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審決分類 |
審判 全部無効 2項進歩性 C04B |
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管理番号 | 1266193 |
審判番号 | 無効2011-800060 |
総通号数 | 157 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2013-01-25 |
種別 | 無効の審決 |
審判請求日 | 2011-04-14 |
確定日 | 2012-10-15 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 上記当事者間の特許第3834736号「高炉水砕スラグの固結防止剤」の特許無効審判事件についてされた平成23年11月28日付け審決に対し、知的財産高等裁判所において審決取消の判決(平成23年(行ケ)第10440号平成24年3月12日判決言渡)があったので、さらに審理のうえ、次のとおり審決する。 |
結論 | 訂正を認める。 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 |
理由 |
第1.手続の経緯 本件特許第3834736号は、平成15年9月5日に出願され、平成18年8月4日に特許権の設定登録がなされたものである。 これに対して、平成23年4月14日に請求人株式会社片山化学工業研究所よりその請求項1に係る発明について特許無効審判が請求され、これに対して、同年7月12日に被請求人(第一工業製薬株式会社)より答弁書が提出された。 その後、平成23年11月28日付けで「特許第3834736号の請求項1に係る発明についての特許を無効とする。」との審決がなされた。 これに対し、同年12月27日に被請求人より審決取消訴訟(平成23年(行ケ)第10440号)が提起された。 その後、被請求人は平成24年2月28日に訂正審判(訂正2012-390031号)を請求し、同年3月12日に知的財産高等裁判所において、事件を審判官に差し戻すために、第1次審決を取り消すとの決定がなされた。 差戻後の特許無効審判において、特許法第134条の3第5項の規定により上記訂正審判の請求書に添付された特許請求の範囲、明細書、図面を援用し、同年6月11日に訂正の請求がなされたものとみなす。 その後、請求人より同年7月5日に上申書が提出された。 なお、訂正審判(訂正2012-390031号)は取り下げられたものとみなされる。 第2.訂正請求について 被請求人により平成24年6月11日になされたものとみなされる訂正請求は、本件特許明細書を訂正請求書に添付した訂正明細書のとおりに訂正すること(以下、「本件訂正」という。)を求めるものであり、その内容は以下のとおりである。 1.訂正請求の内容 (1)訂正事項1 請求項1に関して、 訂正前:「【請求項1】 ホスホン酸誘導体、ポリカルボン酸又はその塩、及び/又は、糖アルコールを、ホスホン酸誘導体の配合量をA、ポリカルボン酸又はその塩の配合量をB、糖アルコールの配合量をCとして、A/(B+C)=100/0?5/95の質量比で、含有することを特徴とする高炉水砕スラグの固結防止剤。」 訂正後:「【請求項1】 ホスホン酸誘導体、ポリカルボン酸又はその塩、及び/又は、糖アルコールを、ホスホン酸誘導体の配合量をA、ポリカルボン酸又はその塩の配合量をB、糖アルコールの配合量をCとして、A/(B+C)=90/10?10/90の質量比で、含有することを特徴とする高炉水砕スラグの固結防止剤。」 と訂正する。 (2)訂正事項2 明細書段落【0009】に関して、 訂正前:「本発明の高炉水砕スラグの固結防止剤においては、ポリカルボン酸又はその塩、及び/又は、糖アルコールを更に含有することが好ましく、これらをホスホン酸誘導体とともに併用することにより相乗効果が得られる。」 訂正後:「本発明の高炉水砕スラグの固結防止剤は、ホスホン酸誘導体、ポリカルボン酸又はその塩、及び/又は、糖アルコールを、ホスホン酸誘導体の配合量をA、ポリカルボン酸又はその塩の配合量をB、糖アルコールの配合量をCとして、A/(B+C)=90/10?10/90の質量比で、含有するものである。ポリカルボン酸又はその塩、及び/又は、糖アルコールを、ホスホン酸誘導体とともに併用することにより相乗効果が得られる。」 と訂正する。 (3)訂正事項3 明細書段落【0017】に関し、 訂正前:「本発明の固結防止剤においては、ホスホン酸誘導体の配合量をA、ポリカルボン酸又はその塩の配合量をB、糖アルコールの配合量をCとしたとき、これらの配合比が質量比で、A/(B+C)=100/0?5/95の関係にあることが好ましい。B及び/又はCとの併用による相乗効果を得るという観点から、より好ましくはA/(B+C)=90/10?10/90であり、ホスホン酸誘導体が高価なことに鑑みてコスト面も考慮すると、更に好ましくはA/(B+C)=50/50?20/80の範囲内に設定することである。」 訂正後:「本発明の固結防止剤においては、ホスホン酸誘導体の配合量をA、ポリカルボン酸又はその塩の配合量をB、糖アルコールの配合量をCとしたとき、これらの配合比が質量比で、A/(B+C)=90/10?10/90の関係にある。すなわち、B及び/又はCとの併用による相乗効果を得るという観点から、A/(B+C)=90/10?10/90であり、ホスホン酸誘導体が高価なことに鑑みてコスト面も考慮すると、更に好ましくはA/(B+C)=50/50?20/80の範囲内に設定することである。」 と訂正する。 (4)訂正事項4 明細書段落【0024】に関し、 訂正前:「下記表1に示す組成に従って実施例及び比較例の各固結防止剤の水溶液(固形分濃度=20質量%)を調製した。ここで、実施例1?3はホスホン酸誘導体の単独使用の例、実施例4はホスホン酸誘導体とポリアクリル酸ナトリウムの併用の例、実施例5?7および9?11はホスホン酸誘導体とポリアクリル酸ナトリウムとソルビトールの3者併用の例、実施例8はホスホン酸誘導体とソルビトールの併用の例であり、比較例1は固結防止剤未使用の例、比較例2はポリアクリル酸ナトリウムの単独使用の例、比較例3はソルビトールの単独使用の例、比較例4はグルコン酸ナトリウムの単独使用の例、比較例5は炭酸水素ナトリウムの単独使用の例である。」 訂正後:「下記表1に示す組成に従って実施例及び比較例の各固結防止剤の水溶液(固形分濃度=20質量%)を調製した。ここで、実施例1?3はホスホン酸誘導体の単独使用の例、実施例4はホスホン酸誘導体とポリアクリル酸ナトリウムの併用の例、実施例5?7および9?11はホスホン酸誘導体とポリアクリル酸ナトリウムとソルビトールの3者併用の例、実施例8はホスホン酸誘導体とソルビトールの併用の例であり(但し、実施例1?3及び11は参考例である。)、比較例1は固結防止剤未使用の例、比較例2はポリアクリル酸ナトリウムの単独使用の例、比較例3はソルビトールの単独使用の例、比較例4はグルコン酸ナトリウムの単独使用の例、比較例5は炭酸水素ナトリウムの単独使用の例である。」 と訂正する。 2.訂正の適否 (1)訂正事項1について 訂正前の請求項1では、高炉水砕スラグの固結防止剤として、「ホスホン酸誘導体の配合量をA、ポリカルボン酸又はその塩の配合量をB、糖アルコールの配合量をCとして、A/(B+C)=100/0?5/95の質量比で」なる発明特定事項を有しているから、訂正前の請求項1に係る発明は、「ホスホン酸誘導体と、ポリカルボン酸又はその塩、及び/又は、糖アルコールとを併用する」場合の他に、「B+C=0」の場合、すなわち、「ポリカルボン酸又はその塩、糖アルコールを含有せず、ホスホン酸誘導体のみを含有する」場合も包含するものであった。 これに対し、訂正後の請求項1では、上記発明特定事項を、訂正前の明細書段落【0017】の記載である「ホスホン酸誘導体の配合量をA、ポリカルボン酸又はその塩の配合量をB、糖アルコールの配合量をCとしたとき、・・・・・・より好ましくはA/(B+C)=90/10?10/90であり」に基づいて、「(B+C)=0?95」のうち「(B十C)=0?10未満及び90超え?95」が除外され、「ホスホン酸誘導体の配合量をA、ポリカルボン酸又はその塩の配合量をB、糖アルコールの配合量をCとして、A/(B+C)=90/10?10/90の質量比で」なる発明を特定としたことにより、高炉水砕スラグの固結防止剤として、「B+C=0」の場合である「ホスホン酸誘導体のみを含有する」場合がなくなり、「B+C=10?90」である「ホスホン酸誘導体と、ポリカルボン酸又はその塩、及び/又は、糖アルコールとを併用する」場合のみとなった。 そうすると、訂正事項1は特許請求の範囲を減縮を目的とするものに該当する。 (2)訂正事項2?4について 訂正事項2?4は、訂正事項1の特許請求の範囲の請求項1に係る訂正によって、特許請求の範囲の請求項1の記載と発明の詳細な説明との記載の齟齬を解消するものであって、明りょうでない記載の釈明を目的とするものに該当する。 (3)訂正の適否のまとめ したがって、本件訂正は、特許請求の範囲の減縮、明りょうでない記載の釈明を目的とし、いずれも、願書に添付した明細書又は図面に記載されている事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 よって、本件訂正は、特許法第134条の2第1項ただし書き第1号、3号、及び同条第5項において準用する同法第126条第3項、4項の規定に適合するので、本件訂正を認める。 第3.本件特許訂正発明 上記のとおり本件訂正を容認することができるから、訂正後の本件特許の請求項1に係る発明は、訂正請求書に添付された訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、次のとおりのものと認める(以下「本件特許訂正発明1」という。)。 【請求項1】 ホスホン酸誘導体、ポリカルボン酸又はその塩、及び/又は、糖アルコールを、ホスホン酸誘導体の配合量をA、ポリカルボン酸又はその塩の配合量をB、糖アルコールの配合量をCとして、A/(B+C)=90/10?10/90の質量比で、含有することを特徴とする高炉水砕スラグの固結防止剤。 第4.請求人の主張 請求人は、証拠方法として甲第1号証?甲第7号証、参考資料1?参考資料6を提出し、審判請求書、口頭審理(口頭審理陳述要領書、第1回口頭審理調書を含む)、並びに平成23年10月14日付け、同年同月17日付け及び平成24年7月5日付けの上申書において主張したことを整理すると、本件訂正前の請求項1に係る発明に関し、高炉水砕スラグの固結防止剤として、「ホスホン酸誘導体」だけを含み、「ポリカルボン酸又はその塩」及び「糖アルコール」を含まない場合、すなわち、「ホスホン酸誘導体の配合量をA、ポリカルボン酸又はその塩の配合量をB、糖アルコールの配合量をCとして」、「(B十C)=0」である場合のときに限って、本件特許に係る特許出願の出願日前に頒布された刊行物である甲第1号証?甲第7号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とされるべきものであると主張し、高炉水砕スラグの固結防止剤として、「ホスホン酸誘導体と、ポリカルボン酸又はその塩、及び/又は、糖アルコールとを併用する」場合のみとなった本件特許訂正発明1については、平成24年7月5日付け上申書に記載のとおり何も主張していない。 甲第1号証:特開昭61-40854号公報 甲第2号証:特開平10-7446号公報 甲第3号証:特開平10-36155号公報 甲第4号証:高橋智雄、木之下光男、吉澤千秋、光藤浩之「高炉スラグ細骨材用固結防止剤の開発」コンクリート工学、第40巻、第11号、2002年11月、19?25頁 甲第5号証:特開平10-310771号公報 甲第6号証:特開平11-263974号公報 甲第7号証:特表2002-535232号公報 参考資料1:特公昭58-9779号公報 参考資料2:特開2001-58855号公報 参考資料3:特開平4-164882号公報 参考資料4:特許庁編「特許・実用新案 審査基準」第II部 第2章 新規性進歩性 1、21?23頁 参考資料5:金谷吉輝、松井淳、伊澤康子、市川牧彦「高炉水砕スラグ細骨材の固結とその抑制技術」、Journal of the Society of Inorganic Materials, Japan 7号(2000)301-306頁 参考資料6:「コンクリート混和剤の開発技術」株式会社シーエムシー(2000年11月20日)103?105頁 第5.被請求人の主張 被請求人は、請求人の上記無効理由の主張に対して参考資料1?4を提出し、答弁書、口頭審理(口頭審理陳述要領書、第1回口頭審理調書を含む)、平成23年10月31日付けの上申書、及び平成24年6月11日提出されたとみなされた訂正請求書において、本件特許訂正発明1は、甲第1?7号証、参考資料1?参考資料6に記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないと、反論している。 参考資料1:特開2000-7404号公報 参考資料2:実験(1)及び実験(2) 参考資料3:「JIS 骨材のふるい分け試験方法 JIS A 1102-1976」 参考資料4:「JIS コンクリート用スラグ骨材-第1部:高炉スラグ骨材 JIS A 5011-1:2003」 第6.当審の判断 上記第4で述べたように、請求人は、本件訂正前の請求項1に係る発明において、高炉水砕スラグの固結防止剤として、「ホスホン酸誘導体」だけを含み、「ポリカルボン酸又はその塩」及び「糖アルコール」を含まない場合、すなわち、「ホスホン酸誘導体の配合量をA、ポリカルボン酸又はその塩の配合量をB、糖アルコールの配合量をCとして」、「(B十C)=0」である場合のときに限って、無効理由を主張している。 しかしながら、本件訂正によって、「(B+C)=0?95」のうち「(B十C)=0?10未満及び90超え?95」が除外され、本件特許訂正発明1では、「(B十C)=10?90」となり、上記「(B十C)=0」の場合、すなわち、高炉水砕スラグの固結防止剤として、「ホスホン酸誘導体」だけを含み、「ポリカルボン酸又はその塩」及び「糖アルコール」を含まない場合が除外され、請求人の主張する無効理由の対象となる発明はもはや存在しないものとなった。 よって、請求人の主張する無効理由によって、本件特許訂正発明1を無効とすることはできない。 第7.むすび 以上のとおり、請求人が主張する理由及び証拠によっては、本件特許訂正発明1に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるとはいえないから同法第123条第1項第2号に該当しない。 本件審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定により準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。 よって、結論のとおり審決する。 |
発明の名称 |
(54)【発明の名称】 高炉水砕スラグの固結防止剤 【技術分野】 【0001】 本発明は、高炉水砕スラグの固結防止剤に関するものである。 【背景技術】 【0002】 高炉水砕スラグは、製銑工程において副産する高炉スラグに加圧水を噴射して急冷、粒状化し、更に場合によっては再粉砕して粒度を調整したものであり、近年、天然砂の代替として、土木工事用材料やコンクリート用細骨材として利用されている。 【0003】 かかる高炉水砕スラグは、出荷待ち又は使用待ちのため、屋外に長期間貯蔵されるのが一般的であるが、そのまま貯蔵したのでは、固結してしまい天然砂代替品としての用途に供することができなくなる。そのため、従来、高炉水砕スラグの貯蔵中における固結を防止するため、種々の固結防止剤が提案されている。 【0004】 例えば、下記特許文献1には、糖類やその還元誘導体である糖アルコールを主成分として含有するものが開示され、また下記特許文献2には、ソルビトールを主成分とするものが開示されている。また、下記特許文献3には、脂肪族オキシカルボン酸及び/又はその塩のアルキレンオキサイド付加物を含有してなるものが開示されており、更に下記特許文献4には、炭酸塩、炭酸水素塩、炭酸アンモニウムおよび炭酸水素アンモニウムの少なくとも一種の水溶液からなるものが開示されている。更に、下記特許文献5には、水溶性のモノエチレン性不飽和単量体(例えば、アクリル酸ナトリウム)を必須構成成分となる重合体または共重合体を含有する高炉水砕スラグ製造用の薬剤が開示されており、該薬剤の使用により貯蔵時における固結防止効果が発揮されることが記載されている。また、下記特許文献6には、アクリル酸系重合体からなる固結防止剤が開示されている。 【特許文献1】特開昭58-104050号公報 【特許文献2】特開昭59-116156号公報 【特許文献3】特開2001-58855号公報 【特許文献4】特開2002-179442号公報 【特許文献5】特開昭54-96493号公報 【特許文献6】特開2003-160364号公報 【発明の開示】 【発明が解決しようとする課題】 【0005】 上記従来の固結防止剤では、ある程度の固結防止効果は得られるものの十分であるとは言えず、特に長期保存における固結防止効果という点では満足の行くものではなかった。 【0006】 本発明は、以上の点に鑑みてなされたものであり、長期間にわたって優れた固結防止効果を発揮することができる高炉水砕スラグの固結防止剤を提供することを目的とする。 【課題を解決するための手段】 【0007】 本発明者は、上記の課題を解決するべく鋭意研究した結果、高炉水砕スラグの固結防止剤としてホスホン酸誘導体が有効であることを見い出し、本発明を完成するに至った。 【0008】 すなわち、本発明は、ホスホン酸誘導体を含有することを特徴とする高炉水砕スラグの固結防止剤を提供するものである。 【0009】 本発明の高炉水砕スラグの固結防止剤は、ホスホン酸誘導体、ポリカルボン酸又はその塩、及び/又は、糖アルコールを、ホスホン酸誘導体の配合量をA、ポリカルボン酸又はその塩の配合量をB、糖アルコールの配合量をCとして、A/(B+C)=90/10?10/90の質量比で、含有するものである。ポリカルボン酸又はその塩、及び/又は、糖アルコールを、ホスホン酸誘導体とともに併用することにより相乗効果が得られる。 【発明の効果】 【0011】 本発明によれば、長期間にわたって優れた固結防止効果が得られ、そのため、天然砂代替として供する高炉水砕スラグを長期間安心して保存することができるようになり、また、薬剤使用量や使用回数の減少を図ることができる。 【発明を実施するための最良の形態】 【0012】 以下、本発明について詳細に説明する。 【0013】 上記ホスホン酸誘導体としては、ホスホン酸系金属イオン封鎖剤として一般に使用されているものであれば特に限定されず使用することができる。 【0014】 ホスホン酸誘導体の好ましい例としては、下記式(1)で表される1-ヒドロキシエチレン-1,1-ジホスホン酸、下記式(2)で表されるニトリロトリス(メチレンホスホン酸)、下記式(3)で表されるホスホノブタントリカルボン酸、下記一般式(4)で表されるアルキレンジアミンテトラ(メチレンホスホン酸)(例えば、式(4)中、n=2の場合であるエチレンジアミンテトラ(メチレンホスホン酸)、n=6の場合であるヘキサメチレンジアミンテトラ(メチレンホスホン酸)など)、下記一般式(5)で表されるジアルキレントリアミンペンタ(メチレンホスホン酸)(例えば、式(5)中、n=2の場合であるジエチレントリアミンペンタ(メチレンホスホン酸)など)、及び、これらの塩が挙げられる。これらの塩としては、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、及びアンモニウム塩が挙げられ、好ましくはナトリウム塩やカリウム塩などのアルカリ金属塩である。 【化1】 【0015】 上記ポリカルボン酸又はその塩としては、分子中にカルボキシル基を2個以上持つ化合物(ポリマーも含む)又はその塩であればよく、例えば、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、コハク酸、フタル酸、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリマレイン酸など、及びこれらの塩が挙げられる。これらの塩としては、ナトリウム塩やカリウム塩などアルカリ金属塩、カルシウム塩などのアルカリ土類金属塩、アンモニウム塩が挙げられる。上記の中でも、ポリアクリル酸又はその塩の使用が好適であり、上記したホスホン酸誘導体とともに併用することにより、より一層優れた固結防止効果を発揮することができる。ポリカルボン酸又はその塩は、ポリマーの場合、質量平均分子量が500?500,000であることが好ましく、より好ましくは2,000?60,000である。 【0016】 上記糖アルコールとしては、エリトリトール、アラビトール、ソルビトール、マンニトール、ズルシトールなどの炭素数4以上のものが好ましく用いられる。より好ましくはソルビトールであり、上記したホスホン酸誘導体とともに併用することにより、より一層優れた固結防止効果を発揮することができる。 【0017】 本発明の固結防止剤においては、ホスホン酸誘導体の配合量をA、ポリカルボン酸又はその塩の配合量をB、糖アルコールの配合量をCとしたとき、これらの配合比が質量比で、A/(B+C)=90/10?10/90の関係にある。すなわち、B及び/又はCとの併用による相乗効果を得るという観点から、A/(B+C)=90/10?10/90であり、ホスホン酸誘導体が高価なことに鑑みてコスト面も考慮すると、更に好ましくはA/(B+C)=50/50?20/80の範囲内に設定することである。 【0018】 本発明の固結防止剤は、一般的には、上記各成分を水に溶かして水溶液の形態に調製される。該水溶液の濃度は特に限定されないが、通常は固形分濃度で10?60質量%に調製される。そして、使用に際しては、この水溶液を更に適当に希釈して高炉水砕スラグに付与することが好ましい。なお、本固結防止剤には、上記各成分の他、防腐剤などの添加剤を本発明の効果を損なわない範囲内で配合することもできる。 【0019】 本発明の固結防止剤を用いて高炉水砕スラグに処理する方法については特に限定されない。例えば、固結防止剤の水溶液を高炉水砕スラグにスプレーする方法、固結防止剤の水溶液を高炉水砕スラグとともに練り混ぜる方法、固結防止剤の水溶液に高炉水砕スラグを浸漬する方法などが挙げられる。 【0020】 本発明の固結防止剤は、また、高炉水砕スラグを製造する際の破砕時に用いる加圧水に添加して固結防止効果を発揮させることもできる。すなわち、高炉水砕スラグは、溶融スラグを加圧水で一次破砕して撹拌槽又はピットの水槽中に落とし、このときに二次破砕と冷却凝固を行わせて水砕化することで製造されている。このときの加圧水は普通循環して使用されているが、この循環水に本発明の固結防止剤を添加してスラグに固結防止剤を付与し、これにより、その後の貯蔵時におけるスラグの固結を防止するようにしてもよい。 【0021】 固結防止剤の高炉水砕スラグに対する使用量としては、高炉水砕スラグの乾燥質量に対して、固形分で0.001?0.5質量%であることが好ましく、より好ましくは0.01?0.1質量%である。このような使用量とすることにより、長期間にわたり安定した固結防止効果を発揮させることができるとともに、処理した高炉水砕スラグをコンクリート用骨材として使用した場合に、得られるコンクリート硬化体の強度に悪影響を及ぼさないようにすることができる。 【0022】 本発明によれば、ホスホン酸誘導体を、好ましくはポリカルボン酸又はその塩、及び/又は糖アルコールとともに、高炉水砕スラグに対して付与することにより長期間にわたって優れた固結防止効果を発揮することができるが、その理由は以下のように考えられる。すなわち、スラグの固結は、固溶されていたCaO、Al_(2)O_(3)、MgOなどが溶出し、pHが上昇することで、スラグのSiO_(2)やAl_(2)O_(3)の鎖状結合が切断され、カルシウムシリケート水和物(C-S-Hゲル)及びカルシウムアルミネート水和物(C-A-Hゲル)を生成して硬化することによるが、本発明の固結防止剤を添加することで、本薬剤が有するキレート効果により、スラグのpH上昇を抑制することができ、それによりスラグの固結が抑制されるものと思われる。 【実施例】 【0023】 以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明の範囲はこれに限定されるものではない。 【0024】 下記表1に示す組成に従って実施例及び比較例の各固結防止剤の水溶液(固形分濃度=20質量%)を調製した。ここで、実施例1?3はホスホン酸誘導体の単独使用の例、実施例4はホスホン酸誘導体とポリアクリル酸ナトリウムの併用の例、実施例5?7および9?11はホスホン酸誘導体とポリアクリル酸ナトリウムとソルビトールの3者併用の例、実施例8はホスホン酸誘導体とソルビトールの併用の例であり(但し、実施例1?3及び11は参考例である。)、比較例1は固結防止剤未使用の例、比較例2はポリアクリル酸ナトリウムの単独使用の例、比較例3はソルビトールの単独使用の例、比較例4はグルコン酸ナトリウムの単独使用の例、比較例5は炭酸水素ナトリウムの単独使用の例である。 【0025】 なお、表1中の「HEDP」は、キレスト社製のホスホン酸誘導体「キレストPH212」(商品名)であり、これは上記式(1)で示される1-ヒドロキシエチレン-1,1-ジホスホン酸の二ナトリウム塩である。 【0026】 また、「NTMP」は、キレスト社製のホスホン酸誘導体「キレストPH320」(商品名)であり、これは上記式(2)で示されるニトリロトリス(メチレンホスホン酸)である。 【0027】 更に、「PBTC」は、キレスト社製のホスホン酸誘導体「キレストPH430」(商品名)であり、これは上記式(3)で示されるホスホノブタントリカルボン酸である。 【0028】 また、「ポリアクリル酸ナトリウム」としては、第一工業製薬社製「シャロールAN130P」(質量平均分子量=10,000)を用いた。「ソルビトール」としては東和化成工業社製「ソルビットL-70」を用いた。 【0029】 5mm以下の粒度に調整した高炉水砕スラグ(粗粒率2.68)を混合釜に投入し、含水率が10質量%、固結防止剤の添加率が乾燥スラグ質量に対して0.01質量%になるように、各固結防止剤の水溶液を噴霧しながら、ハンドシャベルで撹拌した後、モルタルミキサーで低速5分間混合した。なお、スラグの粗粒率は、JIS A1102「骨材のふるい分け試験方法」に準拠して、粗粒率=(各ふるいにとどまる試料の質量百分率の和)/100により算出した。 【0030】 処理したスラグ240gを、直径50mm×高さ100mmのサミットモールドに充填し、万能強度試験機(マルイ社製)を用いて0.1N/mm^(2)で載荷し、除荷後、密封して50℃の恒温器内で保存した。保存開始から30日後、60日後、90日後、120日後、150日後の各試料について、5mm篩で篩った後、通過せずに残った質量を測定して、その割合を固化率とした。結果を表1に示す。 【表1】 【0031】 表1に示すように、ホスホン酸誘導体を使用した実施例1?11では、比較例の固結防止剤に比べて、長期保存における固結防止効果に優れていた。特に、ホスホン酸誘導体とポリアクリル酸とソルビトールとを併用した実施例5?7では、長期間にわたり極めて優れた固結防止効果が発揮されていた。 (57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 ホスホン酸誘導体、ポリカルボン酸又はその塩、及び/又は、糖アルコールを、ホスホン酸誘導体の配合量をA、ポリカルボン酸又はその塩の配合量をB、糖アルコールの配合量をCとして、A/(B+C)=90/10?10/90の質量比で、含有することを特徴とする高炉水砕スラグの固結防止剤。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
審理終結日 | 2012-08-15 |
結審通知日 | 2012-08-20 |
審決日 | 2012-09-05 |
出願番号 | 特願2003-314850(P2003-314850) |
審決分類 |
P
1
113・
121-
YA
(C04B)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 横山 敏志 |
特許庁審判長 |
木村 孔一 |
特許庁審判官 |
斉藤 信人 國方 恭子 |
登録日 | 2006-08-04 |
登録番号 | 特許第3834736号(P3834736) |
発明の名称 | 高炉水砕スラグの固結防止剤 |
代理人 | 秋山 雅則 |
代理人 | 野河 信太郎 |
代理人 | 中村 哲士 |
代理人 | 夫 世進 |
代理人 | 稲本 潔 |
代理人 | 富田 克幸 |
代理人 | 中村 哲士 |
代理人 | 富田 克幸 |
代理人 | 有近 康臣 |
代理人 | 夫 世進 |
代理人 | 甲斐 伸二 |
代理人 | 蔦田 璋子 |
代理人 | 蔦田 璋子 |
代理人 | 蔦田 正人 |
代理人 | 有近 康臣 |
代理人 | 蔦田 正人 |
代理人 | 金子 裕輔 |