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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C09J
管理番号 1270188
審判番号 不服2011-28300  
総通号数 160 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-04-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-12-28 
確定日 2013-02-14 
事件の表示 特願2001- 56732「接着シート、半導体装置の製造方法および半導体装置」拒絶査定不服審判事件〔平成14年 9月11日出願公開、特開2002-256236〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成13年3月1日の出願であって、平成23年5月10日付けの拒絶理由通知に応答して同年7月15日付けで意見書が提出されると共に同日付けで明細書の特許請求の範囲について手続補正がなされたが、同年9月27日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年12月28日に拒絶査定不服審判が請求されると共に同日付けで手続補正がなされ、平成24年3月13日付けで特許法第162条に基づく審査官による審査の報告書が提出されたものである。
そして、その後当審において、同年9月13日付けで審尋がなされ、それに応答して同年11月6日付けで回答書が提出されたものである。

第2 平成23年12月28日付けの手続補正についての補正の却下の決定
1 結論
平成23年12月28日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。

2 理由
(1)本件補正前の特許請求の範囲の記載
本件補正前(平成23年7月15日付け手続補正書参照。)の特許請求の範囲の請求項1?6は、以下のとおりである。
「【請求項1】 放射線重合性を有する基材と、
前記基材上に設けられ、ポリイミド系樹脂(A)、エポキシ樹脂(B)、フェノール樹脂(C)および硬化促進剤(D)を含有する接着剤層と
を有し、
前記接着剤層のポリイミド系樹脂(A)は、
次の化学式(I)(ただし、n=2?20の整数を示す。)で表されるテトラカルボン酸二無水物が、全酸二無水物に対し70モル%以上含まれるテトラカルボン酸二無水物に、ジアミンを反応させて得られるものであることを特徴とする接着シート。
【化1】

【請求項2】 前記放射線重合性を有する基材は、
放射線重合性物質として、基材中に、炭素二重結合(C=C)を少なくとも1個以上有する化合物を含有するか、もしくは基材に炭素二重結合(C=C)を少なくとも1個以上有する官能基を付加するものである請求項1に記載の接着シート。
【請求項3】 請求項1又は2に記載の接着シートを、該接着剤層を接着面として半導体ウエハに貼り付ける工程と、
前記半導体ウエハをダイシングする工程と、
前記接着シートの該基材に放射線を照射する工程と、
前記基材から接着剤層を接着させたままの半導体チップを剥離する工程と、
剥離した前記半導体チップを配線接続基板上に前記接着剤層を介して接着する工程とを有する半導体装置の製造方法。
【請求項4】 さらに、前記半導体チップと前記配線接続基板とを電気的に接続する工程を有する請求項3に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項5】 さらに、前記半導体チップを樹脂で封止する工程を有する請求項4に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項6】 請求項3?5のいずれか1項に記載の半導体装置の製造方法によって製造された半導体装置。」

(2)本件補正後の特許請求の範囲の記載
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1?5は、次のように補正された。
「【請求項1】 アクリル酸エステル共重合体を用いてなる放射線重合性を有する基材と、
前記基材上に設けられ、ポリイミド系樹脂(A)、エポキシ樹脂(B)、フェノール樹脂(C)および硬化促進剤(D)を含有する接着剤層と
を有し、
前記アクリル酸エステル共重合体を用いてなる放射線重合性を有する基材は、炭素二重結合(C=C)を少なくとも1個以上有する化合物をさらに含有するか、もしくは前記アクリル酸エステル共重合体に炭素二重結合(C=C)を少なくとも1個以上有する官能基を付加したものを含有するものであり、
前記接着剤層のポリイミド系樹脂(A)は、
次の化学式(I)(ただし、n=2?20の整数を示す。)で表されるテトラカルボン酸二無水物が、全酸二無水物に対し70モル%以上含まれるテトラカルボン酸二無水物に、ジアミンを反応させて得られるものであることを特徴とする接着シート。
【化1】

【請求項2】 請求項1に記載の接着シートを、該接着剤層を接着面として半導体ウエハに貼り付ける工程と、
前記半導体ウエハをダイシングする工程と、
前記接着シートの該基材に放射線を照射する工程と、
前記基材から接着剤層を接着させたままの半導体チップを剥離する工程と、
剥離した前記半導体チップを配線接続基板上に前記接着剤層を介して接着する工程とを有する半導体装置の製造方法。
【請求項3】 さらに、前記半導体チップと前記配線接続基板とを電気的に接続する工程を有する請求項2に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項4】 さらに、前記半導体チップを樹脂で封止する工程を有する請求項3に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項5】 請求項3又は4に記載の半導体装置の製造方法によって製造された半導体装置。」

(3)補正の内容
ア.請求項1
放射線重合性を有する基材について、「アクリル酸エステル共重合体を用いてなる放射線重合性を有する基材」と特定し、さらに、本件補正前の請求項2の発明特定事項を付加して、当該基材が「炭素二重結合(C=C)を少なくとも1個以上有する化合物をさらに含有するか、もしくは前記アクリル酸エステル共重合体に炭素二重結合(C=C)を少なくとも1個以上有する官能基を付加したものを含有するもの」であると補正するものである(以下、「補正事項1」という。)。

イ.請求項2ないし5
本件補正前の請求項2の発明特定事項が、請求項1に付加されたことに伴い、本件補正前の請求項3?6において引用する請求項を、それぞれ1つずつ繰り上げ、本件補正後の請求項2?5と補正するものである(以下、それぞれ「補正事項2」?「補正事項5」という。)。

(4)補正目的の要件について
本件補正は、上記補正事項1?5の補正を行うものであり、本件補正後の請求項1は、本件補正前の請求項1に記載した発明の発明特定事項を減縮し、本件補正前の請求項2を削除し、本件補正後の請求項2?5は、本件補正前の請求項3?6を、本件補正前の請求項2の発明特定事項を含む発明のみを引用するように減縮したものである。
よって、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例とされる同法による改正前の特許法(以下、「改正前特許法」という。)第17条の2第1項第4号の「拒絶査定不服審判を請求する場合において、その審判の請求と同時にするとき。」になされたものであるところ、第17条の2第4項第1号の請求項の削除及び第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の前記請求項1に記載された発明(以下、「本件補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか。)について以下に検討する。

(5)刊行物
ア.刊行物1
本願出願前に日本国内において頒布された、原査定の拒絶の理由に引用された引用例である、特開平10-335271号公報(以下、「刊行物1」という。)には、図面と共に次の事項が記載されている。

(記載事項ア1)「【0001】
【発明の技術分野】本発明は、半導体ウェハ、例えばシリコンウェハの上に形成された複数の半導体集積回路を回路毎にダイシングし、個々の半導体集積回路、即ちICチップ(チップまたはダイとも言う)とする工程において使用されるウェハ貼着用シート、およびこのような工程を含む半導体装置の製造方法に関する。」(段落【0001】)

(記載事項ア2)「【0004】このようなパッケージクラックの発生を防止するために、ウェハの裏面に予めポリイミド系樹脂層を設けておき、これをダイシングして得られる、裏面にポリイミド系樹脂層を有するICチップを用いることが提案されている。パッケージクラックの発生防止のメカニズムは必ずしも明らかではないが、ポリイミド系樹脂層を介することにより、ICチップと封止樹脂との密着性が向上するため、パッケージクラックの発生が防止されるものと考えられている。
【0005】従来、ポリイミド系樹脂層をウェハ裏面に設けるためには、ポリイミド系樹脂を直接スピンコートあるいはスクリーン印刷することにより行われていた。しかしながら、この方法では・・・(中略)・・・パッケージクラックの発生原因となることもあった。また、この方法では、ポリイミド系樹脂層を均一な厚さで形成することが困難であった。
【0006】
【発明の目的】本発明は、上記のような従来技術に鑑みてなされたものであって、パッケージクラック等の発生を防止し、信頼性を向上することができる半導体装置の製造方法ならびに該製法に好適に用いられるウェハ貼着用シートを提供することを目的としている。
【0007】
【発明の概要】本発明に係るウェハ貼着用シートは、基材フィルムと、前記基材フィルム上に形成された放射線硬化型粘着剤層と、該放射線硬化型粘着剤層上に形成されたポリイミド系接着剤層とから構成されることを特徴としている。」(段落【0004】-【0007】)

(記載事項ア3)「【0016】基材フィルム1上に形成されている放射線硬化型粘着剤層2は、たとえば粘着剤と放射線重合性化合物からなる。粘着剤としては、アクリル系、ポリエステル系、天然ゴム系等従来公知の粘着剤が特に制限されることなく用いられる。これらの内でも、アクリル系粘着剤が好ましく、特にアクリル酸エステルを主たる構成単位とするアクリル系粘着剤が好ましい。
【0017】アクリル酸エステルとしては、たとえば、炭素数1?10のアルキルアルコールのアクリル酸エステル、炭素数1?10のアルキルアルコールのメタクリル酸エステル等が用いられる。
【0018】
・・・(中略)・・・
【0019】これらのモノマーを重合して得られる共重合体の分子量は、1.0×10^(5 )?10.0×10^(5) であり、好ましくは4.0×10^(5) ?8.0×10^(5) である。・・・(中略)・・・
【0020】また放射線硬化型粘着剤層2に用いられる放射線重合性化合物としては、たとえば特開昭60-196,956号公報および特開昭60-223,139号公報に開示されているような光照射によって三次元網状化しうる分子内に光重合性炭素-炭素二重結合を少なくとも2個以上有する低分子量化合物が広く用いられ、具体的には、・・・(中略)・・・などが用いられる。」(段落【0016】-【0020】)

(記載事項ア4)「【0023】また、放射線硬化型粘着剤層2は、側鎖に放射線重合性基を有するエネルギー線硬化型共重合体から形成されていてもよい。このような放射線硬化型共重合体は、粘着性と放射線硬化性とを兼ね備える性質を有する。側鎖に放射線重合性基を有するエネルギー線硬化型共重合体は、たとえば、特開平5-32946号公報、特開平8-27239号公報等にその詳細が記載されている。」(段落【0023】)

(記載事項ア5)「【0026】上記のような放射線硬化型粘着剤は、放射線照射前には被着体に対して充分な接着力を有し、放射線照射後には接着力が著しく減少する。すなわち、放射線照射前には、ポリイミド系接着剤層4を充分な接着力で保持するが、放射線照射後には、ポリイミド系接着剤層4を容易に剥離することができる。」(段落【0026】)

(記載事項ア6)「【0029】放射線硬化型粘着剤層2上に形成されるポリイミド系接着剤層4は、ポリイミド系樹脂からなる。・・・」(段落【0029】)

(記載事項ア7)「【0031】また、ポリイミド系樹脂に、他のポリマーやオリゴマー、低分子化合物を添加したポリイミド系接着剤を用いてもよい。たとえば、エポキシ樹脂・・・(中略)・・・などの各種ポリマーやオリゴマー;・・・(中略)・・・などの含窒素有機化合物などを添加剤として挙げることができる。」(段落【0031】)

(記載事項ア8)「【0033】・・・(中略)・・・ポリイミド系接着剤層4を、放射線硬化型粘着剤層2上に設けるには、図2に示すように、ポリイミド系接着剤層4をポリイミド用工程フィルム5上に成膜した後に、得られた積層体のポリイミド系接着剤層面を放射線硬化型粘着剤層2面に貼着し、ポリイミド系接着剤層を放射線硬化型粘着剤2上に積層することにより行う。」(段落【0033】)

(記載事項ア9)「【0045】このようにして得られた、裏面にポリイミド系接着剤層を有するチップは、特にチップ裏面の一部または全部がモールド樹脂に接触する構造の半導体装置の製造に好適に用いられる。このような構造の半導体装置では、チップ裏面と封止樹脂とがポリイミド系接着剤層を介して強固に接着するので、パッケージクラックの発生が防止される。」(段落【0045】)

上記記載事項ア2には、ウエハ貼着用シートは、放射線硬化型粘着剤層とポリイミド系接着剤層からなり、放射線硬化型粘着剤層の上にポリイミド系接着剤層が設けられることが示されている。
上記記載事項ア3には、放射線硬化型粘着剤層が粘着剤と放射線重合性化合物からなり、粘着剤として、アクリル酸エステルの共重合体を用い、放射線重合性化合物として、分子内に光重合性炭素-炭素二重結合を少なくとも2個以上有するものを用いること、すなわち、アクリル酸エステル共重合体を用いてなる放射線重合性を有する放射線硬化型粘着剤層は、炭素二重結合を少なくとも1個以上有する化合物をさらに含有するものであることが示されている。
上記記載事項ア6及び記載事項ア7には、ポリイミド系接着剤層がポリイミド系樹脂に、エポキシ樹脂などの各種ポリマーやオリゴマーを添加してよいことが示されている。
よって、これら記載事項ア1?ア9を総合し、本件補正発明の表現に則って整理すると、刊行物1には、次の発明(以下、「刊行物発明」という。)が記載されている。

「アクリル酸エステル共重合体を用いてなる放射線重合性を有する放射線硬化型粘着剤層と、前記放射線硬化型粘着剤層上に設けられ、ポリイミド系樹脂、エポキシ樹脂などを含有するポリイミド系接着剤層とを有し、前記アクリル酸エステル共重合体を用いてなる放射線重合性を有する放射線硬化型粘着剤層は、炭素二重結合を少なくとも1個以上有する化合物をさらに含有するウエハ貼着用シート。」

イ.刊行物2
本願出願前に日本国内において頒布された、原査定の拒絶の理由に引用された引用例である、特開平8-73832号公報(以下、「刊行物2」という。)には、図面と共に次の事項が記載されている。

(記載事項イ1)「【0004】・・・(中略)・・・高密度・高効率の実装のための半田実装は、半導体装置のリードフレームを基板に直接半田付けする面付け実装法が主流で、この半田実装には基板全体を赤外線等で加熱するリフローソルダリングが用いられている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】赤外線等で加熱すると、半導体装置のパッケージは200℃以上の高温に加熱され、パッケージ内部、特に接着層中又は封止材中に含まれる水分が気化してダイパッドと封止材の間に回り込み、パッケージにクラック(リフロークラック)を発生させる問題があった。本発明は、種々の基材表面に対して接着力に優れ、かつ、リフローソルダリング時にリフロークラックを起こさない樹脂ペーストと、これを用いた信頼性の高い半導体装置を提供するものである。」(段落【0004】-【0005】)

(記載事項イ2)「【0006】
【課題を解決するための手段】本発明の樹脂ペーストは、下記(1)?(4)の樹脂ペーストである。
(1)式(I)
【化3】・・・(中略)・・・
又は、式(II)
【化4】・・・(中略)・・・
で表される反復単位の総和が、全ポリイミド系樹脂の反復単位の総和の70モル%以上を含有するポリイミド系樹脂、及び(B)導電性フィラー、を含有してなる樹脂ペースト。
(2)(A)ポリイミド系樹脂、及び(B)導電性フィラー、のほかに(C)熱硬化性樹脂を含有してなる、上記(1)の樹脂ペースト。
・・・(中略)・・・
【0009】反復単位が式(I)又は式(II)で表されるポリイミド系樹脂は、式(III)
【化5】

(ただし、nは2?20の整数を示す。)で表されるテトラカルボン酸二無水物とジアミンとを縮合反応させる方法・・・(中略)・・・、等により製造できる。」(段落【0006】-【0009】)

(記載事項イ3)「【0017】式(I)又は式(II)で表される反復単位は、全ポリイミド系樹脂の反復単位に対し70モル%以上を含むようにする。70モル%未満であると、種々の基材表面に対する接着力が低下し、リフローソルダリング時にリフロークラックが発生しやすくなる。」(段落【0017】)

(記載事項イ4)「【0021】本発明で用いる熱硬化性樹脂(C)は、エポキシ樹脂、フェノール樹脂及び硬化促進剤を含有する樹脂か、又は、1分子中に少なくとも2個の熱硬化性イミド基を有するイミド化合物がよい。・・・(中略)・・・
【0022】熱硬化性樹脂として、エポキシ樹脂、フェノール樹脂及び硬化促進剤を含有する樹脂を用いる場合、エポキシ樹脂は、硬化性や硬化物特性の点から分子内に少なくとも2個のエポキシ基を含む樹脂が好ましい。・・・(中略)・・・
【0023】用いられるフェノール樹脂は、分子中に少なくとも2個のフェノール性水酸基を有するもので、・・・(中略)・・・等が挙げられる。・・・(中略)・・・
【0024】硬化促進剤は、エポキシ樹脂を硬化させるために用いられるものであれば特に制限はない。・・・」(段落【0021】-【0024】)

(記載事項イ5)「【0034】熱硬化性樹脂を含有させた樹脂ペーストは、熱時の剪断接着力が高くなる特徴がある。しかし、熱時のピール接着力は逆に低下するので、使用目的に応じて、熱硬化性樹脂を含む又は含まない樹脂ペーストとし、使い分けるとよい。
【0035】本発明の樹脂ペーストを用いた半導体装置は、ディスペンス法、スタンピング法、スクリーン印刷等によりリードフレーム等の支持部材に樹脂ペーストを塗布し、これに半導体素子を圧着させ、その後熱風循環式乾燥機、ヒートブロック等の加熱装置を用いて加熱硬化させて、半導体素子と支持部材とを接合させ、その後、通常のワイヤボンディング工程、封止工程を経て半導体装置とされる。」(段落【0034】-【0035】)

(記載事項イ6)「【0036】
【実施例】以下、本発明を実施例により説明する。
合成例1
・・・(中略)・・・2,2-ビス(4-アミノフェノキシフェニル)プロパン41g(0.1モル)及びジメチルアセトアミド150gをとり、攪拌した。ジアミンの溶解後、フラスコを氷浴中で冷却しながら、1,2-(エチレン)ビス(トリメリテート二無水物)41g(0.1モル)を少量ずつ添加した。・・・(中略)・・・乾燥してポリイミド樹脂(A_(1))を得た。
【0037】合成例2
・・・(中略)・・・ビス(4-(3-アミノフェノキシ)フェニル)スルホン43.2g(0.1モル)及びN-メチル-2-ピロリドン150gをとり、攪拌した。ジアミンの溶解後、室温で、1,4-(テトラメチレン)ビス(トリメリテート二無水物)43.8g(0.1モル)を加えた。・・・(中略)・・・乾燥してポリイミド樹脂(A_(2))を得た。
【0038】合成例3
・・・(中略)・・・2,2-ビス(4-アミノフェノキシフェニル)プロパン32.8g(0.08モル)、3,3′,5,5′-テトラメチル-4,4′-ジアミノジフェニルメタン5.08g(0.02モル)及びジメチルアセトアミド100gをとり、攪拌した。ジアミンの溶解後、フラスコを氷浴中で冷却しながら、1,10-(デカメチレン)ビス(トリメリテート二無水物)41.8g(0.08モル)及びベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物6.44g(0.02モル)を少量ずつ添加した。・・・(中略)・・・乾燥してポリイミド樹脂(A_(3))を得た。
【0039】合成例4
・・・(中略)・・・2,2-ビス(4-アミノフェノキシフェニル)プロパン41.0g(0.10モル)及びジメチルアセトアミド100gをとり、撹拌した。ジアミンの溶解後、フラスコを氷浴中で冷却しながら、1,10-(デカメチレン)ビス(トリメリテート二無水物)41.8g(0.08モル)及びベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物6.44g(0.02モル)を少量ずつ添加した。・・・(中略)・・・乾燥してポリアミド酸樹脂(A_(4))を得た。」(段落【0036】-【0039】)

(記載事項イ7)実施例1、2及び試験例1、2の結果として、表1、表2、表4及び表5がまとめられ、そこには、【表2】に示される、ポリイミド系樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂及び硬化促進剤を含有する樹脂ペースト(No.4?9)は、【表1】に示される、ポリイミド系樹脂を含有し、エポキシ樹脂、フェノール樹脂及び硬化促進剤を含有しない樹脂ペースト(No.1?3)よりも、【表4】と【表5】との比較により示されるように、350℃における剪断接着力が高いことが記載されている。(【表1】、【表2】、【表4】及び【表5】)

(記載事項イ8)「【0060】
【発明の効果】請求項1?4の樹脂ペーストは、種々の基材表面に対する接着力に優れ、かつ、リフローソルダリング時にリフロークラックを起こさない。請求項5の半導体装置は、リフロークラックを起こさないので信頼性が高い。」(段落【0060】)

上記記載事項イ2及びイ3より、式(III)で表されるテトラカルボン酸二無水物とジアミンとを縮合反応させて作成される、式(I)又は式(II)で表される反復単位が、全ポリイミド系樹脂の反復単位に対し70モル%以上を含むのであるから、式(III)で表されるテトラカルボン酸二無水物が、全ポリイミド系樹脂の反復単位に対し70モル%以上を含むことは明らかである。(ちなみに、上記記載事項イ6の実施例として、式(III)で表されるテトラカルボン酸二無水物である、1,2-(エチレン)ビス(トリメリテート二無水物)、1,4-(テトラメチレン)ビス(トリメリテート二無水物)、及び、1,10-(デカメチレン)ビス(トリメリテート二無水物)が、全ポリイミド系樹脂の反復単位に対し、それぞれ100モル%、100モル%、及び、80モル%含まれる、合成例1?4が示されている。)

よって、これら記載事項イ1?イ8を総合すると、刊行物2には、次の事項(以下、「刊行物2事項」という。)が記載されている。

「加熱により発生するリフロークラックを防止するために、リードフレーム等の支持部材に塗布し、当該支持部材に半導体素子を圧着させる樹脂ペーストとして、ポリイミド系樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂及び硬化促進剤を含有する樹脂ペーストであって、当該ポリイミド系樹脂が、式(III)

(ただし、nは2?20の整数を示す。)で表されるテトラカルボン酸二無水物が、全ポリイミド系樹脂の反復単位に対し70モル%以上を含むテトラカルボン酸二無水物に、ジアミンを反応させて得られる、350℃における剪断接着力が高い、樹脂ペースト」

ウ.刊行物3
本願出願前に日本国内において頒布された、原査定の拒絶の理由に引用された引用例である、特開平6-264035号公報(以下、「刊行物3」という。)には、図面と共に次の事項が記載されている。

(記載事項ウ1)「【特許請求の範囲】
【請求項1】(A)次の化1〔式(I)〕
【化1】

(ただし、n=2?20の整数を示す。)で表されるテトラカルボン酸二無水物が、全酸二無水物に対し70モル%以上含まれるテトラカルボン酸二無水物に、ジアミンを反応させて得られるポリイミド系樹脂;
(B)エポキシ樹脂;
(C)フェノール樹脂;
(D)硬化促進剤;及び
(E)無機物質フィラー、
を含有してなる接着フィルム。
・・・」(【特許請求の範囲】)

(記載事項ウ2)「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、ICやLSIとリードフレームの接合材料、すなわちダイボンディング用材料として用いられる接着フィルム、その製造法及び接着法に関する。」(段落【0001】)

(記載事項ウ3)「【0004】
【発明が解決しようとする課題】上記雑誌に開示された接着フィルムは、融点が低い熱可塑性樹脂を用いると接合温度が低くなり、リードフレームの酸化等、チップに与えるダメージは少なくてすむ。しかし、耐熱性が低いのでダイボンド後の熱処理、例えばワイヤボンド、封止工程等に耐えられない。そのような熱処理に耐えられるように融点の高い熱可塑性樹脂を用いると、接合温度が高くなり、リードフレームの酸化等のダメージを受ける問題がある。本発明は、ダイボンド時の熱処理を従来の銀ペーストと同じように比較的低温で行うことのできる、ダイボント用の接着フィルムを提供することを目的としている。」(段落【0004】)

(記載事項ウ4)「【0008】本発明で用いる硬化促進剤(D)は、エポキシ樹脂を硬化させるために用いられるものであれば特に制限はない。・・・」(段落【0008】)

(記載事項ウ5)「【0025】本発明で得られた接着フィルムは、IC、LSI等の半導体素子のリードフレーム、セラミックス配線板、ガラスエポキシ配線板、ガラスポリイミド配線板の支持部材の接着に用いられる。
【0026】本発明の接着フィルムは、例えば、ICやLSI等の半導体素子とリードフレームとを接着する場合、次の様な方法で接着することができる。
・・・(中略)・・・
【0030】上記の方法の他に、ダイシング工程で用いられる粘着性のダイシングフィルムの上に、接着フィルムを形成させておき、これにウェハを貼り付けた後、ダイシング工程で半導体素子と接着フィルムを切断し、リードフレームに貼り付ける方法等があるが、本発明の接着フィルムは、上記に例示したいずれの方法に限定されるものではない。」(段落【0025】-【0030】)

(記載事項6)「【0031】
【実施例】以下、本発明を実施例を用いて説明する。
合成例1
・・・(中略)・・・2,2-ビス(4-(4-アミノフェノキシ)フェニル)プロパン41g(0.1モル)及びジメチルアセトアミド150gをとり、攪拌した。ジアミンの溶解後、フラスコを氷浴中で冷却しながら、エチレンビストリメリテート二無水物41g(0.1モル)を少量ずつ添加した。・・・(中略)・・・乾燥してポリイミドAを得た。
【0032】合成例2
・・・(中略)・・・4,4’-メチレン-ビス(2,6-ジイソプロピルアニリン)32.94g(0.09モル)、1,3-ビス(3-アミノプロピル)テトラメチルジシロキサン2.48g(0.01モル)及びN-メチル-2-ピロリドン150gをとり、攪拌した。ジアミンの溶解後、室温で、テトラメチレンビストリメリテート二無水物43.8g(0.1モル)を加えた。・・・(中略)・・・乾燥してポリイミドBを得た。
【0033】合成例3
・・・(中略)・・・2,2-ビス(4-アミノフェノキシフェニル)プロパン32.8g(0.08モル)、3,3′,5,5′-テトラメチル-4,4′-ジアミノジフェニルメタン5.08g(0.02モル)及びジメチルアセトアミド100gをとり、攪拌した。ジアミンの溶解後、フラスコを氷浴中で冷却しながら、デカメチレンビストリメリテート二無水物41.8g(0.08モル)及びベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物6.44g(0.02モル)を少量ずつ添加した。・・・(中略)・・・乾燥してポリイミドCを得た。」(段落【0031】-【0033】)

(記載事項ウ7)実施例1?5の結果として、表1及び表2がまとめられ、そこには、【表1】に示される、ポリイミド、エポキシ樹脂、フェノール樹脂及び硬化促進剤を含有するワニス(No.1?5)からなる接着フィルムは、ポリイミドを含有せず、エポキシ樹脂、フェノール樹脂及び硬化促進剤を含有するワニス(No.6)からなる接着フィルムや、ポリイミドを含有し、エポキシ樹脂、フェノール樹脂及び硬化促進剤を含有しないワニス(No.7)からなる接着フィルムに比べ、【表2】に示されるように、350℃における剪断接着力が高いことが記載されている。(【表1】及び【表2】)

(記載事項ウ8)「【0038】
【発明の効果】本発明の接着フィルムは、熱硬化性であるため熱時の接着性に優れている。本発明の接着フィルムを用いれば、ICやLSIの大型チップに均一に接着剤層を設けることが可能である。」(段落【0038】)

これら記載事項ウ1?ウ8を総合すると、刊行物3には、次の事項(以下、「刊行物3事項」という。)が記載されている。

「ダイボンド時の熱処理を銀ペーストと同じように比較的低温で行うことができ、350℃における剪断接着力が高く、熱時の接着性に優れることにより、ダイボンド後の熱処理に耐え、ダイシングフィルムの上に形成する、
(A)次の化1〔式(I)〕
【化1】

(ただし、n=2?20の整数を示す。)で表されるテトラカルボン酸二無水物が、全酸二無水物に対し70モル%以上含まれるテトラカルボン酸二無水物に、ジアミンを反応させて得られるポリイミド系樹脂;
(B)エポキシ樹脂;
(C)フェノール樹脂;
(D)硬化促進剤;及び
(E)無機物質フィラー、
を含有してなるダイボンディング用接着フィルム。」

エ.刊行物4
本願出願前に日本国内において頒布された、原査定の拒絶の理由に引用された引用例である、特開平7-228697号公報(以下、「刊行物4」という。)には、図面と共に次の事項が記載されている。

(記載事項エ1)「【特許請求の範囲】
【請求項1】化1の式(I)
【化1】

(ただし、n=2?20の整数を示す。)で表されるテトラカルボン酸二無水物、の含量が全テトラカルボン酸二無水物の70モル%以上であるテトラカルボン酸二無水物と、ジアミンを反応させて得られるポリイミド樹脂を含有してなる接着フィルム。
【請求項2】(A)式(I)のテトラカルボン酸二無水物、の含量が全テトラカルボン酸二無水物の70モル%以上であるテトラカルボン酸二無水物と、ジアミンを反応させて得られるポリイミド樹脂;
(B)熱硬化性樹脂、を含有してなる接着フィルム。」(【特許請求の範囲】)

(記載事項エ2)「【0004】
【発明が解決しようとする課題】上記雑誌で報告された接着フィルムは、融点が低い熱可塑性樹脂を選んで用いると接着温度を低くすることができ、リードフレームの酸化等、チップに与えるダメージは少なくてすむ。しかし、熱時接着力が低いのでダイボンド後の熱処理、例えばワイヤボンド、封止工程等に耐えられない。そのような熱処理に耐えられるように融点の高い熱可塑性樹脂を用いると、接着温度が高くなり、リードフレームの酸化等のダメージを受ける問題がある。本発明は、ダイボンド時の熱処理を従来の銀ペーストと同じように比較的低温で行うことができ、かつ、熱時接着力の高いダイボント用接着フィルムを提供することを目的としている。」(段落【0004】)

(記載事項エ3)「【0021】 本発明の接着フィルムは、(A)前記式(I)のテトラカルボン酸二無水物、の含量が、全テトラカルボン酸二無水物の70モル%以上であるテトラカルボン酸二無水物と、ジアミンを反応させて得られるポリイミド樹脂;100重量部に対し、(B)熱硬化性樹脂;0.1?200重量部、を含有してなる接着フィルムでもある。
【0022】ここで、熱硬化性樹脂は、エポキシ樹脂、フェノール樹脂及び硬化促進剤を含有する樹脂、及び、1分子中に少なくとも2個の熱硬化性イミド基を有するイミド化合物から選ぶ。」(段落【0021】-【0022】)

(記載事項エ4)「【0024】熱硬化性樹脂を含有させた接着フィルムは、熱時の剪断接着力が高くなる特徴がある。しかし、熱時のピール接着力は逆に低下するので、使用目的に応じて、熱硬化性樹脂含有又は非含有の接着フィルムとし、使い分けるとよい。・・・」(段落【0024】)

(記載事項エ5)「【0028】硬化促進剤は、エポキシ樹脂を硬化させるために用いられるものであれば特に制限はない。・・・」(段落【0028】)

(記載事項エ6)「【0038】
【実施例】以下、本発明を実施例により説明する。
合成例 1
・・・(中略)・・・2,2-ビス(4-アミノフェノキシフェニル)プロパン41g(0.1モル) 及びジメチルアセトアミド150gをとり、攪拌した。ジアミンの溶解後、フラスコを氷浴中で冷却しながら、1,2-(エチレン)ビス(トリメリテート二無水物)41g(0.1モル) を少量ずつ添加した。・・・(中略)・・・乾燥してポリイミド樹脂(A_(1))を得た。
【0039】合成例 2
・・・(中略)・・・ビス(4-(3-アミノフェノキシ)フェニル)スルホン43.2g(0.1モル) 及びN-メチル-2-ピロリドン150gをとり、攪拌した。ジアミンの溶解後、室温で、1,4-(テトラメチレン)ビス(トリメリテート二無水物)43.8g(0.1モル)を加えた。・・・(中略)・・・乾燥してポリイミド樹脂(A_(2))を得た。
【0040】合成例 3
・・・(中略)・・・2,2-ビス(4-アミノフェノキシフェニル)プロパン32.8g(0.08モル) 、3,3′,5,5′-テトラメチル-4,4′-ジアミノジフェニルメタン5.08g(0.02モル) 及びジメチルアセトアミド100gをとり、攪拌した。ジアミンの溶解後、フラスコを氷浴中で冷却しながら、1,10-(デカメチレン)ビス(トリメリテート二無水物)41.8g(0.08モル) 及びベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物6.44g(0.02モル) を少量ずつ添加した。・・・(中略)・・・乾燥してポリイミド樹脂(A_(3))を得た。」(段落【0038】-【0040】)

(記載事項エ7)実施例1、2及び試験例1、2の結果として、表1、表2、表7及び表8がまとめられ、そこには、【表2】に示される、ポリイミド、エポキシ樹脂、フェノール樹脂及び硬化促進剤を含有するワニス(No.4?8)からなる接着フィルムは、ポリイミドを含有せず、エポキシ樹脂、フェノール樹脂及び硬化促進剤を含有するワニス(No.9)からなる接着フィルムや、【表1】に示される、ポリイミドを含有し、エポキシ樹脂、フェノール樹脂及び硬化促進剤を含有しないワニス(No.1?3)からなる接着フィルムに比べ、【表7】と【表8】との比較により示されるように、350℃における剪断接着力が高いことが記載されている。」(【表1】、【表2】、【表7】、【表8】)

これら記載事項エ1?エ7を総合すると、刊行物4には、次の事項(以下、「刊行物4事項」という。)が記載されている。

「ダイボンド時の熱処理を従来の銀ペーストと同じように比較的低温で行うことができ、かつ、350℃における剪断接着力が高く、ダイボンド後の熱処理に耐える熱時接着力の高いダイボンド用接着フィルムとするために、ポリイミド樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂及び硬化促進剤を含有してなる接着フィルムであって、ポリイミド樹脂は、式(I)

(ただし、n=2?20の整数を示す。)で表されるテトラカルボン酸二無水物、の含量が全テトラカルボン酸二無水物の70モル%以上であるテトラカルボン酸二無水物と、ジアミンを反応させて得られるポリイミド樹脂である接着フィルム。」

(6)対比
ア.本件補正発明と刊行物発明とを対比すると、その構成又は機能等からみて、刊行物発明における「ポリイミド系接着剤層」、「炭素二重結合」、「ウエハ貼着用シート」は、それぞれ、本件補正発明における「接着剤層」、「炭素二重結合(C=C)」「接着シート」に相当する。
ここで、刊行物発明において、ポリイミド系接着剤層が、少なくとも、ポリイミド系樹脂、エポキシ樹脂を含有する接着剤層であることは明らかである。
また、刊行物発明における「アクリル酸エステル共重合体を用いてなる放射線重合性を有する放射線硬化型粘着剤層」は、アクリル酸エステル共重合体を用いてなる放射線重合性を有する材料である限りにおいて、本件補正発明における「アクリル酸エステル共重合体を用いてなる放射線重合性を有する基材」に相当する。
そして、刊行物発明において「前記アクリル酸エステル共重合体を用いてなる放射線重合性を有する放射線硬化型粘着剤層は、炭素二重結合を少なくとも1個以上有する化合物をさらに含有するもの」であることは、本件発明における「前記アクリル酸エステル共重合体を用いてなる放射線重合性を有する基材は、炭素二重結合(C=C)を少なくとも1個以上有する化合物をさらに含有するか、もしくは前記アクリル酸エステル共重合体に炭素二重結合(C=C)を少なくとも1個以上有する官能基を付加したものを含有するもの」という発明特定事項の内、前者を選択したものであるから、かかる発明特定事項に含まれることは明らかである。
なお、上記記載事項ア4によれば、刊行物1における放射線硬化型粘着剤層2は、側鎖に放射線重合性基を有するエネルギー線硬化型共重合体から形成されていてもよく、一方、本件補正発明の「前記アクリル酸エステル共重合体を用いてなる放射線重合性を有する基材は、炭素二重結合(C=C)を少なくとも1個以上有する化合物をさらに含有するか、もしくは前記アクリル酸エステル共重合体に炭素二重結合(C=C)を少なくとも1個以上有する官能基を付加したものを含有するもの」における「炭素二重結合(C=C)を少なくとも1個以上有する官能基」とは、「放射線重合性官能基」である(本願明細書段落【0025】?【0026】)から、放射線重合性官能基を有する点で本件補正発明と刊行物発明とで違いはなく、上記発明特定事項の内、後者を選択したものも、刊行物1には記載されている。

イ.一致点
以上を踏まえ、両者の一致点を本件補正発明の用語を用いて記載すると、次のとおりである。
「アクリル酸エステル共重合体を用いてなる放射線重合性を有する材料と、前記放射線重合性を有する材料上に設けられ、ポリイミド系樹脂(A)、エポキシ樹脂(B)を含有する接着剤層とを有し、前記アクリル酸エステル共重合体を用いてなる放射線重合性を有する材料は、炭素二重結合(C=C)を少なくとも1個以上有する化合物をさらに含有するか、もしくは前記アクリル酸エステル共重合体に炭素二重結合(C=C)を少なくとも1個以上有する官能基を付加したものを含有する接着シート」

ウ.相違点
そして両者は次の点で相違する。
ア.相違点1
本件補正発明においては、接着剤層が、ポリイミド系樹脂(A)、エポキシ樹脂(B)、フェノール樹脂(C)および硬化促進剤(D)を含有し、当該ポリイミド系樹脂(A)が、化学式(I)で表されるテトラカルボン酸二無水物が、全酸二無水物に対し70モル%以上含まれるテトラカルボン酸二無水物に、ジアミンを反応させて得られるものであるのに対し、刊行物発明は、接着剤層がそのようなものであるか否か不明である点。

イ.相違点2
アクリル酸エステル共重合体を用い、炭素二重結合(C=C)を少なくとも1個以上有する化合物をさらに含有するか、もしくは前記アクリル酸エステル共重合体に炭素二重結合(C=C)を少なくとも1個以上有する官能基を付加したものを含有する放射線重合性を有する材料が、本件補正発明においては、基材であるのに対し、刊行物発明においては、放射線硬化型粘着剤層である点。

(7)相違点についての判断
ア.相違点1について
刊行物2?4事項のとおり、ダイシング後のチップをダイボンドする際に用いる接着剤の成分として、ポリイミド系樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂および硬化促進剤を含有し、当該ポリイミド系樹脂が、

の化学式で表されるテトラカルボン酸二無水物が、全酸二無水物に対し70モル%以上含まれるテトラカルボン酸二無水物に、ジアミンを反応させて得られるものである、350℃程度の高温時にも剪断接着力が高い、熱時接着力の高い接着剤は、本願の出願時、既に公知、あるいは周知である。
上記記載事項ア2に記載のように、刊行物発明においては、ポリイミド系樹脂をダイボンド時に用いることによるパッケージクラックを防止することを課題とし、また、上記記載事項ア5、記載事項ア8及び記載事項ア9に記載されるように、刊行物発明は、チップ裏面に貼着され、ダイボンド時にモールド樹脂と強固に接着するための、ポリイミド系樹脂からなるポリイミド系接着剤層と、放射線重合性を有し、ダイシング後に放射線により硬化させることによりポリイミド系接着剤層から剥離させる放射線硬化型粘着剤層とを積層して構成されるものである。さらに、パッケージクラックが熱により発生する事象であることは技術常識である。
よって、刊行物発明におけるポリイミド系接着剤層の接着剤として、加熱により発生するリフロークラックを防止するために上記組成の接着剤を用いる刊行物2事項、ダイシングフィルムの上に形成する使用方法が示され、ダイボンド後の熱処理に耐え、熱時の接着性を高めるために上記組成の接着剤を用いる刊行物3事項、ダイボンド後の熱処理に耐え、熱時の接着性を高めるために上記組成の接着剤を用いる刊行物4事項を考慮して、相違点1に係る本件補正発明の発明特定事項を採用することは、当業者が容易に想到し得たものである。

イ.相違点2について
本件補正発明においては、「基材」について、アクリル酸エステル共重合体を用い、炭素二重結合(C=C)を少なくとも1個以上有する化合物をさらに含有するか、もしくは前記アクリル酸エステル共重合体に炭素二重結合(C=C)を少なくとも1個以上有する官能基を付加したものを含有する放射線重合性を有するものであることを示しているのみであり、当該基材が、他にどのような性質を有するのかは、そのような性質の存否を含めて特定していない。
そして、本願明細書を参酌するに、接着シートは、接着剤層および放射線重合性を有する基剤をそれぞれフィルム状の支持部材上に塗布、乾燥後、接着剤層および放射線重合性を有する基剤を貼り合わせて製造し、当該支持部材は、ウエハ裏面に貼り合わせ後、はがしてもよいが、保護材として、使用前まで貼り付けておくこともできるものであるから(段落【0042】-【0043】参照。)、少なくとも、放射線重合性を有する基剤を支持する支持部材は、製造後そのまま、貼り付けておくことができるものである。
また、本願明細書には、接着シートに放射線を照射すると、放射線照射後には基材の粘着力は大きく低下する旨記載されていることから(段落【0045】参照。)、基材は、少なくとも、放射線照射前には、粘着性を有するものであるといえる。
刊行物発明の放射線硬化型粘着剤層は、上記「第2 2(6)ア」より、炭素二重結合(C=C)を少なくとも1個以上有する化合物をさらに含有するか、もしくは前記アクリル酸エステル共重合体に炭素二重結合(C=C)を少なくとも1個以上有する官能基を付加したものを含有する放射線重合性を有する材料からなり、上記記載事項ア5より、放射線照射前には、粘着性を有するものであるのだから、本件補正発明における「基材」と、その性質は相違しない。
また、上記記載事項ア2より、刊行物発明の放射線硬化型粘着剤層は、ポリイミド系接着剤層が設けられた面とは反対側の面に基材フィルムが設けられるものであるが、本件補正発明においても、上記基材の粘着剤層が設けられた面と反対側の面には、支持部材が貼り付けられたものも含まれ得るものであり、その形態にも実質的に相違する点は認められない。
よって、相違点2は、実質的な相違点ではない。

なお、出願人は、上述の当審による審尋に対する回答書において、上記補正後の請求項1に記載の接着シートが、基材と接着剤層との二層構造から構成される旨の補正案を提示している。
しかしながら、拒絶査定の理由に対しては、拒絶査定不服審判の請求と同時に補正を行う機会が既にあったこと、また、ダイシングの際のウエハ固定機能と配線接続基板へのチップ固定のためのダイ接着機能とをあわせ持つ接着シートにおいて、二層構造からなるものは既に知られており(必要なら、特開平9-306932号公報、特開平9-263734号公報等参照。)、放射線重合性を有するものと、接着剤層との二層であるものも公知である(上記特開平9-306932号公報)ことにかんがみるに、上述の判断が変更されるものでもない。

ウ.効果について
本件補正発明による効果、特に審判請求書で主張され、本願明細書の段落【0015】、【0050】に記載されている、ダイシング工程での良好なウェハ固定機能と、ダイボンディング工程での良好なダイ接着機能及びダイボンディング工程以降の良好な接着信頼性を維持し、放射性重合性を基剤のみに付与し、接着剤層には放射性重合剤を与えないことによる接着力が十分である旨の効果は、放射性重合性を基剤のみに付与し、接着剤層には放射性重合剤を与えないウエハ貼着シートを用いることにより、ダイシング工程での良好なウェハ固定機能と、ダイボンディング工程での良好なダイ接着機能が得られるという刊行物発明の構成による効果と、特定の組成からなる接着剤を用いることにより、ダイボンディング工程での良好なダイ接着機能及びダイボンディング工程以降の良好な接着信頼性を維持するという刊行物2?4事項に記載の接着剤による効果とを、単に併せたものにすぎず、本件補正発明が、刊行物発明及び刊行物2?4事項からは予測し得ない、格別の効果を奏するものとはいえない。
なお、当審による審尋に対する回答書において主張され、本願明細書の段落【0050】に記載されている、基剤と接着剤層の二層構造であることによる製造工程の簡略化の効果については、特許請求の範囲の記載に基づかない主張であるので、採用できない。

エ.まとめ
以上を総合すると、刊行物発明において、接着剤層として、、ポリイミド系樹脂(A)、エポキシ樹脂(B)、フェノール樹脂(C)および硬化促進剤(D)を含有する接着剤層であって、当該ポリイミド系樹脂(A)が、下記化学式(I)

(ただし、n=2?20の整数を示す。)で表されるテトラカルボン酸二無水物が、全酸二無水物に対し70モル%以上含まれるテトラカルボン酸二無水物に、ジアミンを反応させて得られるものを採用し、本件補正発明の発明特定事項を採用することは、当業者が容易になし得たことである。
そして、本件補正発明による効果も、刊行物発明及び刊行物2?4事項から当業者が予測し得た程度のものであって、格別のものでもない。
したがって、本件補正発明は、刊行物発明及び刊行物2?4事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができない。

(8)小括
以上のとおり、本件補正は、改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明
本件補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成23年7月15日に出願された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、「第2 2(1)」に補正前の本願発明として記載した請求項1のとおりのものである。

第4 引用刊行物の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された引用例及びその記載事項は、前記「第2 2(5)」に記載したとおりである。

第5 対比
本願発明と刊行物発明とを対比すると、その構成又は機能等からみて、前記「第2 2(6)ア.」に記載したものと同様の相当関係がある。
本願発明は、前記「第2 2(2)」に補正後の本願請求項1に係る発明として記載した発明、すなわち本件補正発明から、放射線重合性を有する基材が「アクリル酸エステル共重合体を用いてなる」ものであるとの限定事項、及び「アクリル酸エステル共重合体を用いてなる放射線重合性を有する基材は、炭素二重結合(C=C)を少なくとも1個以上有する化合物をさらに含有するか、もしくは前記アクリル酸エステル共重合体に炭素二重結合(C=C)を少なくとも1個以上有する官能基を付加したものを含有するもの」であるとの限定事項を省いたものである。
そうすると、本願発明の発明特定事項をすべて含み、さらに、他の発明特定事項を付加したものに相当する本件補正発明が、前記「第2 2(7)」に記載したとおり、刊行物発明及び刊行物2?4事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も同様に、刊行物発明及び刊行物2?4事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

第6 むすび
以上のとおり、本願発明は、刊行物発明及び刊行物2?4事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。
したがって、本願は、他の請求項について検討するまでもなく、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-12-05 
結審通知日 2012-12-11 
審決日 2012-12-26 
出願番号 特願2001-56732(P2001-56732)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C09J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 江間 正起  
特許庁審判長 鈴木 正紀
特許庁審判官 井上 茂夫
松岡 美和
発明の名称 接着シート、半導体装置の製造方法および半導体装置  
代理人 三好 秀和  

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