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審決分類 審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H01S
管理番号 1270376
審判番号 不服2011-27057  
総通号数 160 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-04-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-12-15 
確定日 2013-02-20 
事件の表示 特願2001-104129「GaN単結晶基板の劈開性の判定方法とGaN単結晶基板」拒絶査定不服審判事件〔平成14年10月11日出願公開、特開2002-299741〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯・本願発明
本願は、平成13年4月3日の出願であって、平成22年3月18日付け及び同年9月28日付けで手続補正がなされ、平成23年9月30日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年12月15日付けで拒絶査定不服審判請求がなされ、その後、当審において、平成24年9月21日付けで拒絶理由が通知され、同年11月15日付けで手続補正がなされたものである。

そして、本願の請求項に係る発明は、平成24年11月15日付け手続補正による補正後の特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された以下の事項によって特定されるものと認められる。

「【請求項1】
単色光源、偏光子P、λ/4板Q1、GaN単結晶C面基板、λ/4板Q2、検光子A、透過光量測定器を光軸上に配列した光弾性測定装置において、λ/4板Q1の遅延軸、λ/4板Q2の遅延軸がGaN単結晶基板結晶の{1-100}面に対して光軸廻りに互いに反対方向に45度の角度をなすようにし、偏光子P、検光子Aの偏光方向をλ/4板Q1、Q2の遅延軸と45度の角度をなすようにし、単色光源から単色光を偏光子P、λ/4板Q1、GaN単結晶基板、λ/4板Q2、検光子Aへと通し、検光子Aの偏光方向と偏光子Pの偏光方向とを直交させたときの透過光量と、検光子Aの偏光方向と偏光子Pの偏光方向とを平行にしたときの透過光量とから、光弾性歪による位相差δを求め、位相差δから{1-100}面に対して互いに反対方向に45度の角度をなす方向の偏波に対する光弾性歪値差C(σ1-σ2)を求め、光弾性歪値差のC面表面内での最大値が、5×10^(-5)以下であれば劈開性が良好であると判定し、5×10^(-5)を越えれば劈開性が不良であると判定することを特徴とするGaN単結晶基板の劈開性の判定方法。
【請求項2】
単色光源、偏光子P、λ/4板Q1、GaN単結晶C面基板、λ/4板Q2、検光子A、透過光量測定器を光軸上に配列した光弾性測定装置において、λ/4板Q1の遅延軸、λ/4板Q2の遅延軸がGaN単結晶基板結晶の{1-100}面に対して光軸廻りに互いに反対方向に45度の角度をなすようにし、偏光子P、検光子Aの偏光方向をλ/4板Q1、Q2の遅延軸と45度の角度をなすようにし、単色光源から単色光を偏光子P、λ/4板Q1、GaN単結晶基板、λ/4板Q2、検光子Aへと通し、検光子Aの偏光方向と偏光子Pの偏光方向とを直交させたときの透過光量と、検光子Aの偏光方向と偏光子Pの偏光方向とを平行にしたときの透過光量とから、光弾性歪による位相差δを求め、位相差δから{1-100}面に対して互いに反対方向に45度の角度をなす方向の偏波に対する光弾性歪値差C(σ1-σ2)を求めたとき、光弾性歪値差のC面表面内での最大値が、5×10^(-5)以下であることを特徴とするGaN単結晶基板。」(以下、請求項1、2に係る発明を、それぞれ、「本願発明1」、「本願発明2」といい、両者を合わせて「本願発明」という。)


第2 当審において通知した拒絶の理由
当審において平成24年9月21日付けで通知した拒絶の理由の概要は、次のとおりである。

「本件出願は、明細書及び図面の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない。



(2)
…「光弾性歪値差の面内での最大値」とは、”面内”のどの位置(範囲)を測定したものの最大値であるか不明である。
したがって、本願発明がどのように実施され得るものであるのか、発明の詳細な説明の記載から明らかでなく、本件出願は特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない(以下「指摘事項1」という。)。

(3)
ア 本願発明は、光弾性歪値差の面内での最大値が、閾値以下であるか、閾値を越えるかで、基板の劈開性が良好であるか不良であるかを劈開前に判断するものであり、本願明細書によれば、その閾値を5×10^(-5)とする根拠は、成長速度100μm/h以下の実施例及び成長速度100μm/hを越える比較例において測定された光弾性測定による歪及び面粗度Raであると認められるが、
「【0086】劈開試験は次のようにする。金属メスによって基板の劈開方向(1-100)に傷を付け、その線に沿って手でウエハを割った。うまく劈開できた。…
【0087】さらにその劈開面において一定間隔で、光弾性を用いて残留歪を測定した。…」
「【0100】…比較例1の試験ウエハについても同様の劈開試験を行う。」
との記載によれば、実施例及び比較例の光弾性測定による残留歪の測定は、劈開後に行われたものと認められる。
基板内部の歪みは、劈開の前後で変化するものと考えられるところ、なぜ、実施例及び比較例の劈開後に測定された光弾性歪値に基づいて、劈開前に光弾性歪値を測定して劈開性を判断する本願発明の閾値を定めたのか、その根拠が不明である。

ウ したがって、本願発明において、劈開性が良好であるか不良であるかを判定するための閾値として、光弾性歪値差の面内での最大値が5×10^(-5)とすることの技術的意義が不明であって、当業者は本願発明の技術的意義を理解することができない。
よって、本願の発明の詳細な説明は、経済産業省令(特許法施行規則第24条の2)で定めるところにより記載したものとはいえないから、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない(以下「指摘事項2」という。)。

(4)本願請求項2に記載の「光弾性歪値差の面内での最大値が、5×10^(-5)以下である」「GaN単結晶基板。」について、発明の詳細な説明を参照しても、従来のGaN単結晶基板と何が異なるのか、どこがどのように改善されたものであるか明らかでなく、当業者は請求項2に係る発明の技術的意義を理解することができない。
よって、本願の発明の詳細な説明は、経済産業省令(特許法施行規則第24条の2)で定めるところにより記載したものとはいえないから、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない(以下「指摘事項3」という。)。

なお、本願請求項2に記載されているものは、「GaN単結晶基板」の発明であるが、本願明細書によれば、本願発明は、「GaN単結晶基板の劈開性の判定方法」の発明であって、「GaN単結晶基板」そのものの発明ではないと解されるところであり、「GaN単結晶基板」としての技術的意義は想定し難い。」


第3 記載不備(特許法第36条第4項)について
1 本願明細書等の記載
当審において平成24年9月20日付けで通知した拒絶の理由(上記第2参照。)において、記載不備に関して指摘した事項につき、本願明細書及び図面(以下「本願明細書等」という。)には、以下の記載がある。

(1)「【0034】
単結晶であるし自然劈開だから当然に綺麗な面が出るはずだと思うかもしれないがそうではない。GaN結晶を厚く成長させるから冷却したときに内部歪が発生して応力が生じる。応力が無秩序に存在するので自然劈開しても劈開面が乱れるということがある。その場合折角エピウエハの上にバッファ層、活性層やキャップ層、埋め込み層などレ-ザ構造を作っても、いざ劈開となってから綺麗な劈開面が出るのか、あるいは不規則な面しかできないのか分からないのでは困る。ウエハプロセスによってエピウエハの上にデバイスを作製する前に、そのウエハが綺麗な劈開面を形成するのかどうかという劈開可能性がわかった方が良い。
【0035】
そのようにミラーウエハの段階でウエハがうまく劈開できるのか、そうでないのかという劈開性を判定できるような方法を提供することが本発明の第1の目的である。…」

(2)「【0080】
【実施例】
[実施例1(成長速度100μm/h以下)]
HVPE法によってGaN基板を作製した。…基板はGaAs(111)Ga基板であり、ドット状の窓を千鳥に配置したマスクを付け、その上にGaNバッファ層を比較的低温で成長させた。…
【0081】
…そのあと温度を上げてGaNエピ成長を行う。その時のエピ成長の速度wは、100μm/h以下である。エピ成長膜の厚みは0.5mm以上とする。…王水でGaAs種結晶を除去する。…このウエハを研磨して150μmの厚さの試験ウエハとした。

【0086】
劈開試験は次のようにする。金属メスによって基板の劈開方向(1-100)に傷を付け、その線に沿って手でウエハを割った。うまく劈開できた。…
【0087】
さらにその劈開面において一定間隔で、光弾性を用いて残留歪を測定した。残留歪の測定結果を図3において太い破線によって示す。横軸は測定点の位置である。劈開面の幅は150μmであるが長手方向には基板長さだけある。ここでは中央部付近の5mmの幅についての結果を示している。横軸は長手方向の位置(cm)である。縦軸は光弾性測定による歪である。横線は本発明が閾値とする5×10^(-5)の線である。
【0088】
もちろん閾値は、研磨後のGaNウエハの厚みによって変わるはずである。ここでは150μmに研磨しているからこれが閾値になる。より薄くすれば劈開はより容易になるから閾値は下がるだろうし、より厚ければ劈開はより難しくなり閾値は上がるであろう。しかし放熱性、強度などを考えるとGaNウエハは最終的に100μm?200μm程度に削られることであろう。すると内部歪の閾値も5×10^(-5)程度であろうと推定される。
【0089】
3.3×10^(-5)?4.5×10^(-5)の範囲に歪が分布している。ばらつきはあるが、比較的小さい。最大の位置でも4.5×10^(-5)である。どの位置でも閾値5×10^(-5)の線より下にあるということがわかる。」

2 当審の判断
(1)指摘事項1について
上記1(2)によれば、本願明細書等には、「150μmの厚さの試験ウエハ(GaN基板)の劈開方向(1-100)に金属メスにより傷を付け、その線に沿って手で該ウエハを割り、うまく劈開できたものについて、その劈開面において一定間隔で、光弾性を用いて残留歪を測定し、その測定結果が、図3の太い破線で示されるものとなったこと」、すなわち、劈開後のGaN基板の劈開面において、一定間隔で光弾性を用いて残留歪を測定することについての記載はされている。
しかしながら、本願明細書等には、劈開前のGaN基板につき、そのC面内のどの位置を、具体的にどのような間隔で(あるいは連続して)測定を行うかについては、何らの記載もされていない。
よって、当業者は、本願明細書等をみても、「…検光子Aの偏光方向と偏光子Pの偏光方向とを直交させたときの透過光量と、検光子Aの偏光方向と偏光子Pの偏光方向とを平行にしたときの透過光量とから、光弾性歪による位相差δを求め、位相差δから{1-100}面に対して互いに反対方向に45度の角度をなす方向の偏波に対する光弾性歪値差C(σ1-σ2)を求め、光弾性歪値差のC面表面内での最大値が、5×10^(-5)以下であれば劈開性が良好であると判定し、5×10^(-5)を越えれば劈開性が不良であると判定する」とする本願発明1を、具体的に実施することができない。
したがって、本願明細書の発明の詳細な説明は、当業者が本願発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されたものであるとはいえないから、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていないものである。

(2)指摘事項2について
上記1(1)によれば、本願発明の目的は、「エピウエハの上にデバイスを作製する前に、そのウエハが綺麗な劈開面を形成するのかどうかという劈開可能性がわかった方が良」く、「ミラーウエハの段階でウエハがうまく劈開できるのか、そうでないのかという劈開性を判定できるような方法を提供すること」である。また、本願発明1の「GaN単結晶基板の劈開性の判定方法」は、「単色光源から単色光を偏光子P、λ/4板Q1、GaN単結晶基板、λ/4板Q2、検光子Aへと通し、検光子Aの偏光方向と偏光子Pの偏光方向とを直交させたときの透過光量と、検光子Aの偏光方向と偏光子Pの偏光方向とを平行にしたときの透過光量とから、光弾性歪による位相差δを求め、位相差δから{1-100}面に対して互いに反対方向に45度の角度をなす方向の偏波に対する光弾性歪値差C(σ1-σ2)を求め、光弾性歪値差のC面表面内での最大値が、5×10^(-5)以下であれば劈開性が良好であると判定し、5×10^(-5)を越えれば劈開性が不良であると判定する」ものである。したがって、「…光弾性歪値差のC面表面内での最大値が、5×10^(-5)以下であれば劈開性が良好であると判定し、5×10^(-5)を越えれば劈開性が不良であると判定する」とする本願発明1は、GaN単結晶基板の劈開前に、上記判定を行うものである。
しかるに、本願明細書等には、上記1(2)のとおり、GaN基板を劈開し、うまく劈開ができたものについて、(劈開後に)その劈開面における残留歪を光弾性を用いて測定し、その値がどの位置でも5×10^(-5)以下であったことが記載されているものの、本願発明1のように、GaN単結晶基板の「劈開前」に、光弾性歪値差のC面表面内での最大値を求め、当該GaN単結晶基板の劈開性が良好であるか不良であるかの判定を行う際の閾値を具体的に「5×10^(-5)」と定めた根拠については、それ以上具体的な説明はされていない。
そして、GaN単結晶基板内部の内部歪みは、劈開の前後において変化すると考えられるところ、本願明細書等には、劈開後に測定された残留歪の値「5×10^(-5)」に基づいて、何故、劈開前に測定される光弾性歪値差の閾値を定め得るのかに関する説明もされてはいない。
この点に関し、請求人は、平成24年11月15日付けの意見書において、「単結晶基板の直交方向内部応力差は、劈開の前後で殆ど変わりません。」、「劈開によっても、σ1、σ2、σ1-σ2の全てが不変です。」等と主張するが、その具体的な根拠は示されていない。
よって、本願発明1において、劈開性が良好であるか不良であるかを判定するための、「光弾性歪値差のC面表面内での最大値」の閾値を、「5×10^(-5)」と定めたことの技術上の意義は不明であって、当業者は、本願明細書等をみても、本願発明1の技術上の意義を理解することができない。
したがって、本願の発明の詳細な説明は、経済産業省令(特許法施行規則第24条の2)で定めるところにより記載したものとはいえないから、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない。

(3)指摘事項3について
本願発明2は、上記第1で【請求項2】として示したとおりの、「…光弾性歪値差のC面表面内での最大値が、5×10^(-5)以下である」「GaN単結晶基板」なる“物”の発明である。しかるところ、本願明細書の発明の詳細な説明を参照しても、当業者は、当該「(光弾性歪値差のC面表面内での最大値が5×10^(-5)以下である)GaN単結晶基板」が、従来の(劈開を行う)GaN単結晶基板と比べて、何が異なるのか、どこがどのように改善された“物”であるのかを理解することができない。
この点に関し、請求人は、平成24年11月15日付けの意見書において、「従来のGaN単結晶基板と異なるところは、光弾性効果の試験をして、全面において光弾性歪値差を測定し、光弾性歪値差がどこでも5×10^(-5)以下であることが判明し確認されているという点です。」、「本発明の請求項2に記載されたGaN単結晶基板は、全面で光弾性歪値差を測定しており試験に合格したものです。…効率よく発光するレーザ素子がその上にできるということが試験によって保障されているのです。」等と主張する。
しかしながら、従来の(劈開を行う)GaN単結晶基板においても、本願発明における光弾性効果の試験を行えば、本願発明2のように、「光弾性歪値差のC面表面内での最大値が、5×10^(-5)以下」となっていることが十分に想定されるところであるから、本願発明2の「GaN単結晶基板」が、“物”として、従来のGaN単結晶基板と比べて、何が異なり、どこがどのように改善された“物”といえるのかは、依然として不明である。
したがって、当業者は、本願発明2の「GaN単結晶基板」が、従来のGaN単結晶基板と比べて、何が異なり、どこがどのように改善された“物”であるのかを理解することができず、本願発明2は、発明の技術上の意義が理解できないものであって、本願明細書の発明の詳細な説明は、本願発明の技術上の意義を当業者が理解できる程度に記載したものということはできないものであるから、特許法第36条第4項の経済産業省令(特許法施行規則第24条の2)で定めるところにより記載されたものとはいえない。

4 小括
上記1のとおり、本願明細書の発明の詳細な説明は、当業者が本願発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されたものであるとはいえないから、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない。
また、上記2及び3のとおり、本願明細書の発明の詳細な説明は、本願発明の技術上の意義を当業者が理解できる程度に記載したものではなく、特許法第36条第4項の経済産業省令(特許法施行規則第24条の2)で定めるところにより記載されたものであるということはできない。


第4 むすび
以上のとおり、本願明細書の発明の詳細な説明は、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていないものである。


よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-12-18 
結審通知日 2012-12-20 
審決日 2013-01-07 
出願番号 特願2001-104129(P2001-104129)
審決分類 P 1 8・ 536- WZ (H01S)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 百瀬 正之  
特許庁審判長 吉野 公夫
特許庁審判官 小松 徹三
服部 秀男
発明の名称 GaN単結晶基板の劈開性の判定方法とGaN単結晶基板  
代理人 川瀬 茂樹  

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