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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C08J
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 C08J
管理番号 1269123
審判番号 不服2011-1361  
総通号数 159 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-03-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-01-20 
確定日 2013-01-24 
事件の表示 特願2005-115601「バリア性を有する複合酸素吸収性フィルムおよびそれを使用した包装製品」拒絶査定不服審判事件〔平成18年10月26日出願公開、特開2006-291087〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 主な手続の経緯
本願は,平成17年4月13日を出願日とする特許出願であって,平成22年5月20日付けで拒絶理由が通知され,同年7月22日に意見書が提出されるとともに特許請求の範囲が補正され,同年10月21日付けで拒絶査定がされたところ,これに対して,平成23年1月20日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に特許請求の範囲が補正されたので,特許法162条所定の審査がされた結果,同年2月14日付けで同法164条3項の規定による報告がされ,平成24年6月5日付けで同法134条4項の規定による審尋がされ,同年8月3日に回答書が提出されたものである。

第2 補正の却下の決定

[結論]
平成23年1月20日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1 平成23年1月20日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)の内容
本件補正は特許請求の範囲を変更する補正であるところ,本件補正の前後における特許請求の範囲の請求項1の記載は,それぞれ以下のとおりである。
・ 本件補正前(平成22年7月22日付け手続補正書)
「酸化性樹脂と遷移金属触媒とを含む樹脂組成物と,熱可塑性樹脂をビヒクルの主成分とする樹脂組成物とを使用し,それらを共押出積層し,上記の酸化性樹脂と遷移金属触媒とを含む樹脂組成物による酸素吸収性樹脂層と,上記の熱可塑性樹脂をビヒクルの主成分とする樹脂組成物によるヒ-トシ-ル性樹脂層とが順次に積層した2層共押出多層積層フィルム,
または,酸化性樹脂と遷移金属触媒とを含む樹脂組成物と,熱可塑性樹脂をビヒクルの主成分とする樹脂組成物とを使用し,それらを共押出積層し,上記の熱可塑性樹脂をビヒクルの主成分とする樹脂組成物によるヒ-トシ-ル性樹脂層と,上記の酸化性樹脂と遷移金属触媒とを含む樹脂組成物による酸素吸収性樹脂層と,上記の熱可塑性樹脂をビヒクルの主成分とする樹脂組成物によるヒ-トシ-ル性樹脂層とが順次に積層した3層共押出多層積層フィルムからなり,
更に,上記の2層共押出多層積層フィルムの酸素吸収性樹脂層の面,または,上記の3層共押出多層積層フィルムの一方のヒ-トシ-ル性樹脂層の面に,無機酸化物を主体とするバリア性薄膜またはダイヤモンド状炭素膜を主体とするバリア性薄膜を設けること
を特徴とするバリア性,酸素吸収性およびヒ-トシ-ル性を有する複合酸素吸収性フィルム。」
・ 本件補正後
「酸化性樹脂と遷移金属触媒とを含む樹脂組成物と,熱可塑性樹脂をビヒクルの主成分とする樹脂組成物とを使用し,それらを共押出積層し,上記の酸化性樹脂と遷移金属触媒とを含む樹脂組成物による酸素吸収性樹脂層と,上記の熱可塑性樹脂をビヒクルの主成分とする樹脂組成物によるヒ-トシ-ル性樹脂層とが順次に積層した2層共押出多層積層フィルム,
または,酸化性樹脂と遷移金属触媒とを含む樹脂組成物と,熱可塑性樹脂をビヒクルの主成分とする樹脂組成物とを使用し,それらを共押出積層し,上記の熱可塑性樹脂をビヒクルの主成分とする樹脂組成物によるヒ-トシ-ル性樹脂層と,上記の酸化性樹脂と遷移金属触媒とを含む樹脂組成物による酸素吸収性樹脂層と,上記の熱可塑性樹脂をビヒクルの主成分とする樹脂組成物によるヒ-トシ-ル性樹脂層とが順次に積層した3層共押出多層積層フィルムからなり,
更に,上記の2層共押出多層積層フィルムの酸素吸収性樹脂層の面,または,上記の3層共押出多層積層フィルムの一方のヒ-トシ-ル性樹脂層の面に,化学気相成長法または物理気相成長法による無機酸化物を主体とするバリア性薄膜またはダイヤモンド状炭素膜を主体とするバリア性薄膜を直接設けること
を特徴とするバリア性,酸素吸収性およびヒ-トシ-ル性を有する複合酸素吸収性フィルム。」

2 本件補正の目的
本件補正は,補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である無機酸化物を主体とするバリア性薄膜またはダイヤモンド状炭素膜を主体とするバリア性薄膜について,補正前に,2層共押出多層積層フィルムの酸素吸収性樹脂層の面または3層共押出多層積層フィルムの一方のヒ-トシ-ル性樹脂層の面に当該バリア性薄膜を「設ける」とのみ特定されていたものを,当該バリア性薄膜を「直接設ける」と限定するものであり,さらに本件補正は,上記バリア性薄膜を構成する主体である「無機酸化物」または「ダイヤモンド状炭素膜」のうち,「無機酸化物」について,「化学気相成長法または物理気相成長法による」との限定を付加する補正事項を含むものである(しかも,補正の前後で,請求項1に記載の発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題は変わらない。)。
よって,本件補正は,少なくとも請求項1についてする補正については,平成18年法律第55号改正前の特許法17条の2第4項2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
なお,本件補正は,いわゆる新規事項を追加するものとも認められない。

3 独立特許要件違反の有無について
上記2のとおりであるから,本件補正後の請求項1に記載された発明(以下「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか,要するに,本件補正が特許法17条の2第5項で準用する同法126条5項の規定に適合するものであるか,いわゆる独立特許要件違反の有無について検討するところ,本件補正は当該要件に違反すると判断される。
すなわち,本願補正発明は,本願の出願前に頒布された刊行物である下記引用文献4に記載された発明(以下「引用発明4」という。),同引用文献1に開示の技術事項及び出願時に周知の技術事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
・ 引用文献4: 特開2004-99732号公報
・ 引用文献1: 特開平7-101468号公報
以下,特許を受けることができない理由を,下記5において詳述する。

4 本願補正発明
本願補正発明は,本件補正により補正された特許請求の範囲並びに明細書及び図面(以下「本願補正明細書」という。)の記載からみて,その特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される以下のとおりのものであると認める。
「酸化性樹脂と遷移金属触媒とを含む樹脂組成物と,熱可塑性樹脂をビヒクルの主成分とする樹脂組成物とを使用し,それらを共押出積層し,上記の酸化性樹脂と遷移金属触媒とを含む樹脂組成物による酸素吸収性樹脂層と,上記の熱可塑性樹脂をビヒクルの主成分とする樹脂組成物によるヒ-トシ-ル性樹脂層とが順次に積層した2層共押出多層積層フィルム,
または,酸化性樹脂と遷移金属触媒とを含む樹脂組成物と,熱可塑性樹脂をビヒクルの主成分とする樹脂組成物とを使用し,それらを共押出積層し,上記の熱可塑性樹脂をビヒクルの主成分とする樹脂組成物によるヒ-トシ-ル性樹脂層と,上記の酸化性樹脂と遷移金属触媒とを含む樹脂組成物による酸素吸収性樹脂層と,上記の熱可塑性樹脂をビヒクルの主成分とする樹脂組成物によるヒ-トシ-ル性樹脂層とが順次に積層した3層共押出多層積層フィルムからなり,
更に,上記の2層共押出多層積層フィルムの酸素吸収性樹脂層の面,または,上記の3層共押出多層積層フィルムの一方のヒ-トシ-ル性樹脂層の面に,化学気相成長法または物理気相成長法による無機酸化物を主体とするバリア性薄膜またはダイヤモンド状炭素膜を主体とするバリア性薄膜を直接設けること
を特徴とするバリア性,酸素吸収性およびヒ-トシ-ル性を有する複合酸素吸収性フィルム。」

5 本願補正発明が特許を受けることができない理由
(1) 引用発明4
ア 引用文献4には,次の記載がある。(なお,下線は当審で付した。以下同じ。)
「【請求項1】 水添スチレンブタジエンゴムと,金属塩または金属酸化物からなる遷移金属触媒からなる酸素吸収性樹脂組成物。…
【請求項4】 水添スチレンブタジエンゴムと,金属塩または金属酸化物からなる遷移金属触媒が,他の熱可塑性樹脂中に分散されてなることを特徴とする請求項1記載の酸素吸収性樹脂組成物。…
【請求項6】 請求項1又は4記載の酸素吸収性樹脂組成物からなる脱酸素性のフィルム。
【請求項7】 請求項1又は4記載の酸素吸収性樹脂組成物からなる脱酸素層を含む脱酸素性多層体。…」(【特許請求の範囲】)
「【発明の属する技術分野】 本発明は,乾燥状態から高湿度状態までの広い湿度範囲において優れた酸素吸収能を有する樹脂組成物に関する。詳しくは,酸素酸化により変質あるいは劣化し易い製品,特に食品,飲料,医薬品,医療品,化粧品,金属製品,電子製品などの保存に適用できる酸素吸収性樹脂組成物に関する。
本発明の酸素吸収性樹脂組成物は,酸素吸収性容器の本体材料もしくは蓋材として好適に使用することができるフィルム状の酸素吸収性単層体もしくは多層体としても利用される。」(【0001】)
「…この水添スチレンブタジエンゴムは,スチレンブタジエンゴムの水素化反応により,ブタジエン単位の脂肪族炭素-炭素二重結合が実質的に存在しなくなる程度にまで水素添加して得られる。本発明で使用する実質的に脂肪族炭素-炭素不飽和結合を有しない水添スチレンブタジエンゴムは,ポリエチレン系およびポリプロピレン系などの他の熱可塑性樹脂と混練した際に100nm程度以下の寸法で超微分散する性質を有する。
本発明の酸素吸収性樹脂組成物は,重量部当たり100mL/g以上の酸素を吸収し得る。かかる酸素吸収量は,水添スチレンブタジエンゴム中に微量に残存するかもしれない脂肪族炭素-炭素不飽和結合の等量数と比較にならないくらい大きな酸素吸収可能量である。酸素吸収の反応機構は明らかでないが,前記した事実は,本発明の酸素吸収性樹脂組成物の酸素吸収反応が,樹脂に残留する脂肪族炭素-炭素二重結合の酸化によるものでないことを示している。」(【0010】?【0011】)
「水添スチレンブタジエンゴムと遷移金属触媒が配合される他の熱可塑性樹脂は,加熱により軟化して塑性を示し成形できる樹脂であり,ポリエチレン,ポリプロピレンなどのポリオレフィン,ポリ塩化ビニル,ポリ塩化ビニリデンなどのポリ塩化樹脂,ポリスチレンなどの芳香族炭化水素樹脂,ポリエチレンテレフタレートなどのポリエステル,ナイロン6,ナイロン66などのポリアミド及びこれらの一種以上を含む樹脂組成物が例示される。」(【0015】)
「さらに,本発明の酸素吸収性樹脂組成物は,そのまま又は適当な包装材料と積層することにより,脱酸素性の包装材料として包装袋や包装容器の一部または全部に用いることができる。例えば,本発明の酸素吸収性樹脂組成物を脱酸素層とし,一方の側に酸素透過性が高く,かつ熱融着性を兼ね備えた熱可塑性樹脂を包装される内容物との隔離層として積層し,他方の側に酸素透過性が低い樹脂層,金属層又は金属酸化物層をガスバリヤー層として積層して,フィルム状の脱酸素性多層体とすることができる。脱酸素層の厚みは,300μm以下が好ましく,10?200μmがより好ましい。」(【0019】)
「特に,ポリオレフィン層/本発明の酸素吸収性樹脂組成物層/透明ガスバリヤー性樹脂層を基本構成とする脱酸素性多層体は,透明な脱酸素性包装材料として使用できる。透明ガスバリヤー性樹脂としては,シリカもしくはアルミナを蒸着したポリエステルもしくはポリアミド,MXD6,エチレン-ビニルアルコール共重合体,塩化ビニリデンを例示することができる。」(【0020】)
イ 上記アのとおり,引用文献4には,水添スチレンブタジエンゴムと,金属塩または金属酸化物からなる遷移金属触媒からなる酸素吸収性樹脂組成物からなる脱酸素層を含む脱酸素性多層体フィルムについて(特許請求の範囲),その好例として,脱酸素層の一方の側に酸素透過性が高くかつ熱融着性を備えた熱可塑性樹脂からなる隔離層を積層し,他方の側に酸素透過性が低い樹脂,金属又は金属酸化物からなるガスバリヤー層を積層する旨の記載があること(【0019】)などを総合すると,次のとおりの引用発明4が記載されていると認める。
「水添スチレンブタジエンゴムと遷移金属触媒が他の熱可塑性樹脂中に分散されてなる酸素吸収性樹脂組成物からなる脱酸素層を含む脱酸素性多層体フィルムであって,脱酸素層の一方の側に熱融着性を備えた熱可塑性樹脂からなる隔離層を積層し,他方の側に酸素透過性が低い樹脂,金属又は金属酸化物からなるガスバリヤー層を積層した脱酸素性多層体フィルム」

(2) 対比
ア 本願補正発明と引用発明4を対比する。
本願補正発明の「酸化性樹脂」は,本願補正明細書の【0017】?【0023】にその例示がうかがえるものの,【0006】や【0024】などの記載からすれば,これら例示のものに限定されるものではなく,遷移金属触媒による作用と相俟って酸素捕集機能を発現する樹脂をいうものと解される。そして,引用文献4には,酸素吸収の機序は明らかでないとしつつも(【0011】),引用発明4の「水添スチレンブタジエンゴム」又は「水添スチレンブタジエンゴム」及び「他の熱可塑性樹脂」が,遷移金属触媒による作用と相俟って酸素吸収(捕集)機能を発現する樹脂である旨の記載がある(因みに,本願補正明細書は「酸化性樹脂」の一例としてナイロン6-6を挙げているところ(【0021】),このナイロン6-6は,引用文献4の【0015】において,引用発明4の「他の熱可塑性樹脂」の例として挙げられている樹脂である。)。
そうすると,引用発明4の「水添スチレンブタジエンゴム」又は「他の熱可塑性樹脂」は,酸素捕集機能を発現する樹脂として本願補正発明の「酸化性樹脂」と何ら変わるところはないから,本願補正発明の「酸化性樹脂」に相当するといえる。同様に,「水添スチレンブタジエンゴムと遷移金属触媒が他の熱可塑性樹脂中に分散されてなる酸素吸収性樹脂組成物」は「酸化性樹脂と遷移金属触媒とを含む樹脂組成物」に,「水添スチレンブタジエンゴムと遷移金属触媒が他の熱可塑性樹脂中に分散されてなる酸素吸収性樹脂組成物からなる脱酸素層」は「酸化性樹脂と遷移金属触媒とを含む樹脂組成物による酸素吸収性樹脂層」にそれぞれ相当するといえる。
また,引用発明4の「熱融着性を備えた熱可塑性樹脂からなる隔離層」は,その文言どおり熱融着性を備えているので,本願補正発明の「熱可塑性樹脂」に係る本願補正明細書(【0034】など)の記載を併せ勘案すると,本願補正発明の「熱可塑性樹脂をビヒクルの主成分とする樹脂組成物によるヒ-トシ-ル性樹脂層」に相当する。
また,引用発明4の「酸素透過性が低い樹脂,金属又は金属酸化物からなるガスバリヤー層」は,脱酸素層(酸素吸収性樹脂層)の面に積層されている(設けられている)ので,本願補正発明の「バリア性薄膜」に相当するものであるといえる。
さらに,引用発明4の「脱酸素性多層体フィルム」は,ガスバリヤー層,酸素吸収能を備えた脱酸素層,熱融着性を備えた融離層からなる積層体であるから,本願補正発明の「バリア性,酸素吸収性およびヒ-トシ-ル性を有する複合酸素吸収性フィルム」に相当するのは明らかである。

イ したがって,本願補正発明と引用発明4とが一致する点(一致点),相違する点(相違点1?2)は,それぞれ次のとおりである。
・ 一致点
酸化性樹脂と遷移金属触媒とを含む樹脂組成物と,熱可塑性樹脂をビヒクルの主成分とする樹脂組成物とを使用し,それらを積層し,上記の酸化性樹脂と遷移金属触媒とを含む樹脂組成物による酸素吸収性樹脂層と,上記の熱可塑性樹脂をビヒクルの主成分とする樹脂組成物によるヒ-トシ-ル性樹脂層とが順次に積層した多層積層フィルムからなり,更に,上記多層積層フィルムの酸素吸収性樹脂層の面にバリア性薄膜を設けたバリア性,酸素吸収性およびヒ-トシ-ル性を有する複合酸素吸収性フィルム
・ 相違点1
本願補正発明の酸素吸収性樹脂層(脱酸素層)とヒートシール性樹脂層(隔離層)とは「共押出」により積層されるものであるのに対し,引用発明4はそのような特定がない点
・ 相違点2
バリア性薄膜(ガスバリヤー層)について,本願補正発明は「化学気相成長法または物理気相成長法による無機酸化物を主体とする」か,または,「ダイヤモンド状炭素膜を主体とする」ものであって,酸素吸収性樹脂層(脱酸素層)の面に「直接」設けると特定するのに対し,引用発明4は樹脂,金属又は金属酸化物からなると特定するものではあるが,その他の特定がない点

(3) 相違点についての判断
ア 相違点1について
樹脂組成物からなる2層積層フィルムを製造するにあたり,共押出により積層することは,例を挙げるまでもなく周知の技術である。
そうすると,引用発明4において,酸素吸収性樹脂組成物からなる脱酸素層の一方の側に熱融着性を備えた熱可塑性樹脂からなる融離層を積層するにあたり,上記脱酸素層と融離層とを共押出積層することは,本願の出願時に周知であった上記技術を単に採用したにすぎない。

イ 相違点2について
(ア) 上記(1)イで認定のとおり,引用発明4の「酸素透過性が低い樹脂,金属又は金属酸化物からなるガスバリヤー層」は脱酸素層の他方の側に積層されるもの,すなわち,ガスバリヤー層は脱酸素層の面に設けられるものである。
なお,引用文献4の【0020】には,上記ガスバリヤー層が透明ガスバリヤー性樹脂層であるとしたとき,透明ガスバリヤー性樹脂として,シリカもしくはアルミナを蒸着したポリエステルもしくはポリアミド,MXD6,エチレン-ビニルアルコール共重合体,塩化ビニリデンを例示できる旨記載されてはいるが,あくまでガスバリヤー層が透明ガスバリヤー性樹脂層であるときの例示にすぎないから,引用発明4のガスバリヤー層は,上記態様のもの(例えば,アルミナを蒸着したポリエステル)に限定されない。
(イ)a ところで,引用文献1には,次の記載がある。
「少なくとも2種類以上の熱可塑性樹脂と酸化触媒とからなる酸素バリアー性樹脂組成物による酸素バリアー性樹脂組成物層上に,無機物質薄膜層を設けた構成を有することを特徴とする酸素バリアー性包装材料。」(【請求項1】)
「本発明は,特に包装用資材として供与される酸素バリアー性包装材料に関する。」(【0001】)
「本発明に用いられる酸化触媒とは,好ましくは遷移金属の化合物等からなる金属触媒が用いられる。このような遷移金属においては,金属イオンは酸化状態から還元状態,還元状態から酸化状態へと遷移する過程で酸素と熱可塑性樹脂が反応することを触媒するものと考えられる。」(【0010】)
「本発明における熱可塑性樹脂としては,例えば高密度ポリエチレン,低密度ポリエチレン,直鎖低密度ポリエチレン,ポリプロピレン,ポリブテン,ポリメチルペンテンなどの単独重合体やエチレン,プロピレン,ブテン,メチルペンテンなどのオレフィンから選ばれる2つ以上のモノマーの共重合体等のポリオレフィン類が挙げられる。あるいはEVOH,ポリ塩化ビニリデン,ポリ塩化ビニール,ポリエステル,ポリカーボネート,ポリメチルメタクリレート,ポリアクリロニトリル,ポリスチレン,ポリウレタン,ポリアミド,ポリビニルアセテート,ポリビニルアルコール,ポリオキシメチレンなどが挙げられ,さらには前記ポリマーにおけるモノマー成分と一般的にオレフィンから選ばれる2つ以上のモノマーの共重合体あるいはその変性樹脂が挙げられる。」(【0014】)
「本発明で形成する無機物質薄膜層の無機物質としては,Al,Mg,Ca,Sn,Ti,Zn,Zr等の金属,およびその酸化物,非金属無機物の酸化物のいずれかであることが好ましい。またその形成方法としては,公知の真空蒸着,プラズマ蒸着,イオンプレーティング,スパッタリング等の方法が適用できる。これらの無機物質薄膜層の厚さは200?1500Åでよい。」(【0019】)
「さらに実用上の機能を付与するために本発明の酸素バリアー性包装材料に他の熱可塑性樹脂を積層することが行われる。例えば無機物質薄膜層が外的,物理的劣化することから保護するため,無機物質薄膜層側に熱可塑性樹脂を積層することが行われる。また包装体としての強度を向上させるなどの目的で,酸化触媒を含有する酸素バリアー性樹脂組成物層側に熱可塑性樹脂を積層することが行われる。この場合先に当該酸化触媒を含有する酸素バリアー性樹脂組成物層と熱可塑性樹脂の積層体を形成しこの上に無機物質薄膜層を形成する方法,当該酸化触媒を含有する酸素バリアー性組成物層上に先に無機物質薄膜層を形成しこれにあとから熱可塑性樹脂を積層する方法,いずれにおいても周知の加工方法によって製造することができる。」(【0020】)
「前記酸化触媒を含有する酸素バリアー性樹脂組成物層においては,熱可塑性樹脂が酸化触媒作用により酸化することで,層内に酸素をトラップする働きにより,酸素バリアー性が発現される。」(【0021】)
「この様な一連の酸化ラジカル反応は酸化触媒を含有する酸素バリアー性樹脂組成物層の成形加工時に酸素の存在下で直ちに開始するものと考えられるが,反応初期においてその酸素をトラップしバリアーする効果は充分ではない。そこで本発明における無機物質薄膜層は本発明の酸素バリアー性包装材料形成時より直ちに初期における酸素バリアー性を実現するものである。
本発明における無機物質薄膜層は酸化触媒を含有する酸素バリアー性樹脂組成物層を通過する酸素量を抑制する。つまりピンホール等により無機物質薄膜層をわずかながら通過しようとする酸素を前記酸化触媒を含有する酸素バリアー性樹脂組成物層は層内にトラップし,これにより長期間にわたって高い酸素バリアー性を発現することができる。」(【0023】?【0024】)
「<実施例1> …ラジカル抑制剤の添加されていないEVOHとポリプロピレンに酸化触媒としてステアリン酸コバルト(II)を使用し,コバルト原子濃度が200ppmとなるように同時期に混合した酸素バリアー性樹脂組成物層1を40μmの厚さとなるようフィルムを作成した。このフィルムの片面に無機物質薄膜層2として,プラズマ蒸着法により酸化ケイ素を500Åの厚さに形成し,本発明の酸素バリアー性包装材料を得た。…」(【0026】)
b すなわち,上記aの摘記から,引用文献1には,フィルムなどの形態からなる酸素バリヤー性包装材料において,酸素を捕捉する機能を有する酸素バリアー性樹脂組成物層(引用発明4の「脱酸素層」に相当。)の上に低酸素透過性を奏する無機酸化物からなる無機物質薄膜層(同「ガスバリヤー層」に相当。)を設けるにあたり,当該無機物質薄膜層を,酸素バリアー性樹脂組成物層の面に直接,プラズマ蒸着(化学気相成長法)や真空蒸着,イオンプレーティングもしくはスパッタリング(物理気相成長法)により設ける技術の開示があるといえる。
(ウ) そうすると,引用発明4において,酸素吸収性を有する脱酸素層の面に酸素透過性の低いガスバリヤー層を設けようとするにあたり,引用発明4と同様に,酸素吸収性層の面に酸素透過性の低い層を設けることを開示する引用文献1の技術(上記(イ)b)を採用すること,すなわち,酸素吸収性樹脂層(脱酸素層)の面に化学気相成長法または物理気相成長法による無機酸化物を主体とするバリア性薄膜(ガスバリヤー層)を直接設けることは,当業者であれば想到容易である。

ウ 小活
よって,本願補正発明は,引用発明4,引用文献1の技術事項及び周知の技術事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないといえる。

6 本願補正発明が特許を受けることができない他の理由
本願補正発明が特許を受けることができない理由は上記5で述べたとおりであるが,その他の理由も存在する。すなわち,上記5の理由は,引用文献4に記載された発明(引用発明4)を主たる引用発明として本願補正発明のいわゆる進歩性を否定するものであるが,本願補正発明は,引用文献1に記載された発明(以下「引用発明1」という。)を主たる引用発明としてみたとき,進歩性を有しないともいえる。
以下,詳述する。
(1) 引用発明1
上記5(3)イ(イ)での摘記,特に【請求項1】の記載から,引用文献1には次のとおりの引用発明1が記載されていると認める。
「少なくとも2種類以上の熱可塑性樹脂と酸化触媒とからなる酸素バリアー性樹脂組成物による酸素バリアー性樹脂組成物層の面に,低酸素透過性を奏する無機酸化物からなる無機物質薄膜層を直接,プラズマ蒸着(化学気相成長法)や真空蒸着,イオンプレーティングもしくはスパッタリング(物理気相成長法)により設けた構成を有する酸素バリアー性包装材料フィルム」

(2) 対比
ア 本願補正発明と引用発明1を対比する。
引用文献1の【0010】から,引用発明1の「酸化触媒」は,本願補正発明の「遷移金属触媒」に相当する。また,引用発明1の「熱可塑性樹脂」は,酸化触媒(遷移金属触媒)の作用によって酸素捕集機能を発現する樹脂であるといえるところ(【0021】),これは本願補正発明の「酸化性樹脂」と何ら変わるところはないから,本願補正発明の「酸化性樹脂」に相当する。そうすると,引用発明1の「酸素バリアー性樹脂組成物層」は,本願補正発明の「酸素吸収性樹脂層」に相当するといえる。
また,引用発明1の「低酸素透過性を奏する無機酸化物からなる無機物質薄膜層」は,酸素バリアー性樹脂組成物層(酸素吸収性樹脂層)の面に直接,プラズマ蒸着(化学気相成長法)や真空蒸着,イオンプレーティングもしくはスパッタリング(物理気相成長法)により設けられているので,本願補正発明の「バリア性薄膜」に相当するものであるといえる。
さらに,引用発明1の「酸素バリアー性包装材料フィルム」は,一応,バリア性を有する無機物質薄膜層,酸素吸収能を備えた酸素バリアー性樹脂組成物層からなる積層体であるから,本願補正発明の「複合酸素吸収性フィルム」に相当するといえる。

イ したがって,本願補正発明(3層共押出多層積層フィルムからなる場合を除く。)と引用発明1とが一致する点(一致点),相違する点は,それぞれ次のとおりである。
・ 一致点
酸化性樹脂と遷移金属触媒とを含む樹脂組成物による酸素吸収性樹脂層の面に,化学気相成長法または物理気相成長法による無機酸化物を主体とするバリア性薄膜を主体とするバリア性薄膜を直接設けることを特徴とするバリア性,酸素吸収性を有する複合酸素吸収性フィルム
・ 相違点
本願補正発明は,「熱可塑性樹脂をビヒクルの主成分とする樹脂組成物」を使用し,これを酸化性樹脂と遷移金属触媒とを含む樹脂組成物とともに「共押出積層」して,酸化性樹脂と遷移金属触媒とを含む樹脂組成物による酸素吸収性樹脂層と熱可塑性樹脂をビヒクルの主成分とする樹脂組成物によるヒ-トシ-ル性樹脂層とが順次に積層した2層共押出多層積層フィルムであるのに対し,引用発明1はそのような特定がない,すなわち,酸素バリアー性樹脂組成物層(酸素吸収性樹脂層)における無機物質薄膜層(バリア性薄膜)が設けられている面の反対の面にヒートシール性樹脂層が設けられていない点

(3) 相違点についての判断
上記5(1)アの摘記,特に【0019】の記載から,引用文献4には,酸素吸収性樹脂組成物層(酸素バリアー性樹脂組成物層,酸素吸収性樹脂層)におけるガスバリヤー性樹脂層(無機物質薄膜層,バリア性薄膜)が設けられている面の反対の面に,熱融着性を備えた熱可塑性樹脂からなる隔離層(ヒートシール性樹脂層)を設ける技術の開示がある。
そうすると,引用発明1において,バリア性,酸素吸収性とともにヒートシール性をも兼ね備えた酸素吸収性フィルムを得ようとした当業者が,引用文献4に開示されている上記技術を採用することは,想到容易である。
そして,樹脂組成物からなる2層積層フィルムを製造するにあたり,共押出により積層することは例を挙げるまでもなく周知の技術であるから,引用発明1における酸素バリアー性樹脂組成物層に熱可塑性樹脂からなるヒートシール性樹脂層を積層するに際し,これら樹脂層を共押出積層することは,本願の出願時に周知であった技術を単に採用したにすぎない。
(4) 小活
よって,本願補正発明は,引用発明1,引用文献4の技術事項及び周知の技術事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないともいえる。

7 まとめ
以上のとおりであるから,本件補正は,平成18年法律55号改正附則3条1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法17条の2第5項において準用する同法126条5項の規定に違反するので,同法159条1項において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下すべきものである。
よって,結論のとおり決定する。

第3 本願発明について
1 本願発明
上記第2のとおり,本件補正は却下されたので,本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は,平成22年7月22日に補正された特許請求の範囲並びに明細書及び図面(以下「本願明細書」という。)の記載からみて,その特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「酸化性樹脂と遷移金属触媒とを含む樹脂組成物と,熱可塑性樹脂をビヒクルの主成分とする樹脂組成物とを使用し,それらを共押出積層し,上記の酸化性樹脂と遷移金属触媒とを含む樹脂組成物による酸素吸収性樹脂層と,上記の熱可塑性樹脂をビヒクルの主成分とする樹脂組成物によるヒ-トシ-ル性樹脂層とが順次に積層した2層共押出多層積層フィルム,
または,酸化性樹脂と遷移金属触媒とを含む樹脂組成物と,熱可塑性樹脂をビヒクルの主成分とする樹脂組成物とを使用し,それらを共押出積層し,上記の熱可塑性樹脂をビヒクルの主成分とする樹脂組成物によるヒ-トシ-ル性樹脂層と,上記の酸化性樹脂と遷移金属触媒とを含む樹脂組成物による酸素吸収性樹脂層と,上記の熱可塑性樹脂をビヒクルの主成分とする樹脂組成物によるヒ-トシ-ル性樹脂層とが順次に積層した3層共押出多層積層フィルムからなり,
更に,上記の2層共押出多層積層フィルムの酸素吸収性樹脂層の面,または,上記の3層共押出多層積層フィルムの一方のヒ-トシ-ル性樹脂層の面に,無機酸化物を主体とするバリア性薄膜またはダイヤモンド状炭素膜を主体とするバリア性薄膜を設けること
を特徴とするバリア性,酸素吸収性およびヒ-トシ-ル性を有する複合酸素吸収性フィルム」

2 原査定の拒絶の理由
(1) 原査定の拒絶の理由は,要するに,本願発明は,下記引用文献2に記載された発明(以下「引用発明2」という。)に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない,というものである。
なお,原査定の拒絶の理由は,上述のほか,本願発明は,下記引用文献2に記載された発明であり,特許法29条1項3号に該当し特許を受けることができない,などの理由を含む。
・ 引用文献2: 特開2003-327848号公報

(2) 以下,原査定の拒絶の理由が妥当であるかについて,検討する。

3 引用発明2
(1) 引用文献2には,次の記載がある。
「【請求項1】 熱可塑性樹脂(A)100重量部に対し,以下(1)?(3)に記す成分を少なくとも必須成分として配合したことを特徴とする酸素吸収能樹脂組成物。
(1)遷移金属を含む化合物Tを金属換算で0.001?2重量部。
(2)ベンゾイル基あるいは置換基を有するベンゾイル基を含む化合物あるいはアジド化合物から1種類以上選択される少なくとも1種以上から選択される光増感化合物を0.001?2重量部。
(3)飽和あるいは不飽和の脂肪酸あるいはそのエステル化物,天然脂肪酸,天然ゴム,合成ゴムから選択され,熱可塑性樹脂(A)よりも分解性を有する化合物の少なくとも1種以上を0.01?20重量部。
【請求項2】 前記熱可塑性樹脂(A)が,ポリエチレン,エチレン-αオレフィン共重合体,少なくとも1種のαオレフィンからなるポリαオレフィン,αオレフィン-エチレン共重合体,エチレン-環状オレフィン共重合体などのポリオレフィン樹脂,エチレン-α,β不飽和カルボン酸あるいはそのエステル化物,あるいはそのイオン架橋物,エチレン-酢酸ビニル共重合体あるいはその部分けん化物あるいは完全けん化物に代表されるエチレン系共重合体,あるいは酸無水物などのグラフト変性ポリオレフィン樹脂,ポリスチレン,ポリアクリロニトリルなどの単体あるいはこれら1種以上の混合物であることを特徴とする請求項1記載の酸素吸収能樹脂組成物。…
【請求項5】 前記酸素吸収能の酸素吸収機構が,遷移金属塩を酸化触媒とした熱による自動酸化,あるいはUVやEB等の活性エネルギー線を照射することで発生したベンゾイル基あるいは置換基を有するベンゾイル基を含む化合物あるいはアジド化合物由来の各種ラジカルにより,飽和あるいは不飽和脂肪酸あるいはそのエステル化物,エステル化物,天然脂肪,天然ゴム,合成ゴムから選択される分解性化合物と熱可塑性樹脂(A)の共酸化反応により酸素を消費する酸素吸収機構であることを特徴とする請求項1,2,3,または4記載の酸素吸収能樹脂組成物。…
【請求項7】 請求項1,2,3,4,5,6記載の酸素吸収能樹脂組成物を用いた酸素吸収能樹脂層を設けたことを特徴とする積層体。…
【請求項9】 前記酸素吸収能樹脂層の少なくともどちらか片側あるいは両側に,熱可塑性樹脂(C)100重量部に対し前記酸素吸収能樹脂層の酸素吸収過程から発生した遊離ラジカルを捕捉可能な化合物を0.001?2重量部配合した介在樹脂層を設けたことを特徴とする請求項7,8記載の積層体。…
【請求項12】 前記積層体は,酸素透過度が50cm^(3)×25μm(厚さ)/m^(2)(面積)/24h/(1.01325×10^(5)Pa)(圧力)以下の熱可塑性樹脂層,金属箔層,金属蒸着熱可塑性ポリマー層,無機化合物蒸着熱可塑性ポリマー層から選ばれるバリア層の少なくとも1種以上を有することを特徴とする請求項7,8,9,10または11記載の積層体。
【請求項13】 前記バリア層が,ポリエステル層,ポリアミド層,ポリアクリロニトリル層,ポリビニルアルコール層,エチレン-ビニルアルコール共重合体層,ポリ塩化ビニリデン層から選ばれる熱可塑性樹脂層,アルミ箔等の金属箔層,アルミ蒸着層やシリカ蒸着層やアルミナ蒸着層を設けた各種熱可塑性ポリマー層の少なくとも1種以上から選択されることを特徴とする請求項12記載の積層体。
【請求項14】 請求項7,8,9,10,11,12または13記載の積層体から形成されたている^((ママ))ことを特徴とする包装体。…」(【特許請求の範囲】)
「【発明の属する技術分野】 本発明は,酸素吸収能を有する樹脂組成物およびそれを用いた積層体,包装体に関し,さらに詳細には,熱可塑性樹脂に遷移金属化合物,光増感化合物,そして飽和あるいは不飽和の脂肪酸あるいはそのエステル化物などの分解性化合物を配合することで得られた酸素吸収能を有する樹脂組成物,およびその樹脂組成物をバリア層と組み合わせることで得られた酸素バリア性かつ酸素吸収性を有し,かつ強度物性が改善された,酸素吸収能を有する樹脂組成物及びそれを用いた積層体及び包装体に関する。」(【0001】)
「【発明が解決しようとする課題】 本発明の課題は,上記の実情を考慮したものであり,酸素吸収能が高く,かつ酸素吸収の膜物性の低下を抑制し,さらには各種バリア層と複合化させることで酸素バリア性/酸素吸収性を有する積層体および包装体を得ることにある。」(【0014】)
「樹脂組成物の主成分となる熱可塑性樹脂(A)としては,ポリオレフィン系樹脂あるいはエチレン系共重合体が挙げられる。…」(【0036】)
「これらの熱可塑性樹脂に配合する必須成分として,まず遷移金属を含む化合物Tが挙げられる。この遷移金属を含む化合物Tは,酸化分解による酸素吸収機構の触媒として働くものであり,本発明の酸素吸収能を有する樹脂組成物においては必須である。…」(【0038】)
「上述してきた酸素吸収樹脂組成物は,それ単独でも使用することが可能であるが,酸化劣化に伴う膜物性の低下を引き起こす。また臭気の発生や黄変も伴う恐れがある。それを改善するためにも,酸素吸収樹脂組成物は熱可塑性樹脂(B)に配合した方が好ましい。…
この時,樹脂組成物(B)は熱可塑性樹脂(A)に対して非相溶系の樹脂であることが好ましい。…
本発明の酸素吸収能を有する樹脂組成物として非相溶系のポリマーブレンドが好ましい理由としては以下の内容が挙げられる。酸素吸収ポリマーの酸素吸収機構は,光増感化合物の光によるラジカル発生,遷移金属の酸化触媒作用,分解性化合物の共酸化反応などを複合化させたラジカル連鎖反応で説明される。つまり,酸化過程で発生した各種遊離ラジカルが熱可塑性樹脂骨格を攻撃することで,酸化反応が連鎖的に進行し,その結果酸素を吸収(消費)している。」(【0045】?【0047】)
「本発明の酸素吸収能を有する樹脂組成物は,押出ラミネーション成形,押出キャスト成形,インフレーション成形,インジェクション成形,ダイレクトブロー成形など各種成形法を用いて,酸素吸収能を有する樹脂組成物の単膜あるいは積層体とすることが可能である。また上述した成形法で得られたフィルム(インフレーションなど)については後工程でドライラミネーションやウエットラミネーション,ノンソルベントラミネーションにより積層体を得ることも可能であり,またインジェクション成形で得られたプリフォームを延伸ブロー成形により多層延伸ブローボトルにすることも可能であるが,これらの成形法に限られるものではない。」(【0052】)
「積層体にする時の重要事項は,上記酸素吸収能を有する樹脂組成物の少なくともどちらか片側,好ましくは両側に熱可塑性樹脂(C)層を設け,その熱可塑性樹脂(C)100重量部に対し,酸素吸収能を有する樹脂組成物層の酸素吸収過程から発生した遊離ラジカルを捕捉可能な化合物を必須成分として,0.001?2重量部配合していることである。この遊離ラジカルを補足可能な化合物こそ上述してきたヒンダードフェノールやリン系の酸化防止剤が挙げられ,…。」(【0053】)
「熱可塑性樹脂(C)は酸素吸収能を有する樹脂組成物の膜物性を維持するために必須の層であり,熱可塑性樹脂(A),熱可塑性樹脂(B)で記載した樹脂を用いることが可能である。」(【0054】)
「本発明の酸素吸収能を有する樹脂組成物単体は,酸素吸収能は有するが,それを構成している熱可塑性樹脂が酸素透過性の高い材料であるため,酸素の透過と吸収という協奏が発生し,酸素の透過が大になる問題が発生する。そのような問題を克服するという意味でも,本発明による樹脂組成物を用いた積層体は少なくとも一層は,酸素透過度[50cm^(3)×25μm(厚さ)/m^(2)(面積)/24h/(1.01325×10^(5)Pa(圧力))]以下のバリア層を設けた方が好ましい。これらの材料としては,ポリエチレンテレフタレート,ポリエチレンナフタレートなどのポリエステル樹脂,ポリアミド6やポリアミド6-ポリアミド66共重合体,MXD6など芳香族ポリアミドに代表されるポリアミド樹脂,ポリアクリルニトリル樹脂,ポリビニルアルコール樹脂,エチレン-ビニルアルコール共重合体樹脂,ポリ塩化ビニリデン樹脂から選択される熱可塑性樹脂層,アルミ箔などの金属箔層,アルミ,シリカ,アルミナなどのPVD蒸着法あるいは,ヘキサメチレンジシロキサンなどのオルガノシランやアセチレンガスやその他の炭素ガス源を用いたCVD蒸着法により得られた蒸着熱可塑性樹脂層が挙げられる。さらには,これらの蒸着層,特にPVD蒸着において,そのガスバリア性を向上させるため,ポリビニルアルコール/シラン化合物系のオーバーコート層を設けても構わない。また,蒸着層と熱可塑性樹脂層の密着性を向上させるための各種プライマー層を設けていても構わない。
これらのバリア層を用いることで,これらのバリア層を僅かに透過した酸素ガスを,酸素吸収能を有する樹脂組成物による酸素吸収能樹脂層が完全に吸収してくれるだけでなく,消費する透過酸素ガスの量が少ないため,包装体のヘッドスペースの酸素ガスを吸収することが可能になる。」(【0057】?【0058】)
「【実施例】…
酸素吸収能樹脂組成物及びそれを用いた積層体(評価サンプル)の作成には以下の材料を用いた。
[熱可塑性樹脂(A)]
・(A1):ホモポリプロピレン樹脂(MI=2)
・(A2):プロピレン-ブテン-1共重合体樹脂(MI=4)
[熱可塑性樹脂(B)]
・(B1):エチレン-ヘキセン-1共重合体(MI=4)
・(B2):ホモポリプロピレン樹脂(MI=6)
・(B3):無水マレイン酸変成ポリエチレン樹脂(MI=4)
[熱可塑性樹脂(C)]
・C1 :エチレン-ヘキセン-1共重合体
・C2 :ランダムポリプロピレン樹脂
[遷移金属化合物T]
・T1 :ステアリン酸コバルト
・T2 :ヒドロキシステアリン酸鉄
・T3 :ステアリン酸銅
[光増感剤P] …
[分解性化合物L] …」(【0062】?【0063】)
「上記材料を用いて酸素吸収能樹脂組成物及びそれを用いた積層体(評価サンプル)の作成,製造を下記の通り実施した。まず,熱可塑性樹脂(A)を100重量部に対し,必須成分の遷移金属成分として,遷移金属化合物T0.2重量部,光増感剤P0.1重量部,不飽和脂肪酸エステル1.5重量部と…ペレット状の酸素吸収能樹脂組成物を作成した。…
次に,上記ペレット状の酸素吸収能樹脂組成物と,上記熱可塑製樹脂(B)とを,酸素吸収能樹脂組成物/熱可塑製樹脂(B)=30/70になるようにドライブレンドしたものを,3種3層共押出キャスト製膜機(φ=65mm,L/D=23)の中間層押出部より押し出して酸素吸収能樹脂組成物による酸素吸収能樹脂層(フィルム層)を形成しながら,上記熱可塑製樹脂(C)を,その3種3層共押出キャスト製膜機の中間層押出部の両側にある両側層押出部より押し出して,前記酸素吸収能樹脂層の両面に熱可塑製樹脂(C)による介在樹脂層を形成して,酸素吸収能樹脂層と,その両面の熱可塑製樹脂(C)との2種3層共押出フィルムによる積層体(評価サンプル)を作成した。…」(【0064】?【0065】)
「上記評価サンプル積層体にバリア性を付与した評価サンプルバリア性積層体の作成には以下の材料を用いた。
[バリア性基材S]
・S1 :アルミナ蒸着ポリエステル基材(厚さ12μm)(ポリビニルアルコール/シランカップリング剤系オーバーコート層有り)
・S2 :ポリエステル基材(厚さ25μm)/ウレタン系接着剤/アルミ箔層(7μm)
あらかじめこれらのバリア性基材層S1 ,S2 には,低密度ポリエチレンフィルム(40μm)をドライラミネート法により積層させた。
[ラミネート用樹脂]
・Ex1:低密度ポリエチレン樹脂(B1 : MI=23,押出ラミネートグレード)」(【0066】)
「上記積層体とバリア性基材を用いて,バリア性積層体(評価サンプル)の作成を下記の通り実施した。
得られた酸素吸収能樹脂層と,その両面の熱可塑製樹脂(C)との2種3層共押出フィルムによる上記積層体(評価サンプル)を,上記各種バリア性基材S上にサンドラミネーション手法によりラミネート用樹脂を用いて厚さ15μmで積層させた。…
[評価サンプル積層体の調整および評価法]…
また上記評価サンプルの作成にて得られた酸素吸収能樹脂層と,その両面の熱可塑製樹脂(C)との2種3層共押出フィルムによる積層体をバリア性基材S上にサンドラミネーション手法にてラミネートしたバリア性積層体に対して,酸素吸収能樹脂層を有する積層体側から,高圧水銀ランプを用いて照射エネルギー2000mJ/cm^(2)になるようにUV(又はEB)照射したバリア性積層体を,220mm×220mmに切り取って半分に二つ折りして重ね合わせ,その二方の周囲をシール幅10mmのインパルスシール機によりシールし,その後…パウチ状の真空包装体を作成し,…酸素吸収能力について評価した。…」(【0067】?【0070】)

(2) 上記(1)での摘記,特に特許請求の範囲の記載から,引用文献2には,次のとおりの発明(引用発明2)が記載されていると認める。
「ポリオレフィン系樹脂あるいはエチレン系共重合体からなる熱可塑性樹脂(A)に対し,遷移金属触媒,ベンゾイル基あるいは置換基を有するベンゾイル基を含む化合物あるいはアジド化合物から1種類以上選択される少なくとも1種以上から選択される光増感化合物,及び,飽和あるいは不飽和の脂肪酸あるいはそのエステル化物,天然脂肪酸,天然ゴム,合成ゴムから選択され,熱可塑性樹脂(A)よりも分解性を有する化合物の少なくとも1種以上,を必須成分として配合した酸素吸収能樹脂組成物を用いた酸素吸収能樹脂層を設けた積層体から形成された包装体であって,
前記酸素吸収能樹脂層のどちらか片側あるいは両側に,熱可塑性樹脂(C)に対し前記酸素吸収能樹脂層の酸素吸収過程から発生した遊離ラジカルを捕捉可能な化合物を配合した介在樹脂層が設けられており,
さらに前記積層体は,酸素透過度が50cm^(3)×25μm(厚さ)/m^(2)(面積)/24h/(1.01325×10^(5)Pa)(圧力)以下のシリカ蒸着もしくはアルミナ蒸着熱可塑性ポリマー層であるバリア層が設けられてなる包装体」

4 対比
(1)ア 本願発明と引用発明2を対比すると,本願明細書に,本願発明の「酸化性樹脂」の例としてエチレン系不飽和炭化水素ポリマーなどが例示されていることからして(【0017】?【0023】),引用発明2の「熱可塑性樹脂(A)」は本願発明の「酸化性樹脂」に相当する。同様に,「酸素吸収能樹脂組成物」は「酸化性樹脂と遷移金属触媒とを含む樹脂組成物」に,「酸素吸収能樹脂層」は「酸化性樹脂と遷移金属触媒とを含む樹脂組成物による酸素吸収性樹脂層」にそれぞれ相当する。
イ また,引用発明2の酸素吸収能樹脂層(酸素吸収性樹脂層)のどちらか片側あるいは両側に設けられてなる「介在樹脂層」についてみるに,引用文献2の【0054】の記載から,当該介在樹脂層を構成する熱可塑性樹脂(C)は,【請求項2】や【0036】において熱可塑性樹脂(A)として掲記されているものと同じ樹脂であるということができる。そして,引用文献2の【請求項2】などに掲記の樹脂が本願発明のヒートシール性樹脂層を構成する熱可塑性樹脂として例示する樹脂(本願明細書の【0034】)と大凡同じであること,これら樹脂がヒートシール性を有するのは自明であること,引用文献2には,その実施例(【0067】?【0070】)において,熱可塑性樹脂(C)で構成された樹脂層どうしをインパルスシール機によりシール(ヒートシール)する旨の記載があることなどを総合勘案すると,引用発明2の「介在樹脂層」は,本願発明の「熱可塑性樹脂をビヒクルの主成分とする樹脂組成物によるヒ-トシ-ル性樹脂層」に相当するものであるといえる。
ウ(ア) また,引用発明2の「バリア層」は,酸素吸収能樹脂層の面に設けられるか(介在樹脂層が酸素吸収能樹脂層の片側に設けられている場合),介在樹脂層の面に設けられる(介在樹脂層が酸素吸収能樹脂層の両側に設けられている場合)ものであり,しかも,シリカ蒸着やアルミナ蒸着による膜は無機酸化物を主体とするものであるといえるので,本願発明の「バリア性薄膜」に相当する。
(イ) なお,上記第2で却下された本件補正に係る本願補正発明が,「バリア性薄膜」について,酸素吸収性樹脂層の面またはヒートシール性樹脂層の面にバリア性薄膜を「直接」設けると特定していたことに関連して,以下付記する。
バリア性薄膜についての本願補正発明の上記特定に対し,本願発明はバリア性薄膜を上記面に直接設けると特定していない。すなわち,本願発明の要旨を認定するにあたって,バリア性薄膜を設けることによる本願発明の解決課題(酸素ガスなどの透過の阻止。例えば,本願明細書の【0035】参照。)が達成される限りにおいて,バリア性薄膜は上記面に設けられていればよく,直接設けられたものかどうかとは無関係であると解される。このことは,本願明細書に,直接設けることの実施例のみが記載されていても変わらない(本願発明の要旨は,本願明細書に記載されているもののみに限定して認定されるべきでなく,特段の事情のない限り,特許請求の範囲の記載に基づいてされるべきである。)。
とすると,引用発明2の「バリア層」は,酸素吸収能樹脂層の面に設けられるか介在樹脂層の面に設けられるものであるから,このような構成は,本願発明の「バリア性薄膜」が酸素吸収性樹脂層の面またはヒートシール性樹脂層の面に設けられる構成と何ら相違しないといえる。
このことは,仮に引用発明2が,引用文献2の【0057】の記載を参酌して,バリア層と酸素吸収能樹脂層もしくは介在樹脂層との間にオーバーコート層やプライマー層が設けられているものとして認定されるべきであったとしても,結論を何ら左右しない。
エ さらに,引用発明2の「包装体」は,バリア層,酸素吸収能を備えた酸素吸収能樹脂層,ヒートシール性を備えた介在樹脂層からなる積層体であるから,本願発明の「バリア性,酸素吸収性およびヒ-トシ-ル性を有する複合酸素吸収性フィルム」に相当する。

(2) したがって,本願発明と引用発明2とが一致する点(一致点),相違する点(相違点)は,それぞれ次のとおりである。
・ 一致点
酸化性樹脂と遷移金属触媒とを含む樹脂組成物と,熱可塑性樹脂をビヒクルの主成分とする樹脂組成物とを使用し,それらを積層し,上記の酸化性樹脂と遷移金属触媒とを含む樹脂組成物による酸素吸収性樹脂層と,上記の熱可塑性樹脂をビヒクルの主成分とする樹脂組成物によるヒ-トシ-ル性樹脂層とが順次に積層した2層積層フィルム,
または,酸化性樹脂と遷移金属触媒とを含む樹脂組成物と,熱可塑性樹脂をビヒクルの主成分とする樹脂組成物とを使用し,それらを積層し,上記の熱可塑性樹脂をビヒクルの主成分とする樹脂組成物によるヒ-トシ-ル性樹脂層と,上記の酸化性樹脂と遷移金属触媒とを含む樹脂組成物による酸素吸収性樹脂層と,上記の熱可塑性樹脂をビヒクルの主成分とする樹脂組成物によるヒ-トシ-ル性樹脂層とが順次に積層した3層積層フィルムからなり,
更に,上記の2層積層フィルムの酸素吸収性樹脂層の面または上記の3層積層フィルムの一方のヒ-トシ-ル性樹脂層の面に無機酸化物を主体とするバリア性薄膜を設けたバリア性,酸素吸収性およびヒ-トシ-ル性を有する複合酸素吸収性フィルム
・ 相違点
本願発明の酸素吸収性樹脂層(酸素吸収能樹脂層)とヒートシール性樹脂層(介在樹脂層)とは「共押出」により積層されるものであるのに対し,引用発明2はそのような特定がない点

(3) 相違点についての判断
樹脂組成物からなる2層あるいは3層積層フィルムを製造するにあたり,共押出により積層することは,本願の出願時に周知の技術である。このことは,3層積層フィルムを製造する手段に係る引用文献2の実施例(【0067】?【0070】)において,共押出により積層させる技術が記載されていることからも明らかである。
そうすると,引用発明2において,酸素吸収性樹脂層(酸素吸収能樹脂層)とヒートシール性樹脂層(介在樹脂層)とを積層するにあたり,上記酸素吸収能樹脂層と介在樹脂層とを共押出によって積層することは,上記周知の技術を単に採用したにすぎない。

(4) 小活
よって,本願発明は,引用発明2に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないといえる。

第4 むすび
以上のとおり,原査定の拒絶の理由は妥当なものであるから,本願の他の請求項に係る発明について検討するまでもなく,本願は拒絶すべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-11-13 
結審通知日 2012-11-27 
審決日 2012-12-10 
出願番号 特願2005-115601(P2005-115601)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C08J)
P 1 8・ 575- Z (C08J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 繁田 えい子  
特許庁審判長 蔵野 雅昭
特許庁審判官 小野寺 務
須藤 康洋
発明の名称 バリア性を有する複合酸素吸収性フィルムおよびそれを使用した包装製品  
代理人 金山 聡  

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