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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 A61B
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61B
管理番号 1265459
審判番号 不服2011-26839  
総通号数 156 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-12-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-12-12 
確定日 2012-11-01 
事件の表示 特願2009-23588「血栓捕捉カテーテル」拒絶査定不服審判事件〔平成21年5月14日出願公開、特開2009-101196〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成15年8月18日に出願された特願2003-294616号(優先権主張 平成14年8月20日)の一部を新たな特許出願として平成21年2月4日に適法に出願した、いわゆる分割出願であって、平成23年5月26日付け、及び、同年8月19日付けで手続補正がなされた後、平成23年9月8日付けで、前記8月19日付け手続補正について補正の却下の決定がなされるともに、同日付けで拒絶査定がなされた。
本件は、前記拒絶査定を不服として平成23年12月12日に請求された拒絶査定不服審判事件であって、当該請求と同時に特許請求の範囲についての補正がなされた。

第2 平成23年12月12日付け手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成23年12月12日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。
[理由]
1 本件補正後の請求項1に係る発明
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1は、次のように補正された。
「基端から先端に貫通するルーメンを有し、該ルーメンの基端が閉鎖部材で閉鎖されたシースと、
該シース内の第2のルーメンに進退自在に挿着された、先端と基端を有する柔軟なシャフトと、
該シャフトの先端部分に設けられ、前記シースの先端部分に該先端から出し入れ可能に挿着された、先端と基端が先細に収束し中間の膨らんだ形状の血栓捕捉部材、とを含んでなり、
前記血栓捕捉部材の先端側に、体液は透過することのできる体液通過孔を有するフィルターが被覆されてなる血栓捕捉部を設け、
前記シースの先端側側壁にシャフトを挿通可能な側孔が設けられるとともに、シースの先端側に該側孔に連通しかつ血栓捕捉部材を挿入可能な第2のルーメンが形成され、血栓捕捉部材より基端側のシャフト部分が該側孔を通して前記シースの外に突出され、
前記血栓捕捉部材は、先端が前記シャフトにスライド可能に取り付けられるとともに、基端が該シャフトに固定され、前記シースに収縮状態で挿着されており、該シースを基端側に引いたときに、複数の螺旋状ワイヤからなる前記血栓捕捉部材がシースの外に出て復元形状に拡張し、螺旋状部分の径方向の最大外径領域が血管壁に柔軟に密着するようにされてなり、
該第2のルーメンは、該シースを規定する壁に隣接するように、該シースが有する該ルーメンの内部に存在する血栓捕捉カテーテル。」(当審注:下線は補正箇所を示す。)

2 補正の目的
本件補正は、請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である、シャフトが挿着されるルーメン、血栓捕捉部材、シースに設けられる孔、及び、血管壁に柔軟に密着する血栓捕捉部材の部位について、それぞれ、「シース内の第2のルーメン」であるという事項、「先端と基端が先細に収束し中間の膨らんだ形状」であるという事項、「シースの先端側側壁に」設けられた「シャフトを挿通な側孔」であるという事項、及び、「螺旋状部分の径方向の最大外径領域」であるという事項を付加して限定し、さらに、上記第2のルーメンについて、「該第2のルーメンは、該シースを規定する壁に隣接するように、該シースが有する該ルーメンの内部に存在する」という事項を付加して限定する補正をするものであり、かつ、補正後の請求項1に記載された発明は、補正前(平成23年5月26日付け手続補正によって補正。)の請求項1に記載された発明と、産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるので、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2(以下、単に「特許法第17条の2」という。)第4項第2号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

そこで、上記した本件補正後の請求項1に記載された発明(以下「本願補正発明」という。)が、特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか、すなわち、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否かについて、以下に検討する。

3 引用文献
(1)引用例1
原査定の拒絶の理由に引用された、本願の優先日前に頒布された刊行物である国際公開第02/28292号(以下「引用例1」という。)には、図面と共に次の事項が記載されている(当審注:上記引用例1に対応する日本国公表公報である特表2004-510486号公報の該当箇所の記載を邦訳として示す。)。
ア 明細書第1頁第6行?第2頁第14行
「発明の技術分野
本発明は一般的には閉塞または狭窄した血管を治療するための装置および方法に関する。より詳細には、本発明は閉塞または狭窄を除去するための処置の間に、血管内にフィルタを一時的に配置するための装置および方法に関する。…(中略)…
発明の背景
…(中略)…
閉塞または狭窄した血管は、血管形成術やアテローム切除術を含む数々の医療処置によって治療することができる。…(中略)…
アテローム切除術処置の間に、狭窄から分離された狭窄破片が血管の管腔内を自由に流れるおそれがある。もしこの破片が循環系に入ると、脳脈管構造内や肺内において容易に閉塞が形成されるおそれがあり、そのいずれも非常に望ましくないことである。脳脈管構造内での閉塞は脳卒中を引き起こす可能性があり、また肺内での閉塞は血液への酸素供給を妨害し得る。血管形成術処置の間には、血管の処置によって狭窄破片が脱離することもある。
発明の概要
本発明は一般的には閉塞または狭窄した血管を治療するための装置および方法に関する。より詳細には、本発明は閉塞または狭窄を除去するための処置の間に、血管内にフィルタを一時的に配置するための装置および方法に関する。」
イ 明細書第9頁第5?22行
「図1は、本発明の例示的実施形態に従うフィルタ送達装置100の部分断面図である。フィルタ送達装置100は、長尺状シャフト120を有するカテーテル102を含む。長尺状シャフト120は基端部122と、先端部124と、シャフト管腔128を画定する壁126とを備えている。図1の実施形態において、カテーテル102の先端部分は、血管130内に配置されている。好ましい実施形態において、カテーテル102は血管130から延出し、長尺状シャフト120の基端部122は患者の体外に配置されている。基端部122の基端側の長尺状シャフト120にはハブ132が周設されている。
またカテーテル120は、長尺状シャフト120の壁126に固定された第1の端部136と、シャフト管腔128内に配置された第2の端部138とを有する管状部材134も備えている。管状部材134は、管状部材134の第2の端部138によって画定される先端側ガイドワイヤポート142と流体連通するガイドワイヤ管腔140とを画定する。カテーテル102は、長尺状シャフト120の壁126を貫通する基端側ガイドワイヤポート144も備えている。基端側ガイドワイヤポート144には、本発明の精神および範囲から逸脱しない限りにおいて、様々な実施形態が可能である。たとえば、基端側ガイドワイヤポート144は、長尺状シャフト120の壁126によって画定されてもよい。別の例としては、基端側ガイドワイヤポート144は、管状部材134の第1の端部136によって画定されてもよい。」
ウ 明細書第10頁第12行?第11頁第1行
「図1において、装置100は、シャフト管腔128の先端部分148内に配置されたフィルタ146を備えていることが見てとれる。図1の実施形態において、フィルタ146は収縮形態にある。図1の装置100は、フィルタ146に固定された先端部108を有するガイドワイヤ104も備えている。図1の実施形態において、ガイドワイヤ104は、先端側ガイドワイヤポート142と、ガイドワイヤ管腔140と、基端側ガイドワイヤポート144とを通過して延びる。
図2は図1のフィルタ送達装置100の部分断面図である。図2の実施形態において、カテーテル102は、フィルタ146がシャフト管腔128の外側に配置されるように、ガイドワイヤ104に関して基端方向に移動されている。図2に示されるように、フィルタ146はシャフト管腔128の外側にあるときには自由に拡張形態をとれる。カテーテル102は、例えば、ガイドワイヤ104の基端部分106を把持し、カテーテル102のハブ132に牽引力を与えることによって、ガイドワイヤ104に関して移動させることができる。」
エ 図面頁1/24及び2/24


オ 当業者の技術常識に照らすと、上記図面の図示内容及び当該図面に関する上記記載事項からみて、ガイドワイヤ104は、長尺状シャフト120内のガイドワイヤ管腔140に進退自在に挿着された柔軟なものであること、及び、フィルタ146は、長尺状シャフト120の先端部124から出し入れ可能に挿着されるものであって、先端と基端が先細に収束していて中間で膨らんだ形状をなし、先端側に、収縮・拡張可能で、自由に拡張形態をとったとき、径方向の最大外径領域が血管130の内壁に接するするようにされてなる部材を具備することが明らかである。

これらアないしエの記載及び図示内容、ならびに、オで述べた明らかな事項を総合すると、引用例1には次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているといえる。
「基端部122から先端部124に貫通するシャフト管腔128を有する長尺状シャフト120と、
該長尺状シャフト120内のガイドワイヤ管腔140に進退自在に挿着された、先端部108と基端部分106を有する柔軟なガイドワイヤ104と、
該ガイドワイヤ104の先端部108に設けられ、前記長尺状シャフト120の先端部分148に該先端部124から出し入れ可能に挿着された、先端と基端が先細に収束し中間の膨らんだ形状のフィルタ146、を含んでなり、
前記フィルタ146の先端側に、収縮・拡張可能で、自由に拡張形態をとったとき、径方向の最大外径領域が血管130の内壁に接するようにされてなる部材を設け、
前記長尺状シャフト120の先端部124側の壁126にガイドワイヤ104を挿通可能なガイドワイヤポート144が設けられるとともに、長尺状シャフト120の先端部124側に該ガイドワイヤポート144に連通しかつフィルタ146を挿入可能なガイドワイヤ管腔140が形成され、フィルタ146より基端部分106側のガイドワイヤ104部分が該ガイドワイヤポート144を通して前記長尺状シャフト120の外に延び、
前記フィルタ146は、前記長尺状シャフト120に収縮形態で挿着されており、該長尺状シャフト120を基端方向に移動したときに、前記フィルタ146が長尺状シャフト120の外側で自由に拡張形態をとることができ、径方向の最大外径領域が血管130の内壁に接するようにされてなる、狭窄破片を除去するためのカテーテル102。」

(2)引用例2
同じく原査定の拒絶の理由に引用された、本願の優先日前に頒布された刊行物である、国際公開第00/16705号(以下「引用例2」という。)には、図面と共に次の事項が記載されている。(当審注:上記引用例2に対応する日本国公表公報である特表2002-526196号公報の該当箇所の記載を邦訳として示す。)
ア 明細書第1頁第28行?第3頁第35行
「発明の背景
血管から障害物を除去するための種々の外科的または非外科的な血管形成の方法が開発されている。…(中略)…外科的な方法には、動脈からプラークを除去すること、あるいは、障害となるプラークを迂回するために動脈に移植片を取り付けることのいずれかが関係する。さらに、アテレクトミーのような他の技法もまた提案されている。このアテレクトミーにおいては、回転するブレードを用いて動脈壁からプラークを切除する。
これらの技法に共通する不都合点の一つに、プラークまたは血栓の部分の偶発的な放出があり、これによって、脈管のあらゆる場所に滞留する可能性のある塞栓物が生じる。もちろん、このような塞栓物は患者にとって極めて危険であり、末梢循環床の重度の障害を生じる場合が多い。また、治療する血管によって、発作や心筋梗塞または四肢の虚血症を生じる可能性がある。
…(中略)…
従来技術の脈管用フィルタは通常において患者の静脈系内に永久的に移植されるために、フィルタの必要性が無くなった後も、外科的な除去を行わない限り患者の体内に留まる。米国特許第3,952,747号はステンレススチール製のフィルタ処理装置を記載しており、当該装置は静脈を介して下大静脈内に永久的に移植される。このフィルタ処理装置は再発性の肺動脈塞栓症を治療するために使用される。また、米国特許第4,873,978号は先端部に取り付けたストレーナを有するカテーテル本体部分により構成されているカテーテル装置を記載している。このストレーナは、血管内を横切ってそのほぼ全体に延在して通過する塞栓物を補足する開いた形態と、カテーテルの除去中に捕捉した塞栓物を保持する閉じた形態との間で変形可能である。さらに、カテーテル本体部分の基端部における作動可能な機構によりストレーナの開閉が選択的に行える。一般に、このストレーナはつぶすことのできる円錐形体であり、その頂上部分がカテーテル本体部分の先端部から基端部に挿通されるワイヤに取り付けられている。
永久的な移植は医療的に望ましくないと思われる場合が多いが、脈管用フィルタは潜在的に生命を危うくする状況に応じて最優先で患者に移植されるために、このような移植が行われている。従って、脈管用フィルタの永久的な移植における不都合点は許容される場合が多い。
このような永久的な移植を回避するために、従来の外科手術および血管形成処理に伴う塞栓形成を阻止するための装置および方法を提供することが強く望まれている。特に、脈管系内に配置されて外科手術または血管形成処理中に生じたプラークおよび血栓の部分を収集して取り出すことのできる装置を提供することが要望されている。
発明の目的
本発明の目的はマクロ的およびミクロ的な塞栓形成を減少するための脈管用フィルタシステムを提供することである。
また、本発明の目的はフィルタが必要でなくなった場合に患者の脈管系等から容易に除去できる脈管用フィルタシステムを提供することである。」
イ 明細書第7頁第19行?第8頁第12行
「発明の詳細な説明
本発明は経皮的血管形成およびステント処理において使用するためのフィルタシステムに関し、脈管内処理中における末梢部の塞栓症の予防方法を提供する。さらに、本発明のフィルタシステムは塞栓形成を防止しながら末梢部の灌流を可能にする。
このシステムは薄く穴あけしたフィルタ膜により構成されており、このフィルタ膜は塞栓物の通過を阻止することができ、ガイドワイヤの先端部に取り付けられる。実施形態の一例において、このシステムは細いファイバー材を使用しており、このファイバー材は移動可能であって、フィルタ膜に取り付けられているか包まれていて当該フィルタ膜を配備状態および/またはつぶれた状態にする。本発明はまたフィルタ膜に取り付けられて当該フィルタ膜を配備状態にする金属の針骨または膨張可能な針骨の使用を含む。さらに、これらのファイバーまたは針骨材は移動可能なコアに取り付け可能であり、このコアはガイドワイヤ内において摺動可能であって、フィルタ膜を配備状態およびつぶれた状態にするのに使用される。
このフィルタ膜は当該膜の取り付けられていない端部が上方すなわち先端部側に移動して動脈壁に強く接触するまで外側に広がることにより傘状の形態で配備状態を採る。フィルタ膜が配備状態にある時に、頸動脈狭窄症のような狭窄症や塞栓物を生じやすい他の状態を治療する血管内腔部の断面積を広げる。
また、本発明の別の好ましい実施形態において、薄い柔軟な穴あきの膜が先端側に延在しているバスケットを形成する4個以上の支持体により支持されている。さらに、このバスケットの少なくとも一端部がガイドワイヤに取り付けられており、摺動可能な端部である他端部が移動して膜を開閉できる。」
ウ 明細書第15頁第1?21行
「図14はフィルタ膜170を取り付けたガイドワイヤ160の先端部の側方から見た断面図を示している図である。図14は最先端部において造形可能な柔らかい「フロッピー」先端部162を備えるガイドワイヤ160を示しており、この先端部162によりガイドワイヤ160に柔軟性と操作性が賦与される。なお、図14におけるフィルタ膜は開口状態になっている。
ガイドワイヤ160はコアワイヤ164により構成されていて、フロッピー先端部162およびシース166の中に延在している。フィルタ膜170は先端部172および基端部174をそれぞれ有する2本以上のフィルタバスケットワイヤ168により構成されているバスケット169により支持されている。…(中略)…選択的に、および、好ましくは、基端側マーカー178がコアワイヤ164に固定されていて、先端側マーカー176が、ポリマー製または金属製のスリーブを介して、コアワイヤ164上において摺動可能である。」
エ 明細書第17頁第37行?第18頁第7行
「図19はバスケットワイヤ(当審注:原文は「basket wires」。以下同様。)220がほぼ螺旋状の形態をしている別の構成を示している図である。フィルタ部材222がバスケットワイヤ220の先端部分を被覆または包容しており、バスケットワイヤ220の基端部分および先端部分が基端側放射線不透過性マーカーまたはクリンプバンド224および先端側放射線不透過性マーカーまたはクリンプバンド226によりそれぞれ固定されている。さらに、マーカー224および226は既に説明したようにコアワイヤ228上において固定されているか、摺動可能である。好ましくは、4本乃至8本のバスケットワイヤ220が存在していて、各ワイヤが約45°乃至360°回転している。」
オ 図面頁15/19及び17/19


上記アないしオの記載事項及び図示内容を総合すると、引用例2には、次の事項が開示されているといえる。
「脈管系内に配置されて外科手術または血管形成処理中に生じたプラークおよび血栓の部分を収集して取り出すための脈管用フィルタシステムであって、ほぼ螺旋状の形態をしている複数のバスケットワイヤ220の先端部分を被覆または包容して、薄い柔軟な穴あきの膜からなるフィルタ部材222を設け、前記複数のバスケットワイヤの先端部分226をコアワイヤ228に摺動可能に取り付けるとともに、基端部分224を該コアワイヤ228に固定して取り付けることにより、前記先端部分226が該コアワイヤ228上を移動して前記フィルタ部材222が開閉可能となるシステム。」

4 対比
本願補正発明と引用発明を対比する。
(1)引用発明の「狭窄破片を除去するためのカテーテル102」が、本願補正発明の「血栓捕捉カテーテル」に相当することは当業者の技術常識からして明らかである。そして、引用発明の「基端部122」は本願補正発明の「基端」に相当する。以下、同様に、「先端部124」は「先端」に、「シャフト管腔128」は「ルーメン」に、「長尺状シャフト120」は「シース」に、「先端部108と基端部分106を有する柔軟なガイドワイヤ104」は、「先端と基端を有する柔軟なシャフト」に、それぞれ相当するといえる。
(2)また、技術常識に照らすと、引用発明の「ガイドワイヤ104の先端部108に設けられ、前記長尺状シャフト120の先端部分148に該先端部124から出し入れ可能に挿着された、先端と基端が先細に収束し中間の膨らんだ形状のフィルタ146」が、本願補正発明の「シャフトの先端部分に設けられ、前記シースの先端部分に該先端から出し入れ可能に挿着された、先端と基端が先細に収束し中間の膨らんだ形状の血栓捕捉部材」に相当し、引用発明の「フィルタ146の先端側に、収縮・拡張可能で、自由に拡張形態をとったとき、径方向の最大外径領域が血管130の内壁に接するようにされてなる部材」が、本願補正発明の「血栓捕捉部材の先端側に、体液は透過することのできる体液通過孔を有するフィルターが被覆されてなる血栓捕捉部」に相当し、さらに、引用発明の「フィルタ146は、前記長尺状シャフト120に収縮形態で挿着されており、該長尺状シャフト120を基端方向に移動したときに、前記フィルタ146が長尺状シャフト120の外側で自由に拡張形態をとることができ、径方向の最大外径領域が血管130の内壁に接するようにされてなる」という事項が、本願補正発明の「血栓捕捉部材は」、「前記シースに収縮状態で挿着されており」、「該シースを基端側に引いたときに」、「血栓捕捉部材がシースの外に出て復元形状に拡張し」、「径方向の最大外径領域が血管壁に」「密着する」ことと同義であることは明らかである。
(3)さらに、引用発明の「長尺状シャフト120の先端部124側の壁126に」設けられている「ガイドワイヤ104を挿通可能なガイドワイヤポート144」は、本願補正発明の「シースの先端側側壁に」設けられている「シャフトを挿通可能な側孔」に相当するといえるから、引用発明の「長尺状シャフト120の先端部124側に該ガイドワイヤポート144に連通しかつフィルタ146を挿入可能なガイドワイヤ管腔140」が、本願補正発明の「シースの先端側に該側孔に連通しかつ血栓捕捉部材を挿入可能な第2のルーメン」に相当し、また、引用発明の「フィルタ146より基端部分106側のガイドワイヤ104部分が該ガイドワイヤポート144を通して前記長尺状シャフト120の外に延び」という事項が、本願補正発明の「血栓捕捉部材より基端側のシャフト部分が該側孔を通して前記シースの外に突出され」という事項に相当するといえる。
(4)したがって、本願補正発明と引用発明は次の点で一致する。
〈一致点〉
「基端から先端に貫通するルーメンを有するシースと、
該シース内の第2のルーメンに進退自在に挿着された、先端と基端を有する柔軟なシャフトと、
該シャフトの先端部分に設けられ、前記シースの先端部分に該先端から出し入れ可能に挿着された、先端と基端が先細に収束し中間の膨らんだ形状の血栓捕捉部材、とを含んでなり、
前記血栓捕捉部材の先端側に、体液は透過することのできる体液通過孔を有するフィルターが被覆されてなる血栓捕捉部を設け、
前記シースの先端側側壁にシャフトを挿通可能な側孔が設けられるとともに、シースの先端側に該側孔に連通しかつ血栓捕捉部材を挿入可能な第2のルーメンが形成され、血栓捕捉部材より基端側のシャフト部分が該側孔を通して前記シースの外に突出され、
前記血栓捕捉部材は、前記シースに収縮状態で挿着されており、該シースを基端側に引いたときに、前記血栓捕捉部材がシースの外に出て復元形状に拡張し、径方向の最大外径領域が血管壁に密着するようにされてなる血栓捕捉カテーテル。」
(5)一方、両者は次の各点で相違する。
〈相違点1〉
基端から先端に貫通するルーメンを有するシースにおいて、本願補正発明は「ルーメンの基端が閉鎖部材で閉鎖され」ているのに対して、引用発明はそのような構成が明らかでない点。
〈相違点2〉
血栓捕捉部材が、本願補正発明は「複数の螺旋状ワイヤ」からなり、「先端がシャフトにスライド可能に取り付けられるとともに、基端が該シャフトに固定され」、復元形状に拡張したとき、血管壁に「柔軟に」密着するのに対し、引用発明はそのように構成されていない、もしくはそのように構成されているか否か明らかでない点。
〈相違点3〉
第2のルーメンが、本願補正発明は「シースを規定する壁に隣接するように、該シースが有するルーメンの内部に存在する」のに対し、引用発明はそのように構成されているか否か明らかでない点。

5 相違点についての検討・判断
(1)相違点1について
引用例1のFIGURE1,2に図示されているように、引用発明のカテーテル102は、施術時に長尺状シャフト120の先端部分148が血管130内に配置され、基端部122が患者の体外に配置されるものであるから、施術の際、血管130内と連通するシャフト管腔128の基端部122が何らかの閉鎖部材で閉鎖されていないならば、開放状態の長尺状シャフト120の先端部124から同じく開放状態の基端部122を経て、血液が体外に流出することは明らかである。
そうすると、引用発明のカテーテル102が、シャフト管腔128の基端部122から血液が体外に流出するのを防止するための何らかの閉鎖部材を具備することは明らかであるといえる。
したがって、本願補正発明の「ルーメンの基端が閉鎖部材で閉鎖された」という事項は、引用発明のカテーテル102にも必然的に要求される事項にすぎず、相違点1は実質的な相違点ではない。
なお、ルーメンの基端が閉鎖部材で閉鎖されていることは、国際公開第02/11627号のFIG.21A,FIG21B、あるいは、国際公開第00/49970のFig.24,Fig.25にも図示されている事項である。
(2)相違点2について
引用例2には、引用発明と同様な「脈管系内に配置されて外科手術または血管形成処理中に生じたプラークおよび血栓の部分を収集して取り出すための脈管用フィルタシステム」において、螺旋状の形態をしている複数のバスケットワイヤ220の先端部分を被覆または包容して、前記プラークおよび血栓の部分を収集するための部材である、薄い柔軟な穴あきの膜からなるフィルタ部材222を設けること、ならびに、前記複数のバスケットワイヤの先端部分226をコアワイヤ228に摺動可能に取り付けるとともに、基端部分224を該コアワイヤ228に固定して取り付けることにより、前記先端部分226が該コアワイヤ228上を移動して前記フィルタ部材222を開閉可能とする構成が記載されている(上記「3」の「(2)」参照)。
してみると、上記引用例2に記載されている構成に倣って、引用発明のフィルタ146、すなわち血栓捕捉部材を、複数の螺旋状ワイヤからなり、先端がシャフトにスライド可能に取り付けられるとともに、基端が該シャフトに固定されるように構成することは当業者が容易になし得る事項である。
そして、引用発明のごときカテーテルにおいて、血管を傷つけないように構成することは当然の要求であるから、前記複数の螺旋状ワイヤが復元形状に拡張したとき、当該螺旋状部分が血管壁に柔軟に密着するようにすることは、引用発明に当然に要求される事項にすぎず、血管壁に「柔軟に」密着するよう構成する点に何ら困難性は見いだせない。
(3)相違点3について
本願補正発明の「第2のルーメンが、シースを規定する壁に隣接するように、該シースが有するルーメンの内部に存在する」という構成は、単に、シースがルーメンの内部に「隣接して」存在することを特定しているにすぎず、どの程度「隣接」するかについて何ら特定するものではないから、引用例1のFIGURE1,2に図示された構成、すなわち引用発明と何ら相違するものではなく、実質的な相違点とは考えられないが、請求人が審判請求書第4頁下から7行?4行で述べているごとき「シースを規定する壁の一部分が第2のルーメンを規定する」ような構成を意味するとしても、シースを規定する壁の一部分が第2のルーメンを規定するようにして、シースのルーメン内部に第2のルーメンを形成することは、例えば、特開2000-51229号公報の【図2】、あるいは米国特許第5906621号明細書のFig.6,10に図示されているように周知の手段にすぎない上、そのような特定の構成を採用することに伴う格別の作用効果について、本願の発明の詳細な説明には何ら記載がない。
してみると、「シースを規定する壁の一部分が第2のルーメンを規定する」よう構成したとしても、そのように構成することは当業者が適宜なし得ることと言わざるを得ない。
(4)以上のとおりであるから、本願補正発明は、引用発明、引用例2に記載された事項、及び、周知の手段に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができない。

6 小括
したがって、本件補正は、特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
1 本願発明
本件補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下、同項記載の発明を「本願発明」という。)は、平成23年5月26日付け手続補正によって補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。
「基端から先端に貫通するルーメンを有し、該ルーメンの基端が閉鎖部材で閉鎖されたシースと、該シースのルーメンに進退自在に挿着された、先端と基端を有する柔軟なシャフトと、該シャフトの先端部分に設けられ、前記シースの先端部分に該先端から出し入れ可能に挿着された血栓捕捉部材、とを含んでなり、
前記血栓捕捉部材の先端側に、体液は透過することのできる体液通過孔を有するフィルターが被覆されてなる血栓捕捉部を設け、
前記シースにシャフトを挿通可能な孔が設けられるとともに、シースの先端側に該孔に連通しかつ血栓捕捉部材を挿入可能な第2のルーメンが形成され、血栓捕捉部材より基端側のシャフト部分が該孔を通して前記シースの外に突出され、
前記血栓捕捉部材は、先端が前記シャフトにスライド可能に取り付けられるとともに、基端が該シャフトに固定され、前記シースに収縮状態で挿着されており、該シースを基端側に引いたときに、複数の螺旋状ワイヤからなる前記血栓捕捉部材がシースの外に出て復元形状に拡張し、螺旋状部分が血管壁に柔軟に密着するようにされてなる血栓捕捉カテーテル。」

2 引用文献
引用例1,2、ならびにそれらの記載事項は、上記「第2」の「3」に記載したとおりである。

3 検討・判断
本願発明は、上記「第2」の「2」で検討したとおり、本願補正発明から、シャフトが挿着されるルーメン、血栓捕捉部材、シースに設けられる孔、及び、血管壁に柔軟に密着する血栓捕捉部材の部位、それぞれに係る限定事項である、「シース内の第2のルーメン」という事項、「先端と基端が先細に収束し中間の膨らんだ形状」という事項、「シースの先端側側壁に」設けられた「シャフトを挿通な側孔」であるという事項、及び、「螺旋状部分の径方向の最大外径領域」であるという事項を省き、さらに、上記第2のルーメンに係る、「該第2のルーメンは、該シースを規定する壁に隣接するように、該シースが有する該ルーメンの内部に存在する」という限定事項を省いたものに相当する。
そうすると、本願発明の発明特定事項をすべて含み、さらに、他の発明特定事項を付加して限定したものに相当する本願補正発明が、上記「第2」の「5」で述べたとおり、引用発明、引用例2に記載された事項、及び、周知の手段に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである以上、本願発明も、同様に、引用発明、引用例2に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

4 むすび
以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、引用発明および引用例2に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、その余の請求項に係る発明について論及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-08-31 
結審通知日 2012-09-04 
審決日 2012-09-19 
出願番号 特願2009-23588(P2009-23588)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A61B)
P 1 8・ 575- Z (A61B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 武山 敦史  
特許庁審判長 村田 尚英
特許庁審判官 松下 聡
田合 弘幸
発明の名称 血栓捕捉カテーテル  
代理人 鮫島 睦  
代理人 田村 恭生  

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