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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H01S
審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H01S
管理番号 1267303
審判番号 不服2011-21908  
総通号数 158 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-02-22 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-10-11 
確定日 2012-12-06 
事件の表示 特願2004-376315「窒化物半導体レーザ素子」拒絶査定不服審判事件〔平成18年 7月13日出願公開、特開2006-186025〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯・本願発明
本願は、平成16年12月27日の出願であって、平成22年10月1日に手続補正がなされ、平成23年7月7日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年10月11日付けで拒絶査定不服審判請求がなされ、その後、当審において、平成24年7月11日付けで拒絶理由が通知され、同年9月12日付けで手続補正がなされたものである。

そして、本願の請求項に係る発明は、平成24年9月12日付け手続補正による補正後の特許請求の範囲の請求項1ないし9に記載された以下の事項によって特定されるものと認められる。

「【請求項1】
窒化物半導体基板の主面上に第1導電型の窒化物半導体層と、5%を超えるInを含有する層を有する活性層と、第1導電型とは異なる導電型をした第2導電型の窒化物半導体層と、前記第2導電型の窒化物半導体層にストライプ状のリッジ部とを備えてなる窒化物半導体レーザ素子において、
前記窒化物半導体基板の主面のうち、少なくとも前記リッジの直下に位置する第1の領域は、基準結晶面に対して傾いたオフ面であり、かつ前記活性層は、Inを含む井戸層と複数の障壁層を含み、その複数の障壁層のうちの少なくとも1つは、GaNからなり、前記オフ面のオフ角が0.15°以上0.6°以下であることを特徴とする窒化物半導体レーザ素子。
【請求項2】
前記活性層において、前記Inを含む井戸層の上下の障壁層がGaNからなる請求項1に記載の窒化物半導体レーザ素子。
【請求項3】
前記活性層において、前記複数の障壁層が全てGaNからなる請求項1に記載の窒化物半導体レーザ素子。
【請求項4】
前記リッジの長手方向と、前記基準結晶面に対する前記オフ面の最大傾斜方向とが略平行である請求項1?3のうちのいずれか1つに記載の窒化物半導体レーザ素子。
【請求項5】
前記基準結晶面は、(0001)面、(11-20)面及び(1-100)面からなる群から選択された1つの結晶面である請求項1?4のうちのいずれか1つに記載の窒化物半導体レーザ素子。
【請求項6】
前記窒化物半導体基板の主面のうちの前記第1の領域を除く第2領域に、第1の領域のオフ面とは異なる結晶成長面を有する請求項1?5のうちのいずれか1つに記載の窒化物半導体レーザ素子。
【請求項7】
前記第1の領域のオフ面とは異なる結晶成長面は、(000-1)面から傾いた第2オフ面である請求項6に記載の窒化物半導体レーザ素子。
【請求項8】
前記第2オフ面は、互いに平行にストライプ状に形成されている請求項7に記載の窒化物半導体レーザ素子。
【請求項9】
前記レーザ素子の特性温度T_(0)が350以上である請求項1?8のうちのいずれか1つに記載の窒化物半導体レーザ素子。」(以下、請求項1に係る発明を「本願発明」という。)


第2 当審において通知した拒絶の理由
当審において平成24年7月11日付けで通知した拒絶の理由の概要は、次のとおりである。

「第1 進歩性(特許法第29条第2項)
この出願の請求項1?9に係る発明は、その出願前日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

記 (引用刊行物については引用刊行物一覧参照)

(1)請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)に対して
引用刊行物1?4
備考;
引用刊行物1には、
「(0001)面から任意の方向に0.4?0.8°の範囲の比較的小さいオフ角を有するn型GaN基板10上に、n型GaN層102、n型In_(0.07)Ga_(0.93)Nクラック防止層103、n型Al_(0.1)Ga_(0.9)Nクラッド層104、n型GaN光ガイド層105、In_(0.1)Ga_(0.9)N井戸層とIn_(0.01)Ga_(0.99)N障壁層から成る活性層106、p型Al_(0.2)Ga_(0.8)Nキャリアブロック層107、p型GaN光ガイド層108、p型Al_(0.1)Ga_(0.9)Nクラッド層109およびp型GaNコンタクト層を順次成長させ、レーザ光導波領域14であるリッジストライプ部を、p型クラッド層109の途中または下端までをストライプ状の部分を残してエッチングすることにより形成する、半導体レーザ素子。」
の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。
しかるところ、本願発明と引用発明とを対比すると、両者は、
「窒化物半導体基板の主面上に第1導電型の窒化物半導体層と、Inを含有する活性層と、第1導電型とは異なる導電型をした第2導電型の窒化物半導体層と、前記第2導電型の窒化物半導体層にストライプ状のリッジ部とを備えてなる窒化物半導体レーザ素子において、
前記窒化物半導体基板の主面のうち、少なくとも前記リッジの直下に位置する第1の領域は、基準結晶面に対して傾いたオフ面であり、かつ前記活性層は、Inを含む井戸層と複数の障壁層を含み、前記オフ面のオフ角が0.15°以上0.6°以下であることを特徴とする窒化物半導体レーザ素子。」
の点で一致し、以下の点において相違する。

・複数の障壁層のうちの少なくとも1つが、本願発明では、GaNからなるのに対し、引用発明では、InGaN(In_(0.01)Ga_(0.99)N)からなる点(以下「相違点」という。)

上記相違点につき検討するに、(0001)面からオフ角を有するGaN基板の上に、井戸層と障壁層とを有する活性層を設けた窒化物半導体レーザ素子において、該障壁層をGaNで構成するものは本願出願前に周知であるから(必要なら、引用刊行物2?4参照。)、引用発明において、「障壁層」をGaNからなるものとしてなして、上記相違点に係る本願発明の構成となすことは当業者が容易になし得ることである。
…略…

引 用 刊 行 物 一 覧
1 特開2004-146420号公報(特に、【0028】?【0082】、図1?3参照。)
2 特開2003-60318号公報(【0032】?【0039】、【0064】?【0071】、図2、図4参照。)
3 特開2002-314205号公報(【0039】?【0057】、図1参照。)
4 特開2002-16000号公報(【0046】?【0068】、図1、図3、図4参照。)


第2 記載不備(特許法第36条第4項第1号)
この出願は、発明の詳細な説明の記載が、下記の点で特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。



本願発明の「窒化物半導体レーザ素子」は、「(窒化物半導体基板主面の)オフ面のオフ角が0.15°以上0.6°以下である」ものであるところ、本願明細書には、当該「オフ角」を「0.15°以上0.6°以下」と規定したことに関し、以下の記載がある。

「【0021】
…略… 」
「【0028】
…略…」

本願明細書の上記記載によれば、本願発明において、「(窒化物半導体基板主面の)オフ面のオフ角」を「0.15°以上0.6°以下」と規定したことの技術上の意義は、「活性層におけるIn組成晶が5%を越える窒化物半導体層の組成分布を均一化する」点にあるものと認められる。
しかしながら、本願発明において、前記「オフ面のオフ角」を、具体的に「0.15°以上0.6°以下」と規定する根拠となった図6のグラフは、その前提となる具体的数値条件(例えば、オフ角の値、In組成晶の値、その他活性層を構成する井戸層及び障壁層の膜厚の値等)が全く明らかにされていないものであるから、当業者は、そのように、前提となる具体的数値条件が全く明らかにされていない図6のグラフを根拠に、何故「(窒化物半導体基板主面の)オフ面のオフ角」を「0.15°以上0.6°以下」と具体的に規定することができるのかを全く理解することができない。すなわち、当業者は、本願発明において、「(窒化物半導体基板主面の)オフ面のオフ角」の値を、具体的に「0.15°以上0.6°以下」と規定することの技術上の意義を全く理解することができない。
したがって、本願発明は、発明の技術上の意義が理解できないものであって、本願明細書の発明の詳細な説明は、本願発明の技術的意義を当業者が理解できる程度に記載したものということはできないから、特許法第36条第4項第1号の経済産業省令(特許法施行規則第24条の2)で定めるところにより記載されたものであるということはできない。」


第3 進歩性(特許法第29条第2項)について
1 引用刊行物の記載事項
本願の出願前に頒布された、当審における拒絶の理由に引用した刊行物である特開2004-146420号公報(以下「引用刊行物」という。)には、図とともに下記の事項が記載されている。

(1)「【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、窒化物半導体レーザ素子、その製造方法および窒化物半導体レーザ素子を光源として備える半導体光学装置に関し、特に、窒化物半導体を基板として用いる窒化物半導体レーザ素子に関する。」

(2)「【0028】
【発明の実施の形態】
<実施の形態1>
図1(a)は本発明における実施の形態1の半導体レーザ素子1を示す断面模式図であり、光出射方向から見た図である。また、図1(b)は半導体レーザ素子1を上面側から見た(上面図)模式図である。ここで、図1(a)は、図1(b)の点線での断面図である。図1(a)において、10はn型GaN基板であり、基板10中には、転位集中領域11が存在し、転位集中領域11以外の部分は低転位領域12となっている。

【0030】
基板10上には、窒化物半導体層(エピタキシャル成長層)13が形成されている。窒化物半導体層13中には、レーザ光導波領域14が設けられている。また、窒化物半導体層13上面および基板10下面には、電極15、16がそれぞれ形成されている。

【0034】
以下に、本実施の形態の半導体レーザ素子1の製造方法について解説しつつ、さらに詳しくその構造についても説明する。
【0035】
(GaN基板の作製方法)
まず、n型GaN基板10の結晶成長方法の概略を述べる。

【0042】
支持基体21上に、HVPE法により、n型GaN層22を、ファセット面{11-22}面23が成長中の表面に主として表出するように成長させる。

【0045】
支持基体21としては2インチ(111)GaAsウェハーを用いた。

【0048】
このような成長モードを保ったまま、さらにGaN結晶の形成を続けることで、基体21上に高さ30mmのインゴットを作製した。…
【0049】
このインゴットを、スライサーによりスライス切断加工して薄片(n型GaN基板)を得た。薄片を研磨加工して、表面が平坦な2インチ(約5cm)径、厚さ350μmのn型GaN基板10を得た。エピタキシャル成長を行うための表面は鏡面研磨仕上げとした。なお、この表面は、ほぼ(0001)面としたが、上にエピタキシャル成長される窒化物半導体13層のモフォロジーが平坦で良好になるためには、(0001)面から任意の方向に0.2?1°の範囲の、比較的小さいオフ角度を有していることが望ましく、特に表面の平坦性が最小になるようにするためには、0.4?0.8°の範囲とすることが好ましかった。

【0059】
(窒化物半導体層のエピタキシャル成長)
次に、n型GaN基板10上に窒化物半導体層13等を形成して半導体レーザ素子1を作製する方法について、図3を参照して解説する。
【0060】
MOCVD装置を用いて、V族原料のNH_(3)とIII族原料のTMGa(トリメチルガリウム)またはTEGa(トリエチルガリウム)に、ドーパント原料としてのSiH_(4)を加え、n型GaN基板10に、基板温度1050℃で、膜厚3μmのn型GaN層102を形成した。次いで、800℃の基板温度で、上記原料にIII族原料としてのTMIn(トリメチルインジウム)を加え、n型In_(0.07)Ga_(0.93)Nクラック防止層103を40nm成長させた。次に、基板温度を1050℃に上げ、TMAl(トリメチルアルミニウム)またはTEAl(トリエチルアルミニウム)のIII族原料も用いて、1.2μm厚のn型Al_(0.1)Ga_(0.9)Nクラッド層104を成長させた。n型不純物としてSiを5×10^(17)/cm^(3)?1×10^(19)/cm^(3)添加した。続いて、n型GaN光ガイド層105(Si不純物濃度1×10^(16)?1×10^(18)/cm^(3))を0.1μm成長させた。
【0061】
その後、基板温度を750℃に下げ、3周期の、厚さ4nmのIn_(0.1)Ga_(0.9)N井戸層と厚さ8nmのIn_(0.01)Ga_(0.99)N障壁層から成る活性層(多重量子井戸構造)106を、障壁層/井戸層/障壁層/井戸層/障壁層/井戸層/障壁層の順序で成長させた。その際、障壁層または障壁層と井戸層の両方にSiH_(4)(Si不純物濃度は1×10^(16)?1×10^(18)/cm^(3))を添加した。

【0063】
次に、基板温度を再び1050℃まで上昇させて、厚さ20nmのp型Al_(0.2)Ga_(0.8)Nキャリアブロック層107、0.1μmのp型GaN光ガイド層108、0.5μmのp型Al_(0.1)Ga_(0.9)Nクラッド層109、および0.1μmのp型GaNコンタクト層110を順次成長させた。

【0076】
続いて、窒化物半導体層13の各層がn型GaN基板10上に形成されたエピウェハーを、MOCVD装置から取り出して、窒化物半導体レーザ素子チップに加工するプロセス工程を説明する。
【0077】
(素子化プロセス)
レーザ光導波領域14であるリッジストライプ部を、n型GaN基板10に対して、図1を用いて説明した所要の位置に形成する。これは、エピウェハー表面側より、p型クラッド層109の途中または下端までを、ストライプ状の部分を残してエッチングすることにより行う。…その後、リッジストライプ部以外の部分に絶縁膜113を形成した。ここで、絶縁膜113としてはAlGaNを用いた。エッチングされずに残ったp型GaNコンタクト層110は露出しているので、この部分および絶縁膜113上に、p電極112をPd/Mo/Auの順序で蒸着して形成した。

【0079】
…n電極111は、基板の裏側にHf/Alの順序で形成した。…
【0080】
最後に、エピウェハーを、リッジストライプ方向に対して垂直方向に劈開し、共振器長600μmのファブリ・ペロー共振器を作製した。

【0082】
以上のようにして図1および図3に示す窒化物半導体レーザ素子1のチップを作製した。」

よって、これらの記載を総合すると、引用刊行物には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「表面が、(0001)面から任意の方向に0.2?1°の範囲の、比較的小さいオフ角度を有していることが望ましく、特に表面の平坦性が最小になるようにするためには、0.4?0.8°の範囲とすることが好ましいn型GaN基板10上に、
n型GaN層102を形成し、
次いで、n型In_(0.07)Ga_(0.93)Nクラック防止層103を成長させ、
次に、n型Al_(0.1)Ga_(0.9)Nクラッド層104を成長させ、
続いて、n型GaN光ガイド層105を成長させ、
その後、3周期の、厚さ4nmのIn_(0.1)Ga_(0.9)N井戸層と厚さ8nmのIn_(0.01)Ga_(0.99)N障壁層から成る活性層(多重量子井戸構造)106を、障壁層/井戸層/障壁層/井戸層/障壁層/井戸層/障壁層の順序で成長させ、
次に、p型Al_(0.2)Ga_(0.8)Nキャリアブロック層107、p型GaN光ガイド層108、p型Al_(0.1)Ga_(0.9)Nクラッド層109、およびp型GaNコンタクト層110を順次成長させ、
続いて、窒化物半導体層13の各層がn型GaN基板10上に形成されたエピウェハーを、MOCVD装置から取り出し、
エピウェハー表面側より、p型クラッド層109の途中または下端までを、ストライプ状の部分を残してエッチングすることにより、レーザ光導波領域14であるリッジストライプ部を、n型GaN基板10に対して所要の位置に形成し、
その後、リッジストライプ部以外の部分に絶縁膜113を形成し、
エッチングされずに残ったp型GaNコンタクト層110は露出しているので、この部分および絶縁膜113上に、p電極112をPd/Mo/Auの順序で蒸着して形成し、
n電極111は、基板の裏側にHf/Alの順序で形成し、
最後に、エピウェハーを、リッジストライプ方向に対して垂直方向に劈開して作製された、窒化物半導体レーザ素子1のチップ。」

2 対比
本願発明と引用発明を対比する。

(1)引用発明の「窒化物半導体レーザ素子1のチップ」は、「…n型GaN基板10上に、n型GaN層102を形成し、次いで、n型In_(0.07)Ga_(0.93)Nクラック防止層103を成長させ、次に、n型Al_(0.1)Ga_(0.9)Nクラッド層104を成長させ、続いて、n型GaN光ガイド層105を成長させ、その後、3周期の、厚さ4nmのIn_(0.1)Ga_(0.9)N井戸層と厚さ8nmのIn_(0.01)Ga_(0.99)N障壁層から成る活性層(多重量子井戸構造)106を、障壁層/井戸層/障壁層/井戸層/障壁層/井戸層/障壁層の順序で成長させ、次に、p型Al_(0.2)Ga_(0.8)Nキャリアブロック層107、p型GaN光ガイド層108、p型Al_(0.1)Ga_(0.9)Nクラッド層109、およびp型GaNコンタクト層110を順次成長させ、続いて、窒化物半導体層13の各層がn型GaN基板10上に形成されたエピウェハーを、MOCVD装置から取り出し、エピウェハー表面側より、p型クラッド層109の途中または下端までを、ストライプ状の部分を残してエッチングすることにより、レーザ光導波領域14であるリッジストライプ部を、n型GaN基板10に対して所要の位置に形成」するものであって、「活性層(多重量子井戸構造)106」は、「In_(0.1)Ga_(0.9)N井戸層」を有し、5%を超えるInを含有する層を有するものといえるから、
ア 引用発明の「n型GaN基板10」、「『n型GaN層102』、『n型In_(0.07)Ga_(0.93)Nクラック防止層103』、『n型Al_(0.1)Ga_(0.9)Nクラッド層104』及び『n型GaN光ガイド層105』」、「活性層(多重量子井戸構造)106」、「『p型Al_(0.2)Ga_(0.8)Nキャリアブロック層107』、『p型GaN光ガイド層108』、『p型Al_(0.1)Ga_(0.9)Nクラッド層109』及び『p型GaNコンタクト層110』」、「(エピウェハー表面側より、p型クラッド層109の途中または下端までを、ストライプ状の部分を残してエッチングすることにより形成され、レーザ光導波領域14である)リッジストライプ部」及び「窒化物半導体レーザ素子1のチップ」は、それぞれ、本願発明の「窒化物半導体基板」、「第1導電型の窒化物半導体層」、「(5%を超えるInを含有する層を有する)活性層」、「第1導電型とは異なる導電型をした第2導電型の窒化物半導体層」、「(前記第2導電型の窒化物半導体層のストライプ状の)リッジ(部)」及び「窒化物半導体レーザ素子」に相当し、
イ 引用発明は、本願発明の「窒化物半導体基板の主面上に第1導電型の窒化物半導体層と、5%を超えるInを含有する層を有する活性層と、第1導電型とは異なる導電型をした第2導電型の窒化物半導体層と、前記第2導電型の窒化物半導体層にストライプ状のリッジ部とを備えてなる」との事項を備える。

(2)引用発明は、「表面が、(0001)面から任意の方向に0.2?1°の範囲の、比較的小さいオフ角度を有していることが望ましく、特に表面の平坦性が最小になるようにするためには、0.4?0.8°の範囲とすることが好ましいn型GaN基板10上に、n型GaN層102…、n型In_(0.07)Ga_(0.93)Nクラック防止層103…、n型Al_(0.1)Ga_(0.9)Nクラッド層104…、n型GaN光ガイド層105を成長させ、その後、…活性層(多重量子井戸構造)106を…成長させ、次に、p型Al_(0.2)Ga_(0.8)Nキャリアブロック層107、p型GaN光ガイド層108、p型Al_(0.1)Ga_(0.9)Nクラッド層109、およびp型GaNコンタクト層110を順次成長させ、続いて、…エピウェハー表面側より、p型クラッド層109の途中または下端までを、ストライプ状の部分を残してエッチングすることにより、レーザ光導波領域14であるリッジストライプ部を、n型GaN基板10に対して所要の位置に形成」するものであり、「n型GaN基板10」の表面は、(0001)面から任意の方向に0.4?0.8°の範囲の「オフ角度」を有しているものであるから、
ア 引用発明は、本願発明の「前記窒化物半導体基板の主面のうち、少なくとも前記リッジの直下に位置する第1の領域は、基準結晶面に対して傾いたオフ面であり」との事項を備え、
イ 引用発明の「『(n型GaN基板10』の表面が(0001)面から任意の方向に0.4?0.8°の範囲の『オフ角度』を有し」との事項は、オフ面のオフ角が0.4?0.6°である部分において、本願発明の「オフ面のオフ角が0.15°以上0.6°以下である」との事項と一致する。

(3)引用発明は、「3周期の、厚さ4nmのIn_(0.1)Ga_(0.9)N井戸層と厚さ8nmのIn_(0.01)Ga_(0.99)N障壁層から成る活性層(多重量子井戸構造)106を、障壁層/井戸層/障壁層/井戸層/障壁層/井戸層/障壁層の順序で成長させ」るものであるから、
ア 引用発明の「In_(0.1)Ga_(0.9)N井戸層」及び「(3周期の)In_(0.01)Ga_(0.99)N障壁層」は、それぞれ、本願発明1の「Inを含む井戸層」及び「(複数の)障壁層」に相当し、
イ 引用発明は、本願発明の「前記活性層は、Inを含む井戸層と複数の障壁層を含み」との事項を備える。

したがって、両者は、
「窒化物半導体基板の主面上に第1導電型の窒化物半導体層と、5%を超えるInを含有する層を有する活性層と、第1導電型とは異なる導電型をした第2導電型の窒化物半導体層と、前記第2導電型の窒化物半導体層にストライプ状のリッジ部とを備えてなる窒化物半導体レーザ素子において、
前記窒化物半導体基板の主面のうち、少なくとも前記リッジの直下に位置する第1の領域は、基準結晶面に対して傾いたオフ面であり、かつ前記活性層は、Inを含む井戸層と複数の障壁層を含み、前記オフ面のオフ角が0.15°以上0.6°以下である窒化物半導体レーザ素子。」
である点で一致し、次の点で相違する。

本願発明は、活性層の複数の障壁層のうちの少なくとも1つが、GaNからなるのに対し、引用発明は、複数の障壁層のいずれもが、In_(0.01)Ga_(0.99)Nからなり、GaNではない点(以下「相違点」という。)。

4 当審の判断
上記相違点につき検討する。

(0001)面からオフ角を有するGaN基板上に、井戸層と障壁層とを含む活性層を設けた窒化物半導体レーザ素子において、該障壁層をGaNで構成するものは本願出願時点で周知であるから(例えば、特開2002-16000号公報(【0046】?【0069】、図1、図2、図4参照。)、特開2001-176823号公報(【0025】?【0030】、図1参照。)、特開2003-60318号公報(【0035】、図2参照。))、引用発明において、当該周知技術を適用し、その「(In_(0.01)Ga_(0.99)Nからなる)障壁層」を「GaN」で構成して、上記相違点に係る本願発明の構成となすことは、当業者が容易になし得ることである。

なお、請求人は、平成24年9月12日付け意見書(4.(1))において、「引用発明の障壁層をGaNにすることが当業者であれば容易に想到し得たというためには、刊行物1(審決注:「引用刊行物」)において、障壁層をGaNにする動機付けとなり得る記載や示唆が必要であ」る旨主張するが、引用刊行物自体に障壁層をGaNにする動機付けとなり得る記載や示唆がなくても、上述のとおり、(0001)面からオフ角を有するGaN基板上に、井戸層と障壁層とを含む活性層を設けた窒化物半導体レーザ素子において、該障壁層をGaNで構成するものは本願出願時点で周知であったのであるから、引用発明に当該周知技術を適用すること自体が、当業者にとって格別困難なことであったとは認められない。

したがって、本願発明は、引用刊行物に記載された発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

5 小括
以上のとおり、本願発明は、引用刊行物に記載された発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。


第4 記載不備(特許法第36条第4項第1号)について
1 本願明細書の記載
当審において平成24年7月11日付けで通知した拒絶の理由(上記第2参照。)において、記載不備に関して指摘した事項につき、本願明細書及び図面(以下「本願明細書等」という。)には、以下の記載がある。

(1)「【0020】
本発明の窒化物半導体レーザ素子において、前記窒化物半導体基板の主面におけるオフ角は、0.10°以上0.7°以下であることが好ましい。この範囲でオフ角であると、波長が365nm以下の紫外領域から500nm以上の長波長領域に至る範囲で素子特性を向上させることができる。
【0021】
また、前記オフ角を0.15°以上0.6°以下とすれば、活性層におけるIn組成晶が5%を越える窒化物半導体層の組成分布を均一化することができる。マイクロPLでリッジ、又はチップ内を観察したときに、上記に示す範囲でオフ角を有する窒化物半導体基板上に成長させた窒化物半導体層内の活性層のIn組成のゆらぎは抑制されている(図6)。又、オフ角を有さない窒化物半導体基板上に成長させた窒化物半導体層内の活性層のInの組成ゆらぎは大きい(図7)。これは、リッジのストライプ方向に対して垂直方向に活性層の平面領域である100μm?400μmを測定したものである。」

(2)「【0028】
さらに、窒化物半導体基板では、その製造方法に起因して、所定の幅のオフ面が第1の主面に互いに平行に形成されているものもあるが、そのような基板を用いる場合、窒化物半導体基板の第1の主面のうち、少なくともリッジの直下に位置する第1の領域が基準結晶面に対して傾いたオフ面となっていればよい。この構成では、リッジの長手方向をオフ面の長手方向と一致させ、基準結晶面に対するオフ面の最大傾斜方向とがリッジが形成される方向を略一致させることが好ましい。また、オフ面の基準結晶面に対するオフ角は、0.02°以上5°以下、好ましくは0.1°以上0.7°以下、更に好ましくは0.15°以上0.6°以下である。」

(3)「【0100】

【図6】実施の形態1の窒化物半導体レーザ素子のマイクロPL測定データである。
【図7】従来の窒化物半導体レーザ素子のマイクロPL測定データである。
…」

2 当審の判断
上記1(1)?(3)によれば、本願発明において、「(窒化物半導体基板の主面の)オフ面のオフ角」を「0.15°以上0.6°以下」と規定したことの技術上の意義は、「活性層におけるIn組成晶が5%を越える窒化物半導体層の組成分布を均一化する」点にあるものと認められる。
しかしながら、本願明細書等には、本願発明において、前記「オフ面のオフ角」の値を、「0.15°以上0.6°以下」との具体的数値範囲で規定することができた根拠については、何ら説明がされてはおらず、当業者は、本願明細書等を見ても、本願発明において、「(窒化物半導体基板主面の)オフ面のオフ角」の値を、何故、「0.15°以上0.6°以下」との具体的数値範囲で規定することができたのかを全く理解することができない。すなわち、本願発明は、前記「オフ面のオフ角」の値を、「0.15°以上0.6°以下」との具体的数値範囲で規定することの技術上の意義が全く理解できないものである。
また、本願明細書等には、図6に、「活性層のIn組成のゆらぎ」が「抑制され」た、本願発明の一例として、「マイクロPL測定データ」が示されてはいるが、当該「測定データ」は、その前提となる具体的数値条件(例えば、オフ角の値、In組成晶の値、その他活性層を構成する井戸層及び障壁層の膜厚の値等)が全く明らかにされていないものであるから、当業者は、そのような具体的数値条件が全く明らかにされていない図6の「測定データ」を見ても、何故「(窒化物半導体基板主面の)オフ面のオフ角」の値を、「0.15°以上0.6°以下」との具体的数値範囲に規定することができるのかを全く理解することができない。
よって、本願発明は、発明の技術上の意義が理解できないものであって、本願明細書の発明の詳細な説明は、本願発明の技術的意義を当業者が理解できる程度に記載したものということはできないから、特許法第36条第4項第1号の経済産業省令(特許法施行規則第24条の2)で定めるところにより記載されたものであるということはできない。

3 小括
以上のとおり、本願明細書の発明の詳細な説明は、本願発明の技術的意義を当業者が理解できる程度に記載したものということはできないから、特許法第36条第4項第1号の経済産業省令(特許法施行規則第24条の2)で定めるところにより記載されたものであるということはできない。


第5 むすび
上記第3及び第4のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、また、本願明細書の発明の詳細な説明は、特許法第36条第4項第1項に規定する要件を満たしていないものである。


よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-10-03 
結審通知日 2012-10-09 
審決日 2012-10-22 
出願番号 特願2004-376315(P2004-376315)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (H01S)
P 1 8・ 536- WZ (H01S)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 道祖土 新吾  
特許庁審判長 吉野 公夫
特許庁審判官 松川 直樹
小松 徹三
発明の名称 窒化物半導体レーザ素子  
代理人 言上 惠一  
代理人 鮫島 睦  
代理人 田村 恭生  

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