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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性  E21D
審判 全部無効 (特120条の4,3項)(平成8年1月1日以降)  E21D
審判 全部無効 3項(134条5項)特許請求の範囲の実質的拡張  E21D
審判 全部無効 特120条の4、2項訂正請求(平成8年1月1日以降)  E21D
管理番号 1268574
審判番号 無効2012-800037  
総通号数 159 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-03-29 
種別 無効の審決 
審判請求日 2012-03-28 
確定日 2012-12-05 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第4866441号発明「覆工コンクリート締固め用バイブレータ装置」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 訂正を認める。 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
本件の手続の経緯は以下のとおりである。

平成21年 4月28日 本件出願(特願2009-109778)
平成23年11月18日 設定登録(特許第4866441号)
平成24年 3月28日 本件無効審判請求
平成24年 6月15日 審判事件答弁書及び訂正請求書提出
平成24年 7月20日 弁駁書提出
平成24年 9月 5日 審理事項通知
平成24年 9月28日 請求人より口頭審理陳述要領書提出
平成24年10月 4日 被請求人より口頭審理陳述要領書提出
平成24年10月18日 口頭審理


第2 当事者の主張
1 請求人の主張の概要
請求人は,特許第4866441号の請求項1及び2に係る発明についての特許を無効とする,審判費用は被請求人の負担とする,との審決を求め,甲第1?7号証を提出して,次の無効理由を主張した。

[無効理由の概要]
本件特許の請求項1および請求項2に係る発明は,甲第1号証及び甲第2?7号証に記載された各発明に基づいて,出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり,同法第123条第1項第2号に該当し,無効とすべきである。
具体的には,甲第1号証に記載された発明に甲第2?7号証に記載された発明を適用することは当業者が容易に推考できるものである。

[証拠方法 ]
甲第1号証:特開2007-332666号公報
甲第2号証:特開2005-273255号公報
甲第3号証:特許第3822525号公報
甲第4号証:特開2005-213867号公報
甲第5号証:特開2001-262986号公報
甲第6号証:実開平6-13662号公報
甲第7号証:特開昭61-132459号公報

2 被請求人の主張の概要
被請求人は,特許第4866441号の明細書及び特許請求の範囲を,平成24年6月15日付け訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり訂正することを求め,本件無効審判の請求は成り立たない,審判費用は請求人の負担とするとの審決を求めて乙第1?3号証を提出した。

[証拠方法 ]
乙第1号証:新村出(編)「広辞苑第4版」岩波書店 第四版第三刷(1993年10月25日)第497頁の写し
乙第2号証:土木出版企画委員会(編)「図説土木用語事典」実教出版株式会社 第18刷(1996年8月30日)第67頁の写し
乙第3号証:「建築構造online」に公開された「2-4.片持ち梁」の頁の写し,インタネットU R L : http://kozoonline.kilo.jp/text/024.html


第3 訂正について
1 訂正の内容
平成24年6月15日付け訂正請求書による訂正事項は,以下のとおりである。
(1)訂正事項1
請求項1において,
「駆動機構とを有し,
このバイブレータガイドを」との記載を,
「駆動機構とを有し,
上記締固め用バイブレータおよび上記ガイドパイプは,上記打設コンクリート中に浮いた状態で,かつ,バイブレータガイドに片持ち支持された状態で上記打設コンクリートの締め固めを行うとともに,
このバイブレータガイドを」と訂正する。

(2)訂正事項2
明細書の段落【0009】(本件特許公報第3頁第29行)において,
「駆動機構とを有し,このバイブレータガイドを」との記載を,
「駆動機構とを有し,上記締固め用バイブレータおよび上記ガイドパイプは,上記打設コンクリート中に浮いた状態で,かつ,バイブレータガイドに片持ち支持された状態で上記打設コンクリートの締め固めを行うとともに,このバイブレータガイドを」と訂正する。

2 本件訂正の適否
上記の訂正事項について検討する。
上記訂正事項1は,締固め用バイブレータおよびガイドパイプの構造について,「打設コンクリート中に浮いた状態で,かつ,バイブレータガイドに片持ち支持された状態で上記打設コンクリートの締め固めを行う」構造に限定するものであるから,特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また,本件特許明細書の【0025】には,「バイブレータ21,22およびガイドパイプ23,24は打設コンクリート中に浮いた状態で,すなわち後述するバイブレータガイドに片持ち支持された状態で打設コンクリートの締め固めを行うこととなる。」と記載されており,訂正事項1は,本件特許明細書に記載した事項の範囲内においてなされたものであって,実質上特許請求の範囲を拡張し変更するものではない。

上記訂正事項2については,訂正事項1による特許請求の範囲の減縮に伴い,明細書の記載と特許請求の範囲の記載との整合を図ったものであるから,明りょうでない記載の釈明を目的とするものであり,本件特許明細書に記載した事項の範囲内においてなされたものであって,実質上特許請求の範囲を拡張し変更するものではない。

したがって,上記訂正事項1,2は,特許請求の範囲の減縮,明りょうでない記載の釈明を目的とし,いずれも,願書に添付した明細書,特許請求の範囲に記載されている事項の範囲内の訂正であり,また,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではない。

よって,本件訂正は,平成23年法律第63号改正附則第2条第18項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第134条の2ただし書き,及び同条第5項において準用する同法第126条第3項,4項の規定に適合するので適法な訂正と認める。


第4 本件特許発明
上記「第3 訂正について」において,本件訂正を適法な訂正と認めたので,本件特許の請求項1及び2に係る発明は,平成24年6月15日付け訂正請求書に添付の訂正特許請求の範囲の,請求項1,2に記載された,以下のとおりのものである。
「【請求項1】半円筒形状であってアーチ状外面を有するスライドセントルが,トンネルに挿入されることにより,このトンネルの地山とこのスライドセントルのアーチ状外面との間に画成された打設空間に地山覆工用のコンクリートが打設されるコンクリート打設構造において,
上記打設空間に打設された打設コンクリートの内部に挿入されてこの打設コンクリートに振動を付加することにより,この打設コンクリートを締め固める締固め用バイブレータと,
この締固め用バイブレータを上記打設コンクリートに対して挿入・引き抜き可能としたバイブレータ進退手段とを備え,
このバイブレータ進退手段は,
上記スライドセントルの妻部であってそのアーチ天井部からスライドセントルの軸線方向に延びて突出するバイブレータガイドと,
このバイブレータガイドに沿って往復動自在に支持され,その先端に上記締固め用バイブレータが取り付けられたガイドパイプと,
このガイドパイプの後端部に取り付けられ,このガイドパイプを上記バイブレータガイドに沿って往復動させる駆動機構とを有し,
上記締固め用バイブレータおよび上記ガイドパイプは,上記打設コンクリート中に浮いた状態で,かつ,バイブレータガイドに片持ち支持された状態で上記打設コンクリートの締め固めを行うとともに,
このバイブレータガイドを上記アーチ天井部から上記軸線方向に向かって突出した状態でその外周に沿って所定角度範囲で移動可能とした覆工コンクリート締固め用バイブレータ装置。
【請求項2】
上記スライドセントルの妻部に設けられて,その外周方向に延びる横行用レールと,
上記バイブレータガイドを支持するとともにこの横行用レールを走行する横行用ローラと,
この横行用ローラを横行用レールに沿って走行させる横行用シリンダとを備えた請求項1に記載の覆工コンクリート締固め用バイブレータ装置。」(以下,「本件発明1」等という。)


第5 無効理由についての判断
1 証拠方法の記載内容
本件特許の出願日前に頒布された刊行物である甲第1号証?甲第7号証には,次の事項が記載されている。(下線は,当審にて付与。)

(1)甲第1号証(特開2007-332666号公報)
(1a)「【0009】
図1には本発明のトンネル覆工コンクリートの締固め装置を備えたトンネル用スライドセントルの横断面を示し,図2にはその縦断面を示す。図1において,スライドセントル1は車両通行可能な門型のガントリー2を備えており,当該ガントリー2には,その上半を覆うように配設したアーチ型の覆工用型枠(以下,単に型枠という)3が支持されている。そして,型枠3の外周壁とトンネルTの内周壁との間に二次覆工用のコンクリートを打設する覆工空間Sが略半円弧状に形成されている。ガントリー2は紙面垂直の前後方向へ一定の長さを有しており,その前後端の脚部21下端には車輪22が設けられてレール23上に位置している。また,ガントリー2の前後方向の中間に位置する複数の各脚部24にはそれぞれ下端に補助ジャッキ25が設けられている。なお,図1の左右半部は,それぞれガントリー長手方向における異なる位置での横断面である。
【0010】
型枠3は図2に示すように,一定幅の同形の型枠部材31を前後方向で複数互いに連結して構成されており,各枠部材31は,頂部に位置する天端フォーム32(図1),天端フォーム32の両端下面に回動可能に連結されて両側に位置する側フォーム33,および側フォーム33の下端に回動可能に連結された下端フォーム34より構成されている。天端フォーム32は,ガントリー2の頂部上に前後方向へ複数設けたジャッキ26によって昇降可能に支持されている。また,側フォーム33と下端フォーム34はそれぞれジャッキ27,28によってガントリー2の脚部21,24に連結されて,内外方向へ回動させられる。
【0011】
図2において,ガントリー2の外端に突設された作業架台41の上方には支持架台42が外方へ向けて突設されており,支持架台42には長手方向へ間隔をおいて複数の支持柱43が立設されて,これら支持柱43にレール部材44が支持されている。これらレール部材44は正面視では図1に示すように天端フォーム32に沿って円弧状に湾曲し,天端フォーム32の長さより短い領域に配設されている。
【0012】
最前列とこれの後列のレール部材44には左右位置(図3)に,これらレール部材44に沿って移動可能に二台の台車5A,5Bが装着されている。台車5A,5Bには図4に示すように,先端部61内にバイブレータを設置した棒状支持部材としての支持パイプ6がその軸方向へ移動可能に支持されている。支持パイプ6は,最外側に位置する型枠部材31の外端よりも外方に引き出されており,その後端62(図2)からはバイブレータへの給電ケーブル(図示略)が引き出されている。
【0013】
各台車5A,5Bは,支持柱43を連ねてトンネルTの長手方向へ延びる細長い基体51(図2)と,これの前端部下面より前後のレール部材44間へ突出する移動機構部52とを備えている。支持パイプ6はU字断面をなす上記基体51(図3)内に摺動可能に収納されており,当該基体51はその長手方向複数箇所の両側下部に設けられた走行ローラ511(図3,図4)により各レール部材44上に載置されている。
【0014】
上記移動機構部52は矩形のケース521(図4)を有しており,当該ケース521をその長手方向へ貫通して回転軸71が設けられている。回転軸71はケース521の前後の端面に設けた軸受部材72に支持されており,ケース521から突出した回転軸71の両端にスプロケット73が装着されて,これらスプロケット73の歯形が,前後のレール部材44の下面に固定されたローラチェーン74に噛合している。回転軸71の中間部には大型のスプロケット75が設けられており,一方,ケース521の後部下面に突設された平行ブラケット522には,ハンドル76で回転操作される軸体77が設けられて,当該軸体77に装着された小型のスプロケット78と上記スプロケット75とがチェーン79で連結されている。これにより,ハンドル76を回転操作すると,これに応じてスプロケット73がローラチェーン74に対し正逆転させられて,台車5A,5Bおよびこれに載置された支持パイプ6がレール部材44に沿って正逆移動させられる。
【0015】
上記ケース521の前部下面にはモータ81を付設した引抜き用ウインチ82が設けてあり,これから引き出されたワイヤ83が基体51の前端に設けたシーブ84を経て支持パイプ6の先端に至り,ここに結合されている。一方,ガントリー2の最奥端には左右対称位置の4箇所に(図3)図示しない架台に支持されて,モータ85(図4)を付設した引込み用ウインチ86が設けられており,これから引き出されたワイヤ87が,既設の覆工コンクリートCの端面に打ち込まれたアンカーボルト88を経て覆工空間S内を外方へ延びて,覆工空間Sを外方から遮断するように型枠部材31の外端に装着された妻板311の,シールパッキンを備えた開口312から外方へ引き出されて,支持パイプ6の先端に結合されている。
【0016】
このような構造の締固め装置において,覆工空間S内へ覆工コンクリートを注入すると,型枠部材31の下端フォーム34とトンネルT内周壁の間から,側フォーム33とトンネルT内周壁の間へと覆工コンクリートが侵入し,この間は,型枠部材31の適宜位置に設けた点検口からバイブレータを挿入して覆工コンクリートの締め固めを行う。覆工コンクリートが天端フォーム32とトンネルT内周壁の間まで上昇してくると,各移動機構部52のハンドル76を回して各台車5A,5B上の支持パイプ6をレール部材44に沿って移動させて,天端フォーム32の頂部から遠い側の図3に示す位置に置く。この位置で,既述のように,引込み用ウインチ86から引き出されているワイヤ87が支持パイプ6の先端に結合される(図5(A))。その後,支持パイプ先端部61内のバイブレータに通電してこれを振動させつつ,ワイヤ87を引込み用ウインチ86で巻き取り,支持パイプ6を妻板311の開口312(図4)から覆工空間S内へ進入させる。支持パイプ6の先端が既設の覆工コンクリートCの外端面近くに至ったら(図5(B))引込み用ウインチ86を停止し,その後,ワイヤ87を切断する。そして,引抜き用ウインチ82を起動してワイヤ83を巻き取り,支持パイプ6を漸次覆工空間S内から外方へ引き出す(図5(C),(D))。このようにして,天端フォーム32とトンネルT内周壁との間の覆工空間Sに侵入した覆工コンクリートを締め固めることができる。
【0017】
天端フォーム32とトンネルT内周壁との間へさらに覆工コンクリートが注入されてくるのに応じて,各移動機構部52のハンドル76を回して各台車5A,5B上の支持パイプ6をレール部材44に沿って天端フォーム32の頂部に近い側の位置X(図3)へ移動させる。そして,引込み用ウインチ86から引き出されているワイヤ87を各支持パイプ6の先端に結合して,以下,上述の工程を繰り返し,注入された覆工コンクリートを締め固める。」
(1b)上記記載事項(1a)における【0012】,【0013】,【0017】には,「台車5A,5B」は「トンネルTの長手方向へ延びる細長い基体51」を備えており,「基体51はその長手方向複数箇所の両側下部に設けられた走行ローラ511(図3,図4)により各レール部材44上に載置されて」いて,「支持パイプ6はU字断面をなす上記基体51(図3)内に摺動可能に収納されており」,「台車5A,5B上の支持パイプ6をレール部材44に沿って天端フォーム32の頂部に近い側の位置X(図3)へ移動させる」点が記載されており,図1,3もあわせみると,「レール部材44」は「型枠3」の天井の外周に沿っているから,「基体51」は「型枠3の天井の外周に沿って所定の角度範囲で移動可能」であると認められる。
また,図2,4,5からみて,「基体51」は「型枠3」の上部から「トンネルTの長手方向へ延び」ており,「トンネルTの長手方向」は「スライドセントル1の軸線方向」であると認められる。
そうすると,甲第1号証には「型枠3の上部からスライドセントル1の軸線方向へ延びる基体51を,型枠3の天井の外周に沿って所定の角度範囲で移動可能」である点が記載されていると認められる。

したがって,上記記載事項(1a),(1b)及び図1?5からみて,甲第1号証には以下の発明が記載されている。
「スライドセントル1が車両通行可能な門型のガントリー2を備えており,当該ガントリー2には,その上半を覆うように配設したアーチ型の型枠3が支持され,型枠3の外周壁とトンネルTの内周壁との間に二次覆工用のコンクリートを打設する覆工空間Sが略半円弧状に形成され,
ガントリー2の外端に突設された作業架台41の上方には支持架台42が外方へ向けて突設されており,支持架台42には長手方向へ間隔をおいて複数の支持柱43が立設されて,これら支持柱43にレール部材44が支持され,
これらレール部材44に沿って移動可能に二台の台車5A,5Bが装着され,台車5A,5Bには,先端部61内にバイブレータを設置した棒状支持部材としての支持パイプ6がその軸方向へ移動可能に支持され,支持パイプ6は,最外側に位置する型枠部材31の外端よりも外方に引き出されており,
各台車5A,5Bは,支持柱43を連ねてトンネルTの長手方向へ延びる細長い基体51と,当該基体51の前端部下面より前後のレール部材44間へ突出する移動機構部52とを備え,支持パイプ6はU字断面をなす上記基体51内に摺動可能に収納されており,当該基体51はその長手方向複数箇所の両側下部に設けられた走行ローラ511により各レール部材44上に載置され,
上記移動機構部52は矩形のケース521を有しており,当該ケース521の前部下面にはモータ81を付設した引抜き用ウインチ82が設けてあり,引抜き用ウインチ82から引き出されたワイヤ83が基体51の前端に設けたシーブ84を経て支持パイプ6の先端に至り結合され,ガントリー2の最奥端には左右対称位置の4箇所で架台に支持されて,モータ85を付設した引込み用ウインチ86が設けられており,引込み用ウインチ86から引き出されたワイヤ87が,既設の覆工コンクリートCの端面に打ち込まれたアンカーボルト88を経て覆工空間S内を外方へ延びて,覆工空間Sを外方から遮断するように型枠部材31の外端に装着された妻板311の,シールパッキンを備えた開口312から外方へ引き出されて,支持パイプ6の先端に結合され,
型枠3の上部からスライドセントル1の軸線方向へ延びる基体51を,型枠3の天井の外周に沿って所定の角度範囲で移動可能であるトンネル覆工コンクリートの締固め装置であって,
引込み用ウインチ86から引き出されているワイヤ87が支持パイプ6の先端に結合され,その後,支持パイプ先端部61内のバイブレータに通電してこれを振動させつつ,ワイヤ87を引込み用ウインチ86で巻き取り,支持パイプ6を妻板311の開口312から覆工空間S内へ進入させ,支持パイプ6の先端が既設の覆工コンクリートCの外端面近くに至ったら引込み用ウインチ86を停止し,その後,ワイヤ87を切断し,引抜き用ウインチ82を起動してワイヤ83を巻き取り,支持パイプ6を漸次覆工空間S内から外方へ引き出して,天端フォーム32とトンネルT内周壁との間の覆工空間Sに侵入した覆工コンクリートを締め固めることができる
トンネル覆工コンクリートの締固め装置」(以下,「甲1発明」という。)

(2)甲第2号証(特開2005-273255号公報)
(2a)「【0018】
図6は請求項1の発明の実施形態である。
コンクリートバイブレータ2の後端にワイヤ4を内装したキャブタイヤケーブル3の一端が接続してあり,前記コンクリートバイブレータ2の前端にワイヤ4の他端が連結してあり,前記ワイヤ4はコンクリートバイブレータ2を介してリンクを形成している。
【0019】
トンネルのアーチクラウン部におけるコンクリート未施工側(図中左側)にはアンカー5が設置してあり,アンカー5の上部及び下部に固定滑車6が取り付けてある。前記上部の固定滑車6は前記アーチクラウン部においてキャブタイヤケーブル3及びワイヤ4がアーチクラウン部の型枠と平行となる位置に配設してある。
情報の固定滑車6によりワイヤ4は下方へ導かれ,下方の固定滑車6によってワイヤ4はトンネル基盤面とほぼ平行となって前方へ導かれる。
前記アーチクラウン部の他側(図中左側)において,型枠内にガイド10が設置してあり,ガイド10によてワイヤ4は下方へ導かれる。
前記ガイド10の下方に回転体17が設置してあり,ワイヤ4は回転体17に沿わせ 上記において,コンクリートバイブレータ2に取り付けられた前後のワイヤ4は高い張力で配設され,前記回転体17の回転によりワイヤ4が移動し得るようにしてある。図中符号15は後方から導かれたワイヤ4を回転体17の下側に導くための固定滑車である。
【0020】
この実施形態においても,回転体17を回転させることによりワイヤ4が移動し,もってコンクリートバイブレータ2が前後に移動する。
なお,前記回転体17の設置位置は適宜選択することができる。」

(3)甲第3号証(特許第3822525号公報)
(3a)「【0036】
次に,横移動手段24である各横行シリンダー28を伸縮させることにより,トンネル36の幅方向の両側へ各アウトリガー26をそれぞれ移動させる(図5(ロ)参照)。」
(3b)「【0046】
次に,横移動手段24である各横行シリンダー28を伸縮させることにより,トンネル36の幅方向の他側へ各アウトリガー26をそれぞれ横移動させる(図8(ロ)参照)。」

(4)甲第4号証(特開2005-213867号公報)
(4a)「【0015】
〔第1実施形態〕
まず,本発明の第1実施形態について図1?5を参照して説明する。
図1(a)(b)及び図5(a)に示すように,トンネル1内に設置された型枠2とトンネル1の内周壁面1aとの間にはアーチ状のコンクリート打設室3が設けられている。このコンクリート打設室3内の天井部分には内周方向の複数箇所(例えば四箇所)で複数の内側ガイド4がトンネル1の長手方向Xへ並設されている。図5(b)(c)に示すように,この各内側ガイド4は円環状の案内輪4a(受け部)を有している。なお,型枠2には各内側ガイド4の付近で検査窓2aが設けられている。」
(4b)「【0017】
前記各案内レール6内には往復駆動部である油圧シリンダ13(駆動機構の一部である流体シリンダ)が取り付けられ,そのピストンロッド13aが案内レール6の一端部側へ向けて延びている。図3及び図4(a)(b)に示すように,前記送り機構8の把持駆動部10においては,第一レバー14と第二レバー15と第三レバー16とがそれぞれ可動台17に対し支軸18,19,20により回動可能に支持されている。この第一レバー14の第一腕部14aと第二レバー15の第一腕部15a,この第二レバー15の第二腕部15bと第三レバー16の腕部16a,この第一レバー14の第二腕部14bと前記油圧シリンダ13のピストンロッド13aとは,それぞれ,長孔21に対するピン22の係入による滑り対偶により互いに連結されている。前記送り機構8の把持機構9においては,下側挟持体23(挟持部材)が前記可動台17に対し上下動可能に支持されているとともに前記第二レバー15の第一腕部15aに対し支軸24で回動可能に支持され,上側挟持体25(挟持部材)が前記第三レバー16の腕部16aに対し支軸26で回動可能に支持されているとともに圧縮コイルばね27により付勢されている。前記ピストンロッド13aが伸長すると,前記送り機構8が案内レール6の一端部側に接近して前進位置Fとなり,前記ピストンロッド13aが収縮すると,前記送り機構8が案内レール6の一端部側から離間して後退位置Bとなる。
【0018】
各バイブレータ28は先端部に振動体29を有する細長いパイプ30(鋼管)を主体とし,このパイプ30内を通る電線31がこの振動体29に接続されているとともにパイプ30の基端部30aから引き出されている。この各バイブレータ28は,前記支持ローラ台12上と両ガイドローラ台7上と把持機構9の上下両側挟持体25,23間と洗浄リング台11内とに挿入されるとともに,型板3aのシール口部からコンクリート打設室3内に挿入されて各ガイド4の案内輪4a内に挿入される。各バイブレータ28のパイプ30の基端部30aと支持ローラ台12との間には連動チェーン32が連結されている。前記ピストンロッド13aが収縮して前記把持駆動部10の第一レバー14の第二腕部14bに回動力(駆動力)が加わると,この把持駆動部10により前記把持機構9の上下両側挟持体25,23が互いに接近してバイブレータ28のパイプ30を挟持する把持状態Pとなる。前記ピストンロッド13aが伸長して前記把持駆動部10の第一レバー14の第二腕部14bに回動力(駆動力)が加わると,この把持駆動部10により前記把持機構9の上下両側挟持体25,23が互いに離間してバイブレータ28のパイプ30の挟持を解除する把持解除状態Qとなる。
【0019】
図1(a)に示すように,コンクリートの打設前に各バイブレータ28をコンクリート打設室3内に挿入して振動体29をトンネル1の長手方向Xでコンクリート打設室3内の最深部に位置させる。その後,このコンクリート打設室3内に覆工コンクリートCを下部側から天井部分側へ順次充填する。次に,油圧シリンダ13のピストンロッド13aの後退により把持機構9が前進位置Fから後退位置Bへ移動する際にバイブレータ28のパイプ30を把持するとともに,そのピストンロッド13aの前進により把持機構9が後退位置Bから前進位置Fへ移動する際にバイブレータ28のパイプ30の把持を解除する往復動作を繰り返す。そのため,バイブレータ28は,その振動体29によりコンクリート打設室3内で覆工コンクリートCの締固めを行いながら,トンネル1の長手方向Xに沿って最深部側から入口側へ強制的に送られ,図1(b)に示す状態となる。その場合,バイブレータ28のパイプ30の基端部30aにある連動チェーン32により支持ローラ台12が引かれてこのパイプ30を支えながら支持台5に沿って後退する。」
(4c)図1,3,5には,上記記載事項(4a),(4b)を勘案すると,「バイブレ-タ28は先端部に振動体29を保持するパイプ30を主体とし,当該パイプ30を,送り機構8を構成する把持機構9によって挟持し,
当該バイブレ-タ28はコンクリート打設室3内に挿入されて各ガイド4の案内輪4a内に挿入される」点が記載されている。

(5)甲第5号証(特開2001-262986号公報)
(5a)「【0016】移動式型枠16の妻側外方上部に,後述の長尺な振動具24を移動式型枠16側へ進退(出入)させるための出入機構20が配設されている。
【0017】本例において,出入機構20は振動具24を両側から挟持させて移動できる一対の駆動ローラであり,振動具24の出入動作をより確実に行うため,振動具24表面を微細な凹凸状(ザラザラ)にしておくことにより,摩擦係数を大きくすることが望ましい。」
(5b)「【0021】本例において,振動具24は電磁式振動体を収容した振動部26が,接続ケーブル28を介して電源(図示略)と接続され,この接続ケーブル28を長尺とし,移動式型枠16から先行する,防水シートの展張作業,または鉄筋等の補強材配設作業のための台車30上に設置されたリール32に巻回させてある。」
(5c)「【0034】次に,コンクリート14の打設量の作業員の目視により,制御機構34により制御させて各振動具24を振動させると共に,各出入機構20,リール32をそれぞれ作動させることにより,移動式型枠16の坑口側(図1において左側)から妻側(図1において右側)間を順次進退(出入)移動させる。
【0035】この際,コンクリート14の打設量は,図2に示すように,コンクリート投入側(上側)から順次流動し,均一状態とならないため,コンクリート14の打設量に応じて各出入機構20の速度を調整して振動具24を進退(出入)移動させることにより,打設されたコンクリート14を広範囲にわたり振動させる。」

(6)甲第6号証(実開平6-13662号公報)
(6a)甲第6号証の【図1】?【図3】及び実用新案登録請求の範囲,発明の詳細な説明の記載からみて,甲第6号証には「ラダーチェーン5にチェーン結合ランナー6を結合して,モータ1を正回転,逆回転してカーテンを移動させる点」が記載されている。

(7)甲第7号証(特開昭61-132459号公報)
(7a)「第4図及び第5図に示す1がコンベヤーフレームで,平行する固定レール2,2を有する。図中3が該固定レール2,2に平行して循環作動するよう該固定レール2,2の間に設けた駆動ベルトで,公知のパレットコンベヤー同様,コンベヤーフレーム1の両端に設けたローラー4,5間に掛け渡し,駆動源6の駆動によって作動する。
同じく図中7がパレットで,公知のパレットと同様,その下面に走行ローラー8,8を設け,このローラー8,8が上記固定レール2,2上を転動するようにしてあると共に後で詳述する圧接ローラー9,9を上記駆動ベルト3上に位置させて設けてある。」(2ページ右下欄5?17行)
(7b)「上記の通りの構成からなる本発明パレットコンベヤーにおいて,第5図に示す駆動源6を作動させると駆動ベルト3は各図において左方向に走行する。而してパレット7の検知ロッド18がスプリング23の拡圧弾力によって前方に突出しており且つ押圧片22,22が夫々圧接ローラー9,9に当接している第1図示の状態では,圧接ローラー9は回転が阻止され且つ駆動ベルト3に押圧される。従ってパレット7は駆動ベルト3に牽引される状態となって固定レール2上を走行する。」(3ページ右上欄8?17行)
(7c)第4,5図には上記記載事項(7a),(7b)も勘案すると,駆動ベルト3によってパレット7を直線的に往復動する構造が記載されている。

2 本件発明1の無効理由についての判断
本件発明1と甲1発明を比較すると,
甲1発明の「覆工用のコンクリート」は,本件発明1の「打設コンクリート」に相当し,
以下同様に,
「覆工空間S」は,「打設空間」に,
「バイブレータ」は,「締固め用バイブレータ」に,
「基体51」は,「バイブレータガイド」に,
「支持パイプ6」は,「ガイドパイプ」に,
「基体51」,「支持パイプ6」,「モータ81」,「引込み用ウインチ86」,「ワイヤ87」,「モータ85」,「引抜き用ウインチ82」,「ワイヤ83」は,全体で「バイブレータ進退手段」に,
「モータ81」,「引込み用ウインチ86」,「ワイヤ87」,「モータ85」,「引抜き用ウインチ82」,「ワイヤ83」は,全体で「駆動機構」に,
「型枠3の上部からスライドセントル1の軸線方向へ延びる基体51を,型枠3の天井の外周に沿って所定の角度範囲で移動可能である」点は,「バイブレータガイドをアーチ天井部から上記軸線方向に向かって突出した状態でその外周に沿って所定角度範囲で移動可能とした」点に,
それぞれ相当する。
また,甲1発明の「引込み用ウインチ86から引き出されているワイヤ87が支持パイプ6の先端に結合され,その後,支持パイプ先端部61内のバイブレータに通電してこれを振動させつつ,ワイヤ87を引込み用ウインチ86で巻き取り,支持パイプ6を妻板311の開口312から覆工空間S内へ進入させ」る点は,バイブレータとバイブレータを設置した支持パイプ6がコンクリート中に浮いた状態でコンクリートの締め固めを行っていると認められるから,本件発明1の「締固め用バイブレータおよび上記ガイドパイプは,上記打設コンクリート中に浮いた状態」で,「上記打設コンクリートの締め固めを行う」点に相当する。

したがって,本件発明1と甲1発明は,
「半円筒形状であってアーチ状外面を有するスライドセントルが,トンネルに挿入されることにより,このトンネルの地山とこのスライドセントルのアーチ状外面との間に画成された打設空間に地山覆工用のコンクリートが打設されるコンクリート打設構造において,
上記打設空間に打設された打設コンクリートの内部に挿入されてこの打設コンクリートに振動を付加することにより,この打設コンクリートを締め固める締固め用バイブレータと,
この締固め用バイブレータを上記打設コンクリートに対して挿入・引き抜き可能としたバイブレータ進退手段とを備え,
このバイブレータ進退手段は,
上記スライドセントルの妻部であってそのアーチ天井部からスライドセントルの軸線方向に延びて突出するバイブレータガイドと,
このバイブレータガイドに沿って往復動自在に支持され,その先端に上記締固め用バイブレータが取り付けられたガイドパイプと,
このガイドパイプを上記バイブレータガイドに沿って往復動させる駆動機構とを有し,
上記締固め用バイブレータおよび上記ガイドパイプは,上記打設コンクリート中に浮いた状態で,上記打設コンクリートの締め固めを行うとともに,
このバイブレータガイドを上記アーチ天井部から上記軸線方向に向かって突出した状態でその外周に沿って所定角度範囲で移動可能とした覆工コンクリート締固め用バイブレータ装置。」で一致し,以下の点で相違している。

<相違点1>
ガイドパイプをバイブレータガイドに沿って往復動させる駆動機構が,本件発明1では「ガイドパイプの後端部に取り付けられ」たものであるのに対し,甲1発明では「引込み用ウインチ86から引き出されているワイヤ87が支持パイプ6の先端に結合され」,「引抜き用ウインチ82から引き出されたワイヤ83が」,「支持パイプ6の先端に至り結合され」るものであって,駆動機構はガイドパイプの後端部に取り付けられていない点。

<相違点2>
打設コンクリートの締め固めを行う際の,締固め用バイブレータおよびガイドパイプについて,本件発明1では「バイブレータガイドに片持ち支持された状態」であるのに対し,甲1発明では,「支持パイプ6」は「基体51内に摺動可能に収納」されるものであって,さらに,「支持パイプ先端部61内のバイブレータに通電してこれを振動させつつ,ワイヤ87を引込み用ウインチ86で巻き取り,支持パイプ6を妻板311の開口312から覆工空間S内へ進入させ」る状態である点。
ここで,甲1発明におけるワイヤ87を巻き取っている状態では,甲1発明における支持パイプ6の先端はワイヤ87により引かれているから自由端ではなく,「バイブレータガイドに片持ち支持された状態」には相当しない。
また,甲第1号証の【0016】では,覆工空間S内に進入させる際にバイブレータを振動させる点が記載されている一方,覆工空間S内から引き出す際には振動させる旨の記載はない。さらに,甲第1号証においては,締め固めはバイブレータを振動させて覆工空間S内に進入させる際に行われるから,ワイヤ87を切断した後の覆工空間S内から引き出す際には振動による締め固めを行う必要はない。そうすると,バイブレータを覆工空間から抜き出す際に振動させることが甲第4号証の【0019】等の記載からみて周知であったとしても,甲第1号証に記載された発明がバイブレータガイドに片持ち支持された状態で打設コンクリートの締め固めを行うものであるとまで認定することはできない。

上記,相違点1,2について検討する。
<相違点1について>
ガイドパイプをバイブレータガイドに沿って往復動させる駆動機構は,甲1発明では支持パイプ6の先端に取り付けられたものであり,「ガイドパイプの後端部に取り付け」る構成は請求人が示したその他の甲号各証に示されておらず,当該構成とすることを当業者が容易になし得たということはできない。
この点に関して,請求人は平成24年9月28日付け口頭審理陳述要領書の「5.陳述の要領(1)」において,甲第5?7号証を挙げて,本件発明1における「駆動機構がガイドパイプの後端部のみに取り付けられている」構成はその出願時において当業者が容易に採用できたものであると主張しているが,当該各号証はいずれも駆動機構をガイドパイプの後端部に取り付けるものではなく,当該後端部に取り付けることが容易であることを示すものでもない。
また,「5.陳述の要領(2)」の,ガイドパイプの後端部に取り付けられてガイドパイプをバイブレータガイドに沿って往復運動させる駆動機構を得ることは,甲第2号証の発明を甲第1号証の発明に適用することによって容易になされるものであるとの主張は,甲第2号証のワイヤ4を内装したキャブタイヤケーブル3の一端はコンクリートバイブレータ2の後端に接続しているものであり,バイプレータを設けたパイプの後端を接続するものではないから認められない。
以上のことから,上記5.(1)(2)による請求人の主張は,甲第1号証に記載された発明に甲第2?7号証に記載された発明を適用して本件発明1とすることは,容易になし得たとする理由として,採用できるものではない。

<相違点2について>
打設コンクリートの締め固めを行う際に,締固め用バイブレータおよびガイドパイプを「バイブレータガイドに片持ち支持された状態」との構成は請求人が示した甲第1?7号証に示されておらず,当該構成とすることを当業者が容易になし得たということはできない。
請求人は平成24年7月20日付け弁駁書の3ページにおいて,「バイブレータを片持ち支持する構造としては他に例えば甲第4号証に示すものがある。ここでは,その図1,図3より明らかなように,バイブレ-タ28は先端に振動体29を保持するパイプ30を備えており,当該パイプ30の基端部を,送り機構(駆動機構)8を構成する把持機構9によって片持ち支持している。」と主張している。
しかしながら,甲第4号証に記載されたパイプ30を有するバイブレ-タ28は,ガイド4の案内輪4a内に挿入されて支えられており,甲第4号証のバイブレータは「コンクリート打設室3内」で支えられていると認められるから,甲第4号証には「スライドセントルの妻部であってそのアーチ天井部からスライドセントルの軸線方向に延びて突出するバイブレータガイドに片持ち」されているものは記載されていない。

以上のことから,本件発明1は甲1発明及び甲第2?7号証に記載された発明から容易になし得たものということはできない。

3 本件発明2の無効理由についての判断
本件発明2は,本件発明1にさらに「上記スライドセントルの妻部に設けられて,その外周方向に延びる横行用レールと,上記バイブレータガイドを支持するとともにこの横行用レールを走行する横行用ローラと,この横行用ローラを横行用レールに沿って走行させる横行用シリンダとを備えた」との構成を付加したものであるから,本件発明1が甲1発明及び甲第2?7号証に記載された発明から容易になし得たものということはできない以上,本件発明2も甲1発明及び甲第2?7号証に記載された発明から容易になし得たものということはできない。

4 予備的見解
ここで,平成24年10月18日の口頭審理において,請求人は「請求項1及び2の「締固め用バイブレータおよびガイドパイプは打設コンクリート中に浮いた状態で」との記載では,何故浮くのか不明であるから発明が不明確であり,特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。」と主張し,当審は口頭審理において,当該請求の理由の補正は特許法第131条の2第2項の規定による許可をしないこととしたが,一応判断する。
上記記載は,「上記締固め用バイブレータおよび上記ガイドパイプは,上記打設コンクリート中に浮いた状態で,かつ,バイブレータガイドに片持ち支持された状態で上記打設コンクリートの締め固めを行う」との記載中のものである。そして,「片持ち支持された状態」では,締固め用バイブレータおよびガイドパイプは支持部以外では浮いた状態になるのであって,「打設コンクリート中に浮いた状態で」とは単にそのことを意味していると考えられるから,なぜ浮くのか不明であるとはいえず,発明が不明確であるとはいえない。
したがって,本件発明1,2は特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしているものである。


第6 むすび
以上のとおり,請求人の主張する理由及び証拠方法によっては,本件発明1,2を無効とすることはできない。
審判に関する費用については,特許法第169条第2項の規定において準用する民事訴訟法第61条の規定により,請求人の負担すべきものとする。
よって,結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
覆工コンクリート締固め用バイブレータ装置
【技術分野】
【0001】
この発明は覆工コンクリート締固め用バイブレータ装置、詳しくは覆工型枠(スライドセントル)を用いたトンネル内周壁のコンクリート覆工に際して使用される覆工コンクリート締固め用バイブレータ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の覆工コンクリート締固め用バイブレータ装置としては、例えば特許文献1(特開2006-336258号公報)に記載されたものが知られている。
このものでは、トンネル内に設置した型枠と、トンネルの内周壁面(吹き付けコンクリート内周面)との間に設けたコンクリート打設室(打設空間)内に、この型枠の開口から進入させて複数のガイドを配設する。そして、これらの複数のガイドに沿ってコンクリート締固め用バイブレータをコンクリート打設室外から前向きに挿入してセットした後、コンクリート打設室内にコンクリートを充填する。この充填作業の進行に応じて、コンクリート締固め用バイブレータをコンクリート打設室内からコンクリート打設室外にコンクリート打設室内のガイドに沿って後向きに引き出す。そして、バイブレータの引き抜きが完了した後、コンクリート打設室内で打設コンクリート内に残ったガイドを型枠の開口まで退避させてその開口をガイドにより閉塞する。
【0003】
図10および図11にはこの装置を模式的に示している。これらの図では、セントル(型枠)101の天井部にあって、所定長さの棒状のバイブレータ102をパイプ103の先端に把持し、これを把持器104により所定ストロークずつ後方に向かって引き抜くものである。パイプ103は、そのバイブレータ102のセット時にセントル101外面に設けた複数の支持金具(ガイド)105に全長にわたって支持される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006-336258号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、このような従来の覆工コンクリート締固め用バイブレータ装置にあっては、コンクリートの充填前に挿入・セットしたバイブレータをコンクリート充填後は打設したコンクリートの中から専ら引き抜くことにより、打設コンクリートの締固めを行っていた。
すなわち、この従来のバイブレータ装置にあっては、バイブレータは型枠(セントル)の区画板に設けられた支持板に支持されており、単に、バイブレータをパイプに挿入してこのパイプの後端を後退させることで、打設されたコンクリートからバイブレータを引き出すものに過ぎなかった。
【0006】
この結果、バイブレータを、打設コンクリート内で前進させることはできず、打設コンクリートの適切な締め固めを行うことができなかった。すなわち、いったん後退させたバイブレータを前進させることができない構造であるため、打設コンクリートについて適切な締め固めができない部分を発生させる可能性があった。特に、コンクリート打設作業での中断または不連続性が発生した場合、コンクリートの充填よりもバイブレータの引き抜きが先行する場合の打設コンクリートの品質に対して問題が生じるおそれがあり、コンクリートの充填とバイブレータの引き抜き速度をマッチさせるための作業が煩雑化していた。また、パイプを支持する支持板(支持金具)については、打設コンクリートから下方に引き出す構造のため、当該部分に空隙を生じるおそれがあった。
【0007】
そこで、発明者は鋭意研究の結果、打設コンクリート中にてバイブレータを前進・後退動させることにより、打設コンクリートの締め固め状態を安定化させる(高密度化)ことができることを知見し、この発明を完成させた。また、バイブレータをスライドセントルのアーチ天井部にて周方向に移動可能と構成することで、単一のバイブレータを周方向で複数の位置にて作動させることができることを可能とした。
【0008】
この発明は、打設コンクリートの締め固め作業を安定的にかつ効率よく行うことができる覆工コンクリート締固め用バイブレータ装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1に記載の発明は、半円筒形状であってアーチ状外面を有するスライドセントルが、トンネルに挿入されることにより、このトンネルの地山とこのスライドセントルのアーチ状外面との間に画成された打設空間に地山覆工用のコンクリートが打設されるコンクリート打設構造において、上記打設空間に打設された打設コンクリートの内部に挿入されてこの打設コンクリートに振動を付加することにより、この打設コンクリートを締め固める締固め用バイブレータと、この締固め用バイブレータを上記打設コンクリートに対して挿入・引き抜き可能としたバイブレータ進退手段とを備え、このバイブレータ進退手段は、上記スライドセントルの妻部であってそのアーチ天井部からスライドセントルの軸線方向に延びて突出するバイブレータガイドと、このバイブレータガイドに沿って往復動自在に支持され、その先端に上記締固め用バイブレータが取り付けられたガイドパイプと、このガイドパイプの後端部に取り付けられ、このガイドパイプを上記バイブレータガイドに沿って往復動させる駆動機構とを有し、上記締固め用バイブレータおよび上記ガイドパイプは、上記打設コンクリート中に浮いた状態で、かつ、バイブレータガイドに片持ち支持された状態で上記打設コンクリートの締め固めを行うとともに、このバイブレータガイドを上記アーチ天井部から上記軸線方向に向かって突出した状態でその外周に沿って所定角度範囲で移動可能とした覆工コンクリート締固め用バイブレータ装置である。
【0010】
請求項1に記載の発明によれば、トンネルの地山とスライドセントルの外周面との間の打設空間に打設された打設コンクリート内に挿入されたバイブレータは、この打設コンクリート内で前進、後退を行うことができる。したがって、コンクリートの充填作業の遅速に拘わらず、適切にバイブレータを前進後退動させることができ、全ての部位での打設コンクリートに対して高密度の締め固め作業を行うことができる。すなわち、全ての部位で、打設コンクリートの充填後の所定時間内にバイブレータを作動させて締め固めを行うことができ、充填作業が遅延した場合はいったん後退させたバイブレータを適切な時間だけ前進させることにより、当該部位での締め固め作業を適切に行うこともできる。
なお、設置するバイブレータはスライドセントルの大きさにもよるが通常2本を平行に配置する。大型のセントルについては4本としてもよく、それらのバイブレータ間の間隔は打設コンクリートの容量などにより適宜設定する。
【0011】
バイブレータとしては、特殊バイブレータを用いる。例えば周波数変換器により高周波数での振動子の回転を可能とした「HBM400Z×LH」である。バイブレータの設置位置はアーチ天井部とすることができる。アーチ天井部の打設コンクリートの締め固め作業が作業者による場合は、苦渋作業となるからである。また、打設コンクリートにあっては、特に吹き上げ方式ではアーチ天井部の締め固めが重要である。側壁部の打設コンクリートの締め固めは作業者による作業にて行うことができる。
【0012】
バイブレータを挿入・引き抜き可能とするバイブレータ進退手段は、バイブレータを長尺のガイドパイプの先端に配置し、このガイドパイプをキャリッジに搭載して構成する。さらに、このキャリッジをケーブルにてケーブル巻き取り用のチルクライマ(商品名;巻き取り巻き上げ機)によりスライドセントルの軸線方向に沿って走行移動させることにより、バイブレータを同方向、すなわち打設コンクリート内に挿入し、また打設コンクリートから引き出すことができる。
このバイブレータ進退手段は、この他に、例えばシリンダのピストンロッドの先端に連結したリンクをバイブレータに連結することで構成することもできる。この場合、バイブレータの前後方向での移動ストロークを確保するためのピストンロッドのストロークを増幅するリンク機構を設けることなども考えられる。
【0013】
本発明は、上記バイブレータ進退手段は、上記スライドセントルの妻部であってそのアーチ天井部からスライドセントルの軸線方向に延びて突出するバイブレータガイドと、このバイブレータガイドに沿って往復動自在に支持され、その先端に上記締固め用バイブレータが取り付けられたガイドパイプと、このガイドパイプの後端部に取り付けられ、このガイドパイプを上記バイブレータガイドに沿って往復動させる駆動機構とを備えた覆工コンクリート締固め用バイブレータ装置である。
【0014】
本発明にあっては、バイブレータ進退手段を、バイブレータガイドと、このバイブレータガイドに支持されたガイドパイプと、このガイドパイプを往復動させる駆動機構とを含む構成とした。この結果、駆動機構によりガイドパイプを往復動させることで、締固め用バイブレータを上記打設コンクリート中で前進および後退させることができる。
駆動機構としては、ケーブルおよびチルクライマ(巻き取り巻き上げ機)、または、その他のシリンダ、電動モータなどのアクチュエータによるケーブル駆動またはリンク駆動、さらには、ラックピニオン機構などを使用することができる。要するに、駆動機構は締固め用バイブレータを連結したガイドパイプを往復直線運動させ得るものであれば良い。
【0015】
本発明は、上記バイブレータガイドを上記アーチ天井部から上記軸線方向に向かって突出した状態でその外周に沿って所定角度範囲で移動可能とした覆工コンクリート締固め用バイブレータ装置である。
バイブレータガイドの周方向への移動角度は例えば10?30度とすることができる。
【0016】
本発明によれば、バイブレータガイドをアーチ天井部から軸線方向に向かって突出した状態で、そのアーチ天井部の外周方向に沿って移動させることができる。この結果、バイブレータをアーチ天井部での外周方向で任意の角度位置に配設することができる。例えば1本のバイブレータでも外周方向での複数位置で打設コンクリートを締め固めることができる。これは省設備、省コストに資することとなる。
【0017】
請求項2に記載の発明は、上記スライドセントルの妻部に設けられて、その外周方向に延びる横行用レールと、上記バイブレータガイドを支持するとともにこの横行用レールを走行する横行用ローラと、この横行用ローラを横行用レールに沿って走行させる横行用シリンダとを備えた請求項1に記載の覆工コンクリート締固め用バイブレータ装置である。
【0018】
請求項2に記載の装置によれば、バイブレータガイドを支持する横行用ローラを横行用レール上で走行させることにより、バイブレータガイドはスライドセントルの妻部においてその外周方向に移動することができる。この場合、アーチ天井部での移動角度範囲は横行用レールの長さに基づいて任意とすることができる。なお、バイブレータはバイブレータガイドに沿って前進および後退することができることは言うまでもない。
上記打設空間における任意の部位で打設コンクリートを締め固めることができる。特に大型で大口径のトンネルの覆工において有効である。
【発明の効果】
【0019】
請求項1および請求項2に記載の発明によれば、打設コンクリート内に挿入された締固め用バイブレータは、この打設コンクリート内で前進および後退を行うことができる。したがって、コンクリートの充填作業の遅速に拘わらず、打設コンクリート内で適切な位置に締固め用バイブレータを移動させることができ、全ての部位での打設コンクリートに対して高密度の締め固め作業を行うことができる。すなわち、打設コンクリートの全ての部位で、打設コンクリートの充填後の所定時間内に締固め用バイブレータを適切な時間だけ作動させて締め固めを行うことができる。例えば、コンクリート充填作業が遅延した場合はいったん後退させたバイブレータを前進させることにより、当該部位での締め固め作業を適切に行うこともできる。
【0020】
また、この発明によれば、駆動機構によりガイドパイプを往復動させることで、その先端に設けた締固め用バイブレータを上記打設コンクリート中で前進、後退させることができる。
【0021】
さらに、この発明によれば、バイブレータガイドをアーチ天井部の外周方向に沿って移動させることができる結果、締固め用バイブレータをアーチ天井部での外周方向で任意の角度位置に配設することができる。例えば1本のバイブレータでも外周方向での複数位置で打設コンクリートを締め固めることができる。すなわち、トンネルサイズによるアーチ天井部の広さについても少ない締め固め用バイブレータを用いて打設コンクリートに対して締め固めを行うことができる。
【0022】
請求項2に記載の発明によれば、バイブレータガイドはスライドセントルの妻部においてその外周方向に移動することができる。この場合、アーチ天井部での移動角度範囲は横行用レールの長さに基づいて任意とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】この発明の一実施例に係る覆工コンクリート締固め用バイブレータ装置の概略構成を説明するための斜視図である。
【図2】この発明の一実施例に係る覆工コンクリート締固め用バイブレータ装置の主要部を示す斜視図である。
【図3】この発明の一実施例に係る覆工コンクリート締固め用バイブレータ装置の主要部を説明するための模式図である。
【図4】この発明の一実施例に係る覆工コンクリート締固め用バイブレータ装置のバイブレータの配置を示す模式図である。
【図5】この発明の一実施例に係る覆工コンクリート締固め用バイブレータ装置を示すその側面図である。
【図6】この発明の一実施例に係る覆工コンクリート締固め用バイブレータ装置を示す図6のB-B矢視図である。
【図7】この発明の一実施例に係る覆工コンクリート締固め用バイブレータ装置のバイブレータガイド部を説明するための拡大図である。
【図8】この発明の一実施例に係る覆工コンクリート締固め用バイブレータ装置の横行ローラ部を示す斜視図である。
【図9】この発明の一実施例に係る覆工コンクリート締固め用バイブレータ装置の洗浄装置を示す模式図である。
【図10】従来の覆工コンクリート締固め用バイブレータ装置を説明するための斜視図である。
【図11】従来の覆工コンクリート締固め用バイブレータ装置の作用を説明するための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、この発明の一実施例に係る覆工コンクリート締固め用バイブレータ装置を図1?図9を参照して具体的に説明する。
【実施例】
【0025】
図1はこの発明の一実施例に係る覆工コンクリート締固め用バイブレータ装置の概略構成を説明するための斜視図である。
この図に示すように、トンネルの地山に対してH型鋼支保工を介してコンクリートを所定厚さに吹き付けた後、この吹き付けコンクリート面に対してスライドセントル(半円筒形状の型枠)20を用いて所定の厚さ(覆工厚は30?45cm)にコンクリートを打設する。この打設コンクリートに対して、特にトンネル天端部のコンクリートに対しては、二次覆工コンクリートの施工では天端吹き上げ方式によるコンクリートの打設が行われるため、バイブレータによるコンクリートの均一な締め固めが必要とされている。よって、スライドセントル20のアーチ状外周面の天端部(天井部)には1対の締固め用バイブレータ21,22が配置されている。
これらの締固め用バイブレータ21,22は、天井部において所定の間隔だけ離れて平行に水平に配置されており、それぞれ長尺のガイドパイプ23,24の先端に固定されている。各ガイドパイプ23.24の後端は、スライドセントル20の妻部(切羽側)から水平方向に突出して後述する駆動機構などに連結され、この駆動機構などにより、図中矢印で示すその軸方向(半円筒形状のスライドセントル20の軸線方向とも一致する)に前進および後退可能に構成されている。つまり、バイブレータ21,22は打設コンクリート中からの引き抜きのみならず、打設コンクリート中での前進が可能に構成されている。この場合、スライドセントル20の外周面(吹き付けコンクリート層との間の打設空間)には、これらのバイブレータ21,22およびガイドパイプ23,24を支持する部材などは配置されていない。バイブレータ21,22およびガイドパイプ23,24は打設コンクリート中に浮いた状態で、すなわち後述するバイブレータガイドに片持ち支持された状態で打設コンクリートの締め固めを行うこととなる。
【0026】
図2は、セントル20の妻面からその軸方向に水平に突出する平行な一対のバイブレータガイド25,26、および、これらのバイブレータガイド25,26をその上面から所定高さ位置に支持するトラス架台30を示す。
セントル20の天井部より少し低い高さ位置ではトラス架台30が所定長さだけ水平に突出しており、このトラス架台30にトラス架台30とほぼ同じ長さの1対のバイブレータガイド(レール)25,26が互いに所定間隔離れて平行になるよう所定高さ位置(地山との間の隙間に相当する高さ位置)で支持されている。なお、このトラス架台30は、いわゆるH型鋼などを組み付けたトラス構造による角柱体形状の架台であって、セントル20内の支持構造体(図示していない)により片持ち状に突出して支持されている。
【0027】
図3には、これらのバイブレータ21,22の前進後退を可能とするバイブレータ進退手段31を模式的に示している。すなわち、各バイブレータ21,22は1本の長尺なパイプであるガイドパイプ23,24の各先端に同軸的にそれぞれ固定されており、これらのガイドパイプ23,24はそれぞれ1対のキャリッジ32に搭載されている。各キャリッジ32は上記バイブレータガイド25,26にそれぞれ走行自在に保持されており、かつ各キャリッジ(キャリア)32はエンドレスのケーブル33を介してチルクライマ(チルコーポレーション社製の汎用型巻き取り機)34に連結されている。よって、各キャリッジ32は、チルクライマ34の運転稼働により、上記バイブレータガイド25,26にガイドされて、上記ガイドパイプ23の軸線方向に往復移動可能とされている。
詳しくは、キャリッジ32の長さ方向(ガイドパイプ23,24の軸方向と同一方向)の一端に係止されたケーブル33は、トラス架台30に配設された複数のガイドローラ35を介してチルクライマ34のケーブルの一端に連結されている。キャリッジ32の他端に係止されたケーブル34aは、同じくトラス架台30に配設された複数のガイドローラ35を介してその角度を変更してチルクライマ34のケーブルの他端に連結されている。したがって、キャリッジ32は、これらのガイドローラ35間に水平にまた垂直に張設されたケーブル33.34aにより水平方向(ガイドパイプ23,24の軸線方向)に沿って所定距離だけ往復移動可能に構成されていることとなる。キャリッジ32の移動距離(ストローク)はセントル20の軸線方向の長さに依存するが、この場合、トラス架台30の上面でガイドローラ35間に所定間隔離れて配設されたリミッタスイッチ36,36にキャリッジ32が当接することで調整されている。
なお、後述するように、バイブレータ21,22はウレタンヘッドを有して形成することにより打設コンクリート中での浮力を得る。また、ガイドパイプ23,24は、打設コンクリート中においても浮力を生じるとともに、曲げ防止のために、例えば直径54mm、厚さ8mmで、高強度素材(例えばS-45C)で形成されている。
【0028】
図4には、このバイブレータ21,22とアーチ形状のセントル20との垂直断面での配置を示している。2本のバイブレータ21,22はセントル20外周面の天井部でこれから所定高さ(高さは調整可能)だけ離間して地山(すなわち吹き付けコンクリート内周面)との間の打設空間に配置されている。また、これらのバイブレータ21,22はセントル20のアーチ状外周面の天井部にあってその外周方向に沿って(矢印方向)所定角度範囲だけ移動可能に配設されている。
【0029】
図5には、図3に示したバイブレータ進退手段31を具体的に示している。この図に示すように、覆工コンクリート締固め用バイブレータ装置を構成するトラス架台30は、鉄骨(H型鋼など)をトラス構造として細長い箱形に組み立てたものであって、その長さ方向の一端部が半円筒形状のスライドセントル20の内部に挿入されてその天井部の下方に図示していない支持構造体により固定されている。トラス架台30の長さ方向の他端部はセントル20の切羽側の妻面より所定の長さだけ水平にセントル20の軸線方向に沿って外方に向かって突出している。この結果、このトラス架台30は片持ち梁形状に設けられていることとなる。
トラス架台30は、平行な2本の上側レール41と、これらの下方に多数の垂直柱43などを介して固着された平行な2本の下側レール42とを有している。上側レール41の上面には前後方向(トラス架台の延びる方向)に所定間隔離間して配設された一対のガイドパイプ受け台44,45を介して上記バイブレータガイド(レール)25,26が設けられている。なお、バイブレータガイド25,26はトラス架台30の上面で所定間隔を有して横方向に一対並設されている。
トラス架台30の長さ方向、すなわちセントル20の軸線方向に沿って延びる所定長さのバイブレータガイド25,26には、その長さ方向において適宜の間隔で多数のベアリングブラケットが設けられ、これらのベアリングブラケットを介してこれらのガイドパイプ23,24がその長さ方向に沿ってスムーズに前進および後退が自在となるように支持されている。これらのベアリングブラケットは市販品を用い、ベアリングを保持するブラケット枠はトラス架台30の上面に固定されている。これらのガイドパイプ23,24の先端には締固め用の棒状のバイブレータ(上記特殊バイブレータ)21,22が固着されており、これらのバイブレータ21,22が硬化前の打設コンクリート中に挿入され、打設コンクリートを締め固める。所定長さで所定曲げ強度を有するガイドパイプ23,24の後端下面には上記キャリッジ32が固着されており、各キャリッジ32を介してガイドパイプ23,24がバイブレータガイド25,26に沿ってそれぞれ走行自在に支持されている。キャリッジ32の走行はキャリッジ32に連結されたケーブル33,34aによりなされ、ケーブル33,34aはトラス架台30に配設された多数のガイドローラ35を介して無端状に掛け渡されており、ケーブルの両端はチルクライマ34に巻回されている。チルクライマ34の回転駆動によりケーブル33,34aを介してキャリッジ32、すなわちこれと一体のガイドパイプ23,24は前進後退の往復動を行うこととなる。
【0030】
ガイドパイプ23,24の先端部の内部にはそれぞれバイブレータモータが収納され、これらのバイブレータモータはキャプタイヤケーブル50により電源などに接続されている。キャプタイヤケーブル50はその前端部がガイドパイプ23,24の内部に挿入され、その後端部がケーブル送り装置51に連結されている。ケーブル送り装置51はトラス架台30に取り付けられている。
なお、セントル20の妻側でセントル20のアーチ状外面と吹き付けコンクリート層との間の隙間であるコンクリート打設空間(覆工コンクリート部)に対して上記バイブレータ21,22が挿入・引き出し可能とされている。また、バイブレータ21,22等の駆動制御を行うための制御盤53はトラス架台30の下側レール42などに固定されている。
【0031】
図6には、トラス架台30の矩形のフレームで構成された突出端部の構造を示す。この突出端にあっては、2本のバイブレータ21,22に対してこれをそれぞれ前進後退させるための上記2本のケーブル33,33は、それぞれガイドローラ35,35を介してやや斜めに上下方向に延びている。
【0032】
図7には、セントル20の妻部での上記打設空間へのバイブレータ21,22の挿入部の構造を示している。この図に示すように、バイブレータ21,22の先端部分では公知の振動体60に弾頭状のウレタンゴムのヘッド61が植え込みボルト62で固定されており、振動体60は防振ゴム継ぎ手を介して上記キャプタイヤケーブル50の先端に接続されている。すなわち、ここで使用する特殊バイブレータ21,22は周波数200/240Hzの高周波バイブレータである。このバイブレータ21,22は、セントル20天端部の妻部に設けられたシャッターである妻板63を開放して打設空間に挿入される。したがって、バイブレータ21,22の引き抜き後は、このシャッター63が閉じられる。なお、図中に示すようにこの打設空間には複数の鉄筋64が敷設されているが、バイブレータ21,22はこれら鉄筋64と非干渉の高さに挿入される。なお、この高さは調整可能である。
【0033】
図8には、上述したガイドパイプ受け台44,45を示している。これらのガイドパイプ受け台44,45は、トラス架台30の上レール41上において横方向に延びて設置された上側に凸に湾曲した2本の横行レール70と、これら2本の横行レール70に跨って搭載されて走行自在とされた横行ローラ体71とを備えている。また、この横行ローラ体71の上面には、上記バイブレータガイド25,26を所定高さ位置まで立ち上げるためのアップダウン機構27-1がそれぞれ設けられている。すなわち、アップダウン機構27-1は、下端が横行ローラ体71に固着され、上端がバイブレータガイド25,26に固着された垂直な支柱を、断面がコの字形状の鋼材であるアップダウンインナー27とこれが挿入される同じ形状のアップダウンアウター28とで構成してある。上側のアップダウンインナー27の高さを、これらを上下に連結するアップダウンアジャストボルト27-2のねじ込み量に応じて調整する構成である。また、横行レール70の下面とトラス架台30の上面に固着された部材との間には敷駒(鋼材製のスペーサ)29が介在されており、この敷駒29の着脱によっても上記バイブレータガイド25,26の高さを調整可能とされている。
なお、これらのバイブレータガイド25,26には、上述のように、ガイドパイプ23,24がそれぞれ走行自在に支持されている。
横行ローラ体71は下部に回転自在の複数のローラ72を有し、横行用モートルシリンダ73により走行駆動される。このシリンダ73のピストンロッド73aの伸縮により上記横行レール70に沿って所定距離内で走行する。この場合、トラス架台30での前後方向に離間してパイプ受け台44,45が設けられているが、これらの受け台44,45での各横行シリンダ73の駆動は同期して行われることにより、ガイドパイプ23,24、すなわちバイブレータ21,22がセントル20の天端でその周方向に所定角度範囲で移動することとなる。
【0034】
図9には、妻板シャッタ部に近接して設けた洗浄装置80が開示されている。この洗浄装置80は、円柱形状のバイブレータ21,22およびガイドパイプ23,24外面に付着したコンクリートを洗浄するものである。すなわち、セントル20の切羽側の妻板に取り付けられたシャッタ81は挿入口を開閉自在に上下動するもので、バイブレータがこの挿入口より抜き取られると、シャッタ81が上昇して挿入口を閉止する。洗浄装置80の洗浄用ハケ82は円還状であって前後方向に所定間隔離れて一対設けられ、これらのハケ82の間に洗浄水を流す円還状のノズル83が配設されている。円柱状のバイブレータ21,22およびガイドパイプ23,24はこのハケ82の中心孔を通って引き抜かれる際、付着コンクリートはハケ(所定の曲げ強度を有するブラシ)82により物理的に剥離され洗浄水により流されることで洗浄されることとなる。なお、ノズル83にはボールバルブ84を介して洗浄水が供給源より供給されている。
【0035】
以上の構成に係る覆工コンクリート締固め用バイブレータ装置にあっては、トンネル地山に対してコンクリートを吹き付け、鉄筋を組み立てた後、スライドセントル20がトンネル内にセットされる。このとき、このスライドセントル20には側壁部開口と天端部の吹き上げ口が形成されており、さらにこのスライドセントル20の切羽側の妻部からはトラス架台30が水平に突出してセットされ、このトラス架台30には、覆工コンクリート締め固め用バイブレータ装置が装着されている。このセントル20のセットの結果、2個のバイブレータ21,22はセントル天端部で打設空間に片持ち状に挿入、支持されている。バイブレータ21,22は最大に突出し空間内で坑口側のセントル20の妻部に配置されている。このようにして1対のバイブレータ21,22がセットされる。
次に、覆工コンクリートの打設が行われる。この打設は覆工コンクリートの側壁部からアーチ部へと順番に打設される。このとき、側壁開口を介して手動のバイブレータを使用して作業員による締め固めが行われる。そして、天井部では吹き上げ口よりコンクリートの吹き上げによる打設空間への充填が行われる。このとき、バイブレータ21,22は起動スイッチがonとされ、所定の高周波振動を打設コンクリートに付加することとなり、打設コンクリートの締め固めが天井部でも行われる。
バイブレータ21,22の稼働とともに、打設コンクリートがこの打設空間で切羽側にもさらに充填されると、バイブレータ21,22は上記進退手段31、すなわちチルクライマ34を駆動してキャリッジ32を切羽側に引き出す。その結果、バイブレータ21,22は振動を与えながら打設コンクリート中を所定速度で後退して引き出されることとなる。このとき、2本のバイブレータ21,22は周方向で所定角度開いており、かつ、同時に引き抜きが行われる。コンクリートの再注入、再打設は上記打設空間を埋めるまで行われる。
最後に妻部までコンクリートが打設され、バイブレータ21,22による締め固めが終了すると、バイブレータ21,22は上記チルクライマ34により妻口の挿入口から引き抜かれることなり、シャッタ81が閉じられて、その後コンクリートの養生が行われる。なお、付着コンクリートの洗浄は引き抜きと同時に並行して行われる。これらの結果、天井部であっても、打設コンクリートを均一に充分に締め固めることができる。また、上記作業において、打設コンクリートの注入、充填作業と同期してバイブレータ21,22の引き抜きを行うが、もし充填が不十分とされて再注入がなされる場合は、チルクライマ34を逆転駆動させてバイブレータ21,22を前進させることにより、再度の締め固めを行うことができる。さらに、一端引き抜いたバイブレータ21,22を角度を変更して打設コンクリートの他の部位に対して前進挿入させることもできる。少ないバイブレータ21,22を使用して複数角度位置での締め固め、すなわち広大な天井部での打設コンクリートに対しても均一な締め固めを行うことができる。設備の簡素化により省コストを達成できる。また、当然にも人的作業による場合に比較して作業時間の短縮を図ることができる。
【0036】
このように、この実施例にあっては、半円筒形状であってアーチ状外面を有するスライドセントルが、トンネルに挿入されることにより、このトンネルの地山とこのスライドセントルのアーチ状外面との間に画成された打設空間に地山覆工用のコンクリートが打設されるコンクリート打設構造において適用される。
そして、この打設空間に打設された打設コンクリートの内部に挿入されてこの打設コンクリートに振動を付加することにより、この打設コンクリートを締め固める締固め用バイブレータを備えている。
さらに、この締固め用バイブレータを上記打設コンクリートに対して挿入・引き抜き可能としたバイブレータ進退手段を有し、このバイブレータ進退手段は、上記スライドセントルの妻部であってそのアーチ天井部からスライドセントルの軸線方向に延びて突出するバイブレータガイドと、このバイブレータガイドに沿って往復動自在に支持され、その先端に上記締固め用バイブレータが取り付けられたガイドパイプと、このガイドパイプの後端部に取り付けられ、このガイドパイプを上記バイブレータガイドに沿って往復動させる駆動機構とを備えている。
さらに、この装置にあっては、上記バイブレータガイドを上記アーチ天井部の外周に沿って所定角度範囲で移動可能とした。すなわち、上記スライドセントルの妻部に取り付けられて、その外周方向に延びる横行用レールと、上記バイブレータガイドを支持するとともにこの横行用レールを走行する横行用ローラと、この横行用ローラを横行用レールに沿って走行させる横行用シリンダとを備えている。
また、この装置では、覆工が終了して、坑内を坑口に向けてスライドセントルを移動させ、坑外で解体したい場合、スライドセントルは、脱型ダウン状態で移動可能であるが、振動体を含むバイブレータ装置は、アップダウン機構により既覆工面よりダウン操作により全体をダウンさせ、既覆工区間を通過することもできる。
さらには、急激に地山状況が悪くなり、覆工巻厚が通常より大きく設計変更された場合、鉄筋の上端(天端)を往復させたい場合は、敷駒とアップダウン機構によりアップさせることで、鉄筋の下端を往復させるだけでなく、希望の高さにバイブレータを挿入することができる。
そして、この発明にあっては、上記実施例の他に態様を変更することも含まれる。この場合、バイブレータを前進、後退させるものであれば、どのような構成における装置も本発明に含まれることとなる。
【符号の説明】
【0037】
20 スライドセントル、
21,22 バイブレータ、
23,24 ガイドパイプ、
25,26 バイブレータガイド、
30 トラス架台。
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
半円筒形状であってアーチ状外面を有するスライドセントルが、トンネルに挿入されることにより、このトンネルの地山とこのスライドセントルのアーチ状外面との間に画成された打設空間に地山覆工用のコンクリートが打設されるコンクリート打設構造において、
上記打設空間に打設された打設コンクリートの内部に挿入されてこの打設コンクリートに振動を付加することにより、この打設コンクリートを締め固める締固め用バイブレータと、
この締固め用バイブレータを上記打設コンクリートに対して挿入・引き抜き可能としたバイブレータ進退手段とを備え、
このバイブレータ進退手段は、
上記スライドセントルの妻部であってそのアーチ天井部からスライドセントルの軸線方向に延びて突出するバイブレータガイドと、
このバイブレータガイドに沿って往復動自在に支持され、その先端に上記締固め用バイブレータが取り付けられたガイドパイプと、
このガイドパイプの後端部に取り付けられ、このガイドパイプを上記バイブレータガイドに沿って往復動させる駆動機構とを有し、
上記締固め用バイブレータおよび上記ガイドパイプは、上記打設コンクリート中に浮いた状態で、かつ、バイブレータガイドに片持ち支持された状態で上記打設コンクリートの締め固めを行うとともに、
このバイブレータガイドを上記アーチ天井部から上記軸線方向に向かって突出した状態でその外周に沿って所定角度範囲で移動可能とした覆工コンクリート締固め用バイブレータ装置。
【請求項2】
上記スライドセントルの妻部に設けられて、その外周方向に延びる横行用レールと、
上記バイブレータガイドを支持するとともにこの横行用レールを走行する横行用ローラと、
この横行用ローラを横行用レールに沿って走行させる横行用シリンダとを備えた請求項1に記載の覆工コンクリート締固め用バイブレータ装置。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審決日 2012-10-26 
出願番号 特願2009-109778(P2009-109778)
審決分類 P 1 113・ 832- YA (E21D)
P 1 113・ 121- YA (E21D)
P 1 113・ 841- YA (E21D)
P 1 113・ 854- YA (E21D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 須永 聡  
特許庁審判長 鈴野 幹夫
特許庁審判官 中川 真一
高橋 三成
登録日 2011-11-18 
登録番号 特許第4866441号(P4866441)
発明の名称 覆工コンクリート締固め用バイブレータ装置  
代理人 安倍 逸郎  
代理人 安倍 逸郎  
代理人 守田 賢一  

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