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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G01K |
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管理番号 | 1268972 |
審判番号 | 不服2011-12201 |
総通号数 | 159 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2013-03-29 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2011-06-08 |
確定日 | 2013-01-17 |
事件の表示 | 特願2004-380612「可逆性温度管理インジケータ」拒絶査定不服審判事件〔平成18年7月13日出願公開、特開2006-184228〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 この審判事件に関する出願(以下、「本願」という。)は、平成16年12月28日にされた特許出願である。そして、平成23年2月16日付け手続補正書により明細書及び特許請求の範囲についての補正がされ、同年3月2日付けで拒絶査定がされ、同年同月8日に査定の謄本が送達された。これに対して、同年6月8日に拒絶査定不服審判が請求され、同時に明細書及び特許請求の範囲についての補正がされた。 その後、平成24年8月20日付けで当審により拒絶の理由が通知された。この拒絶理由通知は、特許法第17条の2第1項第3号に規定する最後の拒絶理由通知である。これに対して、同年10月19日付け手続補正書により明細書及び特許請求の範囲についての補正(以下、「本件補正」という。)がされるとともに、同日付け意見書が提出された。 第2 本件補正の却下の決定 1.結論 本件補正を却下する。 2.理由 (1)補正の内容 本件補正は、本件補正前の特許請求の範囲の請求項1を以下のように補正するものである。なお、下線は、当審が付したものであり、補正箇所を示す。 (本件補正前) 「【請求項1】 ビス(N,N-ジエチルエチレンジアミン)銅(II)過塩素酸塩、 ビス(N,N-ジエチルエチレンジアミン)銅(II)テトラフルオロホウ酸塩、 ビス(N,N-ジエチルエチレンジアミン)銅(II)硝酸塩、 テトラクロロ銅(II)酸ビス(N-メチルフェネチルアンモニウム)、 テトラクロロ銅(II)酸ビス(イソプロピルアンモニウム)、 テトラクロロ銅(II)酸ビス(ジエチルアンモニウム)、 (R_(x)NH_(4-x))_(2)CuCl_(4)(ただし、何れも、Rは炭素数1?100の直鎖・分岐鎖または環状のアルキル基またはアリル基で、xは1または2であり、xが1でRがイソプロピルのものと、xが2でRがエチルのものとを、除く) から選ばれる少なくとも何れかである水銀非含有金属錯化合物からなる示温剤を、有している可逆性温度管理インジケータであって、 前記示温剤を含み溶液となっているインジケータ組成物が、多孔質物質からなる基材の少なくとも一部に、吸着および/または吸収されていることによって、 前記示温剤が、その粉体をマイクロカプセル化または樹脂コーティングする前処理を施されていることによって、 前記示温剤が樹脂と混合され、フィルム状に加工されることによって、 または前記示温剤がカプセルに封入されていることによって、 前記水銀非含有金属錯化合物への安定化処理が施されつつ、 管理すべき温度よりも上昇及び降下するのに夫々応じた可逆的な色変化を示すことを特徴とする可逆性温度管理インジケータ。」 (本件補正後) 「【請求項1】 ビス(N,N-ジエチルエチレンジアミン)銅(II)過塩素酸塩、 ビス(N,N-ジエチルエチレンジアミン)銅(II)テトラフルオロホウ酸塩、 ビス(N,N-ジエチルエチレンジアミン)銅(II)硝酸塩、 テトラクロロ銅(II)酸ビス(N-メチルフェネチルアンモニウム)、 テトラクロロ銅(II)酸ビス(イソプロピルアンモニウム)、 テトラクロロ銅(II)酸ビス(ジエチルアンモニウム)、 (R_(x)NH_(4-x))_(2)CuCl_(4)(ただし、何れも、Rは炭素数1?100の直鎖・分岐鎖または環状のアルキル基またはアリル基で、xは1または2であり、xが1でRがイソプロピルのものと、xが2でRがエチルのものとを、除く) から選ばれる少なくとも何れかである粉体の水銀非含有金属錯化合物からなる示温剤を、形態が変化しない混入用の樹脂に混入されて、有している可逆性温度管理インジケータであって、 前記示温剤とバインダーとを含み溶液となっているインジケータ組成物が、多孔質物質からなる基材の少なくとも一部に、吸着および/または吸収され、粘着剤付きフィルムで貼り合わせる安定化処理によって、 前記示温剤が、その粉体をマイクロカプセル用樹脂でマイクロカプセル化する前処理を施される安定化処理によって、 前記示温剤が、その粉体を表面コーティング加工用樹脂で樹脂コーティングする前処理を施される安定化処理によって、 前記示温剤がフィルム状加工用樹脂と混合され、フィルム状に加工される安定化処理によって、 または前記示温剤が樹脂製またはガラス製のカプセルに密封されて封入されている安定化処理によって、 前記水銀非含有金属錯化合物への前記安定化処理が施されつつ、 管理すべき温度よりも上昇及び降下するのに夫々応じた可逆的な色変化を示すことを特徴とする可逆性温度管理インジケータ。」 本件補正前の請求項1に係る発明も、本件補正後の請求項1に係る発明(以下、「本件補正発明」という。)も、安定化処理に関する複数の選択肢を含んでいる。その複数の選択肢のうち、示温剤が、その粉末をマイクロカプセル化する前処理を施されていることによって、水銀非含有金属錯加工物への安定化処理が施されるものに着目すると、本件補正により、可逆性温度管理インジケータが示温剤を有する態様が「形態が変化しない混入用の樹脂に混入されて」に限定され、マイクロカプセル化が「マイクロカプセル用樹脂で」行われるものに限定された。したがって、本件補正は、いわゆる特許請求の範囲の限定的減縮を目的とするものに該当する。 そこで、本件補正発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるかについて以下に検討する。 なお、以下では、請求項1に記載された化合物を、その記載順に「化合物1」、「化合物2」などという。具体的には、以下のとおりである。 化合物1:ビス(N,N-ジエチルエチレンジアミン)銅(II)過塩 素酸塩 化合物2:ビス(N,N-ジエチルエチレンジアミン)銅(II)テト ラフルオロホウ酸塩 化合物3:ビス(N,N-ジエチルエチレンジアミン)銅(II)硝酸 塩 化合物4:テトラクロロ銅(II)酸ビス(N-メチルフェネチルアン モニウム) 化合物5:テトラクロロ銅(II)酸ビス(イソプロピルアンモニウム ) 化合物6:テトラクロロ銅(II)酸ビス(ジエチルアンモニウム) 化合物7:(R_(x)NH_(4-x))_(2)CuCl_(4) (2)刊行物に記載された事項 以下に掲げる刊行物1から6までは、いずれも、本願の出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である。 刊行物1:特開平2-311142号公報 刊行物2:L. Fabbrizzi et al., "Continuous and Discontinuous Thermochromism of Copper(II) and Nickel(II) Complexes with N,N-Diethylethylenediamine", Inorganic Chemistry, 1974, Vol. 13, No. 12, pp. 3019-3021 刊行物3:R. L. Harlow et al., "Crystal Structures of the Green and Yellow Thermochromic Modifications of Bis(N-methylphenethylammonium) Tetrachlorocuprate(II). Discrete Square-Planar and Flattened Tetrahedral CuCl_(4)^(2-) Anions", Inorganic Chemistry, 1974, Vol. 13, No. 9, pp. 2106-2111 刊行物4:Darrel R. Bloomquist et al., "Thermochromism in Copper(II) Halide Salts. 2. Bis(isopropylammonium) Tetrachloro-cuprate(II)", J. Am. Chem. Soc., 1981, Vol. 103, No. 10, pp. 2610-2615 刊行物5:Darrell R. Bloomquist et al., "Thermochromism in Copper(II) Halide Salts. 4. [(C_(2)H_(5))_(2)NH_(2)]_(2)CuCl_(4), Structure of the High-Temperature Phase and Physical Characterization of Its Two Phases", J. Am. Chem. Soc., 1988, Vol. 110, No. 22, pp. 7391-7398 刊行物6:特開2002-98596号公報 ア.刊行物1 刊行物1には、以下の記載がある。 (ア)第1ページ左下欄第20行から右下欄第6行まで 「この発明は、電動機や発電機の如き回転機の温度警報表示方法に関し、より具体的にはこれらの回転機が連続運転された場合の表面の温度上昇の程度を、示温塗料や示温テープにより表示し警告することにより作業者などの火傷やこれらの回転機の過熱による損傷、火災発生などを防止する警報表示方法に関する。」 (イ)第1ページ右下欄第11行から第20行まで 「電動機や発電機の如き回転機は、それらの構成要素である固定子や回転子のコイルに電流が流れることにより作動するものであるが、電流が流れれば導線の電気抵抗により必ず熱が発生する。 また、回転子は軸受で支持されてはいるが、その高速回転での機械的摩擦による発熱に基ずく温度上昇は、回転子と共に回転するファンにより空冷放熱され、この放熱により一定の温度、通常は50℃ないし60℃の範囲で平衡状態に達するように設計されている。」 (ウ)第2ページ左下欄第7行から第3ページ左上欄第8行まで 「第2図は、現在も一般に使用されている電動機や発電機の概形図である。 第1図(A)は、第2図に示す電動機や発電機の如き回転機のファンカバー1、端子箱、フレーム5、およびフランジカバー7の外部表面の防錆用合成樹脂系ペイントの塗膜の上に、表面全体にわたり、示温塗料を塗布した状況P_(1)を示す。 示温塗料には、重金属の炭酸・アンモニウム塩などの顔料を示温成分とする分解型示温塗料、若しくは昇華性顔料を示温成分とする示温塗料のように、加熱によりもとの状態に戻らない不可逆性示温塗料と、一方、ヘキサメチレンテトラミン錯塩を示温成分とする結晶水逸脱型示温塗料、若しくは銀、水銀、銅などの重金属のハロゲン化錯塩等熱エネルギーによる分子変形をする顔料を示温成分とする結晶転移型示温塗料のように、加熱により変色する特性を有するとともに、冷却により元の色の状態に戻る可逆性示温塗料とがある。 電動機や発電機の如き回転機は、長期にわたり繰返し運転されるものであるから不可逆性示温塗料は適当でない。 可逆性示温塗料の中でも50℃ないし150℃の示温領域と有する結晶転移型示温塗料が電動機や発電機の如き回転機には適当である。 第1図(B)は、第2図に示す電動機や発電機の如き回転機のフレーム5の外部表面の防錆用合成樹脂系ペイントの塗膜の上に、ファンカバー1とフランジカバー7の間にわたり、軸と平行に一定の巾の面積2だけ示温塗料を塗布した状況P_(2)を示す。この場合、回転機の外部表面の一部についての塗布であるから、示温塗料に代えて示温テープ、又は示温クレヨンを使用することが簡便である。第1図(C)は、第2図に示す電動機や発電機の如き回転機のフレーム5の外部表面の防錆用合成樹脂系ペイントの塗膜の上に、一定の巾を有する鉢巻き状の面積4に示温塗料を塗布した状況P_(3)を示し、第1図(B)の場合と同じく示温テープ又は示温クレヨンを使用することができる。 本発明の使用目的に適当な示温塗料としては、例えば50?60℃の平衡点で色が遷移し、更に温度が上昇して70℃に達すると更に変色するようなものが好適である。」 (エ)第3ページ右上欄第1行から第11行まで 「電動機や発電機の如き回転機が始動されて回転数が増すに伴い、電気的・機械的発熱が生じ、内部の熱源から外部表面に熱伝達が行なわれ、外部表面の温度は上昇する。 発熱と放熱の平衡が得られる点までは温度が上昇し、通常この値は50℃ないし60℃である。 発熱と放熱の平衡が破れ、平衡点が発熱側に移動すれば回転機の外表面の温度は更に上昇する。 この回転機の外表面の温度の変化は、示温塗料の変色が表示するので、これを視認より読みとることができる。」 以上の記載を総合すると、刊行物1には、以下の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。 「銀、水銀、銅などの重金属のハロゲン化錯塩等熱エネルギーによる分子変形をして可逆的に変色する顔料を示温成分とする示温塗料の塗膜であって、 平衡状態にある回転機が示す設計上の温度で色が遷移する示温塗料の塗膜。」 イ.刊行物2から5まで (ア)刊行物2 刊行物2の第3019ページ左欄最終行から右欄第13行までには、以下の記載がある。原文の引用の後に、当審で作成した日本語訳を記載する。 「Some coordination compounds change color quite markedly with temperature. Such thermochromism is usually associated with temperature-dependent changes in the stereochemistry of the chromophore and depends on the nature of both the central metal ion and the ligand. The bidentate ligand N,N-Diethylethylenediamine (dieten, H_(2)NCH_(2)CH_(2)N(C_(2)H_(5))_(2)) forms the three copper complexes Cu(dieten)_(2)X_(2) (X = BF_(4), ClO_(4), NO_(3)) which change color reversibly from red to violet at higher temperatures.」 「いくつかの配位化合物は、温度に応じて色を全く著しく変える。そのような熱変色性は、通常、発色団の立体化学が温度に依存して変化することに関係しており、中心金属イオン及び配位子の双方の性質に依存している。 二座配位子N,N-ジエチルエチレンジアミン(dieten、 H_(2)NCH_(2)CH_(2)N(C_(2)H_(5))_(2))は、赤からより高い温度での紫へと可逆的に色を変える3つの銅錯体Cu(dieten)_(2)X_(2) (X = BF_(4), ClO_(4), NO_(3))を形成する。」 したがって、刊行物2には、「銅の錯塩Cu(dieten)_(2)X_(2) (X = BF_(4), ClO_(4), NO_(3))、すなわち、ビス(N,N-ジエチルエチレンジアミン)銅(II)のテトラフルオロホウ酸塩(化合物2)、過塩素酸塩(化合物1)、硝酸塩(化合物3)は、いずれも熱変色性を示す」という技術事項が記載されている。 (イ)刊行物3 刊行物3には、以下の記載がある。原文の引用の後に、当審で作成した日本語訳を記載する。 a.論文の題名 「Crystal Structures of the Green and Yellow Thermochromic Modifi- cations of Bis(N-methylphenethylammonium) Tetrachlorocuprate(II).」 「テトラクロロ銅(II)酸ビス(N-メチルフェネチルアンモニウム)の緑黄熱変色性変化の結晶構造」 b.第2106ページ左欄第8行から第11行まで 「... the product isolated was [(C_(6)H_(5))CH_(2)CH_(2)NH(CH_(3))H^(+)]_(2)[CuCl_(4)^(2-)], hereafter abbreviated (nmpH)_(2)CuCl_(4). This salt is thermochromic: green at 25°and yellow at 80°.」 「…単離された生成物は、[(C_(6)H_(5))CH_(2)CH_(2)NH(CH_(3))H^(+)]_(2)[CuCl_(4)^(2-)](以下、 「(nmpH)_(2)CuCl_(4)」という。)だった。この塩は、熱変色性を示し、25°で緑色、80°で黄色である。」 したがって、刊行物3には、「(nmpH)_(2)CuCl_(4)、すなわち、テトラクロロ銅(II)酸ビス(N-メチルフェネチルアンモニウム)(化合物4)は、熱変色性を示す」という技術事項が記載されている。 (ウ)刊行物4 刊行物4の第2610ページ要約欄第1行から第2行までには、以下の記載がある。原文の引用の後に、当審で作成した日本語訳を記載する。 「Bis(isopropylammonium) tetrachlorocuprate(II) is thermochromic, undergoing a first-order phase transition at T_(th) = 50℃, changing from green to yellow.」 「テトラクロロ銅(II)酸ビス(イソプロピルアンモニウム)は、熱変色性を示し、T_(th)=50℃で一次相転移して緑色から黄色に変わる。」 したがって、刊行物4には、「テトラクロロ銅(II)酸ビス(イソプロピルアンモニウム)(化合物5)は、熱変色性を示す」という技術事項が記載されている。 (エ)刊行物5 刊行物5の第7391ページ右欄第1行から第6行までには、以下の記載がある。原文の引用の後に、当審で作成した日本語訳を記載する。 「Perhaps the most striking example of thermochromism among inorganic compounds is provided by the compound bis(diethylammonium) tetrachloro-cuprate(II) [abbreviated (DEA)_(2)CuCl_(4)]. At room temperature, (DEA)_(2)CuCl_(4) is bright green and changes discontinuously to bright yellow at the phase transition temperature.」 「ことによると、無機化合物における熱変色性の最も著しい例は、テトラクロロ銅(II)酸ビス(ジエチルアンモニウム)化合物(以下、「(DEA)_(2)CuCl_(4)」という。)によって提供されるかもしれない。室温では、(DEA)_(2)CuCl_(4)は鮮やかな緑色だが、相転移温度で鮮やかな黄色へと不連続に変わる。」 したがって、刊行物5には、「テトラクロロ銅(II)酸ビス(ジエチルアンモニウム)(化合物6)は、熱変色性を示す」という技術事項が記載されている。 ウ.刊行物6 刊行物6には、以下の記載がある。 (ア)段落0008 「【0008】 【発明が解決しようとする課題】本発明は、上述の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、体温変化を常時監視でき、かつ、皮膚に貼付可能な体温計であって、体温変化を俊敏に感知し、さらに、外気温の影響を受けにくい体温計を提供することにある。」 (イ)段落0013 「【0013】本発明に用いられる可逆性サーモトロピック材料とは、特定温度で可逆的に発色消色若しくは変色する材料である。例えば、無機系では金属錯塩等が、有機系では縮合芳香環置換エチレン誘導体、液晶、染料系組成物等が挙げられる。…(略)…」 (ウ)段落0017及び0018 「【0017】本発明では、上記可逆性サーモトロピック材料は、好ましくはマイクロカプセルに内包させて用いられる。マイクロカプセル化の方法については特に限定されるものではなく、従来マイクロカプセルの製造において慣用されている方法、例えば、界面重合法、in-situ法、コアセルベーション法、液中乾燥法などを用いることができる。 【0018】上記マイクロカプセル化された可逆性サーモトロピック材料の粒径は、特に限定されるものでなく、例えば、1?100μmの範囲で調製される。」 (エ)段落0023及び0024 「【0023】本発明の貼付式体温計の製造方法は、使用する粘着剤の種類により製法は異なるが、例えば、溶剤型アクリル系粘着剤を用いる場合、アクリル系粘着剤溶液に可逆性サーモトロピック材料を内包するマイクロカプセルを加え、攪拌分散させる。この溶液を溶剤塗工法により剥離紙上に塗工し、粘着剤層を形成させた後、支持体をラミネートして本発明の体温計を調製する。 【0024】上記粘着剤を支持体に塗工する場合には、バーコーダー、グラビア塗工等、通常の粘着剤塗工方法が用いられる。上記粘着剤層の厚みは、特に限定されないが、被着体の温度変化を俊敏に感知するため、通常は、20?500μmである。」 以上(ア)から(エ)までの記載を総合すると、刊行物6には、「特定温度で可逆的に変色する金属錯塩等の可逆性サーモトロピック材料をマイクロカプセルに内包し、樹脂溶液に加えて攪拌分散させて塗工液を調整する」という技術事項が記載されている。 (3)対比 本件補正発明は、安定化処理に関する複数の選択肢を含んでいるので、その複数の選択肢のうち、示温剤が、その粉体をマイクロカプセル用樹脂でマイクロカプセル化する前処理を施される安定化処理によって、水銀非含有金属錯化合物への安定化処理が施されるものに着目して、本件補正発明と引用発明とを比較すると、以下のとおりである。 引用発明の「示温成分」と本件補正発明の「示温剤」とは、温度によって色が可逆的に変わる示温剤である点で共通する。 引用発明の「示温塗料の塗膜」は、本願発明の「可逆性温度管理インジケータ」に相当する。 引用発明の「平衡状態にある回転機が示す設計上の温度」は、本願発明の「管理すべき温度」に相当し、したがって、引用発明の「平衡状態にある回転機が示す設計上の温度で色が遷移する」は、本願発明の「管理すべき温度よりも上昇及び下降するのに夫々応じた可逆的な色変化を示す」に相当する。 以上のことをまとめると、本件補正発明と引用発明とは、 「温度によって色が可逆的に変わる示温剤を有している可逆性温度管理インジケータであって、 管理すべき温度よりも上昇及び下降するのに夫々応じた可逆的な色変化を示す可逆性温度管理インジケータ。」 である点で一致し、以下の点で相違する。 (相違点1) 温度によって色が可逆的に変わる示温剤が、本件補正発明では、化合物1から7までの中から選ばれた水銀非含有金属錯化合物からなるのに対し、引用発明では、「銀、水銀、銅などの重金属のハロゲン化錯塩等熱エネルギーによる分子変形をして可逆的に変色する顔料を示温成分とする」とされているだけで、具体的な物質は特定されていない点。 (相違点2) 温度によって色が可逆的に変わる示温剤が、本件補正発明では、粉体であり、形態が変化しない混入用の樹脂に混入されており、しかも、その粉体をマイクロカプセル用樹脂でマイクロカプセル化する前処理が施されて安定化処理されているのに対し、引用発明では、そのような限定がされていない点。 (4)相違点についての判断 ア.相違点1について 物質が熱エネルギーによる分子変形をして可逆的に変色する性質は、熱変色性(サーモクロミズム)として一般に知られているから、引用発明の「銀、水銀、銅などの重金属のハロゲン化錯塩等熱エネルギーによる分子変形をして可逆的に変色する顔料」が、熱変色性を示す顔料のうち、銀、水銀、銅などの重金属のハロゲン化錯塩であるものを指していることは、明らかである。 一方、上記(2)イ.で述べたとおり、刊行物2から5までのそれぞれには、銅ハロゲン化錯塩である化合物1から6までのそれぞれが、いずれも熱変色性を示すことが記載されている。 そうすると、引用発明の「銀、水銀、銅などの重金属のハロゲン化錯塩等熱エネルギーによる分子変形をして可逆的に変色する顔料」に該当する具体的な物質として、銅ハロゲン化錯塩である化合物1から6までのいずれかを選択することは、当業者が容易に思い付くことである。 温度によって色が可逆的に変わる示温剤が「水銀非含有金属錯化合物」であることは、刊行物2から5までのそれぞれに記載された銅ハロゲン化錯塩を選択したことの単なる結果にすぎない。 イ.相違点2について 上記(2)ウ.で述べたとおり、刊行物6には、「特定温度で可逆的に変色する金属錯塩等の可逆性サーモトロピック材料をマイクロカプセルに内包し、樹脂溶液に加えて攪拌分散させて塗工液を調整する」という技術事項が記載されている。さらに、例えば特開平11-198272号公報(以下、「周知例1」という。)の段落0013及び0014には、可逆熱変色性組成物をマイクロカプセルに内包したものを、樹脂を含むビヒクル中に分散させてインキ、塗料などにすることが記載されているし、特開2002-310809号公報(以下、「周知例2」という。)の段落0035から0037まで及び0042にも、示温材料をカプセル化した上で、バインダー樹脂に分散させて塗料にすることが記載されている。 そうすると、示温剤をマイクロカプセル化した上で、樹脂に分散させて塗料にすることは、この出願の前に周知の技術である。 引用発明の示温塗料の具体的な作成方法として、示温剤をマイクロカプセル化した上で、樹脂に分散させるという方法を採用することは、周知技術の単なる適用にすぎない。マイクロカプセル化するという前処理を施された結果、示温剤が安定化処理されることは明らかであるし、樹脂に分散させて塗料にした結果、形態が変化しない混入用の樹脂(塗膜を形成する樹脂)に示温剤が混入されることも明らかである。 また、刊行物6(段落0017、上記(2)ウ.(ウ)参照)、周知例1(段落0013)、及び周知例2(段落0035から0037まで)に記載されているように、マイクロカプセル化の方法としては、例えばコアセルべーション法(相分離法)が周知である。これは、水溶液に分散された示温剤粒子(すなわち、示温剤の粉体)を、例えばゼラチン-ホルマリン樹脂で被覆してマイクロカプセル化する方法であるから、示温剤が粉体であることや、マイクロカプセル化がマイクロカプセル用樹脂で行われることは、マイクロカプセル化の具体的な方法を適宜選択したことの単なる結果にすぎない。 (5)請求人の主張について 請求人は、平成24年10月19日付け意見書の「2.拒絶理由に対する意見」の「(3)本願発明と刊行物の発明との対比」において、次のように主張している。 「刊行物1?5の発明に、刊行物6の可逆性サーモトロピック材料をマイクロカプセルに内包し溶剤型アクリル系粘着剤に加えて塗工し粘着剤層を形成するという溶剤型塗工液から粘着剤層へ形態が変化して形成される貼付式体温計を転用したとしても、請求項1のように形態が変化しない混入用の樹脂に混入されて、さらに安定化処理されて、二重乃至三重に保護され形成される可逆性温度管理インジケータを当業者が、容易に想到できない。」 請求人の主張は、刊行物6に記載された貼付式体温計においては、溶剤型塗工液が粘着剤層に変化しており、これが「形態の変化」に当たるというものである。しかし、本願の段落0019に「この樹脂は、示温剤と一緒に混合されることにより、水銀非含有金属錯化合物に対する外気からの湿度の影響を受け難くしている。樹脂は、金属錯化合物自体が溶融しても形態が変化しない物質でできたシート構造またはカプセル構造を有するものであってもよい。」と記載されていることからすると、本願発明における「形態の変化」は、可逆性温度管理インジケータを形成する際の形態の変化ではなく、完成された可逆性温度管理インジケータの形態の変化を意味している。これを引用発明に当てはめれば、「形態が変化しない」とは、塗料の塗布によって形成された塗膜が、その後も塗膜としての形態を保つという意味である。マイクロカプセル化した示温剤を樹脂に分散させて塗料を塗布して塗膜を形成すれば、その後も塗膜としての形態を保つことは、塗料本来の性質からして明らかである。 請求人の主張は、採用することができない。 (6)むすび 以上に検討したとおり、本件補正発明は、刊行物1に記載された発明(引用発明)、刊行物2から5までのそれぞれに記載された技術事項、及び周知技術に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができない。 したがって、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 第3 本願に係る発明についての判断 1.本願に係る発明 本件補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、本件補正前の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項によって特定される。具体的には、以下のとおりである。 「【請求項1】 ビス(N,N-ジエチルエチレンジアミン)銅(II)過塩素酸塩、 ビス(N,N-ジエチルエチレンジアミン)銅(II)テトラフルオロホウ酸塩、 ビス(N,N-ジエチルエチレンジアミン)銅(II)硝酸塩、 テトラクロロ銅(II)酸ビス(N-メチルフェネチルアンモニウム)、 テトラクロロ銅(II)酸ビス(イソプロピルアンモニウム)、 テトラクロロ銅(II)酸ビス(ジエチルアンモニウム)、 (R_(x)NH_(4-x))_(2)CuCl_(4)(ただし、何れも、Rは炭素数1?100の直鎖・分岐鎖または環状のアルキル基またはアリル基で、xは1または2であり、xが1でRがイソプロピルのものと、xが2でRがエチルのものとを、除く) から選ばれる少なくとも何れかである水銀非含有金属錯化合物からなる示温剤を、有している可逆性温度管理インジケータであって、 前記示温剤を含み溶液となっているインジケータ組成物が、多孔質物質からなる基材の少なくとも一部に、吸着および/または吸収されていることによって、 前記示温剤が、その粉体をマイクロカプセル化または樹脂コーティングする前処理を施されていることによって、 前記示温剤が樹脂と混合され、フィルム状に加工されることによって、 または前記示温剤がカプセルに封入されていることによって、 前記水銀非含有金属錯化合物への安定化処理が施されつつ、 管理すべき温度よりも上昇及び降下するのに夫々応じた可逆的な色変化を示すことを特徴とする可逆性温度管理インジケータ。」 2.当審が通知した拒絶の理由 当審が平成24年8月20日付けで通知した拒絶の理由は、概略以下のとおりである。 「本願発明は、その出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物1から6までのそれぞれに記載された発明に基づき、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。」 なお、刊行物1から6までは、上記「第2」2.(2)に記載したとおりである。 3.刊行物に記載された事項 刊行物1に記載された発明(引用発明)及び刊行物2から6までのそれぞれに記載された技術事項は、上記「第2」2.(2)ア.からウ.までに記載したとおりである。 4.対比 本願発明は、安定化処理に関する複数の選択肢を含んでいるので、その複数の選択肢のうち、示温剤が、その粉体をマイクロカプセル化する前処理を施されていることによって、水銀非含有金属錯化合物への安定化処理が施されるものに着目して、本願発明と引用発明とを対比すると、両者は、 「温度によって色が可逆的に変わる示温剤を有している可逆性温度管理インジケータであって、 管理すべき温度よりも上昇及び下降するのに夫々応じた可逆的な色変化を示す可逆性温度管理インジケータ。」 である点で一致し、以下の点で相違する。 (相違点3) 温度によって色が可逆的に変わる示温剤が、本件補正発明では、化合物1から7までの中から選ばれた水銀非含有金属錯化合物からなるのに対し、引用発明では、「銀、水銀、銅などの重金属のハロゲン化錯塩等熱エネルギーによる分子変形をして可逆的に変色する顔料を示温成分とする」とされているだけで、具体的な物質は特定されていない点。 (相違点4) 温度によって色が可逆的に変わる示温剤が、本件補正発明では、その粉体をマイクロカプセル化する前処理が施されていることによって安定化処理が施されているのに対し、引用発明では、そのような限定がされていない点。 5.相違点についての判断 (1)相違点3について 相違点3は、相違点1と同じであるから、上記「第2」2.(4)ア.で述べたことがそのまま当てはまる。 すなわち、引用発明の「銀、水銀、銅などの重金属のハロゲン化錯塩等熱エネルギーによる分子変形をして可逆的に変色する顔料」に該当する具体的な物質として、刊行物2から5までのそれぞれに記載された銅ハロゲン化錯塩である化合物1から6までのいずれかを選択することは、当業者が容易に思い付くことである。 温度によって色が可逆的に変わる示温剤が「水銀非含有金属錯化合物」であることは、刊行物2から5までのそれぞれに記載された銅ハロゲン化錯塩を選択したことの単なる結果にすぎない。 (2)相違点4について 上記「第2」2.(2)ウ.で述べたとおり、刊行物6には、「特定温度で可逆的に変色する金属錯塩等の可逆性サーモトロピック材料をマイクロカプセルに内包し、樹脂溶液に加えて攪拌分散させて塗工液を調整する」という技術事項が記載されている。 引用発明と刊行物6に記載された技術事項とは、可逆的な熱変色性を示す金属錯塩を用いた塗液(塗料、塗工液)に関するものである点で共通しているから、引用発明に刊行物6に記載された技術事項を適用し、引用発明の示温剤をマイクロカプセル化して安定化処理することは、当業者が容易に思い付くことである。 また、刊行物6(段落0017、上記第22.(2)ウ.(ウ)参照)、周知例1(段落0013)、及び周知例2(段落0035から0037まで)に記載されているように、マイクロカプセル化の方法としては、例えばコアセルべーション法(相分離法)が周知である。これは、水溶液に分散された示温剤粒子(すなわち、示温剤の粉体)を、例えばゼラチン-ホルマリン樹脂で被覆してマイクロカプセル化する方法であるから、示温剤が粉体であることは、マイクロカプセル化の具体的な方法を適宜選択したことの単なる結果にすぎない。 6.むすび 以上に検討したとおり、本願発明は、刊行物1に記載された発明(引用発明)、刊行物2から6までのそれぞれに記載された技術事項、及び周知技術に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 したがって、他の請求項に係る発明について審理するまでもなく、本願は拒絶をすべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2012-11-13 |
結審通知日 | 2012-11-20 |
審決日 | 2012-12-03 |
出願番号 | 特願2004-380612(P2004-380612) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WZ
(G01K)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 古川 直樹 |
特許庁審判長 |
小林 紀史 |
特許庁審判官 |
森 雅之 飯野 茂 |
発明の名称 | 可逆性温度管理インジケータ |
代理人 | 小宮 良雄 |
代理人 | 大西 浩之 |