• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 特17 条の2 、4 項補正目的 特許、登録しない。 C04B
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C04B
管理番号 1266537
審判番号 不服2011-8652  
総通号数 157 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-01-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-04-22 
確定日 2012-11-22 
事件の表示 特願2004-273238「繊維補強コンクリート成形体の製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成18年 4月 6日出願公開、特開2006- 89295〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成16年9月21日の出願であって、平成22年3月11日付けで拒絶理由が起案され、同年5月11日に期間延長が申請され、同年5月14日付けで延長が許可され、同年6月17日に意見書及び特許請求の範囲並びに明細書の記載に係る手続補正書の提出がなされ、同年6月28日付けで却下理由が起案され、同年8月30日に上申書が提出され、同年9月6日付けで手続却下の処分がなされ、平成23年2月18日付けで拒絶査定が起案され、同年4月22日に拒絶査定不服の審判請求がなされ、同日に特許請求の範囲並びに明細書の記載に係る手続補正書が提出され、平成24年2月24日付けで特許法第164条第3項に基づく報告を引用した審尋が起案され、同年5月1日に回答書が提出されたものである。

第2 平成23年4月22日付けの手続補正について
[補正却下の決定の結論]
平成23年4月22日付けの手続補正(以下、必要に応じて「本件補正」という。)を却下する。
[理由]
(1)本件補正により、出願当初の特許請求の範囲
「【請求項1】
セメント、最大粒度2mm以下の骨材、1次粒子粒度1μm以下のポゾラン系反応粒子、平均粒度1mm以下の針状もしくは薄片状粒子、水、平均粒径3?20μmの石英粉末および金属繊維を含み、かつ減水剤の使用量が0?15kg/m^(3)であるモルタル混練物から加圧成形されてなることを特徴とする繊維補強コンクリート成形体。
【請求項2】
モルタル混練物は促進剤を含むことを特徴とする請求項1記載の繊維補強コンクリート成形体。
【請求項3】
セメント、最大粒度2mm以下の骨材、1次粒子粒度1μm以下のポゾラン系反応粒子、平均粒度1mm以下の針状もしくは薄片状粒子、水、平均粒径3?20μmの石英粉末および金属繊維を含み、かつ減水剤の使用量が0?15kg/m^(3)であるモルタル混練物を0.25?1MPaの加圧量で加圧成形した状態で、50?70°Cの温度下で蒸気養生することを特徴とする繊維補強コンクリート成形体の製造方法。
【請求項4】
モルタル混練物は促進剤を含むことを特徴とする請求項3記載の繊維補強コンクリート成形体の製造方法。」が、次のように補正された。
「【請求項1】
セメント、最大粒度2mm以下の骨材、1次粒子粒度1μm以下のポゾラン系反応粒子、平均粒度1mm以下の針状もしくは薄片状粒子、水、平均粒径3?20μmの石英粉末、金属繊維および促進剤を含み、減水剤の使用量が0?15kg/m^(3)であり、
水、減水剤、金属繊維以外の材料の配合割合が、セメント100質量部に対して、骨材50?250質量部、ポゾラン系反応粒子5?50質量部、針状もしくは薄片状粒子4?25質量部、石英粉末20?35質量部であり、
水の配合量が、セメントとポゾラン系反応粒子と石英粉末の合計質量に対して8?24%であり、
金属繊維の配合量が4体積%以下であり、かつ
促進剤は、セメント100質量部に対して、酸化カルシウム換算で0.02?0.55質量部の硝酸カルシウムまたは亜硝酸カルシウムである
モルタル混練物を0.25?1MPaの加圧量で加圧成形した状態で、50?70°Cの温度下で蒸気養生することを特徴とする繊維補強コンクリート成形体の製造方法。」
(2)そして、本件補正は、出願当初の特許請求の範囲の請求項1乃至3を削除するとともに、同請求項4に「水、減水剤、金属繊維以外の材料の配合割合が、セメント100質量部に対して、骨材50?250質量部、ポゾラン系反応粒子5?50質量部、針状もしくは薄片状粒子4?25質量部、石英粉末20?35質量部であり、
水の配合量が、セメントとポゾラン系反応粒子と石英粉末の合計質量に対して8?24%であり、
金属繊維の配合量が4体積%以下であり、かつ
促進剤は、セメント100質量部に対して、酸化カルシウム換算で0.02?0.55質量部の硝酸カルシウムまたは亜硝酸カルシウムである」を加えたものである(以下、「配合量補正事項」という)。しかし、この配合量補正事項が、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号に規定する「特許請求の範囲の減縮」に該当するとするためには、特許請求の範囲を減縮するだけでなく、発明を特定するために必要な事項を限定するものでなければならない[必要ならば、知財高裁 平成19年(行ケ)10055号 審決取消請求事件 平成20年2月27日判決参照]ところ、本件補正前の請求項4には、減水剤については配合量に関する発明特定事項が記載されているものの、その他の成分については配合割合についての発明特定事項が記載されていない。
そうすると、上記配合量補正事項は、発明特定事項を限定するものとすることができないので、同法第17条の2第4項第2号に掲げる事項を目的とするものに該当するものではなく、また、配合量補正事項が請求項の削除、誤記の訂正、明りょうでない記載の釈明にも該当せず、同法第17条の2第4項第1号、第3号、及び第4号のいずれにも該当しない。
したがって、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

『知財高裁 平成19年(行ケ)10055号 審決取消請求事件 平成20年2月27日判決
特許法17条の2第4項2号は,「特許請求の範囲の減縮(第三十6条第5項の規定により請求項に記載した発明を特定するために必要な事項を限定するものであつて、その補正前の当該請求項に記載された発明とその補正後の当該請求項に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるものに限る。)」と定めているから,同号の事項を目的とする補正とは,特許請求の範囲を減縮するだけでなく,発明を特定するために必要な事項を限定するものでなければならないと解される。また,「発明を特定するために必要な事項」とは,特許法「第三十6条第5項の規定により請求項に記載した発明を特定するために必要な事項」とあることから,特許請求の範囲中の事項であって特許を受けようとする発明を特定している事項であると解される。』

そして、仮に、本件補正が平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号に掲げる事項を目的とするものであり、同法第17条の2第4項に規定する補正の要件を満たしているとしても、本件補正後の請求項1に記載された発明(以下、「本願補正発明」という。)は、第6に後記するとおり、特許出願の際独立して特許を受けることができるものでなく、本件補正は、同法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
平成23年4月22日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、出願当初の特許請求の範囲の請求項1に記載された以下のとおりのものである。
「 【請求項1】
セメント、最大粒度2mm以下の骨材、1次粒子粒度1μm以下のポゾラン系反応粒子、平均粒度1mm以下の針状もしくは薄片状粒子、水、平均粒径3?20μmの石英粉末および金属繊維を含み、かつ減水剤の使用量が0?15kg/m^(3)であるモルタル混練物から加圧成形されてなることを特徴とする繊維補強コンクリート成形体。」

第4 引用発明の認定
(i)原査定の拒絶の理由において引用文献1として引用された、本願出願前日本国内において頒布された刊行物である特開2001-181004号公報には、次の事項が記載されている。
(ア)「【請求項1】 少なくとも、セメント、ポゾラン質微粉末、粒径2mm以下の細骨材、減水剤、水、及び収縮低減剤を含むことを特徴とする高強度モルタル。
【請求項2】 さらに、金属繊維及び/又は有機質繊維を含む請求項1に記載の高強度モルタル。
【請求項3】 金属繊維が、径0.01?1.0mm、長さ2?30mmの鋼繊維である請求項2記載の高強度モルタル。
【請求項4】 有機質繊維が、径0.01?1.0mm、長さ2?30mmのビニロン繊維、ポリプロピレン繊維、ポリエチレン繊維、アラミド繊維、炭素繊維から選ばれる1種以上の繊維である請求項2記載の高強度モルタル。
【請求項5】 さらに、平均粒径3?20μmの石英粉を含む請求項1?4のいずれかに記載の高強度モルタル。
【請求項6】 さらに、平均粒度1mm以下の繊維状粒子又は薄片状粒子を含む請求項1?5のいずれかに記載の高強度モルタル。」(【特許請求の範囲】)
(イ)「ポゾラン質微粉末としては、シリカフューム、シリカダスト、フライアッシュ、スラグ、火山灰、シリカゾル、沈降シリカ等が挙げられる。一般に、シリカフュームやシリカダストでは、その平均粒径は、1.0μm以下であり、粉砕等をする必要がないので本発明のポゾラン質微粉末として好適である。ポゾラン質微粉末を配合することにより、そのマイクロフィラー効果およびセメント分散効果によりコンクリートが緻密化し、圧縮強度が向上する。一方、ポゾラン質微粉末の配合量が多くなると単位水量が増大するので、ポゾラン質微粉末の配合量はセメント100重量部に対して5?50重量部が好ましい。」(段落【0007】)
(ウ)「本発明においては、粒径2mm以下の細骨材が用いられる。ここで、細骨材の粒径とは、85%重量累積粒径である。細骨材の粒径が2mmを超えると、圧縮強度が低下する。なお、モルタルの分離抵抗性、硬化後の強度等から、最大粒径が2mm以下の細骨材を用いることが好ましく、最大粒径が1.5mm以下の細骨材を用いることがより好ましい。細骨材としては、川砂、陸砂、海砂、砕砂、珪砂及びこれらの混合物を使用することができる。細骨材の配合量は、モルタルの作業性や分離抵抗性、硬化後の強度やクラックに対する抵抗性等から、セメント100重量部に対して50?250重量部が好ましく、80?180重量部がより好ましい。」(段落【0008】)
(エ)「減水剤としては、リグニン系、ナフタレンスルホン酸系、メラミン系、ポリカルボン酸系の減水剤、AE減水剤、高性能減水剤又は高性能AE減水剤を使用することができる。これらのうち、減水効果の大きい高性能減水剤又は高性能AE減水剤を使用することが好ましい。減水剤の配合量は、モルタルの流動性や分離抵抗性、硬化後の強度、さらにはコスト等から、セメント100重量部に対して、固形分換算で、0.5?4.0重量部が好ましい。なお、減水剤は、液状又は粉末状どちらでも使用可能である。」(段落【0009】)
(オ)「水/セメント比は、モルタルの流動性や分離抵抗性、硬化体の強度や耐久性等から、10?30重量%が好ましく、15?25重量%がより好ましい。」(段落【0010】)
(カ)「本発明においては、モルタルの曲げ強度を高める観点から、前記モルタルに金属繊維及び/又は有機質繊維を含ませることが好ましい。金属繊維としては、鋼繊維、アモルファス繊維等が挙げられるが、中でも鋼繊維は強度に優れており、またコストや入手のし易さの点からも好ましいものである。金属繊維は、径0.01?1.0mm、長さ2?30mmのものが好ましい。径が0.01mm未満では繊維自身の強度が不足し、張力を受けた際に切れやすくなる。径が1.0mmを超えると、同一配合量での本数が少なくなり、曲げ強度を向上させる効果が低下する。長さが30mmを超えると、混練の際ファイバーボールが生じやすくなる。長さが2mm未満では曲げ強度を向上させる効果が低下する。金属繊維の配合量は、モルタルの体積の4.0%未満が好ましく、より好ましくは3.0%未満である。金属繊維の含有量が多くなると混練時の作業性等を確保するために単位水量も増大するので、金属繊維の配合量は前記の量が好ましい。」(段落【0014】)
(キ)「本発明においては、硬化後の充填密度を高める観点から、モルタルに、平均粒径3?20μm、より好ましくは平均粒径4?10μmの石英粉末を含ませることが好ましい。石英粉末としては、石英や非晶質石英、オパール質やクリストバライト質のシリカ含有粉末等が挙げられる。石英粉末の配合量は、モルタルの流動性、硬化体の強度等から、セメント100重量部に対して50重量部以下が好ましく、20?35重量部がより好ましい。
本発明においては、硬化体の靱性を高める観点から、モルタルに、平均粒度が1mm以下の繊維状粒子又は薄片状粒子を含ませることが好ましい。ここで、粒子の粒度とは、その最大寸法の大きさ(特に、繊維状粒子ではその長さ)である。繊維状粒子としては、ウォラストナイト、ボーキサイト、ムライト等が、薄片状粒子としては、マイカフレーク、タルクフレーク、バーキュライトフレーク、アルミナフレーク等が挙げられる。繊維状粒子又は薄片状粒子の配合量は、モルタルの流動性、硬化体の強度や靱性等から、セメント100重量部に対して35重量部以下が好ましく、10?25重量部がより好ましい。なお、繊維状粒子においては、硬化体の靱性を高める観点から、長さ/直径の比で表される針状度が3以上のものを用いるのが好ましい。」(段落【0016】?【0017】)
(ク)「次に、本発明の高強度コンクリートについて説明する。本発明の高強度コンクリートは、粗骨材と前記した高強度モルタルとからなるものである。粗骨材としては、粒径2.5?20mmの砂利、砕石、及びこれらの混合物等が挙げられる。」(段落【0020】)
(ケ)「本発明において、モルタル、コンクリートの養生方法は、特に限定するものではなく、常温養生や蒸気養生等を行えばよい。」(段落【0024】)
(コ)「実施例1
低熱ポルトランドセメント100重量部、シリカフューム32.5重量部、細骨材120重量部、高性能AE減水剤1.0重量部(セメントに対する固形分)、収縮低減剤2.0重量部、水22重量部を二軸練りミキサに投入し、混練した。該混練物を、4×4×16cmの型枠に投入し、成形した。成形後、20℃で48時間前置きし、90℃で48時間蒸気養生した。養生後、「JIS R 5201(セメントの物理試験方法)」に準じて、曲げ強度と圧縮強度を測定した。その結果、圧縮強度は210MPa、曲げ強度/圧縮強度の比は1/7であった。」(段落【0026】)

引用文献1の記載事項(ア)において、請求項2を選択した請求項5を選択した請求項6として「少なくとも、セメント、ポゾラン質微粉末、粒径2mm以下の細骨材、減水剤、水、収縮低減剤、金属繊維、平均粒径3?20μmの石英粉及び平均粒度1mm以下の繊維状粒子又は薄片状粒子を含む高強度モルタル。」が記載され、同(キ)において「本発明の高強度コンクリートについて説明する。本発明の高強度コンクリートは、粗骨材と前記した高強度モルタルとからなるものである。」とあるので、引用文献1には「少なくとも、セメント、ポゾラン質微粉末、粒径2mm以下の細骨材、減水剤、水、収縮低減剤、金属繊維、平均粒径3?20μmの石英粉及び平均粒度1mm以下の繊維状粒子又は薄片状粒子を含む高強度モルタルを混練した高強度コンクリート。」の発明(以下、「引用1発明」という。)が記載されていると認められる。

第5 対比・判断
本願発明と引用1発明を対比すると、引用1発明の「セメント」、「粒径2mm以下の細骨材」、「ポゾラン質微粉末」、「平均粒度1mm以下の繊維状粒子又は薄片状粒子」、「水」、「平均粒径3?20μmの石英粉」、「金属繊維」及び「減水剤」は、それぞれ、本願発明の「セメント」、「最大粒度2mm以下の骨材」、「ポゾラン系反応粒子」、「平均粒度1mm以下の針状もしくは薄片状粒子」、「水」、「平均粒径3?20μmの石英粉末」、「金属繊維」及び「減水剤」に相当することは明らかである。そして、引用1発明の「ポゾラン質微粉末」は、記載事項(イ)に「ポゾラン質微粉末としては、シリカフューム、シリカダスト、フライアッシュ、スラグ、火山灰、シリカゾル、沈降シリカ等が挙げられる。一般に、シリカフュームやシリカダストでは、その平均粒径は、1.0μm以下であり、粉砕等をする必要がないので本発明のポゾラン質微粉末として好適である。」とされているので、本願発明の「1次粒子粒度1μm以下のポゾラン系反応粒子」といえるものであり、「減水剤」に関して引用1発明には、記載事項(エ)において「減水剤の配合量は、モルタルの流動性や分離抵抗性、硬化後の強度、さらにはコスト等から、セメント100重量部に対して、固形分換算で、0.5?4.0重量部が好ましい。」と記載される一方、本願の当初明細書には「これらのうち、減水効果の大きな高性能減水剤または高性能AE減水剤が好ましく、特にポリカルボン酸系の高性能減水剤または高性能AE減水剤が好ましい。また、これらの減水剤の配合量は、配合物の流動性や硬化体の強度などから0?15kg/m^(3)が好ましい。なお、減水剤は液状または粉末状どちらでも使用可能である。」(段落【0022】)と記載されており、両者が重複する配合を有することは、当業者であれば明らかである。さらに、引用1発明の「高強度モルタル」は、記載事項(カ)で「モルタルの曲げ強度を高める観点から、前記モルタルに金属繊維及び/又は有機質繊維を含ませる」ことが記載され、記載事項(コ)にあるように「型枠に投入し、成形し」て用いられるから、「繊維補強コンクリート成形体」として用いられることは記載されているに等しい事項と認められる。
してみると、本願発明と引用1発明とは、「セメント、最大粒度2mm以下の骨材、1次粒子粒度1μm以下のポゾラン系反応粒子、平均粒度1mm以下の針状もしくは薄片状粒子、水、平均粒径3?20μmの石英粉末および金属繊維を含み、かつ減水剤の使用量が0?15kg/m^(3)であるモルタル混練物から成形されてなる繊維補強コンクリート成形体。」である点で一致し、以下の点で相違するものと認められる。
本願発明では、繊維補強コンクリート成形体が「加圧成形されてなる」のに対して、引用1発明では、「成形」されて用いられるものの成形方法を特定事項としていない点(以下、「相違点(a)」という。)。
そこで、上記相違点(a)について検討する。
原査定の拒絶の理由において引用文献2として引用された、本願出願前日本国内において頒布された刊行物である「笠井芳夫編、コンクリート総覧、第1版、技術書院、1998年6月10日、第322頁」で「加圧成形(pressing compaction)
型枠にコンクリートを打ち込んだ後,ふたをして,そのふたに圧力を加えて成形する方法である。一般に振動締固めと併用される(→加圧振動締固め成形)。
・・・
加圧振動締固め成形(pressing and vibrating compaction)
振動締固めにより打ち込んだコンクリートに外部から機械的な圧力を加えてさらに締め固めるか,あるいは振動締固めを行いながら加圧を併用する成形方法である。これにより,コンクリートの脱水が行われコンクリートの強度増進が図られるとともに,型枠による拘束が保持されるため,成形直後に高温蒸気養生を行うことができ,生産性を向上できる。矢板,スラブ,セグメントなどの板状製品の製造に適用されている。加圧力は,通常7?10kgf/cm^(2)程度である。」と記載されているように、加圧成形は、従来からコンクリート製品の強度増進と生産性向上を目的として用いられてきた周知の成形方法であり、引用文献1の記載事項(キ)において課題とする「強度の向上」で共通するということができる。したがって、引用1発明の成形方法として「加圧成形」を採用することは、当業者であれば容易に想到し得る周知成形方法の採用にすぎないものである。
そして、本願明細書の記載を検討しても、本願発明により当業者が予測し得ない格別顕著な効果を奏することができたものとすることはできない。
したがって、本願発明は、引用文献1に記載された発明及び引用文献2に記載された技術事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

第6 本願補正発明の独立特許要件について
引用文献1には、記載事項(イ)に「ポゾラン質微粉末の配合量はセメント100重量部に対して5?50重量部が好ましい」こと、記載事項(ウ)に「細骨材の配合量は、・・・セメント100重量部に対して50?250重量部が好まし」いこと、記載事項(キ)に「石英粉末の配合量は、モルタルの流動性、硬化体の強度等から、セメント100重量部に対して50重量部以下が好ましく、20?35重量部がより好ましい」こと及び「繊維状粒子又は薄片状粒子の配合量は、モルタルの流動性、硬化体の強度や靱性等から、セメント100重量部に対して35重量部以下が好まし」いこと、記載事項(オ)に「水/セメント比は、・・・10?30重量%が好まし」いこと、記載事項(カ)に「金属繊維の配合量は、モルタルの体積の4.0%未満が好まし」いこと並びに記載事項(コ)に「成形後、20℃で48時間前置きし、90℃で48時間蒸気養生」することが記載されている。
これらを引用1発明に加えると「少なくとも、セメント、ポゾラン質微粉末、粒径2mm以下の細骨材、減水剤、水、収縮低減剤、金属繊維、平均粒径3?20μmの石英粉及び平均粒度1mm以下の繊維状粒子又は薄片状粒子を含み、
セメント100重量部に対して、ポゾラン質微粉末の配合量は5?50重量部、細骨材の配合量は50?250重量部、繊維状粒子又は薄片状粒子の配合量は35重量部以下、石英粉末の配合量は50重量部以下、水/セメント比は10?30重量%で、金属繊維の配合量は、モルタルの体積の4.0%未満であり、
成形後、90℃で蒸気養生する高強度モルタルを混練した高強度コンクリート製造方法。」の発明(以下、「引用1方法発明」という。)が記載されていると認められる。
本願補正発明と引用1方法発明を比較すると、上記相違点(a)に加えて以下の点で相違するものと認められる。
本願補正発明では、「促進剤」を含み「促進剤は、セメント100質量部に対して、酸化カルシウム換算で0.02?0.55質量部の硝酸カルシウムまたは亜硝酸カルシウムである」のに対して、引用1方法発明では、「促進剤」を特定事項としていない点(以下、「相違点(b)」という。)。
本願補正発明では、モルタル混練物が「0.25?1MPaの加圧量で加圧成形」されるのに対して、引用1方法発明では、「成形」されて用いられるものの加圧成形及び加圧量を特定事項としていない点(以下、「相違点(c)」という。)。
本願補正発明では、「50?70°Cの温度下で蒸気養生する」のに対して、引用1方法発明では、「90℃で蒸気養生する」点(以下、「相違点(d)」という。)。
相違点(b)について検討する。
「促進剤」については、平成24年2月24日付けの審尋において引用した参考文献A「笠井芳夫,小林正几、セメント・コンクリート用混和材料、第1版、技術書院、1986年5月15日、第333-337頁」に記載されるように、型枠の回転を早めるなどの目的で、当業者に周知であって、硝酸カルシウムや亜硝酸カルシウムは、促進剤として代表的なものである。引用文献1においても実施例において型枠を用い、生産性を向上することが一般的な技術的課題であることを考慮すれば、引用1方法発明に促進剤として硝酸カルシウムや亜硝酸カルシウムを採用し、その配合量を適宜設定することは、当業者であれば容易に想到し得るというべきである。
相違点(c)については、引用文献2にも「加圧力は,通常7?10kgf/cm^(2)程度である。」と記載され、この加圧力は0.686?0.98MPa程度と換算されることから、引用1方法発明に加圧成形を採用し、「0.25?1MPaの加圧量」と設定することも、当業者であれば適宜なし得るというべきである。
相違点(d)については、引用文献2の第361頁に「(6)加圧養生(high temperature curing)」の「図9.5 蒸気養生サイクルの一例」として最高温度が60?80℃であることが示されているように、本願補正発明において特定される温度は、蒸気養生の温度として通常採用される程度のものであり、引用1方法発明において「50?70°Cの温度下で蒸気養生する」と設定することも当業者であれば適宜なし得るというべきである。
そして、本願補正発明によって格別顕著な効果を奏するものとすることはできない。
したがって、本願補正発明は、引用文献1に記載された発明並びに引用文献2及び参考文献Aに記載された技術事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

第7 回答書の補正案について
請求人は、回答書を提出して「〔請求項1〕セメント、最大粒度2mm以下の骨材、1次粒子粒度1μm以下のポゾラン系反応粒子、平均粒度1mm以下の針状もしくは薄片状粒子、水、平均粒径3?20μmの石英粉末および金属繊維を含み、液状の減水剤の使用量が0?15kg/m^(3)であり、
水、液状の減水剤、金属繊維以外の材料の配合割合が、セメント100質量部に対して、骨材50?250質量部、ポゾラン系反応粒子5?50質量部、針状もしくは薄片状粒子4?25質量部、石英粉末20?35質量部であり、
水の配合量が、セメントとポゾラン系反応粒子と石英粉末の合計質量に対して8?24%であり、
金属繊維の配合量が4体積%以下であるモルタル混練物を0.25?1MPaの加圧量で加圧成形した状態で、50?70°Cの温度下で蒸気養生することを特徴とする繊維補強コンクリート成形体の製造方法。
〔請求項2〕モルタル混練物は促進剤を含むことを特徴とする請求項1記載の繊維補強コンクリート成形体の製造方法。」
と補正案を提示しているが、かかる補正案は、審判請求時に提出された補正書により補正された請求項1において促進剤を削除し、発明の範囲を拡張するものであり、「第6 本願補正発明の独立特許要件」で検討したように特許を受けることができないので、採用することはできない。

第8 むすび
以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、引用文献1に記載された発明及び引用文献2に記載された技術事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、その余の請求項に係る発明について論及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-09-24 
結審通知日 2012-09-25 
審決日 2012-10-09 
出願番号 特願2004-273238(P2004-273238)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C04B)
P 1 8・ 57- Z (C04B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 永田 史泰  
特許庁審判長 松本 貢
特許庁審判官 田中 則充
斉藤 信人
発明の名称 繊維補強コンクリート成形体の製造方法  
代理人 久門 享  
代理人 久門 享  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ