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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 A61F
管理番号 1268957
審判番号 不服2012-11367  
総通号数 159 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-03-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2012-06-18 
確定日 2013-01-15 
事件の表示 特願2001-258621号「ゴーグル」拒絶査定不服審判事件〔平成15年3月4日出願公開、特開2003-62004号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 I.手続の経緯
本願は、平成13年8月28日の出願であって、平成22年10月27日付けで拒絶理由が通知され、これに対して平成22年12月24日付けで意見書が提出されるとともに、同日付けで手続補正がなされ、平成23年6月7日付けで拒絶理由が通知され、これに対して平成23年8月5日付けで意見書が提出されるとともに、同日付けで手続補正がなされ、平成24年3月14日付けで平成23年8月5日付けの手続補正についての却下の決定がなされるとともに、同日付けで拒絶査定がなされたところ、同査定を不服として平成24年6月18日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに、同日付けで手続補正がなされたものである。

II.平成24年6月18日付けの手続補正の適否
1.補正の内容
平成24年6月18日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)は、平成23年8月5日付けの手続補正が却下されたので、平成22年12月24日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲、すなわち、
「【請求項1】
ゴーグル本体(1)とヘッドバンド(2)とからなり、ゴーグル本体(1)の両端にヘッドバンド(2)の両端をそれぞれ連結部材(3)を介して連結したものとしており、ゴーグル本体(1)の端部にゴーグルの上下側に開口する嵌合口(5a、5b)と、これら嵌合口(5a、5b)に連通するようにして端面側に開口する挿脱口(6a)を有する挿脱路(6)を設けたものとし、さらに連結部材(3)の端部に前記嵌合口(5a、5b)に嵌まり込んでゴーグルの上下側に突出する突起部(8a、9a)を有した弾性挿脱片(8、9)を設けたゴーグルであって、前記嵌合口(5a、5b)を、ゴーグル本体(1)の端部に形成した窪み部(7a、7b)に設けたものとしたことを特徴とするゴーグル。
【請求項2】
前記弾性挿脱片(8、9)の突起部(8a、9a)が、前記嵌合口(5a、5b)に嵌まり込んで上下側に突出しても、ゴーグル本体(1)の両端部の輪郭から大きく食み出すことのないものとしたことを特徴とする請求項1記載のゴーグル。
【請求項3】
前記挿脱路(6)に、連結部材(3)の挿脱方向に形成した案内溝(6b)を有したものとすると共に、連結部材(3)の端部に、前記弾性挿脱片(8、9)の間に位置させた案内片(10)を突設したものとし、この案内片(10)に、前記案内溝(6b)に入り込んで案内される突条(10a)を設けたものとしたことを特徴とする請求項1記載のゴーグル。」
を、本件補正後の特許請求の範囲、すなわち、
「【請求項1】
ゴーグル本体(1)とヘッドバンド(2)とからなり、ゴーグル本体(1)の両端にヘッドバンド(2)の両端をそれぞれ連結部材(3)を介して連結したものとしており、ゴーグル本体(1)の端部にゴーグルの上下側に開口する嵌合口(5a、5b)と、これら嵌合口(5a、5b)に連通するようにしてゴーグルの端面側に開口する挿脱口(6a)を有する挿脱路(6)を設けたものとし、さらに連結部材(3)の端部に前記嵌合口(5a、5b)に嵌まり込んでゴーグルの上下側に突出する突起部(8a、9a)を有した弾性挿脱片(8、9)を設けたゴーグルであって、前記嵌合口(5a、5b)を、ゴーグル本体(1)の端部に形成した窪み部(7a、7b)に設けたものとし、前記弾性挿脱片(8、9)の突起部(8a、9a)が、前記嵌合口(5a、5b)に嵌まり込んで上下側に突出しても、ゴーグル本体(1)の両端部の輪郭から大きく食み出すことがなく、引っ掛かりがないものとしたことを特徴とするゴーグル。
【請求項2】
前記挿脱路(6)に、連結部材(3)の挿脱方向に形成した案内溝(6b)を有したものとすると共に、連結部材(3)の端部に、前記弾性挿脱片(8、9)の間に位置させた案内片(10)を突設したものとし、この案内片(10)に、前記案内溝(6b)に入り込んで案内される突条(10a)を設けたものとしたことを特徴とする請求項1記載のゴーグル。」(審決注:下線部は補正箇所)
に補正するとともに、該特許請求の範囲の補正に整合するように明細書の記載を補正するものである。

2.補正の適否
本件補正は、平成22年12月24日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1を削除し、該特許請求の範囲の請求項2,3を新たな請求項1,2とするとともに、該補正に整合するように明細書の記載を補正するものであるから、請求項の削除及び明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当する。
さらに、本件補正は、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてするものである。
よって、本件補正は、平成14年法律第24号改正附則第2条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第3項及び第4項に規定する要件を満たしており、適法になされたものであるから、本件補正を認める。

III.本願発明
上記のとおり、本件補正は認められるから、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、本件補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された、以下のとおりのものである。
「ゴーグル本体(1)とヘッドバンド(2)とからなり、ゴーグル本体(1)の両端にヘッドバンド(2)の両端をそれぞれ連結部材(3)を介して連結したものとしており、ゴーグル本体(1)の端部にゴーグルの上下側に開口する嵌合口(5a、5b)と、これら嵌合口(5a、5b)に連通するようにしてゴーグルの端面側に開口する挿脱口(6a)を有する挿脱路(6)を設けたものとし、さらに連結部材(3)の端部に前記嵌合口(5a、5b)に嵌まり込んでゴーグルの上下側に突出する突起部(8a、9a)を有した弾性挿脱片(8、9)を設けたゴーグルであって、前記嵌合口(5a、5b)を、ゴーグル本体(1)の端部に形成した窪み部(7a、7b)に設けたものとし、前記弾性挿脱片(8、9)の突起部(8a、9a)が、前記嵌合口(5a、5b)に嵌まり込んで上下側に突出しても、ゴーグル本体(1)の両端部の輪郭から大きく食み出すことがなく、引っ掛かりがないものとしたことを特徴とするゴーグル。」

VI.引用文献の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用され、本願の出願前に頒布された刊行物である特開平8-108888号公報(以下、「引用文献」という。)には、図面と共に次の事項が記載されている。
ア:「【請求項1】 前部(14)と第1および第2側部(16、18)とを含み、少なくとも1つのレンズ(20)を内包するフレーム(12)と;前記フレームに固定され、前記フレームと使用者の顔との間に水密シールを得るように構成配置されるフレキシブルスカート(24)と;速開放バックル(28)の第1および第2結合部(30、32)の1つを有する前記側部の少なくとも1つと;第1および第2端部を有するマスクストラップ(40)であって、前記端部の少なくとも1つが前記ストラップを前記フレームに開放可能に締め付けできる結合を行うため前記第1および第2結合部の他方に係合されるマスクストラップと、を有することを特徴とする潜水マスク。」(【特許請求の範囲】)

イ:「【産業上の利用分野】本発明は、シュノーケル、スキンダイビングやスキューバダイビングに使用される潜水マスクに関し、特に、マスクストラップがマスクフレームから迅速に開放取りはずしできる潜水マスクに関する。」(【0001】)

ウ:「本発明のさらに他の目的は、マスクストラップをマスクフレームから迅速に取りはずし又は開放させる、マスクストラップ結合機構付き潜水マスクを提供することにある。」(【0010】)

エ:「【作用】さらに詳しく言えば、本潜水マスクは、前部と第1および第2側部とを有するフレームを含み、少なくとも1つのレンズを内包する。フレキシブルスカートはフレームに固定され、フレームと使用者の顔との間に水密シールが得られるように構成配置される。側部の少なくとも1つは速開放バックルの第1および第2結合部の1つを有する。また、第1および第2端部を有するマスクストラップを含み、それらの少なくとも1端は第1および第2結合部の他方と係合してフレームへのストラップの着脱自在で締め付け可能な結合を行う。本発明の主たる特徴は、マスクストラップはその長さがマスクフレームへの取り付けとは別個に調節できることである。本発明の他の特徴は、マスクストラップアタッチメント部、速開放バックルの先鋭または雄部、およびタブ形ストラップ開放装置が、適当なプラスチック材により成形される単一片として設けられる。」(【0012】)

オ:「【実施例】以下、この発明の好ましい実施例を例示として、図面を参照して説明する。まず、図1-4において、本潜水マスクは総括的に10で示され、それぞれ前部14と第1および第2側部16、18とを含むフレーム12を含む。少なくとも前部14はレンズ20を内包し、第1および第2側部16、18の少なくとも1つは相対的に小さいレンズ22を内包してダイバーの周囲水中視界を向上させる。好ましい実施例において、フレーム12の側部16、18は、(図3と4に明示するように)上または下から見て大体U-形状を形成するためフレームの長手方向軸線にほぼ直角に後方に延出している。」(【0013】)

カ:「次ぎに、第1および第2側部16、18の各々についてさらに詳細に説明する。下記の説明を簡素化するため、これら2つの側部を特記なきかぎり、同一のものと考える。好ましい実施例において、各側部は、総括的に28で表す速開放バックルの半分を備え、バックルは、それぞれ雌雄バックル部であることを特徴とする、それぞれ第1および第2結合部30、32より構成される。
つぎに、図1-8を参照すると、第1結合部30は、第1端に第2結合部32に係合する先鋭部34と、マスクストラップ40の端部38を保持する先鋭部の反対側にストラップ保持部36を含む。先鋭部34に、軸方向に延長する案内アーム44のどちらかの側に大体等間隔関係に配設される1対の弾性ラッチアーム42が含まれる。ラッチアーム42は固有バイアス力を有し、案内アーム44の方向に一体に絞られてから開放されると、アームは元にまたは図5と7に示す静止位置へ戻る。このバイアス力により第1結合部30と第2結合部32の締め付け係合とともに解放性を容易にする。
各ラッチアームの端部は傾斜先端48を有する締め付けローブ46に形成される。傾斜先端の反対側に、締め付けローブ46は保持肩部49を画成する。各ラッチアームの先端48と案内アーム44の端部は一般に、共通横軸線に沿って終端する。
ラッチアーム42と案内アーム44の反対側の端部は第1結合部30の大体凹縁50に固定される。凹縁50の後ろでラッチアーム42と案内アーム44の反対側にストラップ保持ラッチ部36が位置している。大体横軸柱52は軸柱支持部54の孔53により各端部で回転可能に支持される。一対の軸柱支持部はラッチアーム42と案内アーム44にたいし大体オフセット平行関係に延長する(図5に明示)。軸柱支持部54は好ましくは、結合部30に一体成形される。」(【0015】?【0018】)

キ:「つぎに、図1、2および9を参照すると、速開放バックル28も、上記第1結合部30を着脱自在で開放可能に収容するように構成される、第2結合部32を含む。従って、第2結合部は、互いに横方向に間隔をおいて位置する1対のラッチアーム受け器70(図9に明示)を画成し、案内アーム受け器72により分離されるハウジング68を含む。案内アーム受け器は、好ましくはハウジング68と一体に形成される1対の大体平行でほぼ垂直に突出する分割壁74により画成される。
第2結合部32の重要な特徴は、各々対応のラッチアーム42につけられる、締め付けローブ46の対応の1つに接近する少なくとも1つ好ましくは2つの開放開口76(図2に明示)を設けたことである。各開放開口76は、ダイバーの指がふれやすくなっており、それによって、締め付けローブ46を案内アーム44に押し下げられ、従って、ラッチアームのバイアス力に打ち勝ち、第1結合部30を第2結合32から開放することができる寸法になっている。なお、好ましい実施例においては、第2結合部32はマスクフレーム12の第1および第2側部16、18に固定一体形成されているが、結合部32、とくにハウジング68は対応マスクフレーム側部に枢着されても良い。また、第1結合部30の先鋭部34と第2結合部32との相対配向は、第2結合部をストラップ保持部36に固定し、先鋭部34をフレーム12の第1および第2側部16、18に固定して、逆にできる。」(【0022】?【0023】)

ク:「マスクストラップ40をマスクフレーム12に再度つけるには、ダイバーは、先鋭部34を第2結合部32に挿入してラッチアーム42と案内アーム44を対応の受け器70、72に整列させるだけでよい。ついで、第1結合部を、締め付けローブが開放開口76に嵌着するまで、第2結合部ハウジング68の方に軸方向に押圧させる。ローブの嵌着作用は、それらの固有のバイアス力と、また開放開口に達する前に内向き圧力を締め付けローブに加えるため幾分狭くしたハウジングの外形による。ついで、保持用肩49は開放開口に係合して第1と第2結合部の不要な軸方向脱結合を阻止する。」(【0028】)

ケ:図1,3,4には、マスクフレーム12の両端にマスクストラップ40の両端をそれぞれ第1結合部30を介して連結した態様が示されている。

コ:図1?4、特に図1,2には、マスクフレーム12の両端部を構成する第2結合部ハウジング68の上下側外縁部に形成した凹部に、潜水マスク10の上下側に開口する開放開口76を設けるとともに、第1結合部30の先鋭部34が、開放開口76から潜水マスク10の上下側に突出しても、マスクフレーム12の両端部を構成する第2結合部ハウジング68の上下側外縁部に形成した前記凹部の両肩部を結ぶ輪郭内にとどまる態様が示されている。

サ:図5?7には、第1結合部30の先鋭部34が、その端部に外側に凸状の保持用肩49を備えた一対の弾性ラッチアーム42を有する態様が示されている。

シ:図9には、一対のラッチアーム受け器70が潜水マスク10の端面側に開口を有する態様が示されている。

a:上記ア?ウの記載及び上記ケから、引用文献1に記載された潜水マスク10は、マスクフレーム12とマスクストラップ40とからなり、マスクフレーム12の両端にマスクストラップ40の両端をそれぞれ第1結合部30を介して連結したものとしているといえる。

b:上記コから、aの潜水マスク10は、マスクフレーム12の端部に潜水マスク10の上下側に開口する開放開口76が設けられているといえる。

c:上記カの「第1結合部30は、第1端に第2結合部32に係合する先鋭部34・・・を含む。」との記載、上記キの「上記第1結合部30を着脱自在で開放可能に収容するように構成される、第2結合部32・・・第2結合部は、互いに横方向に間隔をおいて位置する1対のラッチアーム受け器70(図9に明示)を画成し、・・・ハウジング68を含む。」との記載及び上記クの「マスクストラップ40をマスクフレーム12に再度つけるには、ダイバーは、先鋭部34を第2結合部32に挿入してラッチアーム42と案内アーム44を対応の受け器70、72に整列させるだけでよい。ついで、第1結合部を、締め付けローブが開放開口76に嵌着するまで、第2結合部ハウジング68の方に軸方向に押圧させる。」との記載からして、第1結合部30はその先鋭部34の一対の弾性ラッチアーム42を第2結合部32の一対のラッチアーム受け器70に挿脱するものといえる。
そうすると、上記シの一対のラッチアーム受け器70の態様、上記コの開放開口76の設置態様及び第1結合部30の先鋭部34の突出態様からして、aの潜水マスク10において、潜水マスク10の上下側に開口する開放開口76と一対のラッチアーム受け器70の開口とが連通していることは明らかであるとともに、aの潜水マスク10は、これら開放開口76に連通するようにして潜水マスク10の端面側に開口する挿脱口を有する一対のラッチアーム受け器70を設けたものといえる。

d:上記サの第1結合部30の先鋭部34の態様、上記カの「各ラッチアームの端部は傾斜先端48を有する締め付けローブ46に形成される。傾斜先端の反対側に、締め付けローブ46は保持肩部49を画成する。」との記載及び上記クの「第1結合部を、締め付けローブが開放開口76に嵌着するまで、第2結合部ハウジング68の方に軸方向に押圧させる。ローブの嵌着作用は、それらの固有のバイアス力と、また開放開口に達する前に内向き圧力を締め付けローブに加えるため幾分狭くしたハウジングの外形による。ついで、保持用肩49は開放開口に係合して第1と第2結合部の不要な軸方向脱結合を阻止する。」との記載からして、上記コにおいて潜水マスク10の上下側に開口する開放開口76から突出する第1結合部30の先鋭部34は、開放開口76に嵌着、係合する、一対の弾性ラッチアーム42の保持用肩49であることは明らかであって、該保持用肩49は前記開放開口76に嵌まり込むといえる。
そうすると、上記サの第1結合部30の先鋭部34の態様、上記コの開放開口76の設置態様及び第1結合部30の先鋭部34の突出態様からして、aの潜水マスク10は、第1結合部30の端部に、前記開放開口76に嵌まり込んで潜水マスク10の上下側に突出する保持用肩49を有した一対の弾性ラッチアーム42を設けたものといえる。
さらに、aの潜水マスク10は、前記開放開口76を、マスクフレーム12の両端部を構成する第2結合部ハウジング68の上下側外縁部に形成した凹部に設けたものとし、前記一対の弾性ラッチアーム42の保持用肩49が、前記開放開口76に嵌まり込んで上下側に突出しても、マスクフレーム12の両端部を構成する第2結合部ハウジング68の上下側外縁部に形成した前記凹部の両肩部を結ぶ輪郭内にとどまるといえる。

これら記載事項及び図示内容を総合すると、引用文献には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。
「マスクフレーム12とマスクストラップ40とからなり、マスクフレーム12の両端にマスクストラップ40の両端をそれぞれ第1結合部30を介して連結したものとしており、マスクフレーム12の端部に潜水マスク10の上下側に開口する開放開口76と、これら開放開口76に連通するようにして潜水マスク10の端面側に開口する挿脱口を有する一対のラッチアーム受け器70を設けたものとし、さらに第1結合部30の端部に前記開放開口76に嵌まり込んで潜水マスク10の上下側に突出する保持用肩49を有した一対の弾性ラッチアーム42を設けた潜水マスク10であって、前記開放開口76を、マスクフレーム12の両端部を構成する第2結合部ハウジング68の上下側外縁部に形成した凹部に設けたものとし、前記一対の弾性ラッチアーム42の保持用肩49が、前記開放開口76に嵌まり込んで上下側に突出しても、マスクフレーム12の両端部を構成する第2結合部ハウジング68の上下側外縁部に形成した前記凹部の両肩部を結ぶ輪郭内にとどまる潜水マスク10。」

V.対比
本願発明と引用発明とを対比する。

1.本願明細書には、本願発明に係る「ゴーグル」について、「【発明の属する技術分野】この発明は、水泳、スキー、その他のスポーツ等に使用することのできるゴーグルに関するものである。」(【0001】)と記載され、「図に示すこの発明のゴーグルは、水泳用のものとしており、アイカップと称される目を水から保護するゴーグル本体1と、頭部に装着するようにしたヘッドバンド2とからなり、ゴーグル本体1の両端にヘッドバンド2の両端をそれぞれ連結部材3を介して連結したものとしている。」(【0013】)と記載されていることからして、本願発明に係る「ゴーグル」は、水泳用のものを含むといえるから、引用発明の「潜水マスク」は本願発明の「ゴーグル」に相当する。

引用発明の「マスクフレーム12」は本願発明の「ゴーグル本体(1)」に相当し、以下同様に、「マスクストラップ40」は「ヘッドバンド(2)」に、「第1結合部30」は「連結部材(3)」に、「開放開口76」は「嵌合口(5a、5b)」に、「一対のラッチアーム受け器70」は「挿脱路(6)」に、「保持用肩49」は「突起部(8a、9a)」に、「一対の弾性ラッチアーム42」は「弾性挿脱片(8、9)」に、「マスクフレーム12の両端部を構成する第2結合部ハウジング68」は「ゴーグル本体(1)の端部」に、それぞれ相当する。

2.本願発明に係る「ゴーグル本体(1)の端部に形成した窪み部(7a、7b)」について検討する。
(1)特許請求の範囲の請求項1の記載においては、「窪み部」に関し、「ゴーグル本体(1)の端部に形成した窪み部(7a、7b)」と規定されているものの、「窪み部」自体については格別規定されていない。
日本語の通常の語義において、「窪み」が「くぼむこと。くぼんだ所。へこみ。」を意味し、「窪む」が「一部分が落ち込んで低くなる。へこむ。」ことを意味する(広辞苑第6版)から、本願発明に係る「窪み部」は、その語義からして「一部分が落ち込んで低くなった部分」を意味すると解釈される。
そうすると、本願発明に係る「ゴーグル本体(1)の端部に形成した窪み部(7a、7b)」は、請求項1の記載及び日本語の通常の語義からして、「ゴーグル本体(1)の端部に形成した一部分が落ち込んで低くなった部分」を意味すると解釈される。
また、発明の詳細な説明には、「窪み部」及び「ゴーグル本体(1)の端部に形成した窪み部(7a、7b)」に関し、「この発明のゴーグルは、前記嵌合口5a、5bを、ゴーグル本体1の端部に形成した窪み部7a、7bに設けたものとしている。」(【0010】)、「前記嵌合口5a、5bは、図示したようにゴーグル本体1の両端部にそれぞれ形成した窪み部7a、7bに設けたものとしている。」(【0015】)、「弾性挿脱片8、9の突起部8a、9aは、嵌合口5a、5bがゴーグル本体1の両端部の窪み部7a、7bに設けられている場合には、嵌合口5a、5bに嵌まり込んで上下側に突出しても、ゴーグル本体1の両端部の輪郭から大きく食み出すことなく、引っ掛かりがなくすっきりしたものとなる。」(【0017】)との記載が確認される程度であって、「窪み部」自体や「ゴーグル本体(1)の端部に形成した窪み部(7a、7b)」を定義する記載は見当たらず、本願発明に係る「ゴーグル本体(1)の端部に形成した窪み部(7a、7b)」が「ゴーグル本体(1)の端部に形成した一部分が落ち込んで低くなった部分」を意味するとの解釈は、上記記載を含む発明の詳細な説明の記載と整合するものである。
さらに、本願発明に係る「ゴーグル本体(1)の端部に形成した窪み部(7a、7b)」についての上記解釈は、図1?9に記載された、嵌合口5a、5bがゴーグル本体1の端部に形成した窪み部7a、7bに設けられている態様と整合するものである。

(2)請求人は、「本願の請求項1に係る発明では、審判請求書にも記載したように、「嵌合口(5a、5b)を、ゴーグル本体(1)の端部に形成した窪み部(7a、7b)に設けたものとし」たことにより、「窪み部(7a、7b)」の上下前後側面(審判請求書の〔添付図1〕?〔添付図3〕の符号(Ou)、(Od)、(Pu)、(Pd)、(Qu)、(Qd))によって、ゴーグル本体(1)の端部が強化されることになる。
これに対し、引用文献1・・・に記載された発明の「嵌合口(開放開口)76」・・・は、いずれも本願の請求項1に係る発明の「窪み部(7a、7b)」を形成することなく、「ハウジング68」・・・の上面と側面を直接切り欠いて形成しているため、引用文献1・・・に記載された発明では、本願の請求項1に係る発明の「窪み部(7a、7b)」に相当するものが存在せず、ゴーグル本体(バックル本体)の端部は強度が低下したものとなっている。」(回答書【回答の内容】(2)の項)と主張する。
しかしながら、「窪み部」が「一部分が落ち込んで低くなった部分」を意味すると解釈され、本願発明に係る「ゴーグル本体(1)の端部に形成した窪み部(7a、7b)」が「ゴーグル本体(1)の端部に形成した一部分が落ち込んで低くなった部分」を意味すると解釈されることは上記のとおりであって、「上下前後側面」を有するか否かは「一部分が落ち込んで低くなった部分」といえるか否かを左右するものではなく、しかも、本願明細書及び図面の記載を検討しても、請求人が主張するように、本願発明に係る「嵌合口(5a、5b)」を設けた「窪み部」を「上下前後側面」を有するものに限定して解すべき根拠も見出せない。
したがって、請求人の上記主張は採用することができない。

(3)以上によれば、本願の特許請求の範囲の請求項1の記載、発明の詳細名説明の記載、図面の記載及び通常の日本語の語義からして、本願発明に係る「ゴーグル本体(1)の端部に形成した窪み部(7a、7b)」は「ゴーグル本体(1)の端部に形成した一部分が落ち込んで低くなった部分」を意味するといえるから、引用発明の「マスクフレーム12の両端部を構成する第2結合部ハウジング68の上下側外縁部に形成した凹部」は本願発明の「ゴーグル本体(1)の端部に形成した窪み部(7a、7b)」に相当する。

3.本願明細書には、本願発明に係る「前記弾性挿脱片(8、9)の突起部(8a、9a)が、前記嵌合口(5a、5b)に嵌まり込んで上下側に突出しても、ゴーグル本体(1)の両端部の輪郭から大きく食み出すことがなく、引っ掛かりがないものとしたこと」に関し、「弾性挿脱片8、9の突起部8a、9aは、嵌合口5a、5bがゴーグル本体1の両端部の窪み部7a、7bに設けられている場合には、嵌合口5a、5bに嵌まり込んで上下側に突出しても、ゴーグル本体1の両端部の輪郭から大きく食み出すことなく、引っ掛かりがなくすっきりしたものとなる。」(【0017】)、「【発明の効果】この発明のゴーグルは、以上に述べたように構成されており、ゴーグル本体と連結部材を分離する際に、親指一本ではなく親指と人差指の二本の指で操作できるので、その操作がし易く、確実な操作ができるようになり、またゴーグル本体と連結部材を確実な状態に連結し、しかも使用中に正面側から外力がかかっても、ゴーグル本体と連結部材との連結が外れてしまうことがないものとなった。」(【0020】)との記載が確認されるものの、弾性挿脱片8、9の突起部8a、9aが、嵌合口5a、5bから具体的にどの限度で突出するのであれば、ゴーグル本体1の両端部の輪郭から大きく食み出すことなく、引っ掛かりがないものとなるか記載されてない。
また、図1?9にも、弾性挿脱片8、9の突起部8a、9aが、ゴーグル本体1の両端部の窪み部7a、7bの両肩部を結ぶ輪郭内にとどまる程度、嵌合口5a、5bから突出している態様が示されているにすぎない。
他方、引用発明に係る「前記一対の弾性ラッチアーム42の保持用肩49が、前記開放開口76に嵌まり込んで上下側に突出しても、マスクフレーム12の両端部を構成する第2結合部ハウジング68の上下側外縁部に形成した前記凹部の両肩部を結ぶ輪郭内にとどまる」態様も、一対の弾性ラッチアーム42の保持用肩49が凹部内に引っ込んで位置することになるから、本願発明と同様に、より引っ掛かりがなくすっきりしたものとなることは明らかであって、該態様における一対の弾性ラッチアーム42の保持用肩49がマスクフレーム12の両端部の輪郭から大きく食み出していると解すべき根拠は見出せない。
そうすると、引用発明の「前記一対の弾性ラッチアーム42の保持用肩49が、前記開放開口76に嵌まり込んで上下側に突出しても、マスクフレーム12の両端部を構成する第2結合部ハウジング68の上下側に形成された前記凹部の両肩部を結ぶ輪郭内にとどまる」ことは、本願発明の「前記弾性挿脱片(8、9)の突起部(8a、9a)が、前記嵌合口(5a、5b)に嵌まり込んで上下側に突出しても、ゴーグル本体(1)の両端部の輪郭から大きく食み出すことがなく、引っ掛かりがないものとしたこと」に相当する。

4.以上によれば、本願発明と引用発明とは、
「ゴーグル本体(1)とヘッドバンド(2)とからなり、ゴーグル本体(1)の両端にヘッドバンド(2)の両端をそれぞれ連結部材(3)を介して連結したものとしており、ゴーグル本体(1)の端部にゴーグルの上下側に開口する嵌合口(5a、5b)と、これら嵌合口(5a、5b)に連通するようにしてゴーグルの端面側に開口する挿脱口(6a)を有する挿脱路(6)を設けたものとし、さらに連結部材(3)の端部に前記嵌合口(5a、5b)に嵌まり込んでゴーグルの上下側に突出する突起部(8a、9a)を有した弾性挿脱片(8、9)を設けたゴーグルであって、前記嵌合口(5a、5b)を、ゴーグル本体(1)の端部に形成した窪み部(7a、7b)に設けたものとし、前記弾性挿脱片(8、9)の突起部(8a、9a)が、前記嵌合口(5a、5b)に嵌まり込んで上下側に突出しても、ゴーグル本体(1)の両端部の輪郭から大きく食み出すことがなく、引っ掛かりがないものとしたするゴーグル。」
である点で一致し、両者の間に相違点はない。

V.判断
1.したがって、本願発明は、引用文献に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。

2.念のために、請求人が主張するように、本願発明に係る「嵌合口(5a、5b)」を設けた「窪み部(7a、7b)」が「上下前後側面」を有するものであるとして、本願発明の進歩性について検討する。
開放開口76及び該開放開口76に嵌り込む一対の弾性ラッチアーム42の保持用肩49をどの程度の大きさとするかは、開放開口76を設ける第2結合部ハウジング68及び保持用肩49を備える弾性ラッチアーム42に要求される強度とこれらの部材の材質に応じて適宜決定される程度の事項にすぎないといえる。
そうすると、引用発明において、開放開口76の大きさを、開放開口76を第2結合部ハウジング68の凹部に形成しても「上下前後側面」が存在する程度に小さなものとすることは、当業者が容易に想到し得る程度の事項である。
そして、本願発明の効果は引用発明から当業者が予測し得る範囲内のものであって、格別顕著なものとはいえない。
したがって、仮に、本願発明に係る「嵌合口(5a、5b)」を設けた「窪み部(7a、7b)」が、請求人が主張するように、「上下前後側面」を有するものであるとしても、本願発明は、引用文献に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
なお、請求人は、引用発明の「開放開口76」が「ハウジング68」の上面と側面を直接切り欠いて形成したものである旨主張するが、引用文献には、「開放開口76」が「ハウジング68」の上面と側面を直接切り欠いて形成することを前提としたものである旨の記載は見当たらず、請求人の上記主張は上記容易想到性の判断を否定する程のものとはいえない。

VI.むすび
以上のとおり、本願発明は、引用文献に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
仮に、請求人が主張するように、本願発明に係る「嵌合口(5a、5b)」を設けた「窪み部(7a、7b)」が「上下前後側面」を有するものであるとしても、本願発明は、引用文献に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-11-20 
結審通知日 2012-11-21 
審決日 2012-12-04 
出願番号 特願2001-258621(P2001-258621)
審決分類 P 1 8・ 113- Z (A61F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 胡谷 佳津志  
特許庁審判長 横林 秀治郎
特許庁審判官 松下 聡
蓮井 雅之
発明の名称 ゴーグル  
代理人 辻本 一義  

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