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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 C23C
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C23C
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 C23C
管理番号 1265557
審判番号 不服2012-912  
総通号数 156 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-12-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2012-01-17 
確定日 2012-10-31 
事件の表示 特願2006-188462「発色を制御したチタン合金部材」拒絶査定不服審判事件〔平成20年 1月24日出願公開、特開2008- 13833〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成18年7月7日の出願であって、平成23年7月19日付け拒絶理由通知に応答して同年9月20日付けで手続補正がなされ、同月22日付けで意見書が提出されたが、同年10月12日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成24年1月17日に拒絶査定不服審判が請求されると共に同日付けで手続補正がなされ、同年3月15日付けで特許法第162条に基づく審査官による審査の報告書が提出されたものである。
そして、その後当審において、同年4月12日付けで審尋が通知され、それに応答して同年6月15日付けで回答書が提出されたものである。

第2 平成24年1月17日付けの手続補正についての却下の決定
1 補正却下の決定の結論
平成24年1月17日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。

2 理由1
(1)本件補正前の特許請求の範囲の記載
本件補正前(平成23年9月20日付け手続補正書参照。)の特許請求の範囲の記載における請求項1は、以下のとおりである。
「【請求項1】
表面に形成したチタン酸化層の厚さにより所定の色に発色させることが可能なチタンあるいはチタン合金からなる部材(ボルト及びナットを除く)であって、(1)窒素ガスと酸素ガスの混合ガス雰囲気中での加熱処理により表面に所定の厚さの酸化層を形成させることで、光の干渉、吸収、又は反射により所定の色に発色させたこと、(2)上記チタン酸化層が、主に結晶相から構成されていること、(3)表面に結晶性の透明な酸化チタンからなる酸化層を形成させたこと、(4)酸化層の厚さの違いによって、所定の色に発色させたこと、(5)酸化層中の酸素濃度の所定の値での光の吸収率の違いにより所定の色に発色させたこと、を特徴とするチタンあるいはチタン合金からなる部材。」

(2)本件補正後の特許請求の範囲の記載
本件補正により、特許請求の範囲の記載における請求項1は、次のように補正された。
「【請求項1】
加熱雰囲気の制御できる雰囲炉での窒素ガスと酸素ガスの混合ガス雰囲気中での加熱処理により表面に形成した窒素を含むチタン酸化層の厚さの違いにより所定の色に発色しているチタンあるいはチタン合金からなる部材(ボルト及びナットを除く)であって、(1)上記チタン酸化層が、主に結晶相から構成される窒素を含む結晶性の透明な酸化チタンからなる酸化層であり、(2)チタン酸化層の厚さによる光の干渉、吸収、又は反射の違いにより又はチタン酸化層中の酸素濃度による光の吸収率の違いにより所定の色に発色していること、を特徴とするチタンあるいはチタン合金からなる部材。」

(3)補正の内容
上記補正前後の構成を対比すると、本件補正は、下記のように補正しようとするものである。なお、下線部は補正箇所を示すものである。

本件補正前の請求項1の「窒素ガスと酸素ガスの混合ガス雰囲気中での加熱処理」を、本件補正後の請求項1の「加熱雰囲気の制御できる雰囲気炉での窒素ガスと酸素ガスの混合ガス雰囲気中での加熱処理」とし、前者の「酸化層の厚さにより所定の色に発色させることが可能なチタンあるいはチタン合金からなる部材(ボルト及びナットを除く)」及び「酸化層の厚さの違いによって所定の色に発色させたこと」を、後者の「酸化層の厚さの違いにより所定の色に発色しているチタンあるいはチタン合金からなる部材(ボルト及びナットを除く)」とし、前者の「結晶性の透明な酸化チタンからなる酸化層」を、後者の「窒素を含む結晶性の透明な酸化チタンからなる酸化層」とし、前者の「表面に所定の厚さの酸化層を形成させることで、光の干渉、吸収、又は反射により所定の色に発色させたこと」及び「酸化層中の酸素濃度の所定の値での光の吸収率の違いにより所定の色に発色させたこと」を、後者の「チタン酸化層の厚さによる光の干渉、吸収、又は反射の違いにより又はチタン酸化層中の酸素濃度による光の吸収率の違いにより所定の色に発色していること」と補正するものである(以下、「補正事項」という。)。

(4)補正目的の要件について
本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例とされる同法による改正前の特許法(以下、「改正前特許法」という。)第17条の2第1項第4号の「拒絶査定不服審判を請求する場合において、その審判の請求と同時にするとき。」になされたものであるところ、同法同条第4項において「前項に規定するもののほか、第一項第三号及び第四号に掲げる場合において特許請求の範囲についてする補正は、次に掲げる場合において特許請求の範囲についてする補正は、次に掲げる事項を目的とするものに限る」とされ、少なくとも同法同条第4項第1号から第4号の規定を満たす必要がある。

そこで、以下に検討する。

ア.補正事項について
補正事項は、本件補正前の請求項1の記載では、発色は、所定の厚さの酸化層を形成させることで、光の干渉、吸収、又は反射により所定の色にされることと、酸化層中の酸素濃度の所定の値での光の吸収率の違いにより所定の色にされることとのいずれも満たすことが必要であったのに対し、本件補正後の請求項1の記載では、発色は、酸化層の厚さによる光の干渉、吸収、又は反射の違いにより所定の色にされるか、又は、チタン酸化層中の酸素濃度による光の吸収率の違いにより所定の色にされるという、選択的な事項とすることを含んでいる。
よって、上記補正事項は、この発色の点からみて、改正前特許法第17条の2第4項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮に該当しないことが明らかであり、また、同条第3項第1号の請求項の削除、第3号の誤記の訂正、第4号の明りょうでない記載の釈明のいずれにも該当しない。

(5)小括
以上のとおり、本件補正における補正事項は、改正前特許法第17条の2第4項に規定する要件を満たしていないものであるから、本件補正は、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。

3 理由2
補正事項は、加熱処理について、 加熱雰囲気の制御できる雰囲気炉で行われることを限定するものであり、かつ、補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載される発明は、産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるので、加熱処理という点については、改正前特許法第17条の2第4項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当するので、本件補正は、特許請求の範囲の減縮を目的としたものといえないこともない。
そこで、進んで、本件補正後の前記請求項1に記載された発明(以下、「本件補正発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか。)についても、以下に検討する。

(1)本件補正発明
本件補正発明については、上記「2(2)」のとおりである。

(2)刊行物
ア.本願出願前に日本国内において頒布された、原査定の拒絶の理由に引用された引用例である、特開平3-177557号公報(以下、「刊行物」という。)には、図面と共に次の事項が記載されている。

(記載事項1)「2.特許請求の範囲
1.表面層の酸素固溶量が1.0?10.0重量%であり、表面に高温酸化法によって生成した着色皮膜を有することを特徴とする疵が付き難く密着性の良好な着色チタン材。
2.チタン材を大気中もしくは酸化雰囲気中において800?1200℃で2?100分間加熱前処理した後、該チタン材の表面に生成した主としてTiO_(2)、TiOから成るチタンの酸化物皮膜を除去して酸素固溶量が1.0?10.0重量%である酸素拡散層を表面層として現出し、次いで大気中もしくは酸化雰囲気中において20℃/min以上の加熱速度で450℃?750℃に加熱し1?100分間保持した後冷却することを特徴とする疵が付き難く密着性の良好な着色チタン材の製造方法。」(公報第1頁左下欄第5-20行)

(記載事項2)「近年、チタンは耐食性および比強度が優れること等の特性が評価されるようになり、海洋および航空・宇宙構造物はもとより、着色処理を施して屋根・壁材等の建築部材、あるいは家具等の各種パネル部材、更にはイヤリング、タイピン等の装身具などとしての用途が開かれつつある。こうした用途に対するチタンの着色方法としては主として、高温酸化法と陽極酸化法の2つが古くから知られている。
なお、本発明に関わる高温酸化法とは大気中や酸素を含有する雰囲気ガス中において被処理チタン材を450?750℃程度に高温加熱して表面に酸化皮膜を形成させて、その皮膜厚に相当する各種色相の干渉色を生じさせる方法であり、」(公報第1頁右下欄第8行-第2頁左上欄第1行)

(記載事項3)「本発明においては、高温酸化処理は大気中もしくは酸化雰囲気中において20℃/min以上の加熱速度で450?750℃に加熱し1?100分間保持した後冷却することによって行なう。
加熱速度が20℃/min未満では、酸化雰囲気ガスの酸素分圧が高い場合(例えば大気中)に加熱途中での酸化の影響によって着色皮膜の色の鮮明度が低下するので、本発明においてはこの加熱速度を20℃/min以上とした。・・・(中略)・・・
加熱保持温度および保持時間は酸化皮膜の膜厚の主要な支配因子であるため、着色皮膜の色合いつまり色相に直接的な影響を与える。なお、酸化皮膜の膜厚に影響する他の因子としては雰囲気ガス中の酸素分圧および被処理チタン材の結晶粒径等がある。とくに後者の結晶粒径に関しては、結晶粒径が大きいほど結晶粒界での不均質な酸化の影響が小さくなる等のため、種々の色相の発色が容易になる。また同一の加熱条件でも結晶方位によって酸化皮膜の厚さが異なるため色どり豊かな色調が現れる。
加熱温度が450℃未満もしくは加熱保持時間が1分間未満では、酸化皮膜の生成が不十分なため殆ど発色できず、一方、加熱温度が750℃を超えたり、もしくは加熱保持時間が100分間を超えると、酸化皮膜が厚く生成し密着性が不十分となったり、濁りのある色調になり易い。なお適正な加熱温度および保持時間は、雰囲気ガスの酸素分圧を勘案しながら所望の色調あるいは色観になる様に適宜選定すれば良い。例えば、600℃での大気中加熱においては5分から100分の加熱保持によって青色から紫色を経て緑色の干渉色が現れるが、加熱時間が長くなると色調に濁りを生じるので、好みによって鮮明な緑色を発色したい場合には、加熱温度を高くして短時間保定(例えば650℃で5分間)とすることが好ましい。」(公報第3頁左下欄第13行-第4頁左上欄第11行)

(記載事項4)「[発明の効果]
以上の説明で明らかな様に、本発明によれば従来技術では困難であった、疵が付き難く密着性の良好な着色チタン材の製造および提供が可能となり、美麗な色調・外観を併わせ活かして、装身具、壷、置き物等の美術工芸品としての用途はもとより、各種オフィス家具、更には建材特に砂塵等のため耐摩耗特性が必要とされる建材パネル等へのチタンの用途を大きく拡大するものであって、本発明がこれらの関連産業分野に与える影響は極めて大きい。」(公報第5頁左下欄第5-15行)

(記載事項5)公報第4頁の「第1表の1」及び第5頁の「第1表の2」によれば、酸化皮膜を形成するチタン材の材質として、純チタンあるいは合金チタンがあげられている。

イ.これら記載事項1ないし5を総合し、本件補正発明の表現に則って整理すると、刊行物には、次の発明(以下、「刊行物発明1」という。)が記載されている。
「大気中もしくは酸化雰囲気中での高温酸化処理により表面に形成したチタンの酸化皮膜の厚さに相当する各種色相の干渉色を生じさせた純チタンあるいは合金チタンのチタン材であって、上記チタンの酸化皮膜が主としてTiO_(2)、TiOからなる酸化皮膜であり、チタンの酸化皮膜の厚さが異なることによる、各種色相の干渉色が現れている純チタンあるいは合金チタンからなるチタン材。」

(3)対比
ア.本件補正発明と刊行物発明1とを対比すると、その構成又は機能等からみて、刊行物発明1における「高温酸化処理」、「チタンの酸化皮膜」、「純チタンあるいは合金チタンのチタン材」、「TiO_(2)、TiO」は、それぞれ、本件補正発明における「加熱処理」、「チタン酸化層」、「チタンあるいはチタン合金からなる部材(ボルト及びナットを除く)」及び「チタンあるいはチタン合金からなる部材」、「酸化チタン」に相当する。

さらに、刊行物の上記記載事項2中の「高温酸化法とは大気中や酸素を含有する雰囲気ガス中において被処理チタン材を450?750℃程度に高温加熱して表面に酸化皮膜を形成させて、その皮膜厚に相当する各種色相の干渉色を生じさせる方法」であるとの事項、及び上記記載事項3中の「加熱保持温度および保持時間は酸化皮膜の膜厚の主要な支配因子であるため、着色皮膜の色合いつまり色相に直接的な影響を与える」との事項、並びに、「干渉色」とは、「【干渉色】白色光どうしの干渉によって生じる色。しゃぼん玉やコンパクト‐ディスクなどで見られる。厚さの測定にも利用。」(株式会社岩波書店 広辞苑第六版)であり、「【色相】2 色感の3要素の一つ。その色と同じ色感を起こすスペクトル単色光の波長で表される。色あい。色調。」、「【色感】1 色覚に同じ。」、「【色覚】可視光線中の光の波長の差を色の差として弁別・識別する機能。色調・明度・飽和度で表される。色神。」(いずれも、株式会社岩波書店 広辞苑第六版)であるという、語句の意味を考慮すれば、刊行物発明1における、「各種色相の干渉色」とは、光の干渉の度合いの違いにより各種の色に発色した色であり、その干渉色は、酸化皮膜の厚さの違いにより発色するものであるといえる。そうしてみると、刊行物発明1におけるチタンの酸化皮膜は、「チタン酸化層の厚さの違いにより所定の色に発色している」ものであり、「チタン酸化層の厚さによる光の干渉の違いにより所定の色に発色している」ものであることは、明らかである。ここで、「チタン酸化層の厚さによる光の干渉の違いにより所定の色に発色している」ことが、「チタン酸化層の厚さによる光の干渉、吸収、又は反射の違いにより又はチタン酸化層中の酸素濃度による光の吸収率の違いにより所定の色に発色している」ことに含まれることも明らかである。

イ.一致点
以上を踏まえ、両者の一致点を本件補正発明の用語を用いて記載すると、次のとおりである。
「加熱処理により表面に形成したチタン酸化層の厚さの違いにより所定の色に発色しているチタンあるいはチタン合金からなる部材(ボルト及びナットを除く)であって、(1)上記チタン酸化層が、酸化チタンからなる酸化層であり、(2)チタン酸化層の厚さによる光の干渉、吸収、又は反射の違いにより又はチタン酸化層中の酸素濃度による光の吸収率の違いにより所定の色に発色している、チタンあるいはチタン合金からなる部材。」

ウ.相違点
そして両者は次の点で相違する。

(ア)相違点1
本件補正発明においては、加熱雰囲気の制御できる雰囲気炉での窒素ガスと酸素ガスの混合ガス雰囲気中での加熱処理を行うのに対し、刊行物発明1においては、そのような雰囲気炉において加熱処理を行うとはされていない点。

(イ)相違点2
本件補正発明においては、チタン酸化層が窒素を含むのに対し、刊行物発明1における酸化皮膜が、そのようなものであるとされていない点。

(ウ)相違点3
チタン酸化層が、本件補正発明においては、主に結晶相から構成される、結晶性の透明な酸化チタンからなるものとされているのに対し、刊行物発明1においては、そのようなものであるとはされていない点。

(4)判断
ア.相違点1について
刊行物の上記記載事項2中の「高温酸化法とは大気中や酸素を含有する雰囲気ガス中において被処理チタン材を450?750℃程度に高温加熱して表面に酸化皮膜を形成させ」るとの事項、上記記載事項3中の「酸化雰囲気ガスの酸素分圧が高い場合(例えば大気中)」及び「適正な加熱温度および保持時間は、雰囲気ガスの酸素分圧を勘案しながら所望の色調あるいは色観になる様に適宜選定すれば良い」との事項から、刊行物発明1における「高温酸化処理」は、加熱温度や保持時間という加熱雰囲気や、酸素分圧が制御できる状況での処理であることが理解され、また、大気中には、通常、窒素が含まれていることは明らかである。
そのような、窒素及び酸素が含まれる、すなわち、窒素ガスと酸素ガスの混合ガス雰囲気を備える大気中での加熱処理や、雰囲気ガスの分圧を制御しつつの加熱処理が行える装置として、雰囲気炉は、あえて例を挙げるまでも無く周知のものであり、刊行物発明1において、窒素ガスと酸素ガスの混合ガス雰囲気における加熱処理のための装置として、周知の雰囲気炉を採用することに、当業者にとっての格別の創意工夫は見いだせない。

イ.相違点2について
窒素ガスや酸素ガスを含む雰囲気中でチタンの加熱を行うと、雰囲気ガスの成分を取り込んだチタンの酸化膜が形成されることは、周知の技術的事項である(必要ならば、特公昭54-21088号公報(特許請求の範囲の記載等参照。)、特開平2-179199号公報(第3頁右上欄第3行-左下欄第7行等参照。)等参照。)。
したがって、刊行物発明1において、酸化雰囲気ガスの酸素分圧が高い大気中で加熱処理を行うことで形成された酸化被膜は、窒素を含む酸化皮膜であり、これは、本件補正発明における窒素を含むチタンの酸化層と、物としての違いは無い。
さらに、平成24年6月15日付けで提出した審尋に対する回答書において、本願明細書における、大気中で加熱して膜を形成する実施例1の、550℃及び750℃で加熱した試料Tiの断面を観察し、組成分析した結果が、表1として示されている。この表1を参照するに、膜の窒素量が0.5?4at%であることが理解できる。このことからも、窒素ガス及び酸素ガスが含まれる大気中で加熱することにより、窒素を含むチタン酸化層が形成されることは明らかである。
よって、この相違点2は実質的な相違点ではない。

ウ.相違点3について
一般に、大気中で加熱によりチタンの酸化膜を形成すると、その状態が、主に結晶相となることは、周知の技術的事項である(必要なら、福塚敏夫他3名,「チタン表面に生成した大気酸化処理被膜の有用性」,チタニウム・ジルコニウム,昭和55年4月,Vol.28,No.2,p.75-82(第76頁右欄第5-11行参照。)、特開平9-228022号公報(段落【0011】参照。)等参照。)。
また、刊行物発明1においては、チタンの酸化皮膜の被膜厚に相当した、各種色相の干渉色が生じているが(上記記載事項2参照。)、干渉色が生じるためには、該酸化皮膜が光の干渉性を有する必要があるから、酸化膜の表面から所定の深さにまで、光が到達し、光の相互作用を起こしていることは、物理的に明らかな事項である。さらに、各種色相の干渉色が生じることから、可視光における特定の波長のみが所定の深さに到達しているのではない。すなわち、刊行物発明1においては、酸化皮膜の被膜厚に相当した、各種色相の干渉色が生じる程度に、光透過性を有する酸化皮膜が形成されているのであり、該酸化皮膜は、透明性のある膜であると認められる。
したがって、刊行物発明1において、大気中における高温酸化法によって形成されるチタンの酸化皮膜も、主に結晶相から構成された、透明な酸化チタンからなる酸化皮膜であり、これは、本件補正発明における、主に結晶相から構成される、結晶性の透明な酸化チタンからなるチタン酸化層と、物としての違いは無い。
よって、相違点3は実質的な相違点ではない。

オ.まとめ
以上を総合すると、刊行物発明1において、雰囲気炉において、窒素ガスと酸素ガスの混合ガス雰囲気中での加熱処理を行い、窒素を含み、結晶相から構成される、結晶性の透明なチタン酸化層を形成すること、すなわち、本件補正発明の発明特定事項を採用することは、当業者が容易になし得たことである。
そして、本件補正発明による効果も、刊行物発明1から当業者が予測し得た程度のものであって、格別のものでもない。
したがって、本件補正発明は、刊行物発明1に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができない。

(5)小括
以上のとおり、本件補正は、改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明
本件補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、「第2 2(1)」に記載したとおりのものである。
ところで、本願発明における「所定の色」は、「酸化層の厚さ」により発色され、「光の干渉、吸収、又は反射」により発色され、「酸化層の厚さの違い」によって発色され、「酸化層中の酸素濃度の所定の値での光の吸収率の違い」により発色される色であるとされているから、「酸化層の厚さ」、「光の干渉、吸収、又は反射」、「酸化層の厚さの違い」、「酸化層中の酸素濃度の所定の値での光の吸収率の違い」それぞれ単独で、特定の1つの色を発色させた、と解することはできない。
よって、本願発明においては、「所定の色」との文言は、「酸化層の厚さ」や、「光の干渉、吸収、又は反射」や、「酸化層の厚さの違い」や、「酸化層中の酸素濃度の所定の値での光の吸収率の違い」という要因による発色を全て重畳した結果、最終的に得られる色を指すものと解する。

第4 引用刊行物の記載事項
1 刊行物
(1)原査定の拒絶の理由に引用された引用例及びその記載事項は、前記「第2 3(2)ア.」に記載したとおりである。

(2)これら記載事項1ないし5を総合し、本願発明の表現に則って整理すると、刊行物には、次の発明(以下、「刊行物発明2」という。)が記載されている。
「表面に形成したチタンの酸化皮膜の厚さに相当する各種色相の干渉色を生じさせた純チタンあるいは合金チタンのチタン材であって、大気中もしくは酸化雰囲気中での高温酸化処理により表面に所定の厚さの酸化皮膜を形成させることで、各種色相の干渉色を生じさせたこと、表面に、TiO_(2)、TiOからなる酸化皮膜を形成させたこと、酸化皮膜の厚さが異なることによる、各種色相の干渉色が現れている、純チタンあるいは合金チタンからなるチタン材。」

第5 対比
1 本願発明と刊行物発明2とを対比すると、その構成又は機能等からみて、前記「第2 3(3)ア.」に記載したと、同様の相当関係がある。

2 一致点
本願発明の用語を用いて両者の一致点を表現すると、次のとおりである。
「表面に形成したチタン酸化層の厚さにより所定の色に発色させることが可能なチタンあるいはチタン合金からなる部材(ボルト及びナットを除く)であって、(1)酸素ガスを混合した混合ガス雰囲気中での加熱処理により表面に所定の厚さの酸化層を形成させることで、光の干渉、吸収、又は反射により所定の色に発色させたこと、(3)表面に酸化チタンからなる酸化層を形成させたこと、(4)酸化層の厚さの違いによって所定の色に発色させたこと、を特徴とするチタンあるいはチタン合金からなる部材。」

3 相違点
そして両者は次の点で、一応相違する。

(1)相違点a
本願発明においては、窒素ガスと酸素ガスの混合ガス雰囲気中での加熱処理を行うのに対し、刊行物発明2においては、そのような加熱処理を行うとはされていない点。

(2)相違点b
本願発明においては、チタン酸化層が、主に結晶相から構成される、結晶性の透明な酸化チタンからなるものものとされているのに対し、刊行物発明2においては、そのようなものであるとはされていない点。

(3)相違点c
チタン酸化層について、本願発明においては、「酸化層の厚さ」、「光の干渉、吸収、又は反射」、「酸化層の厚さの違い」及び「酸化層中の酸素濃度の所定の値での光の吸収率の違い」という要因により、所定の色に発色させるものであるのに対し、刊行物発明2においては、「酸化層の厚さ」、「光の干渉、吸収、又は反射」及び「酸化層の厚さの違い」という要因により、所定の色に発色させるものである点。

第6 判断
1 相違点aについて
相違点aは、上記相違点1において、雰囲気炉において加熱処理することが特定されていないものであり、前記「第2 3(4)ア.」に記載したとおり、刊行物発明2における「高温酸化処理」は、加熱温度や保持時間という加熱雰囲気や、酸素分圧が制御できる状況での処理であることが理解され、また、大気中には、通常、窒素が含まれているから、刊行物発明2における「高温酸化処理」が、窒素ガスと酸素ガスの混合ガス雰囲気における加熱処理であることは、明らかである。
よって、この相違点aは実質的な相違点ではない。

2 相違点bについて
前記「第2 3(4)エ.」に記載したと同様、刊行物発明2において、大気中における高温酸化法によって形成される、チタンの酸化皮膜も、主に結晶相から構成された、透明な酸化チタンからなる酸化皮膜であり、本願発明における、主に結晶相から構成される、結晶性の透明な酸化チタンからなるチタン酸化層と、物としての違いは無い。
したがって、相違点bは実質的な相違点ではない。

3 相違点cについて
刊行物の上記記載事項3には、酸化皮膜の膜厚に影響する因子として、雰囲気ガス中の酸素分圧があげられており、酸素分圧が制御できる環境下で、加熱温度や加熱時間を制御して加熱されることを内容的に含んでいることは明らかである。
そして、低酸素の雰囲気で加熱を行うことにより、形成したチタンの酸化膜が、黒色となることや(必要なら、特開平10-130126号公報(段落【0006】参照。)等参照。)、低次酸化チタンが、黒色である(必要なら、特公平3-51645号公報(第1頁第1欄第21行-第2欄第17行参照。)、特開平7-220665号公報(段落【0025】参照。)等、参照。)、熱処理の温度によって、酸化膜中の酸素濃度が異なる結果、異なる色の発色が見られる(必要なら、特開平10-68060号公報(段落【0004】参照。)等参照。)といったことは、周知の技術的事項である。
また、黒色は、光の吸収率の度合いが高い物質が備える色調であることは、物理的に明らかな事項である。
以上より、刊行物発明2の酸素分圧が制御できる環境下で形成された酸化皮膜も、その物性として、酸素濃度の値により光の吸収率が異なり、所定の色に発色するものであると認められるから、刊行物発明2における酸化皮膜の発色の要因には、酸化層中の酸素濃度の所定の値での光の吸収率の違いも含まれている。
したがって、刊行物発明2の酸化皮膜は、本願発明における、「酸化層の厚さ」、「光の干渉、吸収、又は反射」、「酸化層の厚さの違い」及び「酸化層中の酸素濃度の所定の値での光の吸収率の違い」という要因により所定の色に発色させた酸化層と、物としての違いは無い。
よって、相違点cは実質的な相違点ではない。

5 まとめ
以上を総合すると、上記相違点aないしcは、いずれも実質的なものではない。すなわち、本願発明は、刊行物発明2と同一の発明である。
よって、本願発明は、刊行物に記載された発明である。

第7 むすび
以上のとおり、本願発明は、刊行物に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
したがって、本願は、他の請求項について検討するまでもなく、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-08-28 
結審通知日 2012-09-03 
審決日 2012-09-19 
出願番号 特願2006-188462(P2006-188462)
審決分類 P 1 8・ 113- Z (C23C)
P 1 8・ 121- Z (C23C)
P 1 8・ 575- Z (C23C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 市枝 信之  
特許庁審判長 新海 岳
特許庁審判官 松岡 美和
加藤 友也
発明の名称 発色を制御したチタン合金部材  
代理人 須藤 政彦  
代理人 須藤 政彦  

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