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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 C08J
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 C08J
管理番号 1268152
審判番号 不服2011-863  
総通号数 158 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-02-22 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-01-14 
確定日 2013-01-04 
事件の表示 特願2004-202620「ポリエステルフィルム」拒絶査定不服審判事件〔平成18年 1月26日出願公開、特開2006- 22233〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 主な手続の経緯
本願は,平成16年7月9日を出願日とする特許出願であって(なお,平成20年4月25日に,承継人を請求人とする出願人名義変更届が提出されている。),平成22年3月15日付けで拒絶理由が通知され,同年5月12日に意見書が提出されるとともに特許請求の範囲及び明細書が補正され,同年11月9日付けで拒絶査定がされたところ,これに対して,平成23年1月14日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に特許請求の範囲及び明細書が補正されたので(なお,同月26日に,当該特許請求の範囲に係る手続補正1について,補正対象項目名が補正されている。),特許法162条所定の審査がされた結果,同年2月10日付けで同法164条3項の規定による報告(前置報告)がされ,平成24年6月5日付けで同法134条4項の規定による審尋がされ,同年7月6日に回答書が提出されたものである。

第2 補正の却下の決定

[結論]
平成23年1月14日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1 平成23年1月14日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)の内容
本件補正は特許請求の範囲を変更する補正を含むものであるところ,本件補正の前後における特許請求の範囲の請求項1の記載は,それぞれ以下のとおりである。
・ 本件補正前(平成22年5月12日付け手続補正書)
「アンチモン元素を実質的に含まないポリエステルを溶融押し出しして得られるフィルムであり,当該フィルム中のオリゴマー量がフィルム重量に対して0.7重量%以下であり,フィルムにメチルエチルケトンを塗布,乾燥し,180℃で10分間熱処理した後,フィルム表面のオリゴマー量が5.0mg/m^(2)以下であり,当該処理を行う前後のフィルムヘーズの差(ΔH)が3.0%以下であることを特徴とするポリエステルフィルム。」
・ 本件補正後
「アンチモン元素を実質的に含まず,チタン元素を1?20ppm含有し,リン元素を1?300ppm含有する,固相重合して得られたポリエステルを溶融押し出しして得られるフィルムであり,当該フィルム中のオリゴマー量がフィルム重量に対して0.7重量%以下であり,フィルムにメチルエチルケトンを塗布,乾燥し,180℃で10分間熱処理した後,フィルム表面のオリゴマー量が5.0mg/m^(2)以下であり,当該処理を行う前後のフィルムヘーズの差(ΔH)が3.0%以下であることを特徴とするポリエステルフィルム。」

2 本件補正の目的
本件補正は,補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である(溶融押し出しによるフィルム成形前の)ポリエステルに含まれるチタン元素及びリン元素の含有量について,補正前に特定されていなかったものを,それぞれ「チタン元素を1?20ppm」,「リン元素を1?300ppm」と特定し,さらに上記ポリエステルについて,「固相重合して得られ」るとの事項を付加する補正事項を含むものである(しかも,補正の前後で,請求項1に記載の発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題は変わらない。)。
よって,本件補正は,少なくとも請求項1についてする補正については,平成18年法律第55号改正前の特許法17条の2第4項2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

3 独立特許要件違反の有無について
上記2のとおりであるから,本件補正後の請求項1に記載された発明(以下「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか,要するに,本件補正が特許法17条の2第5項で準用する同法126条5項の規定に適合するものであるか,いわゆる独立特許要件違反の有無について検討するところ,本件補正は当該要件に違反すると判断される。
すなわち,本願補正発明は,本願の出願前に頒布された刊行物である特開平8-283545号公報(以下「引用文献3」という。)に記載された発明であるから,特許法29条1項3号に該当し,特許を受けることができない。(なお,引用文献3は,拒絶理由を通知するにあたり請求人に提示された刊行物である。)
以下,特許を受けることができない理由を,下記5において詳述する。

4 本願補正発明
(1) 本願補正発明は,本件補正により補正された明細書(以下「本願明細書」という。)及び特許請求の範囲の記載からみて,その特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される以下のとおりのものであると認める。
「アンチモン元素を実質的に含まず,チタン元素を1?20ppm含有し,リン元素を1?300ppm含有する,固相重合して得られたポリエステルを溶融押し出しして得られるフィルムであり,当該フィルム中のオリゴマー量がフィルム重量に対して0.7重量%以下であり,フィルムにメチルエチルケトンを塗布,乾燥し,180℃で10分間熱処理した後,フィルム表面のオリゴマー量が5.0mg/m^(2)以下であり,当該処理を行う前後のフィルムヘーズの差(ΔH)が3.0%以下であることを特徴とするポリエステルフィルム」

(2) ところで,本件補正後の請求項1の「アンチモン元素を実質的に含まず,チタン元素を1?20ppm含有し,リン元素を1?300ppm含有する,固相重合して得られたポリエステルを溶融押し出しして得られるフィルム」との記載から,当該請求項1において,アンチモン元素を実質的に含まないこと,チタン元素を1?20ppm,リン元素を1?300ppm含有してなること,ならびに,固相重合して得られたものであることといった技術事項は,いずれもポリエステルフィルムではなく,溶融押し出しによるフィルム成形前のポリエステルについて説明するものとなっている。他方,本願明細書の【0012】?【0014】,【0041】の記載を参酌すると,上記技術事項がポリエステルフィルム,成形前のポリエステルのいずれを説明するものか判然としない。
そこで,当合議体は,例えばチタン元素やリン元素の含有量については上記成形の前後で変わらない蓋然性が高いといえること,固相重合についてはフィルム成形前のポリエステルについての説明と解する方が自然であるといえることなどを総合勘案して,上記技術事項は,請求項1の文言どおり,溶融押し出しによるフィルム成形前のポリエステルについて説明するものと解することとして,以下検討を進める。

5 本願補正発明が特許を受けることができない理由
(1) 引用発明3
ア 上記引用文献3には,次の記載がある。(下線は審決で付記。以下同じ。)
「【請求項1】 90mol%以上がエチレンテレフタレート単位からなり,アンチモン,ゲルマニウム,チタン化合物から選ばれる重合触媒金属化合物をいずれか一種含むポリエステルであって,これらの重合触媒金属化合物量が,該ポリエステルに対し金属として0.2mol/ton以上1mol/ton以下であり,かつエチレンテレフタレート環状三量体含有量がポリエステルに対し0.4重量%未満であることを特徴とするポリエステル組成物。…
【請求項4】 請求項1?3のいずれか1項に記載のポリエステル組成物からなるフイルム。…」(【特許請求の範囲】)
「【本発明が解決しようとする課題】 本発明の目的は,低分子量体含有量が少なく,かつ耐加水分解性,絶縁性,機械的特性に優れたポリエステル組成物およびフイルムを提供することにある。」(【0007】)
「…これら反応触媒は,少ない方がエステル交換反応が起こりにくいため,溶融押出し時の環状三量体増加量を抑制する上では好ましいが,あまり少ないと,固相重合工程において環状三量体を十分減少させるのに時間がかかり,生産性上好ましくない。逆に,いくら重合触媒を多く入れても,固相重合によってに到達できる環状三量体量は,線状ポリマと環状体との反応平衡値と到達結晶化度などによって決まる値であり限界があるため,ある程度の量以下には下げることができないので,余分に触媒を入れてしまっている可能性があり,この場合には,いくら生産性が上がっても溶融押出し時の増加量が増大してしまい,結局十分に環状三量体量の低いフイルムを得られないことになる。この重合触媒金属化合物と,環状三量体の固相重合時の減少挙動,溶融押出し時の増加挙動について解析し,最適触媒量について鋭意検討した結果,ポリエステル中のアンチモン,ゲルマニウム,チタン化合物から選ばれる重合触媒金属化合物量を本発明に規定する特定の範囲内の量とすると,驚くべきことに,生産性をなんら阻害することなく,溶融製膜した場合であってもオリゴマ増加速度が著しく抑制され,オリゴマ含有量の極めて少ないポリエステル組成物およびフイルムを得られるということを見い出したものである。本発明のポリエステルにおいては,溶融押出し製膜時の環状三量体増加量を小さくするためにはこうした金属化合物量を金属量として1mol/ton以下とする必要があり,…。また,環状三量体を十分に減少させるための固相重合工程にかかる時間が長くなりすぎないためには,これら重合触媒金属化合物の量が金属として0.2mol/ton以上であることが好ましく,…。」(【0010】)
「こうして得られたポリエステルは,固相重合を施すことにより,さらに重合度を上げることができ,かつ環状三量体を低減させることができる。この固相重合を経て得られた本発明のポリエステルは,環状三量体量の充分少ないフイルムを得るためには,エチレンテレフタレート環状三量体の含有量が0.4重量%未満とする必要があり,…。」(【0011】)
「固相重合は,乾燥機中200℃?250℃の温度で1torr以下の減圧下または窒素気流下で行われる。…」(【0013】)
「このようにして得られたポリエステルは,常法にしたがって,乾燥後,溶融押し出しして,未延伸シートとし,続いて2軸延伸,熱処理することにより,二軸延伸フイルムを完成させることができる。…このようにして得られたポリエステルフイルムの環状三量体含有量は,好ましくは0.6重量%未満であり,…。」(【0014】)
「B.環状三量体含有量([C3])
ポリマ100mgをオルトクロロフェノール5mlに溶解し,液体クロマト(モデル8500Varian社製)で測定し,ポリマに対する割合(重量%)で示した。
C.ポリマ中含有元素
蛍光X線法[TFK3064型(ガイガーフレックス社製)]により測定した。」(【0018】?【0019】)
「実施例1
ジメチルテレフタレート100重量部,エチレングリコール60重量部の混合物に,ジメチルテレフタレート量に対して酢酸マグネシウム0.09wt%,三酸化二アンチモン0.008wt%を添加して,常法により加熱昇温してエステル交換反応を行なった。次いで,該エステル交換反応生成物に,ジメチルテレフタレート量に対して,リン酸トリメチル0.026wt%を添加した後,重縮合反応層に移行する。次いで,加熱昇温しながら反応系を徐々に減圧して1mmHgの減圧下,290℃で常法により重合し,固有粘度[η]0.54のポリエステルを得た。該ポリマを3mm径の立方体に切断し,回転型真空重合装置を用いて,1mmHgの減圧下,225℃で30時間加熱処理することにより固相重合を行ない,固有粘度[η]1.1,密度1.41g/cc,環状三量体含有量0.24重量%のポリエステルを得た。得られたポリエステル中の元素分析をした結果,アンチモン金属量は0.53mol/tonであった。次いで,40mmの溶融押出し製膜機で設定温度290℃,8分の滞留時間で1mmの未延伸ポリエステルフイルムを得た。これを通常の条件下で二軸延伸し,250μmの二軸配向ポリエステルフイルムを得た。該フイルムの環状三量体含有量は0.35wt%であり,カルボキシル末端基は19当量/ton,耐熱性の指標として用いた破断伸度保持率半減期は1000時間であった。これら結果を表に示した。」(【0023】)
「実施例5,6 重合触媒量種を,それぞれ酸化ゲルマニウム,テトラエチレングリコキシドチタンに変えた他は,実施例1と同様の方法で重合,固相重合,製膜を行った。表に示したように,環状三量体が少なく,耐熱性の良好なフイルムが得られた。」(【0027】)
また,【0024】の【表1】には,実施例6について,ポリエステル(チップ)中のチタン金属量が0.28mol/tonであり,フイルムの環状三量体含有量が0.40wt%であることが記載されている。
イ 上記アでの摘記,特に実施例6に係る記載などを総合すると,引用文献3には,次のとおりの発明(引用発明3)が記載されていると認める。
「ジメチルテレフタレート100重量部,エチレングリコール60重量部の混合物に,ジメチルテレフタレート量に対して酢酸マグネシウム0.09wt%,テトラエチレングリコキシドチタン0.008wt%を添加して得られたエステル交換反応生成物に,ジメチルテレフタレート量に対してリン酸トリメチル0.026wt%を添加して得られた重縮合反応生成物(固有粘度[η]0.54のポリエステル)をさらに固相重合して得られたポリエステル(蛍光X線法[TFK3064型(ガイガーフレックス社製)]により測定したときのチタン金属量0.28mol/ton,固有粘度[η]1.1,環状三量体含有量0.24重量%)を溶融押出しし二軸延伸して得られるフイルムであって,該フイルムの環状三量体含有量(ポリマ100mgをオルトクロロフェノール5mlに溶解し液体クロマト(モデル8500Varian社製)で測定したときのポリマに対する割合)が0.40wt%である二軸配向ポリエステルフイルム」

(2) 対比
ア 本願補正発明と引用発明3を対比すると,引用文献3の実施例6は,実施例1において添加されていた三酸化二アンチモンに代えてテトラエチレングリコキシドチタンを添加するものであるから,そのポリエステルはアンチモン元素を実質的に含まないのは明らかである。また,引用発明3のポリエステルは,その製造にあたって重合触媒としてテトラエチレングリコキシドチタンならびにリン酸トリメチルを添加しているから,チタン元素及びリン元素を含有することも明らかである。さらに,本願明細書の【0017】及び【0034】から,引用発明3の「環状三量体」は本願補正発明の「オリゴマー」に相当するといえる。
イ そうすると,本願発明と引用発明3との一致する点(一致点),相違する点(相違点1?2)はそれぞれ次のとおりである。
・ 一致点
アンチモン元素を実質的に含まず,チタン元素及びリン元素を含有する,固相重合して得られたポリエステルを溶融押し出しして得られるポリエステルフィルム
・ 相違点1
ポリエステルに含まれるチタン元素とリン元素の含有量について,本願補正発明は「チタン元素を1?20ppm含有し,リン元素を1?300ppm含有する」と特定するのに対し,引用発明3は,チタン元素について「蛍光X線法[TFK3064型(ガイガーフレックス社製)]により測定したときのチタン金属量0.28mol/ton」と特定するものの,リン元素についての特定がない点
・ 相違点2
フィルムの性状について,本願補正発明は「当該フィルム中のオリゴマー量がフィルム重量に対して0.7重量%以下であり,フィルムにメチルエチルケトンを塗布,乾燥し,180℃で10分間熱処理した後,フィルム表面のオリゴマー量が5.0mg/m^(2)以下であり,当該処理を行う前後のフィルムヘーズの差(ΔH)が3.0%以下」であると特定するのに対し,引用発明3はフィルム中のオリゴマー量について「ポリマ100mgをオルトクロロフェノール5mlに溶解し液体クロマト(モデル8500Varian社製)で測定したときのポリマに対する割合が0.40wt%」であると特定するものの,ヘーズの差(ΔH)についての特定がない点

(3) 相違点についての判断
ア 相違点1について
(ア) 元素量の定量について
本願発明は,本願明細書の【0041】によれば,蛍光X線分析装置である(株)島津製作所社製型式「XRF-1500」により測定されたものであるのに対し,引用発明3は,蛍光X線法を用いた装置であるガイガーフレックス社製「TFK3064型」により測定されたものである点で両者には一応の相違がみられるが,両者の装置とも蛍光X線法を用いるものであることからして,両装置の測定値には大きな解離は生じないと解される。
(イ) チタン元素について
引用発明3のポリエステルは,チタン元素を0.28mol/tonの割合で含有するものであるところ,チタンの原子量は47.87であるから,その含有割合[g/ton(=ppm)]は次式で換算される。

0.28mol/ton = 0.28×47.87g/ton = 13.4ppm

そして,本願補正発明は,チタン元素の含有量について,「チタン元素を1?20ppm」と特定するものであるから,上記(ア)での検討を併せ勘案すると,引用発明3は本願補正発明の範囲に包含される,すなわち,両者は,引用発明3の含有し得る含有量(13.4ppm)で一致するといえる。
(ウ) リン元素について
a 引用発明3のリン酸トリメチルは,ポリエステルの重合触媒として添加されたものであるから,添加された量(ジメチルテレフタレート量に対して0.026wt%)のほぼ全量がポリエステル中に含有されていると解される。このことは,引用文献3の実施例1に係るポリエステルについてもあてはまる。そして,引用文献3の実施例1では引用発明3と同量のリン酸トリメチルが添加されているのであるから,引用発明3のポリエステルにおけるリン元素の含有量は,実施例1のポリエステルに含まれるリン元素の含有量と同じということになる。
そこで以下,引用文献3の実施例1におけるリン元素の含有量を求めることで,引用発明3において含有し得るリン元素含有量を導出する。
b 引用文献3には,実施例1について,ジメチルテレフタレート量に対して三酸化二アンチモン(Sb_(2)O_(3):分子量291.52)0.008wt%を添加したとき,0.53mol/tonのアンチモンを含むポリエステルが得られた旨の記載がある(【0023】)。
そうすると,実施例1において,リン酸トリメチル((CH_(3)O)_(3)PO:分子量140.08)はジメチルテレフタレート量に対して0.026wt%添加されているのであるから,実施例1のポリエステルに含まれるリン元素含有量X[mol/ton]は,三酸化二アンチモンの添加量とポリエステル中に含まれるアンチモン元素の含有量との関係から,次式によって算出することができる。(このとき,リン酸トリメチルは1分子当たり1個のリン元素を含むのに対し,三酸化二アンチモンは2個のアンチモン元素を含むことが考慮される。)

リン元素含有量X = 0.53×(0.026/140.08)×(291.52/0.008)×(1/2) = 1.79mol/ton

そして,リンの原子量は30.97であるから,実施例1におけるリン元素の含有割合[g/ton(=ppm)]は次式で換算される。

1.79mol/ton = 1.79×30.97g/ton = 55.4ppm

c よって,本願補正発明は,リン元素の含有量について,「リン元素を1?300ppm」と特定するものであるから,上記(ア)及び上記aでの検討を併せ勘案すると,引用発明3は本願補正発明の範囲に包含される,すなわち両者は,引用発明3の含有し得る含有量(55.4ppm)で一致するといえる。
(エ) 小活
以上のとおりであるから,相違点1は,実質的な相違点であるとはいえない。

イ 相違点2について
(ア) フィルム中ならびにフィルム表面のオリゴマー量について
a 本願補正発明は,フィルム中のオリゴマー量について,「フィルム重量に対して0.7重量%以下であ」ると特定するものであるところ,このような性状は,本願明細書の【0013】?【0014】の記載や,比較例3及び4とその他比較例及び実施例1?5との対比(【表2】)などから,その特定事項であるチタン元素を1?20ppm,リン元素を1?300ppm含有し,さらに固相重合して得られたポリエステルを用いることで達成するものであると解される。(なお,引用発明3のフイルム中のオリゴマー量は,上記(1)イで認定のとおり0.40質量%であり,この値は本願補正発明の範囲を満たす蓋然性が高いともいえる。すなわち,フィルム中のオリゴマー量の定量について,本願補正発明(本願明細書【0034】?【0035】)と引用発明3(ポリマ100mgをオルトクロロフェノール5mlに溶解し液体クロマト(モデル8500Varian社製)で測定したときのポリマに対する割合)とは異なるが,両者とも液体クロマトグラフィーで分析,測定するものであることからして,その測定値には大きな解離は生じないと思われる。)
b また,本願補正発明の特定事項である「フィルムにメチルエチルケトンを塗布,乾燥し,180℃で10分間熱処理した後,フィルム表面のオリゴマー量が5.0mg/m^(2)以下」との性状は,本願明細書(例えば【0017】や,実施例1?5と比較例1?5との対比(【表3】))の記載を参酌しても,どのような技術的手段を採用することで達成するものであるか明らかでないが,フィルム中のオリゴマー量が多いほど,フィルム表面に析出するオリゴマー量も多くなる傾向がみてとれる(【表2】?【表3】)。そして,少なくともフィルム中のオリゴマー量が0.7重量%以下のとき,フィルム表面のオリゴマー量は5.0mg/m^(2)以下となるのであるから(実施例1?5),上記aで述べたことを併せ勘案すると,上記性状についても,チタン元素を1?20ppm,リン元素を1?300ppm含有し,さらに固相重合して得られたポリエステルを用いることで達成するものであると解される。
c そうすると,引用発明3は,上記アで検討のとおり,チタン元素を1?20ppmの範囲,リン元素を1?300ppmの範囲で含有するものであるし,上記(1)イで認定のとおり,固相重合して得られたポリエステルを用いているのであるから,引用発明3のフィルム中ならびにフィルム表面のオリゴマー量についても,当然に,本願補正発明が特定する数値範囲を満足するものであるといえる。
(イ) ヘーズの差(ΔH)について
また,本願補正発明は,「フィルムにメチルエチルケトンを塗布,乾燥し,180℃で10分間熱処理」した後において,「当該処理を行う前後のフィルムヘーズの差(ΔH)が3.0%以下」であることを特定事項とするものであるところ,このような性状は,本願明細書(例えば【0015】,【0018】,比較例2?5と実施例1?5及び比較例1との対比(【表2】?【表3】))の記載から,本願補正発明の特定事項であるアンチモン元素を実質的に含まず,チタン元素を1?20ppm含有するポリエステルを用い,フィルム中のオリゴマー量をフィルム重量に対して0.7重量%以下とすることで達成するものであると解される。
そして,引用発明3は,上述のとおりアンチモン元素を実質的に含んでおらず,チタン元素を1?20ppmの範囲で含有するものであるし,そのフィルム中のオリゴマー量は,上記(ア)で検討のとおりフィルム重量に対して0.7重量%以下の範囲にあるといえるから,引用発明3のフィルムにメチルエチルケトンを塗布,乾燥し,180℃で10分間熱処理を行う前後のフィルムヘーズの差(ΔH)についても,当然に,本願補正発明が特定する数値範囲(3.0%以下)を満足するものであるといえる。
(ウ) 小活
以上のとおりであるから,相違点2についても,実質的な相違点であるとまではいえない。

ウ 請求人の主張に対し
(ア) 請求人は,審判請求書(3頁)において,引用文献3には,アンチモン元素,チタン元素及びリン元素が特定(本願補正発明)の含有量であるポリエステルを用いたフィルムであって,特定の溶剤処理後のオリゴマー量やフィルムヘーズの差について開示も示唆もない旨主張する。
しかし,上記のパラメータ要素について,上記ア?イで検討のとおり,引用発明3は本願補正発明を満足する,すなわち,本願補正発明の数値範囲のものは引用文献3に記載されているに等しい事項であるといえるから,請求人の上記主張は採用できない。
(イ) また,請求人は,引用文献3の実施例6に係る発明は本願補正発明と同一であるとの前置報告を添付してされた審尋に対する回答書(2頁)において,引用文献3には二軸延伸フィルムに係る具体的な延伸条件の記載がないなど,本願補正発明が二軸延伸フィルムであることを前提とした主張をする。
しかし,本願補正発明のフィルムは,上記4(1)で認定するように,二軸延伸フィルムであることを何ら特定していない。請求人の主張は,本願補正発明に係る本願の請求項1の記載に基づかない主張であって,根拠がなく,失当である。
また仮に,本願補正発明が二軸延伸フィルムであるといえるとしても,引用発明3も二軸延伸フィルムであるし,引用発明3の延伸条件が具体的であるか否かといった事実は,上記ア?イの検討(認定)を何ら左右しない。

(4) 以上のとおり,本願補正発明は,引用発明3と実質的に同一であるので引用文献3に記載された発明であるといえる。

6 まとめ
以上のとおりであるから,本件補正は,平成18年法律55号改正附則3条1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法17条の2第5項において準用する同法126条5項の規定に違反するので,同法159条1項において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下すべきものである。
よって,結論のとおり決定する。

第3 本願発明について
1 本願発明
上記第2のとおり,本件補正は却下されたので,本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は,平成22年5月12日に補正された明細書及び特許請求の範囲の記載からみて,その特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「アンチモン元素を実質的に含まないポリエステルを溶融押し出しして得られるフィルムであり,当該フィルム中のオリゴマー量がフィルム重量に対して0.7重量%以下であり,フィルムにメチルエチルケトンを塗布,乾燥し,180℃で10分間熱処理した後,フィルム表面のオリゴマー量が5.0mg/m^(2)以下であり,当該処理を行う前後のフィルムヘーズの差(ΔH)が3.0%以下であることを特徴とするポリエステルフィルム。」

2 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は,要するに,本願発明は引用文献3に記載された発明であるから特許法29条1項3号に該当し特許を受けることができない,というものである。
なお,原査定の拒絶の理由は,上述のほか,本願発明はその他の刊行物(特開平5-155992号公報,特開平6-322082号公報,特開2002-322259号公報)に記載の発明に対していわゆる新規性を有しない,本願は特許法36条4項,同6項1号及び同6項2号所定の要件を満たさないといった理由を含む。

3 引用発明3
引用発明3は,上記第2_5(1)イにおいて認定のとおりである。

4 対比・判断
本願発明は,本願補正発明との比較において,ポリエステルについて,本願補正発明が「チタン元素を1?20ppm含有し,リン元素を1?300ppm含有する,固相重合して得られた」と特定する事項を有しないものである(上記第2_1参照)。
そうすると,本願発明の特定事項をすべて含む本願補正発明が,上述のとおり,特許法29条1項3号に該当し特許を受けることができないものである以上,本願発明も,同様の理由により,特許法29条1項3号に該当し特許を受けることができないものであるといえる。

第4 むすび
以上のとおり,原査定の拒絶の理由は妥当なものであるから,本願は拒絶すべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-10-30 
結審通知日 2012-11-06 
審決日 2012-11-19 
出願番号 特願2004-202620(P2004-202620)
審決分類 P 1 8・ 113- Z (C08J)
P 1 8・ 575- Z (C08J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 大熊 幸治  
特許庁審判長 渡辺 仁
特許庁審判官 小野寺 務
須藤 康洋
発明の名称 ポリエステルフィルム  

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