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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 C12N
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C12N
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C12N
管理番号 1266505
審判番号 不服2011-5475  
総通号数 157 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-01-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-03-10 
確定日 2012-11-19 
事件の表示 特願2010- 84519「CD22を保有する細胞および腫瘍へ標的化された、組換え抗体および免疫複合体」拒絶査定不服審判事件〔平成22年 9月16日出願公開、特開2010-200752〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、1998年(平成10年)3月19日(パリ条約による優先権主張1997年3月20日 米国)を出願日とする特願平10-540812号の一部を、特許法第44条第1項の規定により平成20年3月18日に新たな特許出願とした特願2008-70484号のさらに一部を平成22年3月31日に新たな特許出願としたものであって、同年9月17日付で特許請求の範囲について手続補正がなされたが、同年11月9日付で拒絶査定がなされ、これに対して、平成23年3月10日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、同日付で特許請求の範囲について手続補正がなされたものである。

第2 平成23年3月10日付の手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成23年3月10日付の手続補正を却下する。

[理由]
1.本件補正について
上記補正により特許請求の範囲の請求項1は、補正前の
「【請求項1】組換え抗CD22抗体に結合した、治療剤ペプチドを含有する、組換え免疫複合体であって、ここで、該抗CD22抗体は、
(a)配列番号2において44位のアミノ酸がシステインであるアミノ酸配列を含む可変重(V_(H))鎖、および、配列番号4において100位のアミノ酸がシステインであるアミノ酸配列を含む可変軽(V_(L))鎖を含む、RFB4ジスルフィド安定化Fv(dsFv);あるいは、
(b)配列番号2において44位のアミノ酸がシステインであるアミノ酸配列に対して少なくとも95%の同一性を有する可変重(V_(H))鎖、および、配列番号4において100位のアミノ酸がシステインであるアミノ酸配列に対して少なくとも95%の同一性を有する可変軽(V_(L))鎖を含む、RFB4ジスルフィド安定化Fv(dsFv)であって、
ここで、該RFB4 dsFvは、(a)に示されるアミノ酸配列における1または数個のアミノ酸の保存的置換、欠失、または、付加によって(a)に由来する、RFB4 dsFv、
であって、少なくとも10^(-7)Mの親和定数で結合する、組換え免疫複合体。」
から、
「【請求項1】組換え抗CD22抗体に結合した、治療剤ペプチドを含有する、組換え免疫複合体であって、ここで、該抗CD22抗体は、
(a)配列番号2において44位のアミノ酸がシステインであるアミノ酸配列を含む可変重(V_(H))鎖、および、配列番号4において100位のアミノ酸がシステインであるアミノ酸配列を含む可変軽(V_(L))鎖を含む、RFB4ジスルフィド安定化Fv(dsFv);あるいは、
(b)配列番号2のアミノ酸配列に対して少なくとも95%の同一性を有する可変重(VH)鎖、および、配列番号4のアミノ酸配列に対して少なくとも95%の同一性を有する可変軽(V_(L))鎖を含む、RFB4ジスルフィド安定化Fv(dsFv)であって、
ここで、該RFB4 dsFvは、(a)に示されるアミノ酸配列における1または数個のアミノ酸の保存的置換、欠失、または、付加によって(a)に由来し、ここで、該V_(H)鎖は44位のアミノ酸としてシステインを含み、そして、該V_(L)鎖は100位のアミノ酸としてシステインを含む、RFB4 dsFv、
であって、少なくとも10^(-7)Mの親和定数で結合する、組換え免疫複合体。」
へと補正された。(なお、下線は当審で付加した。)

2.補正の目的要件について
上記補正は、補正前の請求項1の(b)に記載した発明を特定するために必要な事項である「可変重(V_(H))鎖」について、少なくとも95%の同一性の基準となるアミノ酸配列が「配列番号2において44位のアミノ酸がシステインであるアミノ酸配列」であったのを、上記補正により、44位のアミノ酸がシステインに置換されていない「配列番号2のアミノ酸配列」へと限定するものであり、また、「可変軽(V_(L))鎖」について、少なくとも95%の同一性の基準となるアミノ酸配列が「配列番号4において100位のアミノ酸がシステインであるアミノ酸配列」であったのを、上記補正により、100位のアミノ酸がシステインに置換されていない「配列番号4のアミノ酸配列」へと限定するものであり、さらに、「該V_(H)鎖は44位のアミノ酸としてシステインを含み、そして、該V_(L)鎖は100位のアミノ酸としてシステインを含む」ことを限定するものであり、その補正前の当該請求項に記載された発明とその補正後の当該請求項に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法(以下、「平成18年改正前特許法」という。)第17条の2第4項2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

そこで、本件補正後の前記請求項1に記載されている事項により特定される発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について、以下に検討する。

3.独立特許要件について
(1)本願補正発明
本願補正発明は、dsFvが(a)又は(b)の選択肢で記載されているが、(b)を選択した場合に係る発明(以下、「本願補正発明b」という。)について検討する。

本願補正発明bは次のとおりのものである。
「【請求項1】組換え抗CD22抗体に結合した、治療剤ペプチドを含有する、組換え免疫複合体であって、ここで、該抗CD22抗体は、
(b)配列番号2のアミノ酸配列に対して少なくとも95%の同一性を有する可変重(V_(H))鎖、および、配列番号4のアミノ酸配列に対して少なくとも95%の同一性を有する可変軽(VL)鎖を含む、RFB4ジスルフィド安定化Fv(dsFv)であって、ここで、該RFB4 dsFvは、(a)に示されるアミノ酸配列における1または数個のアミノ酸の保存的置換、欠失、または、付加によって(a)に由来し、
ここで、該VH鎖は44位のアミノ酸としてシステインを含み、そして、該VL鎖は100位のアミノ酸としてシステインを含む、RFB4 dsFv、
であって、少なくとも10-7Mの親和定数で結合する、組換え免疫複合体。」

(2)引用例
ア.原査定の拒絶の理由で引用文献2として引用された本願優先日前に頒布された刊行物であるCancer Research,1991年,Vol.51,p.5876-5880(以下、「引用例2」という。)には、以下の事項が記載されている(下線は当審で付加した。以下、同様。)。

(ア)「2つの抗CD22リシンA鎖を含む免疫毒素(IT)構築物の抗腫瘍効果を、ヒトDaudi細胞腫瘍を移植した重篤複合免疫不全マウス(SCID-Daudiマウス)において比較した。SCID-Daudiマウスは、アフリカのバーキットリンパ腫すなわち、脊柱と脊髄管の浸潤を含む節外性病変と臨床的に類似する伝播性のリンパ腫を形成した。無処置の場合、SCID-Daudiマウスの平均生存期間は45.9±4.3日である。・・・免疫毒素は、IgG又はマウス抗CD22抗体のFab’フラグメントのどちらか一方が脱グリコシル化リシンA鎖(dgA)と結合したもので構成される。・・・
腫瘍細胞移植1日後にマウスに投与すると、両免疫毒素は平均生存期間を各々87.2±18.9日(IgG-dgA)、57.9±3.8日(Fab’-dgA)日まで延長した。・・・」(要約)

(イ)「我々は非常に有力な第二世代の免疫毒素構築物を開発し、これらは現在、難治性非ホジキン(B細胞)リンパ腫についてヒトにおけるフェーズI/II臨床試験にて評価されている。これらの免疫毒素は、非ホジキンリンパ腫の大多数の患者由来の腫瘍性B細胞に存在するCD22抗原に対するものである(・・・)。一つの免疫毒素は、脱グリコシル化リシンA鎖が自然のシステイン-システインジスルフィド結合で化学的に結合した抗CD22マウスモノクローナル抗体(RFB4)(Fab’-dgA)から構成される。」(5876頁左欄1行?9行)

(ウ)「この研究で使用された2つの免疫毒素の特徴は、表1に記載されている。Fab’-dgAは、IgG-dgAと比較して、細胞に対して低い親和性を有し、より短い半減期であり、マウスに対してより毒性が低い(LD50がより高い)ものである。」(5877頁左欄「結果」「免疫毒素の特徴」の項1行?4行)

(エ)表1には、Fab’-dgA免疫毒素の親和性は、「1.4×10^(8)M」であることが記載されている。(5877頁左欄表1)

イ.原査定の拒絶の理由で引用文献3として引用された本願優先日前に頒布された刊行物であるBiochemistry,1994年,vol.33,p.5451-5459(以下、「引用例3」という。)には、以下の事項が記載されている。
(ア)「ジスルフィド安定化FV(dsFv)は、可変重鎖(V_(H))及び可変軽鎖(V_(L))の不安定なヘテロダイマーが、V_(H)及びV_(L)の構造的に保存されたフレームワーク位置間の特定部位に創出されたジスルフィド結合によって安定化された抗体の組換えFvフラグメントである。我々は最近、切断型シュードモナス外毒素と結合したdsFvから成る、組換え免疫毒素B3(dsFv)-PE38KDELの一例を述べた(・・・)。このジスルフィド安定化免疫毒素は、単鎖免疫毒素と同じ細胞傷害活性及び特異性を有した。これらの位置におけるジスルフィドによるFvの安定化は、一般に適用可能であるか決定するため、我々は、2つの異なるdsFvを含む免疫毒素を作製し、分析した。一つは癌関連抗原erbB2に結合するe23抗体から作製され、他方はIL-2受容体のp55サブユニットに結合する抗Tac抗体から作製された。・・・これらの結果は、dsFvは少なくともscFvと同様の結合特性を有し、一部の例では、より優れた結合性を有する可能性があることを示した。よって、保存されたフレームワーク領域において我々が同定した位置は、多くの異なるFvをジスルフィド安定化するために使用することが可能であるはずである。・・・dsFv免疫毒素はscFV免疫毒素と比較して、同等か改善された活性を有し、高収率でより簡単に製造でき、より安定であるから、dsFv免疫毒素(及びdsFv担体)は、scFvよりも臨床及び大量の安定な組換えFvが必要な他の適用において、より有益である。」(要約)

(イ)「Fvフレームワーク領域におけるV_(H)及びV_(L)間ジスルフィド結合の創出
この研究のゴールは、3次元構造が知られていない組換えFVは、保存されたフレームワーク残基にシステイン残基を挿入することにより安定化することができるかどうかを決定ことである。我々は以前にB3(V_(H))の44位のArg及びB3(V_(L))の105位のSer(カバットの番号付けによると、V_(H)-44、V_(L)-100)をシステインに置換し、2つのドメイン間にジスルフィド結合を形成し、B3抗原に結合する安定なFvヘテロダイマーを作り出すことを発見した(・・・)。」(5453頁左欄「結果」の項1行?10行)

(ウ)「この考えをテストするため、我々は、二つの条件において、精製されたscFv-及びdsFv-免疫毒素の安定性を比較した。一つはPBS(10mMリン酸塩/150mMNaCl)であり、他方は、塩を添加しない20mMトリス(pH7.4)である。表2に示すように、PBSにおいて、dsFv-免疫毒素、B3(dsFv)-PE38KDELは、単鎖B3(Fv)-PE38KDELよりもはるかに安定である。scFv-免疫毒素は、1-2時間は安定であったが、その後活性を失い始めた。対照的にdsFv-PE38KDELは48時間ほとんど完全な活性を維持した。・・・我々はdsFv-免疫毒性の改善した安定性及び溶解性は、dsFv-免疫毒素の改善した生産収率に貢献していると結論付けた。」(5454頁右欄下13行?5455頁左欄2行)

(エ)「dsFv-免疫毒素の活性及び特異性は、少なくとも単鎖免疫毒素のそれよりも同じかしばしば優れているという事実は、抗原結合領域が、dsFv毒素においてよく保存されていること、そして、ここで異なる抗体について実証したように、Fvのジスルフィド安定化は、他のFvに一般的に適用できるはずであることを示している。」(5457頁左欄7行?13行)

(オ)「この研究により、特異性及び活性について、ジスルフィド安定化Fv-免疫毒素とカウンターパートである単鎖のそれとの比較によると、ジスルフィド結合分子は、少なくとも同等か、一部の例では優れた活性を示し、ジスルフィド安定化のために使用された位置は、抗原結合を妨げないことを示す。」(5457頁右欄「単鎖免疫毒素の特性」の項1行?行7行)

(3)対比
引用例2に記載されたFab’-dgAにおいて、Fab’は、RFB4抗体の可変重鎖及び可変軽鎖から構成されるものである(引用例2の記載事項(イ)参照)。そして、本願補正発明bにおける配列番号2及び4はそれぞれ、RFB4抗体の可変重鎖及び可変軽鎖のアミノ酸配列である(図1参照)。
また、引用例2に記載された「リシンA鎖(dgA)」は、本願補正発明bの「治療剤ペプチド」に相当する。
さらに、引用例2の記載事項(ウ)によると、Fab’-dgAの親和性は、1.4×10^(8)Mであるから、親和定数に換算するため逆数を計算すると、7.1×10^(-9)Mである。

本願補正発明bと引用例2に記載されたFab’-dgAを対比すると、両者は、「抗CD22抗体に結合した、治療剤ペプチドを含有する、免疫複合体であって、該抗CD22抗体は、RFB4抗体の可変重(V_(H))鎖、および、RFB4抗体の可変軽(V_(L))鎖を含む、RFB4Fvであって、少なくとも10^(-7)Mの親和定数で結合する、免疫複合体」である点で一致し、両者は、下記の点で相違する。

相違点1 RFB4Fvが、本願補正発明bでは、V_(H)鎖のアミノ酸44位及びV_(L)鎖のアミノ酸100位がシステインであって、ジスルフィド安定化されたFv(dsFv)であるのに対し、引用例2では、単なるFab’であって、アミノ酸をシステインに置換することによるジスルフィド安定化されたものではない点
相違点2 本願補正発明bのV_(H)鎖は、配列番号2のアミノ酸配列に対して少なくとも95%の同一性を有するものであり、また、V_(L)鎖は、配列番号4に対して少なくとも95%の同一性を有するものであって、RFB4dsFvは、「配列番号2において44位のアミノ酸がシステインであるアミノ酸配列」及び、「配列番号4において100位のアミノ酸がシステインであるアミノ酸配列」において、1または数個のアミノ酸の保存的置換、欠失、または、付加されたものであるのに対し、引用例2に記載されたFab’は、特にアミノ酸の改変はなされていない点
相違点3 免疫複合体は、本願補正発明bでは、「組換え」であるのに対し、引用例2では、特に遺伝子組み換えにより製造することについては記載されていない点

(4)判断
ア.相違点1及び3について
引用例2の記載事項(エ)の、Fab’-dgAの半減期が短い旨の記載に接した当業者であれば、Fab’-dgAの分子自体の安定性を向上させようとすることは自然な発想である。その際、引用例3の記載事項(ア)には、免疫毒素において、V_(H)及びV_(L)のフレームワーク領域の特定位置のアミノ酸をシステインに置換してジスルフィド結合によりFvを安定化することが記載されており、さらに、この技術は、多くの異なるFvを安定化するために使用可能である旨の記載(記載事項(ア)及び(エ)参照)を考慮すると、引用例2に記載されたFab’-dgAにおいて、引用例3に記載された、Fvをジスルフィド安定化する技術を適用することは、当業者が容易に想起することである。そのために、引用例2に記載されたRFB4抗体の可変領域をクローニングして、塩基配列及びアミノ酸配列を決定し、引用例3の記載事項(イ)に示されるように、V_(H)の44位及びV_(L)の100位のアミノ酸がシステインに置換されたFvをコードする塩基配列を作製し、遺伝子組換え手法により製造することは当業者にとって格別な困難性を有することとも認められない。

イ.相違点2について
抗体において、結合親和性が同等の改変体を得ることを目的として、抗体の結合親和性に影響の少ない位置において、アミノ酸の性質を変えない置換、すなわち、保存的置換をすることは、周知技術であることを考慮すれば(要すれば、例えば、特表平9-50012号公報の37頁VII.及び、国際公開第96/22373号の29頁下3行参照)、引用例2に記載されたFab’のアミノ酸配列において、CD22への結合親和性に影響を与えない位置のアミノ酸を保存的置換することは、当業者が容易に想到することである。

ウ.効果について
本願明細書の段落【0120】には、「RFB4(dsFv)PE38を、37℃で1?7日間インキュベートし、そしてインキュベーション後のその細胞傷害性活性を、未処理の免疫毒素の活性と比較した。RFB4(Fv)PE38を、2?24時間37℃でインキュベートした。処理したサンプルの細胞傷害性を、-80℃で維持したサンプルと比較した。dsFv免疫毒素の37℃での高い安定性の以前の知見に一致して、RFB4(dsFv)PE38はまた、24時間アッセイにおける完全な細胞傷害性活性の維持により判断したところ、全7日間にわたって非常に安定であった(図5)。」と記載されている。
すなわち、RFB4(dsFv)PE38は、37℃で7日間インキュベーションした後も細胞傷害性活性を有するものであって、安定であることが記載されている。
しかしながら、本願補正発明bの免疫毒素が安定であるという効果は、引用例3の記載事項(ウ)に示されるように、ジスルフィド結合したFvは安定である旨の記載から、当業者であれば予測し得る効果である。
そして、本願明細書の図5には、RFB4(dsFv)PE38のデータが示されているのみであって、比較対照が記載されていないから、RFB4(dsFv)PE38の安定化効果が、従来技術から予測し得る範囲を超える程の顕著な効果であるかどうかは確認できない。

さらに、本願補正発明bは、「配列番号2に対して少なくとも95%の同一性を有する可変重(V_(H))鎖および配列番号4に対して少なくとも95%の同一性を有する可変軽(V_(L))鎖」であって、1または数個のアミノ酸の保存的置換、欠失、または、付加されたものをも含むものである。可変領域のアミノ酸配列に5%の置換、欠失又は付加がなされた改変体が、改変前の抗体と同様の安定性を有するかどうかは不明であるから、ますますもって本願補正発明bに含まれる範囲の全体にわたって格別顕著な効果を奏するものとはいえない。

(5)小括
以上のとおりであるから、本願補正発明bは、引用例2及び3に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、本願補正発明bをその態様として包含する本願補正発明も同様である。

(6)請求人の主張
ア.請求人は、審判請求書において、下記のように主張する。
主張a:本願補正発明の組換え免疫複合体は、「少なくとも10^(-7)Mの親和定数」という高い親和性を有し、かつ、ジスルフィド安定化されているRFB4ジスルフィド安定化Fvである組換え抗CD22抗体と、この抗体に結合した治療剤との組み合わせによって、実施例に記載の優れた効果を奏するものである。

主張b:請求項1の(b)に記載の変異型抗体について、当業者は、本願優先日当時の技術常識を参酌して、本願明細書の記載に基いて、「少なくとも10^(-7)Mの親和定数で結合する」抗体を容易に作製することが可能であるから、当業者は、本願優先日当時の技術常識を参酌して、本願明細書の記載に基いて、実施例に記載されるものと同様に際立って優れた予想外の効果を奏する組換え免疫複合体を容易に作製することが可能である。

イ.上記主張について検討する。
主張aについて
請求人は、本願補正発明のdsFvの親和定数が10^(-7)Mであることは格別顕著な効果であることを主張する。
しかしながら、本願補正発明と同じ抗体の可変領域に由来する引用例2に記載されたFab’-免疫毒素の親和定数は約10^(-9)Mであり、これは本願補正発明よりも高い親和性を有するものである。そして、引用例3には、dsFvにおけるジスルフィド結合は抗原結合を妨げない位置に導入されていること(上記記載事項(オ))、dsFvにおける抗原結合領域はよく保存されていることが記載されていること(上記記載事項(エ))を考慮すれば、本願補正発明のdsFvの親和定数が10^(-7)Mであることは、引用例2がFab’であることを参酌しても、当業者の予想の範囲を超える値であるとまではいえない。

主張bについて
上記「(4)ウ.効果について」で述べたとおり、そもそも、本願明細書の実施例に記載されたRFB4dsFv-PE38免疫複合体は、本願明細書をみても格別顕著な効果を奏するものであることが確認できないものであるから、実施例に記載された免疫複合体が優れた効果を奏するものであることを前提とした請求人による主張は、採用することができない。
仮に、実施例に記載された免疫複合体が格別顕著な効果を奏するものであったとしても、可変領域のアミノ酸配列に5%もの置換がなされた改変体が、改変前の抗体と同様の安定性を有するかどうかは不明であるから、格別顕著な効果を確認することができない点は、上述のとおりである。

(7)小括
以上の理由により、本願補正発明は、引用例2及び3に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができるものではない。

4.むすび
以上のとおり、本件補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明
1.本願発明
平成23年3月10日付の手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成22年9月17日付手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。
「【請求項1】組換え抗CD22抗体に結合した、治療剤ペプチドを含有する、組換え免疫複合体であって、ここで、該抗CD22抗体は、
(a)配列番号2において44位のアミノ酸がシステインであるアミノ酸配列を含む可変重(V_(H))鎖、および、配列番号4において100位のアミノ酸がシステインであるアミノ酸配列を含む可変軽(V_(L))鎖を含む、RFB4ジスルフィド安定化Fv(dsFv);あるいは、
(b)配列番号2において44位のアミノ酸がシステインであるアミノ酸配列に対して少なくとも95%の同一性を有する可変重(V_(H))鎖、および、配列番号4において100位のアミノ酸がシステインであるアミノ酸配列に対して少なくとも95%の同一性を有する可変軽(V_(L))鎖を含む、RFB4ジスルフィド安定化Fv(dsFv)であって、
ここで、該RFB4 dsFvは、(a)に示されるアミノ酸配列における1または数個のアミノ酸の保存的置換、欠失、または、付加によって(a)に由来する、RFB4 dsFv、
であって、少なくとも10^(-7)Mの親和定数で結合する、組換え免疫複合体。」

本願発明は、本願補正発明bにおけるV_(H)鎖及びV_(L)鎖について、少なくとも95%同一性の基準となるアミノ酸配列が、それぞれ「配列番号2のアミノ酸配列」及び「配列番号4のアミノ酸配列」であるのを、「配列番号2において44位のアミノ酸がシステインであるアミノ酸配列」及び「配列番号4において100位のアミノ酸がシステインであるアミノ酸配列」としたものであり、また、RFB4dsFvについて「該V_(H)鎖は44位のアミノ酸としてシステインを含み、そして、該VL鎖は100位のアミノ酸としてシステインを含む」という限定を削除したものである。

そして、本願発明は、本願補正発明bをその一態様として包含するものであり、本願補正発明は上記第2 4.で述べた理由により、引用例2及び3に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も同様の理由により、引用例2及び3に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

第4 むすび
以上のとおりであるから、本願請求項1に係る発明は、特許法第29条2項の規定により、特許を受けることができないので、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-06-27 
結審通知日 2012-06-28 
審決日 2012-07-10 
出願番号 特願2010-84519(P2010-84519)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (C12N)
P 1 8・ 121- Z (C12N)
P 1 8・ 121- Z (C12N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 佐々木 大輔田中 晴絵  
特許庁審判長 鵜飼 健
特許庁審判官 新留 豊
冨永 みどり
発明の名称 CD22を保有する細胞および腫瘍へ標的化された、組換え抗体および免疫複合体  
代理人 山本 秀策  
代理人 安村 高明  
代理人 森下 夏樹  

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