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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H01L
審判 査定不服 特29条の2 特許、登録しない。 H01L
管理番号 1271820
審判番号 不服2012-3621  
総通号数 161 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-05-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2012-02-24 
確定日 2013-03-21 
事件の表示 特願2004-114922「固体撮像素子の製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成17年10月27日出願公開、特開2005-302909〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯
本願は、平成16年4月9日を出願日とする特許出願であって、平成23年2月17日付けの拒絶理由通知に対して同年4月22日に意見書及び手続補正書が提出されたが、同年11月30日付けで拒絶査定がなされた。
それに対して、平成24年2月24日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに手続補正書が提出され、その後、同年6月25日付けで審尋がなされ、それに対する回答書は提出されなかった。

第2.補正の却下の決定
【結論】
平成24年2月24日に提出された手続補正書による補正を却下する。

【理由】
1.補正の内容
平成24年2月24日に提出された手続補正書による補正(以下「本件補正」という。)は、補正前の特許請求の範囲の請求項1?13を、補正後の特許請求の範囲の請求項1?6に補正するとともに、明細書の補正を行うものであり、補正前の請求項8、及び補正後の請求項1は各々以下のとおりである。

(補正前)
「【請求項8】
半導体基板と、
前記半導体基板に形成されたフォトダイオードと、
前記半導体基板において前記フォトダイオードに隣接する領域に形成されたトレンチ内に、不純物元素をドープした多結晶シリコンが埋め込まれた素子分離領域と、
前記不純物元素を前記素子分離領域の側壁部に拡散させたp層とを有し、
前記フォトダイオードを構成するn層は、前記p層に面する領域のドナー濃度が他の領域よりも高い固体撮像素子の製造方法であって、
前記半導体基板の素子分離領域を形成する領域にトレンチを形成するトレンチ形成工程と、
前記トレンチに不純物元素をドープした多結晶シリコンを埋め込む埋め込み工程と、
前記不純物元素を熱拡散させて前記トレンチの側壁に前記p層を形成する熱拡散工程とを有する
固体撮像素子の製造方法。」

(補正後)
「【請求項1】
半導体基板と、
前記半導体基板に形成されたフォトダイオードと、
前記半導体基板において前記フォトダイオードに隣接する領域に形成されたトレンチ内に、不純物元素をドープした多結晶シリコンが埋め込まれた素子分離領域と、
前記不純物元素を前記素子分離領域の側壁部に拡散させたp層とを有し、
前記フォトダイオードを構成するn層は、前記p層に面する領域のドナー濃度が他の領域よりも高い固体撮像素子の製造方法であって、
前記半導体基板の素子分離領域を形成する領域にトレンチを形成するトレンチ形成工程と、
前記トレンチに不純物元素をドープした多結晶シリコンを埋め込む埋め込み工程と、
前記多結晶シリコンが埋め込まれた前記半導体基板上に酸化膜を形成する際、前記不純物元素を熱拡散させて前記トレンチの側壁に前記p層を形成する熱拡散工程とを有する
固体撮像素子の製造方法。」

2.補正事項の整理
本件補正による補正事項を整理すると、次のとおりである。

(1)補正事項1
補正前の請求項8の「前記不純物元素を熱拡散させて前記トレンチの側壁に前記p層を形成する熱拡散工程」を、「前記多結晶シリコンが埋め込まれた前記半導体基板上に酸化膜を形成する際、前記不純物元素を熱拡散させて前記トレンチの側壁に前記p層を形成する熱拡散工程」と補正して、補正後の請求項1とすること。

(2)補正事項2
補正前の請求項1?7を削除するとともに、当該削除に伴って補正前の請求項の番号及び引用する請求項の番号を補正すること。

(3)補正事項3
補正前の明細書の発明の名称の「固体撮像素子及びその製造方法」を、「固体撮像素子の製造方法」と補正して、補正後の明細書の発明の名称とすること。

(4)補正事項4
補正前の明細書の0005段落を補正して、補正後の明細書の0005段落とすること。

3.新規事項追加の有無及び補正の目的についての検討
(1)補正事項1について
補正事項1は、各々補正前の請求項8に記載されていた発明特定事項である「熱拡散工程」の時期を「前記多結晶シリコンが埋め込まれた前記半導体基板上に酸化膜を形成する際」に限定するものであるから、特許法第17条の2第4項(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項をいう。以下同じ。)第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
したがって、補正事項1は、特許法第17条の2第4項に規定する要件を満たす。
また、補正事項1により補正された部分は、本願の願書に最初に添付した明細書(以下「当初明細書」という。また、本願の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面を「当初明細書等」という。)の0006段落、及び0010段落等に記載されているものと認められるから、補正事項1は、当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入しないものである。
したがって、補正事項1は、当初明細書等に記載された事項の範囲内においてなされたものであるから、特許法第17条の2第3項(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第3項をいう。以下同じ。)に規定する要件を満たす。

(2)補正事項2について
補正事項2は、特許法第17条の2第4項第1号に掲げる請求項の削除を目的とするものに該当する。
したがって、補正事項2は、特許法第17条の2第4項に規定する要件を満たす。
また、補正事項2が特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たすことは明らかである。

(3)補正事項3及び4について
補正事項3及び4は、補正事項1?2により補正された特許請求の範囲と整合を取るために明細書を補正するものであるから、補正事項1?2と同様に特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たす。

(4)補正の目的の適否、及び新規事項の追加の有無についてのまとめ
以上検討したとおりであるから、本件補正は特許法第17条の2第3項及び第4項に規定する要件を満たす。
そして、本件補正は特許法第17条の2第4項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とする補正を含むものであるから、本件補正による補正後の特許請求の範囲に記載されている事項により特定される発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否か、すなわち、本件補正がいわゆる独立特許要件を満たすものであるか否かにつき、以下において更に検討する。

4.独立特許要件について
(1)補正後の発明
本願の本件補正による補正後の請求項1に係る発明は、本件補正により補正された明細書、特許請求の範囲及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載されている事項により特定されるとおりのものであり、その請求項1に係る発明(以下「補正発明」という。)は、請求項1に記載されている事項により特定される、上記1.の「(補正後)」の箇所に記載したとおりのものであり、再掲すると次のとおりである。

「【請求項1】
半導体基板と、
前記半導体基板に形成されたフォトダイオードと、
前記半導体基板において前記フォトダイオードに隣接する領域に形成されたトレンチ内に、不純物元素をドープした多結晶シリコンが埋め込まれた素子分離領域と、
前記不純物元素を前記素子分離領域の側壁部に拡散させたp層とを有し、
前記フォトダイオードを構成するn層は、前記p層に面する領域のドナー濃度が他の領域よりも高い固体撮像素子の製造方法であって、
前記半導体基板の素子分離領域を形成する領域にトレンチを形成するトレンチ形成工程と、
前記トレンチに不純物元素をドープした多結晶シリコンを埋め込む埋め込み工程と、
前記多結晶シリコンが埋め込まれた前記半導体基板上に酸化膜を形成する際、前記不純物元素を熱拡散させて前記トレンチの側壁に前記p層を形成する熱拡散工程とを有する
固体撮像素子の製造方法。」

(2)先願発明
(2-1)原査定の拒絶の理由で引用された他の特許出願であって、本願の出願日前である平成14年11月20日の特許出願であって、本願の出願後である平成16年6月17日に出願公開(特開2004-172394号)がなされた特願2002-336798号特許出願(以下「先願」という。)の願書に最初に添付された明細書(以下、先願の願書に最初に添付された明細書、図面を、各々「先願明細書」、「先願図面」といい、これらをまとめて「先願明細書等」という。)には、先願図面の図1?4とともに、次の記載がある(ここにおいて、下線は当合議体が付加したものである。以下同じ。)。

a.「【0014】
《第1の実施形態》
第1の実施形態は、請求項1?3に対応する実施形態である。
図1は、第1の実施形態における固体撮像装置10の画素領域の概略平面図である。図2は、図1に示したC1-C1ラインの断面図である。なお、図1および図2に示す構成要素の内、前述した図5および図6と同等の構成要素には、同一の参照符号を付与し、ここでの説明を省略する。
【0015】
以下、図1および図2を用いて、固体撮像装置10の構成を説明する。
まず、半導体基板1は、画素領域100Aと周辺回路領域100Bとに区分される。この画素領域100Aには、pウェル領域2aが形成される。このpウェル領域2aには、複数の単位画素PXLがアレイ状に配置される。
一方、周辺回路領域100Bには、単位画素PXLを制御するための垂直走査回路、水平走査回路、および信号処理回路が、CMOS回路として形成される。
【0016】
このCMOS回路のnMOSトランジスタTnは、半導体基板1のpウェル領域2bに形成される。一方、pMOSトランジスタ回路Tpは、半導体基板1のnウェル領域3に形成される。
さらに、所定の部分が開口されるようにパターニングされた層間絶縁膜5が形成され、その上に上述した各素子の導電領域と電気的に接続される配線6がパターニングされる。
【0017】
この配線6の上には、さらに層間絶縁膜7が形成される。この層間絶縁膜7上には、金属等からなる遮光膜8が形成される。この遮光膜8には、ホトダイオードPDに対応する箇所のみ開口部が設けられる。
また、単位画素PXLの間にはフィールド酸化膜4が形成される。このフィールド酸化膜4の下には、トレンチ分離領域9が形成される。
このトレンチ分離領域9の溝には、ポリシリコン10cが埋め込まれる。このポリシリコン10cは、ボロン(B)を1E19cm^(-3)以上の高濃度で含む。
このようなトレンチ分離領域9の形成方法としては、例えば、次の手順が好ましい。
【0018】
(1)まず、フィールド酸化膜4を形成する以前に異方性エッチングを実施し、トレンチ分離領域9の溝を形成する。この溝の深さは、pウェル領域2a、2bの厚みとほぼ同程度にすることが好ましい。
(2)続いて、ボロンがドープされたポリシリコン10cを、減圧CVD法を用いて、トレンチ分離領域9の溝に堆積させる。
(3)トレンチ分離領域9の溝以外に堆積したポリシリコン10cは、ウエハ全面をドライエッチングすることによって除去される。
(4)その後の熱処理工程(例えばフィールド酸化等)において、トレンチ分離領域9の溝の内壁には、ポリシリコン10cからボロンが拡散し、拡散層9aが形成される。(なお、このボロン拡散では、ポリシリコン10cのボロン濃度はほとんど変化しない。)」

b.「【0028】
《第2の実施形態》
第2の実施形態は、請求項1?3に対応する実施形態である。
図3は、第2の実施形態における固体撮像装置20の画素領域の概略平面図である。
図3に示すように、固体撮像装置20の画素領域20aには単位画素20PXLがアレイ状に形成される。これらの単位画素20PXLは、ホトダイオード20PD、および垂直CCD33の1段分を備えて構成される。
一方、固体撮像装置20の周辺回路領域20bには、水平CCD39および出力部40が設けられる。
【0029】
図4は、図3に示したC2-C2ラインの画素断面図である。
図4に示すように、n型半導体基板31には、pウェル領域32が設けられる。このpウェル領域32には、埋め込み型のホトダイオード20PD、p型高濃度表面層34、および垂直CCD33のCCD拡散層33aが形成される。このCCD拡散層33aの上には、信号電荷転送用の電極35がゲート酸化膜37を介して形成される。これらの各素子は、シリコンの酸化物あるいは窒化物からなる平坦化膜38で覆われている。
【0030】
さらに、単位画素20PXLの境界間には、pウェル領域32を分断するように、トレンチ分離領域36が設けられる。(ただし、CCD拡散層33aにはトレンチ分離領域36を設けない。)
このトレンチ分離領域36の溝には、ポリシリコン36aが埋め込まれている。このポリシリコン36aは、ボロン(B)を1E19cm^(-3)以上の高濃度で含む。
【0031】
また、トレンチ分離領域36の溝の内壁には、ポリシリコン36a内のボロンが拡散することにより、拡散層36bが形成される。なお、このようなボロンの拡散では、高不純物濃度のポリシリコン36aのボロン濃度はほとんど変化しない。なお、このトレンチ分離領域36の形成方法については、第1の実施形態と同様であるため、説明を省略する。」

(2-2)以上を総合すると、先願明細書等には、次の発明(以下「先願発明」という。)が記載されている。

「半導体基板1と、
前記半導体基板1の画素領域100Aの単位画素PXLに形成されたホトダイオードPDと、
前記半導体基板1において、前記単位画素PXLの間の前記ホトダイオードPDに隣接する領域に形成されたフィールド酸化膜4、及びトレンチ分離領域9の溝内にボロン(B)を高濃度で含むポリシリコン10cが埋め込まれたトレンチ分離領域9と、
前記ボロン(B)をトレンチ分離領域9の溝の内壁に拡散させた拡散層9aとを有する固体撮像装置10の製造方法であって、
前記フィールド酸化膜4を形成する以前に異方性エッチングを実施し、トレンチ分離領域9の溝を形成する工程と、
前記トレンチ分離領域9の溝にボロンがドープされたポリシリコン10cを堆積し、前記トレンチ分離領域9の溝以外に堆積した前記ポリシリコン10cを除去する工程と、
その後のフィールド酸化等の熱処理工程において、前記ポリシリコン10cからボロンを拡散させ、前記トレンチ分離領域9の溝の内壁に拡散層9aを形成する工程とを有する
固体撮像装置10の製造方法。」

(3)補正発明と先願発明との対比
(3-1)先願発明の「半導体基板1」、「固体撮像装置10」は、各々補正発明の「半導体基板」、「固体撮像素子」に相当する。

(3-2)先願発明の「ホトダイオードPD」は、補正発明の「フォトダイオード」に相当する。
よって、先願発明の「前記半導体基板1の画素領域100Aの単位画素PXLに形成されたホトダイオードPD」は、補正発明の「前記半導体基板に形成されたフォトダイオード」に相当する。

(3-3)先願発明の「トレンチ分離領域9」、「トレンチ分離領域9の溝」、「ボロン(B)」、「含む」、「ポリシリコン10c」は、各々補正発明の「素子分離領域」、「トレンチ」、「不純物元素」、「ドープした」、「多結晶シリコン」に相当する。
よって、先願発明の「前記半導体基板1において、前記単位画素PXLの間の前記ホトダイオードPDに隣接する領域に形成されたフィールド酸化膜4、及びトレンチ分離領域9の溝内にボロン(B)を高濃度で含むポリシリコン10cが埋め込まれたトレンチ分離領域9」は、補正発明の「前記半導体基板において前記フォトダイオードに隣接する領域に形成されたトレンチ内に、不純物元素をドープした多結晶シリコンが埋め込まれた素子分離領域」に相当する。

(3-4)先願発明の「トレンチ分離領域9の溝の内壁」は、補正発明の「素子分離領域の側壁部」に相当する。
また、ボロン(B)がp型の不純物であることは当業者の技術常識であるから、先願発明の「ボロン(B)」を「拡散させた拡散層9a」がp型の層となることは自明である。
よって、先願発明の「前記ボロン(B)をトレンチ分離領域9の溝の内壁に拡散させた拡散層9a」は、補正発明の「前記不純物元素を前記素子分離領域の側壁部に拡散させたp層」に相当する。

(3-5)先願発明の「トレンチ分離領域9の溝」が「半導体基板1」の「トレンチ分離領域9」を形成する領域に形成されることは明らかである。
よって、先願発明の「前記フィールド酸化膜4を形成する以前に異方性エッチングを実施し、トレンチ分離領域9の溝を形成する工程」は、補正発明の「前記半導体基板の素子分離領域を形成する領域にトレンチを形成するトレンチ形成工程」に相当する。

(3-6)先願発明の「前記トレンチ分離領域9の溝にボロンがドープされたポリシリコン10cを堆積し、前記トレンチ分離領域9の溝以外に堆積した前記ポリシリコン10cを除去する工程」によって、「トレンチ分離領域9の溝内にボロン(B)を高濃度で含むポリシリコン10cが埋め込まれたトレンチ分離領域9」が形成されることは明らかである。
よって、先願発明の「前記トレンチ分離領域9の溝にボロンがドープされたポリシリコン10cを堆積し、前記トレンチ分離領域9の溝以外に堆積した前記ポリシリコン10cを除去する工程」は、補正発明の「前記トレンチに不純物元素をドープした多結晶シリコンを埋め込む埋め込み工程」に相当する。

(3-7)先願発明の「フィールド酸化等の熱処理工程」は、「フィールド酸化膜4」を形成する工程を意味することは明らかである。また、当該「熱処理工程」は、「前記トレンチ分離領域9の溝にボロンがドープされたポリシリコン10cを堆積し、前記トレンチ分離領域9の溝以外に堆積した前記ポリシリコン10cを除去する工程」の後に実施される工程であり、さらに、先願図面の図2を参照すれば、「フィールド酸化膜4」は「ポリシリコン10c」が埋め込まれた「半導体基板1」上に形成されることは明らかである。
よって、先願発明の「その後のフィールド酸化等の熱処理工程において、前記ポリシリコン10cからボロンを拡散させ、前記トレンチ分離領域9の溝の内壁に拡散層9aを形成する工程」は、補正発明の「前記多結晶シリコンが埋め込まれた前記半導体基板上に酸化膜を形成する際、前記不純物元素を熱拡散させて前記トレンチの側壁に前記p層を形成する熱拡散工程」に相当する。

(3-8)したがって、補正発明と先願発明とは、
「半導体基板と、
前記半導体基板に形成されたフォトダイオードと、
前記半導体基板において前記フォトダイオードに隣接する領域に形成されたトレンチ内に、不純物元素をドープした多結晶シリコンが埋め込まれた素子分離領域と、
前記不純物元素を前記素子分離領域の側壁部に拡散させたp層とを有する固体撮像素子の製造方法であって、
前記半導体基板の素子分離領域を形成する領域にトレンチを形成するトレンチ形成工程と、
前記トレンチに不純物元素をドープした多結晶シリコンを埋め込む埋め込み工程と、
前記多結晶シリコンが埋め込まれた前記半導体基板上に酸化膜を形成する際、前記不純物元素を熱拡散させて前記トレンチの側壁に前記p層を形成する熱拡散工程とを有する
固体撮像素子の製造方法。」
である点で一致し、次の点で一応相違する。

(相違点)
補正発明では、「前記フォトダイオードを構成するn層は、前記p層に面する領域のドナー濃度が他の領域よりも高い固体撮像素子の製造方法」であるのに対し、先願発明は、そのような特定がなされていない点。

(4)相違点についての判断
(4-1)一般に、フォトダイオードを備えた固体撮像素子において、蓄積電荷量を増大させるために、フォトダイオードを構成するn型層をp型の素子分離領域と面するように構成し、その接合面近傍の当該n型層の不純物濃度、すなわちドナー濃度を他の領域よりも高くすることは、例えば、本願の出願前に日本国内において頒布された刊行物である下記周知例1?2にも記載されているとおり、当業者における周知技術である。
したがって、上記相違点は、課題解決のための具体化手段における微差(周知技術の付加)にすぎないものであり、実質的なものではない。

a.周知例1:特開昭63-18665号公報
本願の出願前に日本国内において頒布された刊行物である、特開昭63-18665号公報(以下「周知例1」という。)には、第1図とともに、次の記載がある。
「本発明は上記事情を考慮してなされたもので、電荷蓄積容量が大きく、かつ残像の少ない固体撮像装置を提供することを目的とする。
〔発明の構成〕
(問題点を解決するための手段)
上記目的は第1導電型の半導体基板上に形成された第2導電型不純物領域を有し、入射光量に応じた信号電荷を発生する複数の光電変換素子と、これら光電変換素子間を分離する第1導電型の不純物領域と、前記光電変換素子で発生された信号電荷を転送する電荷転送部とを備えた固体撮像装置において、前記光電変換素子の第2導電型の不純物領域は、前記第1導電型不純物領域との接合面近傍において不純物濃度が高く、この接合面から離れるに従って不純物濃度が低くなることを特徴とする固体撮像装置によって達成される。
(作 用)
本発明による固体撮像装置は上述の如く構成されているで、電荷移送に伴なう高い逆バイアス状態においては、第2導電型の不純物領域の高濃度部分が空乏化し、電荷蓄積時の低い逆バイアス状態においては前記高濃度部分が非空乏状態となることにより、電荷移送時の接合容量が小さく、電荷蓄積時の接合容量が大幅に大きくなる。
(実施例)
本発明の第1の実施例による固体撮像装置を第1図に示す。第1図(a)はこの固体撮像装置の平面図で第1図(b)はIb-Ib線断面図である。p型の半導体基板1の表面に島状のn型で低濃度のn^(-)不純物領域17が形成されている。p型の半導体基板1とn^(-)不純物領域17のpn接合により光電変換素子が形成されている。またp型の半導体基板1表面には、移送チャネル16と、電荷転送チャネルであるn不純物領域4が形成されている。島状のn^(-)不純物領域2は互いに高濃度のp型のp^(+)不純物領域3により分離されている。半導体基板1の不純物領域4、移送チャネル16上には、絶縁層6を介して電荷転送電極5が設けられている。
本実施例による固体撮像装置はさらにn^(-)不純物領域17とp^(+)不純物領域3との間に高濃度のn^(+)不純物領域18を備えている点に特徴がある。すなわちp^(+)不純物領域3との接合面近くは高濃度のn^(+)不純物領域18があり、このn^(+)不純物領域18は低濃度のn^(-)不純物領域17を囲んでいる。これらn^(-)不純物領域17、n^(+)不純物領域18、p^(+)不純物領域3の不純物濃度分布を第1図(C)に示す。高濃度のp^(+)不純物領域3(濃度分布19)に対して同じく高濃度のn^(+)不純物領域18(濃度分布22)が接合しており、この接合面からはなれるにしたがい、低濃度のn^(-)不純物領域17(濃度分布21)が存在している。
次に本実施例の動作を第1図(d)、(e)の電位分布図を用いて説明する。第1図は(d)は電荷蓄積状態の電位分布図で第1図(e)は電荷転送状態の電位分布図である。n^(-)不純物領域17、n^(+)不純物領域18に光が入射すると半導体基板1とn^(-)不純物領域17、n^(+)不純物領域18とのpn接合面に信号電荷が発生し、電荷転送電極5の電位がLレベルの場合にはこの発生した信号電荷22,23は第1図(d)に示すようにn^(-)不純物領域17、n^(+)不純物領域18に蓄積される。ここでレベル8は素子分離用のp^(+)不純物領域3の電位レベルであり、レベル7は電荷転送電極5がLレベルの場合の移送チャネル16のレベルである。
(中略)
さらに蓄積電荷量が増加してn^(-)不純物領域17、n^(+)不純物領域18とp^(+)不純物領域3の間の逆バイアス電圧が低くなると空乏層は急激にその幅が狭くなり、pn接合容量が増加する。従ってこのpn接合容量によって定まる最大蓄積電荷量は増大する。」(第2ページ左下欄第13行?第3ページ右下欄第7行)

b.周知例2:特開2000-12830号公報
本願の出願前に日本国内において頒布された刊行物である、特開2000-12830号公報(以下「周知例2」という。)には、図1、及び図5とともに、次の記載がある。
「【0021】フォトダイオード面積が小さくなると、面積比よりも電荷量が確保できないのは、フォトダイオード中心付近と周辺では、電荷蓄積領域を構成する不純物の濃度が異なり、周辺では濃度が薄くなり電荷が蓄積し難くなるためである。そのためフォトダイオード周辺では、むしろ中心付近よりも不純物濃度を高くなければならない。従って、電荷蓄積領域が素子分離領域となすジャンクション面の近傍に、電荷蓄積領域と同導電型の不純物を追加注入する領域を設ければ、蓄積電荷量を増加できる。」
「【0024】
【発明の実施の形態】次に、本発明の第1の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。図1は本発明の第1の実施例を示す。aは一画素を上から見たもので、bはaのA、A´での断面である。上面図aにおいて、画素は1のフォトダイオード、2のCCD領域、3の素子分離領域、4の電荷読出し領域からなる。10のN型不純物追加領域は、1のフォトダイオードと3の素子分離領域のジャンクションを挟んで両方にまたがっている。断面図bにおいて、フォトダイオードは、5のP+層、6のN型層、7のP型層、8のN型基板からなっている。また、図ではゲート電極をなす導電体膜や、その上の保護膜等の構成物は省略している。フォトダイオードの周囲は3の素子分離領域が囲み、上には9の絶縁膜が乗っている。10のN型不純物追加領域は、電荷読出し領域に面した電荷蓄積領域の端及び、電荷蓄積領域をなす6のN型層が素子分離領域となすジャンクション面を含み、電荷蓄積領域と素子分離領域の異なる導電領域にまたがっている。このようなセル構成にすることで、蓄積電荷量を稼ぎ、シャッターパルス電圧増加の抑制が行える。」
「【0029】次に、本発明の第2の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。図5は本発明の第5の実施例を示す。aは一画素を上から見たもので、bはaのA、A´での断面である。上面図aにおいて、画素は図1のaとほぼ同じ構成で、違いは10のN型不純物追加領域が、1のフォトダイオード内の6のN型層の中に止まっていることである。断面図bにおいて、フォトダイオードは、図1のbとほぼ同じ構成で、違いは10のN型不純物追加領域は、1のフォトダイオード内の6のN型層の中に止まっていることである。このようなセル構成にすることで、蓄積電荷量を稼ぐことができる。」

(4-2)以上検討したとおり、補正発明と先願発明との一応の相違点は実質的なものではないから、補正発明は先願発明と実質的に同一である。

(5)独立特許要件についてのまとめ
以上検討したとおり、補正発明は、先願明細書等に記載された発明と実質的に同一であり、補正発明の発明者は先願発明の発明者と同一ではなく、また、本願の出願の時に、その出願人が先願の出願人と同一でもないから、補正発明は、特許法第29条の2の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができない。
したがって、本件補正は、特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項をいう。以下同じ。)の規定に適合しない。

5.補正の却下の決定のむすび
以上検討したとおり、本件補正は、特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合しないものであるから、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3.本願発明について
平成24年2月24日に提出された手続補正書による補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項8に係る発明は、平成23年4月22日に提出された手続補正書により補正された明細書、特許請求の範囲及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項8に記載されている事項により特定されるとおりのものであり、その請求項8に係る発明(以下「本願発明」という。)は、請求項8に記載されている事項により特定される、上記第2.1.の「(補正前)」の箇所に記載したとおりのものである。
一方、原査定の拒絶の理由で引用された他の特許出願であって、本願の出願日前である平成14年11月20日の特許出願であって、本願の出願後である平成16年6月17日に出願公開(特開2004-172394号)がなされた特願2002-336798号特許出願(先願)の願書に最初に添付された明細書、又は図面(先願明細書等)には、上記第2.4.(2)に記載したとおりの事項、及び発明(先願発明)が記載されているものと認められる。
そして、本願発明に対して技術的限定を加えた発明である補正発明は、上記第2.4.において検討したとおり、先願発明と実質的に同一であるから、本願発明も当然に、先願発明と実質的に同一である。

第4.むすび
本願発明は、先願明細書等に記載された発明と実質的に同一であり、本願発明の発明者は先願発明の発明者と同一ではなく、また、本願の出願の時に、その出願人が先願の出願人と同一でもないから、本願発明は、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願は拒絶をすべきものである。
よって、上記結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-01-18 
結審通知日 2013-01-22 
審決日 2013-02-04 
出願番号 特願2004-114922(P2004-114922)
審決分類 P 1 8・ 16- Z (H01L)
P 1 8・ 575- Z (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 青鹿 喜芳  
特許庁審判長 鈴木 匡明
特許庁審判官 早川 朋一
恩田 春香
発明の名称 固体撮像素子の製造方法  
代理人 特許業務法人信友国際特許事務所  

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