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審決分類 審判 一部無効 特38条共同出願  A61F
管理番号 1271712
審判番号 無効2011-800133  
総通号数 161 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-05-31 
種別 無効の審決 
審判請求日 2011-07-26 
確定日 2013-03-29 
事件の表示 上記当事者間の特許第3277180号発明「二重瞼形成用テープまたは糸及びその製造方法」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯

1 本件特許第3277180号についての特許出願は、特許法第41条に基づく優先権主張を伴い平成13年5月29日になされ(優先日、平成12年10月3日)、平成14年2月8日に請求項1ないし11に係る発明についての特許が設定登録された。

2 これに対し、平成23年7月26日に、請求人・松浦賢より、本件特許第3277180号の請求項1ないし6に係る発明についての特許を無効とするとの審決を求める無効審判の請求がなされた。

3 平成23年10月17日に、被請求人・野尻英行より審判事件答弁書(以下「答弁書」という。)が提出された。

4 平成23年11月11日付けで、当審より口頭審理の審理事項について知らせる審理事項通知書(以下「通知書」という。)が通知された。

5 平成23年12月8日に、両当事者から口頭審理陳述要領書が提出され、平成23年12月22日に口頭審理が行われたものである。

第2 本件発明
本件特許の請求項1ないし6に係る発明(以下「本件発明1」ないし「本件発明6」という。)は、次のとおりである。

「【請求項1】延伸可能でその延伸後にも弾性的な伸縮性を有する合成樹脂により形成した細いテープ状部材に、粘着剤を塗着することにより構成した、
ことを特徴とする二重瞼形成用テープ。
【請求項2】上記粘着剤は上記テープ状部材の両面または片面に塗着されている、
ことを特徴とする請求項1に記載の二重瞼形成用テープ。
【請求項3】両端に指先で把持するための表面に粘着性のない把持部を設けた、
ことを特徴とする請求項1または2に記載の二重瞼形成用テープ。
【請求項4】上記テープ状部材の両面または片面に引張りによって破断する破断部を有する剥離シートを貼付した、
ことを特徴とする請求項1または2に記載の二重瞼形成用テープ。
【請求項5】上記破断部は、上記シートの長手方向略中央に設けられた切欠溝によって形成されている、
ことを特徴とする請求項4に記載の二重瞼形成用テープ。
【請求項6】上記シートはシリコンペーパーまたはシリコン加工を施したフィルムである、
ことを特徴とする請求項4または5に記載の二重瞼形成用テープ。」

第3 請求人の主張
1 要点
請求人は、審判請求書(以下単に「請求書」ということがある。)にて、本件発明1ないし6は、請求人と被請求人とが共同してなした発明であるところ、本件特許出願は、被請求人単独でなされたものであるから、特許法第38条の規定により特許を受けることができないものであり、従って、本件発明1ないし6に係る特許は、特許法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである旨主張している(請求書第4ページ第8?第13行)。

2 証拠方法
請求人が提出した証拠方法は、以下のとおりである。
甲第1号証: 請求人・松浦賢の陳述書
甲第2号証: 3M社 皮膚貼付用テープ製品 診断/分析機器用材料
2010-2011 総合カタログ
甲第3号証: 共和工業株式会社 ホームページ文書
甲第4号証: 有限責任中間法人東京農工大出版会ら モノ知り工業博覧会 ホームページ文書
甲第5号証: 本件特許出願の基礎出願明細書
甲第6号証: 本件特許公報

以上の証拠方法のうち、甲第1号証は審判請求書に添付され、甲第2号証ないし甲第6号証はその後提出されたものである。
甲第3号証ないし甲第6号証は、口頭審理において、参考資料とされた(口頭審理調書の「請求人 3」)。また、甲第1号証及び甲2号証について、当事者間に成立の争いはない(口頭審理調書の「被請求人 2」)。

3 主張の概要
請求人の主張の概要は、以下のとおりである。なお、行数は空行を含まない。また、<>内のページ番号及び行数の表示は、理解の便宜のため当審で付したものであり、原文の丸囲み数字は「まる1」のように置き換えた。

(1)請求書第4ページ第14行?第8ページ末行
「・・・(前略)
<第6ページ第1行?第11行>
エ その後の改良
請求人が被請求人に対し,シリコンゴムを用いることや切り欠きを付けることなどを説明したところ,被請求人は請求人に対し,「ゴムの中央に切り欠きがあるのをユーザに見せたくない」と注文した。そこで,請求人は,最初にシリコンゴムに切り欠きを入れ,両面テープに接する部分に切り欠きを入れたシリコンゴムの面を貼り合わせることを提案したのである(本件特許公報,第5図,第6図参照)。

オ その後の経緯?製品化
その後,株式会社プレオの業績が悪化し,二重瞼形成用両面テープの製品化は進展しなかった。
平成12年夏,請求人及び被請求人らは株式会社プレオを退職し,
・・・(中略)・・・
<第6ページ第17行?第22行>
平成13年1月ころ,請求人は,従前の構想に基づいて,二重瞼形成用両面テープの製品化を進めるべく,シリコンゴムの選定,製品加工工場の選定および協議等をおこなった。
具体的には,請求人が,シリコンゴムシート成型のための金型の製造を「匠エンジニアリング」に依頼し,請求人が従前勤めていた株式会社トーアテックに赴き,シリコンゴム素材の取寄せを依頼し,加工も依頼した。
・・・(中略)・・・
<第7ページ第7行?第16行>
上記発明の経緯から明らかなように,ここでの「弾性的な伸縮性を有する合成樹脂依り形成した細いテープ状部材」及び「粘着剤を塗着」という構成は,まさに,株式会社プレオで,被請求人が「かつら用両面テープ」(3M社製の両面テープ)を短冊状に切り取ったものにすぎず,これを,二重瞼形成用に瞼に貼り付けるようにするという点は,請求人と被請求人とが話をしている中で,株式会社プレオの二重瞼形成用「液状のり」から着想を得たものである。
従って,これら請求項1及び請求項2に記載の発明の着想の提供は,まさに,請求人と被請求人とでなされたものであり,その発明者は,請求人と被請求人である。
・・・(中略)・・・
<第7ページ第23行?第27行>
かつら用の両面テープの剥離紙を剥がした状態で,そのまま両面テープを伸ばすのでは使うのでは使い勝手が悪く,つまむところ(把持部)を設けるという着想は,請求人と被請求人との協議の中で至ったものであるから,当該発明は,請求人と被請求人とでなされたものであり,その発明者は請求人と被請求人である。
・・・(中略)・・・
<第8ページ第13行?第26行>
上記発明の経緯で述べたとおり,両面テープをゴム材等で挟み込む場合,ゴム材ごと両面テープを引っ張って長く伸ばす際に,ゴム材がきれいに割れるように,短冊状に加工した部材の長手方向の中央付近でゴム材に切り欠きをいれるという着想は,請求人が提案したものである。
本件請求項4の「破断部を有する剥離シート」とは,まさに,切り欠きを入れたゴム材の上位概念にすぎず,これをより下位概念で具体化したものが,本件請求項5の「長手方向略中央付近に設けられた切欠溝」である。
また,剥離シートとして,シリコンゴムを用いることや,シリコンゴムが引裂強度に乏しく,中央付近で破断させる剥離シートとしては好ましいことなどは,全て,請求人の知見から得られたものであって,本件請求項6の「シリコンペーパー又はシリコン加工を施したフィルム」という構成も,請求人の着想に他らなない。
従って,これらの発明の発明者は,請求人と被請求人であることは明らかである。
・・・(後略)」

(2)口頭審理陳述要領書第2ページ第6行?第13ページ末行
「・・・(前略)
<第3ページ第20行?第21行>
まる2 平成12年当時,二重瞼形成用品として接着方式,テーピング方式があったことは認める。
・・・(中略)・・・
<第8ページ第3行?第12行>
しかし,被請求人は続けて,「シリコンの硬度が高くなるほど,接着テープとの密着性が向上する」「シリコンの表面を荒らして表面積を増やすことにより,密着テープとの密着性をより高める」と説明したと主張する(審判事件答弁書第8頁第9?12行目参照)。このような説明が,そもそもシリコン素材特性と完全に矛盾する説明であることは上記アで述べたとおりである。
即ち,シリコン素材はその非接着性という性質上,加工表面を鏡面化(平面化)し,且つ,その硬度自体は低いものであるほうが,物理的相互作用による接着(密着)のためには好ましいのである。このように,被請求人がシリコン素材の特性に対し誤解していることは明白である。
・・・(中略)・・・
<第10ページ第17行?第28行>
最初の試作品は,平成13年2月後半に完成した。被請求人が,内側面に切り欠きを形成した2枚のシリコンゴムシートで両面テープを挟み込んだ試作品を見たのはその時が初めてである。被請求人は試作段階においても,その後,「メザイク」の製品量産化の段階においても,「匠エンジニアリング」や「株式会社トーアテック」に出向いたことなどない。専ら,請求人が現地工場に赴き,試作を繰り返した。
平成13年2月末ころ,請求人が被請求人に対し,同試作品を見せた時に,切り欠き形成について説明したのである。従って,同時期まで,被請求人は,シリコンゴムシートからなる剥離シートや,同剥離シートに切り欠きを設けること(長手方向中央付近の内面側に切り欠き溝を形成すること)など,認識もしていなかった。それゆえに,本件特許出願の基礎出願(甲第5号証)においてこれらの点が言及されていないのである。
・・・(中略)・・・
<第13ページ第1行?第7行>
従って,厳密には,シリコンペーパー及びシリコン加工を施したフィルムと,シリコンゴムシートとは別個の概念であると考えている。
もっとも,被請求人は,本件特許明細書において「シート22としては,シリコン加工を施したフィルム,あるいはシリコン樹脂をペーパー状にしたシリコンペーパーを用いる」と述べており(甲6・【0019】欄参照),被請求人は,シリコンペーパーも一定の厚みのあるシリコンゴムシートと同義で用いているものと思われる。
・・・(中略)・・・
<第13ページ第14行?第26行>
まる4 乙第9号証について
既に述べたとおり,請求人は,本件特許出願に係る全ての請求項に記載の発明について,請求人の単独発明乃至被請求人との共同発明であると考えている。今回,本件審判請求手続において,請求項1乃至6について特許法第38条違反である旨を主張しているのは,本件特許出願中,暫定的に物に係る発明についてのみ審判請求をしたにすぎない。
従前の通知書(乙第9号証)において,請求項4,5,6,8,11について請求人が関与した旨を主張したのは,少なくとも剥離シート,シリコン素材を利用する点については,ほぼすべてを請求人が主導的に開発し発明したものであることから,少なくとも,同請求項記載の発明については,請求人の主張を被請求人に理解してもらいたいという趣旨であった。
もっとも,請求人としては,本件特許出願に係る発明全てについて,請求人が関与していると考えている。
・・・(後略)」

第4 被請求人の主張
1 要点及び証拠方法
これに対し、被請求人は、以下の理由、証拠方法に基づき、本件審判請求は成り立たないとの審決を求めている。

乙第1号証 :被請求人・野尻英行の陳述書
乙第2号証 :株式会社プレオの登記簿謄本
乙第3号証 :株式会社プレオの会社沿革パンフレットの写し
乙第4号証 :合資会社アーツブレインズの登記簿謄本
乙第5号証 :株式会社アーツブレインズの登記簿謄本
乙第6号証の1 :意願2005-025482号の願書の写し
乙第6号証の2 :意願2005-025483号の願書の写し
乙第6号証の3 :意願2005-025711号の願書の写し
乙第6号証の4 :意願2005-025712号の願書の写し
乙第6号証の5 :意願2005-029157号の願書の写し
乙第7号証 :3M社から被請求人宛に送付された粘着テープの各種サ ンプルに添付されていた送り状の写し
乙第8号証 :本件特許の登録原簿
乙第9号証 :請求人から被請求人宛に送付された平成21年8月20 日付け通知書の写し
乙第10号証 :被請求人が裁判所で行った技術説明会の資料の写し
乙第11号証 :本件特許の出願を代理した特許事務所の2000年(平 成12年)のスケジュール帳の9月4日?10日分の写 し
乙第12号証の1:トーアテック株式会社に対する発注書の写し
乙第12号証の2:株式会社匠エンジニアリングに対する発注書の写し

以上の証拠方法のうち、乙第1号証ないし乙第9号証は答弁書に添付され、乙第10号証ないし乙第12号証の2はその後提出されたものである。
また、乙第1号証ないし乙第12号証の2について、当事者間に成立の争いはない(口頭審理調書の「請求人 2」)。

2 主張の概要
被請求人の主張の概要は、以下のとおりである。なお、行数は空行を含まない。また、<>内のページ番号及び行数の表示は、理解の便宜のため当審で付したものであり、原文の丸囲み数字は「まる1」のように置き換えた。

(1)答弁書第2ページ第19行?第11ページ第1行
「・・・(前略)
<第3ページ下から2行?第4ページ第8行>
すなわち、乙第1号証の被請求人の陳述書に添付した出願リストに示すように、昭和62年?平成18年に至るまで、被請求人を発明者、考案者又は創作者とする特許出願、実用新案登録出願及び意匠出願の件数は合計40件にものぼる(出願リストに示された意匠出願のうち、No.7,No.8及びNo.10?12の計5件については、拒絶査定が既に確定し意匠公報が発行されていないため、それらの願書の写しを乙6の1?乙6の5に示す。)。そして、上記期間中、株式会社カナエ、株式会社プレオ、合資会社アーツブレインズ、及び、株式会社アーツブレインズにおいて職務上為された発明、考案、及び、創作(以下、「発明等」という。)は、被請求人の40件に請求人の1件を加えた合計41件で全てである。
・・・(中略)・・・
<第5ページ第5行?第7行>
・テーピング方式:片面粘着テープを瞼の皮膚に貼着し、開眼時にそのテープの上縁で瞼の皮膚を折り畳ませることにより、二重瞼の襞を形成する方式
・・・(中略)・・・
<第8ページ下から4行?第9ページ第4行>
請求項1及び2に係る発明の着想及び具体化は、上記(2)まる2で述べたように、被請求人が株式会社カナエ及び株式会社プレオでの研究開発の過程で取得した、テープに関する知識の長年の蓄積に基づき為されたものであって、被請求人単独で為されたものに他ならない。
また、そのことは、本審判請求書及び甲第1号証の何れにおいても、請求人が、テープの弾性的伸縮性を利用して二重瞼を形成する二重瞼形成用品の着想又は具体化に関与したことについて、何ら言及していないことからしても明らかである。
・・・(中略)・・・
<第9ページ第8行?第14行>
上記(2)まる3において述べたように、上記把持部を開発する過程において、被請求人が請求人に相談したり、被請求人に対し請求人から何らかの提案があったりした事実がないことからすれば、請求人は、上記把持部の着想及び具体化に全く関与していなかったといえる。
してみると、請求項3に係る発明は被請求人単独で為されたものであって、請求項3に係る発明の発明者は被請求人のみであり、請求人は発明者ではない。
・・・(中略)・・・
<第9ページ第16行?第25行>
上記(2)まる5及びまる6で述べたように、内面側の中央に破断部を備えたシリコン樹脂製の剥離シート(シリコンペーパー)を開発する過程において、被請求人が請求人に相談したり、被請求人に対し請求人から何らかの提案があったりした事実がなく、しかも、請求人が、上記剥離シートとしてシリコン樹脂を使用することに反対の立場であったことからすれば、請求人が、そのような剥離シートの着想及び具体化に何ら関与していなかったことは明らかである。
してみると、請求項4?6に係る発明は被請求人単独で為されたものであって、請求項4?6に係る発明の発明者は被請求人のみであり、請求人は発明者ではない。
・・・(中略)・・・
<第10ページ第10行?第20行>
まる2 請求人からの警告書について
乙第9号証に示す、請求人が被請求人宛てに送付した平成21年8月20日付け通知書において、請求人は、本件特許の請求項4・5・6・8・11に係る発明、すなわち「剥離シート」や「剥離カバー」を構成として含む発明について、被請求人は発明者ではなく、請求人こそが真正な発明者である旨主張していたところ、本件審判請求書及び甲第1号証の陳述書においては、本件特許の請求項1?6に係る発明について、被請求人と請求人との共同発明であった旨主張しており、請求人の主張には何ら一貫性がない。
してみると、甲第1号証の陳述書における請求人の陳述、及び、それに基づいた請求の理由における請求人の主張については、信憑性に疑問があるといわざるを得ない。
・・・(後略)」

(2)口頭審理陳述要領書第1ページ第20行?第4ページ下から5行
「・・・(前略)
<第2ページ第19行?第23行>
「シリコン加工を施したフィルム」とは、樹脂フィルムにおける少なくとも粘着剤と接する表面に、シリコン加工を施したものを意味する。「シリコンペーパー」については、本件特許の明細書の【0019】に、「シリコン樹脂をペーパー状にしたシリコンペーパー」と記載している。したがって、「シリコンペーパー」が本件審判請求書に記載された「シリコンゴム」に相当する。
・・・(中略)・・・
<第4ページ第16行?下から5行>
上記(2)まる1ウで述べたように、株式会社プレオに入社する以前に、ゴム会社である「トーアテック株式会社」に在籍していた経歴があったことから、株式会社プレオ時代から、樹脂や金型の注文については、請求人が担当者となっていた。なお、「株式会社匠エンジニアリング」は、本件金型を注文するよりも前から「トーアテック株式会社」の取引先であった。
すなわち、この材料や製造金型の発注は、株式会社プレオに在籍していた時の担当業務を単に引き継いだものに過ぎず、発明、考案及び意匠の創作を伴うような製品の企画・研究開発を含むものではなかった。」

第5 当審の判断
1 本件発明
本件発明1ないし6は、明細書及び図面の記載からみて、上記第2のとおりと認める。

2 無効理由(特許法第38条)について

2-1 争いのない事実等
各証拠(甲第1号証及び甲第2号証、乙第1号証ないし第12の2号証)、口頭審理調書の記載内容等によれば、時系列的にみて以下のとおりの事実が認められる。

ア 被請求人は、平成12年まで株式会社プレオにて、主に開発を担当していた(口頭審理調書の「当事者双方 1」)。その期間を中心として平成18年までに約40件の特許、実用新案、意匠出願を行った(乙第1号証記載の出願リスト、乙第6の1ないし5号証)。

イ 請求人は、株式会社プレオ入社前はゴム会社に在籍していた。(口頭審理調書の「当事者双方 1」)

ウ 請求人は平成6年に株式会社プレオに入社し、主に営業を担当していた。(口頭審理調書の「当事者双方 1」)

エ 請求人及び被請求人は、いずれも平成12年9月まで株式会社プレオに在籍し、その後株式会社プレオを退職して、平成12年9月に合資会社アーツブレインズを設立した。(口頭審理調書の「当事者双方 1」)

オ 平成12年10月3日、被請求人は、本件特許の基礎出願(特願2001-303797号)を行った。

カ 平成13年5月29日、被請求人は、優先権主張をともない本件特許出願(特願2001-160951号)を行った。

キ 平成21年8月20日付けで、請求人は、本件特許の請求項4ないし6、8及び11項に係る発明が、被請求人のみの発明によるものでない旨の通知書を被請求人宛送付した(乙第9号証)。

2-2 争点とそれに対する判断
争点である本件発明1ないし6の共同出願違反(特許法38条違反)について判断するに先立ち、まず、共同発明者の解釈について確認をしておく。
共同発明者とは、課題を解決するための着想及びその具体化の過程において、複数の者がともに発明の特徴的部分の完成に創作的に寄与した場合における複数の者をいう(例えば、知財高裁平成19年(行ケ)第10278号)。
そこで上記の観点から、本件各発明の特徴的部分は何かを検討し、そして請求人たる松浦賢が本件各発明の特徴的部分の完成に創作的に寄与したといえるか否かについて検討を行うこととする。

(1)本件発明1
ア 請求人口頭審理陳述要領書(上記摘記した第3ページ第20行?第21行)及び答弁書(上記摘記した第5ページ第5行?第7行)にも記載されているように、テープ状部材に粘着剤を塗着することにより構成する二重瞼形成用テープは、本件特許出願時にすでに存在していたと認められるので、本件発明1の特徴的部分は、「延伸可能でその延伸後にも弾性的な伸縮性を有する合成樹脂により形成した細いテープ状部材」により「二重瞼形成用テープ」を構成した点であるといえる。
この点に関しては、請求人は、弾性的な伸縮性を有する合成樹脂により形成した細いテープ状部材という構成は、株式会社プレオで、被請求人が「かつら用両面テープ」を短冊状に切り取ったものにすぎず、二重瞼形成用に瞼に貼り付けるようにするという点は、請求人と被請求人とが話をしている中で着想を得たものである旨主張し(上記摘記した請求書第7ページ第7行?第16行)、請求人の陳述書たる甲第1号証にも同旨の記載がある(甲第1号証第2ページ第3行?第16行)。
これに対し、被請求人は、請求項1に係る発明の着想及び具体化は、被請求人が株式会社プレオ等での研究開発の過程で取得した、テープに関する知識の長年の蓄積に基づき為されたものであって、被請求人単独で為されたものに他ならず、また、そのことは、本審判請求書及び甲第1号証の何れにおいても、請求人が、テープの弾性的伸縮性を利用して二重瞼を形成する二重瞼形成用品の着想又は具体化に関与したことについて、何ら言及していないことからしても明らかである旨主張し(上記摘記した答弁書第8ページ下から4行?9ページ第4行)、被請求人の陳述書たる乙第1号証にも同旨の記載がある(乙第1号証第3ページ第3行?第5ページ第13行)。
両者の主張を検討するに、まず上記請求人の主張は、請求人自身の陳述書という、記憶に基づく客観性の乏しい証拠たる甲第1号証によって裏付けられるのみである。しかも、被請求人が主張するように、請求書及び甲第1号証のいずれにおいても、請求人が、本件発明1の特徴的部分たるテープの弾性的伸縮性を利用して二重瞼を形成する二重瞼形成用品の着想又は具体化に関与したことについての具体的な記載がきわめて不十分である。
一方、上記被請求人の主張も、主に被請求人自身の陳述書(乙第1号証)により裏付けられるものではあるが、被請求人の陳述書には本件発明1の特徴的部分の完成に被請求人が創作的に寄与したことが、具体的かつ詳細に記載されている(上記指摘した乙第1号証第3ページ第3行?第5ページ第13行)。
加えて、
(ア)被請求人は、本件特許出願時である平成12年まで株式会社プレオにて、主に開発を担当し、その期間を中心として平成18年までに約40件の特許、実用新案、意匠出願を行っていたこと(上記2-1(1))、
(イ)請求人はゴム会社を経て平成6年に株式会社プレオに入社し、主に営業を担当していたこと(上記2-1(2)及び(3))、そしてプレオ入社から本件特許出願時までの期間で、請求人自身が発明者となっている特許、実用新案、意匠出願は、1件のみであること(口頭審理調書の「当事者双方 2」)、
(ウ)乙第9号証によれば、請求人は平成21年8月20日付け通知書において、本件発明4ないし6について被請求人と請求人との共同発明であった旨主張している一方で、本件発明1については何ら言及していないこと(上記2-1キ及び乙第9号証)、
という事実が認められる。
これらを総合すれば、本件発明1の上記特徴的部分の完成には、請求人の創作的寄与はなかったものと推認することができる。
したがって、本件発明1は被請求人の単独発明によるものというべきであり、請求人が本件発明1の共同発明者であるということはできない。

イ 小括
よって、請求人の主張する理由及び提出した証拠方法によっては、本件発明1に係る特許を無効にすることはできない。

(2)本件発明2
ア 請求項2のみによる特定事項に特徴的部分はなく、本件発明1と同様、請求人が本件発明2の共同発明者であるということはできない。

イ 小括
よって、請求人の主張する理由及び提出した証拠方法によっては、本件発明2に係る特許を無効にすることはできない。

(3)本件発明3
ア 請求項3のみによる特定事項、すなわち、「両端に指先で把持するための表面に粘着性のない把持部を設けた」点は、本件各発明のような粘着テープにおいては、例示するまでもなくごく一般的に行われている周知技術である。したがって、請求項3のみによる特定事項に特徴的部分はなく、本件発明1と同様、請求人が本件発明3の共同発明者であるということはできない。

イ 小括
よって、請求人の主張する理由及び提出した証拠方法によっては、本件発明3に係る特許を無効にすることはできない。

(4)本件発明4ないし6
ア 本件発明4は、本件発明1または2を、「テープ状部材の両面または片面に引張りによって破断する破断部を有する剥離シートを貼付した」点でさらに特定するものであり、本件発明5は、本件発明4を「破断部は、上記シートの長手方向略中央に設けられた切欠溝によって形成されている」点でさらに特定するものであり、本件発明6は、本件発明4または5を「シートはシリコンペーパーまたはシリコン加工を施したフィルムである」点でさらに特定するものである。これら本件発明4ないし6は、互いに密接に関連する特徴的部分を有する一群の発明と考えられるので、まとめて検討することとする。

イ 争点等
本件発明4ないし6の特徴的部分に関し、請求人は、短冊状に加工した部材の長手方向の中央付近でゴム材に切り欠きをいれるという着想は請求人が提案したものであり、剥離シートとしてシリコンゴムを用いることや、シリコンゴムが中央付近で破断させる剥離シートとしては好ましいことなどは、全て請求人の知見から得られたものである旨主張し(上記摘記した請求書第8ページ第13行?第26行)、請求人の陳述書たる甲第1号証にも同旨の記載がある(甲第1号証第2ページ第17行?第3ページ第16行)。
これに対し、被請求人は、内面側の中央に破断部を備えたシリコン樹脂製の剥離シート(シリコンペーパー)を開発する過程において、被請求人が請求人に相談したり、被請求人に対し請求人から何らかの提案があったりした事実がなく、しかも、請求人が、上記剥離シートとしてシリコン樹脂を使用することに反対の立場であったことからすれば、請求人が、そのような剥離シートの着想及び具体化に何ら関与していなかったことは明らかである旨主張し(上記摘記した答弁書第9ページ第16行?第25行)、被請求人の陳述書たる乙第1号証にも同旨の記載がある(乙第1号証第5ページ第14行?第7ページ第13行)。

これに加え、被請求人のシリコン素材についての知見の有無等につき、当事者間の争いがあるので、まずそれらにつき検討する。

(ア)被請求人のシリコン素材についての知見の有無
請求人は、被請求人はシリコンの表面を荒らして表面積を増やすことにより、密着テープとの密着性をより高める等説明しているが、シリコン素材は加工表面を鏡面化(平面化)したほうが,物理的相互作用による接着(密着)のためには好ましいものであり、被請求人がシリコン素材の特性に対し誤解していることは明白であり、被請求人はシリコン素材について知見を有していない旨主張する(上記摘記した請求人口頭審理陳述要領書第8ページ第3行?第12行)。
これに対し、被請求人は、「シリコンゴムにおける「密着」は、ゴム自体の材料特性から、鏡面性が高ければ、必ずしも密着性が高まるとは限らない。」(口頭審理調書の「請求人 3」)、「本件実施品が内面を鏡面とした理由は、くっつきと剥離のバランスにより決めた。」(口頭審理調書の「請求人 5」)と反論している。
シリコンゴムを材料そのものの平面性を利用して密着させるに際し、鏡面化した方が好ましいか否かは明らかではないが、被請求人が合理的な反論を行っていること、被請求人が本件出願前にシリコン素材に関連する分野(かつら等)の実用新案出願等を行っていたこと(乙第1号証記載の出願リスト)に鑑みると、被請求人は本件出願時にシリコン素材について知見を有していたものと認められる。

(イ)「シリコンペーパー」または「シリコン加工を施したフィルム」とシリコンゴムの異同
甲第1号証(請求人の陳述書)に「私(当審注:請求人)も共同発明人であることの証拠として,両面テープを挟みこむ部材について私が「シリコン」と話していたことについて,ゴムの知識のなかった野尻氏は「シリコンペーパー」又は「シリコンフィルム」と勘違いしたようで,再度の出願において,「シリコンペーパー又はシリコンフィルム」と記載しています。但し,「シリコンペーパー」又は「シリコンフィルム」は切り欠きを入れても破断しませんので,同記載は誤った知識に基づいて作成されたものです。現に,「MEZAIK ストレッチファイバー」も私が生産体制を整えたため,シリコンゴムを利用しています。」と記載されている(甲第1号証第5ページ第2行?第10行)。
この点に関し当審から通知書にて「シリコンペーパー」または「シリコン加工を施したフィルム」とシリコンゴムの異同について聴取する旨伝えたところ、被請求人は、本件特許請求の範囲及び明細書中の用語として「シリコン樹脂をペーパー状にした」ものを「シリコンペーパー」と定義したとし(上記摘記した被請求人口頭審理陳述要領書第2ページ第19行?第23行)、また、請求人も通知書後の口頭審理陳述要領書においては、その点は特に争っていない(上記摘記した請求人口頭審理陳述要領書第13ページ第1?第7行)。
したがって甲第1号証の上記記載箇所は、請求人が本件発明4ないし6の特徴的部分の完成に創作的に寄与したことの裏付けるものということはできない。

(ウ)シリコンゴム素材及び金型の発注
請求人は、本件出願前である平成13年1月ころ、従前の構想に基づいて,二重瞼形成用両面テープの製品化を進めるべく、シリコンゴムシート成型のための金型の製造を依頼し、またシリコンゴム素材の取寄せ等も依頼した旨主張する(上記摘記した請求書第6ページ第17?第22行)。これに対し、被請求人は、乙12号証の1及び乙12号証の2を提出し、この材料や金型の発注は、株式会社プレオに在籍時の担当業務を単に引き継いだものに過ぎず、発明等の創作を伴うような製品の企画・研究開発を含むものではない旨反論している(上記摘記した被請求人口頭審理陳述要領書第4ページ第16行?下から4行)。
被請求人が提出した乙12号証の1及び2が、請求人の主張する金型またはシリコンゴム素材の取り寄せに対応するものか否かは明らかでないが、対応しないとすれば、請求人の当該主張を裏付ける客観的な証拠はないことになるし、対応するとした場合も、乙12号証の2に示された「営業 松浦 賢」なる記載、及び計500枚という発注量からして、製品の企画・研究開発のためというよりも、通常の生産のための発注である蓋然性が高い。また、仮に製品の企画・研究開発のためであったとしても、請求人が発注者であったことのみをもって、請求人自身の企画・開発のために発注したと直ちに認めることはできない。
したがって請求人の主張する金型及びシリコンゴム素材の取り寄せは、請求人が本件発明4ないし6の特徴的部分の完成に創作的に寄与したことを裏付けるものということはできない。

(エ)被請求人自身による実験
口頭審理において、請求人は、「被請求人がシリコンサンプル材料を使って実験している姿は見ていないし、材料自体も見ていない。」と主張し(口頭審理調書の「請求人 5」)、他方、被請求人は「被請求人は、手元のシリコンサンプル材料を使って、接着及び切り込み実験を行った」と主張している(口頭審理調書の「被請求人 4」)。
しかしながら、請求人の被請求人が実験している姿を見ていないとの主張は、請求人が本件発明4ないし6の特徴的部分の完成に共同発明者として創作的に寄与したことを裏付けるものではない。

ウ 判断
請求人は、本件発明4ないし6の特徴的部分に関し、請求書にて「平成12年夏」以前に「請求人は,最初にシリコンゴムに切り欠きを入れ,両面テープに接する部分に切り欠きを入れたシリコンゴムの面を貼り合わせることを提案した」(上記摘記した請求書第6ページ第1行?第11行)とする一方で、口頭審理陳述要領書においては、「平成13年2月後半」まで「被請求人は,シリコンゴムシートからなる剥離シートや,同剥離シートに切り欠きを設けること(長手方向中央付近の内面側に切り欠き溝を形成すること)など,認識もしていなかった。」としており(上記摘記した請求人口頭審理陳述要領書第10ページ第17行?第28行)、本件発明4ないし6の特徴的部分を創作した時期に関する主張が首尾一貫していない。
もっともこの点は口頭審理において、当審が指摘した後、整合がとれるよう修正されたが(口頭審理調書の「請求人 4」)、いずれにせよ請求人の主張には不確かな部分があると考えざるを得ない。
そして、上記(1)にておいても指摘したように、請求人の主張は客観性の乏しい証拠たる甲第1号証によって裏付けられるのみである。
一方、上記被請求人の主張も、主に被請求人自身の陳述書(乙第1号証)により裏付けられるものではあるが、被請求人の陳述書には本件発明4ないし6の特徴的部分の完成に被請求人が創作的に寄与したことが、具体的かつ理路整然と記載されている(上記指摘した乙第1号証第5ページ第14行?第7ページ第13行 )。
さらに、上記(1)ア(ア)及び(イ)の事実が認められるのに加え、上記(4)イ(ア)で指摘したように、被請求人は本件出願時にシリコン素材について知見を有していたものと認められる。
そして、上記(4)イ(イ)ないし(エ)に関わる請求人の主張は、請求人が本件発明4ないし6の特徴的部分の完成に創作的に寄与したことを裏付けるものではない。
これらを総合すれば、本件発明4ないし6の上記特徴的部分の完成には、請求人の創作的寄与はなかったものと推認することができる。
したがって、本件発明4ないし6は被請求人の単独発明によるものというべきであり、請求人が本件発明4ないし6の共同発明者であるということはできない。

エ 小括
よって、請求人の主張する理由及び提出した証拠方法によっては、本件発明4ないし6に係る特許を無効にすることはできない。

第6 むすび
以上のとおりであるから、請求人主張の理由及び証拠方法によっては、本件発明1ないし6に係る特許を無効にすることはできない。
また、他に本件発明1ないし6に係る特許を無効とする理由を発見しない。
審判費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2012-01-16 
出願番号 特願2001-160951(P2001-160951)
審決分類 P 1 123・ 151- Y (A61F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 今村 玲英子  
特許庁審判長 千葉 成就
特許庁審判官 長屋 陽二郎
藤井 眞吾
登録日 2002-02-08 
登録番号 特許第3277180号(P3277180)
発明の名称 二重瞼形成用テープまたは糸及びその製造方法  
代理人 中村 哲士  
代理人 夫 世進  
代理人 有近 康臣  
代理人 鶴 由貴  
代理人 富田 克幸  
代理人 蔦田 正人  
代理人 岩井 泉  
代理人 蔦田 璋子  
代理人 關 健一  
代理人 林 直生樹  
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