• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 C10M
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 C10M
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C10M
管理番号 1268704
審判番号 不服2010-18405  
総通号数 159 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-03-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-08-16 
確定日 2013-01-07 
事件の表示 特願2003-283337「低リン量潤滑油で潤滑にした内燃機関の摩耗を低減する方法および組成物」拒絶査定不服審判事件〔平成16年3月4日出願公開、特開2004-68021〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.本願の経緯
本願は、平成15年7月31日(パリ条約による優先権主張 2002年8月1日 アメリカ合衆国)の出願であって、平成21年3月31日付けで拒絶理由が通知され、同年10月7日に意見書及び手続補正書が提出されたが、平成22年4月14日付けで拒絶をすべき旨の査定がされ、これに対し、同年8月16日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正書が提出され、同年11月30日付けで前置審査の結果が報告され、当審において、平成23年10月28日付けで審尋され、平成24年2月1日に回答書が提出されたものである。

第2.補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成22年8月16日付け手続補正書による補正を却下する。

[理由]
1.補正の内容
平成22年8月16日付け手続補正書による補正(以下、「本件補正」という。)は、特許請求の範囲について、(1)本件補正前の請求項13?24を削除するとともに、(2)同請求項1について、
「全下記の成分を含む、リンの重量%が組成物の全重量に基づいて0.05重量%以下である潤滑油組成物:
潤滑粘度の油、
少なくとも一種の油溶性のリン含有耐摩耗性化合物、
および
0.2?15重量%の、モリブデン化合物とコハク酸イミド、カルボン酸アミド、炭化水素モノアミン、炭化水素ポリアミン、マンニッヒ塩基、リンアミド、チオリンアミド、ホスホンアミド、分散剤型粘度指数向上剤およびそれらの混合物からなる群より選ばれる塩基性窒素含有化合物との反応により得られるモリブデン/窒素含有錯体。」

「全下記の成分を含む、リンの重量%が組成物の全重量に基づいて0.05重量%以下である潤滑油組成物:
潤滑粘度の油、
少なくとも一種の油溶性のリン含有耐摩耗性化合物、
0.2?15重量%の、モリブデン化合物とコハク酸イミド、カルボン酸アミド、炭化水素モノアミン、炭化水素ポリアミン、マンニッヒ塩基、リンアミド、チオリンアミド、ホスホンアミド、分散剤型粘度指数向上剤およびそれらの混合物からなる群より選ばれる塩基性窒素含有化合物との反応により得られるモリブデン/窒素含有錯体、
および
金属含有清浄剤。」
とする補正事項を含むものである。

2.補正の目的
補正事項(1)は、請求項の削除を目的とするものであり、また、補正事項(2)は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そうすると、本件補正は、意匠法等の一部を改正する法律(平成18年法律第55号)附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法(以下、単に「特許法」という。)第17条の2第3項第1号及び第2号に掲げる事項を目的とするものと認められる。

3.独立特許要件について
上記したとおり、請求項1についての補正(上記補正事項(2))は、特許法第17条の2第3項第2号に掲げる事項を目的とするものであるから、同条第5項で準用する同法第126条第5項の規定(いわゆる、独立特許要件)に合致するか否かを検討する。

(1)本件補正後の発明
本件補正後の請求項1に係る発明(以下、「補正発明」という。)は次のとおりのものである。
「全下記の成分を含む、リンの重量%が組成物の全重量に基づいて0.05重量%以下である潤滑油組成物:
潤滑粘度の油、
少なくとも一種の油溶性のリン含有耐摩耗性化合物、
0.2?15重量%の、モリブデン化合物とコハク酸イミド、カルボン酸アミド、炭化水素モノアミン、炭化水素ポリアミン、マンニッヒ塩基、リンアミド、チオリンアミド、ホスホンアミド、分散剤型粘度指数向上剤およびそれらの混合物からなる群より選ばれる塩基性窒素含有化合物との反応により得られるモリブデン/窒素含有錯体、
および
金属含有清浄剤。」

(2)引用刊行物及びその記載事項
刊行物1:特開2002-53888号公報(原査定における引用例1)

摘示ア.「【請求項1】 鉱油および/または合成油からなる硫黄含有量0.1重量%以下の基油に少なくとも、組成物の全重量に基づき、
a)アルケニルもしくはアルキルこはく酸イミドあるいはその誘導体である無灰性分散剤が窒素含有量換算値で0.01?0.3重量%、
b)硫黄含有量が3%以下で全塩基価10?350mgKOH/gの金属含有清浄剤が硫酸灰分換算値で0.1?1重量%、
c)ジアルキルジチオリン酸亜鉛が、リン含有量換算値で0.01?0.1重量%、そして
d)酸化防止性のフェノール化合物および/または酸化防止性のアミン化合物が0.01?5重量%、
の量にて溶解もしくは分散されていて、組成物の全重量に基づき、硫酸灰分量が0.1?1重量%の範囲、リン含有量が0.01?0.1重量%の範囲、そして硫黄含有量が0.01?0.3重量%の範囲にあって、塩素含有量が40ppm以下であり、さらに金属含有清浄剤に含まれる有機酸金属塩が組成物中に0.2?7重量%存在することを特徴とする潤滑油組成物。
【請求項8】 組成物の全重量に基づくリン含有量が0.06重量%以下であることを特徴とする請求項1乃至7のうちのいずれかの項に記載の潤滑油組成物。
【請求項11】 さらに、モリブデン含有化合物を0.01?5重量%含有することを特徴とする請求項1乃至10のうちのいずれかの項に記載の潤滑油組成物。」(特許請求の範囲の請求項1、8及び11)

摘示イ.「【発明の属する技術分野】本発明は、ディーゼルエンジンやガソリンエンジンあるいはジメチルエーテルを燃料とするエンジンやガスエンジンなどの内燃機関の潤滑に有用な潤滑油組成物に関する。さらに詳しくは、本発明は、低灰分含量、低リン含量、低硫黄含量、そして低塩素含量でありながらも高温清浄性に優れ、パティキュレートフィルタや、未燃焼の煤および燃料や潤滑油を酸化するために自動車に装着されている酸化触媒などの排ガス浄化装置への悪影響が少なく、近い将来における実施が予測される排ガス規制にも充分対応できる内燃機関用潤滑油組成物に関する。本発明は特に、走行用燃料として、硫黄含有量約0.01重量%以下の炭化水素系燃料を用いる自動車、なかでも排ガス浄化装置(特にパティキュレートフィルタおよび酸化触媒)を備えたディーゼルエンジン搭載車において好適に用いられる、環境対応型の内燃機関用潤滑油組成物に関するものである。」(段落0001)

摘示ウ.「【従来の技術】内燃機関、特にディーゼルエンジンに関し、パティキュレートおよびNO_(X)などの排ガス成分による環境汚染に対する対策が重要な課題となっている。その対策としては、自動車へのパティキュレートフィルタ及び酸化触媒などの排ガス浄化装置の装着があるが、……。
……。一方、潤滑油の一部はエンジン中で潤滑に使用されると同時に、燃焼し、排ガスの一部と排出される。従って、潤滑油中の金属分、硫黄分もまたできるだけ低くする方が好ましいことは当然である。さらに、潤滑油中のリン分も減らすことが触媒の劣化対策のうえで好ましい。またダイオキシン類の発生の可能性を考慮すると、潤滑油中の塩素分も極力低減することが好ましい。
従来、自動車、建設機械、発電機等で用いられるディーゼル内燃機関は、硫黄分が約0.05重量%以上の燃料(軽油や重油)を用いて運転されることが一般的であって、ディーゼルエンジン用潤滑油としては、通常、硫酸灰分約1.3?2重量%、硫黄分約0.3?0.7重量%、リン分約0.1?0.13重量%、のものが多くの場合用いられてきた。また、塩素分も50?100重量ppm以上の潤滑油が一般的であった。
……
【発明が解決しようとする課題】本発明は、従来用いられている潤滑油組成物に比べて、低灰分含量、低リン含量、低硫黄含量かつ低塩素含量であって、パティキュレートフィルタや酸化触媒などの排ガス浄化装置への悪影響が低減され、一方では、従来用いられている潤滑油組成物と同等もしくはそれ以上の高温清浄性を示し、将来の排ガス規制に充分対応できる内燃機関用潤滑油組成物を提供することを目的とする。」(段落0002?0006)

摘示エ.「【課題を解決するための手段】潤滑油組成物を研究する研究者や技術者にとって、一般的に知られていることであるが、内燃機関用潤滑油組成物の単なる低灰分化、低リン化、かつ低硫黄化は、従来の潤滑油組成物に一般的に用いられいる金属系清浄剤およびジチオリン酸亜鉛の添加量の削減を意味し、高温清浄性や酸化安定性の低下につながる。
本発明者は鋭意研究を重ねた結果、低灰分化、低リン化、かつ低硫黄化を行ないながらも、潤滑油組成物中に、特定の無灰系酸化防止剤を添加し、さらに金属系清浄剤(金属成分含有清浄剤)に含まれる有機酸金属塩(いわゆる石鹸成分もしくはソープ成分)を特定範囲の量にて存在させることにより、高温清浄性や酸化安定性を高いレベルに維持することを可能にする潤滑油組成物の配合を見出した。」(段落0007?0008)

摘示オ.「本発明の潤滑油組成物において、そのb)成分の金属含有清浄剤は、全塩基価30?300mgKOH/g(特に、30?100mgKOH/g)の非硫化のアルキルサリチル酸のアルカリ金属塩もしくはアルカリ土類金属塩であることが好ましい。」(段落0009)

摘示カ.「本発明の潤滑油組成物において、組成物の全重量に基づくリン含有量は、0.06重量%以下であることが好ましく、また組成物の全重量に基づく硫黄含有量が0.15重量%以下であることが好ましい。」(段落0011)

摘示キ.「【発明の実施の形態】本発明の潤滑油組成物における基油としては、通常、100℃における動粘度が2?50mm^(2)/sの鉱油や合成油が用いられる。」(摘示0013)

摘示ク.「本発明の潤滑油組成物におけるb)成分である金属系清浄剤としては、硫黄含有量3%以下で全塩基価10?350mgKOH/gの金属系清浄剤を硫酸灰分換算値で0.1?1重量%の範囲で用いる。
一般に金属系清浄剤としては、硫化フェネート、石油もしくは合成系スルホネート、サリシレートなどが用いられてきた。本発明の特徴である低灰分、低硫黄を実現し、高温清浄性を維持するためには、金属系清浄剤として、(1)硫黄含有量が小さい、(2)過塩基化度があまり高くない、(3)金属成分として原子量が小さい金属(例えば有利な方からLi、Mg、Ca、Baの順)を含む、(4)金属に由来する塩基価以上の塩基価が期待できる(例えばアミン反応物)などの性状を持つ金属系清浄剤を用いること望ましい。本発明者は、これらの観点から鋭意検討し、特に、全塩基価が30?300mgKOH/gの非硫化のアルキルサリシレート(アルカリ金属塩もしくはアルカリ土類金属塩)が本発明の目的に有効であることを見出した。……
潤滑油添加剤の代表的成分のひとつとして知られている金属系清浄剤(金属含有清浄剤)は、基油中に、有機酸金属塩(一般的に石鹸成分あるいはソープ分と呼ばれている)と、その有機酸金属塩の周囲に凝集している塩基性無機塩微粒子(例、炭酸カルシウム微粒子)を分散状態で含む分散物である。」(段落0021?0029)〔なお、数字1?4を○で囲った符号はそれぞれ(1)?(4)に置き換えた。〕

摘示ケ.「本発明の潤滑油組成物におけるc)成分のジアルキルジチオリン酸亜鉛は、リン含有量換算値で0.01?0.1重量%の範囲で用いるが、低リン含量と低硫黄含量の観点からは、0.01?0.06重量%の範囲の量で用いることが好ましい。
ジアルキルジチオリン酸亜鉛は、炭素原子数3?18のアルキル基もしくは炭素原子数3?18のアルキル基を含むアルキルアリール基を有することが望ましい。特に好ましいのは、摩耗の抑制に特に有効な、炭素原子数3?18の第二級アルコールから誘導されたアルキル基、あるいは炭素原子数3?18の第一級アルコールと炭素原子数3?18の第二級アルコールとの混合物から誘導されたアルキル基を含むジアルキルジチオリン酸亜鉛である。第一級アルコールからのジアルキルジチオリン酸亜鉛は耐熱性に優れる傾向がある。これらのジチオリン酸亜鉛は、単独で用いてもよいが、第二級アルキル基タイプのものおよび/または第一級アルキル基タイプのものを主体とする混合物で用いることが好ましい。」(段落0030?0031)

摘示コ.「本発明の潤滑油組成物は、d)成分として、酸化防止性のフェノール化合物および/または酸化防止性のアミン化合物を0.01?5重量%(好ましくは0.1?3重量%)の範囲で含むことを特徴とする。一般に、低灰分、低リンかつ低硫黄の潤滑油組成物は、金属系清浄剤およびジチオリン酸亜鉛の低減を意味し、高温清浄性や酸化安定性あるいは耐摩耗性の低下につながる。これらの性能を維持するためにd)成分が必要となる。このd)成分としては、ジアリールアミン系酸化防止剤及び/またはヒンダードフェノール系酸化防止剤が好ましい。これらの酸化防止剤は高温清浄性の向上にも効果的である。特にジアリールアミン系酸化防止剤は、窒素に由来する塩基価を有しているので、この点で有利である。一方、ヒンダードフェノール系酸化防止剤は、NO_(x)酸化劣化の防止に有利である。](段落0032)

摘示サ.「本発明の潤滑油組成物はさらに、多機能添加剤に属するモリブデン含有化合物および/またはアルカリ金属ホウ酸塩水和物を各々5重量%以下、特に0.01?5重量%含有することができる。これらの化合物は灰分あるいは硫黄分等を含むものが多いが、本発明の潤滑油組成物全体の性状を考慮しながら、添加量を調整し効果的に使用することができる。
上記のモリブデン含有化合物は、潤滑油組成物中で、主として摩擦調整剤、酸化防止剤あるいは摩耗防止剤として機能し、また高温での清浄性の向上に寄与する。モリブデン含有化合物の潤滑油組成物中の含有量は、モリブデン金属含有量換算で10?2500ppmの範囲にあることが望ましい。モリブデン含有化合物の例としては、こはく酸イミドの硫黄含有モリブデン錯体(特公平3-22438号公報に記載)、硫化オキシモリブデンジチオカーバメート、硫化オキシモリブデンジチオホスフェート、アミンモリブデン錯体化合物、オキシモリブデンジエチラートアミド、そしてオキシモリブデンモノグリセリドを挙げることができる。特に、こはく酸イミドの硫黄含有モリブデン錯体は高温での清浄性向上に効果的である。」(段落0035?0036)

摘示シ.「【実施例】(1)潤滑油組成物の製造
本発明に従う潤滑油組成物と比較用の潤滑油組成物を、下記の添加剤成分と基油成分とを用いて製造した。これらの潤滑油組成物は、粘度指数向上剤の添加により、10W30の粘度グレード(SAE粘度グレード)を示すように調製された。
(2)添加剤及び基油
分散剤A:こはく酸イミド系分散剤(窒素含量:1.6重量%、塩素含量:5重量ppm未満、数平均分子量が約1300のポリブテンと無水マレイン酸とから熱反応法で製造したものに、平均窒素原子数が6.5個(1分子当り)のポリアルキレンポリアミンを反応させて得たもの)
分散剤B:ホウ素含有こはく酸イミド系分散剤(窒素含量:1.5重量%、ホウ素含量:0.5重量%、塩素含量:5重量ppm未満、数平均分子量が約1300のポリブテンと無水マレイン酸とから熱反応法で製造し、これを平均窒素原子数6.5個(1分子当り)のポリアルキレンポリアミンと反応させ、ついで得られたこはく酸イミドをホウ酸で反応処理したもの;特開平7-150166号公報の実施例8に従って製造したもの)
分散剤C:炭酸エチレン反応処理こはく酸イミド系分散剤(窒素含量:0.85重量%、塩素含量:30重量ppm、数平均分子量約2200のポリブテンと無水マレイン酸とから熱反応法で製造し、これを平均原子数6.5個(1分子当り)のポリアルキレンポリアミンと反応させ、ついで得られたこはく酸イミドを炭酸エチレンで反応処理したもの;特開平7-150166号公報の実施例17に従って製造)
清浄剤A:カルシウムサリシレート(Ca:2.1重量%、S:0.13重量%、TBN:60mgKOH/g、オスカ化学(株)製OSCA431B)
清浄剤B:カルシウムサリシレート(Ca:8.2重量%、S:0.13重量%、TBN:230mgKOH/g、オスカ化学(株)製OSCA435B)
清浄剤C:マグネシウムサリシレート(Mg:6.0重量%、S:0.22重量%、TBN:280mgKOH/g、シェルジャパン(株)製SAP008)
清浄剤D:カルシウムスルホネート(Ca:2.4重量%、S:2.9重量%、TBN:17mgKOH/g、オロナイトジャパン(株)OLOA246S)
清浄剤E:カルシウムスルホネート(Ca:12.8重量%、S:2.0重量%、TBN:325mgKOH/g、オロナイトジャパン(株)製OLOA247Z)
清浄剤F:……
清浄剤G:硫化カルシウムフェネート(Ca:4.3重量%、S:5.5重量%、TBN:120mgKOH/g、オロナイトジャパン(株)製OLOA216Q)
清浄剤H:……
清浄剤I:マンニッヒ塩基カルシウムフェネート(Ca:2.5重量%、N:1.6重量%、S:0.1重量%、TBN:135mgKOH/g、オロナイトジャパン(株)製OLOA224)
ZnDTP:ジアルキルジチオリン酸亜鉛(P:7.2重量%、Zn:7.85%、S:14.4%、原料として炭素原子数3?8の第二級アルコールを使用)
酸化防止剤A:アミン系化合物〔ジアルキルジフェニルアミン(アルキル基:C_(4)とC_(8)の混合)、N:4.6重量%、TBN:180mgKOH/g〕
酸化防止剤B:フェノール系化合物〔3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオン酸オクチル〕
Mo化合物:硫黄を含有するオキシモリブデン-こはく酸イミド錯体化合物(Mo:5.4重量%、S:3.7重量%、TBN:45mgKOH/g)
アルカリ金属ホウ酸塩:ホウ酸カリウム水和物の微粒子分散体(実験式KB_(3)O_(5)・H_(2)O、K:8.3重量%、B:6.8重量%、S:0.26重量%、TBN:125mgKOH/g)
VII:粘度指数向上剤(非分散型のエチレンプロピレン共重合体、Paratone8057)
PPD:流動点降下剤(ポリメタクリレート系)
基油A:100℃における動粘度が6.5mm^(2)/sで、粘度指数が132、硫黄含有量が0.001重量%未満の高度水素化精製基油
基油B:100℃における動粘度が11.0mm^(2)/sで、粘度指数が104、硫黄含有量が0.001重量%未満の水素化精製基油
基油C:……
(3)潤滑油組成物の高温清浄性の評価
下記の方法に従うホットチューブ試験(KES-07-803)により、潤滑油組成物の高温での清浄性能を評価した。
内径2mmのガラス管に垂直にヒーターブロックにセットし、試料油を0.31cc/時間、そして空気を10cc/分の割合で、それぞれガラス管の下部より送り込む。この操作を、ヒーター部の温度を290℃あるいは300℃に保ちながら、16時間続ける。試験終了後のガラス管内部に付着したデポジット(堆積物)を10点満点で評価する(10点がデポジットの堆積がない状態を意味する。)
(4)有機酸金属塩含量(石鹸分)の測定
……
[実施例1]本発明の潤滑剤組成物の配合(TBN:7.0mgKOH/g)
(1)無灰性分散剤:
分散剤B(添加量:4重量%、窒素量換算添加量:0.06重量%)
分散剤C(添加量:1.2重量%、窒素量換算添加量:0.01重量%)
(2)金属系清浄剤:
清浄剤A(添加量:6.9重量%、硫酸灰分換算添加量:0.49重量%、有機酸金属塩換算添加量:2.5重量%)
(3)ZnDTP
(添加量:0.42重量%、リン量換算添加量:0.03重量%)
(4)酸化防止剤
酸化防止剤A(添加量:0.7重量%)
酸化防止剤B(添加量:0.7重量%)
(5)他の添加剤
Mo化合物(添加量:0.1重量%)
アルカリ金属ホウ酸塩(添加量:0重量%)
VII(添加量:2.0重量%)
PPD(添加量:0.3重量%)
(6)基油
基油A(使用量:62.4重量%)
基油B(使用量:20.8重量%)
[実施例2]本発明の潤滑剤組成物の配合(TBN:6.9mgKOH/g)
金属系清浄剤として、清浄剤Aの代わりに清浄剤Bを、添加量:1.8重量%(硫酸灰分換算添加量:0.49重量%、有機酸金属塩換算添加量:0.7重量%)にて添加し、基油として、基油Aと基油Bとをそれぞれ66.4重量%と22.2重量%用いた以外は実施例1と同じ配合にて潤滑油組成物を調製した。
[実施例3]本発明の潤滑剤組成物の配合(TBN:7.5mgKOH/g)
金属系清浄剤として、清浄剤Aの代わりに清浄剤Cを、添加量:1.7重量%(硫酸灰分換算添加量:0.49重量%、有機酸金属塩換算添加量:0.4重量%)にて添加し、基油として、基油Aと基油Bとをそれぞれ66.8重量%と22.3重量%用いた以外は実施例1と同じ配合にて潤滑油組成物を調製した。
[実施例4]本発明の潤滑剤組成物の配合(TBN:14.7mgKOH/g)
金属系清浄剤として、清浄剤Aの代わりに清浄剤Iを、添加量:5.8重量%(硫酸灰分換算添加量:0.49重量%、有機酸金属塩換算添加量:2.3重量%)にて添加し、基油として、基油Aと基油Bとをそれぞれ63.3重量%と21.1重量%用いた以外は実施例1と同じ配合にて潤滑油組成物を調製した。
[実施例5]本発明の潤滑剤組成物の配合(TBN:3.9mgKOH/g)
金属系清浄剤として、清浄剤Aの代わりに清浄剤Dを、添加量:6.1重量%(硫酸灰分換算添加量:0.49重量%、有機酸金属塩換算添加量:2.9重量%)にて添加し、基油として、基油Aと基油Bとをそれぞれ63.0重量%と21.0重量%用いた以外は実施例1と同じ配合にて潤滑油組成物を調製した。
[実施例6]本発明の潤滑剤組成物の配合(TBN:6.5mgKOH/g)
金属系清浄剤として、清浄剤Aの代わりに清浄剤Eを、添加量:1.1重量%(硫酸灰分換算添加量:0.49重量%、有機酸金属塩換算添加量:0.2重量%)にて添加し、基油として、基油Aと基油Bとをそれぞれ67.0重量%と22.3重量%用いた以外は実施例1と同じ配合にて潤滑油組成物を調製した。
[実施例7]本発明の潤滑剤組成物の配合(TBN:7.5mgKOH/g)
金属系清浄剤として、清浄剤Aを、添加量:5.9重量%(硫酸灰分換算添加量:0.42重量%、有機酸金属塩換算添加量:2.1重量%)にて、そして清浄剤Iを、添加量:0.82重量%(硫酸灰分換算添加量:0.07重量%、有機酸金属塩換算添加量:0.3重量%)にて添加し、基油として、基油Aと基油Bとをそれぞれ62.5重量%と20.9重量%用いた以外は実施例1と同じ配合にて潤滑油組成物を調製した。
[実施例8]本発明の潤滑剤組成物の配合(TBN:6.9mgKOH/g)
金属系清浄剤として、清浄剤Aを、添加量:5.9重量%(硫酸灰分換算添加量:0.42重量%、有機酸金属塩換算添加量:2.1重量%)にて、そして清浄剤Gを、添加量:0.49重量%(硫酸灰分換算添加量:0.07重量%、有機酸金属塩換算添加量:0.2重量%)にて添加し、基油として、基油Aと基油Bとをそれぞれ62.8重量%と20.9重量%用いた以外は実施例1と同じ配合にて潤滑油組成物を調製した。
[実施例9]本発明の潤滑剤組成物の配合(TBN:6.5mgKOH/g)
金属系清浄剤として、清浄剤Aを、添加量:5.9重量%(硫酸灰分換算添加量:0.42重量%、有機酸金属塩換算添加量:2.1重量%)にて、そして清浄剤Dを、添加量:0.88重量%(硫酸灰分換算添加量:0.07重量%、有機酸金属塩換算添加量:0.4重量%)にて添加し、基油として、基油Aと基油Bとをそれぞれ62.5重量%と20.8重量%用いた以外は実施例1と同じ配合にて潤滑油組成物を調製した。
[実施例10]本発明の潤滑剤組成物の配合(TBN:7.0mgKOH/g)
Mo化合物の添加量を0.2重量%に変え、基油として、基油Aと基油Bとをそれぞれ62.3重量%と20.8重量%用いた以外は実施例1と同じ配合にて潤滑油組成物を調製した。
[実施例11]本発明の潤滑剤組成物の配合(TBN:7.3mgKOH/g)
さらに、アルカリ金属ホウ酸塩を0.3重量%加え、基油として、基油Aと基油Bとをそれぞれ62.2重量%と20.7重量%用いた以外は実施例1と同じ配合にて潤滑油組成物を調製した。
[実施例12]本発明の潤滑剤組成物の配合(TBN:7.3mgKOH/g)
分散剤Bを分散剤A(添加量:4重量%、窒素量換算添加量:0.06重量%)に変え、基油Aと基油Bとをそれぞれ62.2重量%と20.7重量%用いた以外は実施例11と同じ配合にて潤滑油組成物を調製した。
……
【表1】
[評価試験結果]
──────────────────────────────────
試験用 硫酸灰分 リン含量 硫黄含量 塩素含量 石鹸分 テスト評点 潤滑油 (wt.%) (wt.%) (wt.%) (ppm) (wt.%) 290℃ 300℃
──────────────────────────────────
実施例1 0.6 0.03 0.08 <5 2.5 8.5 4.5
実施例2 0.6 0.03 0.07 <5 0.7 7.0 3.5
実施例3 0.6 0.03 0.07 <5 0.4 7.0 6.0
実施例4 0.6 0.03 0.08 <5 2.3 8.5 5.5
実施例5 0.6 0.03 0.25 40 2.9 7.5 6.5
実施例6 0.6 0.03 0.09 <5 0.2 6.5 5.5
実施例7 0.6 0.03 0.08 <5 2.4 8.5 6.0
実施例8 0.6 0.03 0.11 <5 2.3 8.5 5.5
実施例9 0.6 0.03 0.10 10 2.5 8.5 6.0
実施例10 0.6 0.03 0.08 <5 2.5 8.5 6.0
実施例11 0.65 0.03 0.08 <5 2.5 9.0 8.5
実施例12 0.65 0.03 0.08 <5 2.5 8.0 7.0
──────────────────────────────────
」(段落0040?0065)

(3)刊行物1に記載された発明
刊行物1には、摘示アの請求項1、8及び11並びに摘示カ、ケの記載からみて、次の発明(以下、「刊行物発明」という。)が記載されているものと認められる。
「鉱油および/または合成油からなる硫黄含有量0.1重量%以下の基油に少なくとも、組成物の全重量に基づき、
a)アルケニルもしくはアルキルこはく酸イミドあるいはその誘導体である無灰性分散剤が窒素含有量換算値で0.01?0.3重量%、
b)硫黄含有量が3%以下で全塩基価10?350mgKOH/gの金属含有清浄剤が硫酸灰分換算値で0.1?1重量%、
c)ジアルキルジチオリン酸亜鉛が、リン含有量換算値で0.01?0.06重量%、
d)酸化防止性のフェノール化合物および/または酸化防止性のアミン化合物が0.01?5重量%、
さらに、モリブデン含有化合物が0.01?5重量%
の量にて溶解もしくは分散されていて、組成物の全重量に基づき、硫酸灰分量が0.1?1重量%の範囲、リン含有量が0.01?0.06重量%の範囲、そして硫黄含有量が0.01?0.3重量%の範囲にあって、塩素含有量が40ppm以下であり、さらに金属含有清浄剤に含まれる有機酸金属塩が組成物中に0.2?7重量%存在することを特徴とする潤滑油組成物。」

(4)対比
補正発明と刊行物発明とを対比すると、次のことがいえる。
刊行物発明における「鉱油および/または合成油からなる硫黄含有量0.1重量%以下の基油」は、摘示キに「通常、100℃における動粘度が2?50mm^(2)/sの鉱油や合成油」と記載されていることからみて、補正発明における「潤滑粘度の油」に該当することは明らかである。
刊行物発明における「c)ジアルキルジチオリン酸亜鉛」は、摘示ケ中の「摩耗の抑制に有効な」との記載によるまでもなく、補正発明における「油溶性のリン含有耐摩耗性化合物」に該当することは当業者において自明のことである。
刊行物発明における「モリブデン含有化合物」は、摘示サの記載からみて、補正発明における「モリブデン化合物とコハク酸イミド、カルボン酸アミド、炭化水素モノアミン、炭化水素ポリアミン、マンニッヒ塩基、リンアミド、チオリンアミド、ホスホンアミド、分散剤型粘度指数向上剤およびそれらの混合物からなる群より選ばれる塩基性窒素含有化合物との反応により得られるモリブデン/窒素含有錯体」に該当するものといえる。
刊行物発明における「b)硫黄含有量が3%以下で全塩基価10?350mgKOH/gの金属含有清浄剤」は摘示オ、クに説明されるとおりであり、明らかに補正発明における「金属含有清浄剤」に該当する。
さらに、補正発明は「全下記の成分を含む……潤滑油組成物」であって、特定された「潤滑粘度の油」、「油溶性のリン含有耐摩耗性化合物」、「モリブデン/窒素含有錯体」及び「金属含有清浄剤」以外の成分を含むことを許容しているものと解され、本件補正後の明細書(以下、「補正明細書」という。)の段落0125にも「本発明の組成物は下記成分からなる」としたうえで成分として「任意の添加剤」が挙げられていることから、刊行物発明が上記4成分以外の成分を含むことは相違点とはならない。
そうすると、補正発明と刊行物発明とは、
「全下記の成分を含む潤滑油組成物:
潤滑粘度の油、
少なくとも一種の油溶性のリン含有耐摩耗性化合物、
モリブデン化合物とコハク酸イミド、カルボン酸アミド、炭化水素モノアミン、炭化水素ポリアミン、マンニッヒ塩基、リンアミド、チオリンアミド、ホスホンアミド、分散剤型粘度指数向上剤およびそれらの混合物からなる群より選ばれる塩基性窒素含有化合物との反応により得られるモリブデン/窒素含有錯体、
および
金属含有清浄剤。」
の点で一致し、次の点で一応相違する。

相違点1:
補正発明では、「リンの重量%が組成物の全重量に基づいて0.05重量%以下である」と特定されているのに対し、刊行物発明では、「組成物の全重量に基づき、リン含有量が0.01?0.06重量%の範囲」と規定されている点

相違点2:
「モリブデン/窒素含有錯体」の含有量について、補正発明では、「0.2?15重量%」と特定しているのに対し、刊行物1発明では「0.01?5重量%」と規定されている点

(5)判断
(ア)相違点1について
刊行物1には、摘示ウに、内燃機関に関し、排ガス成分による環境汚染に対する対策として酸化触媒などの排ガス浄化装置の装着が挙げられ、さらに、潤滑油の一部はエンジン中で潤滑油中に使用されると同時に燃焼し、排ガスの一部と排出されるが、潤滑油中のリン分を減らすことが触媒の劣化対策の上で好ましいことが記載されている。そして、そのことを踏まえて、摘示イ?エには、従来用いられている潤滑油組成物に比べて低リン含量でありながら、従来用いられている潤滑油組成物と同等若しくはそれ以上の高温清浄性を示す潤滑油組成物を提供するという、刊行物発明の目的が記載されている。すなわち、刊行物発明においても潤滑油組成物中のリン含量を従来より少なくすることを目指すものであり、そして、この低リン含量のレベルとして「組成物の全重量に基づき、リン含有量が0.01?0.06重量%の範囲」と規定しているものである。
そして、この点について具体的に開示した実施例をみると(摘示シ参照)、実施例1?12のすべてにおいて、リン含量は0.03重量%であり、補正明細書の実施例1A(0.03重量%+:段落0145)と同じ、又は実施例3A(0.048重量%+:段落0154)よりさらに低いリン含有量レベルのものが記載されている。
そうすると、刊行物1には、「リンの重量%が組成物の全重量に基づいて0.05重量%以下である」ことについて実質的に記載されているものと認められ、したがって、相違点1に係る技術的事項は実際上相違点ではないといえる。

(イ)相違点2について
「モリブデン/窒素含有錯体」については、刊行物1には実施例1?9、11、12に0.1重量%、実施例10に0.2重量%含有するものが具体的に示されている。この含有量は、実施例10の0.2重量%は補正発明で特定する下限量に一致し、その他の実施例における0.1重量%は当該下限量に満たないものである。
しかし、刊行物発明においては、「0.01?5重量%」という範囲が示されており、この範囲は補正発明における「0.2?15重量%」と重複するものであることに加え、刊行物1には、「一般に、低灰分、低リンかつ低硫黄の潤滑油組成物は、金属系清浄剤およびジチオリン酸亜鉛の低減を意味し、高温清浄性や酸化安定性あるいは耐摩耗性の低下につながる。」(摘示コ)と、ジチオリン酸亜鉛の低減が高温清浄性、酸化安定性又は耐摩耗性の低下の問題を引き起こすことから、その問題解決のために、「これらの性能を維持するためにd)成分が必要となる。このd)成分としては、ジアリールアミン系酸化防止剤及び/またはヒンダードフェノール系酸化防止剤が好ましい。これらの酸化防止剤は高温清浄性の向上にも効果的である。」(摘示コ)及び「上記のモリブデン含有化合物は、潤滑油組成物中で、主として摩擦調整剤、酸化防止剤あるいは摩耗防止剤として機能し、また高温での清浄性の向上に寄与する。」(摘示サ)と記載されるように、酸化防止剤やモリブデン含有化合物を添加することが示されている。そして、モリブデン含有化合物について、「これらの化合物は灰分あるいは硫黄分等を含むものが多いが、本発明の潤滑油組成物全体の清浄を考慮しながら、添加量を調整し効果的に使用することができる」(摘示サ)ものであるから、リン含有量を低減することにより耐摩耗性の低下を解消するために、「5重量%」を上限とする範囲においてモリブデン含有化合物、すなわち「モリブデン/窒素含有錯体」の量を調整することは、刊行物1の記載に従って、当業者が容易になし得ることといえる。
そして、その効果についても、この刊行物1の記載に従って容易に予測できる範囲のものであり、格別顕著なものということはできない。

(ウ)小括
以上のとおりであるから、補正発明は、当業者が刊行物1に記載された発明に基づいて容易に発明することができたものと認められるので、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。

4.まとめ
そうすると、本件補正は、特許法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により、却下すべきものである。

第3.本願発明
上記したとおり、本件補正は却下されたので、本願の請求項1?24に係る発明は、平成21年10月7日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?24にそれぞれ記載された事項により特定されるとおりのものと認められ、そのうち請求項1に係る発明(以下、「本願発明1」という。)は次のとおりである。

「全下記の成分を含む、リンの重量%が組成物の全重量に基づいて0.05重量%以下である潤滑油組成物:
潤滑粘度の油、
少なくとも一種の油溶性のリン含有耐摩耗性化合物、
および
0.2?15重量%の、モリブデン化合物とコハク酸イミド、カルボン酸アミド、炭化水素モノアミン、炭化水素ポリアミン、マンニッヒ塩基、リンアミド、チオリンアミド、ホスホンアミド、分散剤型粘度指数向上剤およびそれらの混合物からなる群より選ばれる塩基性窒素含有化合物との反応により得られるモリブデン/窒素含有錯体。」

第4.原査定の拒絶の理由
原査定は、「この出願は、平成21年3月31日付け拒絶理由通知書に記載した理由によって、拒絶をすべきものである。」というものであるが、この「理由」には、拒絶査定の備考に記載された内容からみて、「本願に係る発明は、刊行物1(特開2002-53888号公報)に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。」との理由を含むものである。
なお、備考には次の点が記載されている。
「特許出願人は、意見書において、「この引用文献1には、潤滑油組成物にモリブデン/窒素含有錯体を0.2重量%の添加量で添加した潤滑油組成物が低リン潤滑油組成物の耐摩耗性を向上させることの記載も示唆もありません。」と主張している。
上記主張について、以下検討する。
引用例1の特許請求の範囲、段落[0011]、[0030]-[0031]、[0035]-[0036]には、潤滑粘度の油と、ジアルキルジチオリン酸亜鉛をリン含有量換算値で0.01?0.06重量%と、こはく酸イミドの硫黄含有モリブデン錯体(本願の「硫化モリブデン・コハク酸イミド」に相当。)等のモリブデン含有化合物を0.01?5重量%含有する内燃機関用潤滑油組成物が記載されており、該組成物は、リン含有量が組成物の全重量に基づき、0.01?0.06重量%であることも記載されている。
また、実施例には、潤滑粘度の油、ジアルキルジチオリン酸亜鉛と、0.1重量%の硫化モリブデン・コハク酸イミドを含有する、リン含有量が組成物の全量に基づき0.03重量%の組成物(実施例1)が具体的に示されている。
そうすると、出願人の主張するように、本願請求項1-10、12-22、24に係る発明の潤滑油組成物は、モリブデン/窒素含有錯体の含有量が0.2?15重量%と特定されている点で引用例1に記載された発明の潤滑油組成物と相違する。
しかし、引用例1の段落[0007]には、潤滑油組成物の低リン化は、ジチオリン酸亜鉛の添加量を低減することによりなされることが記載されており、該ジチオリン酸亜鉛は、周知の極圧剤である。
また、引用例1の段落[0036]には、上記の硫化モリブデン・コハク酸イミド等のモリブデン含有化合物は、摩耗防止剤として機能するものであることも記載されている。
してみると、引用例1に記載された発明の内燃機関用潤滑油組成物において、その低リン化のために、ジアルキルジチオリン酸亜鉛の添加量を低減し、結果として生じる極圧効果の低減を補うために、摩耗防止剤として機能する硫化モリブデン・コハク酸イミド等のモリブデン含有化合物の添加量を調整することは、当業者が容易になし得ることである。
上記の通りであるから、出願人の主張する低リン化と耐摩耗性の両立という本願発明の効果は、引用例1の記載事項から、当業者が予測し得る範囲内の事項である。
よって、上記出願人の主張は採用することができない。
したがって、本願発明は、依然として、引用例1に記載された発明に基いて、容易に発明をすることができたものである。」

第5.当審の判断
1.引用刊行物およびその記載事項
刊行物1:特開2002-53888号公報

刊行物1は、上記第2.3(2)項で引用したものであり、当該刊行物は同項で摘示した事項が記載されている。

2.刊行物1に記載された発明
刊行物1には、上記第2.3(3)項で特定した「刊行物発明」が記載されているものと認められる。

3.対比
本願発明1と刊行物発明とを対比すると、上記第2.3(4)項に述べた点にかんがみれば、
「全下記の成分を含む潤滑油組成物:
潤滑粘度の油、
少なくとも一種の油溶性のリン含有耐摩耗性化合物、
および
モリブデン化合物とコハク酸イミド、カルボン酸アミド、炭化水素モノアミン、炭化水素ポリアミン、マンニッヒ塩基、リンアミド、チオリンアミド、ホスホンアミド、分散剤型粘度指数向上剤およびそれらの混合物からなる群より選ばれる塩基性窒素含有化合物との反応により得られるモリブデン/窒素含有錯体。」
の点で一致し、次の点で一応相違する。

相違点3:
本願発明1では、「リンの重量%が組成物の全重量に基づいて0.05重量%以下である」と特定されているのに対し、刊行物発明では、「組成物の全重量に基づき、リン含有量が0.01?0.06重量%の範囲」と規定されている点

相違点4:
「モリブデン/窒素含有錯体」の含有量について、本願発明1では、「0.2?15重量%」と特定しているのに対し、刊行物1発明では「0.01?5重量%」と規定されている点

4.判断
相違点3及び4は、それぞれ上記第2.3(4)項で認定した相違点1及び2と同じであり、そうすると、上記第2.3(5)において相違点1及び2として判断した内容が、それぞれ相違点3及び4にも妥当する。

5.小括
したがって、本願発明1は、当業者が刊行物1に記載された発明に基づいて容易に発明することができたものと認められる。

6.請求人の主張について
請求人は審判請求書の請求の理由3.(5)において、次の主張をしている。
「2)しかしながら、引用文献1における「硫化モリブデン・コハク酸イミド等のモリブデン含有化合物が、摩耗防止剤として機能するものであることの記載」は、硫化モリブデン・コハク酸イミド等のモリブデン含有化合物について一般的に知られている認識を述べた記載に過ぎず、そのモリブデン含有化合物の添加が、いかなる組成の潤滑油組成物において実用上有効と認識されるレベルの摩耗防止効果をもたらすかの点については、引用文献1は何ら示唆していません。
3)これに対して、本願明細書に記載された実施例データと比較例データ、そして参考例データに基づいてまとめた前記の耐磨耗性向上効果の結果から明らかなように、少なくとも、本願発明で使用する特定のモリブデン/窒素含有錯体については、これをリン含量が高い潤滑油組成物に配合した場合には、耐摩耗性の向上効果は殆ど観察されず、一方では、リン含量が0.05重量%以下と非常に低い潤滑油組成物において、モリブデン/窒素含有錯体の添加量を0.2重量%以上として添加した場合に、顕著な耐磨耗性向上効果が得られます。このような優れた本願発明のモリブデン/窒素含有錯体の添加効果は、引用文献1に記載がないばかりでなく、その示唆もありません。
従って、補正後の請求項1に記載された本願発明の潤滑油組成物は、引用文献1の記載から容易に類推できた発明ではないと考えます。」

しかしながら、請求人も認めるとおり、「モリブデン化合物が潤滑油組成物中で摩耗防止剤として機能する」との記載は、モリブデン含有化合物について一般的に知られている認識を述べたものであり、その「一般的に知られている認識」に従って、モリブデン化合物の配合量を調整し、最適の範囲を見いだすことは、当業者の通常の創作能力の発揮にすぎない。
なお、補正明細書の比較配合物Dと参考例3Bとを対比すると、リン含有量が0.095重量%の場合に、モリブデンコハク酸イミドの添加により摩耗量の減少が見られる(段落0151?0159の[実施例3])。また、補正明細書の実施例3Aと参考例3Bとを対比すると、モリブデンコハク酸イミド分散体の添加量0.5重量%の場合に、リン含有量を増加させるとやはり摩耗量の減少が見られる。そして、耐摩耗性に限らず、潤滑油の性能は添加剤の添加量に比例して際限なく改善されるものではないことはよく知られることにかんがみれば、請求人の主張する「リン含量が高い潤滑油組成物に配合した場合には、耐摩耗性の向上効果は殆ど観察されず」というのは、ジチオリン酸亜鉛の添加により一定の耐摩耗性が得られている場合に、さらに他の摩耗防止剤を添加しても耐磨耗性の改善の度合いが小さくなることを示すものにすぎず、このことをもって、効果の顕著性の根拠とすることは妥当ではない。

また、請求人は、回答書において、次の主張をしている。
「本願発明の特徴的構成要件である低リン含量下での「油溶性のリン含有耐摩耗性化合物と特定のモリブデン/窒素含有錯体」の作用効果については、本願審査の拒絶理由通知に対して意見書において主張したように、リン含有量の制限のある潤滑油組成物に金属含有清浄剤を添加した場合において顕著であります。そして、この主張に対しては、拒絶査定では、本願請求項の潤滑油組成物では、「金属含有清浄剤」を含有することが発明特定事項として特定されていないとの理由により、「本願発明と引用例2に記載された発明との間において、「金属含有清浄剤」を含有するか否かの点は、相違点とならない」との理由にて、排斥されています。
すなわち、上記拒絶査定の理由が妥当であるか否かの点は別として、拒絶査定の作成に際しての審査官の認識では、本願発明の作用効果が、潤滑油組成物が金属含有清浄剤の存在下では明確に現れることは理解していたはずです。このため、本願出願人(審判請求人)は、上記の審査官の理解を考慮して、審判請求時に提出した補正において、請求項1において本願発明の潤滑油組成物の必須成分として「金属含有清浄剤」の記載を加入させました。従って、前置審査報告書における審査官の判断は、拒絶査定作成における判断と矛盾し、承服することはできません。」

このことは、原査定における引用文献2との関係での主張であるから、上記刊行物1(同引用文献1)に基づく拒絶理由とは直接関係するものではないが、参考までに以下の事項を付記する。
審査官が、拒絶査定において、
「本願請求項1-9、11-21、23-24に係る発明の潤滑油組成物は、「金属含有清浄剤」を含有することが発明特定事項として特定されていないから、本願請求項1-9、11-21、23-24に係る発明と、引用例2に記載された発明との間において、「金属含有清浄剤」を含有するか否かの点は、相違点とはならない。」
と記載したのは、請求人(出願人)が意見書において、「本願発明の説明」として、「本願発明の発明者は、リン含有添加剤の潤滑油組成物への添加量を低くした場合に発生する耐摩耗性の低下を軽減するための解決手段の開発を求めて研究を行った結果、リン含有量が0.05重量%以下という低リン含有潤滑油組成物は、金属含有清浄剤を添加した上で、一定量以上の特定のモリブデン/窒素含有錯体を添加した場合に、リン含有添加剤がリン含有量0.1重量%程度の量で添加された潤滑油組成物と殆ど変わりのない耐摩耗性を示すことを見いだして本願発明に到達しました。」と主張したこと、及び、引用文献2との関係で「上記の実施例の潤滑油組成物は、それに金属含有清浄剤を加えた場合に優れた耐摩耗性を示し得ることの記載も示唆もありません。」(審決注:上記の実施例とは引用文献2の実施例16を指している。)と、「金属含有清浄剤」を添加したことの効果を主張したことに対し、拒絶査定時の請求項1に係る発明には、「金属含有清浄剤」が発明特定事項として含まれていないため、当該請求項1に係る発明と引用文献2に記載の発明とを対比した際に、「金属含有清浄剤」は相違点として認定できず、そうすると、「金属含有清浄剤」を添加したことの効果についての主張は、特許請求の範囲の記載に基づくものではないため、その内容にかかわらず参酌する対象にならないことを示したものにすぎない。
そして、補正明細書の段落0140?0161に記載された【実施例3】をみても、金属含有清浄剤を配合したもののみが記載され(金属含有清浄剤は潤滑油添加剤の代表的なものであることは上記摘示クに示されているとおりである。)、金属含有清浄剤を配合してないものとの対比は行われておらず、補正明細書のその他の部分についてみても、金属含有清浄剤については、「以下の添加剤成分は、本発明の組成物に任意に用いることができる成分の幾つかの例である。これら添加剤の例は、本発明を説明するために記されるのであって本発明を限定するものではない。」(段落0129)との記載とともに金属含有清浄剤の例が挙げられるだけであって(段落0130)、結局、金属含有清浄剤を加えた場合にはじめて優れた耐摩耗性を示すことについては補正明細書には何も記載されていない。
したがって、「拒絶査定の作成に際しての審査官の認識では、本願発明の作用効果が、潤滑油組成物が金属含有清浄剤の存在下では明確に現れることは理解していた」というのは請求人の誤解であり、金属含有清浄剤を加えた場合に優れた耐摩耗性を示すことは、当業者に理解できることではない。

第6.まとめ
以上のとおりであるから、本願請求項1に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
そうすると、他の請求項について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、上記結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-08-01 
結審通知日 2012-08-03 
審決日 2012-08-28 
出願番号 特願2003-283337(P2003-283337)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C10M)
P 1 8・ 113- Z (C10M)
P 1 8・ 575- Z (C10M)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 江間 正起  
特許庁審判長 松浦 新司
特許庁審判官 新居田 知生
磯貝 香苗
発明の名称 低リン量潤滑油で潤滑にした内燃機関の摩耗を低減する組成物  
代理人 柳川 泰男  
  • この表をプリントする

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ