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審決分類 審判 一部無効 2項進歩性  A61M
管理番号 1265043
審判番号 無効2010-800230  
総通号数 156 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-12-28 
種別 無効の審決 
審判請求日 2010-12-14 
確定日 2012-10-25 
事件の表示 上記当事者間の特許第2647132号発明「安全後退用針を備えたカニューレ挿入装置」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 第一 手続の経緯
本件特許第2647132号に係る出願(特願昭63-107382号)は、昭和63年4月28日に出願され、その特許権の設定登録は平成9年5月9日にされ、その後、請求人メディキット株式会社から無効審判が請求されたものである。以下、請求以後の経緯を整理して示す。

平成22年12月14日 審判請求書の提出
平成23年 4月 7日 答弁書の提出
平成23年 8月 9日 口頭審理陳述要領書の提出(請求人より)
平成23年 8月10日 口頭審理陳述要領書の提出(被請求人より)
平成23年 8月24日 上申書の提出(請求人より)
平成23年 8月24日 口頭審理の実施


第二 本件特許発明
本件特許に係る明細書は、平成22年2月22日に請求された訂正審判(訂正2010-390017号)の平成22年6月1日付け審決により、訂正審判の請求書に添付された訂正明細書のとおり訂正することが認容されている。
よって、本件特許の請求項1に係る発明(以下、「本件特許発明」という。)は、該訂正明細書の記載からみて、特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものである。

「近い端及び遠い端を有する中空のハンドルと、
該ハンドル内に配置されたニードルハブと、
鋭い自由端と、前記ニードルハブに連結された固着端とを有し、カニューレを患者の定位置に案内し運ぶためのニードルと、
前記ニードルハブを前記中空なハンドルの近い端に向かって付勢する付勢手段と、
前記ニードルハブから独立して移動可能であり、前記ニードルハブを前記付勢手段の力に抗して一時的に前記中空のハンドルの遠い端に隣接して保持するラッチであって、前記ニードルの長さよりも短い振幅で手動により駆動され、前記ニードルの移動距離よりも短い距離のみ移動するラッチと、
から成ることを特徴とする、カニューレ挿入のための安全装置。」


第三 請求人の主張
審判請求書、平成23年8月9日付け口頭審理陳述要領書及び平成23年8月24日付け上申書によれば、請求人は、本件特許発明を無効とする、審判費用は被請求人の負担とするとの審決を求め、その理由として次の点を主張するとともに、下記の証拠方法を提出している。

本件特許発明は、甲第1号証に記載の発明、並びに甲第2号証ないし甲第6号証、甲第10号証、甲第13号証ないし甲第15号証、甲第16号証ないし甲第18号証、甲第20号証ないし甲第25号証、甲第29号証及び甲第48号証ないし甲第62号証に記載された周知の技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、本件特許は、特許法第123条第1項第2号の規定により無効とされるべきである。


[証拠方法]
甲第1号証:特開昭62-72367号公報
甲第2号証:特開昭59-69080号公報
甲第3号証:米国特許第3572334号明細書及びその抄訳
甲第4号証:米国特許第4160450号明細書及びその抄訳
甲第5号証:特開昭50-27200号公報
甲第6号証:実願昭55-015351号(実開昭56-116961号公報)のマイクロフィルム
甲第10号証:米国特許第4337576号明細書及びその抄訳
甲第13号証:米国特許第3306290号明細書及びその抄訳
甲第14号証:米国特許第2605766号明細書及びその抄訳
甲第15号証:特開昭58-7260号公報
甲第16号証:米国特許第4675005号明細書及びその抄訳
甲第17号証:米国特許第4692156号明細書及びその抄訳
甲第18号証:米国特許第4676783号明細書及びその抄訳
甲第20号証:特開昭62-217976号公報
甲第21号証:米国特許第4664654号明細書及びその抄訳
甲第22号証:米国特許第4105030号明細書及びその抄訳
甲第23号証:米国特許第2427069号明細書及びその抄訳
甲第24号証:米国特許第2988055号明細書及びその抄訳
甲第25号証:米国特許第3039436号明細書及びその抄訳
甲第29号証:「GOOD DESIGN AWARD」のウェブページの写し
甲第48号証:実公昭49-18462号公報
甲第49号証:特公昭46-26717号公報
甲第50号証:メディキット株式会社「ハッピーキャス」の広告、「人工透析研究会会誌」15巻1号、1982年1月31日発行
甲第51号証:太田和夫著「透析療法とその周辺知識」株式会社南江堂、第108?109頁、1979年12月10日発行
甲第52号証:テルモ株式会社の「サーフロー留置針」に係るカタログ、1985年8月27日発行
甲第53号証:ニプロ株式会社の「セーフレットキャス」に係るカタログ、1987年4月発行
甲第54号証:ジョンソン・エンド・ジョンソン株式会社の「ジェルコ I.V.カテーテル」に係るカタログ、1983年発行
甲第55号証:B.Braun Melsungen A.G.社の「VASOFIX IN」)に係るカタログ(裏表紙には、「58.04」との記載がある。)
甲第56号証:実公昭49-25514号公報
甲第57号証:実願昭52-162022号(実開昭54-87693号)のマイクロフィルム
甲第58号証:米国特許第3262449号明細書
甲第59号証:米国特許第4592744号明細書
甲第60号証:米国特許第4160450号明細書
甲第61号証:米国特許第3572334号明細書
甲第62号証:特公昭62-26787号公報


第四 被請求人の主張
被請求人は、請求人主張の無効理由には理由がなく、本件審判の請求は成り立たない旨主張している。


第五 甲各号証の記載事項
1.甲第1号証
本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲第1号証(特開昭62-72367号公報)には、図面とともに次の事項が記載されている。
(1a)「(1)皮下注射針またはその他の器具に関連した動きによるか、あるいはそのものの上に折り重ねることによって、前記の針またはその他の器具が正常に使用される第1の位置で、前記の針またはその他の器具、あるいはその支持体に接続させ、据えておくことができるようになっている1個のさやから成り、第2の位置では、さやが、針またはその他の器具を包み、かつその第2の位置に、さやを保持するようになっていることを特徴とする皮下注射針等の安全装置。」(特許請求の範囲第1項)

(1b)「(5)針が、ハウジングによって支持されており、かつさやが、ハウジングに固着されていることを特徴とする特許請求の範囲第(1)項乃至第(3)項のいずれかに記載の皮下注射針等の安全装置。」(特許請求の範囲第5項)

(1c)「(6)さやが、針の長さ方向に平行に、ハウジングに対して動くことができ、それにより、さやが、針を包むように移動できることを特徴とする特許請求の範囲第(5)項に記載の皮下注射針等の安全装置。」(特許請求の範囲第6項)

(1d)「(産業上の利用分野)
本発明は、皮膚の臨床的穿刺に用いられる皮下注射針またはその類似器具の安全装置に関する。
(従来の技術)
病院、健康センター、あるいはその他の臨床分野での人間の血液試料採取は、薬物製剤や生化学物質の注射と同じように、常習的な医療処理である。
しかし、臨床オペレータが、処理後、誤って、針で自分自身あるいは他の人を傷つけ、そのために病気が媒介されたり、あるいは化学的または生物学的中毒を引き起すという偶発事故が、新聞や医療雑誌に数多く報告されている。」(2頁左上欄15?右上欄7行)

(1e)「(発明が解決しようとする問題点)
臨床オペレータ、臨床処理の監視者、および一般の人々を含むその他すべての関係者が、誤って傷つくことのないような方法で、皮下注射針またはそうした器具を処理することのできる装置が明らかに必要である。
本発明の目的は、そうした装置を提供することにある。」(2頁右上欄8?15行)

(1f)「本発明の安全装置は、皮下注射針に代表される穿刺器具の保護に、一般的に適用できるものであるが、そうした器具の中でも、皮下注射針は、最も広範に使用されている。
例えば、この装置は、生検針、傷針、すなわち、接着テープによるような皮膚表面に針を固定することのできる側面付属装置の付いた針の保護や、静脈カニューレや腰椎穿刺針の保護に適用することができる。」(2頁左下欄7?15行)

(1g)「本発明によるさやは、予め針に取り付けて提供するのが、好適かつ簡便である。
特に好適には、さやは、除去されないように、または容易に除去されることのないような方法で取り付けられる。例えば、さやを、針または針の支持体に接着するか、あるいは針または支持体にクリップで止めてもよい。」(2頁右下欄7?13行)

(1h)「(実施例)
本発明を、添付図面について、さらに説明する。
第1A図および第1B図に示した本発明の実施態様は、針(5)を支持しているプラスチック成形物の針ハウジング(4)と、ハウジング(4)の上を滑ることができるように支持された、さやと共に要素を構成する親指ガード(7)と合体したプラスチックさや(6)から成っている。」(3頁右上欄12?19行)

(1i)「さや(6)は、拡大図により詳細に示してあるように、溝(8)に沿って滑る自動ばね栓(9)と合体している。さやが溝(8)の端までいくと、自動ばね栓(9)が、小さな「くぼみ」(10)に落ちて、滑動するさやを所定の位置に固定する。
さやの長さは、第1B図に示すように、それが所定の位置に固定された際、針の鋭利な先端がさやに完全に含まれるような長さである。
ハウジング(4)は、どの標準的注射器胴部または連結器にも合うように設計されている。
使用後、保護さやを固定位置まで伸ばし、安全な方法で針を含む。」(3頁左下欄2?13行)

(1j)摘記事項(1h)、(1i)及び第1A,1B図の図示内容より、さや6は、中空であって、ある程度の長さを有するものであり、臨床オペレータ等の穿刺器具の操作者にとって、近い端及び遠い端を有していること、また、ハウジング4は、さや6内に配置されていることが把握できる。そして、摘記事項(1h)及び第1A,1B図の図示内容から、針5は鋭い自由端を有し、ハウジング4の遠い端で当該ハウジング4に支持される、前記鋭い自由端と反対の端部を有することが把握できる。

(1k)摘記事項(1c)、(1h)及び第1A,1B図から、さや6を、針5の長さ方向に、ハウジング4に対して動かすときに、親指ガード7も一緒に動くように、さや6と一体に構成されていることが把握できる。

(1l)摘記事項(1e)、(1h)、(1i)及び第1A,1B図から、さや6を針5を包むように遠い端側へ伸ばすのは、臨床オペレータ等の穿刺器具の操作者の手動によることも把握できる。

(1m)摘記事項(1b)及び(1g)の各記載、また、甲第1号証記載の安全装置において、針5の穿刺時には、さや6は、針5あるいはハウジング4に対して、針5が露出するような位置に保持される必要があることは自明であることからみて、甲第1号証記載の安全装置においては、ハウジング4とさや6を、ハウジング4が一時的にさや6の遠い端に隣接した位置に保持される接着等による固着手段を有していることも把握できる。

よって、上記記載事項からみて、甲第1号証には次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されている。

「近い端及び遠い端を有する中空のさや6と、
さや6内に配置されたハウジング4と、
鋭い自由端と、ハウジング4の遠い端で当該ハウジング4に支持される、前記鋭い自由端と反対の端部とを有する針5と、
ハウジング4を一時的に中空のさや6の遠い端に隣接して保持する接着等による固着手段と、
から成る皮下注射針等の安全装置。」

2.甲第2号証
本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲第2号証(特開昭59-69080号公報)には、図面とともに次の事項が記載されている。

(2a)「(1)可動コアを具えるか具えない皮下注射針を使用する、自動プランジャ復帰式の注射器にして、注射器本体(1)を、注射器前端(4)で一体化された2個の同軸的な円筒素子(2,3)で構成するともに、該本体(1)を上記前端(4)から、上記円筒素子(2,3)の前方に同軸線に設けられた中空の円錐台状の座部(5)まで延設し、両円筒素子(2,3)間の環状室(8)の一端を前記前端(4)で閉鎖し他端は開放し、円筒素子(3)の中心部に、両端が開放され前端が前記座部(5)に連通する円錐台部分(10)を終端とする円筒状空洞(9)を形成し、前記注射器本体(1)の内部に、2個の同軸的な円筒(14,15)からなる軸線方向に移動可能なプランジャ(13)を収納し、これら円筒(14,15)のうちの外方円筒(14)を前端で開放し、後端で環状部(17)により閉鎖し、内方円筒(15)を前端で閉鎖し、後端で上記環状部(17)を経て円板部即ちボタン(18)まで延設し、これら外筒(14)と内筒(15)の間の第2環状室(16)の後端を前記環状部(17)で閉鎖し、更に、上記内筒(15)の前端で、皮下注射針(7)の可動コア(6)のための固定点を画定し、上記可動コア(6)の基部を、外側面がアンダカット状で、前記円筒状空間(9)内を、それと協働して気密、液密のシールを構成しつつ摺動するパッキン(20)内に収納したことを特徴とする注射器。」(特許請求の範囲第1項)

(2b)「(3)プランジャ(13)の外方円筒(14)の前端の前方にスプリング(21)を配設し、プランジャ(13)が注射器本体(1)内に押込まれると、上記スプリングが環状室(8)内で圧縮されるように構成したことを特徴とする特許請求の範囲第1項に記載の注射器。」(特許請求の範囲第3項)

(2c)「本発明は、自動プランジャ復帰式のバイオプシー用の注射器、即ち、後の分析のために、患者の身体から組織や体液のサンプルを抽出する皮下注射器に関する。」(2頁左上欄9?12行)

(2d)「従来、通常の皮下注射針を装着してバイオプシーに使用される通常の皮下注射器、或は移動コア等の装置を設けられた皮下注射器が知られている。
バイオプシーは、・・・、2段階で行われる。即ち、皮下注射器に適切に装着された針を、分析のためのサンプルを必要とする組織に刺す第1段階と、この組織から微細な粒子或は液滴を吸込む第2段階の2段階である。この操作には、一方の手で針及び注射器を確実に保持し、他方の手で注射器の可動部品、つまりプランジャを引出すことにより、分析用の前記組織または体液が針から吸込まれるための負圧を生じさせることが要求される。」(2頁左上欄13行?右上欄5行)

(2e)「図面において、1は注射器本体を示し、この注射器本体1は、2個の同軸的な円筒素子2,3で構成されている。これら円筒素子2,3は、注射器本体1の前端4で結合されて一体的な肩部となり、この肩部が前方に延ばされ、両素子2,3と同軸的な円錐台状の座部5とされている。6は、この座部5内を摺動させられる皮下注射針の可動コアを示す。7は通常の皮下注射針で、上記座部5に装着される。」(2頁右下欄8?16行)

(2f)「外方の円筒素子2の前記前端4から最も遠い端部は、2個の弾性変形が可能な、つまり可撓性を有する突起11に接続し、これら各突起11には戻り止め12が設けられている。」(3頁左上欄1?5行)

(2g)「皮下注射針7の可動コア6は、プランジャ13の内筒15の前端に取付けられている。同コア6の基部は、外側面がアンダカット状のパッキン20に被覆されている。これは、注射器本体1の中心空洞9内で上記パッキン20を摺動させ、気密、液密のシールを構成させるためである。」(3頁右上欄1?6行)

(2h)「第4図は本発明の他の実施例を示し、本実施例では前記実施例の円錐台状リップシール19にかえて、プランジャ13の外筒14の前端にスプリング21を設けている。」(3頁右上欄7?10行)

(2i)「次に、本発明による皮下注射器の作用を説明すると、皮下注射針7をバイオプシーのための患者の部位に挿入する前に、まずプランジャ13のボタン18に親指を当て、突起11で構成された戻り止め12に環状部が係合して弾性的に位置決めされるまで前方に押込む。この状態で、注射針7を、分析のために抽出すべき組織のサンプルの深さまで刺し込む。その後、上記突起11を横方向に押圧すると、環状部17が戻り止めから解放されてプランジャ13が戻される。この動作は、注射器本体1の環状室8の圧縮空気により自動的に行われるか、或はその時点まで圧縮されていたスプリング21を介して行なわれる。
このようにプランジャ13が戻る間に、注射器本体1の中心空洞9及び円錐台部分10には適当な負圧が発生し、少量の組織または流体が針7から吸込まれる。」(3頁左下欄1?17行)

3.甲第3号証
本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲第3号証(米国特許第3572334号明細書)には、図面とともに次の事項が記載されている。

(3a)「The present invention relates to intravenous catheter placement units, more particularly to such units wherein the catheter passes internally through a sharpened needle and the needle normally remains on the unit during use.」(1欄33?36行):仮訳(該当部分の仮訳は、甲号証添付の抄訳または当審による、以下同様。)
「本発明は、静脈カテーテル留置装置に関し、より具体的には、カテーテルが鋭い中空ニードルの内部を通過し、通常の場合にニードルが使用中に装置上に残る装置に関する。」

(3b)「All the prior art devices involve removable parts and necessitate the use of some kind of additional device to protect the catheter from the sharp edges of the needle point where such protection is even possible. In fact, all such devices which currently are being used leave the needle exposed on the catheter after the catheter has been fully inserted for use. Furthermore, many of these devices are quite complicated and difficult to operate.
I have invented an intravenous catheter placement unit which has no removable parts except for those used in packaging the unit, provides for complete retraction of the needle and automatic protection of the catheter from injury by the sharp edges of the needle point as well as for sterile protection of the inserted catheter, and is designed for extremely simple two- or three-step operation.
In the unit of my invention the needle is under precise control at all times and the needle point, when retracted, is held firmly in a fixed position with respect to the catheter tubing. This avoids any possibility that the sharp edges of the needle point will cut the catheter due to relative movement between them. The needle point is automatically fixed in this position upon retraction without the need for special adjustment or the use of any additional parts to protect the catheter.」(1欄58?2欄11行):
「すべての先行技術器具は、取り外し可能な部分を含み、ニードルの先端の鋭い刃からカテーテルを保護するなんらかの種類の付加器具の使用を必要とする(このような保護が可能な場合において)。事実、現在使用されているすべてのこのような器具は、カテーテルが使用のために完全に挿入された後にカテーテル上にニードルが露出されたままとする。さらに、これらの器具の多くは、非常に複雑であり、扱いにくい。
私は、装置を包装するために使用されるものを除いて取り外し可能な部分を持たない静脈カテーテル留置装置を発明した。この装置は、ニードルの完全な後退およびニードルの鋭い刃による損傷からのカテーテルの自動保護ならびに挿入されたカテーテルの殺菌保護を提供し、きわめて簡単な2ないし3段階操作で使用するように設計されている。
私の発明した装置では、ニードルは常に精確な制御下にあり、そしてニードルの先端は、後退したとき、カテーテル管に関して定位置に確実に保持される。これにより、ニードルの先端の鋭い刃がカテーテルとの相対運動によりカテーテルを切る可能性を排除する。ニードルの先端は、後退後に、カテーテルを保護するための特別の調整も付加部分の使用も必要とせずに、この位置に自動的に固定される。」

(3c)「After the catheter connector 44 is locked in position at the rear of the housing, as shown in FIGS. 11 and 12, the operator presses down on the leading end of the catheter 33 through the skin of the patient, as shown in FIG. 12, and the needle 30 is retracted into the housing merely by moving the flag or finger grip 42 to the rear, as shown in FIG. 12.」(6欄25?32行):
「図11及び図12に示されているように、カテーテルコネクタ44がハウジングの後方位置でロックされた後、操作者は、図12に示されているように患者の皮膚上からカテーテル33の先端を押し下げ、そして、単にフラグ又は指グリップ42を図12に示されるように後方に移動させるだけで、針30はハウジング内に引込まれる。」

4.甲第4号証
本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲第4号証(米国特許第4160450号明細書)には、図面とともに次の事項が記載されている。

(4a)「The invention is in the field of catheter devices of outside-the-needle type, as employed for supplying liquids intravenously.」(1欄7?9行):
「この発明の分野は、静脈内液体供給のために使用されるニードル外カテーテル装置である。」

(4b)「As originally constructed, outside-the-needle catheter devices have suffered from messy blood spillage and contamination during the time the venipuncture needle has been withdrawn from the catheter or cannula immediately after placement of the catheter in a vein and before the venoclysis set has been connected to the catheter. This has been highly undesirable for a variety of reasons. Besides being unsanitary and inconvenient, it has tended to frighten the patient.」(1欄18?26行):
「考案された当初において、ニードル外カテーテル装置には、カテーテルを静脈内に留置した直後および静脈注射セットがカテーテルに接続される前における静脈穿刺ニードルがカテーテルまたはカニューレから取り外されている状態において汚い血液漏出と汚染が生ずるという問題があった。これは、種々の理由からきわめて好ましくないことである。不衛生かつ不便である上に、それは患者を驚かせがちであった。」

(4c)「In accordance with the invention, the above-mentioned problems are effectively solved by providing an elongate needle-receiving housing having one end connected in liquid-tight manner to a catheter through which extends a stylet needle having an end enclosed by the housing. The housing is itself liquid-tight, except for an opening in its end opposite the catheter. A tube, usually supply tubing for a venoclysis liquid, extends through and substantially closes such opening and connects with the enclosed end of the needle. The needle is entirely free of the catheter, but remains within the housing, following withdrawal from the vein. Flow of liquid takes place via the interior of the housing.
Means are provided by which the housing opening is closed liquid-tight. In one embodiment of the device, such means takes the form of a seat in the housing and a hub formation on the enclosed end of the needle for liquid-tight engagement with the seat when the needle is retracted into the housing. In other embodiments wherein the catheter is advanced relative to the needle, such means takes the form of a liquid-tight connection between the housing and the tube that enters the housing through the opening.
The housing and at least the supply tubing for the venoclysis liquid are preferably of transparent or translucent material, usually a suitable synthetic resin plastic, whereby flash-back of blood can be observed to indicate a successful venipuncture. It is a feature of the invention that the needle is wholly withdrawn from the catheter following venipuncture, so danger of inadvertent transection of the catheter by the sharp end of the needle is minimized.」(1欄48行?2欄11行):
「この発明に従って、端部をハウジングに囲まれた探り針を通したカテーテルに液密的に接続される一端を持つ細長いニードル収容ハウジングを設けることにより、上述の問題は、効果的に解決される。このハウジングは、カテーテルの反対側の他端の開口部を除いて、それ自体液密である。チューブ、通常の場合、静脈注射液の供給管が、この開口部を通して伸びて実質的に閉鎖し、ニードルの囲まれた端部と接続する。このニードルはカテーテルに全面的に自由に出入りできるが、静脈からの抜き取り後、ハウジング内に留まる。液体の流れは、このハウジング内部を経由して発生する。
ハウジング開口部を液密的に封鎖する手段を設ける。この装置の1つの実施態様では、このような手段は、ハウジング中の座部およびニードルがハウジング内に後退させられたときにおける当該座部との液密結合のためのニードルの囲まれた端部におけるハブ構造の形態をとる。カテーテルがニードルに対して相対的に前進される他の実施態様では、このような手段は、ハウジングと、開口部を経てハウジングに入るチューブ間との、液密結合の形態をとる。
ハウジングと少なくとも静脈注射液の供給管は、血液の逆流により正常な静脈穿刺を観察できる透明または半透明の材料製、通常の場合、適切な合成樹脂製とすることが望ましい。ニードルの鋭い先端によるカテーテルの不注意な切断の危険を最小化するために、静脈穿刺後にニードルがカテーテルから全面的に抜き取られることが本発明の1つの特徴である。」

(4d)「The device of the invention is used in much the same way as are conventional outside-the-needle catheter devices. A vein of the patient concerned is punctured in conventional manner by forcing the protruding point 13b of needle 13 and the beveled tip 10b of catheter 10 through overlying skin and flesh of the patient and into the vein, the backwardly protruding end 14b of rigid or semi-rigid connection tubing 14a being held firmly along with housing 11 during this time. Flash-back of blood, observable through transparent or semi-transparent needle hub 13c, portion 14a of connection tubing 14, and housing 11, indicates a successful venipuncture.
While still firmly holding end 14b of connection tubing 14 with one hand, housing 11 is pushed forwardly by the other hand to advance catheter 10 relative to needle shank 13a farther into the vein. Then housing 11 is held stationary while portion 14a is pulled backwardly until needle hub 13c is securely seated as a stopper against walls 11a behind detent ring 11b, as shown in FIG. 3. In preferred embodiments, needle shank 13a and pointed end 13b will be entirely withdrawn from catheter 10 and protectively encased by housing 11.
With the needle retracted in this manner, housing 11 is pushed forwardly to advance catheter 10 as far as desired into the vein. The device is then anchored in place in customary manner by the use of adhesive tape.」(3欄45行?4欄2行):
「この発明の装置は、在来のニードル外カテーテル装置とほとんど同じ方法で使用される。在来の方法に従って、ニードル13の突出先端13bとカテーテル10の傾斜先端10bを患者の被覆皮膚と肉を通して静脈に突き刺し、また、この操作中、剛体または半剛体接続管14aの後方突出端14bをハウジング11に沿って着実に保持することにより、関係患者の静脈が穿設される。透明または半透明のニードル・ハブ13c、接続管14の部分14a、ハウジング11を通して観察できる血液の逆流が正常な静脈穿刺を示す。
片手で接続管14の端部14bを着実に保持し続けつつ、他方の手でハウジング11を前方に進めてカテーテル10をニードル軸13に対して相対的に進めることによりさらに静脈の中に前進させる。次に、ハウジング11を静止させたままで、図3に示すように、デテント・リング11bの後方の壁11aに対するストッパーとしてニードル・ハブ13cが確実に着座するまで部分14aを後方に引く。好ましい実施態様では、ニードル軸13aと鋭い先端13bは、カテーテル10から全面的に引き出され、ハウジング11内に保護するように格納される。
この方法によりニードルが後退させられた状態で、ハウジング11を前方に押してカテーテル10を必要な深さまで静脈内に進める。次に、従来の方法に従い、接着テープを使用してこの装置を所定の位置に固定する。」

5.甲第5号証
本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲第5号証(特開昭50-27200号公報)には、図面とともに次の事項が記載されている。

(5a)「本発明はナイフ、くし等のとび出し機構に係り、その目的はナイフの刀身部やくし等をそのケースよりワンタツチで出し入れし得るようにした機構を提供するにある。」(1頁右下欄3?6行)

(5b)「以下本発明をとび出しナイフとして具体化した手段の一例を図面について説明すれば図面中1はケース全体を示し、2は同ケース1において先端頭部3を平面かまぼこ状に膨出してなる刃収納部材、4は同刃収納部材2の頭部3先端面中央に開口した刃出入口、5は同じく刃収納部材2の刃出入口4より基端にかけて設けた刃ガイド溝を兼用する刃収納凹部、6は同刃収納凹部5内の一側に突設した支持軸であつて、後記操作レバー10の中央を傾動可能に軸支する。」(1頁右下欄8行?2頁左上欄1行)

(5c)「10は基端に係止爪部11を有する操作レバーであつて前記刃収納部材2の刃収納凹部5内の支持軸6により中央の凹部10bを軸支され、同支持軸6を中心としてP矢印若しくは反P矢印方向へ若干傾動可能である。・・・12は前記刃収納部材2の刃収納凹部5内を案内され同刃収納部材2頭部3の刃出入口4より出入可能とした刀身部、」(2頁左上欄6?15行)

(5d)「次に本発明の作用及び効果について説明する。・・・そこで、この状態から操作ボタン18を上部カバー25のガイド機構26に沿つて、反Q矢印方向(後方)へ移動させると、・・・操作レバー10先端の刀身部12基端面に対する係合が解除されて、刀身部12は一気にコイルバネ16の引張力により第一係止爪20に引張られて後動しケース1内に収納される。」(2頁右下欄10行?3頁右上欄7行)

6.甲第6号証
本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲第6号証(実願昭55-15351号(実開昭56-116961号)のマイクロフィルム)には、図面とともに次の事項が記載されている。

(6a)「握りやすいような外形を有し細長い筺体状に形成された外側ケース2とこの外側ケース2内に嵌合固定される内側ケース3と、この内側ケース3内に摺動自在に嵌合される刃先8とからなり、前記内側ケース3は刃先8が摺動自在に嵌合される溝10を有する枠体6と、この枠体6と合体されて内側ケース3を構成する枠体7とから成り、この枠体7はその外側面側に長方形状の凹部16が形成され、・・・凹部16内には・・・断面が円弧状の操作片5に嵌着される突片31を有する作動板24が収容され、この作動板24の外側にはその両端部を前記支持部25,25中に嵌合させた状態でコイルばね32が配置され、このコイルばね32の両端には前記作動板24の支持部25の外方端に接触させた状態で支持板34,34がそれぞれ固定され、・・・ていることを特徴とするとび出しナイフ」(実用新案登録請求の範囲)

(6b)「本考案の目的は刃先のとび出し及び収納をも片手のみによつて自由に行うことができるように構成したとび出しナイフを提供するにある。」(4頁5?7行)

(6c)「この状態でナイフを使用し、刃先8を収納したい場合には、操作片5を後方に引けばよい。すると、作動板24が後退し、・・・また、作動板24の後退に伴なつて、・・・ コイルばね32の先端側の係止板34は突起35によつて係止された状態にある為、コイルばね32は伸び弾性エネルギーが蓄積される。
作動板24の後退が続くと・・・この結果、板ばね22はたわみ、その折曲部23は開口部19中に引き込まれる。従つて、刃先8の後端を係止しなくなり、コイルばね32の弾性エネルギーが開放され、係止板34が内側に引かれ、突起35を介して刃先8は勢いよくケース内に引き込まれる。」(16頁9行?17頁15行)

7.甲第10号証
本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲第10号証(米国特許第4337576号明細書)には、図面とともに次の事項が記載されている。

(10a)「SUMMARY OF THE INVENTION
The present invention provides a knife with a retractable blade and is of a barrel type having a tubular barrel member in which a tubular tool support is located for slidable movement therein between operative and inoperative positions. Releasable latch means coact between the barrel member and the support member to releasably lock the support member in the operative position. A blade assembly located within the barrel member is engaged with one end of the support member for movement therewith between the inoperative position, wherein the blade assembly is retracted inwardly from one end of the barrel member, and the operative position, wherein a portion of the blade assembly extends outwardly from the barrel member one end.」(1欄36?51行):
「発明の要旨
本発明は、ブレード引込式であって、筒状のツールサポートが内部に配置され作動及び非作動位置間を内部摺動する筒状のバレル部材を有するバレル形のナイフを提供する。バレル部材及びサポート部材間で脱離自在なラッチ手段が協働して、サポート部材を前記作動位置に脱離可能にロックする。前記バレル部材内に配置されたブレードアセンブリが前記サポート部材の一端部と係合して、共に、前記非作動位置へ移動し、そこでは前記ブレードアセンブリが前記バレル部材の一端部から内方に引き込まれ、また前記作動位置へ移動し、そこでは前記ブレードアセンブリの一部が前記バレル部材の一端部から外方に延出する。」

(10b)「BRIEF DESCRIPTION OF THE DRAWINGS
FIG. 1 is a side view in elevation of a preferred embodiment of the knife of the present invention with the blade assembly thereof in a retracted or inoperative position;
FIG. 2 is an enlarged longitudinal sectional view of the knife as seen along the line 2--2 of FIG. 1;
FIG. 3 is an enlarged, exploded, perspective view of a front end member, spring member, blade assembly, and one end of a support member all included as part of the knife of FIG. 1;
FIG. 4 is an enlarged side view in elevation of the blade assembly of FIG. 3; and
FIG. 5 is a sectional view taken along the line 5--5 of FIG. 4.」(1欄65行?2欄12行):
「図面の簡単な説明
図1は本発明のナイフのブレードアセンブリが引込若しくは非作動位置にある状態での側面図;
図2は、図1の2-2線に沿ったナイフの拡大軸方向断面図;
図3は、全て図1のナイフにその一部として含まれる前端部材、バネ部材、ブレードアセンブリ、及びサポート部材の一端部の拡大展開斜視図;
図4は、図3のブレードアセンブリの拡大側面図;そして
図5は、図4の5-5線に沿った断面図である。」

(10c)「DETAILED DESCRIPTION OF THE INVENTION
Referring to FIG. 1 of the drawings, the present invention provides a knife, shown generally at 10 with a retractable blade. 」(2欄14?18行):
「発明の詳細な説明
図面の図1を参照するに、本発明は、全体を10で表すナイフが引込式ブレードを備える。」

(10d)「On depressing the button 44 to move the enlarged section 45 out of engagement with the support member 12, the blade assembly 21 is permitted to return to its inoperative position by the action of the spring 36. Thus, movement of the blade assembly 21 from an inoperative position to its operative position and back again is readily accomplished.」(3欄23?29行):
「このボタン44を押圧し前記膨大部45を移動させてサポート部材12との係合から離すと、前記ブレードアセンブリ21は、バネ36の作用により、その非作動位置への戻りが許容される。従って、ブレードアセンブリ21の非作動位置からその作動位置への移動及び復帰が容易に達成される。」

8.甲第13号証
本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲第13号証(米国特許第3306290号明細書)には、図面とともに次の事項が記載されている。

(13a)「This invention relates to hypodermic syringes, or the like of the type employed by dentists and physicians for injecting drugs, and other fluids into body tissues. More particularly, the present invention relates to an improved syringe of the type employing disposable carpules as used in the dental profession to inject a local anesthetic.
The hypodermic syringes that are presently used to effect subcutaneous injections are characterized by a plunger operated device that carries a slender tubular needle through which liquid is passed into body tissue. The tubular needle being exposed to view is subect to accidental damage and contamination during sterilization or while being carried from place to place and causes apprehension in the patient on seeing the needle.
Accordingly, it is an object of the present invention to provide a syringe with an automatically retractable needle whereby the needle is protected when not in use thus saving expensive replacement of damaged needles and providing freedom from contamination and improved psychological disposition of the patient by removing the anticipation, apprehension and excitement caused by sight of an exposed needle.」(1欄8?30行):
「本発明は、歯科医師および医師が薬剤およびその他の液体を体組織に注射するために利用する種類の皮下注射器ないしその種のものに関する。特に、本発明は、歯科専門職において局所麻酔薬を注射するために利用される使い捨てカプールに関する。
皮下注射器に現在利用されている皮下注射器は、体組織へと液体が通る細い管状針を携行したプランジャ動作装置を特徴としている。視界に曝される管状針は、偶然の損傷や、減菌の間ないし或る場所から或る場所への移動の間における汚染を被り易く、さらに患者が針を見ることによって不安の原因となる。
従って、使用しない時に針を保護し、以って費用のかかる損傷した針の交換を省き、また汚染を無くす、自動的に引き込まれる針を有する注射器、および露出した針を見ることによる予測と心配と興奮とを除くことにより患者の改善された心理的傾向を提供することが目的である。」

(13b)「FIG. 1 is a fragmentary elevational view of a typical preferred form of my improved hypodermic syringe;
FIG. 2 is a fragmentary vertical sectional view through the syringe of FIG. 1 with the needle shown in a retracted position;」(1欄54?58行)
「図1は、我が改良された皮下注射器の典型的な好適な形態の断片的な立面図、
図2は、針が引き込まれた位置を示している、図1の注射器の断片的な垂直断面図」
、であり、」

(13c)「A standard carpule comprises a tubular transparent body 40 containing fluid 42 having a front end comprising a first plug 44 constructed of pliant type material and adapted to be pierced by the rearward pointed end 46 of needle 12 and a back end comprising a piston type of plug 48. The plugs are preferably of soft pliant material such as rubber so that the first plug is penetrable by needle in a sealing engagement and the back plug is compressible to have a sliding and sealing engagement with the interior of the carpule wall.
The inside front portion of barrel 14 is threaded to receive externally threaded hub 50. The hub comprises a front tapered portion 52 terminating in a rounded point 54 having an exit port. The hollow, externally threaded back portion is adapted to receive needle retracting spring 56 and a bore is provided through the front hub portion to allow extension of the needle.」(2欄34?50行):
「標準的なカプールは、液体42を収容し、しなやかな類の素材よりなり針12の公報に尖った端46により穿刺されるのに適応した第1のプラグ44を備えた前端と、ピストン式のプラグ48を備えた後端とを備えた管状の透明体40を備える。プラグは好ましくは、封止関係をもって第1のプラグが針によって貫通可能となるよう、また後プラグはカプール壁の内側と滑動かつ封止的に係合するべく圧縮可能となるよう、ラバーのごとき柔らかいしなやかな材料よりなる。
バレル14の内側前部分は、外部にねじ山を切られたハブ50を受容するようねじ山を切られている。ハブは、出口孔を有する丸い先端54で終わる前部テーパ部52を備える。中空の、外部にねじ山を切られた後部は、針引き込みバネ56を受容するに適応しており、孔は前ハブ部を通して針の繰り出しを許容するように備えられている。」

(13d)「In either case, release of pressure results in the automatic retraction of the needle and return of the carpule by the bias of the expanding forwardly disposed spring.」(3欄10?13行):
「何れにせよ、圧を解放すると、伸びようとする前方に配置されたバネの偏倚により、自動的に針が引き込まれ、カプールが復帰する。」

(13e)「Removal of the needle from the injection site and release of pressure on the thumb rest results in automatic retraction of the needle into the hub.」(3欄19?22行):
「注射の場所から針を取り除き、親指から圧力を解放すると、ハブ中に針が自動的に引き込まれる。」

9.甲第14号証
本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲第14号証(米国特許第2605766号明細書)には、図面とともに次の事項が記載されている。

(14a)「This invention relates to hypodermic syringes or needles and is particularly concerned with an automatic operating device for automatically performing injections into the human and animal bodies.」(1欄1?5行):
「本発明は、皮下注射器ないし針に関し、特に人および動物の体に自動的に注射を行うための自動作動装置に関係する。」

(14b)「One of the features of the automatic syringe of the present invention includes an injection cylinder with a piston movable therein and having a hypodermic needle at the foremost end thereof, said cylinder being constructed to fit into a cylindrical barrel, the rear part of said barrel having a casing surrounding the same, the casing being capable of rotation relative to the barrel when actuated by a spring. The piston is connected to the casing by means of a plunger attached to said piston so that during rotation of the casing a reciprocating movement back and forth is imparted to the injection cylinder and to the piston therein.」(2欄8?21行):
「本発明の自動注射器の特徴のひとつは、その中で可動なピストンが有り、その先端に皮下針を有した注射シリンダであって、そのシリンダが円筒バレル中に嵌入するように構成され、前記バレルの後部がこれを囲むケーシングを有し、このケーシングがバネに駆動された時にはバレルに対して回転可能なもの、を含むことである。ピストンは、このピストンに装着されたプランジャによってケーシングに接続されており、以ってケーシングの回転の間、シリンダおよびピストンに対して前後への往復運動を与える。」

(14c)「Fig.1 shows one example of the use of the invention wherein an intramuscular injection is to be made.
Fig.2 shows a manner in which the invention can be used for a subcutaneous injection.
Fig.3 is a cross-seetional view of the device when the needle is in its advanced position and the piston has completed forcing the liquid through the needle.
Fig.4 is an elevation view with the impervious cap in section showing the needle in retracted position.
Fig.5 is a schematic view depicting the screw thread arrangement.
In the operation of the device, the four stages of action of the automatic syringe are:
(1) Retraction of the piston to cause the syringe or injection cylinder to be filled with a liquid to be injected,
(2) Projection of the hypodermic needle into the skin,
(3) The pushing forward of the piston relative to the injection cylinder, causing the liquid to be expelled into the flesh, and
(4) Retraction of the hypodermic needle from the skin.
At the conclusion of the fourth step of the cycle, the needle is in the same position as it was at the beginning of the first stage, and upon winding of the spring, the cycle is repeated as desired.」(3欄25?55行):
「図1は、本発明の使用の一例であって、筋肉注射が為されるものである。
図2は、本発明を皮下注射のために使用する方法を示している。
図3は、針が前進した位置にあり、ピストンが液を針に向けて押し出し終えた時の装置の横断面図である。
図4は、断面での不透性キャップとともに引き込まれた位置における針を示す立面図である。
図5は、螺旋ねじ山の配置を描いた模式図である。
かかる装置の操作において、自動注射器の動作における4つのステップは:
(1)注射器ないし注射シリンダが注射液で満たされるよう、ピストンを引き込むこと、
(2)皮下針を皮膚中に突出すること、
(3)ピストンを注射シリンダに対して前方に押して液を肉体中に吐出すること、
(4)皮下針を皮膚から引き込むこと、
よりなる。
このサイクルの4ステップの結果、針は最初のステップの始めにあったのと同じ位置となり、バネを巻くことによってこのサイクルが所望するだけ繰り返される。」

(14d)「Upon completion of the injection with the piston at its left end (Fig. 3), the plunger 14 will enter the other groove of the cylindrical casing 16 and cause retraction of the needle from the muscle tissue until the needle is again retracted within the conical cap 2.」(5欄56?61行):
「ピストンがその左端に到達して注射が完了する(図3)と、プランジャ14は円筒ケーシング16の他の溝に乗り移り、針が円錐キャップ2に再び引き込まれるまで筋肉組織から針を引き込む。」

10.甲第15号証
本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲第15号証(特開昭58-7260号公報)には、図面とともに次の事項が記載されている。

(15a)「本発明はランセット注射器、いっそう詳しくは、検査の目的で血液サンプルを採取するための一回使用、すなわち使い捨てランセットと共に用いるようになっている注射器に関する。」(3頁右上欄20行?左下欄3行)

(15b)「制御部材48が、たとえば、指で力を加えてそれを突起70を越して左方へ動かすことによって引込位置(第1、2図)から手動解放されたとき、ばね34の力および慣性によって、ホルダ16はハウジング内径部14を通って長手方向遠位方向に皮膚穿刺位置まで急激に移動し、ここで針64の先端が第5図に仮想線で示すように端キャップ24の孔25を貫いてハウジングの遠位置の遠位方向に突出する。この運動中、制御部材48はスロット部分72に沿って移動する。ホルダ16、ランセット60は迅速に直線状に中立位置に引込む。すなわち、針64の先端が切開部から第5図に示すようにハウジング12内に引込められる。」(5頁左下欄2?15行)

11.甲第16号証
本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲第16号証(米国特許第4675005号明細書)には、図面とともに次の事項が記載されている。

(16a)「1. Field of the Invention
This invention relates to an improved retractable syringe having a cannula which after use may be drawn into the barrel portion of the syringe, and, more particularly, a syringe for the hypodermic administration of drugs and other medicinal preparations which, after use, may be discarded. The problem of contact by personnel with contaminated implements is thereby avoided.
2. Information Disclosure Statement
With the advent of the acquired immune deficiency syndrome (AIDS) and the prior problems in health service organizations controlling hepatitis, an improvement in syringe technology is indicated. While prior art has shown a retractable cannula structure several technical problems still remain. Becuase of the medical personnel using syringes, the retractability feature must of necessity be simple, easy to operate, and highly reliable. Furthermore, the present technology has not disclosed a cannula and hub assembly which is mounted retractably within the cylindrical body of the syringe.」(1欄5?25行):
「1.発明の分野
本発明は、使用後に注射器のバレル部分の内部に引き込むことの可能なカニューレを有する、改善された引き込み可能な注射器に関し、より具体的には、薬物および他の医薬製剤を皮下注射投与するための注射器であって、使用後に破棄することの可能な注射器に関する。これにより、汚染された器具に人が触れてしまうという問題が回避される。
2.情報開示陳述書(IDS)
後天性免疫不全症候群(AIDS)、および、肝炎を管理する医療保険団体における従前からの問題の出現とともに、注射器技術の改善が求められている。従来技術は、引き込み式のカニューレ構造を示しているものの、いくつかの技術的な問題は、まだ残されたままである。注射器を使用する医療関係者にとっては、引き込むことの可能な構成は、必然的に、単純で、操作しやすく、信頼性の高いものでなければならない。さらに、現在の技術は、注射器における円筒形の本体内に引き込めるように取り付けられた、カニューレおよびハブアセンブリを開示していない。」

(16b)「SUMMARY AND OBJECTS OF THE INVENTION
It is an object of the present invention to provide an improved disposable syringe, which, after the injectible has been expelled, is equipped to store securely the parts thereof that may be contaminated.
It is a further object of the invention to provide such a syringe with an internal hub and cannula and to provide built-in tool for withdrawing these parts into the barrel of the syringe.
It is a yet further object of the invention to provide a locking mechanism to secure the withdrawn parts in a position for disposal.
It is a feature of the present invention to reduce contact of health service workers with, injected contraminated syringes.」(1欄35行?51行):
「発明の概要および目的
本発明の目的は、改善された使い捨ての注射器を提供することにある。この注射器は、注射物質が排出された後に、その汚染されている可能性のある部品を安全に保存するような装備を有している。
本発明における別の目的は、内部的なハブおよびカニューレを有する上記のような注射器を提供すること、および、注射器のバレル内にこれらの部品を引っ込めるための、組み込みツールを提供することにある。
本発明におけるさらに別の目的は、引っ込められた部品を廃棄のための位置に固定するための、ロックメカニズムを提供することにある。
本発明の特徴点は、注射後の汚染された注射器に対する、医療従事者による接触を減少することにある。」

12.甲第17号証
本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲第17号証(米国特許第4692156号明細書)には、図面とともに次の事項が記載されている。

(17a)「A serious problem presented by many prior art syringes results from exposure of the protruding cannula after use. The person administering the injection may inadvertently become stuck by the contaminated cannula. This not infrequent incidence of contamination can cause the spread of various diseases, including hepatitis and acquired immune deficiency syndrome (AIDS). In addition to the serious danger posed to health care workers, such accidents are costly to hospitals and other medical facilities in terms of time and administration costs; typically, an incident report has to be filled out for each such inadvertent wounding.」(1欄29?40行)
「従来技術における多くの注射器が抱えている深刻な問題は、使用後に、尖っているカニューレがむき出しになっていることから生じている。注射を施す者は、うっかりして、汚染されたカニューレで皮膚を刺してしまう可能性がある。この少なくない汚染の発生は、さまざまな病気(肝炎、および後天性免疫不全症候群(AIDS)を含む)を引き起こす可能性がある。医療従事者に引き起こされる深刻な危険に加えて、このような偶発事故は、時間および投与のコストに関して、病院および他の医療施設にとってコスト高である(一般的に、このような不注意による創傷が起こるたびに、インシデント・リポートを記入しなければならない)。」

(17b)「In one embodiment of the present invention, an improved hypodermic syringe is provided having a hollow, generally tubular barrel substantially closed at its forward end and open at its rearward end. A tubular reciprocable piston means is provided within the interior of the barrel, which piston means has a generally annular resilient rubber member at the forward end. A means for retracting the cannula, protruding from said barrel structure during injection, is provided on the forward end of the piston. The retracting means includes an engaging means on the forward end of the piston attachable to the base of the cannula. Thus, after injection, the cannula may be easily and safely withdrawn within the interior of the barrel.」(2欄37?50行):
「本発明の一実施形態では、ほぼチューブ状の中空のバレルを有する、改善された皮下注射器が提供される。このバレルは、前側の端部において実質的に閉じている一方、後側の端部において開放されている。このバレルの内部には、往復可能なチューブ状のピストン手段が設けられている。このピストン手段は、前側の端部に、ほぼ環状の弾性的なゴム部材を有している。このピストンの前側の端部には、注射中に前記バレル構造から突き出ているカニューレを引き込むための手段が設けられている。この引き込み手段は、カニューレのベースに対して接合することの可能な係合手段を、ピストンにおける前側の端部に有している。したがって、注射の後、カニューレを、容易かつ安全に、バレルの内部に回収することが可能となっている。」

(17c)「At the forward end of the syringe barrel is a deformable tapered mounting post 38 positioned within aperture 40 having a passage 42 axially positioned therein leading from end wall 16 to the exterior of the syringe. Within passage 42 is fixedly mounted a cannula 44 having a sharp-pointed tip 46 at its forward end. In order to guard against contamination of the cannula and accidental puncturing of the operator, a tapered hollow sheath 48 is fitted over cannula 44. This tapered hollow sheath may be removed prior to injection to expose the sharp-pointed cannula 42.
In operation, an injection is given to dispense fluid 50 from chamber 52 through the interior passage (not shown) of the cannula upon advance of the plunger rod 22 towards the forward end of the syringe barrel. This invention is directed toward retraction of cannula 44 within the barrel 12 after administration of fluid so as to prevent cannula exposure after injection.」(3欄39?56行):
「注射器バレルの前側の端部では、開口部40の内部に、変形可能な先細りの取り付けポスト38が配置されている。この開口部40は、その内部において軸方向に配置された、端壁16から注射器の外部に通じている通路42を有している。通路42の内部には、前側の端部に鋭利な先端46を有するカニューレ44が、固定された状態で取り付けられている。カニューレの汚染、および、操作者をうっかり刺してしまうことを防止するため、先細りの中空のシース48が、カニューレ44をぴったりと覆っている。注射の前には、鋭利な先端を有するカニューレ42をむき出しにするために、この先細りの中空のシースを取り外すことが可能である。
操作中においては、注射器バレルの前側の端部に向けてプランジャーロッド22を押し進め、カニューレの内部通路(図示せず)を介してチャンバ52から流体50を投与することによって、注射がなされる。この発明は、注射後におけるカニューレの露出を防止するために、流体を投与した後にバレル12内にカニューレ44を引き込むことを対象としている。」

13.甲第18号証
本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲第18号証(米国特許第4676783号明細書)には、図面とともに次の事項が記載されている。

(18a)「BACKGROUND OF THE INVENTION
Needlestick injuries are intended to be avoided by properly disposing of needles.
Usually used needles are recapped with the same cover that originally covered the needles before use or by similar covers or tubes before a needle is discarded. That method requires movement of hands toward needles and may promote needlestick injuries during the recapping.」(1欄4?12行):
「本発明の背景
針を適切に廃棄することによって、針刺し受傷を避けることが意図されている。通常、使用済みの針は、廃棄する前に、使用前に元々針を覆っていたカバーと同じカバーか、類似のカバーないし管を被せている。この方法は針に向かって手を動かすことが必要であり、被せる過程で針刺し受傷を促してしまう。」

(18b)「An intravenous administration system has a retractable safety needle. A steel needle intravenous administration device provides a way to safely resheath contaminated intravenous needles to reduce the risk of accidental needlestick injuries to health care personnel.」(1欄57?61行):
「静脈投与システムは、引き込み可能な安全針を有する。鋼針静脈投与装置は、汚染された静脈針を安全に再度覆って、健康管理従事者への不意の針刺し受傷の危険を減ずる方法を提供する。」

(18c)「In use, one grips wings 50 and then removes the tubular cover 38 from the nipple 16. Gripping the wings 50, one slides the needle into its desired position. After the needle has been used, wings 50 and tabs 52 are gripped separately as shown in FIG. 2, and tabs 52 and tube 20 are pulled in an axial direction away from wings 50, extending tube 20 from outer tube 10 and pulling needle 30 and sharpened distal end 34 into the outer tube as shown in FIG. 3. The enlarged first end 22 of the inner tube 20 is firmly gripped by the inner wedge surface 28, preventing further relative movement between needle 30 and the outer protective tube 10, as shown in FIG. 3.」(3欄55?66行):
「使用の際には、ウイング50を掴み、ニプル16から管状カバー38を取り除く。ウイング50を掴み、針を所定の場所へスライドさせる。針を使用した後、ウイング50およびタブ52を図2に示すように別々に掴み、タブ52および管20をウイング50から遠ざけるように軸方向に引っ張り、図3に示すように外管10から管20を繰り出し、針30および鋭利な先端34を外管中へ引き込む。内管20の拡径された第1の端22は内側楔面28によりしっかり把持され、図3に示すように針30と外側保護管10との間での更なる相対運動を防止する。」

14.甲第20号証
本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲第20号証(特開昭62-217976号公報)には、図面とともに次の事項が記載されている。

(20a)「本発明は、患者の静脈あるいは他の組織内に薬剤を注入するための注入装置に関する。」(2頁左上欄7?8行)

(20b)「本発明は、患者の静脈あるいは他の組織内に挿入する時に限って針の鋭利な先が露出すなわち覆いが取られた状態とし、挿入が完了すると直ぐに自動的に覆いがなされるか引き込まれるアセンブリーを提供することによって、既知の静脈注入および皮下注入装置の欠点を解消するものである。」(2頁右上欄10?16行)

(20c)「第1図に示す受動的な状態においては、中空の針14の中にあるカテーテル17の部分の長さは、カテーテルの鈍い先18が針14の鋭利な先16よりほんの僅か突き出ている程度である。したがって、この状態では、針の鋭利な先は実質的に覆われた、あるいは引き込まれた状態にあり、針が組織に接触したとしても貫入することはない。」(3頁左上欄18行?右上欄5行)

(20d)「第2図、第3図および第4図に示すように、翼21を畳み込むと、楔23は前部ハブ11と後部ハブ12との間に押し込まれる。カテーテル17および翼21は共に後部ハブ12に取り付けてあるので、これらの構成要素には相対的な動きは生じない。しかしながら、前部ハブ11とそれに取り付けた中空の針14は自由に動くことができ、楔23の幅と同じ距離、つまり針14の鋭利な先16がカテーテル17の鈍い端部18よりも先まで延びるに足る距離だけ横へ移動し、静脈あるいは他の組織内に挿入できる状態になる。挿入が完了した後、翼21を開くと、バネ13の働きで針14が充分に引き込まれ、その鋭利な先16がもはや露出した状態でなくなる。」(3頁右上欄17行?左下欄10行)

(20e)「本発明の注入装置には、使用上の利点が幾つかある。注入装置が受動的な状態、すなわち翼を鋏み合わせず、翼が外側に開いている状態では、カテーテルの鈍い先のみが、静脈壁あるいは他の組織に接触することができるので、針を挿入した静脈あるいはその他の組織が裂傷したり損傷したりする危険性が著しく低減する。このように本発明の装置は、長期に渡る使用に適している。さらに、故意に針の鋭利な先を露出させようとしない限り、本装置には鋭利な先が存在しないので、装置の使用中あるいは装置を廃棄する際に、作業に携わっている要員が誤って怪我をしたり汚染されたりする可能性が低減する。」(3頁右下欄11行?4頁左欄4行)

15.甲第21号証
本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲第21号証(米国特許第4664654号明細書)には、図面とともに次の事項が記載されている。

(21a)「This invention pertains to the medical and science fields. Specifically, it is a safety device to protect users of hypodermic needles from inadvertent punctures from contaminated needles.」(1欄6?9行):
「この発明は、医学および科学の分野に関する。具体的には、この発明は、汚染された注射針による不注意による刺し傷から、皮下注射針のユーザを保護するための安全装置である。」

(21b)「Such techniques are unsatisfactory in that the contaminated needle is left exposed between the time it is removed from the subject or contaminate source and the point at which the aforementioned methods of disposal are performed. During this period of time in which the contaminated needle is exposed, the user is susceptible to injury and possible infection by said needle. Therefore, each time an injection is given or blood is drawn, the user is exposed to the possibility of a localized introduction of pathogens via an accidental puncture from a contaminated hypodermic needle. This invention was designed with the purpose of preventing such inadvertent accidents from occurring.」(1欄23?35行):
「上記のような技術は、『対象者(すなわち汚染源)から注射針が除去された時点と、上記の廃棄方法が実行される時点との間において、汚染された注射針がむき出しのままになっている』という点において不十分である。汚染された注射針が露出されている期間では、ユーザは、この針によって、負傷および可能性のある感染の危険にさらされている。したがって、注射が実行されるたび、あるいは血液が採取されるたびに、ユーザは、偶発的な刺し傷を介した、汚染された皮下注射針からの病原体の局所的な侵入の可能性にさらされている。この発明は、上記のような不注意による偶発事故の発生を防止するという目的を考慮して、設計されている。」

(21c)「 I claim that as the hypodermic needle is being withdrawn, that the safety sheath is protracting synchronously, thus ensuring the tip of the contaminated needle will be enclosed in the confinements of the safety sheath at approximately the same instance the needle loses contact with the subject's surface ・・・」(1欄58?63行):
「発明者は、皮下注射針が引き抜かれているときに、安全シースが同調して突き出されていることを主張する。このために、針が対象者の表面との接触を失うのとほぼ同時に、汚染された注射針の先端が安全シースの内部に封入されることを、確実にすることが可能となる。・・・」

(21d)「FIG. 2 shows a perspective observational view of the tool of this invention with the sliding member 16 fully protracted to the point in which the tip of the needle is covered.
FIG. 3a shows a sectional view from the side of the invention of FIG. 2 with the body of the sliding member (16) set in a slightly retracted position to expose the end of the needle. FIG. 3b shows a sectional view from the side of the invention of FIG. 2 with the body of the sliding member (16) fully retracted into the body of the stationary member (28).
FIG. 3c shows a sectional view from the side of the invention of FIG. 2 with the body of the sliding member (16) fully protracted beyond the tip of the needle.
FIG. 4 shows a straight forward frontal view of FIG. 3c.
FIG. 5 shows a close up fragmented view from the top looking down at the locking mechanism of the invention of FIG. 2 in its locked position.
FIG. 6 shows a close up fragmented view from the top looking down at the locking mechanism retracted into the channel.」(3欄14?35行):
「図2は、この発明のツールにおける、観察に基づく斜視図である。この図では、スライド部材16が、針の先端をカバーするポイントまで完全に突き出されている。
図3aは、図2に示した本発明を、側面から望む断面図である。この図では、針の端部を露出させるために、スライド部材(16)の本体が、わずかに後寄りの位置にセットされている。図3bは、図2に示した本発明を、側面から望む断面図である。この図では、スライド部材(16)の本体が、固定部材(28)の本体の内部に完全に引っ込められている。
図3cは、図2に示した本発明を、側面から望む断面図である。この図では、スライド部材(16)の本体が、針の先端を超えて、完全に突き出されている。
図4は、図3cの直接的な正面図である。
図5は、固定された状態にある図2に示した本発明における固定メカニズムを、上から見下ろしている拡大分解図である。
図6は、チャネル内に引っ込められている固定メカニズムを、上から見下ろしている拡大分解図である。」

(21e)「The tool of FIG. 2 provides safe means of handling hypodermic needles following removal of 41 from the surface layer of the subject of the puncture. These safety means are designed to work automatically so as to reduce the risk of injury to the user.
The tool of FIG. 2 comprises two generally cylindrical shaped members, a stationary member (28) and a sliding member (16). To use the tool of FIG. 2, the user first unlocks 16 from 36 by compressing 24 left and 24 right together thereby reducing the width of 24. The user can then retract 24 into channel 26 against spring 30, as illustrated in FIG. 6. This action serves the purpose of exposing tip 41 of tube 42 about three sixteenths inch, as illustrated in FIG. 3a. To hold 16 in channel 26 the user depresses leaf 18 and allows spring 30 to protract leaf 18 thereby enaging beveled end 17 of leaf 18 into groove 19 thus holding 24 in 26 to expose 41, as illustrated in FIG. 3a. With tip 41 exposed the user can proceed to puncture 41 through the surface layer of the subject. The user will discover on advancing the needle further that 16 will be compressed into 28 against tension provided by spring 30 and the user will note flexible leaf 18 will spring back to its resting position, as illustrated in FIG. 3b. When removing the needle the user will note that as he or she withdraws the needle 16 is protracted forward by spring 30.」(3欄42行?4欄16行):
「図2に示したツールは、穿孔の対象者の表面層から41を除去した後の、皮下注射針の取り扱いにおける安全手段を提供する。これらの安全手段は、ユーザを傷つける危険性を小さくするために、自動的に機能するように設計されている。
図2のツールは、2つのほぼ円筒形の形状を有する部材、すなわち、固定部材(28)およびスライド部材(16)を備えている。図2のツールを使用するために、ユーザは、まず、24左および24右を同時に圧迫して、これによって24の幅を狭めることによって、36から16を解放する。次に、ユーザは、図6に示されているように、スプリング30に対抗して、チャネル26内に24を引っ込める。この動作は、図3aに示されているように、チューブ42の先端41を、16分の3インチほど露出させるという目的を果たす。16をチャネル26内に保持するために、ユーザは、バネ板18を押し下げて、スプリング30がバネ板18を突き出すことを可能とする。これにより、バネ板18の傾斜している端部17が、グルーブ19内に係合し、そして、24が26内に保持されて、図3aに示されているように、41を露出させる。先端41を露出させた状態で、ユーザは、対象者の表面層を介して41を突き刺すことに取りかかることが可能である。ユーザは、針をさらに深く進めたときに、スプリング30によって与えられているテンションに対抗して、16が28内に押し込まれることを見出すはずである。さらに、ユーザは、図3bに示されているように、弾力性のあるバネ板18が、その自由位置に跳ね戻ることに気づくはずである。針を除去する際、ユーザは、彼あるいは彼女が針を引き抜くときに、スプリング30によって16が前方に突き出されていることに気づくはずである。」

16.甲第22号証
本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲第22号証(米国特許第4105030号明細書)には、図面とともに次の事項が記載されている。

(22a)
「It is generally known in the art that it is desirable in some cases to subcutaneously implant medicament containing pellets in some domestic animals such as cattle, sheep, horses, pigs, etc., to obtain a desired result such as weight gain, contraception, estrus suppression, or disease treatment.」(1欄14?19行):
「一部の場合に、体重増加、避妊、発情抑制、または、病気治療のような所望の効果を得るために、薬物含有ペレットを、牛、羊、馬、豚などの一部の家畜の皮下に埋め込むことが望ましいことは技術的に広く知られている。」

(22b)「The means of propulsion may be a helical coil spring which pushes the carriage rearwards, a coiled spiral spring with one end attached to the rear of the carriage 10 to pull the carriage rearwards, or a cylinder of compressed gas to push the carriage back. The preferred means is a helical coil spring which pushes the carriage rearwards.」(3欄45?51行):
「推進の手段は、キャリッジを後方へ押す螺旋状コイルバネでもよく、キャリッジを後方へ引き寄せるため一端がキャリッジ10の後方に取り付けられているコイル状の渦巻きバネでもよく、または、キャリッジを後ろに押すための圧縮ガスの円筒体でもよい。好ましい手段は、キャリッジを後方へ押す螺旋状コイルバネである。」

(22c)「When the carriage is in the cocked, ready position in the front part of the track, a trigger 32 is actuated by pressing with the finger holding the handle means 3 to release the carriage and allow the spring to propel the carriage rearwardly along the track and rod 28 while holding the handle stationary with one hand.」(3欄60?66行):
「キャリッジがトラックの前方部分においてコックされた、準備完了位置にあるとき、ハンドルを片手で静止した状態に保っている間に、キャリッジを放出し、バネがキャリッジをトラックおよびロッド28に沿って後方へ推進させることを可能にするため、ハンドル手段3を握る指で押すことにより引き金32が作動される。」

(22d)「Although the carriage 10 and track 4 of the apparatus are shown in block form, it is understood that it may be desirable to utilize a more streamlined form such as an oval, "u" shaped or circular cross-section.In such cases, the carriage may be designed to utilize bearing surfaces which do not employ stabilizing means such as rods 20 or lip 17 and groove 15 (as in FIGS. 3a and 5), but merely are machined or molded to allow the carriage to smoothly glide past the inside track surface.」(5欄3?11行):
「装置のキャリッジ10及びトラック4はブロック形状で図示されているが、長円形、「u」字形、または、円形断面のような、より流線型の形状を利用するのが望ましいということが理解される。このような場合、キャリッジは、(図3aおよび5に示されているような)ロッド20またはリップ17及び溝15のような安定化手段を用いない座面を利用するため設計されてもよく、または、キャリッジが滑走してトラック面の内側を通り過ぎることを可能にするように単に加工もしくは成形される。」

(22e)「FIG. 5 depicts the apparatus in a cocked position ready to be utilized to implant the pellets subcutaneously in the animal. It can be seen that the carriage 10 is maintained in the forward part of track 4 by the tip 40 of trigger 32, thus maintaining spring 22 in a compressed condition. Needle 50 having enlarged portion 60 received and retained in recess 16 of carriage 10 is situate so that the passageway 54 which extends the length of needle 50 is aligned with passageway 18 and part way through passageway 54 to abut pellet 53 situate in passageway 54 of needle 50. Rod 28 is secured in a stationary position by rod retaining means 30 which is located in the back of track 4.」(6欄19?31行):
「図5は、ペレットを動物の皮下に埋め込むため利用される準備ができているコックされた位置における装置を示している。キャリッジ10は引き金32の先端40によってトラック4の前方部分に保持され、したがって、バネ22を圧縮状態に維持することがわかる。キャリッジ10の凹部16に収容され保持される拡大部分60を有する針50は、針50の長さを延長する通路54が通路18と揃えられるように位置し、針50の通路54に位置しているペレット53に当接するようにある程度まで通路54の中を通る。ロッド28は、トラック4の背後部に位置しているロッド保持手段30によって静止した位置に固定される」

(22f)「The apparatus is utilized by inserting the sharp, beveled end of needle 50 subcutaneously into the animal, at least to the forward tip of rod 28, pulling trigger 32 which moves the tip 40 of trigger 32 downwardly thus releasing the carriage and allowing the spring 22 to expand and force the carriage rearwardly to the back 24 of track 4. The pellets 53 remain stationary while the needle 50 is witdrawn from around them and the pellets then remain under the skin of animal. 」(6欄40?49行):
「本装置は、針50の鋭利な斜端を、少なくともロッド28の前方先端まで、動物の皮下に挿入し、引き金32の先端40を下向きに移動させる引き金32を引き、これによって、キャリッジを放出し、バネ22が伸び、キャリッジをトラック4の背後部24へ後方に押し付けることを可能にすることによって利用される。ペレット53は針50がペレットの周りから回収される間に静止したままであり、ペレットは次に動物の皮膚の下にとどまる。」

17.甲第23号証
本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲第23号証(米国特許第2427069号明細書)には、図面とともに次の事項が記載されている。

(23a)「The latch is released and the writing point freed for retraction by simply pressing inwardly on the pocket clip 16. This causes pin 19 to become disengaged from notch 21, whereupon the ball-and-cartridge unit, together with the plunger, are moved rearwardly by spring 22.」(4欄30?35行):
「ポケットクリップ16を単純に中に押し込むことにより、ラッチが外され、また、ライティング・ポイントが引き込みのために自由になる。これにより、プランジャーとともに、ボール・カートリッジのピン19は、スプリング22により、後方に移動する。」

(23b)「Also any suitable means such as a separate button element may be employed for unlatching the bar 18 for retraction of unit 6.」(4欄46?48行):
「ユニット6を引き込むためにラッチ留めを外すバー18に、例えばセパレイト・ボタンのような適した方法を採用することもできる。」

18.甲第24号証
本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲第24号証(米国特許第2988055号明細書)には、図面とともに次の事項が記載されている。

(24a)「the writing unit 103 extends rearwardly from the forward barrel porion 101 to a latch mechanism arranged within the rear barrel portion 102 as indicated generally by the refernce numeral 105.」(2欄56?59行):
「ライティング・ユニット103は、前側バレル部101から後側バレル部102内に設けられ、参照符号105で全体が示されるラッチ機構へと延びている。」

(24b)「As thus assembled with the guide means 106,the actuating member 110 is arranged in relation to a lateral opening 111 through which it is accessible for inward depression, and the actuating member 110 preferably incorporates a pochet clip element 112 projecting through the lateral barrel opening 111 to an oprative clipping position, when the writing unit 103 is retracted, as seen in FIG.1, while being displaced inwardly at the lateral barrel opening 111 to an inoperative position when the writing unit 103 is projected, as seen in FIG.2.」(3欄7?17行):
「例えば、ガイド106を用いて組立ると、作動部材110は、横の開放部111に対して配置されており、それを通して内側のくぼみに接触できる、また、作動部材110は、できれば、横の胴の開放部111を通ってポケットクリップ部材112と一体化して、オペレイティング・ポジションの位置にある。ライティング・ユニットが引き込まれた場合が図1にある。ライティング・ユニット103が突出した場合が図2である。横の胴の開放部111で内側に外され、インオペレイティブポジションにある。」

(24c)「and thereby allowing retraction of the writing unit 103 under the force of the rearward bias thereon from spring 104.」(3欄74行?4欄1行):
「そして、作動部材が外側に移動すると、バネ104による後方への付勢力に基づいて、ライティング・ユニット103が引き込まれる。」

19.甲第25号証
本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲第25号証(米国特許第3039436号明細書)には、図面とともに次の事項が記載されている。

(25a)「In the first illustrated embodiment, the pen-body 10 incorporates a slidable carrier-body 11 ,which by pressure exerted by spring 12 is held in "closed" position. 」(2欄23?25行):
「最初に説明する具体例において、ペンボディ10には、スライド可能であり、スプリング12の付勢力により収納位置に保持されるキャリヤボディ11が内蔵されている。」

(25b)「The operating lever for the retracting mechanism of the fountain pen, consists of a hinged lever 42 fulcrumed at 43 in clip 44. Fingerpiece 45 of same is compressed by compressin spring 46 against check-ring 47 inserted over pushbutton 37(FIGURE 2).Said fingerpiece snaps in behind said ring and secures the writing mechanism against pressure exerted by spring 12,」(3欄50?56行)
「万年筆の引き込み機構の操作レバーは、クリップ44内部の43を支点としてしいるヒンジレバー42から構成される。同部材のフィンガーピース45は、圧縮バネ46に押され、プッシュボタン37に差し込まれたチェックリング47に抗している(図2)。該フィンガーピースが該リングの後部に係合し、スプリング12による付勢力に抗してライティング機構を保持する」

20.甲第29号証
本文書は、インターネットのウェブページの写しであって、文書中央上部には、「ボクシー BX-100」の外観図とともに「1976年度グッドデザイン賞受賞 1992年度ロングデザイン賞受賞 受賞番号:760291 受賞対象名:ボールペン ブランドなど:ボクシーBX-100 部門:商品デザイン部門 受賞企業:三菱鉛筆株式会社(東京)」と記載されている。また、文書右下隅部には、本文書の作成日を窺わせる「2009/12/17」なる文字も記載されている。


第六 対比・判断
1.対比
本件特許発明と甲1発明とを対比する。
甲1発明の「針5」は、上記摘記事項(1d)から皮下注射針であるから、本件特許発明の「ニードル」に相当する。
甲1発明の「ハウジング4」は、針5を支持するものであるから、本件特許発明の「ニードルハブ」に相当する。
甲1発明の針5の「鋭い自由端と反対の端部」は、ハウジング4の遠い端で当該ハウジング4に支持される部分であるから、本件特許発明の「固着端」に相当する。
甲1発明の針5は、ハウジング4に支持されることにより、ハウジング4の遠い端でハウジング4と連結されているものといえることから、甲1発明の「ハウジング4の遠い端で当該ハウジング4に支持される、」は、本件特許発明の「ニードルハブに連結された」に相当する。
甲1発明の「中空のさや6」については、甲第1号証の図1A,1Bの記載等を勘案すると、当該中空のさや6を滑動させるには親指ガード7に親指を当てるだけと認められ、主たる持ち手としての「ハンドル」は意味しないとしても、そのような滑動操作の際には、当該中空のさや6を補助的に持って使用する態様もあり得ることを考慮すると、その意味では本件特許発明の「中空のハンドル」又は「中空なハンドル」に相当するといえる。
甲1発明の「固着手段」は、ハウジング4(ニードルハブ)を一時的に中空のさや6(中空のハンドル)の遠い端に隣接して保持するものである点において、本件特許発明の「ラッチ」とは、「一時的保持手段」として共通しているといえる。
また、甲1発明の「皮下注射針等の安全装置」は本件特許発明の「安全装置」に相当する。

してみれば、両者は、本件特許発明の用語を用いて表現すると、
「近い端及び遠い端を有する中空のハンドルと、
該ハンドル内に配置されたニードルハブと、
鋭い自由端と、前記ニードルハブに連結された固着端とを有するニードルと、
ニードルハブを一時的に中空のハンドルの遠い端に隣接して保持する一時的保持手段と、
から成る安全装置。」
である点で一致し、次の点で相違する。

<相違点1>
本件特許発明は、「ニードルハブを中空なハンドルの近い端に向かって付勢する付勢手段」を有しているのに対し、甲1発明は、上記「付勢手段」に当たるものを有していない点。

<相違点2>
本件特許発明は、一時的保持手段として、「ニードルハブから独立して移動可能であり、ニードルハブを付勢手段の力に抗して一時的に中空のハンドルの遠い端に隣接して保持するラッチであって、ニードルの長さよりも短い振幅で手動により駆動され、ニードルの移動距離よりも短い距離のみ移動するラッチ」を有しているのに対し、甲1発明は、一時的保持手段である「固着手段」は、接着等によるものであり、上記「ラッチ」のような構成ではない点。

<相違点3>
本件特許発明は、「カニューレを患者の定位置に案内し運ぶためのニードル」を有しているのに対し、甲1発明は、単なる「ニードル」にすぎない点。

<相違点4>
本件特許発明は「カニューレ挿入のための安全装置」であるのに対し、甲1発明は「安全装置」である点。

2.判断
上記相違点について、判断する。
2-1 相違点1及び相違点2について
請求人は、平成23年8月9日付け口頭審理陳述要領書第16頁第1?5行において、「すなわち、請求人の主張は、審判請求書61頁下から5行目以下で主張しているように『ラッチを用いてバネ(付勢手段)の力に抗して一時的に止めているものを,手動でボタン等をごく短い距離だけ押し込んでラッチを外すことにより,上記先端部をバネの力により筒や管に収納する技術が,技術分野を問わず周知慣用手段であると把握され,これに基づくと本件発明は無効である』というものである」と、また、同第37頁下から3行?第39頁第8行において、「(2) ラッチを用いてバネ(付勢手段)の力に抗して一時的に止めているものを,手動でボタン等をごく短い距離だけ押し込んでラッチを外すことにより,上記先端部をバネの力により筒や管に収納する技術が,技術分野を問わず周知慣用技術であると把握され、相違点1および相違点2は、容易に想到できる・・・以上のように、注射器の分野においても、注射器の針を穿刺し、使用した後に、針を中空ハンドル等に収納すること、および、その針の収容の際に付勢手段を用いること、および、付勢手段を用いる際にラッチ付の構成を有していることは、周知技術であった。すなわち、筆記具やナイフの分野で、使用後に、ラッチおよび付勢手段を用いて、鋭利な先端部(ペン先、刃先)等を収容することが周知であり、また、前述のように、注射器の分野において、使用後に針先を収容すること、バネなどの付勢手段を使用すること、ラッチ構造を用いることが周知であったのだから、『ラッチを用いてバネ(付勢手段)の力に抗して一時的に止めているものを,手動でボタン等をごく短い距離だけ押し込んでラッチを外すことにより,上記先端部をバネの力により筒や管に収納する技術が,技術分野を問わず周知慣用手段』であった。」と主張している。
請求人が技術分野を問わず周知慣用手段であったと主張する「ラッチを用いてバネ(付勢手段)の力に抗して一時的に止めているものを、手動でボタン等をごく短い距離だけ押し込んでラッチを外すことにより、上記先端部をバネの力により筒や管に収納する技術」の「上記先端部」とは、「一時的に止めているもの」の「先端部」と解されるので、まず、「ラッチを用いてバネ(付勢手段)の力に抗して一時的に止めているものを、手動でボタン等をごく短い距離だけ押し込んでラッチを外すことにより、一時的に止めているものの先端部をバネの力により筒や管に収納する技術」(以下、「請求人主張周知技術」という。)について検討する。

2-1-1 甲第5?6号証、甲第10号証について
(1)甲第5号証
甲第5号証の上記摘記事項(5a)?(5d)及び図面を参照すれば、甲第5号証には、「ラッチ(係止爪部11)を用いて一時的に止めているもの(刀身部12)を、手動でボタン等(操作ボタン18)をごく短い距離だけ操作してラッチ(係止爪部11)を外すことにより、刀身部12先端部をバネ(コイルバネ16)の力により筒や管(ケース1)に収納する技術」が開示されている。
なお、第6図(a)の状態(ナイフの使用状態)において、刀身部12に対し、コイルバネ16の付勢力は作用していない。

(2)甲第6号証
甲第6号証の上記摘記事項(6a)?(6c)及び図面を参照すれば、甲第6号証には、「ラッチ(板ばね22の折曲部23)を用いて一時的に止めているものを、手動でボタン等(操作片5)をごく短い距離だけ操作してラッチ(折曲部23)を外すことにより、刃先8先端部をバネ(コイルばね32)の力により筒や管(外側ケース2)に収納する技術」が開示されている。
なお、第16図の状態(ナイフの使用状態)において、刃先8に対し、コイルばね32の付勢力は作用していない。

(3)甲第10号証
甲第10号証の上記摘記事項(10a)?(10d)及び図面を参照すれば、甲第10号証には、「ラッチ(ラッチ機構)を用いてバネ(付勢手段)(コイルばね36)の力に抗して一時的に止めているもの(ブレード22)を、手動でボタン等(ボタン44)をごく短い距離だけ押し込んでラッチを外すことにより、ブレード22先端部をバネ(コイルばね36)の力により筒や管(バレル部材11)に収納する技術」が開示されている。

(4)まとめ
以上のとおり、甲第5号証の刀身部12及び甲第6号証の刃先8は、いずれも請求人主張周知技術における「ラッチを用いてバネ(付勢手段)の力に抗して一時的に止めているもの」ではないが、少なくとも甲第10号証によれば、ナイフの技術分野において「ラッチを用いてバネ(付勢手段)の力に抗して一時的に止めている刃を、手動でボタン等をごく短い距離だけ押し込んでラッチを外すことにより、刃先端部をバネの力により筒や管に収納する技術」が、本件特許出願前に周知であったものといえる(以下、この周知技術を「周知技術I」という。)。

2-1-2 甲第23?25号証、甲第29号証について
(1)甲第23号証
甲第23号証の上記摘記事項(23a)?(23b)及び図面を参照すれば、甲第23号証には、「ラッチ(ラッチ)を用いてバネ(付勢手段)(スプリング22)の力に抗して一時的に止めているもの(ライティング・ポイント)を、手動でボタン等(ポケットクリップ16)をごく短い距離だけ押し込んでラッチ(ラッチ)を外すことにより、ライティング・ポイント先端部をバネ(スプリング22)の力により筒や管(ホルダー1)に収納する技術」が開示されている。

(2)甲第24号証
甲第24号証の上記摘記事項(24a)?(24c)及び図面を参照すれば、甲第24号証には、「ラッチ(ラッチ機構)を用いてバネ(付勢手段)(バネ104)の力に抗して一時的に止めているもの(ライティング・ユニット103)を、手動でボタン等(ポケットクリップ部材112)をごく短い距離だけ押し込んでラッチ(ラッチ機構)を外すことにより、ライティング・ユニット103先端部をバネ(バネ104)の力により筒や管(前側バレル部101)に収納する技術」が開示されている。

(3)甲第25号証
甲第25号証の上記摘記事項(25a)?(25b)及び図面を参照すれば、甲第25号証には、「ラッチ(フィンガーピース45)を用いてバネ(付勢手段)(スプリング12)の力に抗して一時的に止めているもの(ライティング機構)を、手動でボタン等(ヒンジレバー42)をごく短い距離だけ押し込んでラッチ(フィンガーピース45)を外すことにより、ライティング機構先端部をバネ(スプリング12)の力により筒や管(ペンボディ10)に収納する技術」が開示されている。

(4)まとめ
1976年度グッドデザイン賞を受賞した甲第29号証のボールペン「ボクシー BX-100」が、昭和51年当時、具体的にどのような内部構造を有していたのかについては明らかでないが、少なくとも甲第23?25号証によれば、ボールペンや万年筆等の筆記具の技術分野において「ラッチを用いてバネ(付勢手段)の力に抗して一時的に止めているペン先を、手動でボタン等をごく短い距離だけ押し込んでラッチを外すことにより、ペン先先端部をバネの力により筒や管に収納する技術」が、本件特許出願前に周知であったものといえる(以下、この周知技術を「周知技術II」という。)。

2-1-3 甲第2?4号証、甲第13?18号証、甲第20?22号証について
(1)甲第2号証
甲第2号証の上記摘記事項(2a)?(2i)及び図面を参照すれば、甲第2号証には、「ラッチ(戻り止め12)を用いてバネ(付勢手段)(スプリング21)の力に抗して一時的に止めているもの(可動コア6)を、手動でボタン等(突起11)をごく短い距離だけ押し込んでラッチ(戻り止め12)を外すことにより、可動コア6先端部をバネ(スプリング21)の力により筒や管(注射器本体1)に収納する技術」が開示されている。
なお、この「可動コア6」は、その形状等からみて、一種の「針」といえるものである。

(2)甲第3号証
甲第3号証の上記摘記事項(3a)?(3c)及び図面を参照すれば、甲第3号証には、「針30先端部を手動により筒や管(ハウジング)に収納する技術」が開示されている。

(3)甲第4号証
甲第3号証の上記摘記事項(4a)?(4d)及び図面を参照すれば、甲第4号証には、「ニードル13先端部を手動により筒や管(ハウジング11)に収納する技術」が開示されている。

(4)甲第13号証
甲第13号証の上記摘記事項(13a)?(13e)及び図面を参照すれば、甲第13号証には、「親指からの圧力により一時的に止めているもの(針12)を、圧力を解放することにより、針12先端部をバネ(針引き込みバネ56)の力により筒や管(バレル14)に収納する技術」が開示されている。

(5)甲第14号証
甲第14号証の上記摘記事項(14a)?(14d)及び図面を参照すれば、甲第14号証には、「針先端部をバネ(バネ)の力により筒や管(バレル)に収納する技術」が開示されている。

(6)甲第15号証
甲第15号証の上記摘記事項(15a)?(15b)及び図面を参照すれば、甲第15号証には、「針64先端部をバネ(ばね34)の力により筒や管(ハウジング12)に収納する技術」が開示されている。

(7)甲第16号証
甲第16号証の上記摘記事項(16a)?(16b)及び図面を参照すれば、甲第16号証には、「カニューレ先端部を手動により筒や管(バレル)に収納する技術」が開示されている。

(8)甲第17号証
甲第17号証の上記摘記事項(17a)?(17c)及び図面を参照すれば、甲第17号証には、「カニューレ44先端部を手動により筒や管(バレル12)に収納する技術」が開示されている。

(9)甲第18号証
甲第18号証の上記摘記事項(18a)?(18c)及び図面を参照すれば、甲第18号証には、「針30先端部を手動により筒や管(外管10)に収納する技術」が開示されている。

(10)甲第20号証
甲第20号証の上記摘記事項(20a)?(20e)及び図面を参照すれば、甲第20号証には、「ラッチ(楔23)を用いてバネ(付勢手段)(バネ13)の力に抗して一時的に止めているもの(針14)を、手動でボタン等(翼21)を操作してラッチ(楔23)を外すことにより、針14先端部をバネ(バネ13)の力により移動させる技術」が開示されている。
なお、針14は、バネ13の力で移動することにより筒や管に収納されるものではない。

(11)甲第21号証
甲第21号証の上記摘記事項(21a)?(21e)及び図面を参照すれば、甲第21号証には、「バネ(付勢手段)(スプリング30)の力に抗して一時的に突出状態としているもの(注射針)を、対象者の表面との接触を解除することにより、注射針先端部をバネ(スプリング30)の力により筒や管(安全シース)に収納する技術」が開示されている。
なお、図3aにおいて、バネ板18の端部17がグルーブ19内に係合しているが、この係合は、ボタン等を押し込むことにより外れるのではなく、針を対象者により深く刺すことにより自然と外れるものである。また、図3cの状態(注射針の使用状態)において、注射針をスプリング30の力に抗して突出状態に維持するために、ラッチを用いるのではなく、穿孔の対象者の表面層を利用している。

(12)甲第22号証
甲第22号証の上記摘記事項(22a)?(22f)及び図面を参照すれば、甲第22号証には、「ラッチ(引き金32の先端40)を用いてバネ(付勢手段)(バネ22)の力に抗して一時的に止めているもの(針50)を、手動でボタン等(引き金32)をごく短い距離だけ操作してラッチ(引き金32の先端40)を外すことにより、針50先端部をバネ(バネ22)の力により筒や管(トラック4)に収納する技術」が開示されている。

(13)まとめ
以上のとおり、甲第3?18号証及び甲第21号証には、請求人主張周知技術における「ラッチを用いてバネ(付勢手段)の力に抗して一時的に止めているもの」が記載されておらず、また、甲第3?4号証及び甲第16?18号証及び甲第20号証には、請求人主張周知技術における「先端部をバネの力により筒や管に収納する技術」が記載されていないが、少なくとも甲第2号証及び甲第22号証によれば、注射器の技術分野において、針の具体的な機能はさておき、「ラッチを用いてバネ(付勢手段)の力に抗して一時的に止めている針を、手動でボタン等をごく短い距離だけ押し込んでラッチを外すことにより、針先端部をバネの力により筒や管に収納する技術」が、本件特許出願前に周知であったものといえる(以下、この周知技術を「周知技術III」という。)。

2-1-4 周知技術I?周知技術IIIのまとめ
周知技術I?周知技術IIIを総合して判断するに、周知技術I?周知技術IIIの属する各技術分野において、周知技術I?周知技術IIIがそれぞれどのような課題を解決するために用いられているかはさておき、少なくともナイフ、筆記具及び注射器を含む種々の技術分野において、「ラッチを用いてバネ(付勢手段)の力に抗して一時的に止めているものを、手動でボタン等をごく短い距離だけ押し込んでラッチを外すことにより、その一時的に止めているものの先端部をバネの力により筒や管に収納する技術」自体は、本件特許出願前に周知であったものと把握できる。

2-1-5 甲1発明への請求人主張周知技術の適用について
(1)甲1発明の目的について
甲第1号証における「臨床オペレータが、処理後、誤って、針で自分自身あるいは他の人を傷つけ、そのために病気が媒介されたり、あるいは化学的または生物学的中毒を引き起すという偶発事故が、新聞や医療雑誌に数多く報告されている。」(上記摘記事項(1d))、「臨床オペレータ、臨床処理の監視者、および一般の人々を含むその他すべての関係者が、誤って傷つくことのないような方法で、皮下注射針またはそうした器具を処理することのできる装置が明らかに必要である。」(上記摘記事項(1e))、「使用後、保護さやを固定位置まで伸ばし、安全な方法で針を含む。」(上記摘記事項(1i))等の記載を参照すれば、甲1発明は、皮下注射針等の安全装置に関し、臨床オペレータなどの医療関係者が誤って傷つき、病気が媒介されたり生物学的中毒が引き起こされたりしないように、皮下注射針等を処理することができるような装置を提供することを目的としており、皮下注射針の使用後、医療関係者である操作者の手動によりさや6が針5を包むように前に動かされることで、安全な方法で針を含むことにより、当該目的を達成するものである。

(2)請求人主張周知技術の目的について
甲第10号証、甲第23?25号証、甲第2号証及び甲第22号証から把握される請求人主張周知技術において、「ラッチを用いてバネ(付勢手段)の力に抗して一時的に止めているもの」「の先端部をバネの力により筒や管に収納する」ことの意義について検討する。
周知技術Iにおいて、ナイフの刃先を収納することの意義につき、甲第10号証には、直接の明示はないが、ナイフにおいて刃がむき身の状態であると人体等を傷つける危険があり、この危険を避けるために、非使用時にナイフの刃を引き込んで収納することは明らかであり、また、周知技術IIにおいて、筆記具のペン先を収納することの意義は、非使用時にむき出しのペン先から漏れるインクにより衣服等が汚れることを防止するためであることも明らかである。
甲第2号証における「本発明は、自動プランジャ復帰式のバイオプシー用の注射器、即ち、後の分析のために、患者の身体から組織や体液のサンプルを抽出する皮下注射器に関する。」(上記摘記事項(2c))、「皮下注射針7の可動コア6は、プランジャ13の内筒15の前端に取付けられている。同コア6の基部は、外側面がアンダカット状のパッキン20に被覆されている。これは、注射器本体1の中心空洞9内で上記パッキン20を摺動させ、気密、液密のシールを構成させるためである。」(上記摘記事項(2g))、「注射針7を、分析のために抽出すべき組織のサンプルの深さまで刺し込む。その後、上記突起11を横方向に押圧すると、環状部17が戻り止めから解放されてプランジャ13が戻される。・・・このようにプランジャ13が戻る間に、注射器本体1の中心空洞9及び円錐台部分10には適当な負圧が発生し、少量の組織または流体が針7から吸込まれる。」(上記摘記事項(2i))の各記載によれば、甲第2号証の可動コア6を注射器本体1内に引き込んで収納することの意義は、注射器1内部に発生する負圧を針7先端に伝達するための通路の確保であり、同時に、針7先端から吸引される組織や体液が針7内へ進入するための通路の確保であるといえる。
甲第22号証における「薬物含有ペレットを、牛、羊、馬、豚などの一部の家畜の皮下に埋め込む」(上記摘記事項(22a))、「針50は、針50の長さを延長する通路54が通路18と揃えられるように位置し、針50の通路54に位置しているペレット53に当接するようにある程度まで通路54の中を通る。」(上記摘記事項(22e))、「針50の鋭利な斜端を、少なくともロッド28の前方先端まで、動物の皮下に挿入し、引き金32の先端40を下向きに移動させる引き金32を引き、これによって、キャリッジを放出し、・・・ペレット53は針50がペレットの周りから回収される間に静止したままであり、ペレットは次に動物の皮膚の下にとどまる。」(上記摘記事項(22f))の各記載によれば、甲第22号証の針50を引き戻してトラック4内に収納することの意義は、薬物含有ペレットを通路内に格納する針50が動物に皮下挿入された後に、ペレットの周りから引き戻されることによりペレットを動物の皮下に残留させる点にあることが分かる。

よって、甲第10号証、甲第23?25号証、甲第2号証及び甲第22号証から把握される請求人主張周知技術における「ラッチを用いてバネ(付勢手段)の力に抗して一時的に止めているもの」「の先端部をバネの力により筒や管に収納する」ことの目的は、ナイフに関しては、刃により人体等を傷つけることの防止であり、筆記具に関しては、ペン先から漏れるインクにより衣服等を汚すことの防止であり、注射器に関しては、引き戻す針に外挿される他の針の内部に通路を形成すること又は針内部の薬物含有ペレットを皮下に残して埋め込むことであるとは理解できるものの、請求人主張周知技術を用いることの目的に、使用後の皮下注射針により、臨床オペレータなどの医療関係者が誤って傷つき、病気が媒介されたり生物学的中毒が引き起こされたりすることを防ぐことまでもが含まれていると解すべき根拠は見あたらない。

(3)相違点の判断
上で述べたとおり、甲1発明は、固着手段による一時的な保持が解除された後は、ハウジング4に対しさや6が移動可能に配置されることにより、使用後の皮下注射針で臨床オペレータなどの医療関係者が誤って傷つき、病気が媒介されたり生物学的中毒が引き起こされたりすることを防ぐという課題を解決するものである。
そして、上記の検討のとおり、請求人主張周知技術自体は、本件特許出願前に周知であったとしても、請求人主張周知技術により解決しようとする課題には、使用後の皮下注射針で臨床オペレータなどの医療関係者が誤って傷つき、病気が媒介されたり生物学的中毒が引き起こされたりすることを防ぐという甲1発明の課題と共通するところがないのであるから、請求人主張周知技術を甲1発明に適用すべき動機付けはない。
よって、甲1発明において、移動可能とする対象として、さや6に代えてハウジング4を選択した上で、請求人主張周知技術の「バネ(付勢手段)」を適用し、相違点1における本件特許発明の構成とすることが当業者にとって容易であるとはいえない。
同様に、甲1発明において、移動可能とする対象として、さや6に代えてハウジング4を選択した上で、請求人主張周知技術を適用し、相違点2における本件特許発明の構成とすることも当業者にとって容易であるとはいえない。

なお、請求人は、平成23年8月24日付け上申書において、甲第64号証の1(手塚治虫著、「手塚治虫漫画全集243 ビッグX(1)」、第1刷、株式会社講談社、1981年7月20日)及び甲第64号証の2(手塚治虫著、「手塚治虫漫画全集244 ビッグX(2)」、第1刷、株式会社講談社、1981年8月20日)を提出し、「このように、使用時にのみ針が突出する状態の筆記具型注射器は、わが国で最も著名な漫画家の著名な作品においても、最も重要なアイテムとして示され、当業者であるか否かを問わず、国民に広く知られていたものである。以上のとおりであるから、カニューレ挿入装置を含む注射器の分野において、使用時にのみペン先を突出させるという筆記具の基本的技術を採用する動機付けがないなどといえるはずがない。」とも主張する。
しかしながら、仮に「使用時にのみ針が突出する状態の筆記具型注射器」が本件特許出願前において周知であったとしても、「使用時にのみペン先を突出させるという筆記具の基本的技術」即ち、筆記具に関する上記周知技術IIには、その解決しようとする課題につき、使用後の皮下注射針で臨床オペレータなどの医療関係者が誤って傷つき、病気が媒介されたり生物学的中毒が引き起こされたりすることを防ぐという甲1発明の課題と共通するところがない点には依然として変わりがないのであるから、甲1発明において、「使用時にのみペン先を突出させるという筆記具の基本的技術」即ち、筆記具に関する上記周知技術IIを採用すべき動機付けはない。
よって、「カニューレ挿入装置を含む注射器の分野において、使用時にのみペン先を突出させるという筆記具の基本的技術を採用する動機付けがないなどといえるはずがない。」という請求人の主張は採用できない。

2-1-6 相違点1及び相違点2についてのまとめ
以上によれば、本件特許発明の相違点1に係る構成及び相違点2に係る構成は、甲第1号証に記載の発明、並びに甲第2号証ないし甲第6号証、甲第10号証、甲第13号証ないし甲第18号証、甲第20号証ないし甲第25号証及び甲第29号証に記載された周知の技術に基づいて当業者が容易に想到することができたものとはいえない。

2-2 相違点3及び相違点4について
請求人は、口頭審理陳述要領書の「2.4 相違点3および相違点4について」において、「甲第56号証ないし甲第62号証のとおり、本件特許出願当時、注射器を安全に処理するために末端に延ばされた位置から注射器シリンダの基部に引込められた位置に皮下針を置換える注射器として、カニューレを患者の定位置に案内し運ぶための針を有する注射器は周知であった。したがって、相違点3および相違点4については、周知技術を引用発明1に適用することにより、当業者であれば容易に想到し得る。」と主張し、甲第56?62号証に加え甲第48?55号証も提出している(なお、甲第60号証は甲第4号証に、また、甲第61号証は甲第3号証に同じ。)。
相違点3及び相違点4について検討するに、甲第48?62号証によるまでもなく、甲第3号証の上記摘記事項(3b)、甲第4号証の上記摘記事項(4c)等の記載内容を踏まえれば、「カニューレ挿入のための注射器」が本件特許出願前より周知であったものといえることから、この周知技術を甲1発明に適用し、相違点3及び相違点4における本件特許発明の構成とすることは、当業者であれば容易に想到し得たことである。

2-3 相違点1?相違点4についてのまとめ
本件特許発明の相違点3及び相違点4に係る構成が、甲1発明及び甲第48号証ないし甲第62号証記載された周知の技術に基いて当業者が容易に想到することができたものであるとしても、本件特許発明の相違点1及び相違点2に係る構成は、甲第1発明、並びに甲第2号証ないし甲第6号証、甲第10号証、甲第13号証ないし甲第18号証、甲第20号証ないし甲第25号証及び甲第29号証に記載された周知の技術に基づいて当業者が容易に想到することができたものとはいえない。
そして、本件特許発明は、請求項1に記載された発明の構成に欠くことができない事項を備えることにより、特許明細書記載の作用効果を奏することができるものである。

2-4 まとめ
以上のとおり、本件特許発明は、甲第1号証に記載の発明、並びに甲第2号証ないし甲第6号証、甲第10号証、甲第13号証ないし甲第15号証、甲第16号証ないし甲第18号証、甲第20号証ないし甲第25号証、甲第29号証及び甲第48号証ないし甲第62号証に記載された周知の技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
したがって、本件特許発明は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものではないから、本件特許発明に係る特許についての無効理由には理由がなく、本件特許は、同法第123条第1項第2号に該当しない。


第七 むすび
以上のとおりであるから、請求人の主張する理由及び提出した証拠方法によっては、本件特許を無効とすることができない。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2011-09-15 
出願番号 特願昭63-107382
審決分類 P 1 123・ 121- Y (A61M)
最終処分 不成立  
特許庁審判長 横林 秀治郎
特許庁審判官 寺澤 忠司
関谷 一夫
登録日 1997-05-09 
登録番号 特許第2647132号(P2647132)
発明の名称 安全後退用針を備えたカニューレ挿入装置  
代理人 日野 真美  
代理人 黒川 恵  
代理人 片山 英二  
代理人 杉山 共永  
代理人 本多 広和  
代理人 中村 閑  
代理人 森 修一郎  
代理人 山田 徹  
代理人 田中 成志  

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