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審決分類 審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 特許、登録しない。 H02K
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H02K
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 H02K
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H02K
管理番号 1269808
審判番号 不服2012-3174  
総通号数 160 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-04-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2012-02-20 
確定日 2013-02-07 
事件の表示 特願2006-179354「電動パワーステアリング用モータ」拒絶査定不服審判事件〔平成20年 1月17日出願公開、特開2008- 11638〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成18年6月29日の出願であって、平成23年5月27日付で拒絶の理由が通知され(発送日:平成23年5月31日)、これに対し、平成23年7月26日付で意見書及び手続補正書が提出されたが、平成23年11月21日付で拒絶査定がなされ(発送日:平成23年11月29日)、これに対し、平成24年2月20日に拒絶査定不服審判の請求がなされると共に手続補正書が提出されたものである。


2.平成24年2月20日付の手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成24年2月20日付の手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。

[理由I]
(1)補正の内容
本件補正前の特許請求の範囲は、以下のとおりである。
「【請求項1】
肉厚(注:「肉圧」は誤記。以下同様。)が不均一に形成されたフレームと、このフレームの内部に焼ばめ又は圧入によって固定された固定子コアと、この固定子コアに空隙を介して配置された回転子を有し、上記固定子コアの軸方向端部の外周側に対向する位置であって、上記フレームの内周面に凹部を設けたことを特徴とするモータ。
【請求項2】
上記フレームの内周面と上記凹部とが円弧状につながるように構成されたことを特徴とする請求項1記載のモータ。
【請求項3】
上記凹部は上記フレームの周方向の一部に設けられていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のモータ。
【請求項4】
肉厚が不均一に形成されたフレームと、このフレームの内部に焼ばめ又は圧入によって固定された固定子コアと、この固定子コアに空隙を介して配置された回転子を有し、上記固定子コアの軸方向端部の外周側に対向する位置であって、上記フレームの内周面にテーパ状の凹部を設けたことを特徴とするモータ。
【請求項5】
上記テーパ状の凹部は上記フレームの周方向の一部に設けられていることを特徴とする請求項4に記載のモータ。
【請求項6】
外周面に凸部を有するフレームと、このフレームの内部に焼ばめ又は圧入によって固定された固定子コアと、この固定子コアに空隙を介して配置された回転子を有し、上記固定子コアの軸方向下端部の外周側に対向する位置であって、上記凸部の真下に位置する上記フレームの外周面に凸部を設けたことを特徴とするモータ。
【請求項7】
上記凸部は上記フレームの周方向の一部に設けられていることを特徴とする請求項6記載のモータ。
【請求項8】
肉厚が不均一に形成されたフレームと、このフレームの内部に焼ばめ又は圧入によって固定された固定子コアと、この固定子コアに空隙を介して配置された回転子を有し、上記固定子コアの軸方向端部の外周面に凹部を設けたことを特徴とするモータ。
【請求項9】
請求項1から請求項8のいずれか1項に記載のモータの動力を操舵力として利用したことを特徴とする電動パワーステアリングシステム。」

これに対し、本件補正により、特許請求の範囲は、以下のように補正された。
「【請求項1】
フレームと、このフレームの内部に焼ばめ又は圧入によって固定された固定子コアと、この固定子コアに空隙を介して配置された回転子と、上記フレームの外周面に設けられるとともに他の部品と固定するためのねじ穴が設けられた凸部と、上記フレームの外周面に設けられたコントローラとの接合部を有し、上記固定子コアの軸方向端部の外周側に対向する位置であって、上記フレームの内周面に凹部を設けたことを特徴とする電動パワーステアリング用モータ。
【請求項2】
上記フレームの内周面と上記凹部とが円弧状につながるように構成されたことを特徴とする請求項1記載のモータ。
【請求項3】
上記凹部は上記フレームの周方向の一部に設けられていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のモータ。
【請求項4】
フレームと、このフレームの内部に焼ばめ又は圧入によって固定された固定子コアと、この固定子コアに空隙を介して配置された回転子と、上記フレームの外周面に設けられるとともに他の部品と固定するためのねじ穴が設けられた凸部と、上記フレームの外周面に設けられたコントローラとの接合部を有し、上記固定子コアの軸方向端部の外周側に対向する位置であって、上記フレームの内周面にテーパ状の凹部を設けたことを特徴とする電動パワーステアリング用モータ。
【請求項5】
上記テーパ状の凹部は上記フレームの周方向の一部に設けられていることを特徴とする請求項4に記載のモータ。
【請求項6】
フレームと、このフレームの内部に焼ばめ又は圧入によって固定された固定子コアと、この固定子コアに空隙を介して配置された回転子と、上記フレームの外周面に設けられるとともに他の部品と固定するためのねじ穴が設けられた凸部と、上記フレームの外周面に設けられたコントローラとの接合部を有し、上記固定子コアの軸方向下端部の外周側に対向する位置であって、上記凸部及び上記接合部の真下に位置する上記フレームの外周面に凸部を設けたことを特徴とする電動パワーステアリング用モータ。
【請求項7】
上記凸部は上記フレームの周方向の一部に設けられていることを特徴とする請求項6記載のモータ。
【請求項8】
フレームと、このフレームの内部に焼ばめ又は圧入によって固定された固定子コアと、この固定子コアに空隙を介して配置された回転子と、上記フレームの外周面に設けられるとともに他の部品と固定するためのねじ穴が設けられた凸部と、上記フレームの外周面に設けられたコントローラとの接合部を有し、上記固定子コアの軸方向端部の外周面に凹部を設けたことを特徴とする電動パワーステアリング用モータ。」


(2)目的要件について
本件補正が、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項の各号に掲げる事項を目的とするものに該当するかについて検討する。
平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項2号の「特許請求の範囲の減縮」は、第36条第5項の規定により請求項に記載した発明を特定するために必要な事項を限定するものであって、その補正前の当該請求項に記載された発明とその補正後の当該請求項に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるものに限られ、補正前の請求項と補正後の請求項との対応関係が明白であって、かつ、補正後の請求項が補正前の請求項を限定した関係になっていることが明確であることが要請され、補正前の請求項と補正後の請求項とは、一対一又はこれに準ずるような対応関係に立つものでなければならない。

本件補正により、電動パワーステアリングシステムを発明の保護の対象とした本件補正前の請求項9が削除されることにより、モータまたは電動パワーステアリング用モータを発明の保護の対象とした請求項の数は本件補正前後で8と変わらず、独立項及び引用関係も変わらないから、本件補正前の請求項1は本件補正後の請求項1に一応対応している。
本件補正後の請求項1には「上記フレームの外周面に設けられるとともに他の部品と固定するためのねじ穴が設けられた凸部と、上記フレームの外周面に設けられたコントローラとの接合部を有し」との限定が加わり、フレームの肉厚が不均一に形成される、即ちフレームの外周面に凸部が設けられる事に加え、他の部品と固定するためのねじ穴、コントローラとの接合部が設けられ、フレームと他の部品、及び、フレームとコントローラを結合するという課題を解決している。しかし、本件補正前の請求項1には、ねじ穴、接合部に関する記載は無く、フレームと他の部品の結合、及び、フレームとコントローラの結合という課題が存在していない。
そうであれば、補正前の当該請求項に記載された発明とその補正後の当該請求項に記載される発明の解決しようとする課題が同一である「特許請求の範囲の減縮」には該当しない。

したがって、本件補正は、特許請求の範囲の減縮を目的とする補正とは認められない。
また、本件補正が、請求項の削除、誤記の訂正及び明りょうでない記載の釈明を目的としたものでないことも明らかである。


(3)むすび
したがって、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項の規定に違反するものであるから、特許法第159条第1項の規定において読み替えて準用する特許法第53条第1項の規定により却下すべきものである。


[理由II]
上記のとおり、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項の各号に掲げるいずれの事項を目的とするものにも該当しないが、仮に本件補正が、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当するとして、本件補正後の前記請求項1に係る発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する特許法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。

(1)特許法第36条第6項第1号について
本件補正後の請求項1の記載に基づけば、本願補正発明は、凸部・接合部はフレームの外周面に設けられれば良く、凹部は固定子コアの軸方向端部の外周側に対向する位置のフレームの内周面に設けられれば良く、その他に凸部・接合部・凹部に関する限定は無い。
しかし、明細書には、
「図6は図1におけるA-A線正面断面図であり、フレーム3の一部に凸部4が設けられている。また、凸部4に対向する位置であって、フレーム3の内周面に変形を抑制するための凹部9が設けられている。」(【0019】)、
「図6においては、凹部9の周方向の長さが凸部4の周方向の長さとほぼ同じ場合を示したが、凹部9の周方向の長さが凸部4の周方向の長さよりも大きくなるように構成してもよいし、更には凹部9の周方向の長さが凸部4の周方向の長さよりも小さくなるように構成してもよい。」(【0021】)、
「図7は別の例を示す正面断面図であり、図7に示すように、フレーム3の中心から偏心した円の円弧に沿う形状になるよう凹部9を形成することもできる。即ち図6に示されるように、フレーム3の内周面と凹部9の接合部に段差が発生しないように、フレーム3の内周面と凹部9とが円弧状に滑らかにつながるように構成するものである。この場合は、切削加工がし易く、生産性に優れているという効果がある。」(【0023】)、
「図9は図8におけるB-B線側面断面図である。フレーム3の下部3c付近に他の部品との接合部6が設けられていて、この部分においてフレーム3の肉厚が大きくなっている。図10は上部3aにおける正面断面図、図11は下部3cにおける正面断面図であり、中部3bにおける正面断面図は図10と同様である。」(【0026】)、
「図11において、他の部品との接合部6に対応する位置に、変形を抑制するための凹部9が設けられているが、従来のように凹部9が設けられていない場合は、この部分の応力が大きくなって、固定子コア1の内径の形状に歪みが生じる。」(【0028】)、
とあるのみで、凸部・接合部と凹部が周方向で同一の位置に設けられることの記載はあるが、凸部・接合部と凹部が周方向での位置関係に制限がないことは記載も示唆もない。
したがって、凸部・接合部と凹部が周方向での位置関係に制限がない本願補正発明は、出願時の技術常識に照らしても、請求項1に係る発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえず、特許法第36条第6項第1号の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができない。


(2)特許法第29条第2項について
(2-1)引用例
本願出願前に頒布された特開2005-304150号公報(以下、「引用例1」という。)には、図面と共に以下の事項が記載されている。

1-a「この発明は、コギングトルクの低減を目的とした回転電機に関するものである。
現在使用されている殆どのモータにはトルクムラと呼ばれる問題があり、これがモータの振動・騒音を発生させる原因の一つとなっている。そしてこの問題の発生要因の一つとしてコギングトルクがある。コギングトルクとは、モータの構成部品である永久磁石と鉄心の相互作用によって発生するトルクのことであり、回転子を回転させたときに、トルクの脈動成分として現れる。このコギングトルクを減らすことによって、モータの位置決め精度向上や騒音・振動の低減を図ることができるため、近年、モータ性能をはかる重要なファクターとなっている。
従来の、例えば同期型ACサーボモータは、図32及び図33に示すように構成されている。図において、1はサーボモータで、固定子2と、この固定子2の内部空間に配置される回転子3と、この回転子3を軸方向の両側から回転自在に支持する負荷側および反負荷側ハウジング4、5とで構成されている。前記固定子2は、例えばアルミニュウム合金などでできた金属製フレーム6と、この金属製フレーム6の内周面に焼きばめ等により固定された固定子鉄心7と、この固定子鉄心7に巻上げられる図示しない固定子巻線とで構成されている。
また、前記両ハウジング4、5は、前記固定子2に図示しないボルト等で固定されるため、金属製フレーム6には複数個所にネジ穴8が設けられている。そのため、金属製フレーム6は、図33に示すように、肉厚が周方向で不均一な形状をしている。前記固定子2の組立にあたっては、加熱した金属製フレーム6に鉄心7を挿入する焼きばめ固定、あるいは金属製フレーム6と鉄心7を加熱硬化型接着剤で固定する製法などがとられている。
このような従来のサーボモータにおいては、金属製フレーム6の肉厚が周方向で不均一な形状をしているため、焼きばめ後の冷却収縮時に、厚肉部と薄肉部とで鉄心に対して発生する応力に差が生じ、鉄心7の磁気回路に歪みを与えコギングトルクを悪化させるという問題があった。
このような場合の対策として、特許文献1に開示されている発明がある。この発明では、図34に示すように、方形フレーム全周にフィン9を形成し、フィン底部のフレーム6本体の肉厚を略均一化することにより、固定子2をフレーム6で固定する際の固定子にかかる応力を均一化している。
しかし、上記特許文献1に示されている方法では、ボルト穴8等の存在によりフレーム肉厚を略均一にすることが困難となるケースもあり、また、フィン9の製造工程が必要になること、フィンを除いた実効的なフレーム厚が著しく小さくなり、フレーム強度が低下すること、などの問題が生じていた。」(【0001】-【0005】)

1-b「この発明によれば、上記のように構成したので、フレーム厚さの不均一に起因して発生するコギングトルクを低減することができる。 また、必要以上にフレーム肉厚を増すことなくフレームにハウジング固定用のボルト穴を設けることが可能となり、更には、フレームに底面Sを設けることができるので、モータを設置台に対して安定な状態で設置することができる効果を有する。」(【0015】)

1-c「実施の形態1
本実施の形態による回転電機のフレームを、図1?図3に基づいて説明する。図1は固定子10を回転軸21に垂直な平面で切った断面図である。ティース22、スロット23、固定子コアバック24よりなる固定子コア25が、フレーム26の内側に配置されて固定子10を構成している。固定子10の内側には、永久磁石20、回転子コア27及び回転軸21から成る回転子28が配設されている。回転子28に設けられた永久磁石20による界磁磁極は全周に8つ配置されている。また固定子ティース22及び固定子スロット23の数は12個である。すなわち、固定子スロット数12と回転子極数8との差kは4である。なお、この実施の形態1では、フレーム26を五角形で形成した場合を示している。」(【0016】)

1-d「実施の形態7
実施の形態7による実施例を図19に示す。実施の形態1?6では,フレーム内周面は概略円筒状に形成されており、この内周面がほぼ全面にわたりコアと接触していた。即ち、応力分布を形成するための肉厚分布は、フレームの外周側の形状を工夫することで実現していた。それに対し本実施例では、フレーム外周面を概略円筒形状としている一方、内周面に突起30及び溝31を設けることで肉厚分布を実現している。その結果、フレーム内周面のうち、コアに接触するのは突起30部分のみであり、フレームとコアとは周方向に部分的にしか当たっていない。なお、それ以外の構成については実施の形態1と同様である。
このとき、実施の形態1と同様にして回転方向位置θに対しフレームの肉厚T(θ)をプロットすると図20のようになり、これをθ=360°分を基準としてフーリエ級数展開すると図21のようになる。このように構成した場合でも、図21から分かるように、実施の形態1と同様、フレーム厚みの変動数n=3と、スロット数と極数の差k=4とは一致していない。この結果、低次のコギングトルクの発生を防止しつつ、必要以上にフレーム肉厚を増すことなくフレームにハウジング固定用のボルト穴を設けることが可能となる。
実施の形態8
実施の形態8による実施例を図22に示す。実施の形態7では突起部30の方が溝部31よりも狭い場合について記したが、実施の形態8では、これとは反対に突起部30の方が溝部31よりも広く形成した場合を示している。 このとき、実施の形態1と同様にして回転方向位置θに対しフレームの肉厚T(θ)をプロットすると図23のようになり、これをθ=360°分を基準としてフーリエ級数展開すると図24のようになる。
このように構成した場合でも、図24から分かるように、実施の形態1と同様、フレーム厚みの変動数n=3と、スロット数と極数の差k=4とは一致していない。この結果、低次のコギングトルクの発生を防止しつつ、必要以上にフレーム肉厚を増すことなくフレームにハウジング固定用のボルト穴を設けることが可能となる。
なお、また、図19や図22では、フレームに設けた突起30の中心線とコア22のティース中心線とが一致する例について示したが、これに限られるものではなく、図25に示したように、突起30の中心線とスロット23の中心線とが一致するように配置しても良い。」(【0024】-【0025】)

上記記載及び図面を参照すると、フレーム26と、このフレーム26の内部に固定された固定子コア25と、この固定子コア25に空隙を介して配置された回転子28が示されている。

上記記載事項からみて、引用例1には、
「フレームと、このフレームの内部に焼ばめによって固定された固定子コアと、この固定子コアに空隙を介して配置された回転子とを有し、上記固定子コアの外周側に対向する位置であって、上記フレームの内周面に溝を設けたモータ。」
との発明(以下、「引用例1発明」という。)が記載されている。

同じく、本願出願前に頒布された特開2001-95199号公報(以下、「引用例2」という。)には、図面と共に以下の事項が記載されている。

2-a「従来の、例えば同期型ACサーボモータは、図2ないし図4に示すように構成されている。図において、1はサーボモータで、固定子2と、この固定子2の内部空間に配置される回転子3と、この回転子3を軸方向の両側から回転自在に支持する負荷側および反負荷側ハウジング4、5とで構成されている。前記固定子2は、例えばアルミニュウム合金などでできた金属製フレーム6(注:「6A」は誤記。以下同様。)と、この金属製フレーム6の内周面に嵌合固定した鉄心7と、この鉄心7に巻装される図示しない固定子巻線とで構成されている。また、前記両ハウジング4、5は、前記固定子2に図示しないボルトで固定されるため、金属製フレーム6には複数個所にネジ穴8が設けられている。そのため、金属製フレーム6は、図4に示すように、肉厚が大きくばらついた形状をしている。前記固定子2の組立にあたっては、加熱した金属製フレーム6に鉄心7を挿入する焼きバメ固定、あるいは金属製フレーム6と鉄心7を加熱硬化型接着剤で固定する製法がとられている。」(【0002】)

上記記載及び図面を参照すると、金属製フレームの外周面にネジ穴が設けられた凸部が示されている。

同じく、本願出願前に頒布された特開2004-23841号公報(以下、「引用例3」という。)には、図面と共に以下の事項が記載されている。

3-a「図1のモータ1は、電動パワーステアリング装置の駆動源として使用され、運転者がハンドルを操作すると、その操舵角や車両走行速度等に従い、操舵補助力を供給する。」(【0011】)

3-b「モータ1は、図3に示すように、モータ本体21と回路収容ユニット22とが一体化された構成となっている。モータ1は、ステータ4の内側にロータ5を回転自在に配置したいわゆるインナーロータ型のブラシレスモータであり、ホール素子(回転検出素子)10によってロータ5の回転位置を検出するようになっている。ステータ4は、コイル6が巻装されたステータコア7と、ステータコア7を収容する金属製のケース8とから構成される。ステータコア7は、金属板を積層して形成されており、内周側に突設された突極にコイル6が巻回されて巻線が形成されている。
ロータ5は、ロータシャフト2と、ロータシャフト2に固定されたロータマグネット9及びロータマグネット9に外装されたマグネットカバー11とから構成される。ロータシャフト2には円柱状のロータコア12が形成されており、その外周に円筒状のロータマグネット9が固定されている。また、ロータシャフト2は、ベアリング13a,13bにてブラケット14及びケース8に回転自在に支持されている。ブラケット14はアルミダイカスト製の部材であり、ベアリング13aはその中央部に収容固定される。ケース8は金属製の円筒部材であり、ベアリング13bはその端部中央に収容固定される。
ブラケット14とケース8の間には、回路収容ユニット22が介設されている。図3に示すように、回路収容ユニット22の装置内部側にはホール素子10を実装した基板23が取り付けられている。また、回路収容ユニット22には、ホール素子10からの信号に基づき、コイル6に供給する電力を制御する制御駆動回路24が収容されている。」(【0012】-【0014】)

3-c「図4は、回路収容ユニット22の構成を示す分解斜視図である。図4に示すように、回路収容ユニット22は、アルミニウム製のユニット本体25上に、基板26や、制御駆動回路24を構成する電気部品27等を積み重ねた構成となっている。ユニット本体25は、ブラケット14とケース8の間に挟持される取付部33と、取付部33の外端部に一体形成された平板状のベース部34とから構成される。取付部33とブラケット14及びケース8の間はOリング16,17によって気密に接続される。ベース部34は、取付部33からケース8の外周面と対向する形で軸方向、すなわちロータシャフト2の延伸方向に沿って設けられている。ベース部34の下面側には、放熱フィン35と、部品収容部36a,36bが突設されている。部品収容部36a,36bは、それぞれベース部34とケース8との間の間隙37に突出する形で設けられ、その内部は収容空間38となっている。収容空間38は、ベース部34のベース面34aに開口している。」(【0016】)

3-d「本発明のモータによれば、回路収容ユニットのベース部のモータ本体側に、ベース部とモータ本体との間に形成される間隙に突出し、内部に電気部品が収容される空間を有する部品収容部を設けたので、背の高い部品を部品収容部に収容することができ、寸法がまちまちの部品を配線しても、部品上に無駄な空間が生じない。従って、回路収容ユニット内のスペース効率を向上させることができ、ユニットの高さが低く抑えられ、モータの小型化を図ることが可能となる。」(【0024】)


(2-2)対比
そこで、本願補正発明と引用例1発明とを対比すると、引用例1発明の「焼ばめ」、「溝」は、それぞれ本願補正発明の「焼ばめ又は圧入」、「凹部」に相当する。
引用例1発明の「固定子コアの外周側に対向する位置」は、固定子コアの軸方向端部の外周側を含んでいるから、本願補正発明の「固定子コアの軸方向端部の外周側に対向する位置」に相当する。

引用例1発明の「モータ」と、本願補正発明の「電動パワーステアリング用モータ」は、「モータ」の概念で共通する。

したがって、両者は、
「フレームと、このフレームの内部に焼ばめ又は圧入によって固定された固定子コアと、この固定子コアに空隙を介して配置された回転子とを有し、上記固定子コアの軸方向端部の外周側に対向する位置であって、上記フレームの内周面に凹部を設けたモータ。」
の点で一致し、以下の点で相違している。

〔相違点1〕
本願補正発明は、他の部品と固定するためのねじ穴が設けられた凸部がフレームの外周面に設けられるのに対し、引用例1発明は、この様な構成を有しない点。
〔相違点2〕
本願補正発明は、フレームの外周面に設けられたコントローラとの接合部を有するのに対し、引用例1発明は、この様な構成を有しない点。
〔相違点3〕
本願補正発明は、電動パワーステアリング用モータであるのに対し、引用例1発明は、単にモータである点。


(2-3)判断
相違点1について
引用例2にも示されるように、フレーム(「金属製フレーム6」が相当)の外周面に設けられるとともに他の部品(「負荷側および反負荷側ハウジング4、5」が相当)と固定するためのねじ穴(「ネジ穴8」が相当)が設けられた凸部を設けることは、回転電機において慣用手段であるから、引用例1発明においても、上記慣用手段のようにフレームの外周面に他の部品と固定するためのねじ穴が設けられた凸部を設けることは、当業者であれば適宜なし得る程度のことと認められる。
なお、請求人は、平成24年7月3日付回答書において、
『引用文献2においては、フレームの凸部にねじ穴が設けられていますが、この凸部は引用文献2の図2、4に示されているように、軸方向に亘って均一に形成されています。これに対して本願発明においては、図1、2に示されるように、凸部4は軸方向の一部分のみに亘って形成されています。』
と主張するが、本件補正後の請求項1には、凸部がフレーム外周面に形成される範囲については何等記載がないから、請求項の記載に基づかない主張であり、採用できない。

相違点2について
一般にモータは電子制御され、引用例3に示されるように、フレーム(「ケース8」が相当)の外周面に設けられたコントローラ(「制御駆動回路24」が相当)との接合部(「ユニット本体25」が相当)を設けることは、モータにおいて周知の技術であるから、引用例1発明において、モータを電子制御する際に、上記周知の技術のようにフレームの外周面にコントローラとの接合部を設けることは、当業者であれば容易に考えられることと認められる。

相違点3について
引用例3にも示されるように、モータ(「モータ1」が相当)の用途として電動パワーステアリング(「電動パワーステアリング装置」が相当)用とすることは、用途として慣用手段であるから、引用例1発明において、上記慣用手段のようにモータの用途を電動パワーステアリング用とすることは、当業者であれば適宜なし得る程度のことと認められる。

そして、本願補正発明の作用効果も、引用例1発明及び上記慣用手段、周知の技術から当業者が予測できる範囲のものである。
したがって、本願補正発明は、引用例1発明及び上記慣用手段、周知の技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。


(3)むすび
以上のとおり、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するものであり、特許法第159条第1項で準用する特許法第53条の規定により却下されるべきものである。


3.本願発明について
本件補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下、同項記載の発明を「本願発明1」という。)及び本願の請求項8に係る発明(以下、同項記載の発明を「本願発明8」という。)は、上記した平成23年7月26日付手続補正書の特許請求の範囲の請求項1及び8に記載された事項により特定されるとおりのものである。

(1)本願発明1
(1-1)引用例
原査定の理由に引用された実願昭62-104074号(実開昭64-9435号)のマイクロフィルム(以下、「引用例4」という。)には、図面と共に、以下の事項が記載されている。

4-a「第1図?第5図は本考案の一実施例であり、第1図は発電機の縦断面図、第2図は第3図のII-II断面図・・・である。
図中の符号11は本体カバーで、リヤカバー12とフロントカバー13とで構成されている。」(明細書第4頁19行?第5頁5行)

4-b「また、上記リヤカバー12の中途内壁面に形成された段部12dに、ステータ3の後端部3aが嵌合されている。このステータ3の外周には、複数のU字溝3cが等間隔に形成されており、そのU字溝3cに挿通されたボルト21のボルト頭21aがステータ3の前端部3bに掛止され、また、このボルト21の先端ねじ部が上記リヤカバー12の後部中途に螺入されており、このボルト21により上記ステータ3が上記リヤカバー12に押圧固定され、且つ、回り止めされている。
さらに、上記ステータ3の前端部3bの外周と、上記リヤカバー12の開口側の内壁面12eとの間に、ばね性を有するサポートリング15が介装されている。」(明細書第5頁13行?第6頁5行)

4-c「また、上記回転軸17には、上記ステータ3に対設して、このステータ3内を回転するロータ2と、冷却ファン20とが軸着されている。」(明細書第7頁9?11行)

上記記載及び図面を参照すると、肉厚が不均一に形成されたリヤカバー12と、ステータ3の前端部3bの外周に対向する位置であって、上記リヤカバー12の開口側の内壁面に凹部を設けたことが示されている。

上記記載事項からみて、引用例4には、
「肉厚が不均一に形成されたリヤカバー12と、このリヤカバー12の内部に嵌合及びボルト21により固定されたステータ3と、このステータ3に対設されたロータ2を有し、上記ステータ3の前端部3bの外周に対向する位置であって、上記リヤカバー12の開口側の内壁面に凹部を設けた発電機。」
との発明(以下、「引用例4発明」という。)が記載されている。


(1-2)対比
そこで、本願発明1と引用例4発明とを対比すると、引用例4発明の「リヤカバー12」、「ステータ3」、「ロータ2」、「前端部3bの外周」、「開口側の内壁面」は、それぞれ本願発明1の「フレーム」、「固定子コア」、「回転子」、「軸方向端部の外周側」、「内周面」に相当する。
引用例4発明の「ステータ3に対設されたロータ2」は、本願発明1の「固定子コアに空隙を介して配置された回転子」に相当する。

引用例4発明の「リヤカバー12の内部に嵌合及びボルト21により固定されたステータ3」と、本願発明1の「フレームの内部に焼ばめ又は圧入によって固定された固定子コア」は、「フレームの内部に所定手段によって固定された固定子コア」との概念で共通し、引用例4発明の「発電機」と、本願発明1の「モータ」は、「回転電機」の一形態である。

したがって、両者は、
「肉厚が不均一に形成されたフレームと、このフレームの内部に所定手段によって固定された固定子コアと、この固定子コアに空隙を介して配置された回転子を有し、上記固定子コアの軸方向端部の外周側に対向する位置であって、上記フレームの内周面に凹部を設けた回転電機。」
の点で一致し、以下の点で相違している。

〔相違点1〕
本願発明1は、固定子コアが焼ばめ又は圧入によってフレームの内部に固定されるのに対し、引用例4発明は、固定子コアが嵌合及びボルト21によってフレームの内部に固定される点。
〔相違点2〕
本願発明1は、モータであるのに対し、引用例4発明は、発電機である点。


(1-3)判断
相違点1について
回転電機において、固定子コアのフレームへの固定手段として、焼ばめ又は圧入は上記1-a、2-aにもあるように常套手段であるから、引用例4発明において、固定子コアのフレームへの固定手段として、焼ばめ又は圧入を採用することは、当業者であれば適宜なし得ることと認められる。

相違点2について
回転電機は、その使用方法によって発電機として用いることもモータとして用いることもできる(典型例はハイブリッド車等)ものであるから、引用例4発明において、回転電機を発電機ではなくモータとして用いることは、当業者が必要に応じてなし得る設計的事項であると認められる。

そして、本願発明1の作用効果も、引用例4発明及び上記常套手段から当業者が予測できる範囲のものである。
したがって、本願発明1は、引用例4発明及び上記常套手段に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。


(2)本願発明8
(2-1)引用例
原査定の理由に引用された特開2005-229798号公報(以下、「引用例5」という。)には、図面と共に、以下の事項が記載されている。

5-a「次に、図10、図11にもう一つの電動圧縮機Cを示している。この場合、固定子鉄心74の外周面には回転子5の回転軸6延在方向に所定寸法切り欠かれると共に、回転軸6方向に所定深さ切り欠かれた切欠部74Aが設けられている。該切欠部74Aは回転軸6の延在方向で固定子鉄心74の中心よりどちらか一方(図中下側)を切り欠くと共に、回転軸6方向に所定深さ切り欠かいている。この場合、固定子鉄心74とシェル部1A内壁との当接長さをH(図中H1)として固定子鉄心74の積厚(この場合、回転子5の回転軸6方向の寸法)をHoとした場合、0.2≦H1/Ho≦0.8としている。
即ち、固定子鉄心74の回転軸6延在方向に設けられた切欠部74Aの一側部(図中H1)をシェル部1A内壁に当接させると共に、切欠部74Aをシェル部1A内壁より離間させている。尚、固定子鉄心74以外は図1、図2と同様である。これにより、電動機2(DCモータ)は、通常の誘導電動機に比較して半径方向への回転子5の磁気吸引・反発力によって当該回転子5のヨーク部の加振がシェル部1Aに伝達され難くなる。従って、前述同様電動圧縮機Cの騒音を低減させることが可能となる。」(【0055】-【0056】)

上記記載及び図面を参照すると、アキュムレータが固着されることにより肉厚が不均一に形成されたシェル部1Aと、このシェル部1Aの内壁に固定された固定子鉄心74と、この固定子鉄心74に空隙を介して配置された回転子5と、固定子鉄心74の軸方向端部の外周面に設けた切欠部74Aが示されている 。

上記記載事項からみて、引用例5には、
「肉厚が不均一に形成されたシェル部1Aと、このシェル部1Aの内壁に固定された固定子鉄心74と、この固定子鉄心74に空隙を介して配置された回転子5を有し、上記固定子鉄心74の軸方向端部の外周面に切欠部74Aを設けた電動機2。」
との発明(以下、「引用例5発明」という。)が記載されている。


(2-2)対比
そこで、本願発明8と引用例5発明とを対比すると、引用例5発明の「シェル部1A」、「固定子鉄心74」、「内壁」、「回転子5」、「切欠部74A」、「電動機2」は、それぞれ本願発明8の「フレーム」、「固定子コア」、「内部」、「回転子」、「凹部」、「モータ」に相当する。
引用例5発明のようにフレームの内部に直接固定子鉄心を固定する場合、記載はなくとも上記1-a、2-aにあるように焼ばめ又は圧入が通常の固着手段であるから、引用例5発明の「シェル部1Aの内壁に固定された固定子鉄心74」は、本願発明8の「フレームの内部に焼ばめ又は圧入によって固定された固定子コア」に相当する。

したがって、両者は、
「肉厚が不均一に形成されたフレームと、このフレームの内部に焼ばめ又は圧入によって固定された固定子コアと、この固定子コアに空隙を介して配置された回転子を有し、上記固定子コアの軸方向端部の外周面に凹部を設けたモータ。」
の点で一致し、構成上の差異は認められず、本願発明8は引用例5発明と同一であるといわざるをえない。

したがって、本願発明8は引用例5に記載された発明である。


(3)むすび
以上のとおり、本願発明1は、引用例4発明及び上記常套手段に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができず、本願発明8は引用例5に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-11-30 
結審通知日 2012-12-04 
審決日 2012-12-18 
出願番号 特願2006-179354(P2006-179354)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (H02K)
P 1 8・ 121- Z (H02K)
P 1 8・ 572- Z (H02K)
P 1 8・ 113- Z (H02K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 安食 泰秀  
特許庁審判長 堀川 一郎
特許庁審判官 槙原 進
川口 真一
発明の名称 電動パワーステアリング用モータ  
代理人 吉澤 憲治  
代理人 村上 啓吾  
代理人 竹中 岑生  
代理人 大岩 増雄  

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