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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 C08L
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C08L
管理番号 1267617
審判番号 不服2011-493  
総通号数 158 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-02-22 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-01-11 
確定日 2012-12-20 
事件の表示 特願2004-227595「導電性樹脂組成物」拒絶査定不服審判事件〔平成18年 2月16日出願公開、特開2006- 45330〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 主な手続の経緯
本願は,平成16年8月4日を出願日とする特許出願であって,平成21年10月20日付けで拒絶理由が通知され,同年12月22日に意見書が提出されるとともに特許請求の範囲及び明細書が補正され,平成22年10月6日付けで拒絶査定がされたところ,これに対して,平成23年1月11日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に特許請求の範囲及び明細書が補正されたので(なお,同年2月21日に請求の理由について審判請求書が補正された。),特許法162条所定の審査がされた結果,同年3月29日付けで同法164条3項の規定による報告(前置報告)がされ,平成24年6月5日付けで同法134条4項の規定による審尋がされ,同年7月24日に回答書が提出されたものである。

第2 補正の却下の決定

[結論]
平成23年1月11日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1 平成23年1月11日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)の内容
本件補正は特許請求の範囲を変更する補正を含むものであるところ,本件補正の前後における特許請求の範囲の請求項1の記載は,それぞれ以下のとおりである。
・ 本件補正前(平成21年12月22日付け手続補正書)
「【請求項1】 (A)熱可塑性樹脂100質量部,(B)炭素繊維1?20質量部,及び(C)金属繊維1?20質量部を含有する導電性樹脂組成物であって,
(B)成分の炭素繊維及び(C)成分の金属繊維が,繊維が同じ方向に束ねられた繊維束に樹脂を含浸させて一体化させた樹脂含浸繊維束からなるマスターペレットである,導電性樹脂組成物。」
・ 本件補正後
「【請求項1】 (A)熱可塑性樹脂100質量部,(B)炭素繊維5?15質量部,及び(C)金属繊維6×0.89?10質量部を含有する導電性樹脂組成物であって,
(B)成分の炭素繊維が,繊維が同じ方向に束ねられた繊維束に樹脂を含浸させて一体化させた樹脂含浸繊維束からなるマスターペレットで,前記マスターペレット中の炭素繊維含有量が95?99質量%であるものであり,
(C)成分の金属繊維が,繊維が同じ方向に束ねられた繊維束に樹脂を含浸させて一体化させた樹脂含浸繊維束からなるマスターペレットで,前記マスターペレット中の金属繊維含有量が30?60質量%であるものである,導電性樹脂組成物。」

2 本件補正の目的
(1) 本件補正は,補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である炭素繊維((B)成分)及び金属繊維((C)成分)の組成物中の含有量について,補正前にそれぞれ「1?20質量部」,「1?20質量部」であったものを「5?15質量部」,「6×0.89?10質量部」と減縮し,さらに補正前に特定のなかったマスターペレット中の含有量について,それぞれ「95?99質量%」,「30?60質量%」と特定する補正事項を含むものである(しかも,補正の前後で,請求項1に記載の発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題は変わらない。)。
よって,本件補正は,少なくとも請求項1についてする補正については,平成18年法律第55号改正前の特許法17条の2第4項2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
(2)ア ところで,請求人は,本件補正後の金属繊維((C)成分)の組成物中の含有量について,その下限値(重量部)は「6×0.89(=5.34)」ではなく「6/0.89(≒6.74)」の誤記であること,すなわち,当該下限値は「6/0.89」として解すべき旨主張するので(審判請求書(請求の理由の補正に係る手続補正書)の2頁),以下,この点に関する補正について考察する。
イ 本願の出願当初明細書の【0032】には,金属繊維の組成物中の含有量について,「1?20質量部」との開示がある。そうすると,この範囲で単に数値を限定すること,例えば「6×0.89(=5.34)?10質量部」と補正することは,その数値範囲の上限値あるいは下限値における臨界的意義を新たに追加する補正を伴うものであれば格別,出願当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において,新たな技術的事項を導入するものであるとまではいえない。本件補正は,特許法17条の2第3項の規定に違反しない。
このことは,仮に本件補正が「6/0.89(≒6.74)?10質量部」と補正するものであったとしても,同様である。
ウ しかし,本件補正の「6×0.89」は「6/0.89」の誤記であるとの請求人の主張は根拠がなく,採用できない。すなわち,請求人の主張は,本願明細書の実施例(【表1】)における金属繊維マスターペレット(SUS)に含まれる樹脂分を加味することで「6/0.89」の値が導き出せるというものであるが,この主張は,炭素繊維マスターペレット(CF1?CF3)に含まれる樹脂分をまったく無視している。各実施例における炭素繊維マスターペレット(CF1?CF3)の質量%表示とCF重量濃度%表示とが同じであり,また,炭素繊維マスターペレットは炭素繊維含有量が95?99質量%であるので樹脂分が少ないといえるからといって(回答書3頁),当該樹脂分を無視したものを誤記の根拠とすることはできない。

3 独立特許要件違反の有無について
上記2のとおりであるから,本件補正後の請求項1に記載された発明(以下「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか,要するに,本件補正が特許法17条の2第5項で準用する同法126条5項の規定に適合するものであるか,いわゆる独立特許要件違反の有無について検討するところ,本件補正は当該要件に違反すると判断される。
すなわち,本願補正発明は,下記引用文献2に記載された発明(以下「引用発明2」という。)及び本願の出願時に周知の技術事項(例えば,下記引用文献3又は5に開示の技術事項)に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
・ 引用文献2: 特開昭62-13444号公報
・ 引用文献3: 特開平10-237313号公報
・ 引用文献5: 特開2004-14990号公報
以下,特許を受けることができない理由を,下記5において詳述する。
なお,引用文献2及び3は,拒絶理由を通知するにあたり請求人に提示された刊行物であり,引用文献5は,拒絶査定の備考欄に記載された刊行物であって,本願の明細書の【0037】に記載された刊行物でもある。

4 本願補正発明
本願補正発明は,本件補正により補正された明細書及び特許請求の範囲の記載からみて,その特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される以下のとおりのものであると認める。(なお,発明の要旨の認定は,特許請求の範囲の記載などによるべきであって,特段の事情のない限り,当事者の主張により左右されるものではないことを付言する。さすれば,本件において,請求人は上記2(2)アのとおり主張するところではあるが,本件補正が新規事項を追加するものでないことなど(上記2(2)イ,ウ)を踏まえれば,本願補正発明の要旨の認定は,本願の特許請求の範囲の記載によるべきである。)
「(A)熱可塑性樹脂100質量部,(B)炭素繊維5?15質量部,及び(C)金属繊維6×0.89?10質量部を含有する導電性樹脂組成物であって,
(B)成分の炭素繊維が,繊維が同じ方向に束ねられた繊維束に樹脂を含浸させて一体化させた樹脂含浸繊維束からなるマスターペレットで,前記マスターペレット中の炭素繊維含有量が95?99質量%であるものであり,
(C)成分の金属繊維が,繊維が同じ方向に束ねられた繊維束に樹脂を含浸させて一体化させた樹脂含浸繊維束からなるマスターペレットで,前記マスターペレット中の金属繊維含有量が30?60質量%であるものである,導電性樹脂組成物。」

5 本願補正発明が特許を受けることができない理由
(1) 引用発明2
ア 引用文献2には,次の記載がある。(なお,下線は当審で付した。以下同じ。)
「合成樹脂に金属繊維とカーボン繊維を含有させ,さらに必要に応じてカーボンブラックおよびグラファイトのうちいずれか一方,または両方を含有させてなり,これにより成形加工後,成形物の表面に良好な表面通電性を付与することを特徴とする電磁波シールド成形材料として使用される導電性樹脂組成物。」(特許請求の範囲)
「〔産業上の利用分野〕
この発明はケーブルコネクタ等の電磁波シールド成形材料として使用される導電性樹脂組成物に係り,特に,成形加工後,成形物の表面に良好な表面通電性を付与する導電性樹脂組成物に関する。
〔従来技術とその問題点〕
最近のOA化あるいはFA化の進歩に伴い,コンピュータ,ワードプロセッサ等を初めとするデジタル機器が広く行き渡るようになってきた。この傾向の中でこれら機器内部より発生する高周波ノイズが問題となり,機器の筐体あるいはケーブルコネクタに電磁波障害(EMI)の対策がとられるようになってきた。」(1頁左欄下から6行?同右欄7行)
「〔発明の目的〕
本発明の目的はケーブルコネクタ等の電磁波シールド成形材料として使用される導電性樹脂組成物を提供することにあり,特に成形加工後,成形物の表面に良好な表面通電性を付与し,前述の公知技術に存する欠点を改良した導電性樹脂組成物を提供することにある。」(2頁右上欄2?8行)
「本発明にかかる前述合成樹脂としては耐熱温度の高いポリブチレンテレフタレート,ナイロン-6,ナイロン6.6,ナイロン12,ポリカーボネート,等のエンジニアリングプラスチックならばいずれでも良く,特に耐薬品性,強度,熱変形温度のバランスのとれたポリブチレンテレフタレートならびにナイロン6.6が好ましい。
また,金属繊維としてはびびり振動切削法によって得られるアルミニウム,鋳鉄,鋼,ステンレス,黄銅等の繊維,あるいは引き抜き法によって得られるステンレスファイバー(SUS3161,SUS304)等であればいずれでも良い。繊維径は6μm乃至70μmのものが使用できるが,好ましくは8μm乃至50μmの範囲である。また,繊維長は0.8mm乃至9.0mmのものが利用できるが,好ましくは1.0乃至6.0mmの範囲である。
前記金属繊維の添加量はびびり振動切削法で得られたものについては,20乃至60重量%であるが,好ましくは25乃至45重量%の範囲である。引き抜き法で得られたステンレスファイバーについては5乃至30重量%であるが,好ましくは5乃至15重重%の範囲である。
さらに,カーボン繊維としてはパン糸及びピッチ糸のいずれでもよく,また性状は結束状あるいは非結束のいずれでもよい。この繊維径は5μm乃至30μmのものが適応されるが,好ましくは5乃至15μmの範囲である。繊維長は0.2mm乃至9.0mmの範囲であるが非結束の場合0.2乃至1.5mm,結束の場合は3乃至9.0mmが好ましい。
なお,ピッチ糸については,紡糸後,2000℃程度で焼成されファイバー表面が黒鉛質化されたものが好ましい。この添加量は5乃至20重量%であり,好ましくは5乃至15重量%である。」(2頁右上欄下から4行?同右下欄9行)
イ 上記アのとおり,引用文献2には,導電性樹脂組成物について,金属繊維及びカーボン繊維は必須の成分であるが,カーボンブラック及びグラファイトはいずれも必要に応じて含有されるものであること(特許請求の範囲),金属繊維及びカーボン繊維の添加量についての記載があること(2頁)などを総合すると,次のとおりの引用発明2が記載されていると認める。
「合成樹脂に,カーボン繊維を5?20重量%,引き抜き法で得られたステンレスファイバーである金属繊維を5?30重量%の範囲で含有させてなる電磁波シールド成形材料として使用される導電性樹脂組成物」

(2) 対比
ア 本願補正発明と引用発明2を対比すると,引用発明2の「合成樹脂」は,その例としてポリブチレンテレフタレートといった熱可塑性樹脂が用いられているから(上記(1)ア参照),本願補正発明の「熱可塑性樹脂」に相当し,また,「カーボン繊維」は「炭素繊維」に,「引き抜き法で得られたステンレスファイバーである金属繊維」は「金属繊維」にそれぞれ相当する。
イ したがって,本願補正発明と引用発明2とが一致する点(一致点),相違する点(相違点1?2)は,それぞれ次のとおりである。
・ 一致点
熱可塑性樹脂に炭素繊維及び金属繊維を含有する導電性樹脂組成物
・ 相違点1
導電性樹脂組成物中の炭素繊維ならびに金属繊維の含有量について,本願補正発明は熱可塑性樹脂100質量部に対して炭素繊維5?15質量部,金属繊維6×0.89?10質量部と特定するのに対し,引用発明2は導電性樹脂組成物を構成する重量%として炭素繊維5?20重量%,金属繊維5?30重量%と特定する点
・ 相違点2
本願補正発明は,炭素繊維について「繊維が同じ方向に束ねられた繊維束に樹脂を含浸させて一体化させた樹脂含浸繊維束からなるマスターペレットで,前記マスターペレット中の炭素繊維含有量が95?99質量%であるもの」と特定し,金属繊維について「繊維が同じ方向に束ねられた繊維束に樹脂を含浸させて一体化させた樹脂含浸繊維束からなるマスターペレットで,前記マスターペレット中の金属繊維含有量が30?60質量%であるもの」と特定するのに対し,引用発明2はそのような特定がない点

(3) 相違点についての判断
ア 相違点1について
(ア) 引用発明2の組成物は,熱可塑性樹脂に炭素繊維と金属繊維を含有させることで,成形加工後においても,その成形体が導電性を有し電磁波シールド性を発揮するものであるところ,そのような課題の解決を損なわない範囲で炭素繊維と金属繊維の含有量を変更することは,当業者が適宜なし得る設計事項にすぎない。引用発明2は,炭素繊維と金属繊維の含有量を,導電性樹脂組成物を構成する重量%として特定するものであるが,その含有量の特定を,熱可塑性樹脂100重量部に対する重量部として特定し,相違点1に係る構成の数値範囲内のものとすることは,当業者であれば想到容易である。
このことは,仮に本願補正発明が,熱可塑性樹脂100重量部に対する金属繊維の含有量について,「6/0.89?10質量部」と認定されるべきであったとしても,同様である。すなわち,上記含有量について,本願補正発明が「6×0.89?10質量部」と認定されるか「6/0.89?10質量部」と認定されるかは,結論を何ら左右しない。
(イ)a 請求人は,本願明細書の実施例と比較例の対比(表1)に係る記載を踏まえ,実施例4(参考例)は金属繊維の含有量が少ないから(審決注: 請求人が審判請求書の2頁で説明する計算式に沿えば,実施例4における金属繊維2質量%は,熱可塑性樹脂100重量部(55+35+3=93質量%)に対し,2.15重量部(=2/0.93)となる。),電磁波シールド性が低い旨主張する(審判請求書3頁)。
しかし,請求人の上記主張は,採用できない。すなわち,本願明細書の実施例6(参考例)は,その金属繊維の含有量が実施例4とほぼ同じであるにもかかわらず(審決注: 上記と同様の計算から,実施例6における金属繊維2質量%は2.56重量部(=2/0.78)となる。),所望の電磁波シールド性を奏している。このことからすれば,金属繊維の含有量が本願補正発明の範囲よりも低いことのみをもって,所期の効果を達成できないということはできない(金属繊維の含有量が2質量%のときには,炭素繊維の含有量が5?15質量部のいずれであっても,所期の効果を達成できないとする根拠はない。)。
しかも,上記(ア)で述べたように,当業者であれば,引用発明2において,電磁波シールド性を発揮しない程度にまで金属繊維の含有量を低くしないようにすることは,技術常識である。
b また,請求人は,実施例5?7(参考例)に基づき,高価な材料である炭素繊維や金属繊維の含有量を多くすると,質量が増加し,製造コストが増加する旨主張する(同3頁)。
しかし,上記主張も採用できない。すなわち,高価な材料の添加量を抑えて製造コストを低くすることは,当業者に自明の課題である。
c さらに,請求人は,引用文献2の表-1の記載に基づき,引用文献2の実施例における金属繊維と炭素繊維の含有量は,本願補正発明に比べて多い旨主張する(同10?11頁)。
しかし,特許公開公報である引用文献2に記載の技術事項(発明)の認定は,例えば実施例の記載にのみ限定してされるべきものではない。請求人の上記主張は,失当である。そして,引用文献2に記載された発明は,上記(1)イで認定のとおりである。

イ 相違点2について
(ア) 電磁波シールド成形材料として使用される導電性樹脂組成物において,当該組成物に含有させる炭素繊維ないしは金属繊維として,繊維が同じ方向に束ねられた繊維束に樹脂を含浸させて一体化させた樹脂含浸繊維束からなるマスターペレットを用いることは,本願の出願時において普通に行われていた当業者に周知の技術事項である。このことは,例えば,本願の出願前に頒布された刊行物である引用文献3(【請求項1】,【請求項7】,【0014】?【0016】参照。特に,【0016】には,「マスターペレットの断面形状は特に限定されないが,分散性の観点から熱可塑性樹脂が金属繊維間に入り込み存在するものがより好ましい」との記載がある。),引用文献5(【請求項1】,【0033】?【0035】,【0046】参照。)の記載からも明らかである。
そうすると,引用発明2は,電磁波シールド成形材料として使用される導電性樹脂組成物であるところ,そこに含有させる炭素繊維ないしは金属繊維として,本願の出願時に周知であった上記技術事項を適用することは,当業者であれば想到容易である。本願補正発明の相違点2に係る「繊維が同じ方向に束ねられた繊維束に樹脂を含浸させて一体化させた樹脂含浸繊維束からなるマスターペレット」との構成は,引用発明2の炭素繊維及び金属繊維について,本願の出願時に周知であった形態を単に採用したにすぎない。
そして,上記周知技術の適用にあたり,マスターペレット中の炭素繊維含有量を95?99質量%,金属繊維含有量を30?60質量%とする程度のことは,当業者が適宜なし得る設計事項であるといわざるを得ない。
(イ)a 請求人は,炭素繊維及び金属繊維として樹脂含浸繊維束を使用することにより,熱可塑性樹脂に対する分散性が良くなるといった本願補正発明の有利な効果を主張する(意見書2頁。当該主張は,本件補正前の請求項1に係る発明についてのものであるが,本願補正発明についても援用して主張するものと解する。)。
しかし,請求人の上記主張は採用の限りでない。すなわち,本願補正発明が相違点2に係る構成を有することの技術的意義について,本願の明細書には何ら記載がなく,せいぜい【0037】,【0040】にその構成が開示されているにとどまる。請求人の主張には,根拠がない。
また仮に,本願補正発明が請求人の主張するような有利な効果を発揮するものであるとしても,樹脂含浸繊維束を使用することによって熱可塑性樹脂に対する分散性が向上することは,引用文献3の【0016】に記載されているように本願の出願時に当業者に知られていた技術事項であるから,本願補正発明のそのような効果は,当業者が予測しうる程度のものであって何ら格別でない。
b また,請求人は,引用文献3には,樹脂含浸繊維束を得ることは記載されておらず,仮留め状態の繊維束を樹脂で被覆して一体化することが記載されているにすぎないと主張する(審判請求書7頁)。
しかし,請求人の上記主張は,引用文献3の【0016】の記載を無視するものであって,全くの失当である。

6 まとめ
以上のとおりであるから,本件補正は,平成18年法律55号改正附則3条1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法17条の2第5項において準用する同法126条5項の規定に違反するので,同法159条1項において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下すべきものである。
よって,結論のとおり決定する。

第3 本願発明について
1 本願発明
上記第2のとおり,本件補正は却下されたので,本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は,平成21年12月22日に補正された明細書及び特許請求の範囲の記載からみて,その特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「(A)熱可塑性樹脂100質量部,(B)炭素繊維1?20質量部,及び(C)金属繊維1?20質量部を含有する導電性樹脂組成物であって,
(B)成分の炭素繊維及び(C)成分の金属繊維が,繊維が同じ方向に束ねられた繊維束に樹脂を含浸させて一体化させた樹脂含浸繊維束からなるマスターペレットである,導電性樹脂組成物。」

2 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は,要するに,本願発明は,引用文献2に記載された発明(引用発明2)に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない,というものである。(なお,原査定の拒絶の理由は,上述のほか,本願発明は特開2000-290514号公報に記載された発明に対していわゆる進歩性を有しないといった理由も含み,請求人には,拒絶査定時において,拒絶の理由とともに,本願発明は引用発明2及び引用文献5に記載の技術事項から想到容易である旨の審査官の見解が併せて示されている。)

3 引用発明2
引用発明2は上記第2_5(1)イにおいて認定のとおりである。

4 対比・判断
本願発明は,本願補正発明との比較において,炭素繊維及び金属繊維の組成物中の含有量について,それぞれ「5?15質量部」,「6×0.89?10質量部」であった本願補正発明の範囲をすべて含む「1?20質量部」の範囲をその特定事項とするものであり,また,マスターペレット中の含有量については,特定事項を有しないものである(上記第2_1参照)。
そうすると,本願発明の特定事項をすべて含む本願補正発明が,上述のとおり,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものである以上,本願発明も,同様の理由により,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものであるといえる。

第4 むすび
以上のとおり,原査定の拒絶の理由は妥当なものであるから,本願の他の請求項に係る発明について検討するまでもなく,本願は拒絶すべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-10-18 
結審通知日 2012-10-23 
審決日 2012-11-05 
出願番号 特願2004-227595(P2004-227595)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C08L)
P 1 8・ 575- Z (C08L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 阪野 誠司  
特許庁審判長 蔵野 雅昭
特許庁審判官 近藤 政克
須藤 康洋
発明の名称 導電性樹脂組成物  
代理人 溝部 孝彦  
代理人 義経 和昌  
代理人 持田 信二  
代理人 古谷 聡  

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