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審決分類 審判 一部無効 1項2号公然実施  B65D
管理番号 1270397
審判番号 無効2012-800058  
総通号数 160 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-04-26 
種別 無効の審決 
審判請求日 2012-04-18 
確定日 2013-02-18 
事件の表示 上記当事者間の特許第3698482号発明「軟質プラスチック容器」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
1.特許第3698482号に係る発明についての出願は、平成8年4月1日に特願平8-104723号として出願されたもの(以下、「本件特許出願」という。)であって、平成17年7月15日にその発明について特許権の設定登録がなされたものである。

2.これに対し、請求人は、平成24年4月18日付けの審判請求書と共に甲第1号証から甲第12号証の書証を提出し、さらに、証人尋問を申請することにより、特許第3698482号の特許請求の範囲の請求項1に記載された発明(以下、「本件特許発明」という。)についての特許を無効とすることを求める無効審判を請求した。

3.被請求人は、平成24年7月11日付けで審判事件答弁書(以下、「答弁書」という。)を提出した。

4.これに対し、請求人に平成24年7月30日付けで答弁書の副本を送付し、併せて、当合議体からの質問事項(以下、「通知書」という。)を通知したが、請求人からは弁駁書の提出はなされず、通知書に対する回答もなされなかった。

第2 本件特許発明
本件特許発明は、特許第3698482号明細書及びその図面(以下、「本件特許明細書等」という。)の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものである。

【請求項1】
「ブロー成形等の手段により軟質プラスチックを用いて成形される容器本体1に、その体積を実質的に二分割(1A,1B)する線に沿って外側に向けて補強リブ3を融着形成し、その一方の基体1Aの上部に開閉部2を設け、且つ、他方の折り込み体1Bに、前記補強リブ3の近傍位置で、該補強リブ3に沿って折り畳み用の薄肉の突条4を外側に向けて形成し、前記他方の折り込み体1Bを前記基体1Aの内側へ折り畳み可能に構成した軟質プラスチック容器に於いて、
前記補強リブ3を、前記折り込み体1Bの充填拡張時には前記突条4の頂部4aを被覆するように変形し、且つ、前記基体1Aへの折り込み時には、前記突条4の側面4bの方に倒伏するように構成すると共に該補強リブ3の先端縁3aがその倒伏時に前記突条4の頂部4aよりも高く位置する長さLに構成してある、軟質プラスチック容器。」

第3 請求人の主張
1.請求人が主張する無効理由
請求人の主張は、本件特許発明は、本件特許出願の出願前に被請求人が実施品を販売していることから、特許出願前に公然実施された発明であるので、特許法第29条第1項第2号に該当する発明であって、同法第29条第1項の規定により特許を受けることができないものであり、その特許は同法第123条1項2号に該当し、無効とすべきであるというものである。

2.証拠方法
請求人は、証拠方法として、以下の甲第1号証ないし甲第12号証の書証を提出すると共に、証人尋問を申し出ている。

[書証]
(1)甲第1号証 別件侵害訴訟訴状
(2)甲第2号証 別件侵害訴訟甲第6号証の被請求人の製品パンフレット
(3)甲第3号証 別件侵害訴訟被告準備書面(5)
(4)甲第4号証 別件侵害訴訟乙第11号証のホームページ出力物
(5)甲第5号証 別件侵害訴訟原告準備書面(5)
(6)甲第6号証 別件侵害訴訟甲第14号証の「ロンテナー品質改善取り組み」と題する書面
(7)甲第7号証 別件侵害訴訟甲第15号証の「ロンテナー品質改善進捗状況4月16日現在」と題する書面
(8)甲第8号証 別件侵害訴訟甲第16号証の書留郵便物受領証
(9)甲第9号証 別件侵害訴訟甲第17号証の陳述書
(10)甲第10号証 別件侵害訴訟甲第18号証の陳述書
(11)甲第11号証 別件侵害訴訟被告準備書面(8)
(12)甲第12号証 別件侵害訴訟乙第16号証の陳述書

[証人尋問の申請]
証人 久保靖
証人 佐々木正利

第4 被請求人の主張
答弁書により、被請求人は、「被請求人において,本件特許の特許出願前に,本件特許発明の実施品を販売した事実はなく,請求人の審判請求書記載の主張に理由は全くない。」(答弁書の「7.答弁の理由」の「(7一1) 総論」の「(1)」参照)と主張している。

第5 各甲号証の記載
1.甲第1号証
同号証の15頁11行から同頁第12行に、「原告(審決注:被請求人)は、製品名を『ロンテナー』とする液体容器を製造販売して、本件特許発明を実施している(甲第6号証)。」と記載されている。

2.甲第2号証
同号証の第2頁の第1行から第3行に「ロンテナー ポリエチレン製ブロー成形薄肉容器を丈夫な段ボールで外装した複合容器です。」と記載されている。

3.甲第3号証
同号証には、「本件特許権にかかる出願(以下、本件特許出願)につき特許庁に問い合わせたところ、本件特許出願は郵便物によりなされており、出願にかかる郵便物の通信日付印等は保管されずに廃棄されているとのことであった。よって、特許法第19条の規定により、本件特許出願は、1998年(平成8年)4月1日の午後12時にされたものとみなされる。」と記載されている(審決注:「1998年」は、「1996年」の誤記と認める。)。

4.甲第4号証
日本デザイン振興会の「2011年度 グットデサイン賞 受賞」という表題のホームページの出力物であり、「受賞対象名」の欄には、「折りたたみ式ワンウェイ液体輸送容器[ロンテナーシリーズ]」との記載がある。

5.甲第5号証
同号証には、甲第4号証の「グットデサイン賞のホームペーシにおける原告製品の発売日の掲載」、及び、「本件特許発明に係る金型の起工・修正の経緯」に関する被請求人の主張が記載されている。

6.甲第6号証
別件侵害訴訟において被請求人が提出した、「ロンテナー品質改善取り組み」と題する書面である。
同号証は、1996年10月15日ころ、被請求人の当時の兵庫滝野工場技術課担当課長であった柳本達郎が、被請求人製品の金型の改造・修正状況について作成した資料である点に付き、当事者間に争いはない(審判請求書の第5頁の第10行から第13行、及び、答弁書の第5頁の第9行から第13行を参照。)。

7.甲第7号証
同号証は、「柳本 8.4.16」の印影のとおり、柳本達郎が1996年(平成8年)4月16日に作成した資料である点に付き、当事者間に争いはない(審判請求書の第10頁の第11行から第13行、及び、答弁書の第5頁の第14行から第16行を参照。)。
同号証には、ロンテナーの品質の改善取り組みについての、現状と予定が記載されている。

8.甲第8号証
別件侵害訴訟において被請求人が提出した、書留郵便物受領証である点に付き、当事者間に争いはないと認める(審判請求書の第5頁の第18行から第20行、及び、甲第5号証の第3頁の第3行から第8行を参照。)。

9.甲第9号証
同号証は、被請求人の従業員である久保靖の陳述書であり、2011年度グッドデサイン賞に被請求人製品を応募するにあたり,被請求人製品の発売日をよく調べないまま,本件特許権にかかる特許公報記載の出願日を「発売日」と入力して応募してしまったことが記載されている。

10.甲第10号証
同号証は、佐々木正利の陳述書及びその添付資料である。
同号証の第1頁の第13行から第17行に「軟質プラスチック性の液体容器については、以前より、折り溝部にピンホールが発生するとのクレームが多く、・・・。ブロー成型では必然的に発生するバリを逆に活かして、バリをリブとして斜めに傾斜して折り溝部を保護てきないかと考え」たことが記載されている。

11.甲第11号証
同号証には、「原告(審決注:被請求人)による本件発明実施品の発売時期」、及び、「本件特許出願の時期」についての請求人の主張が記載されている。

12.甲第12号証
同号証は、岩崎良一の陳述書及びその添付資料である。
同号証には、「2011年度グッドデザイン賞の発売日」、「試作と量産の違い」、及び、「発売日」についての岩崎良一の見解が記載されている。

第6 当審の判断
1.「実施品」の特定について
(1)特許法第131条第2項は、「特許無効審判を請求する場合における前項第三号に掲げる請求の理由は、特許を無効にする根拠となる事実を具体的に特定し、かつ、立証を要する事実ごとに証拠との関係を記載したものでなければならない。」と規定している。
(2)しかし、請求人は、「本件特許の請求項1にかかる発明・・・は、出願前に被請求人が実施品を販売している」(審判請求書の第2頁第8行から第9行)と主張し、甲第1号証ないし甲第12号証を提出しているものの、特許法第131条第2項が規定する「特許を無効にする根拠となる事実」、すなわち、本件特許出願の出願前に被請求人が販売したと主張する実施品を、「具体的に特定」していない。「実施品」を検証物として提出してもいないし、「実施品」の技術仕様書等、本件特許発明の技術的事項と、「実施品」の技術的事項とを具体的に対比・判断できる程の証拠を示してもいない。請求人は、単に、甲第1号証の第15頁第11行から第12行に記載された、「原告は,製品名を『ロンテナー』とする液体容器を製造販売して,本件特許発明を実施している」という、別件侵害訴訟における被請求人の主張に依拠して、「被請求人の製品である『ロンテナー』が本件特許発明の実施品であることは明らかである。」と主張しているに過ぎない(審判請求書の第6頁第19行から第21行)。
(3)特許法第131条第2項は、「立証を要する事実ごとに証拠との関係を記載」すべきことも規定している。しかし、上記(2)のとおり、「特許を無効にする根拠となる事実」が「具体的に特定」されていない結果、審判請求書には、「立証を要する事実」である本件特許発明の技術的事項(構成要件)について、各構成要件ごとに「証拠との関係を記載」してもいない。
(4)そこで、通知書により、審判合議体から、本件特許出願の出願前に被請求人が販売したと主張する実施品を具体的に特定し、また、その実施品と本件発明の構成要件とを具体的に対比するよう通知したが、請求人からは、回答がなかった。
(5)また、甲第1号証の上記「原告は,製品名を『ロンテナー』とする液体容器を製造販売して,本件特許発明を実施している」という記載などからみて、被請求人は、製品名を「ロンテナー」とする液体容器が、本件特許発明の実施品であると認識していることがうかがえるものの、甲第1号証にも他の甲号証にも、製品名を「ロンテナー」とする液体容器の技術的事項は、具体的に特定されていない。
(6)してみると、請求人が、本件特許出願の出願前に被請求人が販売したと主張する実施品が具体的に特定されていないから、本件特許発明と、請求人が主張する実施品とを、技術的に対比することができない。したがって、請求人が主張する無効理由を、理由があるとすることはできない。

2.各甲号証との対比・判断
2-1.請求人の主張は、「ロンテナー」であれば、すべて実施品であるとの主張であり、「ロンテナー」の技術的事項の少なくとも一部が示されている甲第2号証、甲第4号証、並びに、甲第10号証に添付された資料1、資料4及び資料5が、「特許を無効にする根拠となる事実を具体的に特定」したものであると善解する余地がないとはいえない。
そこで、念のため、甲第2号証、甲第4号証、並びに、甲第10号証に添付された資料1、資料4及び資料5に、本件特許発明の実施品が示されているといえるか(これら甲号証又はその添付資料に示されている技術的事項が、本件特許発明の構成要件を充足するか)、さらに、これらに係る商品を本件特許出願の出願前に被請求人が販売していたといえるかについて検討する。

2-2.甲第2号証について
(1)甲第2号証に記載された発明について
同号証の第2頁の第1行から第3行に「ロンテナー ポリエチレン製ブロー成形薄肉容器を丈夫な段ボールで外装した複合容器です。」と記載されており、第1頁と第2頁中段左に、「ロンテナー」なる商品の部分の形状と、全体の形状の写真がそれぞれ示されている。これらの写真には、容器に、その体積を実質的に二分割する線に沿って外側に突出する構造が存在する点、及び、その二分割された一方の上部に開閉部を設ける点が示されている。
これら記載からみて、甲第2号証には、次の発明が記載されている。
「ポリエチレン製ブロー成形薄肉容器を用いて成形される容器本体であって、その体積を実質的に二分割する線に沿って外側に突出する構造を有し、その二分割された一方の上部に開閉部を設けてある容器。」
(以下、「甲第2号証記載の発明」という。)
本件特許発明と、甲第2号証記載の発明とを対比すると、
本件特許発明は、「容器本体1に、その体積を実質的に二分割(1A,1B)する線に沿って外側に向けて補強リブ3を融着形成し」、「前記補強リブ3の近傍位置で、該補強リブ3に沿って折り畳み用の薄肉の突条4を外側に向けて形成し、前記他方の折り込み体1Bを前記基体1Aの内側へ折り畳み可能に構成した軟質プラスチック容器」であり、「前記補強リブ3を、前記折り込み体1Bの充填拡張時には前記突条4の頂部4aを被覆するように変形し、且つ、前記基体1Aへの折り込み時には、前記突条4の側面4bの方に倒伏するように構成すると共に該補強リブ3の先端縁3aがその倒伏時に前記突条4の頂部4aよりも高く位置する長さLに構成してある」「軟質プラスチック容器」であるのに対し、
甲第2号証には、これら構成が開示されていないから、甲第2号証記載の発明は、これら構成を備えていないか、少なくとも、これら構成を備えているか不明である点で相違する。
そして、甲第1号証ないし甲第12号証に開示されたすべての事項を総合しても、甲第2号証記載の発明が、上記相違点に係る構成を備えていると認めるに足る事項の開示はない。
したがって、甲第2号証に、本件特許発明が記載されていると認めることはできない。
なお、上記1(5)で指摘したように、甲第1号証には、被請求人が、「甲第2号証記載の商品が、本件特許発明の実施品である」と認識していることをうかがわせる記載が存在するものの、甲第1号証の記載は、被請求人の認識を示すにとどまるものであり、甲第2号証記載の発明が、上記相違点に係る構成を備えていることを具体的に示すものではない。

(2)甲第2号証に係る商品の発売日について
甲第2号証には、発行日ないしは頒布日が記載されていないから、甲第2号証が頒布された日がいつかは不明である。甲第2号証の4頁右下隅に記載された「10.042000」が、発行日ないしは頒布日、あるいは、商品の発売日を示すための記号である可能性も考えられるが、そうであるかは不明であるし、仮に、この記号が発行日ないしは頒布日、あるいは、商品の発売日を示すための記号であるとしても、この記号が意味する発行日ないしは頒布日、あるいは、商品の発売日がいつであるかは不明である。したがって、甲第2号証に係る商品が、本件特許出願の出願前に販売されていたものと認めることはできない。
なお、審判請求書の「8.証拠方法」の「(2)甲第2号証」において、「作成日:平成22年」と記載しているように、請求人自ら、甲第2号証の発行日ないしは頒布日が、本件特許出願の日である平成8年4月1日以降の日であると認めているものである。

(3)甲第2号証についての検討のまとめ
したがって、甲第2号証に本件特許発明が記載されているということはできないし、また、甲第2号証に係る商品を本件特許発明に係る出願前に被請求人が販売していることが証明されてもいないから、甲第2号証を根拠として、本件特許発明が、特許法第29条第1項第2号に該当する発明であるということはできない。

2-3.甲第4号証について
(1)甲第4号証に記載された発明について
同号証の「受賞対象名」の欄には、「折りたたみ式ワンウェイ液体輸送容器[ロンテナーシリーズ]」と記載され、「概要」の欄には、「ポリエチレン製の液体容器」である点と、「未使用時や使用後にはコンパクトに折りたためる」点とが記載されている。
そして、同号証の左上部分には、全体の形状の写真が示されており、この写真には、液体容器の上部に開閉部を設ける点が示されている。
すると、甲第4号証には以下の発明が記載されている。
「ポリエチレンを用いて成形される液体容器の上部に開閉部を設けた、折りたたみ式のポリエチレン製液体容器。」
(以下、「甲第4号証記載の発明」という。)

本件特許発明と、甲第4号証記載の発明とを対比すると、後者の「ポリエチレン」、「液体容器」、及び、「ポリエチレン製液体容器」が前者の「軟質プラスチック」、「容器本体」、及び、「軟質プラスチック容器」に相当するといえる。そして、後者の「折りたたみ式」と前者の「他方の折り込み体1Bを前記基体1Aの内側へ折り畳み可能」な態様とは「折りたたみ式」との概念で共通する。
したがって、両者は、以下の点で一致する。
「軟質プラスチックを用いて成形される容器本体に、その一方の基体の上部に開閉部を設けた、折りたたみ式の軟質プラスチック容器。」

そして、以下の点で両者は相違する。
[相違点1]容器を形成する態様に関し、本件特許発明においては、「ブロー成形等の手段により」形成した点を特定しているが、甲第4号証記載の発明にはそのような特定はなされていない点。

[相違点2]突起状のリブを形成する態様に関し、本件特許発明においては、容器本体1に「その体積を実質的に二分割(1A,1B)する線に沿って外側に向けて補強リブ3を融着形成」した点を特定しているが、甲第4号証記載の発明にはそのような特定はなされていない点。

[相違点3]折りたたみ式とするためのリブに形状に関し、前者においては、「他方の折り込み体1Bに、補強リブ3の近傍位置で、該補強リブ3に沿って折り畳み用の薄肉の突条4を外側に向けて形成し、前記他方の折り込み体1Bを前記基体1Aの内側へ折り畳み可能に構成した軟質プラスチック容器に於いて、前記補強リブ3を、前記折り込み体1Bの充填拡張時には前記突条4の頂部4aを被覆するように変形し、且つ、前記基体1Aへの折り込み時には、前記突条4の側面4bの方に倒伏するように構成すると共に該補強リブ3の先端縁3aがその倒伏時に前記突条4の頂部4aよりも高く位置する長さLに構成してある」のに対し、後者ではそのような特定はなされていない点。

本件特許発明において、本件特許発明の上記相違点1ないし3に係る構成としたことによる技術的な意義は、本件特許明細書等の【0010】、及び、【0011】の記載からみて、突条の頂部よりも高く位置する長さLの補強リブが突条の方に倒伏することにより、軟質プラスチック容器の折り曲げ用の突条の頂部を保護してピンホールが出来ないようにすることであると解されるが、甲第4号証には、折り曲げ用の突条の頂部を保護するという課題は記載も示唆もされていない。さらに、上記の相違点1ないし3が技術常識であるとも認められない。
そして、甲第1号証ないし甲第12号証に開示されたすべての事項を総合しても、甲第4号証記載の発明が、上記相違点に係る構成を備えていると認めるに足る事項の開示はない。
してみると、上記の相違点1ないし3に係る本件特許発明の構成が、甲第4号証に記載されているに等しいとは認められない。したがって、甲第4号証に、本件特許発明が記載されているということはできない。
なお、甲第5号証には、被請求人が、「甲第4号証記載の商品が、本件特許発明の実施品である」と認識していることをうかがわせる記載が存在するものの、甲第5号証の記載は、被請求人の認識を示すにとどまるものであり、甲第4号証記載の発明が、上記相違点に係る構成を備えていることを具体的に示すものではない。

(2)甲第4号証に係る商品の発売日について
同号証の「発売」の欄には、「1996年4月1日」との記載がある。しかし、甲第9号証の陳述書で、久保靖が、グッドデザイン賞への応募の際、発売日を「1996年4月1日」としてしまったのは、誤りである旨陳述しており、甲第10号証の陳述書では、佐々木正利が、本件特許発明に係る「ロンテナー」の発売日は、「1996年4月16日以降」である旨陳述している。これら陳述書には、自署と推認される記名、及び押印がなされているし、陳述内容に矛盾する点はなく、また、その陳述内容は、通常の社会的常識及び製品生産現場における常識に沿った内容であると認められるから、これら陳述内容は、信用性が高いといえる。
請求人は、審判請求書の第14頁の第13行から第21頁下から第3行にかけて、甲第9号証及び甲第10号証の陳述書は、「単なる憶測を述べるに過ぎず、業界の常識にも反するものであって、信用できない。」(第14頁の第19行から第20行)、「遅くとも1996年4月1日までには、被請求人による本件特許発明実施品の販売は完了していた」(第21頁の下から第4行から同頁の下から第3行)と主張している。しかしながら、審判請求書の記載をみると、むしろ請求人の主張こそ「憶測を述べる」ものといえる。そこで、通知書により、審判合議体から、本件特許発明に係る「ロンテナー」が本件特許発明に係る出願前に販売されたことを立証する具体的な証拠を提出するように通知したが、請求人からは回答がなされなかった。
してみると、本件特許出願の出願前に被請求人が甲第4号証に係る商品を販売したことが証明されているとは認められない。
なお、請求人は、久保靖及び佐々木正利に対する証人尋問を申し出ているが、上記のとおり、久保靖及び佐々木正利の陳述内容に矛盾する点はないから、証人尋問を行っても、これら陳述内容と異なる事実が証言される蓋然性は、低いと認められるので、証人尋問を行う必要を認めない。また、仮に、証人尋問しても、上記の相違点1ないし3が甲第4号証に記載されているに等しいことが証明できるとは解されないから、この点からも、証人尋問を実施する必要を認めない。

(3)甲第4号証についての検討のまとめ
したがって、甲第4号証に本件特許発明が記載されているということはできないし、また、甲第4号証に係る商品を本件特許発明に係る出願前に被請求人が販売していることが証明されてもいないことから、甲第4号証を根拠として、本件特許発明は、特許法第29条第1項第2号に該当する発明であるということはできない。

2-4.甲第10号証の添付資料について
(1)甲第10号証の添付資料に記載された発明について
同号証に添付された資料1は、「ロンテナーPL部改造(案)」という表題の図面であり、同資料4及び資料5は、いずれも「ロンテナー20RH」という記載がある図面である。また、同号証の陳述書には、資料1は、その表題どおり「ロンテナーPL部改造(案)」であり、資料4は、「リブ形状を変更する前の『20RH-3』の金型図案」、資料5は、「リブ形状を変更した『20RH-3』の金型図案」である旨記載されている。これら記載からみて、これら資料は、「ロンテナー」に関する図面であると認められる。
また、同号証の陳述書には、新型のリブ形状の「ロンテナー」が、本件特許発明の実施品であるとの認識をうかがわせる記載もある。
しかし、これら資料1、4及び5は、黒塗り部分が多く、また、これら資料には、資料に示されたものが何かを説明する記載もないから、これら資料から、「ロンテナー」が、本件特許発明の構成要件を満たす容器であると認めることはできない。したがって、甲第10号証の添付資料1、4、又は5に、本件特許発明が記載されているということはできない。
なお、甲第5号証には、被請求人が、「甲第10号証の添付資料5の金型で製造した商品が、本件特許発明の実施品である」と認識していることをうかがわせる記載が存在し、甲第10号証の陳述書には、陳述人が「甲第10号証の添付資料5の金型で製造した商品が、本件特許発明の実施品である」と認識していることをうかがわせる記載が存在する。しかし、これらの記載は、被請求人又は陳述人の認識を示すにとどまるものであり、甲第10号証の添付資料5の金型で製造した商品が、本件特許発明の構成を備えていることを具体的に示すものではない。

(2)第10号証の添付資料に係る商品の発売日について
甲第10号証の金型に係る商品が発売された日について、被請求人は、答弁書の3頁22行から23行において、「販売のための量産を開始したのは,1996年4月16日のことである」と主張しており、その主張に不自然な点は認められない。
一方、請求人は、「遅くとも1996年4月1日までには、被請求人による本件特許発明実施品の販売は完了していた」と結論づけているが、請求人の提出したどの資料にも具体的な販売の日付を示す証拠はない。そこで、通知書により、本件特許発明に係る「ロンテナー」が本件特許発明に係る出願前に販売されたことを立証する具体的な証拠を提出するように通知したが、請求人からは回答がなされなかった。
してみると、甲第10号証の金型に係る商品が本件特許出願の出願前に被請求人が実施品を販売されたことが証明されているとは認められない。

(3)甲第10号証の添付資料についての検討のまとめ
したがって、甲第10号証の添付資料1、4、又は5に本件特許発明が記載されているということはできないし、また、甲第10号証に係る商品を本件特許発明に係る出願前に被請求人が販売していることが証明されてもいないことから、甲第10号証を根拠として、本件特許発明は、特許法第29条第1項第2号に該当する発明であるということはできない。

第7 むすび
以上のとおりであるから、請求人の主張する無効理由に理由はない。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-12-18 
結審通知日 2012-12-20 
審決日 2013-01-07 
出願番号 特願平8-104723
審決分類 P 1 123・ 112- Y (B65D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 谷治 和文  
特許庁審判長 仁木 浩
特許庁審判官 河原 英雄
栗林 敏彦
登録日 2005-07-15 
登録番号 特許第3698482号(P3698482)
発明の名称 軟質プラスチック容器  
代理人 特許業務法人 有古特許事務所  
代理人 小松 陽一郎  
代理人 藤野 睦子  
代理人 森本 純  

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