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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C08L
審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 特許、登録しない。 C08L
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 C08L
管理番号 1271772
審判番号 不服2011-2341  
総通号数 161 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-05-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-02-01 
確定日 2013-03-21 
事件の表示 特願2000-366643「艶消しマスターバッチおよびそれを用いた艶消し熱可塑性樹脂組成物。」拒絶査定不服審判事件〔平成14年 6月11日出願公開、特開2002-167492〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 主な手続の経緯
本願は,平成12年12月1日を出願日とする特許出願であって,平成22年7月12日付けで拒絶理由が通知され,同年9月21日に意見書が提出され,同年10月21日付けで拒絶査定がされたところ,これに対して,平成23年2月1日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に明細書が補正されたので,特許法162条所定の審査がされた結果,同年3月3日付けで同法164条3項の規定による報告がされ,平成24年6月5日付けで同法134条4項の規定による審尋がされ,同年8月8日に回答書が提出されたものである。

第2 補正の却下の決定

[結論]
平成23年2月1日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1 平成23年2月1日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)の内容
本件補正は明細書の特許請求の範囲を変更する補正であるところ,本件補正の前後における特許請求の範囲の請求項1の記載は,それぞれ以下のとおりである。
・ 本件補正前(出願当初の明細書)
「ゴム状重合体(a-1)1?30重量%および芳香族ビニル系単量体とシアン化ビニル系単量体および/または不飽和カルボン酸アルキルエステル系単量体からなる共重合体(a-2)70?99重量%とから構成され,該ゴム状重合体(a-1)が共重合体(a-2)中に重量平均粒子径1?10μmの範囲で分散してなるゴム変性スチレン系樹脂(A)50?99重量部と官能基含有ビニル系重合体(B)1?50重量%からなる艶消しマスターバッチ。」
・ 本件補正後
「ゴム状重合体(a-1)1?25重量%および芳香族ビニル系単量体とシアン化ビニル系単量体および/または不飽和カルボン酸アルキルエステル系単量体からなる共重合体(a-2)70?99重量%とから構成され,該ゴム状重合体(a-1)が共重合体(a-2)中に重量平均粒子径1?8μmの範囲で分散してなるゴム変性スチレン系樹脂(A)50?99重量部と官能基含有ビニル系重合体(B)1?50重量部からなる艶消しマスターバッチであり,該ゴム変性スチレン系樹脂(A)は,塊状重合法または溶液重合法によって得られることを特徴とする艶消しマスターバッチ。」

2 本件補正の目的
本件補正は,補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「ゴム変性スチレン系樹脂(A)」について,補正前にはその製造方法(重合法)について何ら特定していなかったものを,「該ゴム変性スチレン系樹脂(A)は,塊状重合法または溶液重合法によって得られる」のようにその重合法を特定する補正事項を含むものである。
そうすると,この補正事項を含む本件補正は,補正前の特許請求の範囲に記載した発明を特定するために必要な事項を限定するものではないから,平成18年法律55号改正前の特許法17条の2第4項2号に掲げる特許請求の範囲の減縮(いわゆる限定的減縮)を目的とするものであるということはできないし,同項各号掲記の他の事項を目的とするものであるということもできない。
請求人は,回答書2頁において,明りょうでない記載の釈明を目的とする旨主張するが,補正前の「ゴム変性スチレン系樹脂(A)」は,その重合法を何ら特定するものでない,すなわち,いかなる重合法によって得られたものかにとらわれないものであるという意味で十分に明りょうであったといえる。よって,請求人の上記主張は採用できない。
なお,本件補正は,いわゆる新規事項を追加するものであるとはいえないと判断される。

3 独立特許要件違反の有無について
上記2のとおり,本件補正はいわゆる目的要件を満足するものではないが,仮に限定的減縮を目的とするものであるといえるとしたとき,本件補正後の請求項1に記載された発明(以下「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか,要するに,本件補正が特許法17条の2第5項で準用する同法126条5項の規定に適合するものであるか(いわゆる独立特許要件違反の有無)についての検討がなされるべきところ,以下述べるように,本件補正は当該要件に違反すると判断される。
すなわち,本願補正発明は,本願の出願前に頒布された刊行物である下記引用文献1に記載された発明(以下「引用発明1」という。)及び周知の技術事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
・ 引用文献1: 特開平1-101355号公報
・ 引用文献2: 特開平3-12444号公報
・ 引用文献3: 特開昭60-94414号公報
なお,引用文献2?3は,周知技術の根拠となる刊行物であり,また引用文献1?3はいずれも,上記拒絶理由を通知する際に請求人に提示された刊行物である。
以下,本願補正発明が特許を受けることができない理由を,下記5において詳述する。

4 本願補正発明
本願補正発明は,本件補正により補正された明細書(以下「本願補正明細書」という。)の記載からみて,その特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される以下のとおりのものであると認める。
「ゴム状重合体(a-1)1?25重量%および芳香族ビニル系単量体とシアン化ビニル系単量体および/または不飽和カルボン酸アルキルエステル系単量体からなる共重合体(a-2)70?99重量%とから構成され,該ゴム状重合体(a-1)が共重合体(a-2)中に重量平均粒子径1?8μmの範囲で分散してなるゴム変性スチレン系樹脂(A)50?99重量部と官能基含有ビニル系重合体(B)1?50重量部からなる艶消しマスターバッチであり,該ゴム変性スチレン系樹脂(A)は,塊状重合法または溶液重合法によって得られることを特徴とする艶消しマスターバッチ。」
なお,本願補正発明のゴム変性スチレン系樹脂(A)は,ゴム状重合体(a-1)1?25重量%及び共重合体(a-2)70?99重量%とから構成されてなるところ,共重合体(a-2)の構成割合が75重量%よりも小さい場合,ゴム状重合体(a-1)と共重合体(a-2)の合計が100重量%に満たないため,結果,本願補正発明は明確でないといえる。しかし,上記構成割合が75重量%以上の場合には,本願補正発明は明確であるといえるし,本件補正は,ゴム状重合体(a-1)の構成割合を「1?30重量%」から「1?25重量%」に補正するのに伴い,共重合体(a-2)についても「70?99重量%」から「75?99重量%」に補正すべきところ,これを錯誤により怠ったのは明らかであるから,本願補正発明は,上記のとおり(特許請求の範囲の請求項1の記載のとおり)のものであると認定する。

5 本願補正発明が特許を受けることができない理由
(1) 引用発明1
ア 引用文献1には,次の記載がある。(なお,下線は本審決で付した。以下同じ。)
・ 「2. 特許請求の範囲
1)(A)ゴム変性スチレン系熱可塑性樹脂,(B)オレフィンを含まないエポキシ基含有共重合体および(C)カルボキシル基,酸無水物基,水酸基および含窒素塩基の群から選ばれる少くとも一種の官能基を有する重合体を,(A),(B)および(C)の合計量を100重量部として,(A)40?99.8重量部,(B)0.1?20重量部および(C)0.1?50重量部であり,かつ組成物中に含まれるゴム量が5?40重量%となる割合で混合してなることを特徴とする熱可塑性樹脂組成物。」(1頁左欄4?15行)
・ 「<産業上の利用分野>
本発明は,耐衝撃性および流れ性に優れると共に,成形時に均一な艶消しの成形品表面を与える熱可塑性樹脂組成物に関する。」(1頁右欄7?10行)
・ 「<問題点を解決するための手段>
本発明者らは,上述の問題点を改良すべく鋭意検討した結果,ゴム変性スチレン系熱可塑性樹脂にオレフィンを含まないエポキシ基含有オレフィン共重合体と共に特定の官能基を含有する重合体を添加する事により,流れ性の低下および衝撃強度の低下が少く,かつ均一な艶消しの成形品表面を与える熱可塑性樹脂組成物が得られる事を見出し本発明に到達した。」(2頁右上欄2?10行)
・ 「<ゴム変性スチレン系熱可塑性樹脂(A)>
本発明におけるゴム変性スチレン系熱可塑性樹脂(A)とは,ゴムの存在下に芳香族ビニル化合物および必要に応じてこれと共重合可能なエチレン系不飽和化合物を重合して得られるグラフト共重合体,又は該グラフト共重合体と芳香族ビニル化合物および必要に応じてこれと共重合可能なエチレン系不飽和化合物を重合して得られる芳香族ビニル系重合体との混合物である。
ゴムとしては,ポリブタジエン,ブタジエン-スチレン共重合体,ブタジエン-アクリロニトリル共重合体等のブタジエン系ゴム(i),…等々が例示され,一種又は二種以上用いることができる。
芳香族ビニル化合物としては,スチレン,α-メチルスチレン,o-メチルスチレン,…等が例示され,一種又は二種以上用いる事ができる。
芳香族ビニル化合物と共重合可能なエチレン系不飽和化合物としては,アクリロニトリル,メタクリロニトリル,…等のシアン化ビニル化合物,メチルメクリレート,エチルアクリレート,…等の不飽和カルボン酸アルキルエステル化合物,…が例示され,一種又は二種以上用いる事ができる。」(2頁左下欄3行?3頁左上欄12行)
・ 「ゴム変性スチレン系熱可塑性樹脂の製造方法としては,乳化重合法,懸濁重合法,塊状重合法,溶液重合法又はこれらを組合わせた方法が用いられる。」(3頁右上欄17?20行)
・ 「<オレフィンを含まないエポキシ基含有共重合体(B)>
次に本発明において用いられるオレフィンを含まないエポキシ基含有共重合体(B)とは,不飽和エポキシ化合物とエチレン系不飽和化合物(この項においてはオレフィンを除く)からなる共重合体である。…
不飽和エポキシ化合物とは,分子中にエチレン系不飽和化合物と共重合しうる不飽和基と,エポキシ基をそれぞれ有する化合物である。…
具体的にはグリシジルアクリレート,グリシジルメタクリレート,…などが挙げられる。特にグリシジルアクリレート又はグリシジルメタクリレートが好ましい。
エチレン系不飽和化合物としては,ゴム変性スチレン系熱可塑性樹脂(A)の項で述べた芳香族ビニル化合物,シアン化ビニル化合物,不飽和カルボン酸アルキルエステル化合物…が例示され,一種又は二種以上用いることができる。」(3頁左下欄1行?4頁左上欄17行)
・ 「<官能基含有重合体(C)>
本発明において用いられる官能基を有する重合体(C)とは,カルボキシル基,酸無水物基,水酸基および含窒素塩基の群から選ばれる少くとも一種の官能基を有するエチレン系不飽和化合物の重合体,又は該エチレン系不飽和化合物と他の不飽和化合物との共重合体である。
カルボキシル基を有するエチレン系不飽和化合物としては,アクリル酸,…が例示され,一種又は二種以上用いる事ができる。
酸無水物基を有するエチレン系不飽和化合物としては,無水マレイン酸,…等が例示され,一種又は二種以上用いることができる。
水酸基を有するエチレン系不飽和化合物としては,ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート,…が例示され,一種又は二種以上用いる事ができる。
含窒素塩基を有するエチレン系不飽和化合物としては,ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート,…が例示され,一種又は二種以上用いる事ができる。…
官能基を有するエチレン系不飽和化合物と共重合する他の不飽和化合物としては,…芳香族ビニル化合物,…シアン化ビニル化合物,…不飽和カルボン酸アルキルエステル化合物,…が例示され,一種又は二種以上用いる事ができる。」(4頁左下欄4行?5頁左上欄11行)
・ 「ゴム変性スチレン系熱可塑性樹脂(A),オレフィンを含まないエポキシ基含有共重合体(B)および官能基含有重合体(C)の混合組成は,(A),(B)および(C)の合計量を100重量部として,(A)40?99.8重量部,好ましくは75?99重量部,(B)0.1?20重量部,好ましくは0.5?10重量部,(C)0.1?50重量部,好ましくは0.5?20重量部であり,かつ組成物に含まれるゴム量が5?40重量%,好ましくは10?30重量%である。
ゴム変性スチレン系熱可塑性樹脂(A)が40重量部未満では衝撃強度と流れ性のバランスが低下し,99.8重量部を越えると艶消し効果が不充分となる。オレフィンを含まないエポキシ基含有共重合体(B)が0.1重量部未満では均一な艶消し表面が得られず,又艶消し効果が不充分となり,20重量部を越えると流れ性の低下が顕著となる。官能基含有重合体(C)が0.1重量部未満では,本発明の組成物に比して艶消し効果が低下し,50重量部を越えると流れ性の低下が顕著となる。又組成物中のゴム量が5重量%未満では衝撃強度の低下が顕著となり,40重量%を越えると流れ性および剛性が低下し好ましくない。」(5頁右下欄8行?6頁左上欄11行)
・ 「ゴム変性スチレン系熱可塑性樹脂(A),オレフィンを含まないエポキシ基含有共重合体(B)および官能基含有重合体(C)の混合方法については特に制限はなく,ラテックス状態で,又は粉末,ビーズ,ペレット等の状態で混合する事ができる。又それらの混合順序についても特に制限はなく,三成分の一括混合,二成分を予備混合した後残る一成分を混合する方法のいずれでも良い。溶融混練方法としては,バンバリーミキサ-,ロール,押出機等の公知の方法を採用する事ができる。
なお,混合時に,必要に応じて酸化防止剤,紫外線吸収剤,帯電防止剤,滑剤,染料,顔料,可塑剤,難燃剤,離型材等の添加剤を配合する事ができる。又,ポリアセタール,ポリカーボネート,ポリブチレンテレフタレート,ポリフェニレンオキサイド,ポリメチルメタクリレート,ポリ塩化ビニル等の熱可塑性樹脂を適宜配合する事もできる。」(6頁左上欄12行?右上欄10行)
・ 「参考例1 ゴム変性スチレン系熱可塑性樹脂(A)の製造
A-1
窒素置換した反応器に,平均粒子径0.4μ,ゲル含有率80%,固形分50%のポリブタジエンラテックス100部,過硫酸カリウム0.3部および純水100部を仕込んだ後,攪拌下に65℃に昇温した。その後アクリロニトリル15部,スチレン35部およびt-ドデシルメルカプタン0.2部からなる混合モノマー溶液および不均化ロジン酸カリウム2部を含む乳化剤水溶液30部を各々4時間に亘って連続添加し,その後重合系を70℃に昇温し,3時間熟成して重合を完結し,ABSグラフト共重合体ラテックスを得た。」(6頁右上欄14行?左下欄7行)

イ 上記アのとおり,引用文献1には,特許請求の範囲第1項に,(A)ゴム変性スチレン系熱可塑性樹脂,(B)オレフィンを含まないエポキシ基含有共重合体および(C)官能基含有重合体を混合してなる熱可塑性樹脂組成物についての発明が記載されているところ,これら(A),(B)及び(C)成分に係る具体例や配合割合の好例についての記載などを総合すると,次のとおりの発明(引用発明1)が記載されていると認める。
「ゴムの存在下に芳香族ビニル化合物とシアン化ビニル化合物及び/又は不飽和カルボン酸アルキルエステル化合物とを重合して得られるグラフト共重合体であるゴム変性スチレン系熱可塑性樹脂(A),不飽和エポキシ化合物とエチレン系不飽和化合物からなるオレフィンを含まないエポキシ基含有共重合体(B)及びカルボキシル基,酸無水物基,水酸基および含窒素塩基の群から選ばれる少なくとも一種の官能基を有するエチレン系不飽和化合物と他の不飽和化合物との共重合体である官能基含有重合体(C)を,(A),(B)及び(C)の合計量を100重量部として(A)75?99重量部,(B)0.5?10重量部及び(C)0.5?20重量部で,かつ組成物中に含まれるゴム量が10?30重量%となる割合で混合してなる艶消し熱可塑性樹脂組成物」

(2) 対比
ア 本願補正発明と引用発明1を対比する。
本願補正発明の「ゴム状重合体(a-1)」の例として,本願補正明細書に「ポリブタジエン,スチレン-ブダジエンブロック共重合体,スチレン-ブダジエンランダム共重合体,エチレン-プロピレン共重合体」(【0006】)が挙げられているところ,これら例示のものは,引用発明1の「ゴム」として引用文献1(2頁左下欄)に例示されているものと同じであることからすると,本願補正発明の「ゴム状重合体(a-1)」は引用発明1の「ゴム」に相当するといえる。
また,「芳香族ビニル系単量体とシアン化ビニル系単量体および/または不飽和カルボン酸アルキルエステル系単量体からなる共重合体(a-2)」が「芳香族ビニル化合物とシアン化ビニル化合物及び/又は不飽和カルボン酸アルキルエステル化合物とを重合して得られるグラフト共重合体」に相当するから,ゴム状重合体(a-1)と共重合体(a-2)とから構成される本願補正発明の「ゴム変性スチレン系樹脂(A)」は引用発明1の「ゴム変性スチレン系熱可塑性樹脂(A)」に相当するといえる(含有割合も75?99重量部の範囲で一致する。)。しかも,引用文献1の「ゴム変性スチレン系熱可塑性樹脂(A)」は,ゴムの存在下に芳香族ビニル化合物とシアン化ビニル化合物及び/又は不飽和カルボン酸アルキルエステル化合物とを重合して得られるグラフト共重合体であるから,引用文献1には明示がないものの,技術常識からみて,ゴム(ゴム状重合体)が当該グラフト共重合体中に特定の粒子径をもって分散してなるものであると解される。(因みに,ゴム状重合体が共重合体中に特定の粒子径をもって分散してなる本願補正発明の「ゴム変性スチレン系樹脂(A)」も,本願補正明細書(特に【0008】?【0010】)によれば,ゴム状重合体の存在下で,芳香族ビニル系単量体,シアン化ビニル系単量体および/または不飽和カルボン酸アルキルエステル系単量体を重合させることで得られるものである。)
また,本願補正発明の「官能基含有ビニル系重合体(B)」について,本願補正明細書に,官能基を含有するビニル系単量体とそれと共重合体可能な他のビニル系単量体からなる重合体(【0013】)が,またその好例として,エポキシ基含有ビニル系単量体と他のビニル系単量体との共重合体(b-1)及びカルボキシル基含有ビニル系単量体と他のビニル系単量体との共重合体(b-2)の混合物(【0016】)が例示されており,当該(b-1)及び(b-2)がそれぞれ引用発明1のオレフィンを含まないエポキシ基含有共重合体(B)及び官能基含有重合体(C)に相当していることからして,本願補正発明の「官能基含有ビニル系重合体(B)」は,引用発明1の「不飽和エポキシ化合物とエチレン系不飽和化合物からなるオレフィンを含まないエポキシ基含有共重合体(B)」と「カルボキシル基,酸無水物基,水酸基および含窒素塩基の群から選ばれる少なくとも一種の官能基を有するエチレン系不飽和化合物と他の不飽和化合物との共重合体である官能基含有重合体(C)」とを混合したものに相当する(含有割合も1?30重量部の範囲で一致する。)。
さらに,本願補正発明の「マスターバッチ」は,熱可塑性樹脂組成物である点で,引用発明1の「熱可塑性樹脂組成物」に対応するものである。

イ したがって,本願補正発明と引用発明1との一致点,相違点は,それぞれ次のとおりのものと認めることができる。
・ 一致点
ゴム状重合体(a-1)及び芳香族ビニル系単量体とシアン化ビニル系単量体及び/又は不飽和カルボン酸アルキルエステル系単量体からなる共重合体(a-2)とから構成され,該ゴム状重合体(a-1)が共重合体(a-2)中に分散してなるゴム変性スチレン系樹脂75?99重量部と官能基含有ビニル系重合体1?30重量部からなる艶消し熱可塑性樹脂組成物。
・ 相違点1
ゴム変性スチレン系樹脂(ゴム変性スチレン系熱可塑性樹脂)を構成するゴム状重合体(ゴム)と共重合体(グラフト共重合体)の構成割合について,本願補正発明は,「ゴム状重合体(a-1)1?25重量%」,「共重合体(a-2)70?99重量%」と特定するのに対し,引用発明1はそのような特定がない点
・ 相違点2
共重合体(a-2)中に分散してなるゴム状重合体(a-1)について,本願補正発明は「重量平均粒子径1?8μm」と特定するのに対し,引用発明1は,上記アで検討のとおり,ゴムがグラフト共重合体中に特定の粒子径をもって分散してなると解し得るものの,粒子径の具体的数値を特定するものでない点
・ 相違点3
ゴム変性スチレン系樹脂(ゴム変性スチレン系熱可塑性樹脂)について,本願補正発明は「塊状重合法または溶液重合法によって得られる」ものであると特定するのに対し,引用発明1はそのような特定がない点
・ 相違点4
本願補正発明と引用発明1とは艶消し熱可塑性樹脂組成物である点で差異はないものの,当該熱可塑性樹脂組成物について,本願補正発明は「マスターバッチ」であると特定するのに対し,引用発明1はそのような特定がない点

(3) 相違点についての判断
ア 相違点1について
(ア) 引用発明1の組成物は,その中に含まれるゴム量が10?30重量%となる割合で混合してなるものであるところ,その混合割合の意義について,引用文献1には次の記載がある。
・ 「本発明は,耐衝撃性および流れ性に優れると共に,成形時に均一な艶消しの成形品表面を与える熱可塑性樹脂組成物に関する。」(1頁右欄8?10行)
・ 「…組成物に含まれるゴム量が5?40重量%,好ましくは10?30重量%である。」(5頁右下欄15?17行)
・ 「又組成物中のゴム量が5重量%未満では衝撃強度の低下が顕著となり,40重量%を越えると流れ性および剛性が低下し好ましくない。」(6頁左上欄8?11行)
すなわち,上記摘記の引用文献1の記載から,引用発明1は,耐衝撃性及び流れ性に優れ,成形時に均一な艶消しの成形品表面を与えることを解決課題とし,組成物中に混合するゴム量の下限値(10重量%)を設定することで衝撃強度の低下を,また上限値(30重量%)を設定することで流れ性や剛性の低下を抑制しようとするものであると,当業者であれば容易に理解する。
(イ) そうすると,当業者であれば,引用発明1の艶消し熱可塑性樹脂組成物について,その衝撃強度(耐衝撃性)をさらに良好なものとし,また流れ性(成形加工性)や剛性についてもさらに良好なものとするために,組成物中に混合するゴム量を10?30重量%の範囲内で適宜設定することは想到容易であると判断される。そして,引用発明1のゴムはゴム変性スチレン系熱可塑性樹脂(A)のグラフト共重合体中に分散して存在するゴムを由来とするので,引用発明1のゴム量はゴム変性スチレン系熱可塑性樹脂(A)を構成するゴムの構成割合に依拠するといえるから,上記設定にあたり,ゴム量として上記構成割合を採用し,その数値範囲として「10.1?25重量%」(審決注:上記構成割合について,採りうる大凡の値は計算上,10.1?40重量%である。)とすることは,当業者が適宜なし得ることである。
あるいは,ゴム状重合体(ゴム)の構成割合について,本願補正発明と引用発明1とは,「10.1?25重量%」の範囲で実質的に相違しないともいえる。
また,ゴムとともにゴム変性スチレン系熱可塑性樹脂(A)を構成するグラフト共重合体の構成割合を「75?89.9重量%」とすることについても,同様に,当業者が適宜なし得ることであるか,その範囲で本願補正発明と引用発明1とは実質的に相違しないといえる。
(ウ) なお,本願補正発明が相違点1に係る構成を有することの意義について検討するに,本願補正明細書には次の記載がある。
・ 「【発明が解決しようとする課題】本発明は,このような課題を解決すべくなされたものであり,艶消しマスターバッチを使用してなる耐衝撃性,成形加工性および成形品外観等の各種の物性に優れた艶消し熱可塑性樹脂組成物を提供することを目的とする。」(【0004】)
・ 「また,ゴム状重合体(a-1)の含有量は1?30重量%である…。ゴム状重合体(a-1)の含有量が1重量未満では十分な艶消し効果が得られないことに加え,耐衝撃性が低下し,また30重量%を超えると組成物の成形加工性が低下し,またフローマークが発生し外観不良を生じるため好ましくない。好ましくは5?30重量%,最も好ましくは5?25重量%である。」(【0011】)
ところで,本願補正明細書で説明される優れた艶消し効果,耐衝撃性,成形加工性,外観などといった解決課題は,艶消しマスターバッチと熱可塑性樹脂とが混合されてなる艶消し熱可塑性樹脂組成物が解決しようとするものであって,本願補正発明の艶消しマスターバッチそのものが解決するものではない。
また,技術常識からすれば,ゴム状重合体の含有による艶消し効果,耐衝撃性,成形加工性などの発揮は,艶消し熱可塑性樹脂組成物中にどれほどの量のゴム状重合体が含有されているかに影響されるのであって,ゴム変性スチレン系樹脂(A)におけるゴム状重合体(a-1)の構成割合,あるいは,本願補正発明の艶消しマスターバッチ中のゴム状重合体の含有量とは関係ないといえる。
そうすると,熱可塑性樹脂組成物ではなく,マスターバッチの発明である本願補正発明において,相違点1に係る構成を有することの意義を見いだすことができない。よって,相違点1に係る構成が引用発明1における単なる設計事項にすぎないのは上記(イ)で検討のとおりであるが,何ら課題解決に寄与しないものであることからも,当業者が適宜なし得る設計事項にすぎないといえる。

イ 相違点2について
(ア) 上記ア(ア)で述べたように,引用発明1は,耐衝撃性及び流れ性に優れ,成形時に均一な艶消しの成形品表面を与えることを解決課題とするものである。
(イ)a ところで,引用文献2には,次の記載がある。
「2.特許請求の範囲
1)エチレン-プロピレン-非共役ジエン共重合体のラテックスの存在下に,シアン化ビニル化合物,芳香族ビニル化合物および不飽和カルボン酸のアルキルエステルからなる群より選ばれた少なくとも一種および必要に応じてこれらと共重合可能な他のビニル系単量体を乳化グラフト重合して得られるグラフト共重合体樹脂と,他の硬質の熱可塑性樹脂とからなる樹脂組成物において,
(a)エチレン-プロピレン-非共役ジエン共重体ラテックスの平均粒子径が2?10μmの範囲にあり,
(b)エチレン-プロピレン-非共役ジエン共重体ラテックスのゲル含有率が30?90重量%の範囲であり,
(c)グラフト共重合体樹脂中のエチレン-プロピレン-非共役ジエン共重合体の含有量が50?90重量%で,グラフト率が5?80%の範囲であり,
(d)グラフト共重合体樹脂中のアセトンで抽出して得られる遊離重合体の還元粘度(ηsp/c)が0.2?0.7の範囲である,
グラフト共重合体樹脂を用いたことを特徴とする艶消し性の良好な耐侯性,耐衝撃性熱可塑性樹脂組成物。」(1頁左欄5行?右欄10行)
・ 「〔産業業上の利用分野〕
本発明は,成型外観における艶消し性が良好であり,耐侯性,耐衝撃性に優れた熱可塑性樹脂組成物に関する。」(1頁右欄12?15行)
・ 「EPDMラテックスの平均粒子径は,2?10μmの範囲にある必要がある。2μ未満のものを用いた場合には,艶消し効果が低くなり,10μを超えるものではグラフト重合時のラテックスの安定性を確保することが困難であり,かつ満足のいく衝撃強度が発現しない傾向がある。」(3頁左上欄2?7行)
・ 「(7)ラテックスの粒子径
大塚電子(株)製,動的光散乱粒径分布測定装置(散乱角:90°)による測定,並びに凍結乾燥したラテックスの電子顕微鏡観察により測定した。」(5頁右上欄4?8行)
b また,引用文献3には,次の記載がある。
・ 「2.特許請求の範囲
(1) 芳香族ビニル単量体と,シアン化ビニル単量体と,場合によってはさらにこれらの単量体と共重合可能な単量体との単量体混合物にゴム成分を溶解した原料溶液を,第1反応槽へ連続的に供給し,撹拌剪断力下にゴム成分相が分散粒子に転換するのに必要な重合率まで重合させ,該反応槽より原料溶液の供給量に相当する量の反応液を連続的に取り出し,この反応液をさらに第2反応槽以降の反応槽に供給して重合を継続させることによりなるゴム変性耐衝撃性樹脂の連続的塊状または溶液重合法において,
(A)単量体混合物中のシアン化ビニル単量体が5?50重量%であり,
(B)原料ゴム成分が,30℃でのその5%スチレン溶液が150センチストークス以下の粘度を呈するものであり,
(C)原料溶液中のゴム成分の濃度が3?15重量%であり,
(D)第1反応槽に,連鎖移動剤として1種又は2種以上のメルカプタン類を原料溶液に対して,100?5000ppm連続的に供給し,
(E)第1反応槽が,ドラフトチユーブ付スクリュー型撹拌翼を備え,かつ原料溶液の供給部分である反応槽底部に補助撹拌翼を内蔵するものであり,該反応槽におけるスクリュー型撹拌翼の回転数N(rps)とスクリュー型撹拌翼径φ(m)の関係が
0.15<N^(2)・φ<10
を満足する様維持され,
(F)第1反応槽での単量体の重合率が10?35重量%になる様,制御され,かつ,
(G)得られるゴム変性耐衝撃性樹脂のゴム成分の分散粒子が,体積平均粒径で1.5?10μmになるよう調整される,
ことを特徴とする艶消しされたゴム変性耐衝撃性樹脂の連続的製造方法。」(1頁左欄5行?右欄最下行)
・ 「本発明の方法においては,得られるゴム変性耐衝撃性樹脂のゴム成分の分散粒子が体積平均粒径で1.5?10μmになるよう調節して製造されなければならない。ゴム成分の体積平均粒径が1.5μm未満では,得られた製品の成形物に表面光沢があり,艶消しの用途には何らかの加工をして使用する必要があり,本発明の目的には適合しない。また,ゴム成分の体積平均粒径が10μmを超える場合には,その中に巨大粒子が多く含まれ,得られる樹脂の外観も悪く,衝撃強度も低下するので好ましくない。」(5頁右上欄10?最下行)
・ 「なお,本発明にいうゴム成分の分散粒子の体積平均粒径は,次にようにして測定される。すなわち,樹脂の超薄切片法による電子顕微鏡写真を撮影し,この写真中のゴム成分の分散粒子100?200個の粒子径を測定し次式により平均したものである。
体積平均粒径=ΣnD^(4)/ΣnD^(3) (但し,nは粒子径Dのゴム成分の分散粒子の個数である。)」(5頁左下欄1?9行)
c そして,上記a,bの摘記から,熱可塑性樹脂組成物における耐衝撃性や良好な艶消し成形品表面などを与えるといった課題を解決しようとするにあたり,平均粒子径の測定方法は異なるものの,ゴム成分の平均粒子径に着目し,その値を適宜設定すること,具体的には,艶消し効果が低下しないように平均粒子径の下限を設定し,衝撃強度が低下しないように平均粒子径の上限を設定することは,本願の出願前における周知の技術事項であるということができる。
(ウ) そうすると,当業者であれば,耐衝撃性や良好な艶消し効果を成形品に与えることを解決課題とする引用発明1において,上記周知の技術事項を踏まえ,グラフト共重合体中に分散してなるゴムの平均粒子径の数値範囲を適宜設定することは想到容易であると判断される。そして,その数値範囲の設定にあたり,平均粒子径として「重量平均粒子径」を採用し,その数値範囲として「1?8μm」とすることは,当業者が適宜なし得ることである(しかも,本願補正発明の「重量平均粒子径1?8μm」は,引用文献2における「平均粒子径2?10μm」並びに引用文献3における「体積平均粒径1.5?10μm」と大凡一致するものと推察されるし,本願補正発明の下限値(1μm)及び上限値(8μm)に臨界的意義は認められない。)。

ウ 相違点3について
(ア) 引用文献1には,引用発明1の「ゴム変性スチレン系熱可塑性樹脂(A)」の製造方法について,「乳化重合法,懸濁重合法,塊状重合法,溶液重合法又はこれらを組合わせた方法が用いられる」(3頁右上欄18?20行)との記載がある。
そうすると,上記製造方法について,引用文献1に例示されている方法の中から,塊状重合法あるいは溶液重合法を選択する程度のことは,何ら困難でない。
(イ) 請求人は,本願補正発明はゴム変性スチレン系樹脂(A)が塊状重合法または溶液重合法によって得られるものとすることでマスターバッチ製造における連続生産性の改善を目的としているのに対し,引用発明1はマスターバッチを想定していないため,引用文献1にはゴム変性スチレン系熱可塑性樹脂(A)の製造方法として一般的な重合方法すべてが記載されているにすぎない旨主張する(意見書2頁)。
しかし,後記エで述べるように,引用発明1はマスターバッチを想定していないということはできないから,請求人の上記主張はその前提において失当である。しかも,引用文献1に開示されている技術(塊状重合法,溶液重合法)を採用できないとする理由は,みあたらない。
エ 相違点4について
(ア) 引用発明1は,ゴム変性スチレン系熱可塑性樹脂(A),オレフィンを含まないエポキシ基含有共重合体(B)及び官能基含有重合体(C)を混合してなる艶消し熱可塑性樹脂組成物であるところ,この混合について,引用文献1には次の記載がある。
・ 「なお,混合時に,必要に応じて…ポリアセタール,ポリカーボネート,ポリブチレンテレフタレート,ポリフェニレンオキサイド,ポリメチルメタクリレート,ポリ塩化ビニル等の熱可塑性樹脂を適宜配合する事もできる。」(6頁右上欄3?10行)
そして,上記の摘記からすると,引用発明1の艶消し熱可塑性樹脂組成物はポリカーボネートなどの他の熱可塑性樹脂に配合して用いられること,すなわち,引用文献1には,引用発明1の組成物について,マスターバッチとしての使用を前提とした開示もされていると当業者であれば理解することができる。
なお,本願補正明細書によれば,本願補正発明の艶消しマスターバッチは熱可塑性樹脂と混合して艶消し熱可塑性樹脂組成物とすることを想定するものであるところ(【0021】など),当該熱可塑性樹脂の例としてそこに掲記されたものは,引用文献1の上記摘記中にある熱可塑性樹脂(ポリカーボネート,ポリブチレンテレフタレートなど)と概ね一致している。
したがって,相違点4は,実質的な相違点でないといえるか,引用文献1の記載から当業者が容易に想到し得るものであるといえる。
(イ) 請求人は,引用発明1はマスターバッチを想定していないため,引用文献1にはゴム変性スチレン系熱可塑性樹脂(A)の製造方法として一般的な重合法のすべてが記載されているにすぎず,また,意見書を補足する実験成績証明書からみて,乳化重合法によって得られたゴム変性スチレン系熱可塑性樹脂(A)に係る実施例4,9及び10の樹脂組成物からはマスターバッチを製造することができない旨主張する(意見書2頁)。
しかし,請求人の上記主張は採用の限りでない。
すなわち,上記(ア)で述べたように,引用発明1はマスターバッチを想定していないということはできないし,また,引用文献1の乳化重合法による実施例に記載のものからマスターバッチが製造できないからといって,(塊状重合法あるいは溶液重合法を採用した場合の)引用発明1の樹脂組成物からマスターバッチが製造できないことにはならない。

ウ 小活
よって,本願補正発明は,引用発明1び周知の技術事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないといえる。

6 まとめ
以上のとおりであるから,本件補正は,平成18年法律55号改正附則3条1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法17条の2第4項の規定に違反するか,同5項において準用する同法126条5項の規定に違反するので,同法159条1項において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下すべきものである。
よって,結論のとおり決定する。

第3 本願発明について
1 本願発明
上記第2のとおり,本件補正は却下されたので,本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は,願書に最初に添付された明細書(以下「本願明細書」という。)の記載からみて,その特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「ゴム状重合体(a-1)1?30重量%および芳香族ビニル系単量体とシアン化ビニル系単量体および/または不飽和カルボン酸アルキルエステル系単量体からなる共重合体(a-2)70?99重量%とから構成され,該ゴム状重合体(a-1)が共重合体(a-2)中に重量平均粒子径1?10μmの範囲で分散してなるゴム変性スチレン系樹脂(A)50?99重量部と官能基含有ビニル系重合体(B)1?50重量%からなる艶消しマスターバッチ。」

2 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は,要するに,本願発明は,引用文献1に記載された発明(引用発明1)及び周知の技術事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない,というものである。

3 引用発明1
引用発明1は上記第2_5(1)イにおいて認定のとおりである。

4 対比・判断
本願発明は,本願補正発明との比較において,上記相違点3に係る構成すなわちゴム変性スチレン系樹脂(A)の製造方法について特定事項を有しないものであり,また,ゴム状重合体(a-1)のゴム変性スチレン系樹脂(A)における構成割合並びに共重合体(a-2)中に分散してなるゴム状重合体(a-1)の重量平均粒子径について,それぞれ「1?25重量%」,「1?8μm」であった本願補正発明の範囲をすべて含む「1?30重量%」,「1?10μm」の範囲をその特定事項とするものである(上記第2_1参照)。
そうすると,本願発明の特定事項をすべて含む本願補正発明が,上述のとおり,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものである以上,本願発明も,同様の理由により,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものであるといえる。

第4 むすび
以上のとおり,原査定の拒絶の理由は妥当なものであるから,本願の他の請求項に係る発明について検討するまでもなく,本願は拒絶すべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-12-28 
結審通知日 2013-01-15 
審決日 2013-01-28 
出願番号 特願2000-366643(P2000-366643)
審決分類 P 1 8・ 572- Z (C08L)
P 1 8・ 575- Z (C08L)
P 1 8・ 121- Z (C08L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 渡辺 陽子  
特許庁審判長 田口 昌浩
特許庁審判官 小野寺 務
須藤 康洋
発明の名称 艶消しマスターバッチおよびそれを用いた艶消し熱可塑性樹脂組成物。  

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