備が不要となり、印刷法やインクジェット法を活用してTFTを形成できるので、製造コストが安価となる。さらに、加工温度を低くできることから、熱に弱いプラスチック基板状にも形成できる。」

(カ)「【0139】前述の図7において、スイッチング素子であるトランジスタ710には、第1層701で生成された電気エネルギーを蓄積するとともに、コンデンサ709の一方の電極となる収集電極711が接続されている。このコンデンサ709には第1層701で生成された電気エネルギーが蓄積されるとともに、この蓄積された電気エネルギーはトランジスタ710を駆動することで読み出される。すなわちスイッチング素子を駆動することで、画素毎の信号を生成することができる。
【0140】図7において、トランジスタ710は、ゲート電極712、ソース電極(ドレイン電極)713、ドレイン電極(ソース電極)714、有機半導体層715、絶縁層716で構成されている。」

(キ)「【0144】図10は、イメージセンサ100の構成を示しており、イメージセンサ100には照射された光の強度に応じて蓄積された電気エネルギーを読み出すための収集電極101が2次元配置されており、この収集電極101がコンデンサ108の一方の電極とされて、電気エネルギーがコンデンサ108に蓄えられる。ここで、1つの収集電極101は放射線画像の1画素に対応するものである。」

(ク)上記(ア)?(キ)を踏まえて第7図をみると、下記aないしgの点が認められる。
a 透明電極膜と導電層は対向する。
b 電荷発生層は透明電極膜と導電層との間に設けられる。
c 正孔伝導層は透明電極膜と電荷発生層の間に設けられる。
d 第1層は第2層の上方に積層される。
e コンデンサとトランジスタは第2層内に形成される。
f 透明電極膜は電磁波(光)入射側の電極である。
g 導電層は電子取り出し用の電極であり、透明電極膜は正孔取り出し用の電極である。

また、第7図は、次のものである。



上記(ア)?(ク)によれば、引用文献1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。
「照射された光の強度に応じて蓄積された電気エネルギーを読み出すための収集電極が2次元配置されており、この収集電極がコンデンサの一方の電極とされて、電気エネルギーがコンデンサに蓄えられる有機イメージセンサであって、
有機イメージセンサには、入射する電磁波(光)を電気エネルギーに変換する第1層(光電変換部)が設けられ、この第1層は、電磁波入射側から、隔膜、透明電極膜、正孔伝導層、電荷発生層、電子伝導層、導電層が設けられ、
第2層には、第1層で得られた電気エネルギーの蓄積及び蓄積された電気エネルギーに基づく信号の出力を行う(発生電荷処理部)層が形成され、第2層は、第1層で生成された電気エネルギーを画素毎に蓄えるコンデンサと、蓄えられた電気エネルギーを信号として出力するためのスイッチング素子であるトランジスタを用いて構成されていて、
スイッチング素子であるトランジスタには、第1層で生成された電気エネルギーを蓄積するとともに、コンデンサの一方の電極となる収集電極が接続され、このコンデンサには第1層で生成された電気エネルギーが蓄積されるとともに、この蓄積された電気エネルギーはトランジスタを駆動することで読み出され、すなわちスイッチング素子を駆動することで、画素毎の信号を生成することができ、
前記透明電極膜と前記導電層は対向し、前記電荷発生層は前記透明電極膜と前記導電層との間に設けられ、前記正孔伝導層は前記透明電極膜と前記電荷発生層の間に設けられ、前記第1層は前記第2層の上方に積層され、前記コンデンサと前記トランジスタは前記第2層内に形成され、前記透明電極膜は電磁波(光)入射側の電極であり、前記導電層は電子取り出し用の電極であり、前記透明電極膜は正孔取り出し用の電極であり、
有機イメージセンサの光電変換部が、粒径0.1nm以上1000nm以下の有機顔料を含み、有機顔料として、例えば、キナクリドン系等の縮合多環顔料等を挙げることができ、
正孔輸送材料として好ましく用いられる化合物としては、例えば、トリフェニルアミン系化合物等を挙げることができ、
正孔輸送層、発光層、電子輸送層に用いられる材料は、単独で各層を形成することができる有機イメージセンサ。」

イ 本願の出願前に頒布された、特開平10-228982号公報(以下「引用文献2」という。)には、以下の記載がある。
(ア)「【0034】本発明の有機発光素子の製造の具体例として、透明ガラス基板5上に、ITOから、蒸着法、スパッタ法等により透明な陽電極4を形成し、陽電極4上に、真空下の抵抗加熱法等の加熱法により”化5”のトリフェニルアミン4量体と、”化6”又は”化7”の色素化合物を同時に蒸着させ、アモルファス薄膜のホール輸送層2を形成する。ホール輸送層2の厚みは、40?200nm程度の薄い膜が適当である。本発明においては、ホール輸送層2が発光層として利用される。
【0035】ホール輸送層2上には、さらに、電子輸送層として、同様に、抵抗加熱蒸着により電子輸送化合物、例えば、トリス(8ーキノリノール)アルミニウム錯体(Alq)の蒸着膜が形成される。電子輸送層の厚みは、35?100nm程度の薄い皮膜が採用される。」
(イ)「【0054】・・・陽電極4の第2層であるホール注入用電極層41は、ガラス基板5上の第一層の上、有機インジウム塩化物又は有機スズ塩化物の溶液を塗布した後乾燥し、基板ごと焼付けて表面平滑な酸化物として作成される。・・・
【0055】一般的にITO透明電極は低い電気抵抗を利用するものであったが、第1層42は、低抵抗が好ましいので、従来の方法で形成してもよい。材料は、酸化インジウム、酸化すず、酸化アンチモン、酸化亜鉛から選ばれた1種の単独若しくは2種以上を複合化して形成される。第1層は、ガラス基板上にスパッタリング、電子ビーム蒸着等で作成し、そのあとで熱処理を行う。パターニングは、これら蒸着などの工程で行うことができる。スパッタリングや電子ビーム蒸着を行う場合は第1層の電極表面が荒れて凹凸が激しくなりそのまま使用すると黒点の発生要因を増大させる。第2層41は、第1層42上にコーティングされて、その表面の凹凸を少なくする点においても有効である。」

ウ 本願の出願前に頒布された、国際公開第02/30159号(以下「引用文献3」という。)には、以下の記載がある。
(ア)「また、本発明のトリアリール誘導体は、分子中に3級アリールアミン基を含有しているために、正孔輸送性があり、正孔輸送材料として適している他、本発明以外の正孔輸送材料と積層させることにより、電子輸送材料としての利用も可能である。
正孔注入層に用いられる材料に要求される条件としては、陽極とのコンタクトがよく均一な薄膜が形成でき、熱的に安定、すなわち、融点又はTgが高く、融点としては少なくとも250℃以上、Tgとしては100℃以上が要求されるが、本発明で使用するトリアリールアミン誘導体は、これらの要求を満たしており、正孔注入材料としても適している。
・・・なお、本発明で使用するトリアリールアミン誘導体を含有する層の膜厚であるが、通常5?300nm、好ましくは10?100nmである。このように薄い層を作るには、蒸着法が好ましいが、必要により、バインダー樹脂を添加し、溶剤に溶解させ、塗布溶液を調整し、スピンコート法等の方法により塗布し、乾燥させ、製膜することもできる。
本発明の有機電界発光素子に使用される他の正孔注入材料及び正孔輸送材料については、光導伝材料において、正孔の電荷輸送材料として従来から慣用されているものや、有機電界発光素子の正孔注入層及び正孔輸送層に使用されている公知のものの中から任意のものを選択して用いることができる。例えば、・・・4,4’,4’’-トリス{N-(3-メチルフェニル)-N-フェニルアミノ}トリフェニルアミン、・・・などが挙げられる。本発明の有機電界発光素子において、正孔注入材料、正孔輸送材料、発光材料、電子注入材料などの使用材料としては、好ましくはTgが80℃以上のもの、より好ましくはTgが100℃以上のものである。
なお、本発明の有機電界発光素子における正孔注入層及び正孔輸送層は、上記の化合物の1種以上を含有する複数の層を積層したものであってもよい。」(16頁14行?18頁14行)
(イ)「本発明の有機電界発光素子を構成する各層は、各層を構成すべき材料を蒸着法、スピンコート法、インクジェット法などの公知の方法で薄膜とすることにより、形成することができる。このようにして形成された各層の膜厚については特に制限はなく、素材の性質に応じて選定することができる。通常2nm?5000nmの範囲で選定される。なお、トリフェニルアミン誘導体を薄膜化する方法としては、均質な膜が得やすく、かつピンホールが生成しにくいなどの点から蒸着法を適るのが好ましい。蒸着法を用いて薄膜化する場合、その蒸着条件は、フェナントレン誘導体の種類、分子累積膜の目的とする結晶構造及び会合構造などにより異なるが、一般にボート加熱温度50?400℃、真空度1?10Pa、蒸着速度0.01?50nm/秒、基板温度-150?+300℃、膜厚5nm?5μmの範囲で選定することが望ましい。」(20頁3?14行)

エ 本願の出願前に頒布された、特開2002-198171号公報(以下「引用文献4」という。)には、以下の記載がある。
(ア)「【0028】<有機層の平坦性>まず有機層の平坦性について説明する。トリフェニルアミン多量体を主成分とする有機層は、上述のように正孔輸送層として用いることができるが、これを主成分とする有機層は、形成温度が高くなると表面荒さRaが減少する。一方、発光層や電子輸送層には、キノリノールアルミ錯体を主成分とした有機層を用いることができるが、この有機層は形成温度が高くなると表面荒さRaが増加し、特に、70℃以上の条件で急激に増加する傾向を示すことがわかった。
【0029】従って、このような傾向を示す両有機層の積層構造を平坦に保つためには、トリフェニルアミン多量体を主成分とする有機層を平坦化するためにある程度形成温度を高くし、かつキノリノールアルミ錯体を主成分とする有機層の表面荒さがあまり増加しないような形成温度に抑えておく必要がある。
【0030】そこで、本実施形態では、有機層の形成温度を60℃以上で80℃以下に設定する。このような温度設定で有機層を蒸着形成すれば、トリフェニルアミン多量体を主成分とする有機層の表面荒さRaを常温で形成した場合の90%以下にまで平坦化しつつ、キノリノールアルミ錯体を主成分とした有機層の表面荒さRaを常温で形成した場合の120%以下に抑えることが可能となる。これにより有機層の総合的な平坦性の指針としてトリフェニルアミン多量体を主成分とする有機層の表面荒さRaと、キノリノールアルミ錯体を主成分とする有機層の表面荒さRaとの積を、常温で形成した場合の95%以下に抑えることができる。この結果、界面荒さが原因となる素子駆動にともなる輝度低下を抑えることができ、有機電界発光素子の長寿命化が可能となる。」
(イ)「【0034】【実施例】以下、本発明の実施例について説明する。図1は、実施例1として作製した有機EL素子の構造を示している。この素子は、ガラス基板10の上に、第1電極(ホール注入電極:陽極)12、有機層20、第2電極(電子注入電極:陰極)18が積層された構造である。有機層20は、正孔注入層22として銅フタロシアニン(CuPc)、正孔輸送層24としてトリフェニルアミン4量体(TPTE)、発光層26としてキノリノールアルミ錯体(Alq_(3))の積層構造とした。第1電極12として透明導電膜であるITOを用い、第2電極18には、Alを用いた。また第2電極18と有機層(発光層26)との層間には電子注入層14としてフッ化リチウム(LiF)を用いた。各層の厚さは、ITO:150nm、銅フタロシアニン:10nm、トリフェニルアミン4量体:50nm、キノリノールアルミ錯体:60nm、フッ化リチウム:0.5nm、アルミ:100nmとした。」

オ 本願の出願前に頒布された、特開平7-240530号公報(以下「引用文献5」という。)には、以下の記載がある。
(ア)「【0005】【課題を解決するための手段】上記目的を達成するため鋭意検討した結果、光活性層が結晶型の電子供与性有機顔料を結晶微粒子状に分散した層上に電子受容性有機顔料層を真空蒸着した構造とすることにより、より安価で高効率な有機太陽電池が得られること、そしてさらに電子受容性のバインダー樹脂を用いて電子供与性有機顔料の増感を行うことにより、光電変換効率が大幅に向上することを見いだし、本発明を完成するに至った。すなわち本発明の有機太陽電池は、透明電極基板上に、電子供与性有機物層、電子受容性有機物層および対向電極を順次積層したものであって、該電子供与性有機物層がバインダー樹脂中に結晶微粒子状に分散された電子供与性有機顔料を含有してなる層であり、該電子受容性有機物層が電子受容性有機顔料の蒸着膜であることを特徴とする。・・・」
(イ)「【0008】・・・本発明に適用可能な電子供与性有機顔料としては・・・キナクリドン系顔料等が挙げられる・・・」

カ 本願の出願前に頒布された、特開2002-222970号公報(以下「引用文献6」という。)には、以下の記載がある。
(ア)「【0001】【発明の属する技術分野】本発明は、光照射により起電力を発生する光電変換素子及びその製造方法に関する。本発明の光電変換素子は、例えば、太陽電池、光センサ及び光演算素子等に用いられる。」
(イ)「【0007】更に、太陽電池に有用とされる有機顔料は、結晶形によって異なる光電特性(起電力特性)を有し、有機顔料は特定の結晶形においてのみ優れた光電特性を示すことが知られている。しかし、蒸着法による成膜工程では結晶形を選択することが困難であるため、高い光電特性を有する所望の結晶形の顔料からなる半導体層を得ることは難しいという問題もあった。」
(ウ)「【0021】有機p型半導体微粒子P_(p)は、微粒子分散した場合にも安定してp型半導体特性を示すp型半導体であればよく、・・・キナクリドン系顔料などが挙げられる。前述のように有機顔料を用いる場合にはその顔料の持つ結晶形が重要であり、高い光電特性を示す結晶形にする必要がある。」

(3)対比・判断
ア 本願補正発明と引用発明とを対比する。
(ア)引用発明の「有機イメージセンサ」は、引用文献1に「デジタルスチルカメラは、通常、無機系材料(例えば、シリコン系)から成るフォトダイオードを光電変換部にCCDイメージセンサーまたはCMOSイメージセンサーといわれる固体撮像素子を搭載している。・・・該固体撮像素子の進歩から、デジタルスチルカメラの画質レベルは目覚ましい進歩が見られるが、撮影可能な光量のダイナミックレンジが狭く、かつ暗部のつぶれや明部の白飛びが生じやすい等の欠点も有している。この要因は、固体撮像素子の熱ノイズ、光電変換部の電荷の飽和の為であり、固体撮像素子が製造コストの観点から、いわゆる半導体プロセスルールに従って小型化に向かう限り、その解消は難しい状況である。・・・そこで、本発明の目的は、撮像素子として有機イメージセンサを用いて、ハロゲン化銀写真感光材料を用いた撮影システム、無機系材料の固体撮像素子を用いたデジタルスチルカメラシステムの各欠点を解消した、高感度、高ダイナミックレンジで低コストな新たなデジタルスチルカメラ及びその作製方法を提供することである。」( 上記(2)ア(ア))と記載されているように、従来技術である「(無機系材料(例えば、シリコン系)から成る)固体撮像素子」の各欠点を解消するものであって、「有機イメージセンサの光電変換部が、粒径0.1nm以上1000nm以下の有機顔料を含み、有機顔料として、例えば、キナクリドン系等の縮合多環顔料等を挙げることができ」るものであるところ、本願補正発明も「前記光電変換層が多結晶の有機材料からなり、前記有機材料がキナクリドン骨格の材料を含」むものであるから、両者は同様の「(キナクリドン系の)有機イメージセンサ」であるといえるから、引用発明は、本願補正発明の「前記光電変換層が有機材料からなり、前記有機材料がキナクリドン骨格の材料を含」むとの構成を備える。
そうすると、本願補正発明でいうところの「固体撮像素子」は、引用発明の「有機イメージセンサ」を含むと認められるから、引用発明の「有機イメージセンサ」は、本願補正発明の「固体撮像素子」に相当するといえる。

(イ)引用発明の「有機イメージセンサ」は、「照射された光の強度に応じて蓄積された電気エネルギーを読み出すための収集電極が2次元配置されて」いるものであるところ、「照射された光の強度に応じて蓄積された電気エネルギーを読み出すための収集電極」は、単に電極だけが備わっているのではなく、引用発明の「収集電極」は、「コンデンサの一方の電極とされて」、「有機イメージセンサには、入射する電磁波(光)を電気エネルギーに変換する第1層(光電変換部)が設けられ」、「第2層は、第1層で生成された電気エネルギーを画素毎に蓄えるコンデンサ」が形成されるものであって、収集電極の上には「入射する電磁波(光)を電気エネルギーに変換する第1層(光電変換部)」が設けられ、「コンデンサ」が「画素毎に」「第1層(光電変換部)」で生成された電気エネルギーを蓄えるものであることに照らして、本願補正発明の「光電変換素子」に相当する、「画素」に対応する「入射する電磁波(光)を電気エネルギーに変換する第1層(光電変換部)」が設けられていることは明らかであって、かつ、「2次元配置されて」いるから、本願補正発明の「光電変換素子をアレイ状に多数配置」する構成に相当する。
したがって、上記(ア)での検討に照らして、引用発明は、本願補正発明の「光電変換素子をアレイ状に多数配置した固体撮像素子」との構成を備える。

(ウ)引用発明の「有機イメージセンサ」は、「入射する電磁波(光)を電気エネルギーに変換する第1層(光電変換部)が設けられ、この第1層は、電磁波入射側から、隔膜、透明電極膜、正孔伝導層、電荷発生層、電子伝導層、導電層が設けられ」、「導電層は電子取り出し用の電極であり、透明電極膜は正孔取り出し用の電極である」ところ、引用発明の「入射する電磁波(光)を電気エネルギーに変換する第1層(光電変換部)」、「(電磁波入射側の正孔取り出し用の電極である)透明電極膜」、「電荷発生層」、「(電子取り出し用の電極である)導電層」は、本願補正発明の「光電変換部」、「(光入射側の電極であり正孔取り出し用の電極である)第二電極」、「光電変換層」、「(電子取り出し用の電極である)第一電極」にそれぞれ相当するから、引用発明は、本願補正発明の「前記光電変換素子は、第一電極と、前記第一電極に対向する第二電極と、前記第一電極と前記第二電極との間に形成された光電変換層とを含む光電変換部を有し」、「前記第二電極が光入射側の電極であり」、「前記第一電極を電子取り出し用の電極とし、前記第二電極を正孔取り出し用の電極」とするとの構成を備える。

(エ)引用発明の「正孔伝導層」は、「第1層」の「透明電極膜と前記電荷発生層の間に設けられ」、「正孔輸送材料としてトリフェニルアミン系化合物等を挙げることができ」るものであって、「透明電極膜と前記電荷発生層の間に設けられ」るものであることに照らして、透明な層であることは明らかであるから、引用発明の「正孔伝導層」は、本願補正発明の「(前記第一電極又は前記第二電極と前記光電変換層との間に設けられ、トリフェニルアミン構造を有する有機の正孔輸送性材料からなる透明な層であり、前記第二電極と前記光電変換層との間に設けられる)層」に相当する。

(オ)引用発明の「第2層」は、「第1層で得られた電気エネルギーの蓄積及び蓄積された電気エネルギーに基づく信号の出力を行う(発生電荷処理部)層が形成され」、「第1層で生成された電気エネルギーを画素毎に蓄えるコンデンサと、蓄えられた電気エネルギーを信号として出力するためのスイッチング素子であるトランジスタを用いて構成されてい」るものであり、また、「前記第1層は前記第2層の上方に積層され、前記コンデンサと前記トランジスタは前記第2層内に形成され」るものであるところ、上記(ウ)での検討に照らして、引用発明の「第1層」は本願補正発明の「光電変換部」に相当する。
また、当該「第1層」は「第2層の上方に積層され」るから、本願補正発明の「(少なくとも1つの前記光電変換部が上方に積層された)基板」に相当する。
そうすると、引用発明の「(第1層で生成された電気エネルギーを画素毎に蓄える)コンデンサ」及び「(蓄えられた電気エネルギーを信号として出力するためのスイッチング素子である)トランジスタ」は、本願補正発明の「(前記光電変換部の前記光電変換層で発生した電荷を蓄積するための)電荷蓄積部」及び「(前記多数の光電変換素子の各々の前記電荷蓄積部で蓄積された前記電荷に応じた信号を読み出す)信号読み出し部」にそれぞ相当する。
さらに、引用発明の「収集電極」は、「第1層で生成された電気エネルギーを蓄積するとともに、コンデンサの一方の電極となる収集電極が接続され、このコンデンサには第1層で生成された電気エネルギーが蓄積されるとともに、この蓄積された電気エネルギーはトランジスタを駆動することで読み出され」るものであるから、本願補正発明の「(光電変換部の前記第一電極又は前記第二電極と、前記電荷蓄積部とを電気的に接続する)接続部」に相当する。
したがって、引用発明は、本願補正発明の「前記光電変換素子は、少なくとも1つの前記光電変換部が上方に積層された基板と、前記基板内に形成され、前記光電変換部の前記光電変換層で発生した電荷を蓄積するための電荷蓄積部と、前記光電変換部の前記第一電極又は前記第二電極と、前記電荷蓄積部とを電気的に接続する接続部とを有し、前記多数の光電変換素子の各々の前記電荷蓄積部で蓄積された前記電荷に応じた信号を読み出す信号読み出し部を備え」るとの構成を備える。

以上によれば、両者は、
「光電変換素子をアレイ状に多数配置した固体撮像素子であって、
前記光電変換素子は、第一電極と、前記第一電極に対向する第二電極と、前記第一電極と前記第二電極との間に形成された光電変換層と、前記第一電極又は前記第二電極と前記光電変換層との間に設けられる層とを含む光電変換部を有し、
前記光電変換素子は、少なくとも1つの前記光電変換部が上方に積層された基板と、前記基板内に形成され、前記光電変換部の前記光電変換層で発生した電荷を蓄積するための電荷蓄積部と、前記光電変換部の前記第一電極又は前記第二電極と、前記電荷蓄積部とを電気的に接続する接続部とを有し、
前記多数の光電変換素子の各々の前記電荷蓄積部で蓄積された前記電荷に応じた信号を読み出す信号読み出し部を備え、
前記層は、トリフェニルアミン構造を有する有機の正孔輸送性材料からなる透明な層であり、
前記光電変換層が有機材料からなり、
前記有機材料がキナクリドン骨格の材料を含み、
前記第二電極が光入射側の電極であり、
前記層が、前記第二電極と前記光電変換層との間に設けられ、
前記第一電極を電子取り出し用の電極とし、前記第二電極を正孔取り出し用の電極とした固体撮像素子。」
である点で一致し、

a 「(少なくとも1つの光電変換部が上方に積層された)基板」が、本願補正発明では「半導体基板」であるのに対して、引用発明の「第2層」は、半導体基板であるか明らかではない点(以下「相違点1」という)、

b 本願補正発明では、「(第二電極と光電変換層との間に設けられる)層」は、「光電変換層の表面の凹凸を緩和する平滑層」であって、「その表面の平均面粗さRaが1nm以下であり、かつ、その厚みが100?200nmであ」るのに対し、引用発明の「(透明電極膜と電荷発生層の間に設ける)正孔伝導層」は、このようなものであるか明らかではない点(以下「相違点2」という)、及び、

c 本願補正発明では、「光電変換層」の「有機材料」が「多結晶の有機材料からなり、前記有機材料がキナクリドン骨格の材料を含」むのに対して、引用発明の「電荷発生層」が「粒径0.1nm以上1000nm以下の有機顔料を含み、有機顔料としては、キナクリドン系等の縮合多環顔料が用いられ」るものであるところ、「(キナクリドン系等の縮合多環顔料が用いられる)有機顔料」が「多結晶」であるか明らかではない点(以下「相違点3」という)、
で相違する。

イ 上記相違点について検討する。
(ア)相違点1について
引用発明の「第2層」は具体的な素材が明らかではないが、引用発明は「第2層は、第1層で生成された電気エネルギーを画素毎に蓄えるコンデンサと、蓄えられた電気エネルギーを信号として出力するためのスイッチング素子であるトランジスタを用いて構成されてい」るところ、引用文献1には「トランジスタ710は、ゲート電極712、ソース電極(ドレイン電極)713、ドレイン電極(ソース電極)714、有機半導体層715、絶縁層716で構成されている。」(上記(2)ア(カ)【0140】)と記載されていることに照らせば、引用発明の「第2層」を半導体で構成し、上記相違点1に係る本願補正発明の構成とすることは、当業者が必要に応じて容易になし得る程度のものと認められる。

(イ)相違点2について
引用発明の「(透明電極膜と電荷発生層の間に設ける)正孔伝導層」は「電荷発生層」の表面の凹凸を緩和する平滑層として設けられるものではなく、具体的な成膜の方法、表面の平均面粗さ及び厚みが明らかではない。
しかしながら、「トリフェニルアミン構造を有する有機の正孔輸送性材料からなる層」を蒸着により100nm以上成膜することは周知の技術であるから(必要ならば引用文献2または3(上記(2)イないしウ)参照)、引用発明において、「(透明電極膜と電荷発生層の間に設ける)正孔伝導層」を上記周知の技術により蒸着により100nm以上成膜することは、当業者が必要に応じて容易になし得る程度のものと認められる。
そうすると、「トリフェニルアミン構造を有する有機の正孔輸送性材料からなる層」を蒸着により適宜の厚さ以上に成膜した場合は、「トリフェニルアミン構造を有する有機の正孔輸送性材料からなる層」が「平滑」、「均質」ないし「平坦」なものとなるから(必要ならば引用文献2ないし4(上記(2)イないしエ)参照)、引用発明において、「(透明電極膜と電荷発生層の間に設ける)正孔伝導層」を上記周知の技術により蒸着して所定の厚み以上成膜すれば、「(透明電極膜と電荷発生層の間に設ける)正孔伝導層」は「平滑」、「均質」ないし「平坦」なものとなって、結果として「電荷発生層」の表面の凹凸を緩和する平滑層として機能するものとなり(必要ならば引用文献2(上記(2)イ)参照)、その表面粗さも(「平滑」、「均質」ないし「平坦」な範囲において)適宜のものとなるから、引用発明の「トリフェニルアミン構造を有する有機の正孔輸送性材料からなる透明な層」に上記周知の技術を適用し、上記相違点2に係る本願補正発明の構成とすることは当業者が容易に想到できたことであり、その効果も予測し得た程度のものである。

(ウ)相違点3について
引用発明の「電荷発生層」が含む「有機顔料として」の「キナクリドン系等の縮合多環顔料」が「多結晶」であるか否か明らかではないが、「キナクリドン系」の有機物質が結晶性を有し、「キナクリドン系」の「顔料」の層を構成するに際して、「キナクリドン系」の「顔料」の「微結晶」を分散させて層を構成することは周知の技術であるところ(必要ならば引用文献5ないし6(上記(2)オないしカ)参照)、本願補正発明の「多結晶の有機材料」に関して、本願明細書に「ここで、多結晶層とは同一材料で結晶方位の異なる微結晶が集合した層であり、単結晶材料やアモルファス材料に比べて、その表面に比較的凹凸が多く存在する。」(段落【0007】)と記載されているように、本願補正発明の「多結晶」は「微結晶が集合した層」を意味するから、引用発明において、「有機顔料として」の「キナクリドン系等の縮合多環顔料」を含む「電荷発生層」を構成するに際して、上記周知の技術を適用して、「(キナクリドン系等の縮合多環顔料の)微結晶を分散させた層」、つまり「(キナクリドン系等の縮合多環顔料の)微結晶が集合した(多結晶の)層」となして、上記相違点3に係る本願補正発明の構成とすることは当業者が容易に想到できたことである。

(4)小括
以上の検討によれば、本願補正発明は、引用文献1に記載された発明および上記周知の技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものである。

4 まとめ
したがって、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について

1 本願発明
上記のとおり、本件補正は却下されたので、本願の請求項に係る発明は、平成23年6月22日になされた補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし24に記載された事項によって特定されるものと認められるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。

「光電変換素子をアレイ状に多数配置した固体撮像素子であって、
前記光電変換素子は、第一電極と、前記第一電極に対向する第二電極と、前記第一電極と前記第二電極との間に形成された光電変換層と、前記第一電極又は前記第二電極と前記光電変換層との間に設けられ、前記光電変換層の表面の凹凸を緩和する平滑層とを含む光電変換部を有し、
前記光電変換素子は、少なくとも1つの前記光電変換部が上方に積層された半導体基板と、前記半導体基板内に形成され、前記光電変換部の前記光電変換層で発生した電荷を蓄積するための電荷蓄積部と、前記光電変換部の前記第一電極又は前記第二電極と、前記電荷蓄積部とを電気的に接続する接続部とを有し、
前記多数の光電変換素子の各々の前記電荷蓄積部で蓄積された前記電荷に応じた信号を読み出す信号読み出し部を備え、
前記平滑層は、有機のアモルファス材料からなる透明な層であり、かつ、その表面の平均面粗さRaが1nm以下であり、かつ、その厚みが10?300nmである固体撮像素子。」

2 刊行物の記載及び引用発明
上記第2、3(2)アないしオのとおりである。

3 対比・判断
(1)上記第2、3(3)での検討に照らして、本願発明と引用発明とを対比すると、両者は、
「光電変換素子をアレイ状に多数配置した固体撮像素子であって、
前記光電変換素子は、第一電極と、前記第一電極に対向する第二電極と、前記第一電極と前記第二電極との間に形成された光電変換層と、前記第一電極又は前記第二電極と前記光電変換層との間に設けられる層とを含む光電変換部を有し、
前記光電変換素子は、少なくとも1つの前記光電変換部が上方に積層された基板と、前記基板内に形成され、前記光電変換部の前記光電変換層で発生した電荷を蓄積するための電荷蓄積部と、前記光電変換部の前記第一電極又は前記第二電極と、前記電荷蓄積部とを電気的に接続する接続部とを有し、
前記多数の光電変換素子の各々の前記電荷蓄積部で蓄積された前記電荷に応じた信号を読み出す信号読み出し部を備え、
前記層は、有機の材料からなる透明な層である固体撮像素子。」
である点で一致し、

ア 「(少なくとも1つの光電変換部が上方に積層された)基板」が、本願発明では「半導体基板」であるのに対して、引用発明の「第2層」は、半導体基板であるか明らかではない点(以下「相違点4」という)、及び、

イ 本願発明では、「(第二電極と光電変換層との間に設けられる)層」は、「光電変換層の表面の凹凸を緩和する平滑層」であって、「有機のアモルファス材料からなる透明な層であり、かつ、その表面の平均面粗さRaが1nm以下であり、かつ、その厚みが10?300nmである」のに対し、引用発明の「(透明電極膜と電荷発生層の間に設ける)正孔伝導層」は、このようなものであるか明らかではない点(以下「相違点5」という)、
で相違する。

(2)上記相違点について検討する。
ア 相違点4について
相違点4は相違点1と同じ内容であるから、上記第2、3(3)イ(ア)で検討したとおり、引用発明の「第2層」を半導体で構成し、上記相違点4に係る本願発明の構成とすることは当業者が適宜なし得ることである。

イ 相違点5について
相違点5は、相違点2における「トリフェニルアミン構造を有する有機の正孔輸送性材料からなる透明な層であり、かつ、その表面の平均面粗さRaが1nm以下であり、かつ、その厚みが100?200nmであ」る「平滑層」にかえて、「有機のアモルファス材料からなる透明な層であり、かつ、その表面の平均面粗さRaが1nm以下であり、かつ、その厚みが10?300nmである」「平滑層」とするものであって、「アモルファス材料」である点を除き相違点2の構成を全て含むものである。
しかるところ、引用発明の「トリフェニルアミン構造を有する有機の正孔輸送性材料からなる透明な層」が「アモルファス材料」であるか否か明らかではないが、引用発明の「トリフェニルアミン構造を有する有機の正孔輸送性材料からなる透明な層」に上記第2、3(3)イ(イ)で示した周知の技術を採用して蒸着すれば、「トリフェニルアミン構造を有する有機の正孔輸送性材料からなる層」が「平滑」、「均質」ないし「平坦」なものとなることが周知の事項であり(必要ならば引用文献2ないし4(上記第2、3(2)イないしエ)参照)、また「アモルファス性の膜」となることも周知の事項であるから(必要ならば引用文献2(上記第2、3(2)イ)参照)、上記第2、3(3)イ(イ)での検討に照らして、上記相違点5に係る本願発明の構成とすることは当業者が適宜なし得ることである。

4 まとめ
したがって、本願発明は、引用文献1に記載された発明および上記周知の技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものである。

第4 むすび

以上のとおり、本願発明は、引用文献1に記載された発明および上記周知の技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-08-03 
結審通知日 2012-08-07 
審決日 2012-08-27 
出願番号 特願2006-45955(P2006-45955)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H01L)
P 1 8・ 575- Z (H01L)
P 1 8・ 572- Z (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 加藤 万里子  
特許庁審判長 服部 秀男
特許庁審判官 小松 徹三
松川 直樹
発明の名称 光電変換素子、固体撮像素子  
代理人 木村 伸也  
代理人 尾澤 俊之  
代理人 高松 猛  

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