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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性  E04F
管理番号 1267701
審判番号 無効2011-800114  
総通号数 158 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-02-22 
種別 無効の審決 
審判請求日 2011-06-30 
確定日 2012-12-21 
事件の表示 上記当事者間の特許第3834792号発明「着色漆喰組成物の着色安定化方法」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯

本件特許第3834792号(請求項の数[2]、以下、「本件特許」という。)は、平成14年9月11日(優先権主張平成13年9月11日、平成14年2月14日)に特許出願された特願2002-266067号に係るものであって、その請求項1、2に係る発明について、平成18年8月4日に特許の設定登録がなされた。
その後、平成21年9月3日に本件特許に対して、無効審判〔無効2009-800191号〕の請求がされ、平成21年11月27日に請求人より訂正請求書により明細書の訂正が請求され、平成22年4月21日「訂正を認める。本件審判の請求は、成り立たない。」との審決がなされたところ、平成22年5月28日に知的財産高等裁判所に審決取消訴訟が出訴され、請求棄却の判決(平成22年(行ケ)第10173号、平成23年1月11日判決言渡)があった。

これに対して、平成23年6月30日に、本件特許の請求項1、2に係る発明の特許に対して、本件無効審判請求人(以下「請求人」という。)により本件無効審判〔無効2011-800114号〕が請求されたものであり、本件無効審判被請求人(以下「被請求人」という。)により指定期間内の平成23年10月4日付けで審判事件答弁書が提出されたものである。

また、平成23年12月12日に請求人より口頭審理陳述要領書が提出され、同年12月14日に請求人より上申書が提出され、同年12月19日に被請求人より口頭審理陳述要領書が提出され、同年12月26日に請求人より上申書が提出され、平成24年1月10日に被請求人より上申書が提出され、同年1月10日に口頭審理が行われたものである。


第2 本件に係る発明
本件特許の請求項1、2に係る発明は平成21年11月27日に請求された訂正請求により訂正された明細書の特許請求の範囲の請求項1、2に記載された事項により特定される以下のとおりのものと認める。(A.?E.の文字は当審で付与。)

1.「【請求項1】
A.石灰を含有する白色成分、無機の着色顔料、結合剤及び水を含有する着色漆喰組成物の着色安定化方法であって、
B.当該着色漆喰組成物が水酸基を有するノニオン系の親水性高分子化合物を含有し、
C.上記白色成分として石灰と無機の白色顔料を組み合わせて用いることを特徴とする方法。」(以下、「本件発明1」という。)

2.「【請求項2】
D.石灰と無機の白色顔料との組み合わせが、白色顔料を石灰100重量部に対して0.1?50重量部の割合で組み合わせたものである、
E.請求項1に記載の着色漆喰組成物の着色安定化方法。」(以下、「本件発明2」という。)


第3 当事者の主張

1.請求人の主張、及び提出した証拠の概要
請求人は、特許第3834792号は、これを無効とする。審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求め、審判請求書及び平成23年12月12日付けの口頭審理陳述要領書、同年12月14日付けの上申書、同年12月26日付けの上申書、平成24年1月10日の口頭審理において、甲第1号証?19号証を提示し、以下の無効理由を主張した。

[無効理由]
本件発明1、2は本件優先日前に頒布された刊行物である甲第1号証及び甲第2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、その特許は同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。
(具体的理由)
(1)甲第1号証には、「石灰を含有する白色成分」「無機の着色顔料」「結合剤」「水」「水酸基を有するノニオン系の親水性高分子化合物」「無機の白色顔料」全てを含有する組合せが記載されており、本件特許の請求項1に係る発明はその組み合わせのうちの1つであり、甲第2号証、甲第18号証に示されているように、無機の白色顔料である酸化チタンと無機の着色顔料であるカーボンブラックを混合した塗料の記載があることから、無機の白色顔料と着色顔料を配合することは周知であるため、本件の請求項1に係る発明は甲第1,2号証に記載されている発明から容易に想到することができたものである。
本件特許の優先日前に、すでに「石灰を含有する白色成分」に「無機の白色顔料」を配合することが公知であり、さらに石灰に着色顔料を配合することも周知であるから請求項1に係る発明に進歩性がない。
(2)本件の請求項2に係る発明の数値範囲は広く、臨界的意義はない。
(3)本件の請求項1,2に係る発明は塗料の範疇のものであり、塗料の先行技術及び周知技術を元に進歩性が判断されるべきである。

[証拠方法]
甲第1号証:特開昭50-49325号公報
甲第2号証:「酸化チタン?物性と応用技術」(清野学著 技報堂出版株式会社 1991年6月25日発行)第1章「酸化チタン工業」、第6章「隠ぺい力」および第7章「着色力」
甲第3号証:「広辞苑 第4版」(新村 出編 岩波書店 1991年11月15日発行)第1147?1148頁の「しっくい」の項
甲第4号証:http://www.tsugane.jp/meiji/school/gakkou/shikkui.htmlインターネットのホームページの「津金学校」の項
甲第5号証:「土壁・左官の仕事と技術」(佐藤喜一郎・佐藤ひろゆき著 株式会社学芸出版社 2001年2月20日発行)第65?70頁
甲第6号証:「色の科学」(中原勝儼著 培風館 1985年4月20日発行)
甲第7号証の1:「平成19年度 特許庁産業財産権制度問題調査研究報告書 特許の審査実務(記載要件)に関する調査研究報告書-望ましい明細書に関する調査研究-」(財団法人知的財産研究所 平成20年3月発行)
甲第7号証の2:「調査業務実施者育成研修テキスト 特許法概論&審査基準 改訂日2010年4月1日」(独立行政法人工業所有権情報・研修館 2010年4月1日発行)
甲第8号証:特開平7-172886号公報
甲第9号証:特開昭63-108083号公報
甲第10号証:特開平7-196355号公報
甲第11号証:特開2000-96799号公報
甲第12号証:特願2002-509426号(再公表公報WO02/004569号)
甲第13号証:特許ビジネス市 内装材“漆喰塗料”平成16年9月30日付けの「パワーポイント」による資料(ヒメノイノベック株式会社)
甲第14号証:TECHNO-COSMOS 2001年2月(Vol.14)34?39頁の論文「光触媒酸化チタンを用いたコーティング材」(中村 朝徳著)
甲第15号証:楠本化成株式会社 2000年の論文「色分かれ防止剤の作用機構」
甲第16号証:特開平9-183919号公報
甲第17号証:特開平5-59297号公報
甲第18号証:「塗料のおはなし」(植木 憲二著、日本規格協会 1986年2月24日発行)
甲第19号証:「これだけは知っておきたい塗装工事の知識」(高橋 孝治著、鹿島出版会 昭和57年4月5日発行)

2.被請求人の主張

これに対して、被請求人は、平成23年10月4日付けの審判事件答弁書及び同年12月19日付けの口頭審理陳述要領書、平成24年1月10日付けの上申書、同年1月10日の口頭審理において、本件審判請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とするとの審決を求め、乙第1?5号証を提示し、請求人の無効理由に対して以下のように反論した。

[無効理由に対する反論]
審判事件答弁書、口頭審理陳述要領書及び平成24年1月10日付け上申書に記載したとおり、請求人の主張はいずれも失当であって、本件の請求項1,2に係る発明には特許法29条2項による無効理由は存在しない。
(具体的理由)
(1)特許発明1は、石灰は着色剤の分散性が悪く混合しても色分かれが発生しやすいことに着目し、これを改善して着色漆喰組成物の着色を安定化するための方法を提供することを「課題」として開発されたものであって、当該「課題を解決する手段(課題解決手段)」として、[1]石灰に無機の白色顔料を組み合わせて、これを白色のベースとして無機着色顔料で着色すること、および[2]ノニオン系の親水性高分子化合物を用いることを特徴とする。
これに対して、甲第1号証は、セメント及び/又は石灰、充填剤及び水を含有する建築物被覆材料について、加工性性質を維持しながらも、加工後に優れた疎水化を発揮させることを「課題」とするものであって(甲第1号証の1頁右下欄下から4?1行目)、その「課題解決手段」として、「セメント及び/又は石灰、充填剤及び水を含有する建築物被覆材料において、該建築物被覆材料がサッカロース及び脂肪酸から成る1つ又はそれ以上の水溶性エステルを乾燥物質に対して0.1?3重量%含有させる」(甲第1号証の第1頁左下欄、特許請求の範囲(1)参照)ことを採用したものであり、顔料として無機の白色顔料と無機の着色顔料の両者を組み合わせて配合した着色漆喰組成物は勿論、無機着色顔料を単独で配合した着色漆喰組成物ですら具体的に記載されておらず、当該着色漆喰組成物に関して、石灰を着色顔料で着色した場合に色分かれするといった着色安定性の問題があることについて、記載も示唆もされていない。(審判事件答弁書)
(2)特許発明1は、着色漆喰組成物の着色を安定化するための課題解決手段として上記の[1]と[2]の2つを組み合わせて用いることを特徴とする。
本件特許明細書の実験例2の比較例2および乙第3号証の対照品(1)に示すように、上記[1]と[2]の両方を欠く場合は着色が安定化せずに速やかに色分かれが発生する。この問題は、[2]だけを充足させた場合であっても解決することはできず、[1]と[2]の両方を備えることで初めて解決することができる。
こうした事実、すなわち[1]と[2]を組み合わせることで初めて着色漆喰組成物の色分かれの問題が解消して特許発明1の課題を解決することができるということは、着色漆喰組成物の色分かれの問題も含めて、甲第1号証の記載から、またこれに甲第2号証の記載を考慮したとしても、予測性がなく、当該号証から容易に想到することはできない。
甲第3号証の記載も、これを補うものではない。(審判事件答弁書)
(3)請求人が提出する甲第1?3号証、並びに甲第4?19号証を参酌しても、本件発明はその特許性が否定されるものではない。(平成24年1月10日付け上申書)
(4)甲第1号証の二酸化チタン金紅石がルチル型の二酸化チタンであっても,本件の請求項1,2に係る発明には特許法29条2項による無効理由は存在しない。(平成24年1月10日の口頭審理)
(5)本件の請求項1,2に係る発明は石灰を含む着色漆喰組成物の着色安定化方法の発明である。(平成24年1月10日の口頭審理)
(6)石灰は単独で隠ぺい力を有している。(平成24年1月10日の口頭審理)

[証拠方法]
乙第1号証:平成17年12月6日付けの「早期審査に関する事情説明書」に添付して提出した実験報告書(作成日:2004年11月18日、作成者:姫野陸男)の写し(包袋記録書)
乙第2号証-1:乙第1号証の図1に示した写真
乙第2号証-2:乙第1号証の図2に示した写真
乙第3号証:実験報告書(作成日:2011年9月15日、作成者:姫野陸男)
乙第4号証:「酸化チタンー物性と応用技術」清野学著・第13‐15頁、1991年6月25日1版1刷発行、技報堂出版株式会社
乙第5号証:「セメント・セッコウ・石灰 ハンドブック」無機マテリアル学会編、351?352頁、1995年11月1日1版1刷発行、技報堂出版株式会社


第4 無効理由についての当審の判断

1.本件発明1の無効理由について

(1)甲第1?19号証の記載事項
ア.甲第1号証の記載事項
本件特許の優先日前に頒布された甲第1号証には、次の事項が記載されている。
(ア)「セメント及び/又は石灰、充填材及び水より成る建築物被覆材料において、該建築物被覆材料がサツカロース及び脂肪酸から成る1つ又はそれ以上の水溶性エステルを乾燥物質に対して0.1?3重量%含有することを特徴とする建築物被覆材料。」(特許請求の範囲(1))
(イ)「この添加物質が挙げられる建築物被覆材料の例はセメント-及び/又は石灰含有プラスター殊に仕上げプラスター、モルタル、プライマー及び防水性塗装材がある。このような物質はセメント及び/又は石灰、充填材及び水並びに場合により多くの他の添加物質から成る。水を除くこれらの成分から公知混合法によつて均一な混合物を製造する。これは貯蔵可能である。水の添加は建築物被覆材料を適用する少し前にはじめて例えば建築現場で行なう。
常用の建築物被覆材料は例えば1重量部のセメント及び/又は石灰、1?12重量部の充填材及び乾燥物質に対して10?50重量%の水より成る。
プラスターを製造するには次の標準配合を適用する:
石灰及び/又はセメント 1重量部
粒径0?7mmの充填材 3?12重畳部
乾燥物質に対して水 10?30重量%
プライマーは多くの場合次のものから成る:
セメント及び/又は石灰 1重量部
粒径0?2mmの充填材 1?5重量部
乾燥物質に対して水 15?40重量%
モルタル及び防水性塗装材は例えば次の組成を有する:
セメント及び/又は石灰 1重量部
粒径0?7mmの充填材 2?5重量部
水 10?50重量%
この標準配合に本発明による疎水性添加物質を前記した量で添加することができ、加工性性質に影響は与えない。
石灰及びセメントは常用の製品例えば白色セメント、ポルトランドセメント、高炉セメント、アルミナセメント、空気硬化石灰例えば白色石灰又はドロマイト石灰、カーバイト石灰、水硬石灰、水硬性又は高水硬性石灰及び/又はその混合物で使用することができる。」(第2頁左下欄第3行?右下欄第19行)
(ウ)「添加物質としては、・・・顔料例えば二酸化チタン、酸化チタン及び/又は硫化亜鉛が挙げられる。」(第3頁左上欄第6行?同欄第8行)
(エ)「殊により良い水保留に対する他の助剤は建築物被覆材料の乾燥物質に対して0.01?0.5重量%の水溶性セルロースエーテル例えばメチルセルロースもしくは澱粉エーテル又はポリビニルアルコール並びにアニオン性又は非イオン性の湿潤剤例えばポリ燐酸塩、スルホン酸ナフタリン、アンモニウム‐及びナトリウムアルリル酸塩又はそれらの混合物がある。」(第3頁左上欄第14行?右上欄第1行)
(オ)「屡々、建築物被覆材料に、乾燥物質に対して0.1?5重量%の量の再分散可能なプラスチツク粉末又は水性分散液の形のプラスチツクをも添加する。このようなプラスチツク粉末又は分散液の例はビニルアセテートモノ‐及び‐コポリマー例えばエチレン‐ビニルアセテートコポリマー、ブタジェン‐スチロール‐コポリマー、アクリル酸エステルホモ‐又は‐コポリマー又はそれらの混合物がある。これらポリマーは屡々、その付着作用を改良するために、シラノル基をポリマー化されて含有する。」(第3頁右上欄第2行?同欄第12行)
(カ)「他の添加剤は次のものがある:
抗起泡剤例えばシリコン油、
0.1?0.5重量%の量のアルコール及び炭化水素、
殺菌剤例えば0.01?2重量%の量のフエノール‐もしくはクレゾール誘導体、水銀‐もしくは有機錫化合物、
着色料例えば有機顔料又は無機顔料、
凍結保護剤例えば1?5重量%の量のメタノール及びグリコール」(第3頁右上欄第13行?左下欄第2行)

・記載事項(イ)の「建築物被覆材料」は、「セメント-及び/又は石灰含有プラスター殊に仕上げプラスター、モルタル、プライマー及び防水性塗装材」を例とし、「このような物質はセメント及び/又は石灰、充填材及び水並びに場合により多くの他の添加物質から成る」ものであるので、セメント及び/又は石灰、充填材及び水並びに場合により多くの他の添加物質から成る建築物被覆材料といえる。

上記記載事項及び図面の記載から、甲第1号証には、記載事項(イ)?(カ)に記載された標準配合に着目して、次の発明が記載されているものと認められる。
「セメント及び/又は石灰、充填材及び水並びに場合により多くの他の添加物質から成る建築物被覆材料であって、
石灰及びセメントは、
常用の製品例えば白色セメント、ポルトランドセメント、高炉セメント、アルミナセメント、空気硬化石灰例えば白色石灰又はドロマイト石灰、カーバイト石灰、水硬石灰、水硬性又は高水硬性石灰及び/又はその混合物を使用することができ、
添加物質としては、
顔料、例えば二酸化チタン、酸化チタン及び/又は硫化亜鉛、
より良い水保留に対する他の助剤としての水溶性セルロースエーテル、例えばメチルセルロースもしくは澱粉エーテル又はポリビニルアルコール並びにアニオン性又は非イオン性の湿潤剤例えばポリ燐酸塩、スルホン酸ナフタリン、アンモニウム‐及びナトリウムアルリル酸塩又はそれらの混合物、
乾燥物質に対して再分散可能なプラスチツク粉末又は水性分散液の形のプラスチツク、例えばビニルアセテートモノ‐及び‐コポリマー例えばエチレン‐ビニルアセテートコポリマー、ブタジェン‐スチロール‐コポリマー、アクリル酸エステルホモ‐又は‐コポリマー又はそれらの混合物、
他の添加剤である抗起泡剤、殺菌剤、着色料例えば有機顔料又は無機顔料、
が挙げられる建築物被覆材料。」(以下、これを「甲第1号発明」という。)

イ.甲第2号証の記載事項
本件特許の優先日前に頒布された刊行物である甲第2号証には、次の事項が記載されている。
(ア)「1.3用途
(1)酸化チタン顔料
・・・
これら用途の代表的な例を次に掲げた。
用途 例
塗料 自動車・・・の塗装.
建物内外壁,橋梁,建造物の塗装.
・・・の塗装」(第10頁第1行?第11頁第7行)
(イ)「第6章 隠ぺい力
・・・白塗料1lで下地を完全に隠すことができる面積m^(2)/lが求められ,この白塗料中に含有される酸化チタン顔料濃度から・・算出される.」(第121頁第1?10行)
(ウ)「第7章 着色力
・・・酸化チタン顔料9個,複合顔料2個,リトホン・鉛白合計13個の白色顔料を長油性大豆油アルキド樹脂ワニスでPVC20%の白塗料とし,6.2.3(1)の方法で塗料中の顔料の光錯乱係数Sを測定する.一方,これら白塗料に微量のカーボンブラックを定量宛添加充分分散して灰色塗料とし,塗膜を色浮きのない条件で色差計により明度Yを測定する.」(第157頁第1行?第158頁第3行)
(エ)「7.2.1 JIS法(付録1参照)
酸化チタン2.00gとカーボンブラック20mgをとり・・・ペースト状とする.」(第159頁第2行?第160頁第2行)

ウ.甲第3号証の記載事項
本件特許の優先日前に頒布された刊行物である甲第3号証には、次の事項が記載されている。
(ア)「しっ-くい・・わが国独特の塗壁材料。消石灰にふのり・苦汁(にがり)などを加え、これに糸屑・粘土(ねんど)などを配合して練ったもの。広義には、石膏・石灰・セメントなどをそのまま、または砂などをまぜて作ったモルタル漆喰をもいう。白土(しらつち)。・・・」(第1147頁最下段最終行?第1148頁最上段第6行)

エ.甲第4号証の記載事項
インターネットのホームページの「津金学校」の項である甲第4号証には、次の事項が記載されている。
(ア)「漆喰というと白い壁が主流ですが、白色でも仕上げのコテの使い方で荒目や凹凸を出して質感を与えることができます。これも左官の腕の見せどころでしょう。色も白ばかりでなく、灰墨を混ぜた黒漆喰や赤い顔料を混ぜた赤漆喰なども古くからありました。漆喰は顔料を混ぜることによって自由に色を出すことができることから、色鮮やかな鏝絵(こてえ)や漆喰彫刻そしてフレスコ画が建築装飾として生まれたのです。」

オ.甲第5号証の記載事項
本件特許の優先日前に頒布された刊行物である甲第5号証には、次の事項が記載されている。
(ア)「材料の種類
塗壁材料としては、色土・砂・色砂・石灰・荒壁土(練り土)・中塗土などがあり、補助材料としては、<すさ>・糊・顔料・布連・ひけご(チリトンボ)・麻布(寒冷紗)・和紙などがある。」(第65頁第6?8行)
なお、<すさ>は、漢字で、くさかんむりに、切。
(イ)「顔料
古くは墨・岩絵具・ベンガラなどが着色剤として使われていたが、現在ではより安価で化学的に合成された顔料(色粉)が主に使用される。・・・鏝で押えた時に色粉による筋状のムラは少なくなる。また顔料は本来、セメントや石灰への混入を主眼としている・・」(第69頁第11行?第70頁第2行)

カ.甲第6号証の記載事項
本件特許の優先日前に頒布された刊行物である甲第6号証には、次の事項が記載されている。
「古代の顔料 ・・・これが高松塚古墳になると,下地の白はしっくい下地つまり炭酸カルシウムCaCO_(3)で,絵の具の白は鉛白,赤は朱およびベンガラ,黄では黄土(含水酸化鉄を含むケイ酸アルミニウム),緑は岩緑青(クジャク石の粉末),青は岩群青(ラン銅鉱),黒は墨である。」(第111頁第6?25行)

キ.甲第7号証の記載事項
甲第7号証の1、及び甲第7号証の2には、米国における、前文(プリアンブル)に従来技術を記載しその後に改良部分を記載する、いわゆるジェプソンクレームについて記載されている。

ク.甲第8号証の記載事項
本件特許の優先日前に頒布された刊行物である甲第8号証には、次の事項が記載されている。
(ア)「【0006】この発明に言う粉末状組成物には、種々の粉末成分を含んでいる。建築用仕上塗材あるいは左官材料などにおける粉末成分の一つは硬化成分であり、具体例を挙げると、セメント,半水石膏,消石灰,ドロマイトなどの無機物および有機物では再乳化形合成樹脂,メチルセルロース,ポリビニルアルコールなどがある。この他に顔料,充填材,骨材として利用される酸化チタン,ベンガラ,オーカー,酸化鉄,群青,炭酸カルシウム,クレー,タルク,寒水砂,珪石粉,パーライト,焼成ヒル石,ガラスバルーン,シラスバルーン,発泡有機物粒などがある。この他に配合される粉末成分としては、パルプ繊維,増粘剤,粉末状界面活性剤,硬化促進剤,遅延剤などがある。」

ケ.甲第9号証の記載事項
本件特許の優先日前に頒布された刊行物である甲第9号証には、次の事項が記載されている。
(ア)「無機質系塗料バインダーのうちセメントは,一般にセメントとして市販されているもの,あるいはこれに類似せるもので上述の如く接着作用を有するものであれば如何なるものも使用できる。例えば,ポルトランドセメント,アルミナセメント,マグネシアセメント,消石灰,石膏などがあるが,通常一般にはポルトランドセメントか白色セメント(ポルトランドセメント系)が用いられる。」(第3頁左上欄第1?8行)
(イ)「本実施態様の塗料組成物は,本発明の効果を損なわない範囲で一般的な塗料用に使用する各種添加材を配合することができる。これらの添加材としては,炭酸カルシウム,タルク,カオリン,ベントナイト,珪砂粉,硫酸バリウム,マイカ,メタホウ酸バリウム,合成ケイ酸アルミニウム,水酸化アルミウニム,ケイ酸カルシウム,ケイ藻上等の充填剤(体質顔料),または酸化チタン,フタロシアニンブルー,亜鉛華,カーボンブラック,黄土,ベンザイエロー,ベンガラトルイジンマルーン,酸化クロム等の着色顔料類の他に,分散剤,湿潤剤,増粘剤,可塑剤,成膜助剤,防腐剤,防カビ剤,消泡剤,凍結安定剤,軽量骨剤(発泡クレー,軽石,パーライト,発泡スチロール粉,シラスバルーン,ヒル石等),寒水石等を適宜含ませることができる。」(第4頁左下欄第16行?右下欄第11行目)」

コ.甲第10号証の記載事項
本件特許の優先日前に頒布された刊行物である甲第10号証には、次の事項が記載されている。
(ア)「【0013】水溶性増粘剤は、前記ベントナイトと同様に凸部を形成(造形)した後のたれを防止する。また、粘性挙動、増粘効果、混練り時の混和性、粘度の安定性、保水性を付与する。上記水溶性増粘剤としてはメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース等通常用いられているものの中から適宜に選定して用いることができ、添加量は保水性、作業性を考慮して決めれば良い。」
(イ)「【0016】また、本発明は、上塗り材組成物と下塗り材組成物とからなって、上塗り材組成物は、消石灰に、シリカヒューム、エチレングリコール、水溶性増粘剤、炭酸カルシウム等を含有し、必要に応じてパルプ質、アクリル、ポリエステル、ビニロン繊維等の化学繊維、或いは麻等の天然繊維を含有し、ポリカルボン酸系、ナフタリンスルホン酸系等の分散剤を用いて水と混練したものであることを特徴とする無機質仕上げ材組成物をも提案するものである。
【0017】・・・また、デザイン上濃色も要求されるため、白化による色ムラにならないような組成物が必要である。
【0018】上塗り材組成物中のシリカヒュームは、前述同様組成物中のCaイオンと反応し、色ムラの防止になる。また、エチレングリコールは、下塗り材凸部に付着した上塗り材を拭き取るまで乾燥しないよう添加されるものであり、好ましくは1?10%の範囲で添加する。さらに、炭酸カルシウムは、白色顔料の作用と漆喰の強度調整、こて塗りの際のこてのすべりを向上させる。また、本発明の上塗り材組成物にも、接着性の向上、耐水性の向上のため、拭き取り作業を阻害しない範囲内でアクリル系、酢酸ビニル系等の合成樹脂エマルジョンを混入しても良い。」

サ.甲第11号証の記載事項
本件特許の優先日前に頒布された刊行物である甲第11号証には、次の事項が記載されている。
(ア)「【請求項1】 下地上に、下塗り層と上塗り層とが順に形成された壁材において、
上記上塗り層は、多孔体と結合剤とを含むベース層と、このベース層上に形成されると共に、顔料が含有され、且つ通気性を有する仕上層とから成ることを特徴とする壁材。
・・・
【請求項6】前記顔料として、TiO、Ti_(2)O_(3)、TiO_(2)、Fe_(2)O_(3)、FeOOH、Fe_(3)O_(4)、Cr_(2)O_(3)から成る群から選択される無機系の顔料を用いる、請求項1、2、3、4又は5記載の壁材。
【請求項7】前記結合剤として、石灰、セメント、土及びドロマイトプラスターから成る群から選択される少なくとも一種を用いる、請求項1、2、3、4、5又は6記載の壁材。
・・・」
(イ)「【0009】また、例えベース層に白華等が生じて色むらが生じた場合であっても、ベース層上には顔料を含む仕上層が形成されているので、色むらが目立ち難い。したがって、壁材の色としては、色むらが目立ち難い淡彩色のものに限定されず、濃彩色のものであっても十分に適用し得る。加えて、仕上層にのみ顔料を加えれば壁の色着けができるので、顔料使用量が減少し、壁材の製造コストを低減できる。」
(ウ)「【0015】また、請求項6記載の発明は、請求項1、2、3、4又は5記載の発明において、前記顔料として、TiO、Ti_(2)O_(3)、TiO_(2)、Fe_(2)O_(3)、FeOOH、Fe_(3)O_(4) 、Cr_(2) O_(3) から成る群から選択される無機系の顔料を用いることを特徴とする。顔料に酸化チタン(TiO、Ti_(2)O_(3)、又はTiO_(2))を用いた場合には壁材を白色とすることができ、Fe_(2)O_(3)を用いた場合には壁材を赤色とすることができ、FeOOHを用いた場合には壁材を黄色とすることができ、Fe_(3)O_(4)を用いた場合には壁材を黒色とすることができ、Cr_(2)O_(3)を用いた場合には壁材を緑色とすることができる。また、これらの顔料を混合して用いることにより、種々の色彩の壁材を作製することができる。
【0016】また、請求項7記載の発明は、請求項1、2、3、4、5又は6記載の発明において、前記結合剤として、石灰、セメント、土及びドロマイトプラスターから成る群から選択される少なくとも一種を用いることを特徴とする。・・・」
(エ)「【0017】
【発明の実施の形態】・・・仕上材テラ〔大阪ガス製のものであって、シロキサンと顔料とを含む〕を水で1.5倍に希釈し、これをローラーにて上記ベース層上に2回塗りして仕上層を形成することにより、壁材の着色を行った(130g/m^(3)施工)。上記の施工により、フラットな漆喰調仕上げとなった。・・・」
(オ)「【0025】一方、本発明壁材A1では、引っかき傷を形成した後、前記と同様のケーソーライムで傷部をパテ埋めし、更にコテで傷部の周囲の表面とパテ埋め部との模様を合わた。次に、前記と同様の仕上材テラを傷部に塗布した。この結果、補修部と補修部の周囲との色が殆ど同じであり、色むらが十分に抑制されていることが認められた。」

シ.甲第12号証の記載事項
本件特許出願日後に頒布された刊行物である甲第12号証には、被請求人の出願に係る特願2002-509426号の内容が記載されている。

ス.甲第13号証の記載事項
本件特許の出願日後に頒布された刊行物である甲第13号証には、パワーポイントの「内装材“漆喰塗料”」なる資料として、
「特許(周辺特許、国際特許)
周辺特許
*特願2002-036293「漆喰組成物の着色方法」
*特願2004-198847「着色漆喰塗膜の色飛び抑制方法」
他5件・・・」(第10頁)
と記載されている。

セ.甲第14号証の記載事項
本件特許の優先日前に頒布された刊行物である甲第14号証には、次の事項が記載されている。
(ア)「3.1 分解機能型光触媒コーティング材
3.1.1 コーティング材の作製および膜形状
光触媒コーティング材の有害気相物質の低減機能を最大限に発揮させるためには、気相物質をコーティング膜に接触させ、この気相物質をいかにコーティング膜中にトラップさせるかが鍵となる。・・・そこで、我々は分解機能型光触媒コーティング材の作製に関して、平均粒径1μm、比表面積300m^(2)/gの光触媒酸化チタンを主体に、この光触媒酸化チタン以外に粒径5?50μmの無機顔料を併用し、水性の無機バインダーを用いてコーティング材を作製している^(12))。・・・」(解説-36頁)

ソ.甲第15号証の記載事項
本件特許の優先日前に頒布された刊行物である甲第15号証には、次の事項が記載されている。
(ア)「概要
白塗料と赤塗料を混合したピンク塗料は、スプレー塗装、流し塗り、ラビングした塗膜に色分かれ(色浮き、色むら)が生じました。・・・分散剤と表面調整剤の両機能を持つ色分かれ防止剤を添加すると色分かれを防止する事が出来ました。この様に色別れ現象は、分散と表面調整効果により防止することが出来ます。」(第1頁第3?9行)
(イ)「1.始めに
塗料は、通常多くの種類の顔料が配合されており、成分顔料の粒子の大きさ・比重・凝集性が異なる為塗装した場合、しばしば色浮き(Flooding)や色むら(Floating)の問題を生じることがあります。このような現象を防止する為に、一般的には、色分かれ防止剤が有効であります。・・・
今回は、2色混合系の色分かれ(色浮き、色むら)を起こす塗料を例に取り、色分かれ防止剤の作用機構を解説したいと思います。」(第1頁第10?17行)
(ウ)「2.2 ベナード・セル防止効果
・・・
スポット塗りをした塗膜の断面(写-5)を観察すると無添加塗膜は、うず対流が観察されると同時に赤顔料の凝集塊も見られます。」(第1頁第28?33行)
(エ)「Copyright 2000.Kusumoto Chemikals,Ltd. Allright Reserved.」(第4頁末行)

タ.甲第16号証の記載事項
本件特許の優先日前に頒布された刊行物である甲第16号証には、次の事項が記載されている。
(ア)「【0006】
【発明が解決しようとする課題】着色塗料、印刷インキ、カラープラスチック成形品等の製造において樹脂並びにその他の原料と、無機顔料並びに有機顔料とを混合した後に、無機顔料と有機顔料の色分かれが起こらない方法を提供することにある。」
(イ)「【0008】
【発明の実施の形態】本発明で用いる無機顔料は、二酸化チタン、酸化鉄、硫化カドミウム、炭酸カルシウム、炭酸バリウム、硫酸バリウム、クレー、タルク、黄鉛などが挙げられるが、顔料表面のpHが6?10の比較的塩基性の高い二酸化チタン、炭酸カルシウム、硫酸バリウム等の無機顔料が好適である。
【0009】一方、本発明で用いる有機顔料としては、カーボンブラック(本発明においては、従来無機顔料とされるカーボンブラックも有機顔料として扱う)、アゾ系、ジアゾ系、縮合アゾ系、チオインジゴ系、インダンスロン系、キナクリドン系、アントラキノン系、ベンゾイミダゾロン系、ペリレン系、ペリノン系、フタロシアニン系、ハロゲン化フタロシアニン系、アントラピリジン系、ジオキサジン系などの有機顔料が挙げられる。」

チ.甲第17号証の記載事項
本件特許の優先日前に頒布された刊行物である甲第17号証には、次の事項が記載されている。
(ア)「【0003】
【発明が解決しようとする問題点】顔料はその種類・銘柄等により、固有の性質を有しており、その為液状塗料の場合、配合された顔料の一部が色浮きや色分かれ等の色分離の現象を起こすことがある。例えば、フタロシアニンブルー顔料やカーボンブラック顔料がそうである。その対策として、従来は添加剤を使用して上記の現象の改善を図ってきた。しかしながら、塗料に使う樹脂や顔料の種類は極めて多く、配合を変える度に添加剤を検討し直さなければならないことは非常に大変なことである。又、塗料系によっては添加剤では色分離を抑えることが出来ない場合がある。黄色酸化鉄顔料のある銘柄は、建築材料の着色塗装に使用して、色相及び耐候性共に優れているが、大きな針状結晶の為、該顔料とフタロシアニンブルー顔料の調色により、グリーン色を出そうとすると、顔料の方向性が出て、色むらが発生する。」
(イ)「【0017】
【効果】以上の如き本発明によれば、本発明の着色顔料組成物は、無機顔料に有色顔料がよく付着しており、被着色無機顔料として白色の酸化チタン顔料や結晶の大きな酸化鉄系顔料や、蓄光性や蛍光性の硫化亜鉛顔料等の蓄光顔料や蛍光顔料を使用しても、塗料化した場合、調色され且つ色の均一な塗膜が得られる。更に保存中や塗装中に色分離を起こさず、又、塗膜も色分かれしない水性塗料、絵具、ポスターカラー等の着色剤として有用である。」

ツ.甲第18号証の記載事項
本件特許の優先日前に頒布された刊行物である甲第18号証には、次の事項が記載されている。
(ア)「例えば,グレーエナメルを調整する場合,白エナメル(チタン白)と黒エナメル(カーボンブラック,CB)を混合して所定のグレー色にします.・・・
また,このフロキュレートは弱い応力,例えばはけの運行やスプレーノズルにおけるかき混ぜで,簡単にほぐれて色むらを生じます.このような色別れ現象の防止のためには配合組成の再検討・色別れ防止剤の添加・練磨工程の改良など種々の対策がとられます.」(第125頁第14?24行)
(イ)「最後に,実用塗料の分散に最も効果的な手段は,分散剤(湿潤剤)や分散安定剤など,適切な塗料添加剤の添加です.」(第127頁第27?28行)

テ.甲第19号証の記載事項
本件特許の優先日前に頒布された刊行物である甲第19号証には、次の事項が記載されている。
(ア)「塗料の基本色である白は隠ぺい力の発揮であり、これをピンクとかクリームにするために加える赤,黄の顔料が着色力のある顔料となる。」(第10頁第14?16行)


(2)甲第1号発明との対比
本件発明1と甲第1号発明を対比する。
(a)甲第1号発明の「無機顔料」は「着色料」として例示されたものであるので、本件発明1の「無機の着色顔料」に相当し、以下同様に、
「ビニルアセテートモノ‐及び‐コポリマー例えばエチレン‐ビニルアセテートコポリマー、ブタジェン‐スチロール‐コポリマー、アクリル酸エステルホモ‐又は‐コポリマー又はそれらの混合物」は、結合材としての機能を有するものであるから「結合剤」に、
「メチルセルロース」は「ノニオン系親水性高分子化合物」に、
「酸化チタン」は「無機の白色顔料」に、それぞれ相当する。
(b)甲第1号発明の「セメント及び/又は石灰」のうち、「セメント及び石灰」及び「石灰」と、本件発明1の「石灰を含有する白色成分」とは、石灰を含有する成分で共通する。
(c)甲第1号発明の「建築物被覆材料」と、本件発明1の「着色漆喰組成物」とは、建築物被覆材料で共通する。
(d)甲第1号発明の「他の添加物質」と、本件発明1の「無機の着色顔料」、「結合剤」、「水酸基を有するノニオン系の親水性高分子化合物」及び「無機の白色顔料」とは、石灰や水に対して、他のものであるので、
他の添加物質で共通する。

そうすると、両者は、
「石灰を含有する成分、他の添加物質及び水を含有する建築物被覆材料」に係る発明である点で一致し、次の点で相違する。

相違点:本件発明1は、「石灰を含有する白色成分」「無機の着色顔料」「結合剤」「水」「水酸基を有するノニオン系の親水性高分子化合物」「無機の白色顔料」全てを含有する「着色漆喰組成物の着色安定化方法」であるのに対し、甲第1号発明は「石灰を含有する成分」「水」及び「他の添加物質」を含有する建築物被覆材料であり、「他の添加物質」として、「無機の着色顔料」「結合剤」「水酸基を有するノニオン系の親水性高分子化合物」「無機の白色顔料」等の物質が例示されたものであるものの、それら「石灰を含有する白色成分」、「水」、及び「無機の着色顔料」「結合剤」「水酸基を有するノニオン系の親水性高分子化合物」「無機の白色顔料」に相当する特定の「添加物質」全てを含有する「着色漆喰組成物」の「着色安定化方法」ではない点。

(3)相違点についての判断
上記相違点について検討する。
甲第1号発明の「顔料、例えば二酸化チタン、酸化チタン及び/又は硫化亜鉛」「より良い水保留に対する他の助剤」「再分散可能なプラスチツク粉末又は水性分散液の形のプラスチツク」「他の添加剤である・・着色料例えば・・無機顔料」は、いずれも、建築物被覆材料の「他の添加物質」の例示として示されたものであって、例示されたものの内の、少なくとも一つを添加物質として用いることは示唆されているといえるが、全部の組合せまでは記載されているとはいえない。

一方本件発明1は、本件特許明細書【0007】?【0008】に「漆喰を必要時に直ちに使用できるように予め水や着色剤を配合して調製した漆喰塗材または漆喰塗料を商品として市場に供給するには、その固形分を水に均質に分散させた状態で安定的に維持させる必要がある。本発明者は・・・石灰と結合剤に加えて水酸基を有するノニオン系の親水性高分子化合物を用いることによって、水への固形分の分散性が向上し沈殿や離水が有意に防止でき、経時的安定化を図ることができることを見い出した。」、「さらに、・・・石灰に無機白色顔料を配合し、これを白色ベースとして無機着色顔料で着色することによって漆喰組成物を均一に着色することができ、しかも不均一な色飛びを抑制して色むらを生じない着色塗膜が形成できることを見いだし、さらに水酸基を有するノニオン系の親水性高分子化合物を用いることによってその効果をより高めることができることを見いだした。本発明はこれらの知見に基づいて開発されたものである。」と記載され、また、被請求人が審判事件答弁書「7.7-1(1)(1-2)」の「本件特許発明の目的と効果」で、「着色漆喰組成物に配合した無機着色顔料の分散安定化、つまり着色漆喰組成物の着色を安定化するためには、(1)石灰と無機の白色顔料とを組み合わせて、これを白色ベースとして無機着色顔料で着色すること、および(2)ノニオン系親水性高分子化合物を用いることが重要である」(当審注:(1)(2)は、丸数字。)と主張しているように、少なくとも「石灰」「無機白色顔料」「無機着色顔料」「水酸基を有するノニオン系の親水性高分子化合物」用いることで、「着色漆喰組成物」の着色を安定化する方法である。

そして、甲第2号証に示すように、漆喰組成物が塗料の一種であり、塗料において、無機の白色顔料と着色顔料を配合することが甲2号証、甲第18号証に示すように周知であるとしても、「石灰」「無機白色顔料」「無機着色顔料」「水酸基を有するノニオン系の親水性高分子化合物」を用いて、「着色漆喰組成物の着色安定化」をすることが、甲第1号証、及び同じく本件特許の優先日前に頒布された刊行物である甲第2号証に記載も示唆もされていない以上、甲第1号発明の建築物被覆材料の「他の添加物質」の例示として示されたものの中から、「無機の着色顔料」「結合剤」「水酸基を有するノニオン系の親水性高分子化合物」「無機の白色顔料」に相当する全てのものを含有したものに特定して、「着色漆喰組成物の着色安定化」のための方法とすることは、当業者が、容易に想到し得たといえるものではない。

さらに、
甲第3号証には、漆喰が塗壁材料であることが、
甲第4?6号証には、漆喰を無機顔料等の着色顔料で着色することが、
甲第8?11号証には、石灰を含有する塗材に酸化チタンや炭酸カルシウムを添加することが、
甲第14号証には、酸化チタンと着色顔料との組合せが、
甲第15号証には、白顔料と赤顔料とを混合した塗料に色分かれ防止剤を添加して色浮きと色むらを防止することが、
甲第16号証には、「無機の白色顔料」と「無機の着色顔料」の組合せが、
甲第17号証には、「無機顔料に有色顔料がよく付着」した着色顔料組成物と「被着色無機顔料として白色の酸化チタン顔料」の組合せが、
甲第18号証には、グレーエナメルを調整する際に「チタン白」と「カーボンブラック」を混合することが、
甲第19号証には、塗料の基本色である白の隠ぺい力を発揮させ、これに、赤や黄色の顔料を添加してピンクとかクリームとすることが、
記載されているが、本件発明1の特定の組合せについては記載も示唆もされていない。
また、甲第4号証は、公知日が特定されないものであり、甲第7号証の1、甲第7号証の2、甲第12号証、甲第13号証は、本件特許出願時(優先日)の後に頒布された刊行物である。

そうすると、甲第3から甲第19号証の記載事項を参酌しても本件発明1は、「本件優先日前に頒布された刊行物である甲第1号証及び甲第2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである」とはいえない。

[請求人の主張に対する検討]
請求人は、「第3 1[無効理由](具体的理由)」の(1)及び(3)において、
甲第1号証には、「石灰を含有する白色成分」「無機の着色顔料」「結合剤」「水」「水酸基を有するノニオン系の親水性高分子化合物」「無機の白色顔料」全てを含有する組合せが記載されており,無機の白色顔料と着色顔料を配合することは周知であるため,本件の請求項1に係る発明は甲第1,2号証に記載されている発明から容易に想到することができたものであり、本件の請求項1,2に係る発明は塗料の範疇のものであり、塗料の先行技術及び周知技術を元に進歩性が判断されるべきである。
と主張している。
しかしながら、上記主張で前提としている、「全てを含有する組合せが記載されており」は、「(3)相違点についての判断」に前述したように、記載された事項と認められるものでなく、主張は採用出来るものではない。

また、請求人は、請求人口頭審理陳述要領書において、公知日が特定されないインターネットのホームページである甲第4号証を提示して「漆喰に顔料を混ぜることによって自由に色を出すことができるということが周知であった。」ことを、同じく、本件特許の出願日後に頒布された刊行物である甲第7号証の1及び2を提示して甲第1号証の「『セメント及び/又は石灰、充填剤及び水より成る建築物被覆材料』は従来技術であること」を、同じく、被請求人の出願に係る特願2002-509426号の内容が記載されている甲第12号証を提示して「『石灰を含有する白色成分』と『無機の白色顔料』の組合せは、本件特許の出願前から当業者において周知の技術であったといえるものである」を、同じく、本件特許の出願日後に頒布された刊行物である甲第13号証を提示して「本件特許が塗料の技術分野に属するものであること」を立証しようとしている。
しかしながら、それらの証拠は、公知日が特定されないものや、本件特許出願時(優先日)の後に頒布されたものであり、かつ、仮にそれらで立証しようとした事項が事実であったとしても、そのことが「石灰」「無機白色顔料」「無機着色顔料」「水酸基を有するノニオン系の親水性高分子化合物」全てを用いて、「着色漆喰組成物の着色安定化」をすることを示唆するようなものではないので、それらによって、本件発明1は「本件優先日前に頒布された刊行物である甲第1号証及び甲第2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである」との結論を導き出せるものではない。

また、請求人は、請求人口頭審理陳述要領書第6頁第2行?第15行において、「・特開2000-96799号公報(甲第11号証)には『「石灰を含有する白色成分」「無機の着色顔料」「結合剤」「水」「水酸基を有するノニオン系の親水性高分子化合物」「無機の白色顔料」』の全組合せそのものが記載されているということができる。」旨の主張を行っている。
しかしながら、甲第11号証において無機の着色顔料に相当する「Fe_(2)O_(3)」「FeOOH」「Fe_(3)O_(4)」「Cr_(2)O_(3)」及び無機の白色顔料に相当する「酸化チタン(TiO、Ti_(2)O_(3)、又はTiO_(2))」は、甲第11号証記載事項(ア)の「顔料が含有され、且つ通気性を有する仕上層」に含有されるものであるのに対して、石灰に相当する請求項7,【0016】の「石灰」は、甲第11号証記載事項(ア)の「多孔体と結合剤とを含むベース層」に結合剤として含有されるものであり、それぞれ異なった層に含有されるものであり、さらに結合剤や水酸基を有するノニオン系の親水性高分子化合物については、相当するものを発見することもできない。
そうすると、上記甲第11号証に係る上記の主張も採用出来るものではない。

(4)まとめ
したがって、本件発明1は、甲第1号証及び甲第2号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。


2 本件発明2の無効理由について
請求人は、「第3 1[無効理由](具体的理由)」の(2)において、本件の請求項2に係る発明の数値範囲は広く,臨界的意義はないとも主張している。
しかし、本件発明2は本件発明1の「石灰と無機の白色顔料を組み合わせ」を「白色顔料を石灰100重量部に対して0.1?50重量部の割合で組み合わせたもの」としたものであって、「石灰を含有する白色成分」「無機の着色顔料」「結合剤」「水」「水酸基を有するノニオン系の親水性高分子化合物」「無機の白色顔料」全てを含有する「着色漆喰組成物の着色安定化方法」である本件発明1にさらに構成を付加したものであるから、本件発明1が当業者が容易に発明をすることができたものあるといえない以上、上記主張の正否に関わりなく、本件発明2も当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。


第5 むすび
以上のとおり、請求人の主張及び証拠方法によっては、本件発明1、2を無効とすることができない。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定において準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。

よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2012-02-15 
出願番号 特願2002-266067(P2002-266067)
審決分類 P 1 113・ 121- Y (E04F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 住田 秀弘  
特許庁審判長 鈴野 幹夫
特許庁審判官 土屋 真理子
中川 真一
登録日 2006-08-04 
登録番号 特許第3834792号(P3834792)
発明の名称 着色漆喰組成物の着色安定化方法  
代理人 平野 和宏  
代理人 特許業務法人三枝国際特許事務所  
代理人 土橋 博司  

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