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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 H01L
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01L
管理番号 1269919
審判番号 不服2011-13606  
総通号数 160 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-04-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-06-27 
確定日 2013-02-04 
事件の表示 特願2003-582488「加熱源の組み合わせを使用する半導体パルス加熱処理方法」拒絶査定不服審判事件〔平成15年10月16日国際公開,WO03/85343,平成17年 9月15日国内公表,特表2005-527972〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 1 手続の経緯
本願は,2003年3月19日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2002年3月29日,米国.2002年7月30日,米国)を国際出願日とする出願であって,平成22年3月9日付けの拒絶の理由の通知に対して,同年8月16日に意見書と手続補正書が提出され,平成23年2月18日付けで拒絶査定がなされた。
それに対して,同年6月27日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに手続補正書が提出され,その後,平成24年2月16日付けで審尋がなされ,同年8月17日に回答書が提出された。

2 本願発明
平成22年8月16日の提出された手続補正書によって補正された特許請求の範囲の請求項232は,平成23年6月27日に提出された手続補正書によって補正されていないことから,前記平成23年6月27日に提出された手続補正書による補正が適法であるか否かによらず,前記請求項232に係る発明は,平成22年8月16日の提出された手続補正書によって補正された特許請求の範囲の請求項232に記載されている事項により特定される次のとおり(以下「本願発明232」という。)のものと認められる。
「第1の表面を有する物体を処理する方法であって,
バックグラウンド加熱モードで物体の全体で温度上昇を生成するように前記物体を加熱するステップと,
少なくとも第1のエネルギー・パルスへ表面を曝すことによって,パルス・モードで第1の表面を加熱するステップと,
前記第1のエネルギー・パルスの印加に関連した特定の時間内に前記バックグラウンド加熱モードによって加えられる熱を低減するステップと,
含む方法。」

3 引用例とその記載事項,及び,引用発明
原査定の拒絶の理由に引用され,本願の出願前に頒布された刊行物である下記の引用例1には,次の事項が記載されている。(なお,下線は,当合議体において付したものである。以下同じ。)

・引用例1:特開昭60-258928号公報
(1a)「(3)直径の大きなドウパントインプラント半導体ウエーハを急速に焼きなますため加熱する方法において,
CWランプ手段と集光罐体を使用して,前記ウエーハを比較的均一に等温加熱する段階と,
パルス発光ランプ手段と集光罐体を使用して,前記等温加熱段階で前記半導体材料を昇温した後,前記ウエーハのドウパントインプラント表面区域を比較的均一に熱線束加熱する段階とを有する半導体ウエーハの加熱方法。」(特許請求の範囲)

(1b)「従来から,直径の大きな半導体ウエーハを急速に焼きなます(短時間の焼きなまし)ことについての強い要望があった。急速焼きなましについての様々な文献や多くの特許明細書が発表され,また様々の試みもなされてきた。急速焼きなまし作業においては,一般に,短時間のうちにウエーハを高温に加熱し,約1ないし2秒間にわたってウエーハを高温に維持している。できるだけ工程を短縮することにより,インプラントイオンがバルク半導体材料を拡散してしまうことがなく,また,回路速度も最大になる。」(第2頁左下欄第5-15行)

(1c)「ウエーハ加熱に関連して使用する用語についての定義
基本的には,ウエーハを加熱する3つの方法がある。
<中略>
(b)熱線束加熱(Thermal flux)…エネルギは,5×10^(-6)ないし2×10^(-2)秒にわたって供給される。熱線束加熱により,ウエーハの表面から下側に2ミクロン以上にわたって実質的な温度勾配を作り出すが,ウエーハの厚み全体にわたって均一加熱することはない。
(c)等温加熱(Isothermal)…エネルギが1-100秒にわたって加えられて,ウエーハの所望の区域で当該ウエーハの厚み全体にわたってほぼ均一に温度を上昇させる。」(第4頁左上欄第18行-同頁右上欄第17行)

(1d)「装置の第2の実施例の詳細な説明(第4図と第9図)
第4図と第9図は異なったタイプの放射熱源を使用した実施例を示している。一方の放射熱源はCWであり,他方の放射熱源はパルスまたはフラッシュ熱源である。従って,本発明は製法にも使用できるようになっている。」(第8頁右上欄第18行-同頁左下欄第4行)

(1e)「製法の詳細な説明
第1の方法によれば,CW放射源は集光罐体に組み合わせて使用され,所望の効果を得るのに必要な温度まで半導体ウエーハをある時間にわたって急速且つ均一に加熱することができる。加熱速度は,プログラム化した方法により所望の状態に制御することができる。加熱操作は,明細書の冒頭で示摘しまた第6図に示したような等温加熱である。集光罐体は,非常に好ましい形態では既に述べたようなカレイドスコープである。
イオンインプラント半導体ウエーハを急速に焼きなます所望の効果を得ようとする場合,この製法は,CW源に大容量の電力を供給し,次いで急激に電力を減少させてできるだけ速やかに”保留”温度にし,そして電力を充分に低下させるかまたは電力を切って半導体ウエーハを冷却する工程を備えている。(プログラム化した方法で電力を減少して,冷却工程を完全に制御することができる。光学系空所内における冷却速度は,開放空間に置いた場合よりもはるかにゆっくりとした速度である。)好ましくは,(シリコン用の)温度上昇速度は毎秒当たり200-500℃である。シリコン用の保留温度は,好ましくは1000-1200℃であり,数秒間にわたってこの温度が保持される。約10または15秒の冷却時間が後続して設けられている。代表的な時間と温度の関係が第8図に図示されている。第8図は,左側の比較的急激な温度勾配と,勾配頂上における平らな保留時期と,右側における冷却時期とを示している。この曲線はシリコンに関してのものである。前記シリコンは,概ね1410℃の溶融点を持っている。
既に示摘したように,前述の第1の製法は,低密度ドウパントインプラント(lower density dopant implants)用としては少なくとも現段階では好ましい。次に,高密度ドウパントインプラント用として現段階では好ましい第2の方法について説明する。
ドウパントインプラント半導体ウエーハを急速に焼きなます第2の方法は,ウエーハの溶融点よりかなり低い所定温度までそうしたウエーハを均一に等温加熱し,その後でウエーハの(ドーパントインプラント処理を加える)上部表面区域を速やかに熱線束加熱し,次いでウエーハを冷却する工程を備えている。熱線束加熱(この用語は,本明細書の冒頭で特定されている)は,半導体材料の溶融点付近で行うことが望ましいが,第9図の中央領域にある立ち上がり部分で示されているように,シリコンの1410℃の溶融点に対しこれと同じ温度まで到達することはない。
さらに詳しく説明すると,第2の製法は,CW放射源によりドウパントインプラント半導体ウエーハを等温加熱する工程を備えている。前記CW放射源は,好ましくは,集光罐体(カレイドスコープが好ましい)で構成された光学系空所内に配置された石英ハロゲンランプの列である。CWランプに供給される電力は,毎秒当たり200-500℃(またはそれ以上)の温度上昇が得られるように制御される。シリコーンウエーハが,800-1100℃のプログラム温度に到達すると,次にパルスランプの列へ大電力が供給され,ウエーハのドウパントインプラント表面の温度を1200-1400℃まで急速に高める。従って,ウエーハの表面域を焼きなまし,欠陥を取り除くことができる。」(第9頁左上欄第15行-同頁右下欄第18行)

(1f)「例えば,等温加熱を用いて,ウエーハ全体の温度を約1100℃まで均一に高められる。数秒後,パルス源にエネルギが加えられて立ち上がり(第9図)を形成し,ウエーハの上部表面域だけをピーク温度まで高めている。しかし,箇々の半導体材料(第9図に示す例ではシリコン)の溶融温度まで上昇することはない。パルスは,少なくともドウパントインプラント層とほぼ同じ深さ(底)までの区域を加熱し焼きなますのに必要な短いものである。パルスの持続時間は,(特に,等温加熱の後)シリコンパネルのスリップを極力少なくし,さらにウエーハの導体全体を加熱することのほとんどない充分に短いものである。ウエーハ全体を加熱することがないため,ウエーハ全体の温度は,前記実施例で説明した1100℃から数度上昇するにすぎない。熱線束加熱を行うパルスが短いためである。」(第10頁右上欄第2-18行)

(1g)「製造速度を速めるために,ウエーハの冷却速度を速める手段を用いることができる。例えば,冷却期間中に,集光罐体を分割したり,および/またはガスの流量を増やしたりすることもできる。」(第10頁右下欄第6-10行)

(1h)「エレメント53-55は,第8図と第9図に関連して既に説明したように,CW加熱によってウエーハの温度を(随意にまたはプログラム化した手法で)速やかに所望の温度レベルまで上昇させることができるようになっている。その後,所望の時間にわたって必要な温度を維持し,次いでランプへの電力供給を(随意にまたはプログラム化した手法で)止めることができるようになっている。」(第11頁右上欄第15行-同頁左下欄第2行)

(1i)Fig.9は,引用例1に記載された発明の第2の実施例における温度と時間の関係を示すグラフであって,引用例1の上記摘記(1a)-(1h)の記載を参酌すれば,同図から,ウエーハの表面の温度が,連続発光ランプへの電力供給によって,約4秒間で,800-1100℃のプログラム温度にまで上昇し,前記プログラム温度に到達した後は,約2秒間にわたってこの温度が保持され,その後,パルスランプの列へ大電力が供給されて立ち上がりが形成されてウエーハの上部表面域だけが1200-1400℃まで急速に高められ,次いで,前記立ち上がりから約2秒後に前記CWランプへの電力供給がプログラム化した手法で止められて温度が低下していることを読み取ることができる。

引用発明
引用例1の上記摘記(1a)-(1i)を総合勘案すれば,引用例1には,
「直径の大きなドウパントインプラント半導体ウエーハを急速に焼きなますため加熱する方法において,
CWランプ手段と集光罐体を使用して,前記ウエーハを比較的均一に等温加熱する段階と,
パルス発光ランプ手段と集光罐体を使用して,前記等温加熱段階で前記半導体材料を昇温した後,前記ウエーハのドウパントインプラント表面区域を比較的均一に熱線束加熱する段階とを有する半導体ウエーハの加熱方法であって,
前記等温加熱は,ウエーハの溶融点よりかなり低い所定温度まで当該ウエーハの厚み全体にわたってほぼ均一に温度を上昇させる加熱であり,
前記熱線束加熱は,エネルギが,5×10^(-6)ないし2×10^(-2)秒にわたって供給される加熱であって,ウエーハの表面から下側に2ミクロン以上にわたって実質的な温度勾配を作り出すが,ウエーハの厚み全体にわたって均一加熱することはない加熱であり,
CWランプに供給される電力は,毎秒当たり200-500℃(またはそれ以上)の温度上昇が得られるように制御され,シリコーンウエーハが,800-1100℃のプログラム温度に到達すると,約2秒間にわたってこの温度を保持し,その後,パルスランプの列へ大電力が供給されて立ち上がりを形成し,ウエーハの上部表面域だけを1200-1400℃まで急速に高め,次いで,前記立ち上がりから約2秒後に前記CWランプへの電力供給をプログラム化した手法で止めて,温度を低下させる半導体ウエーハの加熱方法。」
の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

4 対比
(1)引用発明の「直径の大きなドウパントインプラント半導体ウエーハ」は,「物体」であり,引用発明の「加熱」は,「処理」の一種といえる。そして,引用発明の「ウエーハの表面」は,本願発明232の「第1の表面」に相当する。したがって,引用発明と本願発明232とは,「第1の表面を有する物体を処理する方法」である点で一致する。

(2)引用発明は「ウエーハを比較的均一に等温加熱」して「ウエーハの溶融点よりかなり低い所定温度まで当該ウエーハの厚み全体にわたってほぼ均一に温度を上昇させる」のであるから,引用発明において,ウエーハの全体で温度上昇が生成されることは明らかである。また,引用発明の「熱線束加熱」は,「エネルギが,5×10^(-6)ないし2×10^(-2)秒にわたって供給される加熱」であるから,エネルギー・パルスへ表面を曝すことによる加熱ということができる。したがって,引用発明の「CWランプ手段と集光罐体を使用して,前記ウエーハを比較的均一に等温加熱する段階」,「『パルス発光ランプ手段と集光罐体を使用して』『前記ウエーハのドウパントインプラント表面区域を比較的均一に熱線束加熱する段階』」は,それぞれ,本願発明232の「バックグラウンド加熱モードで物体の全体で温度上昇を生成するように前記物体を加熱するステップ」,「少なくとも第1のエネルギー・パルスへ表面を曝すことによって,パルス・モードで第1の表面を加熱するステップ」に相当する。

(3)引用発明の「CWランプへの電力供給をプログラム化した手法で止め」は,本願発明232の「バックグラウンド加熱モードによって加えられる熱を低減」に相当する。

(4)そうすると,本願発明1と引用発明の一致点と相違点は,次のとおりといえる。

<一致点>
「第1の表面を有する物体を処理する方法であって,
バックグラウンド加熱モードで物体の全体で温度上昇を生成するように前記物体を加熱するステップと,
少なくとも第1のエネルギー・パルスへ表面を曝すことによって,パルス・モードで第1の表面を加熱するステップと,
前記バックグラウンド加熱モードによって加えられる熱を低減するステップと,
含む方法。」

<相違点>
・相違点1:本願発明232の「バックグラウンド加熱モードによって加えられる熱を低減するステップ」が,「第1のエネルギー・パルスの印加に関連した特定の時間内」に行われるものであるのに対して,引用発明は「シリコーンウエーハが,800-1100℃のプログラム温度に到達すると,約2秒間にわたってこの温度を保持し,その後,パルスランプの列へ大電力が供給されて立ち上がりを形成し,ウエーハの上部表面域だけを1200-1400℃まで急速に高め,次いで,前記立ち上がりから約2秒後」に前記CWランプへの電力供給をプログラム化した手法で止めるものである点で一応相違する。

5 相違点についての判断
(1)相違点1について
ア 本願の明細書には,次のように記載されている。
(本a)「図8は,定常状態加熱時間が望まれない,より厳しいサーマルバジェットに適している加熱プロフィールを示す。第1の加熱源は,半導体ウェーハのような基板を第1の温度T1(たとえば800℃)へ加熱する。図8の傾斜76は,第1の加熱源による1つの例示的な加熱プロフィールを表す。図8で示される単一上昇ステップ,または幾つかのステップ,または他の加熱プロフィールが,この実施形態で使用されてよい。可変の上昇レートが使用されてよい。基板が第1の温度T1へ達するか,それを超えたばかりの時点で,基板をその温度で充分な時間の間保持することなく,パルス・エネルギーEpを加えるためパルス加熱源が活性化され,第1の温度よりも高い第2の温度T2(たとえば,T2=1300℃)へ基板表面の前面を加熱する。スパイク78は,パルス加熱源によるパルス加熱を表す。スパイク78は,ウェーハの表面温度が800℃に達した時点で始まる。図8において,第1の加熱源およびパルス加熱源は,基板の冷却を可能にするため単一のパルスの後で非活性化される。もっとも,本願の教示の観点から,他のレジームも使用されてよいことを理解すべきである。第1の加熱源およびパルス加熱源は別々の源を含んでよいが,そのような加熱プロフィールは,単一の加熱源を使用しても達成される。1つの例として,図1のランプ46は,たとえば,マルチモード・アークランプのようなマルチモード加熱源で置換されてよい。そのような修正において,バックグラウンドおよびパルス加熱モードの双方でマルチモード源に直接対向している物体の前面または第1表面へ熱を加えることによって,加熱が達成されることを理解すべきである。他の修正として,マルチモード源は,たとえば移動可能ミラー配列(図示されていない)を使用して,物体の第2表面または裏面へバックグラウンド加熱を加えるように構成されてよい。本願は,「マルチモード」の用語が,比較的長い持続時間の間,低いバックグラウンド加熱レートを表すレートで熱を選択的に供給し,比較的短い供給時間の間,高いパルス加熱レートで熱を選択的に供給し,それによって従来技術のバックグラウンドおよびパルス加熱装置をエミュレートすることができる任意の加熱源を包含する加熱源を意味するものと想定している。
さらに図8を参照して,パルス78の印加は,到達温度T1との時間関係で実行されてよいことを理解すべきである。同時に,バックグラウンド加熱は,到達温度T1,または時点tpにおけるパルス78のイニシエーションとの時間関係,たとえば時間間隔71の中で制御されてよい。この制御は,予測的意味を含む非常に大きな柔軟性で実現されてよいことを理解すべきである。たとえば,バックグラウンド加熱はT1への到達に先だって低減または完全に終了されてよく,たとえば,バックグラウンド加熱源の時定数の結果として生じる残留出力に起因して,温度がT1へ上昇し続けるようにしてよい。したがって,パルス78の印加は,T1への到達(遅延の後を含む)に応答して実行されるか,予測的意味,たとえば,バックグラウンド加熱の低減とT1への到達との間で定義される時間の中で実行されてよい。更に他の代替では,T1に達すると,バックグラウンド加熱が低減され,定義された温度へ冷却されることに応答してパルスの発射が起こるようにされてよい。注意する価値があることとして,定常状態の時間を有しない図8の加熱プロフィールを実現することによって,処置されている物体は連続的温度変化へ曝される。
好ましくは,第1の加熱源によって供給されるパワーは,パルスの1秒前から1秒後までの時間間隔の或る時点で0から90%の間へ大きさを低減される。好ましくは,第1の加熱源へのパワーは,約50%以下,および最も好ましくは約10%以下へ大きさを低減される。もし単一の加熱源が使用されるならば,その単一の加熱源によって供給されるバックグラウンド加熱パワーは,パルスの1秒前から1秒後までの時間間隔の或る時点で,0から90%,更に好ましくは50%よりも小さい大きさ,最も好ましくは10%よりも小さい大きさへ低減される。」(【0060】-【0062】)

(本b)「【図8】本発明の第5の実施形態に従った加熱方法を示すグラフであって,基板を第1の温度に保持することなく,第1の温度から,より高い所望の温度へ基板表面を急速に加熱するため,エネルギー・パルスが印加され,継続的に変化する温度へ基板が曝される加熱プロフィールの基板表面温度(℃)対時間(秒)をプロットしたグラフである。」(【図面の簡単な説明】)

(本c)本願の図8から,時点t_(p)から基板表面温度が急速に上昇しその後低下する加熱プロフィールが示されたグラフにおいて,時間t_(p)の前後それぞれ約1秒を含む時間が,時間間隔71として特定されていることを読み取ることができる。

イ そうすると,上記摘記(本a)-(本c)から,本願明細書及び図面には,第5の実施形態に従った加熱方法として,第1の加熱源は,半導体ウェーハのような基板を第1の温度T1(たとえば800℃)へ加熱し,基板が第1の温度T1へ達するか,それを超えたばかりの時点で,パルス・エネルギーEpを加えるためパルス加熱源が活性化され,第1の温度よりも高い第2の温度T2(たとえば,T2=1300℃)へ基板表面の前面を加熱し,第1の加熱源およびパルス加熱源は,基板の冷却を可能にするため単一のパルスの後で非活性化される加熱方法において,バックグラウンド加熱は,時点tpにおけるパルス78のイニシエーションとの時間関係,たとえば時間間隔71の中で制御されてよく,この制御は,非常に大きな柔軟性で実現されてよいものであり,好ましくは,第1の加熱源によって供給されるパワーは,パルスの1秒前から1秒後までの時間間隔の或る時点で0から90%の間へ大きさを低減される加熱方法が開示されていることが理解できる。

ウ ところで,本願発明232の「バックグラウンド加熱モードによって加えられる熱」,及び,「第1のエネルギー・パルスの印加」が,前記イにおける「第1の加熱源によって供給されるパワー」,及び,「パルス・エネルギーEpを加える」ことに相当することは明らかである。してみれば,本願発明232の「第1のエネルギー・パルスの印加に関連した特定の時間内」は,前記イにおける「時点tpにおけるパルス78のイニシエーションとの時間関係,たとえば時間間隔71の中」を意味するものと解することが自然といえる。

エ そして,前記イで検討したように,「時間間隔71」として,「好ましくは,第1の加熱源によって供給されるパワーは,パルスの1秒前から1秒後までの時間間隔の或る時点で0から90%の間へ大きさを低減される」ことが例示されていることから,本願発明232の「第1のエネルギー・パルスの印加に関連した特定の時間内」は,本願の明細書の記載に照らして,少なくとも,第1のエネルギー・パルスの印加の時点を基準とした時間関係において,前記基準の時点の特定の時間前から特定の時間後までの時間間隔の或る時点にあることを意味しているものと認められる。

オ 一方,引用発明は,シリコーンウエーハが,800-1100℃のプログラム温度に到達すると,約2秒間にわたってこの温度を保持し,その後,パルスランプの列へ大電力が供給されて立ち上がりを形成し,ウエーハの上部表面域だけを1200-1400℃まで急速に高め,次いで,前記立ち上がりから約2秒後に前記CWランプへの電力供給をプログラム化した手法で止めるものであるから,引用発明において,パルスランプの列へ大電力が供給されて立ち上がりを形成する時点から,CWランプへの電力供給をプログラム化した手法で止めるまでの時間間隔は,あらかじめプログラムされた特定の時間であるということができる。

カ そうすると,本願発明232と引用発明は,いずれも,バックグラウンド加熱モードによって加えられる熱を低減するステップが,第1のエネルギー・パルスの印加に関連した特定の時間内に行われるものであるということができるから,前記相違点1は,実質的には存在しない。したがって,本願発明232は,引用例1に記載された発明であるから,特許法第29条第1項第3号に該当する。

キ なお,仮に,本願発明232の「第1のエネルギー・パルスの印加に関連した特定の時間内」との発明特定事項の技術的意義を,本願の明細書及び図面の記載に基づいて,「パルスの1秒前から1秒後までの時間間隔の或る時点」を意味しているものと解釈すべきとしても,本願発明232は,引用発明から容易に発明をすることができたものといえる。
すなわち,このような解釈のもとでは,引用発明は,立ち上がりから約2秒後にCWランプへの電力供給をプログラム化した手法で止めるものであるから,CWランプへの電力供給をプログラム化した手法で止めるステップが,「パルスの1秒前から1秒後までの時間間隔の或る時点」に行われていない点で相違するといえる。
しかしながら,引用例1の上記摘記(1a)の「直径の大きなドウパントインプラント半導体ウエーハを急速に焼きなますため加熱する方法において」との記載,上記摘記(1b)の「できるだけ工程を短縮することにより,インプラントイオンがバルク半導体材料を拡散してしまうことがなく,また,回路速度も最大になる。」との記載,上記摘記(1e)の「そして電力を充分に低下させるかまたは電力を切って半導体ウエーハを冷却する工程を備えている。(プログラム化した方法で電力を減少して,冷却工程を完全に制御することができる。」との記載,及び,上記摘記(1g)の「製造速度を速めるために,ウエーハの冷却速度を速める手段を用いることができる。」等の記載に照らして,引用例1には,ウエーハの熱処理工程をできるだけ短い時間とすることについての動機付けが存在するものと認められる。
一方,引用例1には,CWランプへの電力供給をプログラム化した手法で止める,立ち上がりから約2秒後という時間に,臨界的な意義は記載されておらず,また,この時間を約2秒後という時間よりも前にすることを妨げる特段の事情も認められない。
他方,本願明細書及び図面には,前記「パルスの1秒前から1秒後までの時間間隔の或る時点」における「1秒」という数値自体が技術的意義を有するとは明示されておらず,むしろ,本願明細書の上記摘記(本a)の「たとえば時間間隔71の中で制御されてよい。この制御は,予測的意味を含む非常に大きな柔軟性で実現されてよいことを理解すべきである。」,及び,「好ましくは,第1の加熱源によって供給されるパワーは,パルスの1秒前から1秒後までの時間間隔の或る時点で0から90%の間へ大きさを低減される。」との記載からは,前記「1秒」という値は柔軟に変更可能なものであることが示唆されてものと解されるから,前記「1秒」という値に臨界的な意義を認めることはできない。
してみれば,引用発明において,CWランプへの電力供給を,引用発明の立ち上がりから約2秒後という時間よりも前の時点である,例えば,立ち上がりから1秒経過するまでのタイミングで止めることは,当業者が適宜なし得た事項といえる。また,このような時間を選択したことによる格別の効果も認められない。
したがって,引用発明において,前記相違点1について本願発明232のの構成を採用することは当業者にとって容易であり,このような構成を採用したことによる効果も当業者が予測する範囲内のものであるから,本願発明232は,引用例1に記載された発明から当業者が容易に発明をすることができたものである。

ク なお,審判請求人は,審判請求の理由において,本願発明が特許されるべき理由として,「本願発明の特徴の1つは,第1のエネルギー・パルスの加熱源が動作する直前またはそれと同時に,バックグラウンド加熱モードでの加熱源の動作を停止させることにある。もし,バックグラウンド加熱の加熱源が動作したまま,第1のエネルギー・パルスが印加されると,基板の裏側の温度が,バックグラウンド加熱での到達温度を超えて上昇してしまう。この基板温度における上昇は,望まれないドーパント拡散を導き,また,続いて印加される実効エネルギーのパルスにより,所望の上昇された温度よりも高へ基板の表面を加熱することも引き起こす(米国特許第6,849,831の第4欄66行目?第5欄段落6行目)。一実施例として,約1300℃の温度へ基板の表面を加熱するために基板の表面へパルスが印加される間でも,基板の裏側は,熱処理の間中,約800℃あるいはその付近で維持されることが望ましい。しかしながら,このようなことは,もしバックグラウンド加熱の加熱源が,パルス印加の間も動作していると,達成できない。」,「よって,本願発明は,引用文献から容易に想到できたものではない。」と主張する。
しかしながら,上記「相違点1について」で検討したように,本願発明232は,バックグラウンド加熱モードによって加えられる熱が,第1のエネルギー・パルスの印加の後の特定の時間内に低減する場合を含むものと解される。したがって,審判請求人の前記主張の前提である「本願発明の特徴の1つは,第1のエネルギー・パルスの加熱源が動作する直前またはそれと同時に,バックグラウンド加熱モードでの加熱源の動作を停止させることにある。」は,請求項232の記載に基づかないものであって,本願発明232の特徴であるとは認められないから,審判請求人の前記主張は前提を欠き採用することができない。

6 むすび
以上のとおり,本願発明232は,引用例1に記載された発明であるから,特許法第29条第1項3号に該当し,特許を受けることができず,また,仮に本願発明232が特許法第29条第1項3号に該当するとまではいえなかったとしても,本願発明232は,引用例1に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,同法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

そうすると,平成23年6月27日に提出された手続補正書による補正が適法である場合には,本件出願は,平成23年6月27日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の他の請求項に係る発明については検討するまでもなく,本願発明232により特許を受けることができず,また,仮に平成23年6月27日に提出された手続補正書による補正が不適法である場合には,前記補正は却下されて,本願の特許請求の範囲は,平成22年8月16日の提出された手続補正書によって補正された特許請求の範囲となるところ,この場合においても本件出願は,平成22年8月16日の提出された手続補正書によって補正された特許請求の範囲の他の請求項に係る発明については検討するまでもなく,本願発明232により特許を受けることはできないから,平成23年6月27日に提出された手続補正書による補正の適否,及び,他の請求項に係る発明については検討するまでもなく,本願は拒絶をすべきものである。

よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-09-12 
結審通知日 2012-09-14 
審決日 2012-09-25 
出願番号 特願2003-582488(P2003-582488)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H01L)
P 1 8・ 113- Z (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 萩原 周治  
特許庁審判長 北島 健次
特許庁審判官 西脇 博志
加藤 浩一
発明の名称 加熱源の組み合わせを使用する半導体パルス加熱処理方法  
代理人 鈴木 順生  
代理人 川崎 康  
代理人 勝沼 宏仁  
代理人 赤岡 明  
代理人 佐藤 泰和  
代理人 関根 毅  

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