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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性  E03D
審判 全部無効 1項3号刊行物記載  E03D
審判 全部無効 (特120条の4,3項)(平成8年1月1日以降)  E03D
管理番号 1268852
審判番号 無効2009-800201  
総通号数 159 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-03-29 
種別 無効の審決 
審判請求日 2009-09-17 
確定日 2013-01-16 
事件の表示 上記当事者間の特許第3542622号「ポンプ作動衛生器具及び便器設備」の特許無効審判事件についてされた平成22年 7月13日付け審決に対し、東京高等裁判所において審決取消の判決(平成22年(行ケ)第10271号平成23年 5月30日判決言渡)があったので、さらに審理のうえ、次のとおり審決する。 
結論 特許第3542622号の請求項1ないし12、14ないし17に係る発明についての特許を無効とする。 特許第3542622号の請求項13、18、19に係る発明についての審判請求は、成り立たない。 審判費用は、その19分の3を請求人の負担とし、19分の16を被請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
本件特許第3542622号(以下「本件特許」という。)の手続の経緯の概要は,次のとおりである。

平成 5年11月15日 本件特許出願(特願平5-308751号)
(パリ条約に基づく優先権主張平成4年11月13日 米国)
平成16年 4月 9日 設定登録(請求項19)

平成20年12月26日 別件無効審判請求
(無効2009-800001)
平成21年 9月 4日 口頭審理
平成21年 9月29日 無効2009-800001審決(不成立)
平成21年11月 9日 無効2009-800001審決確定

平成21年 9月17日 本件無効審判請求
(無効2009-800201)
平成22年 1月18日 被請求人より答弁書及び訂正請求書提出
平成22年 2月23日 請求人より弁駁書提出
平成22年 3月 9日 書面審理通知
平成22年 3月15日 訂正拒絶理由通知及び職権審理結果通知
平成22年 5月 6日 被請求人より意見書提出
平成22年 7月13日 無効2009-800201審決(訂正非認容 不成立)
平成22年 8月19日 請求人審決取消訴訟提起
(平成22行ケ10271)
平成23年 5月30日 審決取消判決
平成23年 8月15日 被請求人より訂正請求書提出
平成23年11月 4日 請求人より弁駁書提出
平成23年12月20日 訂正拒絶理由通知
平成24年 2月23日 被請求人より意見書提出
平成24年 4月20日 審理事項通知
平成24年 5月15日 請求人,被請求人より口頭審理陳述要領書提出
平成24年 5月29日 口頭審理
平成24年 6月11日 被請求人より上申書提出
平成24年 7月 2日 請求人より上申書提出


第2 当事者の主張
1 請求人の主張の概要
請求人は,本件特許第3542622号の請求項1?19に記載された発明についての特許を無効とする,審判費用は被請求人の負担とする,との審決を求め,その理由として,下記の無効理由を挙げ,証拠方法として甲第1号証?甲第26号証を提出し,合わせて資料1?4を提出した。
また,請求人は,平成23年8月15日付けの訂正請求は,実質上特許請求の範囲を変更するものであって不適法である旨を主張し,さらに訂正請求が認められるとしても,訂正後の請求項1に記載された発明は,甲第1号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである旨を主張した。

[無効理由]
(1)第1の無効理由
本件特許の請求項1に係る発明は,甲第1号証に記載された発明であるから,特許法第29条第1項第3号の規定により特許を受けることができないものであり,その特許は同法第123条第1項第2号に該当し,無効とすべきである。
(2)第2?9の無効理由及び追加の無効理由
本件特許の請求項1?19に係る発明は,甲第1?20号証に記載された,発明或いはさらに周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり,その特許は同法第123条第1項第2号に該当し,無効とすべきである。
〔第2?9の無効理由における甲第2号証を引用文献とする無効理由は撤回する。〕
(3)第10の無効理由
〔撤回する。〕

[証拠方法]
甲第1号証:特開平4-222730号公報
甲第2号証:実願平2-97943号(実開平4-57572号)のマイクロフィルム
甲第3号証:特開平2-256730号公報
甲第4号証:特開平1-271541号公報
甲第5号証:特開平3-224925号公報
甲第6号証:特開昭63-92386号公報
甲第7号証:特開昭56-93935号公報
甲第8号証:特開昭58-83739号公報
甲第9号証:実願昭54-183121号(実開昭56-101263号)のマイクロフィルム
甲第10号証:特開平3-176523号公報
甲第11号証:実願昭61-62209号(実開昭62-172767号)のマイクロフィルム
甲第12号証:米国特許第4,918,763号明細書(1990年)
甲第13号証:実願昭60-38608号(実開昭61-155475号)のマイクロフィルム
甲第14号証:「機械工学便覧応用編B5流体機械」初版4刷,社団法人日本機械学会,1991年5月15日発行,85?86ページ
甲第15号証:特開昭63-170581号公報
甲第16号証:特開昭59-48536号公報
甲第17号証:特開平3-100241号公報
甲第18号証:特開平3-224924号公報
甲第19号証:特開平3-221631号公報
甲第20号証:特開平3-176523号公報
甲第21号証:特開昭61-102922号公報
甲第22号証:特開平1-129121号公報
甲第23号証:実願平1-74412号(実開平3-14428号)のマイクロフィルム
甲第24号証:特開昭59-108919号公報
甲第25号証:実願昭55-140699号(実開昭57-66074号)のマイクロフィルム
甲第26号証:特開昭61-216946号公報

[提出資料]
資料1:特開昭56-93935号公報(甲第7号証)の3ページ
資料2:米国特許第5,305,475号明細書
(本件特許に対応する米国特許明細書)
資料3:マグローヒル科学技術用語大辞典第3版「水封じ」の項目
資料4:Peter Hemp, "INSTALLING & REPAIRING PLUMBING FIXTURES" Taunton Press,Ins., 1994, p62,63

2 被請求人の主張の概要
被請求人は,本件無効審判の請求は成り立たない,審判費用は請求人の負担とするとの審決を求め,平成23年5月30日の審決取消判決の後に,同年8月15日付けで訂正請求書を提出して訂正を求めて,訂正後の請求項1?19に係る発明は特許法第29条第1項第3号,同法第29条第2項の規定の何れにも違反せず,本無効審判は棄却されるべきであると主張し,訂正が認められないとしても,請求項1?19に係る発明は特許法第29条第1項第3号,同法第29条第2項の規定の何れにも違反せず,本無効審判は棄却されるべきであると主張した。

[提出資料]
資料1:本件明細書記載の操作の説明図。
資料2:松下電器産業株式会社編「制御基礎講座6 プログラム学習によるマイコン制御-応用編」13刷,廣済堂科学情報社,平成3年8月14日発行,184?185ページ


第3 訂正について
1 訂正の内容
平成23年8月15日付けで訂正請求がなされたので,平成22年1月18日付けの訂正請求は特許法第134条の2第4項の規定により取り下げたものとみなす。
そうすると,本件無効審判の訂正請求は,本件特許の願書に添付した明細書(以下,「本件特許明細書」という。)を平成23年8月15日付け訂正請求書に添付した訂正明細書のとおりに訂正しようとするものであり,その訂正請求の趣旨は,特許第3542622号の特許請求の範囲の,請求項1と請求項1を引用する請求項2?19に係る発明について,訂正請求書に添付された訂正明細書の通りに訂正することを求めるものであって,訂正事項は,請求項1の記載に,「前記一定の遅延時間が,前記ポンプの最後の動作とその直前の動作との間の時間間隔が長いほど短くなるよう設定されている」との構成を加える訂正をするものである。 (訂正後の請求項1に係る発明を,以下,「訂正発明」という。)

2 本件訂正の適否(願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内であるかの判断)
(1)当審は,平成23年12月20日付け訂正拒絶理由通知書において,以下の内容の訂正拒絶理由を通知した。
「第2 本件訂正の適否(新規事項)
本件無効審判の被請求人は,平成23年8月15日付け訂正請求書の6.(4)において,本件特許明細書又は図面の【0010】,【0013】,【0034】?【0037】,【図15】及び【図16】を訂正の根拠として挙げているので,これらの記載について以下に検討する。

段落【0010】及び【0013】には,ポンプの過度作動と大便器のあふれを防止できるだけの遅延時間を持たせることが説明されている。
段落【0037】には,「第1の場合」と「第2の場合」が記載され,「第1の場合」について,各フラッシュ間にタンク17を再充てんするための30秒の遅延時間を持たせるとの制約条件のもと,第2フラッシュが第1フラッシュから30秒以上60秒以内に発生する場合において,第3フラッシュを前記制約条件にかかわらず,第1フラッシュから90秒の遅延時間が経過するまで生じさせないことが説明されている。一方,「第2の場合」は,第2フラッシュが第1フラッシュから60秒を超えて発生する場合に,第3フラッシュが上記制約条件にのみ制約されることを説明している。
段落【0034】?【0036】は,【図15】及び【図16】に記載されたフローチャートを説明するものであり,段落【0036】には「3.17秒遅延後」との記載があるが,この遅延時間は排せつ物を洗い流すためのポンプの作動時間を説明するものであって,各フラッシュ間の遅延時間とは関係のないものである。
【図15】及び【図16】には,各フラッシュ間の遅延時間に関して,段落【0037】に記載以上のものは開示されていない。
すなわち,本件特許明細書又は図面からは,第2フラッシュと第1フラッシュとの間隔が,どのような場合(例えば1時間であるような場合)であっても,第2フラッシュから第3フラッシュまでの遅延時間が第2フラッシュ(ポンプの最後の動作)と第1フラッシュ(その直前の動作)との時間間隔が長いほど短くなるように設定するという技術思想は読み取ることができない。
これに対し,訂正発明は,ポンプの最後の動作とその直前の動作との間隔がいかなる場合でも,その間隔に応じてポンプの最後の動作からの遅延時間を設定するものまで含むものとなっている。

また,審判請求人の訂正審判請求書の6.(4)[まる3]の最後の部分で,「この式Y=60?X+30秒後から分かるように,第1フラッシュ動作と第2フラッシュ動作との間の時間間隔=X秒間が長いほど,次のポンプの作動を防止する遅延時間=Yが短くなる。」と主張しており,この主張は,上記段落【0037】に記載された「第1の場合」を根拠とするものと解されるが,上記「第1の場合」からは,Xが長くなった際に,Yが短くなればどのような時間でもよい(例えば,Xが5秒長くなった際にYを10秒短くする)という技術思想は読み取ることができない。
これに対し,訂正発明は,Xに相当する「ポンプの最後の動作とその直前の動作との間の時間間隔」が長くなるほどYに相当する「一定の遅延時間」は短くなればどのような時間でもよいのであって,長くなる時間と短くなる時間が異なるものまで含むものとなっている。

したがって,上記訂正事項は願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものではない。 」


(2)上記訂正拒絶理由通知に対し,被請求人は,平成24年2月23日付け意見書において,以下のように主張している。 なお,i)は平成24年5月15日付け陳述要領書により差し替えられた後のものである。
「i)a の理由について:
確かに,実施例では・・・されていない。
しかしながら,『前記一定の遅延時間が,前記ポンプ(18)の最後の動作とその直前の動作との間の時間間隔が長いほど短くなるように設定されている』との限定は,第1フラッシュと第2フラッシュとの時間差が常識的な範囲の場合に当てはめること意図したものであり,通常のフラッシュ状況を考慮せずに非常識的に長いフラッシュ間隔の場合にまで当てはめることを意図してはいない。例えば,第1フラッシュと第2フラッシュとの時間差がいくら長い場合であっても,本発明では,第3フラッシュには例えば最低30秒間の遅延時間を持たせると理解できる。
請求項には必ずしも全ての状況を網羅した限定を全て記載しなければならないものではなく,通常のフラッシュ利用状況に対応した特徴的な限定を加えることは通常の特許実務である。
ii)また,本件の訂正後の請求項の表現としては,「最低30秒間の遅延時間」が明記されてはいないが,本件知財高裁の判決では,訂正前の本件発明1の内容としては以下のように判示している。
ア 本件発明1の内容
特許請求の範囲の請求項1には,「時間遅延手段」は,「前記制御手段(80)は前記ポンプの最後の動作後一定の遅延時間前に前記ポンプ(18)が作動するのを防止する」と記載されている。・・・少なくとも次のフラッシュまでに30秒の後れを設定し,その間,ポンプの動作を停止する技術を含むと理解できる(判決書第25ページ)。
訂正後の請求項は訂正前の請求項よりもさらに限定したものであり,訂正前の請求項ですら,上記のように少なくとも次のフラッシュまでに30秒の後れを設定し,その間,ポンプの動作を停止する技術を含むと理解できるのであるから,訂正後の請求項に係る発明はなおさらそのように理解されるのである。
iii)b の理由について:
確かに,実施例にはXが長くなった量と同じ量だけYが短くなるという条件が記載されているが,請求項には必ずしも実施例の限定を全て記載しなければならないものではない。実施例には,いろいろな詳細な条件を記載してあっても,請求項には上位概念を記載するということは通常の特許実務である。例えば,実施例中には特定の関数関係に従い変化する量X,Yに関して,請求項中では,単に「YはXに応じて変化する」などの表現を含む補正は特許庁においていくらでも許されている。本件訂正事項の場合には,単に「YはXに応じて変化する」に止まらず,『前記一定の遅延時間が,前記ポンプ(18)の最後の動作とその直前の動作との間の時間間隔が長いほど短くなるよう設定されている』ことまで限定しているのであり,特許庁の日常的実務から判断してもとりたてて新規事項を含むとまで解すべきではない。」

(3)被請求人の主張の検討
ア 被請求人の主張i)について
被請求人の主張によれば「通常のフラッシュ状況を考慮せずに非常識的に長いフラッシュ間隔の場合にまで当てはめることを意図してはいない。」ということであるが,便器に水を流す間隔は一般的に60秒よりは長いから,第1フラッシュと第2フラッシュの間が60秒以上であることは,便器の使用形態に照らして通常のことであり,非常識的に長いフラッシュ間隔と言うことはできない。
また,訂正発明では「前記一定の遅延時間が,前記ポンプ(18)の最後の動作とその直前の動作との間の時間間隔が長いほど短くなるように設定されている」という構成があるから,「本発明では,第3フラッシュには例えば最低30秒間の遅延時間を持たせると理解できる。」との主張は,訂正発明とは関係のないものであり,訂正事項は,願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものではないという,上記aの理由に対する反論となっていない。
イ 被請求人の主張ii)について
被請求人の主張は,「限定」されれば必ず「願書に添付した明細書又は図面に記載した事項である」ということと認められるが,「限定」することと「願書に添付した明細書又は図面に記載した事項である」ことは別であって,限定したからといって必ずしも「願書に添付した明細書又は図面に記載した事項である」とはいえないから,上記訂正事項は限定ではあったとしても,願書に添付した明細書又は図面記載した事項ではない。
ウ 被請求人の主張iii)について
被請求人の主張は法律に基づいたものではなく,誤解に基づく印象を述べたものに止まる。
「願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内」であるためには,「願書に添付した明細書又は図面に明示的に記載された事項」か「願書に添付した明細書又は図面に記載から自明な事項」でなければなない。そして,「願書に添付した明細書又は図面に記載から自明な事項」であるためには当業者が出願時の技術常識に照らして,その意味であることが明らかであって,その事項がそこに記載されているのと同然であると理解する事項でなければならない。上記訂正事項はこれらのいずれでもない。
エ 「特許庁の判断の一貫性」との主張について
特許請求の範囲の減縮を目的とするものであっても「願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内」でなければ,訂正は認められない。

そして,訂正拒絶理由で示したとおり,訂正事項が特許明細書等に記載されていたとは認識されないから,被請求人の主張は認められない。

3 むすび
したがって,上記訂正事項は,特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第6条第1項の規定によりなお従前の例によるものとされた同法第1条の規定による改正前の特許法第134条第2項ただし書きの規定に適合しないから本件訂正は認められない。


第4 本件発明
上記のとおり,本件訂正請求は,不適法なものであって認められないから,本件特許の請求項1?19に記載された発明は,本件特許明細書の特許請求の範囲の請求項1?19に記載された,次のとおりのものと認める(以下,「本件発明1」等という。)。

「【請求項1】
洗浄可能な汚物を受け入れる衛生器具であって,
前記汚物を受け入れる少なくとも一つの受容器(12)と,
所定量の洗浄水を貯える貯水タンク(17)と,
前記貯水タンク(17)の内部と流体連通するポンプ(18)と,
ポンプ排出口(25)と前記受容器(12)とを連結する管(27)と,を有し,
前記ポンプ(18)を作動させて所定時間の間に所定量の洗浄水を前記受容器(12)に送出させ,あるいは前記ポンプ(18)を作動させて少なくとも一つの他の所定時間の間に少なくとも一つの他の所定量の洗浄水を前記受容器(12)に送出させ,それにより前記衛生器具が制御されて2つの異なる洗浄サイクルを使用できるようにポンプ(18)に選択的にかつ作動的に接続された自動制御手段(80)を備え,前記制御手段(80)は前記ポンプの最後の動作後一定の遅延時間前に前記ポンプ(18)が作動するのを防止する時間遅延手段を有している,ことを特徴とする洗浄可能な汚物を受け入れる衛生器具。
【請求項2】
前記制御手段(80)はタッチ式のスイッチ(81,82,83)によって作動されることを特徴とする請求項1に記載の衛生器具。
【請求項3】
受容器(12)はリム(14)と大便器部分とを有し,前記制御手段(80)がさらに順番に,第1シーケンスでリムに所定量の洗浄水を送出させ,第2シーケンスで前記受容器の大便器と前記リム(14)の双方に所定量の洗浄水を送出させ,第3シーケンスで前記リム(14)に所定量の洗浄水を送出させるようにポンプ(18)に選択的にかつ作動的に接続されていることを特徴とする請求項1に記載の衛生器具。
【請求項4】
前記受容器(12)はリム(14)と大便器部分とを有し,前記制御手段(80)はさらに,所定量の洗浄水を前記リム(14)と前記大便器の双方に同時に送出させるようにポンプ(18)に選択的にかつ作動的に接続されていることを特徴とする請求項1に記載の衛生器具。
【請求項5】
前記受容器(12)はリム(14)と大便器部分とを有し,前記制御手段(80)はさらに,所定量の洗浄水を前記リム(14)にのみ送出させるようにポンプ(18)に選択的にかつ作動的に接続されていることを特徴とする請求項1に記載の衛生器具。
【請求項6】
前記受容器(12)はリム(14)と大便器部分とを有し,前記制御手段(80)はさらに順番に,第1シーケンスで所定量の洗浄水を前記リム(14)に送出させ,第2シーケンスで所定量の洗浄水を前記リム(14)と前記大便器に送出させるようにポンプ(18)に選択的にかつ作動的に接続されていることを特徴とする請求項1に記載の衛生器具。
【請求項7】
前記受容器(12)はリム(14)と大便器部分とを有し,前記衛生器具がさらに,前記リム(14)と大便器に洗浄水を送出した後に前記ポンプとは独立に前記リム(14)に水を送出する弁手段を有していることを特徴とする請求項1に記載の衛生器具。
【請求項8】
前記受容器(12)はリム(14)と大便器部分とを有し,前記制御手段(80)がさらに順番に,第1シーケンスで前記リム(14)に所定量の洗浄水を送出させ,第2シーケンスで前記大便器に所定量の洗浄水を送出させ,第3シーケンスで前記リム(14)に所定量の洗浄水を送出させるようにポンプ(18)に選択的にかつ作動的に接続されていることを特徴とする請求項1に記載の衛生器具。
【請求項9】
前記制御手段(80)は,前記一つの所定量の洗浄水と,異なる量の他の所定量の洗浄水を前記貯水タンク(17)から前記受容器に汲み上げさせるように前記ポンプ手段を作動させる予め選択された複数の時間を有することを特徴とする請求項1に記載の衛生器具。
【請求項10】
前記受容器は便器用容器であり,中空のリム(14)と大便器(12)を有し,前記管(27)は前記リムの下方の前記大便器に接続され,前記ポンプの排出口と前記リムとを接続する追加の管(30)を有していることを特徴とする請求項1に記載の衛生器具。
【請求項11】
前記ポンプはポンプモータ(20)により駆動され,前記モータ(20)は少なくとも二つの異なる速度を有していることを特徴とする請求項1に記載の衛生器具。
【請求項12】
前記ポンプはポンプモータ(20)により駆動され,前記ポンプ(18)は前記モータ(20)によって駆動された磁気駆動の駆動軸によって作動することを特徴とする請求項1に記載の衛生器具。
【請求項13】
前記貯水タンク中洗浄水のレベルを決める検出手段(65A)を有し,前記制御手段は,前記検出手段が作動された回数を確認する計数手段を有し,前記制御手段は,前記計数手段が予め定めた数に達したときに前記貯水タンクへの洗浄水を制御するために供給弁を閉じるように構成されたことを特徴とする請求項1に記載の衛生器具。
【請求項14】
水源に接続されたタンクの取入れ管と,
前記取入れ管に作動可能に接続された補充用制御弁と,
前記補充用制御弁と前記受容器とを連結するチューブとを有し,
水は前記チューブを通じて前記受容器に流れて前記管(27)と前記ポンプ(18)とは独立に水シールを実現することを特徴とする請求項1に記載の衛生器具。
【請求項15】
前記補充用制御弁は,水が前記取入れ管を通って汲み上げられてポンプの作動が停止した後に,追加の水が前記チューブを通って前記受容器に流れて水シールを実現するように構成配置されていることを特徴とする請求項14に記載の衛生器具。
【請求項16】
前記ポンプは貯水タンク(17)中に位置するポンプモータとポンプを含むことを特徴とする請求項1に記載の衛生器具。
【請求項17】
前記タンク(17)と前記受容器(12)とを連結し,前記受容器から前記タンクへの水の帰りの流れを許容する流体帰り通路手段(33)を有し,前記受容器の頂部を越える水こぼれが前記流体帰り通路手段(33)によって防止されることを特徴とする請求項1に記載の衛生器具。
【請求項18】
少なくとも2つの受容器を有し,洗浄水を一度に前記2つの受容器(10B,74B)のうちの1つのみに転換する手段を含む転換手段(75B)を有していることを特徴とする請求項1に記載の衛生器具。
【請求項19】
前記1つの受容器は小便器(74B)であり,もう1つの前記受容器は便器(10B)であることを特徴とする請求項18に記載の衛生器具。」
なお,請求項13の「構成されことを」は「構成されたことを」の誤記と認めて認定した。


第5 無効理由についての判断
1 証拠方法の記載内容
本件特許の優先日前に頒布された刊行物である甲第1号証?甲第26号証には,次の事項が記載されている。

(1)甲第1号証(特開平4-222730号公報)
(1a)「【請求項1】
ボウル部の底部にトラップ排水路を指向して洗浄水を噴射するジェット噴射孔を備えた便器において,この便器は,その内部に洗浄水を貯溜するタンクと,貯溜した洗浄水をジェット噴射孔から噴出させるポンプを備えたことを特徴とするサイホンジェット式便器。」
(1b)「【0002】
【従来の技術】従来からロータンクやフラッシュバルブ等を用いてジェット噴射孔に洗浄水を供給して便槽内の汚物の排出を行なうようにしたサイホンジェット式便器は,知られている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】しかし,ロータンクを用いたものでは,一度タンクに給水を受け,これを放出して便器を洗浄するので水道の水圧が低くてよいが,再びタンクに所要量の給水がされた後でなければ完全な洗浄を行なうことができず,連続使用が難しい。また,通常大便器洗浄には8リットル以上の洗浄水が必要であるためタンクを完全に大便器内も収めることができず,外観を損い,掃除の邪魔になる。一方,フラッシュバルブを用いたものでは,給水管に直結して設けられているので,上記のような問題はないが,給水圧力の変動を受け易く,特に給水圧力の低い地域では汚物等を排出するために必要な洗浄水を便器へ供給することができない。本発明はこのような課題を解決した洗浄給水装置を得ることを目的とする。」
(1c)「【0006】
【実施例】以下図面により本発明の実施例を説明する。
図1は本発明の実施例に係るサイホンジェット式便器の縦断面図である。サイホンジェット式便器1は,隔壁2で区画されたボウル部3とトラップ排水路4を有する。
トラップ排水路4は,ボウル部3の後壁下部に開設した流入口5と,便器1のほぼ中央底面に開設した流出口6とをほぼ逆U字状に屈曲して連結しており,トラップ排水路4の堰部4aより下流側の排出路4bをほぼ直管形状に形成している。
【0007】ボウル部3の上端周縁のリム7には,リム通水路8をボウル部3の内方へ突出するよう環状に形成し,このリム通水路8の底面にリム射出孔9を適宜間隔毎にボウル部3に対して斜めに開設する。また,リム通水路8は,前記ボウル部3の下部に設けたタンク10にも連通し,このタンク10の下部には,ポンプ11を設ける。
【0008】ボウル部3の底部には,タンク10に貯溜した洗浄水をポンプ11で圧縮して噴射するジェット用ノズル12をそのジェット噴射孔13がトラップ排水路4の流入口5を指向するよう水密状態に取着している。
【0009】便器1の後部上方に給水装置14を設ける。この給水装置14は,制御装置15と,この制御装置15に洗浄起動入力を与える操作部16と,ボウル部用弁機構17,大気開放弁18とから構成する。給水管19は,定流量弁21,ボウル部用弁機構17および大気開放弁18を介してリム通水路8に連通するリム給水室20に接続する。
【0010】制御装置15は,図2のブロック構成図に示すように,入力インタフェース15a,マイクロプロセッサ(以下MPUと称する)15b,メモリ15c,タイマ15d,および出力インタフェース15eから構成する。入力インタフェース15aには,操作部16が接続され,出力インタフェース15eには,ボウル部用弁機構17およびポンプ11が接続される。」
(1d)「【0011】操作部16は,便器1の洗浄を開始させるためのスイッチを備えており,このスイッチの開閉は起動信号線16aにより制御装置15に入力される。ボウル部用弁機構17は,所定の電圧を印加したときに開状態となる電磁弁で構成する。メモリ15cには,洗浄水の給水順序,給水量,および給水時間に関するデータが予め記憶されている。」
(1e)「【0012】次に,上記構成における第1実施例の動作を図3のフローチャートを用いて説明する。操作部16から洗浄起動入力が与えられると,MPU15bは,タイマ15dを起動する(S1)。このタイマ15dの起動に伴いMPU15bは,出力インタフェース15eを介してボウル部用弁機構17を開状態に駆動する(S2)。この駆動により,リム通水路8の底面に開設したリム射出孔9からボウル部3へ洗浄水が供給されボウル部3の洗浄が行なわれると共に,リム通水路8を介してボウル部3の下部に設けたタンク10に洗浄水を供給する。
【0013】MPU15bは,タイマ15dの経過時間を監視しており,ボウル部3への給水時間が経過した時点で(S3),ボウル部用弁機構17を閉状態に駆動する(S4)。同時に,ポンプ11を駆動(S5)してジェットノズル12のジェット噴射孔13からトラップ排水路4の堰部4aを指向して洗浄水を噴射しジェット給水状態へ駆動する。この洗浄水によってトラップ排水路4内に負圧が生じ,そのためボウル部3内の溜水がトラップ排水路4内に呼び込まれてトラップ排水路4内はサイホン状態と成り,汚物・汚水の排出が開始される。
【0014】MPU15bは,タイマ15dの経過時間が,予めメモリ15cに記憶されているジェット給水時間が経過した時点で(S6),ポンプ11の駆動を停止し(S7),再びボウル部用弁機構17を開状態に駆動する(S8)。一方,サイホン状態は,溜水の水位が隔壁2の下端以下となりトラップ排水路4内に空気が流入するまで継続する。これ以降は,リム射出孔9から射出する洗浄水によってボウル部3の封水がなされると共にタンク10に再び洗浄水を供給する。
【0015】MPU15bは,タイマ15dの経過時間が,予めメモリ15cに記憶されている封水給水時間が経過した時点で(S9),ボウル部用弁機構17を閉状態に駆動し(S10),タイマ16dを停止させて(S11)一連の便器の洗浄動作を完了する。なお,本実施例では,ポンプ11が駆動している間は,ボウル部用弁機構17を閉じるようにしているが,ポンプ11の駆動中も前記ボウル部用弁機構17を開放するようにしてもよい。」
(1f)「【0016】図4は,第1実施例と同じ構成における別の制御方法による第2実施例の動作を表わすフローチャートを示す。即ち,操作部16から洗浄起動入力が与えられると,MPU15bは,タイマ15dを起動する(ST1)。このタイマ15dの起動に伴いMPU15bは,出力インタフェース15eを介してボウル部用弁機構17を開状態に駆動すると共にポンプ11を駆動する。この駆動により,リム通水路8の底面に開設したリム射出孔9からボウル部3へ洗浄水が供給されボウル部3の洗浄が行なわれると共に,ジェットノズル12のジェット噴射孔13からトラップ排水路4の堰部4aを指向してジェット給水が行なわれる。(ST2)。このため,洗浄水によってトラップ排水路4内に負圧が生じ,ボウル部3内の溜水がトラップ排水路4内に呼び込まれてトラップ排水路4内は,サイホン状態と成り,汚物・汚水の排出が開始される。この際,前記第1実施例と同様に駆動リム通水路8を介してボウル部3の下部に設けたタンク10に洗浄水が供給される。
【0017】MPU15bは,タイマ15dの経過時間を監視しており,予めメモリ15cに記憶されているジェット給水時間が経過した時点で(ST3),ポンプ11の駆動を停止する(ST4)。」 (【0017】の「ST7」は図4等からみて「ST4」の誤記と認めて認定した。)
(1g)「【0018】MPU15bは,タイマ15dの経過時間が,予めメモリ15cに記憶されている封水給水時間が経過した時点で(ST5),ボウル部用弁機構17を閉状態に駆動し(ST6),タイマ16dを停止させて(ST7)一連の便器の洗浄動作を完了する。なお,タンク11への給水をリム通水路8を介してではなく,給水管19を直接接続してボールタップで溜水量を制御するようにしてもよく,このようにすれば,ボウル部用弁機構とポンプを同時に終了させる洗浄動作を行なわせることができる。また,操作部16に大便用と小便用を区別するスイッチを設け,このスイッチにより給水量を変えるように制御すれば節水化を図ることができる。」
(1h)【図1】として,以下の記載がある。




(1i)【図3】,【図4】として,以下の記載がある。


(1j)記載(1h)の【図1】からみて,ボウル3はリム射出孔9とリム通路8を介してタンク10に接続されており,ボウル3の水が溢れるとリム射出孔9を介してタンク10に流れると認められる。また,記載(1c)と記載(1h)の【図1】からみて,ポンプ11の排出口とボウル部3をジェット用ノズル12で連結していると認められる。

(1k)本件無効審判請求の平成22年7月13日付け審決に対する審決取消請求事件(平成22年(行ケ)第10271号)では,その判決の「第5 当裁判所の判断 (2) 判断 イ 甲1発明の内容」において,以下のように認定されている。
「甲1の段落【0012】ないし【0015】の記載及び図3(別紙2)には,以下のとおりの記載がある。すなわち,・・・そうすると,甲1には,タイマの働きにより,タンクに洗浄水を再充てんするため,一定時間の後れを設定し,その間,ポンプの動作を停止する技術が開示されているから,本件発明1の「前記制御手段(80)は前記ポンプの最後の動作後一定の遅延時間前に前記ポンプ(18)が作動するのを防止する時間遅延手段を有している」といえる。」

以上のことから,甲第1号証には次の甲1発明と甲1'発明が記載されていると認められる。(下線部は,甲1発明と甲1'発明で異なる部分。)

ア 甲1発明
まず,図3およびその説明部による第1実施例等からみて,以下の甲1発明が記載されている。
「一つのボウル部3と,
給水管19がボウル部用弁機構17とリム給水室20を介して接続された,ボウル部3の上端周縁のリム7に形成されたリム通水路8と,
リム通水路8と連通し,所定量の洗浄水を貯えるタンク10と,
前記タンク10の下部に設けられ,前記タンク10に貯留した洗浄水を圧縮するポンプ11と,
ポンプ11の排出口と前記ボウル部3を連結するジェット用ノズル12と,を有し,
操作部16から洗浄起動入力が与えられると,タイマ15dを起動し,予めメモリ15cに記憶されている時間に基いて,ボウル部用弁機構17及びポンプ11を作動し,リム通水路8への洗浄水の供給時間,ポンプ11の作動時間を制御する制御装置15を備え,
操作部16に大便用と小便用を区別するスイッチを設け,このスイッチの操作により,前記制御手段15は,給水量を変えるように制御するものであり,
前記制御装置15による制御は,
タイマ15dを起動すると同時に,ボウル部用弁機構17を開状態に駆動し(S2),この駆動により,リム通水路8の底面に開設したリム射出孔9からボウル部3へ洗浄水を供給しボウル部3の洗浄が行なわれると共に,リム通水路8を介してボウル部3の下部に設けたタンク10に洗浄水を供給し,
予め記憶されているボウル部3への給水時間経過した時点で(S3),ボウル部用弁機構17を閉状態に駆動し(S4),ポンプ11を駆動してジェットノズル12から洗浄水を噴射し,
予め記憶されているジェット給水時間経過後,ポンプ11の駆動を停止し(S7),再びボウル部用弁機構17を開状態に駆動し(S8),リム給水室20を介してリム射出孔9から射出する洗浄水によってボウル部3の封水を行い,
予め記憶されている封水給水時間が経過した時点で(S9),ボウル部用弁機構17を閉状態に駆動し(S10),タイマ16dを停止させて(S11)便器の洗浄動作を完了するものであり,
ボウル3の水が溢れるとリム射出孔9を介してタンク10に流れる
サイホンジェット式便器であって,
タイマの働きにより,タンクに洗浄水を再充てんするため,一定時間の後れを設定し,その間,ポンプの動作を停止する
サイホンジェット式便器。」

イ 甲1'発明
また,図4及びその説明部による第2実施例等からみて,以下の甲1'発明が記載されている。
「一つのボウル部3と,
給水管19がボウル部用弁機構17とリム給水室20を介して接続された,ボウル部3の上端周縁のリム7に形成されたリム通水路8と,
リム通水路8と連通し,所定量の洗浄水を貯えるタンク10と,
前記タンク10の下部に設けられ,前記タンク10に貯留した洗浄水を圧縮するポンプ11と,
ポンプ11の排出口と前記ボウル部3を連結するジェット用ノズル12と,を有し,
操作部16から洗浄起動入力が与えられると,タイマ15dを起動し,予めメモリ15cに記憶されている時間に基いて,ボウル部用弁機構17及びポンプ11を作動し,リム通水路8への洗浄水の供給時間,ポンプ11の作動時間を制御する制御装置15を備え,
操作部16に大便用と小便用を区別するスイッチを設け,このスイッチの操作により,前記制御手段15は,給水量を変えるように制御するものであり,
前記制御装置15による制御は,
タイマ15dの起動に伴いボウル部用弁機構17を開状態に駆動すると共にポンプ11を駆動し,この駆動により,リム通水路8の底面に開設したリム射出孔9からボウル部3へ洗浄水が供給されボウル部3の洗浄が行なわれると共に,ジェットノズル12のジェット噴射孔13からトラップ排水路4の堰部4aを指向してジェット給水が行なわれ(ST2),この際,駆動リム通水路8を介してボウル部3の下部に設けたタンク10に洗浄水が供給され,
予めメモリ15cに記憶されているジェット給水時間が経過した時点で(ST3),ポンプ11の駆動を停止し(ST4),
経過時間が,封水給水時間を経過した時点で(ST5),ボウル部用弁機構17を閉状態に駆動し(ST6),タイマ16dを停止させる(ST7)ものであり,
ボウル3の水が溢れるとリム射出孔9を介してタンク10に流れる
サイホンジェット式便器であって,
タイマの働きにより,タンクに洗浄水を再充てんするため,一定時間の後れを設定し,その間,ポンプの動作を停止する
サイホンジェット式便器。」

(2)甲第2号証(実願平2-97943号(実開平4-57572号)のマイクロフィルム)
(2a)「 給水管より供給される洗浄水を貯留し,操作部材の操作により排水弁を開いて前記洗浄水を便器側に流出する便器洗浄水用タンクにおいて,前記洗浄水がタンク内に一定量貯留されるまで,或いは排水弁を開いてから一定時間経過するまで操作部材を操作しても排水弁が開かないようにしたことを特徴とする便器洗浄水用タンク。」(実用新案登録請求の範囲)
(2b)「(考案が解決しようとする課題)
ところで操作レバーを操作して便器の洗浄を行った後,便器内にまだ汚物等が残っていた場合,これを洗い流そうとして操作レバーを操作しても先ほどの洗浄でタンク内には十分な洗浄水がないために前記汚物を流せない虞れがある。
(課題を解決するための手段)
前記課題を解決するため本考案は,給水管より供給される洗浄水を貯留し,操作部材の操作により排水弁を開いて洗浄水を便器側に流出する便器洗浄水用タンクにおいて,前記洗浄水がタンク内に一定量貯留されるまで,或いは排水弁を開いてから一定時間経過するまで操作部材を操作しても排水弁が開かないようにしたことを特徴とする。」(明細書2ページ6行?20行)
(2c)「(実施例)
以下に本考案の好適一実施例を添付図面に基づいて説明する。・・・
ロータンク1の側面には給水管2を設け,この給水管2の先端をロータンク1の側面上部に連結する。前記給水管2の中間部分にはソレノイドバルブ3を配置し,このソレノイドバルブ3を配線aを介してコントローラ5に連結する。
ロータンク1内の中央には排水管6に連結する電動排水弁7を設け,この電動排水弁7を配線bを介して前記コントローラ5に連結する。
前記ロータンク1の底面laには圧カセンサー9を設け,又,側面lb内側には水位センサー10を設け,これら圧カセンサー9及び水位センサー10を配線c,dを介して前記コントローラ5に連結する。
一方,便器の近傍には操作部11を配置し,この操作部11には操作ボタン11aを設け,且つこの操作部11を配線eを介して前記コントローラ5に連結する。
この操作ボタン11aを押すとコントローラ5に信号が送られ,ここから電動排水弁7に信号が送られて該排水弁7が開く。これによりロータンク1内の洗浄水が排水管6を介して便器側に流れ,便器の洗浄が行われる。
以上において本実施例では一定量の洗浄水がロータンク1内に貯留されているのを水位センサー10が検知しない限り操作ボタン11aを押しても電動排水弁7が開かないように構成する。」(同3ページ7行?4ページ19行)
(2d)「先ず,最初の状態ではロータンク1内に十分な洗浄水が貯留されており,便器使用後,操作ボタン11aを押すと・・・電動排水弁7が開いて便器の洗浄が行なわれる。
洗浄水がロータンク1から流れることでロータンク1内の洗浄水の水位が下がり,ロータンク1の水圧の減少を圧力センサー10が検知してコントローラ5に信号を送る。この直後コントローラ5からソレノイドバルブ3に信号が送られて該ソレノイドバルブ3が開き給水管2からロータンク1内に洗浄水が供給される。」(同5ページ1行?11行)
(2e)「第2図は別実施例を示し,この実施例では水位センサー10を廃止し,代りに操作部11にタイマー回路を設けている。他の構造は前実施例と同様である。この実施例では操作ボタン11aを押してから一定時間経過するまでは更に操作ボタン11aを押しても電動排水弁7は開かない。よってこの間にロータンク1内に洗浄水が溜まり,前実施例同様十分な量の洗浄水で汚物の残りを流すことができる。この実施例のタイマーは例えば20秒,30秒,40秒等,いくつか設定しておき,それらを選択できる機能を操作部11に付加しておくと好ましい。」(同6ページ2行?13行)

(3)甲第3号証(特開平2-256730号公報)
(3a)「便器のボウル部へ洗浄水を供給するボウル部給水口と,トラップ排水路へ洗浄水を供給するジェット給水口とを備えたサイホンジェット式便器の洗浄給水装置において,洗浄水量選択手段の選択に基づいて,ジェット給水口へ供給する洗浄水量を制御する給水制御手段を備えたことを特徴とする大便器の洗浄給水装置。」(特許請求の範囲)
(3b)「第1図は本発明に係る洗浄給水装置を備えたサイホンジェット式便器の縦断面図である。図において1はサイホンジェット式の便器であり,便器1は隔壁2で区画されたボウル部3とトラップ排水路4を備える。・・・」(2ページ左上欄19行?右上欄3行)
(3c)「そして,本実施例に係る便器1はボウル部3の上端周縁のリム部8に,リム通水路9をボウル部3の内方に突出するように環状に形成し,このリム通水路9の底面に射水口10を適宜間隔毎にボウル部3に対して斜めに開設する。また,リム通水路9は後部においてリム給水室11に連絡する。
ボウル部3の底部のジェット用ノズル取付孔にジェット用ノズル12を接着剤等を介して水密状態で取着しており,ジェット用ノズル12のジェット噴射孔12aはトラップ排水路4の流入口5から堰部4aに至る上傾管路の略中央を指向している。・・・」(2ページ左下欄8行?20行)
(3d)「給水装置14は,給水制御手段である制御装置15と,大洗浄用および小洗浄用の押しボタンスイッチ16a,16bを備えて,制御装置15へ洗浄水量の選択入力と同時に洗浄起動入力を与えるための洗浄水量選択人力手段である操作部16と,ボウル部3への給水を制御するリム用弁機構17,大気開放弁18,リム用流量計19ならびに,ジェット用ノズル12への給水を制御するジェット用弁機構20,大気開放弁21,ジェット用流量計22とからなる。
リム用弁機構17の一端を給水管23に接続し,他端を大気開放弁18,リム用流量計19を介して,リム通水室11のリム給水口11aへ接続する。
ジェット用弁機構20の一端を給水管23に接続し,他端を大気開放弁21,ジェット用流量計22を介してジェット用導水管24の一端に接続する。・・・」(2ページ右下欄7行?3ページ左上欄4行)
(3e)「操作部16は,大洗浄用および小洗浄用の押しボタンスイッチ16a,16bを備えており,このスイッチの開閉は起動信号線16cにより制御装置へ入力される。」(3ページ右上欄1行?4行)
(3f)「操作部16からの起動信号により制御装置15は,リム用弁17を開状態に駆動する(Sl)。これにより,便器1のボウル部3に洗浄水が供給される。供給された洗浄水はボウル部3内に渦を発生し,ボウル部3の前洗浄を行なう。
一方,マイクロプロセッサユニット15bは,リム用流量計19の流量信号を・・・計数して積算流量値を求め,前もってメモリ15c内に設定されているボウル部前洗浄水量の設定値と一致した時点で,・・・リム用弁17を閉状態とする(S2)。
次に,制御装置15はジェット用弁20を開状態に駆動する(S3)。これにより,洗浄水はジェット用ノズル12のジェット噴射孔12aから,トラップ排水路4内へ噴射される。・・・」(3ページ右下欄14行?4ページ左上欄9行)
(3g)「なお,本実施例ではボウル部の前洗浄中終了後にジェット用ノズル12からの洗浄水の噴射を開始しているが,前洗浄中に,洗浄水の噴射を行なってもよい。」(4ページ左下欄8行?11行)
(3h)「制御装置27は,起動スイッチ26bからの起動信号を受けると,選択スイッチ26aにより設定された洗浄度合の洗浄給水を行なう。本実施例では,第8図(a)?(e)に示すように,前洗浄の給水量およびジェットへの給水量,給水タイミングが異なる5種類のパターンを用意して,便器の使用状態に合わせて,きめ細かい洗浄を可能としている。」(4ページ右下欄8行?15行)
(3i)第8図として,以下の記載がある。


(3j)第8図(a)には,リムからの給水とジェット用ノズル12からの給水を同時に開始し,リムからの給水停止後に,ジェット用ノズル12から給水を停止し,その後,再びリムから一定時間給水することが示され,(b)には,リムから給水する洗浄中にジェット用ノズル12からの洗浄水の給水を開始し,リムからの給水停止後に,ジェット用ノズル12から給水を停止し,その後,再びリムから一定時間給水することが示されている。

(4)甲第4号証(特開平1-271541号公報)
(4a)「第1図に示すように便器Aには便器ボウル3を有し,便器ボウル3の上面に上下に回動自在な便座18を介して便蓋19を開閉自在に設けてある。
・・・
次に用便後,便器ボウル3を水洗する動作を説明する。・・・洗浄水供給管28から水を吸入して水室27に洗浄水2が充満している。今,操作スイッチ部17で洗浄用釦17aを操作すると,切り換え弁にて加圧タンク36とダイヤフラムポンプ10とが連通し,加圧タンク36からダイヤフラムポンプ10の空気室31に一定圧力でエアーが送られ,ダイヤフラムポンプ10のダイヤフラム11がエアーで押されてダイヤフラムポンプ10の水室27内の洗浄水2が送り出され,洗浄水吐出管30を経て吐出ノズル4から洗浄水2が吐出され,便器ボウル3内が洗浄される。・・・また操作スイッチ部17の水溜め釦17bを操作すると,フラップ弁6を開かないで洗浄水2だけが吐出されて便器ボウル3底部に洗浄水2が溜められる。」(2ページ右下欄3行?3ページ右下欄15行)
(4b)第1図として,以下の記載がある。


(4c)上記記載(4a),(4b)からみて,便器ボウル3には「リム」があり,リムのみから洗浄水を吐出していると認められる。

そうすると,甲第4号証には,「便器ボウル3と,水タンク1と,ダイヤフラムポンプ10を備え,操作スイッチ部17の操作により,リムのみから洗浄水を吐水するようにした便器」が記載されている。

(5)甲第5号証(特開平3-224925号公報)
(5a)「(1)ボウル部内の水位を検出する水位検出手段と,この水位検出手段の出力が予め設定した値を超えた場合に信号を発生する監視装置を備えたことを特徴とする水洗式便器。」(特許請求の範囲)
(5b)「洗浄給水装置12は,給水管14に接続された電磁開閉弁15と,大および小洗浄用のスイッチを備えた操作部16,および,操作部16からの洗浄起動入力に基づいて電磁開閉弁15を所定の時間開状態に駆動する給水制御部17から構成している。電磁開閉弁15の下流側は,大気開放弁18を介して,リム給水室10のリム給水口10aへ接続している。
リム給水室10の底面でボウル部3に面する位置,もしくは,リム部7の底面の適宜な箇所には,超音波式のレベル計からなる水位検出手段19を設けている。」(2ページ左下欄8行?19行)
(5c)「この水位検出手段19は,超音波式発信器から発信した超音波が,ボウル部3内の封水20の表面で反射してもどってくるまでの時間から,封水面までの高さを検出するものである。水位検出手段19の水位検出出力は,水位信号線19aを介して監視装置13へ入力している。」(2ページ左下欄19行?右下欄5行)
(5d)「基準電圧発生回路13fの出力電圧は,封水の水位が上昇し,リム部7の底面より数cm下方の位置まで封水の高さが達した時に,比較回路13cの出力が反転するよう設定している。
なお,第2図に示した実施例では,比較回路13cの第1の出力端子13gからの信号により,・・・,もしくは,弁駆動回路17gの動作を停止させて,洗浄給水を停止させる構成としてもよい。」(3ページ左下欄6行?16行)

そうすると,甲第5号証には,「ボウル部3内の水位を水位検出手段19により検出して,この水位が予め設定した値を超えた場合には,監視装置13からの信号により,給水制御部17の弁駆動回路17gの動作を停止し,電磁開閉弁15を閉じて給水管14からの給水を停止するようにした水洗式便器」(以下,「甲5発明」という。)が記載されている。

(6)甲第6号証(特開昭63-92386号公報)
(6a)「1.洗濯槽内の水位を検知する水位センサを具備した自動給止水機能付き洗濯機で,洗濯槽に注水しかつ該槽からオーバーフローにより排水しながらすすぎを行なうものにおいて,上記水位センサによる水位検知を所定時間毎に繰り返し行なうと共に,オーバーフロー水位より高い異常水位レベルを設定し,水位検知により異常水位レベルを検知した時に給水弁を閉じて注水を停止し,その後所定回数連続して異常水位レベルを検知した時にモータを停止するよう制御することを特徴とする洗濯機の注水すすぎ制御方法。」(特許請求の範囲)
(6b)「然るに,本発明にあっては,水位の上昇が一時的なものか継続的なものかを正確に判定できる方法を提供し,上記問題点を解決するものである。
(問題点を解決するための手段)
本発明は,洗濯槽内の水位を検知する水位センサを具備した自動給止水機能付き洗濯機で,注水すすぎを行なうものにおいて,上記水位センサによる水位検知を所定時間毎に繰り返し行なうと共に,オーバーフロー水位より高い異常水位レベルを設定し,水位検知により異常水位レベルを検知した時に給水弁を閉じて注水を停止し,その後所定回数連続して異常水位レベルを検知した時にモータを停止するように制御する。
(作用)
上記方法において,今水位センサにより異常水位レベルを検知すると,先ず給水弁を閉じて注水を停止することにより,今以上の水位の上昇を防止する。その後,異常水位レベルの検知が所定回数連続するか否かを見る。
水位の異常上昇が排水ホースの倒し忘れによる場合は,オーバーフローによる排水が行なわれない為,洗濯槽内の水位は低下せず,引き続き異常水位レベルにあり,所定回数連続して異常水位レベルを検知することになる。
一方,布の片寄りによる場合は,水流により布が移動して排水口が開放すればオーバーフローによる排水が行なわれる為,洗濯槽内の水位が下がり異常水位より低くなり,所定回数連続して異常水位レベルを検知することはない。
従って,異常水位レベルの検知が所定回数連続した時に始めて排水ホースの倒し忘れと判定してモータを停止し,そして所定回数連続しない時には布の片寄りによる一時的な水位上昇と判定して,注水すすぎを続行させることにより,従来のような無闇な注水すすぎの中断を防止することができる。
(実施例)
以下図面に示した本発明の実施例について詳細に説明する。
・・・
次に,注水すすぎ工程時の制御について,第2図及び第3図に従って説明する。
今,注水すすぎ工程がスタートすると,・・・予め設定されたすすぎ時間のカウントを開始し,さらにカウンターNを初期リセットする。
そして,水位検知を所定時間毎に行なうためのタイマーTのカウントを開始し,カウント時間が所定時間t_(1)に達する度に,水位センサI7の出力信号により洗濯槽1内の水位が異常水位レベル(第3図の水位ウ)か否かの判定を繰り返し行なう。
而して,正常な状態で注水すすぎが進めば,洗濯槽1内の水位は第3図のA線のように異常水位レベルに達することがなく,予め設定されたすすぎ時間の経過により給水弁4を閉じ,モータ11を停止して注水すすぎ工程を終了する。
今仮に,洗濯槽1内の水位が異常水位レベルに達したことを水位センサ17の出力信号により論理部14が判定すると,直ちに給水弁を閉じて注水を停止し,洗濯槽1内の水位の」上昇を抑え,カウンターNに1を加える。以後,所定時間t_(1)毎の水位検知により異常水位レベルの検知が所定のn回数連続するか否かを見る。布の片寄りにより排水口5が塞がれたことによる一時的な水位上昇であれば,水流により布が移動し排水口5が開放されるとオーバーフローによる排水が行なわれ,洗濯槽1内の水位は第3図のB線のように低下する。従って,異常検知レベルの検知がn回数連続することはなく,そして水位検知により異常検知レベルでないことを検知すると,カウンターNをリセットして給水弁4を開き,注水を再開することにより注水すすぎ工程を続行する。
又,排水ホース8の倒し忘れによる場合には,時間の経過に関係なく洗濯槽1内の水位は低下せず,繰り返し異常水位レベルを検知することになる。そして,異常水位レベルの検知が所定のn回数連続した時点で排水ホースの倒し忘れによる水位上昇として判定し,モータ制御部13に停止信号を出力してモータ11を停止し,注水すすぎ工程を中断して,ブザー或いはランプ等により異常報知を行なう。」(2ページ左上欄19行?3ページ右上欄20行)

そうすると,甲第6号証には,「洗濯槽1内の水位が異常水位レベルを水位センサ17により検知し,所定回数連続して異常水位レベルを検知したときに,モータを停止して,すすぎ工程を中断するようにして,水位の上昇が一時的なものか継続的なものかを正確に判定する洗濯機」(以下,「甲6発明」という。)が記載されている。

(7)甲第7号証(特開昭56-93935号公報)
(7a)「(1)貯水タンク内にポンプを設置し,該ポンプを水洗式大便器に直結すると共にタイマー及びスイッチを介して電源に連絡することを特微とする水洗便所装置。
(2)大便器が排水路入口部に出口部に向けたゼット孔を有し,該穴から強く水を噴出させ,その作用で便鉢部の溜水を排水路出口へ誘い出すと共に汚物を吹き飛ばして排水路出口より排出する様に構成した便器であることを特徴とする上記特許請求の範囲第1項記載の水洗便所装置。
(3)大便器個々にタンク及びポンプが夫々1個宛配備されることを特徴とする上記特許請求の範囲第1項記載の水洗便所装置。
(4)複数の便器に対してタンク及びポンプが夫々1個配備されることを特徴とする上記特許請求の範囲第1項記載の水洗便所装置。」(特許請求の範囲)
(7b)「・・・サイホン式或いはサイホンゼット式大便器並びに広い溜水面を有し,所請高級品として格付けされ得るブローアウト式大便器は適当な給水条件が確保できれば水の勢いが直接汚物排出に利用できるので洗浄水量がかなり減らせることが判明しており,・・・」(1ページ右下欄13行?18行)
(7c)「・・・本発明は給水装置として直接ポンプを利用することにより定流量,定水圧の給水条件を得ることが可能であることに着目し,これと上記ブローアウト式大便器を組合せることで・・・,大巾な節水を計かることが出来る水洗便所装置を提供せんとするものである。」(2ページ左上欄5行?11行)
(7d)「以下,図示実施例に基づいて本発明を詳細に説明する。
図中(A)はブローアウト式大便器で,便鉢部(1)底部に連絡して便器(A)後方に向かって斜め上向きに延び便器(A)の背面に出口(2)を開口する排水路(3)を有し,該排水路(3)の入口部には出口(2)に向かってゼット孔(4)が開穿されている。
上記ゼット孔(4)は,便器(A)後部に設けられた給水室(5)に連絡しており,該給水室(5)は便鉢部(1)上縁に沿って設けられたリム通水路(6)にも連絡している。また給水室(5)は便器(A)の後部上面に給水口(7)を有している。
(B)は貯水タンクであり,内部にボールタップ給水栓(8)とポンプ(9)を装備して,便器(A)の後部上面にこれと密結状に載置される。
ポンプ(9)はその吸込口(10)がタンク(B)内の水位が最も低くなるまで水没している様な状態に設置し,吐出口(11)を吐出管(12)を介して便器(A)の給水口(7)に連絡する。
吐出管(12)は・・・,タンク(B)の底面を貫通して便器(A)の給水口(7)に連絡する。
また,ポンプ(9)はスイッチ(13)及びタイマー(図示せず)を介して電源に電気的に連絡して,スイッチ(13)を入れることによりタイマーで設定した時間内作動する様に構成する。
従って,使用水量はタイマーによるポンプ作動時間の設定により決められる。」(2ページ左上欄12行?右上欄20行)
(7e)「・・・また第4図に示す様にポンプ(9)を複数の大便器(A)(A)・・・に連絡せしめることも可能である。
後者の揚合,ポンプ(9)と各大便器(A)とを連絡する吐出管(12)には各大便器(A)の手前に夫々電磁弁(14)を設けると共に各大便器(A)の手元には夫々スイッチ(図示せず)を配備し,スイッチを入れると同時にポンプ(9)及びタイマーが作動し,また同時に電磁弁(14)が開き洗浄を開始する様に構成すると共に複数の大便器(A)(A)を同時に使用した場合には一瞬でも先にスイッチが入った方が洗浄を開始,これが終了すると次の大便器(A)がその直後から洗浄を開始する様に制御回路を組む。」(2ページ左下欄7行?19行)
(7f)第1図,第2図として,以下の記載がある。


(7g)第1図,第2図からみて,ポンプ(9)は貯水タンク(B)の内に設置されていると認められ,ボールタップ給水栓(8)は水源に接続されたタンクの取り入れ管につながっていると認められる。また,記載(7d)の「タイマーで設定した時間内作動する様に構成する」との記載からみて,そのように作動させる制御回路があるものと認められる。
さらに,後述の甲第8号証のように,大便器の封水に関する技術常識によれば,甲第7号証の第1図において,ボールタップ給水栓(8)の右側に細い管があり,途中で太い管となって吐出管(12)へと接続され,ポンプ(9)が止まった後に,タンクの排水後の水位が下がっている状態ではボールタップ給水栓(8)により給水が行われ,細い管と太い管を介して吐水管(12)を通じて便器(A)へ流れて封水が行われるものと認められる。
そうすると,甲第7号証には,「ボールタップ給水栓(8)と吐水管(12)とを接続する細い管と太い管」,および「ボールタップ給水栓(8)からの水は細い管と太い管,吐水管(12)を通じて大便器(A)に流れてポンプ(9)とは独立に封水する点」が記載されている。

これらの明細書及び図面の記載によれば,甲第7号証には,次の発明が記載されていると認められる。
「水洗便所装置であって,
少なくとも一つの大便器(A)と,
貯水タンク(B)と,
前記貯水タンクの内に設置したポンプ(9)と,
水源に接続されたタンクの取入れ管と,
ポンプ(9)の排出口(11)と前記大便器(A)後部に設けられた給水室(5)の給水口(7)とを連結する吐出管(12)と,
前記給水室(5)に連絡するゼット孔(4)と,便鉢部(1)上縁に沿って設けられ,給水室(5)に連絡するリム通水路(6)と,を有し,
前記ポンプ(9)を作動させてタイマーにより設定されたポンプ作動時間の間に使用水量の水を前記大便器(A)に送出させる制御回路を有し,
ボールタップ給水栓(8)と吐水管(12)とを接続する細い管と太い管を有し,
ボールタップ給水栓(8)からの水は細い管と太い管,吐水管(12)を通じて大便器(A)に流れてポンプ(9)とは独立に封水する水洗便所装置。」(以下,「甲7発明」という。)

(8)甲第8号証(特開昭58-83739号公報)
甲第8号証には,「ボールタップの流出側に二つの通孔を開設してタンク給水路と補助水管を設け,この補助水管をオーバーフロー管に連絡して,吐出水の一部を大便器の封水として供給する便器洗浄用タンク装置」(1ページ左下欄18行?右下欄3行,2ページ左下欄4行?17行)が記載されている。

(9)甲第9号証(実願昭54-183121号(実開昭56-101263号)のマイクロフィルム)
(9a)「そして,貯水タンク(B)内の水の殆んどが排水弁(E)より流出してしまうとフロート弁体(31)が落下して排水弁座(40)を塞ぎ排水弁(E)は閉止する。
このとき,・・・今までとは逆に第1弁座口(10)を閉鎖し・・・」(7ページ19行?8ページ7行)
(9b)「一方,切換弁(A)の第1弁座口(10)は閉鎖されるが,第1流出口(3)には側路(13)を介して少量の水が供給され続け,ボールタップ給水栓(D)の給水が完全に止まるまで,リム給水孔(39)からの便器ボール部(25)への給水は継続し,この水によりホール部(25)の封水が確保される。」(8ページ18行?9ページ4行)

以上の記載(9a),(9b)からみて,甲第9号証には,「貯水タンク(B)の排水弁(E)が閉止された後も,切換弁(A)の第1流出口(3)から側路(13)を介して少量の水をリム給水孔(39)からのボール部(25)への給水し,これにより,ボール部(25)の封水を行うようにした便器洗浄装置」(以下,「甲9発明」という。) が記載されている。

(10)甲第10号証(特開平3-176523号公報)
(10a)「この発明は便器のボウル部およびトラップ排水路へ洗浄水を供給する洗浄給水装置に関する。」(1ページ右下欄7,8行)
(10b)「操作部16は,大洗浄用および小洗浄用の押しボタンスイッチ16a,16bを備えており,このスイッチの開閉は洗浄開始信号線16cにより制御装置15へ入力される。」(4ページ左上欄19行?右上欄2行)

(11)甲第11号証(実願昭61-62209号(実開昭62-172767号)のマイクロフィルム)には,ロータンク2下面と便器1後面との間の空間SにポンプPを配置し,このポンプPにて便器1に洗浄水を加圧して供給する水洗便所設備であって,ポンプPと便器1の上部の全周に設けられた環状の流路4(「リム」に相当する。)とを加圧水送り管6にて連通させ,ロータンク2内の洗浄水をポンプPにより加圧して,環状の流路(リム)4に供給すること,サイフォンジエット式便器では,ジェット部への送水を上記ポンプPで行うことができることが記載されている。(3ページ3行?4ページ10行,第2図)

(12)甲第12号証(米国特許第4918763号明細書)には,ポンプの出口とリム通路8とを管で連結し,タンクの水をポンプでボウルリムに供給する便器が記載されていると認められる。(8欄53行?9欄5行,Fig.1)

(13)甲第13号証(実願昭60-38608号(実開昭61-155475号)のマイクロフィルム)には,貯水槽1から便器5にポンプ10により給水する水洗便器の貯水槽装置に関して,,ポンプ10のモータ9を洗浄に望ましい時間駆動した後停止することが記載されている。(6ページ18行?7ページ9行)

(14)甲第14号証(機械工学便覧応用編B5流体機械,1991年5月15日,85?86ページ)には,ポンプの回転速度を変えることにより吐出流量を制御することが記載されている。(特に85ページ左欄4行?右欄16行)

(15)甲第15号証(特開昭63-170581号公報)には,シャフトを備えた磁気回転ポンプが記載されている。(特許請求の範囲,3ページ右上欄4行?7行,FIG.1)

(16)甲第16号証(特開昭59-48536号公報)には,貯水タンクに複数個の水洗式便器を連結し,水洗式便器として,大便器も小便器も適用できる水洗便所装置が記載されている。(特許請求の範囲,1ページ左下欄17行?18行,2ページ左上欄18行?右上欄2行,同左下欄6行?9行,図)

(17)甲第17号証(特開平3-100241号公報)には,多数の大便器と小便器を設置した多人数用自動水洗便所が記載されている。(特許請求の範囲,第2ページ右上欄1行?左下欄15行,第1図)

(18)甲第18号証(特開平3-224924号公報)には,大洗浄と小洗浄とで給水時間を異ならせることで洗浄給水量を異ならせることが記載されている。(3ページ左下欄1行?18行,第4図)

(19)甲第19号証(特開平3-221631号公報)にも,大洗浄と小洗浄とで給水時間を異ならせることで洗浄給水量を異ならせることが記載されている。(3ページ右下欄6行?8行,第4図)

(20)甲第20号証(特開平3-176523号公報)にも,大洗浄と小洗浄とで給水時間を異ならせることで洗浄給水量を異ならせることが記載されている。(4ページ右上欄8行?12行,第4図)

(21)甲第21号証(特開昭61-102922号公報)には,「雨水が雨水槽2へ順次溜っていき,ある設定水位以上に達すると水位計13の出力で流入弁6がまず閉じ,次いでそれ以上の設定水位になるとフロートの作用により異常水位防止弁11が閉じる。従って,集中豪雨時などに何らかのトラブルにて雨水が一時に雨水槽2へ流れすぎることを流入弁6,緊急閉止 弁10,及び異常水位防止弁11の3つの安全装置で3段階に防止でき,これらの弁が閉じたときは排水調整槽3へ流れ込む雨水は下水本管4へと排出される。」(2ページ左下欄20行?右下欄9行)と記載されている。

(22)甲第22号証(特開平1-129121号公報)には,「本発明は食器洗浄機,洗濯機等に用いる水位検知装置や,石油暖房器の液位検知装置等に利用する液位検知装置である」(1ページ左下欄16行?18行),「蓋体43にはフロート46の上下動不良や水位検知スイッチ53の故障時において円滑に水位を検知すると共に,水位検知装置40は故障ではないが給水電磁弁の故障にて水位が異常に上昇した時にその水位を検知する異常水位検知用フロート63を支持し,フロート63の上下動にて環状マグネット64を上下動しマグネット64にてりードスイッチ65を切入している。リードスイッチ65は故障用と水位の異常上昇とを検知するために2段に形成するとよい。」(3ページ右下欄1行?10行)と記載されている。

(23)甲第23号証(実願平1-74412号(実開平3-14428号)のマイクロフィルム)には,「従来の高架水槽の監視装置では,高架水槽に出来るだけ多量の水を貯えるために,上限水位を検出する上限水位検出器と,満水水位を検出する上限水位検出器と,満水水位を検出する満水検出器とが,互いに接近して配置されている。このため,給水時に高架水槽内の水面が波立つていると,上限水位検出器が上限水位を検出して作動する前に,満水検出器が水面に触れて検出動作を行い,監視センサに満水の誤通報が送信されることがあつた。」(2ページ14行?3ページ2行),「リレー11,接点11bなどが故障し,高架水槽1の水位が上限水位Bに達してもリレー13が消勢しない非正常動作が行われると,水位が満水水位Cに達してリレー12が付勢された時に,接点12aがONとなる。接点12aがONとなるとタイマ14が計数を開始し,タイマ14が予め設定された計数値を計数すると,接点14aがONとなりリレー15が消勢される。」(8ページ17行?9ページ4行)と記載されている。

(24)甲第24号証(特開昭59-108919号公報)には,「まず,液面は通常均一ではなく,場合によつては波立つていたり,正規の液面が多少の幅をもつて許容されている場合,及び液面を構成する液体の飛沫が液面検出素子に付着したりすると,液面が存在するにもかかわらず液面低下と検出したり,液面の位置を誤警報したり,また液面が存在しないにもかかわらす液面存在の信号を出すこともあつた。」(2ページ右上欄8行?15行),「液面が液面検出素子(6)よりも低下すると,a点電位とb点電位が逆転し,比較器(13),インパータ回路(15)を経由して微分回路(16)でパルス化された出力信号により計数回路(8)に入力され,所定回数計数すると,液面検出信号を外部に出す。
このため,液面が波立つている場合でも,正規の液面が多少の幅をもつて許容される場合,もしくは液面を構成する液体の飛沫が液面検出素子(6)に付着しても所定回数,通常は5?6回計数して出力するため誤情報を出すことはない。・・・
なお,本発明は,液面としての圧縮機内の油面管理は勿論のことオイルパンを有して油面管理を必要とする機器及び液面を検出して自動的に給水制御する装置,及び断水検知回路にも適用できる。」(3ページ左上欄5行?右上欄11行)と記載されている。

(25)甲第25号証(実願昭55-140699号(実開昭57-66074号)のマイクロフィルム)には,「ボルタツプ7が故障を起し水位が正常水位を越えて上昇した場合に限りリードスイッチ8の位置に磁気フロート11が上昇する。」(4ページ14行?17行)と記載されている。

(26)甲第26号証(特開昭61-216946号公報)には,「ポンプ装置10において加圧された水は三方弁11を通り,一方は・・・温水タンク12を経てノズル13より噴出し局部を洗浄する経路と,他方は・・・他の三方弁を経る経路に分かれる。さらに前記三方弁14は,一方はアダプター洗浄管15を経由して洗浄孔16より噴出しアダプター5内面を洗浄する経路と他方はポンプ装置10の吸入側の配管へフィードバックされる経路に分かれる。17は三方弁11に連動する・・・操作つまみ17を操作することにより・・・ポンプ装置10が作動する。・・・レバー19の操作により・・・ポンプ装置10が作動する。」(2ページ左下欄13行?右下欄10行)と記載されている。

2 各無効理由についての判断
(1)第1の無効理由について
本件発明1と甲1発明とを対比する。
甲1発明の「サイホンジェット式便器」,「タンク10」,「ポンプ11」,「ポンプ11の排出口」,「ジェット用ノズル12」,「制御手段15」は,本件発明1の,洗浄可能な汚物を受け入れる「衛生器具」,所定量の洗浄水を貯える「貯水タンク」,貯水タンクの内部と流体連通する「ポンプ」,「ポンプ排出口」,「管」,「自動制御手段」にそれぞれ相当し,甲1発明の「ボウル部3」と「リム7」を合わせたものは,本件発明1の,汚物を受け入れる「受容器」に相当する。
また,甲1発明の「タイマの働きにより,タンクに洗浄水を再充てんするため,一定時間の後れを設定し,その間,ポンプの動作を停止する」点は,本件発明1の「前記制御手段(80)は前記ポンプの最後の動作後一定の遅延時間前に前記ポンプ(18)が作動するのを防止する時間遅延手段を有している」点に相当する(前記(1k)参照)。

したがって,両者は,次の点で一致する。
「洗浄可能な汚物を受け入れる衛生器具であって,
前記汚物を受け入れる少なくとも一つの受容器と,
所定量の洗浄水を貯える貯水タンクと,
前記貯水タンクの内部と流体連通するポンプと,
ポンプ排出口と前記受容器とを連結する管と,を有し,
前記ポンプを作動させて所定量の洗浄水を前記受容器に送出させ,それにより前記衛生器具が制御されてポンプに作動的に接続された自動制御手段を備え,
前記制御手段は前記ポンプの最後の動作後一定の遅延時間前に前記ポンプが作動するのを防止する時間遅延手段を有している,
洗浄可能な汚物を受け入れる衛生器具。」

そして,両者は次の点で一応相違する。
[相違点1]本件発明1では,所定量の洗浄水を前記受容器に送出させるのは「所定時間の間」であり,少なくとも一つの他の所定量の洗浄水を前記受容器に送出させるのは「少なくとも一つの他の所定時間の間」であることから,「所定量」と「一つの他の所定量」で異なった「所定時間の間」に洗浄水を送出させるのに対し,甲1発明では,そのように特定されていない点。
[相違点2]本件発明1は,「ポンプを作動させて所定時間の間に所定量の洗浄水を前記受容器に送出させ,あるいは前記ポンプを作動させて少なくとも一つの他の所定時間の間に少なくとも一つの他の所定量の洗浄水を前記受容器に送出させ,それにより前記衛生器具が制御されて2つの異なる洗浄サイクルを使用できるようにポンプに選択的にかつ作動的に接続された自動制御手段」を備えるのに対し,甲1発明では,「ポンプを作動させて所定量の洗浄水を前記受容器に送出させ,それにより前記衛生器具が制御されてポンプに作動的に接続された自動制御手段」に相当する構成はあるものの,「ポンプを作動させて少なくとも一つの他の所定時間の間に少なくとも一つの他の所定量の洗浄水を前記受容器に送出させ」,「2つの異なる洗浄サイクルを使用できるように」ポンプに「選択的にかつ」作動的に接続された自動制御手段に相当する構成があるかは不明である点。

そこで,まず,上記相違点1について検討する。
ポンプによる給水量を変えるために,給水速度を変えるか,給水時間を変えるかの2つの制御要素があることは,当業者にとって自明である。甲第1号証にはポンプの給水速度を変えて給水量を変える旨の記載はなく,【0011】に「メモリ15cには,洗浄水の給水順序,給水量,および給水時間に関するデータが予め記憶されている。」,【0014】に「タイマ15dの経過時間が,予めメモリ15cに記憶されているジェット給水時間が経過した時点で(S6),ポンプ11の駆動を停止し(S7)」と記載されている。そして,ポンプの給水速度を変えなければならない必要性は認められず,ポンプの給水速度を変えるとすれば,むしろ,ポンプに供給する電圧を変えるなどの複雑な制御を要することとなり,メモリ15cに給水時間に関するデータが予め記憶されていること等を考慮すると,給水量の制御を給水時間により行っていると考える方が自然である。そうすると,【0018】の「操作部16に大便用と小便用を区別するスイッチを設け,このスイッチにより給水量を変えるように制御」する際に,給水時間を変えているものと認められる。
したがって,相違点1は実質的に相違点ではない。

次に,相違点2について検討する。
甲第1号証の【0013】には「ジェット給水状態へ駆動する。」と記載されており,ポンプ11によりジェット給水されることからみて,甲1発明の「操作部16に大便用と小便用を区別するスイッチを設け,このスイッチの操作により,前記制御手段15は,給水量を変えるように制御する」との構成は,大便用と小便用のスイッチによりポンプ11を作動させて給水量を変えていると認められ,大便用と小便用のスイッチ操作により,2つの異なる洗浄サイクルがポンプ等により達成されると認められるから,甲1発明は,「ポンプを作動させて所定時間の間に所定量の洗浄水を前記受容器に送出させ,あるいは前記ポンプを作動させて少なくとも一つの他の所定時間の間に少なくとも一つの他の所定量の洗浄水を前記受容器に送出させ,それにより前記衛生器具が制御されて2つの異なる洗浄サイクルを使用できるようにポンプに選択的にかつ作動的に接続された自動制御手段」を備えていると認められる。
したがって,相違点2は実質的に相違点ではない。

以上のことから,本件特許の請求項1に係る発明は,甲第1号証に記載された発明であるから,特許法第29条第1項第3号の規定により特許を受けることができない。

(2)第2の無効理由について
第2の無効理由は,甲第1号証と対比を行い,相違点について容易であるとの請求人の主張であるので,当該請求人の主張について,以下に検討する。
また,第3?9の無効理由についても同様である。

(2-1)本件発明1について
甲1発明と本件発明1の一致点・相違点は「(1)第1の無効理由」で示したとおりである。
そして,上記相違点1が実質的な相違点であったとしても,ポンプで異なった量の水を送出する際に時間を異ならせることは当業者に周知な技術事項であるから(必要であれば,上記「1 証拠方法の記載内容 (18)?(20)」参照),所定量の洗浄水と他の所定量の洗浄水を送出するために,所定時間と,他の所定時間でポンプを選択的にかつ作動的に接続することは当業者が容易に想到したことである。
また,上記相違点2が実質的な相違点であったとしても,甲1発明では洗浄サイクルでポンプ11を作動させて給水しているといえるから,大便用と小便用のスイッチによりポンプ11を作動させて給水量を変える制御手段を備えること,すなわち,「ポンプを作動させて所定時間の間に所定量の洗浄水を前記受容器に送出させ,あるいは前記ポンプを作動させて少なくとも一つの他の所定時間の間に少なくとも一つの他の所定量の洗浄水を前記受容器に送出させ,それにより前記衛生器具が制御されて2つの異なる洗浄サイクルを使用できるようにポンプに選択的にかつ作動的に接続された自動制御手段」を備えることは,当業者が容易になし得たと認められる。

以上のとおり,本件発明1は,甲1発明及び周知な技術事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

以下の,(2-2)本件発明2について[第2の無効理由]?(9)第9の無効理由についての検討において,相違点1,2については,「(1)第1の無効理由」または「(2)第2の無効理由(2-1)本件発明1」で検討したとおりである。

(2-2)本件発明2について
甲1発明と本件発明2は,「(1)第1の無効理由」で検討した甲1発明と本件発明1との一致点,相違点の他に,以下の相違点を有する。
[相違点3]
本件発明2が「制御手段はタッチ式のスイッチによって作動される」との構成を有するのに対し,
甲1発明はそのような構成を有さない点。

そこで,上記相違点3について検討すると,本件特許明細書の【0032】には,「タッチ式のスイッチボタン81」と記載されており,【0033】では「短フラッシュボタン81は図18で118で示すように押される」と記載され,図18の118では「小便器フラッシュキー押し?」と記載されている。また,【0034】には「スイッチがキー又は押しボタン等で動作されたかどうかの」と記載され,【0036】には「スイッチ82により動作される等,長フラッシュ・キー(97)であれば」と記載され,図16における97では「長キー押し又はふた閉め?」と記載されている。以上のことからみて,本件発明2の「タッチ式のスイッチ」とは,少なくとも押しボタンスイッチを含むものと認められる。
そして,甲第3号証の記載(3e),甲第10号証の記載(10b)には押しボタンスイッチにより大洗浄と小洗浄を制御して便器への給水を操作する旨が記載されており,これらを適用することは当業者が容易になし得たことである。
また,仮に,本件発明2の「タッチ式のスイッチ」が通常の押しボタンスイッチを含まないとしても,スイッチとしてそのような「タッチ式のスイッチ」は当業者に周知な技術手段であるから,甲1発明において「タッチ式のスイッチ」を用いることは当業者が容易になし得たことである。

(2-3)本件発明7について
本件発明7は,本件発明1に「受容器はリムと大便器部分とを有し,衛生器具がさらに,リムと大便器に洗浄水を送出した後にポンプとは独立にリムに水を送出する弁手段を有している」との構成を付加したものである。
本件発明7と甲1’発明とを対比する。
甲1’発明の「サイホンジェット式便器」,「タンク10」,「ポンプ11」,「ポンプ11の排出口」,「ジェット用ノズル12」,「制御手段15」は,本件発明7の,洗浄可能な汚物を受け入れる「衛生器具」,所定量の洗浄水を貯える「貯水タンク」,貯水タンクの内部と流体連通する「ポンプ」,「ポンプ排出口」,「管」,「自動制御手段」にそれぞれ相当し,甲1’発明の「ボウル部3」と「リム7」を合わせたものは,本件発明7の,汚物を受け入れる「受容器」に相当する。
また,甲1'発明の「ボウル部3」は本件発明7の「大便器部分」に相当し,甲1'発明の「リム7」は本件発明7の「リム」に相当する。
さらに,甲1'発明の
「予めメモリ15cに記憶されているジェット給水時間が経過した時点で(ST3),ポンプ11の駆動を停止し(ST4),
経過時間が,封水給水時間を経過した時点で(ST5),ボウル部用弁機構17を閉状態に駆動し(ST6),タイマ16dを停止させる(ST7)」
との構成における「ボウル部用弁機構17」は,本件発明7の「リムと大便器に洗浄水を送出した後にポンプとは独立にリムに水を送出する弁手段」に相当する。
また,甲1’発明の「タイマの働きにより,タンクに洗浄水を再充てんするため,一定時間の後れを設定し,その間,ポンプの動作を停止する」点は,本件発明7の「前記制御手段(80)は前記ポンプの最後の動作後一定の遅延時間前に前記ポンプ(18)が作動するのを防止する時間遅延手段を有している」点に相当する(前記(1k)参照)。

したがって,両者は,次の点で一致する。
「洗浄可能な汚物を受け入れる衛生器具であって,
前記汚物を受け入れる少なくとも一つの受容器と,
所定量の洗浄水を貯える貯水タンクと,
前記貯水タンクの内部と流体連通するポンプと,
ポンプ排出口と前記受容器とを連結する管と,を有し,
前記ポンプを作動させて所定量の洗浄水を前記受容器に送出させ,それにより前記衛生器具が制御されてポンプに作動的に接続された自動制御手段を備え,
前記制御手段は前記ポンプの最後の動作後一定の遅延時間前に前記ポンプが作動するのを防止する時間遅延手段を有し,
受容器はリムと大便器部分とを有し,衛生器具がさらに,リムと大便器に洗浄水を送出した後にポンプとは独立にリムに水を送出する弁手段を有している,
洗浄可能な汚物を受け入れる衛生器具。」

そして,両者は次の点で一応相違する。
[相違点1’]本件発明7では,所定量の洗浄水を前記受容器に送出させるのは「所定時間の間」であり,少なくとも一つの他の所定量の洗浄水を前記受容器に送出させるのは「少なくとも一つの他の所定時間の間」であることから,「所定量」と「一つの他の所定量」で異なった「所定時間の間」に洗浄水を送出させるのに対し,甲1’発明では,そのように特定されていない点。
[相違点2’]本件発明7は,「ポンプを作動させて所定時間の間に所定量の洗浄水を前記受容器に送出させ,あるいは前記ポンプを作動させて少なくとも一つの他の所定時間の間に少なくとも一つの他の所定量の洗浄水を前記受容器に送出させ,それにより前記衛生器具が制御されて2つの異なる洗浄サイクルを使用できるようにポンプに選択的にかつ作動的に接続された自動制御手段」を備えるのに対し,甲1’発明では,「ポンプを作動させて所定量の洗浄水を前記受容器に送出させ,それにより前記衛生器具が制御されてポンプに作動的に接続された自動制御手段」に相当する構成はあるものの,「ポンプを作動させて少なくとも一つの他の所定時間の間に少なくとも一つの他の所定量の洗浄水を前記受容器に送出させ」,「2つの異なる洗浄サイクルを使用できるように」ポンプに「選択的にかつ」作動的に接続された自動制御手段に相当する構成があるかは不明である点。
上記相違点1’,2’は,本件発明1と甲1発明における相違点1,2と同じであって,その判断は,「(2)第2の無効理由(2-1)本件発明1」で本件発明1と甲1発明について検討したものと同様である。
したがって,本件発明7は,甲1’発明及び周知な技術事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(2-4)本件発明8について
本件発明8は,本件発明1に「受容器はリムと大便器部分とを有し,前記制御手段がさらに順番に,第1シーケンスで前記リムに所定量の洗浄水を送出させ,第2シーケンスで前記大便器に所定量の洗浄水を送出させ,第3シーケンスで前記リムに所定量の洗浄水を送出させるようにポンプに選択的にかつ作動的に接続されている」との構成を付加したものであり,ポンプからリムに洗浄水を送出させているものである。
甲1発明は,「リム通水路8の底面に開設したリム射出孔9からボウル部3へ洗浄水が供給されボウル部3の洗浄が行なわれると共に,リム通水路8を介してボウル部3の下部に設けたタンク10に洗浄水を供給する」構成であって,リム射出孔9へはポンプを介さずに洗浄水が供給されている。そうすると甲第7,11,12号証に記載されているようなポンプ排出口とリムを管で連結する構成が周知であっても,甲第1号証においてタンク10の洗浄水を排出するポンプ11の排出口をリム通水路8に接続する必要性はなく,甲第7,11,12号証の技術を適用する動機は認められない。それだけでなく,甲第1号証のリム射出孔9から洗浄水をボウル部3へ供給すると同時にタンク10に洗浄水を供給する構成において,さらにタンクからポンプを介してリム射出孔9へ洗浄水を送出する構成は,不自然である。
したがって,本件発明8は,甲1発明を主引例として甲第7,11,12号証等の周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

なお,請求人は平成24年7月2日付け上申書の2ページにおける「A (2-4)本件発明8に関して」において,「ポンプの排出口をリム通水路に接続することは,特許請求の範囲に記載されていない。」としている。しかしながら,本件発明8は,「リムに所定量の洗浄水を送出させるようにポンプに選択的にかつ作動的に接続されている」との構成等からみて,上記したようにポンプからリムに洗浄水を送出しているものである。そして,ポンプからリムに所定量の洗浄水を送出させるのであれば,リム通水路に接続することになることも明らかである。
また,請求人は「甲1発明において,ポンプ(11)の排出口をリム通水路(8)に接続する場合は,当然ながら,当業者ならば,タンク(10)への給水をリム通水路8を介してではなく,給水管19を直接接続して行うもので,被請求人の主張する循環構成とすることはしない。甲1明細書の段落0018にも「タンク11への給水をリム通水路8を介してではなく,給水管19を直接接続してボールタップで溜水量を制御するようにしてもよく・・・」と記載されている通りである。」とも主張している。しかしながら,段落0018の同記載の後には,「このようにすれば,ボウル部弁機構とポンプを同時に終了させる洗浄動作を行わせることができる。」と記載されており,この場合のボウル部弁機構はリムの洗浄に用いられると考えるのが普通であって,当業者が,ボウル部弁機構によるリムの洗浄に加えて,さらにポンプからリムに洗浄水を送出させる,不要で複雑な構成とすることは考えられない。
したがって,上記請求人の主張を認めることはできない。

(2-5)本件発明9について
本件発明9は,本件発明1に「前記制御手段は,前記一つの所定量の洗浄水と,異なる量の他の所定量の洗浄水を前記貯水タンクから前記受容器に汲み上げさせるように前記ポンプ手段を作動させる予め選択された複数の時間を有する」との構成を付加したものである。
そして,甲1発明の「操作部16に大便用と小便用を区別するスイッチを設け,このスイッチの操作により,前記制御手段15は,給水量を変えるように制御するものであり」との構成とは,「前記制御手段は,前記一つの所定量の洗浄水と,異なる量の他の所定量の洗浄水を前記貯水タンクから前記受容器に汲み上げさせるように前記ポンプ手段を作動させる」点で一致する。
「ポンプ手段を作動させる予め選択された複数の時間を有する」点については,「(2-1)本件発明1について」で検討したとおりである。
また,「貯水タンクから受容器に汲み上げさせるようにポンプ手段を作動させる」点が相違点であったとしても,ポンプ手段により受容器に洗浄水を噴出させるものにおいて,貯水タンクの位置を受容器より低い場所として,汲み上げさせるようにポンプ手段を作動させることは,当業者の設計的事項と認められる。
したがって,本件発明9は,甲1発明及び周知な技術事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(2-6)本件発明11について
本件発明11は,本件発明1に「前記ポンプはポンプモータにより駆動され,前記モータは少なくとも二つの異なる速度を有している」との構成を付加したものである。
そして,甲第14号証に記載されているように,ポンプは回転速度を変えることにより吐出流量を制御できることは当業者に周知な事項であり,給水量を変える場合に,ポンプモータを異なる時間で駆動することに加えて,異なる速度で駆動することは当業者であれば容易に想到したことである。
したがって,本件発明11は,甲1発明及び周知な技術事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(2-7)本件発明12について
本件発明12は,本件発明1に「前記ポンプはポンプモータにより駆動され,前記ポンプは前記モータによって駆動された磁気駆動の駆動軸によって作動する」との構成を付加したものである。
そして,モータの軸を磁気駆動することは例示するまでもなく,当業者に周知な技術事項である。
したがって,本件発明12は,甲1発明及び周知な技術事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(2-8)本件発明17について
本件発明17は,本件発明1に「前記タンクと前記受容器とを連結し,前記受容器から前記タンクへの水の帰りの流れを許容する流体帰り通路手段を有し,前記受容器の頂部を越える水こぼれが前記流体帰り通路手段によって防止される」との構成を付加したものである。
そして,甲1発明の「ボウル3の水が溢れるとリム射出孔9を介してタンク10に流れる」との構成が上記構成に相当する。
したがって,本件発明17は,甲1発明及び周知な技術事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(3)第3の無効理由について
(3-1)本件発明3について
本件発明3は,本件発明1に「受容器はリムと大便器部分とを有し,前記制御手段がさらに順番に,第1シーケンスでリムに所定量の洗浄水を送出させ,第2シーケンスで前記受容器の大便器と前記リムの双方に所定量の洗浄水を送出させ,第3シーケンスで前記リムに所定量の洗浄水を送出させるようにポンプに選択的にかつ作動的に接続されている」との構成を付加したものである。
そして,甲第3号証のリムとジェットの給水順序に関する記載を考慮しても,本件発明3は本件発明8と同様にポンプからリムに洗浄水を送出させているものであるから,「(2-4)本件発明8について」と同様の理由で,本件発明3は,甲1発明を主引例として,甲第3号証に記載された発明及び甲第7,11,12号証等の周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(3-2)本件発明4について
本件発明4は,本件発明1に「前記受容器はリムと大便器部分とを有し,前記制御手段はさらに,所定量の洗浄水を前記リムと前記大便器の双方に同時に送出させるようにポンプに選択的にかつ作動的に接続されている」との構成を付加したものである。
そして,甲第3号証のリムとジェットの給水順序に関する記載を考慮しても,本件発明4も本件発明8と同様にポンプからリムに洗浄水を送出させているものであるから,「(2-4)本件発明8について」と同様の理由で,本件発明4は,甲1発明を主引例として,甲第3号証に記載された発明及び甲第7,11,12号証等の周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(3-3)本件発明6について
本件発明6は,本件発明1に「前記受容器はリムと大便器部分とを有し,前記制御手段はさらに順番に,第1シーケンスで所定量の洗浄水を前記リムに送出させ,第2シーケンスで所定量の洗浄水を前記リムと前記大便器に送出させるようにポンプに選択的にかつ作動的に接続されている」との構成を付加したものである。
そして,甲第3号証のリムとジェットの給水順序に関する記載を考慮しても,本件発明6も本件発明8と同様にポンプからリムに洗浄水を送出させているものであるから,「(2-4)本件発明8について」と同様の理由で,本件発明6は,甲1発明を主引例として,甲第3号証に記載された発明及び甲第7,11,12号証等の周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(3-4)本件発明10について
本件発明10は,本件発明1に「前記受容器は便器用容器であり,中空のリムと大便器を有し,前記管は前記リムの下方の前記大便器に接続され,前記ポンプの排出口と前記リムとを接続する追加の管を有している」との構成を付加したものである。
そして,甲第3号証のリムとジェットの給水順序に関する記載を考慮しても,本件発明10も本件発明8と同様にポンプからリムに洗浄水を送出させているものであるから,「(2-4)本件発明8について」と同様の理由で,本件発明10は,甲1発明を主引例として,甲第3号証に記載された発明及び甲第7,11,12号証等の周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(4)第4の無効理由について
(4-1)請求項5について
本件発明5は,本件発明1に「前記受容器はリムと大便器部分とを有し,前記制御手段はさらに,所定量の洗浄水を前記リムにのみ送出させるようにポンプに選択的にかつ作動的に接続されている」との構成を付加したものである。
そして,本件発明5も本件発明8と同様にポンプからリムに洗浄水を送出させているものであるから,「(2-4)本件発明8について」と同様に,甲第7,11,12号証に記載されているようなポンプ排出口とリムを管で連結する構成が周知であっても,甲第1号証においてタンク10の洗浄水を排出するポンプ11の排出口をリム通水路8に接続する必要性はないので,甲第7,11,12号証の技術を適用する動機は認められず,さらに,甲第4号証が所定量の洗浄水をポンプによってリムのみに送出させるものであるからといって,ポンプをリムに接続する必要性のない甲第1号証に記載された発明にこれを適用することはできない。
したがって,本件発明5は,甲1発明を主引例として,甲第4号証に記載された発明及び甲第7,11,12号証等の周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(5)第5の無効理由について
(5-1)請求項13について
本件発明13は,本件発明1に「前記貯水タンク中洗浄水のレベルを決める検出手段を有し,前記制御手段は,前記検出手段が作動された回数を確認する計数手段を有し,前記制御手段は,前記計数手段が予め定めた数に達したときに前記貯水タンクへの洗浄水を制御するために供給弁を閉じる」との構成を付加したものである。
そして,本件発明13の作用は,本件特許明細書【0043】の「制御回路とポンプ18Aの電気的故障やフロート弁アセンブリ37Aの閉弁故障の場合,供給弁60Aを閉弁する」ことにあると認められる。
一方,甲第5号証に記載されたものは,ボウル部3内の封水高さを検出するものであって,貯水タンク中の洗浄水レベルを検出しておらず,「制御回路やポンプの電気的故障やフロート弁アセンブリの閉弁故障の場合に供給弁を閉じる」ものではないので,タンク中の洗浄水レベルを検出することが容易だという根拠にはならない。さらに,甲第6号証におけるn回数連続して異常水位レベルを検知したときにモータを停止し,異常報知を行う点は,甲第6号証3ページ右上欄2行?14行の「布の片寄りにより排水口5が塞がれたことによる一時的な水位上昇であれば,水流により布が移動し排水口5が開放されるとオーバーフローによる排水が行なわれ・・・排水ホースの倒し忘れによる場合には,時間の経過に関係なく洗濯機1内の水位は低下せず」という洗濯機特有の事情に基づく構成であり,甲第1号証の便器に適用することはできない。
したがって,本件発明13は,甲1発明を主引例として,甲第5,6号証に記載された発明及び周知な技術事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

ここで,請求人は平成24年7月2日付け上申書の3ページにおける「B (5-1)本件発明13に関して」において,「『何らかの部位の水位を水位検出手段により検出して,この水位が予め設定した値を超えた場合には,給水を停止して,オーバーフローを防止すること』が,本件特許の優先日当時において,技術分野を問わず,当業者が通常行っていた事項であることは,甲第21?23号証から明らかである。」旨を主張し,甲第21?23号証の記載事項を示している。
しかしながら,請求人が示した甲第22,23号証の記載事項には給水を停止する旨の構成はないから,技術分野を問わず当業者が通常行っていた事項と主張することはできない。
また,本件発明13の「供給弁」は,本件明細書の【0043】に「供給弁60A」と記載され,図9,10でフロート弁アセンブリ37Aとは別に記載されていることからみて,フロート弁アセンブリとは別途設けられた弁である。つまり,満水にするために通常用いられている弁機構とは別に異常水位を検出して供給を止めるための「供給弁」である。そして,甲第21号証に記載されたものはそのようなものではなく,技術分野的にも本件発明13の衛生器具とは異なっており,請求人が示す他の甲号各証にも上記の「供給弁」は示されていない。
さらに,請求人は,同上申書の26,27ページにおいて,「水位が所定回数だけ異常水位レベルを超えたときに限り,動作を停止するようにしたこと」が,当業者が通常行っていた事項であることは,甲6発明と同様に甲第24号証からも明らかであると主張し,「本件発明13のように,制御回路やポンプの電気的故障やフロート弁の閉弁故障の際,貯水タンク内の水がオーバーフローするといった課題は,本件特許の優先日当時において,当業者が既に認知しているもの」として,甲第25号証を示し,「当業者ならば製品開発する際においては当然ながら検討するものである。」と主張している。
しかしながら,「水位が所定回数だけ異常水位レベルを超えたときに限り,動作を停止するようにしたこと」が,当業者が通常行っていた事項であり,「制御回路やポンプの電気的故障やフロート弁の閉弁故障の際,貯水タンク内の水がオーバーフローするといった課題は,本件特許の優先日当時において,当業者が既に認知しているもの」であったとしても,「貯水タンクへの洗浄水を制御するために供給弁を閉じる」との手段を講じることについては甲第25号証に記載されておらず(第1図においても,下限レベルスイッチが接続されている可能性があるプログラム装置12からは,給水管6の近辺に配線等がなされていない。),請求人が示した証拠及び主張によっては,本件発明13は当業者が容易になし得たことということはできない。

(6)第6の無効理由について
(6-1)請求項14について
本件発明14は,本件発明1に「水源に接続されたタンクの取入れ管と,
前記取入れ管に作動可能に接続された補充用制御弁と,
前記補充用制御弁と前記受容器とを連結するチューブとを有し,
水は前記チューブを通じて前記受容器に流れて前記管と前記ポンプとは独立に水シールを実現する」との構成を付加したものである。
甲1発明の「給水管19」は水源に接続されていると認められ,さらにタンク10へ洗浄水を供給するため,本件発明14の「取入れ管」に相当し,甲1発明の「ボウル部用弁機構17」は,本件発明14の「補充用制御弁」に相当する。
さらに,甲1発明の(S7)?(S10)は,ポンプを用いずにボウル部用弁機構17を開いて封水するものであり,本件発明14の「管と前記ポンプとは独立に水シールを実現する」との構成に相当する。
そして,甲1発明の「ボウル部用弁機構17」とリム通路8等を連結するのは「リム給水室20」であるが,これをチューブ形状として連結することは当業者の設計的事項と認められる。
したがって,本件発明14は,甲1発明及び周知な技術事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

なお,被請求人は平成24年6月11日付け上申書の4,5ページにおける「VI.第6の無効理由(本件発明14)」において,「甲1発明の『ボウル部用弁機構17』等は甲1発明の『補充用弁機構』に相当しない。甲第7号証の『オーバーフロー管b』も開示されていない。」旨を主張している。しかしながら,この主張には何ら説明がなく根拠がないものである。また,「仮に甲第7号証に水シールが開示されていたとしても,その経路は,少なくとも給水口(7)において,洗浄水供給経路と同一との経路である。」と主張している。しかしながら請求項14には洗浄水供給経路と水シール用の水の供給経路に同一の部分が無い旨の構成はなく,被請求人の主張は請求項の記載に基づいたものではない。
そして,第6の無効理由については上述したとおりであり,上記被請求人の主張は認められない。
また,同上申書の5,6ページにおける第7の無効理由(本件発明15)についても同様である。

(7)第7の無効理由について
(7-1)請求項15について
本件発明15は,本件発明14に「前記補充用制御弁は,水が前記取入れ管を通って汲み上げられてポンプの作動が停止した後に,追加の水が前記チューブを通って前記受容器に流れて水シールを実現するように構成配置されている」との構成を付加したものである。
甲1発明の(S7)?(S10),では,ポンプ停止の後にボウル部用弁機構17を開状態として封水しており,本件発明15の「ポンプの作動が停止した後に,追加の水が受容器に流れて水シールを実現する」との構成に相当する。
また,仮に甲1発明の(S7)?(S10)が本件発明15の「ポンプの作動が停止した後に,追加の水が受容器に流れて水シールを実現する」との構成に相当しないとしても,甲9発明のように排水後に少量の水をボール部に給水して封水することは,当業者に周知な技術手段であるから,「ポンプの作動が停止した後に,追加の水が受容器に流れて水シールを実現する」ことは当業者が容易に想到したことである。
さらに,給水管により下方から水を汲み上げることは当業者に周知な事項と認められる。
したがって,本件発明15は,甲1発明及び周知な技術事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(8)第8の無効理由について
(8-1)請求項16について
本件発明16は,本件発明1に「前記ポンプは貯水タンク中に位置するポンプモータとポンプを含む」との構成を付加したものである。
甲第7号証にはポンプ9を貯水タンクBに設ける点が記載されている(2ページ右上欄4行?6行,第1,2図)。さらに,スイッチ13からコード様のものがポンプ9に導入されているから(第1図),ポンプ9がモータを有していることは明らかである。そして,ポンプを甲1発明のようにタンク10の下部に設けるか,甲第7号証のようにタンク内に設けるかは当業者の設計的事項と認められる。
したがって,本件発明16は,甲1発明,甲第7号証に記載された事項及び周知な技術事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(9)第9の無効理由について
(9-1)請求項18について
本件発明18は,本件発明1に「少なくとも2つの受容器を有し,洗浄水を一度に前記2つの受容器のうちの1つのみに転換する手段を含む転換手段を有している」との構成を付加したものである。
甲第1号証は「リム通水路8の底面に開設したリム射出孔9からボウル部3へ洗浄水が供給されボウル部3の洗浄が行なわれると共に,リム通水路8を介してボウル部3の下部に設けたタンク10に洗浄水を供給する」構成であって,ポンプ用タンクへの洗浄水供給とリムからの洗浄水供給によるボウル部の洗浄が同時に行われて不可分である。無理にポンプによりタンクの洗浄水を2つの受容器に選択的に供給する構成にすると,当該2つの受容器におけるリムからのボウル部の洗浄を機能させることができなくなり,甲第1号証に記載された発明に甲第7号証の記載(7e)の「ポンプを複数の大便器に連絡せしめる」技術を適用することには阻害要因があると認められる。
また,本件発明18も本件発明8と同様にポンプからリムに洗浄水を送出させているものであるから,「(2-4)本件発明8について」と同様の理由で,甲第7,11,12号証のポンプ排出口とリムとを管で連結する周知技術を適用することはできない。
したがって,本件発明18は,甲1発明を主引例として,甲第7号証に記載された発明および甲第7,11,12号証等の周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

請求人は平成24年7月2日付け上申書の8?10ページにおける「E (9-1)本件発明18に関して」において,「本件発明18の技術的特徴は,「洗浄水を一度に前記2つの受容器(10B,74B)のうちの1つのみに転換する手段を含む転換手段(75B)」を有する点であり,それは,甲7発明に開示されているとおり,本件特許の優先日当時において当業者が通常行っていた周知な事項である。さらに,転換手段が周知な事項であったことは,甲第26号証からも明らかである。」と主張している。
しかしながら,上記のとおりであって,請求人の主張は認められない。

(9-2)請求項19について
本件発明19は,本件発明18に「前記1つの受容器は小便器であり,もう1つの前記受容器は便器である」との構成を付加したものである。
甲第16号証には上記「1 証拠方法の記載内容 (16)」に示したように「貯水タンクに複数個の水洗式便器を連結し,水洗式便器として,大便器も小便器も適用できる水洗便所装置」が記載されており,甲第17号証には上記「1 証拠方法の記載内容 (17)」に示したように「多数の大便器と小便器を設置した多人数用自動水洗便所」が記載されている。
そして,本件発明19は本件発明18を引用しているから,本件発明18の「少なくとも2つの受容器を有し,洗浄水を一度に前記2つの受容器のうちの1つのみに転換する手段を含む転換手段を有している」との構成を有しており,上記甲第16,17号証の記載を勘案しても,本件発明18と同様の理由で,本件発明19は,甲1発明を主引例として,甲第7号証に記載された発明および甲第7,11,12,16,17号証等の周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

請求人は平成24年7月2日付け上申書の10ページにおける「F (9-2)本件発明19に関して」において,「大便器の代わりに小便器を設置したり,大便器と小便器を併用して設置することは,甲第16号証及び甲第17号証に記載されている通り,当業者が通常行っていた周知な事項であり,本件発明19による特有の効果もないため,当業者ならば容易になし得たことである。」と主張している。
しかしながら,上記のとおりであって,請求人の主張は認められない。

(10)追加の無効理由について
追加の無効理由は,甲第7号証と対比を行い,相違点について容易であるとの請求人の主張であるので,当該請求人の主張について,以下に検討する。
(10-1)本件発明3について
本件発明3と甲7発明を対比すると,甲7発明の「大便器(A)」,「便鉢部(1)」,「吐水管(12)」,「制御回路」,「水洗便所装置」は,本件発明3の「受容器」,「大便器部分」,「管」,「自動制御装置」,「衛生器具」に相当する。また,甲7発明は「リム通水路(6)」を有しているから,本件発明3の「リム」に相当する構成を有していると認められる。

そうすると,両者は,次の点で一致する。
「洗浄可能な汚物を受け入れる衛生器具であって,
前記汚物を受け入れる少なくとも一つの受容器と,
所定量の洗浄水を貯える貯水タンクと,
前記貯水タンクの内部と流体連通するポンプと,
ポンプ排出口と前記受容器とを連結する管と,を有し,
前記ポンプを作動させて所定時間の間に所定量の洗浄水を前記受容器に送出させ,それにより前記衛生器具が制御されるようにポンプに作動的に接続された自動制御手段を備え,
受容器はリムと大便器部分とを有した
洗浄可能な汚物を受け入れる衛生器具。」

また,両者は次の点で相違する。
[相違点A]
自動制御手段が,本件発明3では,ポンプを作動させて所定時間の間に所定量の洗浄水を前記受容器に送出させ,あるいは前記ポンプを作動させて少なくとも一つの他の所定時間の間に少なくとも一つの他の所定量の洗浄水を前記受容器に送出させ,それにより衛生器具が制御されて2つの異なる洗浄サイクルを使用できるようにポンプに選択的にかつ作動的に接続された自動制御手段を備えているのに対し,
甲7発明では,2つの異なる洗浄サイクルを使用できるようにされているか否か不明な点。
[相違点B]
本件発明3は,制御手段が「ポンプの最後の動作後一定の遅延時間前に前記ポンプが作動するのを防止する時間遅延手段」を有しているのに対し,甲7発明は,このような時間遅延手段を有しているか不明である点。
[相違点C]
本件発明3は,「制御手段がさらに順番に,第1シーケンスでリムに所定量の洗浄水を送出させ,第2シーケンスで前記受容器の大便器と前記リムの双方に所定量の洗浄水を送出させ,第3シーケンスで前記リムに所定量の洗浄水を送出させるようにポンプに選択的にかつ作動的に接続されている」のに対し,
甲7発明は,このような制御手段を有していない点。

まず,上記相違点Aについて検討すると,大便と小便とで,洗浄水の量を変えることは甲第3号証の3ページ左下欄13行?右下欄9行及び第5図にも示されているが周知な事項であり,甲7発明において,タイマーを作動させる時間を2種類の中から選択可能とし,2つの異なる洗浄サイクルを使用できるようにすることは当業者が容易に想到することである。

次に,上記相違点Bについて検討すると,甲第2号証には,便器の洗浄を行った後,便器内にまだ汚物等が残っていた場合,これを洗い流そうとして操作レバーを操作しても先ほどの洗浄でタンク内には十分な洗浄水がないために前記汚物を流せない虞れがあるため,排水弁を開いてから一定時間経過するまで操作部材を操作しても排水弁が開かないようにした便器洗浄水用タンクが示されている。そして,甲7発明も,排水後にタンクに十分な洗浄水が溜まる前に再び排水しても汚物を流せない虞があることは同じであると認められるから,甲7発明に甲第2号証の発明を適用することは当業者が容易に想到したことである。
ここで,甲7発明は,ポンプで給水することにより,1回の洗浄に使用する洗浄水の量を少量としたものであり,しかも,ポンプを作動して便器を洗浄中もボールタップ給水弁から,タンク内に水が供給されているものである。しかしながら,甲第7号証に記載されたものが複数回連続して排水できるほどのタンク容量があると認定できる根拠はなく,さらに,1回の洗浄に使用する洗浄水の料を少量とした場合には,通常はタンクを小型化して製造コストの削減や設置の容易化等を図ると考えられるから,甲第2号証の発明を適用できない阻害要因があるとはいえない。また,甲第7号証2ページ7行?19行には,ポンプを複数の大便器に連絡した場合に複数の大便器を同時に使用すると先にスイッチが入った方の洗浄を開始し,終了すると次の大便器がその直後から洗浄を開始するようにする旨の記載があるが,先の大便器へのポンプによる給水が終了した直後に次の大便器へのポンプによる給水を始めるとは記載されておらず,「終了」とはタンクに水を溜めることを含んだ一連の洗浄動作の終了の意味とみることもでき,また,「直後から」とは文字通りの直後であるという意味の他に可及的速やかにという意味とも捉えることができる。さらに,当該記載は複数の大便器にポンプをつないだ際の構成であって,そのような構成にあわせて構成を変えることが考えられるため,特に複数の大便器であるという限定がない本件発明3に関して阻害要因となる記載と認めることはできない。
また,甲第2号証に記載された発明がジェット式である点も,タンクに水が十分になければ汚物を流せない虞があることはサイホン式でも同じであるから,阻害要因とはならない。

最後に,上記相違点Cについて検討すると,甲第3号証の記載(3j)には,「第8図(a)には,リムからの給水とジェット用ノズル12からの給水を同時に開始し,リムからの給水停止後に,ジェット用ノズル12から給水を停止し,その後,再びリムから一定時間給水することが示され,(b)には,リムから給水する洗浄中にジェット用ノズル12からの洗浄水の給水を開始し,リムからの給水停止後に,ジェット用ノズル12から給水を停止し,その後,再びリムから一定時間給水する」ことが示されている。
そして,甲第3号証記載の発明も甲7発明と同様に水洗便所装置の発明であって,甲7発明において水流を種々制御して機能を向上させようとすることは当業者であれば考慮すると認められるから,甲第3号証記載の発明を適用し,その際に,甲7発明におけるポンプ(9)は甲第3号証記載のリム用弁機構17とジェット用弁機構20と同様に水流の発生源であるから,ジェット用導水管24,リム用流量計19からリム給水口11aまでの間の管の技術も適用して,本件発明3の相違点Cに係る構成とすることは当業者が容易になし得たことである。

したがって,本件発明3は甲7発明,甲第2,3号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

甲7発明に甲第2号証の発明を組み合わせる点について,被請求人は平成24年6月11日付け上申書の8,9ページにおいて,以下の3点を主張している。
ア 甲2発明における「操作ボタン11aを押してから一定時間経過するまでは・・・伝導排水弁7は開かない。」との記載は,「ポンプの最後の動作後一定の遅延時間前にポンプが作動するのを防止する」構成でなない。
イ 甲2発明の電動排水弁7は,排水弁であり,ポンプではない。
ウ 甲2発明を甲7発明に組み合わせる動機づけがない。
甲2発明はサイホン式ではない。
甲7にはタンク式水不足の課題がない。
甲7第5欄にある記載「その直後から洗浄を開始するように制御回路を組む。」は甲7発明を「ポンプの最後の動作後一定の遅延時間前にポンプが作動するのを防止する」構成へと変更することへの阻害要因である。

しかしながら,アについては何ら説明がなく根拠がない主張である。さらにアについては,本件発明3の構成の一部である本件発明1に関して,平成22年(行ケ)第10271号の判決25頁に判示されているように次のことがいえ,甲第2号証の発明は本件発明3の「ポンプの最後の動作後一定の遅延時間前にポンプが作動するのを防止する」に相当する構成を有しているといえる。

「特許請求の範囲の請求項1には,『時間遅延手段』は,『前記制御手段(80)は前記ポンプの最後の動作後一定の遅延時間前に前記ポンプ(18)が作動するのを防止する」』と記載されている。しかし,同記載部分の技術的意義は必ずしも明確ではない。そこで,本件明細書の発明の詳細な説明の段落【0010】,【0013】,【0034】ないし【0037】の記載及び図15,16を参酌すると,『前記制御手段(80)は前記ポンプの最後の動作後一定の遅延時間前に前記ポンプ(18)が作動するのを防止する』『時間遅延手段』との構成部分は,タンクに洗浄水を再充てんするため,フラッシュタイマの働きにより,少なくとも次のフラッシュまでに30秒の後れを設定し,その間,ポンプの動作を停止する技術を含むと理解できる。」

また,イ,ウについては「(10-1)本件発明3について」で検討したとおりである。

以下の各無効理由の検討において,一致点及び相違点A,Bについては,「(10-1)本件発明3について」で検討したとおりである。

(10-2)本件発明4について
本件発明4は,本件発明3の上記相違点Cの構成に替えて「前記制御手段はさらに,所定量の洗浄水を前記リムと前記大便器の双方に同時に送出させるようにポンプに選択的にかつ作動的に接続されている」との構成を付加したものである。
甲7発明では,リム通水路(6)とゼット孔(4)に同時に水を送出していると認められ,本件発明4の「所定量の洗浄水をリムと大便器の双方に同時に送出させる」点に相当する。
したがって,本件発明3は甲7発明,甲第2号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(10-3)本件発明5について
本件発明5は,本件発明3の上記相違点Cの構成に替えて「前記制御手段はさらに,所定量の洗浄水を前記リムにのみ送出させるようにポンプに選択的にかつ作動的に接続されている」との構成を付加したものであるから,甲7発明と本件発明5は,上記付加した構成でも相違している。
そして,ポンプによってリムのみに洗浄水を送出させる構成は,甲第4号証にも記載されているが,当業者に周知な技術事項であるから,甲7発明に当該周知な技術事項を適用して,上記付加した構成を有したものとすることは,当業者が容易に想到したことである。
したがって,本件発明3は甲7発明,甲第2,4号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(10-4)本件発明6について
本件発明6は,本件発明3の上記相違点Cの構成に替えて「前記制御手段はさらに順番に,第1シーケンスで所定量の洗浄水を前記リムに送出させ,第2シーケンスで所定量の洗浄水を前記リムと前記大便器に送出させるようにポンプに選択的にかつ作動的に接続されている」との構成を付加したものである。
第1シーケンスで所定量の洗浄水をリムに送出させ,第2シーケンスで所定量の洗浄水をリムと大便器に送出させるようにしている点については,上記(10-1)で検討した本件発明3に係る相違点Cの構成に含まれるものであるから,上記付加した構成は相違点Cの構成を上位概念化したものといえ,先の検討のとおり本件発明3の相違点Cに係る構成とすることは当業者が容易になし得たことであるから,当該付加した構成も当業者が容易になし得たことでである。
したがって,本件発明6は甲7発明,甲第2,3号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(10-5)本件発明7について
本件発明7は,本件発明3の上記相違点の構成Cに替えて「前記衛生器具がさらに,前記リムと大便器に洗浄水を送出した後に前記ポンプとは独立に前記リムに水を送出する弁手段を有している」との構成を付加したものであから,甲7発明と本件発明7は,上記付加した構成でも相違している。
そして,甲第1号証には図3のS7?S10,図4のST4?ST6およびその説明からみて,当該付加した構成に相当する構成が記載されており,甲7発明および甲第1号証に記載された発明は両者とも大便器にリムとゼット孔からの水流を用いる発明であり,甲7発明において水流を種々制御して機能を向上させようとすることは当業者であれば考慮すると認められるから,当該甲第1号証の発明を甲7発明に適用することに困難性はない。
また,そもそも洗浄後に封水のために給水弁から水を送出することは当業者に周知な技術事項であり,封水の際にリムに水を流すことも文献を示すまでもなく当業者に周知な技術事項にすぎない。
したがって,本件発明7は甲7発明,甲第1,2号証に記載された発明,又は甲7発明,甲第1,2号証に記載された発明及び周知な技術事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(10-6)本件発明8について
本件発明8は,本件発明3の上記相違点Cの構成に替えて「前記制御手段がさらに順番に,第1シーケンスで前記リムに所定量の洗浄水を送出させ,第2シーケンスで前記大便器に所定量の洗浄水を送出させ,第3シーケンスで前記リムに所定量の洗浄水を送出させるようにポンプに選択的にかつ作動的に接続されている」との構成を付加したものである。
甲第1号証には図3のS7?S10およびその説明からみて,当該付加した構成に相当する構成が記載されており,甲7発明および甲第1号証に記載された発明は両者ともリムとゼット孔からの水流を用いる大便器であり,甲7発明において水流を種々制御して機能を向上させようとすることは当業者であれば考慮すると認められるから,当該甲第1号証の発明を甲第7発明に適用することに困難性はない。
したがって,本件発明3は甲7発明,甲第1,2号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(10-7)本件発明10について
本件発明10は,本件発明3の上記相違点Cの構成に替えて「前記受容器は便器用容器であり,中空のリムと大便器を有し,前記管は前記リムの下方の前記大便器に接続され,前記ポンプの排出口と前記リムとを接続する追加の管を有している」との構成を付加したものである。
甲7発明の「大便器(A)」は本件発明10の「受容器」及び「便器用容器」に相当する。そして,甲7発明は「リム通水路(6)」を有しているから,本件発明10の「中空のリム」に相当する構成を有していると認められる。また,リムの下方に大便器があると認められる。
さらに,「便鉢部(1)」は,本件発明10の「大便器部分」に相当する。
ここで,本件特許明細書【0018】及び図2からみて,水を受容器12の下部へ送る「管27」とリム14へ送る「管30」は,ポンプから出た水が通る「排出マニホルド25」に接続されているから,本件発明10の「管は前記リムの下方の前記大便器に接続され,前記ポンプの排出口と前記リムとを接続する追加の管を有している」との構成は,少なくともこのような,ポンプ排出側に管が接続され,当該管が2つに分かれて,一方がリムへ,他方が受容器の下部へと連絡する構成を含んでいると解される。
そうすると,甲7発明の「吐出管(12)」は本件特許明細書及び図面における「排出マニホルド25」に相当し,甲7発明の「給水室(5)」は「ゼット孔(4)」と「リム流水路(6)」とに連絡するから,当該「給水室(5)」と,本件発明10の「リムの下方の前記大便器に接続され」る「管」及び「ポンプの排出口とリムとを接続する追加の管」は,「リムと,リム下方の大便器に接続される給水部」である点で共通する。
以上のことから,甲7発明と本件発明10は,以下の点でも相違している。
[相違点D]
「リムと,リム下方の大便器に接続される給水部」が,本件発明10では「追加の管」及び「管」であるのに対し,甲7発明では「給水室」である点。

そこで,上記相違点Dについて検討すると,給水のために管で接続することは当業者に周知な技術手段であるから,「給水室(5)」等を,管および追加の管として,大便器とリムに接続することに困難性はない。
したがって,本件発明3は甲7発明,甲第2,3号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(10-8)本件発明14について
本件発明14は,本件発明3の上記相違点Cの構成に替えて「水源に接続されたタンクの取入れ管と,
前記取入れ管に作動可能に接続された補充用制御弁と,
前記補充用制御弁と前記受容器とを連結するチューブとを有し,
水は前記チューブを通じて前記受容器に流れて前記管(27)と前記ポンプ(18)とは独立に水シールを実現する」との構成を付加したものである。なお,甲7発明との一致点である本件発明3の「受容器はリムと大便器部分とを有した」との構成は,本件発明14にはない。
そして,甲7発明の「ボールタップ給水栓8」は,本件発明14の「補充用制御弁」に相当する。
さらに,甲7発明の「ボールタップ給水栓(8)からの水は細い管と太い管,吐水管(12)を通じて大便器(A)に流れてポンプ(9)とは独立に封水する」との構成は,本件発明14の「水はチューブを通じて受容器に流れて管とポンプとは独立に水シールを実現する」との構成に相当し,
甲7発明の「ボールタップ給水栓(8)と吐水管(12)とを接続する細い管と太い管を有し」との構成は,本件発明14の「補充用制御弁と受容器とを連結するチューブ」との構成と,「補充用制御弁から受容器へ洗浄水を送るチューブ」である点で共通する。
そうすると,甲7発明と本件発明14は,以下の点でも相違している。
[相違点E]
チューブが補充用制御弁と,本件発明14では「受容器とを連結する」のに対し,甲7発明は「吐水管(12)とを接続する」点。

そこで,上記相違点Eについて検討すると,チューブを甲7発明のように吐出管(12)を介して大便器へ接続して水を流すか,本件発明14のようにチューブを直接に大便器(受容器)へ接続して水を流すかは,当業者が設計時に適宜決める事項と認められ,チューブが補充用制御弁と受容器とを連結する構成は当業者が容易に想到したことである。
したがって,本件発明3は甲7発明,甲第2号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(10-9)本件発明15について
本件発明15は,本件発明3の上記相違点Cの構成に替えて,本件発明14で付加した構成とともに「前記補充用制御弁は,水が前記取入れ管を通って汲み上げられてポンプの作動が停止した後に,追加の水が前記チューブを通って前記受容器に流れて水シールを実現するように構成配置されている」との構成を付加したものである。なお,甲7発明との一致点である本件発明3の「受容器はリムと大便器部分とを有した」との構成は,本件発明15にもない。
そして,上記「(10-8)本件発明14について」で示したように甲7発明は「ボールタップ給水栓(8)からの水は細い管と太い管,吐水管(12)を通じて大便器(A)に流れてポンプ(9)とは独立に封水する」との構成を有し,水シール(封水)は便器洗浄の後に行われることは技術常識であるから,当該付加した構成は実質的に甲7発明との一致点である。
また,仮に当該付加した構成が実質的に甲7発明との一致点でないとしても,甲9発明のように排水後に少量の水をボール部に給水して封水することは,当業者に周知な技術事項であるから,当該付加した構成とすることは,当業者が容易に想到したことである。
したがって,本件発明3は甲7発明,甲第2号証に記載された発明,又は甲7発明,甲第2号証に記載された発明及び周知な技術事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。


第5 むすび
以上のとおり,本件発明1は特許法第29条第1項第3号又は第29条第2項の規定に違反してなされたものであり,本件特許2?12,14?17は特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであって,同法第123条第1項第2号に該当する。
また,請求人の主張する理由及び証拠方法によっては,本件発明13,18,19に係る特許を,無効とすることはできない。
審判に関する費用については,特許法第169条第2項において準用する民事訴訟法第64条の規定により,その19分の3を請求人が,残りを被請求人が負担すべきものとする。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-08-20 
結審通知日 2012-08-22 
審決日 2012-09-06 
出願番号 特願平5-308751
審決分類 P 1 113・ 113- ZE (E03D)
P 1 113・ 121- ZE (E03D)
P 1 113・ 841- ZE (E03D)
最終処分 一部成立  
前審関与審査官 河本 明彦  
特許庁審判長 鈴野 幹夫
特許庁審判官 中川 真一
高橋 三成
登録日 2004-04-09 
登録番号 特許第3542622号(P3542622)
発明の名称 ポンプ作動衛生器具及び便器設備  
代理人 大貫 進介  
代理人 木田 博  
代理人 伊東 忠重  
代理人 花田 吉秋  
代理人 伊東 忠彦  

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