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審決分類 審判 訂正 2項進歩性 訂正しない F28F
審判 訂正 4項(134条6項)独立特許用件 訂正しない F28F
管理番号 1269116
審判番号 訂正2011-390131  
総通号数 159 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-03-29 
種別 訂正の審決 
審判請求日 2011-12-01 
確定日 2013-02-04 
事件の表示 特許第4240136号に関する訂正審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本件特許第4240136号の請求項1ないし3に係る発明についての出願は,平成19年7月11日(優先権主張平成18年7月11日)に特許出願され,平成21年1月9日にその発明についての特許権の設定登録がなされたものである。

以後の本件特許に係る手続の概要は以下のとおりである。
1.平成21年12月28日 無効審判請求(無効2010-800004)
2.平成22年11月 2日 審決(請求不成立)
3.平成22年11月30日 出訴(平成22年(行ケ)10371)
4.平成23年 7月21日 判決(審決取消)
5.平成23年 9月21日 審決(請求成立)
6.平成23年10月19日 出訴(平成23年(行ケ)10333)
7.平成23年12月 1日 本件審判請求(訂正2011-390131)
8.平成24年 1月26日 訂正拒絶理由
9.平成24年 2月20日 意見書

第2 請求の要旨及び訂正内容
本件審判請求は,特許第4240136号の明細書及び特許請求の範囲を,請求書に添付した訂正明細書及び特許請求の範囲(以下「訂正明細書等」という。)のとおりに訂正することを求めるものであり,その訂正の内容は次のとおりである。(下線は訂正箇所。)

1.訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1の
「エンジン(1)での燃焼により発生した粒子状物質を含有する排気ガスと前記排気ガスを冷却する冷却水との間で熱交換を行うとともに,熱交換後の前記排気ガスを前記エンジン(1)側へ流出する排気熱交換器において,」を,
「エンジン(1)での燃焼により発生した粒子状物質を含有する排気ガスと前記排気ガスを冷却する冷却水との間での熱交換を専ら行うとともに,熱交換後の前記排気ガスを前記エンジン(1)側へ流出する排気熱交換専用に用いる熱交換器において,」に訂正する。
2.訂正事項2
特許請求の範囲の請求項1の
「前記断面形状にて,前記一方側と前記他方側のうちの同一側で隣り合う前記凸部の中心同士の距離であるフィンピッチの大きさをfpとし,前記一方側と前記他方側のうちの同一側で隣り合う前記凸部と前記凸部との間でフィンによって囲まれた領域の相当円直径をdeとし,前記切り起こし部の排気流れ方向での長さをLとし,前記断面形状における前記一方側の凸部から前記他方側の凸部までの距離であるフィン高さをfhとしたときに,」を,
「前記断面形状にて,前記一方側と前記他方側のうちの同一側で隣り合う前記凸部の中心同士の距離であるフィンピッチの大きさをfpとし,前記一方側と前記他方側のうちの同一側で隣り合う前記凸部と前記凸部との間でフィンとチューブによって囲まれた領域の相当円直径をdeとし,前記切り起こし部の排気流れ方向での長さをLとし,前記断面形状における前記一方側の凸部から前記他方側の凸部までの距離であるフィン高さをfhとしたときに,」に訂正する。
3.訂正事項3
特許請求の範囲の請求項1の
「前記切り起こし部の排気流れ方向での長さLが,
fh<7,fp≦5のとき,0.5<L≦7(単位:mm),
fh<7,5<fpのとき,0.5<L≦1(単位:mm),
7≦fh,fp≦5のとき,0.5<L≦4.5(単位:mm),または
7≦fh,5<fpのとき,0.5<L≦1.5(単位:mm)
であって,」を,
「前記切り起こし部の排気流れ方向での長さLが,排気熱交換専用に用いる熱交換器の熱交換性能向上と圧力損失抑制を図るために,
fh<7,fp≦5のとき,0.5<L≦7(単位:mm),
fh<7,5<fpのとき,0.5<L≦1(単位:mm),
7≦fh,fp≦5のとき,0.5<L≦4.5(単位:mm),または
7≦fh,5<fpのとき,0.5<L≦1.5(単位:mm)
であって,」に訂正する。
4.訂正事項4
特許請求の範囲の請求項1の
「さらに,
X=de×L^(0.14)/fh^(0.18)としたときに,
前記相当円直径deおよび前記切り起こし部の排気流れ方向での長さLが,前記粒子状物質が前記インナーフィン(22)に堆積することを抑制するために,
1.1≦X≦4.3
を満足する大きさになっている」を,
「さらに,
X=de×L^(0.14)/fh^(0.18)としたときに,
前記相当円直径deおよび前記切り起こし部の排気流れ方向での長さLが,排気熱交換専用に用いる熱交換器の熱交換性能の向上を図ると共に前記粒子状物質が前記インナーフィン(22)に堆積することを抑制するために,
1.1≦X≦4.3
を満足する大きさになっている」に訂正する。
5.訂正事項5
特許請求の範囲の請求項1の
「ことを特徴とする排気熱交換器。」を,
「ことを特徴とする排気熱交換専用に用いる熱交換器。」に訂正する。
6.訂正事項6
特許請求の範囲の請求項2の
「ことを特徴とする排気熱交換器。」を,
「ことを特徴とする排気熱交換専用に用いる熱交換器。」に訂正する。
7.訂正事項7
特許請求の範囲の請求項3の
「ことを特徴とする排気熱交換器。」を,
「ことを特徴とする排気熱交換専用に用いる熱交換器。」に訂正する。
8.訂正事項8
明細書【0014】欄の
「上記目的を達成するため,請求項1に記載の発明では,エンジン(1)での燃焼により発生した粒子状物質を含有する排気ガスと排気ガスを冷却する冷却水との間で熱交換を行うとともに,熱交換後の排気ガスをエンジン(1)側へ流出する排気熱交換器において,内部を排気ガスが流れ,外部を冷却水が流れるステンレス製のチューブ(21)と,チューブ内に配置され,排気ガスと冷却水との間での熱交換を促進させるステンレス製のインナーフィン(22)とを備え,インナーフィン(22)は,排気ガスの流れ方向に略垂直な断面形状が,凸部(31)を一方側と他方側に交互に位置させて曲折する波形状であって,排気ガスの流れ方向に平行な方向で部分的に切り起こされた切り起こし部(32)を備えるオフセットフィンであり,断面形状にて,一方側と他方側のうちの同一側で隣り合う凸部の中心同士の距離であるフィンピッチの大きさをfpとし,一方側と他方側のうちの同一側で隣り合う凸部と凸部との間でフィンによって囲まれた領域の相当円直径をdeとし,切り起こし部の排気流れ方向での長さをLとし,断面形状における一方側の凸部から他方側の凸部までの距離であるフィン高さをfhとしたときに,フィンピッチの大きさが,
2<fp≦12(単位:mm)
を満足する大きさであり,切り起こし部の排気流れ方向での長さLが,
fh<7,fp≦5のとき,0.5<L≦7(単位:mm),
fh<7,5<fpのとき,0.5<L≦1(単位:mm),
7≦fh,fp≦5のとき,0.5<L≦4.5(単位:mm),または
7≦fh,5<fpのとき,0.5<L≦1.5(単位:mm)
であって,さらに,
X=de×L^(0.14)/fh^(0.18)としたときに,
相当円直径deおよび切り起こし部の排気流れ方向での長さLが,粒子状物質がインナーフィン(22)に堆積することを抑制するために,
1.1≦X≦4.3
を満足する大きさになっていることを特徴とする。」を,
「上記目的を達成するため,請求項1に記載の発明では,
エンジン(1)での燃焼により発生した粒子状物質を含有する排気ガスと排気ガスを冷却する冷却水との間での熱交換を専ら行うとともに,熱交換後の排気ガスをエンジン(1)側へ流出する排気熱交換専用に用いる熱交換器において,
内部を排気ガスが流れ,外部を冷却水が流れるステンレス製のチューブ(21)と,
チューブ内に配置され,排気ガスと冷却水との間での熱交換を促進させるステンレス製のインナーフィン(22)とを備え,
インナーフィン(22)は,排気ガスの流れ方向に略垂直な断面形状が,凸部(31)を一方側と他方側に交互に位置させて曲折する波形状であって,排気ガスの流れ方向に平行な方向で部分的に切り起こされた切り起こし部(32)を備えるオフセットフィンであり,
断面形状にて,一方側と他方側のうちの同一側で隣り合う凸部の中心同士の距離であるフィンピッチの大きさをfpとし,一方側と他方側のうちの同一側で隣り合う凸部と凸部との間でフィンとチューブによって囲まれた領域の相当円直径をdeとし,切り起こし部の排気流れ方向での長さをLとし,断面形状における一方側の凸部から他方側の凸部までの距離であるフィン高さをfhとしたときに,
フィンピッチの大きさが,
2<fp≦12(単位:mm)
を満足する大きさであり,
切り起こし部の排気流れ方向での長さLが,排気熱交換専用に用いる熱交換器の熱交換性能向上と圧力損失抑制を図るために,
fh<7,fp≦5のとき,0.5<L≦7(単位:mm),
fh<7,5<fpのとき,0.5<L≦1(単位:mm),
7≦fh,fp≦5のとき,0.5<L≦4.5(単位:mm),または
7≦fh,5<fpのとき,0.5<L≦1.5(単位:mm)
であって,
さらに,
X=de×L^(0.14)/fh^(0.18)としたときに,
相当円直径deおよび切り起こし部の排気流れ方向での長さLが,排気熱交換専用に用いる熱交換器の熱交換性能の向上を図ると共に粒子状物質がインナーフィン(22)に堆積することを抑制するために,
1.1≦X≦4.3
を満足する大きさになっていることを特徴とする。」に訂正する。

第3 訂正後の請求項1ないし3に係る発明
訂正明細書等の請求項1ないし3に係る発明(以下,それぞれ「訂正発明1」ないし「訂正発明3」という。)は,次のとおりのものである。
「【請求項1】
エンジン(1)での燃焼により発生した粒子状物質を含有する排気ガスと前記排気ガスを冷却する冷却水との間での熱交換を専ら行うとともに,熱交換後の前記排気ガスを前記エンジン(1)側へ流出する排気熱交換専用に用いる熱交換器において,
内部を前記排気ガスが流れ,外部を前記冷却水が流れるステンレス製のチューブ(21)と,
前記チューブ内に配置され,前記排気ガスと前記冷却水との間での熱交換を促進させるステンレス製のインナーフィン(22)とを備え,
前記インナーフィン(22)は,前記排気ガスの流れ方向に略垂直な断面形状が,凸部(31)を一方側と他方側に交互に位置させて曲折する波形状であって,前記排気ガスの流れ方向に平行な方向で部分的に切り起こされた切り起こし部(32)を備えるオフセットフィンであり,
前記断面形状にて,前記一方側と前記他方側のうちの同一側で隣り合う前記凸部の中心同士の距離であるフィンピッチの大きさをfpとし,前記一方側と前記他方側のうちの同一側で隣り合う前記凸部と前記凸部との間でフィンとチューブによって囲まれた領域の相当円直径をdeとし,前記切り起こし部の排気流れ方向での長さをLとし,前記断面形状における前記一方側の凸部から前記他方側の凸部までの距離であるフィン高さをfhとしたときに,
前記フィンピッチの大きさが,
2<fp≦12(単位:mm)
を満足する大きさであり,
前記切り起こし部の排気流れ方向での長さLが,排気熱交換専用に用いる熱交換器の熱交換性能向上と圧力損失抑制を図るために,
fh<7,fp≦5のとき,0.5<L≦7(単位:mm),
fh<7,5<fpのとき,0.5<L≦1(単位:mm),
7≦fh,fp≦5のとき,0.5<L≦4.5(単位:mm),または
7≦fh,5<fpのとき,0.5<L≦1.5(単位:mm)
であって,
さらに,
X=de×L^(0.14)/fh^(0.18)としたときに,
前記相当円直径deおよび前記切り起こし部の排気流れ方向での長さLが,排気熱交換専用に用いる熱交換器の熱交換性能の向上を図ると共に前記粒子状物質が前記インナーフィン(22)に堆積することを抑制するために,
1.1≦X≦4.3
を満足する大きさになっていることを特徴とする排気熱交換専用に用いる熱交換器。」

「【請求項2】
前記相当円直径および前記切り起こし部の排気流れ方向での長さが,
1.2≦X≦3.9
を満足する大きさであることを特徴とする請求項1に記載の排気熱交換専用に用いる熱交換器。」

「【請求項3】
前記相当円直径および前記切り起こし部の排気流れ方向での長さが,
1.3≦X≦3.5
を満足する大きさであることを特徴とする請求項1に記載の排気熱交換専用に用いる熱交換器。」

第4 訂正拒絶理由の概要
訂正発明1ないし3は,下記の刊行物に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定に違反し,特許出願の際独立して特許を受けることができないものであり,特許法第126条第5項の規定に違反するものである。


刊行物1:国際公開第2005/40708号(特表2007-510119号参照。)
刊行物2:特開2006-105577号公報
刊行物3:特開2004-77024号公報
刊行物4:特開2001-41108号公報
刊行物5:特開2001-263967号公報
刊行物6:特開2001-41109号公報
刊行物7:特開2002-137054号公報

参考資料1:千輝淳二著,「伝熱計算法」,4版,工学図書株式会社,
昭和60年12月15日,p.72-77
参考資料2:瀬下裕,藤井雅雄著,「コンパクト熱交換器」,初版,
日刊工業新聞社,1992年8月28日,
p.112-115

第5 請求人の主張
請求人は,訂正発明は独立特許要件を満たすものであるとして,概略以下のとおり主張する。

訂正発明は,排気熱交換器のインナーフィンにオフセットフィンを採用する事や,そのオフセットフィンの緒元を単に選択したことを特徴とするものではない。Xの式で特定した最適仕様のオフセットフィンを用い,圧力損失を抑えつつ,冷却性能を向上させることができる「排気熱交換専用に用いる熱交換器」とした点が訂正発明である。そして,訂正発明の熱交換器では,図13に示されるように,EGRガス密度比ρを93%以上に保つ事ことが出来るのである。

それに対し,引用発明に開示があるのは,「ガス-液体熱交換器,液体-ガス熱交換器,液体-液体熱交換器のいずれにも使用でき,排ガス熱交換器又は過給空気熱交換器の用途がある熱交換器」であって,記載されたオフセットフィンの緒元は排ガス熱交換器に適用出来るのみならず,過給空気熱交換器に適用しても同様に機能する値である。

訂正発明のXの式は,「排気熱交換専用に用いる熱交換器」においてのみ適用でき,排ガス熱交換器にも過給空気熱交換器にも使用できるオフセットフィンには適用できないのである。即ち,Xの式が適用可能な熱交換器は引用発明には開示されておらず,引用発明のインナーフィンに,流体直径deが2mm,切り起こし部長さLが7mm,フィン高さfhが5mmとなるものが仮にあるとしても,その事を以て,訂正発明のXの式を満足する熱交換器が引用発明に記載されている事にはならないのである。引用発明は,単にオフセットフィンには所定の緒元があることを想定させるのみである。

そして,Xの式の記載が無いのみならず示唆すら全くなされていないのは,刊行物2乃至刊行物7でも同様である。従って,引用発明に刊行物2乃至刊行物7を組み合わせたとしても,訂正発明が容易に想到し得たものでないことは明白である。

第6 刊行物の記載事項
1.刊行物1について
訂正拒絶理由で引用した刊行物1には,「熱交換器」に関して,図面とともに,次の事項が記載されている。
ア.「1. Waermetauscher, insbesondere fuer Kraftfahrzeuge, mit einem Gehaeuse (2) und mindestens einem in dem Gehaeuse (2) angeordneten Rohr (3), dadurch gekennzeichnet, dass Strukturen in dem Bereich zwischen den Rohren (3) und dem Gehaeuse (2) und/oder zwischen den Rohren (3) vorgesehen sind.
2. Waermetauscher nach Anspruch 1, dadurch gekennzeichnet, dass die Strukturen aus zwischen den Rohren (3) und dem Gehaeuse (2) und/oder zwischen den Rohren (3) angeordneten Blechstrukturen gebildet sind.
3. Waermetauscher nach Anspruch 2, dadurch gekennzeichnet, dass die Blechstrukturen Rippenbleche (4), Noppenbleche oder separate Rohre sind.」(特許請求の範囲の1-3,ウムラウト及びエスツェットについては,代用表記を用いた。以下,同様。)
(「1.ハウジング(2)と,ハウジング(2)内に配置された,少なくとも1つの管(3)を有する熱交換器,特に自動車用の熱交換器において,
管(3)とハウジング(2)の間および/または管(3)の間の領域に,構造体が設けられていることを特徴とする熱交換器。
2.構造体が,管(3)とハウジング(2)の間および/または管(3)の間に配置された薄板構造体で形成されていることを特徴とする請求項1に記載の熱交換器。
3.薄板構造体が,フィン薄板(4),突起薄板または別体の管であることを特徴とする請求項2に記載の熱交換器。」訳文は,特表2007-510119号公報の特許請求の範囲の請求項1-3,以下同様。)
イ.「15. Waermetauscher nach einem der vorhergehenden Ansprueche, dadurch gekennzeichnet, dass die Strukturen im Inneren mindestens eines Rohres angeordnet sind.
16. Waermetauscher nach einem der vorhergehenden Ansprueche, dadurch gekennzeichnet, dass die Strukturen als zumindest eine Rippe ausgebildet ist, die insbesondere gerade oder tiefengewellt ausgebildet ist und/oder insbesondere Kiemen aufweist.
17. Verwendung eines Waermetauschers nach einem der Ansprueche 1 bis 16 als Abgas-Waermetauscher oder Ladeluft-Kuehler eines Kraftfahrzeugs.」(特許請求の範囲の請求項15-17)
(「15.構造体が,少なくとも1つの管の内部に配置されていることを特徴とする請求項1から14のいずれか1項に記載の熱交換器。
16.構造体が,少なくとも1つのフィンとして形成されており,前記フィンが特に直線的に,あるいは奥行き方向に波打って形成されており,かつ/または特にエラを有していることを特徴とする請求項1から15のいずれか1項に記載の熱交換器。
17.請求項1から16のいずれか1項に記載の熱交換器を,自動車の排ガス熱交換器あるいは過給空気クーラーとして使用。」特許請求の範囲の請求項15-17)
ウ.「Hohe Temperaturunterschiede des zu kuehlenden Primaermediums (in der Regel gasfoermig) und des kuehlenden Sekundaermediums (hier in der Regel fluessig) fuehren zu unterschiedlichen Bauteilerhitzungen auf der Primaer- und Sektundaerseite. Bei Abgas-Waermetauschern kann die Temperaturdifferenz bis zu ueber 700K, bei Ladeluft-Kuehlern bis zu 300K betragen. Dabei kommt es zu in Folge unterschiedlicher thermischer Laengenausdehnungen zwischen Primaer- und Sekundaerseite zu starken Thermospannungen. Bei schnellen Wechseln des Betriebszustands koennen diese Thermospannungen durch ungleichmaessige Temperaturverteilungen noch verstaerkt werden (Thermoschock).
Auf Grund hoeherer Leistungsdichten der Waermetauscher erhoeht sich zudem die Gefahr des Siedens des Kuehlmittels, was zu starken Leistungs- und Lebensdauereinbussen fuehren kann.
Schliesslich sind die verwendeten Prozesse und Materialien wegen des Auftretens stark korrosiver Medium, z.B. Kondensat aus dem Abgas beim Abgas-Waermetauscher, stark eingeschraenkt, was bei weiter zunehmenden Anforderungen an die Leistungsdichte zu immer groesseren Problemen fuehrt, eine dauerfeste technische Loesung zur Verfuegung zu stellen, eine ausreichende Innen- und Aussendruckfestigkeit der Stroemungskanaele, ein Vermeiden des Siedens und ausreichende Festigkeit gegen Schwingungsanregungen und Thermospannungen miteinander zu vereinen.」(1ページ21行-2ページ19行)
(「冷却すべき一次媒体(通常ガス状)と冷却する二次媒体(ここでは通常液状)の温度差が高いと,一次側と二次側で異なる構成部品加熱が生じる。排ガス熱交換器においては,温度差は700Kより高くなり,過給空気クーラーの場合には300Kまでになる。その場合に,一次側と二次側の間の間の,結果的に異なる熱的な長さ膨張が,著しい熱応力をもたらす。駆動状態が急速に変化する場合に,この熱応力が不均一な熱分布によってさらに強化される可能性がある(熱ショック)。
さらに,熱交換器の出力密度が高いことに基づいて,冷却剤が沸騰する危険が増大し,それがパワーおよび寿命を著しく損なう可能性がある。
そして,使用されるプロセスと材料は,著しく腐食性の媒体,たとえば排ガスクーラーの場合には,排ガスからなる凝縮物の発生により,著しく制限されており,それが,出力密度に対する要請がさらに増大した場合に,流れ通路の内圧および外圧強度,沸騰の回避および励振と熱応力に対する十分な強度を互いに合体させる,永続的に耐える技術的解決を提供する,という,ますます大きくなる問題をもたらす。」段落【0003】-【0005】)
エ.「Diese Aufgabe wird geloest durch einen Waermetauscher mit den Merkmalen des Anspruchs 1. Vorteilhafte Ausgestaltungen sind Gegenstand der Unteransprueche.
Erfindungsgemaess ist ein Waermetauscher vorgesehen, mit einem Gehaeuse und mindestens einem in dem Gehaeuse angeordneten Rohr, wobei Strukturen zwischen den Rohren und dem Gehaeuse und/oder den Rohren vorgesehen sind: Das Primaermedium durchstroemt die Rohre. Das Sekundaermedium wird in den Zwischenraeumen zwischen den Rohren und/oder zwischen den Rohren und dem Gehaeuse gefuehrt, in denen auch die Strukturen angeordnet sind. Die Strukturen erhoehen die Festigkeit durch eine Versteifung bezueglich Innen- und Aussendruckbeanspruchungen der Rohre. Durch die Koppelung zwischen Rohren und Gehaeuse erfolgt zudem ein kontinuierlicher Ausgleich der Thermospannungen zwischen Primaer- und Sekundaerseite ueber die gesamte Kuehlerlaenge, so dass die Spannungen an den Enden der Rohre deutlich reduziert werden. Die Strukturen dienen zudem der Fluidleitung und - verteilung im Waermetauscher. Dabei ermoeglichen die Rippenbleche ferner einen besseren Waermeuebergang, so dass durch die verbesserte Waermeuebertragung Thermospannungen reduziert werden koennen. Durch die erhoehte Uebertragungsflaeche werden die Rohre besser gekuehlt und ein Sieden kann vermieden werden. Insgesamt ergibt sich somit eine erhebliche Steigerung der Leistungsdichte des Waermetauschers gegenueber herkoemmlichen Waermetauschern ohne Strukturen. Bevorzugt werden als Strukturen Blechstrukturen in Form von separaten Rohren, Rippenblechen, Noppenblechen, o.ae. eingeschoben. Der Waermetauscher kann insbesondere ein Abgas-Waermetauscher oder Ladeluft-Kuehler, jedoch auch ein anderer Waermetauscher, beispielsweise ein anderer Gas-Fluessigkeits-Waermetauscher, bei dem heisses Gas in Rohren den Waermetauscher (Kuehler) zur Kuehlung durchstroemt, ein Fluessigkeits-Gas-Waermetauscher, bei dem kaltes Gas in Rohren den Waermetauscher (Heizer) zum Erwaermen durchstroemt, oder ein Fluessigkeits-Fluessigkeits-Waermetauscher sein. Anstelle der Verwendung von Blechstrukuren koennen auch die Rohre und/oder das Gehaeuse entsprechend mit Strukturen ausgebildet sein, d.h. insbesondere kann die Rohroberflaeche rippenartig und/oder noppenartige ausgebildet sein. Die Strukturen weisen bevorzugt eine Hoehe von 1 mm bis 5 mm, vorzugsweise 1 mm bis 3 mm, insbesondere bevorzugt 1,5 mm auf. Die Teilung L der Strukturen betraegt bevorzugt das 0,1- bis 6fache, besonders bevorzugt das 0,5- bis 4fache der Strukturhoehe h. Die Querteilung Q betraegt bevorzugt das 0,15- bis 8fache, besonders bevorzugt das 0,5- bis 5fache der Strukturhoehe h. Das Verhaeltnis von Kanalhoehe zwischen den Rohren und Kanalhoehe im Rohr betraegt im Bereich von Strukturen bevorzugt 0,1 bis 1, vorzugsweise 0,2 bis 0,7. Der hydraulische Durchmesser zwischen den Rohren betraegt im Bereich mit Strukturen bevorzugt 0,5 mm bis 10 mm, vorzugsweise 1 mm bis 5 mm.」(2ページ22行-3ページ33行)
(「この課題は,請求項1の特徴を有する熱交換器(すなわち,ハウジングと,ハウジング内に配置された,少なくとも1つの管を有する,特に自動車用の,熱交換器において,管とハウジングの間および/または管の間の領域に,構造体が設けられていることを特徴とする熱交換器)によって解決される。好ましい形態が,従属請求項の対象である。
本発明によれば,ハウジングとハウジング内に配置された少なくとも1つの管とを有する熱交換器が設けられており,その場合に管とハウジングの間および/または管の間に構造体が設けられている。一次媒体が,管を貫流する。二次媒体は,管の間および/または管とハウジングの間の間隙内で案内され,その間隙内に構造体も配置されている。構造体が,管の内側および外側の圧応力に関する補強によって強度を向上させる。管とハウジングの間の結合によって,さらに,クーラー長さ全体にわたり一次側と二次側の間の熱応力の連続的補償が行われるので,管の端部の応力が著しく減少される。構造体は,さらに,熱交換器内で流体を案内し,かつ分配するために用いられる。その場合にフィン薄板が,さらに,熱伝達の改良を可能にするので,改良された熱伝達により熱応力を減少させることができる。増大された伝達面積によって管はより良く冷却され,沸騰を防止することができる。従って全体として,構造体を持たない従来の熱交換器に比較して,熱交換器の出力密度の著しい向上が得られる。好ましくは,構造体として,別体の管,フィン薄板,突起薄板などの形式の薄板構造体が挿入される。熱交換器は,特に,排ガス熱交換器または過給空気熱交換器であることができるが,他の熱交換器,たとえば,管内の熱いガスが冷却のために熱交換器(クーラー)を貫流する,他のガス-液体-熱交換器,管内の冷たいガスが加熱のために熱交換器(ヒーター)を貫流する,液体-ガス-熱交換器,あるいは液体-液体-熱交換器であることもできる。薄板構造体を使用する代りに,管および/またはハウジングにそれに応じた構造体を形成することもでき,すなわち特に,管表面をフィン状および/または突起状に形成することができる。構造体は,好ましくは1mmから5mm,好ましくは1mmから3mm,特に好ましくは1.5mmの高さを有している。構造体のピッチLは,構造体高さhの好ましくは0.1倍から6倍,特に好ましくは0.5倍から4倍である。横ピッチQは,構造体高さhの好ましくは0.15倍から8倍,特に好ましくは0.5倍から5倍である。管の間の通路高さと管内の通路高さの比は,構造体の領域において好ましくは0.1から1,好ましくは0.2から0.7である。管の間の流体直径は,構造体を有する領域内で,好ましくは0.5mmから10mm,好ましくは1mmから5mmである。」段落【0007】-【0008】)
オ.「Die Rohre werden vorzugsweise zumindest teilweise durch Flachrohre gebildet. Dabei sind Flachrohre thermodynamisch wesentlich leistungsfaehiger als Rundrohre, haben jedoch eine geringere Druckfestigkeit, weshalb bei Flachrohren druckfestigkeitssteigernde Massnahmen erforderlich sind, wie erfindungsgemaess eine Stuetzstruktur auf der Rohraussenseite. Dabei haben die Flachrohre insbesondere einen etwa rechteckfoermigen Querschnitt mit gerundeten Ecken. Ferner koennen einteilige Rechteckrohre vorgesehen sein. Diese koennen eine Laengsnaht aufweisen, die geschweisst, bspw. lasergeschweisst, reibgeschweisst, induktionsgeschweisst, oder verloetet sein kann. Die Rechteckrohre koennen auch aus Schalen aufgebaut sein, die verschweisst oder verloetet sind. Die Rohre koennen auch eine beliebige andere Form, bspw. oval, aufweisen und/oder seitliche Laschen aufweisen, die verloetet oder verschweisst werden. Ferner koennen die Rohre zum Toleranzausgleich zwischen Gehaeuse und Rohren sowie den dazwischen angeordneten Strukturen leicht ballig ausgebildet sein. In und/oder an den Rohren koennen auch Turbulatoren (Winglets) vorgesehen sein. Die Rohroberflaeche (innen und/oder aussen) kann zur Turbulenzerzeugung auch strukturiert ausgebildet sein.」(4ページ15-32行)
(「管は,好ましくは少なくとも部分的にフラット管によって形成される。その場合にフラット管は,丸管よりも熱力学的にずっと高性能であるが,より小さい耐圧強度を有し,従ってフラット管においては,本発明に基づく管外側の支持構造体のような,耐圧強度を向上させる措置が必要である。その場合に,フラット管は,特に面取りされた角部を備えた,ほぼ矩形の断面を有している。さらに,一体的な矩形管を設けることができる。これは,長手継目を有することができ,その長手継目が溶接され,ないしはレーザー溶接,摩擦溶接,誘導溶接され,あるいは半田づけすることができる。矩形管は,シェルから形成することもでき,そのシェルが溶接または半田付けされる。管は,任意の他の形状,たとえば楕円を有し,かつ/または側方のフラップを有することができ,そのフラップが半田付けまたは溶接される。さらに,管は,ハウジングと管およびその間に配置されている構造体の間の誤差を補償するために,やや球状に形成することができる。管内および/または管に,乱流装置(小翼)を設けることもできる。管表面(内側および/または外側)は,乱流を発生させるために,構造体として形成することもできる。」段落【0010】)
カ.「Strukturen koennen auch in den Rohren selbst vorgesehen sein, wobei alle o.g. Strukturen, die zwischen den Rohren vorgesehen sein koennen, auch in die Rohre integriert werden koennen. Die Strukturen werden bevorzugt durch Rippenbleche oder Noppenbleche gebildet, die beispielsweise durch Verschweissen, Verloeten oder Verklemmen mit dem Rohr verbunden sind. Die Strukturen weisen bevorzugt eine Hoehe von 1 mm bis 5 mm, vorzugsweise 1 mm bis 3 mm, insbesondere bevorzugt 1,5 mm auf. Die Teilung L der Strukturen betraegt bevorzugt das 0,5- bis 6fache der Strukturhoehe h. Die Querteilung Q betraegt bevorzugt das 0,5- bis 8fache der Strukturhoehe h. Der hydraulische Durchmesser im Rohr betraegt im Bereich mit Strukturen bevorzugt 0,5 mm bis 10 mm, vorzugsweise 1 mm bis 5 mm.」(5ページ19-29行)
(「構造体は,管自体の中に設けることもでき,その場合に,管の間に設けることができる,上述したすべての構造体は,管内に統合することもできる。構造体は,好ましくはフィン薄板または突起薄板によって形成され,それらがたとえば溶接,半田付けまたはかしめによって管と結合される。構造体は,好ましくは1mmから5mm,好ましくは1mmから3mm,特に好ましくは1.5mmの高さを有する。構造体のピッチLは,構造体高さhの好ましくは0.5倍から6倍である。横ピッチQは,構造体高さhの好ましくは0.5倍から8倍である。管内の流体直径は,構造体を有する領域内で好ましくは0.5mmから10mm,好ましくは1mmから5mmである。」段落【0014】)
キ.「Ein Abgas-Waermetauscher 1 weist ein zweiteiliges Gehaeuse 2 und eine Mehrzahl in diesem Gehaeuse 2 angeordnete Rohre 3 auf. Zwischen den einzelnen Rohren 3 sowie zwischen dem Gehaeuse 2 und den Rohren 3 sind als Strukturen Rippenbleche 4 vorgesehen, wobei diese Rippenbleche 4 gemaess dem vorliegenden Ausfuehrungsbeispiel verzahnt ausgebildet sind, wie in Fig. 3 dargestellt und an spaeterer Stelle naeher beschrieben. Bei den Rohren 3 handelt es sich vorliegend um Flachrohre.
Durch die einzelnen Rohre 3 wird das vom Motor kommende, zu kuehlende Abgas (gasfoermiges Primaermedium) geleitet, wobei in Fig. 2 die Stroemungsrichtung durch zwei durchgehende Pfeile angedeutet ist. Das Gehaeuse 2, in dem die Rohre 3 angeordnet sind, besteht aus einem U-foermigen ersten Gehaeuseteil 2' und einem Gehaeusedeckel 2, welcher von oben auf das erste Gehaeuseteil 2' gesetzt ist. Zum Ein- und Auslass des Kuehlmittels (fluessiges Sekundaermedium) sind zwei Kuehlmittelstutzen 5 im Gehaeusedeckel 2 vorgesehen, wobei die Stroemungsrichtung des Kuehlmittels im Gleichstrombetrieb in Fig. 2 durch gestrichelte Pfeile dargestellt ist. Es ist ebenfalls ein Durchstroemen im Gegenstrombetrieb moeglich, wozu die Stroemungsrichtung umgekehrt ist. Da das Kuehlmittel durch das Gehaeuse 2 und um die Rohre 3 geleitet wird, sind die Rippenbleche 4 kuehlmittelseitig angeordnet.
Die gerade verzahnt ausgebildeten Rippenbleche 4 weisen in Richtung des in Fig. 3 mit einer durchgehenden Linie dargestellten Pfeils einen leichten Durchgang und in der mit einer gestrichelten Linie dargestellten Pfeil einen schwereren Durchgang fuer das Kuehlmittel auf. Durch Veraenderungen der Laengsteilung L und der Querteilung Q sowie der Rippenhoehe h kann die Stroemung beeinflusst werden. Neben einer geraden Verzahnung ist auch eine Schraegverzahnung moeglich. Bei entsprechender Ausgestaltung der einzelnen Rippenbleche 4 koennen diese auch gezielt die Kuehlmittelfoerderung zu besonders kritischen Stellen unterstuetzen, wozu die Rippenbleche 4 zumindest bereichsweise inhomogen ausgebildet sind.」(6ページ12行-7ページ12行)
(「排ガス熱交換器1は,2つに分かれたハウジング2と,このハウジング2内に配置された多数の管3を有している。個々の管3の間,およびハウジング2と管3の間に,構造体としてフィン薄板4が設けられており,その場合にこれらのフィン薄板4は本実施例によれば,図3に示し,後の箇所で説明するように,歯切りを有するように形成されている。管3は,ここではフラット管である。
個々の管3を通して,エンジンから来る,冷却すべき排ガス(ガス状の一次媒体)が案内され,その場合に図2に流れ方向が2つのつながった矢印で示唆されている。管3がその中に配置されている,ハウジング2は,U字状の第1のハウジング部分2’とハウジングカバー2”からなり,そのハウジングカバーが上から第1のハウジング部分2’上へ取り付けられている。冷却剤(液状の二次媒体)を流入および流出させるために,ハウジングカバー2”に2つの冷却剤短管5が設けられており,その場合に直流駆動における冷却剤の流れ方向が,図2に破線の矢印で示されている。同様に逆流駆動における貫流も可能であって,そのためには流れ方向が反転される。冷却剤はハウジング2を通り,管3の周りを案内されるので,フィン薄板4が冷却剤側に配置されている。
直線的に歯切りを形成されたフィン薄板4は,図3に実線で示す矢印の方向には冷却剤を通過させやすく,破線で示す矢印において冷却剤を通過させにくい。縦ピッチLと横ピッチQおよびフィン高さhを変化させることによって,流れを調節することができる。直線的な歯切りの他に,斜めの歯切りも可能である。個々のフィン薄板4がそれに応じて形成されている場合には,このフィン薄板が特に重要な箇所で冷却剤給送を支援することもでき,そのためにフィン薄板4は少なくとも領域的に不均一に形成されている。」段落【0016】-【0018】)
ク.上記キ及びFig.1-2より,エンジンから来る排ガスと前記排ガスを冷却する冷却剤との間で熱交換を行う排ガス熱交換器1において,内部を前記排ガスが流れ,外部を前記冷却剤が流れる管3と,フィン薄板4とを備えた排ガス熱交換器1が記載されているといえる。
ケ.上記キ及びFig.3より,フィン薄板4は断面形状が,凸部を一方側と他方側に交互に位置させて曲折する波形状であって,部分的に切り起こされた切り起こし部を備えるオフセットフィンであり,縦ピッチをL,横ピッチをQ,フィン高さをhとしたことが記載されているといえる。
コ.上記イ,カより,構造体は管の内部に配置されているが,この構造体はフィン薄板4と同様な形状を備えたフィン薄板といえる。

上記記載事項,図面の図示内容及び認定事項を総合すると,刊行物1には次の発明が記載されていると認められる。(以下「引用発明」という。)
「エンジンから来る排ガスと前記排ガスを冷却する冷却剤との間での熱交換を行う排ガス熱交換に用いる熱交換器1において,
内部を前記排ガスが流れ,外部を前記冷却剤が流れる管3と,
前記管3内に配置され,熱伝導の改良を可能にするフィン薄板とを備え,
前記フィン薄板は,凸部を一方側と他方側に交互に位置させて曲折する波形状であって,部分的に切り起こされた切り起こし部を備えるオフセットフィンであり,
構造体の縦ピッチをLとし,横ピッチをQとし,構造体高さをhとしたときに,
hは1mmから5mm,
Lはhの0.5倍から6倍,
Qはhの0.5倍から8倍,
管内の流体直径は0.5mmから10mm
である排ガス熱交換に用いる熱交換器1。」
なお,請求人は意見書において,引用発明の熱交換器は,「ガス-液体熱交換器,液体-ガス熱交換器,液体-液体熱交換器のいずれにも使用でき,排ガス熱交換器又は過給空気熱交換器の用途がある熱交換器」である旨主張しているが,刊行物1には排ガス熱交換器の用途がある熱交換器が記載されていることは明らかであるから,当該用途のものを特定して上記のように認定した。

2.刊行物2について
訂正拒絶理由で引用した刊行物2には,「フィン構造体および該フィン構造体を内装した伝熱管並びに該伝熱管を組込んだ熱交換器」に関して,図面とともに,次の事項が記載されている。
ア.「本発明に係る第1実施例によるプレートフィンは,図1に示すように厚さが0.2mmのSUS304オーステナイト系ステンレス鋼からなる薄板を,所定の寸法の方形に加工して複数のプレート材を得,該プレート材8枚に対してプレス加工による打ち抜きを施し,所定の切り欠き部2-1を形成した。次いで該プレート材に対する塑性加工を実施することにより,図2に示すように断面形状が矩形で,長手方向に波形を有し,その側面に複数の切り欠き部2-1を有するフィン構造体2を作製した。得られたフィン構造体2を同一の素材からなる厚さ0.5mmの偏平伝熱管1に装入し,ろう付けによって一体に接合することにより,該偏平伝熱管1内を断面が矩形で長手方向に波形を有する複数の小流路3に分割した。なお,該小流路3の側壁には前記のプレス加工によって複数の切り欠き部2-1が形成され,前記分割されて隣接する小流路3間は相互に連通するよう構成されている。このようにして形成された偏平伝熱管1を8本用意し,EGRガス冷却装置(図示せず)におけるガス流路として冷却ジャケット内に組み込み,冷却性能試験に供した結果を比較例1に基づく従来例と比較して表1に示す。表1に示す結果より,本発明の場合は,内装されているフィン構造体の作用によって,隣接する小流路3間を自由に流入流出して,該小流路3間におけるEGRガスの圧力も均一化され,同時に小流路3間におけるEGRガス流の分配や流速分布が下流側ではほぼ均一となり,図7に示すように伝熱管1bの小流路3b内を通流するEGRガスの流量分配と,流速分布は均一に保たれ,伝熱管外周の冷却ジャケットへの熱交換が効果的に促進されることにより,高い温度効率が得られることが確認された。」(段落【0020】)
イ.「断面矩形のプレートフィンの上部壁面に,図8に示すように長方形の切起こし部2c-1を複数形成し,切欠き残部を流路3cの方に切起こすことにより,流路3cの上流側に向かって舌状に突出する複数の切起こしフィン2c-2とした以外は,実質的に上記実施例3と同様にしてフィン構造体2cを作製した。本例におけるフィン構造体2cの作製手段は上記実施例2と同様,煩雑な塑性加工は必要とせず,切起こし部2c-1の形成手段も単純な打ち抜き加工で足りるため,当該フィン構造体2cの製造コストは大幅に削減できる。このフィン構造体2cを上記実施例3と同様にして偏平伝熱管に挿入・接合して,フィン構造体2cを内装した本実施例による伝熱管1c(図示を省略)8本を得た。得られた8本の伝熱管1cを実施例3と同様にしてEGRガス冷却装置用の多管式熱交換器に組込み,同一の条件で冷却試験に供したところ,高温流体の相互流通は不可能であるにも拘らず,流路3c内に舌状に突出する複数の切起こしフィン2c-2によってもたされるエッジ効果が作用し,該流路3c内を通流する高温のEGRガスは,層流がことごとく剥離されることによって,上記実施例3とほぼ同等の冷却効率を得られることが確認された。
上記実施例4における切起こし部2c-1の形状を,本実施例においては図9に示すように三角形状の切起こし部2d-1とし,流路3dの上流側に向かって舌状に突出する複数の切起こしフィン2d-2が,三角形状である以外は実質的に上記実施例4と同様にしてフィン構造体2dを作製し,該フィン構造体2dの内装手段等も同様にして伝熱管2d(図示を省略)を得て,上記実施例4と同様のEGRガス冷却装置用の多管式熱交換器に組込み,同一の条件でEGRガスの冷却試験に供した結果,上記実施例4とほぼ同等の冷却効率を得られることが確認された。」(段落【0025】-【0026】)
ウ.「上記実施例1?6のいずれかによって得られた伝熱管1を,自動車のクールドEGRシステムに組込まれるEGRガス冷却装置50に使用した本実施例を,図11を用いて説明する。本実施例によるEGRガス冷却装置50は,シェル本体51の両端に一対のチューブシート50-3,50-4を接続して内部を密閉可能な状態とし,該一対のチューブシート50-3,50-4間に上記実施例によって得られた偏平伝熱管1の複数本を,該チューブシート50-3,50-4にそれぞれ所定の間隔を隔てて貫通して接続配置させ,該シェル本体51内における伝熱管群が形成される。またシェル本体51の両サイドにはEGRガスGの流入口G-1と,流出口G-2とが設けられるボンネット50-1,50-2がそれぞれ設けられ,一方,該シェル本体51の外周の両端部にはエンジン冷却水や冷却風などの冷却媒体,本例においてはエンジン冷却水Wの導入口W-1と導出口W-2が設けられて,一対のチューブシート50-3,50-4で仕切られた気密空間内を該エンジン冷却水Wが通流可能な熱交換エリアWaとし,該熱交換エリアWa内に複数の支持板50-5を接合位置すると共に,該支持板50-5に伝熱管1を挿通する長円形の挿通口を設けて伝熱管1を挿通することによって,バッフルプレートとして該伝熱管1を安定的に支持すると同時に,前記熱交換エリアWaを通流する冷却水Wの流れを強制的に蛇行させるように構成されている。この際,前記シェル本体51内に組込まれる伝熱管1の内周面には予めろう付などによって接続固定されたフィン構造体が内装されているが,該フィン構造体のろう付による接合はシェル本体51内への組付け後に行うことも可能である。
上記の如く構成された本実施例によるEGRガス冷却装置50において,EGRガス流入口G-1からシェル本体51に流入する高温のEGRガスGは,該シェル本体51内に配置された複数の伝熱管1内に流入するが,所定の間隔を隔てて配置された複数の伝熱管1による伝熱管群の周囲に形成される熱交換エリアWaには,予めエンジン冷却水Wが通流した状態にあるため,該伝熱管1の管壁を介してのEGRガスGとエンジン冷却水Wとの熱交換は直ちに開始される。この際,本実施例においては伝熱管1として広い伝熱面積を有する扁平管を採用し,しかも該偏平伝熱管の内周面に上記各実施例において例示したようなフィン構造体2が内装されることにより,熱媒体流体に対する攪拌,層流の剥離,分散,流体流量や流速の均一化等が相乗的に作用して,EGRガスGとエンジン冷却水Wとの熱交換が効率的に促進され,優れた冷却効率が実証された。」(段落【0028】-【0029】)
エ.上記ア,イ及び図1-図9より,EGRガス冷却装置が偏平伝熱管1と,前記偏平伝熱管1内に配置されたフィン構造体2,2a,2b,2c,2dとを備え,前記フィン構造体2,2a,2b,2c,2dは,断面形状が,凸部を一方側と他方側に交互に位置させて曲折する波形状であって,切起こし部2c-1,2d-1を備えたことが記載されているといえる。
オ.上記ウ及び図11より,EGRガスGと前記EGRガスGを冷却するエンジン冷却水Wとの間で熱交換を行うEGRガス冷却装置50が記載されているといえる。

上記記載事項,図面の図示内容及び認定事項を総合すると,刊行物2には次の事項が記載されていると認められる。
「EGRガスGと前記EGRガスGを冷却するエンジン冷却水Wとの間で熱交換を行うEGRガス冷却装置50において,
内部を前記EGRガスGが流れ,外部を前記エンジン冷却水Wが流れるフィン構造体2,2a,2b,2c,2dと同一の素材からなる偏平伝熱管1と,
前記偏平伝熱管1内に配置されたSUS304オーステナイト系ステンレス鋼からなるフィン構造体2,2a,2b,2c,2dとを備え,前記フィン構造体2,2a,2b,2c,2dは,断面形状が,EGRガスGの流れ方向に略垂直な断面形状が,凸部を一方側と他方側に交互に位置させて曲折する波形状であって,切起こし部2c-1,2d-1を備えるフィンであり,
フィン構造体2,2a,2b,2c,2dの厚さが0.2mm
であるEGRガス冷却装置50。」

3.刊行物3について
訂正拒絶理由で引用した刊行物3には,「排気熱交換装置」に関して,図面とともに,次の事項が記載されている。
ア.「本実施形態は,本発明に係る排気熱交換装置をディーゼル式のエンジン用排気冷却装置に適用したものであり,図1は本実施形態に係る排気冷却装置(以下「ガスクーラ」と呼ぶ。)10を用いたEGR(排気再循環装置)の模式図である。
そして,排気再循環管30はエンジン31から排出される排気の一部をエンジン31の吸気側に還流させる配管である。
EGRバルブ32は排気再循環管30の排気流れ途中に配設されて,エンジン31の稼働状態に応じて排気量を調節する周知のものであり,ガスクーラ10は,エンジン31の排気側とEGRバルブ32との間に配設されて排気とエンジンの冷却水との間で熱交換を行い排気を冷却する。
次に,ガスクーラ10の構造について述べる。
図2はガスクーラの外観図(一部断面図)であり,チューブ11は排気が流通する排気通路11aを構成する扁平状の管であり,このチューブ11は,図3に示すように,所定形状にプレス成形された2枚のプレート11bをろう付け接合することにより形成されている。
また,チューブ11内,つまり排気通路11a内には,排気と冷却水との熱交換を促進するインナーフィン12が配設されており,このインナーフィン12は,図4に示すように,排気の流通方向に帯状に延びて互いに交差する2種類の壁部材12a,12bを有し,排気の流通方向から見た断面形状が矩形波状となるように形成されている。このため,排気通路11a内には,チューブ11の短径方向に複数本に区画された細流路11cが構成される。
因みに,インナーフィン12及びチューブ11は耐食性に優れた金属(本実施形態では,ステンレス)にプレス加工を施すことにより成形されており,インナーフィン12及びチューブ11はろう付けにより一体接合されている。」(段落【0012】-【0018】)
イ.「また,インナーフィン12は,上述の実施形態(図4参照)に示されたストレートフィンに限定されるものではなく,例えば周知のオフセットフィンとしてもよい。」(段落【0030】)
ウ.上記ア及び図1より,エンジン31から排出される排気とエンジン31を冷却する冷却水との間で熱交換を行うとともに,熱交換後の前記排気を前記エンジン31側へ流出するガスクーラ10が記載されているといえる。
エ.上記ア及び図3,図4より,チューブ11と,前記チューブ11内に配置されたインナーフィン12とを備え,
前記インナーフィン12は,排気の流れ方向に略垂直な断面形状が,凸部を一方側と他方側に交互に位置させて曲折する波形状である,ガスクーラ10が記載されているといえる。

上記記載事項,図面の図示内容及び認定事項を総合すると,刊行物3には次の事項が記載されていると認められる。
「エンジン31から排出される排気とエンジン31を冷却する冷却水との間で熱交換を行うとともに,熱交換後の前記排気を前記エンジン31側へ流出するガスクーラ10において,
内部を前記排気が流れ,外部を前記冷却水が流れるステンレス製のチューブ11と,
前記チューブ11内に配置され,前記排気と前記冷却水との間での熱交換を促進するステンレス製のインナーフィン12とを備え,
前記インナーフィン12は,排気の流れ方向に略垂直な断面形状が,凸部を一方側と他方側に交互に位置させて曲折する波形状であって,周知のオフセットフィンである,ガスクーラ10。」

4.刊行物4について
訂正拒絶理由で引用した刊行物4には,「排気熱交換器」に関して,図面とともに,次の事項が記載されている。
ア.「【発明の属する技術分野】本発明は,燃焼により発生した排気と水等の冷却流体との間で熱交換を行う排気熱交換器に関するもので,EGR(排気再循環装置)用の排気を冷却するEGRガス熱交換器(以下,EGRクーラと呼ぶ。)に適用して有効である。
【従来の技術】EGRクーラは,EGR用の排気を冷却することにより,排気ガス中のEGRの効果(排気中の窒素酸化物の低減効果)を高めるものである。そこで,発明者等はEGRの効果を向上させるべく,図11(a)に示すように,排気が流通する排気チューブ110内にオフセットフィン(図11(b)参照)111を配設したEGRクーラを試作検討した。」(段落【0001】-【0002】)
イ.「ここで,セグメント112の方向とは,セグメント112と平行でかつ,排気流れに沿う方向を言う。」(段落【0006】)
ウ.「【発明の実施の形態】本実施形態は,本発明に係る排気熱交換器をディーゼルエンジン(内燃機関)用のEGRガス冷却装置に適用したものであり,図1は本実施形態に係るEGRガス冷却装置(以下,EGRクーラと呼ぶ。)100を用いたEGR(排気再循環装置)の模式図である。
図1中,200はディーゼルエンジン(以下,エンジンと略す。)であり,210はエンジン200から排出される排気の一部をエンジン200の吸気側に還流させる排気再循環管である。
220は排気再循環管210の排気流れ途中に配設されて,エンジン200の稼働状態に応じてEGRガス量を調節する周知のEGRバルブであり,EGRクーラ100は,エンジン200の排気側とEGRバルブ220との間に配設されてEGRガスとエンジン冷却水(以下,冷却水と略す。)との間で熱交換を行いEGRガスを冷却する。」(段落【0016】-【0018】)
エ.図11には,EGRガス流れ方向を示したオフセットフィン111を配設したEGRクーラが記載されている。

上記記載事項及び図面の図示内容を総合すると,刊行物4には次の事項が記載されていると認められる。
「燃焼により発生した排気と水等の冷却流体との間で熱交換を行うEGRクーラにおいて,排気が流通する排気チューブ110内にオフセットフィン111を配設し,オフセットフィンの排気ガスの流れ方向に略垂直な断面形状が波形状で,排気ガスの流れ方向に平行な方向で切り起こし部が切り起こされたEGRクーラ。」

5.刊行物5について
訂正拒絶理由で引用した刊行物5には,「排気熱交換器」に関して,図面とともに,次の事項が記載されている。
ア.「【発明の属する技術分野】本発明は,燃焼により発生した排気と水等の冷却流体との間で熱交換を行う排気熱交換器に関するもので,EGR(排気再循環装置)用の排気を冷却するEGRガス熱交換器(以下,EGRクーラと呼ぶ。)に適用して有効である。
【従来の技術】EGRクーラは,EGR用の排気を冷却することにより,排気ガス中のEGRの効果(排気中の窒素酸化物の低減効果)を高めるものであり,一般的に,エンジン冷却水を利用してEGR用の排気を冷却するものである。」(段落【0001】-【0002】)
イ.「また,排気通路110a内には,EGRガスとの接触面積を拡大してEGRガスと冷却水との熱交換を促進するステンレス製のインナーフィン(以下,フィンと略す。)111が配設されており,このフィン111は,排気チューブ110の内壁からEGRガス流れに対して交差(略直交)する方向に突出するような,排気チューブ110の短径方向と平行な板状のセグメント112が排気チューブ110の長手方向に千鳥状にずれて設けられた,いわゆるオフセット型のフィンである。
また,セグメント112は,前述のごとく,排気チューブ110の短径方向と平行とすることが望ましいが,実際のフィン111は,製造上の問題により,ローラ又はプレス成形機の抜き勾配分だけ短径方向に対して傾いたものとなる。したがって,排気チューブ110の短径方向と平行とは,短径方向と完全に平行であることを意味するものではなく,抜き勾配程度の傾きを含んだ意味である。」(段落【0017】-【0018】)
ウ.「【発明の実施の形態】(実施形態)本実施形態は,本発明に係る排気熱交換器をディーゼルエンジン(内燃機関)用のEGRガス冷却装置に適用したものであり,図1は本実施形態に係るEGRガス冷却装置(以下,EGRクーラと呼ぶ。)100を用いたEGR(排気再循環装置)の模式図である。
図1中,200はディーゼルエンジン(以下,エンジンと略す。)であり,210はエンジン200から排出される排気の一部をエンジン200の吸気側に還流させる排気再循環管である。
220は排気再循環管210の排気流れ途中に配設されて,エンジン200の稼働状態に応じてEGRガス量を調節する周知のEGRバルブであり,EGRクーラ100は,エンジン200の排気側とEGRバルブ220との間に配設されてEGRガスとエンジン冷却水(以下,冷却水と略す。)との間で熱交換を行いEGRガスを冷却する。」(段落【0011】-【0013】)
エ.図8には,EGRガスの流れ方向とフィン111のセグメント112が平行に設けられていることが示されている。

上記記載事項及び図面の図示内容を総合すると,刊行物5には次の事項が記載されていると認められる。
「燃焼により発生した排気と水等の冷却流体との間で熱交換を行うEGRクーラにおいて,排気通路110a内には,ステンレス製のオフセット型のインナーフィンが配置され,インナーフィンの排気ガスの流れ方向に略垂直な断面形状が波形状で,排気ガスの流れ方向に平行な方向で切り起こし部が切り起こされたEGRクーラ。」

6.刊行物6について
訂正拒絶理由で引用した刊行物6には,「排気熱交換器」に関して,図面とともに,次の事項が記載されている。
ア.「【発明の属する技術分野】本発明は,燃焼により発生した排気と水等の冷却流体との間で熱交換を行う排気熱交換器に関するもので,EGR(排気再循環装置)用の排気を冷却するEGRガス熱交換器(以下,EGRクーラと呼ぶ。)に適用して有効である。
【従来の技術】EGRクーラは,EGR用の排気を冷却することにより,排気ガス中のEGRの効果(排気中の窒素酸化物の低減効果)を高めるものである。そこで,発明者等はEGRの効果を向上させるべく,排気が流通するチューブ内にオフセットフィンを配設したEGRクーラを試作検討した。」(段落【0001】-【0002】)
イ.「また,図16に示すように,上流側に存在するセグメントの前縁部で発生した温度境界層(層流境界層)が遷移域から乱流境界層に移行する前に,次の(下流側)のセグメントに到達するため,チューブの長手方向全域に渡って温度境界層(層流境界層)が発生してしまう。このため,フィンと排気流れとの間における熱伝達率の向上が難しく,EGRクーラの熱交換能力(排気の冷却能力)をさらに増大させることが難しいと言う問題があった。
そしてさらに,上記試作品では,冷却水が流通する複数本の冷却水チューブを連通させる冷却水通路120bが,図15に示すように,排気が流通する排気チューブ110の対角の部位に位置しているため,セグメント112の方向と排気の流通の向きとが交差してしまい,排気が排気チューブ内を流通する際に発生する圧力損失が大きいと言う問題も有していた。ここで,セグメントの方向とは,セグメントと平行でかつ,排気流れに沿う方向を言う。」(段落【0005】-【0006】)
ウ.「【発明の実施の形態】本実施形態は,本発明に係る排気熱交換器をディーゼルエンジン(内燃機関)用のEGRガス冷却装置に適用したものであり,図1は本実施形態に係るEGRガス冷却装置(以下,EGRクーラと呼ぶ。)100を用いたEGR(排気再循環装置)の模式図である。
図1中,200はディーゼルエンジン(以下,エンジンと略す。)であり,210はエンジン200から排出される排気の一部をエンジン200の吸気側に還流させる排気再循環管である。
220は排気再循環管210の排気流れ途中に配設されて,エンジン200の稼働状態に応じてEGRガス量を調節する周知のEGRバルブであり,EGRクーラ100は,エンジン200の排気側とEGRバルブ220との間に配設されてEGRガスとエンジン冷却水(以下,冷却水と略す。)との間で熱交換を行いEGRガスを冷却する。」(段落【0021】-【0023】)
エ.図16には,EGRガス流れ方向とオフセットフィンのセグメント112の方向が示されている。

上記記載事項及び図面の図示内容を総合すると,刊行物6には次の事項が記載されていると認められる。
「燃焼により発生した排気と水等の冷却流体との間で熱交換を行うEGRクーラにおいて,排気が流通するチューブ内にオフセットフィンを配設し,インナーフィンの排気ガスの流れ方向に略垂直な断面形状が波形状で,排気ガスの流れ方向に平行な方向で切り起こし部が切り起こされたEGRクーラ。」

7.刊行物7について
訂正拒絶理由で引用した刊行物7には,「熱交換器の製造方法および熱交換器」に関して,図面とともに,次の事項が記載されている。
ア.「【発明の属する技術分野】本発明は,ディーゼル車等の排ガス浄化のため排ガス再循環クーラ(以下,EGRクーラという)等に用いられる高温腐蝕性ガスを冷却する熱交換器や,腐蝕性液体を扱う化学プラント用の液-液間の熱交換器の製造方法およびその方法を用いて製造された熱交換器に関する。」(段落【0001】)
イ.「【従来の技術】EGRクーラは,高温で腐蝕性の強い排ガスが流通するため,通常耐蝕性のあるステンレス鋼材が用いられる。・・・」(段落【0002】)
ウ.「この例では,フィン1は多数の切り起こし部が形成されたマルチエントリー型の波形フィンを用いているが,これに代えて通常の波形フィンを使用しその稜線方向を偏平チューブ2の長手方向に整合させて偏平チューブ2内に挿入してもよい。何れにしても,フィン1の高さは偏平チューブ2の断面の内面高さよりも僅かに小なるものが選択される。・・・」(段落【0008】)
エ.「なお,ケーシング4の両端部には一対の冷却水パイプ7が直接または,図示しないフランジ用ボス部を介して配置されると共に,一対のタンク本体5には夫々ガスパイプ8が溶接固定されて熱交換器を完成する。そして一方の冷却水パイプ7から冷却水が流入し,他方の冷却水パイプ7からそれが流出する。そして一方側のタンク本体5のガスパイプ8から高温の排ガスが供給され各偏平チューブ2内を流通し,他方のタンク本体5のガスパイプ8からそれが流出する。そして偏平チューブ2内を排ガスが流通する間に,偏平チューブ2の外周の冷却水との間で熱交換が行われる。この熱交換器の偏平チューブ2の内面は,それに内装されたフィン1がろう付けされているため,両者間の伝熱性が高く効率良く熱交換が行われる。」(段落【0012】)
オ.図1には,偏平チューブ2の長手方向とフィン1は多数の切り起こし部が平行に形成されていることが図示されている。

上記記載事項及び図面の図示内容を総合すると,刊行物7には次の事項が記載されていると認められる。
「偏平チューブ2内を排ガスが流通する間に,偏平チューブ2の外周の冷却水との間で熱交換が行われるEGRクーラにおいて,ステンレス鋼材からなる偏平チューブにステンレス鋼材からなるマルチエントリー型の波形フィンを用い,波形フィンは排気ガスの流れ方向に平行な方向で切り起こし部が切り起こされたEGRクーラ。」

第7 当審の判断
1.訂正の目的の適否,新規事項の追加の有無,及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項1,5,6及び7は特許請求の範囲の減縮を目的とするものと認められ,また,訂正事項2ないし4及び8は明りょうでない記載の釈明を目的とするものと認められる。
さらに,訂正事項1ないし8は,新規事項を追加するものではなく,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものでもない。

2.独立特許要件
(1)対比
(1-1)訂正発明1
訂正発明1と引用発明とを対比すると,各文言の意味,機能または作用等からみて,引用発明の「エンジン」は,訂正発明1の「エンジン(1)」に相当し,以下同様に,「エンジンから来る排ガス」及び「排ガス」は,通常粒子状物質を含有しているから,「エンジン(1)での燃焼により発生した粒子状物質を含有する排気ガス」及び「排気ガス」に,「管3」は「チューブ(21)」に,「フィン薄板」は「インナーフィン(22)」に,「凸部を一方側と他方側に交互に位置させて曲折する波形状」は「略垂直な断面形状が,凸部(31)を一方側と他方側に交互に位置させて曲折する波形状」に,「切り起こし部」は「切り起こし部(32)」に,「構造体の縦ピッチをL」は,構造体であるフィン薄板の凸部の中心同士の距離もLであるから,「前記断面形状にて,前記一方側と前記他方側のうちの同一側で隣り合う前記凸部の中心同士の距離であるフィンピッチの大きさをfp」に,「構造体高さをh」は「前記断面形状における前記一方側の凸部から前記他方側の凸部までの距離であるフィン高さをfh」に,それぞれ相当する。
そして,引用発明の「排ガス熱交換に用いる熱交換器1」と,訂正発明1の「排気熱交換専用に用いる熱交換器」とは,「排気熱交換に用いる熱交換器」で共通し,以下同様に,「冷却剤」と「冷却水」とは「冷却剤」で共通し,「熱伝導の改良を可能にするフィン薄板」と「前記排気ガスと前記冷却水との間での熱交換を促進させるステンレス製のインナーフィン(22)」とは「前記排気ガスと前記冷却剤との間での熱交換を促進させるインナーフィン(22)」で共通する。
また,引用発明では「hは1mmから5mm,Lはhの0.5倍から6倍」であるから,引用発明の構造体の縦ピッチLは0.5mmから30mmとなるので,訂正発明1における「2<fp≦12(単位:mm)を満足する大きさ」を含んでいる。

そこで,訂正発明1の用語を用いて表現すると,両者は次の点で一致する。
(一致点)
「エンジンでの燃焼により発生した粒子状物質を含有する排気ガスと前記排気ガスを冷却する冷却剤との間での熱交換を行う排気熱交換に用いる熱交換器において,
内部を前記排気ガスが流れ,外部を前記冷却剤が流れるチューブと,
前記チューブ内に配置され,前記排気ガスと前記冷却剤との間での熱交換を促進させるインナーフィンとを備え,
前記インナーフィンは,略垂直な断面形状が,凸部を一方側と他方側に交互に位置させて曲折する波形状であって,部分的に切り起こされた切り起こし部を備えるオフセットフィンであり,
前記断面形状にて,前記一方側と前記他方側のうちの同一側で隣り合う前記凸部の中心同士の距離であるフィンピッチの大きさをfpとし,前記断面形状における前記一方側の凸部から前記他方側の凸部までの距離であるフィン高さをfhとしたときに,
前記フィンピッチの大きさが,
2<fp≦12(単位:mm)
を満足する大きさである排気熱交換器。」

そして,両者は次の点で相違する。

(相違点1)
訂正発明1では,排気ガスと前記排気ガスを冷却する冷却水との間での熱交換を専ら行う排気熱交換専用に用いる熱交換器であるのに対して,引用発明では,排気ガスと前記排気ガスを冷却する冷却剤との間での熱交換を行う排気熱交換に用いる熱交換器であって,冷却剤が冷却水であるか否か不明である点。
(相違点2)
訂正発明1では,熱交換後の排気ガスをエンジン側へ流出するのに対して,引用発明では,そのような構成を備えているか否か不明である点。
(相違点3)
訂正発明1では,チューブやインナーフィンがステンレス製であるのに対して,引用発明では,これらの材質が不明である点。
(相違点4)
訂正発明1では,インナーフィンの排気ガスの流れ方向に略垂直な断面形状が波形状であって,排気ガスの流れ方向に平行な方向で切り起こし部が切り起こされるのに対して,引用発明では,インナーフィンや切り起こし部と排気ガスの流れ方向との関係が不明である点。
(相違点5)
訂正発明1では,断面形状にて,一方側と他方側のうちの同一側で隣り合う凸部の中心同士の距離であるフィンピッチの大きさをfpとし,前記一方側と前記他方側のうちの同一側で隣り合う前記凸部と前記凸部との間でフィンとチューブによって囲まれた領域の相当円直径をdeとし,切り起こし部の排気流れ方向での長さをLとし,前記断面形状における前記一方側の凸部から前記他方側の凸部までの距離であるフィン高さをfhとしたときに,
前記切り起こし部の排気流れ方向での長さLが,排気熱交換専用に用いる熱交換器の熱交換性能向上と圧力損失抑制を図るために,
fh<7,fp≦5のとき,0.5<L≦7(単位:mm)(以下「条件1」という。),
fh<7,5<fpのとき,0.5<L≦1(単位:mm)(以下「条件2」という。),
7≦fh,fp≦5のとき,0.5<L≦4.5(単位:mm)(以下「条件3」という。),または
7≦fh,5<fpのとき,0.5<L≦1.5(単位:mm)(以下「条件4」という。)
であって,
さらに,
X=de×L^(0.14)/fh^(0.18)としたときに,
前記相当円直径deおよび前記切り起こし部の排気流れ方向での長さLが,排気熱交換専用に用いる熱交換器の熱交換性能の向上を図ると共に粒子状物質がインナーフィンに堆積することを抑制するために,
1.1≦X≦4.3
を満足する大きさになっているのに対して,引用発明では,fp,fhについて記載されているものの,Xについては不明であり,上記のような条件を満たすか否か不明である点。

(1-2)訂正発明2
訂正発明2は訂正発明1のXについての数値範囲をさらに限定したものであるから,上記相違点1ないし4に加えて,上記相違点5においてその数値範囲を1.2≦X≦3.9とした点で相違する(相違点5’)。

(1-3)訂正発明3
訂正発明3は訂正発明1のXについての数値範囲をさらに限定したものであるから,上記相違点1ないし4に加えて,上記相違点5においてその数値範囲を1.3≦X≦3.5とした点で相違する(相違点5’’)。

(2)判断
(2-1)相違点1について
排気熱交換器において,排気ガスの冷却剤として冷却水を用いることは,刊行物2ないし7に記載されているように従来周知であって,冷却剤として冷却水を選ぶことに困難性はなく,当業者が容易に想到し得たことである。
そして,引用発明は排気熱交換に用いる熱交換器を特定したものであるから,排気熱交換専用に用いる熱交換器ということができるものであり,排気熱交換専用とした点は,当業者が容易に想到し得たことといわざるをえない。
したがって,引用発明において,相違点1に係る発明特定事項とすることは,当業者が容易に想到し得たことである。

(2-2)相違点2について
排気熱交換器において,熱交換後の排気ガスをエンジン側へ流出するものは,刊行物2,3に記載されているように従来周知(刊行物4の記載事項ウ,刊行物5の記載事項ウ,刊行物6の記載事項ウ参照。)である。
したがって,引用発明において,排気熱交換器として熱交換後の排気ガスをエンジン側へ流出するものとすることは,当業者が容易に想到し得たことである。

(2-3)相違点3について
排気熱交換器において,耐蝕性を考慮してチューブやインナーフィンにはステンレス鋼材が用いられるものであり(刊行物7の記載事項イ),また,刊行物2,3,5,7にも記載されているようにステンレスを用いることは従来周知でもある。
したがって,引用発明において,チューブやインナーフィンをステンレス製とすることは,当業者が容易に想到し得たことである。

(2-4)相違点4について
引用例4ないし7に記載されているように,インナーフィンの排気ガスの流れ方向に略垂直な断面形状が波形状で,排気ガスの流れ方向に平行な方向で切り起こし部が切り起こされるものは従来周知であり,引用発明においても,当業者が排気ガス方向を上記のようなものとすることは格別困難ではなく,容易に想到し得たことである。

(2-5)相違点5,5’,5’’について
ア.訂正明細書等の記載からすると,訂正発明1の条件1ないし4は,フィン高さfh,フィンピッチfpの大きさをいずれも重複しない4つの範囲に分け,それぞれの範囲において,EGRクーラの冷却性能と圧力損失の大きさの両方を考慮した指数であるEGRガス密度ρに着目し,ρ比を99%以上にするセグメント長さLの最適範囲を特定したものであると認められるから,前記各条件は,択一的な数値限定であるといえる。このことは,請求項1では,前記各条件について,条件1ないし3は,それぞれ「,」で区切られ,条件3と4の間には,「または」と記載されることによって,各条件が択一的なものとして関連づけられていることからも明らかである。
なお,訂正発明1の条件1ないし4は,フィンの高さfhについては,7mm未満の場合と7mm以上の場合,フィンピッチの大きさfpについては,5mm以下の場合と5mm超の場合に区分して設定されたものであるが,fhについて7mmという数値で区分し,また,fpについて5mmという数値で区分を設けたことの格別の技術的意義の有無については,訂正明細書に記載はない。
イ.条件1ないし4について
前記のとおり,訂正発明1は,フィン高さfh,フィンピッチfpの大きさをいずれも重複しない4つの範囲に分け,それぞれの範囲におけるセグメント長さLの最適範囲を特定したものであり,各条件は,択一的な数値限定であるから,訂正発明1の内容としては,条件1ないし4のいずれかを満たせば足りるものである。
他方,引用発明は,構造体の縦ピッチをLとし,横ピッチをQとし,構造体高さをhとしたときに,hは1mmから5mm,Lはhの0.5倍から6倍,Qはhの0.5倍から8倍となるものであるが,刊行物1では,切り起こし部の排気流れ方向での長さ(訂正発明1のLに相当する)については,特段これを限定する記載はないものの,フィン薄板を形成するに当たり,交互に大きさの異なる切り起こし部を配置する必然性はないし,実施例である図3の形状に照らしても,その長さはQ/2に当たるものと認めるのが相当である。
以上を前提として,引用発明における構造体のフィン高さ,フィンピッチ及び切り起こし部の排気流れ方向での長さにつき,訂正発明1と同様の符号を用いて表記すると,1≦fh≦5,0.5≦fp≦30,0.25≦L≦20となり,この範囲内であれば,いずれの数値も採り得るものである。そうすると,引用発明は,訂正発明1の条件1のfh,fpの数値が重複する範囲においては,同Lの数値(0.5<L≦7)は引用発明のLの数値(fp≦5の場合も,0.25≦L≦20である。)に含まれ,また,条件2のfh,fpの数値が重複する範囲においては,同Lの数値(0.5<L≦1)は引用発明のLの数値(5<fpの場合も,0.25≦L≦20である。)に含まれるといったように,訂正発明1の条件1又は2の数値を充足する部分があることが認められる。
訂正発明1は,条件1ないし4を択一的な数値限定とするものであるから,引用発明が条件1又は2を充足する以上,条件1ないし4に係る構成については,訂正発明1と引用発明とに相違はないということとなる。
ウ.関数Xについて
まず,相当円直径deについて検討する。
引用発明における「管内の流体直径」の定義が刊行物1の記載からでは不明であるが,参考資料1,2及び特開昭62-175588号公報の記載を考慮すると,引用発明における「管内の流体直径」は訂正発明1の「相当円直径de」と同一の値になるものと解される。
そこで,引用発明では管内の流体直径が0.5mmから10mmであるので,これを訂正発明1の記載に倣えば,
0.5≦de≦10(単位:mm)
である。
そして,引用発明における構造体のフィン高さ,フィンピッチ及び切り起こし部の排気流れ方向での長さにつき,訂正発明1と同様の符号を用いて表記すると,1≦fh≦5,0.5≦fp≦30,0.25≦L≦20となるから,例えば,条件1を充足する数値の範囲内から,de=2,L=7,fh=5を選択すると,X(X=de×L^(0.14)/fh^(0.18))=1.97となり,引用発明から算出した関数Xは,訂正発明1のXの数値範囲(1.1≦X≦4.3)を充足することとなる。なお,引用発明から算出した上記関数Xは,訂正発明2のXの数値限定(1.2≦X≦3.9)及び訂正発明3のXの数値限定(1.3≦X≦3.5)についても充足する。また,条件2を充足する数値の範囲から,de=2,L=1,fh=5を選択すると(以上の数値は,条件1も充足するものでもあるが),X(X=de×L^(0.14)/fh^(0.18))=1.50となり,この場合も,引用発明から算出した関数Xは,訂正発明1のXの数値範囲(1.1≦X≦4.3)を充足することとなる。なお,この関数Xも,上記同様,訂正発明2及び訂正発明3におけるXの数値限定を充足する。
したがって,X=de×L^(0.14)/fh^(0.18)としたときに,前記相当円直径de及び前記切り起こし部の排気流れ方向での長さLが,粒子状物質がインナーフィンに堆積することを抑制するために,1.1≦X≦4.3を満足する大きさになるという構成について,訂正発明1と引用発明との間で相違はないということになる。訂正発明2及び3についても同様である。また,排気熱交換器において,熱交換性能の向上と圧力損失の抑制を図ると共に粒子状物質によるインナーフィンの目詰まりを防止することは周知の課題であるから,引用発明においても想定内の課題であったといえる。

なお,請求人は意見書において,「訂正発明のXの式は,『排気熱交換専用に用いる熱交換器』においてのみ適用でき,排ガス熱交換器にも過給空気熱交換器にも使用できるオフセットフィンには適用できないのである。即ち,Xの式が適用可能な熱交換器は引用発明には開示されておらず,引用発明のインナーフィンに,流体直径deが2mm,切り起こし部長さLが7mm,フィン高さfhが5mmとなるものが仮にあるとしても,その事を以て,訂正発明のXの式を満足する熱交換器が引用発明に記載されている事にはならないのである。引用発明は,単にオフセットフィンには所定の緒元があることを想定させるのみである。」旨主張しているが,引用発明は,刊行物1に記載された排ガス熱交換器の用途がある熱交換器,すなわち,排ガス熱交換に用いられる熱交換器を特定して認定しているのであるから,訂正発明のXの式が適用できることは明らかであり,請求人の主張は理由がない。
また,訂正発明1のXの式自体は刊行物1ないし7には記載も示唆もされていないが,上記のとおり訂正発明で特定しているXの範囲を満足する,流体直径de,切り起こし部長さL,フィン高さfhを備えた排気ガス熱交換器が刊行物1に記載されている以上,相違点5の関数Xの値について訂正発明1と引用発明との間で相違はない。

そして,訂正発明1ないし3が奏する作用効果についてみても,引用発明,刊行物2ないし7号証に記載された事項から,当業者が予測しうる程度のものである。

なお,請求人は「Xの式に数値を当てはめても,その結果がEGRガス密度比ρを93%以上に保たれる値に入るか否か判断が出来ない」,「偶々選んだ緒元が『排気熱交換専用に用いる熱交換器』にとって価値のある値であるのか否かが判断できない」(意見書11-12ページ)旨主張しているが,訂正発明1ないし3は,「排気熱交換専用に用いる熱交換器」に関する「もの」の発明であって,排気熱交換専用に用いる熱交換器の判断方法の発明ではなく,請求人の主張は理由がない。また,「訂正発明の熱交換器では,図13に示されるように,EGRガス密度比ρを93%以上に保つ事ことが出来る」と主張するが,刊行物1には相違点5の関数Xの値を満足する排ガス熱交換器が記載されている以上,その作用効果に相違はない。

したがって,訂正発明1ないし3は,引用発明,刊行物2ないし7号証に記載された事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである。

(3)むすび
以上のとおり,訂正発明1ないし3は,特許法第29条第2項の規定に違反し,特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

第8 むすび
したがって,本件審判の請求は,特許法第126条第5項の規定に適合しない。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-03-13 
結審通知日 2012-03-15 
審決日 2012-03-27 
出願番号 特願2007-182056(P2007-182056)
審決分類 P 1 41・ 856- Z (F28F)
P 1 41・ 121- Z (F28F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 柿沼 善一  
特許庁審判長 森川 元嗣
特許庁審判官 青木 良憲
松下 聡
長浜 義憲
平上 悦司
登録日 2009-01-09 
登録番号 特許第4240136号(P4240136)
発明の名称 排気熱交換器  
代理人 碓氷 裕彦  
代理人 井口 亮祉  
代理人 大庭 弘貴  

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