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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G01P
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G01P
管理番号 1270079
審判番号 不服2011-6720  
総通号数 160 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-04-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-03-30 
確定日 2013-02-13 
事件の表示 特願2004-523582「流体フロー測定および比例流体フロー制御デバイス」拒絶査定不服審判事件〔平成16年 1月29日国際公開、WO2004/010086、平成17年12月 8日国内公表、特表2005-537464〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成15年7月18日を国際出願日(優先権主張日:2002年7月19日、米国)とする特許出願であって、特許請求の範囲について平成18年7月13日付けで補正がなされ(以下、「補正1」という。)、平成22年1月7日付けで補正がなされ(以下、「補正2」という。)、同年11月11日付けで補正がなされ(以下、「補正3」という。)、同年11月30日付けで、補正3を却下するとともに、同日付けで拒絶査定がなされ(補正却下の決定、拒絶査定共に、その送達は同年12月3日である。)、これに対し、平成23年3月30日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に、特許請求の範囲についての補正(以下、「本件補正」という。)がなされたものである。
その後、当審より、平成23年9月12日付けで、本件補正後の請求項6に係る発明は、独立特許要件を欠くものであり、本件補正は却下すべきものである旨の審尋をしたところ、請求人より平成23年12月5日付け回答書の提出があった。

2.補正却下の決定
[結論]
本件補正を却下する。
[理由]
(1)補正の内容
本件補正は、本件補正前、すなわち、補正2による補正後の請求項27ないし29を削除するとともに、独立請求項である請求項6及びその従属請求項を、次のとおりに補正するものである。
(本件補正前)
「【請求項6】
流体フロー測定および比例流体フロー制御デバイスであって、
該デバイスは、
流体入り口および流体出口を有する比例フローバルブと、
該比例フローバルブのためのアクチュエータと、
制限フロー構成要素流体入り口と、該比例フローバルブの該流体入り口と流体連絡状態にある制限フロー構成要素流体出口とを有する制限フロー構成要素であって、該制限フロー構成要素は、該制限フロー構成要素流体入り口と該制限フロー構成要素流体出口との間の圧力低下を生成する、制限フロー構成要素と、
該圧力低下を測定する手段と、
該圧力低下を測定する手段と該アクチュエータとに接続されたコントローラであって、該コントローラは、
該圧力低下に基づいて、フロー速度を計算することと、
経時的なフロー速度における変化(dF/dt)およびフロー速度誤差にファジー論理規則を適用することと、
該フロー速度における変化およびフロー速度誤差へのファジー論理規則の適用に基づいて、該比例流体フローバルブを調節する量を決定することと
を実行するように動作可能である、コントローラと
を備える、デバイス。
【請求項7】
前記コントローラは、
フロー速度誤差を、メンバーシップ関数の第1のセットに対して比較して、ファジー入力の第1のセットを生成することと、
経時的なフロー速度における変化(dF/dt)を、メンバーシップ関数の第2のセットに対して比較して、ファジー入力の第2のセットを生成することと
を実行するようにさらに動作可能であり、
該ファジー入力の第1のセットおよび該ファジー入力の第2のセットからの各ファジー入力は、真の入力程度と関連づけられる、請求項6に記載のデバイス。
【請求項8】?【請求項16】 略」

(本件補正後)
「【請求項6】
流体フロー測定および比例流体フロー制御デバイスであって、
該デバイスは、
流体入り口および流体出口を有する比例フローバルブと、
該比例フローバルブのためのアクチュエータと、
制限フロー構成要素流体入り口と、該比例フローバルブの該流体入り口と流体連絡状態にある制限フロー構成要素流体出口とを有する制限フロー構成要素であって、該制限フロー構成要素は、該制限フロー構成要素流体入り口と該制限フロー構成要素流体出口との間の圧力低下を生成する、制限フロー構成要素と、
該圧力低下を測定する手段と、
該圧力低下を測定する手段と該アクチュエータとに接続されたコントローラであって、該コントローラは、
該圧力低下に基づいて、フロー速度を計算することと、
経時的なフロー速度における変化(dF/dt)およびフロー速度誤差にファジー論理規則を適用することと、
該フロー速度における変化およびフロー速度誤差へのファジー論理規則の適用に基づいて、該比例流体フローバルブを調節する量を決定することと
を実行するように動作可能である、コントローラと
を備え、
該コントローラは、
フロー速度誤差を、メンバーシップ関数の第1のセットに対して比較して、ファジー入力の第1のセットを生成することと、
経時的なフロー速度における変化(dF/dt)を、メンバーシップ関数の第2のセットに対して比較して、ファジー入力の第2のセットを生成することと
を実行するようにさらに動作可能である、デバイス。
【請求項7】
前記ファジー入力の第1のセットおよび前記ファジー入力の第2のセットからの各ファジー入力は、真の入力程度と関連づけられる、請求項6に記載のデバイス。
【請求項8】?【請求項16】 略」(下線は補正箇所を示す。)

この補正は、請求項6に記載した発明を特定するために必要な事項である「コントローラ」について、本件補正前の請求項7に記載の発明特定事項の一部である「フロー速度誤差を、メンバーシップ関数の第1のセットに対して比較して、ファジー入力の第1のセットを生成することと、経時的なフロー速度における変化(dF/dt)を、メンバーシップ関数の第2のセットに対して比較して、ファジー入力の第2のセットを生成することとを実行するようにさらに動作可能である」との限定を付加するものであって、特許法第17条の2第4項2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の前記請求項6に記載された発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるかについて、以下に検討する。

(2)引用例記載の事項・発明
原査定の拒絶の理由に引用され、本願優先権主張日前に頒布された刊行物である特開平6-7715号公報(発明の名称:塗料流量制御装置、出願人:旭サナック株式会社、公開日:平成6年1月18日、以下「引用例」という。)には、次の事項(a)ないし(e)が図面とともに記載されている。

ア 記載事項
(a)「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、スプレイガンに供給する塗料の流量をレギユレータを調節することにより目標流量と一致するように制御する装置に関し、特に、経験則を基にしたレギユレータの制御ルールと、それを構成するフアジイ変数のメンバーシツプ関数とによつてレギユレータの最適な操作量を推論して、その結果を出力するようにした塗料流量制御装置に関する。
【0002】
【従来の技術】従来この種の塗料流量制御装置としては、図4に示すように、スプレイガンaへの塗料通路bに設けた流量計cにより実際の流量を検出して制御装置dにフイードバツクし、検出流量が目標流量と比べて大きいか小さいかに応じてレギユレータeへの制御エア圧を調節することにより、目標流量に近付けるようにしたものが知られている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら従来の装置は、流量を随時上げ下げして平均すると目標流量に略一致するという程度のものであつて、細かく見るとかなりの流量変動があり、塗装面の仕上がりのさらなる向上を図るために、より安定した流量制御を行うことのできる装置の出現が望まれていた。」
(b)「【0004】
【課題を解決するための手段】本発明の塗料流量制御装置は、上記した事情を背景として完成されたものであつて、塗料通路を流れる塗料の流量を一定時間間隔ごとに検出する検出手段と、塗料の目標流量を予め設定する設定手段と、その設定手段からの目標流量と検出手段からの検出流量に基づいて、目標流量と現在流量の差及び現在流量と前回流量の差の流量情報を演算する情報抽出手段と、流量情報に対するレギユレータの操作量を求めるための経験則に基づく制御ルールを記憶する記憶手段と、情報抽出手段から得た流量情報と記憶手段から取り出した制御ルールとに基づき、フアジイ論理演算によつてレギユレータに与える操作量を演算する演算手段とを備えた構成とした。
【0005】
【作用】本発明では、迅速で安定した流量制御を行うために、目標流量と検出した現在流量とを比較して、目標流量から現在流量を引算した差(絶対値ではなくて正負を含めた実際の演算値)が大きいほど、目標流量に近付けるためにレギユレータの操作量を増してその開度を大きく取るのはもちろんのこと、検出した現在流量と前回流量とを比較して、現在流量から前回流量を引算した差(同じく絶対値ではなくて正負を含めた実際の演算値)が0よりも大きくなるほど、若しくは、0よりも小さくなるほど、レギユレータの操作量の制御が順調に進んでいるからその制御を緩和すべきであるという、2つの経験上の考えを基にしている。すなわち、目標流量と現在流量の差、及び、現在流量と前回流量の差の2つの流量情報に基づいてレギユレータの操作量を出力するようになつている。」
(c)「【0009】
【実施例】以下、本発明の一実施例を添付図面に基づいて説明する。図1において、符号1は、塗料ポンプ2から吐出された塗料をスプレイガン3に給送するための塗料通路であつて、その塗料通路1に減圧弁からなるレギユレータ5が介設されており、そのレギユレータ5に接続された電空比例弁6に本発明に係る塗料流量制御装置Aから制御電圧を送出し、その制御電圧に比例してレギユレータ5に加える制御エア圧を調節し、それによりレギユレータ5の開度を調節して塗料流量を制御するようになつている。
【0010】続いて、本発明の特徴である塗料流量制御装置Aについて説明する。本実施例では、制御装置Aから電空比例弁6へ送出する制御電圧を決定するための流量情報として、目標流量と現在流量の差、及び、現在流量と前回流量の差が選択されている。
【0011】目標流量と現在流量の差については、迅速な流量制御を行うためには、その差が大きいほど、目標流量に近付けるためにレギユレータ5の開度を大きくとる必要があることに鑑み選択されたものである。
【0012】現在流量と前回流量の差については、例えば、その差が0よりも大きくなるほど、若しくは、0よりも小さくなるほど、レギユレータ5による制御が順調に進んでいるから、過分な制御とならないようにその制御を緩和すべきであるというように、制御の進み具合に応じて制御信号を出して過分な制御を行うことなく安定した制御とすることを考慮して選択されたものである。」
(d)「【0013】そこで、本実施例の塗料流量制御装置Aは、図1に示すように、流量検出部7、目標流量設定部8、情報抽出部9及びマイクロプロセツサ10とから構成されている。
【0014】流量検出部7は、上記した塗料通路1のレギユレータ5の下流側に介設されたものであつて、その塗料通路1を流れる塗料の流量を一定時間間隔ごとに検出して、情報抽出部9に出力するものである。
【0015】目標流量設定部8は、塗料の目標流量を情報抽出部9に入力するためのものである。
【0016】情報抽出部9は、上記の目標流量と検出流量に基づき、目標流量と現在流量の差、及び、現在流量と前回流量の差の流量情報を演算するためのものである。
【0017】マイクロプロセツサ10は、フアジイ推論プロセツサ11と、制御ルール記憶部12とから構成されている。フアジイ推論プロセツサ11は、情報抽出部9からの流量情報に関する演算データを用い、詳しくは後記する手順に従つて、流量制御値となる電空比例弁6への制御電圧を推論して出力するようになつている。制御ルール記憶部12は、上記のフアジイ推論プロセツサ11で実行されるフアジイ推論に必要な制御ルールを格納するためのものである。
【0018】上記した制御電圧を求めるフアジイ推論は、下記に示す25個の制御ルールに基づいて実行される。
R1 :もし目標流量と現在流量の差が非常に大で、現在流量と前回流量の差が普通位であれば、制御電圧を非常に高くせよ。
R2 :もし目標流量と現在流量の差が普通位で、現在流量と前回流量の差が非常に小であれば、制御電圧を普通位にせよ。
R3 :もし目標流量と現在流量の差が非常に小で、現在流量と前回流量の差が大であれば、制御電圧を低くせよ。
:
:
等である。
【0019】これらのルールは、発明者らが数多くの実験データから得た経験則から求めたところの、流量情報に基づく最適な制御電圧に対する制御ルールであり、これを目標流量と現在流量の差、及び、現在流量と前回流量の差の関係で表に示すと、表1のようになる。
【0020】
【表1】
【0021】表1は、横方向に目標流量と現在流量の差Xを大きさにより5段階(極小=VS、小=S、中=M、大=L、極大=VL)に分け、縦方向に現在流量と前回流量の差Yを大きさによつて上記と同様に5段階(極小=VS、小=S、中=M、大=L、極大=VL)に分けて配置し、上記の区分されたXとYとの夫々交わつた位置には、その目標流量と現在流量の差Xと、現在流量と前回流量の差Yに対応する最適な制御電圧Zを、大きさによつて5段階(極低=VS、低=S、中=M、高=L、極高=VL)に分けたうちの1つに当てはめている。
【0022】すなわち、上記した制御ルールR1は、表1における升目(R1)で示され、制御ルールR2は同表の升目(R2)で示され、制御ルールR3は升目(R3)で示される。
【0023】また、上記した言語則ルールは、図1に示した制御ルール記憶部12内に記憶する場合には、次のような25個のルール則で記憶されている。
R1 : If X is VLX and Y is MY then Z is VL
R2 : If X is MX and Y is VSY then Z is M
R3 : If X is VSX and Y is LY then Z is S
:
:
【0024】上記した構成の塗料流量制御装置Aは、以下のように作動する。情報抽出部9には目標流量設定部8から目標流量が予め入力され、流量検出部7により塗料通路1を流れる塗料の流量が一定時間間隔ごとに検出されてそれが順次に情報抽出部9に入力されると、その検出流量と設定された目標流量とに基づき、目標流量と現在流量の差、及び、現在流量と前回流量の差が夫々演算され、その演算結果がマイクロプロセツサ10のフアジイ推論プロセツサ11に出力される。
【0025】上記したR1、R2 ‥‥R25のルールは、目標流量と現在流量の差、現在流量と前回流量の差及び制御電圧の大きさを、表1のように段階的に定めてあるので、細かい流量制御を行うためには、上記した目標流量と現在流量の差、現在流量と前回流量の差の各段階の間における実測に基づいた目標流量と現在流量の差、現在流量と前回流量の差では、上記の制御ルールRの前件部(If部)をどの程度満たしているかの度合を算出して、その度合に応じた制御電圧を推定する必要がある。
【0026】そのため、本実施例では、上記の度合を目標流量と現在流量の差、現在流量と前回流量の差及び制御電圧に対するフアジイ変数のメンバーシツプ関数を利用して算出する。
【0027】図2(A)は、目標流量と現在流量の差Xに対するフアジイ変数VSX、SX、MX、LX、VLXのメンバーシツプ関数μVSX(x)、μSX(x)、μMX(x)、μLX(x)、μVLX(x) を、同図(B)は、現在流量と前回流量の差Yに対するフアジイ変数VSY、SY、MY、LY、VLYのメンバーシツプ関数μVSY(y)、μSY(y)、μMY(y)、μLY(y)、μVLY(y)を、夫々示したものである。また、同図(C)は、制御電圧Zに対するフアジイ変数VS、S、M、L、VLのメンバーシツプ関数μVS(Z)、μS(Z)、μM(Z)、μL(Z)、μVL(Z)を示したものである。
【0028】フアジイ推論プロセツサ11で実行されるフアジイ推論は、上記の制御ルールR1、R2‥‥R25と、図2(A)、(B)、(C)のメンバーシツプ関数とを用いてフアジイ論理演算を行つて、制御電圧を演算する。
【0029】図3に推論のフローチヤートを示す。ステツプS1 で、目標流量設定部8からの目標流量と、流量検出部7からの検出流量に基づいて、情報抽出部9により、目標流量と現在流量の差、現在流量と前回流量の差のデータx0、y0を演算する。
【0030】ステツプS2 で、フアジイ推論プロセツサ11によつて、目標流量と現在流量の差、現在流量と前回流量の差に対するフアジイ変数のメンバーシツプ関数(図中ではM関数で表示)を用いて、演算データx0、y0におけるメンバーシツプ値(図中ではM値と表示)の算出を行う。
【0031】ステツプS3 で、得られた目標流量と現在流量の差、現在流量と前回流量の差のメンバーシツプ値が、上記した25個の各ルールの前件部をどの程度満たしているかの度合を、下記の数式1、数式2‥‥のように、フアジイ論理積で算出する。図3では、目標流量と現在流量の差に対するフアジイ変数をP、現在流量と前回流量の差に対するフアジイ変数をQで示している。
【0032】
【数1】 【数2】 ::
【0033】ここで、数式1は、演算された目標流量と現在流量の差x0 が、目標流量と現在流量の差に対する領域VLXに入り、かつ、演算された現在流量と前回流量の差y0 が、現在流量と前回流量の差に対する領域MYに入るという命題は、x0がVLXに入る度合と、y0 がMYに入る度合のうち小さい値としての度合で成立すること、言い換えると、目標流量と現在流量の差x0 、現在流量と前回流量の差y0 のとき、制御ルールR1の前件部はD1の度合で成立することを表している。同様に数式2は、目標流量と現在流量の差x0、現在流量と目標流量の差y0のとき制御ルールR2の前件部はD2の度合で成立することを表している。
【0034】ステツプS4 で、上記したように一つの制御ルールRnの前件部が度合Dnで成立すれば、そのルールの実行部(Then部)もDn の度合で成立するので、各制御ルールごとの前件部が成立する度合Dn をルール実行部におけるフアジイ変数(VS、S、M、L、VL)のメンバーシツプ関数に乗じて、実行部のメンバーシツプ関数の修正を下記の数式のように行う。
【0035】
【数3】 【数4】 ::
【0036】ステツプS5 で、上記の修正された制御ルールの実行部のメンバーシツプ関数によつて、上記の目標流量と現在流量の差x0、現在流量と前回流量の差y0における電空比例弁6への最適の制御電圧Z0 が下記のようにして求められる。
【0037】制御電圧Z0 を求めるためには、まず上記のように得られた各制御ルールの実行部の修正されたメンバーシツプ関数の論理和を取つて、下記の数式5のように全ルールの実行部の総合メンバーシツプ関数を求める。
【0038】
【数5】
【0039】数式5は、目標流量と現在流量の差x0、現在流量と前回流量の差y0のとき、最適の制御電圧Z0 の発生度合を幅に対する関数として表したものである。
【0040】次に、数式6に示すように、総合メンバーシツプ関数のフアジイ変数の制御電圧を総合メンバーシツプ関数に属する度合(すなわちメンバーシツプ値)で重み付け平均することにより、制御電圧Z0 を求める。
【0041】
【数6】
【0042】以上のように求められた制御電圧の信号が、既述したように電空比例弁6に出力される。」
(e)「【0043】このように本実施例によれば、レギユレータ調節用の電空比例弁に加える制御電圧を決定する際の制御パラメータとして、目標流量と現在流量の差に加えて、流量制御の進み具合を見る現在流量と前回流量の差を選択しており、しかも、制御ルールが実験を重ねた経験則から成り立つているので、常に迅速で安定した塗料流量の制御を行うことができる。
【0044】
【発明の効果】以上詳細に説明したように、本発明によれば、塗料流量の制御が、実測に基づくきめ細かな流量情報と、経験則に基づく制御ルールとからフアジイ論理演算した結果によつて行われるから、迅速でしかも安定した制御が可能であり、塗装面の仕上りがより上質な塗装を施すことができる効果がある。」

イ 技術事項
(ア)まず、記載事項(d)には、「【0014】流量検出部7は、上記した塗料通路1のレギユレータ5の下流側に介設されたものであつて、その塗料通路1を流れる塗料の流量を一定時間間隔ごとに検出して、情報抽出部9に出力するものである。」とあるから、流量検出部7は、塗料通路1に設けられた何らかの流量検出手段と、流量検出手段により測定された測定値に基づいて、流量を一定時間間隔毎に検出する何らかの流量演算部とから構成されるものと認められる。
(イ)また、記載事項(d)には、「【0024】上記した構成の塗料流量制御装置Aは、以下のように作動する。情報抽出部9には目標流量設定部8から目標流量が予め入力され、流量検出部7により塗料通路1を流れる塗料の流量が一定時間間隔ごとに検出されてそれが順次に情報抽出部9に入力されると、その検出流量と設定された目標流量とに基づき、目標流量と現在流量の差、及び、現在流量と前回流量の差が夫々演算され、その演算結果がマイクロプロセツサ10のフアジイ推論プロセツサ11に出力される。」とあるから、現在流量と前回流量の差について、一定時間間隔であるΔt毎にマイクロプロセッサ10のファジイ推論プロセッサ11で処理されるものと解され、このことは目標流量と現在流量の差についても同様である。
(ウ)さらに、記載事項(d)には、「【0027】図2(A)は、目標流量と現在流量の差Xに対するフアジイ変数VSX、SX、MX、LX、VLXのメンバーシツプ関数μVSX(x)、μSX(x)、μMX(x)、μLX(x)、μVLX(x) を、同図(B)は、現在流量と前回流量の差Yに対するフアジイ変数VSY、SY、MY、LY、VLYのメンバーシツプ関数μVSY(y)、μSY(y)、μMY(y)、μLY(y)、μVLY(y)を、夫々示したものである。・・・。」、「【0030】ステツプS2 で、フアジイ推論プロセツサ11によつて、目標流量と現在流量の差、現在流量と前回流量の差に対するフアジイ変数のメンバーシツプ関数(図中ではM関数で表示)を用いて、演算データx0、y0におけるメンバーシツプ値(図中ではM値と表示)の算出を行う。」とあるから、目標流量と現在流量の差x0については、メンバーシツプ関数μVSX(x)、μSX(x)、μMX(x)、μLX(x)、μVLX(x)のそれぞれに当てはめて、また、現在流量と前回流量の差y0については、メンバーシツプ関数μVSY(y)、μSY(y)、μMY(y)、μLY(y)、μVLY(y)のそれぞれに当てはめて、各関数毎のメンバーシツプ値を求めるものであることが読み取れる。

ウ 引用発明
以上の技術事項イを踏まえ、記載事項(a)ないし(e)、及び図1?3の記載全体を総合すると、引用例には次の発明が記載されているものと認められる。

「塗料流量制御装置であって、
該装置は、
塗料通路1の入り口及び出口を有するレギュレータ5と、
該レギュレータ5に接続された電空比例弁6と、
塗料通路1を介して該レギュレータ5とスプレイガン3との間に設けられた流量検出部7を構成する流量検出手段と、
流量検出部7を構成する流量演算部を介して該流量検出手段に接続された情報抽出部9、及び該情報抽出部9と該電空比例弁6とに接続されたマイクロプロセッサ10であって、
該流量演算部は、該流量検出手段により測定された測定値に基づいて、流量をΔt毎に検出することと、
該情報抽出部9は、Δt毎に、現在流量と前回流量の差y0、及び目標流量と現在流量の差x0を演算することと、
該マイクロプロセッサ10は、Δt毎の現在流量と前回流量の差y0、及びΔt毎の目標流量と現在流量の差x0にファジイ推論を適用することと、
該Δt毎の現在流量と前回流量の差y0、及びΔt毎の目標流量と現在流量の差x0へのファジイ推論の適用に基づいて、該電空比例弁6への制御電圧Z0を決定することと
を実行するように動作可能である、流量検出部7を構成する流量演算部、情報抽出部9及びマイクロプロセッサ10と
を備え、
該マイクロプロセッサ10は、
Δt毎の目標流量と現在流量の差x0を、メンバーシツプ関数μVSX(x)、μSX(x)、μMX(x)、μLX(x)、μVLX(x)のそれぞれに当てはめて、Δt毎の目標流量と現在流量の差x0における上記関数毎のメンバーシツプ値を求めることと、
Δt毎の現在流量と前回流量の差y0を、メンバーシツプ関数μVSY(y)、μSY(y)、μMY(y)、μLY(y)、μVLY(y)のそれぞれに当てはめて、Δt毎の現在流量と前回流量の差y0における上記関数毎のメンバーシツプ値を求めることと
を実行するようにさらに動作可能である、装置。」(以下、「引用発明」という。)

(3)対比
本願補正発明と、引用発明とを、主たる構成要件について対比する。
ア 引用発明に係る「塗料流量制御装置」は、「流量検出部7」と「電空比例弁6」とを備え、「【0009】【実施例】・・・レギユレータ5に接続された電空比例弁6に本発明に係る塗料流量制御装置Aから制御電圧を送出し、その制御電圧に比例してレギユレータ5に加える制御エア圧を調節し、それによりレギユレータ5の開度を調節して塗料流量を制御するようになつている。」というものであるから、本願補正発明における「流体フロー測定および比例流体フロー制御デバイス」に相当し、また、引用発明における「レギュレータ5」は、本願補正発明における「比例フローバルブ」に相当する。
イ 引用発明における「電空比例弁6」は、本願補正発明における「アクチュエータ」に相当する。
ウ 引用発明における「流量検出部7を構成する流量演算部」、「情報抽出部9」及び「マイクロプロセッサ10」を合わせたもの全体が、本願補正発明における「コントローラ」に相当する。
エ 本願補正発明は、「制限フロー構成要素流体入り口と該制限フロー構成要素流体出口との間の圧力低下を生成する、制限フロー構成要素」と「圧力低下を測定する手段」とにより、フロー速度を計算しているから、引用発明における「流量検出部7を構成する流量検出手段」も、本願補正発明における「制限フロー構成要素流体入り口と該制限フロー構成要素流体出口との間の圧力低下を生成する、制限フロー構成要素」と「圧力低下を測定する手段」とを合わせたものも、共に、「流量検出手段」である点で共通するといえる。
同様に、引用発明における「流量検出手段により測定された測定値に基づいて」も、本願補正発明における「圧力低下に基づいて」も、共に、「流量検出手段により測定された測定値に基づいて」である点で、共通する。
オ 引用発明において、「流量検出部7」は、塗料通路1に流れる塗料の流量をその流量検出手段により測定するものであるところ、該塗料通路1の断面積は所定の値で一定あるから、引用発明における「流量」は、本願補正発明における「フロー速度」に実質的に相当するといえる。
カ 引用発明において、「Δt毎の現在流量と前回流量の差y0」は、一定時間間隔Δt毎に演算されるものであり、その時間間隔Δtは、記載事項(e)に、「【0043】このように本実施例によれば、レギユレータ調節用の電空比例弁に加える制御電圧を決定する際の制御パラメータとして、目標流量と現在流量の差に加えて、流量制御の進み具合を見る現在流量と前回流量の差を選択しており、しかも、制御ルールが実験を重ねた経験則から成り立つているので、常に迅速で安定した塗料流量の制御を行うことができる。」とあるように、いわゆるファジー制御により迅速で安定した流量の制御を可能とするに足る、十分に短い時間間隔Δtである。
他方、本願補正発明における「経時的なフロー速度における変化(dF/dt)」についてみると、本願の発明の詳細な説明の段落【0029】、【0030】や図20の記載によれば、フロー速度の計算は、測定された圧力差ΔP(=P1-P2)に基づいてコンピュータでデジタル処理により行っており、してみると、かかる計算は、やはり所定の時間間隔毎に行うものである。
よって、引用発明における「Δt毎の現在流量と前回流量の差y0」は、本願補正発明における「経時的なフロー速度における変化(dF/dt)」に実質的に相当するといえる。
キ 本願補正発明において「フロー速度誤差」とは、明細書の【0031】?【0043】の記載を参酌すると、フロー速度の目標値と現在の検出値との差を意味すると解される。よって、引用発明における「Δt毎の目標流量と現在流量の差x0」は、本願補正発明における「フロー速度誤差」に相当するといえる。
ク 引用発明における「メンバーシツプ関数μVSX(x)、μSX(x)、μMX(x)、μLX(x)、μVLX(x)」は、本願補正発明における「メンバーシップ関数の第1のセット」に相当し、同様に、「メンバーシツプ関数μVSY(y)、μSY(y)、μMY(y)、μLY(y)、μVLY(y)」は、本願補正発明における「メンバーシップ関数の第2のセット」に相当する。
ケ 同様に、引用発明における「目標流量と現在流量の差x0における上記関数毎のメンバーシツプ値」、「現在流量と前回流量の差y0における上記関数毎のメンバーシツプ値」は、それぞれ、本願補正発明における「ファジー入力の第1のセット」、「ファジー入力の第2のセット」に相当する。

コ 以上の相当関係や対応関係を整理すると、両者の一致点、相違点は、以下のとおりである。
(一致点)
「流体フロー測定及び比例流体フロー制御デバイスであって、
該デバイスは、
流体入り口及び流体出口を有する比例フローバルブと、
該比例フローバルブのためのアクチュエータと、
流量検出手段と、
該流量検出手段と該アクチュエータとに接続されたコントローラであって、該コントローラは、
該流量検出手段により測定された測定値に基づいて、フロー速度を計算することと、
経時的なフロー速度における変化(dF/dt)及びフロー速度誤差にファジー論理規則を適用することと、
該フロー速度における変化及びフロー速度誤差へのファジー論理規則の適用に基づいて、該比例流体フローバルブを調節する量を決定することと
を実行するように動作可能である、コントローラと
を備え、
該コントローラは、
フロー速度誤差を、メンバーシップ関数の第1のセットに対して比較して、ファジー入力の第1のセットを生成することと、
経時的なフロー速度における変化(dF/dt)を、メンバーシップ関数の第2のセットに対して比較して、ファジー入力の第2のセットを生成することと
を実行するようにさらに動作可能である、デバイス。」
(相違点)
・相違点1:流量検出手段として、
本願補正発明は、「制限フロー構成要素流体入り口と該制限フロー構成要素流体出口との間の圧力低下を生成する、制限フロー構成要素」と、「該圧力低下を測定する手段」とを採用しているのに対し、引用発明では、「流量検出部7を構成する流量検出手段」であるにとどまり、その具体的構成が必ずしも明らかではない点。
・相違点2:流量検出手段と比例フローバルブとの位置関係が、
本願補正発明では、「制限フロー構成要素流体入り口と、該比例フローバルブの該流体入り口と流体連絡状態にある制限フロー構成要素流体出口とを有する制限フロー構成要素」とあるように、比例フローバルブは、流量検出手段を構成する制限フロー構成要素から見て、流体の出口側に設けられているのに対し、引用発明では、「塗料通路1を介して該レギュレータ5とスプレイガン3との間に設けられた流量検出部7を構成する流量検出手段」とあるように、流量検出手段が、レギュレータ5(本願補正発明における「比例フローバルブ」に相当する。以下、同様。)から見て、塗料(流体)の出口側に設けられている点。

(4)判断
前記相違点1、相違点2を併せて検討する。
まず、流体検出手段として、制限フロー構成要素であるオリフィス等の差圧発生器を流路に設けて、その両端に発生する差圧を測定するようにしたものは、差圧式流量計として本願優先日当時、周知な技術である。
この点については、例えば、原審における拒絶の理由で引用された、特開平5-79871号公報(発明の名称:多機能流体計測伝送装置及びそれを用いた流体量計測制御システム、出願人:株式会社日立製作所、公開日:平成5年3月30日、以下、「周知例」という。)の図1や【0026】に示された、オリフィス等の差圧発生器560、差圧ΔPを計測し流量Qを演算する流体計測伝送装置を参照のこと。
そして、制限フロー構成要素と、比例フローバルブの位置関係についてみると、流路中で流れは連続的であるから、どちらを流体の下流側(すなわち、出口側)に設けても、流体の流量制御を的確に行うとの作用効果において差異はなく、よって、本願補正発明の如く、比例フローバルブを流量検出手段を構成する制限フロー構成要素から見て、流体の出口側に設けるようにすることは、設計的事項に過ぎないことである。
事実、上記周知例として挙げた流体量計測制御システムにおいても、バルブをオリフィス等の差圧発生器から見て下流側(すなわち、出口側)に設けている。

そして、本願補正発明の作用効果も、引用発明及び周知技術から当業者が予測可能なものであって格別のものではない。
したがって、本願補正発明は、引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、同法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

(5)請求人の主張について
請求人は、回答書において、本願補正発明では、ファジー論理規則を適用する対象は、「経時的なフロー速度における変化(dF/dt)」であり、この点で、流量の差F2-F1を対象とする引用例とは異なる旨主張している。
しかしながら、引用例においても、ファジイ推論を適用する対象は、「Δt毎の現在流量と前回流量の差y0」であり、単なる流量の差ではないことは、前記「(3)対比 カ」で説示したとおりであり、よって、請求人の主張は採用できない。

(6)むすび
以上のとおり、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項で準用する同法第126条第5項の規定に違反するものであるから、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

3.本願発明について
本件補正は前記のとおり却下されたので、本願の請求項1ないし29に係る発明は、補正1及び補正2によって補正された明細書、特許請求の範囲及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし29に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、その請求項6に係る発明は次のとおりである。
「流体フロー測定および比例流体フロー制御デバイスであって、
該デバイスは、
流体入り口および流体出口を有する比例フローバルブと、
該比例フローバルブのためのアクチュエータと、
制限フロー構成要素流体入り口と、該比例フローバルブの該流体入り口と流体連絡状態にある制限フロー構成要素流体出口とを有する制限フロー構成要素であって、該制限フロー構成要素は、該制限フロー構成要素流体入り口と該制限フロー構成要素流体出口との間の圧力低下を生成する、制限フロー構成要素と、
該圧力低下を測定する手段と、
該圧力低下を測定する手段と該アクチュエータとに接続されたコントローラであって、該コントローラは、
該圧力低下に基づいて、フロー速度を計算することと、
経時的なフロー速度における変化(dF/dt)およびフロー速度誤差にファジー論理規則を適用することと、
該フロー速度における変化およびフロー速度誤差へのファジー論理規則の適用に基づいて、該比例流体フローバルブを調節する量を決定することと
を実行するように動作可能である、コントローラと
を備える、デバイス。」(以下、「本願発明」という。)

(1)引用例記載の事項・発明
原査定の拒絶の理由に引用された技術事項や発明は、前記「2.(2)引用例記載の事項・発明」に記載したとおりである。

(2)対比・判断
本願発明は、前記「2.(1)補正の内容」で検討した本願補正発明から、「コントローラ」についての限定事項である「フロー速度誤差を、メンバーシップ関数の第1のセットに対して比較して、ファジー入力の第1のセットを生成することと、経時的なフロー速度における変化(dF/dt)を、メンバーシップ関数の第2のセットに対して比較して、ファジー入力の第2のセットを生成することとを実行するようにさらに動作可能である」との発明特定事項を省いたものである。
そうすると、本願発明の発明特定事項をすべて含み、さらに他の発明特定事項を付加したものに相当する本願補正発明が、前記「2.(3)対比、(4)判断」に記載したとおり、引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も同様の理由により、引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(3)むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、同法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について審理するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-09-04 
結審通知日 2012-09-11 
審決日 2012-09-27 
出願番号 特願2004-523582(P2004-523582)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (G01P)
P 1 8・ 121- Z (G01P)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 岸 智史  
特許庁審判長 飯野 茂
特許庁審判官 山川 雅也
小林 紀史
発明の名称 流体フロー測定および比例流体フロー制御デバイス  
代理人 村山 靖彦  
代理人 志賀 正武  
代理人 実広 信哉  
代理人 渡邊 隆  

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