• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

この審決には、下記の判例・審決が関連していると思われます。
審判番号(事件番号) データベース 権利
無効200580136 審決 特許
無効2010800166 審決 特許
無効200680157 審決 特許
無効2012800021 審決 特許
無効200480135 審決 特許

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 全部無効 1項3号刊行物記載  B32B
審判 全部無効 2項進歩性  B32B
管理番号 1270024
審判番号 無効2012-800020  
総通号数 160 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-04-26 
種別 無効の審決 
審判請求日 2012-03-05 
確定日 2013-02-14 
事件の表示 上記当事者間の特許第4694641号発明「有機/無機複合分離膜及びこれを備えた電気化学素子」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 1 手続の経緯
本件の主な手続を、整理して以下に示す。
(1)特許出願:平成20年3月6日(特願2009-552591号)
(本件特許出願は、日本を指定国とした国際特許出願である。)
(2)設定登録:平成23年3月4日
(特許第4694641号。以下、「本件特許明細書」という。)
(3)審判請求:平成24年3月5日
(特許第4694641号発明の特許請求の範囲の請求項1?19に係
る発明についての特許を無効とする。審判費用は被請求人の負担とす
る。との審決を求める。)
(4)答弁書:平成24年7月19日
(5)当審より両当事者への審尋:平成24年9月11日
(記録原本に保存済)
(6)請求人よりの審尋への回答:平成24年9月21日
(記録原本に保存済)
(7)被請求人よりの審尋への回答:平成24年9月24日
(記録原本に保存済)

2 当事者の主張
(1)請求人の主張の概要
本件特許の全請求項(請求項1?19)は、甲第1号証?甲第3号証に記載された発明と同一で新規性がないか、またはそれらに甲第4号証?甲第10号証を適用して当業者が容易になし得た発明である。さらに、甲第4号証に記載された発明に甲第1号証?甲第3号証または甲第11号証に記載された発明を適用して当業者が容易になし得た発明でもある。よって、本件特許の請求項1?19(全請求項)は、特許法第29条第1項第3号または同条第2項の規定により特許を受けることができない。

(2)請求項1に係る請求人の主張
審判請求書の「7-3-3-1. 請求項1、2、5および6の発明の無効理由」において、具体的に、請求人が請求項1について主張する無効の理由は以下のとおりである。
(ア)甲第1号証に記載された発明と同一である。
(イ)甲第2号証に記載された発明と同一である。
(ウ)甲第3号証に記載された発明と同一である。
(エ)甲第1号証に甲第5号証?甲第8号証を適用して当業者がなし得た発明である。
(オ)甲第4号証に甲第1号証?甲第3号証または甲第11号証を適用して当業者が容易になし得た発明である。

【証拠方法】
甲第1号証:特開平11-213979号公報
甲第2号証:特開2006-318892号公報
甲第3号証:特開2004-342572号公報
甲第4号証:国際公開第2006/68428号
甲第5号証:接着大百科 1993年10月25日初版発行
甲第6号証:東亜合成研究年報 TREND 1999 第2号 33?3
8頁
甲第7号証:Journal of Applied Polymer Science, Vol.56,201-209(1995)
甲第8号証:古河電工時報第106号(平成12年7月)
甲第9号証:特開2002-56896号公報
甲第10号証:化学大辞典 共立出版株式会社(1960年3月30日初版
第1刷発行)
甲第11号証:特開2000-149906号公報
甲第12号証:特開2000-195521号公報
甲第13号証:特開2005-91994号公報

また、甲第4号証の翻訳文に代えて、甲第4号証の2として特表2008-524824号公報が提出されている。

(3)被請求人の主張の概要
平成24年7月19日付け審判事件答弁書の記載を総合すると、被請求人の主張は、概略、次のとおりと認められる。
「本件特許の請求項1?19に係る発明は、請求人が提出した証拠に記載された発明ではなく、また、請求人が提出した証拠に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。」

3 無効理由についての当審の判断
(1)本件発明
本件特許の請求項1?19に係る発明は、特許請求の範囲の請求項1?19に記載された事項によって特定される発明である。
本件特許の請求項1に係る発明(以下、「本件発明1」という。)は、以下のとおりに分説できると認められる。
「A.有機/無機複合分離膜であって、
B.多数の気孔を持つ多孔性基材と、
C.前記多孔性基材の少なくとも一面にコーティングされ、多数の無機物
粒子とバインダー高分子との混合物で形成された多孔性コーティング
層とを備えてなり、
D.前記バインダー高分子が、
(a)水滴接触角が0°乃至49°である第1単量体ユニットと、及び
(b)水滴接触角が50°乃至130°である第2単量体ユニットを含ん
でなる共重合体であることを特徴とする、有機/無機複合分離膜。


(2)甲第1号証に記載された発明
甲第1号証には、次の記載がある。
a「【0004】【課題を解決するための手段】本発明は、ポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム、あるいはその複合フィルムの両面に酸化錫を分散したアクリル系の粘着剤を塗布してなる電池用セパレーターである。更に好ましい形態としては、…粘着剤層が多孔質に形成されており…」
b「【0007】【実施例】以下に実施例を挙げて発明の効果を詳細に説明するが、これは単なる例示であり本発明はこれに限定されるものではない。ケースは図1に示した様にPP/PE/PP三層からなる多孔質な多層フィルム上にアクリル系粘着剤中に酸化錫を添加したワニスを両面に塗工し、熱処理を40℃で48時間行った後電池用粘着剤付セパレーターを得た。」

そして、上記a、bの記載から、セパレーターは、酸化錫を分散したアクリル系の粘着剤で形成された多孔質粘着剤塗布層を備えているので、有機/無機複合セパレーターであると認められる。

上記a、b及び図1の記載などからみて、甲第1号証には、次の発明が記載されていると認められる(以下、「甲1発明」という。本件発明1の分説に合わせて分説して示す。)。
「A1.有機/無機複合セパレーターであって、
B1.多孔質な多層フィルムと、
C1.多孔質な多層フィルムの両面に塗布され、酸化錫を分散したアクリ
ル系の粘着剤で形成された多孔質粘着剤塗布層とを備えてなる
D1.有機/無機複合セパレーター。」

(3)甲第2号証に記載された発明
甲第2号証には、次の記載がある。
c「【0004】そこで、仮に内部短絡が発生しても、短絡部の拡大を抑制する観点から、無機フィラー(固体微粒子)および結着剤を含む多孔質耐熱層を、電極活物質層に担持させることが提案されている。無機フィラーには、アルミナ、シリカなどが用いられている。多孔質耐熱層には、無機フィラーが充填されており、フィラー粒子同士は比較的少量の結着剤で結合されている…」
d「【0020】セパレータには、微多孔質フィルムを用いることが好ましい。微多孔質フィルムの材質には、ポリオレフィンを用いることが好ましく、ポリオレフィンは、ポリエチレン、ポリプロピレンなどであることが好ましい。」
e「【0022】多孔質耐熱層は、独立したシート状であってもよい。ただし、シート状に形成された多孔質耐熱層は、機械的強度が余り高くないため、取り扱いが困難になる場合がある。また、多孔質耐熱層は、セパレータの表面に設けてもよい。ただし、セパレータは高温下で収縮するため、多孔質耐熱層の製造条件に細心の注意を払う必要がある。これらの懸念を払拭する観点からも、正極活物質層または負極活物質層の表面に多孔質耐熱層を設けることが望ましい。多孔質耐熱層は多くの空隙を有するため、正極活物質層、負極活物質層もしくはセパレータの表面に形成しても、リチウムイオンの移動を妨げることがない。なお、同一または異なる組成の多孔質耐熱層を積層してもよい。
【0023】多孔質耐熱層は、絶縁性フィラーおよび結着剤を含むことが好ましい。このような多孔質耐熱層は、絶縁性フィラーと少量の結着剤とを含む原料ペーストを、ドクターブレードやダイコートなどの方法で、電極活物質層の表面に塗布し、乾燥させることにより形成される。原料ペーストは、絶縁性フィラーと結着剤と液状成分とを、双椀式練合機などで混合することにより調製される。」
f「【0025】絶縁性フィラーには、高耐熱性樹脂の繊維もしくはビーズなどを用いることもできるが、無機酸化物を用いることが好ましい。無機酸化物は硬質であるため、充放電に伴って電極が膨張しても、正極と負極との間隔を適性範囲内に維持することができる。無機酸化物のなかでも、特にアルミナ、シリカ、マグネシア、チタニア、ジルコニアなどは、リチウム二次電池の使用環境下において電気化学的な安定性が高い点で好ましい。」
g「【0027】多孔質耐熱層に用いる結着剤は、特に限定されないが、ポリフッ化ビニリデン(以下、PVDFと略記)、ポリテトラフルオロエチレン(以下、PTFEと略記)、ポリアクリル酸系ゴム粒子(例えば日本ゼオン(株)製のBM-500B(商品名))などが好ましい。ここで、PTFEやBM-500Bは、増粘剤と組み合わせて用いることが好ましい。」

そして、上記c?g及び図1の記載から、多孔質耐熱層は、無機酸化物微粒子と、ポリアクリル酸系ゴム粒子であるBM-500Bからなる結着剤とを備えているので、微多孔質フィルム及び多孔質耐熱層は、有機/無機複合セパレータを構成するものと認められる。

上記c?g及び図1の記載などからみて、甲第2号証には、次の発明が記載されていると認められる(以下、「甲2発明」という。本件発明1の分説に合わせて分説して示す。)。
「A2.有機/無機複合セパレータであって、
B2.微多孔質フィルムと、
C2.微多孔質フィルムの表面に塗布され、多数の無機酸化物微粒子と、
ポリアクリル酸系ゴム粒子であるBM-500Bからなる結着剤で
形成された多孔質耐熱塗布層とを備えてなる
D2.有機/無機複合セパレータ。」

(4)甲第3号証に記載された発明
甲第3号証には、次の記載がある。
h「【0008】【発明が解決しようとする課題】本発明は、従来の電池の製造における上述したような問題を解決するためになされたものであって、電池の製造に際しては、電極とセパレータとが仮接着された電極/セパレータ積層体として、電極とセパレータの相互のずり移動なく、電池を効率よく製造することができ、しかも、電池の製造後は、それ自体、高温下でも熱収縮率の小さいセパレータとして機能する、電池用セパレータのための部分架橋接着剤担持多孔質フィルムを提供することを目的とする。更に、本発明は、そのような部分架橋接着剤担持多孔質フィルムを用いて電池を製造する方法を提供することを目的とする。
【0009】【課題を解決するための手段】本発明によれば、分子内に官能基を有し、この官能基に対して反応性を有する多官能化合物と反応することによって架橋し得る反応性ポリマーを用意し、これに多官能化合物を反応させ、一部、架橋させてなる部分架橋接着剤を基材多孔質フィルムに担持させてなることを特徴とする、電池用セパレータのための部分架橋接着剤担持多孔質フィルムが提供される。」
i「【0025】本発明において、反応性ポリマーは、例えば、前述したような官能基を有する共重合性モノマーとそのような官能基をもたないその他の共重合性モノマーとを溶液重合や塊状重合やエマルジョン重合等の通常のラジカル共重合によって得ることができる。ここに、官能基を有する共重合性モノマーは、通常、全モノマーの0.1?20重量%、好ましくは、0.1?10重量%の範囲で用いられる。
【0026】官能基としてカルボキシル基を有する共重合性モノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸、イタコン酸、マレイン酸等を挙げることができ、官能基としてヒドロキシル基を有する共重合性モノマーとしては、例えば、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチルアクリレート等のようなヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートを挙げることができる。更に、官能基としてアミノ基を有する共重合性モノマーとしては、例えば、ジアミンと(めた)アクリロイルオキシエチルイソシアネートとの1:1反応生成物等を挙げることができる。これらのなかでは、(メタ)アクリル酸やヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートのようなアクリル系のモノマーが好ましく用いられる。
【0027】他方、官能基をもたない共重合性モノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸エステル、(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリロニトリル等の(メタ)アクリルモノマーのほか、種々のビニルモノマー、例えば、スチレン、酢酸ビニル、N-ビニルピロリドン等を挙げることができる。」
j「【0031】特に、本発明においては、反応性ポリマーの好ましい一例として、上述した官能基を有するアクリル系モノマー成分と共に、(メタ)アクリル酸エステル、(メタ)アクリロニトリル、(メタ)アクリルアミドのようなアクリル系モノマー成分からなる反応性ポリマーを挙げることができる。例えば、(メタ)アクリロニトリル成分を80重量%まで、好ましくは、5?70重量%の範囲にて有する反応性ポリマーは、耐熱性と耐溶剤性にすぐれるので、本発明において用いる好ましい反応性ポリマーの一例である。官能基を有するモノマー成分0.1?20重量%、(メタ)アクリル酸エステル成分10?95重量%及び(メタ)アクリロニトリル4.9?60重量%からなる反応性ポリマーは、そのような好ましい反応性ポリマーの一例である。」
k「【0037】このようにして、部分架橋接着剤を基材多孔質フィルムに担持させるに際して、反応性ポリマーと多官能化合物の混合物からなる溶液を多孔質フィルムに塗布し、乾燥させた後、加熱して、多孔質フィルム上で反応性ポリマーを一部、架橋させて、かくして、部分架橋接着剤を基材多孔質フィルムに担持させてもよく、また、反応性ポリマーと多官能化合物の混合物からなる溶液を延伸ポリプロピレンフィルムや離型処理を施した紙等の剥離性シート上に塗布し、乾燥させた後、これを基材多孔質フィルムに転写し、加熱して、多孔質フィルム上で反応性ポリマーを一部、架橋させて、部分架橋接着剤を基材多孔質フィルムに担持させてもよい。」
l「【0045】本発明において、反応性ポリマーと多官能化合物とからなる架橋性接着剤を基材多孔質フィルムに担持させるには、例えば、上記架橋性接着剤を基材多孔質フィルムに直接、塗布し、乾燥させてもよく、また、剥離性シートに塗布し、乾燥させた後、基材多孔質フィルムに転写してもよい。また、架橋性接着剤の基材多孔質フィルムへの塗工性を向上させるために、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンのような有機溶剤や、重質炭酸カルシウムやケイ砂の微粉末のような無機質微粉末を流動性改質剤や充填剤として、50重量%以下の割合で架橋性接着剤に配合してもよい。」
m「【0068】参考例6(反応性ポリマーの調製)
アクリロニトリル10重量部、メタクリル酸5重量部、ブチルアクリレート30重量部、エチルアクリレート60重量部、ポリエチレングリコールアルキルフェニルエーテル3重量部、n-ドデシルメルカプタン0.08重量部、過硫酸カリウム0.3重量部及びイオン交換水300重量部を用いてエマルジョン重合を行って、反応性ポリマーの水分散液を得た。この反応性ポリマーの水分散液に10%塩酸を加えて、反応性ポリマーを沈殿させ、取り出して、十分に水洗した後、減圧乾燥させた。この反応性ポリマーの重量平均分子量は約85万であり、ガラス転移温度は-13℃であった。このようにして得られた反応性ポリマーをトルエン/メチルエチルケトン(重量比75/25)混合溶剤に溶解させて、上記反応性ポリマーの7%濃度の溶液を調製した。」
n「【0094】実施例11
参考例6で得た反応性ポリマーの溶液100gにその反応性ポリマーの固形分100重量部当りに平均粒径12nmのケイ砂粉末を充填剤として5重量部を加え、均一に分散させ、更に、3官能イソシアネート0.3重量部を配合して、架橋性接着剤の溶液を調製した。
【0095】この架橋性接着剤の溶液をワイヤーバー(ワイヤー径0.2mm)を用いて剥離紙上に全面に塗布し、乾燥させた後、これを用いて、ポリエチレン樹脂製多孔質フィルムの表裏両面に上記架橋性接着剤を転写した。この多孔質フィルムを温度50℃の恒温器中に7日間投入して、ゲル分率42%の部分架橋接着剤をそれぞれ担持率100%にて担持させた多孔質フィルムを得た。この電池について、実施例1と同様にして、放電負荷特性、電池の膨れ性、セパレータ(多孔質フィルム)と電極との接着性、セパレータ(多孔質フィルム)の面積熱収縮率をそれぞれ評価した。結果を表2に示す。」

そして、上記h?mの記載から、セパレータは、無機質微粉末を配合した反応性ポリマーと多官能化合物で形成された架橋性接着剤塗布層を備えているので、有機/無機複合セパレータであると認められる。

上記h?mの記載などからみて、甲第3号証には、次の発明が記載されていると認められる(以下、「甲3発明」という。本件発明1の分説に合わせて分説して示す。)。
「A3.有機/無機複合セパレータであって、
B3.多孔質フィルムと、
C3.多孔質フィルムの両面に塗布され、多数の無機質微粉末を配合した
反応性ポリマーと多官能化合物で形成された架橋性接着剤塗布層と
を備えてなる
D3.有機/無機複合セパレータ。」

(5)甲第4号証に記載された発明
甲第4号証には、次の記載がある(日本語訳は甲第4号証の2を参照して当審で作成した。)。
n「According to an aspect of the present invention, there is provided an organic/inorganic composite porous separator, which comprises (a) a polyolefin-based separator substrate; and (b) an active layer formed by coating at least one region selected from the group consisting of a surface of the substrate and a part of pores present in the substrate with a mixture of inorganic particles and a binder polymer, wherein the inorganic particles in the active layer are interconnected among themselves and are fixed by the binder polymer, and interstitial volumes among the inorganic particles form a pore structure. There is also provided an electrochemical device (preferably, a lithium secondary battery) comprising the same.」(第6ページ第19行?第31行)(本発明は、(a)ポリオレフィン系のセパレータ膜基材、及び(b)前記基材の表面及び前記基材に存在する気孔部の一部よりなる群から選ばれた1種以上の領域に無機物粒子及びバインダー高分子の混合物で塗布された活性層と、を含む有無機複合多孔性セパレータ膜であって、前記活性層が、バインダー高分子により無機物粒子同士が結び付き、無機物粒子同士の間隙により気孔構造が形成されたことを特徴とする有無機複合多孔性セパレータ膜及びこれを備える電気化学素子、好ましくは、リチウム二次電池を提供する。)
o「Non-limiting examples of the binder polymer that may be used in the present invention include polyvinylidene fluoride-co-hexafluoropropylene, polyvinylidene fluoride-co-trichloroethylene, polymethylmethacrylate, polyacrylonitrile, polyvinylpyrrolidone, polyvinyl acetate, polyethylene-co-vinyl acetate, polyethylene oxide, cellulose acetate, cellulose acetate butyrate, cellulose acetate propionate, cyanoethylpullulan, cyanoethyl polyvinylalcohol, cyanoethylcellulose, cyanoethylsucrose, pullulan, carboxymetyl cellulose, acrylonitrile-styrene-butadiene copolymer, polyimide or mixtures thereof. Other materials may be used alone or in combination, as long as they satisfy the above characteristics.」(第18ページ第16行?第28行)(使用可能なバインダー高分子の非制限的な例としては、ポリビニリデンフルオライド-ヘキサフルオロプロピレン、ポリビニリデンフルオライド-トリクロロエチレン、ポリメチルメタクリレート、ポリアクリロニトリル、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアセテート、エチレンビニルアセテート共重合体、ポリエチレンオキシド、セルロースアセテート、セルロースアセテートブチレート、セルロースアセテートプロピオネート、シアノエチルプルラン、シアノエチルポリビニルアルコール、シアノエチルセルロース、シアノエチルスクロース、プルラン、カルボキシルメチルセルロース、アクリロニトリルスチレンブタジエン共重合体、ポリイミドまたはこれらの混合体などが挙げられる。これらの他にも、上述した特性を含む材料であれば、単独または混合して用いることができる。)
p「The organic/inorganic composite porous separator may be manufactured by a conventional process known to one skilled in the art. One embodiment of a method for manufacturing the organic/inorganic composite porous separator according to the present invention, includes the steps of: (a) dissolving a binder polymer into a solvent to form a polymer solution; (b) adding inorganic particles to the polymer solution obtained from step (a) and mixing them; and (c) coating the mixture obtained from step (b) onto at least one region selected from the group consisting of the surface of a polyolefin-based separator substrate and a part of the pores present in the substrate, followed by drying.」(第21ページ第16行?第27行)(本発明による有無機複合多孔性セパレータ膜は、当業界における通常の方法により製造すればよく、その一実施の形態を挙げると、(a)バインダー高分子を溶媒に溶解させて高分子溶液を得る段階と、(b)無機物粒子を上記段階(a)において得られた高分子溶液に加えて混合する段階と、(c)ポリオレフィン系のセパレータ膜基材の表面及び/または基材中の気孔部の一部に前記段階(b)において得られた無機物粒子と高分子の混合物を塗布し乾燥する段階と、を含む方法がある。)

上記n?pの記載などからみて、甲第4号証には、次の発明が記載されていると認められる(以下、「甲4発明」という。本件発明1の分説に合わせて分説して示す。)。
「A4.有無機複合多孔性セパレータ膜であって、
B4.気孔部を有する基材と、
C4.基材の表面に塗布され、多数の無機物粒子とバインダー高分子の混
合物で形成された気孔構造が形成された活性塗布層とを備えてなる
D4.有無機複合多孔性セパレータ膜。」

(6)甲第5号証?甲第11号証の記載
甲第5号証?甲第8号証には、アクリレート-アクリル酸共重合体を含むアクリル系粘着剤が記載されている。
甲第9号証には、変性アクリルゴム粒子であるBM500Bが、2-エチルヘキシルアクリレートとアクリル酸とアクリロニトリルの共重合体である点が記載されている。
甲第10号証には、アクリル酸エステルにアクリル酸、アクリロニトリル等の官能基を持った単量体を少量共重合させたアクリルゴムが記載されている。
甲第11号証には、結合剤を共重合体で構成する点が記載されている。

(7)本件発明1と甲1?甲4発明との対比・判断
ア 甲1発明との対比
本件発明1と甲1発明とを対比すると、甲1発明の「有機/無機複合セパレーター」、「多孔質な多層フィルム」、「両面」、「塗布」、「酸化錫」、「分散」、「多孔質粘着剤塗布層」は、それぞれ本件発明1の「有機/無機複合分離膜」、「多数の気孔を持つ多孔性基材」、「少なくとも一面」、「コーティング」、「無機物」、「混合」、「多孔性コーティング層」に相当する。
そうすると、両者は、
「a1.有機/無機複合分離膜であって、
b1.多数の気孔を持つ多孔性基材と、
c1.多孔性基材の少なくとも一面にコーティングされ、無機物を含む混
合物で形成された多孔性コーティング層とを備えてなる
d1.有機/無機複合分離膜。」
である点で一致し、次の点で相違する。

《相違点1-1》
本件発明1では、多孔性コーティング層を形成する混合物が、(a)水滴接触角が0°乃至49°である第1単量体ユニットと、及び(b)水滴接触角が50°乃至130°である第2単量体ユニットを含んでなる共重合体(以下、「共重合体D」という。)であるバインダー高分子を含むのに対し、甲1発明では、そのように特定されていない点。

《相違点1-2》
本件発明1では、無機物が粒子であるのに対し、甲1発明では、無機物がそのように特定されていない点。

イ 甲1発明との相違点の判断
上記相違点1-1について検討すると、甲第1号証には、共重合体Dであるバインダー高分子は記載されておらず、かつ、示唆もされていない。
したがって、本件発明1は、甲第1号証に記載された発明ではない。
また、甲第5号証?甲第8号証には、いずれにも本件発明1の用途が記載されていないとともに、共重合体Dであるバインダー高分子が記載されておらず、かつ、示唆もされていないので、甲1発明に対して、甲第5号証?甲第8号証に記載又は示唆された技術的事項を適用しても、本件発明1の多孔性コーティング層を形成する混合物が共重合体Dであるバインダー高分子を含む構成を得ることはできない。
したがって、上記相違点1-2を検討するまでもなく、本件発明1は、甲第1号証及び甲第5号証?甲第8号証に基いて当業者が容易に発明できたものではない。

なお、請求人は審判請求書において、アクリル系の粘着剤は共重合体Dに該当するアクリレート-アクリル酸共重合体が一般的であるので、甲第1号証にはアクリレート-アクリル酸共重合体が実質的に記載されており、また、甲1発明において、粘着剤としてアクリレート-アクリル酸共重合体を採用することは、当業者が容易になし得たことである旨の主張をしている。
しかしながら、アクリル系の粘着剤には多数の種類があることから、甲第1号証の粘着剤がアクリレート-アクリル酸共重合体であるとは限らず、甲第1号証にアクリレート-アクリル酸共重合体が記載又は示唆されているとすることはできない。
また、共重合体Dを用いることの動機付けとなる課題の記載や共重合体Dを用いることによる効果(本件特許明細書【0017】参照。)の記載は、甲第1号証、甲第5号証?甲第8号証のいずれにもなく、これらの課題や効果が当業者に自明なものであるともいえないので、甲1発明において、粘着剤としてアクリレート-アクリル酸共重合体を採用して本件発明1の構成とすることは、当業者が容易になし得たことであるとはいえない。
よって、請求人の主張を採用することはできない。

ウ 甲2発明との対比
本件発明1と甲2発明とを対比すると、甲2発明の「有機/無機複合セパレータ」、「微多孔質フィルム」、「表面」、「塗布」、「無機酸化物微粒子」、「多孔質耐熱塗布層」は、それぞれ本件発明1の「有機/無機複合分離膜」、「多数の気孔を持つ多孔性基材」、「少なくとも一面」、「コーティング」、「無機物粒子」、「多孔性コーティング層」に相当する。

そうすると、両者は、
「a2.有機/無機複合分離膜であって、
b2.多数の気孔を持つ多孔性基材と、
c2.多孔性基材の少なくとも一面にコーティングされ、多数の無機物粒
子を含む混合物で形成された多孔性コーティング層とを備えてなる
d2.有機/無機複合分離膜。」
である点で一致し、次の点で相違する。

《相違点2》
本件発明1では、多孔性コーティング層を形成する混合物が、共重合体Dであるバインダー高分子を含むのに対し、甲2発明の多孔性コーティング層を形成する混合物が、ポリアクリル酸系ゴム粒子であるBM-500Bを含む点。

エ 甲2発明との相違点の判断
上記相違点2について検討する。
まず、本件発明1の「バインダー高分子」という用語については、特許請求の範囲及び発明の詳細な説明に明確な定義が存在しないので、本件特許明細書全体の記載を参酌して解釈すると、本件特許明細書には、バインダー高分子としては溶媒に溶解するものが記載されており(特に、【0030】?【0034】参照。)、また、【0048】には「しかし、アクリル酸単独重合体は溶媒であるアセトンに溶解されなかったため、多孔性コーティング層形性のためのスラリーを製造することができなかった」と記載されていることから、本件特許明細書に記載された製造方法、実施例などを参照すれば、本件発明1の「バインダー高分子」は、溶媒に溶解するものと解することができる。
一方、甲2発明のポリアクリル酸系ゴム粒子であるBM-500Bは一般に粒子状のものであって、溶媒に溶解するものであるか否かは請求人の提出した証拠では不明であり、また、甲第2号証には実際にBM-500Bを用いた態様の実施例は示されていない。
よって、甲2発明のポリアクリル酸系ゴム粒子であるBM-500Bは、本件発明1の「バインダー高分子」に相当するということはできない。
したがって、本件発明1は甲第2号証に記載された発明ではない。
また、仮に、甲第2号証において不明であるとした点を明らかにした上で改めて無効理由を主張したとしても、その主張は請求理由の要旨変更となるので、必要があれば、再度審判請求を検討されたい。

オ 甲3発明との対比
本件発明1と甲3発明とを対比すると、甲3発明の「有機/無機複合セパレータ」、「多孔質フィルム」、「両面」、「塗布」、「無機質微粉末」、「配合」、「反応性ポリマーと多官能化合物」、「架橋性接着剤塗布層」は、それぞれ本件発明1の「有機/無機複合分離膜」、「多数の気孔を持つ多孔性基材」、「少なくとも一面」、「コーティング」、「無機物粒子」、「混合」、「バインダー高分子」、「コーティング層」に相当する。
そうすると、両者は、
「a3.有機/無機複合分離膜であって、
b3.多数の気孔を持つ多孔性基材と、
c3.多孔性基材の少なくとも一面にコーティングされ、多数の無機物粒
子とバインダー高分子との混合物で形成されたコーティング層とを
備えてなる
d3.有機/無機複合分離膜。」
である点で一致し、次の点で相違する。

《相違点3-1》
本件発明1では、バインダー高分子が、共重合体Dであるのに対し、甲3発明のバインダー高分子は、そのように特定されていない点。

《相違点3-2》
本件発明1では、コーティング層が多孔性であるのに対し、甲3発明のコーティング層は、そのように特定されていない点。

カ 甲3発明との相違点の判断
上記相違点3-1について検討すると、甲第3号証には、バインダー高分子が、共重合体Dである点は記載されておらず、かつ、示唆もされていない。
したがって、相違点3-2を検討するまでもなく、本件発明1は甲第3号証に記載された発明ではない。

なお、請求人は審判請求書において、甲第3号証の【0026】に(メタ)アクリル酸が、【0027】に(メタ)アクリル酸エステル及び(メタ)アクリルニトリルが記載されているので、甲第3号証には共重合体Dが記載されている旨の主張をしているが、【0026】及び【0027】には多数の単量体が列挙されているとともに、甲第3号証には【0026】及び【0027】から共重合体Dに該当するように単量体を選択する旨の記載又は示唆はなく、また、【0026】に列挙された全ての単量体が共重合体Dの第1単量体ユニットに該当し、【0027】に列挙された全ての単量体が第2単量体ユニットに該当するか否かは不明であることから、甲第3号証に共重合体Dが記載されているとはいえず、共重合体Dに該当するように単量体を選択することが当業者が容易になし得たことであるともいえない。
さらに、甲第3号証の【0068】、【0094】、【0095】に記載されている、参考例6の反応性ポリマーを用いた実施例11の部分架橋接着剤は、反応性ポリマーがアクリロニトリル等の第2単量体ユニットを含むとは認められるものの、特にメタクリル酸の水滴接触角が請求人の提出した証拠では不明であるので、参考例6の反応性ポリマーが共重合体Dに該当するか否かは不明である。
よって、請求人の主張を採用することはできない。
また、仮に、甲第3号証において不明であるとした点を明らかにした上で改めて無効理由を主張したとしても、その主張は請求理由の要旨変更となるので、必要があれば、再度審判請求を検討されたい。

キ 甲4発明との対比
本件発明1と甲4発明とを対比すると、甲4発明の「有無機複合多孔性セパレータ膜」、「気孔部を有する基材」、「表面」、「塗布」、「気孔構造が形成された活性塗布層」は、それぞれ本件発明1の「有機/無機複合分離膜」、「多数の気孔を持つ多孔性基材」、「少なくとも一面」、「コーティング」、「多孔性コーティング層」に相当する。
そうすると、両者は、
「a4.有機/無機複合分離膜であって、
b4.多数の気孔を持つ多孔性基材と、
c4.多孔性基材の少なくとも一面にコーティングされ、多数の無機物粒
子とバインダー高分子との混合物で形成された多孔性コーティング
層とを備えてなる
d4.有機/無機複合分離膜。」
である点で一致し、次の点で相違する。

《相違点4》
本件発明1では、バインダー高分子が、共重合体Dであるのに対し、甲4発明のバインダー高分子は、そのように特定されていない点。

ク 甲4発明との相違点の判断
上記相違点について検討すると、甲第4号証には、バインダー高分子が、共重合体Dである点は記載されておらず、かつ、示唆もされていない。
また、甲第1号証?甲第3号証及び甲第11号証のいずれにも、バインダー高分子が、共重合体Dである点は記載されておらず、かつ、示唆もされていないので、甲4発明に対して、甲第1号証?甲第3号証及び甲第11号証に記載又は示唆された技術的事項を適用しても、本件発明1の、バインダー高分子が、共重合体Dである構成を得ることはできない。

なお、請求人は甲第1号証?甲第3号証、甲第11号証には共重合体Dが記載されており、甲4発明において甲第1号証?甲第3号証、甲第11号証に記載されている共重合体Dを用いることは、当業者が容易になし得たことである旨の主張をしている。
しかしながら、共重合体Dを用いることの動機付けとなる課題の記載や共重合体Dを用いることによる効果の記載は、甲第1号証?甲第4号証、甲第11号証のいずれにもなく、これらの課題や効果が当業者に自明なものであるともいえないので、甲4発明において、バインダー高分子としてアクリレート-アクリル酸共重合体を採用して本件発明1の構成とすることは、当業者が容易になし得たことであるとはいえない。
よって、請求人の主張を採用することはできない。

ケ まとめ
以上のとおりであるから、本件発明1は、甲第1号証?甲第3号証に記載された発明ではなく、また、甲各号証に記載された発明に基いて、当業者が本件発明1を容易に発明することができたとはいえない。そして、本件の請求項2?19に係る発明は、いずれも本件発明1の構成要件をすべて備える発明であるから、これら発明も、甲第1号証?甲第3号証に記載された発明ではなく、また、甲各号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明することができたとはいえない。

4 むすび
以上のとおり、請求項1?19に係る発明は、本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲第1号証?甲第3号証に記載された発明ではなく、また、甲各号証に記載された発明から当業者が容易に発明することができたものとはいえないから、請求人が主張する無効理由は、いずれも理由がない。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。
よって結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-12-06 
結審通知日 2012-12-11 
審決日 2012-12-26 
出願番号 特願2009-552591(P2009-552591)
審決分類 P 1 113・ 121- Y (B32B)
P 1 113・ 113- Y (B32B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 守安 太郎  
特許庁審判長 仁木 浩
特許庁審判官 熊倉 強
▲高▼辻 将人
登録日 2011-03-04 
登録番号 特許第4694641号(P4694641)
発明の名称 有機/無機複合分離膜及びこれを備えた電気化学素子  
代理人 小野 暁子  
代理人 勝沼 宏仁  
代理人 宮嶋 学  
代理人 堅田 健史  
代理人 中村 行孝  
代理人 伊藤 克博  
代理人 柏 延之  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ